説明

皮下埋込ポート構成部品用の成形金型、皮下埋込ポート及びその製造方法

【課題】信頼性に優れた皮下埋込ポートを製造するのに好適な皮下埋込ポート構成部品用の成形金型を提供すること。
【解決手段】本発明の成形金型60は、皮下埋込ポート11の一部をなす底板付ベース30を、インサート成形法により製造するためのものである。成形金型60は、ベース31の底部外面33bを成形するための成形面62を有する第1金型片61と、側壁部34を成形するための成形面72を有する第2金型片71を備える。第2金型片71は、底板41の内側面外周部44に形成された肉薄部45に当接する支持凸部73を有する。支持凸部73は底板41を位置決めして支持する。第1金型片61は、底板41の外側面に当接する部分を有しない。一方、第1金型片61は、底部外面33bを成形するための成形面62にて開口する樹脂材料射出口63を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の皮下に埋め込んだ状態で使用される皮下埋込ポート及びその製造方法、当該製造方法で使用する皮下埋込ポート構成部品用の成形金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者に対して長期間にわたり抗がん剤や栄養剤を投与するための医療機器として、皮下埋込ポートと呼ばれるものが従来からよく知られている。皮下埋込ポートは、血管内に留置したカテーテルに接続されるとともに、患者の胸部等の皮下に埋め込まれた状態で使用される。従来における一般的な皮下埋込ポートは、合成樹脂製のハウジング内に弾性体からなるセプタムを配置した構造を有している。ハウジングは有底カップ形状のベースとそれを覆うカバーとにより構成される。ハウジング内においてセプタムの下方には注液室が区画されている。そして、皮膚を通してセプタムに注射針を差し込み、その先端を注液室に到達させる。この状態で薬剤を導入することにより、カテーテルを介して血管内に薬剤が注入されるようになっている。
【0003】
また、注射針がハウジングの底部を貫通することを防止するために、ハウジングの底部に金属製の底板を設けた皮下埋込ポートが従来提案されている。そして、このような底板は、例えばベースの底部に配置して熱溶着することで固定されるようになっている。また、別の従来技術では、ベースにあらかじめ保持リップを一体形成しておき、底板を配置して保持リップを変形させることで、底板が固定されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
熱溶着や保持リップの変形といった手法のほか、インサート成形法により底板をベースに埋め込んで固定するといった手法も従来提案されている。以下、具体例を挙げて説明する。この手法では、底部外側面を成形するための成形面を有する第1金型片と、側壁部を成形するための成形面を有する第2金型片とを備える成形金型を用いる。まず、第1金型片及び第2金型片を型開きし、この成形金型内に被インサート物である底板を配置して位置決め固定する。この状態で第1金型片及び第2金型片を型締めし、成形空間内に樹脂材料射出口を介して樹脂材料を射出する。その結果、有底カップ形状のベースの底部内側面に底板を設けた構造の底板付ベースを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、インサート成形法により底板付ベースを製造する従来技術には、次のような問題があった。即ち、射出成形時には底板に樹脂材料の圧力が加わるので、底板の位置決め固定が不十分であると、底板が本来あるべき位置からずれてしまう。よって、底板付ベースの信頼性や良品率が低下してしまう。それゆえ従来では、底板をしっかりと位置決め固定するために、例えば成形金型内の複数の位置に支持部を設け、各支持部を底板に当接させている。
【0007】
