説明

発光装置

【課題】高温条件で使用できる蛍光体を使用した発光装置を提供する。
【解決手段】発光装置は、420nmを越え500nm以下の波長領域に主発光ピークを有する発光素子と、前記発光素子上に形成された蛍光体層とを具備する。この発光素子のジャンクション温度は100℃以上200℃以下である。また、前記蛍光体層は、下記一般式:(Mg1−x,AE(Ge1−y,SnHA:zMn(式中、AEはCaまたはSrの少なくとも1種類の元素であり、HAはFまたはClの少なくとも1種類以上の元素であり、2.54≦a≦4.40、0.80≦b≦1.10、3.85≦c≦7.00、0≦d≦2.00、0≦x≦0.05、0≦y≦0.10、および0<z≦0.03である)で表され、前記発光素子から放出される光を吸収して650nm以上665nm以下の波長領域に主発光ピークを有する光を放出する蛍光体を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light−emitting Diode:LED)発光装置は、主に励起光源としてのLEDチップと蛍光体との組み合わせから構成され、その組み合わせによって様々な色の発光色を実現することができる。
【0003】
白色光を放出する白色LED発光装置には、紫外から青色領域の波長の光を放出するLEDチップと蛍光体との組み合わせが用いられることが一般的である。例えば、青色光を放出するLEDチップと、そのLEDから放出される光を吸収して発光する蛍光体混合物との組み合わせが挙げられる。この場合、蛍光体としては主に青色の補色である黄色の光を放出する蛍光体が使用され、全体として擬似白色光を放出する発光装置として使用されている。その他にも青色光を放出するLEDチップ、緑色ないし黄色系蛍光体、および赤色系蛍光体の組み合わせが用いられた3波長型白色LED発光装置も開発されている。
【0004】
赤色蛍光体の一つとして3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mnが知られている。また、前記赤色蛍光体とイットリウム・アルミニウム・ガーネット系(YAG)黄色蛍光体と青色系半導体発光素子が組み合わされた白色LED発光装置も提案されている(例えば、特許文献1参照)。白色LED発光装置に用いられる蛍光体には、励起光源であるLEDチップから放出される光の吸収が大きく、かつ効率よく可視光を発光することが求められている。照明用途やディスプレイのバックライト用途を目的とする場合には、物体の見え方を示す演色性や豊かな色相を表現する色域などの特性などの観点から2種類以上の蛍光体を有する発光装置が望ましい。
【0005】
さらに、近年LED発光装置の輝度をより高めることが要求されており、高出力型LED発光装置が注目されるようになってきた。高出力型LED発光装置は従来のLED発光装置と比較して、投入電力が一般的に大きい。この結果、高出力型LED発光装置は、短時間駆動でもLEDチップ近傍の温度が上昇する傾向が強い。このような温度上昇が起こると、一般的に蛍光体層中の蛍光体の発光特性が変化する。特に、白色LED発光装置の場合には、蛍光体の発光強度の低下した結果、発光装置からの発光の輝度低下や、LEDチップと蛍光体の発光強度とのバランスが崩れることによる、発光装置から放出される光の色ずれなどの問題が起きてしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−101081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、駆動中に温度が上昇しやすいLED発光装置においても、色ずれが少なく、優れた発光特性を有する発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態にかかる発光装置は、420nmを越え500nm以下の波長領域に主発光ピークを有する発光素子と、前記発光素子上に形成された蛍光体層とを具備するものである。この発光装置の連続駆動時における前記発光素子のジャンクション温度は100℃以上200℃以下である。また、前記蛍光体層は、下記一般式(A):
(Mg1−x,AE(Ge1−y,SnHA:zMn (A)
(式中、AEはCa、またはSrからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、
HAはF、またはClからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、
2.54≦a≦4.40、
0.80≦b≦1.10、
3.85≦c≦7.00、
0≦d≦2.00、
0≦x≦0.05、
0≦y≦0.10、および
0<z≦0.03
である)
で表され、前記発光素子から放出される光を吸収して650nm以上665nm以下の波長領域に主発光ピークを有する光を放出する蛍光体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に用いられる赤色蛍光体の発光スペクトル。
【図2】本発明の実施形態に用いられる赤色蛍光体の温度変化に伴う発光スペクトル。
【図3】本発明の実施形態に用いられる赤色蛍光体の発光ピーク強度の温度変化を表すグラフ図。
【図4】本発明の実施形態に用いられる赤色蛍光体の温度変化に伴う励起スペクトル。
【図5】本発明の一実施形態にかかる発光装置の断面図。
【図6】本発明の他の実施形態にかかる発光装置の断面図。
【図7】本発明の実施形態に用いられる発光素子の拡大断面図。
【図8】本発明の他の実施形態にかかる発光装置の断面図。
【図9】実施例1の白色LED発光装置の発光スペクトル。
【図10】比較例1の白色LED発光装置の発光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。以下に示す実施態は、技術思想を具体化するための蛍光体および発光装置の例を示すものであり、以下の例示に限定されるものではない。
【0011】
また、特許請求の範囲に示される部材は、本願明細書に記載された実施形態に特定されるものではない。特に実施形態に記載されている構成部品の大きさ、材質、形状、その配置等は本発明の範囲を限定する趣旨ではなく、説明例に過ぎない。本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して、同一の部材で複数の要素を兼用してもよく、逆に同一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することも可能である。
