説明

田植機

【課題】植付部の昇降制御の追従性を向上させた田植機を提供する。
【解決手段】田植機は、植付部と、フロートセンサと、制御部と、を備えている。植付部は、地面に接触可能なフロートを備える。フロートセンサは、フロートの揺動角を検出する。制御部は、フロートセンサの出力値の微分値を制御量としたPID制御(ステップS103)により、植付部を昇降制御する。また制御部は、フロートセンサが検出したフロートの位置と、前記フロートの位置の目標値と、の差をフロートセンサの検出値に基づいて修正する(ステップS104)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として田植機に関する。詳細には、田植機が備える植付部の昇降制御に関する。
【背景技術】
【0002】
田植機においては、苗の植付を適切に行うことができるようにするため、地面の凹凸に追従させて植付部を上下に昇降制御している。この昇降制御の方法としては、地面に対する植付部の高さを検出するセンサを設け、当該センサの出力値に基づいて公知のPID制御等を行う方法が主流である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−212059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、田植機の植付速度は向上しており、これに伴って車体の走行速度も上昇している。そして車体の走行速度が上昇することにより、植付部を地面に追従させて適切に昇降制御することが困難になりつつある。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、植付部の昇降制御の追従性を向上させた田植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成の田植機が提供される。即ち、この田植機は、植付部と、フロート位置検出部と、制御部と、を備える。前記植付部は、地面に接触可能なフロートを備える。前記フロート位置検出部は、前記フロートの位置を検出する。前記制御部は、前記植付部を昇降制御する。前記制御部は、前記フロートの加速度に基づいて前記昇降制御を行うとともに、前記フロート位置検出部が検出した前記フロートの位置と、前記フロートの位置の目標値と、の差を前記フロート位置検出部の検出値に基づいて修正する。
【0008】
このように、フロートの加速度に基づいて昇降制御を行うことにより、当該昇降制御の応答性を向上させることができる。しかし、応答性を向上させる反面、フロートの位置が目標値から大きく外れてしまうことがある。そこで、フロート位置検出部の検出結果に基づいてフロート位置のズレを補正するように制御を行うことで、植付部を適切に昇降制御することができる。
【0009】
上記の田植機において、前記制御部は、前記フロートの速度を制御量としたPID制御により前記昇降制御を行うことが好ましい。
【0010】
即ち、フロートの速度を制御量としたPID制御において、当該PID制御の微分項は、フロートの加速度に比例した値を示す。このように、フロートの速度を制御量としたPID制御では、フロートの加速度に基づいて昇降制御が行われるので、当該昇降制御の応答性を向上させることができる。
【0011】
本発明の別の観点によれば、以下の構成の田植機が提供される。即ち、この田植機は、植付部と、フロート位置検出部と、制御部と、を備える。前記植付部は、揺動支軸を中心として揺動可能に構成されたフロートを備える。前記フロート位置検出部は、前記フロートの前記揺動支軸まわりの角度を検出するように構成される。前記制御部は、前記植付部を昇降制御する。また、前記制御部は、前記フロートの角度に基づいて前記昇降制御を行う。そして前記フロートは、前記揺動支軸よりも機体後側に向けて伸びる延長部を有する。
【0012】
このように、フロートの後端を揺動支軸よりも後にのばすことにより、フロートの余計な揺動を抑制することができる。これにより、フロート位置検出部が検出するフロートの角度が安定するので、当該フロートの角度に基づいて植付部を昇降制御する際のハンチングを抑制することができる。
【0013】
上記の田植機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この田植機は、走行車速を検出する車速検出部と、操向操作具の操作量を検出する操向操作検出部と、を備える。前記制御部は、前記操向操作検出部の出力値に基づいて、車体の旋回を検出する。そして旋回前と比較して旋回後の車速が遅くなっている場合、制御部は、前記植付部の上昇速度を低下させる。
【0014】
即ち、旋回の前後の車速変化により、土壌条件等の変化を推測できるので、当該車速変化に基づいて制御上の変更を行うことにより、自動的に最適な条件で昇降制御を行うことができる。
