説明

画像データの補正方法、リソグラフィシミュレーション方法、プログラム及びマスク

【課題】画像パターンを少ないデータ量で高速且つ高精度で補正することが可能な画像データの補正方法を提供する。
【解決手段】画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを用意する工程(S12)と、画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する工程(S22)と、補正データを用いて所望パターンの輪郭データを補正する工程(S23)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像データの補正方法及びリソグラフィシミュレーション方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の高集積化及び微細化にともない、フォトマスク上に実際に形成されたマスクパターンからリソグラフィ裕度を高精度で予測することが重要となってきている。
【0003】
実際のマスクの仕上がり形状からリソグラフィ裕度を予測する方法として、特許文献1には、マスクパターン画像をSEMによって取得し、取得画像パターンの輪郭を抽出し、その輪郭データを用いてリソグラフィシミュレーションを行う、という方法が提案されている。
【0004】
マスクパターンの画像は、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像取得装置によって取得することが可能である。しかしながら、画像取得装置には一般に画像歪みが存在するため、微細パターンの画像を忠実に取得することは困難である。例えばSEMでは、スキャンビームの歪みに起因した画像歪みが存在する。歪みを持つ画像から抽出される輪郭データのエッジ位置誤差が、リソグラフィシミュレーション結果に大きく影響を及ぼすことが問題となる。
【0005】
画像歪みを補正する方法としては、特許文献2には、参照パターンの画像データから補正データを予め求めておき、この補正データを用いて目的とするパターンの画像データを補正する、といった方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、従来の方法では、目的とするパターン全体の画像データを補正するため、データ量が膨大となり、補正計算に多大な時間を要するといった問題が生じる。したがって、従来は、画像パターンを少ないデータ量で高速且つ高精度で補正することが困難であった。
【特許文献1】特開2004−37579号公報
【特許文献2】特許第2687781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、画像パターンを少ないデータ量で高速且つ高精度で補正することが可能な画像データの補正方法及びリソグラフィシミュレーション方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る画像データの補正方法は、画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを用意する工程と、前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する工程と、前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する工程と、を備える。
【0009】
本発明に係るリソグラフィシミュレーション方法は、画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを用意する工程と、前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する工程と、前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する工程と、前記所望パターンに対するリソグラフィシミュレーションを前記補正された輪郭データを用いて行う工程と、を備える。
【0010】
本発明に係るプログラムは、画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを取得する手順と、前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する手順と、前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する手順と、をコンピュータに実行させるものである。
【0011】
本発明に係るマスクは、所望パターンと、画像取得部によって得られた前記所望パターンの輪郭データを補正するための補正データを算出するために用いるテストパターンと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、輪郭データに対して補正を行うことにより、所望パターンの画像歪みを少ないデータ量で高速且つ高精度で補正することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0014】
