説明

画像表示機能付きカード

【課題】強度の優れるLCDパネルを搭載した画像表示機能付きカードを提供する。
【解決手段】外部機器とのデータ送受信処理を含む全ての動作を制御する中央制御部と、中央制御部からの指示に基づいて必要な情報を表示する液晶セルと、カード各部に電力を供給する電源部と、を備える画像表示機能付きカードである。液晶セルは、使用者に露出する第二ガラス板G2と、使用者に露出しない第一ガラス板G1とを貼り合わせた全体の厚みが0.60mm以下であり、第二ガラス板G2の周縁は、その側面が、物理的に切断分離されている一方、第一ガラス板G1の周縁は、そこに形成された物理的な切断切込線がエッチング処理で滑面化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示機能を備えたICカードに関し、特に、強度に優れた液晶セルや有機ELなどの表示素子が使用されているICカードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICカードは、磁気カードなどに比較してメモリ容量が大きいだけでなく演算処理機能を有している利点がある。しかし、メモリの記憶内容を目視確認することができず、この点が大きな問題であり、画像表示機能付きのICカードの開発が進められている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−270657号公報
【0003】
この発明では、カードの曲げ変形を考慮して、ガラス基板ではなくプラスチック基板を使用する液晶セルが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プラスチックは、耐薬品性や耐熱性においてガラスより劣っており、特に、ガラスに比べて格段に耐熱性に劣るので、製造工程中に熱変形してしまい、配線端子などを微細に配置できないという問題がある。特にICカードに搭載する液晶セルは、配線パターンや内部素子を極限的に小型化せざるを得ないので、プラスチック基板を使用する限り、商品力のある液晶セルを実現することはできない。
【0005】
そこで、ガラスの利点を生かしつつ、曲げ変形に強い液晶セルや有機ELなどの表示素子を実現するガラス基板の完成が強く望まれている。具体的には、液晶画面を指で押したり、ICカードを曲げても容易には破損しない表示素子のガラス基板が強く嘱望されている。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、押圧力や曲げ変形によっても破損しにくい表示素子を搭載したICカードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、外部機器とのデータ送受信処理を含む全ての動作を統括的に制御する中央制御部と、前記中央制御部からの指示に基づいて必要な情報を表示する表示素子と、カード各部に電力を供給する電源部と、を備える画像表示機能付きカードであって、前記表示素子は、使用者に露出する第一ガラス板と使用者に露出しない第二ガラス板とが、複数の表示素子領域を内包して貼合された貼合せガラス板について、機械的又は化学的な処理によって全体の厚みが0.60mm以下に薄型化され、その後に分離されて完成されることを特徴とする。
【0008】
ここで、機械的又は化学的な処理には、化学的な処理だけ、物理的な処理だけ、及び、化学的な処理と物理的な処理とを組み合わせた処理の何れも含まれる。化学的な処理とは、典型的には、フッ酸を含有する研磨液を使用した薄型化処理である。本発明では、化学的又は機械的な処理によって、ガラス板全体の厚みは0.6mm以下に薄型化されるが、好ましくは、0.4mm以下に薄型化される。なお、画像表示機能には、実施例に記載の通り、写真や絵だけでなく、文字や数字を表示する機能も含まれる。
【0009】
本発明では、第一ガラス板及び第二ガラス板とも、機械的又は化学的な処理によって薄型化されているので、ガラスのエッチング過程で、割れの基点となるクラックを消滅させることができ、外圧に対して割れにくい液晶セルや有機ELなどの表示素子を実現できる。
【0010】