【0015】
上記の田植機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この田植機は、前記植付部のローリング角(左右の傾き)に関する情報を検出するローリング角情報検出部を有する。前記制御部は、前記植付部のローリング挙動が所定の許容範囲を超えていることを前記ローリング角情報検出部の検出結果に基づいて検出した場合は、前記植付部の上昇速度を低下させる。
【0016】
即ち、機体が急激なローリング挙動を示している状態では、浮苗になる可能性が高いので、植付部の上昇速度を低下させて、当該植付部が圃場から離れにくくすることにより、浮苗を減少させる。
【0017】
上記の田植機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この田植機は、前記植付部のローリング角の変化速度を検出する角速度センサを有する。前記制御部は、前記角速度センサの出力変動が所定値以上の場合は、前記植付部の上昇速度を低下させる。
【0018】
即ち、機体の左右傾き変動の周波数が大きい状態(左右に傾く速度の変動が大きい状態)では、圃場の凹凸が激しい状態であるため、浮苗になる可能性が高い。そこでこのような場合には、植付部の上昇速度を低下させて、当該植付部が圃場から離れにくくすることにより、浮苗を減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る田植機の全体的な構成を示す側面図。
【図2】植付爪近傍の様子を示す側面図。
【図3】植付部昇降制御の制御フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る乗用型の田植機1の側面図である。
【0021】
田植機1は、車体2と、当該車体2の後方に配置された植付部3と、から構成されている。
【0022】
車体2は、左右一対の前輪4と、左右一対の後輪5を備えている。また、車体2は、その前後方向で前輪4と後輪5の間に運転座席6を備えている。運転座席6の近傍には、車体2の操向操作を行うためのステアリングハンドル7、車体2の走行速度を調節するための変速ペダル8、その他各種の操作具が配置されている。
【0023】
また、車体2は、図略の制御部を備えている。制御部は例えばマイクロコントローラからなり、田植機1の各部に備えられたセンサ等の信号に基づいて、田植機1の各構成を制御するように構成されている。
【0024】
また、車体2において、運転座席6の下方にはエンジン10が、当該エンジン10の前方にはミッションケース11が、それぞれ配置されている。一方、車体2の後方には、植付部3を取り付けるための昇降リンク機構12、エンジン10の駆動力を植付部3に出力するためのPTO軸13、植付部3を昇降駆動するための昇降シリンダ14等が配置される。
【0025】
前記植付部3は、植付センターケース15と、複数の植付ベベルケース24と、苗載台17と、複数のフロート16と、を備えている。
【0026】
植付センターケース15内には図略の駆動軸が配設されており、当該駆動軸には前記PTO軸13からの駆動力が入力されている。各植付ベベルケース24は車体前後方向に沿って配置されており、かつ車体左右方向に並んで配置されている。各植付ベベルケース24内には、図略の駆動軸が配設されており、植付センターケース15からの駆動力が入力されている。
【0027】
各植付ベベルケース24の左右には、それぞれ植付ユニット20が取り付けられている。各植付ユニット20は、回転ケース21に2つの植付爪22を備えるロータリ式植付装置として構成されている。植付ベベルケース24に入力された駆動力は、回転ケース21を回転駆動する。
【0028】
ロータリ式植付装置の構成は公知であるので詳細な説明は省略するが、回転ケース21を回転駆動することにより、植付爪22の先端部が図2に示すようなループ状の軌跡を描きながら上下に駆動されるように構成されている。植付爪22の先端部は、上から下に向かって動くときに、後述の苗載台17に載せられた苗マット25の下端から1株分の苗26を掻き取り、当該苗26の根元を保持したまま下方に動いて地面に植え込むように構成されている。
【0029】
苗載台17は、前記植付ベベルケース24の上方に配置されている。この苗載台17は、図略のガイドレール上を車体左右方向に往復摺動可能に支持されている。そして、植付部3は、苗マットの左右幅の範囲内で苗載台17を左右に往復駆動する図略の横送り機構を備えている。これにより、苗載台17に載せた苗マットを、植付ユニット20に対して左右に相対運動させることができる。また、苗載台17は、苗マットを、下方に向かって(即ち、植付ユニット20側に向かって)間欠的に送る苗送りベルト(縦送り機構)を備えている。以上の構成で、横送り機構と縦送り機構とを適切に連動させることにより、各植付ユニット20に対して苗を順次供給し、連続的に植付けを行うことができる。
