説明

画像処理装置及び画像処理プログラム

【課題】電子写真方式の印刷装置により印刷される画像の画質劣化を抑制する。
【解決手段】印刷対象の画像を構成する画素の画素値に乱数を加算する乱数加算処理を行い(S304)、乱数加算処理が行われた後の画像に対してディザマトリクスを用いた二値化処理を行う(S305)。このように乱数加算処理を行うことで、同一色又は類似色からなる画像であっても濃度が変動することとなり、バンディングによる濃度変動を相殺する効果が得られるため、印刷画像のバンディングを目立ちにくくすることができる。しかも、ディザマトリクスを用いた二値化処理を行う前の画像に対して乱数加算処理を行うため、印刷画像におけるドットの配置はディザマトリクスに基づく規則的なものとなり、孤立ドットの欠落や孤立した空白部分のつぶれを抑制することができる。したがって、電子写真方式の印刷装置により印刷される画像の画質劣化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディザマトリクスを用いた二値化処理を行う画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二値画像データの表す画像をトナーで形成する電子写真方式の印刷装置では、印刷された画像に、画質劣化の要因となる横スジ(いわゆるバンディング)が発生することがある。なお、電子写真方式の印刷装置によって印刷される画像の画質劣化を抑制する技術としては、印刷対象の画像を表す画像データを印刷装置で表現可能な階調に変換(n値化)した後に、乱数に基づくノイズを加算することで、印刷画像に発生するテクスチャを低減する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−230743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電子写真方式の印刷装置では、トナーで形成する二値画像データの表す画像において、ドットが孤立していたり、逆に、空白部分(ドットがない部分)が孤立していたりすると、印刷時におけるトナーの飛び散り等の影響で、ドットの欠落や空白部分のつぶれが発生することがある。このような問題は、ドットや空白部分が孤立しにくいパターンのディザマトリクスを用いて二値化処理を行うことにより抑制することが可能であるが、前述した特許文献1に記載の技術では、ノイズの加算により孤立ドットや孤立した空白部分が生じやすくなる。このため、ドットの欠落や空白部分のつぶれが要因となって印刷画像の画質が劣化してしまうことが考えられる。
【0005】
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、電子写真方式の印刷装置により印刷される画像の画質劣化を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は上記目的を達成する構成を開示する。第1の構成の画像処理装置は、印刷対象の画像を構成する画素の画素値に乱数を加算する乱数加算処理を行う加算手段と、乱数加算処理が行われた後の画像に対してディザマトリクスを用いた二値化処理を行う二値化手段とを備える。
【0007】
このような画像処理装置によれば、印刷対象の画像に対して乱数加算処理を行うことで、同一色又は類似色からなる画像であっても濃度が変動することとなり、バンディングによる濃度変動を相殺する効果が得られるため、印刷画像のバンディングを目立ちにくくすることができる。しかも、ディザマトリクスを用いた二値化処理を行う前の画像に対して乱数加算処理を行うため、印刷画像におけるドットの配置はディザマトリクスに基づく規則的なものとなり、孤立ドットの欠落や孤立した空白部分のつぶれを抑制することができる。したがって、電子写真方式の印刷装置により印刷される画像の画質劣化を抑制することができる。
【0008】
また例えば、前述した第1の構成を前提とする第2の構成の画像処理装置は、画像における塗りつぶし領域を特定する特定手段を更に備え、加算手段は、画像を構成する画素のうち、塗りつぶし領域に含まれる画素を対象として乱数加算処理を行う。
【0009】
このような画像処理装置によれば、印刷画像のバンディングが目立ちやすい領域である塗りつぶし領域に含まれる画素を対象として乱数加算処理を行うため、バンディングが目立ちにくい領域の画素に乱数加算処理を行うことによる画質の劣化を抑制することができる。
【0010】
また例えば、前述した第2の構成を前提とする第3の構成の画像処理装置は、画像から検出されるエッジに基づきその画像を複数の像域に分離する分離手段を更に備え、特定手段は、複数の像域のうち、少なくともすべての画素の濃度が所定濃度幅に収まる像域を塗りつぶし領域として特定する。このような画像処理装置によれば、塗りつぶし領域を比較的簡素な処理で特定することができる。
【0011】
