説明

発電プラント負荷制御装置

【課題】タービン発電機出力が目標負荷に速く到達する応答性の良い制御ができる発電プラント負荷制御装置を提供する。
【解決手段】プラント目標負荷信号1に変化率制限を加えてプラント負荷指令信号3を出力する変化率制限器2と、プラント負荷指令信号3に遅れを作用させてタービン発電機負荷指令信号5を出力する遅れ手段4と、プラント負荷指令信号3がプラント目標負荷信号1に到達したことを検知する検知手段21と、遅れ手段4からのタービン発電機負荷指令信号5より速くプラント目標負荷信号1に追従する信号24を出力する信号出力手段23と、プラント負荷指令信号3がプラント目標負荷信号1に到達すると信号24に切り替えてタービン発電機負荷指令信号26とする切替手段25を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラで発生した蒸気でタービン発電機を駆動して発電を行う発電プラントの負荷制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の発電プラントではタービン発電機への負荷指令信号を激しく変化させた場合、ボイラから発生し蒸気タービンに導入する蒸気流量を急激に変化させる必要がある。それがボイラ側で追従可能な変化を超越するとボイラへの外乱が多大となり、蒸気温度を初めとするボイラ側の各制御ループの制御が困難となって、プラントの不安定を招くことになる。
【0003】
特に石炭焚き変圧ボイラを例にとって説明すると、ボイラの応答速度が遅い発電プラントにおいては、タービン発電機への負荷指令とボイラへの負荷指令の協調制御として、図6に示すような回路によりタービン発電機への負荷指令を滑らかな信号として与える方式が採用されることが多い。
【0004】
すなわち、中央給電所の指令部10から送信されたプラント目標負荷信号1は負荷変化率制限器(RL)2により、プラント(石炭焚き変圧ボイラとタービン発電機)に定められた負荷変化率に信号の変化速度が制限されたプラント負荷指令信号3を得る。このプラント負荷指令信号3に基づいてボイラ11の負荷制御がなされるが、このプラント負荷指令信号3を直接タービン発電機12の負荷指令として用いるのではなく、一次遅れまたは高次遅れ手段4を作用させた信号をタービン発電機負荷指令信号5として使用する。
【0005】
図7はこの制御装置で得られる各種信号の波形図で、横軸に時間を、縦軸に負荷指令信号の変化を示している。図中の1’はプラント目標負荷信号1の波形、3’はプラント負荷指令信号3の波形、5’はタービン発電機負荷指令信号5の波形である。またt1は新たなプラント目標負荷信号1の取得によりプラント負荷指令信号3の変化が開始された時点、t2はプラント負荷指令信号3がプラント目標負荷信号1に到達した時点、t3はタービン発電機負荷指令信号5がプラント目標負荷信号1とプラント負荷指令信号3に到達した時点、をそれぞれ示している。
【0006】
この図に示されているようにタービン発電機負荷指令信号波形5’は、プラント負荷指令信号波形3’よりもなだらかな曲線にて推移するようになっている。このなだらかな波形を有するタービン発電機負荷指令信号5に従ってタービン発電機12の出力が制御されるので、ボイラ11から抜き出す蒸気流量の変動が穏やかになり、その分ボイラ制御が安定化する。
【0007】
タービン発電機の制御装置に関しては、例えば下記のような特許文献を挙げることができる。
【特許文献1】特開平8−266095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前述の負荷制御装置において、遅れ手段4を作用させることにより、プラント負荷指令信号3の変化中(プラント負荷指令信号3が変化を開始してプラント目標負荷信号1に到達するまでの間、すなわちt1〜t2の間)においては、タービン発電機負荷指令信号5はプラント負荷指令信号3に対して前記遅れ手段4の時定数に相当する時間だけ遅れた波形になる。
【0009】
更にプラント負荷指令信号3がプラント目標負荷信号1に到達した後、すなわちt2以降は非常に緩慢な推移を示し、タービン発電機負荷指令信号5がプラント目標負荷信号1に到達するのに多大な時間を要し、タービン発電機出力の応答が遅い。プラントの目的はタービン発電機出力を速やかにプラント目標負荷に追従させることなので、このような特性は発電プラントの性能として非常に不利である。
【0010】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、タービン発電機出力が目標負荷に速く到達する応答性の良い制御とプラントの安定性とを両立した発電プラント負荷制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため本発明は、ボイラで発生した蒸気をタービン発電機に導入して発電機出力を得る発電プラントであって、
