説明

発酵液の脱水精製処理方法およびそのシステム

【課題】発酵主生成物の損出を低く抑え、かつ省エネルギ化を十分に図ることのできる発酵液の脱水精製処理方法およびそのシステムを提供する。
【解決手段】エタノール発酵液を蒸留塔5の最上段部に供給するとともにスチームをその蒸留塔5の最下段部に供給してエタノール−水混合蒸気を発生させる蒸留処理と、この蒸留処理によって発生されるエタノール−水混合蒸気を分離膜13を用いて脱水する脱水処理とを含む脱水精製処理方法において、蒸留塔5の最上段部におけるエタノールと水との気液平衡限界点のスチームの供給量を目標スチーム供給量として定め、蒸留塔5の最下段部に供給するスチームの供給量をその目標スチーム供給量に一致させるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留塔による蒸留処理と分離膜を用いた脱水処理との組み合わせによってエタノール発酵液またはアセトン・ブタノール発酵液からエタノールまたはアセトン・ブタノール・エタノールを精製する発酵液の脱水精製処理方法およびそのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、サトウキビやビートなどの植物を原料として得られるバイオマスエタノールは、ガソリンと混合してあるいは単独で自動車用燃料として用いられるため、バイオマスエタノール精製処理技術が地球環境保全技術の一つとして注目されている。自動車燃料として用いられるエタノールは、ガソリンとの相容性を上げるため、高濃度(99.6質量%以上)でなければならない。
【0003】
エタノールに続いて、ブタノールについても大きく注目されている。ブタノールは燃料としての発熱量が高く、吸湿性も低いため取り扱いが容易でバイオディーゼル用燃料としての利用が期待されている。アセトン・ブタノール発酵で得られる生成液は、ブタノール、アセトンおよびエタノールを含む発酵アルコール含有水溶液であり、これら三成分の合計濃度は15g/L程度、最高に上げても20g/Lが限界である。これらブタノール、アセトンおよびエタノールの三成分をソルベント成分と呼び、ブタノール濃度はソルベント成分全体の2/3を占め、残り1/3の80%がアセトン、20%がエタノールである。なお、発酵時には水素ガスも発生する。
【0004】
エタノールと水の混合物はエタノール濃度95質量%付近に共沸点が存在し、またブタノールと水の混合物はブタノール濃度57質量%付近に共沸点が存在する。
エタノール発酵液の精製処理の場合には、通常の蒸留法で共沸点付近まで脱水濃縮した後、第三成分を加えかつ蒸留塔も増やして無水エタノールを得ている。しかし、設備の大型化を免れない上に、エタノールの濃縮・精製に多大のエネルギが必要である。
一方、アセトン・ブタノール発酵液の精製処理の場合には、ブタノール10質量%以上であれば水相と油相に分かれ、この性質を利用すれば2本の蒸留塔で無水ブタノール、アセトンとエタノールの混合物および水とに分離することができる。しかし、水相中には7質量%のブタノールが存在し、油相中には20〜30質量%の水分が存在し、分離のために多大なエネルギが必要である。
【0005】
これら精製処理法はいずれも脱水精製に多大のエネルギが必要であるという問題点があるが、このような問題点を解決し得るものとして、例えば特許文献1にて提案されているような分離技術がある。この分離技術は、蒸留塔による蒸留処理と分離膜を用いた脱水処理とを組み合わせて二成分以上の液体混合物を分離するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−263561号公報
【0007】
ところで、この特許文献1に係る分離技術では、蒸留塔において精留を行うために、蒸留塔から送り出される混合蒸気の一部を凝縮して得られる凝縮液の蒸留塔への還流量をかなり多くする必要があり、これに合わせて蒸留塔に供給するスチーム量も多くする必要がある。このため、この分離技術では、蒸留処理でのエネルギ消費が依然として多く、省エネルギ化を十分に図ることができないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、発酵主生成物の損出を低く抑え、かつ省エネルギ化を十分に図ることのできる発酵液の脱水精製処理方法およびそのシステムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明による発酵液の脱水精製処理方法は、
発酵により生成される発酵主生成物を含有する発酵液から発酵主生成物を精製する発酵液の脱水精製処理方法であって、
前記発酵液を蒸留塔の最上段部に供給するとともにスチームをその蒸留塔の最下段部に供給して発酵主生成物および水の混合蒸気を発生させる蒸留処理と、この蒸留処理によって発生される混合蒸気を分離膜を用いて脱水する脱水処理とを含み、
前記蒸留塔の最上段部における前記発酵主生成物と水との気液平衡限界点のスチームの供給量を目標スチーム供給量として定め、前記蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量をその目標スチーム供給量に一致させるように制御することを特徴とするものである(第1発明)。
【0010】
ここで気液平衡限界点を定義する。例えば、エタノール発酵液を蒸留塔の最上段に供給し、充分な段数を持った蒸留塔の最下段部に適切なスチーム量を供給すれば、最上段部で供給したエタノール発酵液のエタノール濃度に対応した気液平衡関係が成立し、最上段部には気液平衡で規定された特定のエタノール濃度を持ったエタノールと水の混合蒸気が得られる。ここで、蒸留塔へのスチームの供給量を増加すると、供給熱量の増大によって留出量が増大すると共に増加したスチーム量のために気相中のエタノール蒸気が希釈されて、前記気液平衡で規定されたエタノール濃度よりも低くなる。一方、蒸留塔へのスチームの供給量を減少すると、供給熱量の減少によって留出量が減少するから、より多量のエタノールが蒸留塔の下部へ移動して、缶出液として排出されるためにロスが多くなる。ただし、最上段部では供給したエタノール発酵液のエタノール濃度に近い混合液が存在するからエタノール発酵液のエタノール濃度に対応した気液平衡関係は成立している。
