発振装置
【課題】環境温度の検出結果に基づいて出力周波数を補正する発振装置において、出力周波数の温度補償を高精度に行うこと。
【解決手段】共通の水晶片により第1及び第2の水晶振動子を構成すると共に、これら水晶振動子に夫々接続される第1及び第2の発振回路の発振出力をf1、f2とし、基準温度における第1及び第2の発振回路の発振周波数を夫々f1r、f2rとすると、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値をそのときの温度として取り扱う。そしてこの差分値に対応する値に基づいてf1の周波数補正値の近似式により第1の補正値を求め、この第1の補正値と実測した周波数補正値との差である補正残差から当該補正残差分を相殺するための第2の補正値を求める。そしてこれら第1の補正値と第2の補正値との和から周波数補正値を求める。
【解決手段】共通の水晶片により第1及び第2の水晶振動子を構成すると共に、これら水晶振動子に夫々接続される第1及び第2の発振回路の発振出力をf1、f2とし、基準温度における第1及び第2の発振回路の発振周波数を夫々f1r、f2rとすると、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値をそのときの温度として取り扱う。そしてこの差分値に対応する値に基づいてf1の周波数補正値の近似式により第1の補正値を求め、この第1の補正値と実測した周波数補正値との差である補正残差から当該補正残差分を相殺するための第2の補正値を求める。そしてこれら第1の補正値と第2の補正値との和から周波数補正値を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子が置かれる温度を検出し、温度検出結果に基づいて出力周波数の温度補償を行う発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶発振器は、極めて高い周波数安定度が要求されるアプリケーションに組み込まれる場合には、通常OCXOが一般的に用いられているが、OCXOは装置が大掛かりであり、消費電力が大きい。このため簡素な構成であり、消費電力の少ないTCXOを利用することが検討されているが、TCXOは温度に対する周波数安定度がOCXOに比べて劣る欠点がある。
図20はTCXOの一般的な構成を示している。90は水晶振動子、91は発振回路であり、制御電圧発生部93から電圧可変容量素子92に供給される制御電圧を変えることにより、電圧可変容量素子92の容量をコントロールして発振周波数(出力周波数)が調整される。
【0003】
水晶振動子90は温度に応じて周波数が変化するため、制御電圧発生部93は、温度検出器94により検出した温度に応じて制御電圧を補正している。具体的には、水晶振動子90の周波数温度特性を基準温度にて正規化した関数である例えば3次関数をメモリ95内に格納し、この関数(周波数温度特性)に基づいて温度検出値に対応する周波数を読み出す。即ち基準温度時の周波数に対してそのときの温度おける周波数がどのくらいずれているかを読み出し、この周波数のずれ分に対応する制御電圧を温度補償量として、基準温度時の周波数に対応する制御電圧から差し引くようにしている。
【0004】
しかしながら、きめ細かな温度補正制御を行おうとすると、周波数温度特性の関数を規定するデータ量が大きくなり、メモリ95として大容量のものが必要になることから高価なものになってしまう。また温度検出器としては通常サーミスタが用いられることから、前記データ量を大きくしても、温度検出器の検出精度の限界により、周波数精度の向上が期待できない。
更に温度検出器94と水晶振動子90とは、配置位置が異なることから、水晶振動子90の実際の温度情報を正確に得ることができないため、この点からも周波数精度の向上が期待できない。
【0005】
特許文献1の図2及び図3には、共通の水晶片に2対の電極を設けて2つの水晶振動子(水晶共振子)を構成することが記載されている。また段落0018には、温度変化に応じて2つの水晶振動子の間で周波数差が現れるので、この周波数差を計測することにより温度を計測することと同じになると記載されている。そしてこの周波数差Δfと補正すべき周波数の量との関係をROMに記憶させ、Δfに基づいて周波数補正量を読み出している。
しかしながらこの手法は、段落0019に記載されているように、所望の出力周波数f0と、2つの水晶振動子の夫々の周波数f1、f2と、について、f0≒f1≒f2の関係となるように水晶振動子の調整を行う必要があるため、水晶振動子の製造工程が複雑になる上、高い歩留まりが得られないという課題がある。更にまた図4に示されているように、各水晶振動子からの周波数信号であるクロックを一定時間カウントしてその差分(f1−f2)を求めているため、検出時間に検出精度が直接影響し、高精度な温度補償が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−292030号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、出力周波数の温度補償を高精度に行うことができる発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発振装置は、環境温度の検出結果に基づいて出力周波数を設定するための設定信号を補正する発振装置において、
水晶片に第1の電極を設けて構成した第1の水晶振動子と、
水晶片に第2の電極を設けて構成した第2の水晶振動子と、
これら第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準温度における第1の発振回路の発振周波数をf1r、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準温度における第2の発振回路の発振周波数をf2rとすると、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値を求める周波数差検出部と、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得する第1の補正値取得部と、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得する第2の補正値取得部と、
前記第1の補正値と第2の補正値とを加算して前記周波数補正値を求める加算部と、を備え、
発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力を利用して生成され、
前記加算部にて求めた前記周波数補正値に基づいて前記設定信号を補正するように構成したことを特徴とする。
【0009】
前記発振装置は以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記第1の近似式は、前記差分値に対応する値と実測した前記周波数補正値との関係を最小二乗法で多項式近似したものであること。
(b)前記第2の近似式は、前記群に属し、互いに隣り合って配列される差分値に対応する値について取得した補正残差の間を1次関数で補間したものであること。
(c)前記第1の補正値取得部及び第2の補正値取得部は、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、{(f2−f2r)/f2r}−{(f1−f1r)/f1r}を用いること。
【0010】
(d)周波数差検出部は、前記f1とf2との差分周波数のパルスを作成するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rとf2rとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、を備えたこと。
(e)第1の水晶振動子の水晶片と第2の水晶振動子の水晶片とは、共通化されていること。
(f)前記第1の補正値取得部は、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得することに代えて、
周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子とは異なる他の水晶振動子を発振させる他の発振回路の環境温度が基準温度と異なることに起因する発振周波数f0の周波数補正値と、の関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得し、
前記第2の補正値取得部は、
前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得することに代えて、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と前記他の水晶振動子について予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得し、
前記発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力に代えて、前記他の発振回路の出力を利用して生成されるものであること。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、環境温度の検出結果に基づいて出力周波数を補正する発振装置において、第1及び第2の発振回路の発振出力をf1、f2とし、基準温度における第1及び第2の発振回路の発振周波数を夫々f1r、f2rとすると、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値をそのときの温度として取り扱うようにしており、この値と温度との相関度が極めて高いため、出力周波数の温度補償を高精度に行うことができる。またこのとき、前記差分値に対応する値に基づいてf1の周波数補正値の近似式(第1の近似式)により第1の補正値を求め、この第1の補正値と実測した周波数補正値との差である補正残差の近似式(第2の近似式)から当該補正残差分を相殺するための第2の補正値を求める。そしてこれら第1の補正値と第2の補正値との和から周波数補正値を求めることにより、第1の補正値を求める際に近似式を用いることに起因して発生する誤差を低減して精度の高い温度補償を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の一部を示すブロック図である。
【図3】図2に示す一部の出力の波形図である。
【図4】図2に示す、DDS回路部を含むループにおいてロックしていない状態を模式的に示す各部の波形図である。
【図5】図2に示す、DDS回路部を含むループにおいてロックしている状態を模式的に示す各部の波形図である。
【図6】上記の実施形態に対応する実際の装置について前記ループにおける各部の波形図である。
【図7】第1の発振回路の周波数f1及び第2の発振回路の周波数f2と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図8】f1、f2の各々を正規化した値と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図9】f1を正規化した値と温度との関係、及びf1を正規化した値とf2を正規化した値との差分ΔFと温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図10】図9の縦軸を正規化した値と、周波数補正値との関係を示す特性図である。
【図11】補正値演算部を示すブロック図である。
【図12】前記補正値演算部に設けられている第1の補正値演算部を示すブロック図である。
【図13】前記差分値ΔFに対する補正残差の関係を示す特性図である。
【図14】前記補正残差を予め設定した間隔の差分値ごとに取得してプロットした特性図である。
【図15】前記補正値演算部に設けられている第2の補正値演算部を示すブロック図である。
【図16】前記第2の補正演算部の作用を示す第1の説明図である。
【図17】前記第2の補正演算部の作用を示す第2の説明図である。
【図18】前記差分値ΔFに対する、第1の補正値及び第2の補正値を用いて補正された後の補正残差の関係を示す特性図である。
【図19】周波数差検出部の動作シミュレーションを示す特性図である。
【図20】従来のTCXOを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の発振装置の実施形態の全体を示すブロック図である。この発振装置は、設定された周波数の周波数信号を出力する周波数シンセサイザとして構成され、水晶振動子を用いた電圧制御発振器100と、この電圧制御発振器100におけるPLLを構成する制御回路部200と、この制御回路部200に入力される基準クロックの温度補償を行う温度補償部と、を備えている。温度補償部については符号を付していないが、図1における制御回路部200よりも左側部分に相当する。
【0014】
制御回路部200は、DDS(Direct Digital Synthesizer)回路部201から出力するリファレンス(参照用)クロックと、電圧制御発振器100の出力を分周器204で分周したクロックの位相とを位相周波数比較部205にて比較し、その比較結果である位相差が図示しないチャージポンプによりアナログ化される。アナログ化された信号はループフィルタ206に入力され、PLL(Phase locked loop)が安定するように制御される。従って制御回路部200は、PLL部であると言うこともできる。ここでDDS回路部201は、後述の第1の発振回路1から出力される周波数信号を基準クロックとして用い、目的とする周波数の信号を出力するための周波数データ(ディジタル値)が入力されている。
【0015】
しかし前記基準クロックの周波数が温度特性をもっているため、この温度特性をキャンセルするためにDDS回路部201に入力される前記周波数データに後述の周波数補正値に対応する信号を加算している。DDS回路部201に入力される周波数データを補正することで、基準クロックの温度特性変動分に基づくDDS回路部201の出力周波数の温度変動分がキャンセルされ、結果として温度変動に対して参照用クロックの周波数が安定し、以って電圧制御発振器100からの出力周波数が安定することになる。