【0012】
本発明者は、特定の蛍光体が、温度上昇に伴う発光スペクトルの特異性を有することを見出した。この特定の蛍光体は、下記一般式(A):
(Mg1−x,AE(Ge1−y,SnHA:zMn (A)
(式中、AEはCa、またはSrからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、
HAはF、またはClからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、
2.54≦a≦4.40、
0.80≦b≦1.10、
3.85≦c≦7.00、
0≦d≦2.00、
0≦x≦0.05、
0≦y≦0.10、および
0<z≦0.03
である)
で表され、420nmを超え500nm以下の波長領域の光で励起することによって、650nm以上665nm以下の波長領域に主発光ピークを有する光を放出する。ここで主発光ピークの半値幅は30nm以内である。蛍光体の発光スペクトルは、発光ピークが400nmの近紫外領域LEDや460nm青色領域LED等によって蛍光体を励起し、例えばIMUC−7000G型分光光度計(商品名、大塚電子株式会社製)により測定して、得ることができる。
【0013】
なお、本明細書における温度特性は、以下のように定義する。まず、基準値として、室温(25℃)において、青色領域LEDから近紫外領域LED等によりサンプルを励起し、発光スペクトルを測定する。この際の発光スペクトルピーク強度を(I)とする。次に、室温より高い任意の温度において、発光スペクトルを測定し、その際の発光スペクトルピーク強度を(I)とする。これらのピーク強度の比率(ΔI=I/I)を、温度特性とする。一般に、温度が上昇するとピーク強度は小さくなり、ΔIは小さくなるが、ピーク強度の変化が小さいほど、つまりΔIが1に近いほど、温度特性の良好な蛍光体、または発光装置である。
【0014】
温度特性が良好な蛍光体は、ジャンクション温度が高くなりやすい高出力型LEDと組み合わせて発光装置とした場合であっても、発光特性が良好で色ずれが少なく、優れた発光特性を有する発光装置を得ることが可能となる。
【0015】
本発明の実施形態に用いられるのは、発光ピーク波長が420nmを超え、500nm以下の波長の光を発光する発光素子、例えばLEDチップである。この発光素子から放出される光は、後述する蛍光体を励起する。本発明においては、従来使われている発光素子に比較して、発熱の多い発光素子を用いる。具体的には、連続駆動時にジャンクション温度が100℃以上200℃以下となるものである。発光素子のジャンクション温度は、投入電力と白色LED発光装置の熱抵抗とから求めることができる。
【0016】
発光装置の輝度を上昇させるために、最も容易な方法は発光素子により大きな電力を投入し、発光素子から放出される光、およびその光により励起された蛍光体から放出される光を多くする方法である。したがって、今後、LED発光装置の高輝度化が要求されるのに伴い、投入する電力が大きくなると予想される。一方、現在用いられている多くのLEDチップの接合保証温度は125℃であり、通常、連続駆動時の温度は100℃以下である。これは、従来の蛍光体を用いた場合には、発光素子に投入する電力量を大きくした場合、発光素子およびそれに接触している蛍光体の温度が上昇し、発光効率が高くならないためである。
【0017】
一方、実施形態による発光装置は、特定の蛍光体を用いることで従来よりも高い温度であっても高い発光効率を維持することを可能としたものであり、具体的には連続駆動時におけるジャンクション温度が100℃以上200℃以下である発光素子が用いられる。このような発光素子は、従来の発光装置には用いても十分な発光効率が得られなかったものである。ジャンクション温度が100℃以上の発光素子に投入される電力は、通常1W以上である。上記の通り、高出力型LEDの高輝度化が要求されるのに伴い、投入する電力が大きくなることが予想され、ジャンクション温度の保証値が上がる可能性もあるが、LEDチップへの負担を極力少なくするためには熱抵抗を出来る限り低減することが望ましい。現在、白色LED発光装置の熱抵抗は40℃/W程度であるが、本発明の実施形態にかかる発光装置はある程度の温度上昇を伴うほうが良好な発光特性が得られるために熱抵抗は20℃/W以上であることが好ましい。
【0018】
上述したとおり実施形態による発光装置は、従来の発光装置とは異なって、連続駆動した際に高温に保持される。具体例として、25℃の環境温度において、熱抵抗34℃/W、ジャンクション温度140℃の半導体発光素子に電力3W相当の電流を投入するLED発光装置が挙げられる。また、50℃の環境温度において、熱抵抗30℃/W、ジャンクション温度185℃の半導体発光素子に電力2.5W相当の電流を注入したLED発光装置なども一実施形態である。
【0019】
発光装置における発光素子は、通常、支持部材に支持される。この支持部材は外部との電気的接続を保つ機能を備えることもできる。このような電気的接続を実現できる支持部材として、絶縁性のフレーム材の表面に配線パターンを設けたものや、金属からなる支持部材を用いることができる。特に、支持部材のフレーム材はセラミックスを用いると、高い熱伝導率を実現することができるので好ましい。実施形態による発光素子は駆動により容易に温度上昇する。この結果、発光素子周辺が必要以上の高温に保持されると発光素子の劣化が顕著になり、溶解や変形が起こることがある。このような場合に、熱伝導率の高い支持部材を用いることにより、放熱性を上げて発光素子等が過剰に高温になることを防ぐことができる。セラミックスとしては、例えば、窒化アルミニウム、および酸化アルミニウム(アルミナ)等を用いることができる。なかでも、窒化アルミニウムは熱伝導率1.70(W/cm・℃)の絶縁物であり、パターニングが可能である。このため、マルチチップ方式の発光装置の作製が可能となるので好ましい。また、支持部材として、銅(Cu)を用いることもできる。銅は熱伝導率3.94(W/cm・℃)と非常に熱伝導率が高いことから、高出力型LED発光装置に用いる支持部材に最も適したもののひとつである。