(実施形態1)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る画像データの補正システムの構成を説明するための説明図である。
【0015】
画像取得部(画像取得装置)10は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって構成されている。画像取得部10では、電子線供給部11からの電子線を、ステージ12上に載置されたフォトマスク13に照射し、フォトマスク13の表面で反射した電子線を検出部14で検出することで、フォトマスク13に形成されたパターンの画像を取得する。検出された画像情報は、信号増幅部15を介してコンピュータ20に供給される。
【0016】
コンピュータ20には、コンピュータ20に指示を与えるための操作部21(キーボード等)、及び画像取得部10で取得された画像等を表示する画像表示部22(CRT等)が接続されている。
【0017】
画像データ記憶部31は、画像取得部10で取得された画像の画像データを記憶するものである。LSI等の半導体装置を形成する際に実際に用いるフォトマスク13が、ステージ12上に載置されている場合には、フォトマスク13に形成された配線パターンやコンタクトホールパターン等のデバイスパターン(所望パターン)の画像データが画像データ記憶部31に記憶される。また、補正データ作成用の基準パターンが形成されたフォトマスク13が、ステージ12上に載置されている場合には、基準パターンの画像データが画像データ記憶部31に記憶される。
【0018】
輪郭データ記憶部32は、上述したデバイスパターンの輪郭データを記憶するものである。輪郭データは、画像データ記憶部31に記憶された画像データに所定の処理を施すことによって抽出される。
【0019】
補正データ記憶部33は、画像取得部10によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを記憶するものである。補正データは、上述した基準パターンの画像データを用いて後述する処理を行うことによって作成される。
【0020】
補正済み輪郭データ記憶部34は、画像歪みが補正された輪郭データを記憶するものである。補正データ記憶部33に記憶された補正データを用いて、輪郭データ記憶部32に記憶された輪郭データを補正することで、画像歪みが補正された補正済み輪郭データが得られる。
【0021】
リソグラフィ条件記憶部35は、フォトマスク上に形成されたデバイスパターンを半導体ウエハ上のフォトレジストに転写してフォトレジストパターンを形成する際のリソグラフィ条件のデータを記憶するものである。
【0022】
シミュレーションデータ記憶部36は、補正済み輪郭データ記憶部34に記憶された補正済み輪郭データと、リソグラフィ条件記憶部35に記憶されたリソグラフィ条件のデータとを用いて行われるリソグラフィシミュレーションの結果を記憶するものである。リソグラフィシミュレーションによって得られるシミュレーション結果には、上述したフォトレジストパターンを形成する際のリソグラフィ裕度の予測結果等が含まれる。
【0023】
なお、上述した各種データの作成処理やリソグラフィシミュレーション等は、コンピュータ20によって実行される。
【0024】
次に、図1に示したシステムを用いて行われる処理について、図2に示したフローチャート等を参照して説明する。
【0025】
まず、基準パターンが形成されたフォトマスクを画像取得部10内のステージ12上に載置し、基準パターンの画像データを取得する(S11)。画像取得条件は、加速電圧1500V、試料電流8pA、画素数2048×2048、倍率20000倍とする。基準パターンには、図3に示すように、ライン幅及びスペース幅が一定のラインアンドスペース(L/S)パターンを用いる。画像取得部10で取得された基準パターンの画像データはコンピュータ20に送られ、輪郭データ(エッジデータ)が算出される。
【0026】
続いて、得られた輪郭データから、ラインアンドスペースパターンの1ピッチに含まれる画素数を算出する。フォトマスク上のL/Sなどの周期的パターンは、ライン幅(Wl)及びスペース幅(Ws)が場所により寸法のばらつきがある場合でも、ラインアンドスペースパターンの1ピッチは比較的高精度に一定に仕上がっている。そのため、画像取得部10で得られた画像に歪みがなければ、ラインアンドスペースパターンの1ピッチ(1ピッチの幅はWl+Ws)に含まれる画素数も、場所によらず一定であると考える。しかしながら、実際の画像取得部10には必ず画像歪みが存在するため、ラインアンドスペースパターンの1ピッチに含まれる画素数は、場所に応じて変化する。したがって、1ピッチに含まれる画素数の面内分布を求めることで、画素サイズの面内分布を求めることができる。本実施形態では、以下の2次曲面近似式(1)によって、画素サイズの面内分布を表わしている。
【0027】
Psx=Ax+Bx・X+Cx・Y+Dx・X2 +Ex・X・Y+Fx・Y2