【0030】
植付センターケース15には、前記昇降リンク機構12が連結されている。この昇降リンク機構12は、トップリンク18、ロワーリンク19等からなる平行リンク構造から構成されており、ロワーリンク19に連結された昇降シリンダ14を駆動することにより、植付センターケース15を上下に昇降駆動可能に構成されている(これにより、植付部3全体を上下に昇降することができる)。昇降シリンダ14の駆動は、制御部によって制御される。
【0031】
前記フロート16は、各植付ベベルケース24の下方に設けられる。このフロート16は、その下面が地面に接触することができるように配置されている。これにより、地面をならして、植え付けをきれいに行うことができる。
【0032】
図2に示すように、フロート16は、揺動支軸32を中心に回動可能に構成されている。また、フロート16は、揺動支軸32よりも前方の位置において、押圧部材33によって下向きに付勢されている。即ち、フロート16の前端部分が、地面に対して押し付けられるように力が加えられている。
【0033】
複数のフロート16のうち少なくとも何れか一つには、当該フロート16の揺動角(フロートの位置)を検出するフロートセンサ(フロート位置検出部)34が設けられている。このフロートセンサ34は、例えばポテンショメータとして構成されている。フロートセンサ34の検出値は、制御部に出力される。なお、以下の説明では、フロートセンサ34が検出するフロート16の揺動角のことを、単にフロート角と呼ぶ場合がある。
【0034】
従来の田植機においては、フロートセンサが検出したフロート角を、当該フロート角の目標値(目標角度)に近づけるように、植付部の昇降制御を行っていた。即ち、目標角度に比べてフロートが前下がりになっている場合、地面に対して植付部3が高過ぎるということであるから、制御部は、植付部を下降させる。一方、目標角度に比べてフロートが前上がりになっている場合には、地面に対して植付部3が低過ぎるということであるから、制御部は、植付部を上昇させる。なお、この制御は特許文献1等に記載されているように公知であり、例えばフロート角を制御量としたPID制御によって実現することができる。
【0035】
周知のように、このPID制御というのは、比例項と、微分項と、積分項と、に基づいて操作指令値を算出するものである。ところでPID制御において、制御量の突発的な変動が発生した場合には、微分項が敏感に反応する。即ち、制御量が突発的に変化したき、その微分値(制御量の速度)が大きくなるので、微分項の作用が大きくなって、当該突発的な変化に抗する作用を発揮することができる。このように、PID制御においては、制御量の突発的な変動に対処するのは主に微分項の作用である。
【0036】
フロート角を制御量としてPID制御を行う田植機の場合、当該PID制御における微分項は、制御量であるフロート角の微分値(フロート角速度)に比例した値を示すことになる。従って、PID制御によって植付部を昇降制御していた従来の田植機においては、フロート角速度に基づいた制御によって、フロート角の突発的な変動に対処していたと言うことができる。
【0037】
しかし、近年は田植機の植付速度が向上し、車体の走行速度が早くなっているので、これに伴いフロート角が激しく変動するようになっている。このため、従来のPID制御では、植付部3の昇降制御に追従遅れの懸念がある。
【0038】
そこで本実施形態の田植機1において、制御部は、フロート角の加速度(フロート角加速度)に基づいて、植付部3の昇降制御を行うように構成されている。
【0039】
即ち、フロート角速度をもう一段階微分したフロート角加速度(フロート角の二階微分値)に基づいて植付部3の昇降制御を行うことにより、一階微分値(フロート角速度)を利用していた従来の制御に比べて応答性を向上させ、従来よりも一層敏感な昇降制御が可能になる。従って、フロート角が激しく変動する状況においても、追従遅れを防止して植付部3を適切に昇降制御することができる。
【0040】
次に、フロート角加速度に基づいた昇降制御について、より具体的に説明する。
【0041】
本実施形態の田植機1において、制御部は、フロート角速度(フロート角の微分値)を制御量としたPID制御を行うように構成されている。なお、植付部3の昇降制御の目的は、当該植付部3の地面に対する高さを一定に保つことにあるから、フロート16の角度を一定に保つ制御となる。従って、フロート角速度を制御量としてPID制御を行う場合、通常は、フロート角速度の目標値をゼロとする。
【0042】