【0020】
発光素子は、例えばはんだ接合等の金属接合によって支持部材に接合されることが好ましい。金属接合を行なうことによって、LEDチップと支持部材との接着強度が高められる。
【0021】
本発明の実施形態にかかる発光装置は、上述したような発光素子と、その上に配置された蛍光体層とを具備する。蛍光体層は、蛍光体が分散された樹脂層から構成することができる。蛍光体層に用いられる樹脂は特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂を用いることができる。シリコーン樹脂は光による変色が少なく、また放熱性も良好で、発光装置の過度の温度上昇を抑制できるので好ましい。
【0022】
本発明の実施形態において、蛍光体層に含有される蛍光体の少なくとも一部は、下記一般式(A)で表わされる組成の蛍光体である。
(Mg1−x,AE(Ge1−y,SnHA:zMn (A)
【0023】
ここで、AEはCa、またはSrからなる少なくとも1種類以上の元素であり、好ましくはCaであり、HAはF、またはClからなる少なくとも1種類以上の元素である。a、b、c、d、x、y、およびzは、発光効率を高く維持するために、下記の関係を満たす。
2.54≦a≦4.40、好ましくは3.47≦a≦4.26
0.80≦b≦1.10、好ましくは0.95≦b≦1.00
3.85≦c≦7.00、好ましくは4.02≦c≦6.87
0≦d≦2.00、好ましくは0≦d≦0.83、
0≦x≦0.05、好ましくは0≦x≦0.04、
0≦y≦0.10、好ましくは0.02≦y≦0.08、
0<z≦0.03、好ましくは0.01≦z≦0.02
【0024】
ここで、a、b、またはcが上記の範囲外であると発光効率が低下してしまうので好ましくない。また、w、x、またはyが上記範囲外であると発光強度が低下してしまい、好ましくない。この原因は明確ではないが、これらのパラメーターが範囲外であると、蛍光体の基本的な結晶構造やMn4+周辺の結晶性が維持できないためであると推測されている。
【0025】
このような蛍光体のうち、特に好ましいのは下記一般式(B)で示されるものである。
(Mg1−x’,AEx’a’(Ge1−y’,Sny’b’c’,Cld’:z’Mn (B)
ここで、AEはCaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、
3.5≦a’≦4.4、好ましくは3.9≦a’≦4.2、
0.8≦b’≦1.1、好ましくは0.9≦b’≦1.0、
5.5≦c’≦7.0、好ましくは5.5≦c’≦6.9
0<d’≦0.41、好ましくは0<d’≦0.25、
0<x’≦0.05、好ましくは0<x’≦0.04、
0<y’≦0.10、
0<z’≦0.03
である。
【0026】
このような好ましい蛍光体の具体例として、(Mg0.96,Ca0.043.9(Ge0.90,Sn0.101.06.2,Cl0.15:0.02Mn、(Mg0.95,Sr0.054.3(Ge0.90,Sn0.101.06.9,Cl0.35:0.02Mnなどが挙げられる。これらの蛍光体は、特に発光強度が高く、実施態様による発光装置を照明用途などにおいて用いるのに特に有効である。
【0027】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、Mnを含有する。したがって、前記一般式(A)におけるzは0より大きい。Mnが含有されない場合(z=0)には、紫外から青色領域に発光ピークを有する光で励起しても発光(スペクトル)は得ることができない。さらに、Mnの含有量が多すぎる場合には、濃度消光現象が生じて、蛍光体の発光強度が弱くなるので、zの上限は0.03に規定されている。
この蛍光体は、前記した発光素子から放出される光によって励起され、赤色から深赤色の光を放出する。放出される光の発光スペクトルは、650nm以上665nm以下の波長領域に主発光ピークを有する。そして、その主発光ピークの半値幅は一般に20nm以下である。
【0028】
また、本発明の蛍光体は基本的な結晶構造としてMgO単位格子が八面体GeO単位格子と4面体GeO単位格子と結びついている結晶構造を有しているとの報告があり、付活剤であるMnは、得られる発光スペクトルから上記八面体の(Mg,Ca)サイト、及び(Ge,Sn)サイトを置換していると考えられる。ただし、その割合を正確に求めることは一般に困難である。本発明による実施形態においては、蛍光体中に含有されているMn濃度として定義している。
【0029】
蛍光体に含まれる各元素の含有量の分析は任意の方法で行うことができる。例えば、Mg、Ca、Sr、Ge、Sn、Mnなどの金属元素は、ICP発光分光法にて分析を行なうことができる。具体的には蛍光体をアルカリ融解し、発光分光分析装置(例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社社製SPS4000(商品名)等)により分析を行なうことができる。また、非金属元素Oは、赤外吸収法にて分析を行なうことができる。具体的には蛍光体を不活性ガス融解し、例えばTC−600型酸素・窒素分析装置(商品名、LECO社製)等により赤外吸収法にて分析を行なうことができる。非金属元素F、Clはイオンクロマトグラフ法にて分析を行うことができる。具体的には蛍光体を熱加水分解分離し、例えばDX−120型イオンクロマトグラフィーシステム(商品名、日本ダイオネクス株式会社製)によりイオンクロマトグラフ法にて分析を行うことができる。
【0030】
具体的には、実施形態による蛍光体は、次のような方法により製造することができる。出発原料としては、構成元素の酸化物、塩化物、炭酸塩化合物粉末などを用いることができる。構成元素の原料を所定量秤量し、ボールミル等で混合する。例えば、Mn原料としてはMnCO、Mn、MnO、MnF、MnCl等、Mg原料としては(塩基性)炭酸マグネシウム(mMgCO・Mg(OH)・nHO)、MgO、MgF、MgCl等、Ca原料としてはCaCO、CaO、CaF、CaCl、CaCl・2HO等、Sr原料としてはSrCO、SrO、SrF、SrCl、SrCl・6HO等、Ge原料としてはGeO等、Sn原料としてはSnO等を用いることができる。酸化物原料、炭酸塩原料、塩化物原料は合成する化合物の組成比に合わせて調合する。混合は溶媒を使用しない乾式混合法やエタノール等の有機溶媒を使用した湿式混合を採用しても良い。
