説明

産業用車両の油圧ポンプ制御システムと産業用車両

【課題】 油圧ポンプからブレーキ制御回路に吐出する流量を必要流量に制御して省エネルギ化を図ることができる産業用車両の油圧ポンプ制御システムを提供すること。
【解決手段】 油圧ポンプから吐出する作動油によってブレーキ制御を行う産業用車両の油圧ポンプ制御システムに、前記作動油をブレーキ制御用に蓄積するアキュムレータ33,34と、このアキュムレータ33,34が所定圧力以下の場合は前記作動油をアキュムレータ33,34に蓄積し、このアキュムレータ33,34が所定圧力に達すると前記作動油をタンク2に戻すように切り換える第1バルブ15を有するアンローダバルブ10とを備えさせ、前記油圧ポンプを、前記アンローダバルブ10の切り換え状態における前記第1バルブ15の1次側圧力をロードセンシング圧として傾転角を制御する可変容量ポンプ5で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械や産業車両等の産業用車両に用いられている油圧ポンプの制御システムと、それを備えた産業用車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホイールローダ等の産業用車両(この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「産業用車両」は、「ホイールローダ」、「タイヤローラ」、等の建設機械、及び「フォークリフト」、「高所作業車」等の産業車両、その他の産業用の車両を全て含む)には、油圧でブレーキ制御を行うシステムが用いられている。
【0003】
このようなブレーキ制御システムとしては、例えば、一般的に、固定容量ポンプを用いてエンジン回転数に応じた流量の作動油を吐出し、その作動油で必要に応じてブレーキ制御が行われている。
【0004】
この種の先行技術として、油圧ショベル等のエンジンで駆動する固定容量ポンプと可変容量ポンプとを備えた油圧回路において、エンジンで駆動する固定容量ポンプの吐出流量変化に応じて可変容量ポンプの制御を行うようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の先行技術として、上記特許文献1と同様に、エンジンで駆動する固定容量ポンプと可変容量ポンプとを備えた油圧回路において、エンジン回転数が小さいときに、予め設定されたエンジン回転トルク曲線に見合ったポンプ吸収トルク以上のトルクが得られるように、走行用可変容量ポンプの傾転角を大きくして走行モータで大トルクが得られるようにしたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−271758号公報
【特許文献2】特開2002−213609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したように固定容量ポンプでエンジン回転数に応じた流量の作動油を吐出した場合、ブレーキ制御が不要な作業時等にもエンジン回転数に応じた大流量を吐出することになるため、その時の必要流量を超える吐出分は仕事をすることなくタンクへ戻されるので損失エネルギが多い。
【0008】
一方、近年、地球温暖化防止やCO削減等のためにエンジンの小型化や排ガス規制、各機器の効率化等が図られている。そのため、上記したようなブレーキ制御回路においても、油圧ポンプから吐出して仕事をしない作動油流量を極力減らして省エネルギ化を図る必要性が生じている。
【0009】
なお、上記特許文献1は固定容量ポンプの吐出流量変化で可変容量ポンプの傾転角を制御するもの、特許文献2はエンジン回転数が小さいときに走行用可変容量ポンプの傾転角を制御するものであり、いずれもブレーキ制御回路における作動油流量を制御して省エネルギ化を図ることができるものではない。
【0010】
そこで、本発明は、油圧ポンプからブレーキ制御回路に吐出する流量を必要流量に制御して省エネルギ化を図ることができる産業用車両の油圧ポンプ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の油圧ポンプ制御システムは、油圧ポンプから吐出する作動油によってブレーキ制御を行う産業用車両の油圧ポンプ制御システムであって、前記作動油をブレーキ制御用に蓄積する蓄圧部と、該蓄圧部が所定圧力以下の場合は前記作動油を該蓄圧部に蓄積し、該蓄圧部が所定圧力に達すると前記作動油をタンクに戻すように切り換える圧力制御バルブを有する制御バルブとを備え、前記油圧ポンプは、前記制御バルブの切り換え状態における前記圧力制御バルブの1次側圧力をロードセンシング圧として傾転角を制御する可変容量ポンプであることを特徴とする。
