説明

異種金属パネルの接合構造および接合方法

【課題】セルフピアスリベットの打ち込みに、そのリベット接合部に予め塗布される接着剤のパネル端縁からのはみ出しを防止する。
【解決手段】アルミニウム製のルーフパネル1のフランジ部1aとスチール製のボデーサイドパネル2のフランジ部2aとのセルフピアスリベットRによる接合部において、フランジ部1aの端縁e近傍に円形閉ループ状の軌跡をもって接着剤B1を連続的に塗布して、複数のループ状の接着剤ビードB1が略眼鏡状に且つ直列に並んだ所定幅寸法の接着剤層10を予め形成する。接着剤ビードB1のループ径はセルフピアスリベットRの打ち込み時の加圧領域Qよりも大きくし、なお且つ打ち込み完了後のセルフピアスリベットRと接触しない大きさとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異種金属パネルの接合構造と接合方法に関し、例えば自動車の車体におけるスチール製のボデーサイドパネルとアルミニウム製のルーフパネルとの接合に代表されるように、接着剤を併用しつつセルフピアスリベット等の機械的接合手段をもって異種金属パネル同士を締結・接合するようにした接合構造および接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体構造として、例えば特許文献1,2に記載のように軽量化のためにルーフパネルをアルミニウム化し、そのルーフパネルをスチール製の車体構成要素であるボデーサイドパネルに対し例えばセルフピアスリベット等の機械的接合手段をもって締結・接合することが行われている。
【0003】
このような接合形態では、アルミニウムとスチールとの異種金属パネル同士の接合となるため、その接合部には例えば熱硬化型の1液エポキシ系接着剤に代表されるような接着剤を接合面全面に塗布・介在させることで電食防止を図っている。
【0004】
なお、接着剤は車体組立工程にてルーフパネルとボデーサイドパネルとをセルフピアスリベット等の機械的接合手段にて締結・接合する前に塗布され、その後、塗装工程での下塗りを目的とした電着塗装のオーブンにて加熱・硬化処理されることになる(硬化条件としては、例えば170℃×20分程度である)。さらに、上記のようなアルミニウム製のルーフパネルとスチール製のボデーサイドパネルとの接合形態ではルーフパネルが上側となるため、電着塗装工程を経た後にルーフパネルの端縁に接着剤とは別のシール材を塗布した上で後工程のシーリングオーブンにて硬化処理を施すことになる。
【特許文献1】特開2000−272541号公報
【特許文献2】特開2005−119577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の接合構造では、セルフピアスリベットによる締結・接合時に多かれ少なかれ接着剤がはみ出すこととなり、そのはみ出した接着剤がセルフピアスリベットの打ち込みを司っている打ち込み治具に付着することがあるほか、はみ出した接着剤がそのまま硬化してしまうと、電着塗装後にルーフパネルの端縁に沿って塗布することになるシール材の塗布作業の障害となり、作業性が悪くなる。また、接着剤のはみ出しが残っていると後から塗布することになるシール材にエアの巻き込みが起こりやすく、このエアの巻き込みは先に述べたシーリングオーブンでの硬化時にシールビードの膨張,破裂を招き、シール性を低下させることとなって好ましくない。
【0006】
このような接着剤のはみ出しによる二次的不具合を未然に防止するためには、はみ出した接着剤の拭き取り作業をこまめに行うことが有効である。その反面、加熱硬化前の接着剤はいわゆる糸引き現象を起こしやすい故に、かえって拭き取り作業の際に接着剤が車体外板であるルーフパネルやボデーサイドパネルに付着しやすくなり、その結果として拭き取り作業を慎重を期す必要があることから、作業そのものが煩雑となる。
【0007】
また、加熱硬化前の接着剤は温度によって粘度が変化するので、セルフピアスリベットを打ち込む際にそのセルフピアスリベットの脚部に相当する部位の拡開具合等の塑性変形の挙動に影響を及ぼし、セルフピアスリベットそのものによる締結・接合強度の信頼性に欠けるおそれがある。