Psy=Ay+By・X+Cy・Y+Dy・X2 +Ey・X・Y+Fy・Y2 (1)
ただし、Psxは座標(X、Y)におけるX方向の画素サイズ、Psyは座標(X、Y)におけるY方向の画素サイズであり、Ax、Bx、Cx、Dx、Ex、Fx、Ay、By、Cy、Dy、Ey及びFyは係数である。
【0028】
本実施形態では、上記のようにして求められた測定結果から、図4に示すような係数が得られる。また、上記2次曲面近似式に基づく画素サイズの面内分布は、図5のようになる。なお、図5(a)において、領域A1はX方向の画素サイズが1.02から1.03の範囲にある画素の分布領域、領域A2はX方向の画素サイズが1.01から1.02の範囲にある画素の分布領域、領域A3はX方向の画素サイズが1.00から1.01の範囲にある画素の分布領域、領域A4はX方向の画素サイズが0.99から1.00の範囲にある画素の分布領域を示している。図5(b)において、領域B1はY方向の画素サイズが0.89から0.90の範囲にある画素の分布領域、領域B2はY方向の画素サイズが0.88から0.89の範囲にある画素の分布領域、領域B3はY方向の画素サイズが0.87から0.88の範囲にある画素の分布領域を示している。
【0029】
このようにして、画像取得部10で得られた画像の歪みを補正するための補正データが算出される(S12)。算出された補正データは補正データ記憶部33に記憶される。
【0030】
次に、LSI等の半導体装置を形成する際に用いるデバイスパターンの輪郭データを用いてリソグラフィシミュレーションを行う工程について説明する。
【0031】
まず、配線パターンやコンタクトホールパターン等のデバイスパターンが形成されたフォトマスクを画像取得部10内のステージ12上に載置し、デバイスパターンの画像データを取得する(S21)。画像取得条件は、加速電圧1500V、試料電流8pA、画素数2048×2048、倍率20000倍とする。ここでは、図6に示すようなデバイスパターンがフォトマスク上に形成されているものとする。
【0032】
画像取得部10で取得されたデバイスパターンの画像データはコンピュータ20に送られ、輪郭データ(エッジデータ)が抽出される(S22)。輪郭の抽出にはしきい値法を用い、しきい値は例えば50%とする。また、輪郭抽出の結果出力されるXY座標の数は36000箇所とする。得られた輪郭データは、輪郭データ記憶部32に送られる。
【0033】
次に、補正データ記憶部33に記憶されている補正データを用いて輪郭データを補正する(S23)。これにより、画像取得部10に起因した画像歪みが補正された輪郭データが得られる。具体的には、輪郭データ記憶部32に記憶されている輪郭データを補正データを用いて再配列することにより、補正済み輪郭データが得られる。補正済み輪郭データは補正済み輪郭データ記憶部34に記憶される。
【0034】
本実施形態では、パターンの輪郭(エッジ)を抽出して、抽出された輪郭に対して補正を行う。そのため、補正処理に費やされる計算時間を大幅に短縮することができるとともに、補正結果を記憶するための記憶容量を大幅に削減することができる。本実施形態では、全画素数が2048×2048である。そのため、仮にパターン全体の画素について補正を行うとすると、X方向及びY方向でそれぞれ2048×2048回の補正計算が必要である。これに対して、本実施形態のように輪郭に対して補正を行う場合には、輪郭を抽出した箇所についてのみ補正を行えばよい。そのため、X方向及びY方向でそれぞれ36000回の補正計算を行えばよい。また、輪郭を抽出した箇所についてのみデータを記憶すればよいため、データ保存のための記憶容量も大幅に低減される。
【0035】
次に、上記のようにして得られた補正済み輪郭データを用いて、リソグラフィシミュレーションを行う(S24)。
【0036】
図7は、シミュレーションによって得られた像強度のプロファイルを示したものである。ラインaは輪郭補正を行わない場合の像強度、ラインbはXY倍率補正を行った場合の像強度、ラインcは輪郭補正を行った場合(本実施形態の方法)の像強度、ラインdはマスク設計データを用いた場合(画像歪みがないと仮定した場合に対応)の像強度である。なお、P1〜P7は図6に示したパターンの位置を示している。
【0037】
図8は、図7に示した各ラインのピーク値における強度差を示したものである。図8に示したラインa、b及びcはそれぞれ、図7に示したラインaとラインdとの強度差、ラインbとラインdとの強度差、ラインcとラインdとの強度差に対応している。
【0038】
図7及び図8からわかるように、輪郭補正を行わない場合(図7及び図8のラインa)及びXY倍率補正を行った場合(図7及び図8のラインb)では、マスク設計データを用いた場合に対する像強度差が大きくなっている。特に、画像の外側ほど像強度差が増大している。これは、画像取得部10で生じる画像歪みの影響により、輪郭位置に誤差が生じているためである。
【0039】