すなわち、本発明において、気液平衡限界点とは、原理的には、供給したエタノール発酵液のエタノール濃度に対応した気液平衡関係が事実上成立し、且つ蒸留塔の最上段部で得られる混合蒸気の量が最大になる点である。
【0011】
本発明の発酵液の脱水精製処理方法において、好ましい態様は以下のとおりである。
本発明の発酵液の脱水精製処理方法において、前記蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量が、前記目標スチーム供給量の90%を越え且つ110%未満、より好ましくは95%を越え且つ105%未満、さらに好ましくは98%を越え且つ102%未満の範囲内で制御されるのが好ましい(第2発明)。
また、前記蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量が、発酵液を供給する前記蒸留塔の最上段部の温度変化に基づいて制御されるのが好ましい(第3発明)。
また、前記蒸留塔に供給される前の発酵液に対し、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ成分を添加して中和する中和処理が含まれるのが好ましい(第4発明)。
また、前記発酵液が、エタノール発酵液またはアセトン・ブタノール発酵液であるのが好ましい(第5発明)。
【0012】
前記目的を達成するために、本発明による発酵液の脱水精製処理システムは、
発酵により生成される発酵主生成物を含有する発酵液から発酵主生成物を精製する発酵液の脱水精製処理システムであって、
最上段部に前記発酵液が供給されるとともに最下段部にスチームが供給され、発酵主生成物および水の混合蒸気を発生させる蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔頂から送り出される前記混合蒸気を分離膜を用いて脱水する脱水手段と、
前記蒸留塔の最上段部における前記発酵主生成物と水との気液平衡限界点のスチームの供給量を目標スチーム供給量として定め、前記蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量をその目標スチーム供給量に一致させるように制御するスチーム流量制御手段と
を備えることを特徴とするものである(第6発明)。
【0013】
本発明の発酵液の脱水精製処理システムにおいて、好ましい態様は以下のとおりである。
本発明の発酵液の脱水精製処理システムにおいて、発酵液を供給する前記蒸留塔の最上段部の温度変化を測定する温度測定手段の測定結果に基づいて前記スチーム流量制御手段を制御する制御機構が設けられるのが好ましい(第7発明)。
また、前記蒸留塔の塔頂から前記脱水手段に向けて送り出される前記混合蒸気の一部を凝縮して凝縮液を生成する凝縮器と、前記蒸留塔の塔頂部内部における前記混合蒸気の流れ経路途中に配され、該混合蒸気が通過可能で前記凝縮器からの凝縮液を滞留させる凝縮液滞留手段とが設けられるのが好ましい(第8発明)。
【発明の効果】
【0014】
前述したように、気液平衡限界点のスチーム供給量を越えてスチーム供給量を増加させた場合には、蒸留塔の最上段部における発酵主生成物および水の混合蒸気が過剰のスチームで希釈されるため、蒸留塔最上段部における混合蒸気中の発酵主生成物濃度が気液平衡の上限濃度よりも低くなり、分離膜への発酵主生成物供給量当たりのスチーム供給量が増えることになる。すなわち、必要なエネルギが増加するにも拘わらず、留出する混合蒸気のエタノール濃度が低くなるので精製効率の点で好ましくない。
また、気液平衡限界点のスチーム供給量以下にスチーム供給量を減少した場合には、スチームの供給量不足のため、蒸留塔の缶出液中の発酵主生成物濃度が高くなって、発酵主生成物そのものの損出となる。さらに排水中に発酵主生成物が存在するから、排水処理設備まで必要な場合も起こりうる。すなわち、発酵主生成物のロスが増大すると共に、缶出液を更に別の装置で処理する必要が生じることがあるので好ましくない。
気液平衡限界点付近で運転する場合には、蒸留塔最上段部における混合蒸気中の発酵主生成物濃度が気液平衡の上限濃度で推移し、分離膜への発酵主生成物供給量当たりのスチーム供給量が略最小に抑えられるとともに、蒸留塔の缶出液中の発酵主生成物濃度も低く抑えることができる。
【0015】
第1発明の発酵液の脱水精製処理方法によれば、蒸留塔の最上段部における発酵主生成物と水との気液平衡限界点のスチームの供給量が目標スチーム供給量として定められ、蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量をその目標スチーム供給量に一致させるように制御されるので、分離膜への発酵主生成物供給量当たりのスチーム供給量を略最小に抑えることができるとともに、缶出液中の発酵主生成物濃度も低く抑えることができる。したがって、発酵主生成物の損出を低く抑え、かつ省エネルギ化を十分に図ることができるという効果がある。また缶出液も複雑な後処理をする必要がなくなるという効果もある。
【0016】
なお、脱水精製処理に供される発酵液が、エタノール発酵液またはアセトン・ブタノール発酵液である場合、分離膜で水分を分離するのに好適な温度範囲にて脱水処理を実施することができる
【0017】