【0008】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、接着剤のはみ出しを未然に防止することでそのはみ出しに伴う拭き取り作業を不要にし、併せて接着剤を併用したことによるセルフピアスリベット等の機械的接合手段の締結・接合強度への影響を回避した接合構造と接合方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、アルミニウム系金属パネルと非アルミニウム系金属パネルとの間に粘稠な接着剤を介装しつつ両者を重ね合わせて、その両者の重合部を機械的接合手段をもって締結・接合してなる異種金属パネルの接合構造であって、少なくともいずれか一方の金属パネルの接合面に接着剤を塗布してループ状の接着剤ビードを予め形成し、双方の金属パネル同士の重合部のうちループ状の接着剤ビードの中央部に相当する位置でその接着剤ビードと接触しないように機械的接合手段をもって締結・接合してあることを特徴とする。
【0010】
ここに言う機械的接合手段には、例えばボルトやメカニカルクリンチ、あるいはブラインドリベットをはじめとするリベット等の種々のものを含んでいるが、後述するように取り扱い性や接合信頼性を考慮すると非貫通型のリベットであるセルフピアスリベットを用いることが望ましい。また、接着剤ビードのループは円形あるいは多角形等のいずれのものでも良い。
【0011】
具体的には、請求項2に記載のように、アルミニウム系金属パネルと非アルミニウム系金属パネルとの間に粘稠な接着剤を介装しつつ両者を重ね合わせて、その両者の重合部のうちいずれか一方の金属パネルの端縁近傍にその端縁の長手方向に沿って非貫通型の複数のリベットを打ち込んで機械的に締結・接合してなる異種金属パネルの接合構造として、少なくともいずれか一方の金属パネルの接合面にループ状の軌跡をもって接着剤を連続的に塗布して、複数のループ状の接着剤ビードが略眼鏡状に且つ直列に並んだ接着剤層を予め形成し、双方の金属パネル同士の重合部のうちループ状の接着剤ビードの中央部に相当する位置にその接着剤ビードと接触しないようにリベットを打ち込んで機械的に締結・接合してあることを特徴とする。
【0012】
ここでは、請求項6に記載のように、アルミニウム系金属パネルが例えば自動車の車体のルーフパネルであり、非アルミニウム系金属パネルが自動車の車体のスチール製のボデーサイドパネルである場合等を想定している。特にアルミニウム系のルーフパネルとスチール製のボデーサイドパネルとの組み合わせの場合には、請求項7に記載のように、ルーフパネルを上側としたそのルーフパネルとボデーサイドパネルとの重合部において、ルーフパネルの端縁に沿って接着剤とは別のすみ肉状のシールビードを形成してあることがシール性向上の上で望ましい。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項2に記載の技術を接合方法として捉えたものであって、アルミニウム系金属パネルと非アルミニウム系金属パネルとの間に粘稠な接着剤を介装しつつ両者を重ね合わせて、その両者の重合部のうちいずれか一方の金属パネルの端縁近傍にその端縁の長手方向に沿って非貫通型の複数のリベットを打ち込んで機械的に締結・接合する異種金属パネルの接合方法として、少なくともいずれか一方の金属パネルの接合面にループ状の軌跡をもって接着剤を連続的に塗布して、複数のループ状の接着剤ビードが略眼鏡状に且つ直列に並んだ接着剤層を予め形成する接着剤塗布工程と、双方の金属パネル同士の重合部のうちループ状の接着剤ビードの中央部に相当する位置にその接着剤ビードと接触しないようにリベットを打ち込んで機械的に締結・接合する接合工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
この場合には、請求項9に記載のように、上記ループ状の接着剤ビードは、金属パネルまたはリベットに接触してそのリベットの打ち込みに関与する打ち込み治具の加圧範囲よりも外側に位置する大きさのものとして形成することが望ましい。
【0015】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、接着剤ビードがループ状のものであって且つ機械的接合手段に接触しないように予め設定してあることから、機械的接合手段による締結力を受けても接着剤の拡がりが少なく、従来のように接合面全面に接着剤を塗布せずとも、少なくともいわゆる電食リスクの高い機械的接合手段の周囲についてループ状に確実にシールすることが可能となる。
【0016】
