説明

生体情報取得装置および生体情報取得方法

【課題】正確な心電図と正確な動脈硬化指標との双方を取得すると共に、これらの生体情報の取得に伴うユーザの手間を軽減すること。
【解決手段】心電図計測部204は、被検者の心電図の計測を行う。血圧脈波計測部200を構成する上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202は、被検者の脈波および血圧の計測を行う。演算制御部10は、心電図計測部204による計測と、血圧脈波計測部200による計測とをシーケンス制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報取得装置および生体情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の診断には様々な生体情報が用いられる。心電計により計測される心電図は、代表的な生体情報の1つであり、心疾患の診断に広く用いられる。心電図検査では、典型的には、標準12誘導心電図が計測される。標準12誘導心電図は、被検者の四肢に装着された4つの心電電極から得られる6つの誘導心電図(I、II、III、aVR、avL、aVF)と、被検者の胸部に装着された6つの心電電極から得られる6つの誘導心電図(V1、V2、V3、V4、V5、V6)とからなる。被検者から計測された標準12誘導心電図の波形特徴に基づいて、被検者の心疾患を診断することができる。
【0003】
心疾患は、動脈硬化が主な原因である。これは脳血管疾患についても同様のことがいえる。社会の急速な高齢化に伴い、医療分野においては、動脈硬化性疾患の予防は重要なテーマとなっており、動脈硬化を早期発見して適切な治療をすることが重要である。また、近年では、高齢者を中心に、閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼ばれる下肢動脈の血流障害が増加している。閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化が進展した結果として発症するものの1つである。
【0004】
動脈硬化の検査には、例えば、下肢血管の血流障害の検査と、動脈伸展性の検査とがある。これらの検査に用いられる血圧脈波検査装置は、血圧や脈波といった生体情報を計測して、動脈硬化の検査に用いられ得る指標(以下「動脈硬化度」という)を導出することができる。以下、動脈硬化度について幾つかの例を挙げて説明する。なお、各指標の計測手法はここで説明するものだけに限定されず、様々な手法で計測することができる。
【0005】
下肢血管の血流障害の検査には、例えばABI(Ankle Brachial Index)が用いられる。
【0006】
ABIは、足首の収縮期血圧の値を上腕の収縮期血圧の値で除算して得られる値であり、APIまたはABPIと呼ばれることもある。ABIに類似した指標として、TBI(Toe Pressure Index)と呼ばれるものもある。TBIは、足趾(足の指)の収縮期血圧の値を上腕の収縮期血圧の値で除算して得られる値であり、TPIまたはTBPIと呼ばれることもある。
【0007】
動脈伸展性の検査には、例えば、大動脈PWV(Pulse Wave Velocity)(例えば、非特許文献1参照)やbaPWV(brachial-ankle Pulse Wave Velocity:上腕−足首間PWV)(例えば、非特許文献2参照)、CAVI(Cardio-Ankle Vascular Index)(例えば、非特許文献3参照)などが用いられる。
【0008】
PWVとは、脈波伝播速度であり、血管上の異なる2点間の距離の値を2点での脈波の時間差の値で除算して得られる、速度の単位を持つ値である。脈波の計測には、例えば、空気伝導式、光電式、空気袋式、アモルファス式、トノメトリ式など、各種方式の脈波センサが用いられる。また、PWV計測の対象部位としては、弾性動脈である大動脈が採用されることがあり、大動脈で計測されたPWVを大動脈PWVという。大動脈PWVの計測方法としては、主に2つのものがある。
【0009】
一方の大動脈PWV計測方法では、例えば次の式(1)により大動脈PWVを求める。
PWV=(b+c−a)/ΔT ・・・(1)
ここで、ΔTは、頸動脈部での脈波立ち上がり部と大腿動脈部での脈波立ち上がり部との時間差であり、aは、胸骨上窩から頸動脈部までの距離であり、bは、胸骨上窩から臍部までの距離であり、cは、臍部から大腿動脈部までの距離である。
【0010】
他方の大動脈PWV計測方法では、例えば次の式(2)により大動脈PWVを求める。
PWV=D×1.3/(ΔT+Tc) ・・・(2)
