説明

異方性ボンド磁石の製造方法

【課題】HDDR磁性粉を用いて異方性ボンド磁石を作製するにあたり、磁気特性を向上させるとともに、寸法精度の良好な異方性ボンド磁石を製造すること。
【解決手段】第1の希土類元素を含む原料に水素化分解・脱水素再結合法による処理を施して、希土類化合物粉末を作製する工程(ステップS12)と、第1の希土類元素とは異なる第2の希土類元素を含む拡散剤を前記第1の希土類元素に混合して、混合粉末を調整する工程(ステップS14)と、混合粉末を磁場中で加圧及び加熱しながら成形して成形体を作製する工程(ステップS15)と、成形体に樹脂を含浸させる工程と(ステップS16)、樹脂を硬化させる工程(ステップS17)と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd−Fe−B系組成の原料に水素化分解・脱水素再結合法(HDDR法)による処理を施して磁性粉を作製し、この磁性粉を用いて異方性ボンド磁石を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの異方性ボンド磁石は、一般的に異方性磁性粉と熱硬化性樹脂を混練後、磁場中成形し、熱硬化処理によって磁石体を得ている。その場合、磁性粉(例えば、HDDR法で作製した磁性粉)にTbやDyなどの希土類元素を拡散させることで、さらなる高保磁力の磁性粉を得ることができる。そして、TbやDyなどの希土類元素を拡散させた磁性粉に対し樹脂を混練し、上述した工程で高特性のボンド磁石を得ることができる。また熱硬化性樹脂の代わりに熱可塑性樹脂(たとえばナイロン)を磁性粉に混練して磁性粉コンパウンドを作製し、加熱した金型に前記磁性粉コンパウンドを磁場中射出成形法で成形してボンド磁石を得る製造方法もある。
【0003】
また、角型性及び保磁力を改善させる方法として、HDDR法で作製した磁性粉(以下、HDDR磁性粉という)に希土類化合物を混合し、磁場中成形を行う方法がある。この方法は、磁性粉を成形して得られた成形体に拡散熱処理を施し、成形体中に前記希土類化合物に含まれる希土類元素を拡散させることで、高い保磁力と角型性を得ている(例えば、特許文献1)。拡散熱処理後は、成形体に樹脂を含浸させることで強度をさらに高めた磁石にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−258412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HDDR磁性粉にTbやDyなどを含んだ希土類化合物を混合し、磁場中で成形した後、希土類元素を拡散させる拡散熱処理を行うことで、磁気特性(特に、角型性及び保磁力)が著しく向上する。しかしながら成形後に拡散処理を行うため、工程が増加し、結果として製造コストが増加してしまうという問題がある。また成形後に拡散熱処理を行うことで熱による成形体の寸法変化が発生することがある。このため、異方性ボンド磁石の特徴の一つであるネットシェイプが完全にはなされなくなってしまう点も問題である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、HDDR磁性粉を用いて異方性ボンド磁石を作製するにあたり、磁気特性を向上させるとともに、寸法精度の良好な異方性ボンド磁石を製造することのできる異方性ボンド磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1の希土類元素を含む原料に水素化分解・脱水素再結合法による処理を施して、希土類化合物粉末を作製する工程と、前記第1の希土類元素とは異なる第2の希土類元素を含む拡散剤を前記第1の希土類元素に混合して、混合粉末を調整する工程と、前記混合粉末を磁場中で加圧及び加熱しながら成形して成形体を作製する工程と、前記成形体に樹脂を含浸させる工程と、前記樹脂を硬化させる工程と、を含むことを特徴とする異方性ボンド磁石の製造方法である。
【0008】
この製造方法によれば成形と拡散熱処理とを同時にできるため、成形後に拡散熱処理を行う場合に比べて、工程を減らすことができる。このため従来よりも低いコストで異方性ボンド磁石を製造することができる。また、拡散熱処理も成形と同時に行っていることから、従来の成形直後における成形体よりも高強度で成形体を作製することが可能になる。このため、クラック等が発生し難くなるため、高い歩留りでの製造が可能になる。さらに、磁場中成形時の成形体の脱磁が完全になされてなくとも拡散熱処理時の熱により完全に脱磁されることから、周辺の磁粉等の付着がない状態での製造が可能となる。また、本発明の希土類磁石の製造方法は、成形と拡散熱処理とを同時に行うため、金型寸法に順じた成形体寸法となり、熱による寸法変化の影響を受けることなく製造することができる。
【0009】
本発明の希土類磁石の製造方法は、前記成形体に前記樹脂を含浸させる前に、前記成形体に対して熱処理を施すことが好ましい。このような製造方法によって得られる希土類ボンド磁石は磁場中における加圧成形と同時に加熱されて作製されるので、その後に加熱しても、寸法変化は十分に小さくすることができる。このため、寸法精度の高い希土類ボンド磁石を製造することができる。
【0010】