【0016】
温度補償部は、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を備えており、これら第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は、共通の水晶片Xbを用いて構成されている。即ち例えば短冊状の水晶片Xbの領域を長さ方向に2分割し、各分割領域(振動領域)の表裏両面に励振用の電極を設ける。従って一方の分割領域と一対の電極11、12とにより第1の水晶振動子10が構成され、他方の分割領域と一対の電極21、22とにより第2の水晶振動子20が構成される。このため第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は熱的に結合されたものということができる。
【0017】
第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20には夫々第1の発振回路1及び第2の発振回路2が接続されている。これら発振回路1、2の出力は、いずれについても例えば水晶振動子10、20のオーバートーン(高調波)であってもよいし、基本波であってもよい。オーバートーンの出力を得る場合には、例えば水晶振動子と増幅器とからなる発振ループ内にオーバートーンの同調回路を設けて、発振ループをオーバートーンで発振させてもよい。あるいは発振ループについては基本波で発振させ、発振段の後段、例えばコルピッツ回路の一部である増幅器の後段にC級増幅器を設けてこのC級増幅器により基本波を歪ませると共にC級増幅器の後段にオーバートーンに同調する同調回路を設けて、結果として発振回路1、2からいずれも例えば3次オーバートーンの発振周波数を出力するようにしてもよい。
【0018】
ここで便宜上、第1の発振回路1から周波数f1の周波数信号が出力され、第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が出力されるものとすると、周波数f1の周波数信号は、前記制御回路部200に基準クロックとして供給される。3は周波数差検出部であり、この周波数差検出部3は概略的な言い方をすれば、f1とf2との差分と、Δfrとの差分である、ΔF=f2−f1−Δfrを取り出すための回路部である。Δfrは、基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分である。f1とf2との差分の一例を挙げれば、例えば数MHzである。本発明は、周波数差検出部3によりf1とf2との差分に対応する値と、基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分に対応する値との差分であるΔFを計算することにより成り立つ。この実施形態の場合、より詳しく言えば、周波数差検出部3から出力される値は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}である。ただし、図面では周波数差検出部3の出力の表示は略記している。
【0019】
図2は、周波数差検出部3の具体例を示している。31はフリップフロップ回路(F/F回路)であり、このフリップフロップ回路31の一方の入力端に第1の発振回路1からの周波数f1の周波数信号が入力され、他方の入力端に第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が入力され、第1の発振回路1からの周波数f1の周波数信号により第2の発振回路2からの周波数f2の周波数信号をラッチする。以下において記載の冗長を避けるために、f1、f2は、周波数あるいは周波数信号そのものを表しているとして取り扱う。フリップフロップ回路31は、f1とf2との周波数差に対応する値である(f2−f1)/f1の周波数をもつ信号が出力される。
【0020】
フリップフロップ回路31の後段には、ワンショット回路32が設けられ、ワンショット回路32では、フリップフロップ回路31から得られたパルス信号における立ち上がりにてワンショットのパルスを出力する。図3(a)〜(d)はここまでの一連の信号を示したタイムチャートである。
ワンショット回路32の後段にはPLL(Phase Locked Loop)が設けられ、このPLLは、ラッチ回路33、積分機能を有するループフィルタ34、加算部35及びDDS回路部36により構成されている。ラッチ回路33はDDS回路部36から出力された鋸波をワンショット回路32から出力されるパルスによりラッチするためのものであり、ラッチ回路33の出力は、前記パルスが出力されるタイミングにおける前記鋸波の信号レベルである。ループフィルタ34は、この信号レベルである直流電圧を積分し、加算部35はこの直流電圧とΔfrに対応する直流電圧と加算する。Δfrに対応する直流電圧に対応するデータは図1に示すメモリ30に格納されている。
【0021】
この例では加算部35における符号は、Δfrに対応する直流電圧の入力側が「+」であり、ループフィルタ34の出力電圧の入力側が「−」となっている。DDS回路部36には、加算部35にて演算された直流電圧、即ちΔfrに対応する直流電圧からループフィルタ34の出力電圧を差し引いた電圧が入力され、この電圧値に応じた周波数の鋸波が出力される。PLLの動作の理解を容易にするために図4に極めて模式的に各部の出力の様子を示しておく。装置の立ち上げ時には、Δfrに対応する直流電圧が加算部35を通じてDDS回路部36に入力され、例えばΔfrが5MHzであるとすると、この周波数に応じた周波数の鋸波がDDS回路部36から出力される。
【0022】
前記鋸波がラッチ回路33により(f2−f1)に対応する周波数のパルスでラッチされるが、(f2−f1)が例えば6MHzであるとすると、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が短いことから、鋸波のラッチポイントは図4(a)に示すように徐々に下がっていき、ラッチ回路33の出力及びループフィルタ34の出力は図4(b)、(c)に示すように−側に徐々に下がっていく。加算部35におけるループフィルタ34の出力側の符号が「−」であることから、加算部35からDDS回路部36に入力される直流電圧が上昇する。このためDDS回路部36から出力される鋸波の周波数が高くなり、DDS回路部36に6MHzに対応する直流電圧が入力されたときに、鋸波の周波数が6MHzとなって図5(a)〜(c)に示すようにPLLがロックされる。このときにループフィルタ34から出力される直流電圧は、Δfr−(f2−f1)=−1MHzに対応した値となる。つまりループフィルタ34の積分値は、5MHzから6MHzへ鋸波が変化するときの1MHzの変化分の積分値に相当するということができる。
【0023】
この例とは逆に、Δfrが6MHz、(f2−f1)が5MHzの場合には、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が長いためにことから、図4(a)に示すラッチポイントは徐々に高くなり、これに伴い、ラッチ回路33の出力及びループフィルタ34の出力も上昇する。このため加算部35において差し引かれる値が大きくなるので、鋸波の周波数が徐々に下がり、やがて(f2−f1)と同じ5MHzとなったときにPLLがロックされる。このときにループフィルタ34から出力される直流電圧は、Δfr−(f2−f1)=1MHzに対応した値となる。なお、図6は実測データであり、この例では時刻t0にてPLLがロックしている。
【0024】
ところで既述のように実際には周波数差検出部3の出力、即ち図2に示す平均化回路37の出力は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}の値を34ビットのディジタル値で表した値である。−50℃付近から100℃付近までのこの値の集合は、(f1−f1r)/f1r=OSC1(単位はppmあるいはppb)、(f2−f2r)/f2r=OSC2(単位はppmあるいはppb)とすると、温度に対する変化はOSC2−OSC1と実質同じカーブとなる。従って周波数差検出部3の出力は、OSC2−OSC1=温度データとして取り扱うことができる。
またフリップフロップ31においてf2をf1によりラッチする動作は非同期であることから、メタステーブル(入力データをクロックのエッジでラッチする際、ラッチするエッジの前後一定時間は入力データを保持する必要があるが、クロックと入力データとがほぼ同時に変化することで出力が不安定になる状態)など不定区間が生じる可能性もあり、ループフィルタ34の出力には瞬間誤差が含まれる可能性がある。上記のPLLではループフィルタ34の出力を、温度に対応する値であるΔfrと(f2−f1)との差分として取り扱っていることから、ループフィルタ34の出力側に、予め設定した時間における入力値の移動平均を求める平均化回路37を設け、前記瞬間誤差が生じても取り除くようにしている。平均化回路37を設けることにより、最終的に変動温度分の周波数ずれ情報を高精度に取得することができる。
【0025】
PLLのループフィルタ34にて得られた変動温度分の周波数ずれ情報、この例ではΔfr−(f2−f1)は、図1に示す補正値演算部4に入力され、ここで周波数の補正値が演算される。補正値演算部4に関して述べる前に図7から図10を参照して周波数ずれ情報と周波数補正値とについて説明する。図7は、f1及びf2を基準温度で正規化し、温度と周波数との関係を示す特性図である。ここでいう正規化とは、例えば25℃を基準温度とし、温度と周波数との関係について基準温度における周波数をゼロとし、基準温度における周波数からの周波数のずれ分と温度との関係を求めることを意味している。第1の発振回路1における25℃のときの周波数をf1r、第2の発振回路2における25℃のときの周波数をf2rとすると、つまり25℃におけるf1、f2の値を夫々f1r、f2rとすると、図7の縦軸の値は(f1−f1r)及び(f2−f2r)ということになる。
【0026】
また図8は、図7に示した各温度の周波数について、基準温度(25℃)における周波数に対する変化率を表わしている。従って図8の縦軸の値は、(f1−f1r)/f1r及び(f2−f2r)/f2rであり、これらの値を夫々OSC1及びOSC2で表わすこととする。なお図8の縦軸の値の単位はppmである。
【0027】
ここで周波数差検出部3の説明に戻ると、既述のようにこの実施形態では周波数差検出部3は、(f2−f2r)−(f1−f1r)=f2−f1−Δfr、そのもの値ではなく、OSC2−OSC1を求める演算を行っている。つまり、各周波数が基準温度からどのくらいの比率で外れているかを示す比率の値について、f2における比率とf1における比率との差分を求めているということである。ラッチ回路33には(f2−f1)に対応する周波数信号が入力されるが、PLLループの中には鋸波が入ってくることから、このような計算を行うように回路を組むことができる。周波数差検出部3の出力が34ビットのディジタル値であるとすると、例えば1ビット当たり0.058(ppb)の値を割り当てており、OSC2−OSC1の値は、0.058(ppb)までの精度が得られていることになる。なお1ビット当たり0.058(ppb)の値に設定できる根拠は、後述の(2)〜(4)式に基づく。この段階で図6の説明をすると、図6はf1とf2との周波数差(正確には周波数の変化率の差)OSC2−OSC1が40ppmである場合において、実際の回路に組み込まれたラッチ回路33及びループフィルタ34の出力値である。
【0028】
図9は、OSC1と温度との関係(図8と同じである)、及び(OSC2−OSC1)と温度との関係を示しており、(OSC2−OSC1)が温度に対して直線関係にあることが分かる。従って(OSC2−OSC1)は基準温度からの温度変動ずれ分に対応していることが分かる。そして一般的には水晶振動子の周波数温度特性は3次関数で表わされると言われていることから、この3次関数による周波数変動分を相殺する周波数補正値と(OSC2−OSC1)との関係を求めておけば、(OSC2−OSC1)の検出値に基づいて周波数補正値が求まることになる。
【0029】
この実施形態の発振装置は、既述のように第1の発振回路1から得られる周波数信号(f1)を図1に示す制御回路部200の基準クロックとして用いており、この基準クロックに周波数温度特性が存在することから、基準クロックの周波数に対して温度補正を行おうとしている。このため先ず基準温度で正規化した、温度とf1との関係を示す関数を予め求めておき、この関数によるf1の周波数変動分を相殺するための関数を図10のように求めておく。従って図10の縦軸は−OSC1である。この例では温度補正を高精度に行うために前記関数を例えば9次関数として定めている。
【0030】
既述のように温度と(OSC2−OSC1)とが直線関係にあることから、図10の横軸は、(OSC2−OSC1)の値としているが、(OSC2−OSC1)の値をそのまま用いると、この値を特定するためのデータ量が多くなることから、次のようにして(OSC2−OSC1)の値を正規化している。即ち、発振装置が実際に使用されるであろう上限温度及び下限温度を定めておき、上限温度のときの(OSC2−OSC1)の値を+1、下限温度のときの(OSC2−OSC1)の値を−1として取り扱っている。この例では図10に示すように−30ppmを+1とし、+30ppmを−1としている。
【0031】
水晶振動子における温度に対する周波数特性は、この例では9次の多項近似式として取り扱っている。具体的には、水晶振動子の生産時に(OSC2−OSC1)と温度との関係を実測により取得し、この実測データから、温度に対する周波数変動分を相殺する、温度と−OSC1との関係を示す補正周波数曲線を導き出し、最小二乗法により9次の多項近似式係数を導き出している。そして多項近似式係数を予めメモリ30(図1参照)に記憶しておき、補正値演算部4は、これら多項近似式係数を用いて(1)式の演算処理を行う。
【0032】