【0031】
また、蛍光体合成のための高温焼成によるF、Cl源の揮散を考慮して、過剰量のHA原料を用いるのが一般的である。このようなHA原料として、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウムのハロゲン化物が挙げられる。さらに、アルカリ金属のフッ化物、塩化物や、アルカリ土類金属のフッ化物、塩化物を用いてもよい。これらのHA原料は、結晶成長剤としても作用する。目的とした組成からのずれを防止するために、HA原料の添加量は、原料粉末全体の0.01重量%以上0.3重量%以下程度とすることが好ましい。アルカリ金属やアルカリ土類金属のハロゲン化物を使用する場合はアルカリ金属やアルカリ土類金属が蛍光体中に固溶することや他の原料と反応し、異相を生成する可能性があるために0.1重量%以下とすることが好ましい。
【0032】
こうした原料粉末を混合してなる混合原料を坩堝等の容器に収容し、熱処理を行って焼成品を得る。熱処理は、大気雰囲気、N、Ar雰囲気中で行なわれる。これは、ハロゲン元素の揮散防止、原料の吸湿性防止を行うと共に蛍光体の合成を促進するためである。F、ClガスやHF、HClガスを混合して使用することも可能であるが、熱処理施設や排ガス処理施設など高コストとなるために、大気雰囲気、N、Ar雰囲気中での熱処理が好ましい。熱処理の温度および時間は、一般に1000℃〜1400℃、0.5〜10時間とすることができる。焼成温度が低すぎるたり、焼成時間が短すぎたりすると原材料が未反応のままとなり、蛍光体の発光強度は低下する。焼成温度が高すぎたり、焼成時間が長すぎたりすると原材料あるいは生成物の溶融する可能性や混合した原料の一部が揮散する可能性がある。また、得られた焼成品を粉砕して、再度容器に収容し、大気中、NまたはAr雰囲気中で二次焼成することも出来る。二次焼成の際の粉砕方法は表面積が増大するのであれば特に規定されず、例えば一次焼成品の塊を、乳鉢等を用いて砕く方法などが採用される。また二次焼成の際には上記したハロゲン化物結晶成長剤を添加することもできる。
【0033】
焼成後の蛍光体は発光装置などに適用する際、必要に応じて純水などを使用して洗浄等の後処理を施すことができる。
【0034】
上述した合成方法により得られる本発明の実施形態にかかる一般式(A)で表される蛍光体の例として、3.5MgO・0.5MgF・GeO:0.01Mn[=MgGeO5.5F:0.01Mn]蛍光体が挙げられる。この蛍光体を蛍光体No.1とする。この蛍光体を青色LEDから放出されるピーク波長442nmの光で励起して、発光スペクトルを測定した。その結果は、図1に示す通りであった。図1より蛍光体No.1は発光スペクトルの主発光ピークが658nm付近に、第2発光ピークが630nm付近にあることがわかった。なお、ここで主発光ピークとは発光スペクトルのピーク強度が最も大きいピークを、第2発光ピークとはピーク強度が2番目に大きいピークをいう。
【0035】
蛍光体No.1について、室温から200℃までの温度範囲において温度変化にともなう発光強度の変化の評価を行なった。まず室温から200℃まで温度調節の可能なホットプレート上に蛍光体を薄く広げた。薄く広げた蛍光体層を室温(約30℃)から200℃付近まで、30℃から50℃の間隔で温度を上昇させ、各温度において1〜3分放置後、青色LEDから放出されるピーク波長が約442nmの光で励起し、蛍光体の発光スペクトルを測定した。室温から200℃までの発光スペクトルの変化は図2に、室温における発光強度を基準とした発光ピーク強度の比は図3に示す通りであった。蛍光体No.1の主発光ピーク強度は200℃までの温度上昇ではピーク強度は低下せず、130℃付近で室温のおよそ1.18倍の強度となった。また、第2発光ピーク強度は130℃付近で室温のおよそ1.66倍に、200℃付近で室温のおよそ1.96倍の強度となった。室温での発光効率と比較して130℃付近での発光効率はおよそ1.5倍も増加していた。
【0036】
これまで3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mn蛍光体に関する温度特性について検討した報告例はあった。しかし、それらはいずれもより短波長の光、例えば365nmの光で励起した場合の温度特性を検討しており、より長波長の光による励起に関する検討例はなかった。しかしながら、一般式(A)で表される蛍光体には、2つの励起帯が存在し、一つは短波長側に存在するに帰属される励起帯であり、もう一つは長波長側に存在するに帰属される励起帯である。すなわち、これまで報告されていた温度特性は上述した短波長側に存在する励起帯による温度特性のみであった。実施形態に用いられる発光素子から放出される光の波長域は、上述した長波長側の励起帯における波長範囲であり、従来の報告例とは異なった励起光を用いるものである。そして、図2および3に示された結果はこれまで報告されていた温度特性とは異なる励起・発光メカニズムによるものであり、このような知見は本発明者らによる新たな知見である。また、上述した長波長側の励起帯で励起されたときに、主発光ピークと第2発光ピーク強度の比率が温度によって変化するという発光スペクトルの特異性については知られておらず、これら知見も本発明者らによる新たな知見である。
【0037】
420nmを越え500nm以下の波長領域に発光ピークを有する励起光により、このような良好な温度特性を示す原因の一つとして温度変化に対する励起スペクトル変化が考えられる。図4は室温から200℃まで温度変化させた際の励起スペクトルの変化を示すものである。励起スペクトルは、加熱ステージ上にペレット化した蛍光体を設置し、乾燥窒素を流通しながら、ヒータによって温度を調節して、蛍光分光光度計にて測定した。蛍光分光光度計としては、例えばSPEX Fluorog3−22(商品名、ホリバ・ジョバンイボン社製)を用いることができる。励起スペクトルは蛍光体No.1の658nmの発光波長について測定した。測定した励起スペクトルから、250nmから490nm付近まで励起帯が存在することが確認された。前述したようにMn4+に起因する励起機構は一般的に遷移、または遷移で説明されているが、図4に示された380nm付近から490nm付近の励起スペクトルピークは長波長側の遷移と説明されている。そして、380nmより短波長の励起帯が遷移に帰属される。図4に示すとおり、遷移に帰属される励起スペクトルピークは温度上昇と共に長波長側にシフトし、その半値幅も広がる傾向にある。このために、420nmを越え500nm以下の特定の波長において励起スペクトル強度の温度変化をみると、温度上昇にともなって、励起スペクトル強度が大きくなる。この結果、温度が上昇すると発光強度が強くなるという、良好な温度特性が得られたと考えられる。一方、遷移に帰属される短波長側の励起帯は室温から200℃までの温度変化で殆ど励起スペクトルはシフトしなかった。