一方、本実施形態の方法によって輪郭補正を行った場合(図7及び図8のラインc)には、マスク設計データを用いた場合に対する像強度差が小さくなっている。また、画像位置によらず像強度差はほぼ一定となっている。これは、本実施形態の方法によって輪郭補正を行った場合には、画像歪みの影響が大幅に低減され、輪郭位置の誤差が非常に小さくなるためである。したがって、本実施形態の方法によって輪郭補正を行ったデータを用いてリソグラフィシミュレーションを行うことにより、リソグラフィ裕度を精度よく予測することが可能である。
【0040】
なお、上述した本実施形態の方法の少なくとも一部は、上述した方法の手順をコンピュータによって実行することが可能なプログラムによって提供することが可能である。
【0041】
以上述べたように、本実施形態によれば、画像取得部によって得られたパターンの輪郭を抽出し、抽出された輪郭に対して画像歪みを補正するための補正処理を行う。そのため、補正処理に必要なデータ量を大幅に低減することができる。その結果、計算時間を大幅に短縮できるとともに、データ記憶容量を大幅に削減することが可能となる。また、データ量を大幅に削減しても画像歪みを精度よく補正することができ、高精度でパターンを取得することが可能となる。
【0042】
なお、上述した実施形態では、画像取得部の倍率と画像歪みとの関係については特に言及しなかったが、以下に述べるように、倍率と画像歪みとの関係を考慮して画像歪みの補正を行うようにしてもよい。
【0043】
走査型電子顕微鏡等の画像取得部では、倍率が変われば画像歪みの状態も変化する。図9は、倍率10000倍(10k倍)の場合の画素サイズの分布を示したものである。図9(a)はX方向の画素サイズの分布、図9(b)はY方向の画素サイズの分布である。図5の場合(倍率20000倍(20k倍))と比べると、画素サイズの分布が変化していることがわかる。
【0044】
このように、画像取得部の倍率が変われば画像歪みの状態も変化するため、先に述べた2次曲面近似式の係数も倍率に依存して変化する。図10は、倍率と係数Ax、Bx、Cx、Dx、Ex、Fx、Ay、By、Cy、Dy、Ey及びFyとの関係を示した図である。図10に示したような関係を補正テーブルとして記憶することで、倍率に応じた適正な補正を行うことが可能となる。
【0045】
また、上述した実施形態は、画像取得部で取得される画像に含まれるパターンの占有率と画像歪みとの関係については特に言及しなかったが、以下に述べるように、パターン占有率と画像歪みとの関係を考慮して画像歪みの補正を行うようにしてもよい。
【0046】
例えば、図11に示すようなパターンと図6に示したパターンとでは、パターン占有率(フォトマスク上のパターン被覆率)が異なっている。パターン被覆率が異なると、画像取得部(電子顕微鏡)で画像を取得する際のフォトマスクの表面電位が異なる。そのため、画像歪みの状態が変化するおそれがある。
【0047】
このように、パターン被覆率が変われば画像歪みの状態も変化するため、先に述べた2次曲面近似式の係数もパターン被覆率に依存して変化する。そこで、倍率の場合と同様に、パターン被覆率と係数との関係を補正テーブルとして記憶することで、パターン被覆率(パターン占有率)に応じた適正な補正を行うことが可能となる。
【0048】
その他に、パターン観察時のフォーカス位置によって画像歪みの状態が変化することも考えられる。この場合も、フォーカス位置に応じた補正テーブルを用意し、所望パターン観察時のフォーカス位置に応じた補正を行えばよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、測定対象としてフォトマスクを例に説明したが、EUV露光用マスクやEB露光用マスクを用いた場合にも、上述した実施形態と同様の方法を適用することが可能である。また、上述した実施形態では、画像取得部(画像取得装置)として走査型電子顕微鏡を用いたが、走査型電子顕微鏡以外の画像取得装置を用いることも可能である。
【0050】
(実施形態2)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、基本的なシステム構成(図1参照)や基本的な方法は、第1の実施形態と同様である。したがって、特に断らない限り、第1の実施形態で述べた事項は本実施形態においても適用可能である。
【0051】
図12は、本実施形態の方法を示したフローチャートである。
【0052】
まず、基準パターンが形成されたフォトマスクを用意し、画像取得部(SEM等)によって基準パターンの画像測定を行う。その測定結果は、基準画像測定結果としてデータ格納部に格納される。また、測定結果から基準画像歪み係数を算出し、データ格納部に格納する(S51)。基準画像歪み係数には、例えば、第1の実施形態の式(1)に示された係数Ax、Bx、Cx、Dx、Ex、Fx、Ay、By、Cy、Dy、Ey及びFyが含まれる。
【0053】
次に、デバイスパターン(所望パターン)及びテストパターンが形成されたフォトマスクを用意し、画像取得部によってテストパターンの画像測定を行う(S52)。
【0054】