しかしながら、従来の一般的な底板は、一様な厚さで殆ど凹凸のない単純な形状の平板である。従って、そもそも底板を成形金型内にて支持して位置決め固定することが難しい。よって、このことが底板付ベースの製造を困難なものとする一つの原因になっている。また、複数の支持部を底板に当接させて位置決め固定した場合、各支持部の当接箇所には樹脂材料を供給できないことから、出来上がった底板付ベースが部分的に露出してしまう。ゆえに、支持部の形成の仕方如何によっては、当該露出部分に気体や液体をリークさせる原因となりうるパスウェイが形成されやすくなり、信頼性が低下するおそれがあるという問題があった。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、注射針の貫通防止用の底板がベースに確実に固定されており信頼性に優れた皮下埋込ポート及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の優れた皮下埋込ポートを製造するのに好適な皮下埋込ポート構成部品用の成形金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段1〜5を以下に列挙する。
[1]底部と筒状の側壁部とを含む有底カップ形状である樹脂製のベースと、前記ベースよりも硬質の材料からなり前記ベースの底部内面上に設けられた平板状の底板とにより構成され、皮下埋込ポートの一部をなす底板付ベースを、インサート成形法により製造するための成形金型であって、前記成形金型は、前記ベースの底部外面を成形するための成形面を有する第1金型片と、前記側壁部を成形するための成形面を有する第2金型片とを備え、前記第2金型片は、前記底板の内側面外周部に形成された肉薄部に当接することにより前記底板を位置決めして支持する支持凸部を有し、前記第1金型片は、前記底板の外側面に当接する部分を有しない一方、前記底部外面を成形するための成形面にて開口する樹脂材料射出口を有することを特徴とする皮下埋込ポート構成部品用の成形金型。
【0010】
従って、手段1に記載の発明によると、以下の作用効果を奏する。即ち、第2金型片の有する支持凸部が、底板の内側面外周部に形成された肉薄部に当接する。この当接によって、底板が位置決めされた状態で支持される。第1金型片は、ベースの底部外面を成形するための成形面にて開口する樹脂材料射出口を有している。よって、射出成形時には底板の外側面に対して射出圧力が加わり、底板が自身の外側面から内側面に向かう方向に押さえ付けられる。その結果、第1金型片において底板の外側面に当接する部分を設けなくても、底板が自身の内側面から外側面に向かう方向に移動不能となり、底板が位置決め固定される。また、第1金型片は底板の外側面に当接しないことから、少なくとも底板の外側面に露出部分が形成されることはなく、気体や液体をリークさせる原因となりうるパスウェイの形成が回避される。
【0011】
[2]前記第1金型片は、前記ベースの前記底部外面を成形するための成形面において前記支持凸部よりも底板中心部寄りの位置にて開口する樹脂材料射出口を有することを特徴とする手段1に記載の皮下埋込ポート構成部品用の成形金型。
【0012】
従って、手段2に記載の発明によると、成形面における上記位置に樹脂材料射出口を配置したことで、射出成形時に射出圧力が底板の外側面中心部付近に作用しやすくなる。このため、射出成形時における底板の安定性が増し、底板が位置ずれしにくくなる。
【0013】
[3]前記支持凸部は、前記底板の内側面外周部に形成された環状の肉薄部に当接することにより前記底板を位置決めして支持する環状の支持凸部であることを特徴とする手段1または2に記載の皮下埋込ポート構成部品用の成形金型。
【0014】
従って、手段3に記載の発明によると、環状の支持凸部が底板における環状の肉薄部に当接していることから、底板が自身の外側面から内側面に向かう方向に移動不能となるばかりでなく、その方向に直交する方向にも移動不能となる。つまり、底板がより安定的に位置決め固定される。また、環状の支持凸部は、底板の内側面外周部に形成された環状の肉薄部に当接するものであることから、底板の中心部については相対的に肉厚にすることができる。
【0015】
[4]手段1乃至3のいずれか1項に記載の成形金型を用いるとともに、前記第2金型片の有する前記支持凸部に前記底板を支持させた状態で、前記第1金型片の有する前記樹脂材料射出口から前記底板の外側面に対して直交する方向に樹脂材料を射出することにより、前記底板付ベースを製造するインサート成形工程を含むことを特徴とする皮下埋込ポートの製造方法。