【0038】
図4に示される励起スペクトルの温度依存性から、420nmを超え、500nm以下の光で蛍光体を励起した場合に、100℃以上200℃以下の温度範囲で上記したような良好な発光特性を実現できることがわかる。
【0039】
さらに、本発明により製造した蛍光体粒子の表面には、必要に応じて、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、テトラエトキシシラン(TEOS)、シリカ、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、カルシウムポリフォスフェート、シリコーンオイル、およびシリコーングリースから選択される少なくとも一種からなる表層材を塗布することもできる。ケイ酸亜鉛およびケイ酸アルミニウムは、例えばZnO・pSiO(1≦p≦4)、及びAl・qSiO(1≦q≦10)でそれぞれ表わされる。表層材は蛍光体粒子表面が完全に覆われている必要はなく、その一部が露出していてもよい。蛍光体粒子の表面を表層材で覆うことにより、熱、湿度、紫外線等の外的要因からの劣化防止などの効果が得られる。さらに、蛍光体の分散性を調整することが可能となり、蛍光体層の設計を容易にすることができる。表層材は、材料を含む分散液または溶液中に蛍光体粒子を所定時間浸漬した後、加熱等により乾燥させることによって塗布することができる。蛍光体としての本来の機能を損なうことなく、表層材の効果を得るために、表層材は、存在する場合には、蛍光体粒子の0.1〜5%程度の体積割合で存在することが好ましい。
【0040】
また、実施形態に用いられる蛍光体は使用する発光装置への塗布方法に応じて分級することもできる。蛍光体を白色LED発光装置に用いる場合には、分級して5μmから50μm程度の蛍光体粒子を用いることが好ましい。蛍光体の粒径が小さくなりすぎると、表面の非発光層の割合が増加し、発光強度が低下してしまう傾向にある。また、粒径が大きすぎると蛍光体層を塗布する際、蛍光体層塗布装置に蛍光体が目詰まりし作業効率や歩留りの低下が起こりやすく、出来上がった発光装置の色ムラの原因となることがある。
【0041】
一般式(A)により表される蛍光体は、赤色から深赤色の光を放出する蛍光体である。したがって、青色発光蛍光体や、緑色系蛍光体および黄色蛍光体と組み合わせて用いることにより、白色発光装置を得ることができる。
【0042】
一般式(A)により表される蛍光体と組み合わせて使用する蛍光体は発光装置の目的に合わせて変えることができる。例えば、青色波長領域の光源を使用する場合には、一般式(A)により表される蛍光体に加えて、黄色系蛍光体と組み合わせることにより白色発光装置を提供することができる。また、色温度が低い白色発光装置を提供する際には、黄色蛍光体と組み合わせて発光効率と演色性を両立した発光装置を提供することもできる。
【0043】
しかしながら、組み合わせる緑色、黄色蛍光体は温度特性の優れた蛍光体であることが好ましい。これは組み合わせた蛍光体の発光強度が温度に大きく依存する場合には、駆動時に発光素子から発生する熱により蛍光体の温度消光が生じてしまい、効率低下や、投入した電力に応じた色ずれが生じてしまうことがある。具体的には組み合わせる蛍光体の温度特性ΔIが80%以上のであることが望ましい。
【0044】
白色発光装置を構成するために、一般式(A)で表される蛍光体に組み合わされる青緑色、緑色、または黄色の光を放出する蛍光体(以下、第二の蛍光体という)は、500nm以上580nm以下の波長領域に主発光ピークを有するものである。上述した条件満たす具体的な蛍光体として、(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce、LiSrSiO:Eu等のケイ酸塩蛍光体、(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ce、BaMgAl1017:Eu,Mn等のアルミン酸塩蛍光体、(Ca,Sr,Ba)Ga:Eu等の硫化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba)Si:Eu、(Ca, Sr)−αSiAlON等のアルカリ土類酸窒化物蛍光体などが挙げられる。なお、ここに例示された蛍光体に少量の元素などを添加しても、基本的な結晶構造に殆ど変化がなければ、同様の蛍光体とみなすことができる。
【0045】
用いられる発光素子のピーク波長が420nm付近である場合、上記した第二の蛍光体に加えて青色の光を放出する蛍光体をさらに組み合わせることもできる。ここで青色の光を放出する蛍光体とは、440nm以上500nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光体である。好ましい青色系蛍光体として、例えば、(Sr,Ca,Ba,Mg)(PO(Cl,Br):Eu等のハロりん酸塩蛍光体、2SrO・0.84P・0.16B:Eu等のリン酸塩蛍光体、BaMgAl1017:Eu等のアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体などが挙げられる。
【0046】
上記以外に橙色、または赤色の光を放出する蛍光体も必要に応じて併用することができる。
【0047】
