説明

皮膚に穏やかな接着剤

電子線及びガンマ線架橋された、シリコーンゲル接着剤が開示される。非官能性及び官能性ポリジオルガノシロキサンのどちらもが使用される。接着剤を形成する方法、及びかかる接着剤を組み込んだ医療品も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願第61/109,211号(2008年10月29日出願)、及び米国仮出願第61/109,213号(2008年10月29日出願)に関する利益を請求する。これらの案件の両方が、参考として本明細書にその全文を組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は皮膚に穏やかな接着剤に関する。特に、シリコーンゲル接着剤と、かかる接着剤の製造方法に関する。かかる方法には、非官能性シリコーンを含む低分子量シリコーンを、電子線又はガンマ線硬化することを含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
簡潔に述べると、一態様では、本開示は放射線硬化されたシリコーンゲルを含む、接着剤を提供する。シリコーンゲルは、架橋されたポリジオルガノシロキサン材料を含む。
【0004】
他の態様では、本開示は、ポリジオルガノシロキサン材料を含む組成物を、ポリジオルガノシロキサン材料を架橋するのに十分な線量の、電子線照射及びガンマ線照射のうちの少なくとも1つに曝露することにより形成される、接着剤を提供する。
【0005】
一部の実施形態では、ポリジオルガノシロキサン材料はポリジメチルシロキサンを含む。一部の実施形態では、ポリジメチルシロキサンは、1種以上のシラノール末端ポリジメチルシロキサン、1種以上の非官能性ポリジメチルシロキサン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。一部の実施形態では、ポリジメチルシロキサンは1種以上の非官能性ポリジメチルシロキサンからなる。
【0006】
一部の実施形態では、接着剤は更にシリケート樹脂粘着付与剤を含む。一部の実施形態では、接着剤は更にポリ(ジメチルシロキサン−オキサミド)直鎖コポリマーを含む。
【0007】
一部の実施形態では、ポリジオルガノシロキサン材料は、25℃において1,000,000mPa・秒以下の動的粘度を有するポリジオルガノシロキサン流体を含む。一部の実施形態では、ポリジオルガノシロキサン材料は、25℃において100,000センチストーク以下の動粘度を有するポリジオルガノシロキサン流体からなる。
【0008】
一部の実施形態では、接着剤は、皮膚剥離接着手順に従って測定されるものとして、2.54センチメートル当たり200グラム以下の、ヒト皮膚からの180度剥離接着力を有する。
【0009】
更に別の態様では、本開示は、医療用基材に接着した、本開示の任意のシリコーン接着剤の層を含む、医療品を提供する。一部の実施形態では、層は20〜200マイクロメートルの厚みを有する。一部の実施形態では、医療用基材は紙、高分子フィルム並びに織布及び不織布のうちのすくなくとも1つを含む。
【0010】
更なる態様では、本開示は医療用基材を生体基材に接着させる方法を提供する。この方法は、本開示に従って接着剤を医療用基材に接着させることと、接着剤を使用して医療用基材を生体基材に接着させることとを含む。一部の実施形態では、生体基材はヒトの皮膚である。
【0011】
本開示の上記の概要は、本発明の各実施形態を説明することを意図したものではない。また、本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、以下の説明に記載する。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、その説明から、また特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本開示の一部の実施形態に従う医療品を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
皮膚に接着させるための、シリコーン感圧接着剤を含む感圧接着剤(PSA)の応用は、当該技術分野において既知であり、多くの例が市販されている。しかしながら、PSAのある特性が、皮膚への接着用途についてのそれらの適用を制限している。例えば、PSAが強すぎる接着力を呈する場合には、PSAを除去する際に皮膚傷害が生じる場合がある。あるいは、接着力を低下させた場合、PSAは、有用とされる十分な保持力に欠く可能性があり、あるいは接着可能なものへの容易な適用をもたらす、室温での粘着力を失い得る。更に、皮膚と比較して相対的に堅く、すなわち柔軟性のないPSAは、典型的には、使用時に患者にかなりの不快感を生じさせる。同様に、皮膚に対して、低い剥離接着力を有する接着剤でさえ、除去時に不快感を生じさせる場合がある(例えば、接着剤が毛を巻き込んだ場合などに)。