このようにフロート角速度を制御量とするPID制御の場合、その微分項は、フロート角速度の微分値(即ちフロート角加速度)に比例した値を示すことになる。このように、フロート角速度を制御量としたPID制御を行うことにより、フロート角加速度に基づいた昇降制御を行うことができる。従って、フロート角の変化に対して敏感に反応することが可能になり、植付部昇降制御の応答性を向上させることができる。
【0043】
しかし一方で、フロート角速度を制御量としたPID制御のみでは、フロート角が目標角度からズレ易くなる。そこで制御部は、フロートセンサ34によって検出したフロート角と、目標角度(フロート角の目標値)と、の差(ズレ)に基づいて、当該ズレを修正するように制御を行う。例えば、フロートセンサ34が検出したフロート角が、目標角度に対して前下がりになっている場合には、植付部3を下降させるように修正する。一方、フロートセンサ34が検出したフロート角が、目標角度に対して前上がりになっている場合には、植付部3を上昇させるように修正する。
【0044】
以上のように、フロート角の2階微分値に基づいて植付部3を昇降制御することにより、応答性を向上させることが可能であり、更にフロート角の検出値と目標値との差(ズレ)を修正することにより、当該フロート角が目標角度から大きくズレてしまう(上記ズレが大きくなってしまう)ことを防止できる。
【0045】
なお、上記のように昇降制御の応答性を向上させると、植付部3の昇降速度が増加するので、かえってハンチングが発生し易くなるという別の問題が発生し得る。
【0046】
そこで本実施形態の田植機1においては、図2に示すように、フロート16は、揺動支軸32よりも後に延伸された延長部16aを有している。これにより、フロート16が前上がりとなるモーメントが抑制される。従って、フロート16自体の揺動が安定するので、フロートセンサ34が検出するフロート角も安定し、ハンチングにつながる挙動を抑制することができる。
【0047】
ところで、フロート16の最適な目標角度は、圃場の状態(土の硬さなど)によって異なる。従って、苗の植付けを適切に行うためには、圃場状態の変化に応じてフロート16の目標角度を変更することが好適である。しかし、従来の田植機において、目標角度等はオペレータが経験と勘によって手動で設定していたので、必ずしも土壌条件に応じて最適な植付結果が得られるとは限らなかった。また圃場の状態が異なれば、PID制御に用いる制御ゲインの最適値も変わってくる。
【0048】
そこで、本実施形態の田植機は、各種センサ等に基づいて、フロートの目標角度や制御ゲインを自動的に調整するように構成されている。以下、具体的に説明する。
【0049】
本実施形態において、制御部は、旋回前後の車速に応じて土壌状態を推測し、これにより圃場状態を推測してフロート目標角及び制御ゲインを調整するように構成されている。
【0050】
即ち、車体が旋回操作された際に、旋回前後の車速が同程度であれば、当該旋回の前後で土壌の状態は変化しておらず、安定して植え付けを行うことができていると判断できる。また、旋回後に車速が上昇していれば、旋回前よりも土壌状態が良好であり安定して植え付けを行うことができていると判断できる。一方で、旋回後に平均車速が遅くなっている場合、旋回前に比べて土壌状態が悪化(水深が深い、田面や耕盤の乱れが大きい)しており、注意を要する状況であると判断できる。このように、旋回前後の車速変化を見ることにより、土壌の状態を推測することができる。
【0051】
そこで、実施形態の田植機1は、田植機の車速を検出する車速センサと、ステアリングハンドル7の切れ角を検出する切れ角センサと、を有している。車速センサと切れ角センサの検出信号は、制御部に入力される。これにより制御部は、現在の車速と、車体旋回の開始/終了のタイミングと、を取得することができる。
【0052】
制御部は、車体の旋回操作が行われたことを検出すると、旋回開始前の平均車速と、旋回終了後の平均車速と、を演算によって比較するように構成されている。旋回後の平均車速が、旋回前の平均車速の同程度以上であった場合、制御部は、安定して植え付けを行うことができている判断して、制御上の変更(制御ゲインの変更やフロート16の目標角度の変更など)を行わない。
【0053】
一方、旋回後に平均車速が遅くなっている場合、旋回前に比べて土壌状態が悪化(水深が深い、田面や耕盤の乱れが大きい)しており、注意を要する状況であると判断できる。水深が深い場合は、苗の植付けが浅くなるために浮苗が発生し易い。また田面や耕盤の乱れが大きい場合は、フロート16が激しく揺動するために植付部3が不必要に上下に昇降され易く、これにより浮苗などの不具合も発生し易い。従ってこのような場合には、制御上の変更を行って浮苗を防止することが好ましい。
【0054】
