説明

皮膚外用剤

【課題】皮膚内に存在する幹細胞の優れた増殖効果や線維芽細胞や角化細胞への分化誘導促進効果を持つ素材を含有することを特徴とし、肌荒れやシワを改善し、加齢などに伴う皮膚の損傷を総合的に改善できる皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】セイヨウミザクラ種子の抽出物、紫麦種子の抽出物及びハンタイカイ種子の抽出物に、それぞれ優れた幹細胞の増殖促進効果、線維芽細胞への分化誘導促進効果及び角化細胞への分化誘導促進効果を見出し、これらを含有することを特徴とする皮膚外用剤は肌荒れやシワに対する優れた改善効果を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラ科サクラ属に属するセイヨウミザクラ(学名:Prunus avium L.)の種子の抽出物を含有することを特徴とする皮膚内に存在する幹細胞の増殖促進用外用剤、イネ科オオムギ属に属する紫麦(学名:Hordeum vulgare L.)の種子の抽出物を含有することを特徴とする皮膚内に存在する幹細胞の線維芽細胞への分化誘導促進用外用剤、アオギリ科に属するハンタイカイ(学名:Sterculia scaphigera WALL)の種子の抽出物を含有することを特徴とする皮膚内に存在する幹細胞の角化細胞への分化誘導促進用外用剤及びこれらを含有することを特徴とする皮膚外用剤に関する。

【背景技術】
【0002】
脊椎動物、特に哺乳動物の組織は、傷害もしくは疾患、又は加齢などに伴い細胞・臓器の損傷が起こった場合、再生系が働き、細胞・臓器の損傷を回復しようとする。この作用に、当該組織に備わる幹細胞が大きな役割を果たしている。幹細胞は、あらゆる細胞・臓器に分化する多能性を有しており、この性質により細胞・組織の損傷部を補うことで回復に導くと考えられている。このような幹細胞を応用した、次世代の医療である再生医療に期待が集まっている。

【0003】
哺乳動物における幹細胞研究で最も進んでいる組織は骨髄である。骨髄には生体の造血幹細胞が存在しており、すべての血液細胞再生の源であることが明らかにされた。さらに骨髄には、造血幹細胞とは別に、その他の臓器(例えば、骨、軟骨、筋肉、脂肪など)へ分化可能な幹細胞が包含されていることが報告されている(非特許文献1参照)。
さらに、近年、骨髄以外にも、肝臓、膵臓、脂肪、皮膚など、あらゆる臓器・組織に幹細胞が存在することが明らかにされ、各臓器・組織の再生および恒常性維持を司っていることがわかってきた(非特許文献2〜5参照)。
【非特許文献1】Pittenger M. F., et al., Science,1999,284,143−147
【非特許文献2】Goodell M. F., et al., Nat. Med., 1997,3,1337−1345
【非特許文献3】Zulewski H., et al., Diabetes, 2001,50,521−533
【非特許文献4】Suzuki A., et al., Hepatology, 2000,32,1230−1239
【非特許文献5】Zuk P. A., et al., Tissue Engineering, 2001,7,211−228
【0004】
幹細胞の存在する器官の中でも、皮膚は、紫外線などの刺激に日常的にさらされており、損傷が顕著に見られる器官である。

【0005】
皮膚内における幹細胞は、表皮及び真皮に存在していると考えられており(非特許文献6,7参照)、それらは多分化能を示し、皮膚の細胞にも分化可能であると考えられる(非特許文献8参照)。
【非特許文献6】Bickenbach Jr., et al., J. Invest. Dermatol., 1987,88,42−46
【非特許文献7】Chen FG., et al., J. Cell Sci.,2007,120,2875−2883
【非特許文献8】Fuchs E., et al., Dev. Cell, 2001, Jul.1(1),13−25, Review.
【0006】
しかしながら、現状では、幹細胞の有用性及び、皮膚への局在は示されているものの、幹細胞を増殖させ、表皮や真皮の細胞へと分化誘導することによって皮膚の損傷を回復させる素材についての検討はなされていない。

