説明

画像表示装置およびフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】高光透過性、高耐熱性、高靭性かつ低吸水率で、フレキシブルなポリイミドフィルムを備える画像表示装置およびフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子を提供すること。
【解決手段】式[1]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムを光学フィルムとして用いた画像表示装置。


(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、ニトリル基、またはカルボキシル基を表し、nは整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置およびフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、さらに詳述すると、脂環式構造を有するフレキシブルポリイミドフィルムを用いた画像表示装置および有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)ディスプレー用基板、液晶ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板および太陽電池用基板には、ガラスが用いられてきた。
しかし、最近、それらの装置の大画面化に伴ってガラス基板を用いることによる重量増大化の問題や、携帯電話、電子手帳、ラップトップ型パソコン等の携帯情報端末などの移動型情報通信機器用表示装置の薄膜化に伴ってガラス基板の破損の問題などが深刻になってきている。
【0003】
そこで、より軽量かつ柔軟であるとともに、耐衝撃性を有し、成型加工も容易なプラスチック基板の採用が求められている。
透明で柔軟かつ強靭なプラスチック基板は、曲げたり丸めたりして収納可能なフレキシブル表示パネルの実現を可能にする。
有機ELディスプレー用基板分野では、ポリエチレンナフタレート(PEN)を使用した例が知られている(特許文献1)。PENの耐熱温度は150℃であり、低温成膜が必要になるが、未だその実用的な製造法確立までには至っていない。
【0004】
ところで、ポリイミド樹脂は、高い機械的強度、耐熱性、絶縁性、耐溶剤性を有しているため、液晶表示素子や半導体における保護材料、絶縁材料、カラーフィルタなどの電子材料用薄膜として広く用いられている。
しかし、従来の全芳香族ポリイミド樹脂は、濃い琥珀色を呈して着色するため、高い透明性が要求される電子デバイス分野の厚膜においては問題が生じる。
【0005】
透明性を実現する一つの方法として、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物(以下、TDAと略す)のような脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合反応によりポリイミド前駆体を得て、当該前駆体をイミド化してポリイミドを製造すれば、比較的着色が少なく、高透明性のポリイミドが得られることが知られている(特許文献2および3)。
しかし、これらのポリイミドは、液晶配向膜の厚みが1μm以下の特定分野に適用される膜であるうえに、100μm前後の厚膜を製膜することが難しいという問題がある。
【0006】
また、式[5]で表されるTDA化合物と、式[6]で表される置換ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン化合物(以下、BAPBと略記する)との重縮合により得られるTDA−BAPBポリイミドは、具体的な記載がなく、その物性は未知であり、さらに、その用途面において、どのような特性を発揮するかも知られていなかった。
【0007】
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基を表し、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、ニトリル基、またはカルボキシル基を表す。)
【0008】
【特許文献1】特開2006−73636号公報
【特許文献2】特開2004−37962号公報
【特許文献3】特開2005−120343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高光透過性、高耐熱性、高靭性かつ低吸水率で、フレキシブルなポリイミドフィルムを備える画像表示装置およびフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、多くの脂環式テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との組み合わせで得られるポリイミドフィルムの中から、その透明性、機械的強度、耐熱性、低吸水性、柔軟性、フィルム表面の平滑性等を兼ね備えたモノマーとして、上述したTDA化合物とBAPBとの組み合わせが優れていることを見出した。
すなわち、上記式[5]で表されるTDA化合物と、式[6]で表されるBAPBとの重縮合およびイミド化によって得られるTDA−BAPBポリイミドを含むフィルムが、高光透過性、高耐熱性、高靭性かつ低吸水率で、フレキシブルであり、有機ELディスプレーや液晶ディスプレー等の画像表示装置用基板(光学フィルム)として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. 式[1]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムを光学フィルムとして用いることを特徴とする画像表示装置、
【化2】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、ニトリル基、またはカルボキシル基を表し、nは整数を表す。)
2. 前記光学フィルムが、式[2]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムである1の画像表示装置、
【化3】

(式中、nは、前記と同じ意味を表す。)
3. 式[1]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムからなる基板を備えることを特徴とするフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子、
【化4】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、ニトリル基、またはカルボキシル基を表し、nは整数を表す。)
4. 式[1]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムからなる基板、並びにこの基板上に次の順序で積層された、陽極、ホール注入層、ホール輸送層、有機物からなる発光層、電子注入層および陰極を備える3のフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子、
【化5】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5およびnは、前記と同じ意味を表す。)
5. 前記基板が、式[2]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムからなる3または4のフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子
【化6】