ここで、ΔTは、頸動脈部での脈波立ち上がり部と大腿動脈部での脈波立ち上がり部との時間差であり、Tcは、心II音(大動脈弁閉鎖の際に生じる心音)の開始から頸動脈部での脈波の切痕部(ノッチ)までの時間であり、Dは、心II音を計測する心音マイクが置かれた第II肋間胸骨右縁から大腿動脈部までの直線距離であり、1.3は解剖学的補正値である。
【0011】
また、baPWVは、例えば次の式(3)により求められる。
baPWV=(La−Lb)/Tba ・・・(3)
ここで、Tbaは、カフを用いてそれぞれ計測される、上腕での脈波立ち上がり部と足首での脈波立ち上がり部との時間差であり、Laは、大動脈弁口部から足首までの距離であり、Lbは、大動脈弁口部から上腕までの距離である。
【0012】
また、CAVIの計測では、上腕と足首(または膝窩)とにカフを装着して血圧および脈波の計測をすると共に、胸骨に心音マイクを装着して心音を計測する。CAVIは、例えば次の式(4)により求められる。
【数1】

ここで、Psは、上腕の収縮期血圧であり、Pdは、上腕の拡張期血圧であり、ρは血液密度であり、ΔPは、Ps−Pdである。また、PWVは、脈波伝播速度であり、例えば次の式(5)により求められる。
【数2】

ここで、Tbは、心II音の開始から上腕での脈波の切痕部までの時間であり、Tbaは、上腕での脈波立ち上がり部と足首での脈波立ち上がり部との時間差であり、Dは、心II音を計測する心音マイクが置かれた胸骨右縁第II肋間から大腿動脈部までの直線距離であり、1.3は解剖学的補正値であり、L2は、大腿動脈部から膝関節中央部までの直線距離であり、L3は、膝関節中央部から足首カフ装着中央部までの直線距離である。
【非特許文献1】増田善昭、金井寛著、「動脈脈波の基礎と臨床」、共立出版、15〜19ページ、2000年
【非特許文献2】小澤利男、増田善昭著、「脈波速度」、メジカルビュー社、28〜29ページ
【非特許文献3】Kohji Shirai, Junji Utino, Kuniaki Ohtsuka, Masanobu Takada, "A Novel Blood Pressure-independent Arterial Wall Stiffness Parameter; Cardio-Ankle Vascular Index (CAVI)", Journal of Atherosclerosis and Thrombosis, Vol.13, No.2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来の生体情報取得方法においては、1人の被験者から正確な心電図と正確な動脈硬化度との双方を得るには、別々の生体情報取得装置である心電計と血圧脈波検査装置とをそれぞれ用意する必要があり、検査を行う者にとって手間がかかるという問題があった。特に、心電図を計測した後に生体情報取得装置の付け替え(つまり、心電計を被検者から取り外して、血圧脈波検査装置を新たに被検者に装着すること)を行って、動脈硬化度の取得を行う場合は、装置の付け替えにより被検者の安静状態が失われる可能性があり、正確な生体情報の取得ができなくなることがあった。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、正確な心電図と正確な動脈硬化度との双方を取得すると共に、これらの生体情報の取得に伴うユーザ(例えば、医師、検査技師)の手間を軽減することができる生体情報取得装置および生体情報取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の生体情報取得装置は、被検者の心電図の計測を行う第1計測手段と、前記被検者の脈波または血圧の計測を行う第2計測手段と、前記第1計測手段および前記第2計測手段による計測をシーケンス制御する制御手段と、を有する構成を採る。
【0016】
本発明の生体情報取得方法は、第1計測手段と第2計測手段とを有する生体情報取得装置の生体情報取得方法において、前記第1計測手段により被検者の心電図の計測を行う第1計測ステップと、前記第2計測手段により前記被検者の脈波または血圧の計測を行う第2計測ステップと、前記第1計測ステップおよび前記第2計測ステップでの計測をシーケンス制御する制御ステップと、を有するようにした。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、正確な心電図と正確な動脈硬化度との取得に伴うユーザの手間を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る生体情報取得装置の構成を示すブロック図である。この生体情報取得装置は、様々な医療機器に適用可能であるが、血圧脈波検査装置としての使用に特に適している。