【0014】
シリコーンゲル(架橋されたポリジメチルシロキサン(「PDMS」)材料は、誘電性の充填剤に、振動減衰器に、及び瘢痕組織治癒を促進するための医学療法に用いられてきた。軽度に架橋されたシリコーンゲルは、軟らかい、粘着性の弾性材料であり、従来の粘着付与シリコーンPSAと比較すると低い、穏やかな接着強度を有する。典型的にはシリコーンゲルはシリコーンPSAよりも軟らかく、皮膚に接着させた場合の不快感が低減する。相対的に低い接着強度と、穏やかな粘着性との組み合わせが、シリコーンゲルを、皮膚に穏やかな接着剤としての適用に好適なものにする。
【0015】
シリコーンゲル接着剤は、穏やかな除去力を備えた良好な接着を皮膚に提供し、かつ再配置され得る。市販のシリコーンゲル接着剤系の例としては、商標名:Dow Corning MG 7−9850、WACKER 2130、BLUESTAR 4317及び4320、並びにNUSIL 6345及び6350で流通している製品が挙げられる。
【0016】
これらの穏やかな皮膚接着剤は、ヒドロシリル化触媒(例えば白金錯体)の存在下での、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)と水素末端PDMSとの間の追加の硬化反応により形成される。ビニル末端及び水素末端PDMS鎖は、それらの固有の化学的部分に由来して「官能化」シリコーンと呼ばれる。一般的には、かかる官能性シリコーンの個々は反応性ではないが、それらは共に反応性のシリコーン系を形成する。更に、シリケート樹脂(粘着付与剤)と、多数の官能性水素を備えるPDMS(架橋剤)とを、かかるゲルの接着特性を変更するために配合することができる。
【0017】
追加の硬化反応から得られるシリコーンゲル接着剤は、ある程度の量のフリーな(未架橋の)PDMSの流体と、少量の粘着付与樹脂とを含むか、あるいは粘着付与樹脂は含まない、非常に軽度に架橋されたポリジメチルシロキサン(PDMS)のネットワークである。対照的に、粘着付与樹脂は一般的にはシリコーンPSAに高濃度(45〜60pph)で使用される。
【0018】
シリコーン材料の触媒促進性硬化に加えて、有機ペルオキシドの高温分解から形成されるフリーラジカルは、シリコーンPSA配合物を架橋又は硬化できることが既知である。硬化させる化学物質から、腐食性であり、皮膚との接触に望ましくない酸性の残留物が、フィルム中に残されることから、この硬化技術は望ましくない。
【0019】
一般的には、本開示の、架橋されたシロキサンネットワークは官能性又は非官能性シリコーン材料のいずれかから形成することができる。これらのゲル接着剤は、ポリシロキサンネットワークの、非常に低いガラス転移温度(Tg)と弾性率とに由来する、優れたぬれ特性を有する。レオロジー的には、これらのゲルは、結合が生成され、そして結合が破壊される時間スケールで、ほぼ同一の貯蔵弾性率を呈し、剥離により接着剤を剥がすために必要とされる力は、相対的に低い〜中程度である。これにより、除去時に生じる皮膚傷害は、最小限から皆無になる。更に、架橋されたゲルの弾性は、皮膚への装着時に接着剤が毛周囲に流れることを防ぎ、更には例えば除去時の痛みを低減させる。
【0020】
一般的に、シリコーン材料はオイル、流体、ガム、エラストマー、又は樹脂(例えば砕けやすい固体樹脂)であり得る。一般的に、低分子量で低粘度の材料は、流体又はオイルと呼ばれ、それに対しより高分子量でより高粘度の材料はガムと呼ばれるが、これらの用語の間に厳格な区切りが存在するわけではない。エラストマー及び樹脂はガムよりも更に大きい分子量を有し、典型的には流動しない。本明細書で使用するとき、用語「流体」及び「オイル」は、25℃において1,000,000mPa・秒以下(例えば600,000mPa・秒未満)の動的粘度を有する材料を指し、それに対し25℃において1,000,000mPa・秒を超える動的粘度(例えば少なくとも10,000,000mPa・秒)を有する材料は「ガム」と呼ばれる。
【0021】
一般的に、本開示で有用なシリコーン材料は、ポリジオルガノシロキサンであり、すなわち材料はポリシロキサン主鎖を含む。一部の実施形態では、非官能化シリコーン材料は、脂肪族及び/又は芳香族置換基を備えるシロキサン主鎖を説明する以下の式により記載される線状材料であることができる:
【0022】
【化1】

【0023】
式中、R1、R2、R3、及びR4はアルキル基及びアリール基からなる群から独立して選択され、各R5はアルキル基であり、n及びmは整数であり、かつm又はnのうちの少なくとも1つは0ではない。一部の実施形態では、1つ以上のアルキル又はアリール基は、ハロゲン置換基(例えばフッ素)を含有し得る。例えば、一部の実施形態では1つ以上のアルキル基は−CHCHであり得る。
【0024】
一部の実施形態では、R5はメチル基であり、すなわち非官能化ポリジオルガノシロキサン材料はトリメチルシロキシ基末端化されている。一部の実施形態では、R1及びR2はアルキル基であり、nは0であり、すなわち材料はポリ(ジアルキルシロキサン)である。一部の実施形態では、アルキル基はメチル基であり、すなわちポリ(ジメチルシロキサン)(「PDMS」)である。一部の実施形態では、R1はアルキル基であり、R2はアリール基であり、nは0であり、すなわち材料はポリ(アルキルアリールシロキサン)である。一部の実施形態では、R1はメチル基であり、R2はフェニル基であり、すなわち材料はポリ(メチルフェニルシロキサン)である。一部の実施形態では、R1及びR2はアルキル基であり、R3及びR4はアリール基であり、すなわち材料はポリ(ジアルキルジアリールシロキサン)である。一部の実施形態では、R1及びR2はメチル基であり、R3及びR4はフェニル基であり、すなわち材料はポリ(ジメチルジフェニルシロキサン)である。
【0025】
一部の実施形態では、非官能化ポリジオルガノシロキサン材料は分枝状であり得る。例えば、R1、R2、R3、及び/又はR4基のうちの1つ以上はアルキル又はアリール(ハロゲン化アルキル又はアリールを含む)置換基及び末端R5基を備える、直鎖又は分枝鎖のシロキサンであり得る。
【0026】
本明細書で使用するとき、「非官能基」は、炭素、水素、及び一部の実施形態ではハロゲン(例えばフッ素)原子からなるアルキル又はアリール基のいずれかである。本明細書で使用するとき、「非官能化ポリジオルガノシロキサン材料」は、R1、R2、R3、R4及びR5基のうちの1つが非官能基である。
【0027】
一般的に、官能性シリコーン系は、出発物質のポリシロキサン主鎖に結合した固有の反応基(例えば水素、ヒドロキシル、ビニル、アリル又はアクリル基)を含む。本明細書で使用するとき、「官能化ポリジオルガノシロキサン材料」は式2のR基のうちの少なくとも1つが官能基であるものである。
【0028】
【化2】

【0029】
一部の実施形態では、官能性ポリジオルガノシロキサン材料は、少なくとも2つのR基が官能基であるものである。一般的に、式2のR基は独立して選択され得る。一部の実施形態では、少なくとも1つの官能基は水素化物基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ビニル基、エポキシ基、及びアクリレート基からなる群から選択される。
【0030】
官能性R基に加えて、R基は非官能基、例えばハロゲン化(例えばフッ素化)アルキル及びアリール基を含むアルキル又はアリール基であってよい。一部の実施形態では、官能化ポリジオルガノシロキサン材料は分枝状であり得る。例えば1つ以上のR基が、官能性置換基及び/又は非官能性置換基を備える直鎖又は分枝鎖シロキサンであり得る。
【0031】
本開示の皮膚に穏やかな接着剤は、1つ以上のポリジオルガノシロキサン材料(例えばシリコーンオイル又は流体)と所望により適切な粘着付与樹脂とを組み合わせることと、得られる混合物をコーティングすることと、電子線(Eビーム)又はガンマ線照射を使用して硬化させることとにより調製することができる。一般的に、接着剤の配合に有用な任意の既知の添加剤も含めることができる。
【0032】
含める場合には、一般的には任意の既知の粘着付与樹脂を使用でき、例えば一部の実施形態では、シリケート樹脂粘着付与剤を使用できる。いくつかの例示的接着剤組成物においては、複数のシリケート樹脂粘着付与剤を使用して、望ましい性能を得ることができる。
【0033】
好適なシリケート樹脂粘着付与剤としては、以下の構造単位M(すなわち一価のR’SiO1/2単位)、D(すなわち二価のR’SiO2/2単位)、T(すなわち三価のR’SiO3/2単位)、及びQ(すなわち四価のSiO4/2単位)、及びこれらの組み合わせからなる、これらの樹脂が挙げられる。典型的な例示的シリケート樹脂としては、MQシリケート樹脂粘着付与剤、MQDシリケート樹脂粘着付与剤、及びMQTシリケート樹脂粘着付与剤が挙げられる。これらのシリケート樹脂粘着付与剤は一般的に、100〜50,000グラム/モルの範囲の又は500〜15,000グラム/モルの範囲の数平均分子量を有し、かつ一般的に、R’はメチル基である。