また、分離膜によって脱水される前の混合蒸気を過熱する過熱処理を採用することにより、混合蒸気の分離膜面での凝縮を抑えることができ、脱水処理がよりスムーズに行われるとともに、分離膜のライフサイクルを延ばすことができる。
【0018】
また、蒸留塔に供給される前の発酵液に対しアルカリ成分を添加して中和する中和処理を採用することにより、脱水精製処理の際に得られる無水の発酵主生成物成分中への酸の混入を確実に防ぐことができる。
【0019】
次に、第6発明の発酵液の脱水精製処理システムは、第1発明の発酵液の脱水精製処理方法を具体化するためのシステムの一態様に関するものであり、第1発明と同様の作用効果を奏するものである。
【0020】
また、第6発明において、蒸留塔の塔頂から脱水手段に向けて送り出される混合蒸気の一部を凝縮して凝縮液を生成する凝縮器と、蒸留塔の塔頂部内部における混合蒸気の流れ経路途中に配され、混合蒸気が通過可能で凝縮器からの凝縮液を滞留させる凝縮液滞留手段を採用することによって、その混合蒸気に同伴する不純物を含んだ飛沫が捕捉されるので、分離膜に不純物が付着・堆積するのを防止することができ、脱水濃縮性能を良好に維持することができる。
【0021】
なお、ここで、分離膜としては、耐熱性、耐溶剤性に優れ、膜ライフが長いポリイミド膜(芳香族ポリイミド)を採用することにより、長期に亘って脱水精製処理システムの安定運転を達成することできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るエタノール発酵液の脱水精製処理システムの概略構成図である。
【図2】塔頂蒸気エタノール濃度対(スチーム/エタノール)供給量比の関係を表わす図である。
【図3】塔頂蒸気ブタノール濃度対(スチーム/ブタノール)供給量比の関係を表わす図である。
【図4】気液平衡下におけるエタノール濃度対温度の関係を表わす図である。
【図5】不純物含有飛沫捕捉手段を模式的に表わした構造説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明による発酵液の脱水精製処理方法およびそのシステムの具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に示されるエタノール発酵液の脱水精製処理システム1において、原液タンク2に溜められたエタノール発酵液は、原液送給ポンプ3によって、予熱器4を通して所定段数の蒸留塔(「もろみ塔」とも呼ばれる。)5の最上段部に送り込まれる。ここで、エタノール発酵液を蒸留塔5の最上段部に供給するのは、通常の蒸留塔では行われる還流を行うことなく、塔内で発生した蒸気を全て後述する分離器12に送り込むためである。
【0025】
なお、エタノール発酵液中には蟻酸、酢酸、コハク酸、乳酸等の酸が存在する。酸の存在量は出発原料、酵母または菌の種類、発酵条件等により変化する。酸類がミストとして蒸留塔5の塔頂部蒸気中に混入する恐れがあるから、例えばエタノール発酵液が溜められている原液タンク2にアルカリ成分を添加するなどして、蒸留塔5に供給される前のエタノール発酵液に対し中和処理を施し、この中和処理が施された後のエタノール発酵液を蒸留塔5に供給するのが好ましい。この中和処理を施すことにより、後工程で得られる無水エタノール中への酸の混入を確実に防ぐことができる。
【0026】
蒸留塔5の塔底部(最下段部)には、蒸留塔5内部でエタノール発酵液を蒸発させて蒸留処理を行うためのスチームが直接吹き込まれる。このスチームの流量を制御するスチーム流量制御手段6は、蒸留塔5の塔底部にスチームを供給するためのスチーム供給管路7に設けられるスチーム流量センサ8および蒸留塔供給スチーム流量調節弁9と、このスチーム流量調節弁9の弁開度を調節するスチーム流量調節器10とを備えて構成されている。
ここで、蒸留塔5の最上段部の供給液の影響を受けない位置に蒸留塔塔頂部温度センサ36(本発明の「温度測定手段」に相当する。)が設置されるとともに、蒸留塔外部に蒸留塔塔頂部温度調節器37が設置されている。蒸留塔塔頂部温度センサ36は、微小なスチームの供給量の変動に対する蒸留塔5の最上段部の温度変化を測定する。蒸留塔塔頂部温度調節器37は、蒸留塔塔頂部温度センサ36の測定結果から所定の演算を実行し、その演算結果に基づく制御信号をスチーム流量調節器10に送信する。
蒸留塔塔頂部温度センサ36と蒸留塔塔頂部温度調節器37とにより制御機構38が構成され、この制御機構38は、蒸留塔塔頂部温度センサ36の測定結果に基づいてスチーム流量制御手段6を制御する。
なお、図1中には熱源であるスチームを蒸留塔5に直接供給する場合を示したが、伝熱管を通じて間接加熱により熱を供給してもよい。
【0027】
こうして、蒸留塔5においては、エタノール発酵液からエタノール(発酵主生成物)および水の混合蒸気を発生させる蒸留処理が行われる。この蒸留処理によって発生されたエタノール−水混合蒸気は、蒸留塔5の塔頂から送り出されて過熱器11に送り込まれる。
【0028】
過熱器11に送り込まれたエタノール−水混合蒸気は、過熱器11にてスーパーヒートされた後に分離器12(本発明の「脱水手段」に相当する。)に送り込まれる。こうして、後述する分離膜13によって脱水されるエタノール−水混合蒸気を過熱する過熱処理を行うことにより、エタノール−水混合蒸気の分離膜面での凝縮を抑えることができ、脱水処理がよりスムーズに行われるとともに、分離膜13のライフサイクルを延ばすことができる。なお、過熱器11として、本実施形態ではスチームを用いてエタノール−水混合蒸気を過熱する方式のものが採用されているが、これに限定されるものではなく、電気ヒータを用いてエタノール−水混合蒸気を過熱する方式のものを採用してもよい。
【0029】