例えば、フォトマスク上に形成されたデバイスパターンの被覆率(占有率)が異なると、画像取得部(SEM)で画像を取得する際のフォトマスクの表面電位も異なる。そのため、画像歪みの状態が変化するおそれがある。また、フォトマスク基板の厚さには一般的にばらつきがある。そのため、フォーカス位置がずれて倍率誤差が生じ、画像歪みの状態が変化するおそれがある。このように、画像取得部で取得した画像には、フォトマスクに起因した歪みが含まれる場合がある。そこで、本実施形態では、デバイスパターンが形成されたフォトマスク上にテストパターンを形成し、このテストパターンを用いて、フォトマスクに起因した歪みを補正する。
【0055】
図13は、デバイスパターン及びテストパターンが形成されたフォトマスクを模式的に示した図である。フォトマスク50の露光領域51にデバイスパターン53が形成され、フォトマスク50の非露光領域52にテストパターン部54及びアライメントマーク55等が形成されている。
【0056】
図14及び図15はそれぞれ、テストパターン部54に配置されるテストパターンの一例を示した図である。図14に示したテストパターンは、基準画像歪み係数を求める際に用いるパターンと同じパターンであり、主としてデバイスパターン53の倍率誤差を補正するために用いる。図15示したテストパターンは、主としてデバイスパターン53の被覆率に基づく誤差を補正するために用いる。図14及び図15に示したテストパターンのいずれか一方がテストパターン部54上に形成されていてもよいし、両方がテストパターン部54上に形成されていてもよい。図16は図14に示したテストパターンの歪み測定結果を示した図であり、図17は図15に示したテストパターンの歪み測定結果を示した図である。実線は測定結果に基づく格子を、破線は設計データに基づく格子を示している。
【0057】
図15示したテストパターンは、デバイスパターン53の所定領域における被覆率(遮光部の比率)と同等の被覆率を有していることが望ましい。上記所定領域は、デバイスパターン53が形成されている領域全体であってもよいし、画像取得部の観察領域に対応した領域であってもよい。この場合、テストパターン部54のパターンは、デバイスパターン53のパターンと実質的に同じパターンであることが望ましい。ただし、デバイスパターン53には通常、光近接効果補正(OPC)が施されている。OPCが施されたパターンは、一般に複雑な形状を有している。そのため、テストパターン部54にもOPCが施されたパターンを用いると、画像歪み計測が複雑になる。したがって、テストパターン部54には、OPCが施されていないパターンを用いることが望ましい。デバイスパターン53の中の画像取得箇所は、マスクパターン設計時にはすでに決められているので、それぞれの画像取得箇所の被覆率に応じたテストパターンを複数配置することができる。
【0058】
上述したようなテストパターン部54を用いてテストパターンの画像測定を行った後、テストパターン画像測定結果を、データ格納部に記憶されている基準画像測定結果と比較する(S53)。さらに、比較結果が所定の条件を満たしているか否かを判断する(S54)。例えば、テストパターン画像測定結果の基準画像測定結果に対する誤差が、所定の範囲内であるか否かを判断する。
【0059】
例えば、図14に示したテストパターンを用いた場合を想定する。この場合には、図14に示したパターンと同じパターンが基準パターンとして形成されたフォトマスク(図13のフォトマスクとは別の基準パターン画像取得用のフォトマスク)を用いて、画像取得部により予め基準パターンの画像を測定しておく。この測定結果が、S51のステップの基準画像測定結果として、データ格納部に記憶されている。画像取得部によって取得された基準パターンの画像にも、画像歪みは含まれている。この歪みに基づく誤差(設計データに対する誤差)は、式(2)によって表される。
【0060】
Ex(j)=Mx×X(j)−(Rot+Skew)×Y(j)
Ey(j)=My×Y(j)+Rot×X(j) (2)
Ex(j)及びEy(j)はそれぞれ、j点におけるX方向及びY方向の誤差である。X(j)及びY(j)はそれぞれ、j点のX方向及びY方向の位置を示している。Mx及びMyはそれぞれ、倍率に関するX方向及びY方向の誤差成分である。Rot及びSkewはそれぞれ、回転及びスキューに関する誤差成分である。
【0061】
同時に、第1の実施形態で述べたS11〜S12のステップで求められる画素サイズの面内分布を補正するための補正係数も、基準画像歪み係数として、データ格納部に格納されている。
【0062】
テストパターン部54が形成されたフォトマスク(図13のフォトマスク)についても、上述したのと同様にして、設計データに対する誤差Ex(j)'及びEy(j)'を求め、誤差成分Mx'、My'、Rot'及びSkew'を取得する。
【0063】
