説明

発電機の制御方式

【課題】発電機や発電機駆動用原動機の大型化、コストアップを抑制するとともに、電池充電時間を短縮して原動機燃料消費量を低減させ経済効果,環境改善効果を向上させる。
【解決手段】電池1と、この電池1を充電する発電機5とからなるハイブリッド接続の電源で、発電機5から電池1を充電しながら推進電動機12や補機33へ電力を供給して運転するに当たり、充電切替スイッチ19を設け、このスイッチ19によって定電圧充電方式,定電流充電方式,定電力充電方式の3種類の充電方式のいずれか1つを選択して実行できるようにし、掲記課題の解決を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電池と、この電池を充電する発電機とで構成されるハイブリッド電源において、発電機により電池を充電しながら推進電動機および補機へ電力を供給する電気推進システム、特に発電機の制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
電池と、この電池を充電する発電機とからなるハイブリッド電源を備えた、例えば電気推進船舶などの電気推進システムの運転モードには、発電機で電池を充電しながら推進電動機および補機へ電力を供給して運転するモードと、発電機を停止して電池のみで運転するモードとの2つがある。
発電機で電池を充電しながら運転する前者のモードでは、電池充電容量と発電機出力容量とは密接な関係にあり、電池容量が増大すれば発電機容量が増大し、かつ、発電機を駆動する原動機(発電機駆動用原動機)の容量も増大する。
【0003】
すなわち、電気推進システムのパワーアップに伴って電池容量が増大すれば発電機容量が増大し、発電機駆動用原動機容量が増大して発電機,原動機の寸法・質量の増加により大型化、コストアップが発生する。
電池を搭載した電気推進システムの電池としては、従来から鉛電池が用いられているが、近年、高エネルギー密度を有するリチウムイオン電池の採用が検討されている。発電機容量は電池の容量の他に充電特性にも支配されるから、鉛電池とリチウムイオン電池の容量が同じである場合、鉛電池では大電流充電が不可能であっても、リチウムイオン電池では大電流充電が可能であることから、発電機容量が増大する一因ともなる。
【0004】
また、従来からの鉛蓄電池の充電方法によれば、充電初期時には大電流で、充電中期には中電流で、充電終期には小電流で充電するのが一般的であり、充電動作によって発生する電解液の電気分解作用(による水素ガス,酸素ガスの生成)を抑制し、充電電力損失を低減させる充電方法が採用されているから、鉛電池の満充電には長時間が必要とされている。
これに対してリチウムイオン電池は電解液を持たないのでガスの発生がなく、電池内部損失が小さいことから、満充電直前の時期まで大電流で充電することが可能であるとされている。その結果、リチウムイオン電池では鉛電池に比べて大幅な充電時間の短縮が期待されている。
【0005】
しかしながら、リチウムイオン電池の特徴である大電流充電を行なうと、発電機容量が増大するため、発電機の大型化、コストアップの問題が発生し、また、発電機を駆動する原動機(発電機駆動用原動機)についても同様の問題が発生する。このような発電機および発電機駆動用原動機の大型化は、搭載スペースが厳しい電気推進船舶などの電気推進システムにおいては極めて重大な問題となる。
この問題を解決するために、発電機電力を有効に利用して電池を充電する『定電力』充電方法が多数提案されているが、この発明に最も近い先行技術として特許文献1に示すものがある。以下に、この特許文献1に示す電池充電方式について説明する。
【0006】
図12に先行技術(特許文献1)の充電制御回路図、図13にその動作説明図を示す。
特許文献1には、電池と、この電池に並列接続された他の負荷とに交流発電機から整流器を介して直流電力を供給するシステムにおける電池充電方式が示されており、その電池充電方式は、次のようなものとなっている。
1)定電圧充電:第1電流目標値演算部L1による発電機電流指令IG*の演算出力
第1電流目標値演算回路L1において、負荷ILが増加するとIG(=IB+IL)が大きくなる結果、演算出力の発電機電流指令値IG*が大きくなって負荷の増加に対応した発電機出力となる。この場合、急激な負荷ILの変動が発生すれば発電機と発電機駆動用原動機に急激な負荷変動が発生する。
【0007】
2)定電流充電:第2電流目標値演算部L2による発電機電流指令IG*の演算出力
第2電流目標値演算回路L2において、負荷ILが増加すると、演算出力の発電機電流指令値IG*が大きくなって負荷の増加に対応した発電機出力となる。急激な負荷ILの変動が発生すれば、上記1)項と同様、発電機および発電機駆動用原動機に急激な負荷変動が発生する。
【0008】
3)発電機出力電力一定での充電:第3電流目標値演算部L3による発電機電流指令IG*の演算出力
第3電流目標値演算回路L3において、その演算式の分母PGは発電機電力演算部L4の出力PG(=VB×IG)であり、分子はPG*×IGであるから、負荷ILの増加(変化)による分母値の増加(変化)と分子値の増加(変化)とは相殺され、演算出力IG*は変化しない。その結果、負荷変動が発生しても、発電機電力設定器S3の設定値PG*の出力は保持されるので、負荷ILが増加したときは発電機電流IGが増加するが、電池充電電力および充電電流は減少する。
すなわち、負荷変動によって充電電流が左右されるため安定した充電動作ができない。つまり、この充電方式は発電機の出力電力を制御するものであり、電池を定電力で充電するものとは言えない。
【0009】
4)無負荷(IL=0)状態で電池を充電するときは、発電機出力PGと電池充電電力PB(=VB×IB=VG×IB)とは等しく、常にPG=PBの運転である。よって、発電機出力内において任意の充電電力を設定することができない。すなわち、電池充電電力の設定を発電機出力設定で行なうことができないという操作上の問題がある。
5)さらに、電池浮動動作(浮動充電)では、推進電動機の運転変更によって発電機負荷が変動するため、発電機駆動用原動機に大きな負荷変動を与えることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭64−012826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のことから、電池を搭載する電気推進システムにおいて、従来から採用されている鉛電池に代えて高性能リチウムイオン電池を採用し、リチウムイオン電池の特徴である大電流充電を行なうシステム構成とする場合、これに対応して、発電機出力容量が増大し、発電機および発電機駆動用原動機が大型化してコストアップするという問題が発生する。
また、発電機および発電機駆動用原動機の大型化は、搭載スペースに制約がある電気推進船舶などの電気推進システムでは極めて重要な問題となる。さらに、電気推進システムでは任意の運転を速やかに行なえることが最大の特徴であるが、反面、速やかな運転操作は急激な負荷変動を伴い、この急激な負荷変動は発電機駆動用原動機に加わり、原動機にダメージを与えるので急激な負荷変動を抑制することが望ましい。
【0012】
したがって、この発明の課題は、上記特許文献1に記載の電池充電方式における問題点に対応して、リチウムイオン電池の充電特性に対応した充電方法を用いて発電機出力および発電機駆動用原動機の容量増大を抑制して、発電機および発電機駆動用原動機の大型化、コストアップを抑制すること、電池充電時間の短縮によって原動機燃料消費量を低減させて経済効果、環境改善効果を得ること、さらには急激な負荷変動が発生したときには電気系統の発電機出力負荷が急激に変動しないようにして、発電機駆動用原動機へ与えるダメージを軽減させることなどにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような課題を解決するため、この発明によれば、発電機の制御方式を、電池と、この電池を充電する発電機とからなるハイブリッド接続の電源であって、発電機で電池を充電しながら推進電動機および補機へ電力を供給して運転する電気推進システムにおいて、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部を備え、この充電電力制御部による定電力充電方式の充電動作を実行可能にした構成とする(請求項1の発明)。
定電圧充電方式では充電電力が充電初期の最大値から充電終期に向かって次第に減少する特性であり、定電流充電方式では充電電力が充電初期から次第に増加し充電終期に最大値となる特性であるのに対し、定電力充電方式では、充電電力が充電初期から終期まで一定であることにより、充電電力をより有効に利用して電池を充電することができる。また、電池を充電する発電機容量は充電電力の最大値で決まるから、必要な発電機容量の点でも定電力充電方式は定電圧充電方式や定電流充電方式に比べて優れている。