橙色、または赤色の光を放出する蛍光体としては(Sr,Ca,Ba)SiO:Eu、(Sr、Ba、Ca)SiO:Eu等のケイ酸塩蛍光体、(Ca,Sr,Ba)S:Eu等の硫化物蛍光体、(Sr,Ba,Ca)Si(O、N):Eu、(Sr,Ca)AlSiN:Eu等の窒化物蛍光体などが挙げられる。実施形態による発光装置にこれらの蛍光体を併用することにより、効率だけでなく、照明用途での演色性や、バックライト用途での色域を更に改善することができる場合がある。ただし、一般式(A)により表される蛍光体の発光色は赤色から深赤色であるために、その他の橙色または赤色の光を放出する蛍光体を組み合わせると、実施形態による効果が損なわれることがある。したがって、橙色または赤色の光を放出する蛍光体を併用する場合には、主発光ピーク波長が640nm以下の蛍光体を用いることが望ましい。
【0048】
図5は、本発明の一実施形態にかかる発光装置の断面を示すものである。
【0049】
図示する発光装置は、樹脂ステム500はリードフレームを成形してなるリード501およびリード502と、これに一体成形されてなる樹脂部503とを有する。樹脂部203は、上部開口部が底面部より広い凹部505を有しており、この凹部の側面には反射面504が設けられる。
【0050】
凹部505の略円形底面中央部には、発光チップ206がAgペースト等によりマウントされている。発光素子506としては、420nmを超え、500nm以下の波長領域に主発光ピークを有する発光素子を用いることができる。例えば、InGaN系、GaN系等の半導体発光ダイオード等を用いることが可能である。発光チップ506の電極(図示せず)は、Auなどからなるボンディングワイヤ507および508によって、リード501およびリード502にそれぞれ接続されている。なお、リード501および502の配置は、適宜変更することができる。
【0051】
樹脂部503の凹部505内には、蛍光層507が配置される。この蛍光層507は、一般式(A)により表される蛍光体、および必要に応じて第二の蛍光体を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層511中に5wt%以上50wt%以下の割合で分散することによって形成することができる。蛍光体は、有機材料である樹脂や無機材料であるガラスなど種々のバインダーによって、付着させることができる。
【0052】
有機材料のバインダーとしては、上述したシリコーン樹脂の他にエポキシ樹脂、アクリル樹脂など耐光性に優れた透明樹脂が適している。無機材料のバインダーとしてはアルカリ土類ホウ酸塩等を使用した低融点ガラス等、粒径の大きな蛍光体を付着させるために超微粒子のシリカ、アルミナ等、沈殿法により得られるアルカリ土類リン酸塩等が適している。これらのバインダーは、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
発光素子506としては、n型電極とp型電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることも可能である。この場合には、ワイヤの断線や剥離、ワイヤによる光吸収等のワイヤに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得ることができる。また、発光素子506にn型基板を用いることもできる。具体的には、n型基板の裏面にn型電極を形成し、基板上の半導体層上面にはp型電極を形成して、n型電極またはp型電極をリードにマウントする。p型電極またはn型電極は、ワイヤにより他方のリードに接続することができる。発光素子506のサイズ、凹部505の寸法および形状は、適宜変更することができる。
【0054】
図6には、本発明の他の実施形態にかかる発光装置の断面図を示す。図示する発光装置は、樹脂ステム600と、その上にマウントされた半導体発光素子606Fと、この半導体発光素子606Fを覆う封止体611とを有する。封止樹脂ステム600は、リードフレームから形成されたリード601、602と、これと一体的に成型されてなる樹脂部603とを有する。リード601、602は、それぞれの一端が近接対向するように配置されている。リード601、602の他端は、互いに反対方向に延在し、樹脂部103から外部に導出されている。
【0055】
樹脂部603には開口部605が設けられ、開口部の底面には、保護用ツェナー・ダイオード606Eが接着剤607によってマウントされている。保護用ツェナー・ダイオード606Eの上には、半導体発光素子606Fが実装されている。すなわち、リード601の上にダイオード606Eがマウントされている。ダイオード606Eからリード602にワイヤ609が接続されている。
【0056】
半導体発光素子606Fは、樹脂部603の内壁面に取り囲まれており、この内壁面は光取り出し方向に向けて傾斜し、光を反射する反射面604として作用する。開口部605内に充填された封止体611は、蛍光体610を含有している。半導体発光素子606Fは、保護用ツェナー・ダイオード606Eの上に積層されている。蛍光体610として、一般式(A)で表される蛍光体、および必要に応じて第二の蛍光体が用いられる。
【0057】
以下に、発光装置の発光素子周辺部分について詳細に説明する。図7に示されるように、保護用ダイオード606Eは、n型シリコン基板650の表面にp型領域652が形成されたプレーナ構造を有する。p型領域652にはp側電極654が形成され、基板650の裏面にはn側電極656が形成されている。このn側電極656に対向して、ダイオード606Eの表面にもn側電極658が形成されている。こうした2つのn側電極656と658とは、ダイオード606Eの側面に設けられた配線層660によって接続される。さらに、p側電極654およびn側電極658が設けられたダイオード606Eの表面には、高反射膜662が形成されている。高反射膜662は、発光素子606Fから放出される光に対して高い反射率を有する膜である。
【0058】
半導体発光素子606Fにおいては、バッファ層622、n型コンタクト層623、n型クラッド層632、活性層624、p型クラッド層625、およびp型コンタクト層626が、透光性基板638の上に順次積層されている。さらに、n側電極627がn型コンタクト層623の上に形成され、p側電極628がp型コンタクト層626の上に形成されている。活性層624から放出される光は、透光性基板638を透過して取り出される。
【0059】
