説明

疎水化処理方法、疎水化処理装置、塗布、現像装置及び記憶媒体

【課題】加熱板上に基板を載置して基板の加熱処理を行うにあたり、加熱板の温度上昇及び温度降下を速やかに行うことができる熱処理装置を提供すること。
【解決手段】基板を載置して加熱するための加熱板と、温調媒体の温度に応じて前記加熱板を温調するための加熱板温調部と、制御部と、を備え、前記制御部は、加熱板の温度を任意の温度からその温度よりも高い第1の温度に変更するために、加熱板温調部の流路にその第1の温度よりも高い温度に温調された温調媒体を供給する一方で、加熱板の温度を任意の温度からその温度よりも低い第2の温度に変更するために、加熱板温調部の前記流路にその第2の温度よりも低い温度に温調された温調媒体を供給するように媒体温調手段と及び供給手段の動作を制御するように構成して加熱板の昇温及び降温を速やかに行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハやLCD(液晶ディスプレイ)などの基板の表面を疎水化処理する疎水化処理方法、その方法を実施する疎水化処理装置、その疎水化処理装置を含む塗布、現像装置及び前記方法を実施するプログラムが記憶された記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやLCD基板等の製造プロセスにおける、レジストパターンの形成処理の一連の工程の一つとして、基板例えば半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)に対する疎水化処理が行われる場合がある。この疎水化処理は、ウエハにレジストを塗布する前に、下地膜とレジスト膜との密着性を向上させるために行われるものであり、ウエハの表面に対して例えばHMDS(ヘキサメチルジシラザン)の蒸気を吹き付けることにより行う。
【0003】
図16(a)、(b)はHMDSガスが供給されたときのウエハW表面の変化を示しており、これらの図に示すようにHMDS分子がウエハW表面の水酸基と化学反応し、前記水酸基がトリメチルシラノール基に置換されることでウエハWの表面が疎水化される。
【0004】
ところで、前記レジストパターンを形成するにあたり、微細な線幅を形成するために液浸露光と呼ばれる露光手法が行われる場合がある。液浸露光について簡単に説明すると、図17(a)に示すように露光手段1の露光レンズ11とウエハWとの間に例えば純水からなる光を透過する液膜12を形成し、そして図17(b)に示すように露光手段1を横方向に移動させて次の転写領域(ショット領域)11Aに対応する位置に当該露光手段1を配置し、光を照射する動作を繰り返すことにより、レジスト膜14に所定の回路パターンを転写する露光方式である。図中13A,13Bは、夫々液膜12を形成するための液供給路、排液路であり、また、転写領域11Aは実際よりも大きく示している。このように液浸露光においてはウエハW表面が液膜12を形成するための液流の影響を受けるので、レジスト膜14がウエハWから剥離しやすく、特にレジスト膜14の縁部が形成されているウエハWのベベル部(外周部端面)ではその剥離が起こりやすく、それを防ぐために上記の疎水化処理を行うことが有効である。
【0005】
HMDSを用いて上記の疎水化処理を行う疎水化処理装置としては、例えば基板を載置するための載置台をその内部の処理空間に備えた処理容器と、この処理容器にガス流路を介して接続された、HMDS液が貯められた貯留タンクと、処理空間を排気する排気手段と、を備えており、前記載置台はウエハWを加熱するために自在にその温度が調整できるようになっている。そして、前記貯留タンクには例えばN2(窒素)ガスが供給されそのN2ガスによりHMDS液が気化されてHMDSガスが生じるようになっており、さらにそのN2ガスがキャリアガスとなって生成したHMDSガスが前記ガス流路を介してウエハWの中央部上に供給されるようになっている。また、N2ガスはHMDSガスとの混合ガスとしてウエハWに供給される他に、単独でもウエハWの中心上に供給できるように構成されている。
【0006】
この疎水化処理装置によりウエハWに疎水化処理が行われる様子について、図18及び図19を参照しながら説明する。図18は疎水化処理中における載置台の温度の変化、ウエハの温度の変化を実線、点線で夫々示したグラフであり、図19は太い矢印16で示すN2ガス流に乗ったHMDS分子17がウエハWに供給されて、ウエハWの表面状態が変化する様子を示している。なお、上述のように実際にはHMDS分子はウエハの水酸基と反応すると反応物が生成し、その反応物によりウエハW表面が疎水化されるが、図示の便宜上この反応物もHMDS分子17として示している。
【0007】
先ず、図中の時刻r1にてウエハWが例えば90℃〜110℃に加熱された載置台18上に載置され、例えば塗布、現像装置が設けられたクリーンルームの温度である23℃からその載置台の温度と略同じ温度に加熱される(図19(a)、ステップQ1)。そして、N2ガスとHMDSガスとの混合ガスがウエハWの中心に供給され、その混合ガスはウエハWの外周側から排気されることによってウエハWの周縁へと行き渡り、上記のようにHMDS分子17がウエハW表面の水酸基と反応してウエハW表面が疎水化される。また、その疎水化されたウエハW表面のHMDS分子17には分子間力により他のHMDS分子17がさらに吸着し、ウエハW表面に前記HMDS分子17が積層された分子層19が形成される(図19(b)、ステップQ2)。この分子層19は加熱されることで熱エネルギーの供給を受けて分子層19を構成するHMDS分子17同士の結合は弱まっており、例えば新たにウエハW表面に供給されたHMDS分子17が分子層19に吸着すると共に他のHMDS分子17に吸着した分子層19を構成するHMDS分子17が当該分子層19から離脱する状態になる。
【0008】