この点に関し、上記請求項1の発明は、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部を備えることにより、電池と、この電池を充電する発電機とからなるハイブリッド接続の電源であって、発電機で電池を充電しながら推進電動機および補機へ電力を供給して運転する電気推進システムにおける定電力充電方式の充電動作を実行可能にしたものであり、これにより、電気推進システムにおける発電機出力および発電機駆動用原動機の容量増大を抑制して、発電機および発電機駆動用原動機の大型化,コストアップを抑制することができる。
また、上記請求項1の発明では、発電機出力をより有効に利用できる定電力充電動作を行なうことによって電池充電時間を短縮化できるので、これにより発電機駆動用原動機の運転時間を短縮化して、原動機燃料消費量を低減させることができ、経済効果、環境改善効果を得ることが可能となる。
なお、大きな充電電力を必要とする初期充電時に、発電機出力を有効に利用した『定電力充電』方式を適用した場合には、発電機容量の増大を抑制しつつ、充電時間の短縮化を図る上で特に大きな効果が得られる。
次に、発電機を駆動する例えばディーゼルエンジンなどの原動機は定出力特性を有することにより、発電機負荷(電力)が変化したときに原動機回転速度を一定に保つためにガバナーによって原動機への燃料供給量を制御するので、燃料供給量を負荷に対応させることによる原動機の出力制御を行なうことになる。
この点に関し、上記請求項1の発明による発電機の制御方式では、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部により、『電池充電電力』を制御量(フィードバック量)とした充電動作を実行可能であるため、電気推進システムにおける発電機の制御において、『発電機出力電力』および『推進電動機入力電力』に合せて電池充電に関する制御緒元も『電力』に統一して制御できるとともに、さらに原動機ガバナー制御との制御諸元の統一もできるので、発電機制御回路の簡素化が可能になる。
一方、従来の定電圧充電方式、定電流充電方式では、例えば、充電電圧実際値と充電電圧設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電圧制御部、充電電流実際値と充電電流設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電流制御部がそれぞれ設けられるが、このような充電電圧制御部、充電電流制御部により電池充電電力を管理するための充電動作を行なうとすれば、電池の充電状態,推進電動機の運転状態などによって刻々変化する電池電流,推進電動機電流,電池電圧(=給電電路電圧)などに追従して発電機を制御する必要がある。
すなわち、上記充電電圧制御部による充電動作では例えばその時の電池電流実際値に基づいて所定の充電電力値になる充電電圧設定値を演算して各部を制御することになるとともに、上記充電電流制御部による充電動作では例えばその時の電池電圧実際値に基づいて所定の充電電力値になる充電電流設定値を演算して各部を制御することになり、いずれも複雑な演算制御を行なうことが必要となる。
これに対して、上記請求項1の発明における発電機の制御方式では、電池充電電力を管理するための充電動作として、刻々変化する電圧と電流との積である『電力』を制御量(フィードバック量)として発電機を制御するので、上述のように、制御が簡素化できる利点があり、原動機ガバナー制御との協調制御、制御連動が容易になる。
【0014】
また、上記請求項1の発明においては、充電電力実際値を求めるための構成として、充電電圧実際値を検出する電池電圧検出器と、充電電流実際値を検出する電池電流器検出器と、前記充電電圧実際値と前記充電電流実際値との積を前記充電電力実際値として出力する充電電力演算部とを備えた構成とすることができる(請求項2の発明)。
また、上記請求項2の発明においては、前記充電電圧実際値と充電電圧設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電圧制御部と、前記充電電流実際値と充電電流設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電流制御部とをさらに備え、前記充電電圧制御部による定電圧充電方式と,前記充電電流制御部による定電流充電方式と,前記充電電力制御部による定電力充電方式との3種類の充電方式の充電動作を選択的に実行可能にした構成とすることができる(請求項3の発明)。
また、上記請求項1〜3のいずれかの発明においては、初期充電時から終期充電時までの充電を、充電の進行とともに前記充電電力設定値を段階的に減少させていく多段定電力充電方式で充電することによって充電時間の短縮を図るとともに、発電機容量の増加を抑制する構成とすることができる(請求項4の発明)。
また、上記請求項3または4の発明においては、前記定電力充電方式で選択可能なモードとして電池優先モードと電動機優先モードとの2つの優先モードを設け、電池優先モードで電池充電電力が増加したときは、発電機出力限度内において推進電動機回転速度を低下させて得た電力を電池充電電力に充当し、また、電動機優先モードで推進電動機電力が増加したときには、発電機出力限度内において前記充電電力設定値の調整により電池充電電力を低減させて得た電力を推進電動機電力に充当するようにした構成とすることができる(請求項5の発明)。
上記請求項5の発明によれば、電動機優先モードで推進電動機電力が増加したときに充電電力を低減させる制御として、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部により、推進電動機電力への充当分だけ低減した充電電力設定値に基づき充電電力実際値自体を制御量(フィードバック量)として充電動作を行なうことができるので、簡単な制御回路で安定性の高い制御を実現できる。
また、上記請求項5の発明においては、前記2つの優先モードを解除する切モードを設け、この切モードでは前記定電圧,定電流および定電力のいずれかの充電方式で電池の充電を可能にする構成とすることができる(請求項6の発明)。
【0015】
また、上記請求項1〜6のいずれかの発明では、前記推進電動機を停止から運転、または運転から停止とする操作に伴って発生する負荷変動に対し、前記発電機を駆動する発電機駆動用原動機の回転速度を一定に保つ原動機ガバナー装置の制御が追従できるように、推進電動機の回転速度変化時間を設定可能にした構成とすることができる(請求項7の発明)。
また、上記請求項1〜7のいずれかの発明においては、前記推進電動機の急速停止操作をしたときは、急速停止により発生する推進電動機の減少電力を模擬電力として一時的に電池充電電力に充当し、前記模擬電力が充当された充電電力設定値に基づいて前記充電電力制御部による充電動作を行なうことにより、発電機駆動用原動機に与える急激な負荷変動を抑制し、原動機ガバナー装置の制御が追従できるようにする構成とすることができる(請求項8の発明)。
上記請求項8の発明において、推進電動機の急速停止操作時に推進電動機の減少電力を模擬電力として電池充電電力に充当する制御として、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部により、模擬電力が充当された充電電力設定値に基づき充電電力実際値自体を制御量(フィードバック量)として充電動作を行なうことができるので、簡単な制御回路で安定性の高い制御を実現できる。
また、上記請求項8の発明においては、前記模擬電力が充当された充電電力設定値に基づいて前記充電電力制御部による充電動作を行なう際に電池電圧が所定値を超えるときは、発電機出力電圧が制限電圧値を超えないように前記充電電力設定値を低下させる構成とすることができる(請求項9の発明)。
また、上記請求項7〜9のいずれかの発明においては、前記発電機駆動用原動機を停止させるに当っては、発電機負荷が無負荷になったことを検出して発電機を停止させ、発電機駆動用原動機の急激な負荷減少を回避させる構成とすることができる(請求項10の発明)。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、エンジン駆動発電機などの発電機で電池を充電しながら、推進電動機および補機へ電力を供給して運転する電気推進システムにおいて、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部を備え、この充電電力制御部による定電力充電方式の充電動作を実行可能としたことにより、従来からの定電圧充電方式,定電流充電方式に比べて発電機出力をより有効に利用できる定電力充電方式を用いて、発電機出力および発電機駆動用原動機の容量増大を抑制して、発電機および発電機駆動用原動機の大型化,コストアップを抑制するとともに、電池充電時間を短縮化して発電機駆動用原動機の運転時間を短縮化し、原動機燃料消費量を低減させ、経済効果、環境改善効果を得ることが可能となる。なお、電気推進システムにおける充電方式としては、従来からの『定電圧充電』,『定電流充電』モードに、上記充電電力制御部による『定電力充電』モードを加えて、これら3種類のモード(充電方式)での充電動作を選択的に実行可能にした構成とすることができる。また、大きな充電電力を必要とする初期充電時には、発電機出力を有効に利用した『定電力充電』方式が特に好適であり、初期充電時に『定電力充電』方式を用いることにより発電機容量の増大を効果的に抑制しつつ、充電時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0017】