前記発電プラントのプラント目標負荷信号に変化率制限を加えてプラント負荷指令信号を出力する変化率制限器と、
その変化率制限器から出力される前記プラント負荷指令信号に遅れを作用させてタービン発電機負荷指令信号を出力する遅れ手段とを備えて、その遅れ手段を作用させない前記プラント負荷指令信号を前記ボイラに対してボイラ負荷指令信号として出力するとともに、前記遅れ手段の出力信号をタービン発電機に対してタービン発電機負荷指令信号として出力する発電プラント負荷制御装置において、
前記プラント負荷指令信号が前記プラント目標負荷信号に到達したことを検知する到達検知手段と、
前記遅れ手段により遅れを作用させて得られた前記タービン発電機負荷指令信号よりも速く前記プラント目標負荷信号に追従する目標負荷到達後信号を出力する目標負荷到達後信号出力手段と、
前記プラント負荷指令信号が前記プラント目標負荷信号に到達するまでは、前記遅れ手段から出力されるタービン発電機負荷指令信号を前記タービン発電機に出力し、前記到達検知手段により前記プラント負荷指令信号が前記プラント目標負荷信号に到達したことを検知すると、前記タービン発電機負荷指令信号から前記目標負荷到達後信号に切り替えて、その目標負荷到達後信号を前記タービン発電機へのタービン発電機負荷指令信号とする切替手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は前述のような構成になっており、タービン発電機出力が目標負荷に速く到達する応答性の良い制御とプラントの安定性とを両立した発電プラント負荷制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明の実施形態を図面とともに説明する。図1は本発明の実施形態に係る発電プラント負荷制御装置の概略系統図、図2はこの制御装置で得られる各種信号の波形図、図3はこの発電プラント負荷制御装置の具体的な系統図、図4はこの制御装置で得られる各種信号の波形図である。
【0014】
図1に示すように、中央給電所の指令部10から送信されたプラント目標負荷信号1は変化率制限器(RL)2により、プラント(石炭焚き変圧ボイラとタービン発電機)に定められた負荷変化率に信号の変化速度が制限されたプラント負荷指令信号3を得る。このプラント負荷指令信号3に基づいて石炭焚変圧ボイラ11の負荷制御がなされるが、このプラント負荷指令信号3を直接タービン発電機12の負荷指令として用いるのではなく、一次遅れまたは高次遅れ手段4を作用させた信号をタービン発電機負荷指令信号5として使用する。これまでの構成は、図6を用いて説明した従来技術と同じである。
【0015】
本発明では、プラント負荷指令信号3がプラント目標負荷信号1に到達したことを到達検知回路21で検知し、その検知信号22を切替手段であるアナログスイッチ(ASW)25に出力する。この検知時点(t2 図2参照)以後のタービン発電機12への負荷指令は、前記遅れ手段4を作用して得られたタービン発電機負荷指令信号5を用いるのではなく、その信号5よりも速くプラント負荷指令信号3に追従する波形を形成する波形形成回路23から出力された目標負荷到達後波形信号24に切り換えて(ASW25でa選択)、これをタービン発電機負荷指令信号26として使用する。これによりプラント目標負荷信号1に到達する時間(時点t4 図2参照)を速くすることができる。
【0016】
なお、プラント負荷指令信号3がプラント目標負荷信号1に到達する前のタービン発電機12への負荷指令には、前記遅れ手段4を作用させられたタービン発電機負荷指令信号5を用いるので、負荷変化開始時および負荷変化中のボイラ11とタービン発電機12の協調が図られ、ボイラプラントへの外乱の少ない制御が確保される。すなわち、負荷追従性とプラントの安定性を両立した制御が実現できる。
【0017】
図3は、本実施形態に係る負荷制御装置をより具体的に示した系統図である。同図に示すように変化率制限器2の出力信号はそのまま負荷指令信号となるのではなく、プラント負荷指令信号3に、AFC指令信号51と周波数バイアス信号53を信号加算処理器55によって重畳された加算後負荷指令信号56が用いられる。
【0018】
前記AFC(Automatic Frequency Controlの略)指令信号51は、所轄管内の系統周波数を一定に維持し(例えば50Hzとか60Hz) 、補正する制御のために中央給電所から与えられる信号である。
【0019】
前記周波数バイアス信号53は、タービン入口の蒸気圧を検出して、そのタービン入口蒸気圧に基づいて関数発生器により圧力補正係数を作成し、系統周波数偏差と乗算器で掛け算することにより求められる信号で、ガバナフリー機能で変化する発電量と一致するように設定される信号である。
【0020】