(式中、nは、前記と同じ意味を表す。)
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高光透過性、高耐熱性、高靭性かつ低吸水率で、フレキシブルなポリイミドフィルムを備えた画像表示装置および有機エレクトロルミネッセンス素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
上記式[1]において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖、分岐のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−アミル、t−アミル、neo−ペンチル、n−ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル基等が挙げられる。
【0014】
炭素数2〜5のアルケニル基としては、例えば、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル基等が挙げられる。
炭素数1〜5のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ基等が挙げられる。
炭素数3〜7のシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル基等が挙げられる。
なお、以上において、nはノルマルを、iはイソを、sはセカンダリーを、tはターシャリーをそれぞれ表す。
【0015】
本発明において、ポリイミドの数平均分子量は、フィルムにした場合の柔軟性等を考慮すると、5000以上が好ましく、6000〜100000がより好ましい。
このため、上記式[1]および[2]におけるnは、ポリイミドの数平均分子量が5000以上となる整数が好ましい。具体的には8〜180が好ましく、特に10〜100が好適である。
【0016】
本発明で用いられるポリイミドフィルムは、それぞれ上記式で表される繰り返し構造を10モル%以上含有すればよいが、特に、高い耐熱性および透明性を有し、柔軟性に優れたポリイミドフィルムとするためには、上記構造を50モル%以上含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましく、90モル%以上含有することが最適である。
【0017】
上記式[1]および[2]で表される繰り返し単位を有するポリイミドは、下記式[3]および[4]で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸をイミド化することで得ることができる。
【0018】
【化7】