本発明の希土類磁石の製造方法は、前記混合粉末に磁場を印加する工程と、前記混合粉末を加圧する工程と、前記混合粉末を加熱する工程と、を含むことが好ましい。混合粉末を加圧する前に磁場を印加することにより、混合粉末を配向させやすくなる。また、加圧後、すなわち、混合粉末同士が密に接触した状態で加熱するので、TbやDyなどの希土類元素の拡散が促進される。その結果、異方性ボンド磁石の磁気特性を向上させることができる。また加熱しながら加圧されるため、寸法変化は十分に小さくすることができる。このため、寸法精度の高い希土類ボンド磁石を製造することができる。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記異方性ボンド磁石の製造方法において、前記成形時における加熱温度は、600℃以上950℃以下であることが好ましい。成形時における加熱温度を高くし過ぎたりすると、HDDR磁性粉中の微細組織が粗大化し磁気特性の低下を起こしたりする傾向がある。一方、成形における加熱温度を低くし過ぎたりすると、第2の希土類元素の拡散が十分に進行しない傾向がある。前記成形時における加熱温度を600℃以上950℃以下とすることにより、HDDR磁性粉中の微細組織が粗大化及び磁気特性の低下を抑制しつつ、第2の希土類元素の拡散を十分に進行させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、HDDR磁性粉を用いて異方性ボンド磁石を作製するにあたり、磁気特性を向上させるとともに、寸法精度の良好な異方性ボンド磁石を製造することのできる異方性ボンド磁石の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法に用いる磁場中成形装置の構成図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示すフローチャートである。
【図4−1】図4−1は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【図4−2】図4−2は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【図4−3】図4−3は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【図4−4】図4−4は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【図4−5】図4−5は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【図4−6】図4−6は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【図4−7】図4−7は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【図4−8】図4−8は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【図4−9】図4−9は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法は、第1の希土類元素を含む水素化分解・脱水素再結合法による処理が施された希土類合金粉末、及び第1の希土類元素とは異なる第2の希土類元素を含む拡散材を混合して混合粉末を調製する混合工程と、混合粉末に熱をかけながら磁場中成形して成形体を作製する熱間磁場中成形工程を有する、第1及び第2の希土類元素を含む希土類磁石の製造方法を提供する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法に用いる磁場中成形装置の構成図である。磁場中成形装置20は、円柱状の成形体を形成するためのもので、金型によって形成されるキャビティ100内に磁性粉末(混合粉末)を供給し、磁場を印加しつつキャビティ100内の磁性粉末を加熱しながら加圧することで磁場中成形を行い、成形体を作製するものである。
【0017】
この磁場中成形装置20は、ダイ40を支持する支持プレート21と、下パンチ50を支持する下パンチベース22と、上パンチ60を支持する上パンチベース23とを備える。支持プレート21は、磁場中成形装置20のベースに対し、油圧シリンダ、ボールねじ及びカム等の駆動機構によって昇降駆動可能とされた下ラム24に支持され、これによって昇降可能となっている。下パンチベース22は、磁場中成形装置20のベースに、支柱26を介して固定支持されている。上パンチベース23は、下パンチベース22の上方に対向するよう設けられ、磁場中成形装置20のベースに、油圧シリンダ、ボールねじ及びカム等の駆動機構により昇降駆動可能とされた上ラム27によって昇降可能とされている。
【0018】
図1に示すように、金型はダイ40、下パンチ50、上パンチ60によって構成されている。金型は、磁場中成形装置20の支持プレート21、下パンチベース22、上パンチベース23に対し、ボールト等の取付部材によって着脱可能に取り付けられるようになっている。
【0019】
ダイ40は、その中心が、コイル72a、72Bによって発生される磁場の中心に合致するよう設けられる。非磁性体で構成されるダイ40には、成形すべき成形体の形状に対応した形状の貫通孔であるダイホール41が形成されている。本実施形態においては、円柱状の成形体を作製するため、ダイホール41は開口形が真円状をなしている。また、このダイホール41の中心は、ダイ40の中心と一致する。ダイ40の下面は、下パンチベース22を貫通する一対の下ガイドポスト25を介して支持プレート21に接続されている。支持プレート21は、下ラム24を介して油圧シリンダに接続される。したがって、ダイ40はこの油圧シリンダによって上下方向に移動可能とされている。
【0020】