また、接着剤ビードがループ状であって且つ機械的接合手段の外側に位置していることで、機械的接合手段が直接接着剤ビードを押し潰すことがなく、上記と同様に接着剤の拡がりが少ないことで接着剤のはみ出しを大幅に抑制もしく防止することが可能となる。
【0017】
特に請求項2,8に記載の発明では、接着剤層を複数のループ状の接着剤ビードを略眼鏡状に且つ直列に並べたものとして予め形成してあることから、一方のパネルの端縁近傍に機械的接合手段として非貫通型のリベットを打ち込んだとしても、その一方の金属パネルの端縁からの接着剤のはみ出しを大幅に抑制もしくは防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、従来のように接合面全面に接着剤塗布せずとも機械的接合手段の周囲をループ状に確実にシールできほか、ループ状の接着剤の拡がりが少ない故に、そのはみ出しを大幅に抑制または防止することが可能となる。その結果として、はみ出した接着剤の拭き取り作業を簡略化もしくは不要にすることが可能となる。また、機械的接合手段と接着剤が直接接触しないので、接着剤の存在が機械的接合手段の接合強度に影響を及ぼすことがない。
【0019】
請求項2,8に記載の発明によれば、請求項1に記載の技術を前提としつつ、双方のパネル同士の間に複数のループ状の接着剤ビードが略眼鏡状に且つ直列に並んだ接着剤層を予め形成した上で、一方の金属パネルの端縁近傍を機械的接合手段として非貫通型の複数のリベットを用いて締結・接合したものであるから、請求項1に記載のものと同様の効果に加えて、一方の金属パネルの端縁からの接着剤のはみ出しを大幅に抑制または防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜7は本発明の好ましい実施の形態を示す図であり、先に例示したような自動車の車体において、その構成要素であるアルミニウム(アルミニウム合金を含む)製のルーフパネル(アルミニウム系金属パネル)1とスチール(鋼板)製のボデーサイドパネル(非アルミニウム系金属パネル)2との接合部での例を示している。
【0021】
最初に、本発明の理解を容易にするために、上記のようなアルミニウム製のルーフパネル1とスチール製のボデーサイドパネル2との一般的な接合手順について図1〜3を参照しながら説明する。
【0022】
図1の(A)に示すように、前工程にて所定形状に絞り成形されたルーフパネル1をその車室内側の面が上側となるように表裏反転させた上で、ボデーサイドパネル2との接合面となるフランジ部1aに例えばロボット駆動の塗布ガン3を用いて粘稠な接着剤Bをビード状に塗布する。接着剤Bとしては防錆性の観点から例えば熱硬化型1液エポキシ系接着剤が使用される。
【0023】
次いで、同図(B)に示すように接着剤Bが塗布されたルーフパネル1を表裏反転させた上で相手側となるボデーサイドパネル2にセットし、同図(C)に示すようにルーフパネル1側のフランジ部1aが上側となるように当該フランジ部1aをボデーサイドパネル2側のフランジ部2aに対し両者の間に接着剤Bを挟み込むようにして重ね合わせる。
【0024】
こうして双方のフランジ部1a,2a同士を重ね合わせたならば、図2の(A)に示すようにリベット打ち込み治具であるダイス4とポンチ5とを用いて、機械的接合手段であるところの非貫通型のリベット、すなわちセルフピアスリベットRをルーフパネル1のフランジ部1a側から打ち込みんで機械的に締結・接合する。セルフピアスリベットRにて締結・接合されたルーフパネル1とボデーサイドパネル2との相対位置関係は同図の(B)のようになり、車体全体の組立が完了した段階で塗装工程の初期工程にて車体全体に電着塗装(いわゆる下塗り)が施され、さらに電着塗膜の焼き付けを目的としたオーブンにて加熱硬化処理が施される。この時の加熱条件は先にも述べたように例えば170℃×20分程度であり、ルーフパネル1とボデーサイドパネル2との締結・接合部に介在している接着剤もまた同時に加熱硬化することになる。
【0025】
こうして電着塗装とそれに続く焼き付け(加熱硬化)処理が施された車体には、次なるシーリング工程において各種パネル同士に合わせ目にシール性(いわゆる気密性や水密性)確保を目的としてシール材がビード状に塗布されるほか、床面等には熱融着性のあるいわゆるフュージブルインシュレータがセットされる。先に述べたルーフパネル1とボデーサイドパネル2との締結・接合部においても例外ではなく、図3の(A),(B)に示すように、ルーフパネル1側のフランジ部1aの端縁とボデーサイドパネル2側のフランジ部2aとのなすコーナー部に、そのフランジ部1aの端縁eに沿って先の接着剤とは別の粘稠なシール材Sがシーリングノズル6にてビード状に塗布され、さらに必要に応じてそのビード状のシール材Sが平滑に仕上げられる。