(式中、R1〜R5、およびnは上記と同じ意味を表す。)
【0019】
【化8】

【0020】
これら式[3]および[4]で表されるポリアミック酸は、上述したように、式[5]で表されるTDA化合物と、式[6]で表されるBAPB化合物との重縮合により合成できる。
【0021】
本発明において、TDA化合物としては、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物(TDA)、2−メチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、2−エチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、2−n−プロピル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、2−n−ブチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、2−n−ペンチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、5−メチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、6−メチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、7−メチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、8−メチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、5,8−ジメチル−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、5−クロロ−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、6−クロロ−3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物等が挙られる。これらの中で、入手面からTDAが好ましい。
【0022】
一方、BAPBとしては、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、DA4Pと略記する)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−3−メチルフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−メチルベンゼン、3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−デシルベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−エイコシルベンゼン、3−ビス(4−アミノ−3−ドデシルフェノキシ)−5−ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−シアノベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−クロロベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−デシルベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−メトキシベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−ビニルベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−アリルベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−カルボキシベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−シクロプロピルベンゼン、3−ビス(4−アミノフェノキシ)−5−シクロヘキシルベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−メチルフェノキシ)ベンゼン、3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−メチルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−デシルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−エイコシルベンゼン、3−ビス(3−アミノ−4−ドデシルフェノキシ)−5−ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−シアノベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−クロロベンゼン、3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−デシルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−メトキシベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−ビニルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−アリルベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−カルボキシベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−シクロプロピルベンゼン、3−ビス(3−アミノフェノキシ)−5−シクロヘキシルベンゼン等が挙られる。これらの中でも、得られるフィルムの物性面からDA4Pが好ましい。
【0023】
なお、本発明に用いられるポリイミドフィルムでは、上述した式[1]および[2]のいずれかの繰り返し単位が10モル%以上含まれるとともに、得られるポリイミドフィルムの物性に影響を与えない限りにおいて、上記TDA化合物以外の通常のポリイミドの合成に使用されるテトラカルボン酸化合物およびその誘導体を同時に用いてもよい。
【0024】
その具体例としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサン酸、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸、ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸などの脂環式テトラカルボン酸、およびこれらの二無水物並びにこれらのジカルボン酸ジ酸ハロゲン化物などが挙げられる。
また、ピロメリット酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン、2,3,4,5−ピリジンテトラカルボン酸、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ピリジンなどの芳香族テトラカルボン酸およびこれらの酸二無水物、並びにこれらのジカルボン酸ジ酸ハロゲン化物なども挙げられる。なお、これらのテトラカルボン酸化合物は、1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
一方、ジアミンとしても、上述した式[1]および[2]のいずれかの繰り返し単位が10モル%以上含まれるとともに、得られるポリイミドフィルムの物性に影響を与えない限りにおいて、上記BAPB以外のその他のジアミン化合物を用いてもよい。