ダイ40の周囲には、キャビティ100内の磁性粉末(混合粉末)を配向させるための磁場発生装置70が設けられている。磁場発生装置70は、ダイ40の両側から挟むように対称に配置される一対のヨーク71a、71Bを有している。ヨーク71a、71Bは、透磁率の高い軟磁性材料から形成されている。ヨーク71a、71Bには、それぞれ、コイル72a、72Bが巻き回されている。コイル72a、72Bへ通電することにより、下パンチ50及び上パンチ60により加圧方向と直交する方向(図1中の点線で示す矢印)の磁界が発生し、キャビティ100内の磁性粉末(混合粉末)を配向する。
【0021】
下パンチ50は、下パンチホルダ51により、磁場中成形装置20の下パンチベース22に取り付けられるようになっている。下パンチ50は、ダイ40のダイホール41に対応する位置に配置されている。下パンチホルダ51に保持された下パンチ50は、その上端部がダイ40のダイホール41内に挿入されている。
【0022】
ダイ40の上方には、上パンチベース23が配置されている。この上パンチベース23の下面には、キャビティ100に挿入可能な位置に上パンチ60が設けられている。上パンチベース23の上面には、上ラム27が設けられている。上ラム27には、油圧シリンダが接続されている。上パンチベース23の両端近傍には、鉛直方向に設けられた一対の上ガイドポスト28が挿入され、上ガイドポスト28の下端部がダイ40の上面に固定されている。上パンチベース23は、上ガイドポスト28に案内されながら油圧シリンダによって上下方向に移動可能とされている。上パンチベース23の移動にともなって、上パンチ60が上下方向に移動可能とされ、キャビティ100内に挿入される。
【0023】
磁場中成形装置20は、その動作を制御するコントローラ80を備えている。このコントローラ80は、油圧シリンダを作動させることにより、ダイ40及び上パンチ60の昇降運動を制御する。また、コントローラ80は、図示しない電源からコイル72a、72Bへの通電を制御することにより、所定のタイミングでキャビティ100へ磁場を印加する。
【0024】
ダイ40の内部には、キャビティ100内の磁性粉末(混合粉末)を加熱するためのヒータ42が配置されている。ヒータ42に通電することによりダイ40が加熱されその熱が磁性粉末(混合粉末)に伝わり、第2の希土類は磁性粉末へ拡散する。
【0025】
図2は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法の工程を示すフローチャートである。図3は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示すフローチャートである。図4−1〜図4−9は、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法における磁場中成形の工程を示す説明図である。
【0026】
本実施形態の希土類磁石の製造方法は、第1の希土類元素を含む原料合金に水素化分解・脱水素再結合法による処理を施して、希土類合金粉末を調製するHDDR処理工程と、第2の希土類元素を含む拡散材を調製する調製工程と、第1の希土類元素を含む水素化分解・脱水素再結合法による処理が施された希土類合金粉末、及び第2の希土類元素を含む拡散材を混合して混合粉末を調製する混合工程と、混合粉末を加熱しながら磁場中成形して成形体の作製と同時に第2の希土類元素を希土類合金粉末(の外周部)に拡散させる熱間磁場中成形工程と、成形体に樹脂を含浸して樹脂を硬化することにより希土類ボンド磁石を得る含浸工程を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0027】
HDDR処理工程では、まず、第1の希土類元素を含む原料合金を準備する。原料合金は、通常の鋳造方法、例えばストリップキャスト法、ブックモールド法、又は遠心鋳造法によって得た合金に、例えば均質化熱処理を施すことによって得ることができる。原料合金は、原料金属又は原料化合物や製造工程に由来する不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0028】
第1の希土類元素としては、いずれの希土類元素を用いてもよく、好ましくは軽希土類元素を、より好ましくはNd及び/又はPrを用いる。
【0029】
なお、本実施形態において、希土類元素は、長周期型周期表の第3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイド元素のことをいう。ランタノイド元素には、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビニウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が含まれる。また、希土類元素は、軽希土類元素及び重希土類元素に分類することができる。本明細書における「重希土類元素」とはGd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luをいい、「軽希土類元素」とはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Euをいう。
【0030】
ステップS11における原料化合物の好適な組成としては、希土類元素としてNd及びPrの少なくとも一方を含み、Bを必須元素として0.5質量%〜4.5質量%含み、且つ残部がFe及び不可避的不純物であるR−Fe−B系の組成を有するものが挙げられる。また、原料合金は、必要に応じて、Co、Ni、Mn、Al、Cu、Nb、Zr、Ti、W、Mo、V、Ga、Zn、Si等の他の元素をさらに含んでもよい。
【0031】