【0026】
この後、車体は上記シール材Sの硬化やフュージブルインシュレータの融着を目的としていわゆるシーリングオーブンにて加熱硬化処理が施され、さらに中塗り、上塗りの順で塗装の仕上げが施されることになる。
【0027】
このような一連の工程において、図1の(A)に示すようにルーフパネル1側のフランジ部1aに粘稠な接着剤Bをビード状に塗布するにあたり、同図の(C)のほか図4の(A),(B)に示すように双方のフランジ部1a,2a同士を重ね合わせた上でセルフピアスリベットRにて締結・接合した際にその接合面全面を覆い得るだけの量の接着剤Bが塗布される。なお、図4の(A)は図1の(B)の平面図を、同図(B)は図2の(B)の平面図をそれぞれ示している。
【0028】
より具体的には、図1および図4に示すように、ルーフパネル1のフランジ部1aにビード状に塗布された接着剤Bは、双方のフランジ部1a,2a同士を重ね合わせた上でセルフピアスリベットRにて締結・接合すると、図1の(C)および図2の(A)のほか図4の(B)に示すように接着剤Bはフランジ部1a,2a同士の接合面全面に拡がり、一部の接着剤Bがルーフパネル1側のフランジ部1aの端縁eからはみ出すことになる。なお、この接着剤Bのはみ出しは先に[発明が解決しようとする課題]として記載したとおりである。はみ出した接着剤Bは、図2の(A)に示すようにセルフピアスリベットRを打ち込むためのポンチ5と近接しているためにそのポンチ5に付着するおそれがあるほか、はみ出した接着剤Bがそのまま硬化してしまうと図3の(A),(B)に示すようにシーリングノズル6にてシール材Sを塗布する際の障害となる。
【0029】
そこで本実施の形態では、このような接着剤Bのはみ出しを未然に防止し得る工法を提供しようとするものである。
【0030】
上記のようなセルフピアスリベットRの打ち込みに伴う接着剤Bのはみ出しの様子を詳しく観察すると、図4の(A),(B)に示すように、当初はビード状のものであった接着剤Bが押し潰されるようにしてフランジ部1a,2a同士の接合面全域に拡がる一方、特に図4の(B)に示すように、セルフピアスリベットRの打ち込みに関与するダイス4およびポンチ5の加圧領域(セルフピアスリベットRの打ち込み位置を含む)Qの外側に同心状に大きくはみ出す傾向にある。
【0031】
そこで、本実施の形態では、接着剤Bをビード状で且つ直線状に塗布する従来の方式(図4の(A)参照)に代えて、図6に示すようにループ状に連続した軌跡をもって接着剤B1をビード状に塗布し、そのループ状の接着剤ビードB1をもって平面視にて図4の(A)示した従来のものよりも幅広の接着剤層10を形成するものとする。
【0032】
図5は本実施の形態におけるルーフパネル1とボデーサイドパネル2との接合構造を示し、セルフピアスリベットRによる締結・接合状態において、双方のフランジ部1a,2a同士の接合面には、そのセルフピアスリベットRの周囲にこれと同心状に且つセルフピアスリベットRと接触することがないように円形閉ループ状の接着剤層10を介在させてある。なお、ルーフパネル1側のフランジ部1aとボデーサイドパネル2側のフランジ部2aとのなすコーナー部には、事後的に接着剤B1とは別の粘稠なシール材Sを塗布していわゆるシールビードを形成してある。
【0033】
すなわち、図1の(A)と同様にしてルーフパネル1を表裏反転させた状態で、図6の(A)に示すようにルーフパネル1のフランジ部1aであって且つそのフランジ部1aの端縁e近傍に円形閉ループ状の軌跡をもって接着剤B1を連続的に塗布して、複数のループ状の接着剤ビードB1が略眼鏡状に且つ直列に並んだ所定幅寸法の接着剤層10を予め形成する。この接着剤層10の幅寸法は単位要素であるループ状の接着剤ビードB1の直径にほかならず、それぞれのループ状の接着剤ビードB1の独立性を保ちつつ各ループ状の接着剤ビードB1が共有することになる接線もしくは包絡線状のブリッジ部mをもって隣接するループ状の接着剤ビードB1,B1同士を互いに連続させたものであり、各ループ状の接着剤ビードB1における素線の交差部およびブリッジ部mがルーフパネル1におけるフランジ部1aの端縁e側に位置するように塗布してある。
【0034】