また例えば、前述した第1〜第3の構成のいずれかを前提とする第4の構成の画像処理装置は、印刷用のトナーを用いて濃度パッチを形成する形成手段と、濃度パッチの濃度を測定する測定手段と、測定手段により測定された濃度に基づいて、乱数加算処理で加算される乱数の振り幅を決定する決定手段とを更に備える。このような画像処理装置によれば、画像の印刷条件に応じて乱数の振り幅を決定することができる。
【0012】
また例えば、前述した第4の構成を前提とする第5の構成の画像処理装置では、測定手段は、同一の濃度パッチにおける複数箇所の濃度を測定し、決定手段は、同一の濃度パッチの測定濃度の最大値と最小値との差に基づき乱数の振り幅を決定する。このような画像処理装置によれば、実際に発生し得るバンディングの程度に応じて乱数の振り幅を決定することができる。
【0013】
また例えば、前述した第5の構成を前提とする第6の構成の画像処理装置では、決定手段は、同一の濃度パッチの測定濃度の最大値と最小値との差に比例するように乱数の振り幅を決定する。このような画像処理装置によれば、発生し得るバンディングの程度が大きいほど乱数の振り幅を大きくすることで、発生し得るバンディングの程度に応じて乱数を適切に加算することができる。
【0014】
また例えば、前述した第4〜第6の構成のいずれかを前提とする第7の構成の画像処理装置では、形成手段は、濃度の異なる複数の濃度パッチを形成し、決定手段は、複数の濃度パッチのそれぞれについて乱数の振り幅を決定し、加算手段は、決定手段により決定された乱数の振り幅のうち、乱数加算処理の対象となる画素の濃度に応じた乱数の振り幅で乱数加算処理を行う。このような画像処理装置によれば、乱数加算処理の対象となる画素の濃度に応じて乱数を適切に加算することができる。
【0015】
また例えば、前述した第1〜第7の構成のいずれかを前提とする第8の構成の画像処理装置は、画像を構成する画素の画素値を印刷用の複数色のトナーの色値で表された画素値に変換する色変換処理を行う色変換手段を更に備え、加算手段は、色変換処理が行われた後の画素値である各色値に乱数を加算する。このような画像処理装置によれば、色変換処理が行われた後の画素値に乱数を加算するため、色変換処理が行われる前の画素値に乱数を加算する場合と比較して、バンディングの発生度合いに適した乱数を加算することが可能となる。
【0016】
次に、第9の構成の画像処理プログラムは、印刷対象の画像を構成する画素の画素値に乱数を加算する乱数加算処理を行う加算手段、及び、乱数加算処理が行われた後の画像に対してディザマトリクスを用いた二値化処理を行う二値化手段としてコンピュータを機能させる。このような画像処理プログラムによれば、第1の構成の画像処理装置としてコンピュータを機能させることができ、これにより前述した効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】印刷システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は濃度パッチの測定方法を説明するための模式図、(b)は印刷処理のフローチャート、(c)はRGB各値のカラーヒストグラムである。
【図3】乱数設定領域設定処理のフローチャートである。
【図4】(a)は印刷対象の画像の一例を示す説明図、(b)はCMYK各色の乱数設定領域の概念図、(c)は乱数振り幅テーブルの説明図である。
【図5】像域分離処理の概念図である。
【図6】(a)は色変換・二値化処理の概要を示すブロック図、(b)は色変換・二値化処理のフローチャートである。
【図7】乱数振り幅決定処理のフローチャートである。
【図8】濃度パッチの説明図である。
【図9】(a)は同一の濃度パッチにおける測定箇所の説明図、(b)は反射濃度と頻度との関係を示すグラフである。
【図10】(a)は二値化処理後の画像、(b)はノイズ画像、(c)は合成画像、(d)はつぶれが発生した印刷イメージを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.全体構成]
図1は、パーソナルコンピュータ1とプリンタ2とがデータ通信可能に構成された印刷システムの概略構成を示すブロック図である。
【0019】
パーソナルコンピュータ1は、汎用の情報処理装置であり、制御部11、通信部12、操作部13、表示部14及び記憶部15を備えている。
制御部11は、パーソナルコンピュータ1の各部を統括制御するものであり、CPU111、ROM112及びRAM113を備えている。
【0020】
通信部12は、プリンタ2との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。
操作部13は、ユーザからの外部操作による指令を入力するための入力装置であり、本実施形態ではキーボードやポインティングデバイス(マウスやタッチパッド等)が用いられている。