時刻r2にてウエハWに供給されるガスをHMDSガスとN2との混合ガスからN2ガスのみへと変更し、この切り替わったN2ガスが前記混合ガスと同様にウエハWの中心から周縁部へと流れる。新たなHMDS分子17が供給されなくなった分子層19においては当該分子層19からHMDS分子17の遊離がすすむと共にそれらの遊離した分子17がN2ガス流に乗って排気され、分子層19のHMDS分子17はウエハWの水酸基と反応した下層の一層のみを残してウエハW表面から除去される(図19(c)、ステップQ3)。その結果として、ウエハWには一層のHMDS分子17により構成される分子層1Aが形成される(図19(d)、ステップQ4)。続いて時刻r3にてウエハWは、載置台から搬送手段に受け渡され、その搬送手段の冷却機構により冷却される。時刻r1r2間、時刻r2r3間は、例えば夫々30秒、10秒である。上記のようにウエハWの水酸基と反応せずに当該ウエハWに付着したHMDS分子17を除去するのは、そのHMDS分子17が水と反応するため、ウエハWの十分な疎水性が得られなくなってしまうことを防ぐこと及び後述するようにこのHMDS分子17からアミンの発生を抑えることを目的とする。
【0009】
ところで、上述のようにウエハWのベベル部においてレジストが剥がれやすいことから、このウエハWの疎水化を行うにあたってはHMDSガスを当該ベベル部にまで十分に行き渡らせて疎水化を行う必要がある。しかし上述のようなプロセスで処理を行うと、ウエハにHMDSガスとN2ガスとの混合ガスを供給するときにウエハWが加熱されているので、図19(a)、(b)に矢印で示すようにウエハWから上昇気流が発生している。従って、前記混合ガスはこの上昇気流に逆らってウエハWに供給することになる。また、HMDSガスのような処理ガスは温度の高いところから低いところへと流れやすい性質があるため、上記のような温度にウエハWが加熱されているとHMDS分子17がウエハW表面に十分に行き渡らず、HMDS分子17がウエハ表面と反応し難い。従って、ベベル部を含むウエハWの面内に均一な疎水化処理を行おうとすると、HMDSガス及びN2ガスを多量に供給する必要がある。
【0010】
また、図16に示すようにHMDS分子17がウエハWの水酸基と反応するとアミンが発生するが、HMDS分子17は処理雰囲気中の水分と反応した場合にも同様にアミンを発生するのでHMDSガスの供給量が多くなると、このアミンの発生量も増え、そして、アミンの発生量が多くなると、処理容器から当該アミンが漏れ出し、例えば塗布、現像装置内を搬送中のレジスト膜が既に形成されたウエハに作用し、レジストを変質させて現像欠陥を引き起こすおそれがある。疎水化処理装置の処理容器としては、構成部品の数、構造の複雑化、装置の組み立ての手間及び調整の手間を抑える目的から、その内部のHMDSガスが供給される処理空間が密閉されない構造のものを用いることが検討されているが、このような処理容器を用いた場合には上記のアミンが漏洩する可能性が高くなってしまうおそれがある。さらに、HMDSガスの供給量が多いと疎水化処理に要するコストも高くなるという問題がある。
【0011】
特許文献1には基板にレジスト塗布前に密着材を塗布することは記載されているが、その後基板を加熱することについては記載されておらず、上記の問題を解決できるものではない。
【0012】
【特許文献1】特開平7−235084(段落0026など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような問題に基づいてなされたものであり、その目的は、被処理体に疎水化処理ガスを供給して疎水化処理を行うにあたり、疎水化処理ガスの供給量を抑えることができる疎水化処理方法、その疎水化処理方法を実施する疎水化処理装置、その疎水化処理装置を含む塗布、現像装置及び前記方法を実施するプログラムが記憶された記憶媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の疎水化処理方法によれば、
処理容器内の処理空間に設けられた載置台に被処理体を載置する工程と、
前記載置台に載置された前記被処理体を疎水化処理ガスが結露しない温度である第1の温度に温調する工程と、
温調された前記被処理体に疎水化処理ガスを供給し、疎水化処理ガスに含まれる分子を被処理体表面と反応させて被処理体表面を疎水化する工程と、
被処理体を第1の温度よりも高い第2の温度に温調し、被処理体表面に供給された余分な前記分子に熱エネルギーを与えると共に処理空間を排気してその余分な分子を被処理体表面から除去する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
疎水化処理ガスは例えばヘキサメチルジシラザンガスであり、その場合、前記第1の温度は30℃以下であり、さらに前記第1の温度は例えば10℃以上であり、前記第2の温度は例えば85℃以上である。また、余分な分子を被処理体表面から除去する工程は、被処理体を温調すると共に被処理体の表面に表面パージガスを供給することにより行われてもよい。
【0016】
本発明の疎水化処理装置は、処理容器内の処理空間に設けられ、被処理体を載置する載置台と、
載置台に載置された被処理体を温調する温調手段と、
前記被処理体に疎水化処理を行うための疎水化処理ガスを供給する疎水化処理ガス供給手段と、
前記処理空間を排気する排気手段と、
前記温調手段、各疎水化処理ガス供給手段及び排気手段の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
載置台に載置された被処理体を疎水化処理ガスが結露しない温度である第1の温度に温調し、その被処理体に疎水化処理ガスを供給して、被処理体表面を疎水化した後、被処理体を第1の温度よりも高い第2の温度に温調して、処理空間を排気するように、前記温調手段、各疎水化処理ガス供給手段及び排気手段の動作を制御することを特徴とする。
【0017】
例えば、前記被処理体に供給された余分な処理ガスを除去するための表面パージガスを供給する表面パージガス供給手段を備え、
前記制御部により、温調手段を介して余分な分子に熱エネルギーを与えると共に表面パージガスを被処理体に供給するように表面パージガス供給手段の動作が制御される。
【0018】
本発明の塗布、現像装置は、被処理体は基板であり、
当該基板を収納したキャリアが搬入されるキャリアブロックと、
前記キャリアから取り出された基板の表面に上述の疎水化処理方法を行う疎水化処理部、疎水化処理された基板の表面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する塗布部及び前記レジスト膜が形成された基板を露光した後で当該基板を現像する現像部を含む処理ブロックと、