また、この発明では、『定電力充電』を行ないながら、『電池優先』または『電動機優先』のいずれかのモードを選択できるようにし、『電池優先』モードで電池充電電力が不足した場合には、推進電動機の回転速度を低減させて得た電力を電池充電電力に充当し、また、『電動機優先』モードで推進電動機電力が増加したときには、充電電力を低減させて得た電力を推進電動機電力に充当させる動作を行なうようにしている。そして、この発明によれば、『電動機優先』モードで推進電動機電力が増加したときに充電電力を低減させる制御として、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部により、推進電動機電力への充当分だけ低減した充電電力設定値に基づき充電電力実際値自体を制御量(フィードバック量)として充電動作を行なうので、簡単な制御回路で安定性の高い制御を実現できる。
【0018】
さらに、この発明では、推進電動機の急速停止操作により推進電動機負荷の急激な減少が発生したときは、急速停止により発生する推進電動機の減少電力を模擬電力として一時的に電池充電電力に充当し、模擬電力が充当された充電電力設定値に基づいて充電電力制御部による充電動作を行なうことにより、発電機の負荷状態を緩やかに減少する負荷状態として発電機駆動用原動機に与える急激な負荷変動を抑制し、原動機ガバナー装置の制御が追従できるようにして、原動機の回転速度上昇を防止するようにしている。そして、この発明によれば、推進電動機の急速停止操作時に推進電動機の減少電力を模擬電力として電池充電電力に充当する制御として、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部により、模擬電力が充当された充電電力設定値に基づき充電電力実際値自体を制御量(フィードバック量)として充電動作を行なうので、簡単な制御回路で安定性の高い制御を実現できる。
また、何らかの理由で発電機駆動用原動機を停止させるときは、発電機駆動用原動機の停止操作を優先させて、発電機が無負荷状態になってから発電機を停止させることにより、発電機駆動用原動機をショックレスに停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明による充電制御のための基本回路
【図2】図1の各充電方式による充電動作の比較説明図
【図3】多段定電力充電を用いた充電動作例説明図
【図4】電気推進システム制御の基本回路図
【図5】発電機出力制限制御特性図
【図6】推進電動機の負荷特性図
【図7】図4の制御回路についての第1の詳細説明図
【図8】図4の制御回路についての第2の詳細説明図
【図9A】電池優先モードの動作パターン図(充電電力を02点から22点に増加)
【図9B】電動機優先モードの動作パターン図(電動機回転速度を03点から23点に上昇)
【図9C】電動機優先モードの動作パターン図(電動機:急速停止)
【図9D】電動機優先モードの動作パターン図(電池:浮動動作)
【図10】システム制御の応用基本回路図
【図11】原動機停止動作パターン図
【図12】先行技術の充電制御回路図
【図13】図12における充電動作説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1はこの発明による充電制御の基本回路、図2は各充電方式による充電動作の比較説明図である。
(各充電方式の充電動作)
1)定電圧充電方式
図1において、『定電圧充電』は、電池端子電圧(充電電圧実際値)VBiを一定電圧として電池を充電する方式である。その充電特性は図2(a)に示すように、充電開始a点からb点まで一定電圧で充電するので、電池内部起電圧eBの上昇とともに充電電流はIBaからIBbに低下する。この充電方式での充電電力はa点での電力PBaが大きく、b点では電力PBbに低下する。
【0021】
2)定電流充電方式
図1において、『定電流充電』は、充電電流(充電電流実際値)+IBi(+で充電を示す)を一定電流として電池を充電する方式である。その充電特性は図2(b)に示すように、充電開始のa点電流IBaからb点電流IBbまで一定の充電電流で充電するので、電池内部起電圧の上昇に伴い、電池端子電圧VBaからb点電圧VBbに上昇する。この充電方式での充電電力はa点での電力PBaは小さく、b点での電力PBbは大きくなる。
【0022】
3)定電力充電方式
図1において、『定電力充電』は、充電電流IBiと電池電圧VBiの積である充電電力(充電電力実際値)PBiを一定として電池を充電する方式である。その充電特性は図2(c)に示すように、a点からb点まで一定の充電電力となる。電池電圧VBiは充電進行とともにa点電圧VBaからb点電圧VBbに上昇し、充電電流はa点電流IBaからb点電流IBbへ低下する。
【0023】
以上の各充電方式から判るように、『定電圧充電』の場合は充電電力が充電初期の最大値から充電終期に向かって次第に減少する特性であり、『定電流充電』の場合は充電電力が充電初期から次第に増加し充電終期に最大値となる特性であるのに対し、『定電力充電』の場合は、充電電力が充電初期から終期まで一定であるから、充電電力をより有効に利用して電池を充電することができる。また、電池を充電する発電機容量は充電電力の最大値で決まるから、必要な発電機容量の点でも『定電力充電』方式が『定電圧』や『定電流』方式に比べて優れている。
このように、電池を充電初期から充電終期まで一定電力で充電する『定電力充電』方式を用いれば、発電機電力をより有効に利用して電池を充電でき、電池充電時間を短縮できることになる。
【0024】
(多段定電力充電)
図3に、多段定電力充電による充電動作例を示す。
a点:t0〜b点:t1の期間では、一定充電電力PBi1による1段目定電力で充電を行なう。a点の電池電圧VBia,充電電流IBiaから充電を開始し、時間経過とともに電池電圧は上昇し、充電電流は低下する。電池電圧がVBib1または充電電流がIBib1に達したら、充電電力をPBi2に減少させた2段目定電力充電PBi2に切替える。
【0025】
2段目定電力充電がPBi2に切替わると、電池電圧はVBib2、充電電流はIBib2に一旦低下するが、時間経過とともに電池電圧は上昇し、電池電流は減少する。そして、電池電圧がVBic1または充電電流がIBic1に達したら、充電電力をPBi3に減少させた3段目定電力充電PBi3に切替える。
3段目定電力充電がPBi3に切替わると、電池電圧はVBic2、充電電流はIBic2に一旦低下するが、時間経過とともに電池電圧は上昇し、電池電流は減少する。そして、電池電圧がVBid1または充電電流がIBid1に達したら、充電電力をPBi4に減少させた4段目定電力充電PBi4に切替える。
【0026】
4段目定電力充電がPBi4に切替わると、電池電圧はVBid2、充電電流はIBid2に一旦低下するが、時間経過とともに電池電圧は上昇し、電池電流は減少する。そして、電池電圧がVBie1、または、充電電流がIBie2に達したら、略満充電に達したと判断して例えば定電圧充電に切替え、充電電流がIBifに達したf点で充電を終了する。ここで、例えばリチウムイオン電池の場合、電池端子電圧が4.1Vに到達した時点で満充電状態になったと判定することが一般的に行なわれているが、上記「略満充電」は本来の「満充電」の少し手前の充電状態であり、例えば電池端子電圧が4.0V程度に到達した時点で略満充電状態になったと判定する。
なお、d点またはe点の電池電圧、充電電流の判定値を設定して、その設定値に到達したら、略満充電に到達したと判断して充電を終了させるようにしても良い。
【0027】
(電気推進システム制御の基本回路)
以上の充電方式を実行するための、電気推進システム制御の基本回路の一例を図4に示す。
交流発電機5(G)の交流電力は、整流器8(Di)で直流電力に変換され、電池1(B)へ充電電力として供給されるとともに、電力変換装置14(INV)を介して、推進電動機12(M)へ推進電動機電力として供給され、さらには補機33にも補機電力として供給される。
また、原動機4(DE)で駆動される発電機は、図5(a)に示す定出力制限特性を備えていて、負荷が増加したときにおいても発電機出力が制限値を越えないように制限制御されるとともに、発電機電圧は電池の充電動作で変化する電池電圧に追従して制御される。
また、例えば電気推進船舶の推進用のプロペラ(推進機)を駆動する推進電動機12(M)には、この推進電動機12(M)の回転速度を検出する速度検出器13(TD)が付属している。そして、電動機制御部32−Mは、推進電動機12(M)の速度検出器13(TD)の速度検出信号Niをフィードバック信号として電力変換装置14(INV)を制御し、推進電動機12(M)の回転速度を所望の設定速度に安定に制御する機能を有する。