S54のステップで、所定の条件を満たしていると判断された場合には、S61〜S64のステップを実行する。S61〜S64のステップで行われる基本的な処理は、第1の実施形態のS21〜S24で述べた処理と同様である。すなわち、フォトマスク50上に形成されたデバイスパターン53の画像を画像取得部によって取得する(S61)。続いて、取得された画像から、輪郭データ(エッジデータ)を抽出する(S62)。さらに、データ格納部に記憶されている基準画像歪み係数(補正データ)を用いて、輪郭データを補正する(S63)。このようにして得られた補正済み輪郭データを用いて、リソグラフィシミュレーションを行う(S64)。
【0064】
S54のステップで、所定の条件を満たしていないと判断された場合には、S71〜S75のステップを実行する。S71〜S75のステップで行われる基本的な処理も、第1の実施形態のS21〜S24で述べた処理と同様である。ただし、S71〜S75のステップでは、テストパターン画像測定結果を反映させた補正を行う。
【0065】
まず、テストパターン画像測定結果に基づいて歪み補正係数を算出する(S71)。ここでは、上述したように、S52のステップで取得した倍率に関する誤差成分Mx'及びMy'がS54のステップで所定の条件を満たしていなかったため、倍率補正に関してテストパターン部54の歪計測パターン画像測定結果を反映させる場合について説明する。この場合には、第1の実施形態の式(1)は
Psx'=(1+Mx')×Psx
Psy'=(1+My')×Psy (3)
と表される。すなわち、式(1)の係数Ax、Bx、Cx、Dx、Ex及びFxは(1+Mx')倍され、係数Ay、By、Cy、Dy、Ey及びFyは(1+My')倍される。これらの(1+Mx')倍或いは(1+My')倍された係数が、歪み補正係数となる。
【0066】
このようにして歪み補正係数を算出した後、フォトマスク50上に形成されたデバイスパターン53の画像を画像取得部によって取得する(S72)。続いて、取得された画像から、輪郭データ(エッジデータ)を抽出する(S73)。さらに、S71のステップで算出された歪み補正係数(補正データ)を用いて、輪郭データを補正する(S74)。このようにして得られた補正済み輪郭データを用いて、リソグラフィシミュレーションを行う(S75)。
【0067】
デバイスパターン53の被覆率に基づく誤差を補正する場合には、S71のステップで、画像取得部と同等の被覆率を持つ図15に示した歪計測パターンの歪み測定結果(図17)を反映させればよい。
【0068】
以上述べたように、本実施形態においても第1の実施形態と同様、画像取得部によって得られたパターンの輪郭を抽出し、抽出された輪郭に対して画像歪みを補正するための補正処理を行う。そのため、第1の実施形態と同様、補正処理に必要なデータ量を大幅に低減することができる。その結果、計算時間を大幅に短縮できるとともに、データ記憶容量を大幅に削減することが可能となる。また、データ量を大幅に削減しても画像歪みを精度よく補正することができ、高精度でパターンを取得することが可能となる。
【0069】
また、本実施形態では、デバイスパターンが配置されたフォトマスクにテストパターンが配置されている。そのため、フォトマスクに起因した歪みを考慮した補正を行うことができ、より高精度でパターンを取得することが可能となる。
【0070】
図18は、上述した第1及び第2の実施形態で示したフォトマスクを用いた半導体装置(半導体集積回路)の製造方法の概略を示したフローチャートである。まず、フォトマスクを用意し(S101)、フォトマスク上のマスクパターン(デバイスパターン)をウェハ(半導体基板)上のフォトレジストに投影する(S102)。続いて、フォトレジストを現像することでフォトレジストパターンが形成される(S103)。さらに、フォトレジストパターンをマスクとして半導体基板上の導電膜や絶縁膜等をエッチングすることで、所望のパターンが形成される(S104)。
【0071】
また、上述した第1及び第2の実施形態の方法の手順は、該方法の手順が記述されたプログラムによって動作が制御されるコンピュータによって、実現することが可能である。上記プログラムは、磁気ディスク等の記録媒体或いはインターネット等の通信回線(有線回線或いは無線回線)によって提供することが可能である。
【0072】
以上まとめると、本発明の実施形態に係る画像データの補正方法は、画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを用意する工程と、前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する工程と、前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する工程と、を備える。
【0073】
前記画像データの補正方法において、前記補正データを用意する工程は、前記画像取得部によって基準パターンの画像データを取得する工程と、前記基準パターンの画像データを用いて前記補正データを算出する工程と、を含む。
【0074】
前記画像データの補正方法において、前記補正データは、前記画像取得部によって得られる画像の歪みの分布に基づくものである。
【0075】
前記画像データの補正方法において、前記補正データは、前記画像取得部によって得られる画像の倍率に依存したものである。