一般にAFC信号51および周波数バイアス信号53への応答は遅れを許されないので、ここで加算される信号成分は負荷指令信号に遅れ手段が作用されることが許されない。従って、負荷指令信号として遅れ手段を作用させる対象の信号成分は、AFC信号51,周波数バイアス信号53による信号成分が重畳される前、すなわち変化率制限器2の出力信号の成分(プラント負荷指令信号3)に対してのみとする必要がある。
【0021】
そのため、プラント負荷指令信号3に一次遅れ手段64を作用させた一次遅れ出力信号65から、遅れ手段を作用させないプラント負荷指令信号3を減算器57で減じた信号58を、前記加算後負荷指令信号56に加算器63で加算することにより、AFC信号51及び周波数バイアス信号53が加算される前のプラント負荷指令信号3の成分のみが加算器63の出力信号においては結果的にキャンセルされる構成を基本形としている。
【0022】
前記減算器57の出力信号58は図4に示す波形58’、すなわちプラント負荷指令信号3を不完全微分した信号のプラス・マイナスを逆にした信号波形として得られる。この信号をプラント負荷指令信号3が、プラント目標負荷信号1に到達したことを検知するモニターリレー74の出力信号75がonとなったら値が0の信号発生器68(設定値=0)の出力信号69にアナログスイッチ(ASW)59で切り替わる。
【0023】
このアナログスイッチ(ASW)59の出力信号60は図4に示す波形60’を有し、この出力信号60に変化率制限器2に使用したのと同様な変化率設定値信号76、77を用いて変化率制限器61により変化速度に制限をかけた制限器出力信号62は、図4に示す波形62’となる。なお、前記信号76は下降側の変化率設定値信号、信号77は上昇側の変化率設定値信号である。
【0024】
前記制限器出力信号62と加算後負荷指令信号56が加算器63で加算されると、図4に示す波形26’となり、本発明の目的である負荷指令信号がプラント目標負荷信号1に到達する時間を短縮すると同時に、動作の遅れが許されないAFC信号51及び周波数バイアス信号53の成分はそのままの波形で加算されたタービン発電機負荷指令信号26を得ることができる。
【0025】
なお、プラント負荷指令信号3がプラント目標負荷信号1に到達したことを検知するモニタリレー出力信号75は、プラント負荷指令信号3の微分を微分器70でとり、その出力信号71の絶対値を絶対値演算器(ABS)72でとり、その出力信号73の値が規定値以下であることをモニタリレー74で検知することによって得る。
【0026】
また、プラント負荷指令信号3を入力信号として関数発生器66の出力信号67を一次遅れまたは高次遅れ手段64に作用させているのは、プラントの負荷によってボイラの応答性能が変化するためプラント負荷指令信号3に応じてタービン発電機負荷指令信号26の波形の滑らかさを加減できるように考慮したものである。
【0027】
従って前記微分器70, 絶対値演算器(ABS)72ならびにモニタリレー74で図1に示す到達検知回路21を構成している。
【0028】
また前記減算器57、アナログスイッチ59、変化率制限器61、加算器63ならびに信号発生器68で図1に示す波形形成回路23を構成している。
【0029】
図5は従来技術と本発明によるタービン発電機負荷指令信号波形を比較して示す図であり、横軸に時間、縦軸に負荷指令信号ならびにタービン発電機負荷指令信号をとっている。
【0030】
プラント負荷指令信号3が時刻t=0秒の時点まで50%で安定していたとして、下記の条件にて負荷変化を行った時の従来技術によるタービン発電機負荷指令信号5および本発明によるタービン発電機負荷指令信号26の応答は、以下の(1)および(2)によって表される。またその応答波形を示すと図5のようになる。
【0031】
負荷変化率r =3%/min. 負荷変化幅α=20%
タービン発電機負荷指令に対する一次遅れまたは高次遅れ手段4については、これまでの実績で一般的なT=60秒の一次遅れとする。
【数1】

従来技術によるタービン発電機負荷指令信号5の波形5’と本発明によるタービン発電機負荷指令信号26の波形26’を比較すると、t=400秒までは同じであるが400秒以降の応答が異なる。
【0032】
すなわち、従来技術によるタービン発電機負荷指令信号5であれば一次遅れ波形の特徴として目標値である70%にゆっくりと到達する(実線で示す)が、本発明によるタービン発電機負荷指令信号26であると、t<400秒の波形の延長線に沿って、3%/minの速度でそのまま目標値70%に到達する(破線で示す)。
【0033】
その結果、プラント負荷指令3が目標値70%に到達するt=400秒時点からどれだけ遅れてタービン発電機負荷指令が目標値70%到達する時間を比較すると、従来技術では205秒も遅れるのに対して本発明では60秒の遅れに短縮される。但し、一次遅れ波形の性質上70%ちょうどまで到達するのは無限時間かかることから、0.1%手前すなわち69.9%までを以って到達したと見做すこととした。