Y=P1・X9 +P2・X8 +P3・X7 +P4・X6 +P5・X5 +P6・X4 +P7・X3 +P8・X2 +P9・X ………(1)
(1)式においてXは周波数差検出情報、Yは補正データ(第1の補正値に相当する)、P1〜P9は多項近似式係数である。
【0033】
ここで、Xは図1に示す周波数差検出部3により得られた値、即ち図2に示す平均化回路37により得られた値(OSC2−OSC1)である。
さらに補正値演算部4は、(1)式に示した多項近似式(第1の近似式)だけでは補正しきれずに残る補正残差(補正値の実測値と前記第1の補正値との差)を小さくするために、上述の第1の補正値に加えて第2の補正値を取得する機能を備えている。
【0034】
補正値演算部4にて演算を実行するためのブロック図の一例を図11に示す。補正値演算部4は、メモリ30から読み出した補正用パラメータに基づき、第1の補正値演算部(第1の補正値取得部)40及び第2の補正値演算部(第2の補正値取得部)50にて別々に算出した補正データ(第1の補正値、第2の補正値)を加算部41にて加算し、この加算結果を周波数補正値として出力する。なお図11に示した第1の補正値演算部40、第2の補正値演算部50には周波数差検出値ΔFが入力されるように略記しているが、既述のように本実施の形態ではΔFに対応する値として{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}を用いている。
【0035】
まず、(1)式に示した多項近似式に基づき補正データ(第1の補正値)の演算処理を行う第1の補正値演算部40の構成を図12に示す。図12中、401〜409は(1)式の各項の演算を行う演算部、400は加算部、410は丸め処理を行う回路である。なお、第1の補正値演算部40は、例えば1個の掛け算部を用い、この掛け算部にて9乗項の値を求め、次に当該掛け算部にて8乗項の値を求めるといった具合に、当該掛け算部をいわば使いまわして最終的に各乗項の値を加算するようにしてもよい。また補正値の演算式は9次の多項近似式を用いることに限定されるものではなく、要求される精度に応じた次数の近似式を用いてもよい。
【0036】
このように第1の補正値演算部40は、最小二乗法により求めた9次の多項近似式を用いて補正データ(第1の補正値)を演算し、水晶振動子の温度に対する周波数特性を補正している。しかしながら、このように比較的高次の多項式を用いたとしても、近似式は前記周波数温度特性を厳密に再現するものではない。
【0037】
例えば図13中の実線は、前記補正残差の温度特性を示しており、横軸は温度検出値に対応するOSC1とOSC2との差分値(OSC2−OSC1[ppm])、縦軸は補正残差である。補正残差を算出するにあたり、第1、第2の水晶振動子10、20の周囲の温度を変化させながら実測した第1の発振回路1の発振周波数f1と、基準温度(25℃)における第1の発振回路1の発振周波数f1rとから求めた−OSC1(=(f1−f1r)/f1r)を実測した周波数補正値とした。そして、前記多項近似式から得られた補正データ(第1の補正値)と、実測した周波数補正値との差から補正残差を求めた。
【0038】
図13によれば、(1)式の多項近似式から得られた第1の補正値と実測した周波数補正値との間には±40[ppb]程度の補正残差が存在する。高精度の温度補償を行う場合は、この補正残差をより低減することが好ましい。
【0039】
そこで本例の補正値演算部4は、第1の補正値に加え、前記補正残差に対応する第2の補正値を求め、第1の補正値と第2の補正値とを加算して周波数補正値を求めることにより、温度補償精度を高めている。図11に示した第2の補正値演算部50は、前記差分値に対応する値に基づいて第2の補正値を取得する第2の補正値取得部に相当する。
【0040】
記述のように第2の補正値演算部50は、第1の補正周波数と実測した補正周波数との差である補正残差に基づいて第2の補正値を取得する。例えば図13中に実線で示すようにほぼ連続データと見なせる程度の細かい間隔(例えば差分値に対応する値の算出精度に対応する間隔)で補正残差を予め記憶しておき、差分値に対応する値の演算結果に対応して特定した補正残差を第2の補正値とすれば、より正確な補正が可能となる。
【0041】
しかしながらこの場合には大容量のメモリが必要となると共に、補正残差の温度特性はそれぞれの水晶振動子10で異なるので、全ての発振装置に設けられた水晶振動子10ごとに膨大な補正残差を実測することは現実的ではない。
【0042】
そこで本例の第1の補正値演算部40では予め設定した間隔で配列された差分値に対応する値の群を設定し、この群に属する差分値にて補正残差を取得し、隣り合って配列される差分値に対応する値について取得した補正残差の間を1次関数で補間することにより、周波数差検出部3から取得した差分値に対応する値ΔFについての第2の補正値を演算している。
【0043】
例えば図13には、差分値に対応する値(OSC2−OSC1)の範囲を32分割して補正残差の取得点とし、これらの点で取得した補正残差を白抜きの丸でプロットしてある。図14は、図13に示す補正残差について、横軸方向(差分値に対応する値の配列順)に互いに隣り合うプロット間を1次関数(直線)で補完した近似特性図である。本例の第2の補正値演算部50はこの直線で補完された補正残差の近似式を利用して第2の補正値を取得している。
【0044】
以下、第2の補正値を取得する第2の補正値演算部50の構成及び作用について図15〜図17を参照しながら説明する。既述のように本例では周波数差検出部3から出力される差分値に対応する値ΔFとして{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}を採用しているが、理解を容易にする観点から図15〜図17の説明では差分値に対応する値としてΔF=f1−f2−Δfr[Hz]を使用する。
【0045】
図15は、第2の補正値演算部50の構成を示すブロック図である。概略的には、第2の補正値演算部50は周波数差検出部3より取得したΔFを所定の除数で除算して、このΔFが図14に示したどの補正残差の区間内に位置しているかを判断する情報を出力する位置算出部510と、この位置算出部510から取得した情報に基づいて前記ΔFが属する区間の両端の位置における補正残差を選択する補正残差選択部520と、この補正残差選択部520にて選択された2つの補正残差の間を補間する1次関数(第2の近似式)を求め、この1次関数から前記ΔFに対応する第2の補正値を算出する第2の補正値算出部530と、を備えている。
【0046】
位置算出部510は、周波数差検出部3より取得したΔFに、メモリ30内の除算パラメータテーブル301に格納されている加算値を加算して被除数として出力する加算部511と、加算部511から取得した被除数を前記除算パラメータテーブル301に格納されている除数により除算して、除算結果の整数部分(図15中「商」と記してある)をΔFが属する区間の下端側に対応するインデックス値として出力すると共に、前記除算結果の余り(同図中「剰余」と記してある)を第2の補正値算出部530に出力する除算回路512と、この除算回路512から出力された下端側のインデックス値に「1」を加え、ΔFが属する区間の上端側のインデックス値として出力する定数加算部513とを備えている。
【0047】
図16は、例えば「−32000≦ΔF≦32000」の範囲を2000Hzごとに32分割して得られた33個の取得点に、ΔFの値が小さい方から順に「0〜32」のインデックス値を付し、各インデックス値に対応させて補正残差[ppb]をプロットした様子を模式的に示している。
【0048】
除算パラメータテーブル301には、ΔFの範囲の下端の「−32000」が加算値として格納され、ΔFの範囲を分割する区画単位「2000」が除数として格納されている。ここに例えば周波数差検出部3から「ΔF=−27500」の値が入力されると、加算部511は加算値の符号を反転してΔFに加算し(「−27500−(−32000)=4500」の演算を行い)、この値を被除数として出力する。
【0049】
除算回路512は、除算パラメータテーブル301から読み出した除数「2000」により、加算部511から取得した被除数「4500」を除算して、その除算結果「2.25」の整数部分「2」を商とし、余り部分である「500」を剰余として出力する。
【0050】
一方、図16から分かるように、周波数差検出部3から取得した「ΔF=−27500」は、「−28000≦ΔF≦−26000」の区間に含まれている。この下端側の「−28000」について加算部511、除算回路512で行われる演算を行うと商が「2」、剰余が「0」となる。このようにΔFの範囲を分割して得られた33個の取得点は、上記の演算により剰余が「0」となる位置に、除算数「2000」の倍数刻みに設けられている。そして、各取得点にて上述の演算を行って得られた商の値が、補正残差を選択するためのインデックス値として採用されている。
【0051】
上述のように各取得点のΔFの値とインデックス値との関係が設定されていることにより、除算回路512から出力される商の値は、周波数差検出部3から取得したΔFが含まれる区間の下端側のインデックス値を示すことになる。そして除算回路512から出力された商に、定数加算部513にて「1」を加えると、その値は前記区間の上端側の取得点に対応するインデックス値に等しくなる。
【0052】
この結果、周波数差検出部3から取得したΔFが含まれる区間の上端側と下端側のインデックス値が特定され、これらのインデックス値は、補正残差選択部520内に設けられた第1のセレクタ521と第2のセレクタ522とに各々出力される。第1、第2のセレクタ521、522は、メモリ30内の補正残差テーブル302から補正残差の値を読み出して第2の補正値算出部530に出力する役割を果たす。
【0053】
(表1)に示すように補正残差テーブル302には、第1の水晶振動子10の発振周波数f1と多項近似式により求めた第1の補正値とから予め測定した補正残差がインデックス値に対応付けて記憶されている。各セレクタ521、522は、位置算出部510から取得したインデックス値に基づいて補正残差を選択する。これにより、周波数差検出部3から取得したΔFが含まれる区間の上端側と下端側のΔFに対応する補正残差を取得することができる。本例では第1のセレクタ521は前記区間の下端側のΔFに対応する補正残差を選択し、第2のセレクタ522は上端側のΔFに対応する補正残差を選択する。
【表1】
【0054】
ここで周波数差検出回路3から取得したΔFが含まれる区間の下端側の取得点に対応する値をx0、上端側の取得点に対応する値をx1、前記ΔFをx、下端側、上端側の取得点に対応するインデックス値に基づいて選択された補正残差を各々y0、y1とする。このとき、図17に示すように点P0(x0,y0)と点P1(x1,y1)との間を1次関数で補完すると、yの値を推定する近似式(第2の近似式)が得られる。本実施の形態では、この近似式にxを代入して得られたyの値を第2の補正値とする。
【0055】
図17によれば、前記近似式は下記(2)式で表される。
(y−y0)/(y1−y0)=(x−x0)/(x1−x0)
…(2)
ここで隣り合う取得点同士の間隔は「x1−x0」はの値は除数であり、「x−x0」の値は剰余なので、(2)式は下記の(2)’式に書き替えられる。
y={(剰余)・(y1−y0)/(除数)}+y0 …(2)’
第2の補正値算出部530は第1のセレクタ521から取得したy0、第2のセレクタ522から取得したy1、除算回路512から取得した剰余、及び除算パラメータテーブル301から読み出した除数の各値に基づいて(2)’の計算を行い、得られた値を第2の補正値として出力する。
【0056】
次に上述の実施の形態の全体の動作についてまとめる。第1の発振回路1から出力される周波数信号は、電圧制御発振器100の制御部200にクロック信号として供給され、本実施形態の冒頭に述べたように制御部200における制御動作により電圧制御発振器100から目的とする周波数の周波数信号が出力される。一方第1の発振回路1及び第2の発振回路2から夫々出力される周波数信号f1、f2は、周波数差検出部3に入力され、既に詳述した動作によりこの例では周波数差検出部3の出力であるPLLの出力ΔFが{Δfr−(f2−f1)}に対応する値、この例では(OSC2−OSC1)になったときにロックする。そしてこの値が補正値演算部4に入力され、第1の補正値演算部40では(1)式の演算が実行されて第1の補正値を取得し、第2の補正値演算部50ではΔFが含まれる区間の補正残差をメモリ30から読み出し(2)’式の演算を実行して第2の補正値を取得する。そして、これら第1の補正値及び第2の補正値が加算部41にて加算され(このとき、第1の補正値及び第2の補正値の単位は例えばppmに揃えられる)、周波数補正値として出力される。
【0057】
(1)式の演算は、例えば図10に示す特性図において、周波数差検出部3の出力値に基づいて得られた値に対応する補正周波数の近似曲線の縦軸の値を求める処理である。また(2)'式の演算は図14に示す特性図において、周波数差検出部3の出力値に基づいて得られた値に対応する補正残差の近似線の縦軸の値を求める処理である。
【0058】
図18には補正値演算部4から出力される周波数補正値(第1の補正値と第2の補正値との和)と実測した周波数補正値との間の差(補正残差)を実線で示し、図13にて説明した第1の補正値との間の補正残差を一点鎖線で示す。図18によれば、補正値演算部4から出力される周波数補正値は実測した周波数補正値に対する補正残差が±10[ppb]の範囲内に収まっており、第1の補正値における補正残差(±40[ppb])よりも変動幅が小さくなっている。従って、(1)式の近似式(第1の近似式)を用いて得た第1の補正値に、補正残差に対応する(2)’式の近似式(第2の近似式)を用いて得た第2の補正値を加算することにより、周波数補正値の精度を向上させることができたと言える。
【0059】