このような構造の発光素子606Fは、バンプを介してダイオード606Eにフリップ・チップ・マウントされている。具体的には、バンプ642によって、発光素子606Fのp側電極628がダイオード606Eのn側電極658に電気的に接続されている。また、バンプ644によって、発光素子606Fのn側電極627が、ダイオード606Eのp側電極654に電気的に接続されている。ダイオード606Eのp側電極654には、ワイヤ609がボンディングされ、このワイヤ609はリード602に接続されている。
【0060】
図8には、砲弾型の発光装置の例を示す。半導体発光素子801は、リード800’にマウント材52を介して実装され、プレディップ材804で覆われる。ワイヤ803により、リード800が半導体発光素子801に接続され、キャスティング材805で封入されている。プレディップ材804中には、一般式(A)で表される蛍光体、および必要に応じて第二の蛍光体が含有される。
【0061】
上述したように、本発明の実施形態にかかる発光装置、例えば白色LED発光装置は一般照明等だけでなく、カラーフィルターなどのフィルターと発光装置を組み合わせて使用される発光デバイス、例えば液晶用バックライト用の光源等としても最適である。具体的には、液晶のバックライト光源としても使用することができる。また、実施態様による発光装置を同一基板内に複数個配列した発光装置モジュールとすることもできる。特に照明等の用途に用いる場合、このようなモジュールは好ましい。ここで、実施形態による発光装置は駆動により発生する熱の影響を受けにくく、高温においても高い発光効率を実現できる。このために、発光装置の配置密度を高く、すなわち発光装置間の距離を短くして配置することができる。この結果、輝度の高い発光装置を実現できる。
【0062】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1および比較例1)
3.5MgO・0.5MgF・GeO:0.01Mn(=MgGeO5。5F:0.01Mn)蛍光体(蛍光体No.1)と、(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ce蛍光体を混合し、シリコーン樹脂に分散させて樹脂混合物を調製した。蛍光体No.1の温度特性は図3に示したとおり、200℃付近まで温度消光が見られなかった。一方、(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ce蛍光体の室温に対する180℃での温度特性ΔIは80%であった。室温から180℃まで(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ce蛍光体の発光スペクトルの形状は殆ど変化が見られなかった。この樹脂混合物と発光素子と支持部材とを用いて、白色LED発光装置を作製した。発光素子は、連続駆動時のジャンクション温度が140℃であり、発光スペクトルのピーク波長が445nmである。支持部材は、Cu製のカップ状で、側面内壁には光反射率の高いアルミナが塗布されており、外部との電気的接続を保つ機能を備えている。発光素子をCu製支持部材の底面にはんだ接合して、さらに前記蛍光体を含む蛍光体層を形成させて、実施例1のフェイスアップ型白色LED発光装置を作製した。
【0064】
この白色LED発光装置の熱抵抗は40℃/Wであった。色温度は電球色に区分される2800Kとなるように、蛍光体の混合割合を調整した。実施例1の白色LED発光装置を環境温度35℃において、投入電力2.5Wで駆動し、発光スペクトルを測定した。図9に得られた発光スペクトル示す。
【0065】
次に、実施例1の発光素子をジャンクション温度が100℃であり、ピーク波長が445nmの発光素子に変えた比較例1の発光装置を作成した。この発光装置の熱抵抗は40℃/Wであった。使用した蛍光体及び調整した色温度は実施例1と同様とした。比較例1の白色LED発光装置を環境温度35℃において、投入電力0.1Wで駆動して発光スペクトルを測定した。図10に得られた発光スペクトルを示す。
【0066】
図9と図10を比較するとほぼ同形状の発光スペクトルが得られていることがわかる。しかし、実施例1と比較例1とでは発光素子への投入電力が異なるので、大きな投入電力で駆動した実施例1の発光スペクトルの強度の方が大きい。更に、装置の発光効率を比較すると比較例1の発光装置より、実施例1の発光装置の方がおよそ1.4倍高いことが見積もられた。ここで発光装置の発光効率は、蛍光体装置に蛍光体層を塗布する前の光出力(励起光W)を蛍光体層を塗布した後の光出力(光束―lm)で割った光−光変換効率(lm/励起光W)のことを示している。このような指標を用いたのは使用する発光素子の効率が異なる場合に、発光層の純粋な変換効率を見積もるためである。
【0067】
比較例1の発光装置より、実施例1の発光装置の発光効率の方が優れていた原因として、発光素子に投入した電力の大小に伴う温度上昇の差によるものということができる。つまり実施形態による発光装置は駆動により温度上昇し、高温(100℃以上200℃以下)で駆動される場合に高い発光効率を示すことがわかる。
【0068】
次に、蛍光体No.1と同様の製造方法により下記表1に示すような各構成元素の含有量を変化させた蛍光体No.2〜6の蛍光体を作製した。得られた蛍光体をICP発光分光法により定量分析を実施した結果、ほぼ目標どおりの組成であることを確認した。
【0069】
【表1】

【0070】
さらに、下記表2に示すように発光素子と蛍光体No.2〜6とを組み合わせて、実施例2〜6の発光装置を作製した。比較例2〜6はそれぞれ実施例2〜6と同様の蛍光体を使用し、色温度もそれぞれ同じ色温度になるように調整し、投入電力を抑えた発光素子に変更した点だけが異なる発光装置とした。
【0071】
【表2】

【0072】
各白色LED発光装置を環境温度35℃において、実施例2〜6は投入電力3.0Wで駆動し、発光装置の光−光変換効率(lm/励起光W)を見積もった。同様に比較例2〜6は環境温度35℃において、投入電力0.1Wで駆動し、発光装置の光−光変換効率(lm/励起光W)を見積もった。比較例2〜6に対する実施例2〜6の変換効率比は表3に示すとおりであった。
【0073】
【表3】

【0074】