その具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル −4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ −4,4’−ジアミノビフェニル、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(3,5−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノナフタレン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−トリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等の芳香族ジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)等の脂環式ジアミン化合物およびテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン化合物等が挙げられ、これらのジアミン化合物は、1種単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
上述したポリアミック酸を合成する際の全テトラカルボン酸二無水物化合物のモル数と全ジアミン化合物のモル数との比はカルボン酸化合物/ジアミン化合物=0.8〜1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応と同様に、このモル比が1に近いほど生成する重合体の重合度は大きくなる。重合度が小さすぎるとポリイミド塗膜の強度が不十分となり、また重合度が大きすぎるとポリイミド塗膜形成時の作業性が悪くなる場合がある。
したがって、本反応における生成物の重合度は、ポリアミック酸溶液の還元粘度換算で、0.05〜5.0dl/g(30℃のN−メチル−2−ピロリドン中、濃度0.5g/dl)が好ましい。
【0027】
ポリアミック酸合成に用いられる溶媒としては、例えば、m−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは、単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、ポリアミック酸を溶解しない溶媒であっても、均一な溶液が得られる範囲内で上記溶媒に加えて使用してもよい。
重縮合反応の温度は、−20〜150℃、好ましくは−5〜100℃の任意の温度を選択することができる。
【0028】
本発明で用いるポリイミドは、以上のようにして合成したポリアミック酸を、加熱により脱水閉環(熱イミド化)して得ることができる。なお、この際、ポリアミック酸を溶媒中でイミドに転化させ、溶剤可溶性のポリイミドとして用いることも可能である。
また、公知の脱水閉環触媒を使用して化学的に閉環する方法も採用することができる。
加熱による方法は、100〜300℃、好ましくは120〜250℃の任意の温度で行うことができる。
化学的に閉環する方法は、例えば、ピリジンやトリエチルアミンなどと、無水酢酸などとの存在下で行うことができ、この際の温度は、−20〜200℃の任意の温度を選択することができる。
【0029】
このようにして得られたポリイミド溶液は、そのまま使用することもでき、また、メタノール、エタノールなどの貧溶媒を加えて沈殿させ、これを単離したポリイミドを粉末として、あるいはそのポリイミド粉末を適当な溶媒に再溶解させて使用することができる。
再溶解用溶媒は、得られたポリイミドを溶解させるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、m−クレゾール、2−ピロリドン、NMP、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、DMAc、DMF、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0030】
また、単独ではポリイミドを溶解しない溶媒であっても、溶解性を損なわない範囲であれば上記溶媒に加えて使用することができる。その具体例としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステルなどが挙げられる。
【0031】
本発明で用いるポリイミドフィルムは、重合で得られたポリアミック酸溶液やこれを化学イミド化した後再沈殿させて得られたポリイミドの有機溶媒溶液を、ガラス板等の基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることにより作製することができる。
その際、1〜1000Paの減圧下で、50〜100℃で1〜5時間予備焼成した後、100℃超〜160℃で1〜5時間、次いで160℃超〜200℃で1〜5時間、さらに200℃超〜300℃で1〜5時間焼成する多段階昇温法を採用することにより、着色が少なく均一な表面平滑性の高いポリイミドフィルムを作製することができる。
【0032】
このようにして作製されたポリイミドフィルムは、膜厚50〜500μm、400nmでの光透過率70%以上、10%重量減少温度300℃以上、吸水率1%以下、ヤング率1.5GPa以上、最大伸率5%以上の高透明性、高機械的強度、高耐熱性、低吸水性、かつ、柔軟性を兼ね備えたものである。
このポリイミドフィルムは、有機ELディスプレー用基板、液晶ディスプレー用基板等の画像表示装置用基板として好適に用いることができる。
本発明の画像表示装置および有機EL素子は、上記ポリイミドフィルムを用いることにその特徴があるため、その他の構成部材としては、従来公知のものから適宜選択して用いればよい。
代表例として、有機ELディスプレー装置への応用例を以下に述べる。
【0033】
本発明のフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子は、上述したポリイミドフィルムからなる基板を備えるものであり、その具体例と挙げると、ポリイミドフィルム基板上に、透明陽極、ホール注入層、ホール輸送層、有機物からなる発光層、電子注入層、透明陰極を、この順で積層してなるものである。
陽極および陰極は、一般的に金属酸化物をスパッタ法またはイオンプレーティング法により形成したアモルファス透明電極が用いられる。
この陽極と陰極とをマトリックス状に形成し、陽極および陰極間に電圧を印加して有機EL層に電流を流すことによって画素を発光させる。発生した光は、陽極電極側から外部に取り出される。
【実施例】
【0034】
以下、参考例および実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。実施例における各物性の測定装置は以下のとおりである。
[1]分子量
装置:常温GPC測定装置(SSC−7200,(株)センシュー科学製)
溶離液:DMF
[2]TG/DTA(示差熱熱量同時測定装置)
装置:Thermoplus TG8120((株)理学電機製)
[3]FT−IR
装置:NICOLET 5700(Thermo ELECTRON CORPORATION)
[4]膜厚
測定器:マイクロメーター((株)サントップ製)
[5]UV−Visスペクトル
装置:UV−VIS−NIR SCANNING SPECTROPHOTOMETER(自記分光光度計)((株)島津製作所製)
[6]有限会社テストロニクス測定
(1)最大応力(2)耐力(3)ヤング率(4)破断荷重(5)最大伸び率
フィルム寸法W×t(mm):10.2×0.144
断面積(mm2):1.4688
【0035】
[参考例1]TDA−DA4Pポリアミック酸およびポリイミドの合成
【化9】