この処理ブロックとレジストが塗布された基板を露光する露光装置との間で基板の受け渡しを行うインターフェイスブロックと、
を含むことを特徴とする。前記露光は例えば、基板表面に液膜を形成し、この液膜を介して露光を行う液浸露光である。
【0019】
本発明の記憶媒体は、被処理体を加熱する疎水化処理装置に用いられるコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、上述の疎水化処理方法を実施するためのものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は前記被処理体を疎水化処理ガスが結露しない温度である第1の温度に温調して疎水化処理ガスを供給し、続いて被処理体を第1の温度である第2の温度に温調して、被処理体表面に供給された被処理体表面の余分な前記分子に熱エネルギーを与えて、その余分な分子を被処理体表面から除去する。このように疎水化処理を行うことで後述する評価試験に示すように、従来の疎水化処理を行った場合に比べて被処理体に供給する疎水化処理ガスの量を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係る疎水化処理装置2についてその縦断側面図、横断平面図である図1、図2を参照しながら説明する。この疎水化処理装置2は、被処理体例えば酸化シリコンなどからなるウエハWについて後述のステップに従って疎水化処理を行うものであり、ウエハWの搬送口22、22がその側面に形成された筐体21内に上部側が開口する容器本体3と、この容器本体3の上部開口を覆うように設けられた蓋体4とからなる扁平な円形状の処理容器30を備えている。
【0022】
前記容器本体3はその周縁部をなす側壁部31と、その側壁部31に囲まれる底壁部32と、を備えており、その内部には底壁部32にて支持されるようにウエハWが載置される載置台5が設けられている。前記載置台5の内部には温調手段であるヒータ51が設けられており、後述の制御部7から送信される制御信号に従ってその載置台5を任意の温度に制御し、載置台5に載置されたウエハWの温度がその載置台5の温度と同じ温度に制御される。図には示していないが載置台5はその内部に冷媒を流通させたり、冷却用のガスを供給するなどして、その温度を急速に低下させるための冷却機構を設けてもよい。
【0023】
載置台5の表面52にはウエハWの裏面を支持し、ウエハWを載置台5の表面52から若干離れた状態で水平に保つためのピン50が形成されている。載置台表面52からピン50の先端までの高さは例えば0.1mmである。また、載置台表面52には多数のガス吐出口53が開口しており、これらのガス吐出口53はウエハWの裏面に裏面パージガスとしてN2ガスを吐出して、当該裏面にHMDSガスがまわりこむことでこの裏面が疎水化処理されることを抑える。このように裏面の疎水化を抑えることで、ウエハW裏面に付着したHMDS分子がパーティクルとして飛散することが抑えられる。その役割を有効に果たすために、各ガス吐出口53は、載置台5の周方向に沿って等間隔に形成され、載置台5の中心側の領域から周縁側の領域に向かうほど、その数が多くなるように形成されており、裏面の各部に高い均一性を持ってN2ガスを供給することができるようになっている。吐出口53の径は例えば1.0mmである。
【0024】
各ガス吐出口53は、載置台5の内部に設けられたガス流路54(図1では便宜上図示していない)に連通しており、ガス流路54は載置台5に接続されたガス供給管61を介してN2ガスが貯留されたガス供給源6に接続されている。図中56は後述する冷却プレート25と載置台5との間でウエハWの受け渡しを行なうための3本の昇降ピンであり、昇降機構57により図中の孔56aを介して昇降自在に構成されている。図中58は、昇降機構57の周囲を囲むカバー体である。
【0025】
蓋体4は、その周縁部をなす側壁部41と、その側壁部41に囲まれる上壁部42とを備えており、処理容器30内にウエハWの搬入を行うことができるように、昇降機構23により昇降自在に構成されている。容器本体3の側壁部31の上面に蓋体4の側壁部41の下面が例えば0.5mm〜2mm程度の隙間40を介して接近した状態で、前記容器本体3を蓋体4で覆うことにより、容器本体3の上部側開口が蓋体4により閉じられ、容器本体3と蓋体4との間に処理空間20が区画形成され、疎水化処理が行われるようになっている。
【0026】
前記載置台5上のウエハWに対して、前記処理空間20の中央上部からHMDSガス及びN2ガスを供給するように、例えば前記蓋体4の裏面側中央部に処理ガス供給部43が設けられている。処理ガス供給部43は上方側に比べて下方側が縮径された円柱形状に形成されており、その下方側の周面に処理空間20の径方向に向かって疎水化処理ガスであるHMDSガス及びN2ガスを吐出する多数の処理ガス供給孔44が互いに間隔をおいて形成されている。蓋体4にはこの処理ガス供給孔44に前記各ガスを供給するガス供給管62の一端が接続されている。
【0027】
また蓋体4の側壁部41には、処理空間20の周方向に沿って環状の空間であるバッファ室45が形成されており、このバッファ室45には、本体部3の側壁部31にその下流端が当該バッファ室45に開口するように形成されたガス供給路33を介してNガスが供給され、前記N2ガスが一旦溜められるようになっている。容器本体3の下部には、前記ガス供給路33の上流端と接続されるように、容器本体3の周方向に沿って設けられたガス供給室34を介してガス供給管63の一端が接続されている。
【0028】
バッファ室45のガスは、当該バッファ室45の内側領域における容器本体3の周縁部と蓋体4の周縁部との間に設けられた高さ1mm〜3mm程度の環状のガス供給路36に流入するか、またはバッファ室45に接続された排気管46を介して例えば疎水化処理装置2が設けられる工場の排気路に流入するようになっている。
【0029】
また、前記蓋体4の側壁部41には、前記載置台5上のウエハWよりも外側領域から処理空間20内を排気するための多数の排気孔47が蓋体4の周方向に沿って開口しており、排気孔47は蓋体4に接続された排気管48に連通している。排気管48は不図示の圧力制御手段を備えた真空ポンプなどにより構成される排気手段49に接続されており、排気手段49が制御部7からの制御信号を受けて所定の排気量で処理空間20内の排気を行う。