分離器12は、水蒸気を選択的に透過させる分離膜13と、この分離膜13によって仕切られる分離器加圧側室14および分離器減圧側室15とを備えて構成されている。分離器加圧側室14は、過熱器11にてスーパーヒートされた後のエタノール−水混合蒸気が送り込まれる室とされ、この分離器加圧側室14の下流には、分離膜非透過ベーパー凝縮器16が配されている。また、分離器減圧側室15の下流には、分離膜透過ベーパー凝縮器17および真空ポンプ18がそれぞれ配され、この分離膜透過ベーパー凝縮器17による凝縮作用と真空ポンプ18の稼働によって分離器減圧側室15が減圧に保たれるようになっている。
【0030】
なお、分離膜透過ベーパー凝縮器17による凝縮作用によって分離器減圧側室15を所定の真空度(60〜100torr)に保つことが可能であるので、真空ポンプ18は運転開始時や系内圧力が上昇した時などに一時的に作動させるだけでよく、真空ポンプ18の稼働は極僅かで済む。また、分離器加圧側室14と分離器減圧側室15との圧力差が大きい程、少ない膜面積で目的とする分離が実現できるので、蒸留塔5を常時加圧状態で運転するのが好ましい。
【0031】
分離器加圧側室14にスーパーヒート後のエタノール−水混合蒸気が送り込まれると、水蒸気が選択的に分離膜13を透過することによってその分離器加圧側室14側に98〜99質量%のエタノール蒸気が得られる。水分濃度をさらに低下させた無水エタノール(エタノール濃度99.6質量%以上)が必要な場合には、例えば特開平5−177111号公報に開示されている技術を適用することにより、すなわち製品である無水エタノールの一部を分離器減圧側室15に導入して分離膜13を透過した透過ベーパーをパージすることにより、無水エタノールを得ることができる。
【0032】
本実施形態においては、分離器加圧側室14からの無水エタノール蒸気の一部を分離器減圧側室15へと導くパージ用製品蒸気供給管路19を設け、パージ用製品蒸気流量センサ21、パージ用製品蒸気流量調節弁22およびパージ用製品蒸気流量調節器23よりなるパージ用製品蒸気流量制御手段20にてパージ用製品蒸気供給管路19を流れる無水エタノール蒸気の流量を制御し、この流量制御された無水エタノール蒸気を分離器減圧側室15に導入して分離膜13を透過した透過ベーパーをパージするようにしているから、分離器加圧側室14と分離器減圧側室15との間に大きな水蒸気分圧差を生じさせることができる。なお、パージ直後の減圧側水蒸気分圧は高圧側水蒸気分圧の圧力比P2/P1(P2:減圧側圧力60〜100Torr、P1:0.1〜0.23MPaG=1500〜2500Torr)で表わされる。
【0033】
分離器減圧側室15へパージしなかった残りの無水エタノール蒸気は、分離膜非透過ベーパー凝縮器16に導入され、この分離膜非透過ベーパー凝縮器16による凝縮によって製品としての無水エタノールとされる。一方、分離膜13を透過した水蒸気は、分離器減圧側室15から分離膜透過ベーパー凝縮器17に導入されて凝縮され、この凝縮によって得られた復水は、分離膜透過液受器24に溜められた後に、分離膜透過液排出ポンプ25の作動によって原液タンク2に還流される。
【0034】
ところで、図1に示されるエタノール発酵液の脱水精製処理システム1においては、分離膜13を透過した透過ベーパーの凝縮液および分離器減圧側室15へパージした無水エタノール蒸気の凝縮液が、分離膜透過液受器24から原液タンク2へリサイクルするようにされている。このようにリサイクルすると、蒸留塔5に供給される発酵液中のエタノール濃度が絶えず変化するので、説明の都合上、以下においては、蒸留塔5に供給される発酵液中のエタノール濃度が一定であるという条件の下での省エネルギ運転を実現する方法について説明する。
【0035】
本実施形態の脱水精製処理システム1の運転に必要とされるエネルギとしては、蒸留塔5へ供給するスチームのエネルギ、過熱器11へ供給するスチームのエネルギ、真空ポンプ18その他のポンプ類3,25を動かすためのエネルギが考えられ、一番大きなエネルギは蒸留塔5へ供給するスチームのエネルギである。そこで、蒸留塔5への供給エタノール当り最小のスチーム量で最大のエタノール蒸気量が得られる条件を述べる。
【0036】
蒸留塔5への供給スチーム量が多すぎると、塔頂(最上段部)で蒸発したエタノールが過剰に供給されたスチームによって希釈されたことに相当し、後工程の分離膜13での水蒸気分離の負荷が増加する。蒸留塔5への供給スチーム量を下げていくと、塔頂エタノール蒸気組成と液組成は平衡組成に達する。この点が気液平衡限界点である。この平衡に達した時の塔頂蒸気組成を分離器加圧側室14へ供給すれば最適の省エネルギ化が図れる。また、この気液平衡限界点では、蒸留塔5の缶出液中のエタノール濃度が抑制されるので、缶出液を追加の処理なしで排出処理ができる。例えば100ppm以下になるように蒸留塔の設計を行うことができ、エタノールのロスも少なく無駄な設備投資も抑制することができる。蒸留塔5への供給スチーム量をさらに低下すると、塔頂液に平衡な塔頂蒸気は得られるが、スチーム量が不足するため、蒸気側へ移動するエタノール量が低下し、缶出液として排出されるエタノール量が増加する。気液平衡限界点周辺で運転すれば、缶出液として排出されるエタノール量を好適に抑えることができる。また、缶出液のエタノール濃度が100ppm以下になるように好適に抑えることができる。
【0037】
次に、原液タンク2から蒸留塔5に供給されるエタノール発酵液中のエタノール濃度が10.3質量%で一定の原液を用い、分離膜13を透過した成分および分離器減圧側室15へパージした成分をリサイクルしない場合について、最適の省エネルギ運転方法について述べる。
【0038】