そこで制御部は、旋回後の平均車速が旋回前の平均車速未満であった場合、昇降制御の制御ゲインを減少させるとともに、フロート目標角を前上がり(深植え傾向)に変更する。即ち、制御ゲインを減少させることにより、昇降制御が鈍感側にシフトするので、植付部3の上昇速度が低下する。これにより、植付部3の不要な昇降運動を抑えることができる。更に、フロートの目標角を前上がりとして苗を深植え傾向とすることで、植付部3が地面から離れにくくなり、当該植付部3の上昇速度が低下する。このように、植付部3の上昇速度を低下させることにより、植付部3が地面から離れにくくなるので、浮苗を防止することができる。
【0055】
次に、ローリング角情報に基づく昇降制御の調整について説明する。
【0056】
本実施形態の田植機1は、植付部3のローリング(左右の傾き)挙動に応じて、植付部3の上昇速度を調整するように構成されている。即ち、植付部3が激しいローリング挙動を示している場合は、浮苗などの植付けトラブルが発生し易くなる。従ってこのような場合には、浮苗の発生を防止するように制御上の変更を行うことが好ましい。
【0057】
本実施形態の田植機1は、植付部3のローリング挙動を検出するために、傾斜センサと、角速度センサとを備えている。傾斜センサは、植付部3のローリング(左右の傾き)角を検出するように構成されている。また、角速度センサは、植付部3が左右に傾く速度(ローリング角速度)を検出するように構成されている。傾斜センサ及び角速度センサの検出値は、制御部に出力される。
【0058】
傾斜センサが検出したローリング角の絶対値が大きい場合(即ち、植付部3が左右に大きく傾いている場合)、浮苗が発生する可能性が高い。そこで制御部は、傾斜センサが検出したローリング角が所定の許容範囲を超えている場合には、制御ゲインを減少させて、昇降制御の感度を鈍感側にシフトさせる。これにより、植付部3の上昇速度が低下するので、植付部3が地面から離れにくくなり、浮苗を防止することができる。
【0059】
また、角速度センサが検出したローリング角速度の絶対値が大きい場合(即ち、植付部3が左右に傾く速度が速い場合)、植付部3の昇降制御が追いつかなくなるので、浮苗になる可能性が高い。そこで制御部は、角速度センサが検出したローリング角速度が所定の許容範囲を超えている場合には、制御ゲインを減少させて、昇降制御の感度を鈍感側にシフトさせる。これにより、植付部3の上昇速度が低下するので、植付部3が地面から離れにくくなり、浮苗を防止することができる。
【0060】
また、圃場の耕作盤の凹凸が激しい状態では、浮苗になる可能性が高い。耕盤の凹凸が激しい場合は、機体の左右傾きの変動周期が速くなり、この結果、角速度センサが出力するローリング角速度の変動が大きくなる。そこで制御部は、角速度センサが出力したローリング角速度の変動が所定の許容範囲を超えて大きい場合には、制御ゲインを減少させて、昇降制御の感度を鈍感側にシフトさせる。これにより、植付部3上昇速度が低下するので、植付部3が地面から離れにくくなり、浮苗を防止することができる。
【0061】
以上のように、ローリング角、ロリーング角速度、及びローリング角速度の変動(以上をまとめてローリング角情報と呼ぶ)が許容範囲を超えている場合(即ち、植付部3のローリング挙動が許容範囲を超えている場合)には、昇降制御の感度を鈍感側にシフトさせることにより、浮苗を防止することができる。なお、傾斜センサ及び角速度センサは、上記ローリング角情報を取得することができるので、ローリング角情報検出部であると言うことができる。
【0062】
次に、本実施形態の制御部による植付部3の昇降制御の流れを、図3を参照して説明する。
【0063】
制御部は、植付部3の昇降制御処理を開始すると、まずフロートセンサ34が検出するフロート角を取得する(ステップS101)。次に制御部は、取得したフロート角を時間微分して、フロート角の変化速度(フロート角速度)を求める(ステップS102)。
【0064】
そして制御部は、フロート角速度を制御量としたPID制御により、植付部3を昇降させる(ステップS103)。前述のように、フロート角速度を制御量としたPID制御を行うことで、フロート角の変化に対して敏感に反応することが可能になり、植付部昇降制御の応答性を向上させることができる。
【0065】
一方で前述のように、フロート角速度を制御量としたPID制御では、フロート角の検出値と目標値との差(ズレ)が大きくなることがあるので、この差を小さくするように修正する(ステップS104)。
【0066】
続いて制御部は、傾斜センサ、角速度センサの出力に基づいて、ローリング角情報(ローリング角、ロリーング角速度、及びローリング角速度の変動)が所定の許容範囲を超えているか否かを判定する(ステップS105)。そして、ローリング角情報のうち何れか1つ又は複数が許容範囲を超えていた場合、制御部は、制御ゲイン減少させて、制御を鈍感側にシフトする(ステップS106)。これにより、植付部3の上昇速度を低下させて、植付部3を地面から離れにくくすることができるので、車体の傾き等が大きい場合の浮苗を防止することができる。