【0012】
これにより、ブレーキ制御用の作動油を蓄圧部に優先して蓄積し、蓄圧部が所定圧力に達すると制御バルブが切り換えられて作動油をタンクに戻すとともに、制御バルブを切り換えた状態の圧力制御バルブ1次側圧力を可変容量ポンプのロードセンシング圧として使用して可変容量ポンプの傾転角を小さくすることができる。このように、可変容量ポンプから吐出される作動油をブレーキ制御用として優先的に蓄圧するとともに、ブレーキ制御用の作動油が不要な場合は、可変容量ポンプの傾転角を小さくして損失エネルギを最小にすることができるので、可変容量ポンプの吐出流量を必要流量に制御して省エネルギ化を図ることができる。
【0013】
また、前記制御バルブは、前記蓄圧部が所定圧力に達すると切り換えられて作動油をタンクに戻す第1バルブと、該第1バルブから作動油をタンクに戻すことで前記作動油の一部を他の機器に供給する第2バルブとを備えたアンローダバルブであってもよい。
【0014】
このようにすれば、ブレーキ制御用として蓄圧部に供給する流量及び圧力を制御するために用いられるアンローダバルブを切り換えるバルブの1次側圧力を可変容量ポンプのロードセンシング圧として使用し、可変容量ポンプの傾転角を必要流量に応じて制御することが容易にできる。
【0015】
さらに、前記第1バルブの1次側圧力と前記第2バルブの2次側圧力とを高圧選択し、該高圧選択した高圧側圧力で前記可変容量ポンプの傾転角を制御するように構成してもよい。
【0016】
このようにすれば、ブレーキ制御用として蓄圧部に作動油を蓄積する時には、ブレーキ制御回路に必要な流量の作動油が吐出されるように可変容量ポンプの傾転角が大きくなるように制御され、ブレーキ制御回路が設定圧になって作動油が供給されない時には、アンローダバルブから他の機器に必要な流量の作動油が吐出されるように可変容量ポンプの傾転角を制御することができる。
【0017】
一方、本発明に係る産業用車両は、前記いずれかの油圧ポンプ制御システムを備えていることを特徴とする。
【0018】
これにより、ブレーキ制御用の作動油を蓄圧部に優先して蓄圧するブレーキ優先回路を備えつつ、可変容量ポンプから吐出される流量を最適に制御して損失エネルギを抑えた省エネルギ化を図ることができる産業用車両を構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、油圧ポンプからブレーキ制御回路に吐出する流量を必要流量に制御して省エネルギ化を図ることができる産業用車両の油圧ポンプ制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の油圧ポンプ制御システムに係る一実施形態を示す油圧回路図である。
【図2】図1に示すアンローダバルブの拡大図である。
【図3】図2に示すアンローダバルブのアンロード状態を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、ホイールローダの油圧回路を例に説明する。また、制御バルブとして、アンローダバルブを例に説明する。
【0022】
図1に示すように、この油圧回路1には、タンク2から配管3を介して作動油を供給する可変容量ポンプ5が設けられている。この可変容量ポンプ5から供給される作動油は、配管4を介してアンローダバルブ10の入力ポート11に供給されている。この入力ポート11に供給された作動油は、絞り12を介して第1出力ポート13に供給され、この第1出力ポート13からブレーキ制御回路30に供給されている。このブレーキ制御回路30に供給された作動油は、フィルタ31を介して分岐配管32に供給され、この分岐配管32からフロントアクスル用アキュムレータ33とリヤアクスル用アキュムレータ34とに蓄積される。分岐配管32には、チェック弁35が設けられており、両アキュムレータ33,34に蓄えられた作動油の逆流を防止している。これらのアキュムレータ33,34に蓄えられた作動油の蓄圧エネルギがブレーキ制御圧の元圧となる。
【0023】
上記アキュムレータ33,34に蓄えられた作動油は、配管36を介してブレーキバルブ37に接続されている。このブレーキバルブ37の操作により、上記アキュムレータ33,34からの作動油がフロントアクスル38及びリヤアクスル39のブレーキ作動圧として使用される。また、ブレーキバルブ37の操作終了により、両アクスル38,39に供給された作動油は配管40を介してタンク2へ戻される。