【0020】
この生体情報取得装置は、演算制御部10、表示部70、記録部75、保存部80、音声発生部85、入力/指示部90、上肢用計測制御部201、下肢用計測制御部202、心音計測部203、心電図計測部204および脈波計測部205を、本体の筐体に収容することで一体化してなるものである。上肢用計測制御部201には、2つのカフ21R、21Lがそれぞれホース21hを介して接続されており、下肢用計測制御部202には、2つのカフ22R、22Lがそれぞれホース22hを介して接続されており、心音計測部203には心音マイク23が接続されており、心電図計測部204には、四肢用心電電極部24aおよび胸部用心電電極部24bが接続されており、脈波計測部205には、アモルファス式脈波センサ25a、25bが接続されている。上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202は、この生体情報取得装置の血圧脈波計測部200を構成する。
【0021】
演算制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェースなどを有する汎用コンピュータ装置である。演算制御部10は、内蔵メモリまたは外付けされた記憶装置に記憶された制御プログラムをCPUで実行することにより、以下説明する装置全体の動作を制御、実行する。なお、演算制御部10による装置全体の制御は、ソフトウェアのみにより実現されるものであってもよいし、ソフトウェアおよびハードウェアの組み合わせにより実現されるものであってもよい。
【0022】
また、演算制御部10は、各種の生体情報の計測を行う上肢用計測制御部201、下肢用計測制御部202、心音計測部203、心電図計測部204および脈波計測部205(以下「生体情報計測部」と総称する)の計測をシーケンス制御する。シーケンス制御において、演算制御部10は、各生体情報計測部に対して計測開始を指示することができる。シーケンス制御の内容については、後でより詳しく説明する。
【0023】
また、演算制御部10は、各生体情報計測部から供給された生体情報を受信する。そして、受信された生体情報を、画面に表示する必要があるときには表示用データに編集または変換したうえで表示部70に、レポート用の用紙に印字する必要があるときには印字用データに編集または変換したうえで記録部75に、出力する。また、演算制御部10は適宜、生体情報を保存部80に保存したり、保存された生体情報を読み出したりする。
【0024】
また、演算制御部10は、各生体情報計測部から受信した生体情報から得られる波形の分析を行い、この分析結果と、受信した生体情報により示された数値とに基づいて、動脈硬化度の算出を行う。算出され得る動脈硬化度およびその算出式などについては既に説明したため、ここではその説明を省略する。なお、波形の分析は、波形における特徴点の検出などを含む。演算制御部10は、この動脈硬化度および波形分析結果も、生体情報と同様に、画面に表示する必要があるときには表示用データに編集または変換したうえで表示部70に、レポート用の用紙に印字する必要があるときには印字用データに編集または変換したうえで記録部75に、出力する。また、演算制御部10は適宜、動脈硬化度および分析結果を保存部80に保存したり、保存されたそれらの情報を読み出したりする。
【0025】
また、演算制御部10は、生体情報や動脈硬化度、波形分析結果に対して種々の判定処理を行う。演算制御部10は、この判定の結果も、動脈硬化度や生体情報と同様に、画面に表示する必要があるときには表示用データに編集または変換したうえで表示部70に、レポート用の用紙に印字する必要があるときには印字用データに編集または変換したうえで記録部75に、出力する。また、演算制御部10は適宜、判定結果を保存部80に保存したり、保存された判定結果を読み出したりする。また、演算制御部10は、判定結果に従って、報知音の出力を指示する信号を音声発生部85に出力する。
【0026】
また、演算制御部10は、ユーザによる操作を支援するための音声ガイダンスが必要なときには、ガイダンス用データを音声発生部85に出力する。
【0027】
また、演算制御部10は、ユーザの操作による入力や指示の内容を入力/指示部90から受信し、受信内容に従って、各生体情報計測部や表示部70、記録部75、保存部80、音声発生部85の機能に関連する設定を行ったり、それぞれの動作の開始や停止を制御したりする。
【0028】
表示部70は、表示画面などを主要構成として有し、演算制御部10から表示用データとして入力された生体情報、波形分析結果、動脈硬化度および判定結果を画面に表示する。