【0021】
表示部14は、各種情報をユーザが視認可能な画像として表示するための出力装置であり、本実施形態では液晶ディスプレイが用いられている。
記憶部15は、記憶データの書換えが可能な不揮発性の記憶装置であり、本実施形態ではハードディスク装置が用いられている。そして、記憶部15には、オペレーティングシステム(OS)151、グラフィックツール等のアプリケーションプログラム152、パーソナルコンピュータ1からプリンタ2を利用可能とするためのソフトウェア(プログラム)であるプリンタドライバ153などがインストールされている。パーソナルコンピュータ1において、グラフィックツール等のアプリケーションプログラム152の実行中に印刷開始操作が行われると、パーソナルコンピュータ1は、プリンタドライバ153の処理として、印刷対象の画像を表す印刷データ(本実施形態では描画命令で構成された画像データ)の印刷命令である印刷ジョブをプリンタ2へ送信する。
【0022】
一方、プリンタ2は、電子写真方式の印刷装置であり、制御部21、通信部22、操作部23、表示部24、記憶部25、画像形成部26、濃度センサ27及び温湿度センサ28を備えている。
【0023】
制御部21は、プリンタ2の各部を統括制御するものであり、CPU211、ROM212及びRAM213を備えている。
通信部22は、パーソナルコンピュータ1との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。
【0024】
操作部23は、ユーザからの外部操作による指令を入力するための入力装置であり、各種操作ボタンを備えている。
表示部24は、各種情報をユーザが視認可能な画像として表示するための出力装置であり、小型の液晶ディスプレイが用いられている。
【0025】
記憶部25は、記憶データの書換えが可能な不揮発性の記憶装置であり、本実施形態ではフラッシュメモリが用いられている。なお、記憶部25には、後述する処理を制御部21に実行させるためのプログラムが記憶されている。
【0026】
画像形成部26は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)の4色のトナーを用いて、二値画像データの表す画像を電子写真方式により可視画像として形成するための構成部であり、CMYK各色のトナーに対応する4つの感光体を備えている。そして、画像形成部26において画像を形成する際には、各感光体の表面が帯電器により帯電され、カラー画像を表現するためのCMYK各色の二値画像データに基づきLEDヘッド等の露光装置により露光されて静電潜像が形成される。こうして形成された静電潜像は、現像器から供給されるCMYK各色のトナーが付着してトナー像として可視像化される。そして、CMYK各色のトナー像は、搬送ベルトによって搬送される用紙等の印刷媒体に重ね合わせて転写された後、定着器において印刷媒体に熱定着され、これにより印刷媒体に画像が印刷される。なお、このような構成自体は周知であるため、図示は省略している。
【0027】
また、画像形成部26は、後述する乱数振り幅決定処理が実行されることにより、図2(a)に示すように、印刷用のトナーを用いてCMYK各色の複数段階の濃度を表す濃度パッチを搬送ベルト上に直接形成する。
【0028】
濃度センサ27は、図2(a)に示すように、画像形成部26によって搬送ベルト上に形成された濃度パッチの濃度を測定するために用いられるものであり、プリンタ2の内部に設けられている。なお、搬送ベルト上に形成された濃度パッチは、濃度センサ27によって濃度が測定された後、画像形成部26が備えるクリーニング部材(図示せず)によって回収される。
【0029】
温湿度センサ28は、温度及び湿度を検出するためのものであり、プリンタ2の内部に設けられている。
[2.処理]
次に、パーソナルコンピュータ1から印刷ジョブを受信したことを契機にプリンタ2の制御部21(具体的にはCPU211)が実行する印刷処理について、図2(b)のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
制御部21は、印刷処理を開始すると、まずS101で、印刷ジョブに係る印刷データ(描画命令で構成された画像データ)を256階調のRGB値で表された画像データに展開するラスタライズ処理を実行する。
【0031】
続いて、S102で、画像データの表す画像を複数の像域に区分し、S103の処理で用いる乱数の振り幅(乱数の範囲)を像域ごとに設定する乱数設定領域設定処理を実行する。なお、乱数設定領域設定処理の具体的な内容については後述する(図3)。
【0032】