なお、図6の(A)は図1の(A),(B)と同様にルーフパネル1のフランジ部1aに接着剤B1(接着剤層10)を塗布したままで加圧する前の状態を、同図(B)は図1の(C)および図2の(A)と同様にセルフピアスリベットRの打ち込みに先立って加圧した状態を、同図(C)はセルフピアスリベットRの打ち込みが完了した状態をそれぞれ示している。
【0035】
ただし、図2の(A)および図4の(B)に示すように、セルフピアスリベットRの打ち込みを司るダイス4やポンチ5の加圧領域(ダイス4やポンチ5が円筒状のものである場合にはそれらの投影面積の範囲)Q内に接着剤ビードBがあると、セルフピアスリベットRの打ち込みの際に接着剤Bが加圧領域Qの外側に大きくはみ出すことは先に述べたとおりである。
【0036】
そこで、本実施の形態では、円形閉ループ状の軌跡をもって接着剤B1を連続的に塗布して、複数のループ状の接着剤ビードB1が略眼鏡状に且つ直列に並んだ所定幅寸法の接着剤層10を形成する際に、単位要素であるループ状の接着剤ビードB1の直径を上記加圧領域Qの直径よりも大きくなるように、つまり単位要素であるループ状の接着剤ビードB1が上記加圧領域Qの外側に位置するようにそのループ状の接着剤ビードB1の直径を予め定めておくものとする。例えば上記加圧領域Qの直径を18mm程度とするならば、接着剤ビードB1のループの直径は25mm程度とする。このことは同時に、加圧前のループ状の接着剤ビードB1の直径は、図5の締結・接合状態にあるセルフピアスリベットRの最大直径(セルフピアスリベットRの頭部の直径)よりも大きいことを意味する。
【0037】
また、単位要素であるループ状の接着剤ビードB1のピッチPの設定にあたっては、そのピッチPのn倍がセルフピアスリベットRの打ち込み位置のピッチと等しくなるように予め考慮するものとし、同時にルーフパネル1にいわゆるファッションルーフレールを取り付けるための取付穴7が設けられている場合にはその取付穴7といずれかのループ状の接着剤ビードB1の中心とが合致し、その取付穴7の外周側にこれを囲繞するようにループ状の接着剤ビードB1が位置するように予め考慮するものとする。このようにループ状の接着剤ビードB1の素線が取付穴7の開口部を通過するのを回避することで、取付穴7からの接着剤B1の抜け落ちあるいはループ状の接着剤ビードB1の途切れの発生を未然に防止することが可能となる。
【0038】
上記のような接着剤B1の塗布は、例えば図7に示したようなシーリングロボットのロボットアーム11の先端に塗布ガン12を支持させる一方、そのロボットアーム11にて塗布ガン12をルーフパネル1におけるフランジ部1aの長手方向に沿っていわゆる直線的に動かす一方で、それに同期して塗布ガン12自体を所定の曲率半径のもとで回転させながら塗布作業を行う。もちろん、塗布ガン12を、接着剤ビードB1をループ状に塗布すべき軌跡と同じ軌跡で動かすことで塗布するようにしても良い。
【0039】
このようにループ状の軌跡をもってルーフパネル1のフランジ部1aに接着剤B1を塗布したならば、図1〜3と同様の手順でルーフパネル1側のフランジ部1aとボデーサイドパネル2側のフランジ部2aとを重ね合わせた上で、ルーフパネル1のフランジ部1a側から所定のピッチで複数のセルフピアスリベットRを打ち込んで両者を締結・接合する。なお、先にも述べたように、図6の(B)はセルフピアスリベットRの打ち込み直前にダイス4とポンチ5とで加圧した状態を、同図(C)はセルフピアスリベットRの打ち込みが完了した状態をそれぞれ示しており、セルフピアスリベットRはループ状の特定の接着剤ビードB1の中央部に打ち込まれることになる。その結果として図5に示した接合構造が得られることになる。
【0040】
ここで、図5のほか図6の(C)に示すように、セルフピアスリベットRの打ち込み時に接着剤層10が押し潰されたとしても、接着剤層10の単位要素である各ループ状の接着剤ビードB1の内側には接着剤が存在していないので、図4の(B)に示したようにフランジ部1a,2a同士の接合面全面に接着剤が介在している場合と異なり、接着剤B1は各ループの素線であるビード形状が幅広となるように押し潰れされるだけであり、しかもセルフピアスリベットRが打ち込まれることのないループ状の接着剤ビードB1では押し潰された接着剤がループの内側にまで拡がることが可能である。したがって、少なくともフランジ部1aの端縁eから外部への接着剤のはみ出しが未然に防止され、なお且つ接着剤ビードB1は打ち込み完了後のセルフピアスリベットRとも接触しない。その結果として、セルフピアスリベットRの打ち込みを司るダイス4やポンチ5に接着剤が付着することがないだけでなく、従来のようにはみ出した接着剤が後工程でのシール材Sの塗布作業(図3参照)に支障をきたすこともない。