ここで、前記表示素子は、好ましくは、貼合せガラス板が薄型化されて個々の素子に分離された後、その周縁端面が、60μmを超えない範囲でエッチングされる。この場合には、最もクラックの発生しやすい周縁端面をエッチングによって滑面化できるので、更に強度を高めることができる。なお、60μmを超えてエッチングしても強度は変化しないことが本発明者の研究によって確認されている。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、外部機器とのデータ送受信処理を含む全ての動作を統括的に制御する中央制御部と、前記中央制御部からの指示に基づいて必要な情報を表示する表示素子と、カード各部に電力を供給する電源部と、を備える画像表示機能付きカードであって、前記表示素子は、使用者に露出する第二ガラス板と、使用者に露出しない第一ガラス板とを貼り合わせた全体の厚みが0.60mm以下であり、前記第二ガラス板の周縁は、その側面が、物理的に切断分離されている一方、前記第一ガラス板の周縁は、そこに形成された物理的な切断切込線がエッチング処理で滑面化されている。この発明でも、ガラス板全体の厚みは、好ましくは、0.4mm以下である。
【0012】
本発明では、第一ガラス板の周縁がエッチング処理によって滑面化されているので、第一ガラス板の周縁には、割れの基点となるクラックが存在しない。そのため、使用者に露出する第二ガラス板の方から曲げ力が作用しても、張力を大きく受ける第一ガラス板が割れにくい。
【0013】
また、請求項5に係る発明は、外部機器とのデータ送受信処理を含む全ての動作を統括的に制御する中央制御部と、前記中央制御部からの指示に基づいて必要な情報を表示する表示素子と、カード各部に電力を供給する電源部と、を備える画像表示機能付きカードであって、前記表示素子は、使用者に露出する第二ガラス板と、使用者に露出しない第一ガラス板とを貼り合わせた全体の厚みが0.60mm以下であり、前記第二ガラス板及び前記第一ガラス板の周縁は、そこに形成された物理的な切断切込線がエッチング処理で滑面化されている。ガラス板全体の厚みは、好ましくは、0.4mm以下である。
【0014】
本発明では、第一ガラス板及び第二ガラス板の周縁がエッチング処理によって滑面化されているので、何れのガラス板の周縁にも、割れの基点となるクラックが存在しない。そのため、何れの方向から曲げ力が作用しても、ガラス板が割れにくい。
【0015】
上記各発明の液晶セルは、JIS R 1601(ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法)に準拠した試験方法による4点曲げ強さが、好ましくは120MPa以上、更に好ましくは140MPa以上である。なお、厚さtの貼合せガラス板を、単一部材であると仮定して、σ=3P(L−l)/(2Wt)から曲げ強さσを算出する。前式において、Pは最大荷重、Lは支点間距離、lは支点間距離(荷重側)、Wは試験片の幅、tは試験片の厚みである。
【0016】
ここで、請求項4に記載の発明の場合には、使用者に露出する第二ガラス板から、使用者に露出しない第一ガラス板に向けて応力を加えて計測される。一方、請求項3及び請求項5に記載の表示素子では、何れの方向から計測しても、上記の強度を実現することができる。
【0017】
また、上記何れの発明でも、第一ガラス板及び第二ガラス板は、各々の板厚が0.10mm以下であり、JIS R 1601に準拠した試験方法による4点曲げ強さが、4000MPa以上であるのが好ましい。この試験では、第一と第二のガラス板を分離して個々のガラス板で測定するので、各ガラス板が自由に撓むことができ、大きな4点曲げ強さを発揮する。
【0018】
上記の特性の表示素子は、第一ガラス板と第二ガラス板とが複数の表示素子領域を内包する貼合せガラス板について、前記第一ガラス板の表面に第一スクライブラインを形成する第一工程と、前記第一スクライブラインにエッチング液を接触させる第二工程と、前記第二工程を経た前記貼合せガラス板の第二ガラス板の表面に、第一スクライブラインに対応する第二スクライブラインを形成する第三工程と、前記貼合せガラス板について、使用者に露出する第二ガラス板から、使用者に露出しない第一ガラス板に向けて応力を加えて、前記スクライブラインに沿って前記貼合せガラス板を切断分離する第四工程とを、この順番に実行する製造工程によって製造されるのが好ましい。
【0019】
この場合、第一ガラス板と第二ガラス板は、外表面が液相エッチングされることで、ガラス板の表面の算術平均粗さ(Ra)を0.005μm以下、最大表面粗さ(Rmax)を0.06μm以下に抑制するのが容易である。なお、ガラス板は、アルミノケイ酸ガラスまたはホウケイ酸ガラスであれば良く、アルミノホウケイ酸ガラスも含まれる。この組成のガラス板であれば、アルカリガラス、低アルカリガラスおよびノンアルカリガラスの何れでも良い。
【0020】
