説明

皮膚外用剤及び保湿剤

【課題】 高い保湿効果を発揮する保湿剤、並びに皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】 タチギボウシの抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤並びにタチギボウシの抽出物を有効成分として含有する、保湿剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い保湿効果を発揮する皮膚外用剤並びに保湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚角質層の水分量が、皮膚の健康維持や外観からの様々な刺激からの防御機能に密接に関係し、皮膚の潤い、滑らかさなどの感触に大きな役割を果たしていることが知られている。この角質層の水分保持は通常天然保湿因子(NMF)と皮脂膜によってコントロールされているが、外界からの刺激などで容易にその機能が低下することから、皮膚外用剤に保湿剤を配合することが一般的に行われている。
保湿剤としては、多価アルコール、天然高分子、NMF成分などが一般的に使用されるが、植物からの抽出成分も、角質層の保湿機能を補い、潤いのある肌づくりをし、肌の恒常性維持に有効なことから、広く配合されている。
かかる植物成分としては、フサザクラ科植物(特許文献1)、ナンヨウスギ属植物(特許文献2)など、数多くの植物について、保湿剤としての用途が検討されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−084443号公報
【特許文献2】特開2007−106741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
天然由来成分は、様々な薬理作用や美容効果を有することが知られ、これまでにも数多くの植物や菌類などが皮膚外用剤や飲食品などの分野に幅広く応用されている。しかし、天然由来成分の中には未だその効果が知られていないものも数多く存在し、優れた保湿作用を有する保湿剤の開発が期待されていた。本発明は、このような有効な保湿剤を見出すためになされたものであり、皮膚外用剤に応用が可能な、保湿剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、皮膚外用剤に応用が可能な保湿剤を見出すために、天然に存在する種々の植物について検討を行った。その結果、タチギボウシの抽出物に優れた保湿効果を見出し、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、タチギボウシの抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤並びにタチギボウシの抽出物を有効成分として含有する保湿剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、優れた保湿効果を有する保湿剤並びに皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の原料として用いられる植物であるタチギボウシ(Hosta rectifolia Nakai : Hosta siebordii)は、ユリ科ギボウシ属に属する草本で、北海道から本州、九州に広くに分布する。本発明において、タチギボウシは原体や乾燥物を用いてもよいが、各種溶媒を用いて抽出した抽出物を用いるのが好ましい。抽出には、タチギボウシの茎、葉、花、種子、根、地下茎、果実、芽などのいずれの部位を用いても構わないが、有効性の点からは全草を用いるとよい。抽出の際は、生のまま用いてもよいが、抽出効率を考えると、細切、乾燥、粉砕等の処理を行った後に抽出を行うことが好ましい。抽出は、抽出溶媒に浸漬するか、超臨界流体や亜臨界流体を用いた抽出方法でも行うことができる。抽出効率を上げるため、撹拌や抽出溶媒中でホモジナイズしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、1時間〜14日間程度とするのが適切である。
【0008】
抽出溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール、1、3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、エチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類などの溶媒を用いることができ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。また、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。さらに、水や二酸化炭素、エチレン、プロピレン、エタノール、メタノール、アンモニアなどの1種又は2種以上の超臨界流体や亜臨界流体を用いてもよい。
【0009】
タチギボウシの上記溶媒による抽出物は、そのままでも使用することができるが、濃縮、乾固した物を水や極性溶媒に再度溶解して使用することもでき、これらの生理作用を損なわない範囲で脱色、脱臭、脱塩等の精製処理やカラムクロマトグラフィー等による分画処理を行った後に用いてもよい。タチギボウシの前記抽出物やその処理物及び分画物は、各処理及び分画後に凍結乾燥し、用時に溶媒に溶解して用いることもできる。