【0029】
記録部75は、給紙機構や印字用ヘッドなどを主要構成として有し、演算制御部10から印字用データとして入力された生体情報、波形分析結果、動脈硬化度および判定結果を用紙に印字する。
【0030】
保存部80は、ハードディスクドライブや書き込み可能な光ディスクドライブ、不揮発性メモリなどにより構成され、演算制御部10からの情報の保持が可能である。
【0031】
音声発生部85は、スピーカなどを主要構成として有し、演算制御部10から入力されたガイダンス用データまたは報知音出力指示信号に従って、ガイダンス音声または報知音を生成する。
【0032】
入力/指示部90は、キーボードやマウス、ボタン、タッチパネルなどから構成され、ユーザの操作による入力や指示を可能にする。ユーザによる入力や指示の内容は演算制御部10に通知される。
【0033】
脈波計測部205は、アモルファス式の脈波計測手段である。脈波計測部205は、被検者に適切に装着されたアモルファス式脈波センサ25a、25bにより検出された被検者の脈波信号を演算制御部10に供給することにより、脈波の計測を行う。脈波の計測は、生体情報取得装置の電源投入時に開始されてもよいし、演算制御部10からの脈波計測開始指示の受信時に開始されてもよい。脈波計測部205による脈波の計測は、演算制御部10で大動脈PWVを求める場合に好適に用いられ、この場合、アモルファス式脈波センサ25a、25bの一方は、被検者の頸動脈部に装着され、他方は、被検者の大腿動脈部に装着される。
【0034】
心電図計測部204は、被検者に適切に装着された四肢用心電電極部24aおよび胸部用心電電極部24bにより検出された心電図信号を演算制御部10に供給することにより、心電図の計測を行う。四肢用心電電極部24aは、典型的には、右手首、左手首、右足首および左足首にそれぞれ装着される4つの心電電極からなる。両足首用の心電電極に関しては、両足首への装着が下肢に装着されたカフ22R、22Lにより妨げられないように形成されていることが好ましい。また、胸部用心電電極部25bは、典型的には、胸部の6箇所にそれぞれ装着される6つの心電電極からなる。心電図の計測は、生体情報取得装置の電源投入時に開始されてもよいし、演算制御部10からの心電図計測開始指示または脈波計測開始指示の受信時に開始されてもよい。
【0035】
心音計測部203は、被検者に適切に装着された心音マイク23により検出された心音信号を演算制御部10に供給することにより、心音の計測を行う。心音の計測は、生体情報取得装置の電源投入時に開始されてもよいし、演算制御部10からの脈波計測開始指示の受信時に開始されてもよい。
【0036】
血圧脈波計測部200は、オシロメトリック式の血圧脈波計測手段であり、血圧計測手段および脈波計測手段の両方の機能を有する。血圧脈波計測部200の上肢用計測制御部201は、2つの圧力センサ211R、211Lを有する他に、ポンプ、排気弁、CPUおよびメモリを有する。メモリには、ポンプ、排気弁、カフ21R、21Lによる血圧計測およびカフ21R、21Lによる脈波計測を制御するプログラムと、この制御に関連する設定情報とが記憶されている。上肢用計測制御部201は、CPUによりプログラムを設定情報に従って実行する。上肢用計測制御部201は、ポンプおよび排気弁を用いて、ホース21hを介してカフ21R、カフ21Lのゴム嚢21aR、21aLに空気を導入することによりカフ21R、21Lの加圧を行うと共に、ゴム嚢21aR、21aLから空気を排出することにより、カフ21R、21Lの減圧を行う。カフ21Rは、右上腕に適切に装着されたカフを指し、カフ21Lは、左上腕に適切に装着されたカフを指す。加圧後のカフ圧の目標値は、脈波計測の場合と血圧計測の場合とで異なり、それぞれ個別に設定可能である。
【0037】
また、上肢用計測制御部201は、カフ加圧後のカフ21R、21Lのカフ圧の変動を脈波信号として圧力センサ211R、211Lで検出し、検出された脈波信号を演算制御部10に供給することにより、脈波の計測を行う。脈波の計測は、演算制御部10からの脈波計測開始指示の受信時に開始される。なお、脈波の計測には、2つのカフ21R、21Lのうち片方のみが使用されてもよいし、両方が使用されてもよい。
【0038】