まず、分離器加圧側室14の下流側に設けられている分離膜加圧側圧力センサ26、分離膜加圧側圧力調節弁27および分離膜加圧側圧力調節器28と、分離器減圧側室15の下流側に設けられている分離膜減圧側圧力センサ29、分離膜減圧側圧力調節弁30および分離膜減圧側圧力調節器31とにより、系内圧力を所定の圧力に調節する。分離膜13の高圧側圧力を一定に保つことで蒸留塔5の塔頂圧および塔底圧を一定に保つ。なお、分離器減圧側室15側においては、系内真空度の高低に応じて真空ポンプ18を適宜ON/OFFさせることにより、系内圧力の安定化を図る。
【0039】
系内圧力が安定状態になれば、蒸留塔5の最下段部に所定量のスチームをスチーム流量制御手段6で流量調整しながら吹き込む。また、原液送給ポンプ3を作動し、その原液送給ポンプ3の下流に配されている原液流量センサ32、原液流量調節弁33および原液流量調節器34により、原液タンク2からのエタノール発酵液を流量調整しながら予熱器4を通して蒸留塔5の最上段部に送給する。ここで、原液タンク2からのエタノール発酵液は蒸留塔5を出た缶出液と予熱器(熱交換器)4で熱交換されて100℃以上に加熱された後、蒸留塔5の最上段部に供給される。
【0040】
蒸留塔5の最上段部に供給される発酵液の発酵主生成物と水との混合液中のエタノール濃度、温度、供給量および蒸留塔の段数に対して、蒸留塔5の最下段部に供給されるスチームの供給量、蒸留塔5の最上段部におけるエタノール−水混合蒸気中のエタノール濃度および蒸留塔5の缶出液中のエタノール濃度が決まる。この関係を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
ここで、(スチーム/エタノール)供給量比とは、蒸留塔5の最下段部に供給されるスチームの供給量Qsと蒸留塔5の最上段部に供給されるエタノール発酵液の供給量Qaとの比(Qs/Qa)である。
また、(スチーム/膜エタノール)供給量比とは、蒸留塔5の最下段部に供給されるスチームの供給量Qsと分離器加圧側室14に供給されるエタノールの供給量Qbとの比(Qs/Qb)である。
また、塔頂蒸気中エタノール濃度とは、蒸留塔5の最上段部で発生されて塔頂部内部に溜まっているエタノール−水混合蒸気中のエタノール濃度である。
【0043】
図2(a)に示されるように、(スチーム/エタノール)供給量比を1.43から1.62へと増加させても、塔頂蒸気中エタノール濃度は気液平衡を保っているため、55質量%と一定である。
【0044】
(スチーム/エタノール)供給量比を1.82に上げると、スチームを過剰に供給することに対応して、過剰のスチームで希釈されるため、塔頂蒸気中エタノール濃度が50質量%に低下する。このため、表1に示されるように、(スチーム/膜エタノール)供給量比が1.82へと増え、分離膜13へのエタノール供給量当たりの蒸留塔スチーム供給量が増えることになる。
【0045】
以上から、(スチーム/エタノール)供給量比が1.62のときが気液平衡限界点であり、それ以上にスチーム供給量を増やすと気液平衡が崩れ、過剰のスチームで希釈される。また表1に示されるように、(スチーム/膜エタノール)供給量比が1.62で最小となり、分離膜13へのエタノール供給量当りの蒸留塔スチーム供給量が最小となる。しかも、表1に示されるように、蒸留塔5の缶出液中のエタノール濃度も0.01質量%と低く抑えられている。この(スチーム/エタノール)供給量比1.62の点がまさしく気液平衡限界点である。
【0046】
(スチーム/エタノール)供給量比が1.43および1.52とスチームの供給量が少ない場合には、表1に示されるように、蒸留塔5の缶出液中エタノール濃度が高く、スチームの供給量不足でエタノールの一部が缶出液として漏れ出ている。これではエタノールそのものの損出となる。このエタノールの損出を最小限に抑えるために、スチームの供給量を下げ過ぎていないかを確認する必要がある。スチームの供給量を下げ過ぎると、蒸留塔5の塔底部の温度がスチームの供給量の低下の度合いに応じて低下するので、蒸留塔5の塔底部の温度を検出する蒸留塔塔底部温度センサ35を設けておき、この蒸留塔塔底部温度センサ35の検出温度を常時モニタリングし、検出温度の低下のないことを確認することで、スチームの供給量を下げ過ぎていないことを確認することができ、缶出液として漏れ出ているエタノールがごく微量であることを確認することができる。
【0047】
本実施形態のエタノール発酵液の脱水精製処理システム1においては、(スチーム/エタノール)供給量比が1.62となるときのスチームの供給量が目標スチーム供給量Qmとして定められる。そして目標スチーム供給量Qmに対する各ケースのスチーム供給量比を表1中に示す。スチーム供給量比対エタノール塔頂側回収率の関係を補間すると、スチーム供給量比90%でエタノール回収率87%、スチーム供給量比95%でエタノール回収率93%となる。一方、スチーム供給量比が100%を超えた場合には、102%でエタノール濃度は54質量%、105%でエタノール濃度は53質量%、110%でエタノール濃度は51質量%、112%でエタノール濃度は50質量%とエタノール濃度が低下するので、100%を超えた分だけスチームのロス(エネルギのロス)を出しながら、精製効率を低下させるので好ましくなくなる。また、脱水処理では、分離膜(特に水蒸気を選択透過する分離膜)に対する負荷の増大となるので好ましくなくなる。但し、エタノールは塔頂蒸気として全量回収される。
以上から気液平衡限界点のスチームの量を目標スチーム量とした時、目標スチーム量に対して、下限は90%を越えるように、好ましくは95%を越えるように、より好ましくは98%を越えるように、特に好ましくは99%を越えるように運転すべきである。また、上限は110%未満、好ましくは105%未満、より好ましくは102%未満、特に好ましくは101%未満で運転すべきである。
【0048】
ところで、最上段部に供給される発酵液の発酵主生成物と水との混合液中のエタノール濃度および温度は常に一定ではない。エタノール濃度および温度も僅かに変化するからこれらに対応できる制御法を述べる。