好ましくは、第四工程の後、前記第一ガラス板及びと第二ガラス板の周縁のみをエッチング液を接触させる第五工程を設けるべきである。この場合、ガラス板の周縁側面にクラックが存在していても、これが消滅するので貼合せガラス板の強度が高まる。なお、エッチング量は、10μm〜60μmが好適であり、60μm以上のエッチングをしても強度は高まらない。
【発明の効果】
【0021】
上記のように構成された発明によれば、曲げ変形に強い可撓性のあるガラス基板を採用した表示素子が実現できるので、曲げ応力が加わったとしても、破損が抑制されたカードを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。図1は、第一実施例に係るICカードの外観図であり、ここでは、クレジットカードとして活用される接触型ICカードを例示している。
【0023】
図1に示す通り、この実施例のICカードCRは、カード左上部にICモジュールMOを配置すると共に、カードの右側に液晶セルLCDを配置して構成されている。このICカードCRは接触型であるので、ICモジュールMOの上面には、接続端子部TMが形成されている。なお、液晶セルLCDを中央位置以外に配置するのは、ICカードCRの両端に、曲げ方向の力が加わった場合にも、その影響が液晶セルLCDに及び難いようにするためである。
【0024】
図2は、ICカードCRの内部構成を示すブロック図である。ICカードCRは、使用時にカードリーダライタRWの接続端子に接触される接続端子部TMと、カードリーダライタRWから供給される直流電圧を各部に給電すると共にこれを蓄電する蓄電部PWと、CPU及びメモリを含むICモジュールMOと、ICモジュールMOに制御されて描画動作を実行する液晶駆動部CTと、ICモジュールMOの不揮発性メモリ(ROM:Read Only Member)の内容を表示する液晶セルLCDとで構成されている。蓄電部PWには、短時間での充電特性に優れているコンデンサのうち、単位体積あたりの蓄電容量に優れた電気二重層コンデンサが使用される。
【0025】
上記の構成のICカードCRは、カード決済時に、店舗などに配置されたカードリーダライタRWに装着される。すると、接続端子部TMを通して、カードリーダライタRWからICカードCRに直流電源電圧が供給され、液晶セルLCDには、不揮発性メモリに格納されているデータに基づき、カード所有者の顔が表示される。そのため、当該ICカードによって支払い料金を清算しようとする店舗側では、確実に本人確認をすることができる。
【0026】
また、この表示動作と平行して、カードリーダライタRWは、接続端子部TMを通して、ICモジュールMOのメモリ(EEPROM:Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)のデータを読み出し、料金を清算した後の金額がカードリーダライタRWからICモジュールMOのメモリ(EEPROM)に書き込まれる。そして、液晶セルLCDには、今回の利用金額と共に残高が表示される。
【0027】
そして、カードリーダライタRWからICカードCRを取り出した後も、蓄電部PWに蓄えられた直流電圧によって液晶セルLCDの表示動作が維持されるので、カード所有者は、今回の精算金額と残高とを確認することができる。
【0028】
以上、第一実施例のICカードCRについて説明したが、本発明は、必ずしも図1や図2の構成に限定されない。図3及び図4は、第二実施例のICカードであり、接続端子部TMを必要としない非接触型のICカードを示す外観図と内部構成図である。このICカードCRは、カード左下部に、操作部WHを配置すると共に、カード上部にアンテナANを内蔵して構成されている。また、図4に示す通り、カードに太陽電池PWを配置することで、カードリーダライタRWと分離した状態でも表示動作を可能にしている。
【0029】
なお、カードリーダライタRWとICモジュールMOのデータ送受信は、アンテナANと変復調部TRとを介して実行される。すなわち、売買代金の清算は、無線回線を通して実行され、清算後の金額がICモジュールMOのメモリ(EEPROM)に書き込まれ、また、液晶セルLCDにも表示される。
【0030】
操作部WHは、多数のタッチセンサが円環状に配置されて構成され、スクロールホイールとも呼ばれる入力装置である。そして、円周上に配置されたタッチセンサの上下左右の何れかを押圧するか、或いは、円周上を指で時計方向か反時計方向になぞることで、使用者の指示が伝えられるようになっている。そのため、カード所有者は、適宜な手動操作によって電源を投入した後、当該ICカードの残高や使用履歴を確認することができる。また、料金清算に先立って、本人確認を求められた場合にも、自己の写真を表示させて店舗側に示すことができる。