【0028】
図4において、電気推進システムの制御は次のように行なわれる。
1.定電圧充電
この場合は、充電切替スイッチ19(COSB)で『定電圧』を選択し、設定器21(VRVB)で設定した電池充電電圧設定値VBs(以下では「充電電圧設定値VBs」とも称する)に対し、電池電圧検出器2(VDB)で検出した電池充電電圧実際値VBi(以下では「充電電圧実際値VBi」とも称する)をフィードバック量として、発電機を制御し、図2(a)に示すような定電圧充電制御を行なう。
2.定電流充電
この場合は、充電切替スイッチ19(COSB)で『定電流』を選択し、設定器22(VRIB)で設定した電池充電電流設定値IBs(以下では「充電電流設定値値IBs」とも称する)に対し、電池電流検出器3(SHB)で検出した電池充電電流実際値IBi(以下では「充電電流実際値IBi」とも称する)をフィードバック量として、発電機を制御し、図2(b)に示すような定電流充電制御を行なう。
【0029】
3.定電力充電
この場合は、充電切替スイッチ19(COSB)で『定電力』を選択し、設定23(VRPB)で設定した電池充電電力設定値PBs(以下では「充電電力設定値PBs」とも称する)に対し、演算部32−2で演算される電池充電電力実際値PBi(=VBi×IBi)(以下では「充電電力実際値PBi」とも称する)をフィードバック量として、発電機を制御し、図2(c)に示すような定電力充電制御を行なう。
発電機出力PGiは、演算部32-1においてPGi=発電機電圧VGi×発電機電流IGiなる演算をすることで求められる。また、発電機出力上限設定値PGsと発電機電圧VGiとから、演算部32-5において発電機出力電流の制限値IGL=PGs÷VGiが演算され、演算された制限値IGLによって発電機出力電流IGiが制限される。
【0030】
プロペラを駆動する推進電動機の負荷特性は図6のように示され、回転速度の3乗(PMi∝N)に比例して変化する。推進電動機の運転状態による推進電動機入力電力PMiは、推進電動機受電端電圧VMiと入力電流IMiとから演算部32-3において、3)式のPMi=VMi×IMiなる演算をして求められる。
また、補機電力PAXは、演算部32-4において、4)式のPAXi=VAXi×IAXiなる演算をして求められ、発電機に対し略一定の負荷となる。
【0031】
電気推進システム制御装置32は、大きくは電力演算部32−C、発電機制御部32−Gおよび電動機制御部32―Mなどから構成され、各部に配置した電圧検出器、電流検出器からの検出信号によって、各部で以下のような実電力演算および条件演算が行なわれる。
1) 32−1:発電機の実出力演算PGi=VGi×IGi
2) 32−2:電池の実充電電力演算PBi=VBi×IBi
3) 32−3:推進電動機の実入力電力演算PMi=VMi×IMi
4) 32−4:補機の実電力演算PAXi=VAXi×IAXi
5) 32−5:発電機の電流制限値演算IGL=PGs÷VGi
6) 32−6:発電機出力上限設定値と実出力の差演算ΔPG=PGs−PGi
7) 32−7:電池に供給可能な充電電力指令値演算PBsi=PGs−PMi−PAXi
8) 32−8−1:推進電動機が運転可能な入力電力演算PMsi=PGs−PBs−PAXi
9) 32−8−2:推進電動機が運転可能な回転速度指令値演算Nsi=K×3√(PMsi)
109) 32−9:推進電動機の回転速度状態検出
ΔNi=Ni−Ns>α、または、ΔNi=Ns−Ni>β
(Ns:回転速度設定値)
【0032】
また、特に『定電力』充電においては、優先切替スイッチ20(COSM)により『切』,『電池』優先および『電動機』優先の各モードが選択できるようになっている。
『電池』優先および『電動機』優先モードの制御方法については、例えば参考文献1(特開2009−262671号公報)に示すものがある。この参考文献1に記載の技術は、充電方式として『定電圧充電』および『定電流充電』の2方式を選択できるとともに、『電池』優先および『電動機』優先の各モードを切り替えて運転できるようにしたものである。そして、参考文献1に記載の技術では、特に『電動機』優先モードで推進電動機電力が増加したときに充電電力を低減させる制御として、推進電動機電力の増加分に充当するための電力分だけ減少させた充電電力値PBdを算出し、『定電圧充電』では上記充電電力値PBdをその時の電池電流実際値IBiで除して充電電圧指令値VBSC(=PBd÷IBi)を求めるとともに、『定電流充電』では上記充電電力値PBdをその時の電池電圧実際値VBiで除して充電電流指令値IBSC(=PBd÷VBi)を求め、求めた指令値により電池を充電するようにしている。
【0033】
上記参考文献1の技術に対してこの発明では、選択可能な充電方式として、『定電圧充電』および『定電流充電』に加えて、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部による『定電力』充電を新たに設けて、『定電力』充電動作中のときに『電池』または『電動機』の優先動作ができるようにしている。そして、この発明は、特に『電動機』優先モードで推進電動機電力が増加したときに充電電力を低減させる制御として、推進電動機電力の増加分に充当するための電力分だけ減少させた充電電力値PBSiを算出し、充電電力実際値と、充電電力値PBSiに基づく充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整するようにして充電動作を行なうものであり、充電電力実際値を制御量(フィードバック量)としている点で参考文献1の技術とは異なっている。
また、この発明では、さらに、『定電力』充電動作中に電気推進システムの最大負荷である推進電動機を緊急停止した場合、または、電池浮動動作中において推進電動機の緊急停止を行なったとき、短時間内で発生する負荷電力の激減により、発電機負荷の変動に対応する発電機駆動用原動機の駆動制御の追従遅れに起因して回転速度が上昇しないように、緊急停止によって発生する推進電動機電力の減少分による模擬電力を一旦電池充電電力に転化させ負荷変動を平準化し、発電機駆動用原動機の駆動制御が追従できるようにする。これにより、急激な負荷変動が発生しても発電機負荷は平準化され、発電機駆動用原動機負荷も平準化されるため、発電機駆動用原動機は駆動制御によって一定回転速度で発電機を駆動することができる。
以下に、その制御動作について上述の図4とともに図4の制御回路についての詳細説明図である図7,図8も用いて詳述する。なお、図7,図8には、それぞれ、図4の制御回路における異なる部分の詳細回路が示されている。
【0034】
3−1.切モード
このモードは優先モードを解除して上記定電圧,定電流,定電力のいずれの充電方式も実行可能とするもので、例えば、上述の図3に示すような『多段定電力充電』方式としても良い。
なお、ここで、定電圧,定電流,定電力の各充電方式における発電機に対する基本的な制御動作の構成例を図8により説明するが、この発明における発電機に対する制御動作は、この構成例に限定されるものではない。
【0035】
(定電圧充電方式における発電機に対する制御動作)
充電切替スイッチ19(COSB)で『定電圧』が選択された状態では、電池電圧検出器2(VDB)で検出される充電電圧実際値VBiと,電池電圧設定器21(VRVB)で設定される充電電圧設定値VBsとの突合せ点aでの偏差が零になるように充電電圧調節器AVRBが調節信号を出力し、この調節信号により、発電機電圧制御ループに与える発電機電圧設定値VGsの電圧レベルが調整される。
さらに、発電機電圧制御ループでは、発電機電圧検出器VDGで検出される発電機電圧実際値VGiと発電機電圧設定値VGsとの突合せ点fでの偏差が零になるように発電機電圧調節器AVRGが調節信号を出力し、この調節信号により、発電機電流制御ループに与える発電機電流設定値IGsの電流レベルが調整される。
さらに、発電機電流制御ループでは、発電機電流検出器SHGで検出される発電機電流実際値IGiと発電機電流設定値IGsとの突合せ点gでの偏差が零になるように発電機電流調節器ACRGが調節信号を出力し、この調節信号により、発電機励磁装置6(EX)を介して発電機界磁電流IGfが調整されて、発電機電圧VGiが制御され、発電機電流IGiが制御される。
【0036】
(定電流充電方式における発電機に対する制御動作)
充電切替スイッチ19(COSB)で『定電流』が選択された状態では、電池電流検出器3(SHB)で検出される充電電流実際値IBiと,電池電流設定器22(VRIB)で設定される充電電流設定値IBsとの突合せ点bでの偏差が零になるように充電電流調節器ACRBが調節信号を出力し、この調節信号により、発電機電圧制御ループに与える発電機電圧設定値VGsの電圧レベルが調整され、上記定電圧充電方式で述べたのと同様にして発電機の制御が行なわれる。
【0037】
(定電力充電方式における発電機に対する制御動作)
