説明

皮膚状態の治療における拡張表面凝集体

本発明は、拡張表面凝集体(ESAs)を、皮膚の刺激、皮膚の炎症及び皮膚の損傷のうちの少なくとも一つを含む哺乳動物の病的な皮膚の状態を治療するのに耐え得る薬剤であって、その局所的な投与後に皮膚の色素沈着の改質及び皮膚のかゆみの治療のうちの少なくとも一方を実施するための薬剤、の製造において使用する方法であって、拡張表面凝集体は、基本的な凝集体系性成分である少なくとも一つの第一の両親媒性成分と、凝集体の物理的応力に対する感受性を低減する少なくとも一つの第二の両親媒性成分と、からなり、同物理的応力は同ESAsが孔を強制的に通過することにより形成される応力を含み、同孔は、通過する前の同ESAsの平均径よりも少なくとも50%小さい平均孔径を備えており、同物理的応力により誘導されるESAの平均径の変化は、第一の凝集体成分のみ又は第二の凝集体成分のみからなる対照系において同応力により誘導される径の変化と比較して10%以上の低減である、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、活性物質、特に薬となり得る物質を、哺乳動物、特にヒトの皮膚に適用することに関する。一態様において、本発明は、刺激、疼痛、痒み、炎症及び/又は皮膚の損傷を含む皮膚の病的状態を治療することに関する。より詳細には、本発明は、そのような皮膚の病的状態を治療するための製剤を製造する上において、特に脂質である両親媒性成分に基づく二重膜を含む拡張表面を備えた凝集体を使用することに関する。
【0002】
別の態様において、本発明は、色素が沈着した皮膚を有する生物、特にヒト及び動物における皮膚の色素沈着を改質するのに適した方法及び製剤に関する。特に、本発明は、皮膚が損傷することなく、インビボにおいて色素の脱色を引き起こすのに適した製剤及び方法に関する。本発明はまた、高色素沈着及び色素細胞増殖に関連した疾病を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
全ての哺乳動物の皮膚を含む皮膚は、人類が知り得る最良の生物学的バリアの一つとなるべく進化してきた。このバリア機能は、必要な物質を身体から排出することを回避することと、不必要な物質が身体へ進入することを回避することの二つのために必要とされている。
【0004】
哺乳動物において、皮膚のこのバリア機能は主として、皮膚の最も外側にある角質層により提供される。
傷のない表皮を介して身体の標的となる位置(例えば、筋肉組織又は器官)に活性物質(例えば薬剤)を送達することができる経皮製剤を見出す多くの試みがこれまでになされてきた。一般的に、そのような従来の試みは満足のゆく効果が得られなかった。
【0005】
高い透過性と高い柔軟性を有する特殊な混合脂質二重層が、狭い、通常は閉じられた孔を打破可能であることが発見されたことにより、経皮療法における画期的な進歩が成し遂げられた。多くの場合は、これらは、(通常は単一の)二重層膜により封入された極端に変形可能なベシクルの形状である。二重層は、例えば、フォスファチジルコリンのような両親媒性物質から形成されて、典型的にはリポソームの形態である。それらの柔軟性は、例えば界面活性剤のような膜を柔軟にする化合物を混合することにより得られる。そのような混合脂質二重層膜を備えたベシクルは、これまでにはその構成分子でさえ貫通することが不可能であった皮膚の通路を貫通することが可能である。これは、これらのベシクルが角質の脂質層における非常に狭い(0.4nm)の細胞内親水性通路をまず開いて約20nmの広さの親水性の孔を形成し、その孔を超変形可能なベシクルが通過することによるものであると仮定されている。
【0006】
この技術は、一連の特許及び特許出願により保護されている。初期の例は、特許文献1である。より最近の例としては、特許文献2がある。この技術を説明する最近の学術論文は非特許文献1である。同文献において、この技術を組み込んだベシクルは多くの場合、本願の出願人により所有されている「トランスファーソーム(transfersome)」なる用語を含む登録商標を使用して示されている。本明細書の状況において、「トランスファーソーム」なる用語は、上記参考文献により記載されており、かつ本願の出願人により市販されている、この技術を組み込んだ超変形可能なベシクルを示すものとして使用されている。より一般的には、高度に変形可能な混合脂質二重膜は、(ベシクルか又はそうでないかに関わらず)「拡張表面凝集体(Extended Surface Aggregates)」又はESA’sと称されている。
【0007】