【0031】
なお、更に別の実施例として、電池を搭載しないICカードCRとすることもできる。図5は、第三実施例のICカードであり、無線回線を通して給電動作を実現することで電池の内蔵を不要にしている。すなわち、ICカードCRをカードリーダライタRWに近づけることによって、このICカードCRは、カードリーダライタRWと電磁結合させる。そして、カードリーダライタRWからアンテナ部に伝送される高周波電磁波は、共振回路を経由して、整流部PW1において直流電圧に変換された後、この直流電圧が蓄電部PW2に蓄えられる。そして、蓄電された直流電圧は、各部の電源電圧として使用される。なお、カードリーダライタRWからICカードCRに対する給動作は、以下のデータ送受信処理の間も引き続き実行される。
【0032】
そのため、給電動作を受けたICモジュールMOは、アンテナ部ANを経由して、カードリーダライタRWに必要な情報を伝送することができる。一方、カードリーダライタRWでは、料金清算をした後に、清算後の情報をICモジュールMOに返送する。したがって、この第三実施例でも、清算後の金額がICモジュールMOのメモリ(EEPROM)に書き込まれ、液晶セルLCDにも表示されることになる。
【0033】
ところで、上記何れの実施例も、ICカードCRに液晶セルが搭載されている点に大きな特徴がある。ところが、ICカードCRは、財布などに収納された後、ズボンの後ろポケットなどに収容されるのが常である。そのため、ICカードの表面に押圧力が加わったり、曲げ方向の力を受ける可能性が強い。
【0034】
そこで、そのような外力によっても容易には破損されない液晶セルが、以下の手順で製造される。図6(a)は、複数の液晶セル領域を有する第一ガラス板G1と第二ガラス板G2とによる貼合せガラス板1を切断分離するまでの製造工程フロー図である。ここでは、使用者に露出する第二ガラス板G2と、使用者に露出しない第一ガラス板G1とで構成された貼合せガラス板を、目標の板厚値Tまで薄板化すると共に、適宜な深さの切断切込溝を形成している。目標の板厚値Tは、ICカードの種類に応じて、0.1〜0.60mmの範囲で適宜に設定される。
【0035】
この製法は、貼合せガラス板を目標の板厚値の直近まで化学研磨するエッチング工程(ST1)と、使用者に露出しない第一ガラス板G1の表面に、切断切込線たる第一スクライブラインを形成する第一スクライブ工程(ST2)と、第一スクライブラインにエッチング液を接触させる追加エッチング工程(ST3)と、第二ガラス板G2表面に、所定の第二スクライブラインを形成する第二スクライブ工程(ST4)と、第一ガラス板および第二ガラス板の表面に形成されているスクライブラインに応力を加えて貼合せガラス板を切断分離する切断分離工程(ST5)と、仕上げエッチング工程(ST6)を順に経ることにより行なわれる。
【0036】
図8は、切断分離対象となる貼合せガラス板1を表す図であり、図8(a)は平面図、図8(b)は、図8(a)のA−A概略断面図である。この貼合せガラス板1は、使用者に露出して液晶パネルの画像表示面となる第二ガラス板G2と、画像表示面の背面板となる第一ガラス板G1と、を貼り合せたものである。
【0037】
第一ガラス板G1における、第二ガラス板G2との対向面には、薄膜トランジスタ及び透明電極が形成され、更に配向膜が積層されている(不図示)。一方、画像表示面となる第二ガラス板G2における、第一ガラス板G1との対向面には、カラーフィルターがブラックマトリックスに区分けされて形成され、オーバーコート、透明電極及び配向膜が順次積層されている(不図示)。これらガラス板G1,G2の貼り合せは、両ガラス板G1,G2の間に図示されていないスペーサ、並びに区画樹脂3および外周樹脂7を介在させて行なわれている。なお、貼合せガラス板1の外表面には、仕上げエッチング工程(ST6)の後に偏光板が貼り付けられる。
【0038】
ガラス板G1,G2の間には、液晶封入領域2が介在している。この液晶封入領域2は、ガラス板G1,G2の貼り合せ時に、区画樹脂3を設けることで区画形成される。なお、全ての液晶封入領域2を囲う外周樹脂7が設けられて、エッチング液の浸入を阻止する密閉空間が形成されている。
【0039】
次に、図7を参照しつつ実施例の製造方法について説明する。図7(a)は、第一スクライブ工程(ST2)、図7(b)は、追加エッチング工程(ST3)、図7(c)は、第二スクライブ工程(ST4)、図7(d)は、切断分離工程(ST5)、図7(e)は、仕上げエッチング工程(ST6)を示している。
【0040】