充電切替スイッチ19(COSB)で『定電力』が選択された状態では、演算部32-2で演算される充電電力実際値PBi(=VBi×IBi)と,信号時間設定部32−15を介して与えられる充電電力設定値PBsiBとの突合せ点eでの偏差が零になるように充電電力調節器APRBが調節信号を出力し、この調節信号により、発電機電圧制御ループに与える発電機電圧設定値VGsの電圧レベルが調整され、上記定電圧充電方式で述べたのと同様にして発電機の制御が行なわれる。
【0038】
3−2.電池優先モード
この『電池優先』モードは、システム負荷が増加したときに発電機出力容量内において、電池充電電力の供給を優先させる運転モードであり、図9Aにその動作パターンを示す。
図7の電池電力設定器23(VRPB)(図4,図8も参照)で充電電力設定値PBsを増加させると、充電電力PBiは図9Aのt0=02点からt1=12点へ増加し、発電機出力PGiはt0点=01からt1点=11点に達する。
【0039】
t1点=11点の発電機実出力PGi=PBsi+PMi+PAXiは、発電機出力上限設定器26(VRPG)で設定した上限値PGsと一致する。
このとき、図7の演算部32−6(図4,図8も参照)は、6)式ΔPG=PGs−PGi=0を演算し、演算部32−5(図4,図8参照)は、5)式IGL=PGs÷VGiの演算により、発電機出力電流IGiが制限されることから、t1点以後は発電機出力を増加させることができなくなる。
また、t1点で発電機出力が上限に達したことを、発電機出力表示灯29(PGL:図4参照)を点灯させて制限動作に至ったことを知らせるとともに、演算部32-6のΔPG=0となる条件によって図7の演算部32−8(図4,図8も参照)の演算を開始させる。また、ΔPG=0となる条件によって図7の信号切替部(速度設定信号切替部)32−17を、回転速度設定値Nsを指令値とする信号から演算値Nsiを指令値とする信号へと切替える。
【0040】
電池充電電力設定値PBsをt 1:12点からさらに増加させると、図7の演算部32-8(図4,図8も参照)では8)式PMsi=PGs−PBs−PAXiの演算により、推進電動機に供給可能な電力PMsiが算出され、算出されたPMsiから求まる推進電動機回転速度Nsi=K×3√PMsiを回転速度指令として、図7のh点から突合せ点であるI点に入力し、回転速度検出信号Niによるフィードバック制御を行なう。
【0041】
すなわち、電池充電電力設定値PBsをt1:12点からさらに増加させると、推進電動機電力PMiをt1点=13点からt2=23点(PMi=0)に向かって低下させ、その結果得られる電力を電池充電電力に充当する。
t2に達すると推進電動機回転速度=0=23点、補機電力24点、発電機出力は上限21点であるから、もはや電池充電電力を22点の電力値より増加させることはできなくなる。このとき、電池充電電流制限表示灯30(PLBL:図4参照)を点灯させて充電電流が上限に達したことを知らせる。
【0042】
当然、演算部32−5(図4,図8参照)の5)式IGL=PGs÷VGiにより、発電機出力電流は制限されるから、図7の電池電力設定器23(VRPB)(図4,図8も参照)を操作しても充電電力を増加させることはできない。t2〜t3期間の発電機は、発電機上限出力によって電池と補機へ電力を供給する運転となる。
充電電力をt3点から低下させれば、推進電動機への電力供給が可能になって推進電動機は運転を再開し、さらに、t4点以後の負荷状態になれば、元の充電、元の推進電動機運転に復帰する。
【0043】
3−3.電動機優先モード
『電動機優先』モードは、システム負荷が増加したときに推進電動機電力の供給を優先させる運転モードであり、図9Bにその動作パターンを示す。
図8の推進電動機の回転速度設定器28(VRNM)(図4,図7も参照)の設定値Nsを増加させると、図9Bに示す電動機優先モードの動作パターンのt0:03点から、推進電動機電力PMiは増加してt1:13点に至る。
【0044】
t1:11点は、発電機実出力PGi=PBsi+PMi+PAXiが、図8の発電機出力上限設定器26(VRPG)(図4,図7も参照)で設定される上限値PGsと一致する点であり、図8の演算部32−6(図4,図7も参照)の6)式ΔPG=PGs−PGiはΔPG=0になって、推進電動機回転速度をさらに上昇させることができなくなる。そのため、電池充電電力PBiを低減させて得た電力を、増加する推進電動機電力へ充当するように制御する。
【0045】
図8の演算部32−6(図4,図7も参照)の6)式で、ΔPG=PGs−PGi=0の条件が成立すると、図8の演算部32−7(図4,図7も参照)は演算を開始する。演算部32−7は、7)式PBsi=PGs−PMi−PAXiの演算によって、電池に供給可能な充電電力PBsiを算出する。また、ΔPG=0の条件によって、図8の信号切替部32−14(図7も参照)をPBs信号からPBsi信号へと切替える。信号PBsiは図8のd点を経て信号PBsiAとなり、図8の信号時間設定部32−15(図7も参照)を通過させて信号PBsiBを得る。さらにこの信号を図8の突合せe点へ入力し、図8の演算部32−2(図4,図7も参照)で演算した実充電電力値(充電電力実際値)PBi信号と突合せることで、フィードバック制御が行なわれる。また、発電機出力がt1:11点で上限出力に達したときは表示灯29(PLGL:図4参照)を点灯させ、発電機出力が制限に達したことを知らせる。
【0046】
t1から推進電動機回転速度をさらに上昇させると、推進電動機電力PMiは図9Bに示すt1:13点〜t2:23点に向かう。このとき、図8の演算部32−7(図4,図7も参照)の7)式PBsi=PGs−PMi−PAXiで演算された充電電力PBsiによって、減少させた充電電力分を推進電動機に充当する。そして、t2:23点に至ると電池充電電力PBsi=0であるから、もはや充当できる推進電動機電力を得ることができなくなる。
また、発電機出力は図8の演算部32−5(図4も参照)の5)式IGL=PGs÷VGiによる発電機出力電流IGLで制限されるから、推進電動機の回転速度を増加させることはできなくなる。このとき、電動機回転速度制限表示灯31(PML:図4参照)を点灯させて回転速度が上限に達したことを知らせる。
【0047】
さらに、図8の演算部32−7(図4,図7も参照)の演算がPBsi=0になった信号を図8の回転速度制限部32−16(図7も参照)に与えて、PBsi=0になったときの回転速度を上限値NMLとして回転速度設定信号Nsの制限を行なうので、t2以後に図8の電動機回転速度設定器28(VRNM)(図4,図7も参照)で回転速度を上昇させるよう操作しても、回転速度を上昇させることはできない。
t2〜t3期間は発電機上限出力状態であるから推進電動機と補機へ電力を供給し電池充電電力は0で運転される。
【0048】
t3から推進電動機の回転速度を低下させれば、低下した推進電動機電力を電池へ充電電力として供給し、電池充電動作が再開して、t4以後は所定の充電、所定の推進電動機回転速度での元の運転状態に復帰する。
以上で説明したように、図4の優先切替スイッチ20(COSM)(図7,図8も参照)を『電池』優先または『電動機』優先モードに切替えて、設定した発電機出力上限以内の電力で目的に適した運転を行なうことが可能となる。
【0049】
以上の動作は通常操作における動作であるが、緊急事態の回避のために推進電動機の急加速、または急速停止を行なうことが想定される。
ここで、電気推進システムに用いる発電機は原動機で駆動され、原動機は負荷変動に対して一定回転速度で運転するよう駆動制御される。しかしながら、急速な負荷変動が発生した場合には原動機駆動制御が追従できないという問題が発生する。
【0050】
一方、電気推進システム内における最大負荷は推進電動機であるから、推進電動機を急加速させたときまたは急停止を行なったときには、発電機負荷および原動機負荷は急激に変化する。前者の急加速操作の場合には発電機負荷および原動機負荷が急速に増加するため、駆動制御が追従できない場合には原動機は停止(通称:エンスト)するから、運転に支障を与える。また、後者の急速停止操作の場合には、発電機負荷および原動機負荷が急速に減少するため、駆動制御が追従できないときには原動機の回転速度が急上昇する。
この現象は、アクセルを踏み込んだ状態でギアーをニュートラルにしたときに、エンジン回転速度が急激上昇する自動車エンジンと同じ現象であり、原動機にダメージを与える一因ともなるから、原動機回転速度の急速上昇はできるだけ避けることが望ましい。
【0051】
4.負荷変動時
原動機の負荷応答特性は、使用燃料の相違(例えばガソリン(ガソリンエンジン)と、軽油(ディーゼルエンジン)),点火プラグの有無(ガソリンエンジン(有),ディーゼルエンジン(無))および原動機出力の応答性(小型原動機は応答が速い、大型原動機は遅い)など、採用する原動機の種類や出力などによって相違する。電気推進システムの原動機にはディーゼルエンジンが多く採用され、上述のように原動機回転速度は一定回転速度になるようにガバナー装置(駆動装置)で制御される。