また、上肢用計測制御部201は、カフ減圧中に、カフ21R、21Lのカフ圧の振動を圧力センサ211R、211Lにより検出しながら、振幅の増大が最も顕著なカフ圧を収縮期血圧として検出すると共に、振動の減少が最も顕著なカフ圧を拡張期血圧として検出して、検出された収縮期血圧および拡張期血圧をそれぞれ示す血圧信号を演算制御部10に供給することにより、血圧の計測を行う。血圧の計測は、生体情報取得装置の電源投入時に開始されてもよいし、演算制御部10からの血圧計測開始指示の受信時に開始されてもよい。特に、演算制御部10から右側血圧計測開始指示を受信した場合、カフ21Rのみを用いた血圧計測が行われ、演算制御部10から左側血圧計測開始指示を受信した場合、カフ21Lのみを用いた血圧計測が行われる。なお、振動するカフ圧からの収縮期血圧および拡張期血圧の検出は、上肢用計測制御部201の代わりに演算制御部10にて行うこともできる。
【0039】
血圧脈波計測部200の下肢用計測制御部202は、2つの圧力センサ221R、221Lを有する他に、ポンプ、排気弁、CPUおよびメモリを有する。メモリには、ポンプ、排気弁、カフ22R、22Lによる血圧計測およびカフ22R、22Lによる脈波計測を制御するプログラムと、この制御に関連する設定情報とが記憶されている。下肢用計測制御部202は、CPUによりプログラムを設定情報に従って実行する。下肢用計測制御部202は、ポンプおよび排気弁を用いて、ホース22hを介してカフ22R、カフ22Lのゴム嚢22aR、22aLに空気を導入することによりカフ22R、22Lの加圧を行うと共に、ゴム嚢22aR、22aLから空気を排出することにより、カフ22R、22Lの減圧を行う。カフ22Rは、右足首に適切に装着されたカフを指し、カフ22Lは、左足首に適切に装着されたカフを指す。加圧後のカフ圧の目標値は、脈波計測の場合と血圧計測の場合とで異なり、それぞれ個別に設定可能である。
【0040】
また、下肢用計測制御部202は、カフ加圧後のカフ22R、22Lのカフ圧の変動を脈波信号として圧力センサ221R、221Lで検出し、検出された脈波信号を演算制御部10に供給することにより、脈波の計測を行う。脈波の計測は、演算制御部10からの脈波計測開始指示の受信時に開始される。なお、脈波の計測には、2つのカフ22R、22Lのうち片方のみが使用されてもよいし、両方が使用されてもよい。
【0041】
また、下肢用計測制御部202は、カフ減圧中に、カフ22R、22Lのカフ圧の変動を圧力センサ221R、221Lにより検出しながら、変動の増大が顕著なカフ圧を収縮期血圧として検出すると共に、変動の減少が顕著なカフ圧を拡張期血圧として検出して、検出された収縮期血圧および拡張期血圧をそれぞれ示す血圧信号を演算制御部10に供給することにより、血圧の計測を行う。血圧の計測は、生体情報取得装置の電源投入時に開始されてもよいし、演算制御部10からの血圧計測開始指示の受信時に開始されてもよい。特に、演算制御部10から右側血圧計測開始指示を受信した場合、カフ22Rのみを用いた血圧計測が行われ、演算制御部10から左側血圧計測開始指示を受信した場合、カフ22Lのみを用いた血圧計測が行われる。なお、振動するカフ圧からの収縮期血圧および拡張期血圧の検出は、下肢用計測制御部202の代わりに演算制御部10にて行うこともできる。
【0042】
以上、本実施の形態に係る生体情報取得装置の構成について説明した。
【0043】
次いで、各生体情報計測部での計測に対して演算制御部10により行われるシーケンス制御について説明する。図2は、演算制御部10によるシーケンス制御動作を説明するためのフロー図である。ここでは、演算制御部10から全ての生体情報計測部に対して計測開始指示を出し、標準12誘導心電図検査と血圧脈波検査とを行う場合を例にとって説明する。
【0044】
シーケンス制御が開始されると、まず、演算制御部10は、心電図計測開始指示を心電図計測部204に出力する(ステップS101)。この指示により、心電図計測部204の標準12誘導心電図の計測が、実行される。計測実行中、心電図計測部204から心電図信号が演算制御部10に供給される。供給された心電図信号は、表示用データとして表示部70に出力されると共に、保存部80に保存される。なお、ここで保存される心電図信号は、ユーザにより被検者の安静状態が確認された後のものであることが好ましい。
【0045】
そして、演算制御部10は、心電図計測完了を検知する(ステップS102)。心電図計測の開始指示から完了までの所要時間は通常、約10秒間である。続いて演算制御部10は、脈波計測開始指示を上肢用計測制御部201、下肢用計測制御部202、心音計測部203および心電図計測部204に出力する(ステップS103)。この指示により、心電図計測部204の心電図計測(このときに計測される心電図は四肢用心電電極部24aのみから得られるものでもよい)、心音計測部203の心音計測、ならびに上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202の脈波計測が、後述する図3のフローに従って実行される。このように、心電図の計測が終わった後、装置の付け替えをすることなく、脈波の計測に進むことができる。脈波計測実行中、心電図計測部204からは心電図信号が、心音計測部203からは心音信号が、上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202からは脈波信号が、それぞれ演算制御部10に供給される。供給された心電図信号、心音信号および脈波信号は、表示用データとして表示部70に出力されると共に、保存部80に保存される。
