説明

発光ダイオード素子被覆用ガラスおよびガラス被覆発光ダイオード素子

【課題】樹脂に替わるLED素子被覆材料およびそのような材料によって被覆されたLED素子の提供。
【解決手段】軟化点が610℃以下、50〜350℃における平均線膨張係数が50×10−7〜85×10−7/℃である発光ダイオード素子被覆用ガラス。B−SiO−ZnO系ガラス、B−SiO−PbO系ガラスまたはB−P−ZnO系ガラスである前記発光ダイオード素子被覆用ガラス。発光ダイオード素子が前記ガラスによって被覆されているガラス被覆発光ダイオード素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ガラスによって発光ダイオード(LED)が被覆されている発光ダイオード素子(LED素子)およびその被覆に用いられるガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白色光源としては白熱電球、蛍光灯等が広く使用されているが、近年、新しいタイプの白色光源としていわゆる白色LED素子が開発され、液晶ディスプレイ用バックライト等への応用が急速に進んでいる。
現在市販されている典型的な1チップ型白色LED素子においては、GaNにInを添加したInGaNを発光層とする量子井戸構造のLEDが、YAG蛍光体を含有する樹脂によって封止されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0003】
この白色LED素子は次のようにして白色光源として機能する。すなわち、LEDに直流電流を流すとLEDから青色光が放出され、一方、当該青色光の一部によってYAG蛍光体が励起されこの蛍光体から黄色光(蛍光)が放出される。この青色光と黄色光は補色関係にあり、これらが入り混じって人間の目に入り加法混色の原理により白色光として見える。
【0004】
【非特許文献1】板東,「白色LEDの開発動向と応用展開」,月刊ディスプレイ 株式会社テクノタイムズ社,2003年4月,第9巻,第4号,p.20−26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように樹脂によってLEDが封止されている白色LED素子には、長期間使用すると水分が樹脂中に浸入しLEDの動作が阻害される、LEDから放出される紫外線または青色光によって樹脂が変色しその光透過率が低下する、等の問題があった。
本発明はこのような問題を有する樹脂に替わるLED素子被覆材料およびそのような材料によって被覆されたLED素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軟化点(Ts)が610℃以下、50〜350℃における平均線膨張係数(以下、この平均線膨張係数をαと記す。)が50×10−7〜85×10−7/℃であるLED素子被覆用ガラスを提供する。
また、LED素子が請求項1または2に記載のガラスによって被覆されているガラス被覆LED素子を提供する。
【発明の効果】
【0007】
樹脂ではない材料であるガラスによってLED素子を被覆できるので、先に述べたような問題が起こりにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明のガラス被覆LED素子の断面の概念図であり、図2は本発明のガラス被覆LED素子の製造方法の一例を説明するための概念図であり各部材の配置と断面を示す。本発明をこれらの図を用いて説明するが本発明はこれに限定されない。
図1に例示されるように本発明のガラス被覆LED素子はLED素子10とそれを被覆する本発明のLED素子被覆用ガラス1(以下、単にガラス1という。)を有する。
LED素子10は、基板10S、LED10L、p電極10Pおよびn電極10Nを構成部材として有する。
【0009】
LED10Lは典型的には波長が360〜480nmの紫外光または青色光を放出するLEDであり、GaNにInを添加したInGaNを発光層とする量子井戸構造のLED(InGaN系LED)等が例示される。LED10LがInGaN系LEDの場合、p電極10P、n電極10Nと接触する部分はそれぞれp型半導体、n型半導体である。
LED10Lは基板10Sの一方の面の上に形成されている。図1では、p電極10Pおよびn電極10Nが形成されている面と対向するLED10Lの面が基板10Sと接している。
【0010】
基板10Sは通常、サファイア基板である。
p電極10Pおよびn電極10Nはいずれも典型的には金からなり、通常はバッファ層を介してLED10Lのp電極部、n電極部(いずれも図示せず)と電気的に接続されている。
【0011】
ガラス1のTsは610℃以下である。610℃超ではガラス1によってLED素子10を被覆させるべく熱処理する温度が高くなりすぎLED素子10の発光機能が損なわれるおそれがある。
ガラス1のαは50×10−7〜85×10−7/℃である。αがこの範囲外では基板10Sがサファイア基板である場合等において膨張係数マッチングが困難になる。
ガラス1は少なくとも基板10Sを被覆することが好ましい。
ガラス1としてはB−SiO−ZnO系ガラス、B−SiO−PbO系ガラスまたはB−P−ZnO系ガラスが例示される。
【0012】
次に、本発明のガラス被覆LED素子であって図1に示すようなものを製造する方法の一例を図2を用いて説明する。
まず、図2に示すような形状のガラス1、すなわち球の一部が切断されその切断面が平面である形状のガラス1を次のようにして作製する。すなわち、耐熱板を用意しその上に離型材粉末をスプレーして離型材層を形成する。その離型材層の上にガラス1の小片を載せてガラス1のTs以上の温度に加熱しガラス1を軟化流動させて表面張力によりほぼ球状となるようにする。このようにして得られたほぼ球状のガラス1は、その離型材層と接する部分が平面であり、その形状は球の一部が切断されその切断面が平面であるものである。なお、前記耐熱板としてはシリコンウエハが、離型材粉末としては窒化ホウ素粉末がそれぞれ例示される。
【0013】
次に、耐熱板20に離型材層30を形成したもののその離型材層30の上にLED素子10を基板10Sが上方になるように載せる。なお、耐熱板20に離型材層30を形成したものとしては前記形状のガラス1を作製するのに使用したものを用いる。
次に、LED素子10の上に上述したようにして作製された前記形状のガラス1を載せる。
次に、ガラス1のTs以上の温度に加熱しガラス1を軟化流動させてLED素子10の少なくとも基板10Sの部分を被覆する。図2ではLED素子10の側面も被覆されている。
【実施例】
【0014】
表のBからCuOまでの欄にモル%表示で示す組成となるように原料を調合、混合し、これを白金坩堝に入れて1250〜1350℃に加熱し60分間溶融した。
得られた溶融ガラスの一部をステンレス鋼製の型枠に流し込み、徐冷した。徐冷されたガラスを長さ20mm、直径5mmの円柱状に加工し、これを試料として前記αを測定した。結果を表に示す(単位:10−7/℃)。
【0015】
前記溶融ガラスの残部はステンレス鋼製ローラに流し込んでフレーク化した。得られたガラスフレークをアルミナ製のボールミルで16時間乾式粉砕後、気流分級を行い、質量平均粒径が2〜4μmであるガラス粉末を作製した。このガラス粉末を試料として示差熱分析装置(DTA)を用いて前記Tsを測定した。結果を表に示す(単位:℃)。
【0016】
また、前記ガラス粉末100gを、α−テルピネオール等にエチルセルロースを10質量%溶解した有機ビヒクル25gと混練してペーストインク(ガラスペースト)を作製し、大きさが50mm×75mm、厚みが2.8mmであるソーダライムシリケートガラス基板(α:87×10−7/℃)上に、焼成後の膜厚が30μmとなるよう均一にスクリーン印刷し、120℃で10分間乾燥した。その後、このガラス基板を昇温速度毎分10℃で580℃ないし600℃まで加熱し、30分間ないし45分間保持して焼成を行い、ガラス基板上にガラス層を形成した。このガラス層付きガラス基板のガラス層を光学顕微鏡(倍率:100)で観察したところ、例1〜5のガラスからなるガラス層のいずれについても結晶析出は認められなかった。
【0017】
【表1】