【0016】
従って、手段4に記載の発明によると、成形金型を用いたインサート成形工程を行うことにより、射出成形時に所定方向に射出圧力が加わる。このため、底板が確実に固定された状態で樹脂材料と底板とを一体化させることができる。ゆえに、底板とベースとの境界にリークの原因となりうるパスウェイが形成されにくく、信頼性に優れた皮下埋込ポートを、比較的簡単にかつ確実に得ることできる。
【0017】
[5]底部と筒状の側壁部とを含む有底カップ形状である樹脂製のベースと、前記ベースよりも硬質の材料からなり前記ベースの底部内面上に設けられた平板状の底板とにより構成された底板付ベースを備える皮下埋込ポートであって、前記底板は、底板外周部に形成された肉薄部と、前記肉薄部よりも底板中心部側において前記肉薄部よりも厚く形成された肉厚部とを備え、前記肉厚部の主面が前記側壁部の内側空間にて露出し、前記肉薄部の一部が前記側壁部の側に張り出して埋設されていることを特徴とする皮下埋込ポート。
【0018】
従って、手段5に記載の発明によると、肉薄部の一部が側壁部の側に張り出して埋設されていることから、ベースに対して底板の外周部が食い込んだ状態となっている。このため、底板がベースに確実に固定される。また、肉厚部の主面が側壁部の内側空間にて露出している構造であるため、肉厚部がベース底部のほぼ全域を占めた状態となり、ベース底部が確実に保護される。その結果、注射針の貫通が確実に防止され、信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
従って、請求項1〜3に記載の発明によれば、信頼性に優れた皮下埋込ポートを製造するのに好適な皮下埋込ポート構成部品用の成形金型を提供することができる。また、請求項4に記載の発明によれば、信頼性に優れた皮下埋込ポートを比較的簡単にかつ確実に得ることができる製造方法を提供することができる。また、請求項5に記載の発明によれば、注射針の貫通防止用の底板がベースに確実に固定されており信頼性に優れた皮下埋込ポートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明を具体化した一実施形態の皮下埋込ポートの正面図、(b)はその平面図。
【図2】図1のA−A線における断面図。
【図3】(a)は実施形態の皮下埋込ポートにおける底板の平面図、(b)は底板を厚さ方向に切断したときの断面図、(c)はベースの平面図。
【図4】底板付ベースの断面図。
【図5】底板付ベースの平面図。
【図6】(a)は実施形態における底板付ベースの要部(図2の領域P1)の拡大断面図、(b)は従来例における超音波溶着工程後の状態を示す上記要部の拡大断面図。
【図7】実施形態の成形金型の断面図。
【図8】インサート成形工程において成形空間内に底板を配置した状態を示す断面図。
【図9】インサート成形工程において成形空間内に樹脂材料を射出した状態を示す断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図9に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1、図2等に示されるように、本実施形態の皮下埋込ポート11は、患者に対して長期間にわたり抗がん剤や栄養剤を投与するためのものである。皮下埋込ポート11を構成するハウジング12は、ベース31とカバー21とによって形成されている。ベース31は、ポリプロピレン等のような汎用の合成樹脂を材料とする成形品である。図2に示されるように、ベース31は底部33及び底部33の外周部から上方に延びる側壁部34を備えている。側壁部34の上端は開口している。側壁部34の下端外周部には、フランジが形成されている。フランジの一部には、カテーテル接続部14を内包する筒状の突部36が設けられている。このベース31は、側壁部34の内部に注液室17を区画する凹部32を有しており、全体として有底カップ形状をなしている。
【0023】