【0030】
前記ガス供給管62の上流側は疎水化処理ガス供給手段を構成するガス供給管64、表面パージガス供給手段を構成するガス供給管65に夫々分岐し、ガス供給管64の上流端はHMDS液70が貯留された貯留タンク71の気相部72に開口しており、ガス供給管65の上流端は前記N2ガス供給源6に接続されている。また、貯留タンク71の気相部72にはHMDS液気化用ガス供給管66の一端が開口し、HMDS液気化用ガス供給管66の他端はN2ガス供給源6に接続されており、ガス供給管66からN2ガスが貯留タンク71内に供給されることで、タンク71内のHMDS液が気化してHMDSガスとなり、このHMDSガスと前記気化に用いられたN2ガスがガス供給管64、62を介して処理空間20に供給される。前記N2ガスはHMDSガスのキャリアガスの役割を果たしている。図中73は貯留タンク71にHMDS液を供給するためのHMDS液供給源であり、液供給管74を介して貯留タンク71に接続されている。
【0031】
N2ガス供給源6に接続されるガス供給管61、63、65、66には、バルブやマスフローコントローラからなるガス供給機器群67が介設されており、制御部7から送信される制御信号に基づいてN2ガスの給断を管毎に独立して制御する。これによってガス吐出口53、バッファ室45、処理空間20へのN2ガスの供給量が独立して制御され、またHMDSガスの処理空間20への供給量が制御される。
【0032】
図3は、ウエハWに疎水化処理ガスとしてHMDSガス及びN2ガスの混合ガスが供給されるときの処理容器30内における各ガスの流れを示したものである。前記混合ガスを供給する前に予めバッファ室45に所定の流量でN2ガスを供給し、且つ処理空間20が負圧になるように排気孔47から所定の排気量で排気が行われ、バッファ室45のN2ガスが排気孔47に流入して除去される状態にしておく。
【0033】
然る後、処理ガス吐出孔44から前記混合ガスが処理空間20内に供給されると共にガス供給管61に例えば0.2L/分でN2ガスが供給され、裏面側パージガス吐出孔53から吐出する。ウエハWの表面側、裏面側に夫々吐出された混合ガス、N2ガスは、ウエハWの外方に位置する前記排気孔47から排気されているので、夫々ウエハWの中央側から外縁部側に向かって拡散して排気孔47から除去される。このとき混合ガスはウエハWの裏面側に形成されるN2ガスの気流によりウエハWへの回り込みが抑えられ、混合ガス中に含まれるHMDSガスに接触するウエハW表面からベベル部にかけての領域が疎水化される。処理ガス吐出孔44から表面側パージガスとしてN2ガスが単独で供給される場合も混合ガスが供給される場合と同様のガス流が処理容器30内に形成されるが、このときパージガス吐出孔53からはN2ガスが吐出されない。
【0034】
図中24は、筐体21内を上下に仕切る仕切り板であり、この仕切り板24上を搬送口22が形成された手前側と処理容器30が設けられた奥側との間で冷却プレート25が移動できるようになっている。冷却プレート25には冷媒が流通する不図示の流路が形成されており、冷却プレート5は載置台5から受け渡されたウエハWを冷却する役割を有する。また、図中26は冷却プレート25と図示しない外部の搬送機構との間でウエハWの受け渡しを行うための昇降ピンであり、仕切り板24に穿孔された孔26aを介して昇降機構28により冷却プレート25上に突没自在に構成されている。
【0035】
疎水化処理装置2は制御部7により制御されるように構成されている。この制御部7は例えばコンピュータからなり、プログラム、メモリ、CPUを備えている。前記プログラムには制御部7から疎水化処理装置2の各部に制御信号を送り、疎水化処理を進行させるように命令(各ステップ)が組み込まれている。このプログラムは、コンピュータ記憶媒体例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)等の記憶部に格納されて制御部7にインストールされる。
【0036】
続いて疎水化処理装置2を用いて行う疎水化処理方法について図4、図5、図6を参照しながら説明する。図4は疎水化処理における各ステップを示したフローチャートであり、図5は疎水化処理を行う際の載置台5の温度変化、ウエハWの温度変化を夫々実線、点線で示したグラフである。図6は図中太い矢印で示すN2ガス流76に乗ってウエハW表面に供給されたHMDS分子75の状態を示した説明図である。この図6においては、背景技術の欄の説明と同様にHMDS分子からの反応生成物も図示の便宜上HMDS分子75として示している。
【0037】
先ず、ヒータ51により載置台5の温度が、ウエハWにHMDS分子を反応(吸着)させる第1の温度である例えば23℃に制御される(ステップS1)。不図示の搬送機構によりウエハWが疎水化処理装置2の筐体21内に搬入されると、昇降ピン26を介してそのウエハWが冷却プレート25に受け渡され、蓋体4が上昇し、冷却プレート25が処理容器30へと移動する。冷却プレート25から昇降ピン63を介してウエハWが載置台5に受け渡され(ステップS2)、冷却プレート25が搬送口22側に戻ると、蓋体4が下降してウエハWの周囲に区画された処理空間20が形成される(ステップS3)。
【0038】
ウエハWの温度がその載置台5の温度に従って23℃に保たれる。その一方で上記のようにバッファ室45にN2ガスが所定の流量で供給され、それに若干遅れて処理空間20が負圧になるように排気孔47から所定の排気量で排気が行われ、バッファ室45のN2ガスが処理空間20側に引き込まれて、排気孔47に流入し、本体部31の側壁部31と蓋体4の側壁部41との間に処理空間20とその外部空間とを区画するN2ガス流が形成される。
【0039】
その後、図5のグラフ中の時刻t1にてN2ガス供給源6からHMDS液貯留タンク71に所定の流量でN2ガスが供給され、貯留タンク71内の内圧が高まり、HMDS液70が気化して、タンク71内に供給されたN2ガスに対応する量のHMDSガスが生成し、そしてHMDSガスとタンク71内に供給されたN2ガスとからなる混合ガスが、ガス供給管64、62を介してウエハWの表面中央部に供給される(ステップS4)。また、前記混合ガスの供給と略同時にガス供給管61を介して裏面側パージガス吐出孔53からN2ガスが供給される。