公開された文献は、薬剤活性を必要とする体内の部分に皮膚を介して同活性物質を輸送するためにトランスファーソームを使用することが記載されている。特に、古いトランスファーソームの文献は、トランスファーソームベシクルが活性成分を(トランスファーソーム材料と結合)保持して皮膚を傷つけることなく浸透し、角質層の(広くなった)孔内に運ばれるのみならず、同孔を介して、ベシクルを破壊することなく(幾らかの平均径の低減は幾らかの場合では観察されるが)、同角質層内を貫通し、かつ同角質層から排出され、その下側の表皮角質層及び真皮を貫通するという事実を主張している。真皮の内部の身体の部分の治療において、標的となる場所へ到達する前に血液循環系により運び去られることを回避することが必要である。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0475160号明細書
【特許文献2】国際出願公開第2004/032900号パンフレット
【非特許文献1】G.Cevc、A.G.Schaetzlein、H.Richardsen及びU.Vierlによる「Overcoming semi permeable barriers,such as the skin,with ultradeformable mixed lipid vesicles,transfersomes,liposomes or mixed lipid micelles」、Langmuir、2003年、第19巻、10753−10763頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、皮膚そのものの治療であって、そのような治療の必要性が存在している皮膚の状態の治療に対して、上記文献(特に特許文献2)に一般的には記載されている混合脂質二重層構造体又は拡張表面凝集体(ESA’s)を使用するという概念に基づくものである。
【0010】
皮膚の病的状態は、必ずしも皮膚の主たる構造を変化させるものではなく、特に、角質のバリア機能を損失するものではない。実際に、本発明が主として着眼している皮膚の病的状態は角質層のバリア機能を基本的には無傷の状態とするものである。
【0011】
そのような皮膚の病的状態の典型的なものには、皮膚の、刺激、疼痛、痒み、炎症及び/又は皮膚の損傷が含まれ、そのような状態は皮膚のバリア機能を同時に損失することはない。従って、皮膚はその自然な状態ではないものの、皮膚バリアは機能している。典型的な例は日焼け及び別の形態の皮膚炎を含む。
【0012】
代替的に、皮膚状態は、治療及び美容の目的に使用される浸食性のレーザ処置のような外側の皮膚細胞層を少なくとも部分的に除去する処置によっても引き起こされている。
皮膚の状態は、化学物質特に皮膚刺激薬にさらすことに起因するであろう。本発明は、例えば接触アレルギーのようなアレルギー治療においてESAを使用することを含む。
【0013】
一般的に、本明細書における治療上の使用の参照は、既に存在している病的状態に対する治療の他に、そのような状態を予防することも含まれると理解されるべきである。
別の態様において、本発明は皮膚の色素沈着を改質することに関する。皮膚の色素沈着における変化は製薬的に活性な物質により誘導され得ることは周知である。
【0014】
皮膚の色素沈着は、例えばメラニン細胞の刺激により増加し、これは、シクロホスファミド、MTX、5−FU、クロファジミン、フェノチアジン、サイアジド、テトラサイクリン、及びまたNSAIDs(即ち、非ステロイド系抗炎症薬)のような薬剤を適用することに起因する。
【0015】
脱色又は色素沈着減少、即ち皮膚における色素濃度の減少は、NSAIDsを含む種々の製薬的に活性な物質により誘導される皮膚の損傷(例えば、薬疹、接触皮膚炎、傷)に起因する。
【0016】
ザイライエ(Zailaie)らによる論文であるSaudi Med J.、2004年11月、25(11)、1656−63頁において、細胞培養におけるインビトロの研究が報告されており、そのような細胞培養において、低濃度のアセチルサリチル酸はメラミン細胞を刺激する一方、非常に高濃度のものはメラミン細胞の壊死を引き起こすことが記載されている。
【0017】
出願人の知見によれば、NSAIDsのような活性物質が、薬物により最初に損傷を受けていない人又は動物の皮膚において、即ちインビボにて色素脱色を誘導することはこれまでには報告されていない。
【0018】
以下に記載されているように、本明細書に記載されているNSAIDsのトランスファーソーム製剤は皮膚を損傷させることなくインビボにおいて強い脱色(又は色素沈着減少)を誘導したことが、臨床試験の状況において認められたことは驚くべきことであった。理論と結び付けられることを望んではいないが、活性物質を角質層から皮膚のより深い層まで(又は層を超えて)輸送する上におけるトランスファーソーム(そして、米国特許出願第10/357617号に記載されているようなその他の両親媒性凝集体)の比類なき効果は、メラニン細胞の機能を損ねるか、或いは同細胞を壊死に至らしめる作用物質の高い局所濃度に同メラニン細胞をさらすことにより得られる、と現在のところ仮定されている。
【0019】
この脱色効果を提供するのに適した製剤としては、上記米国特許出願第10/357617号に記載されているものを含む。