【0034】
MQシリケート樹脂粘着付与剤はコポリマー樹脂であり、各M単位はQ単位に結合し、かつ各Q単位は少なくとも1つの他のQ単位に結合している。一部のQ単位は他のQ単位とのみ結合している。しかしながら、一部のQ単位はヒドロキシルラジカルと結合してHOSiO3/2単位(すなわち「TOH」単位)を生じ、それによりシリケート樹脂粘着付与剤のケイ素結合ヒドロキシル含量の一部を占める。
【0035】
シリコン結合ヒドロキシル基(すなわち、シラノール)のMQ樹脂上の濃度は、シリケート樹脂粘着付与剤の重量に基づいて、1.5重量%以下、1.2重量%以下、1.0重量%以下、又は0.8重量%以下まで減らすことができる。これは、例えばヘキサメチルジシラザンをシリケート樹脂粘着付与剤と反応させることによって実現することができる。このような反応は、例えばトリフルオロ酢酸によって触媒してもよい。あるいは、トリメチルクロロシラン又はトリメチルシリルアセトアミドをシリケート樹脂粘着付与剤と反応させてもよく、この場合、触媒は必要ではない。
【0036】
MQDシリコーン樹脂粘着付与剤は、M、Q及びD単位を有するターポリマーである。一部の実施形態では、D単位の一部のメチルR’基はビニル(CH2=CH−)基(「DVi」単位)で置き換えることができる。MQTシリケート樹脂粘着付与剤は、M、Q及びT単位を有するターポリマーである。
【0037】
好適なシリケート樹脂粘着付与剤は、Dow Corning(例えばDC 2−7066)、Momentive Performance Materials(例えばSR545及びSR1000)、及びWacker Chemie AG(例えばBELSIL TMS−803)などの供給元から市販されている。
【0038】
存在する場合、ポリシロキサン材料は粘着付与樹脂であり、コーティング及び硬化の前に、任意の追加の添加剤を任意の各種の既知の手段によって組み合わせることができる。例えば、一部の実施形態では、ミキサー、ブレンダー、ミル、押出成形機などの一般的な装置を使用することにより、様々な構成成分を予混合できる。
【0039】
一部の実施形態では、材料を溶媒に溶解させてコーティングすることができ、硬化させる前に乾燥させることができる。一部の実施形態では、無溶媒の化合とコーティングプロセスを使用できる。一部の実施形態では、無溶媒のコーティングはおおよそ室温において生じる。例えば、一部の実施形態では、材料は100,000センチストークス(cSt)(0.1m/秒)以下の、例えば50,000cSt(0.05m/秒)以下の動粘度を有し得る。しかしながら、一部の実施形態では、押出成形などのホット・メルト・コーティングプロセスを使用することができ、例えば分子量がより大きい材料の粘度が、コーティングのためにより好適な値へと低減される。押出成形機の1つ以上の別個の引き込み口を介して、様々な組み合わせであるいは個別に、様々な構成成分を共に加え、押出成形機でブレンドし(例えば溶融混合し)、押出成形してホット・メルト・コーティングされた構成体を形成できる。
【0040】
どのように形成されたかには関わらず、コーティングされた構成体は放射線硬化される。一部の実施形態では、コーティングは、電子線照射に曝露することにより硬化できる。一部の実施形態では、コーティングは、ガンマ線照射に曝露することにより硬化できる。一部の実施形態では、電子線硬化とガンマ線硬化の組み合わせが使用できる。例えば、一部の実施形態では、コーティングは電子線照射に曝露することにより部分的に硬化できる。続いてこのコーティングをガンマ線照射により更に硬化することができる。
【0041】
電子線及びガンマ線硬化の各種手順は周知である。硬化は専用の装置の使用に基づき、かつ当業者は、専用の装置、形状、及びライン速度、並びに他のよく知られているプロセスパラメータに関して、線量の較正モデルを定義することができる。
【0042】
市販の電子線生成装置が容易に調達できる。本明細書に記載の例については、放射線加工はCB−300型の電子線生成装置(Energy Sciences,Inc.(Wilmington,MA)から入手可能)で実施された。一般的に、支持フィルム(例えばポリエステルテレフタレート支持フィルム)はチャンバを通って延びる。一部の実施形態では、両面にライナ(例えばフルオロシリコーン製剥離ライナ)を備える未硬化の材料(「閉鎖面」)のサンプルを支持フィルムに取り付け、約分20フィート/分(6.1メートル/)の固定速度で搬送することができる。一部の実施形態では、未硬化材料のサンプルには1つのライナを適用することができ、この材料は反対面にはライナを備えない(「開放面」)。一般的に、チャンバを不活化させた状態で(例えば、酸素を含有している室内空気を不活性ガス(例えば窒素)で置き換える)、試料を電子線硬化(特に開放面を硬化する場合)する。