第一スクライブ工程(ST2)に先立って、エッチング工程(ST1)が設けられ、貼合せガラス板1は、目標値Tの直近までエッチングされてT+δの板厚となる。ここで、エッチング不足値δは、貼合せガラス板1全体として、200μm未満、好ましくは20〜120μm、更に好ましくは20〜80μmである。したがって、エッチング不足値は、各ガラス板G1,G2当りに換算すると、ガラス板G1,G2間の隙間を無視して、100μm未満、好ましくは10〜60μm、更に好ましくは10〜40μmとなる。
【0041】
その後、第一スクライブ工程(ST2)では、図7(a)に示すように、第一ガラス板G1の表面に、その板厚の10〜15%程度の深さのスクライブライン5aが形成される。スクライブライン5aは、ダイヤモンドや超硬合金製であって周面が尖突状の円板状ホールカッター4の周面で形成される。スクライブライン5aは、各液晶封入領域2を分割するためのものであり、隣り合う液晶封入領域2の間に形成される。このスクライブライン(切込切断線)5aは、エッチング処理で切断切込溝に成長し、切断分離工程ST5におけるガラス板G1の切断線となる。
【0042】
図7(b)に示す追加エッチング工程(ST3)では、貼合せガラス板1の外表面にエッチング液を接触させた後に、エッチング液を貼合せガラス板1の表面から除去する水洗を行なう。エッチング液の接触は、スクライブライン5aを含んだガラス板G1,G2の表面をエッチングすることにより行なわれる。本工程におけるエッチングは、貼合せガラス板1をエッチング液に浸漬することにより行なわれる。エッチング液は、ガラス溶解性の液体であれば特に限定されるものではないが、フッ化水素を55%以下の濃度で含有させた水溶液が使用される。
【0043】
この追加エッチング工程では、エッチング不足値δ(換言すると追加エッチング分)だけ、両ガラス板G1,G2をエッチングして薄板化する。そのため、この追加エッチングによって、スクライブライン5aの形成時に生じたガラス板G1の表面上のクラックが確実に除去される。但し、エッチング量が制限されているので、スクライブライン5aから成長した切断切込溝が完全に滑面化されてしまうことはない。
【0044】
追加エッチング工程(ST3)に続く第二スクライブ工程(ST4)では、図7(c)に示すように、第二ガラス板G2の表面に、切断分離工程(ST5)におけるガラス板G2の切断線となる第二スクライブライン5bが形成される。この第二スクライブライン5bは、第一スクライブライン5aに対応した位置に形成され、ホイールカッター4で隣り合う表示領域2の間に形成される。
【0045】
このように、この切断分離方法では、第二スクライブ工程(ST4)で初めて、第二ガラス板G2にスクライブライン5bが形成されることになる。つまり、ガラス割れの起点となるスクライブライン5bが、この段階までは第二ガラス板G2には形成されていないので、第二スクライブ工程(ST4)に至るまでのエッチング工程(ST3)や、貼合せガラス板1の運搬工程において、第二ガラス板G2が第一ガラス板G1の機械的補強板として機能する。
【0046】
切断分離工程(ST5)では、図7(d)に示すように、スクライブライン5a,5bを切断線とした貼合せガラス板1の切断分離が行なわれる。本工程では、荷重によってスクライブライン5a,5bに応力を加え、この応力によって、スクライブライン5a,5bに沿った貼合せガラス板1の切断分離が行なわれる。スクライブライン5aは、エッチング処理によってクラックの除去された切込切断溝に成長しているので、切断分離後のガラス板G1の切断面は、ガラス板G2の切断面よりも滑らかである。
【0047】
切断分離のための荷重は、第二スクライブライン5bが設けられた第二ガラス板G2から、第一ガラス板G1に向けて加えられる。なお、必要に応じて、その後、第一ガラス板G1から、第二ガラス板G2に向けて荷重を加えても良い。何れにしても、スクライブライン5a,5bに沿って貼合せガラス板1が分離される。
【0048】
以上の各工程を経て切断された貼合せガラス板1は、液晶セルとして使用される。この液晶セルは、第一ガラス板G1の切断面が平滑面となっているので、外部から荷重を受けても破損が確実に抑制される。したがって、この段階の液晶セルに、偏光膜を貼ったのでも良いが、更に強度を高めるには、最後に仕上げエッチング工程(ST7)に移行される。
【0049】