【0067】
次に制御部は、ステアリングハンドル7の切れ角を検出する切れ角センサを参照して、車体が旋回終了したか否かを判定する。車体が旋回の途中である場合や、そもそも車体が旋回していない場合(直進している場合)は、ステップS110に進む。
【0068】
一方、車体が旋回終了したことを検出した場合に、制御部は、当該旋回の前後で平均車速が減少したか否かを判定する(ステップS108)。旋回前後で平均車速が減少している場合には、土壌状態が悪くなっていると推定できるので、制御ゲインを減少させて、昇降制御の感度を鈍感側にシフトさせるとともに、フロート目標角を前上がり(深植え傾向)に変更(ステップS109)する。これにより、植付部3の上昇速度が低下し、植付部3が地面から離れにくくなるので、浮苗を防止できる。
【0069】
ステップS110では、制御部は、植付作業が継続されているか否かを判定する。植付作業が継続している場合には、ステップS101に戻って、植付部3の昇降制御を継続する。一方、植付作業が終了している場合には、植付部3の昇降制御を継続する必要はないので、フローを終了する。
【0070】
以上で説明したように、本実施形態の田植機1は、植付部3と、フロートセンサ34と、制御部と、を備えている。植付部3は、地面に接触可能なフロート16を備える。フロートセンサ34は、フロート16の揺動角を検出する。制御部は、植付部3を昇降制御する。また制御部は、フロート角加速度に基づいて前記昇降制御を行うとともに、フロートセンサ34が検出したフロート角と、前記フロート角の目標値と、の差をフロートセンサ34の検出値に基づいて修正する。
【0071】
このように、フロート角加速度に基づいて昇降制御を行うことにより、当該昇降制御の応答性を向上させることができる。しかし、応答性を向上させる反面、フロート16の位置が目標値から大きく外れてしまうことがある。そこで、フロートセンサ34の検出結果に基づいてフロート角のズレを補正するように制御を行うことで、植付部3を適切に昇降制御することができる。
【0072】
また本実施形態の田植機1において、制御部は、フロート角速度を制御量としたPID制御により前記昇降制御を行っている。
【0073】
即ち、フロート角速度を制御量としたPID制御において、当該PID制御の微分項は、フロート角加速度に比例した値を示す。このように、フロート角速度を制御量としたPID制御では、フロート角加速度に基づいて昇降制御が行われるので、当該昇降制御の応答性を向上させることができる。
【0074】
また本実施形態の田植機1は、以下のように構成されている。即ち、フロート16は、揺動支軸32を中心として揺動可能に構成される。フロートセンサ34は、フロート16の揺動支軸32まわりの角度を検出するように構成される。そしてフロート16は、揺動支軸32よりも機体後側に向けて伸びる延長部16aを有する。
【0075】
このように、フロート16の後端を揺動支軸32よりも後にのばすことにより、フロート16の余計な揺動を抑制することができる。これにより、フロートセンサ34が検出するフロート16の揺動角が安定するので、当該揺動角に基づいて植付部3を昇降制御する際のハンチングを防止することができる。
【0076】
また本実施形態の田植機1は、走行車速を検出する車速センサと、ステアリングハンドル7の操作量を検出する切れ角センサと、を備える。制御部は、切れ角センサの出力値に基づいて、車体の旋回を検出する。そして旋回前と比較して旋回後の車速が遅くなっている場合、制御部は、植付部3の上昇速度を低下させる。
【0077】
即ち、旋回の前後の車速変化により、土壌条件等の変化を推測できるので、当該車速変化に基づいて制御上の変更を行うことにより、自動的に最適な条件で昇降制御を行うことができる。
【0078】
また本実施形態の田植機1は、植付部3のローリング角情報を検出する傾斜センサ及び角速度センサを有する。制御部は、植付部3のローリング挙動が所定の許容範囲を超えていることを、傾斜センサ又は角速度センサの検出結果に基づいて検出した場合には、植付部3の上昇速度を低下させる。
【0079】
即ち、機体が急激なローリング挙動を示している状態では、浮苗になる可能性が高いので、植付部3の上昇速度を低下させて、当該植付部3が圃場から離れにくくすることにより、浮苗を減少させる。
【0080】
また本実施形態の田植機は、以下のように構成されている。即ち、制御部は、角速度センサが検出したローリング角の変化速度の変動が所定値以上の場合は、植付部3の上昇速度を低下させる。
【0081】
即ち、機体の左右傾きの変動の周波数が大きい状態(左右に傾く速度の変動が大きい状態)では、圃場の凹凸が激しい状態であるため、浮苗になる可能性が高い。そこでこのような場合には、植付部3の上昇速度を低下させて、当該植付部3が圃場から離れにくくすることにより、浮苗を減少させる。