【0010】
タチギボウシの抽出物は、優れた保湿作用を有し、タチギボウシの抽出物を有効成分として含有する保湿剤として利用することができる。
【0011】
タチギボウシの抽出物を皮膚外用剤に配合する際の配合量は、皮膚外用剤の種類や使用目的等によって調整することができるが、効果や安定性などの点から、全量に対して0.0001〜50.0質量%が好ましく、より好ましくは、0.001〜25.0質量%である。
【0012】
タチギボウシの抽出物を配合する皮膚外用剤の剤型は任意であり、例えば、ローションなどの可溶化系、クリームや乳液などの乳化系、カラミンローション等の分散系として提供することができる。さらに、噴射剤と共に充填したエアゾール、軟膏剤、粉末、顆粒などの種々の剤型で提供することもできる。
【0013】
なお、タチギボウシの抽出物を配合する皮膚外用剤には、タチギボウシの抽出物の他に、必要に応じて、通常医薬品、医薬部外品、皮膚化粧料、毛髪用化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、防菌防黴剤、アルコール類等を適宜配合することができる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、他の保湿剤、細胞賦活剤、あるいは抗酸化剤との併用も可能である。
【実施例】
【0014】
以下にタチギボウシ抽出物の製造例、各作用を評価するための試験、皮膚外用剤の処方例、使用試験についてさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれによってなんら限定されるものではない。
【0015】
[抽出物1]
タチギボウシの茎、蕾、花、新芽を含む地上部位全草の乾燥粉砕物100gを、2.0kgの熱水で20分間加熱抽出した。抽出上清を濾別したのち、凍結乾燥を行い、抽出物1を得た。
【0016】
[抽出物2]
タチギボウシの茎、蕾、花、新芽を含む地上部位全草の乾燥粉砕物100gを、2.0kgの50容量%エタノール水溶液に、分散させ、撹拌しながら室温にて2時間抽出した。抽出上清を濾別したのち、減圧濃縮後、凍結乾燥を行い、抽出物2を得た。
【0017】
[抽出物3]
タチギボウシの茎、蕾、花、新芽を含む地上部位全草の乾燥粉砕物を耐圧セルに投入し、液化二酸化炭素をポンプで連続的に流し込み、25MPa、5mL/min、40℃の条件下でそのまま二酸化炭素を流し、抽出成分を気液分離器内に集めて抽出物を得た。
【0018】
[保湿効果の測定]
抽出物1若しくは抽出物2の1質量%水溶液を実施例1若しくは実施例2、精製水を比較例とし、保湿効果の測定を行った。保湿効果は、実施例1、2若しくは比較例を前腕部、3×4cm2の範囲に24μLずつ塗布し、塗布前、塗布後30、60、120分の角質水分量を測定した。角質水分量は、SKICON−200(アイ・ビイ・エス株式会社製)を用い、各塗布部位から5ポイントずつの角質水分量を、測定した。5ポイントの測定値の平均値を角質水分量とし、塗布前の角質水分量を1とした相対値で表1に示した。15分後、30分後、60分後、120分後の角質水分量について、比較例と実施例1、比較例と実施例2の間で有意差検定を行い、5%の確率で有意差が認められたものは「*」、1%の確率で有意差が認められたものは「**」として結果を表1にあわせて示した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示した通り、本発明の実施例は、塗布後15分〜120分後まで全て高い保湿効果を示しており、タチギボウシ抽出物が、高い保湿効果を発揮することは明らかである。
【0021】
タチギボウシ抽出物を配合した皮膚外用剤の処方例を示す。
【0022】
[処方例1]乳液
(1)スクワラン 10.0(質量%)
(2)メチルフェニルポリシロキサン 4.0
(3)水素添加パーム核油 0.5
(4)水素添加大豆リン脂質 0.1
(5)モノステアリン酸ポリオキシエチレン
ソルビタン(20E.O.) 1.3
(6)モノステアリン酸ソルビタン 1.0
(7)グリセリン 4.0
(8)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(9)カルボキシビニルポリマー 0.15
(10)精製水 53.85
(11)アルギニン(1質量%水溶液) 20.0
(12)抽出物2 5.0
製法:(1)〜(6)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(7)〜(10)の水相成分を80℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後、冷却を開始し、(11)と(12)を順次加え、均一に混合する。
【0023】
[処方例2]化粧水
(1)エタノール 15.0(質量%)
(2)ポリオキシエチレン(40E.O.)硬化ヒマシ油 0.3
(3)香料 0.1
(4)精製水 78.38
(5)クエン酸 0.02
(6)クエン酸ナトリウム 0.1
(7)グリセリン 1.0
(8)ヒドロキシエチルセルロース 0.1
(9)抽出物1 5.0
製法:(1)に(2)及び(3)を溶解する。溶解後、(4)〜(8)を順次添加した後、十分に攪拌し、(9)を加え、均一に混合する。
【0024】
[処方例3]クリーム
(1)スクワラン 10.0(質量%)
(2)ステアリン酸 2.0
(3)水素添加パーム核油 0.5