続いて、S103で、色変換・二値化処理を実行して、印刷処理を終了する。色変換・二値化処理では、図6(a)に示すように、ラスタライズ処理後の画像データをカラープロファイルに従い256階調のCMYK値で表された画像データに変換する色変換処理、色変換処理後の画像データの画素値に乱数を加算する乱数加算処理、及び、乱数加算処理後の画像データをディザマトリクスを用いて二値化する二値化処理を実行する。この色変換・二値化処理によりCMYK各色の二値画像データが生成され、この二値画像データの表す画像がトナーを用いて形成されて印刷媒体に印刷される。ただし、乱数加算処理を実行するか否かはユーザが設定できるようになっている。なお、色変換・二値化処理の具体的な内容については後述する(図6(b))。
【0033】
次に、前述した印刷処理(図2(b))のS102で実行される乱数設定領域設定処理について、図3のフローチャートを用いて説明する。
制御部21は、乱数設定領域設定処理を開始すると、まずS201で、乱数設定領域を初期化する。ここで、乱数設定領域とは、印刷対象の画像を構成する各画素のCMYK各色について、乱数加算処理で加算する乱数の振り幅を示すフラグを記憶しておくための領域のことであり、RAM113に用意される。
【0034】
図4(a)は印刷対象の画像の一例であり、図4(b)はこの画像についてのフラグが記憶されたCMYK各色の乱数設定領域の概念図である。図4(b)において、白で表された領域B0の各画素には初期値である「0」が、濃度の異なる塗りつぶし領域である領域B1,B2,B3の各画素にはそれぞれ異なる振り幅を示すフラグ(例えば「1」,「2」,「3」)が設定されており、「0」以外のフラグが設定された画素には乱数加算処理で乱数が加算される。S201では、乱数設定領域におけるすべての画素についてのフラグを、初期値である「0」に設定し、後述する処理(S210)において、乱数を加算すべき領域の画素に乱数の振り幅を示すフラグを設定する。
【0035】
図3に戻り、S202では、ラスタライズ処理後の画像データに対し、像域分離処理を実行する。具体的には、図5に示すように、画像におけるエッジを検出し、検出されたエッジによって区分されるエッジ領域に分割することにより、画像を複数の像域に分離する。図5の例では、背景のグレーの像域と前景の女性の像域とに画像が分離されている。なお、図5で例示した画像は、ISO/JIS−SCIDの画像である。
【0036】
図3に戻り、S203では、印刷対象の画像に含まれるすべての像域について定められる処理順序に従い、以降の処理で処理対象とする像域を、処理順序が最初の像域に設定する。なお、ここでいう処理順序は便宜的なものであって特別な意味はないことから、例えば画像における像域の位置などに基づき決定すればよい。
【0037】
続いて、S204で、処理対象の像域に含まれるすべての画素の画素値を取得し、取得した画素値に基づき、S205で、処理対象の像域のカラーヒストグラムを作成する。ここでいうカラーヒストグラムとは、処理対象の像域に含まれる各画素のRGB成分の0〜100%の濃度分布を示したものである。例えば図5に示す2つに分離された像域の場合、左側の像域(前景の女性の像域)は、様々な色が混ざった画像であるため、この像域に対応するカラーヒストグラム(図5における左下)は、広い濃度範囲にRGB成分の頻度が分布している。一方、右側の像域(背景のグレーの像域)は、同系色の画像であるため、この像域に対応するカラーヒストグラム(図5における右下)は、ある濃度範囲にRGB成分の頻度が集中している。つまり、カラーヒストグラムにおいて、ある濃度にピークがある場合には同系色で塗りつぶされた画像であると判定することができ、濃度全域にわたって分布している場合には様々な色が混ざった画像であると判定することができる。なお、図5に示すカラーヒストグラムは、図2(c)に示すようなRGB各値のカラーヒストグラムの値を加算したものであり、例えば図5のカラーヒストグラムの濃度50%の値は、「Rの濃度50%の値+Gの濃度50%の値+Bの濃度50%の値」である。
【0038】
図3に戻り、S206では、S205で作成したカラーヒストグラムが、図5における右下のカラーヒストグラムのように、ある濃度範囲にRGB成分の頻度が集中しているものであるか否かを判定する。つまり、処理対象の像域が塗りつぶし領域(同一色や類似色(ある色差以内の色)で一様に塗りつぶされた領域)であるか否かを判定する。具体的には、平均濃度を中心とするあらかじめ定められた幅の濃度範囲(例えば±5%)内にすべての成分が収まっているか否かを判定する。この濃度範囲を狭く設定すると、ほぼ同じ色で塗りつぶされた領域のみに処理がなされることになり、逆に、広く設定すると、森の緑や海の青といった似た系統の色だが、ある程度ばらついた色で構成された領域にも処理がなされることになる。そして、後述するように、この濃度範囲内にすべての成分が収まっている場合に乱数加算処理で乱数が加算されることになる。このため、あまり濃度範囲を広げすぎると、バンディングが目立たない領域までも乱数が加算されることとなり、乱数による粒状感が目立つ結果となるため、大体±5%程度とすることが好ましい。なお、すべての成分が収まっているか否かの判定は、厳密に行ってもよいが、例えば所定割合(100%に近い割合)以上の成分が収まっているか否かを判定するようにすれば、判定に柔軟性を持たせることができる。