【0052】
仮に、原動機ガバナー制御の負荷応答時間を、0〜100〜0%/5〜10秒程度と仮定すれば、推進電動機回転速度指令を図7の信号時間設定部32−18によって、上昇・下降の変化時間が5〜10秒程度になるよう設定すれば、原動機ガバナー制御が追従できて原動機停止(通称エンスト)、または、回転速度上昇の発生を防止することができる。
負荷急変の改善方法について、以下に述べる。
【0053】
4−1.推進電動機急加速操作の場合
推進電動機急加速操作の場合は、図7に示すスイッチ32−19(SWN)をONにして、図7の速度信号時間設定部32−18の変化時間を、原動機ガバナー制御が追従できる指令上昇時間(例えば5秒)に変更する。
推進電動機回転速度および推進電動機電力PMiを図9C(電動機優先モードの動作パターン)のt0:03点からt2:23点へ(例えば5秒で)急速変化させると、発電機出力はt1(推進電動機電力PMiが13点の電力値である時点)で制限値:11点に達する。また、t0:03点〜t2:23点の回転速度指令変化による推進電動機負荷の変動に原動機駆動が追従できれば、原動機回転速度は一定に保たれて原動機停止(エンスト)の発生はない。
なお、t1:11点〜t2:21点の期間は発電機が出力制限動作状態であるから、発電機および原動機の負荷変動は発生しない。
【0054】
4−2.推進電動機急停止操作の場合
推進電動機を急速停止させる場合の、原動機回転速度が急上昇するという問題を軽減させるための制御条件を列記すると、以下のようになる。
ア)図7に示す充電切替スイッチ19(COSB)(図4,図8も参照)で『定電力』を選択する。
イ)図7に示す優先切替スイッチ20(COSM)(図4,図8も参照)で『電動機』優先モードを選択する。
ウ)図7に示す推進電動機速度信号時間設定部32−18の変化時間を、原動機ガバナー応答時間に整合した時間設定とする。例えば、原動機応答時間が5秒であれば、余裕をみて上記変化時間を5〜10秒程度に設定する。
エ)急減速または急停止操作を行なう場合は、図7に示すスイッチ32‐19(SWN)をONさせて、図7の速度信号時間設定部32−18を短時間に設定変更する。また、電動機の負荷低下変動分を一旦電池充電電力に転化(充当)させ、原動機の負荷変動を緩和させる。
【0055】
オ)浮動動作のときは、前記エ)項と同様、電動機の負荷低下変動分を一旦電池充電電力に転化(充当)させ、原動機の負荷変動を緩和させる。
カ)原動機を停止させる場合は、原動機停止動作に追従して発電機を停止させる。
要するに、電気推進システムにおける推進電動機の負荷が急減したときには、負荷の急激な減少分を一旦電池充電電力に転化させ、原動機の負荷変動を緩和させることによって、原動機ガバナー制御が追従できるようにし、原動機の回転速度が上昇するのを防止する。
【0056】
以下に、具体的に説明する。
推進電動機を急速停止させるときは、図7に示すスイッチ32−19(SWN)をONにして、図7の速度信号時間設定部32−18の変化時間を例えば5秒から約0秒に変更する。ここで、緊急停止操作を考慮して速度指令を約0秒で停止(すなわち速度0)に設定することも考慮する。
いま、図9Cのt3:33点〜t4:43点で推進電動機速度指令を約0秒で速度0として急速停止させると、推進電動機回転速度は回生制動を伴ってt3:33点からt4:43点に減速して停止する。
【0057】
このとき、推進電電動機電力PMiは33点の電力値から43点の0へ短時間で減少するから、発電機負荷および原動機負荷も31点から41点に急激に減少する。ここで、電池充電電力PBs=PBiが大きいときには、電池充電電力は32点の0から42点の電力値に復帰し、また、発電機負荷および原動機負荷は31点の電力値から〜41点の電力値へと移行し、負荷変動幅は小さい。
しかし、電池充電電力PBs=PBiが小さいときには、31点〜41点の変化量は大きくなるので、この運転状態で機推進電動機の急速停止を行えば31点〜41点の負荷変動幅が大きくなって発電機および原動機に大きな負荷変動を与えることになる。
この大きな負荷変動を緩和させる制御方法について、以下に説明する。
【0058】
図7,図8に示す回転速度状態検出部32−9(図4も参照)は、回転速度設定値Nsと実回転速度Niとの回転速度差ΔNi=Ni−Nsを演算し、回転速度差判別基準値αとの比較演算処理を行なう。ここで、回転速度差判別基準値αは、例えばα=5%〜10%回転速度に選ぶ。
推進電動機の回転速度設定値Nsの減速時間が短く、実回転速度Niの減速時間が長いことでNsとNiに差が発生し、ΔNi=Ni−Ns>αとなったとき、回転速度差ΔNiが検出され、回転速度差発生状態になっていると判定される。
【0059】
このとき、推進電動機の回転速度Niは速度設定値Nsに追従し、電力変換装置の回生制動動作によって停止に向かう。
図7に示される速度信号時間設定部32−18の設定時間が長い場合は、推進電動機の実回転速度Niは回転底度指令値Nsに追従して低下するから回転速度差ΔNiは検出されず、急速停止操作を行なったときのみ回転速度差ΔNiが検出される。
【0060】
図7に示される検出部32−9(図4,図8も参照)が回転速度差ΔNiを検出したとき、検出部32−9の信号で図7のスイッチ32−10(図8も参照)を動作させて、図7の模擬電力発生部32−11(図8も参照)および図7の電池充電電力判別部(判別部)32−12(図8も参照)を動作させる。模擬電力発生部32−11からの模擬電力指令PMCiは、スイッチ32−10から信号を受信した時点の、図7の演算部32−3(図4、図8も参照)で演算した実電力PMiを記憶し、原動機ガバナー制御が追従できる時間をかけてt5:53点の0まで減衰させる信号として発生され、判別部(電池充電電力判別部)32−12に与えられる。
【0061】
また、図7の模擬電力発生部32−11(図8も参照)の模擬充電電力指令PBCsは、図9Cのt3:32点の0からt5:52点の電池充電電力PBs=PBiに増加させる信号を発生させて図7の判別部32−12(図8も参照)に与える。判別部32−12は、充電電力設置値PBsと演算部32−2にて演算した実充電電力PBiとを比較して、PBs=PBiになるまで信号PMCi、および信号PBCsを通過させ、信号PBCsは図8の突合せ合せc点(図7も参照)へ、また、信号PMCiは図8の突合せ合せd点に与える。
このときの動作を、図9Cも参照しながらさらに詳細に説明する。
【0062】
t3:33点で推進電動機の急速停止操作を行なうと、(速度信号時間設定部32−18で設定された変化時間が約0秒のとき)回転速度指令信号Nsは33点の速度値から33S点の0へ低下し、また推進電動機の実回転速度Niはt3:33点からt4:43点へと、回生動作を伴いながら減速して停止する。
このとき、推進電動機模擬電力PMCiは、t3:33点の電力値からt5:53点の0に減少させる信号であり、図8の突合せd点に与えられる。
【0063】
また、模擬充電電力PBCsは図8の信号切替部32−14の突合せc点(図7も参照)に与えられ、t3:32点の0からt5:52点の電池充電電力PBs=PBiに増加する信号である。したがって、d点では信号PBCsと信号PMCiとが加算された信号PBsiA=PBCs+PMCiとなり、図8の信号時間設定部32−15(図7も参照)を介して信号PBsiBとなり、図8の突合せe点に与えられる。突合せe点では、充電電力信号PBsiBを設定値として、図8の演算部32−2(図4,図7も参照)で演算した実充電電力PBiとの差が求められ、これがフィードバック制御のための信号として用いられる。
【0064】
すなわち、図9Cのt3で推進電動機の急速停止操作を行なった場合、推進電動機の実負荷はt3:33点〜t4:43点の短時間で0に急減するが、推進電動機電力の急減に対応して、電池充電電力PBs=PBiをt3で32点の0から32C点の電力値(模擬推進電動機電力PMCi)へ増加させ、t3〜t5の期間では、t3:33点の電力値からt5:53点の0に減少する信号(推進電動機模擬電力PMCi)と、t3:32点の0からt5:52点の電力値に向かって増加する信号(模擬充電電力PBCs)とを加算した充電電力信号PBsiBによって電池の充電を行なうので、電池充電電力はt3で32点の0から32C点の電力値に増加し、その後、時間をかけて減少していき、t5:52点においてt0以前の運転状態に復帰する。
【0065】
また、発電機および原動機の負荷は(t3の34点で示される)補機電力PAXiを供給しながら、t3:31点からt5:51点へゆっくりと減少し、原動機ガバナーの追従制御によって原動機回転速度は一定に保たれるので、原動機回転速度は上昇しない。
すなわち、急速停止操作によって急減した推進電動機電力の減少電力分を模擬電力として電池の充電電力に転化(充当)させることにより、発電機負荷および原動機負荷の急減を抑制する制御を行なうようにしている。
【0066】