【0041】
つまり、本実施の形態によれば、打ち込みが完了したセルフピアスリベットRと接着剤とが直接接触することはないものの、パネル間隙間が最も小さく且つ電食発生のリスクが高いセルフピアスリベットRの周囲をループ状にシールでき、しかも各ループ状の接着剤ビードB1における素線の交差部のほか、隣接するループ状の接着剤ビードB1,B1同士を接続しているブリッジ部mをフランジ部1aの端縁e側に設定してあるため、とかく水が浸入しやすいフランジ部1aの端縁e側を連続的にシールして、充分なシール性ひいいては防錆性を確保することが可能となる。
【0042】
その上、フランジ部1aの端縁eからの接着剤のはみ出しがないのに加えて、従来のように接合面全面に接着剤を塗布する必要がないため、少量の接着剤の使用で所期の目的を達成することができるようになり、接着剤使用量の削減も併せて達成できるほか、接着剤の使用量が少ない故に接着剤塗布後のルーフパネル1を反転させたとしても接着剤がたれ落ちることがない。さらに、リベット締結部に接着剤が介在していないため、接着剤の粘度等の影響でセルフピアスリベットRの塑性変形の挙動が変化してしまうことがなく、常に安定したリベット締結を行うことができ、リベット締結による接合強度の保証が容易となる。
【0043】
図8,9は本発明の第2の実施の形態を示す図で、図8は図6に、図9は図7にそれぞれ対応しており、図6,7と共通する部分には同一符号を付してある。
【0044】
この第2の実施の形態では、図9に示すように、ループ状の接着剤ビードB2の軌跡に倣ってロボットアーム11にて塗布ガン13を移動させて、そのループ状の接着剤ビードB2を主要素とする接着剤層10を形成するようにしたものである。そして、複数のループ状の接着剤ビードB2が略眼鏡状に且つ直列に並んだ所定幅寸法の接着剤層10を形成するにあたり、それぞれのループ状の接着剤ビードB2を、フランジ部1aの長手方向を長径とする長円形もしくは楕円形のものとして形成してある。この場合においても、ループ状の接着剤ビードB2の内周側にダイス4やポンチ5による加圧領域Qおよびファッションルーフレール用の取付穴7が位置するように設定してある。
【0045】
この第2の実施の形態によれば、特にループ状の接着剤ビードB2を長円形または楕円形のものとしたことにより、接着剤ビードB2の総ループ数が少なくて済み、その軌跡制御が容易となる利点がある。
【0046】
図10〜12は本発明の第3の実施の形態を示す図で、接着剤の塗布作業の際にその塗布状態ひいては塗布後の接着剤ビードB1のモニタリングを行うようにしたもので、先の第1の実施の形態、すなわち図5,6と共通する部分には同一符号を付してある。
【0047】
この第3の実施の形態では、ルーフパネル1の表裏反転状態においてそのフランジ部1aでのループ状の接着剤ビードB1の塗布軌跡の一部、例えば図11のブリッジ部mに相当する部分に予めマーキングを施すべく、基準位置となるマークとして下向き凸状の微小エンボス部14を所定のピッチで予め形成しておく一方、複数のループ状の接着剤ビードB1が略眼鏡状に且つ直列に並んだ所定幅寸法の接着剤層10を形成するにあたり、上記微小エンボス部14を接着剤ビードB1で覆い隠すように接着剤ビード塗布時の軌跡を制御するようにしたものである。
【0048】
そして、接着剤の塗布作業と並行して、または接着材の塗布後に、視覚センサあるいは撮像手段として機能することになるCCDカメラ15にて接着剤ビードB1を撮像する一方、その画像を画像処理装置16に取り込んだ上で当該画像処理装置16にて上記微小エンボス部14の有無判定を行って接着剤ビードB1の塗布軌跡の適否判定を行うようにしたものである。
【0049】
例えば上記のような接着剤ビードB1の撮像画像につき微小エンボス部14の有無判定を行った結果、なおも微小エンボス部14の存在が認められた場合には、接着剤ビードB1の塗布軌跡の位置ずれまたは蛇行があるものと判定して、例えば画像処理装置16からの出力に基づき警報を発して、作業者に塗布後の接着剤ビードB1の確認を促す。
【0050】