【0007】
また、本発明に用いるセイヨウミザクラ種子、紫麦種子及びハンタイカイ種子は、それぞれ単独で用いた皮膚外用剤は知られているが(特許文献1〜3参照)、組み合わせて用いることにより、効果を高めたものは検討されていない。
【特許文献1】特開平11−315010
【特許文献2】特開2008−143827
【特許文献3】特開2005−194239
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる状況に鑑み、本発明は、皮膚における幹細胞を増殖させ、表皮や真皮の細胞に分化させる効果を持つ素材を提供し、それらを含有し、肌荒れやシワを改善し、皮膚の受ける損傷を総合的に改善することのできる皮膚外用剤を提供することを目的としている。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を行った結果、バラ科サクラ属に属するセイヨウミザクラ種子の抽出物の皮膚内に存在する幹細胞の優れた増殖促進効果、紫麦種子の抽出物の皮膚内に存在する幹細胞の優れた線維芽細胞への分化誘導促進効果及びハンタイカイ種子の抽出物の皮膚内に存在する幹細胞の角化細胞への優れた分化誘導促進効果を見出し、さらに、それらを含有した皮膚外用剤に、肌荒れやシワを改善する効果を確認し、本発明を完成するに至った。

【0010】
本発明は、即ち、以下の通りである。
(1)セイヨウミザクラ種子の抽出物を含有することを特徴とする、皮膚内に存在する幹細胞の増殖促進用外用剤。
(2)紫麦種子の抽出物を含有することを特徴とする、皮膚内に存在する幹細胞の線維芽細胞への分化誘導促進用外用剤。
(3)ハンタイカイ種子の抽出物を含有することを特徴とする、皮膚内に存在する幹細胞の角化細胞への分化誘導促進用外用剤。
(4)これらを含有することを特徴とする皮膚外用剤。

【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。

【0012】
本発明に用いるセイヨウミザクラは、オウトウとも呼ばれ、学名はPrunus avium L.である。主要品種として、アメリカンチェリー、佐藤錦、ナポレオンなどの食用品種が挙げられる。紫麦は、頴、頴果、茎又は葉が紫色の大麦のことを指し、学名はHordeum vulgare L.である。例えば、大麦の品種ではOUC321、CI158、CI244等が挙げられる。ハンタイカイとは、アオギリ科に属する落葉高木で、学名はSterculia scaphigera WALLである。

【0013】
上記植物からの抽出物の調製に際し、種子を含む植物体そのままを用いることも可能であり、花、葉、茎、根、樹皮又は果実などより選択した部位を混合して用いても良い。より好ましくは、種子のみを用いるのが良い。また、抽出には、植物体をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってから抽出を行っても良い。

【0014】
抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコールが良く、特に好ましくは、水が良い。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良い。また、抽出法は特に限定されないが、加熱による抽出が好ましい。さらに上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加してpH調整して用いてもよい。

【0015】
それぞれの種子の抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、稀釈、濾過等の処理及び活性炭等による脱色、脱臭処理をして用いても良い。特に、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いることが好ましい。

【0016】
それぞれの種子の抽出物を溶液の状態で用いる場合の成分含有量は特に限定されないが、乾燥物として0.00001〜10重量%であることが好ましく、0.0001〜1重量%含まれる濃度で使用することが最も好ましい。0.00001重量%未満であると本発明の効果が十分に発揮されにくい場合がある。

【0017】
また、本発明の皮膚外用剤は、効果を損なわない範囲内で、必要に応じ、通常の医薬品、医薬部外品、化粧品などに使用される成分を適宜配合することができる。例えば、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、酸化防止剤、美白剤、キレート剤等の成分を配合することができる。