本発明に従う治療方法は、そのような製剤を長期間、必要に応じて数日間、若しくは数週間、治療されるべき皮膚に適用することを含む。
【0020】
本発明は、高色素沈着又はメラニン細胞不全の治療が必要とされる場所において有用である。
本発明の更なる使用可能性は、望ましくない色素沈着の治療におけるものである。製薬的に活性のある物質を適切に選択することにより、製剤中におけるその濃度を選択することにより、そして処置期間を選択することにより、単に美容の必要性に適合するような継続的な通常の色素沈着減少の範囲から、肝斑及び黒色腫の治療まで、非常に異なる効果を達成することが期待できる。適度に高い活性濃度にて、そして適度に長時間処置することにて、処置にさらされたメラニン細胞の壊死(細胞死)が誘導され、それによりメラニン細胞の望ましくない成長が低減されるか、或いは有毒なメラニン細胞集団が実際には完全に除去されることが可能となり、それは例えば黒色腫の治療を提供可能であることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
定義
本発明において、これまでに、又は以下に使用される一般的な用語は以下の意味を有する。
【0022】
「活性物質(active)」なる用語は、製薬的な活性物質又は薬物を意味する。
「凝集体(aggregate)」なる用語は、かなりの数の同じ又は異なる種類の両親媒性物質の群を示す。典型的には、本発明において参照される凝集体は少なくとも100の分子を含み、即ち、凝集体の数n>100を有する。より多くの場合は、凝集体数はn>1000であり、最も好ましくはn>10000である。少なくとも一つの脂質(二重層)膜で包囲された水性コアを含む凝集体は、脂質ベシクル、そして多くの場合はリポソームと称される。
【0023】
凝集体の「適合性(adapability)」なる用語は、本明細書においては、所定の凝集体が、容易にかつ多かれ少なかれ可逆的にその特性(例えば、形状、伸張比、及び表面対容量の比)を変更させる能力として定義されている。適合性はまた、同凝集体が、静水圧のような一方向の応力又は圧力から顕著に断片化されることなく耐え得ることを意味し、「安定した」凝集体を定義するものである。凝集体の形状が容易にかつ可逆的に変化することは更に、凝集体の大きな変形性を意味し、かつ大きな表面対容量比の適合を必要とする。ベシクル凝集体に対して、後者は外側ベシクル容量と内側ベシクル容量との間の材料交換、即ち、少なくとも一時的なベシクルの膜透過性と関連付けられる。従って、所定の凝集体懸濁物が半透膜バリアの狭い孔を通過することにより実験的に決定される能力は、実施例に記載されているように、凝集体の適合性及び変形性(上記)を機能的に試験するための簡単な手段を提供する。
【0024】
凝集体の適合性を評価するために、以下の方法を使用すると有用である。
1)各種の輸送−駆動トランス−バリア圧力,delta pについて、半透膜バリアを通過する凝集体懸濁物の流量jを測定する(例えば、重力測定法にて);
2)測定された各流量値を対応する駆動圧力値で割ることにより、所定の懸濁物に対するバリア貫通性Pの圧力依存を計算する:P(delta p)=j(delta p)/delta p;
3)最終的なベシクル径と最初のベシクル径の比率2rves(delta p)/2rves,0(式中、2rves(delta p)/はdelta pにより駆動された半透膜バリアを通過した後のベシクル径であり、かつ2rves,0は最初のベシクル径である、)をモニタリングし(例えば、動的光散乱により)、必要であれば流量−速度の効果を補正する;
4)両方のデータの組、P(delta p)対rves(delta p)/rves,0を整合して、凝集体の高い適合性及び安定性に対して共通して存在する範囲を決定し、また絶対的に不可欠というものではないが、以下の例示的なスキームに図式的に定義されている必要な圧力値p及び貫通性の最大値Pmaxに関してマックスウェル近似のフレームワーク内で貫通性の実験データをパラメータ化すると有用である。
【0025】
移動する凝集体エネルギー(単数又は複数の変形エネルギー、熱エネルギー、剪断力等)への全ての寄与を単一の総エネルギーに合計すると有利である。次に、凝集体のエネルギーレベルの平衡個体数密度はマックスウェル分布に対応するとみなしてもよい。活性化エネルギーより大きい総エネルギーを備えた全ての凝集体,EfEは最終的にはバリアを通過すると結論付けられる。そのような凝集体の孔横断確率は以下のように与えられる:
【0026】
【数1】

eは活性化エネルギー単位Eにおける無次元(dimensionless)凝集体エネルギーである。
【0027】
従って、所定の懸濁物に対するバリア貫通性は、以下のように、輸送駆動圧力(=駆動圧の差)p(=delta p)の関数として記載されることが望ましい。
【0028】
【数2】