図2(a)に従って説明すると、気液平衡限界点に相当するスチーム供給量を目指して装置を立ち上げ、気液平衡限界点の近辺に持ち込み、その時のスチーム供給量および塔頂段(最上段部)温度(液温度でも混合蒸気温度でも良いが、液温度が測定し易いので、以下液温度(液温)とする。)をそれぞれ流量センサ8および蒸留塔塔頂部温度センサ36により測定する。図2(a)中に開始点を0と表わし、1回目の微小なスチーム増加(ここでは2%の増加で元のスチーム量の1.02倍)を1と表わし、2回目のスチーム増加を2、3回目のスチーム増加を3と表わす。図2(a)中の0と1とは温度変化が殆ど表れない気液平衡域であり、同図中の2と3とはスチーム過剰供給域である。スチームの供給量が増加の方向で、気液平衡域からスチーム過剰供給域へ移動した時には2回目のスチーム過剰供給域を検出した時点で微小なスチーム減少(ここでは2%の減少で元のスチーム量の0.98倍)に切り替える。スチーム過剰供給域から気液平衡域へ移動させ、2回目の気液平衡域を検出した時点で再び、微小なスチーム増加を行い、同じ操作を繰り返すことでスチームの供給量を制御する。
【0049】
次に、蒸留塔5の最上段部に供給される発酵液の発酵主生成物と水との混合液中のエタノール濃度が変化した場合について説明する。図2(b)にはエタノール濃度10.3wt%一定の場合と9.8wt%一定の場合のスチームの供給量を変化させた時の蒸留塔5の塔頂段のエタノール蒸気濃度の変化を示している。今、原液エタノール10.3wt%の液を蒸留塔塔頂段に供給し、気液平衡限界点を挟んで気液平衡域0の点で制御を開始し、1の点へ移り、スチーム過剰供給域2の点と3の点で操作する。エタノール供給濃度が10.3wt%から9.8wt%へ変化し、スチームの供給量を下げたところ、気液平衡域の4と5で操作することとなる。スチームの供給量を上げたところ気液平衡域の6と7で操作し、さらにスチームの供給量を増加させると、スチーム過剰域8と9で操作し、この後スチームの供給量を下げる運転モードに入る。このように原液のエタノール濃度が変動しても気液平衡限界点を挟んだ運転ができる。そしてスチームの供給量の変動幅を小さくすればする程、無駄なスチームの供給を抑えることができる。但し、変動幅を小さくすると、塔頂段の液温の差が小さくて、気液平衡域かスチーム過剰供給域かの判断ができなくなる。また、今まで述べてきた制御法においては、蒸留塔5のスチームの供給量を、目標スチーム供給量に微小スチーム量を加算または減算したものとして扱い、蒸留塔最上段の液温の変化を蒸留塔塔頂部温度センサ36によって測定し、その測定結果に基づいて蒸留塔塔頂部温度調節器37が微小スチームの加算量または減算量の演算を実行し、その演算結果に基づく制御信号を蒸留塔塔頂部温度調節器37からスチーム流量調節器10へと送信して、スチーム流量制御手段6を制御するようにしているから、一つの操作毎に時間を置く必要がある。
【0050】
以上、脱水精製処理に供される発酵液がエタノール発酵液である場合について述べてきたが、アセトン・ブタノール発酵液についてもエタノール発酵液と同じように取り扱うことができる。しかし、アセトン・ブタノール発酵液では、発酵主生成物はブタノールであるが、アセトンおよびエタノールがブタノールの4割および1割程度それぞれ存在する。エタノール発酵液の脱水精製処理の場合には少量の副生物を無視すれば、エタノールと水の2成分系の脱水精製処理と考えられ、蒸留に必要なデータは容易に収集することができる。それに対してアセトン・ブタノール発酵液の脱水精製処理の場合には、アセトン、ブタノール、エタノールおよび水の4成分系の脱水精製処理と考えられ複雑である。
【0051】
そこで、アセトン・ブタノール発酵液の発酵模擬液を作り、蒸留塔5として段数10段の多孔板塔を用いて省エネルギー的に塔頂蒸気を得るためのデータを収集した。ブタノール0.97質量%、アセトン0.4質量%、エタノール0.11質量%の発酵模擬液を106℃に加熱し、50kg/hの速度で0.19MPaGに加圧された蒸留塔5の最上段部へ供給した。また、蒸留塔5の最下段部へ0.29MPaGに加圧されたスチームを所定量供給した。その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
図3に示されるように、(スチーム/ブタノール)供給量比を8.1から、8.8、9.2と増加させても、バラツキはあるものの塔頂蒸気中ブタノール濃度は気液平衡を保っており、約19質量%と一定である。
(スチーム/ブタノール)供給量比を、9.5および10.9に上げると、スチームを過剰に供給することに対応して、過剰のスチームで希釈されるため、塔頂蒸気中ブタノール濃度が18.0質量%および14.4質量%に低下する。このため、表2に示されるように、(スチーム/膜ブタノール)供給量比が9.61および10.9へと増え、分離膜13へのブタノール供給量当たりの蒸留塔スチーム供給量が増えることになる。
(スチーム/ブタノール)供給量比が8,8または9.2のとき、塔頂蒸気中ブタノール濃度が気液平衡の上限濃度である約19質量%で推移し、また表2に示されるように、(スチーム/膜ブタノール)供給量比が9.24および9.27で略最小となり、分離膜13へのブタノール供給量当りの蒸留塔スチーム供給量が略最小となる。しかも、表2に示されるように、蒸留塔5の缶出液中のブタノール濃度も0.043質量%および0.009質量%と低く抑えられている。そこで、(スチーム/ブタノール)供給量比を上げた時に、塔頂ブタノール濃度が急減する線を延長して図3中に点線で示し、一方、気液平衡の塔頂ブタノール濃度を19wt%近辺の3点の平均値19.03を取り、縦軸に平行線を点線で引き、交点を図3に示す。この交点がまさしく気液平衡限界点といえる。それゆえ、(スチーム/ブタノール)供給量比が9.1となるときのスチーム供給量を目標スチーム供給量として定める。