上述の組成を有する原料合金を調製した後、ステップS12におけるHDDR法による磁気異方性化処理を行う。HDDR法とは、水素化(Hydrogenation)、不均化(Disproportionation)、脱水素化(Desorption)、及び再結合(Recombination)を順次実行するプロセスである。このHDDR法は、原料合金に水素を吸蔵させた後、異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づく自己崩壊的な粉砕を生じさせ、さらに微細組織化及び磁気異方性化させるものである。HDDR処理の詳細について、以下に説明する。
【0032】
まず、原料合金を、減圧雰囲気1kPa以下又はアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気中、温度1000℃〜1200℃で5時間〜48時間保持する均質化熱処理を行う。このような均質化熱処理を行うことによって、原料合金の結晶粒を粗大化させて、原料合金を均質化させることができる。
【0033】
均質化させた原料合金は、スタンプミル又はジョークラッシャーなどの粉砕手段を用いて粉砕した後、篩分けすることが好ましい。これによって、粒径が10mm以下の粉末状の原料合金を調製することができる。
【0034】
水素吸蔵工程では、上述の粉末状の原料合金を、水素分圧が100kPa〜300kPaである水素雰囲気中、100℃〜200℃の温度中、0.5時間〜2時間保持する。これによって、原料合金の結晶格子中に水素が吸蔵される。
【0035】
次に、水素を吸蔵させた原料合金を、水素雰囲気中、所定の温度で保持することによって、水素化分解させて分解生成物を得る。水素化分解時の水素分圧は10kPa〜100kPa、温度は700℃〜850℃とすることが好ましい。このような条件で水素化分解を行うことによって、磁気的な異方性を有する希土類合金粉末を得ることができる。
【0036】
水素化分解によって得られる分解生成物は、RHなどの水素化物、α−Fe及びFeBなどの鉄化合物を含んでいる。この段階における分解生成物は、100nmオーダーの微細なマトリックスを形成している。
【0037】
続いて、水素分圧を低減させることによって、分解生成物から水素を放出させて、第1の希土類元素を含有する希土類合金粉末を得る。この希土類合金粉末は、上述の原料合金と同等の組成を有する。ステップS13に示すように分級を行う。希土類合金粉末の粒径は、好ましくは350μm以下であり、より好ましくは250μm以下であり、さらに好ましくは212μm以下である。希土類合金粉末の粒径の下限に特に制限はないが、実用上、例えば1μm以上とすることが好ましい。
【0038】
なお、上述のHDDR処理によって得られた希土類合金粉末は、例えばジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いてさらに粉砕してもよい。
【0039】
ステップS14に示す拡散材混合工程では、まず、第2の希土類元素を含む粉末状の拡散材を調製する。第2の希土類元素は上述の第1の希土類元素と異なる元素であれば特に制限されない。ただし、一層保磁力の高い希土類磁石を得る観点から、好ましくは重希土類元素であり、より好ましくはDy又はTbである。拡散材としては、希土類元素の水素化物、酸化物、ハロゲン化物及び水酸化物等の一般的な希土類化合物や、希土類金属が挙げられる。これらのうち、希土類磁石の磁気特性を一層向上させる観点から、構成元素として重希土類元素を有する重希土類化合物を用いることが好ましく、DyH、DyF又はTbHを用いることがより好ましい。
【0040】
希土類化合物や希土類金属は、通常の方法によって製造することができる。通常の方法によって製造した希土類化合物又は希土類金属を、ジェットミルを用いて乾式粉砕する方法、又は有機溶媒と混合し、ボールミル等を用いて湿式粉砕する方法によって希土類化合物粉末又は希土類金属粉末を調製することができる。
【0041】
拡散材の平均粒径の上限は、好ましくは30μmであり、より好ましくは10μmであり、さらに好ましくは5μmである。一方、拡散材の平均粒径の下限は、好ましくは100nmであり、より好ましくは1μmである。拡散材の平均粒径が30μmを超えると、希土類合金粉末中への第2の希土類元素の拡散が生じ難くなって、十分大きなHcJ及び角型比の向上効果が損なわれる場合がある。一方、拡散材の平均粒径が100nm未満であると希土類元素が酸化し易く、希土類酸化物が生成すると第1希土類化合物への拡散量が少なくなり拡散による保磁力の向上が小さくなる。希土類酸化物が生成した場合、所望の保磁力を得ようとすると第2の希土類元素の拡散材の量が多く必要となり、加熱処理による希土類合金粉末中への第2の希土類元素の拡散の量が過剰になり、最終的に得られる希土類ボンド磁石のBrが低下する傾向がある。
【0042】
拡散材混合工程では、次に、上述の通りにしてHDDR処理を施した第1の希土類元素を含む希土類合金粉末と、第2の希土類元素を含む拡散材とを混合して混合粉末を調製する。混合粉体は、例えば、所定の配合比で希土類合金粉末と拡散材とを容器に投入後、スペックスミキサーを用いて、1分〜30分間混合することによって得ることができる。混合は、拡散材や希土類合金粉末の酸化を抑制する観点から、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。なお、混合方法は、特に限定されるものではなく、例えば、Vミキサーやボールミルあるいはライカイ機などを用いた方法であってもよい。なお混合の際に成形助剤となるステアリン酸亜鉛などの潤滑材を添加しても良い。添加量は0.01質量%〜0.5質量%程度で良い。
【0043】