【0040】
このとき、ウエハWは上記の温度に保たれているため、背景技術の欄に示したように90℃〜110℃程度に加温した状態でHMDSガスを供給する場合に比べて、ウエハWからの上昇気流の発生が抑えられており、従ってN2ガス流76中に含まれるHMDS分子75はその上昇気流による抵抗が抑えられた状態でウエハWに供給され、ウエハW中央部からその周縁部へと流れる(図6(a))。
【0041】
そして、ウエハW表面を流れるHMDS分子75が背景技術の欄で説明したようにウエハW表面の水酸基と反応して、ウエハWの中央部からベベル部にかけての領域が疎水化され、さらにウエハWの表面と反応したHMDS分子75上にはHMDS分子75が吸着して、積層したHMDS分子75からなる分子層77が形成される(図6(b))。既述したようにHMDSガスは温度の高い場所よりも低い場所へと移動しやすいため、このとき上記のようにウエハWが90℃程度に加温されている場合に比べてHMDS分子75はウエハW表面に接しやすく、ウエハ表面の水酸基との反応が起こりやすくなっている。
【0042】
然る後、図5中の時刻t2にて載置台5の温度を上昇させる(図6(c)、ステップS5)。そして、載置台5の温度が第1の温度よりも高い第2の温度である例えば90℃に上昇し、ウエハWの温度がその載置台5の温度に追従して90℃に上昇する。この過程で、分子層77を構成するHMDS分子75に熱エネルギーが供給され、HMDS分子75間の結合力が弱まる。HMDS分子75が上記のようにウエハWと反応しやすくなっていることから、このウエハWを23℃に保った状態でHMDSガスを供給する時間は短時間でよく、時刻t1t2間は例えば3秒である。
【0043】
続いて時刻t3にて前記HMDSガスとN2からなる混合ガスの供給を停止し、N2ガス供給源6からガス供給管65、62を介して、表面パージガスとしてN2ガスが単独で例えば3〜4L/分でウエハWの中央部に供給される(ステップS6)。この単独のN2ガスは前記混合ガスと同様に排気孔47に吸引されることでウエハWの中央部から周縁部へと向かうガス流78を形成する。上記のようにHMDS分子75同士の結合力が弱まり、分子層77においてウエハW表面の水酸基と反応したHMDS分子75を除いたHMDS分子75はウエハW表面から遊離し、前記N2ガス流78に乗ってウエハWから除去される(図6(d))。一方、ウエハWの水酸基とHMDS分子75との結合力はその分子75同士の結合力よりも強いため、ウエハWと直接結合したHMDS分子75のみがウエハW上に1層の分子層79として残る(図6(e))。時刻t2t3間は例えば10秒である。
【0044】
図5中時刻t4にて処理ガス吐出口からのN2ガスの供給が停止すると共にヒータ51への供給電力が低下し、載置台5の温度が低下する。続いて排気孔47からの排気量が減少し、蓋体4が上昇して、昇降ピン56を介して冷却プレート25にウエハWが受け渡される(ステップS7)。ウエハWはその熱が冷却プレート25に奪われることで冷却され、装置2への搬入時とは逆の動作で外部の搬送機構に受け渡されて、装置2から搬出される。載置台5の温度は23℃に制御される。上記のように載置台5に冷却機構を設けた場合、前記時刻t4と載置台の温度が23℃に戻る時刻t5間は例えば20秒である。
【0045】
然る後、後続のウエハWが先のウエハWと同様に装置2に搬入され、同様の手順で処理容器30に搬入され、時刻t6で時刻t1と同様にHMDSガスとN2ガスの供給処理が行われ、以降は先のウエハWと同様に上記の各ステップSに従って疎水化処理が行われる。
【0046】
この疎水化処理方法によれば、23℃にウエハWの温度が制御された状態でHMDSガスをウエハW表面に供給し、その後ウエハWの余分なHMDS分子を除去するためにウエハWの温度を90℃以上に上昇させている。従ってHMDSガス供給時にはウエハWからの上昇気流が抑えられており、またウエハ表面の温度が低い方が、HMDS分子がウエハ表面に吸着しやすいことから、従来のようにウエハWを90℃程度の高温に昇温させた状態でHMDSガスを供給する手法に比べて少ない量、短い時間でウエハW表面全体にHMDSガスを行き渡らせ、疎水化処理を行うことができるため、HMDSガス及びそれのキャリアガスであるN2ガスの供給量を抑えることができる。従って処理容器30内の圧力が高くなることを抑え、処理容器30内からその外部空間へのHMDSガス及びHMDSガスから生成するアミンの漏洩を抑えることができる。特に上記の処理容器30は、HMDSガスが供給される処理空間20を構成する壁面に処理容器30の外部空間と連通する隙間40が設けられておらず、密閉容器となっていないため、このようにHMDSガスの供給量を抑えることは、上記のHMDSガス及びアミンの漏洩を抑える観点から特に有効である。
後述のようにこの疎水化処理装置2を塗布、現像装置に適用した場合は、ウエハ表面に形成されたレジスト膜へのHMDSから生じるアミンの影響を抑えることで、パターン欠陥の発生を抑えることができるため、特に有効である。
【0047】
また、上記のようにHMDSガス及びそのキャリアガスとして使用されるN2ガスの使用量が抑えられるので、疎水化処理のためのコストが上昇することを抑えることができる。また、上述のステップS4においては余分なHMDS分子75を除去するにあたり、表面パージガスであるN2ガスの供給を行わなくてもよいが、このN2ガスを供給することで余分なHMDS分子75をより確実に除去することができるため好ましい。
【0048】
上記の疎水化処理方法は、図7に示すような容器本体82、蓋体83間に隙間が設けられない密閉構造を有する処理容器81を備えた疎水化処理装置8を用いて行ってもよい。前記蓋体83は、容器本体82に対して相対的に昇降する。図示は省略しているが疎水化処理装置2と同様に配管系が構成され、HMDSガス及びN2ガスからなる混合ガスと単独のN2ガスとが独立してガス供給路84を介して処理空間85に供給されるようになっている。図中86は処理容器81の中央下部の排気孔であり、87は排気孔86に接続された排気管である。各ガスのウエハWへの供給、処理空間85の排気量、載置台5によるウエハの加熱温度は、疎水化処理装置2と同様に制御部7により制御される。
【0049】