【0046】
そして、演算制御部10は、脈波計測完了を検知する(ステップS104)。脈波計測の開始指示から完了までの所要時間は通常、約20秒間である。続いて演算制御部10は、一定期間(例えば10秒間)だけ待機してから(ステップS105)、右側血圧計測開始指示を上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202に出力する(ステップS106)。この指示により、上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202の右側血圧計測が、後述する図4のフローに従って実行される。計測実行中、上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202から血圧信号が演算制御部10に供給される。供給された血圧信号は、保存部80に保存される。
【0047】
そして、演算制御部10は、右側血圧計測完了を検知する(ステップS107)。右側血圧計測の開始指示から完了までの所要時間は通常、約1分間である。続いて演算制御部10は、一定期間(例えば5〜120秒間)だけ待機してから(ステップS108)、左側血圧計測開始指示を上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202に出力する(ステップS109)。この指示により、上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202の左側血圧計測が、右側血圧計測と同様にして実行される。計測実行中、上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202から血圧信号が演算制御部10に供給される。供給された血圧信号は、保存部80に保存される。さらに、演算制御部10は、右側血圧計測により得られた血圧信号と左側血圧計測により得られた血圧信号とから血圧の平均値を求め、これを表示用データとして表示部70に出力すると共に、保存部80に保存する。
【0048】
左側血圧計測完了を検知すると(ステップS110)、演算制御部10は、シーケンス制御を終了する。右側血圧計測の開始指示から完了までの所要時間は通常、約1分間である。
【0049】
このように、ここで例示したシーケンス制御では、脈波および血圧の計測が行われる前に、つまり最初に、心電図の計測が行われる。これにより、被検者が確実に安静な状態で、心電図の計測を開始することができる。また、各生体情報の計測の間に適度にインターバルを置くことにより、被検者の安静状態を取り戻すことができる。
【0050】
ちなみに、シーケンス制御終了後、演算制御部10は、保存部80に保存された情報を読み出して、CAVIやABIなどの動脈硬化度の算出を行うことができ、さらに、算出された動脈硬化度が正常であるか否かなどの判定を行うことができる。また、演算制御部10は、保存部80から読み出した情報を記録部75に出力して、1人の被検者に関連する情報を1つのレポートに纏めて一度に記録させることも、複数のレポートに分けて別々のタイミングで記録させることもできる。
【0051】
なお、ここで説明したシーケンス制御は一例であり、いずれか複数のステップの順序を入れ替えたり、いずれか複数のステップを並列化したり、いずれかのステップを削除したり、他の制御を行うステップを追加したりといった変更を加えることができる。このような変更は、ユーザの操作やプログラムの更新により実現可能である。
【0052】
また、ここでは、標準12誘導心電図検査と血圧脈波検査とを行う場合を例にとって説明したが、他の検査も同様にシーケンス制御の対象とすることができる。本実施の形態の生体情報取得装置では、心電図計測部204は、上記の標準12誘導心電図検査の他に、例えば自律神経R−R間隔検査および不整脈検査を行うことができ、血圧脈波計測部200は、上記の血圧脈波検査の他に、例えば足趾波形検査を行うことができ、脈波計測部205は、例えば大動脈PWV検査を行うことができる。よって、これらの6つの検査の任意の組み合わせを任意の順番で実行させるようにシーケンス制御を設定することができる。
【0053】