【0039】
そして、S206で、ある濃度範囲にRGB成分が集中していると判定した場合には、S207へ移行し、RGB各値のカラーヒストグラムのそれぞれについて、平均値を求める。
【0040】
続いて、S208では、S207で求めたRGB各値の平均値を、色変換処理に用いるカラープロファイルに従いCMYK値に変換する。例えば、RGB各値の平均値が59,58,61%の場合、0〜255のスケールでは150,148,156と表されるため、このRGB値をCMYK値に変換する。
【0041】
続いて、S209では、S208で得られたCMYK各値(0〜255のスケール)を濃度(%)に変換し、乱数振り幅テーブルを参照して、乱数加算処理に使用する乱数振り幅を決定する。乱数振り幅テーブルとは、図4(c)に示すように、CMYK各色について、1〜20%、21〜40%、41〜60%、61〜80%、81〜100%の5つの濃度範囲に対応する乱数振り幅を規定したものであり、各乱数振り幅は「1」〜「5」のフラグで表される。例えば、C値の濃度が50%の場合、41〜60%の濃度範囲に属することから、乱数振り幅を±5(フラグ「3」)に決定する。なお、他の色値についても同様に決定することができる。
【0042】
図3に戻り、S210では、乱数設定領域における処理対象の像域を構成する各画素についてのフラグを、S209で決定した乱数振り幅を示すフラグに設定する。その後、S211へ移行する。
【0043】
一方、S206で、ある濃度範囲にRGB成分が集中していないと判定した場合には、フラグを設定せずにS211へ移行する。
S211では、印刷対象の画像に含まれるすべての像域について処理が終了したか否かを判定する。
【0044】
そして、S211で未処理の像域が存在すると判定した場合には、S212へ移行し、処理対象の像域を次の像域に変更した後、S204へ戻る。
一方、S211で印刷対象の画像に含まれるすべての像域について処理が終了したと判定した場合には、乱数設定領域設定処理を終了する。つまり、乱数設定領域設定処理では、印刷対象の画像に含まれる複数の像域のうち、すべての画素の濃度が所定濃度幅に収まる像域を塗りつぶし領域として特定し、画像を構成する画素のうち、塗りつぶし領域に含まれる画素を対象として乱数加算処理が行われるように、乱数振り幅を設定する。
【0045】
次に、前述した印刷処理(図2(b))のS103で実行される色変換・二値化処理について、図6(b)のフローチャートを用いて説明する。
制御部21は、色変換・二値化処理を開始すると、まずS301で、印刷対象の画像を構成するすべての画素の中から、後述する二値化処理(S305)をまだ実行していない1つの画素の画素値(ラスタライズ処理後の256階調のRGB値)を処理対象として取得する。
【0046】
続いて、S302では、256階調のRGB値で表された画素値を、カラープロファイルに従い、256階調のCMYK値で表された画素値に変換する色変換処理を実行する。
続いて、S303では、乱数加算処理がオンに設定されているか否かを判定する。前述したように、乱数加算処理を実行するか否かはユーザが設定できるようになっており、ここでは、乱数加算処理を実行する設定になっているか否かを判定する。
【0047】
そして、S303で乱数加算処理がオンに設定されていると判定した場合には、S304へ移行し、色変換処理後の画素値(CMYK値)に乱数を加算する乱数加算処理を実行する。具体的には、CMYK各色について、乱数設定領域における処理対象の画素についてのフラグを読み出し、フラグの示す乱数振り幅の範囲内で乱数を設定する。そして、シアン(C)の乱数振り幅に基づき設定した乱数はC値に加算し、同様に、マゼンタ(M)の乱数はM値に、イエロー(Y)の乱数はY値に、ブラック(K)の乱数はK値に加算する。その後、S305へ移行する。
【0048】
一方、S303で乱数加算処理がオンに設定されていないと判定した場合には、乱数加算処理を実行せずにS305へ移行する。
S305では、ディザマトリクス(本実施形態ではドット集中型ディザマトリクス)を用いて画像データを二値化する二値化処理を実行する。
【0049】
続いて、S306では、印刷対象の画像を構成するすべての画素について二値化処理を実行したか否かを判定し、二値化処理をまだ実行していない画素が存在すると判定した場合にはS301へ戻り、すべての画素について二値化処理を実行したと判定した場合には色変換・二値化処理を終了する。
【0050】