【0018】
本発明の皮膚外用剤の用途は、特に限定されるものではないが、軟膏、乳剤、ゲル剤、ローション剤、クリーム剤、パップ剤、エアゾール剤、ペースト剤、プラスター剤、洗浄剤等に用いることができる。また、本発明の皮膚外用剤は医薬品、医薬部外品及び化粧品を含むものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を詳細に説明するため、実施例を挙げるが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。

【0020】
以下に、セイヨウミザクラ(ナポレオン)種子、紫麦種子、ハンタイカイ種子を用いた溶媒抽出物の製造例を示す。

【実施例1】
【0021】
製造例1 セイヨウミザクラ(ナポレオン)種子の熱水抽出物
セイヨウミザクラ種子の粉砕物25gに精製水500mLを加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してセイヨウミザクラ種子の熱水抽出物を2.0g得た。

【0022】
製造例2 セイヨウミザクラ(ナポレオン)種子の50%エタノール抽出物
セイヨウミザクラ種子の粉砕物25gに50(v/v)%エタノール500mLを加え、常温で5日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、セイヨウミザクラ種子の50%エタノール抽出物を1.0g得た。

【0023】
製造例3 セイヨウミザクラ(ナポレオン)種子のエタノール抽出物
セイヨウミザクラ種子の粉砕物100gにエタノール1Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、セイヨウミザクラ種子のエタノール抽出物を3.3g得た。

【0024】
製造例4 紫麦種子の熱水抽出物
紫麦種子の粉砕物50gに精製水500mLを加え、95〜100℃で1時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、紫麦種子の熱水抽出物を9.2g得た。

【0025】
製造例5 紫麦種子の50%エタノール抽出物
紫麦種子の粉砕物50gに50(v/v)%エタノール500mLを加え、常温で5日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、紫麦種子の50%エタノール抽出物を3.8g得た。

【0026】
製造例6 紫麦種子のエタノール抽出物
紫麦種子の粉砕物50gにエタノール500mLを加え、常温で5日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、紫麦種子のエタノール抽出物を1.2g得た。

【0027】
製造例7 ハンタイカイ種子の熱水抽出物
ハンタイカイ種子の乾燥物20gに精製水800mLを加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してハンタイカイの熱水抽出物を3.4g得た。

【0028】
製造例8 ハンタイカイ種子の50%エタノール抽出物
ハンタイカイ種子の乾燥物20gに50(v/v)%エタノール400mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ハンタイカイの50%エタノール抽出物を3.7g得た。

【0029】
製造例9 ハンタイカイ種子のエタノール抽出物
ハンタイカイ種子の乾燥物100gにエタノール1Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ハンタイカイのエタノール抽出物を6.7g得た。

【0030】
次に、本発明に用いる種子の抽出物を用いた皮膚外用剤の処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。

【実施例2】
【0031】
処方例1 軟膏
処方 配合量
1.セイヨウミザクラ種子の
50%エタノール抽出物(製造例2) 0.5部
2.紫麦種子の50%エタノール抽出物(製造例5) 0.5
3.ハンタイカイ種子の50%エタノール抽出物(製造例8)0.5
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
5.モノステアリン酸グリセリン 10.0
6.流動パラフィン 5.0
7.セタノール 6.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.プロピレングリコール 10.0
10.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分4〜7を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1〜3及び8〜10を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。

【0032】
比較例1〜4 従来の軟膏
処方例1において、セイヨウミザクラ種子の50%エタノール抽出物のみを含有したものを比較例1、紫麦種子の50%エタノール抽出物のみを含有したものを比較例2、ハンタイカイ種子の50%エタノール抽出物のみを含有したものを比較例3、すべて除いたものを比較例4とした。