例えば、上記のシーケンス制御において、標準12誘導心電図検査後、演算制御部10において標準12誘導心電図の波形を分析し、分析の結果、不整脈が認められた場合は、不整脈検査を心電図計測部204に追加的に実行させてもよい。また、標準12誘導心電図の波形分析の結果、心電図異常が認められた場合は、自律神経R−R間隔検査を心電図計測部204に追加的に実行させてもよい。
【0054】
あるいは、上記6つの検査のうちいずれかの検査が終わった後、その検査における計測結果を分析または判定した結果に応じて、予定されていた他の検査を中止させたり、予定されていなかった他の検査を追加的に実行させたりしてもよい。
【0055】
あるいは、上記の心電図検査、すなわち、標準12誘導心電図検査、自律神経R−R間隔検査および不整脈検査のうち2つまたは3つの検査を行うことがあらかじめ決まっている場合には、血圧脈波検査、足趾波形検査および大動脈PWV検査(以下、これら3つの検査を「血圧脈波系検査」と総称する)よりも先に、全ての心電図検査を実行させてもよい。これにより、被検者の安静状態を保ったまま続けて複数の心電図検査を行うことができ、合計検査時間を短縮することができる。
【0056】
あるいは、上記のシーケンス制御のように、標準12誘導心電図検査(または不整脈検査)を血圧脈波系検査よりも先に実行させる場合において、標準12誘導心電図(または不整脈検査)の波形分析の結果、心電図異常(または何らかの不整脈)が認められた場合には、その旨を略リアルタイムに、表示部70に表示させたり、記録部75に印字させたり、音声発生部85から音声または報知音として出力させたりしてもよい。これにより、血圧脈波系検査の信頼性低下をユーザに通知することができる。また、自律神経R−R間隔検査を血圧脈波系検査よりも先に実行させてもよい。
【0057】
あるいは、いずれかの血圧脈波系検査をいずれかの心電図検査よりも先に実行させてもよい。特に、血圧脈波系検査を自律神経R−R間隔検査または不整脈検査よりも先に実行させる場合は、ユーザの操作および確認作業の観点から、検査の際のユーザにとっての利便性を向上させることができる。
【0058】
次いで、図3を参照して、血圧脈波計測部200における脈波計測制御動作について説明する。
【0059】
上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202は、まず、演算制御部10から脈波計測開始指示を受信する(ステップS121)。そして、上肢用計測制御部201はカフ21R、21Lを、下肢用計測制御部202はカフ22R、22Lを、例えば30〜50mmHgまで加圧する(ステップS122)。カフ加圧が完了すると、上肢用計測制御部201は、上肢の脈波信号の計測を一定期間(例えば5秒間)にわたり行い、下肢用計測制御部202も、下肢の脈波信号の計測を一定期間にわたり行う(ステップS123)。計測期間経過後、上肢用計測制御部201はカフ21R、21Lを、下肢用計測制御部202はカフ22R、22Lを、0mmHgまで減圧する(ステップS124)。カフ減圧が完了すると、上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202は、脈波計測完了を演算制御部10に通知する(ステップS125)。
【0060】
次いで、図4を参照して、血圧脈波計測部200における右側血圧計測制御動作について説明する。
【0061】
上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202は、まず、演算制御部10から右側血圧計測開始指示を受信する(ステップS131)。そして、上肢用計測制御部201はカフ21Rを、下肢用計測制御部202はカフ22Rを、測定対象の収縮期血圧よりも高い適当な値まで加圧する(ステップS132)。カフ加圧が完了すると、上肢用計測制御部201はカフ21Rを、下肢用計測制御部202はカフ22Rを、徐々に減圧する(ステップS133)。カフ減圧中、上肢用計測制御部201は、右上腕の収縮期血圧および拡張期血圧を計測し、下肢用計測制御部202は、右足首の収縮期血圧および拡張期血圧を計測する(ステップS134)。血圧計測後、カフ21R、22Rのカフ圧が0mmHgに達すると、上肢用計測制御部201および下肢用計測制御部202は、右側血圧計測完了を演算制御部10に通知する(ステップS135)。
【0062】
血圧脈波計測部200における左側血圧計測の制御動作に関しては、上記の右側血圧計測制御動作の説明において加減圧の対象カフを右上腕および右足首用のカフ21R、22Rから左上腕および左足首用のカフ21L、22Lに替えることにより、右側血圧計測と同様にして実現することができる。