こうすることにより、接着剤ビードB1の塗布状態が不良のルーフパネル1がそのまま後工程に流出してしまうのを未然に防止することができ、接着剤塗布の信頼性が向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】自動車車体のルーフパネルとボデーサイドパネルとの接合部における従来の一般的な接合手順を示す図で、接着剤の塗布からその接着剤を加圧するまでの工程説明図。
【図2】自動車車体のルーフパネルとボデーサイドパネルとの接合部における従来の一般的な接合手順を示す図で、図1の接着剤の塗布に続くセルフピアスリベット打ち込み時の工程説明図。
【図3】自動車車体のルーフパネルとボデーサイドパネルとの接合部における従来の一般的な接合手順を示す図で、図2のセルフピアスリベットの打ち込みに続くシール材塗布時の工程説明図。
【図4】セルフピアスリベット打ち込み時の接着剤の拡がりを示す図で、(A)は図1の(B)の平面説明図、(B)は図2の(B)の平面説明図。
【図5】本発明の第1の実施の形態としてルーフパネルとボデーサイドパネルとの接合構造を示す要部拡大断面図。
【図6】図5の接合構造に用いられる接着剤の塗布手順を示す図で、(A)は接着剤塗布後であって加圧前の状態を示す平面説明図、(B)はセルフピアスリベットの打ち込みに先立って接着剤を加圧して押し潰したときの平面説明図、(C)はセルフピアスリベット打ち込み完了後の平面説明図。
【図7】(A)は図6に示した接着剤の塗布作業に用いられる設備の概略を示す説明図、(B)は同図(A)の要部拡大図。
【図8】本発明の第2の実施の形態を示す図で、図6と同等部位の平面説明図。
【図9】(A)は図8に示した接着剤の塗布作業に用いられる設備の概略を示す説明図、(B)は同図(A)の要部拡大図。
【図10】本発明の第3の実施の形態を示す図で、(A)はルーフパネルにおけるフランジ部の平面説明図、(B)は同図(A)のa−a線に沿う拡大断面図。
【図11】(A)は図10の(A)に示したフランジ部に接着剤を塗布したときの平面説明図、(B)は同図(A)のb−b線に沿う拡大断面図。
【図12】図11に示した接着剤ビードのモニタリング状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0052】
1…ルーフパネル(アルミニウム系金属パネル)
1a…フランジ部
2…ボデーサイドパネル(非アルミニウム系金属パネル)
2a…フランジ部
4…ダイス(打ち込み治具)
5…ポンチ(打ち込み治具)
10…接着剤層
14…微小エンボス部(基準位置としてのマーク)
16…CCCカメラ(モニタリング手段としての視覚センサ)
B1…ループ状の接着剤ビード
B2…ループ状の接着剤ビード
e…フランジ部の端縁
m…ブリッジ部
Q…加圧領域
R…セルフピアスリベット(非貫通型のリベット,機械的結合手段)
S…シール材(シールビード)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系金属パネルと非アルミニウム系金属パネルとの間に粘稠な接着剤を介装しつつ両者を重ね合わせて、その両者の重合部を機械的接合手段をもって締結・接合してなる異種金属パネルの接合構造であって、
少なくともいずれか一方の金属パネルの接合面に接着剤を塗布してループ状の接着剤ビードを予め形成し、
双方の金属パネル同士の重合部のうちループ状の接着剤ビードの中央部に相当する位置でその接着剤ビードと接触しないように機械的接合手段をもって締結・接合してあることを特徴とする異種金属パネルの接合構造。
【請求項2】
アルミニウム系金属パネルと非アルミニウム系金属パネルとの間に粘稠な接着剤を介装しつつ両者を重ね合わせて、その両者の重合部のうちいずれか一方の金属パネルの端縁近傍にその端縁の長手方向に沿って非貫通型の複数のリベットを打ち込んで機械的に締結・接合してなる異種金属パネルの接合構造であって、
少なくともいずれか一方の金属パネルの接合面にループ状の軌跡をもって接着剤を連続的に塗布して、複数のループ状の接着剤ビードが略眼鏡状に且つ直列に並んだ接着剤層を予め形成し、
双方の金属パネル同士の重合部のうちループ状の接着剤ビードの中央部に相当する位置にその接着剤ビードと接触しないようにリベットを打ち込んで機械的に締結・接合してあることを特徴とする異種金属パネルの接合構造。
【請求項3】
上記ループ状の接着剤ビードの内径は、締結・接合後におけるリベットの最大直径よりも外側に設定してあることを特徴とする請求項1または2に記載の異種金属パネルの接合構造。