希土類合金粉末と拡散材との配合比は、混合粉体における拡散材の含有量が、好ましくは0.5質量%〜5質量%、より好ましくは1質量%〜4質量%、さらに好ましくは1.5質量%〜3.5質量%となるような比率とする。当該含有量が0.5質量%未満であると、第2の希土類元素の拡散量が少なくなって、十分に大きなHcJ(保持力)及び角型比の向上効果が得られ難くなる傾向があり、5質量%を超えると第2の希土類元素が希土類合金粉末の内部にまで拡散してしまいBrが小さくなる傾向がある。
【0044】
ステップS15における熱間磁場中成形工程では、加熱を行いながら、磁場中成形を行う工程である。熱間磁場中成形では上述の混合粉末に加熱を行いながら磁場中成形して所望の形状を有する成形体を作製する。磁場中成形は、磁場を印加しながら行い、これにより異方性を有する希土類合金粉末を所定方向に配向させた状態で固定する。成形は、例えば、機械プレスや油圧プレス等の圧縮成形機を用いた圧縮成形により行うことができる。具体的には、混合粉末を金型キャビティ内に充填した後、充填された粉末を上パンチと下パンチとの間で挟むようにして加圧することによって、混合粉末を所定形状に成形することができる。
【0045】
次に、図1、図3、図4−1〜図4−9を参照して、熱間磁場中成形工程の詳細を説明する。磁場中成形を開始する際には、ダイ40、下パンチ50及び上パンチ60からなる金型を初期状態に設定する(S151、図4−1)。金型は初期状態において、下パンチ50はダイ40に対して所定の位置に配置することにより、下パンチ50とダイ40によりキャビティを形成する。このとき、上パンチ60はダイ40の上方に退避している。図示しない粉末供給装置により磁性粉末を前記キャビティに供給するに足りる空間を形成するためである。
【0046】
金型は間口10.00mm×10.00mmのものを使用した。金型が初期状態において、図示しない粉末供給装置を用いて、下パンチ50とダイ40により形成されているキャビティに磁性粉末(混合粉末)Pを供給する(ステップS152、図4−2)。粉末供給装置としては、定量の磁性粉末Pを供給する方式、あるいはフィーダボックスを用いてキャビティに擦り切り充填する方式等のいずれであってもよい。
【0047】
磁性粉末Pをキャビティに供給した後に、コントローラ80は上パンチ60を降下させる(ステップS153、図4−3)。上パンチ60は、ダイ40の貫通孔に挿入されるが、磁性粉末Pの上端から所定の間隙を有する位置まで降下される。この間隙は、以下の2つの意義を有する。1つは、キャビティ上部が開放された状態で磁性粉末Pに磁場を印加すると、磁性粉末Pがキャビティから飛び出すことがあり、この磁性粉末Pの飛び出しを防止するために、上パンチ60をダイ40の貫通孔に挿入させる。他の一つは、磁性粉末Pの飛び出しだけを目的とするのであれば、上パンチ60を磁性粉末Pの上端に接触させてもよいが、磁場印加による磁性粉末Pの配向性を十分に確保することができない。そこで、磁性粉末Pの上端との間に所定の間隙を形成することが好ましい。
【0048】
次いで、コントローラ80は、図示しない電源からコイル72a、72Bに通電することにより、キャビティに供給された磁性粉末Pに磁場を印加する(ステップS154、図4−4)。印加される磁場を白抜き矢印で示すが、本実施形態は、下パンチ50及び上パンチ60による加圧方向と直交する、所謂、横磁場成形を適用している。この磁場印加により、磁性粉末Pは、その磁化容易軸が磁場の印加方向に配向する。
【0049】
コントローラ80は、磁場の印加を継続し、かつダイ40を上昇させる(ステップS155、図4−5)。つまり、下パンチ50は、ダイ40に対して相対的に降下する。磁性粉末Pには磁場が平行方向に印加されているため、磁性粉末Pはダイ40の上昇にともなって上方に移動する。したがって、理想的には、下パンチ50の上面と磁性粉末Pの下端は離れて空隙が形成される。空隙が形成されないとしても、磁性粉末Pの下端部分は、充填密度が低くなる。いずれにしても、下パンチ50を相対的に降下することにより、磁性粉末P、特に下端部は、下パンチ50からの機械的な支持が解除され、配向されやすい状態となる。以上では、磁場を印加した後にダイ40を上昇させているが、磁場印加とダイ40上昇のタイミングとを一致させても同様の効果を得ることができる。なお、磁性粉末Pと上パンチ60との間の間隙が維持されるようにダイ40を上昇させることが好ましい。磁性粉末P上端部の配向のし易さを確保するためである。
【0050】
コントローラ80は、磁場の印加を継続し、かつ下パンチ50及び上パンチ60の間隔を狭くすることにより磁性粉末Pを加圧成形する(ステップS156、図4−6)。加圧成形することができれば、ダイ40、下パンチ50及び上パンチ60の動作は問わない。本実施形態では、下パンチ50が固定であるため、上パンチ60を降下させることにより加圧成形する。この際、ダイ40を降下させることができる。下パンチ50が昇降可能な磁場中成形装置であれば、下パンチ50を上昇させることによって、加圧成形することができる。この際、上パンチ60を降下させることもできる。さらに、ダイ40の昇・降を伴うこともできる。
【0051】
次いで、コントローラ80は、磁性粉末Pに磁場を印加したまま、電源からヒータ42に通電することによりダイを加熱し、ダイを介してキャビティに供給された磁性粉末Pを加熱する(ステップS157、図4−6)。この加熱により、磁性粉末Pへ第2の希土類が拡散される。次に、コントローラ80は、加圧を継続し、かつ下パンチ50及び上パンチ60の間隔を一定にすることにより磁性粉末Pを加圧保持する(ステップS158、図4−6)。このとき、磁場の印加も継続される。
【0052】