既述のように第2の補正値は、実測した周波数補正値との差分に基づいて得た補正残差を利用して算出しているので、一次関数のようにパラメータの少ない近似式を利用する場合であっても、周波数補正値の精度の相当程度の向上を図ることができる。ここで発明者は、(1)式に替えての補正周波数の近似式として、例えば3次のスプライン補間処理計算式(y=ax3+bx2+cx+d(a,b,c,dはスプライン補間係数))を用いて、図18に示した場合と同等程度の精度を実現する場合に必要なパラメータの情報量を検討したところ、概算で160byteであった。これに対して、(1)式、(2)’式にの演算に必要なパラメータ情報量は60byteであり、情報量は約1/2.7となった。
【0060】
但し、第2の補正値を算出する近似式は、既述の一次関数に限定されるものではない。使用可能なメモリ容量等に応じて、2次以上の高次の多項式を利用したスプライン補間や最小二乗法を利用した近似曲線を利用してもよいことは勿論である。また、第1の補正値と第2の補正値とを加算する際に、各々の補正値に係数を乗ずるなどしてもよい。
【0061】
また、図1に示すように第1の水晶振動子11及び第2の水晶振動子12は共通の水晶片Xbを用いて構成され、互いに熱的に結合されていることから、発振回路11、12の周波数差は、環境温度に極めて正確に対応した値であり、従って周波数差検出部3の出力は、環境温度と基準温度(この例では25℃)との温度差情報である。第1の発振回路11の出力される周波数信号f1は制御部200のメインクロックとして使用されるものであることから、補正値演算部4にて得られた補正値は、温度が25℃からずれたことによるf1の周波数ずれ分に基づく制御部200の動作への影響を相殺するために制御部200の動作を補償するための信号として用いられる。この結果、本実施形態の発振装置1の出力である電圧制御発振器100の出力周波数が温度変動にかかわらず安定したものとなる。
【0062】
以上のように上述実施の形態によれば、動作クロック自身が温度変動しているにもかかわらず変動温度分に対応した正確な周波数ずれ情報を得ることができ、この結果高安定、高精度の発振装置を実現することができる。またf1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値を周波数差検出情報(変動温度分の周波数ずれ情報)としているため、特許文献1のようにf1≒f2に調整する煩わしい作業を必要とせず、また水晶振動子の歩留まりが低くなるという問題もない。
【0063】
そして周波数差検出情報を求めるために、f1とf2との差分周波数のパルスを作成し、DDS回路部から出力された鋸波信号を前記パルスによりラッチ回路でラッチし、ラッチされた信号値を積分してその積分値を前記周波数差として出力すると共に、この出力とf1rとf2rとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力してPLLを構成している。特許文献1のようにf1、f2をカウントしてその差分を取得する場合には、カウント時間が検出精度に直接影響するが、このような構成では、このような問題がないため検出精度が高い。実際に両者の方式をシミュレーションにより比較し、周波数をカウントする方式においては200msのカウント時間を設定したところ、検出精度について本実施形態の方式の方が約50倍高いという結果を得た。
【0064】
また本実施形態のPLLの場合には、従来のDDS回路部のように正弦波ROMテーブルを持たないため、メモリ容量を小さくできる利点があり、装置の規模を小さくできる。また変動温度分の周波数ずれ情報に基づいて周波数の補正値を演算処理により求めているため、容量の大きなメモリが不要であり、この点からも装置の規模を小さくでき、コストを抑えることができる。
【0065】
ここで図2の回路を用いて、f1が81.9MHz、f2が76、69MHzである場合に、周波数差検出部3の出力である周波数差情報と時間との関係を調べた結果を図19に示しておく。この場合、周波数差情報は(OSC2−OSC1)となるように設定されており、この値は+50ppmである。
【0066】
繰り返しの説明になるが、この実施形態ではf1とf1rとの差分に対応する値とは、{(f1−f1r)/f1r}(=OSC1)であり、f2とf2rとの差分に対応する値とは{(f2−f2r)/f2r}(=OSC2)であり、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値とは、OSC2−OSC1である。本発明はこれに限られず周波数差検出部3は、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、(f1−f1r)と(f2−f2r)との差分値そのものを用いてもよく、この場合には、図7のグラフが活用されて温度が求められることになる。
【0067】
上述の実施形態において、図8から図10の説明では、周波数の変化分を「ppm」単位で表示しているが、実際のディジタル回路では全て2進数での扱いとなるため、DDS回路部36の周波数設定精度は構成ビット数で計算され、例えば34ビットである。一例を挙げると、図1に示す制御回路部200に含まれるDDS回路部201に10MHzのクロックを供給する場合においてこのクロックの変動周波数が100Hzの場合
〔変動比率計算〕
100Hz/10MHz=0.00001
〔ppm換算〕
0.00001*1e6=10〔ppm〕
〔DDS設定精度換算〕
0.00001*2^34≒171,799〔ratio−34bit(仮称)〕となる。
【0068】
上記の構成の場合、前記周波数設定精度は次の(3)式で表わされる。
1×〔ratio−34bit〕=10M〔Hz〕/2^34≒0.58m〔Hz/bit〕 ……(3)
従って100〔Hz〕/0.58m〔Hz/bit〕≒171,799〔bit(ratio−34bit)〕となる。
また、0.58mHzは10MHzに対して、次の(4)式のように計算できる。
0.58m〔Hz〕/10M〔Hz〕*1e9≒0.058〔ppb〕…(4)
従って(3)、(4)式から、(5)式の関係が成り立つ。
【0069】
1e9/2^34=0.058〔ppb/ratio−34bit〕…(5)
即ちDDS回路36で処理した周波数は消え、ビット数のみの関係となる。
【0070】
更にまた上述の例では第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20とは共通の水晶片Xbを用いているが、水晶片Xbが共通化されていなくてもよい。この場合、例えば共通の筐体の中に第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を配置する例を挙げることができる。このような構成によれば、実質同一の温度環境下に置かれるため、同様の効果が得られる。
【0071】
周波数差検出部3のDDS回路部36の出力信号は、鋸波に限ることなく、時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号であればよく、例えば正弦波であってもよい。
また周波数差検出部3としては、f1とf2とをカウンタによりカウントし、そのカウント値の差分値からΔfrに相当する値を差し引いて、得られたカウント値に対応する値を出力するようにしてもよい。
【0072】
補正値演算部4にて求めた補正値は、上述の実施形態のように用いることに限定されるものではなく、発振装置の出力周波数が温度で変動する場合に、補正値を用いて出力周波数の変動分を相殺できるように補償できる構成であれば他の手法で補正してもよい。例えば図20に示すTCXOにおいて、温度検出器94の出力に代えて周波数差検出部3で得られた周波数差情報を用い、この情報に基づいて周波数補正量に見合う制御電圧の補償分を求め、制御電圧発生部93にて前記補償分と基準温度における周波数を出力するための基準電圧とを加算して制御電圧としてもよい。周波数差情報から周波数補正量を求める手法は、先の実施形態のように多項近似式に限らず、メモリに予め周波数差情報と周波数補正量との関係を示すテーブルを格納して、このテーブルを参照する手法であってもよい。
【0073】
以上の実施の形態では、第1の水晶振動子10と第2の水晶振動子20との周波数差をいわば温度計測値として用い、この温度計測値に基づいて第1の水晶振動子10の温度変動に対する周波数補正値を求めている。しかし本発明は、周波数補正の対象となる水晶振動子と、いわば温度計を構成する2つの水晶振動子の一方とを共通化しない構成を取った場合にも特許請求の技術的範囲に含まれる。
【0074】
この場合の前記第1の補正値取得部は、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得することに代えて、
周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子とは異なる他の水晶振動子を発振させる他の発振回路の環境温度が基準温度と異なることに起因する発振周波数f0の周波数補正値と、の関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得し、
前記第2の補正値取得部は、
前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得することに代えて、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と前記他の水晶振動子について予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得し、
前記発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力に代えて、前記他の発振回路の出力を利用して生成されるものであるということができる。
【符号の説明】
【0075】
1 第1の発振回路
2 第2の発振回路
10 第1の水晶振動子
20 第2の水晶振動子
3 周波数差検出部
31 フリップフロップ回路
32 ワンショット回路
33 ラッチ回路
34 ループフィルタ
35 加算部
36 DDS回路部
4 補正値演算部
40 第1の補正値演算部
50 第2の補正値演算部
100 電圧制御発振器
200 制御回路部
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子が置かれる温度を検出し、温度検出結果に基づいて出力周波数の温度補償を行う発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶発振器は、極めて高い周波数安定度が要求されるアプリケーションに組み込まれる場合には、通常OCXOが一般的に用いられているが、OCXOは装置が大掛かりであり、消費電力が大きい。このため簡素な構成であり、消費電力の少ないTCXOを利用することが検討されているが、TCXOは温度に対する周波数安定度がOCXOに比べて劣る欠点がある。
図20はTCXOの一般的な構成を示している。90は水晶振動子、91は発振回路であり、制御電圧発生部93から電圧可変容量素子92に供給される制御電圧を変えることにより、電圧可変容量素子92の容量をコントロールして発振周波数(出力周波数)が調整される。
【0003】
水晶振動子90は温度に応じて周波数が変化するため、制御電圧発生部93は、温度検出器94により検出した温度に応じて制御電圧を補正している。具体的には、水晶振動子90の周波数温度特性を基準温度にて正規化した関数である例えば3次関数をメモリ95内に格納し、この関数(周波数温度特性)に基づいて温度検出値に対応する周波数を読み出す。即ち基準温度時の周波数に対してそのときの温度おける周波数がどのくらいずれているかを読み出し、この周波数のずれ分に対応する制御電圧を温度補償量として、基準温度時の周波数に対応する制御電圧から差し引くようにしている。
【0004】
しかしながら、きめ細かな温度補正制御を行おうとすると、周波数温度特性の関数を規定するデータ量が大きくなり、メモリ95として大容量のものが必要になることから高価なものになってしまう。また温度検出器としては通常サーミスタが用いられることから、前記データ量を大きくしても、温度検出器の検出精度の限界により、周波数精度の向上が期待できない。
更に温度検出器94と水晶振動子90とは、配置位置が異なることから、水晶振動子90の実際の温度情報を正確に得ることができないため、この点からも周波数精度の向上が期待できない。
【0005】
特許文献1の図2及び図3には、共通の水晶片に2対の電極を設けて2つの水晶振動子(水晶共振子)を構成することが記載されている。また段落0018には、温度変化に応じて2つの水晶振動子の間で周波数差が現れるので、この周波数差を計測することにより温度を計測することと同じになると記載されている。そしてこの周波数差Δfと補正すべき周波数の量との関係をROMに記憶させ、Δfに基づいて周波数補正量を読み出している。
しかしながらこの手法は、段落0019に記載されているように、所望の出力周波数f0と、2つの水晶振動子の夫々の周波数f1、f2と、について、f0≒f1≒f2の関係となるように水晶振動子の調整を行う必要があるため、水晶振動子の製造工程が複雑になる上、高い歩留まりが得られないという課題がある。更にまた図4に示されているように、各水晶振動子からの周波数信号であるクロックを一定時間カウントしてその差分(f1−f2)を求めているため、検出時間に検出精度が直接影響し、高精度な温度補償が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−292030号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、出力周波数の温度補償を高精度に行うことができる発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発振装置は、環境温度の検出結果に基づいて出力周波数を設定するための設定信号を補正する発振装置において、
水晶片に第1の電極を設けて構成した第1の水晶振動子と、
水晶片に第2の電極を設けて構成した第2の水晶振動子と、