次に、乱数振り幅テーブル(図4(c))の乱数振り幅を決定するためにプリンタ2の制御部21(具体的にはCPU211)が実行する乱数振り幅決定処理について、図7のフローチャートを用いて説明する。なお、乱数振り幅決定処理は、ユーザからの指示を受けた場合、新品のトナーカートリッジがプリンタ2にセットされたこと(トナー交換)を検知した場合、又は、温湿度センサ28により検出される温度及び湿度のうち少なくとも一方の検出結果の変動値があらかじめ定められているしきい値を越えた場合(印刷環境が大きく変化した場合)に実行される。
【0051】
制御部21は、乱数振り幅決定処理を開始すると、まずS401で、印刷用のトナーを用いてCMYK各色の複数段階の濃度を表す濃度パッチを搬送ベルト上に直接形成する(図2(a))。本実施形態では、図8に示すように、1〜20%、21〜40%、41〜60%、61〜80%、81〜100%の5つの濃度範囲の乱数振り幅を決定するために、それぞれの平均値である10%、30%、50%、70%、90%の濃度パッチを形成する。
【0052】
図7に戻り、S402では、濃度パッチの濃度(反射濃度)を濃度センサ27で測定する(図2(a))。具体的には、図9(a)に示すように、濃度パッチの搬送方向に沿って所定ピッチで(例えば1mmごとに)測定することにより、同一の濃度パッチにおける複数箇所の濃度が測定されるようにする。
【0053】
図7に戻り、S403では、搬送ベルト上に形成したすべての濃度パッチの濃度測定が終了したか否かを判定する。
そして、S403で濃度測定が終了していない濃度パッチが存在すると判定した場合には、S402へ戻る。
【0054】
一方、S403ですべての濃度パッチの濃度測定が終了したと判定した場合には、S404へ移行し、処理対象の色をシアン(C)に設定する。
続いて、S405では、処理対象の濃度範囲を1〜20%に設定する。
【0055】
続いて、S406では、処理対象の濃度範囲に対応する濃度パッチ(例えば、処理対象の濃度範囲が1〜20%の場合は10%の濃度パッチ)における複数箇所の測定濃度の最大濃度(Vmax)と最小濃度(Vmin)とを求める。具体的には、図9(b)に示すように、処理対象の濃度パッチの複数の測定濃度から濃度分布が特定され、その分布から最大値と最小値とを特定することができる。
【0056】
図7に戻り、S407では、S406で求めた最大濃度(Vmax)と最小濃度(Vmin)とに基づき、乱数振り幅を次式から決定する。
乱数振り幅=(Vmax−Vmin)÷(100%反射濃度÷255)
ここで、100%反射濃度とは、処理対象の濃度パッチの色(CMYKのいずれか)を100%濃度で形成した場合の反射濃度であり、例えば次の(1)又は(2)の方法で決定しておくことができる。
【0057】
(1)プリンタ2の製造時にあらかじめ測定してプリンタ2の内部(又はプリンタドライバ153)に記憶しておく。
(2)ユーザ指示によるキャリブレーション処理において100%濃度パッチを実際に形成し、その測定値を記憶しておく。
【0058】
いずれの方法でもよいが、(2)の方が環境変動やトナー交換、トナーの劣化による100%濃度の変動などといった変化に対応できるという利点がある。
つまり、上記の式では、同一の濃度パッチにおける複数箇所の測定濃度の最大値と最小値との差をバンディング発生具合とみなし、この差に比例するように乱数振り幅を決定するようにしている。
【0059】
例えば、シアン(C)の100%の反射濃度が1.5、シアン(C)の50%の濃度パッチの最大濃度(Vmax)が0.62、最小濃度(Vmin)が0.56の場合、
乱数振り幅=(0.62−0.56)÷(1.5÷255)=10.2
となる。したがって、乱数加算処理では、41〜60%の濃度範囲のシアン(C)については、−5から+5までの範囲で発生させた乱数をC値に加算することになる。
【0060】
続いて、S408では、処理対象の濃度範囲が81〜100%であるか否かを判定する。
そして、S408で処理対象の濃度範囲が81〜100%でないと判定した場合には、S409へ移行し、処理対象の濃度範囲を次の濃度範囲に変更する。具体的には、処理対象の濃度範囲が1〜20%の場合には21〜40%に、21〜40%の場合には41〜60%に、41〜60%の場合には61〜80%に、61〜80%の場合には81〜100%に変更する。その後、S406へ戻る。
【0061】
一方、S408で処理対象の濃度範囲が81〜100%である(つまり、5つの濃度範囲すべてについて処理が終了した)と判定した場合には、S410へ移行し、処理対象の色がブラック(K)であるか否かを判定する。
【0062】
そして、S410で処理対象の色がブラック(K)でないと判定した場合には、S411へ移行し、処理対象の色を変更する。具体的には、処理対象の色がシアン(C)の場合にはマゼンタ(M)に、マゼンタ(M)の場合にはイエロー(Y)に、イエロー(Y)の場合にはブラック(K)に変更する。その後、S405へ戻る。
【0063】