なお、上記の急速停止操作で発生する推進電動機電力の減少分を、電池の充電電力に転化(充当)して急激な電力変動を吸収させる動作であるから、充電動作によって電池電圧が規定値を超えないようにするため、発電機電圧VGiが図5(b)に示す発電機電圧上限値を超えないように、模擬電力信号PMCiを低下させ、充電電力を低下させる。
この電圧制限動作によって、給電電路電圧の過電圧を防止するので給電電路から給電される機器・装置の安定動作が確保され、電気推進システムの安全が確保される。
また、推進電動機の急停止操作時に対応した上述の制御方式では、推進電動機電力における停止指令直前の電力値からの急減分を『模擬電力』として記憶し、『定電力充電』モードで充電動作中の電池に対し、『模擬電力』の分だけ充電電力を増加させて充電動作を行なうことにより、発電機負荷が急減しないようにすることにより、原動機負荷の急減を緩和させるようにしている。
【0067】
このような推進電動機の急停止操作時に対応した制御方式として、従来の『定電流充電』モードまたは『定電圧充電』モードの場合には、例えば、停止指令直前の受電端電圧(図7,8のM点の電圧(INV入力電圧))または入力電流(図7,8の電流IM(INV入力電流)を記憶し、『定電流充電』の場合は入力電流を充電電流に加算し、『定電圧充電』の場合は記憶した受電端電圧で発電機電圧を固定する制御方式が考えられる。しかしながら、このような制御方式では、その動作中(定電流充電,定電圧充電の動作中)に推進電力の急減が発生すると、電池電圧が変動し、電池電力(電池充電電力)が変動することになるので、発電機出力電力も変動することになる。すなわち、上記のように、変動する電池電流または電池電圧の一方を基準(固定)とすれば、他の一方は演算値で制御することになるので、制御動作が複雑になり、制御の安定性が損なわれる可能性がある。
この点に関し、この発明では、推進電動機の急停止操作時に推進電動機の減少電力を模擬電力として電池充電電力に充当する制御として、充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部により、模擬電力が充当された充電電力設定値に基づき充電電力実際値自体を制御量(フィードバック量)として充電動作を行なうことができるので、簡単な制御回路で安定性の高い制御を実現できる。
【0068】
5.浮動動作
電池の浮動動作は電池充放電電流を0Aに保持する充電動作で、浮動動作時の電動機優先モードの動作パターンを図9Dに示す。
図4に示す充電切替スイッチ19(COSB)(図7,図8も参照)で『定電力』を選択し、図4の優先切替スイッチ20(COSM)(図7,図8も参照)で『電動機』優先を選択するとともに、図4の電池電力設定器23(VRPB)(図7,図8も参照)のPBsを『0』に設定する。
電池浮動動作では充電電力PBs=0であるから、発電機は推進電動機と補機に電力を供給する。
【0069】
この運転において、補機電力PAXiが略一定であると仮定すれば、発電機および原動機の負荷変動は推進電動機電力の変動に支配される。
推進電動機の電力変動は、前述のように推進電動機の回転速度を低速⇒高速、高速⇒低速に変更したとき、または、停止⇒運転、運転⇒停止としたときに発生する。浮動動作中の発電機および原動機の負荷変動は、上記の4−2項の推進電動機急停止操作の場合と同様で、推進電動機の緊急停止操作による場合が最も大きい。
【0070】
通常動作による浮動動作は、図7に示す速度信号時間設定部32−18での設定を緩やかな変化に対応した変化時間としておけば、推進電動機回転速度は緩やかに上昇,減速,運転,停止し、推進電動機の負荷はゆっくり変化するので、原動機ガバナー制御の追従によって一定回転速度に保たれる。
しかし、推進電動機を急速停止させたときには推進電動機負荷が短時間で減少し、原動機駆動制御の追従遅れによって、原動機回転速度は急激に上昇することになる。
電動機優先・電池浮動動作時の動作パターンについて、図9Dも参照して説明する。
【0071】
図9Dのt3において推進電動機の急速停止操作を行なうと、推進電動機速度設定信号はt3で33点の速度値から32点の0に変化し、また、推進電動機実回転速度Niに対応する負荷PMiはt3:33点の電力値からt4:42点の0へ短時間で減少し、発電機および原動機の負荷はt3:31点からt4:41点へ急激に減少する。この急激な負荷変動に原動機駆動制御が追従できないときは、原動機の回転速度は急激に上昇することになるが、上述の電動機急速停止操作の項で説明したのと同様の制御を行なうことにより、原動機の回転速度を上昇させないようにすることができる。
【0072】
図8に示す演算部32−9(図4,図7も参照)において、回転速度差ΔNi(すなわち、ΔNi=Ni−Ns>αとなった状態)が検出されると図8のスイッチ32−10(図7も参照)を動作させ、図8に示される模擬電力発生部32−11および判別部32−12(図7も参照)を動作させる。
模擬電力発生部32−11はスイッチ32−10が動作した時点の実電力PMiを記憶し、t3:点32Cの電力値からt5:52点の0に減少する模擬電力信号PMCiを出力する。また、浮動動作であることにより、充電電力設定PBs=0、模擬電力発生部32−11の模擬充電電力PBCs=0であるから、模擬電力発生部32−11からはPMCiのみが出力される。
したがって、PBs=0、PBCs=0で、図8の突合せc点(図7も参照)での突合せ演算結果は0であるから、信号PMCiが入力された図8の突合せd点の出力信号PBsiAはPBsiA=PMCiとなり、この信号PBsiA(=PMCi)が図8の信号時間設定部32−15(図7も参照)を介して信号PBsiBとなり、これが充電電力設定値として図8の突合せe点に入力され、図8の演算部32−2(図4,図7も参照)で演算した実充電電力PBiとの差に基づくフィードバック制御が行なわれる。
その動作について、図9Dをさらに参照しながら説明する。
【0073】
すなわち、図9Dのt3において推進電動機の急速停止操作を行なうと、回転速度設定信号はt3で33点の速度値から33S点の0に低下し、また、推進電動機実回転速度Niに対応する電力PMiはt3:33点の電力値からt4:43点の0に低下し、推進電動機が停止する。
この急激な負荷変動を避けるため、t3において図8の模擬電力発生部32−11(図7も参照)で記憶した模擬電力PMCiに基づき、充電電力設定値PBsiB=PMCiとして、充電電力PBiがt3で32点の0から32C点の充電電力値となるように充電電力に転化させ、その後、t5:53点の0へ時間経過とともに減少させる。
【0074】
つまり、模擬電力制御がない場合の発電機および原動機の負荷変動はt3:31点からt4:41点へ急激に減少するが、模擬電力制御によってt3:31点の電力値(32C点の電力値(PMi)+34点の電力値(PAXi))からt5:51点の電力値(PAXi)へと緩やかに減少させることで、原動機回転速度は駆動制御の追従制御によって一定に保つことができるため、原動機回転速度の上昇は発生しない。
なお、この充電動作によって電池電圧が所定値を超える場合は、上記と同様、発電機電圧VGiが図5(b)に示す発電機電圧上限値を超えないように、模擬電力信号PMCiを低下させて充電電力を低下させ、電池電圧および給電電路が過電圧になるのを防止する。
【0075】
6.原動機停止動作
何らかの理由で原動機を停止させるときは、原動機の停止操作および発電機の停止操作を行なう。停止操作としては、2つの方法が考えられる。
A)発電機出力回路に設けた遮断器11(SWG)(図4参照)を、原動機の停止操作より先行させて『断』とした後に原動機の停止操作を行なうか、遮断器『断』と原動機停止を略同時に操作する方法。
B)原動機の停止操作を行なった後に発電機の停止操作を行なう方法。
【0076】
前者のAの方法では、発電機出力回路の遮断器が『断』になった時点で、発電機および原動機の負荷は瞬時に無負荷になる。このため、急激な負荷減少に原動機ガバナー制御が追従できずに、原動機回転速度は一旦上昇してから停止する動作になる。
Bの方法は原動機を停止操作した後に発電機を停止させるもので、原動機に急激な負荷変動は発生しないので、原動機回転速度が一端上昇することもなく、原動機にとって好ましい停止操作方法と言える。
【0077】
B方法による動作パターンを、図11に示す。
いま、発電機制御装置が原動機停止信号Egsを図11のt0点で受信すると、発電機制御装置はt0点で一旦保持した発電機界磁電流IGfを発電機に供給し続ける。一方、原動機は停止操作による原動機燃料カットによって、回転速度は停止に向かって低下する。このときの発電機電圧VGは、発電機駆動用原動機の回転速度negに比例するから(すなわちVG∝neg×IGf)、原動機回転速度の低下とともに低下する。
【0078】
発電機電圧が低下してt1点に達すると、発電機電圧VGiは電池電圧VBより低下してVB>VGiとなるから、発電機出力側に設けられたダイオード整流器8(Di)(図4参照)のブロック作用によって発電機出力電流IGiは0A、すなわち、無負荷になる。当然、t1点で原動機および発電機は無負荷状態になるから、t1点以後のt2点で遮断器11(スイッチSWG) (図4参照)をOFFし、さらにt3点で発電機運転の停止操作を行なえば、ショックレスで原動機を停止させることができる。