一方、カバー21はベース31よりも一回り大きく形成されており、カバー21の上面中央部には円形状の孔部22が形成されている。このカバー21も、ベース31と同様に、ポリプロピレン等のような汎用の合成樹脂を材料として作製された成形品である。カバー21はベース31を上部から覆うようにしてベース31に取り付けられ、超音波溶着により互いに固定されている。なお、本実施形態では、カバー21及びベース31を互いに超音波溶着することにより固定しているが、接着したり嵌合したりすること等により固定してもよい。
【0024】
図2等に示されるように、ハウジング12内には、硬質ゴム等のような弾性体(好ましくはシリコーン樹脂)からなるセプタム13が配置されている。セプタム13は平面視で円形状をなす部材であって、中央部13aが肉厚に形成されかつ上面側に膨出している。セプタム13における外周部13bは、ベース31の側壁部34の上端部と、カバー21の上端裏面側の外周部との間に挟み込まれることで固定されている。セプタム13における肉厚の中央部13aは、カバー21の孔部22を介して外部に突出している。このため、そこに注射針18が挿通可能となっている。なお、このセプタム13は注液室17から薬剤が漏れないように注液室17を封鎖している。
【0025】
カバー21の外周部における所定箇所は凹状に形成されていて、その部分にはカテーテル接続部14が配設されている。カテーテル接続部14はベース31の側壁部34を貫通するとともに、ベース31の外部領域と凹部32とを連通させている。カテーテル16の接続端側には、合成樹脂製のカテーテル固定具15が設けられている。そして、カテーテル接続部14にカテーテル16を挿入した状態でカテーテル固定具15を嵌合または螺着してカテーテル接続部14に取り付ける。この取り付けにより、カテーテル16がカテーテル接続部14に確実に固定されるようになっている。
【0026】
次に、本実施形態の皮下埋込ポート11における底板固定構造について説明する。
【0027】
図3(a)、(b)に示されるように、この皮下埋込ポート11は底板41を備えている。本実施形態の底板41は、ベース31、カバー21及びセプタム13よりも硬質の金属(具体的にはチタンまたはチタン合金)製の部材である。この底板41は平面視で円形かつ平板状である。この底板41は、底板外周部44に形成された環状の肉薄部45と、肉薄部45よりも底板中心部側において肉薄部45よりも厚く形成された肉厚部46とを備えている。肉薄部45は内側面外周部を環状に切り欠いて段差状にしたような形状を呈している。図6(a)に示されるように、本実施形態のものでは、肉厚部46の肉厚T2が0.6mm、肉薄部45の肉厚T1が0.3mmであるため、T2はT1の2倍となっている。肉厚部46の主面46aは側壁部34の内側空間(即ち注液室17)にて露出している。一方、肉薄部45の一部は、側壁部34の側に張り出して埋設されている。肉薄部45における残りの部分は、僅かではあるが側壁部34の内側空間にて露出している。
【0028】
また、図3(c)、図5に示されるように、ベース31における凹部32は、平面視で底板41の直径よりも一回り小さい内径の円形状となるように形成されている。そして上記構造の底板41は、ベース31の底部内面33a側に面接触するようにして配置されている。
【0029】
次に、本実施形態の皮下埋込ポート11を製造する方法について述べる。
【0030】
まず、カバー21、セプタム13を準備するとともに、ベース31及び底板41からなる底板付ベース30をそれぞれ準備しておく。底板付ベース30については専用の成形金型60を用いてインサート成形を行うことにより製造する。
【0031】
図7には、本実施形態の底板付ベース30を製造するための成形金型60が示されている。この成形金型60は、第1金型片61と第2金型片71とを備えている。上側に配置される第1金型片61は、ベース31の底部外面33bを成形するための成形面62を有している。下側に配置される第2金型片71は、側壁部34を成形するための成形面72を有している。第2金型片71は、環状に形成された支持凸部73を有している。支持凸部73は、底板41の内側面外周部に形成された肉薄部45において、側壁部34の内側空間に露出している部分に当接可能となっている。なお、支持凸部73は、底板41において肉薄部45と肉厚部46とがなす段差部に当接可能となっていると把握することもできる。本実施形態の支持凸部73の内側領域は、肉厚部46の主面46aとの接触を避けるための逃がし凹部74となっている。