【0034】
また別の観点で、この間の負荷変化率を 負荷変化幅÷目標負荷までの所要時間 として表すと、従来技術によるタービン発電機負荷指令信号5では1.98%/minとプラント負荷指令信号3の負荷変化率3%/minから大きく低下しているのに対し、本発明によるタービン発電機負荷指令信号26では2.61%/minと改善できる。
【0035】
ここで述べたのはタービン発電機負荷指令に関してであるが、発電プラントの究極の目的の発電機出力そのものはこの指令値にほぼ追随する形で制御されるので、定量的にも本発明の応答特性の改善が発電プラントとしての発電機出力の応答特性を改善することにそのまま結びつくことになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る発電プラント負荷制御装置の概略系統図である。
【図2】この制御装置で得られる各種信号の波形図である。
【図3】この発電プラント負荷制御装置の具体的な系統図である。
【図4】この制御装置で得られる各種信号の波形図である。
【図5】従来技術と本発明によるタービン発電機負荷指令信号波形を比較して示す図である。
【図6】従来の発電プラント負荷制御装置の概略系統図である。
【図7】この制御装置で得られる各種信号の波形図である。
【符号の説明】
【0037】
1:プラント目標負荷信号、1’:プラント目標負荷信号波形、2:変化率制限器、3:プラント負荷指令信号、3’:プラント負荷指令信号波形、4:遅れ手段、5:タービン発電機負荷指令信号、5’:タービン発電機負荷指令信号波形、10:指令部、11:ボイラ、12:タービン発電機、21:到達検知回路、22:到達検知信号、23:波形形成回路、24:目標負荷到達後波形信号、25:アナログスイッチ、26:タービン発電機負荷指令信号、26’:タービン発電機負荷指令信号波形、51:AFC指令信号、53:周波数バイアス信号、55:信号加算処理部、56:加算後負荷指令信号、56’:加算後負荷指令信号波形、57:減算器、58:減算器出力信号、58’:減算器出力信号波形、59:アナログスイッチ、60:アナログスイッチ出力信号、60’:アナログスイッチ出力信号波形、61:変化率制限器、62:制限器出力信号、62’:制限器出力信号波形、63:加算器、64:遅れ手段、65:遅れ手段出力信号、66:関数発生器、67:関数発生器出力信号、68:信号発生器、69:信号発生器出力信号、70:微分器、71:微分器出力信号、72:絶対値演算器、73:絶対値演算器出力信号、74:モニターリレー、75:モニターリレー出力信号、76:下降側変化率設定値信号、77:上昇側変化率設定値信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラで発生した蒸気をタービン発電機に導入して発電機出力を得る発電プラントであって、
前記発電プラントのプラント目標負荷信号に変化率制限を加えてプラント負荷指令信号を出力する変化率制限器と、
その変化率制限器から出力される前記プラント負荷指令信号に遅れを作用させてタービン発電機負荷指令信号を出力する遅れ手段とを備えて、その遅れ手段を作用させない前記プラント負荷指令信号を前記ボイラに対してボイラ負荷指令信号として出力するとともに、前記遅れ手段の出力信号をタービン発電機に対してタービン発電機負荷指令信号として出力する発電プラント負荷制御装置において、
前記プラント負荷指令信号が前記プラント目標負荷信号に到達したことを検知する到達検知手段と、
前記遅れ手段により遅れを作用させて得られた前記タービン発電機負荷指令信号よりも速く前記プラント目標負荷信号に追従する目標負荷到達後信号を出力する目標負荷到達後信号出力手段と、
前記プラント負荷指令信号が前記プラント目標負荷信号に到達するまでは、前記遅れ手段から出力されるタービン発電機負荷指令信号を前記タービン発電機に出力し、前記到達検知手段により前記プラント負荷指令信号が前記プラント目標負荷信号に到達したことを検知すると、前記タービン発電機負荷指令信号から前記目標負荷到達後信号に切り替えて、その目標負荷到達後信号を前記タービン発電機へのタービン発電機負荷指令信号とする切替手段とを備えたことを特徴とする発電プラント負荷制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−131676(P2008−131676A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310485(P2006−310485)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】