【0033】
処方例2 乳剤
処方 配合量
1.セイヨウミザクラ種子の熱水抽出物(製造例1) 0.001部
2.紫麦種子の熱水抽出物(製造例4) 0.001
3.ハンタイカイ種子の熱水抽出物(製造例7) 0.001
4.スクワラン 5.0
5.オリーブ油 5.0
6.ホホバ油 5.0
7.セタノール 1.5
8.モノステアリン酸グリセリン 2.0
9.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
10.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート
(20E.O.) 2.0
11.香料 0.1
12.プロピレングリコール 1.0
13.グリセリン 2.0
14.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
15.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分4〜10を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1〜3及び12〜15を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分11を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。

【0034】
処方例3 ゲル剤
処方 配合量
1.セイヨウミザクラ種子のエタノール抽出物(製造例3) 1.0部
2.紫麦種子のエタノール抽出物(製造例6) 1.0
3.ハンタイカイ種子エキスのエタノール抽出物(製造例9)1.0
4.エタノール 5.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
6.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
7.香料 適量
8.1,3−ブチレングリコール 5.0
9.グリセリン 5.0
10.キサンタンガム 0.1
11.カルボキシビニルポリマー 0.2
12.水酸化カリウム 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分4〜7と、成分1〜3及び8〜13をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。

【0035】
処方例4 ローション剤
処方 配合量
1.セイヨウミザクラ種子の熱水抽出物(製造例1) 0.1部
2.紫麦種子の熱水抽出物(製造例4) 0.1
3.ハンタイカイ種子の熱水抽出物(製造例7) 0.1
4.1,3−ブチレングリコール 8.0
5.グリセリン 2.0
6.キサンタンガム 0.02
7.クエン酸 0.01
8.クエン酸ナトリウム 0.1
9.エタノール 5.0
10.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
11.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
12.香料 適量
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜8及び13と、成分9〜12をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。

【0036】
処方例5 クリーム剤
処方 配合量
1.セイヨウミザクラ種子の
50%エタノール抽出物(製造例2) 0.05部
2.紫麦種子の50%エタノール抽出物(製造例5) 0.05
3.ハンタイカイ種子の50%エタノール抽出物(製造例8)0.05
4.スクワラン 5.5
5.オリーブ油 3.0
6.ステアリン酸 2.0
7.ミツロウ 2.0
8.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
9.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
10.ベヘニルアルコール 1.5
11.モノステアリン酸グリセリン 2.5
12.香料 0.1
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
15.1,3−ブチレングリコール 8.5
16.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分4〜11を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1〜3及び13〜16を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分12を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。

【実施例3】
【0037】
以下に、実施例1で示した製造例1〜3のセイヨウミザクラ種子の抽出物を用いた、幹細胞の増殖促進効果の実験例とその結果を示す。

【0038】
実験例1 幹細胞の増殖促進効果の評価
ヒト幹細胞培養液(TOYOBO社製)を用いて、ヒト体性幹細胞(DSファーマバイオメディカル社製)を6cmディッシュに1x10個播種し、セイヨウミザクラ種子の抽出物(製造例1〜3)を最終濃度が0.001%になるように添加し、3日間培養を続けた。次に細胞をPBS(−)にて3回洗浄した後、ラバーポリスマンにて集め、それぞれの細胞数をカウントした。
抽出物未添加時の総細胞数をコントロールとし、コントロールを100(%)とした場合の、セイヨウミザクラ種子の抽出物(製造例1〜3)添加時の細胞数の増減(%)を算出し、幹細胞の細胞増殖促進効果の評価を行った。
なお、本実験例では、一般的に幹細胞の増殖促進因子として使用されているStem Cell Factor(SCF:幹細胞成長因子)10ng/mL(Pepro Tech社製)を陽性コントロールとして設定し、比較対象とした。

【0039】
これらの試験結果を表1に示した。その結果、セイヨウミザクラ種子の抽出物(製造例1〜3)全てに、顕著な幹細胞の細胞増殖促進効果が認められた。以上より、セイヨウミザクラ種子の抽出物の極めて優れた幹細胞の細胞増殖促進効果を明らかとし、セイヨウミザクラ種子の抽出物の増殖促進効果を確認した。これらセイヨウミザクラ種子の増殖効果は、現在、幹細胞の増殖促進因子として一般的に用いられているSCFに比べても、顕著に高い効果を示した。
なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、胚性の幹細胞(ES細胞)についても同様な試験を行ったところ、顕著な幹細胞の細胞増殖促進効果が認められた。