【0032】
第1金型片61は、第2金型片71とは異なり、底板41の外側面に当接する部分を特に有していない。その一方で、第1金型片61は、ベース31の底部外側面を成形するための成形面62にて開口する樹脂材料射出口63を有している。樹脂材料射出口63は供給通路64に連通しており、その供給通路64からは溶融した樹脂材料M1が供給されるようになっている。
【0033】
上記成形金型60を用いたインサート成形では、まず、第1金型片61及び第2金型片71を型開きし、成形空間内に被インサート物である底板41を配置する。具体的には、第2金型片71の有する環状の支持凸部73上に底板41を水平に載置する。このとき、支持凸部73が底板41の内側面外周部に形成された肉薄部45に当接するようにする。この当接により、底板41が自身の外側面から内側面に向かう方向(図7〜図9の下方向)に移動不能となる。そればかりでなく、底板41はその方向に直交する方向(言い換えると底板厚さ方向を基準とした径方向)にも移動不能となる。
【0034】
このような底板41の位置決め固定状態で第1金型片61及び第2金型片71を型締めし、成形空間内に樹脂材料射出口63を介して樹脂材料M1を射出する。樹脂材料射出口63は、底板41の中心に対向配置されているため、射出成形時には底板41の外側面に対して直交する方向(図7〜図9の下方向)に射出圧力が加わる。すると、底板41が自身の外側面から内側面に向かう方向(図7〜図9の下方向)に押さえ付けられる。よって、第1金型片61において底板41の外側面に当接する部分を設けなくても、底板41が自身の内側面から外側面に向かう方向(図7〜図9の上方向)に移動不能となる。その結果、底板41が確実に位置決め固定された状態で、樹脂材料M1と底板41とを一体化させることができ、寸法精度に優れた底板付ベース30を得ることができる。
【0035】
このようなインサート成形工程の後、底板付ベース30とカバー21との間にセプタム13を挟み込むように配置して、超音波溶着工程を実施する。この工程を実施すると、ベース31とカバー21との界面部分に超音波が作用する結果、ベース31とカバー21とが溶着されて一体化してハウジング12となる。ちなみに、図6(b)に従来例における超音波溶着工程後の状態を示す。従来例における底板100は、底板100の外周縁部がベース31の内側面34aに食い込んで埋設された構造にはなっていない。言い換えると、底板100の外周縁部が内側面34aに至っておらず、内側面34aよりも凹部32の中心側に位置している。
【0036】
次に、本実施形態の皮下埋込ポート11の使用方法について簡単に述べる。
まず、留置準備作業として、皮下埋込ポート11及びカテーテル16の留置予定部位の皮膚を広範囲に消毒しておく。次いで、常法により、局所または全身麻酔を施し、カテーテル16を切開法やセルジンガー法等によって目的部位に留置する。そして、注射針18をセプタム13に差し込み、注液室17内にヘパリン加生理食塩液を充填することで、十分にエア抜きを行っておく。続いて皮膚切開し、皮下埋込ポート11の留置予定部位に皮下ポケットを作製する。そして、カテーテル16の接続端を適切な長さに切断して、カテーテル固定具15をカテーテル16に挿通させる。この後、皮下埋込ポート11のカテーテル接続部14にカテーテル16をしっかりと挿入する。そして、カテーテル固定具15を確実に取り付ける。この状態でセプタム13に注射針18を穿刺し、ヘパリン加生理食塩液を注入し、スムーズに流れ、かつ液漏れのないことを確認する。最後に、皮下ポケット内に皮下埋込ポート11を置いて筋膜等に縫合固定し、切開創を縫合する。その結果、カテーテル16及び皮下埋込ポート11の留置作業が完了する。
【0037】
薬剤等の注入は、カテーテル16及び皮下埋込ポート11の留置後1週間程度経過してから行うことができる。まず、皮下埋込ポート11の埋込部周辺の皮膚を十分に消毒する。皮下埋込ポート11の上面中央部、即ちセプタム13がある箇所を狙って経皮的に注射針18を刺し、その先端をハウジング12における注液室17に到達させる。本実施形態の場合、ハウジング12の底部内面33aに硬質な金属製の底板41が配置されている。このことから、注射針18の先端が底板41に突き当たったとしても、底部33を貫通するといった事態を防止することができる。そしてこの状態でヘパリン加生理食塩液を数mL注入し、カテーテル16の存在を確認してから、抗がん剤などの薬剤を血管内に注入する。薬剤の注入が完了した後、ヘパリン加生理食塩液を数mL注入(ヘパリンロック)し、カテーテル16への逆流に注意しながら針を抜く。以上の結果、注入操作が完了する。