【0043】
未硬化材料は、剥離ライナを通して片面から電子線照射に曝露することができる。単層の接着剤積層型のテープを製造するためには、電子線を1回透過させれば十分な場合がある。より厚いサンプルは、接着剤断面にわたって硬化の勾配を呈する可能性があることから、未硬化材料は両面からの電子線照射に曝露することが望ましい場合がある。
【0044】
市販のガンマ線照射装置としては、多くの場合、医療用途の製品をガンマ線照射で殺菌するために使用する装置が挙げられる。一部の実施形態では、かかる装置を、本開示の、皮膚に穏やかな接着剤を硬化あるいは部分的に硬化させるために使用することができる。一部の実施形態では、このような硬化は、例えばテープ又は創傷ドレッシングなどの半完成品又は最終製品のための滅菌プロセスと同時に生じ得る。
【0045】
一部の実施形態では、本開示の、皮膚に穏やかな接着剤はテープ類、創傷ドレッシング、外科用ドレープ、IV部位ドレッシング(IV site dressings)、義肢、オストミーパウチ又はストーマパウチ、頬パウチ(buccal patch)、又は経皮パッチなどの医療品を形成するのに好適である。一部の実施形態では、接着剤は同様に義歯及びヘアピースを含む他の医療品に関しても有用である。
【0046】
一部の実施形態では、接着剤には、粘着付与剤(例えばMQ樹脂)、充填剤、顔料、接着性を改善するための添加剤、水蒸気透過率を改善するための添加剤、薬剤、化粧剤、天然抽出物、シリコーンワックス、シリコーンポリエーテル、親水性ポリマー及びレオロジー変性剤が挙げられるがこれらに限定されない、任意の各種既知の充填剤及び添加剤を含めることができる。接着性、特にぬれている表面への接着性を改善するために使用される添加剤としては、ポリ(エチレンオキシド)ポリマー、ポリ(プロピレンオキシド)ポリマー及びポリ(エチレンオキシド)とポリ(プロピレンオキシド)とのコポリマー、アクリル酸ポリマー、ヒドロキシエチルセルロースポリマーなどのポリマー、ポリ(エチレンオキシド)とポリジオルガノシロキサンとのコポリマー及びポリ(プロピレンオキシド)とポリジオルガノシロキサンとのコポリマーなどのシリコーンポリエーテルコポリマー並びにこれらのブレンドが挙げられる。
【0047】
一部の実施形態では、本開示の、皮膚に穏やかな接着剤は、医療用基材を生体基材(例えばヒト又は動物)へと接着させるのに好適である。例えば、一部の実施形態では、本開示の、皮膚に穏やかな接着剤は、医療用基材をヒト及び/又は動物の皮膚に接着するために使用できる。
【0048】
代表的な医療用基材としては、高分子材料、プラスチック、天然の高分子材料(例えばコラーゲン、木、コルク、及び皮革)、紙、織布及び不織布、金属、ガラス、セラミックス、及び複合材料が挙げられる。
【0049】
接着層の厚みは、特には制限されない。一部の実施形態では厚みは少なくとも10マイクロメートルであり、一部の実施形態では少なくとも20マイクロメートルである。一部の実施形態では厚みは400マイクロメートル以下であり、一部の実施形態では200マイクロメートル以下である。
【0050】
ヒトの皮膚などの生体基材への剥離接着力は、非常に可変性があることが既知である。皮膚の種類、身体上の位置及び他の要因が結果に影響を与え得る。一般的に、皮膚からの剥離接着力の値の平均は標準偏差が大きくなる傾向がある。一部の実施形態ではヒトの皮膚に関しての平均剥離接着力は200グラム/2.54cm未満であり、一部の実施形態では100グラム/2.54cm未満であり得る。
【0051】
代表的な医療品100を図1に例示する。医療品100は、基材120の第1主表面と関連付けられるシリコーン接着剤130を含む。未記載ではあるが、一部の実施形態では、接着剤130の反対面は剥離ライナによって保護されていてもよい。一部の実施形態では、医療品100は自身で巻きつけるもの(self wound)であり得、接着剤の反対表面(曝露される面)は基材120の非コーティング処理主表面と接触することになる。使用する際には、接着剤の表面が生体基材(例えばヒトの皮膚)に適用され、基材120を生体基材へと接着する。
【実施例】
【0052】
電子線硬化手順