【0082】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0083】
フロートの位置の微分値(フロート角の変化速度)の取得方法は、制御部において時間微分を行う方法に限らない。例えば、フロートの揺動角速度を検出するための角速度センサを設け、当該角速度センサによって、フロートの位置の微分値を直接検出する構成であっても良い。
【0084】
フロート位置検出部はポテンショメータに限らず、フロートの位置を検出することができるセンサであれば適宜の手段を用いることができる。
【0085】
上記実施形態において、植付爪はロータリ式であるとして説明したが、クランク式の植付爪であっても良い。
【0086】
旋回前後の車速度を参照して圃場状態を推測する構成について説明したが、車速の情報に加えて、変速ペダル8の操作量の情報を参照することにより、より高精度に圃場状態を推測することができる。
【0087】
植付部の上昇速度を低下させる方法としては、制御ゲインを減少させる方法に限らない。例えば、上昇のゲインを減少させても良いし、フロートの目標角度を前上がりに変更しても良い。これにより、植付部3が地面から離れにくくなり、上昇速度が低下するので、浮苗を防止することができる。また、下げのゲインを増加させても良い。この場合は、植付部の上昇速度が下降速度に比べて相対的に低下するので、植付部3が地面から離れにくくなり、浮苗を防止することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 田植機
3 植付部
16 フロート
32 揺動支軸
34 フロートセンサ(フロート位置検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に接触可能なフロートを備えた植付部と、
前記フロートの位置を検出するフロート位置検出部と、
前記植付部を昇降制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記フロートの加速度に基づいて前記昇降制御を行うとともに、前記フロート位置検出部が検出した前記フロートの位置と、前記フロートの位置の目標値と、の差を前記フロート位置検出部の検出値に基づいて修正することを特徴とする田植機。
【請求項2】
請求項1に記載の田植機であって、
前記制御部は、前記フロートの速度を入力値としたPID制御により前記昇降制御を行うことを特徴とする田植機。
【請求項3】
揺動支軸を中心として揺動可能に構成されたフロートを備える植付部と、
前記フロートの前記揺動支軸まわりの角度を検出するように構成されたフロート位置検出部と、
前記植付部を昇降制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記フロートの角度に基づいて前記昇降制御を行い、
前記フロートは、前記揺動支軸よりも機体後側に向けて伸びる延長部を有することを特徴とする田植機。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の田植機であって、
走行車速を検出する車速検出部と、
操向操作具の操作量を検出する操向操作検出部と、
を備え、
前記制御部は、前記操向操作検出部の出力値に基づいて、車体の旋回を検出し、
当該制御部は、旋回前と比較して旋回後の車速が遅くなっている場合、前記植付部の昇降制御を鈍感側にシフトさせるか、前記フロート位置の目標値を調整して深植傾向に変更するか、の少なくとも何れか一方の処理を行うことを特徴とする田植機。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の田植機であって、
前記植付部のローリング角に関する情報を検出するローリング角情報検出部を有し、
前記制御部は、前記植付部のローリング挙動が所定の許容範囲を超えていることを前記ローリング角情報検出部の検出結果に基づいて検出した場合は、前記植付部の上昇速度を低下させることを特徴とする田植機。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の田植機であって、
前記植付部のローリング角の変化速度を検出する角速度センサを有し、
前記制御部は、前記角速度センサの出力変動が所定値以上の場合は、前記植付部の上昇速度を低下させることを特徴とする田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−235700(P2012−235700A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104666(P2011−104666)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】