上記の疎水化処理装置8では、処理空間85が常圧の状態で各ガスが供給されて、上記の一連のステップSに従って疎水化処理が行われてもよいし、排気手段49により処理空間85が減圧された状態で一連のステップSが実行されて疎水化処理が行われてもよい。またHMDSガスの処理容器内への供給方法としては上述のように貯留タンクにN2ガスを供給して気化させ、N2ガスと共に供給することに限られない。
【0050】
続いて上述の疎水化処理装置2の塗布、現像装置への適用例について図8、図9、図10を用いて説明する。図8、図9、図10は夫々塗布、現像装置9の平面図、斜視図、概略縦断側面図である。図中B1はウエハWが例えば25枚密閉収納されたキャリアCを搬入出するためのキャリアブロックであり、キャリアCを複数個載置可能な載置部92を備えたキャリアステーション91と、このキャリアステーション91から見て前方の壁面に設けられる開閉部93と、開閉部93を介してキャリアCからウエハWを取り出すための受け渡し手段A1とが設けられている。
【0051】
キャリアブロックB1の奥側には筐体94にて周囲を囲まれる処理ブロックB2が接続されており、この処理ブロックB2には手前側から順に加熱・冷却系のユニットを多段化した棚ユニットU1,U2,U3と、後述する塗布・現像ユニットを含む各処理ユニット間のウエハWの受け渡しを行う主搬送手段A2,A3とが交互に配列して設けられている。即ち、棚ユニットU1,U2,U3及び主搬送手段A2,A3はキャリアブロックB1側から見て前後一列に配列されると共に、各々の接続部位には図示しないウエハ搬送用の開口部が形成されており、ウエハWは処理ブロックB2内を一端側の棚ユニットU1から他端側の棚ユニットU3まで自由に移動できるようになっている。
【0052】
また主搬送手段A2,A3は、キャリアブロックB1から見て前後方向に配置される棚ユニットU1,U2,U3側の一面部と、後述する例えば右側の液処理ユニットU4,U5側の一面部と、左側の一面をなす背面部とで構成される区画壁95により囲まれる空間内に置かれている。また図中96、97は各ユニットで用いられる処理液の温度調節装置や温湿度調節用のダクト等を備えた温湿度調節ユニットである。
【0053】
液処理ユニットU4,U5は、例えば図9に示すようにレジスト液や現像液といった薬液供給用のスペースをなす収納部98の上に、前記レジストを塗布して成膜する塗布部である塗布ユニットCOT、現像部である現像ユニットDEV等を複数段例えば5段に積層した構成とされている。また上述の棚ユニットU1,U2,U3は、液処理ユニットU4,U5にて行われる処理の前処理及び後処理を行うための各種ユニットを複数段例えば10段に積層した構成とされており、ウエハWを加熱(ベーク)する加熱ユニット、ウエハWを夫々所定の温度に冷却する冷却ユニットCPL、各ユニット間でウエハの受け渡しを行うための受け渡しステージ(TRS)等が含まれる。加熱ユニットとしてはレジスト塗布後、露光前に加熱するPAB、液浸露光されたウエハWを現像前に加熱するPEB及び現像後のウエハWを加熱するPDBがあり、夫々ウエハWを所定の温度に加熱する。また、例えば棚ユニットU1には上述の疎水化処理装置2または8に対応する疎水化処理モジュール(ADH)が含まれている。
【0054】
処理ブロックB2における棚ユニットU3の奥側には、例えば第1の搬送室101及び第2の搬送室102からなるインターフェイスブロックB3が設けられている。第1の搬送室101、第2の搬送室102には処理ブロックB2と露光装置B4との間でウエハWの受け渡しを行うための受け渡し手段A4、A5が夫々設けられている。第1の搬送室101にはウエハWの受け渡しステージTRS,高精度温度調整モジュールICPLが積層された棚ユニットU6と、露光装置B4に搬入する前にウエハWを一時滞留させるバッファモジュールBMとが設けられており、これらのモジュール及びステージ間で受け渡し手段A4はウエハWの受け渡しができるようになっている。
【0055】
第2の搬送室102の受け渡し手段A5は第1の搬送室101の受け渡しステージTRSと露光装置B4の搬入ステージ103と、搬出ステージ104との間でウエハWの受け渡しを行う。露光装置B4は、搬入ステージ103に搬入されたウエハWに対して液浸露光を行い、液浸露光を終えたウエハWは搬出ステージ104に載置される。
【0056】
続いて塗布、現像装置9のウエハWの搬送経路について説明する。先ず外部からウエハWの収納されたキャリアCが載置部92に載置されると、開閉部93と共にキャリアCの蓋体が外されて受け渡し手段A1によりウエハWが取り出される。そしてウエハWは棚ユニットU1の一段をなす受け渡しステージTRSを介して主搬送手段A2へと受け渡された後、主搬送手段A2により冷却ユニットCPL→疎水化処理モジュールADHの順に搬送され、疎水化処理モジュールADHにて上述のステップSに従って疎水化処理を受ける。その後、主搬送手段A2→冷却ユニットCPL→主搬送手段A2→塗布ユニットCOTの順に搬送され、そのCOTにてレジストが塗布され、ウエハWの表面にレジスト膜が形成される。
【0057】
続いてウエハWは主搬送手段A2→加熱ユニットPAB→主搬送手段A3→CPL→受け渡し手段A4→バッファモジュールBMの順で搬送され、そのバッファモジュールBMで一時滞留された後、受け渡し手段A4→棚ユニットU6のICPL→棚ユニットU6のTRS→受け渡し手段A5→露光装置B4の搬入ステージ103へ搬入され、然る後ウエハWは露光装置B4内の所定の場所にて液浸露光される。背景技術の欄で説明したように、このように液浸露光を行う場合、レジスト膜が特にウエハWのベベル部にて剥がれやすくなるので前記疎水化処理を行うことが有効である。
【0058】
液浸露光を終えたウエハWは露光装置B4の搬出ステージ104に載置され、受け渡し手段A5→棚ユニットU6のTRS→受け渡し手段A4→棚ユニットU3のPEB→主搬送手段A3→現像ユニットDEVに搬送されて現像処理を受けてレジストパターンが形成される。然る後ウエハWは、主搬送手段A3→加熱ユニットPDB→主搬送手段A2→冷却ユニットCPL→主搬送手段A2→棚ユニットU1の受け渡しステージTRS→キャリアアームA1の順に搬送され、キャリアアームA1により元のキャリアCへと戻される。
【0059】
(評価試験)