【0024】
上記可変容量ポンプ5は、エンジンで駆動されるミッション6を介して駆動されている。この可変容量ポンプ5は、後述するように、上記アンローダバルブ10からのロードセンシング圧(Pls)によって切り換えられる制御バルブ7と、この制御バルブ7によって制御される傾転角調整部8とを有する容量調整機構9を備えている。この容量調整機構9によって、可変容量ポンプ5の傾転角が制御される。この容量調整機構9による傾転角制御は後述する。
【0025】
図2にも示すように、上記アンローダバルブ10は、ブレーキ制御圧の元圧(アキュムレータ33側の回路圧力)が設定圧以下に低下すると第1出力ポート13から優先的にブレーキ制御回路30に作動油を供給し、ブレーキ制御元圧が設定以上になったら第2出力ポート14へ作動油を供給するように制御するバルブである。このアンローダバルブ10は公知の油圧バルブユニットであり、アキュムレータ33,34に作動油を蓄圧するか、作動油をタンク2へ戻すかを切り換える第1バルブ15と第2バルブ16の2つのバルブを備えている。このアンローダバルブ10は、これら第1バルブ15及び第2バルブ16の設定圧で切換圧力が設定される。
【0026】
このようなアンローダバルブ10の機能としては、アキュムレータ33側の回路圧が設定圧力以下の場合は、入力ポート11に供給された作動油は、絞り12を通過して第1出力ポート13へ供給され、チェック弁35を介してアキュムレータ33,34に蓄積される。このアキュムレータ33側の回路圧(Pbreak)は、パイロット配管41を介して第1バルブ15に導かれている。
【0027】
アキュムレータ33に作動油が蓄積されて回路圧が設定圧に達すると、その回路圧力(Pbreak)によって第1バルブ15の1次側と2次側の回路が接続されて配管19と連通するため、第1バルブ15の1次側圧力がタンク圧まで低下する。
【0028】
これにより、図3に示すように、第2バルブ16の1次側と2次側の回路が接続され、入力ポート11に供給された作動油は第2バルブ16を介して第2出力ポート14へ供給される。また、この状態では、ブレーキ制御回路30へ作動油が供給されなくなり、第2バルブ16によって作動油がカットアウトされた状態となる(この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「カットアウト」は、アンローダバルブからブレーキ制御回路に作動油を供給しない状態をいい、「カットイン」は、アンローダバルブからブレーキ制御回路に作動油を供給する状態をいう)。また、上記第2出力ポート14は、配管22を介して、図1に示すように、他の機器50のアクチュエータ制御用パイロットポートに接続されている。
【0029】
一方、上記アキュムレータ33に蓄圧された油圧エネルギがブレーキバルブ37の操作によって消費されると、ブレーキ制御回路30のPbreakがアンローダバルブ10の設定圧よりも低下する。このPbreakが設定圧以下に低下すると、アンローダバルブ10の第1バルブ15の通路が閉じられる。
【0030】
これにより、第1バルブ15の1次側圧力が上昇し、第2バルブ16の1次側と2次側の回路が切断される(この時の圧力を、カットイン圧という)。この第2バルブ16の通路が閉じられることで、可変容量ポンプ5から吐出された作動油はブレーキ制御回路30側へ優先的に流れる(ブレーキ回路優先)。このブレーキ制御回路30へ作動油が供給されると、上記アキュムレータ33,34に蓄積されることで回路圧が上昇し、それに応じてPbreakが上昇する。
【0031】
そして、このような油圧回路1において、上記第1バルブ15の1次側圧力(分岐管17の圧力)がパイロット配管21を介して高圧選択弁20に導かれるとともに、上記第2出力ポート14から吐出された作動油が配管22を介して高圧選択弁20に導かれ、この高圧選択弁20によって高圧側圧力が選択されるようになっている。この高圧選択弁20により、上記第2出力ポート14の吐出圧力と第1バルブ15の1次側圧力との高圧側圧力が選択され、その圧力によってパイロット配管23を介して上記容量調整機構9の制御バルブ7が制御されるようになっている。これにより、高圧選択弁20で選択された高圧側圧力に応じた流量の作動油が吐出されるように可変容量ポンプ5の傾転角が傾転角調整部8で制御される。