加熱工程では、磁場中成形で加圧されている混合粉末を、拡散材に含まれる第2の希土類元素が希土類合金粉末の外周部に拡散することが可能な程度に加熱する。具体的には、減圧下又はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、600℃以上950℃の範囲で、混合粉末を成形体にするために加圧しながら加熱する。加熱温度は、好ましくは700℃以上930℃以下、より好ましくは800℃以上900℃以下の範囲である。また拡散処理時間は拡散温度に到達した後、その温度一定のまま30秒以上60分以下行えばよい。好ましくは5分以上20分以下である。このような条件で加熱することにより、第2の希土類元素が希土類合金粉末の外周部に拡散し、第1の希土類元素がリッチな内層と該内層を被覆する第2の希土類元素がリッチな外層とを有する粒子が形成される。これによって、十分に高い保磁力を有する希土類ボンド磁石を形成することが可能となる。また、HDDR処理された希土類合金粉末には微細なクラックが存在するが、このクラックに拡散材が侵入してクラックを埋めることができる。このため、最終的に得られる希土類ボンド磁石の耐酸化性を向上させることができる。なお、加熱工程においては、成形効率を上げるために金型のパンチやダイを予め加熱しておき、磁場配向、脱磁後に第2の希土類元素が拡散する温度までさらに加熱しても良い。
【0053】
なお、成形体の加熱温度を高くし過ぎたり加熱時間を長くし過ぎたりすると、HDDR粉末の微細組織化が粗大化し磁気特性が低下する。一方、成形体の加熱温度を低くし過ぎたり加熱時間を短くし過ぎたりすると、第2の希土類元素の拡散が十分に進行しない傾向がある。したがって、第1及び第2の希土類元素の種類や、希土類合金粉末の粒径に応じて、加熱温度及び加熱時間を設定することが好ましい。
【0054】
磁場中で加圧成形しながら加熱する工程が終了すると、コントローラ80は電源を制御することにより、コイル72a、72Bから、それまでと逆向きの磁場を成形体(磁性粉末P)に印加することによる脱磁を行う(ステップS159、図4−7)。所定時間の脱磁を行った後に、磁場印加を停止する(ステップS1510、図4−8)。なお、磁場配向時に着磁された成形体は、拡散の加熱処理を行うことで熱消磁されるため必ずしも脱磁工程を含む必要はない。このため、脱磁工程を省略できるという利点がある。
【0055】
コントローラ80は、脱磁及び加圧保持が終了した後、ダイ40を降下させ、さらに上パンチ60を上昇させる。磁場中成形装置20をこのような状態にすることにより、成形体Cをキャビティから取り出すことができる(ステップS1511、図4−9)。以上で、磁場中成形の1サイクルの工程が終了する。本実施形態では、磁場の印加、加圧成形、磁場の印加及び加圧した状態での加熱という順序であるが、本実施形態に係る異方性ボンド磁石の製造方法は、磁場中成形において加熱されていればよい。このため、加熱を開始した後に磁場を印加して加圧成形してもよい。ただし、磁粉の配向が完了するまでは、磁粉のキュリー温度(Nd−Fe-B系磁石の場合、330℃)以下の加熱とする必要がある。配向が完了する前に、キュリー温度を超える熱を与えてしまうと、磁粉が消磁されてしまい、配向しなくなってしまうからである。
【0056】
成形によって得られる成形体の形状は特に制限されず、柱状、平板状、リング状等、所望とする希土類ボンド磁石の形状に応じて決定する。磁場中成形時の加圧は、580MPa〜1400MPaとすることが好ましい。また、配向磁界は、800kA/m〜2000kA/mとすることが好ましい。
【0057】
成形体の空隙率は、成形体全体を基準として0体積%〜20体積%であることが好ましい。これによって、優れた磁気特性と優れた形状維持性とを兼ね備えた希土類ボンド磁石を得ることができる。
【0058】
本実施形態では、樹脂と混合すること無しに、混合粉末の磁場中成形を行っているため、磁気的な異方性を有する希土類合金粉末の配向を十分に揃えることが可能となる。したがって、特に残留磁束密度に優れる希土類ボンド磁石を得ることができる。すなわち、HDDR処理によって得られる異方性の高い希土類合金粉末の磁気的な特性を十分に発揮させることが可能となる。
【0059】
本実施形態の製造方法では、混合粉末の成形体を作製する過程で前記混合粉末を加圧しながら加熱処理を施している。このため、希土類合金粉末と拡散材との密着性がよく、拡散材に含まれる第2の希土類元素を希土類合金粉末の外周部に、より均一に拡散させることが可能となる。したがって、角型比や保磁力が十分に高い希土類ボンド磁石を得ることができる。
【0060】
ステップS16における含浸工程では、成形体に樹脂を含浸させ、加熱して樹脂を硬化することにより希土類ボンド磁石を得る。具体的には、まず、加熱処理を施した成形体を予め調製した樹脂含有溶液に浸漬し、密閉容器中で減圧することによって脱泡させて樹脂含有溶液を成形体の空隙内に浸透させる。その後、成形体を樹脂含有溶液中から取り出し、成形体の表面に付着した余剰の樹脂含有溶液を取り除く。余剰の溶液を取り除くには遠心分離機などを用いればよい。また樹脂含有溶液に浸漬する前に成形体を密閉溶液中に入れ減圧雰囲気に保持しつつトルエン等の溶剤に浸漬することで脱泡が促進し、樹脂の含浸量が増え成形体中の空隙率を減らすことができる。
【0061】
樹脂含有溶液に含まれる樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ナイロンなどのポリアミド系のエラストマー、アイオノマー、エチレンプロピレン共重合体(EPM)、エチレン−エチルアクリレート共重合体等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらのなかでも、熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂がより好ましい。
【0062】
樹脂含有溶液は、上述の樹脂を溶媒に溶解させることによって調製することができる。溶媒としては、トルエン、アセトン、エチルアルコールなどの一般的な有機溶媒を用いることができる。溶媒は、樹脂を十分に溶解させるために、用いる樹脂の種類に応じて選択することが好ましい。樹脂含有溶液における樹脂含有量に特に制限はないが、密度が高く空隙の少ない希土類ボンド磁石を得るためには、樹脂の含有量は高い方が好ましい。
【0063】
ステップS17における樹脂含有溶液を空隙内に浸透させた成形体を、例えば恒温槽内で、減圧雰囲気1kPa以下又はアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下、120℃〜230℃で1時間〜5時間保持することによって、樹脂含有溶液に含まれる溶媒を蒸発させるとともに樹脂を硬化させる。
【0064】
希土類ボンド磁石の樹脂含有量は、優れた磁気特性と優れた形状保持性とを両立させる観点から、好ましくは0.5質量%〜10質量%、より好ましくは1質量%〜5質量%である。この樹脂含浸量は、樹脂含有溶液における樹脂濃度や、成形体作製時の成形圧力を変えることによって調整することができる。
【0065】
ステップS18における塗装工程は、上記のようにして得た希土類ボンド磁石に対し、必要に応じて塗装処理を施す工程である。具体例として、希土類ボンド磁石の表面に熱硬化性樹脂の膜を形成し、これを硬化させる処理が挙げられる。熱硬化性樹脂の成膜はスプレー処理やディップ処理によって行うことができる。この工程を実施することで、希土類ボンド磁石の酸化による劣化を抑制できるとともに、HDDR磁性粉末の磁石表面からの脱落を防止できる。
【0066】
ステップS19における塗装を施した成形体を、例えば恒温槽内で、減圧雰囲気1kPa以下又はアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下、120℃〜230℃で1時間〜5時間保持することによって、塗装溶液に含まれる溶媒を蒸発させるとともに樹脂を硬化させる。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
[希土類ボンド磁石の作製]
ストリップキャスト法によって、主成分としてNdFe14Bを含有する、下記組成を有する原料化合物を調製した。
【0068】
Nd: 28.0質量%
B : 1.1質量%
Ga: 0.35質量%
Nb: 0.30質量%
Cu: 0.03質量%
Co: 3.8質量%
Fe及び不可避不純物:残部
【0069】
この原料化合物は、微量の不可避不純物(原料化合物全体で0.5質量%以下)を含んでいた。この原料化合物を、減圧雰囲気中(1kPa以下)、1000℃〜1200℃の温度範囲で24時間保持した(均質化熱処理工程)。均質化熱処理で得られた生成物(NdFe14B)を、スタンプミルを用いて粉砕し、篩分けを行って、原料粉末(粒径1mm〜2mm)を得た。
【0070】
この原料粉末を、モリブテン製の容器に充填し、赤外線加熱方式を有する管状熱処理炉に装填し、以下の条件で水素化分解・脱水素再結合法による処理(HDDR処理)を施した。
【0071】
まず、水素ガス雰囲気下、水素分圧100kPa〜300kPa、温度100℃で原料粉末を2時間保持する水素吸蔵工程を行った。続いて、炉内の水素分圧を下げるとともに炉内温度を昇温し、水素ガスを吸蔵した原料粉末を、水素分圧40kPa、温度850℃の条件で1.5時間保持する水素化分解工程を行った。
【0072】
その後、炉内を850℃に維持しながら水素圧力を低減して脱水素再結合工程を行った。これによって、HDDR処理された異方性の磁性粉末を得た。得られた磁性粉末を、窒素ガス雰囲気中でスタンプミルを用いて粉砕し、篩い分けを行って、粒径が300μm以下であるNdFe14B粉末を得た。
【0073】
次に、上記NdFe14B粉末とは別に、以下の通りにして拡散材を調製した。まず、Dy粉末を水素雰囲気下350℃で1時間吸蔵させ、これに続いてAr雰囲気下において600℃で1時間処理することによりDy水素化物を得た。得られたDy水素化物は、X線回折測定により、DyHであることを確認した。得られたDyH粉体をエタノール溶液に入れてボールミル粉砕を行い、平均粒径[d(50)]が3μmのDyH微粉末とした。
【0074】
上述の方法によって得られたNdFe14B粉末(HDDR磁性粉末)とDyH微粉末(拡散材)を、混練機を用いて混合した。NdFe14B粉末とDyH微粉末との混合比率は、DyH微粉末が3質量%(NdFe14B粉末及びDyH微粉末の合計質量を基準)となるような比率とした。また、NdFe14B粉末及びDyH微粉末の合計重量に対し、ステアリン酸亜鉛を0.1質量%添加混合した。上記混合粉6.0gを間口10.00mm×10.00mmの金型に供給後、磁場印加後パンチ及びダイ温度850℃の熱を5分間保持しながら磁場中成形した。配向磁界は1.2T、成形圧力980MPaであり雰囲気Arガス中で行った。
【0075】
次に、上記成形体をトルエンの入った容器とともに真空ベルジャー内に入れ、2つの成形体をトルエンに浸漬して容器内の圧力を10kPa以下の状態で30分間保持する脱泡処理を行った後、常圧に戻した。
【0076】
上記容器内のトルエンとは別のトルエンにエポキシ樹脂を溶解させてエポキシ樹脂溶液(エポキシ樹脂含有量:50質量%)を調製した。真空ベルジャーに、このエポキシ樹脂溶液と、拡散処理を施し脱泡処理した成形体とを順次投入した。真空ベルジャー内を10kPa以下に減圧して60分間保持し、成形体内にエポキシ樹脂溶液を浸透させた。
【0077】