【0018】
例4については溶融ガラスを流し出した後の坩堝内壁に付着したガラスをそのまま大気中で冷却し、その後その内壁に付着したガラス小片を採取した。このガラス小片を用いて、先に図2を用いて説明した方法によってガラス被覆LED素子を作製した。
耐熱板としては大阪チタニウム社製6インチシリコンウエハを用い、その上に離型材粉末として化研興業社製窒化ホウ素粉末ボロンスプレーをスプレーした。窒化ホウ素粉末層はシリコンウエハ表面が見えない程度の厚みとなるようにした。
【0019】
重さ62mg程度のガラス小片をシリコンウエハ上の窒化ホウ素粉末層の上に載せ、大和科学社製マッフル炉FP41を用いて25℃から毎分5℃の速度で700℃まで昇温しその温度に60分間保持した。その後毎分5℃の速度で冷却し、図2の記号1として示すような形状のガラスAを得た。このガラスの高さは3.0mm、水平方向の幅最大値は3.5mm、底面の平面部分(円形)の直径は1.5mmであった。
【0020】
次に、前記シリコンウエハ上の窒化ホウ素粉末層の上に、昭和電工社製青色発光LEDベアチップGB−3070多数を約3cmの高さから散布した。
同LEDベアチップはサファイア基板上にInGaNが半導体層として形成されているものであり、その大きさは300μm×300μm、厚みは80μmである。サファイア基板と反対側の面には、表面が金であるp電極およびn電極が形成されており、各電極は直径が110μmの円形である。
【0021】
散布されたベアチップのうち電極形成面が窒化ホウ素粉末層と接しサファイア基板が上面となっているものを選び、前記ガラスAをその底面の中心がそのサファイア基板上にくるように置いた。次に前記マッフル炉を用いて25℃から毎分5℃の速度で610℃まで昇温しその温度に15分間保持した。その後毎分5℃の速度で冷却した。その結果、図1のようにサファイア基板がガラスによって被覆され、ベアチップがガラス中にめりこんだ形状のガラス被覆LED素子が得られた。なお、その被覆ガラスの高さ、水平方向の幅最大値等の寸法はガラスAとほぼ同じであり、電極形成面にガラスは付着していなかった。
このガラス被覆LED素子のp電極−n電極間に、菊水電子社製直流電源MC35−1Aを用いてマニュアルプローバによって電圧を印加し、発光させた。その際の発光開始電圧は2.4Vであった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
青色LED素子として利用できる。また、青色を励起光として黄色の蛍光を発する蛍光体粉末をガラス中に入れれば白色LED素子として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のガラス被覆LED素子の断面の概念図。
【図2】本発明のガラス被覆LED素子の製造方法を説明する断面概念図。
【符号の説明】
【0024】
1 :ガラス(LED素子被覆用ガラス)
10 :LED素子
10S:基板
10L:LED
10P:p電極
10N:n電極
20 :耐熱板
30 :離型材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点が610℃以下、50〜350℃における平均線膨張係数が50×10−7〜85×10−7/℃である発光ダイオード素子被覆用ガラス。
【請求項2】
−SiO−ZnO系ガラス、B−SiO−PbO系ガラスまたはB−P−ZnO系ガラスである請求項1に記載の発光ダイオード素子被覆用ガラス。
【請求項3】
発光ダイオード素子が請求項1または2に記載のガラスによって被覆されているガラス被覆発光ダイオード素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−310375(P2006−310375A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127998(P2005−127998)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】