【0076】
前記画像データの補正方法において、前記補正データは、前記画像取得部によって得られる画像に含まれるパターンの占有率に依存したものである。
【0077】
前記画像データの補正方法において、前記補正データを用意する工程は、前記所望パターンが配置されたマスクに配置されたテストパターンの画像データを前記画像取得部によって取得する工程と、前記テストパターンの画像データを用いて前記補正データを算出する工程と、を含む。
【0078】
前記画像データの補正方法において、前記テストパターンは、前記所望パターンが配置された露光領域の外側の非露光領域に配置されている。
【0079】
前記画像データの補正方法において、前記テストパターンは、前記画像取得部によって取得された前記所望パターンの倍率誤差を補正するために用いられる。
【0080】
前記画像データの補正方法において、前記テストパターンは、前記所望パターンの占有率に対応した占有率を有する。
【0081】
前記画像データの補正方法において、前記画像取得部によって取得されたテストパターンの画像データが所定の条件を満たしていない場合に、前記テストパターンの画像データを用いて前記補正データが算出される。
【0082】
前記画像データの補正方法において、前記画像取得部は、電子顕微鏡を含む。
【0083】
本発明の実施形態に係るリソグラフィシミュレーション方法は、画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを用意する工程と、前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する工程と、前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する工程と、前記所望パターンに対するリソグラフィシミュレーションを前記補正された輪郭データを用いて行う工程と、を備える。
【0084】
本発明の実施形態に係る画像データの補正システムは、画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを記憶する補正データ記憶部と、前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを記憶する輪郭データ記憶部と、前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する補正部と、を備える。
【0085】
本発明の実施形態に係るプログラムは、画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを取得する手順と、前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する手順と、前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する手順と、をコンピュータに実行させる。
【0086】
本発明の実施形態に係るマスクは、所望パターンと、画像取得部によって得られた前記所望パターンの輪郭データを補正するための補正データを算出するために用いるテストパターンと、を備える。
【0087】
前記マスクにおいて、前記テストパターンは、前記所望パターンが配置された露光領域の外側の非露光領域に配置されている。
【0088】
本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法は、前記マスクを用意する工程と、前記マスクに配置された前記所望パターンを半導体基板上のレジスト膜に投影する工程と、を備える。
【0089】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示された構成要件を適宜組み合わせることによって種々の発明が抽出され得る。例えば、開示された構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、所定の効果が得られるものであれば発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る画像データの補正システムの構成を説明するための説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る画像データの補正方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係り、基準パターンの一例を示した図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係り、補正データとして利用する近似式の係数の一例を示した図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係り、画素サイズの面内分布の一例を示した図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係り、デバイスパターンの一例を