【0038】
以上述べたように本実施形態によれば下記の作用効果を奏する。
【0039】
(1)本実施形態の成形金型60では、第2金型片71の有する支持凸部73が、底板41の内側面外周部に形成された肉薄部45に当接する。この当接によって、底板41が位置決めされた状態で支持される。第1金型片61は、ベース31の底部外面33bを成形するための成形面62にて開口する樹脂材料射出口63を有している。よって、射出成形時には底板41の外側面に対して直交する方向に射出圧力が加わり、底板41が自身の外側面から内側面に向かう方向(即ち図9の下方向)に押さえ付けられる。その結果、底板41の外側面に当接する部分を第1金型片61に設けなくても、底板41が自身の内側面から外側面に向かう方向(即ち図9の上方向)に移動不能となり、底板41が位置決め固定される。また、第1金型片61は底板41の外側面に当接しないことから、少なくとも底板41の外側面に露出部分が形成されることはない。よって、気体や液体をリークさせる原因となるパスウェイの形成が回避される。従って、底板41がベース31に確実に固定されており信頼性に優れた皮下埋込ポート11を提供することができる。
【0040】
(2)本実施形態の成形金型60における第1金型片61は、成形面62において支持凸部73よりも底板中心部寄りの位置にて開口する樹脂材料射出口63を有する。従って、成形面62における上記位置に樹脂材料射出口63を配置したことで、射出成形時に射出圧力が底板41の外側面中心部付近に作用しやすくなる。このため、射出成形時における底板41の安定性が増し、底板41が位置ずれしにくくなる。従って、底板41が本来あるべき正しい位置にて固定されるため、底板41の信頼性や良品率が向上する。
【0041】
(3)本実施形態の成形金型60における支持凸部73は、底板41の内側面外周部に形成された環状の肉薄部45に当接することにより底板41を位置決めして支持する環状の支持凸部73である。従って、環状の支持凸部73が底板41における環状の肉薄部45に当接していることから、底板41が自身の外側面から内側面に向かう方向に移動不能となる。そればかりでなく、底板41がその方向に直交する方向にも移動不能となる。つまり、底板41がより安定的に位置決め固定される。また、環状の支持凸部73は、底板41の内側面外周部に形成された環状の肉薄部45に当接するものであることから、底板41の中心部については相対的に肉厚にすることができる。
【0042】
(4)本実施形態の皮下埋込ポート11の製造方法は、上記構成の成形金型60を用いて底板付ベース30を製造するインサート成形工程を含んでいる。従って、インサート成形工程における射出成形時には、所定方向に射出圧力が加わる。このため、底板41が確実に位置決め固定された状態で樹脂材料M1と底板41とを一体化させることができる。ゆえに、底板41とベース31との境界にリークの原因となりうるパスウェイが形成されにくくなる。それゆえ、この製造方法によれば、信頼性に優れた皮下埋込ポート11を比較的簡単にかつ確実に得ることができる。
【0043】
(5)本実施形態の製造方法では、肉薄部45の一部が側壁部34に張り出して埋設されていることから、ベース31に対して底板41の外周部44が食い込んだ状態となっている。このため、底板41がベース31に確実に固定される。また、肉厚部46の主面46aが側壁部34の内側空間にて露出している構造であるため、肉厚部46がベース31の底部33のほぼ全域を占めた状態となり、ベース31の底部33が確実に保護される。その結果、注射針18の貫通が確実に防止され、信頼性が向上する。
【0044】
[別の実施形態]
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0045】