【請求項4】
上記ループ状の接着剤ビードの形状が、接着剤ビードそのものの並設方向を長径とする長円形のものであることを特徴とする請求項2または3に記載の異種金属パネルの接合構造。
【請求項5】
上記非貫通型のリベットがセルフピアスリベットであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の異種金属パネルの接合構造。
【請求項6】
アルミニウム系金属パネルが自動車の車体のルーフパネルであり、非アルミニウム系金属パネルが自動車の車体のスチール製のボデーサイドパネルであることを特徴とする請求項5に記載の異種金属パネルの接合構造。
【請求項7】
ルーフパネルを上側としたそのルーフパネルとボデーサイドパネルとの重合部において、ルーフパネルの端縁に沿って接着剤とは別のすみ肉状のシールビードを形成してあることを特徴とする請求項6に記載の異種金属パネルの接合構造。
【請求項8】
アルミニウム系金属パネルと非アルミニウム系金属パネルとの間に粘稠な接着剤を介装しつつ両者を重ね合わせて、その両者の重合部のうちいずれか一方の金属パネルの端縁近傍にその端縁の長手方向に沿って非貫通型の複数のリベットを打ち込んで機械的に締結・接合する異種金属パネルの接合方法であって、
少なくともいずれか一方の金属パネルの接合面にループ状の軌跡をもって接着剤を連続的に塗布して、複数のループ状の接着剤ビードが略眼鏡状に且つ直列に並んだ接着剤層を予め形成する接着剤塗布工程と、
双方の金属パネル同士の重合部のうちループ状の接着剤ビードの中央部に相当する位置にその接着剤ビードと接触しないようにリベットを打ち込んで機械的に締結・接合する接合工程と、
を含むことを特徴とする異種金属パネルの接合方法。
【請求項9】
上記ループ状の接着剤ビードは、金属パネルまたはリベットに接触してそのリベットの打ち込みに関与する打ち込み治具の加圧範囲よりも外側に位置する大きさのものとして形成することを特徴とする請求項8に記載の異種金属パネルの接合方法。
【請求項10】
上記ループ状の接着剤ビードの形状は、接着剤ビードそのものの並設方向を長径とする長円形のものであることを特徴とする請求項8または9に記載の異種金属パネルの接合方法。
【請求項11】
上記非貫通型のリベットがセルフピアスリベットであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の異種金属パネルの接合方法。
【請求項12】
アルミニウム系金属パネルが自動車の車体のルーフパネルであり、非アルミニウム系金属パネルが自動車の車体のスチール製のボデーサイドパネルであることを特徴とする請求項11に記載の異種金属パネルの接合方法。
【請求項13】
ルーフパネルを上側としたそのルーフパネルとボデーサイドパネルとの重合部において、セルフピアスリベットの打ち込み完了後に、ルーフパネルの端縁に沿って接着剤とは別のシールビードをすみ肉状に塗布する工程を含んでいることを特徴とする請求項12に記載の異種金属パネルの接合方法。
【請求項14】
上記接着剤の塗布作業中または接着剤の塗布作業終了後に金属パネル側の基準位置と接着剤ビードとの相対位置関係をモニタリングし、
そのモニタリング結果に応じて接着剤ビードの適否判定を行うことを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の異種金属パネルの接合方法。
【請求項15】
接着剤が塗布されることになる金属パネルの接合面のうちループ状の接着剤ビードの軌跡となるべき位置またはその近傍に予めマーキングを施しておき、
このマーキングと所定の位置関係となるように接着剤を塗布しながらループ状の接着剤ビードを形成し、
上記接着剤の塗布作業中または接着剤の塗布作業終了後に上記マーキングと接着剤ビードとの相対位置関係をモニタリングし、
そのモニタリング結果に応じて接着剤ビードの適否判定を行うことを特徴とする請求項14に記載の異種金属パネルの接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−321880(P2007−321880A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153002(P2006−153002)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】