これら第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準温度における第1の発振回路の発振周波数をf1r、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準温度における第2の発振回路の発振周波数をf2rとすると、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値を求める周波数差検出部と、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得する第1の補正値取得部と、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得する第2の補正値取得部と、
前記第1の補正値と第2の補正値とを加算して前記周波数補正値を求める加算部と、を備え、
発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力を利用して生成され、
前記加算部にて求めた前記周波数補正値に基づいて前記設定信号を補正するように構成したことを特徴とする。
【0009】
前記発振装置は以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記第1の近似式は、前記差分値に対応する値と実測した前記周波数補正値との関係を最小二乗法で多項式近似したものであること。
(b)前記第2の近似式は、前記群に属し、互いに隣り合って配列される差分値に対応する値について取得した補正残差の間を1次関数で補間したものであること。
(c)前記第1の補正値取得部及び第2の補正値取得部は、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、{(f2−f2r)/f2r}−{(f1−f1r)/f1r}を用いること。
【0010】
(d)周波数差検出部は、前記f1とf2との差分周波数のパルスを作成するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rとf2rとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、を備えたこと。
(e)第1の水晶振動子の水晶片と第2の水晶振動子の水晶片とは、共通化されていること。
(f)前記第1の補正値取得部は、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得することに代えて、
周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子とは異なる他の水晶振動子を発振させる他の発振回路の環境温度が基準温度と異なることに起因する発振周波数f0の周波数補正値と、の関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得し、
前記第2の補正値取得部は、
前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得することに代えて、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と前記他の水晶振動子について予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得し、
前記発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力に代えて、前記他の発振回路の出力を利用して生成されるものであること。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、環境温度の検出結果に基づいて出力周波数を補正する発振装置において、第1及び第2の発振回路の発振出力をf1、f2とし、基準温度における第1及び第2の発振回路の発振周波数を夫々f1r、f2rとすると、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値をそのときの温度として取り扱うようにしており、この値と温度との相関度が極めて高いため、出力周波数の温度補償を高精度に行うことができる。またこのとき、前記差分値に対応する値に基づいてf1の周波数補正値の近似式(第1の近似式)により第1の補正値を求め、この第1の補正値と実測した周波数補正値との差である補正残差の近似式(第2の近似式)から当該補正残差分を相殺するための第2の補正値を求める。そしてこれら第1の補正値と第2の補正値との和から周波数補正値を求めることにより、第1の補正値を求める際に近似式を用いることに起因して発生する誤差を低減して精度の高い温度補償を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の一部を示すブロック図である。
【図3】図2に示す一部の出力の波形図である。
【図4】図2に示す、DDS回路部を含むループにおいてロックしていない状態を模式的に示す各部の波形図である。
【図5】図2に示す、DDS回路部を含むループにおいてロックしている状態を模式的に示す各部の波形図である。
【図6】上記の実施形態に対応する実際の装置について前記ループにおける各部の波形図である。
【図7】第1の発振回路の周波数f1及び第2の発振回路の周波数f2と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図8】f1、f2の各々を正規化した値と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図9】f1を正規化した値と温度との関係、及びf1を正規化した値とf2を正規化した値との差分ΔFと温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図10】図9の縦軸を正規化した値と、周波数補正値との関係を示す特性図である。
【図11】補正値演算部を示すブロック図である。
【図12】前記補正値演算部に設けられている第1の補正値演算部を示すブロック図である。
【図13】前記差分値ΔFに対する補正残差の関係を示す特性図である。
【図14】前記補正残差を予め設定した間隔の差分値ごとに取得してプロットした特性図である。
【図15】前記補正値演算部に設けられている第2の補正値演算部を示すブロック図である。
【図16】前記第2の補正演算部の作用を示す第1の説明図である。
【図17】前記第2の補正演算部の作用を示す第2の説明図である。
【図18】前記差分値ΔFに対する、第1の補正値及び第2の補正値を用いて補正された後の補正残差の関係を示す特性図である。
【図19】周波数差検出部の動作シミュレーションを示す特性図である。
【図20】従来のTCXOを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の発振装置の実施形態の全体を示すブロック図である。この発振装置は、設定された周波数の周波数信号を出力する周波数シンセサイザとして構成され、水晶振動子を用いた電圧制御発振器100と、この電圧制御発振器100におけるPLLを構成する制御回路部200と、この制御回路部200に入力される基準クロックの温度補償を行う温度補償部と、を備えている。温度補償部については符号を付していないが、図1における制御回路部200よりも左側部分に相当する。
【0014】
制御回路部200は、DDS(Direct Digital Synthesizer)回路部201から出力するリファレンス(参照用)クロックと、電圧制御発振器100の出力を分周器204で分周したクロックの位相とを位相周波数比較部205にて比較し、その比較結果である位相差が図示しないチャージポンプによりアナログ化される。アナログ化された信号はループフィルタ206に入力され、PLL(Phase locked loop)が安定するように制御される。従って制御回路部200は、PLL部であると言うこともできる。ここでDDS回路部201は、後述の第1の発振回路1から出力される周波数信号を基準クロックとして用い、目的とする周波数の信号を出力するための周波数データ(ディジタル値)が入力されている。
【0015】
しかし前記基準クロックの周波数が温度特性をもっているため、この温度特性をキャンセルするためにDDS回路部201に入力される前記周波数データに後述の周波数補正値に対応する信号を加算している。DDS回路部201に入力される周波数データを補正することで、基準クロックの温度特性変動分に基づくDDS回路部201の出力周波数の温度変動分がキャンセルされ、結果として温度変動に対して参照用クロックの周波数が安定し、以って電圧制御発振器100からの出力周波数が安定することになる。
【0016】
温度補償部は、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を備えており、これら第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は、共通の水晶片Xbを用いて構成されている。即ち例えば短冊状の水晶片Xbの領域を長さ方向に2分割し、各分割領域(振動領域)の表裏両面に励振用の電極を設ける。従って一方の分割領域と一対の電極11、12とにより第1の水晶振動子10が構成され、他方の分割領域と一対の電極21、22とにより第2の水晶振動子20が構成される。このため第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は熱的に結合されたものということができる。
【0017】
第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20には夫々第1の発振回路1及び第2の発振回路2が接続されている。これら発振回路1、2の出力は、いずれについても例えば水晶振動子10、20のオーバートーン(高調波)であってもよいし、基本波であってもよい。オーバートーンの出力を得る場合には、例えば水晶振動子と増幅器とからなる発振ループ内にオーバートーンの同調回路を設けて、発振ループをオーバートーンで発振させてもよい。あるいは発振ループについては基本波で発振させ、発振段の後段、例えばコルピッツ回路の一部である増幅器の後段にC級増幅器を設けてこのC級増幅器により基本波を歪ませると共にC級増幅器の後段にオーバートーンに同調する同調回路を設けて、結果として発振回路1、2からいずれも例えば3次オーバートーンの発振周波数を出力するようにしてもよい。
【0018】
ここで便宜上、第1の発振回路1から周波数f1の周波数信号が出力され、第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が出力されるものとすると、周波数f1の周波数信号は、前記制御回路部200に基準クロックとして供給される。3は周波数差検出部であり、この周波数差検出部3は概略的な言い方をすれば、f1とf2との差分と、Δfrとの差分である、ΔF=f2−f1−Δfrを取り出すための回路部である。Δfrは、基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分である。f1とf2との差分の一例を挙げれば、例えば数MHzである。本発明は、周波数差検出部3によりf1とf2との差分に対応する値と、基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分に対応する値との差分であるΔFを計算することにより成り立つ。この実施形態の場合、より詳しく言えば、周波数差検出部3から出力される値は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}である。ただし、図面では周波数差検出部3の出力の表示は略記している。
【0019】
図2は、周波数差検出部3の具体例を示している。31はフリップフロップ回路(F/F回路)であり、このフリップフロップ回路31の一方の入力端に第1の発振回路1からの周波数f1の周波数信号が入力され、他方の入力端に第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が入力され、第1の発振回路1からの周波数f1の周波数信号により第2の発振回路2からの周波数f2の周波数信号をラッチする。以下において記載の冗長を避けるために、f1、f2は、周波数あるいは周波数信号そのものを表しているとして取り扱う。フリップフロップ回路31は、f1とf2との周波数差に対応する値である(f2−f1)/f1の周波数をもつ信号が出力される。
【0020】
フリップフロップ回路31の後段には、ワンショット回路32が設けられ、ワンショット回路32では、フリップフロップ回路31から得られたパルス信号における立ち上がりにてワンショットのパルスを出力する。図3(a)〜(d)はここまでの一連の信号を示したタイムチャートである。
ワンショット回路32の後段にはPLL(Phase Locked Loop)が設けられ、このPLLは、ラッチ回路33、積分機能を有するループフィルタ34、加算部35及びDDS回路部36により構成されている。ラッチ回路33はDDS回路部36から出力された鋸波をワンショット回路32から出力されるパルスによりラッチするためのものであり、ラッチ回路33の出力は、前記パルスが出力されるタイミングにおける前記鋸波の信号レベルである。ループフィルタ34は、この信号レベルである直流電圧を積分し、加算部35はこの直流電圧とΔfrに対応する直流電圧と加算する。Δfrに対応する直流電圧に対応するデータは図1に示すメモリ30に格納されている。
【0021】
この例では加算部35における符号は、Δfrに対応する直流電圧の入力側が「+」であり、ループフィルタ34の出力電圧の入力側が「−」となっている。DDS回路部36には、加算部35にて演算された直流電圧、即ちΔfrに対応する直流電圧からループフィルタ34の出力電圧を差し引いた電圧が入力され、この電圧値に応じた周波数の鋸波が出力される。PLLの動作の理解を容易にするために図4に極めて模式的に各部の出力の様子を示しておく。装置の立ち上げ時には、Δfrに対応する直流電圧が加算部35を通じてDDS回路部36に入力され、例えばΔfrが5MHzであるとすると、この周波数に応じた周波数の鋸波がDDS回路部36から出力される。