評価試験として上記の疎水化処理装置8を用いて、背景技術の欄に示した従来の疎水化処理よりも有効な疎水性を得るための上記各ステップSにおけるウエハの加熱温度や処理時間の検証を行った。この評価試験においてはウエハWをヒータ51により加熱する代わりに、図11に示すように載置台5上にPIとSUS箔とにより構成される試験用のヒータ111、直径100mmの円形の熱板112、直径30mmの評価用ウエハVを下からこの順に積層し、ヒータ111により熱板112を介してウエハVが加熱されるようにしている。評価用ウエハVの裏面側にはガス吐出口53を介してN2ガスは供給されない。評価用ウエハVの厚さh1、熱板112の厚さh2、ヒータ111の厚さh3は夫々725μm、725μm、100μmである。
【0060】
先ず、予め背景技術の欄で説明した疎水化処理方法に従って評価用ウエハVに疎水化処理を行った。各ステップQにおけるウエハVの加熱温度は90℃、HMDSガス及びN2ガスを供給する時刻r1r2間は30秒、N2ガスのみを供給する時刻r2r3間は10秒に夫々設定した。処理終了後、評価用ウエハVの表面について疎水性の指標となる接触角を調べたところ59.7°であった。接触角が大きいほど疎水性が高く、ウエハ表面においてはこの疎水性が高くなるほど、レジストとの密着性を高めることができるので好ましいため、後述の評価試験1〜3においても各々接触角を測定し、ここで測定した接触角と比較して検証する。また、このときに使用されたHMDS液を測定したところ230μLであった。
【0061】
(評価試験1)
続いて他の複数の評価用ウエハVを用いて実施形態の各ステップSに従って疎水化処理を行い、その表面の接触角を測定した。ただし、ステップS4においてHMDSガスとN2ガスとの混合ガスをウエハV供給するときのウエハVの加熱温度は各ウエハVの処理ごとに異なり、且つ90℃よりも低くなるように設定し、そしてこのステップS4における処理時間(時刻t1t2間)は3秒に設定した。続くステップS5ではウエハVを90℃で25秒間加熱し、さらにステップS6ではウエハVを10秒間90℃で保持した。ただし、このステップS6ではウエハVの表面にパージガスとしてN2ガスを供給しておらず、後述の評価試験2、3のステップS6でもこの表面へのN2ガスの供給は行っておらず、熱エネルギーによってのみ余分なHMDS分子を除去している。また、ステップS4においてHMDS液貯留タンク71へのN2ガスの供給量は4L/minであり、処理終了後HMDS液の使用量を調べると100μLであった。
【0062】
図12は横軸にステップS4におけるウエハWにHMDS分子を吸着させる段階の設定温度(初期温度)をとり、縦軸に上記のように疎水化処理した各ウエハV表面の接触角を取ったグラフである。このグラフに示すように実験の結果、従来の接触角と同等かそれ以上に大きな接触角が得られた。従って本発明の手法によればHMDSガスの使用量を抑えることができることが示された。また、ウエハVが10℃〜30℃に加熱されている場合は従来の疎水化処理を行ったウエハよりもその接触角が大きくなっている。従ってこのような温度設定とすることで、従来よりも良好な疎水性が得られ、より好ましいことが示された。また、このグラフから10℃よりも低い温度にすればウエハVの疎水性がより高くなることが推定できるが、HMDSガスがウエハV表面で結露すると、ウエハの面内においてその結露した箇所と結露していない箇所とで接触角が異なり、ウエハ面内で均一な疎水性が得られなくなってしまうので、ウエハVはHMDSガスが結露する温度よりも高く加熱しておくことが必要になる。10℃ではHMDSガスの結露は見られなかった。
【0063】
(評価試験2)
続いて評価試験1と同様の手順で複数のウエハVについて疎水化処理を行い、処理終了後その表面の接触角を測定した。ただし、ステップS4においてウエハVの処理温度はすべて23℃とし、そのステップS4におけるHMDSガスを含む混合ガスの供給をウエハVに開始してからウエハVの温度を上昇させるまでの処理時間(23℃保持時間)をウエハVごとに変更して処理を行った。各処理終了後HMDS液の使用量を調べると、従来の疎水化処理の使用量である230μLよりも低かった。
【0064】
図13は横軸に前記ステップS4における処理時間をとり、縦軸に上記のように疎水化処理後に測定した各ウエハV表面の接触角をとったグラフである。このグラフに示すように各ウエハVの接触角は、従来の疎水化処理を行ったウエハVの接触角59.7°よりも高かった。従って前記混合ガスの供給をウエハVに開始してからウエハVの温度を上昇させるまでの処理時間は、この評価試験2の中で最も短い時間であった3秒以上であればよいことが示された。
【0065】
(評価試験3)
続いて評価試験1と同様の手順で複数のウエハVについて疎水化処理を行った。ただし、ステップS4においてウエハVの処理温度はすべて15℃とし、そのステップS4における処理時間(23℃保持時間)を10秒とし、ステップS5においてウエハVを夫々異なる温度に昇温させ、ステップS6ではその昇温した温度に所定の時間ウエハWを保持して処理を行った。そして処理終了後に各ウエハVの表面の接触角を測定した。また、各処理終了後HMDS液の使用量を調べると、従来の疎水化処理の使用量である230μLよりも低かった。
【0066】
図14は横軸に前記ステップS5、S6におけるウエハVの加熱温度をとり、縦軸に上記のように疎水化処理した各ウエハV表面の接触角をとったグラフである。このグラフに示すように前記加熱温度が85℃以上であるときにウエハVの接触角は従来の疎水化処理の接触角59.7°よりも高かった。従ってHMDSガス供給後のウエハの加熱温度は85℃以上であれば、従来よりも良好な疎水性が得られるため好ましいことが示された。
【0067】
(評価試験4)
続いて上記の実施形態に従って複数枚のウエハWに疎水化処理を行った。ただし、あるウエハWについてはステップS4おいてウエハWの裏面にガス吐出口53からのガス吐出を行わなかった。そして各ウエハWについて処理終了後、ウエハW裏面の接触角を測定した。図15はウエハWの裏面にN2ガスを吐出してパージを行ったもの、行わなかったもの夫々についての測定結果を示したグラフであり、縦軸に接触角、横軸にウエハWのエッジ(周縁)から中心に向かう距離をとっている。このグラフに示すようにウエハWの裏面にパージガスの供給を行うことで、その裏面の周縁から中心に向かって接触角が低下している。従ってウエハの裏面のパージを行うことでその裏面側へのHMDSガスのまわり込みが抑えられることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の疎水化処理方法を実施する疎水化処理装置の縦断側面図である。