一方、S410で処理対象の色がブラック(K)である(つまり、CMYK4色すべてについて処理が終了した)と判定した場合には、乱数振り幅決定処理を終了する。
[3.効果]
以上説明したように、本実施形態によれば、印刷対象の画像に対して乱数加算処理を行うことで、同一色又は類似色からなる画像であっても濃度が変動することとなり、バンディングによる濃度変動を相殺する効果が得られるため、印刷画像のバンディングを目立ちにくくすることができる。しかも、ディザマトリクスを用いた二値化処理を行う前の画像に対して乱数加算処理を行うため、孤立ドットの欠落や孤立した空白部分のつぶれを抑制することができる。
【0064】
すなわち、仮に、背景技術の項目で説明した特許文献1に記載の技術に従い、二値化処理を行った後に乱数(ノイズ)を加算する場合、図10(a)に示すようなディザマトリクスに基づく規則的な画像に、図10(b)に示すようなランダムな画像を合成することになる。したがって、合成後の画像は、図10(c)に示すように、ディザマトリクスによる規則性が崩れたものとなり、点線で囲んだ箇所のように、ドットや空白部分が孤立した状態で存在しやすくなる。このため、印刷時におけるトナーの飛び散り等の影響で、孤立ドットが欠落したり、孤立した空白部分がつぶれたりすることがある。例えば、図10(d)に示すように空白部分がつぶれると、点線で囲んだ箇所のように、局所的に線に見える箇所が発生し、印刷画像の画質が劣化してしまう。
【0065】
これに対し、本実施形態のように、ディザマトリクスを用いた二値化処理を行う前の画像に対して乱数加算処理を行えば、印刷画像におけるドットの配置はディザマトリクスに基づく規則的なものとなり、孤立ドットの欠落や孤立した空白部分のつぶれを抑制することができる。したがって、プリンタ2により印刷される画像の画質劣化を抑制することができる。
【0066】
しかも、バンディングの目立ちやすい領域である塗りつぶし領域を対象として乱数加算処理を行うため、それ以外のバンディングの目立ちにくい領域(例えば様々な色が混ざった画像領域)に乱数加算処理を行うことによる画質の劣化(粒状感の増加等)を抑制することができる。特に、像域分離処理により分離した複数の像域のうちすべての画素の濃度が所定濃度幅に収まる像域を塗りつぶし領域として特定するようにしているため、塗りつぶし領域を比較的簡素な処理で特定することができる。
【0067】
また、濃度パッチの測定濃度に基づいて乱数振り幅を決定するため、プリンタ2の機体の製造上の変動や環境変動などの印刷条件の変化によりバンディング発生具合が変化しても、乱数の振り幅を適切なものにすることができる。特に、同一の濃度パッチの測定濃度の最大値と最小値との差に比例するように乱数の振り幅を大きくし、しかも、乱数加算処理の対象となる画素の濃度に応じた乱数の振り幅で乱数加算処理を行うため、発生し得るバンディングの程度に応じて乱数を適切に加算することができる。
【0068】
また、色変換処理が行われた後の画素値に乱数を加算するため、色変換処理が行われる前の画素値に乱数を加算する場合と比較して、バンディングの発生度合いに適した乱数を加算することができる。すなわち、本実施形態では、色変換処理後のCMYK各色の濃度に適した乱数を加算するため、色変換処理が行われる前のRGB値に乱数を加算したのでは、CMYK各色のバンディング発生具合に適した乱数を加えることができないからである。
【0069】
なお、本実施形態では、S202の処理が分離手段としての処理に相当し、S205,S206の処理が特定手段としての処理に相当し、S207〜S210,S304の処理が加算手段としての処理に相当し、S302の処理が色変換手段としての処理に相当し、S305の処理が二値化手段としての処理に相当する。また、S401の処理が形成手段としての処理に相当し、S402の処理が測定手段としての処理に相当し、S406,S407の処理が決定手段としての処理に相当する。
【0070】
[4.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
(A)上記実施形態では、同一色に限らず類似色であっても塗りつぶし領域として特定するようにしているが、これに限定されるものではなく、同一色であることを条件としてもよい。
(B)上記実施形態では、乱数振り幅テーブル(図4(c))の濃度範囲を20%刻みとしているが、より細かくしてもよく、逆に、より粗くしてもよい。また、濃度範囲は一定幅である必要はなく、例えば1%〜40%、41%〜50%、51%〜60%、61%〜100%といったように、バンディングが比較的目立ちやすい濃度は濃度範囲を狭くし、それ以外の濃度は広くしてもよい。
【0071】
また、濃度パッチの濃度の数(濃度の段階数)は、乱数振り幅テーブルの濃度範囲の数と同じである必要はなく、例えば、濃度範囲を10%刻みとするのに対し濃度パッチを20%刻みとするといったように、濃度パッチの濃度の数を濃度範囲の数よりも多くし、複数の濃度パッチの測定結果に基づき乱数振り幅を求めてもよい。逆に、濃度パッチの濃度の数を濃度範囲の数よりも少なくし、足りない分は直線補間などで求めるようにしてもよい。