【0022】
前記鋸波がラッチ回路33により(f2−f1)に対応する周波数のパルスでラッチされるが、(f2−f1)が例えば6MHzであるとすると、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が短いことから、鋸波のラッチポイントは図4(a)に示すように徐々に下がっていき、ラッチ回路33の出力及びループフィルタ34の出力は図4(b)、(c)に示すように−側に徐々に下がっていく。加算部35におけるループフィルタ34の出力側の符号が「−」であることから、加算部35からDDS回路部36に入力される直流電圧が上昇する。このためDDS回路部36から出力される鋸波の周波数が高くなり、DDS回路部36に6MHzに対応する直流電圧が入力されたときに、鋸波の周波数が6MHzとなって図5(a)〜(c)に示すようにPLLがロックされる。このときにループフィルタ34から出力される直流電圧は、Δfr−(f2−f1)=−1MHzに対応した値となる。つまりループフィルタ34の積分値は、5MHzから6MHzへ鋸波が変化するときの1MHzの変化分の積分値に相当するということができる。
【0023】
この例とは逆に、Δfrが6MHz、(f2−f1)が5MHzの場合には、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が長いためにことから、図4(a)に示すラッチポイントは徐々に高くなり、これに伴い、ラッチ回路33の出力及びループフィルタ34の出力も上昇する。このため加算部35において差し引かれる値が大きくなるので、鋸波の周波数が徐々に下がり、やがて(f2−f1)と同じ5MHzとなったときにPLLがロックされる。このときにループフィルタ34から出力される直流電圧は、Δfr−(f2−f1)=1MHzに対応した値となる。なお、図6は実測データであり、この例では時刻t0にてPLLがロックしている。
【0024】
ところで既述のように実際には周波数差検出部3の出力、即ち図2に示す平均化回路37の出力は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}の値を34ビットのディジタル値で表した値である。−50℃付近から100℃付近までのこの値の集合は、(f1−f1r)/f1r=OSC1(単位はppmあるいはppb)、(f2−f2r)/f2r=OSC2(単位はppmあるいはppb)とすると、温度に対する変化はOSC2−OSC1と実質同じカーブとなる。従って周波数差検出部3の出力は、OSC2−OSC1=温度データとして取り扱うことができる。
またフリップフロップ31においてf2をf1によりラッチする動作は非同期であることから、メタステーブル(入力データをクロックのエッジでラッチする際、ラッチするエッジの前後一定時間は入力データを保持する必要があるが、クロックと入力データとがほぼ同時に変化することで出力が不安定になる状態)など不定区間が生じる可能性もあり、ループフィルタ34の出力には瞬間誤差が含まれる可能性がある。上記のPLLではループフィルタ34の出力を、温度に対応する値であるΔfrと(f2−f1)との差分として取り扱っていることから、ループフィルタ34の出力側に、予め設定した時間における入力値の移動平均を求める平均化回路37を設け、前記瞬間誤差が生じても取り除くようにしている。平均化回路37を設けることにより、最終的に変動温度分の周波数ずれ情報を高精度に取得することができる。
【0025】
PLLのループフィルタ34にて得られた変動温度分の周波数ずれ情報、この例ではΔfr−(f2−f1)は、図1に示す補正値演算部4に入力され、ここで周波数の補正値が演算される。補正値演算部4に関して述べる前に図7から図10を参照して周波数ずれ情報と周波数補正値とについて説明する。図7は、f1及びf2を基準温度で正規化し、温度と周波数との関係を示す特性図である。ここでいう正規化とは、例えば25℃を基準温度とし、温度と周波数との関係について基準温度における周波数をゼロとし、基準温度における周波数からの周波数のずれ分と温度との関係を求めることを意味している。第1の発振回路1における25℃のときの周波数をf1r、第2の発振回路2における25℃のときの周波数をf2rとすると、つまり25℃におけるf1、f2の値を夫々f1r、f2rとすると、図7の縦軸の値は(f1−f1r)及び(f2−f2r)ということになる。
【0026】
また図8は、図7に示した各温度の周波数について、基準温度(25℃)における周波数に対する変化率を表わしている。従って図8の縦軸の値は、(f1−f1r)/f1r及び(f2−f2r)/f2rであり、これらの値を夫々OSC1及びOSC2で表わすこととする。なお図8の縦軸の値の単位はppmである。
【0027】
ここで周波数差検出部3の説明に戻ると、既述のようにこの実施形態では周波数差検出部3は、(f2−f2r)−(f1−f1r)=f2−f1−Δfr、そのもの値ではなく、OSC2−OSC1を求める演算を行っている。つまり、各周波数が基準温度からどのくらいの比率で外れているかを示す比率の値について、f2における比率とf1における比率との差分を求めているということである。ラッチ回路33には(f2−f1)に対応する周波数信号が入力されるが、PLLループの中には鋸波が入ってくることから、このような計算を行うように回路を組むことができる。周波数差検出部3の出力が34ビットのディジタル値であるとすると、例えば1ビット当たり0.058(ppb)の値を割り当てており、OSC2−OSC1の値は、0.058(ppb)までの精度が得られていることになる。なお1ビット当たり0.058(ppb)の値に設定できる根拠は、後述の(2)〜(4)式に基づく。この段階で図6の説明をすると、図6はf1とf2との周波数差(正確には周波数の変化率の差)OSC2−OSC1が40ppmである場合において、実際の回路に組み込まれたラッチ回路33及びループフィルタ34の出力値である。
【0028】
図9は、OSC1と温度との関係(図8と同じである)、及び(OSC2−OSC1)と温度との関係を示しており、(OSC2−OSC1)が温度に対して直線関係にあることが分かる。従って(OSC2−OSC1)は基準温度からの温度変動ずれ分に対応していることが分かる。そして一般的には水晶振動子の周波数温度特性は3次関数で表わされると言われていることから、この3次関数による周波数変動分を相殺する周波数補正値と(OSC2−OSC1)との関係を求めておけば、(OSC2−OSC1)の検出値に基づいて周波数補正値が求まることになる。
【0029】
この実施形態の発振装置は、既述のように第1の発振回路1から得られる周波数信号(f1)を図1に示す制御回路部200の基準クロックとして用いており、この基準クロックに周波数温度特性が存在することから、基準クロックの周波数に対して温度補正を行おうとしている。このため先ず基準温度で正規化した、温度とf1との関係を示す関数を予め求めておき、この関数によるf1の周波数変動分を相殺するための関数を図10のように求めておく。従って図10の縦軸は−OSC1である。この例では温度補正を高精度に行うために前記関数を例えば9次関数として定めている。
【0030】
既述のように温度と(OSC2−OSC1)とが直線関係にあることから、図10の横軸は、(OSC2−OSC1)の値としているが、(OSC2−OSC1)の値をそのまま用いると、この値を特定するためのデータ量が多くなることから、次のようにして(OSC2−OSC1)の値を正規化している。即ち、発振装置が実際に使用されるであろう上限温度及び下限温度を定めておき、上限温度のときの(OSC2−OSC1)の値を+1、下限温度のときの(OSC2−OSC1)の値を−1として取り扱っている。この例では図10に示すように−30ppmを+1とし、+30ppmを−1としている。
【0031】
水晶振動子における温度に対する周波数特性は、この例では9次の多項近似式として取り扱っている。具体的には、水晶振動子の生産時に(OSC2−OSC1)と温度との関係を実測により取得し、この実測データから、温度に対する周波数変動分を相殺する、温度と−OSC1との関係を示す補正周波数曲線を導き出し、最小二乗法により9次の多項近似式係数を導き出している。そして多項近似式係数を予めメモリ30(図1参照)に記憶しておき、補正値演算部4は、これら多項近似式係数を用いて(1)式の演算処理を行う。
【0032】
Y=P1・X9 +P2・X8 +P3・X7 +P4・X6 +P5・X5 +P6・X4 +P7・X3 +P8・X2 +P9・X ………(1)
(1)式においてXは周波数差検出情報、Yは補正データ(第1の補正値に相当する)、P1〜P9は多項近似式係数である。
【0033】
ここで、Xは図1に示す周波数差検出部3により得られた値、即ち図2に示す平均化回路37により得られた値(OSC2−OSC1)である。
さらに補正値演算部4は、(1)式に示した多項近似式(第1の近似式)だけでは補正しきれずに残る補正残差(補正値の実測値と前記第1の補正値との差)を小さくするために、上述の第1の補正値に加えて第2の補正値を取得する機能を備えている。
【0034】
補正値演算部4にて演算を実行するためのブロック図の一例を図11に示す。補正値演算部4は、メモリ30から読み出した補正用パラメータに基づき、第1の補正値演算部(第1の補正値取得部)40及び第2の補正値演算部(第2の補正値取得部)50にて別々に算出した補正データ(第1の補正値、第2の補正値)を加算部41にて加算し、この加算結果を周波数補正値として出力する。なお図11に示した第1の補正値演算部40、第2の補正値演算部50には周波数差検出値ΔFが入力されるように略記しているが、既述のように本実施の形態ではΔFに対応する値として{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}を用いている。
【0035】
まず、(1)式に示した多項近似式に基づき補正データ(第1の補正値)の演算処理を行う第1の補正値演算部40の構成を図12に示す。図12中、401〜409は(1)式の各項の演算を行う演算部、400は加算部、410は丸め処理を行う回路である。なお、第1の補正値演算部40は、例えば1個の掛け算部を用い、この掛け算部にて9乗項の値を求め、次に当該掛け算部にて8乗項の値を求めるといった具合に、当該掛け算部をいわば使いまわして最終的に各乗項の値を加算するようにしてもよい。また補正値の演算式は9次の多項近似式を用いることに限定されるものではなく、要求される精度に応じた次数の近似式を用いてもよい。
【0036】
このように第1の補正値演算部40は、最小二乗法により求めた9次の多項近似式を用いて補正データ(第1の補正値)を演算し、水晶振動子の温度に対する周波数特性を補正している。しかしながら、このように比較的高次の多項式を用いたとしても、近似式は前記周波数温度特性を厳密に再現するものではない。
【0037】
例えば図13中の実線は、前記補正残差の温度特性を示しており、横軸は温度検出値に対応するOSC1とOSC2との差分値(OSC2−OSC1[ppm])、縦軸は補正残差である。補正残差を算出するにあたり、第1、第2の水晶振動子10、20の周囲の温度を変化させながら実測した第1の発振回路1の発振周波数f1と、基準温度(25℃)における第1の発振回路1の発振周波数f1rとから求めた−OSC1(=(f1−f1r)/f1r)を実測した周波数補正値とした。そして、前記多項近似式から得られた補正データ(第1の補正値)と、実測した周波数補正値との差から補正残差を求めた。
【0038】
図13によれば、(1)式の多項近似式から得られた第1の補正値と実測した周波数補正値との間には±40[ppb]程度の補正残差が存在する。高精度の温度補償を行う場合は、この補正残差をより低減することが好ましい。
【0039】
そこで本例の補正値演算部4は、第1の補正値に加え、前記補正残差に対応する第2の補正値を求め、第1の補正値と第2の補正値とを加算して周波数補正値を求めることにより、温度補償精度を高めている。図11に示した第2の補正値演算部50は、前記差分値に対応する値に基づいて第2の補正値を取得する第2の補正値取得部に相当する。
【0040】
記述のように第2の補正値演算部50は、第1の補正周波数と実測した補正周波数との差である補正残差に基づいて第2の補正値を取得する。例えば図13中に実線で示すようにほぼ連続データと見なせる程度の細かい間隔(例えば差分値に対応する値の算出精度に対応する間隔)で補正残差を予め記憶しておき、差分値に対応する値の演算結果に対応して特定した補正残差を第2の補正値とすれば、より正確な補正が可能となる。
【0041】
しかしながらこの場合には大容量のメモリが必要となると共に、補正残差の温度特性はそれぞれの水晶振動子10で異なるので、全ての発振装置に設けられた水晶振動子10ごとに膨大な補正残差を実測することは現実的ではない。
【0042】
そこで本例の第1の補正値演算部40では予め設定した間隔で配列された差分値に対応する値の群を設定し、この群に属する差分値にて補正残差を取得し、隣り合って配列される差分値に対応する値について取得した補正残差の間を1次関数で補間することにより、周波数差検出部3から取得した差分値に対応する値ΔFについての第2の補正値を演算している。
【0043】
例えば図13には、差分値に対応する値(OSC2−OSC1)の範囲を32分割して補正残差の取得点とし、これらの点で取得した補正残差を白抜きの丸でプロットしてある。図14は、図13に示す補正残差について、横軸方向(差分値に対応する値の配列順)に互いに隣り合うプロット間を1次関数(直線)で補完した近似特性図である。本例の第2の補正値演算部50はこの直線で補完された補正残差の近似式を利用して第2の補正値を取得している。
【0044】