CB−300型の電子線生成装置(Energy Sciences,Inc.(Wilmington,MA)から入手可能)で電子線硬化を実施した。一般的に、支持フィルム(例えばポリエステルテレフタレート支持フィルム)は装置の不活性チャンバを通って延びた。未硬化材料のサンプルを支持フィルムに取り付け、不活性チャンバ中を約20フィート/分(6.1メートル/分)の固定速度で搬送し、電子線照射に曝露した。
【0053】
ガンマ線硬化プロセス
コバルト60(cobolt-60)(Co−60)を含有する一連の中空のステンレス鋼管から構成される、1.5〜3ミリオンキュリー(MCi)の線源強度を用いて、ガンマ線での照射を実施した。一般的には複数サンプルの放射線曝露の途中で、サンプルを照射チャンバから回収し、より均一な曝露を提供するために相対的な位置を反転させた。照射チャンバへとサンプルを搬送し、所望の線量を得るのに必要な時間にわたりガンマ線に曝露した。合計の吸収線量は0.2〜3Mrad(2〜30kGy)であり、照射速度は0.3〜0.5Mrad/時間(3〜5kGy/時間)であった。
【0054】
剥離試験手順
IMass 2000剥離試験機を用いて剥離接着力を測定した。接着剤サンプルを幅0.5インチ(1.3cm)及び長さ5インチ(12.7cm)に細長く裁断した。次いで、得られたテープを、4.5lb(2kg)の硬質ゴムローラーに全部で4回通過させて、清潔なポリプロピレンパネル(Standard Plaque Inc.(Melvindale,MI)から入手)に適用した。試験前に、サンプルを20分にわたって室温(22℃)かつ50%相対湿度で経時処理した。次いでパネルをIMass 2000 Testerの床に搭載し、12インチ/分(30.5cm/分)の速度にて、180℃の角度でテープを引きはがした。結果を0.5インチ(1.27cm)当たりのグラム重量で測定し、g/2.54cmに変換した。
【0055】
粘着性試験手順
6mm直径のポリプロピレン製シリンダープローブを装備したTA−XT Plus Texture Analyzerを用いて粘着性を測定した。接着剤サンプルを幅0.75インチ(1.9cm)及び長さ4インチ(10.2cm)に細長く裁断し、10mm直径の孔(プローブに、この孔を通過させてテープ表面の接着剤に到達させる)を備える真ちゅう板に積層した。試験パラメータは、予備試験:0.5mm/秒、試験速度:1.0mm/秒、予備試験速度:10.0mm/秒、加えた力:100グラム、接触時間:5秒、引いた力:1グラム、引っ張り距離:3mmであった。
【0056】
皮膚剥離接着力手順
4人の男性及び2人の女性の被験者が本試験に参加した。サンプル適用の前に全ての被験者の背中をIVORY石鹸で洗浄した。接着剤サンプルを幅1.0インチ(2.54cm)及び長さ3インチ(7.62cm)に細長く裁断した。各サンプルの長軸がボランティアの脊髄に対して垂直に配向するよう、サンプルを被験者の背中に配置した。サンプル材料の適用順は、各被験者についてランダム化した(すなわち回転させて配置した)。3Mの設計による4.5ポンド(2kg)のローラーを用いてサンプル材料を固定した。サンプルを、12インチ/分(30.5cm/分)の速度にて180度で取り外した。負荷セルにより剥離力をグラム重量単位で測定した。接着剤材料の開始セットを適用し、即座に取り外した(「T−0」)。更なるサンプルセットを適用し、取り外し前の72時間にわたって設置した(「T−72」)。
【0057】
以下の諸実施例で使用される材料を表1に要約する。
【0058】
【表1】

【0059】
(a)動粘度の記載なし。但し、この材料は非常に粘稠なガムである。
【0060】
SPOxの調製。シリコーンポリオキサミド(SPOx)エラストマーを2工程で調製した。第1工程では、25,000グラム/モルの分子量を有るα,ω−ビス(アミノプロピル)ポリジメチルシロキサンジアミンをジエチルオキサラートで保護して、α,ω−オキサミドオキサレートエステル保護前駆体(αはギリシャ文字のアルファであり、ωはギリシャ文字のオメガである)を得た。この工程は米国特許第7,371,464号の調製例1についての一般的な手順に従って完了させた。ジエチルオキサラートをジアミンに対してモル過剰に使用して、α,ω−オキサミドオキサレートエステル保護前駆体を得た。前駆体の混合物の代わりに上記の調製した前駆体のみを使用し、反応時間を4日にしたことを除いて、米国特許第7,371,464号の実施例3の一般的な手順に従い、エチレンジアミンを用いて、前駆体の鎖をシリコーンポリオキサミドエラストマーへと延長させた。前駆体対エチレンジアミンのモル比は1:1であった。材料は、硬度を測定せずにそのまま使用した。
【0061】
実施例1〜12