表1に示されるエタノール発酵液の場合と同様にスチーム供給量が少ない場合には、缶出液中ブタノール濃度が高く、スチームの供給量不足でブタノールの一部が缶出液として漏れ出ている。
【0054】
脱水精製処理に供される発酵液がアセトン・ブタノール発酵液であってもエタノール発酵液の場合と同様に、(スチーム/ブタノール)供給量比が9.1となるときのスチーム供給量が目標スチーム供給量Qm'として定められる。そして目標スチーム供給量Qm'に対する各ケースのスチーム供給量比を表2中に示す。スチーム供給量比対ブタノール塔頂側回収率の関係を補間すると、スチーム供給量比90%でブタノール回収率79%、スチーム供給量比95%でブタノール回収率88%となる。一方、スチーム供給量比が100%を超えた場合には超えた分だけスチームのロスとなる。ブタノールの濃度がエタノールの濃度の1/10程度と低いため、スチーム供給量比95%でエタノール回収率93%であったのに対して、ブタノール回収率は88%である。また、発酵エタノール10質量%の場合、液相濃度1質量%に対する温度変化は0.71℃(図4参照)であり、発酵ブタノール1質量%の場合、液相濃度1質量%に対する温度変化は2.2℃であり、ブタノールの方が液相濃度変化に対する温度変化の感度がよい。
以上のとおりであるから、アセトン・ブタノール発酵液の蒸留運転の場合には、好ましくは、目標スチーム量に対して、下限は95%を越えるように、より好ましくは98%を越えるように、特に好ましくは99%を越えるように運転すべきである。また、好ましくは、目標スチーム量に対して、上限はは105%未満、より好ましくは102%未満、特に好ましくは101%未満で運転すべきである。
【0055】
アセトン・ブタノール発酵液についても原液中の発酵主生成物濃度および温度の変動がある。エタノール発酵液について述べた方法と同様に、蒸留塔最下段部へ供給するスチーム量の微小な変化と塔頂段の液温変化との関係から気液平衡限界点を挟んだ運転を実施して、発酵液主生成物の濃度変化および温度変化に対応した省エネ運転が実施できる。アセトン・ブタノール発酵ではブタノール濃度は高々1質量%までであるので、蒸留塔最上段におけるブタノール濃度対温度の関係は0.1質量%あたり0.2〜0.25℃と割と大きい。
【0056】
ところで、「燃料協会誌」、1988年、第67巻、第12号、p.1038−1051には、30〜94質量%エタノール蒸気、言い換えれば6〜70質量%水蒸気含有原料をポリイミド膜モジュールに供給してエタノール99質量%以上の脱水製品を得るようにした分離技術が記載されている。この文献に記載のポリイミド膜を用いた分離技術では、液を気化するエネルギは必要であるが、それ以後、膜の高圧側の水蒸気分圧と低圧側の水蒸気分圧の差がある限り水の分離が可能であり、分離のためのエネルギとしては低圧を保持するための真空ポンプのエネルギのみである。このように、ポリイミド膜は、多量の水分を省エネルギ的に分離することができるとともに広範囲の水分濃度に対応でき、かつ耐熱性を有しているから、ポリイミド膜を用いた分離処理では、蒸気圧を上げ、膜分離温度をあげることが可能で、使用する膜モジュールの本数を少なくすることができる。また、ポリイミド膜はその分離機構が溶解・拡散過程で進むのに対してゼオライト膜の分離機構は吸着・拡散過程で進むと言われている。不純物に対する耐久性として、ポリイミド膜では膜表面に溶解しなかった場合は製品の無水エタノール側へ同伴し、溶解した場合は透過側へ同伴する。一方、ゼオライト膜では不純物が吸着すると、膜寿命の低下につながる。本実施形態において、分離膜13としては、有機物のポリイミド膜(芳香族ポリイミド)および無機物のゼオライト膜のいずれを採用してもよいが、以上に述べたようなことからポリイミド膜を採用するのが好ましい。
【0057】
なお、本実施形態においては、モジュール化された分離膜13を分離器12に1本だけ装備する態様を示したが、複数本の分離膜モジュールを直列または並列に接続して使用する態様であってもよい。要するに、膜へ供給する混合蒸気量や成分濃度、製品である無水エタノール濃度、分離膜の操作条件(高圧側圧力、低圧側圧力、温度)等が決まれば、それに応じて分離膜モジュールの使用数および配置の仕方を決めることができる。
【0058】
以上、本発明の発酵液の脱水精製処理方法およびそのシステムについて、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0059】
例えば、脱水精製処理に供される発酵液に不純物が多く含まれていて分離膜13に該不純物が付着・堆積する恐れがある場合、蒸留塔5に図5に示されるような不純物含有飛沫捕捉手段40を設けるのがよい。
【0060】
図5に示される不純物含有飛沫捕捉手段40は、蒸留塔5の塔頂から分離器12に向けて送り出される発酵液蒸気(エタノール−水混合蒸気またはブタノール−水混合蒸気)の一部を凝縮して凝縮液を生成する凝縮器41と、蒸留塔5の最上段部5aにおける発酵液蒸気の流れ経路途中に配され、該発酵液蒸気が通過可能で凝縮器41からの凝縮液を滞留させる凝縮液滞留手段42とを備えて構成されている。この不純物含有飛沫捕捉手段40を蒸留塔5に設ける構成を採用することにより、蒸留塔5で発生された発酵液蒸気が凝縮液滞留手段42を通過する際に、その凝縮液滞留手段42に滞留されている凝縮液によって、発酵液蒸気に同伴する不純物を含んだ飛沫が捕捉されるので、分離膜13に不純物が付着・堆積するのを確実に防止することができ、脱水濃縮性能を良好に維持することができる。
【0061】