(4)水素添加大豆リン脂質 0.1
(5)セタノール 3.6
(6)親油型モノステアリン酸グリセリン 2.0
(7)グリセリン 10.0
(8)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(9)アルギニン(20質量%水溶液) 15.0
(10)精製水 40.7
(11)カルボキシビニルポリマー(1質量%水溶液) 15.0
(12)抽出物2 1.0
製法:(1)〜(6)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(7)〜(10)の水相成分を80℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後、(11)を加え、冷却を開始し、40℃にて(12)を加え、均一に混合する。
【0025】
[処方例4]美容液
(1)精製水 27.45(質量%)
(2)グリセリン 10.0
(3)ショ糖脂肪酸エステル 1.3
(4)カルボキシビニルポリマー(1質量%水溶液) 17.5
(5)アルギン酸ナトリウム(1質量%水溶液) 15.0
(6)モノラウリン酸ポリグリセリル 1.0
(7)マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル 3.0
(8)N-ラウロイル-L-グルタミン酸
ジ(フィトステリル−2−オクチルドデシル) 2.0
(9)硬化パーム油 2.0
(10)スクワラン(オリーブ由来) 1.0
(11)ベヘニルアルコール 0.75
(12)ミツロウ 1.0
(13)ホホバ油 1.0
(14)1、3−ブチレングリコール 10.0
(15)L−アルギニン(10質量%水溶液) 2.0
(16)抽出物2 5.0
製法:(1)〜(6)の水相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。一方、(7)〜(14)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。次いで、上記水相成分に油相成分を添加して予備乳化を行った後、ホモミキサーにて均一に乳化する。乳化終了後に冷却を開始し、50℃にて(15)を加える。さらに40℃まで冷却し、(16)を加え、均一に混合する。
【0026】
[処方例5]水性ジェル
(1)カルボキシビニルポリマー 0.5(質量%)
(2)精製水 86.7
(3)水酸化ナトリウム(10質量%水溶液) 0.5
(4)エタノール 10.0
(5)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(6)香料 0.1
(7)抽出物1 2.0
(8)ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油 0.1
製法:(1)を(2)に加え、均一に攪拌した後、(3)を加える。均一に攪拌した後、(4)に予め溶解した(5)を加える。均一に攪拌した後、予め混合しておいた(6)〜(8)を加え、均一に攪拌混合する。
【0027】
[処方例6]クレンジング料
(1)スクワラン 81.0(質量%)
(2)イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 15.0
(3)精製水 3.0
(4)抽出物3 1.0
製法:(1)と(2)を均一に溶解する。これに、(3)と(4)を順次加え、均一に混合する。
【0028】
[処方例7]洗顔フォーム
(1)ステアリン酸 16.0(質量%)
(2)ミリスチン酸 16.0
(3)親油型モノステアリン酸グリセリン 2.0
(4)グリセリン 20.0
(5)水酸化ナトリウム 7.5
(6)ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 1.0
(7)精製水 36.5
(8)抽出物1 1.0
製法:(1)〜(4)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(5)〜(7)の水相成分を80℃にて加熱溶解し、油相成分と均一に混合撹拌する。冷却を開始し、40℃にて(8)を加え、均一に混合する。
【0029】
[処方例8]メイクアップベースクリーム
(1)スクワラン 10.0(質量%)
(2)セタノール 2.0
(3)グリセリントリ−2−エチルヘキサン酸エステル 2.5
(4)親油型モノステアリン酸グリセリル 1.0
(5)プロピレングリコール 11.0
(6)ショ糖脂肪酸エステル 1.3
(7)精製水 69.4
(8)酸化チタン 1.0
(9)ベンガラ 0.1
(10)黄酸化鉄 0.4
(11)香料 0.1
(12)抽出物2 1.2
製法:(1)〜(4)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。一方、(5)〜(7)の水相成分を混合し、75℃にて加熱溶解し、これに(8)〜(10)の顔料を加え、ホモミキサーにて均一に分散させる。この水相成分に前記油相成分を加え、ホモミキサーにて乳化する。乳化終了後に冷却を開始し、40℃にて(11)と(12)の成分を加え、均一に混合する。
【0030】
[処方例9]乳液状ファンデーション
(1)メチルポリシロキサン 2.0(質量%)
(2)スクワラン 5.0
(3)ミリスチン酸オクチルドデシル 5.0
(4)セタノール 1.0
(5)ポリオキシエチレン(20E.O.)