以下、第2の補正値を取得する第2の補正値演算部50の構成及び作用について図15〜図17を参照しながら説明する。既述のように本例では周波数差検出部3から出力される差分値に対応する値ΔFとして{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}を採用しているが、理解を容易にする観点から図15〜図17の説明では差分値に対応する値としてΔF=f1−f2−Δfr[Hz]を使用する。
【0045】
図15は、第2の補正値演算部50の構成を示すブロック図である。概略的には、第2の補正値演算部50は周波数差検出部3より取得したΔFを所定の除数で除算して、このΔFが図14に示したどの補正残差の区間内に位置しているかを判断する情報を出力する位置算出部510と、この位置算出部510から取得した情報に基づいて前記ΔFが属する区間の両端の位置における補正残差を選択する補正残差選択部520と、この補正残差選択部520にて選択された2つの補正残差の間を補間する1次関数(第2の近似式)を求め、この1次関数から前記ΔFに対応する第2の補正値を算出する第2の補正値算出部530と、を備えている。
【0046】
位置算出部510は、周波数差検出部3より取得したΔFに、メモリ30内の除算パラメータテーブル301に格納されている加算値を加算して被除数として出力する加算部511と、加算部511から取得した被除数を前記除算パラメータテーブル301に格納されている除数により除算して、除算結果の整数部分(図15中「商」と記してある)をΔFが属する区間の下端側に対応するインデックス値として出力すると共に、前記除算結果の余り(同図中「剰余」と記してある)を第2の補正値算出部530に出力する除算回路512と、この除算回路512から出力された下端側のインデックス値に「1」を加え、ΔFが属する区間の上端側のインデックス値として出力する定数加算部513とを備えている。
【0047】
図16は、例えば「−32000≦ΔF≦32000」の範囲を2000Hzごとに32分割して得られた33個の取得点に、ΔFの値が小さい方から順に「0〜32」のインデックス値を付し、各インデックス値に対応させて補正残差[ppb]をプロットした様子を模式的に示している。
【0048】
除算パラメータテーブル301には、ΔFの範囲の下端の「−32000」が加算値として格納され、ΔFの範囲を分割する区画単位「2000」が除数として格納されている。ここに例えば周波数差検出部3から「ΔF=−27500」の値が入力されると、加算部511は加算値の符号を反転してΔFに加算し(「−27500−(−32000)=4500」の演算を行い)、この値を被除数として出力する。
【0049】
除算回路512は、除算パラメータテーブル301から読み出した除数「2000」により、加算部511から取得した被除数「4500」を除算して、その除算結果「2.25」の整数部分「2」を商とし、余り部分である「500」を剰余として出力する。
【0050】
一方、図16から分かるように、周波数差検出部3から取得した「ΔF=−27500」は、「−28000≦ΔF≦−26000」の区間に含まれている。この下端側の「−28000」について加算部511、除算回路512で行われる演算を行うと商が「2」、剰余が「0」となる。このようにΔFの範囲を分割して得られた33個の取得点は、上記の演算により剰余が「0」となる位置に、除算数「2000」の倍数刻みに設けられている。そして、各取得点にて上述の演算を行って得られた商の値が、補正残差を選択するためのインデックス値として採用されている。
【0051】
上述のように各取得点のΔFの値とインデックス値との関係が設定されていることにより、除算回路512から出力される商の値は、周波数差検出部3から取得したΔFが含まれる区間の下端側のインデックス値を示すことになる。そして除算回路512から出力された商に、定数加算部513にて「1」を加えると、その値は前記区間の上端側の取得点に対応するインデックス値に等しくなる。
【0052】
この結果、周波数差検出部3から取得したΔFが含まれる区間の上端側と下端側のインデックス値が特定され、これらのインデックス値は、補正残差選択部520内に設けられた第1のセレクタ521と第2のセレクタ522とに各々出力される。第1、第2のセレクタ521、522は、メモリ30内の補正残差テーブル302から補正残差の値を読み出して第2の補正値算出部530に出力する役割を果たす。
【0053】
(表1)に示すように補正残差テーブル302には、第1の水晶振動子10の発振周波数f1と多項近似式により求めた第1の補正値とから予め測定した補正残差がインデックス値に対応付けて記憶されている。各セレクタ521、522は、位置算出部510から取得したインデックス値に基づいて補正残差を選択する。これにより、周波数差検出部3から取得したΔFが含まれる区間の上端側と下端側のΔFに対応する補正残差を取得することができる。本例では第1のセレクタ521は前記区間の下端側のΔFに対応する補正残差を選択し、第2のセレクタ522は上端側のΔFに対応する補正残差を選択する。
【表1】
【0054】
ここで周波数差検出回路3から取得したΔFが含まれる区間の下端側の取得点に対応する値をx0、上端側の取得点に対応する値をx1、前記ΔFをx、下端側、上端側の取得点に対応するインデックス値に基づいて選択された補正残差を各々y0、y1とする。このとき、図17に示すように点P0(x0,y0)と点P1(x1,y1)との間を1次関数で補完すると、yの値を推定する近似式(第2の近似式)が得られる。本実施の形態では、この近似式にxを代入して得られたyの値を第2の補正値とする。
【0055】
図17によれば、前記近似式は下記(2)式で表される。
(y−y0)/(y1−y0)=(x−x0)/(x1−x0)
…(2)
ここで隣り合う取得点同士の間隔は「x1−x0」はの値は除数であり、「x−x0」の値は剰余なので、(2)式は下記の(2)’式に書き替えられる。
y={(剰余)・(y1−y0)/(除数)}+y0 …(2)’
第2の補正値算出部530は第1のセレクタ521から取得したy0、第2のセレクタ522から取得したy1、除算回路512から取得した剰余、及び除算パラメータテーブル301から読み出した除数の各値に基づいて(2)’の計算を行い、得られた値を第2の補正値として出力する。
【0056】
次に上述の実施の形態の全体の動作についてまとめる。第1の発振回路1から出力される周波数信号は、電圧制御発振器100の制御部200にクロック信号として供給され、本実施形態の冒頭に述べたように制御部200における制御動作により電圧制御発振器100から目的とする周波数の周波数信号が出力される。一方第1の発振回路1及び第2の発振回路2から夫々出力される周波数信号f1、f2は、周波数差検出部3に入力され、既に詳述した動作によりこの例では周波数差検出部3の出力であるPLLの出力ΔFが{Δfr−(f2−f1)}に対応する値、この例では(OSC2−OSC1)になったときにロックする。そしてこの値が補正値演算部4に入力され、第1の補正値演算部40では(1)式の演算が実行されて第1の補正値を取得し、第2の補正値演算部50ではΔFが含まれる区間の補正残差をメモリ30から読み出し(2)’式の演算を実行して第2の補正値を取得する。そして、これら第1の補正値及び第2の補正値が加算部41にて加算され(このとき、第1の補正値及び第2の補正値の単位は例えばppmに揃えられる)、周波数補正値として出力される。
【0057】
(1)式の演算は、例えば図10に示す特性図において、周波数差検出部3の出力値に基づいて得られた値に対応する補正周波数の近似曲線の縦軸の値を求める処理である。また(2)'式の演算は図14に示す特性図において、周波数差検出部3の出力値に基づいて得られた値に対応する補正残差の近似線の縦軸の値を求める処理である。
【0058】
図18には補正値演算部4から出力される周波数補正値(第1の補正値と第2の補正値との和)と実測した周波数補正値との間の差(補正残差)を実線で示し、図13にて説明した第1の補正値との間の補正残差を一点鎖線で示す。図18によれば、補正値演算部4から出力される周波数補正値は実測した周波数補正値に対する補正残差が±10[ppb]の範囲内に収まっており、第1の補正値における補正残差(±40[ppb])よりも変動幅が小さくなっている。従って、(1)式の近似式(第1の近似式)を用いて得た第1の補正値に、補正残差に対応する(2)’式の近似式(第2の近似式)を用いて得た第2の補正値を加算することにより、周波数補正値の精度を向上させることができたと言える。
【0059】
既述のように第2の補正値は、実測した周波数補正値との差分に基づいて得た補正残差を利用して算出しているので、一次関数のようにパラメータの少ない近似式を利用する場合であっても、周波数補正値の精度の相当程度の向上を図ることができる。ここで発明者は、(1)式に替えての補正周波数の近似式として、例えば3次のスプライン補間処理計算式(y=ax3+bx2+cx+d(a,b,c,dはスプライン補間係数))を用いて、図18に示した場合と同等程度の精度を実現する場合に必要なパラメータの情報量を検討したところ、概算で160byteであった。これに対して、(1)式、(2)’式にの演算に必要なパラメータ情報量は60byteであり、情報量は約1/2.7となった。
【0060】
但し、第2の補正値を算出する近似式は、既述の一次関数に限定されるものではない。使用可能なメモリ容量等に応じて、2次以上の高次の多項式を利用したスプライン補間や最小二乗法を利用した近似曲線を利用してもよいことは勿論である。また、第1の補正値と第2の補正値とを加算する際に、各々の補正値に係数を乗ずるなどしてもよい。
【0061】
また、図1に示すように第1の水晶振動子11及び第2の水晶振動子12は共通の水晶片Xbを用いて構成され、互いに熱的に結合されていることから、発振回路11、12の周波数差は、環境温度に極めて正確に対応した値であり、従って周波数差検出部3の出力は、環境温度と基準温度(この例では25℃)との温度差情報である。第1の発振回路11の出力される周波数信号f1は制御部200のメインクロックとして使用されるものであることから、補正値演算部4にて得られた補正値は、温度が25℃からずれたことによるf1の周波数ずれ分に基づく制御部200の動作への影響を相殺するために制御部200の動作を補償するための信号として用いられる。この結果、本実施形態の発振装置1の出力である電圧制御発振器100の出力周波数が温度変動にかかわらず安定したものとなる。
【0062】
以上のように上述実施の形態によれば、動作クロック自身が温度変動しているにもかかわらず変動温度分に対応した正確な周波数ずれ情報を得ることができ、この結果高安定、高精度の発振装置を実現することができる。またf1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値を周波数差検出情報(変動温度分の周波数ずれ情報)としているため、特許文献1のようにf1≒f2に調整する煩わしい作業を必要とせず、また水晶振動子の歩留まりが低くなるという問題もない。
【0063】
そして周波数差検出情報を求めるために、f1とf2との差分周波数のパルスを作成し、DDS回路部から出力された鋸波信号を前記パルスによりラッチ回路でラッチし、ラッチされた信号値を積分してその積分値を前記周波数差として出力すると共に、この出力とf1rとf2rとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力してPLLを構成している。特許文献1のようにf1、f2をカウントしてその差分を取得する場合には、カウント時間が検出精度に直接影響するが、このような構成では、このような問題がないため検出精度が高い。実際に両者の方式をシミュレーションにより比較し、周波数をカウントする方式においては200msのカウント時間を設定したところ、検出精度について本実施形態の方式の方が約50倍高いという結果を得た。
【0064】
また本実施形態のPLLの場合には、従来のDDS回路部のように正弦波ROMテーブルを持たないため、メモリ容量を小さくできる利点があり、装置の規模を小さくできる。また変動温度分の周波数ずれ情報に基づいて周波数の補正値を演算処理により求めているため、容量の大きなメモリが不要であり、この点からも装置の規模を小さくでき、コストを抑えることができる。
【0065】
ここで図2の回路を用いて、f1が81.9MHz、f2が76、69MHzである場合に、周波数差検出部3の出力である周波数差情報と時間との関係を調べた結果を図19に示しておく。この場合、周波数差情報は(OSC2−OSC1)となるように設定されており、この値は+50ppmである。
【0066】
繰り返しの説明になるが、この実施形態ではf1とf1rとの差分に対応する値とは、{(f1−f1r)/f1r}(=OSC1)であり、f2とf2rとの差分に対応する値とは{(f2−f2r)/f2r}(=OSC2)であり、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値とは、OSC2−OSC1である。本発明はこれに限られず周波数差検出部3は、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、(f1−f1r)と(f2−f2r)との差分値そのものを用いてもよく、この場合には、図7のグラフが活用されて温度が求められることになる。
【0067】
上述の実施形態において、図8から図10の説明では、周波数の変化分を「ppm」単位で表示しているが、実際のディジタル回路では全て2進数での扱いとなるため、DDS回路部36の周波数設定精度は構成ビット数で計算され、例えば34ビットである。一例を挙げると、図1に示す制御回路部200に含まれるDDS回路部201に10MHzのクロックを供給する場合においてこのクロックの変動周波数が100Hzの場合
〔変動比率計算〕
100Hz/10MHz=0.00001
〔ppm換算〕
0.00001*1e6=10〔ppm〕
〔DDS設定精度換算〕
0.00001*2^34≒171,799〔ratio−34bit(仮称)〕となる。
【0068】
上記の構成の場合、前記周波数設定精度は次の(3)式で表わされる。
1×〔ratio−34bit〕=10M〔Hz〕/2^34≒0.58m〔Hz/bit〕 ……(3)