なお、発電機回路、給電電路などで短絡事故が発生し、過電流検出によって遮断器11(SWG)が『断』の保護動作を行なった場合には、上記一連の動作は行なわれない。
【0079】
7.応用例
図10は、この発明方式を用いた2系統システム構成の応用基本回路を示す。
2系統システムは2台の電池、2台の発電機、2台の推進電動機、2系統の補機類から構成され、この構成に対応したシステム制御装置32は、2系統の電力演算を行なう共通の電力演算部32−Cと、2つの発電機制御部32−G(1)、32−G(2)と、共通の電動機制御部S2−Mとから構成する。
【0080】
基本動作は上述の動作と同じなので、相違する点のみ以下に説明する。
ア)『定電圧』,『定電流』,『定電力』の各充電動作
2台の電池の充電方式は充電切替スイッチ19(COSB)によって選択するが、2台の電池の特性バラツキ、給電電路インピーダンスの相違などによって、2台の電池の充電電圧,充電電流,充電電力は同じにはならない。よって、2台の電池の検出値が大きい方を基準に制御を行なうこととする。
【0081】
イ)2台の発電機で電力を供給する運転を行なうとき、電池充電電力が小さい運転では推進電動機の運転、停止による発電機および原動機の負荷変動は大きい。
特に、推進電動機の運転状態を高速回転速度の重負荷から低回転速度の軽負荷に変更したときには、発電機負荷および原動機負荷は重負荷から軽負荷に急激に減少する。このとき、2台並列運転の発電機および原動機が軽負荷である状態における原動機ガバナー制御性能による不安定現象の発生が報告されていることから、この不安定現象を回避することが望ましい。
【0082】
参考文献2(特開2008−079357号公報)によれば、原動機で駆動される発電機(原動機駆動型発電機)が複数台接続されたシステムにおいて、負荷に応じて発電機運転台数を変更してシステムの安定運転を確保する方式が提案されている。ここでは、2台の原動機駆動型発電機の並列運転において軽負荷で不安定減少の発生が予測される場合には、2台中の1台を待機状態として発電機1台で電力を供給し、重負荷になったら2台並列運転に復帰する方法が提案されている。
そこで、この発明においても、上記参考文献2に記載の技術を用い、軽負荷が発生した場合には、発電機2台中の一方の発電機電圧を低下させ、各発電機の出力側にそれぞれ設けられた整流器ダイオードのブロックによる無負荷待機状態として、他の発電機1台運転で安定した電力を供給するようにして不安定現象を回避させる。
【0083】
例えば、原動機駆動型発電機の安定した2台並列運転の軽負荷条件が、それぞれ25%(合計50%)であると仮定すれば、図7,8(図4も参照)に示す演算部32−1の発電機出力電力PGiが25%以下になったことを検出して、選択した発電機の電圧を低下させて整流器ダイオードブロック状態として無負荷待機状態にする。
待機状態とする発電機は、図10に示す発電機選択スイッチ26C(CSG)で選択し、例えば、1に切替えた場合は、軽負荷になったときに1号発電機が電圧を低下させ、整流器ダイオードブロックによる無負荷待機状態として、2号発電機1台の運転で電力を供給することとする。
【符号の説明】
【0084】
1…電池(B)、2,10,16,18…電圧検出器、3,9,15,17…電流検出器、4…原動機(DE)、5…発電機(G)、6…発電機励磁装置(EX)、7…励磁コイル、8…整流器(Di)、11…遮断器(SWG)、12…推進電動機(M)、13…速度検出器(TD)、14…電力変換装置(INV)、19,20,24,27…切替スイッチ、21〜23,25,26,28,32−20,32−23…設定器、29〜31…表示灯、32…システム制御装置、32−C…電力演算部、32−G…発電機制御部、32−M…電動機制御部、32−1〜32−8…演算部、32−9…回転速度状態検出部、32−10,32−19…スイッチ、32−11…模擬電力発生部、32−12,32−13…判別部、32−14,32−17…信号切替部、32−15,32−18…信号時間設定部、32−16…回転速度制限部、33…補機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池と、この電池を充電する発電機とからなるハイブリッド接続の電源であって、発電機で電池を充電しながら推進電動機および補機へ電力を供給して運転する電気推進システムにおいて、
充電電力実際値と充電電力設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電力制御部を備え、この充電電力制御部による定電力充電方式の充電動作を実行可能にしたことを特徴とする発電機の制御方式。
【請求項2】
充電電圧実際値を検出する電池電圧検出器と、充電電流実際値を検出する電池電流器検出器と、前記充電電圧実際値と前記充電電流実際値との積を前記充電電力実際値として出力する充電電力演算部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の発電機の制御方式。
【請求項3】
前記充電電圧実際値と充電電圧設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電圧制御部と、前記充電電流実際値と充電電流設定値との偏差が零になるように発電機電圧を調整する充電電流制御部とをさらに備え、前記充電電圧制御部による定電圧充電方式と,前記充電電流制御部による定電流充電方式と,前記充電電力制御部による定電力充電方式との3種類の充電方式の充電動作を選択的に実行可能にしたことを特徴とする請求項2に記載の発電機の制御方式。
【請求項4】
初期充電時から終期充電時までの充電を、充電の進行とともに前記充電電力設定値を段階的に減少させていく多段定電力充電方式で充電することによって充電時間の短縮を図るとともに、発電機容量の増加を抑制することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の発電機の制御方式。
【請求項5】
前記定電力充電方式で選択可能なモードとして電池優先モードと電動機機優先モードとの2つの優先モードを設け、電池優先モードで電池充電電力が増加したときは、発電機出力限度内において推進電動機回転速度を低下させて得た電力を電池充電電力に充当し、また、電動機優先モードで推進電動機電力が増加したときには、発電機出力限度内において前記充電電力設定値の調整により電池充電電力を低減させて得た電力を推進電動機電力に充当するようにしたことを特徴とする請求項3または4に記載の発電機の制御方式。
【請求項6】
前記2つの優先モードを解除する切モードを設け、この切モードでは前記定電圧,定電流および定電力のいずれかの充電方式で電池の充電を可能にしたことを特徴とする請求項5に記載の発電機の制御方式。
【請求項7】
前記推進電動機を停止から運転、または運転から停止とする操作に伴って発生する負荷変動に対し、前記発電機を駆動する発電機駆動用原動機の回転速度を一定に保つ原動機ガバナー装置の制御が追従できるように、推進電動機の回転速度変化時間を設定可能にしたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の発電機の制御方式。
【請求項8】
前記推進電動機の急速停止操作をしたときは、急速停止により発生する推進電動機の減少電力を模擬電力として一時的に電池充電電力に充当し、前記模擬電力が充当された充電電力設定値に基づいて前記充電電力制御部による充電動作を行なうことにより、発電機駆動用原動機に与える急激な負荷変動を抑制し、原動機ガバナー装置の制御が追従できるようにすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の発電機の制御方式。
【請求項9】
前記模擬電力が充当された充電電力設定値に基づいて前記充電電力制御部による充電動作を行なう際に電池電圧が所定値を超えるときは、発電機出力電圧が制限電圧値を超えないように前記充電電力設定値を低下させることを特徴とする請求項8に記載の発電機の制御方式。
【請求項10】
前記発電機駆動用原動機を停止させるに当っては、発電機負荷が無負荷になったことを検出して発電機を停止させ、発電機駆動用原動機の急激な負荷減少を回避させることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つに記載の発電機の制御方式。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図9D】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−50294(P2012−50294A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192234(P2010−192234)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】