溶媒系コーティングを、高分子量のシリコーンゴムから調製した。表2Aに示す実施例1〜12の構成成分を総固形分25重量%でトルエンに溶解し、均質な溶液を得た。ナイフコーターを使用して、これらの溶液をSCOTCHPAR PETフィルム(3M Companyの51マイクロメートルポリエチレンテレフタレートフィルム)上にコーティングした。このコーティングを、70℃に維持された乾燥オーブンに10分間にわたって配置することで、トルエンを除去した。実施例1〜12の接着剤の乾燥厚さは51マイクロメートル(2mil)であった。サンプルはSILFLU M50 MD07剥離ライナ(Siliconature,Inc.,Venice,Italyより入手)に積層した。
【0062】
【表2】

【0063】
次いで、表2Bに記載のようにこれらのサンプルに加速電圧が220keV(3.5ジュール)の電子線、又はガンマ線を照射した。剥離接着力及びプローブ粘着特性を測定したが、これらもまた表2Bに報告する。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例13〜16
無溶媒コーティングを、末端シラノール官能性PDMSを含む低分子量シリコーンオイル又は流体から調製した。コーティングは官能性PDMSを含んだが、これらは一般的な市販の反応性シリコーン系では無かった。特に、末端シラノール基と反応性の官能基を有するいずれの材料も含有していない、コーティングは、実施例13〜16に記載の系について化学的な架橋は生じなかった。
【0066】
表3Aに示す実施例13〜16の配合成分をジャーに加え、少なくとも48時間にわたって混合して、均質な溶液を得た。ナイフコーターを使用して、これらの溶液をSCOTCHPAK PETフィルム上にコーティングして、150マイクロメートル(6mil)厚さのフィルムを得た。これらのサンプルに、280keV(4.4ジュール)の加速電圧を用いて電子線照射した。電子線線量及び測定された剥離接着力及びプローブ粘着特性を表3Bに記載する。
【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
実施例17〜21
低分子量シリコーンオイル又は流体から無溶媒コーティングを調製した。これらのコーティングは非官能性PDMSのみを含んだ。表4Aに示す実施例17〜21の配合成分をジャーに加え、少なくとも48時間にわたって混合して、均質な溶液を得た。ナイフコーターを使用して、これらの溶液をSCOTCHPAK PETフィルム上にコーティングして、150マイクロメートル(6mil)厚さのフィルムを得た。これらのサンプルに、280keV(4.4ジュール)の加速電圧を用いて電子線照射した。電子線線量及び測定された剥離接着力及びプローブ粘着特性を表4Bに記載する。
【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
実施例22〜24
表5Aに示す実施例22〜24の配合成分をジャーに加え、少なくとも48時間にわたって混合して、均質な溶液を得た。
【0073】
【表8】

【0074】
これらの溶液を、Hytrel(商標)フィルムに25マイクロメートル(1mil)に加熱積層した、ポリエステル/酢酸セルロース織布からなるフィルム上にコーティングした。ナイフコーターを用いてコーティングを適用し、様々な厚さのフィルムを得たこれらのサンプルに、280keV(4.4ジュール)の加速電圧を用いて電子線照射した。プロピレンパネル及びヒト皮膚からの剥離接着力を試験した。結果を電子線線量を添えて表5Bに記載する。ヒトの皮膚での試験に関連する高い変動性に起因する、皮膚からの剥離についての標準偏差(std.)も記載する。
【0075】
【表9】

【0076】
比較のために、2種類の、市販の医療用接着剤製品を、皮膚に対するT−0とT−72の180度剥離接着力について試験した。MEPITAC軟質シリコーンドレッシングテープ(Molnlycke Health Careから入手可能)は、ヒトの皮膚に対して68(+/−12)グラム/2.54cmのT−0剥離接着力を有し、ヒトの皮膚に対して58(+/−23)グラム/2.54cmのT−72剥離接着力有した。MICROPORE外科テープ(3M Companyから入手可能)は、ヒトの皮膚に対して65(+/−44)グラム/2.54cmのT−0剥離接着力を有し、ヒトの皮膚に対して145(+/−46)グラム/2.54cmのT−72剥離接着力有した。
【0077】
一部の実施形態では、本開示のシリコーンゲル接着剤は特に皮膚への接着に好適である。一般的に本開示の接着剤は皮膚よりも低い表面張力を有することから、この接着剤は素早く広い範囲をぬらす。ゲル接着剤はまた、弱い圧力により広げた場合にも低い変形速度で広がり、かつ強度及び持続時間の観点から所望される程度の接着を提供するような粘弾性特性を有する。