(C)上記実施形態では、印刷媒体を搬送するための搬送ベルトに濃度パッチを形成するようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、感光体上のトナー像をいったん中間転写ベルトに転写してから印刷媒体に転写する構成であれば、中間転写ベルトに濃度パッチを形成してもよい。また、印刷媒体に濃度パッチを形成してもよい。
(D)上記実施形態では、本発明に係る処理をプリンタ2側で行うようにしているが、これに限定されるものではなく、パーソナルコンピュータ1側でプリンタドライバ153の処理として行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…パーソナルコンピュータ、2…プリンタ、11,21…制御部、12,22…通信部、13,23…操作部、14,24…表示部、15,25…記憶部、26…画像形成部、27…濃度センサ、28…温湿度センサ、153…プリンタドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷対象の画像を構成する画素の画素値に乱数を加算する乱数加算処理を行う加算手段と、
前記乱数加算処理が行われた後の画像に対してディザマトリクスを用いた二値化処理を行う二値化手段と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
画像における塗りつぶし領域を特定する特定手段を更に備え、
前記加算手段は、画像を構成する画素のうち、前記塗りつぶし領域に含まれる画素を対象として前記乱数加算処理を行うこと
を特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
画像から検出されるエッジに基づきその画像を複数の像域に分離する分離手段を更に備え、
前記特定手段は、前記複数の像域のうち、少なくともすべての画素の濃度が所定濃度幅に収まる像域を前記塗りつぶし領域として特定すること
を特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
印刷用のトナーを用いて濃度パッチを形成する形成手段と、
前記濃度パッチの濃度を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された濃度に基づいて、前記乱数加算処理で加算される乱数の振り幅を決定する決定手段と、
を更に備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の画像処理装置であって、
前記測定手段は、同一の濃度パッチにおける複数箇所の濃度を測定し、
前記決定手段は、同一の濃度パッチの測定濃度の最大値と最小値との差に基づき前記乱数の振り幅を決定すること
を特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の画像処理装置であって、
前記決定手段は、同一の濃度パッチの測定濃度の最大値と最小値との差に比例するように前記乱数の振り幅を決定すること
を特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記形成手段は、濃度の異なる複数の濃度パッチを形成し、
前記決定手段は、前記複数の濃度パッチのそれぞれについて前記乱数の振り幅を決定し、
前記加算手段は、前記決定手段により決定された前記乱数の振り幅のうち、前記乱数加算処理の対象となる画素の濃度に応じた乱数の振り幅で前記乱数加算処理を行うこと
を特徴とする画像処理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
画像を構成する画素の画素値を印刷用の複数色のトナーの色値で表された画素値に変換する色変換処理を行う色変換手段を更に備え、
前記加算手段は、前記色変換処理が行われた後の画素値である各色値に乱数を加算すること
を特徴とする画像処理装置。
【請求項9】
印刷対象の画像を構成する画素の画素値に乱数を加算する乱数加算処理を行う加算手段、及び、
前記乱数加算処理が行われた後の画像に対してディザマトリクスを用いた二値化処理を行う二値化手段
としてコンピュータを機能させることを特徴とする画像処理プログラム。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−90109(P2012−90109A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235617(P2010−235617)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】