ここで、凝縮液滞留手段42としてバブルキャップトレイを採用することにより、発酵液蒸気がバブルキャップトレイ上の凝縮液を潜り抜ける際に泡立たせて気液接触面積を更に増やすことができるので、発酵液蒸気に同伴する不純物含有飛沫をより効果的に捕捉することができる。なお、凝縮液滞留手段42として多孔板トレイを採用してもよい。また、凝縮液滞留手段42として充填物を採用することにより、圧力損出を低く抑えつつ発酵液蒸気に同伴する不純物含有飛沫を捕捉することができる。
【0062】
なお、本発明においては、蒸留塔の留出分をそのまま分離膜を用いて脱水することが好ましいが、蒸留塔の留出分をそのまま分離膜へ供給するまえに、必要に応じて追加の蒸留塔によって蒸留処理することを妨げない。その際は、前記留出分を蒸気として追加の蒸留塔へ供給しても構わないし、前記留出分を一旦凝縮した凝縮液を追加の蒸留塔へ供給しても構わない。
【符号の説明】
【0063】
1 発酵エタノール精製処理システム
2 原液タンク
3 原液送給ポンプ
4 予熱器
5 蒸留塔
6 スチーム流量制御手段
7 スチーム供給管路
8 蒸留塔スチーム流量センサ
9 蒸留塔スチーム流量調節弁
10 蒸留塔スチーム流量調節器
11 過熱器
12 分離器
13 分離膜
14 分離器加圧側室
15 分離器減圧側室
16 分離膜非透過ベーパー凝縮器
17 分離膜透過ベーパー凝縮器
18 真空ポンプ
19 パージ用製品蒸気供給管路
20 パージ用製品蒸気流量制御手段
21 パージ用製品蒸気流量センサ
22 パージ用製品蒸気流量調節弁
23 パージ用製品蒸気流量調節器
24 分離膜透過液受器
25 分離膜透過液排出ポンプ
26 分離膜加圧側圧力センサ
27 分離膜加圧側圧力調節弁
28 分離膜加圧側圧力調節器
29 分離膜減圧側圧力センサ
30 分離膜減圧側圧力調節弁
31 分離膜減圧側圧力調節器
32 原液流量センサ
33 原液流量調節弁
34 原液流量調節器
35 蒸留塔塔底部温度センサ
36 蒸留塔塔頂部温度センサ
37 蒸留塔塔頂部温度調節器
38 制御機構
40 不純物含有飛沫捕捉手段
41 凝縮器
42 凝縮液滞留手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵により生成される発酵主生成物を含有する発酵液から発酵主生成物を精製する発酵液の脱水精製処理方法であって、
前記発酵液を蒸留塔の最上段部に供給するとともにスチームをその蒸留塔の最下段部に供給して発酵主生成物および水の混合蒸気を発生させる蒸留処理と、この蒸留処理によって発生される混合蒸気を分離膜を用いて脱水する脱水処理とを含み、
前記蒸留塔の最上段部における前記発酵主生成物と水との気液平衡限界点のスチームの供給量を目標スチーム供給量として定め、前記蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量をその目標スチーム供給量に一致させるように制御することを特徴とする発酵液の脱水精製処理方法。
【請求項2】
前記蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量が、前記目標スチーム供給量の90%を越え且つ110%未満の範囲内で制御される請求項1に記載の発酵液の脱水精製処理方法。
【請求項3】
前記蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量が、発酵液を供給する前記蒸留塔の最上段部の温度変化に基づいて制御される請求項1または2に記載の発酵液の脱水精製処理方法。
【請求項4】
前記蒸留塔に供給される前の発酵液に対しアルカリ成分を添加して中和する中和処理が含まれる請求項1〜3のいずれかに記載の発酵液の脱水精製処理方法。
【請求項5】
前記発酵液が、エタノール発酵液またはアセトン・ブタノール発酵液である請求項1〜4のいずれかに記載の発酵液の脱水精製処理方法。
【請求項6】
発酵により生成される発酵主生成物を含有する発酵液から発酵主生成物を精製する発酵液の脱水精製処理システムであって、
最上段部に前記発酵液が供給されるとともに最下段部にスチームが供給され、発酵主生成物および水の混合蒸気を発生させる蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔頂から送り出される前記混合蒸気を分離膜を用いて脱水する脱水手段と、
前記蒸留塔の最上段部における前記発酵主生成物と水との気液平衡限界点のスチームの供給量を目標スチーム供給量として定め、前記蒸留塔の最下段部に供給するスチームの供給量をその目標スチーム供給量に一致させるように制御するスチーム流量制御手段と
を備えることを特徴とする発酵液の脱水精製処理システム。
【請求項7】
発酵液を供給する前記蒸留塔の最上段部の温度変化を測定する温度測定手段の測定結果に基づいて前記スチーム流量制御手段を制御する制御機構が設けられる請求項6に記載の発酵液の脱水精製処理システム。
【請求項8】
前記蒸留塔の塔頂から前記脱水手段に向けて送り出される前記混合蒸気の一部を凝縮して凝縮液を生成する凝縮器と、前記蒸留塔の塔頂部内部における前記混合蒸気の流れ経路途中に配され、該混合蒸気が通過可能で前記凝縮器からの凝縮液を滞留させる凝縮液滞留手段とが設けられる請求項6または7に記載の発酵液の脱水精製処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−240305(P2009−240305A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57056(P2009−57056)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000230582)日本化学機械製造株式会社 (16)
【Fターム(参考)】