表3に示されるように、実施形態による発光装置においては、大きな投入電力に伴い、発光素子による蛍光体層の温度上昇が見込まれが、投入電力が小さいために蛍光層の温度はほぼ環境温度と考えられる比較例よりも優れた変換効率を示した。
【0075】
(実施例8および比較例8)
実施例1の発光装置を30mm×30mmのAl基板に間隔5mmで4個を直列に配線した発光デバイスを、同一Al基板内に間隔5mmで各4列並列に配線した発光装置モジュールを作製した。これを実施例8の発光装置モジュールとする。また、比較例1の発光装置を用いて、実施例8と同様の構造を有する発光装置モジュールを作製した。これを比較例8の発光装置モジュールとする。
これら発光装置モジュールに配置されている各発光装置に投入電力が0.8Wとなるように投入電力を調整して、それぞれ発光効率を測定した。実施例8の発光装置モジュールの発光効率を比較例8の発光装置モジュールの発光効率と比較すると、実施例8の方がおよそ1.1倍高いことが見積もられた。比較例8の発光装置モジュールより、実施例8の発光装置モジュールの発光効率の方が優れていた原因として、発光装置の間隔が狭いことによりモジュールを構成する各発光装置の温度が上昇しても、実施形態による発光装置は発光効率の低下が起こりにくいためである。つまり実施形態による発光装置は駆動により温度上昇し、高温で駆動される場合に従来の発光装置に比較して高い発光効率を示すことがわかる。
【0076】
本発明の実施形態にかかる発光装置は、照明用光源、LEDディスプレイ、パソコンや携帯電話機等のバックライト光源、信号機、照明スイッチ、車載用ストップランプ、各種センサーおよび各種インジケータ等、各種照明装置や各種表示装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
500…樹脂ステム; 501…リード; 502…リード; 503…樹脂部
504…反射面; 505…凹部; 506…発光チップ
507…ボンディングワイヤ; 508…ボンディングワイヤ; 509…蛍光層
510…蛍光体; 511…樹脂層;
600…樹脂ステム; 601…リード
602…リード; 603…樹脂部; 604…反射面; 605…開口部
606E…ツェナー・ダイオード; 606F…半導体発光素子; 607…接着剤
609…ボンディングワイヤ; 610…蛍光体; 611…封止体
622…バッファ層; 623…n型コンタクト層; 624…活性層
625…p型クラッド層; 626…p型コンタクト層; 627…n側電極
628…p側電極; 632…n型クラッド層; 638…透光性基板
642…バンプ; 644…バンプ; 650…n型シリコン基板
652…p型領域; 654…p側電極; 656…n側電極; 658…n側電極
660…配線層; 662…高反射膜
800、800’…リード; 801…半導体発光素子; 802…マウント材
803…ボンディングワイヤ; 804…プレディップ材; 805…キャスティング材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
420nmを越え500nm以下の波長領域に主発光ピークを有する発光素子と、前記発光素子上に形成された蛍光体層とを具備する発光装置であって、前記発光装置の連続駆動時における前記発光素子のジャンクション温度が100℃以上200℃以下であり、前記蛍光体層が、下記一般式(A):
(Mg1−x,AE(Ge1−y,SnHA:zMn (A)
(式中、AEはCa、またはSrからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、
HAはF、またはClからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素であり、
2.54≦a≦4.40、
0.80≦b≦1.10、
3.85≦c≦7.00、
0≦d≦2.00、
0≦x≦0.05、
0≦y≦0.10、および
0<z≦0.03
である)
で表され、前記発光素子から放出される光を吸収して650nm以上665nm以下の波長領域に主発光ピークを有する光を放出する蛍光体を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記発光素子に投入される電力が1W以上である、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
熱抵抗が20℃/W以上である、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記発光素子を支持する支持部材をさらに具備し、前記発光素子が、金属接合により前記支持部材に接合されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記支持部材が、金属、またはセラミックスからなるものである、請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記蛍光体層がシリコーン樹脂の硬化物からなり、前記蛍光体がその中に分散されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記蛍光体層が、前記一般式(A)で示される蛍光体以外の、540nm以上580nm以下の波長領域に主発光ピークを有する第二の蛍光体を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記第二の蛍光体の室温に対する発光強度の維持率が80%以上である、請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記発光装置が白色光発光装置であり、その色温度は温白色、または電球色である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の発光装置を同一基板内に複数個配列したことを特徴とする、発光装置モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−44053(P2012−44053A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185242(P2010−185242)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】