エポキシ樹脂溶液から2つの成形体を取り出し、遠心分離機によって成形体表面に付着したエポキシ樹脂溶液を除去した。その後、エポキシ樹脂溶液を含浸させた成形体を、温度150℃の恒温槽中(雰囲気:窒素ガス)に5時間保持し、成形体中のエポキシ樹脂を硬化させ、希土類ボンド磁石を得た。
【0078】
(実施例2)
熱間磁場中成形で得られた成形体に、900℃30分の熱処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして希土類ボンド磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
熱間磁場中成形時に成形磁場を0.8Tで行ったこと以外は、実施例1と同様にして希土類ボンド磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例4)
DyH微粉末(拡散剤)を5質量%混合したこと以外は、実施例1と同様にして希土類ボンド磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0081】
(比較例1)
比較例1は、実施例1の熱間磁場中成形時に加熱せずに成形し、成形後900℃30分分の拡散熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして希土類ボンド磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0082】
(比較例2)
比較例2は、実施例1で作製したHDDR粉に対し拡散材を混合せずに行ったこと以外は、実施例1と同様にして希土類ボンド磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0083】
(比較例3)
比較例3は、実施例1の熱間磁場中成形時に500℃まで加熱を行ったこと以外は、実施例1と同様にして希土類ボンド磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0084】
(比較例4)
比較例3は、実施例1の熱間磁場中成形時に1050℃まで加熱を行ったこと以外は、実施例1と同様にして希土類ボンド磁石を調製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示す結果から明らかな通り、熱間磁場中成形後に熱処理を行うことでHcj(保持力)の増加が確認された。また磁場強度は低くても高磁気特性が確認された。比較例1に示す通り、従来の成形後に熱拡散を行う方法では実施例と比較して寸法変化が大きかった。比較例2〜4に示す通り拡散材を混合しない場合や、熱間磁場中成形時の温度範囲が外れているとHcjが向上しないことが確認された。比較例3では第2の希土類元素の拡散が十分に進行しなかったことが原因と考えられる。また比較例4では加熱温度が高いことによりHDDR粉末の微細組織化が粗大化し、さらには希土類合金粉末の焼結が進行したことが原因と推測される。
【符号の説明】
【0087】
20 磁場中成形装置
21 支持プレート
22 下パンチベース
23 上パンチベース
24 下ラム
25 下ガイドポスト
26 支柱
27 上ラム
28 上ガイドポスト
40 ダイ
42 ヒータ
50 下パンチ
60 上パンチ
70 磁場発生装置
71a、71b ヨーク
72a、72b コイル
80 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の希土類元素を含む原料に水素化分解・脱水素再結合法による処理を施して、希土類化合物粉末を作製する工程と、
前記第1の希土類元素とは異なる第2の希土類元素を含む拡散剤を前記第1の希土類元素に混合して、混合粉末を調整する工程と、
前記混合粉末を磁場中で加圧及び加熱しながら成形して成形体を作製する工程と、
前記成形体に樹脂を含浸させる工程と、
前記樹脂を硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする異方性ボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記成形体に前記樹脂を含浸させる前に、前記成形体に対して熱処理を施す請求項1に記載の異方性ボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
前記成形体を作製する工程においては、
前記混合粉末に磁場を印加する工程と、
前記混合粉末を加圧する工程と、
前記混合粉末を加熱する工程と、
を含む請求項1又は2に記載の異方性ボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
前記成形における加熱温度は、600℃以上950℃以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の異方性ボンド磁石の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図4−3】
image rotate

【図4−4】
image rotate

【図4−5】
image rotate

【図4−6】
image rotate

【図4−7】
image rotate

【図4−8】
image rotate

【図4−9】
image rotate


【公開番号】特開2012−190937(P2012−190937A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52093(P2011−52093)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】