【0032】
すなわち、ブレーキ制御圧力の蓄圧を優先させるアンローダバルブ10の第1バルブ15の1次側圧力(分岐管17の圧力)または第2出力ポート14の圧力のいずれか高い方をロードセンシング圧(Pls)として可変容量ポンプ5の傾転制御に使用している。
【0033】
これにより、ブレーキ制御回路に流量が必要なときは、第1バルブ15の1次圧がロードセンシング圧(Pls)となり、可変容量ポンプ5は、ブレーキ制御回路に必要な流量で制御され、カットアウト後は第2出力ポート14の圧力がPlsとなり、第2出力ポート2次側で必要とする流量に制御可能となる。
【0034】
従って、上記油圧回路1によれば、ブレーキ制御回路30に必要な作動油量を吐出するように可変容量ポンプ5を制御して、ポンプの損失エネルギを減少させて省エネルギ化を実現できる油圧ポンプ制御システムを構成することが可能となる。
【0035】
なお、上記実施形態では、フロントアクスル38とリヤアクスル39とを備えたホイールローダを例に説明したが、他の産業用車両であっても同様に適用することができ、上記実施形態に限定されるものではない。
【0036】
また、可変容量ポンプ5の構成も一般的な構成を示しているが、傾転角を制御できる構成であれば他の構成であってもよく、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0037】
さらに、上述した実施形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る油圧ポンプ制御システムは、ホイールローダ等の建設機械、高所作業車等の産業車両、その他の産業用車両に利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 油圧回路
5 可変容量ポンプ
7 制御バルブ
8 傾転角調整部
9 容量調整機構
10 アンローダバルブ(制御バルブ)
11 入力ポート
12 絞り
13 第1出力ポート
14 第2出力ポート
15 第1バルブ(圧力制御バルブ)
16 第2バルブ(圧力制御バルブ)
17 分岐管
18 絞り
19 配管
20 高圧選択弁
21 パイロット配管
22 配管
23 パイロット配管(Pls)
24 リリーフ弁
30 ブレーキ制御回路
33 フロントアクスル用アキュムレータ
34 リヤアクスル用アキュムレータ
41 パイロット配管(Pbreak)
50 他の機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプから吐出する作動油によってブレーキ制御を行う産業用車両の油圧ポンプ制御システムであって、
前記作動油をブレーキ制御用に蓄積する蓄圧部と、
該蓄圧部が所定圧力以下の場合は前記作動油を該蓄圧部に蓄積し、該蓄圧部が所定圧力に達すると前記作動油をタンクに戻すように切り換える圧力制御バルブを有する制御バルブとを備え、
前記油圧ポンプは、前記制御バルブの切り換え状態における前記圧力制御バルブの1次側圧力をロードセンシング圧として傾転角を制御する可変容量ポンプであることを特徴とする産業用車両の油圧ポンプ制御システム。
【請求項2】
前記制御バルブは、前記蓄圧部が所定圧力に達すると切り換えられて作動油をタンクに戻す第1バルブと、前記第1バルブから作動油をタンクに戻すことで前記作動油の一部を他の機器に供給する第2バルブとを備えたアンローダバルブである請求項1に記載の産業用車両の油圧ポンプ制御システム。
【請求項3】
前記第1バルブの1次側圧力と前記第2バルブの2次側圧力とを高圧選択し、該高圧選択した高圧側圧力で前記可変容量ポンプの傾転角を制御するように構成した請求項2に記載の産業用車両の油圧ポンプ制御システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の油圧ポンプ制御システムを備えたことを特徴とする産業用車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−159131(P2012−159131A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18636(P2011−18636)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(509241041)株式会社KCM (35)
【Fターム(参考)】