ソルビタンモノステアリン酸エステル 1.3
(6)モノステアリン酸ソルビタン 0.7
(7)1、3−ブチレングリコール 8.0
(8)キサンタンガム 0.1
(9)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(10)精製水 57.4
(11)酸化チタン 9.0
(12)タルク 7.4
(13)ベンガラ 0.5
(14)黄酸化鉄 1.1
(15)黒酸化鉄 0.1
(16)香料 0.1
(17)抽出物1 1.0
製法:(1)〜(6)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。一方、(7)〜(10)の水相成分を混合し、75℃にて加熱溶解し、これに(11)〜(15)の顔料を加え、ホモミキサーにて均一に分散する。油相成分を加え、乳化を行う。乳化終了後に冷却を開始し、40℃にて(16)と(17)の成分を順次加え、均一に混合する。
【0031】
[処方例10]油中水型エモリエントクリーム
(1)流動パラフィン 30.0(質量%)
(2)マイクロクリスタリンワックス 2.0
(3)ワセリン 5.0
(4)ジグリセリンオレイン酸エステル 5.0
(5)塩化ナトリウム 1.3
(6)塩化カリウム 0.1
(7)プロピレングリコール 3.0
(8)1、3−ブチレングリコール 5.0
(9)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(10)抽出物2 1.0
(11)精製水 47.4
(12)香料 0.1
製法:(5)と(6)を(11)の一部に溶解して50℃とし、50℃に加熱した(4)に撹拌しながら徐々に加える。これを混合した後、70℃にて加熱溶解した(1)〜(3)に均一に分散する。これに(7)〜(10)を(11)の残部に70℃にて加熱溶解したものを撹拌しながら加え、ホモミキサーにて乳化する。乳化終了後に冷却を開始し、40℃にて(12)を加え、均一に混合する。
【0032】
[処方例11]パック
(1)精製水 58.9(質量%)
(2)ポリビニルアルコール 12.0
(3)エタノール 17.0
(4)グリセリン 5.0
(5)ポリエチレングリコール(平均分子量1000) 2.0
(6)抽出物1 5.0
(7)香料 0.1
製法:(2)と(3)を混合し、80℃に加温した後、80℃に加温した(1)に溶解する。均一に溶解した後、(4)と(5)を加え、攪拌しながら冷却を開始する。40℃まで冷却し、(6)と(7)を加え、均一に混合する。
【0033】
[処方例12]入浴剤
(1)香料 0.3(質量%)
(2)抽出物1 1.0
(3)炭酸水素ナトリウム 50.0
(4)硫酸ナトリウム 48.7
製法:(1)〜(4)を均一に混合する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タチギボウシ抽出物を含有する、皮膚外用剤。
【請求項2】
タチギボウシ抽出物を有効成分とする、保湿剤。

【公開番号】特開2009−57309(P2009−57309A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225212(P2007−225212)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】