【0040】
【表1】

【0041】
以下に、実施例1で示した製造例4〜6の紫麦種子の抽出物を用いた、幹細胞の線維芽細胞への分化誘導促進効果を評価し、該抽出物の幹細胞から線維芽細胞への分化誘導促進剤としての性能を確認する実験例とその結果を示す。

【0042】
実験例2 幹細胞の線維芽細胞への分化誘導促進効果の評価
ヒト幹細胞培養液(TOYOBO社製)を用いて培養したヒト体性幹細胞(DSファーマバイオメディカル社製)を96wellプレートに5x10個播種し、紫麦の種子抽出物(製造例4〜6)を最終濃度が0.001%になるように添加して7日間培養を続けた。7日後、幹細胞から線維芽細胞への分化誘導効率について評価した。線維芽細胞への分化誘導効果の指標としては、1型コラーゲンの遺伝子発現(発現が高いほど線維芽細胞へ分化が促進した)を測定した。具体的には、細胞からTaqMan GENE Expression Cells−to−CtTMkit(アプライドバイオシステム社)を用いてmRNAを抽出し、リアルタイムPCRにより1型コラーゲンの遺伝子発現を測定した。
抽出物未添加時のコラーゲン遺伝子の発現をコントロール(100%)とした場合の、紫麦種子の抽出物(製造例4〜6)添加時のコラーゲン発現の増減(%)を算出し、幹細胞から線維芽細胞への分化誘導促進効果の評価を行った。
なお、本実験例では、一般的に線維芽細胞の分化誘導因子として使用されているbasic−Fibroblast Growth Factor(bFGF:線維芽細胞成長因子)10ng/mL(Pepro Tech社製)を陽性コントロールとして設定し、比較対象とした。

【0043】
これらの試験結果を表2に示した。その結果、紫麦種子の抽出物(製造例4〜6)全てに、顕著な線維芽細胞への分化誘導促進効果が認められた。以上より、紫麦種子の抽出物に極めて優れた線維芽細胞への分化誘導促進効果を明らかとし、紫麦種子の抽出物の分化誘導促進剤としての効果を確認した。これら紫麦種子の抽出物の分化誘導促進効果は、現在、線維芽細胞の分化誘導因子として一般的に用いられているbFGFに比べても、顕著に高い効果を示した。
なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、胚性幹細胞(ES細胞)、その他、未分化な状態の細胞(体性幹細胞)についても試験を行ったところ、同様な効果が確認できた。

【0044】
【表2】

【0045】
以下に、実施例1で示した製造例7〜9のハンタイカイの種子抽出物を用いた、幹細胞の角化細胞への分化誘導促進効果を評価し、該抽出物の角化細胞への分化誘導促進剤としての効果について確認した。