示した図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係り、シミュレーションによって得られた像強度のプロファイルの一例を示した図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係り、像強度のプロファイルから求められた強度差の一例示した図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係り、画素サイズの面内分布の他の例を示した図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係り、補正データとして利用する近似式の係数の他の例を示した図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係り、デバイスパターンの他の例を示した図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る画像データの補正方法を説明するためのフローチャートである。
【図13】本発明の第2の実施形態に係り、フォトマスクの一例を示した図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係り、テストパターンの一例を示した図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係り、テストパターンの他の例を示した図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係り、テストパターンの測定結果を示した図である。
【図17】本発明の第2の実施形態に係り、テストパターンの測定結果を示した図である。
【図18】本発明の実施形態に係り、半導体装置の製造方法について示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0091】
10…画像取得部 11…電子線供給部
12…ステージ 13…フォトマスク
14…検出部 15…信号増幅部
20…コンピュータ 21…操作部 22…画像表示部
31…画像データ記憶部 32…輪郭データ記憶部
33…補正データ記憶部 34…補正済み輪郭データ記憶部
35…リソグラフィ条件記憶部 36…シミュレーションデータ記憶部
50…フォトマスク 51…露光領域
52…非露光領域 53…デバイスパターン
54…テストパターン 55…アライメントマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを用意する工程と、
前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する工程と、
前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する工程と、
を備えたことを特徴とする画像データの補正方法。
【請求項2】
前記補正データを用意する工程は、前記所望パターンが配置されたマスクに配置されたテストパターンの画像データを前記画像取得部によって取得する工程と、前記テストパターンの画像データを用いて前記補正データを算出する工程と、を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の画像データの補正方法。
【請求項3】
画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを用意する工程と、
前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する工程と、
前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する工程と、
前記所望パターンに対するリソグラフィシミュレーションを前記補正された輪郭データを用いて行う工程と、
を備えたことを特徴とするリソグラフィシミュレーション方法。
【請求項4】
画像取得部によって得られる画像の歪みを補正するための補正データを取得する手順と、
前記画像取得部によって得られた所望パターンの輪郭データを取得する手順と、
前記補正データを用いて前記所望パターンの輪郭データを補正する手順と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項5】
所望パターンと、
画像取得部によって得られた前記所望パターンの輪郭データを補正するための補正データを算出するために用いるテストパターンと、
を備えたことを特徴とするマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−14292(P2006−14292A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151063(P2005−151063)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】