仕上げエッチング工程(ST7)では、図7(e)に示すように、第一ガラス板G1と第二ガラス板G2の周縁側面を除いた表裏面を、耐フッ酸性のマスキング材MSで被覆する。このマスキング処理はスクリーン印刷によっても良いし、シート状のマスキング材MSを貼着したのでも良い。また、第一ガラス板G1と第二ガラス板G2の周縁についても、耐フッ酸性の封止材SEでシールする。なお、マスキング処理は、切断分離工程(ST5)に先立って実行しても良く、この場合には、スクライブライン5a,5bを覆わないようなマスキング処理が実行される。
【0050】
何れにしても切断分離工程の後、第一ガラス板G1と第二ガラス板G2の周縁の側面にエッチング液を接触させて周縁側面のみをエッチングする(ST6)。なお、貼合せガラス板1をエッチング液槽に浸漬するのが効果的である。エッチング量は、60μm未満で十分であり、それ以上のエッチングをしても強度は高まらない。
【0051】
以上のエッチング処理が終われば、マスキング材を剥離した後に偏光膜の貼着作業に移行される。
【0052】
ところで、仕上げエッチング工程の後の液晶セルについてJIS R 1601に準拠した試験方法による4点曲げ試験を行ったところ、次式で算出される4点曲げ強度σが140MPa以上であることが確認された。4点曲げ強度σ=3P(L−l)/(2Wt) ここで、Pは最大荷重、Lは支点間距離、lは支点間距離、Wは試験片の幅、tは試験片の厚みである。
【0053】
上式において、液晶セルの板厚が0.6mmの場合には、同一工程の複数サンプルの4点曲げ強度が、138〜264MPaであった。また、板厚が0.3mmの場合には、142〜304MPaであり、板厚が薄い方がむしろ良い結果が得られた。なお、板厚1.0mmの場合には、板厚0.6mmの結果より劣る結果(128〜239MPa)となる。
【0054】
仕上げエッチング工程(ST5)に移行する以前の貼合せガラス板1についても、使用者に露出する第二ガラス板から、使用者に露出しない第一ガラス板に向けて応力を加えて計測した場合には同様の強度が確認された。
【0055】
また、貼合せガラス基板を構成する第一ガラス板と第二ガラス板を個々のガラス板に分離して計測した場合には、0.1mmのガラス板について、JIS R 1601に準拠した試験方法による4点曲げ試験の結果、4000〜7000MPa程度の4点曲げ強度が確認された。なお、個々のガラス板の方が、強度が高まるのは、貼合せガラス板のように、曲げを阻止する部材が存在しないためであると考えられる。
【0056】
以上の通り、上記した実施例によれば、押圧力や曲げ変形によっても破損しにくい液晶セルを製造できるので、これをICカードに搭載しても十分実用に耐える。なお、具体的な記載内容は特に本発明を限定する趣旨ではなく、各種の設計変更が可能であることは言うまでもない。例えば、液晶セルに代えて、ガラス基板を使用する有機ELについても適用可能であり同等の性能を確認している。
【0057】
また、上記の実施例では、スクライブライン5a,5bを設けた貼合せガラス板1をエッチング処理によって薄型化したが、スクライブライン5a,5bを設けることなく貼合せガラス板1を薄型化しても良い。このような場合には、薄型化された貼合せガラス板1を物理的に分断して、個々の液晶セルを切り出すことになるが、第一ガラス板G1と第二ガラス板G2がそれぞれエッチングされることで、外表面のクラックが除去されて曲げ強度を改善することができる。
【0058】
この場合、4点曲げ強度σは、液晶セルの板厚が0.6mmの場合には、同一工程の複数サンプルの4点曲げ強度が、97〜117MPaであった。また、板厚が0.3mmの場合には、75〜114MPaであった。なお、板厚1.0mmの場合には、板厚0.6mmの結果より劣る結果(68〜103MPa)を確認している。
【0059】
このような実施例において、更に曲げ強度を改善するには、図7(e)と同様に、液晶セルの周縁端面のみをエッチングして滑面化すれば良い。この場合のエッチング量も60μm未満で十分であり、周縁端面が滑面化された液晶セルは、4点曲げ強度σが140MPa以上に改善されることが確認された。
【0060】
なお、本発明は、ICカードの用途に応じて、鉄道の定期券、運転免許証、住民基本台帳などに適用できるのは勿論である。また、メモリのデータ記憶量に応じて、多機能カードとして利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第一実施例のICカードの外観図である。
【図2】図1のICカードの内部構成図である。
【図3】第二実施例のICカードの外観図である。
【図4】図3のICカードの内部構成図である。
【図5】第三実施例のICカードの内部構成図である。
【図6】液晶セルの製造工程の一部を示す工程図である。
【図7】液晶セルの製造工程を説明する模式図である。