【0046】
実験例3 幹細胞の角化細胞への分化誘導促進効果の評価
MCDB153培養液(Sigma社製)に、ITS−Xサプリメント(100倍希釈、GIBCO社製)、ハイドロコルチゾン(0.4ng/mL、Sigma社製)、ペニシリン(100unit/mL、Sigma社製)とストレプトマイシン(100μg/mL、Sigma社製)を加えて調製した培地を用いて、マウス表皮組織から分離した幹細胞を、6cmディッシュに1x10個播種し、各抽出物(製造例7〜9)を最終濃度が0.001%になるように添加し、3日間培養を続けた。次に細胞をPBS(−)にて3回洗浄した後、ラバーポリスマンにて集め、血球計数板にて細胞数をカウントした後、CelLytic(Sigma社製)にてタンパク質を抽出し、角化細胞への分化状態の測定を豊岡らの報告に従って行った(非特許文献9参照)。
すなわち、角化細胞への分化状態を示しているインボルクリンタンパク質の発現量をウエスタンブロッティング法にて定量解析し、これを指標に、幹細胞から角化細胞への分化誘導促進効果を評価した。この場合、ハンタイカイの種子抽出物を添加せずに培養した細胞が発現したインボルクリンタンパク質の量をコントロール(100%)とし、各抽出物(製造例7〜9)を添加して培養した時のインボルクリンタンパク質の発現量を相対値(%)として算出し、コントロールと比較することで、角化細胞への分化誘導促進効果(%)について評価した。なお、本実験例では、一般的に角化細胞の分化誘導因子として使用されているEpidermal Growth Factor(EGF:角化細胞成長因子、非特許文献10参照)10ng/mL(Pepro Tech社製)を陽性コントロールとして設定し、比較対象とした。
【非特許文献9】豊岡 やよい,Molecular Medicinr臨時増刊号 再生医学,2003,106−115
【非特許文献10】Rheinwald.JD et al., Nature,1977,265,421−424
【0047】
これらの試験結果を表3に示した。その結果、ハンタイカイ種子の抽出物(製造例7〜9)全てに、顕著な幹細胞の角化細胞への分化誘導促進効果が認められた。以上より、ハンタイカイ種子の抽出物の極めて優れた幹細胞の角化細胞への分化誘導促進効果を明らかとし、ハンタイカイ種子の抽出物の分化誘導促進剤としての効果を確認した。これらハンタイカイの種子抽出物の分化誘導促進効果は、現在、角化細胞の分化誘導因子として一般的に用いられているEGFに比べても、顕著に高い効果を示した。
なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、胚性幹細胞(ES細胞)、その他、未分化な状態の細胞(体性幹細胞)についても試験を行ったところ、同様な効果が確認できた。

【0048】
【表3】

【0049】
実験例4 臨床試験
処方例1の軟膏を用いて肌荒れやシワが確認される女性25人(40〜60才)を対象に2ヶ月間の臨床試験を行った。25人をランダムに5人ずつ五群に分け、各群において、それぞれ、処方例1又は比較例1〜4の軟膏を使用してもらった。2ヶ月間の使用後、目視にて評価を行い、5(著効)〜0(効果なし)の6段階にスコア化し、各群の比較により評価した。

【0050】
臨床試験の結果を表4に示した。処方例1の軟膏は比較例と比較して、有意に肌荒れやシワに対する改善効果を示した。なお、試験期間中、皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。

【0051】
【表4】

【0052】
処方例2〜5についても同様に臨床試験を行ったところ、いずれも安全で優れた肌荒れやシワに対する改善効果を示した。

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のセイヨウミザクラ種子の抽出物、紫麦種子の抽出物及びハンタイカイ種子の抽出物は、それぞれ皮膚内に存在する幹細胞の優れた増殖促進効果、線維芽細胞への分化誘導促進効果及び角化細胞への分化誘導促進効果を持ち、それらを含有した皮膚外用剤は、肌荒れやシワを改善する効果に優れており、医薬品や医薬部外品、化粧品として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セイヨウミザクラ種子の抽出物を含有することを特徴とする、皮膚内に存在する幹細胞の増殖促進用外用剤。

【請求項2】
紫麦種子の抽出物を含有することを特徴とする、皮膚内に存在する幹細胞の線維芽細胞への分化誘導促進用外用剤。

【請求項3】
ハンタイカイ種子の抽出物を含有することを特徴とする、皮膚内に存在する幹細胞の角化細胞への分化誘導促進用外用剤。

【請求項4】
セイヨウミザクラ種子の抽出物、紫麦種子の抽出物及びハンタイカイ種子の抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。


【公開番号】特開2010−24209(P2010−24209A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190362(P2008−190362)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】