【0036】
25℃の水浴中に設置した攪拌機付き50mL四つ口反応フラスコに、DA4P1.40g(5mmol)およびNMP16.4gを仕込み、DA4PをNMPに溶解させた。続いて、その溶液を攪拌しつつ、TDA1.50g(5mmol)を溶解させながら徐々に添加した。さらに、26℃で24時間攪拌して重合反応を行い、固形分15質量%のポリアミック酸溶液を得た。
この溶液にDMFを加えて固形分0.5質量%に調整し、GPC法により分子量を測定した結果、数平均分子量(Mn)は7,941で、重量平均分子量(Mw)は21,896であり、Mw/Mnは2.76であった。
この溶液を75mm×100mmのガラス板上に流延した後、減圧乾燥機に入れ、10Paの減圧下、80℃/1.5時間、140℃/1.5時間、200℃/1.5時間、および240℃/2.5時間の段階的焼成を行った。その後、フィルム付ガラス基板を80℃の湯浴に5時間浸漬し、ガラス板からフィルムを剥がした。剥離したフィルムを再び減圧乾燥機に入れ、減圧下で100℃/2時間乾燥した。
【0037】
得られたフィルムの赤外吸収スペクトルから1705.48cm-1(5員環イミド)を確認し、イミド化率を算出したところ、96%であった。また、諸物性値は以下のとおりであった。得られたフィルムは、着色が少なく高い透明性を有するとともに、フレキシブルで強靭な、平滑性のあるものであった。
膜厚:126μm
光透過率(400nm):88%
吸水率:0.4%
【0038】
[実施例1]有機EL素子の作製および評価
(1)TDA−DA4Pポリアミド酸およびポリイミドの合成
25℃の水浴中に設置した攪拌機付き50mL四つ口反応フラスコに、DA4P2.79g(10mmol)およびNMP23.2gを仕込み、DA4PをNMPに溶解させた。続いて、その溶液を攪拌しつつ、TDA3.00g(10mmol)を溶解させながら徐々に添加した。さらに、30℃で7時間および17℃で41時間攪拌して重合反応を行い、固形分20質量%のポリアミック酸溶液を得た。
この溶液を75mm×100mmのガラス板上に流延した後、減圧乾燥機に入れ、80℃/2時間、120℃/1.5時間、160℃/1.5時間、180℃/2.5時間および200℃/1.5時間の段階的焼成を行った。その後、フィルム付ガラス基板を80℃の湯浴に5時間浸漬し、ガラス板からフィルムを剥がした。剥離したフィルムを再び減圧乾燥機に入れ、減圧下で100℃/2時間乾燥した。また、諸物性値は以下のとおりであった。得られたフィルムは、着色が少ない高透明・フレキシブルでかつ強靭な平滑性に優れたフィルムであった。特に高いヤング率を示した。
膜厚:201μm
光透過率(400nm):78%
最大応力(kg/mm2):7.32
耐力(kg/mm2):5.76
ヤング率(GPa):6.93
破断荷重(kgf):14.30
最大伸び率(%):6.27
【0039】
(2)TDA−DA4Pポリイミドの有機EL素子基板の検討結果
上記(1)で作製したTDA−DA4Pポリイミドフィルムを基板として、以下の諸条件にて高分子型有機EL素子を作製し、その性能評価を行った。なお、性能は、有機EL発光効率測定装置(EL1003、プレサイスゲージ(株)製)を使用して測定した。
【0040】
(a)洗浄プロセス:UVオゾン洗浄
(b)陽極成膜プロセス
装置:RFコニカルターゲットスパッタ(エイエルエステクノロジー社製)
基板温度:室温(25℃)
到達真空度:≦5.0×10-4Pa
成膜真空度:≦1.0×10-1Pa
出力:200W
プリスパッタ時間:5min.
スパッタ時間:120min.
ガス流量:Ar(10.0sccm)
(c)有機蒸着膜プロセス
真空度:≦7.0×10-4Pa
蒸着速度:≦0.2nm/sec
(d)陰極成膜条件
真空度:≦7.0×10-4Pa
蒸着速度:≦0.7nm/sec
(e)有機EL素子構造
フィルム基板/ITO(300nm)/PEDOT−PSS(70nm)/NPB(30nm)/Alq3(40nm)/Al−Li(40nm)/Al(100nm)
なお、PEDOT−PSS(Aldrich製)はスピンコート法にて成膜した。
成膜条件:2750rpm,30sec
成膜後乾燥条件:大気中、焼成温度:200℃、焼成時間:10分間
【0041】
[評価結果]
(1)素子の外観
実施例1で作製した素子の非発光時の様子を図1の(A)に、輝度測定時の発光時の様子を図1の(B)に示す。輝度は1000cd/m2であった。
(2)発光輝度−電圧特性
発光輝度−電圧の関係を図2に示す。5V:40cd/m2〜10.5V:2563cd/m2の輝度を示した。
(3)電流密度−電圧特性
電流密度−電圧の関係を図3に示す。3V:0.19mA/cm2〜10.5V:78.6mA/cm2の電流域を示した。
(4)発光効率−電流密度特性
発光効率−電流密度の関係を図4に示す。14.6mA/cm2:5.0cd/A〜78.6mA/cm2:3.3cd/Aの発光効率を示した。
以上のように、本発明フレキシブルポリイミドフィルム基板を用いた素子は最高発光輝度:2563cd/m2、最高発光効率:5cd/Aに到達した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1で作製した有機EL素子の非発光時(図(A))および輝度測定時の発光時(図(B))の様子を示す図である。
【図2】実施例1で作製した有機EL素子の発光輝度−電圧特性を示す図である。
【図3】実施例1で作製した有機EL素子の電流密度−電圧特性を示す図である。
【図4】実施例1で作製した有機EL素子の発光効率−電流密度特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムを光学フィルムとして用いることを特徴とする画像表示装置。
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、ニトリル基、またはカルボキシル基を表し、nは整数を表す。)
【請求項2】
前記光学フィルムが、式[2]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムである請求項1記載の画像表示装置。
【化2】

(式中、nは、前記と同じ意味を表す。)
【請求項3】
式[1]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムからなる基板を備えることを特徴とするフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシル基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、ニトリル基、またはカルボキシル基を表し、nは整数を表す。)
【請求項4】
式[1]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムからなる基板、並びにこの基板上に次の順序で積層された、陽極、ホール注入層、ホール輸送層、有機物からなる発光層、電子注入層および陰極を備える請求項3記載のフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化4】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5およびnは、前記と同じ意味を表す。)
【請求項5】
前記基板が、式[2]で表される繰り返し単位を少なくとも10モル%以上含有するポリイミドフィルムからなる請求項3または4記載のフレキシブル透明有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化5】

(式中、nは、前記と同じ意味を表す。)

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−102886(P2010−102886A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271947(P2008−271947)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(597040902)学校法人東京工芸大学 (28)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】