【図8】貼合せガラス板の構造を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0062】
RW 外部機器
MO 中央制御部
LCD 液晶セル
PW 電源部
CR 画像表示機能付きカード
G2 第二ガラス板
G1 第一ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部機器とのデータ送受信処理を含む全ての動作を統括的に制御する中央制御部と、前記中央制御部からの指示に基づいて必要な情報を表示する表示素子と、カード各部に電力を供給する電源部と、を備える画像表示機能付きカードであって、
前記表示素子は、使用者に露出する第一ガラス板と使用者に露出しない第二ガラス板とが、複数の表示素子領域を内包して貼合された貼合せガラス板について、機械的又は化学的な処理によって全体の厚みが0.60mm以下に薄型化され、その後に分離されて完成される
ことを特徴とする画像表示機能付きカード。
【請求項2】
フッ酸を含有する研磨液を使用して薄型化する請求項1に記載の画像表示機能付きカード。
【請求項3】
前記表示素子は、貼合せガラス板が薄型化されて個々の素子に分離された後、その周縁端面が、60μmを超えない範囲でエッチングされている請求項1又は2に記載の画像表示機能付きカード。
【請求項4】
外部機器とのデータ送受信処理を含む全ての動作を統括的に制御する中央制御部と、前記中央制御部からの指示に基づいて必要な情報を表示する表示素子と、カード各部に電力を供給する電源部と、を備える画像表示機能付きカードであって、
前記表示素子は、使用者に露出する第二ガラス板と、使用者に露出しない第一ガラス板とを貼り合わせた全体の厚みが0.60mm以下であり、
前記第二ガラス板の周縁は、その側面が、物理的に切断分離されている一方、
前記第一ガラス板の周縁は、そこに形成された物理的な切断切込線がエッチング処理で滑面化されている
ことを特徴とする画像表示機能付きカード。
【請求項5】
外部機器とのデータ送受信処理を含む全ての動作を統括的に制御する中央制御部と、前記中央制御部からの指示に基づいて必要な情報を表示する表示素子と、カード各部に電力を供給する電源部と、を備える画像表示機能付きカードであって、
前記表示素子は、使用者に露出する第二ガラス板と、使用者に露出しない第一ガラス板とを貼り合わせた全体の厚みが0.60mm以下であり、
前記第二ガラス板及び前記第一ガラス板の周縁は、そこに形成された物理的な切断切込線がエッチング処理で滑面化されている
ことを特徴とする画像表示機能付きカード。
【請求項6】
前記表示素子は、
第一ガラス板と第二ガラス板とが複数の表示素子領域を内包する貼合せガラス板について、
前記第一ガラス板の表面に第一スクライブラインを形成する第一工程と、
前記第一スクライブラインにエッチング液を接触させる第二工程と、
前記第二工程を経た前記貼合せガラス板の第二ガラス板の表面に、第一スクライブラインに対応する第二スクライブラインを形成する第三工程と、
前記貼合せガラス板について、使用者に露出する第二ガラス板から、使用者に露出しない第一ガラス板に向けて応力を加えて、前記スクライブラインに沿って前記貼合せガラス板を切断分離する第四工程とを、この順番に実行する製造工程を有する請求項4又は5に記載の画像表示機能付きカード。
【請求項7】
前記第四工程の後、第一ガラス板及び第二ガラス板の周縁のみをエッチング液に接触させる第五工程を有する請求項6に記載の画像表示機能付きカード。
【請求項8】
前記表示素子は、使用者に露出する第二ガラス板から、使用者に露出しない第一ガラス板に向けて応力を加えて計測した場合に、JIS R 1601に準拠した試験方法による4点曲げ強さが、120MPa以上である請求項4又は5に記載の画像表示機能付きカード。
【請求項9】
前記第一ガラス板及び前記第二ガラス板は、各々の板厚が0.10mm以下であり、JIS R 1601に準拠した試験方法による4点曲げ強さが、4000MPa以上である請求項4〜6の何れかに記載の画像表示機能付きカード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−146393(P2008−146393A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333537(P2006−333537)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000195937)西山ステンレスケミカル株式会社 (44)
【Fターム(参考)】