・上記実施形態では、抗がん剤等の薬剤を注入するための皮下埋込ポート11を示したが、例えば栄養剤などを注入するための皮下埋込ポート11であってもよい。
【0046】
・上記実施形態では、ベース31等よりも硬質の材料からなる底板41として金属製の底板を使用したが、これに代えて例えばセラミック製の底板を使用してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、底板41の内側面外周部に環状の肉薄部45を形成し、その環状の肉薄部45に環状の支持凸部73を当接させて位置決めを図っている。これに代えて、例えば底板41の内側面外周部に複数の凹部を形成し、それら凹部に複数の支持凸部を当接(係合)させて位置決めを図ることも可能である。
【符号の説明】
【0048】
11…皮下埋込ポート
30…底板付ベース
31…ベース
33a…(ベースの)底部内面
33b…(ベースの)底部外面
34…側壁部
34a…(側壁部の)内側面
41…底板
45…肉薄部
46…肉厚部
46a…肉厚部の主面
60…(皮下埋込ポート構成部品用の)成形金型
61…第1金型片
62…成形面
63…樹脂材料射出口
71…第2金型片
72…成形面
73…支持凸部
M1…樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と筒状の側壁部とを含む有底カップ形状である樹脂製のベースと、前記ベースよりも硬質の材料からなり前記ベースの底部内面上に設けられた平板状の底板とにより構成され、皮下埋込ポートの一部をなす底板付ベースを、インサート成形法により製造するための成形金型であって、
前記成形金型は、前記ベースの底部外面を成形するための成形面を有する第1金型片と、前記側壁部を成形するための成形面を有する第2金型片とを備え、
前記第2金型片は、前記底板の内側面外周部に形成された肉薄部に当接することにより前記底板を位置決めして支持する支持凸部を有し、
前記第1金型片は、前記底板の外側面に当接する部分を有しない一方、前記底部外面を成形するための成形面にて開口する樹脂材料射出口を有する
ことを特徴とする皮下埋込ポート構成部品用の成形金型。
【請求項2】
前記第1金型片は、前記ベースの底部外面を成形するための成形面において前記支持凸部よりも底板中心部寄りの位置にて開口する樹脂材料射出口を有することを特徴とする請求項1に記載の皮下埋込ポート構成部品用の成形金型。
【請求項3】
前記支持凸部は、前記底板の内側面外周部に形成された環状の肉薄部に当接することにより前記底板を位置決めして支持する環状の支持凸部であることを特徴とする請求項1または2に記載の皮下埋込ポート構成部品用の成形金型。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成形金型を用いるとともに、前記第2金型片の有する前記支持凸部に前記底板を支持させた状態で、前記第1金型片の有する前記樹脂材料射出口から前記底板の外側面に対して直交する方向に樹脂材料を射出することにより、前記底板付ベースを製造するインサート成形工程を含むことを特徴とする皮下埋込ポートの製造方法。
【請求項5】
底部と筒状の側壁部とを含む有底カップ形状である樹脂製のベースと、前記ベースよりも硬質の材料からなり前記ベースの底部内面上に設けられた平板状の底板とにより構成された底板付ベースを備える皮下埋込ポートであって、
前記底板は、底板外周部に形成された肉薄部と、前記肉薄部よりも底板中心部側において前記肉薄部よりも厚く形成された肉厚部とを備え、前記肉厚部の主面が前記側壁部の内側空間にて露出し、前記肉薄部の一部が前記側壁部の側に張り出して埋設されていることを特徴とする皮下埋込ポート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−76250(P2012−76250A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220883(P2010−220883)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000228888)日本コヴィディエン株式会社 (170)
【Fターム(参考)】