【0078】
接着剤は架橋されたポリジメチルシロキサンであり、それらの特性は、表面の、基材を素早くぬらす能力と、過剰に流動することなく基材に適合するという能力に主に基づく。変形圧力が適用された場合に生じるエネルギー損失は非常に少ない。かかる接着剤の利点は組織を傷つけない除去であり、例えば皮膚をはがしたり、痛みを伴うように毛や皮膚を引っ張るなどしない。他の特性は、接着剤が、接着剤の流動性と上皮細胞への取り付け性を制限する、粘性の低い成分を有するということであり、それゆえ接着剤は同一の皮膚表面又は他の皮膚表面から容易に除去され及び接着され得る。
【0079】
本発明の様々な改良及び変更が、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線硬化されたシリコーンゲルを含む接着剤であって、前記シリコーンゲルが、架橋されたポリジオルガノシロキサン材料を含む、接着剤。
【請求項2】
ポリジオルガノシロキサン材料を含む組成物を、前記ポリジオルガノシロキサン材料を架橋するのに十分な線量の、電子線照射及びガンマ線照射のうちの少なくとも1つに曝露することにより形成される、接着剤。
【請求項3】
ポリジオルガノシロキサン材料がポリジメチルシロキサンを含む、請求項1又は2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記ポリジメチルシロキサンが1種以上のシラノール末端ポリジメチルシロキサン、1種以上の非官能性ポリジメチルシロキサン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項3に記載の接着剤。
【請求項5】
前記ポリジメチルシロキサンが1種以上の非官能性ポリジメチルシロキサンからなる、請求項3に記載の接着剤。
【請求項6】
前記接着剤が更にシリケート樹脂粘着付与剤を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項7】
前記接着剤が更にポリ(ジメチルシロキサン−オキサミド)直鎖コポリマーを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項8】
前記ポリジオルガノシロキサン材料が、25℃において1,000,000mPa・秒以下の動的粘度を有するポリジオルガノシロキサン流体を含む、請求項2〜7のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項9】
前記ポリジオルガノシロキサン材料が、25℃において100,000センチストーク以下の動粘度を有するポリジオルガノシロキサン流体からなる、請求項2〜8のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項10】
前記接着剤が、皮膚剥離接着手順に従って測定されるものとして、2.54センチメートル当たり200グラム以下の、ヒト皮膚からの180度剥離接着力を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項11】
医療用基材に接着した請求項1〜10のいずれか一項に記載の接着剤の層を含む、医療品。
【請求項12】
前記層が20〜200マイクロメートルの厚みを有する、請求項11に記載の医療品。
【請求項13】
前記医療用基材が紙、高分子フィルム並びに織布及び不織布のうちの少なくとも1つを含む、請求項11及び12のいずれか一項に記載の医療品。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の接着剤を医療用基材に接着させることと、前記接着剤を用いて前記医療用基材を生体基材に接着させることとを含む、医療用基材を生体基材に接着させる方法。
【請求項15】
前記生体基材がヒトの皮膚である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−507608(P2012−507608A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534777(P2011−534777)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/062603
【国際公開番号】WO2010/056544
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】