【図2】前記疎水化処理装置の横断側面図である。
【図3】前記処理容器内におけるガスの流れを示した説明図である。
【図4】上記疎水化処理装置による疎水化処理方法の工程を示したフローチャートである。
【図5】本発明の疎水化処理方法における載置台及びウエハ温度の変化を示したグラフである。
【図6】各工程におけるウエハWのHMDS分子の状態を示した説明図である。
【図7】他の疎水化処理装置の一例を示した縦断側面図である。
【図8】前記疎水化処理装置が適用された塗布、現像装置の平面図である。
【図9】前記塗布、現像装置の斜視図である。
【図10】前記塗布、現像装置の概略縦断側面図である。
【図11】評価試験に用いるウエハ及びヒータの構成を示した側面図である。
【図12】評価試験の結果を示したグラフである。
【図13】評価試験の結果を示したグラフである。
【図14】評価試験の結果を示したグラフである。
【図15】評価試験の結果を示したグラフである。
【図16】HMDS分子とウエハ表面の水酸基の反応を示した説明図である。
【図17】液浸露光の説明図である。
【図18】従来の疎水化処理方法における載置台及びウエハ温度の変化を示したグラフである。
【図19】従来の疎水化処理方法におけるウエハW表面の分子の状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0069】
W ウエハ
ADH 疎水化処理モジュール
2 疎水化処理装置
20 処理空間
3 容器本体
30 処理容器
4 蓋体
43 ガス供給部
5 載置台
51 ヒータ
7 制御部
9 塗布、現像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内の処理空間に設けられた載置台に被処理体を載置する工程と、
前記載置台に載置された前記被処理体を疎水化処理ガスが結露しない温度である第1の温度に温調する工程と、
温調された前記被処理体に疎水化処理ガスを供給し、疎水化処理ガスに含まれる分子を被処理体表面と反応させて被処理体表面を疎水化する工程と、
被処理体を第1の温度よりも高い第2の温度に温調し、被処理体表面に供給された余分な前記分子に熱エネルギーを与えると共に処理空間を排気してその余分な分子を被処理体表面から除去する工程と、
を備えたことを特徴とする疎水化処理方法。
【請求項2】
前記疎水化処理ガスはヘキサメチルジシラザンガスであり、前記第1の温度は30℃以下であることを特徴とする請求項1記載の疎水化処理方法。
【請求項3】
前記第1の温度は10℃以上であることを特徴とする請求項2記載の疎水化処理方法。
【請求項4】
前記疎水化処理ガスはヘキサメチルジシラザンガスであり、前記第2の温度は85℃以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の疎水化処理方法。
【請求項5】
余分な分子を被処理体表面から除去する工程は、被処理体を温調すると共に被処理体の表面に表面パージガスを供給することにより行われることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の疎水化処理方法。
【請求項6】
処理容器内の処理空間に設けられ、被処理体を載置する載置台と、
載置台に載置された被処理体を温調する温調手段と、
前記被処理体に疎水化処理を行うための疎水化処理ガスを供給する疎水化処理ガス供給手段と、
前記処理空間を排気する排気手段と、
前記温調手段、各疎水化処理ガス供給手段及び排気手段の動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
載置台に載置された被処理体を疎水化処理ガスが結露しない温度である第1の温度に温調し、その被処理体に疎水化処理ガスを供給して、被処理体表面を疎水化した後、被処理体を第1の温度よりも高い第2の温度に温調して、処理空間を排気するように、前記温調手段、各疎水化処理ガス供給手段及び排気手段の動作を制御することを特徴とする疎水化処理装置。
【請求項7】
前記被処理体に供給された余分な処理ガスを除去するための表面パージガスを供給する表面パージガス供給手段を備え、
前記制御部により、温調手段を介して余分な分子に熱エネルギーを与えると共に表面パージガスを被処理体に供給するように表面パージガス供給手段の動作が制御されることを特徴とする疎水化処理装置。
【請求項8】
被処理体は基板であり、
当該基板を収納したキャリアが搬入されるキャリアブロックと、
前記キャリアから取り出された基板の表面に請求項1ないし5のいずれか一つに記載の疎水化処理方法を行う疎水化処理部、疎水化処理された基板の表面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する塗布部及び前記レジスト膜が形成された基板を露光した後で当該基板を現像する現像部を含む処理ブロックと、
この処理ブロックとレジストが塗布された基板を露光する露光装置との間で基板の受け渡しを行うインターフェイスブロックと、
を含むことを特徴とする塗布、現像装置。
【請求項9】
前記露光は基板表面に液膜を形成し、この液膜を介して露光を行う液浸露光であることを特徴とする請求項8記載の塗布、現像装置。
【請求項10】
被処理体を加熱する疎水化処理装置に用いられるコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、請求項1ないし5のいずれか一つに記載の疎水化処理方法を実施するためのものであることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−194239(P2009−194239A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35098(P2008−35098)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】