【0063】
このように、本実施の形態によれば、心電図計測部204による心電図の計測のタイミングと、血圧脈波計測部200による血圧および脈波の計測のタイミングとを制御しつつ、心電図計測および血圧脈波計測の双方を行うことができるため、心電図検査や動脈硬化検査などの複数の検査を行うユーザにとって、装置の操作や装置の準備の手間を簡略化することができると共に、各生体情報の高精度な計測を維持することができる。特に、本実施の形態の生体情報取得装置および生体情報取得方法は、複数の検査を、装置の付け替えをすることなく続けてあるいは同時に行うことができ、これにより被検者の安静状態を失うことなく比較的短時間に複数の検査を行えるという大きな利点を有する。
【0064】
また、本実施の形態によれば、心電図検査と血圧脈波検査とを互いに独立に行いつつ、図5に例示するようにそれぞれの検査結果を1つのレポートに纏めて記録することができる。さらに、演算制御部10により双方の検査結果に対して総合的な判定を行い、その判定結果も、それぞれの検査結果と纏めてレポートに記録することができる。なお、演算制御部10は、判定結果に含まれる虚血性心疾患の発生リスクを、CAVIの算出値から求めることができる虚血性心疾患所見群の発現倍率に基づいて導出することができる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態を説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記装置の構成および動作についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施の形態に係る生体情報取得装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の一実施の形態に係る演算制御部によるシーケンス制御動作の一例を説明するためのフロー図
【図3】本発明の一実施の形態に係る血圧脈波計測部による脈波計測制御動作を説明するためのフロー図
【図4】本発明の一実施の形態に係る血圧脈波計測部による血圧計測制御動作を説明するためのフロー図
【図5】本発明の一実施の形態に係るレポートの一例を説明するための図
【符号の説明】
【0067】
10 演算制御部
21R、21L、22R、22L カフ
21aR、21aL、22aR、22aL ゴム嚢
21h、22h ホース
23 心音マイク
24a 四肢用心電電極部
24b 胸部用心電電極部
25a、25b アモルファス式脈波センサ
70 表示部
75 記録部
80 保存部
85 音声発生部
90 入力/指示部
200 血圧脈波計測部
201 上肢用計測制御部
202 下肢用計測制御部
203 心音計測部
204 心電図計測部
205 脈波計測部
211R、211L、221R、221L 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の心電図の計測を行う第1計測手段と、
前記被検者の脈波または血圧の計測を行う第2計測手段と、
前記第1計測手段および前記第2計測手段による計測をシーケンス制御する制御手段と、
を有することを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項2】
前記第1計測手段は、標準12誘導心電図の計測を行うことを特徴とする請求項1記載の生体情報取得装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記被検者の検査開始後、前記第2計測手段による計測を実行させる前に、前記第1計測手段による計測を実行させることを特徴とする請求項1記載の生体情報取得装置。
【請求項4】
第1計測手段と第2計測手段とを有する生体情報取得装置の生体情報取得方法において、
前記第1計測手段により被検者の心電図の計測を行う第1計測ステップと、
前記第2計測手段により前記被検者の脈波または血圧の計測を行う第2計測ステップと、
前記第1計測ステップおよび前記第2計測ステップでの計測をシーケンス制御する制御ステップと、
を有することを特徴とする生体情報取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−168074(P2008−168074A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6300(P2007−6300)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000112602)フクダ電子株式会社 (196)
【Fターム(参考)】