従って100〔Hz〕/0.58m〔Hz/bit〕≒171,799〔bit(ratio−34bit)〕となる。
また、0.58mHzは10MHzに対して、次の(4)式のように計算できる。
0.58m〔Hz〕/10M〔Hz〕*1e9≒0.058〔ppb〕…(4)
従って(3)、(4)式から、(5)式の関係が成り立つ。
【0069】
1e9/2^34=0.058〔ppb/ratio−34bit〕…(5)
即ちDDS回路36で処理した周波数は消え、ビット数のみの関係となる。
【0070】
更にまた上述の例では第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20とは共通の水晶片Xbを用いているが、水晶片Xbが共通化されていなくてもよい。この場合、例えば共通の筐体の中に第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を配置する例を挙げることができる。このような構成によれば、実質同一の温度環境下に置かれるため、同様の効果が得られる。
【0071】
周波数差検出部3のDDS回路部36の出力信号は、鋸波に限ることなく、時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号であればよく、例えば正弦波であってもよい。
また周波数差検出部3としては、f1とf2とをカウンタによりカウントし、そのカウント値の差分値からΔfrに相当する値を差し引いて、得られたカウント値に対応する値を出力するようにしてもよい。
【0072】
補正値演算部4にて求めた補正値は、上述の実施形態のように用いることに限定されるものではなく、発振装置の出力周波数が温度で変動する場合に、補正値を用いて出力周波数の変動分を相殺できるように補償できる構成であれば他の手法で補正してもよい。例えば図20に示すTCXOにおいて、温度検出器94の出力に代えて周波数差検出部3で得られた周波数差情報を用い、この情報に基づいて周波数補正量に見合う制御電圧の補償分を求め、制御電圧発生部93にて前記補償分と基準温度における周波数を出力するための基準電圧とを加算して制御電圧としてもよい。周波数差情報から周波数補正量を求める手法は、先の実施形態のように多項近似式に限らず、メモリに予め周波数差情報と周波数補正量との関係を示すテーブルを格納して、このテーブルを参照する手法であってもよい。
【0073】
以上の実施の形態では、第1の水晶振動子10と第2の水晶振動子20との周波数差をいわば温度計測値として用い、この温度計測値に基づいて第1の水晶振動子10の温度変動に対する周波数補正値を求めている。しかし本発明は、周波数補正の対象となる水晶振動子と、いわば温度計を構成する2つの水晶振動子の一方とを共通化しない構成を取った場合にも特許請求の技術的範囲に含まれる。
【0074】
この場合の前記第1の補正値取得部は、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得することに代えて、
周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子とは異なる他の水晶振動子を発振させる他の発振回路の環境温度が基準温度と異なることに起因する発振周波数f0の周波数補正値と、の関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得し、
前記第2の補正値取得部は、
前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得することに代えて、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と前記他の水晶振動子について予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得し、
前記発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力に代えて、前記他の発振回路の出力を利用して生成されるものであるということができる。
【符号の説明】
【0075】
1 第1の発振回路
2 第2の発振回路
10 第1の水晶振動子
20 第2の水晶振動子
3 周波数差検出部
31 フリップフロップ回路
32 ワンショット回路
33 ラッチ回路
34 ループフィルタ
35 加算部
36 DDS回路部
4 補正値演算部
40 第1の補正値演算部
50 第2の補正値演算部
100 電圧制御発振器
200 制御回路部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境温度の検出結果に基づいて出力周波数を設定するための設定信号を補正する発振装置において、
水晶片に第1の電極を設けて構成した第1の水晶振動子と、
水晶片に第2の電極を設けて構成した第2の水晶振動子と、
これら第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準温度における第1の発振回路の発振周波数をf1r、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準温度における第2の発振回路の発振周波数をf2rとすると、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値を求める周波数差検出部と、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得する第1の補正値取得部と、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得する第2の補正値取得部と、
前記第1の補正値と第2の補正値とを加算して前記周波数補正値を求める加算部と、を備え、
発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力を利用して生成され、
前記加算部にて求めた前記周波数補正値に基づいて前記設定信号を補正するように構成したことを特徴とする発振装置。
【請求項2】
前記第1の近似式は、前記差分値に対応する値と実測した前記周波数補正値との関係を最小二乗法で多項式近似したものであることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
前記第2の近似式は、前記群に属し、互いに隣り合って配列される差分値に対応する値について取得した補正残差の間を1次関数で補間したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の発振装置。
【請求項4】
前記第1の補正値取得部及び第2の補正値取得部は、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、{(f2−f2r)/f2r}−{(f1−f1r)/f1r}を用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項5】
周波数差検出部は、
前記f1とf2との差分周波数のパルスを作成するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rとf2rとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項6】
第1の水晶振動子の水晶片と第2の水晶振動子の水晶片とは、共通化されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項7】
前記第1の補正値取得部は、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得することに代えて、
周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子とは異なる他の水晶振動子を発振させる他の発振回路の環境温度が基準温度と異なることに起因する発振周波数f0の周波数補正値と、の関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得し、
前記第2の補正値取得部は、
前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得することに代えて、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と前記他の水晶振動子について予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得し、
前記発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力に代えて、前記他の発振回路の出力を利用して生成されるものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項1】
環境温度の検出結果に基づいて出力周波数を設定するための設定信号を補正する発振装置において、
水晶片に第1の電極を設けて構成した第1の水晶振動子と、
水晶片に第2の電極を設けて構成した第2の水晶振動子と、
これら第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準温度における第1の発振回路の発振周波数をf1r、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準温度における第2の発振回路の発振周波数をf2rとすると、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値を求める周波数差検出部と、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得する第1の補正値取得部と、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得する第2の補正値取得部と、
前記第1の補正値と第2の補正値とを加算して前記周波数補正値を求める加算部と、を備え、
発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力を利用して生成され、
前記加算部にて求めた前記周波数補正値に基づいて前記設定信号を補正するように構成したことを特徴とする発振装置。
【請求項2】
前記第1の近似式は、前記差分値に対応する値と実測した前記周波数補正値との関係を最小二乗法で多項式近似したものであることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
前記第2の近似式は、前記群に属し、互いに隣り合って配列される差分値に対応する値について取得した補正残差の間を1次関数で補間したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の発振装置。
【請求項4】
前記第1の補正値取得部及び第2の補正値取得部は、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、{(f2−f2r)/f2r}−{(f1−f1r)/f1r}を用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項5】
周波数差検出部は、
前記f1とf2との差分周波数のパルスを作成するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rとf2rとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項6】
第1の水晶振動子の水晶片と第2の水晶振動子の水晶片とは、共通化されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項7】
前記第1の補正値取得部は、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と、環境温度が基準温度と異なることに起因する第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得することに代えて、
周波数差検出部にて検出された前記差分値に対応する値と、前記差分値に対応する値と第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子とは異なる他の水晶振動子を発振させる他の発振回路の環境温度が基準温度と異なることに起因する発振周波数f0の周波数補正値と、の関係を示す第1の近似式と、に基づいて、第1の補正値を取得し、
前記第2の補正値取得部は、
前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得することに代えて、
前記第1の近似式で決まる第1の補正値と前記他の水晶振動子について予め実測した周波数補正値との差分を補正残差と呼ぶとすると、前記差分値に対応する値と、予め設定した間隔で配列された前記差分値に対応する値の群と、この群に属する前記差分値に対応する値ごとに予め取得した補正残差と、の関係を示す第2の近似式と、に基づいて第2の補正値を取得し、
前記発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力に代えて、前記他の発振回路の出力を利用して生成されるものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の発振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−98865(P2013−98865A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241545(P2011−241545)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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