maxは、所定のバリアの起こり得る最大貫通性である(ゼロ輸送抵抗性を備えた凝集体に対して、この貫通性は懸濁媒体流量の貫通性に等しい)。pは、試験システムの圧力感受性、よって輸送抵抗を説明する調整可能なパラメータである(固定された孔径を備えたバリアに対して、この感受性は凝集体特性のみの関数である。非相互作用粒子に対しては、同感受性は凝集体適合性により支配され、aが1/pに比例するという仮定が成立する)。
【0029】
式()は、懸濁物の流量、より正確には対応する貫通性(=P(p)=流量/圧力=流量/p data)から凝集体の適合性を計算するために使用される。
この式は、より詳細には、本出願人の同時に係属する米国特許出願第10/357618号「少なくとも三つの両親媒性体からなる変形性の増大した凝集体であって、半透膜バリアを介する輸送を向上し、かつインビボ、特に皮膚を介する非侵襲的な薬物の適用のための凝集体(Aggregates with increased deformability,comprising at least three amphipaths,for improved transport through semi−permeable barriers and for the non−invasive drug application in vivo,especially through the skin)」に説明されており、当該特許出願の開示は本明細書中において参照により援用される。
【0030】
「見かけの解離定数」なる用語は、薬物の測定された解離(即ち、イオン化)定数を指す。NSAIDsを含む多くの薬物におけるこの定数は、バルク中において、及びホモ−又はヘテロ凝集体中において異なる。ケトプロフェンの場合、バルク中におけるpKaは約4.4であるのに対して、薬物結合濃度を超えて測定されたpKa値は約5であり、バルク溶液の逆イオン強度ととともにほぼ線形的に減少する。脂質二重層に結合されたケトプロフェンのpKaは、総脂質濃度と同様に増大し、50mMの一価の緩衝液中における5重量%及び16重量%の総脂質を含む懸濁物中ではそれぞれ約6及び6.45である。ジクロフェナクの場合、バルク中におけるpKaは約4であるのに対し、脂質二重層中での同薬物に対するpKaは、〜6.1であった。メロキシカム、ピロキシカム、ナプロキセン、インドメタシン及びイブプロフェンについて文献にて報告されているバルクのpKaは、それぞれ、4.2(及び1.9)、5.3、4.2−4.7、4.5及び4.3(或いは幾らかの報告では5.3)である。
【0031】
凝集体の「変形性(deformability)」なる用語は、「適合性」なる用語に密接に関連している。顕著な凝集体の断片化を生じない同凝集体の形状における任意の大きな変化は、十分な凝集体の変形性を示すものであり、変形した凝集体の表面対体積比における大きな変化を意味する。従って、変形性は凝集体の適合性を決定するために提唱されている実験と同種の実験にて測定され得るか、或いは可逆的な形状の変化を示す光学測定により評価され得る。
【0032】
孔に関連して使用されている「狭い」なる用語は、孔の直径が、同孔を横切る能力に関して試験された全体の直径より、顕著に、典型的には少なくとも30%小さいことを意味する。
【0033】
「NSAID(非ステロイド抗炎症薬)」なる用語は、典型的にはシクロオキシゲナーゼ−1及び/又はシクロオキシゲナーゼ−2の拮抗薬として作用する化学物質を指す。本発明の構成において、リポキシゲナーゼ阻害剤もまた、NSAID’sのクラスの一部としてみなされる。
【0034】
例としては、例えば、アルクロフェナク、イブフェナク、イブプロフェン、クリンダナック、フェンクロラク、ケトプロフェン、フェノプロフェン、インドプロフェン、フェンクロフェナク、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ピルプロフェン、ナプロキセン、ベノキサプロフェン、カルプロフェン又はシクロプロフェンのような置換されたフェニル酢酸又は2−フェニルプロピオン酸の塩、例えば、インドメタシン、オキシメタシン、イントラゾール、アセメタジン、シンメタシン、ゾメピラク、トルメチン、コルピラク又はチアプロフェニック酸のような2−インドール−3−イルまたはピロール−2−イルラジカルを有する鎮痛効果のあるヘテロアリール酢酸又は2−ヘテロアリールプロピオン酸、例えばスリンダクのような鎮痛効果のあるインデニル酢酸、例えばベンザダックのような鎮痛効果のあるヘテロアリールオキシ酢酸を含み、オキシカムファミリーのNSAIDSはピロキシカム、ドロキシカム、メロキシカム、テノキシカムを含み、更に、NSAIDクラスの興味深い薬物はメクロフェナメート等である。
【0035】
「リン脂質」なる用語は、例えば、以下の式に対応する化合物を意味し:
【0036】
【化1】

ここで、ラジカルR1及びR2のうちの一方は、水素、ヒドロキシ又はC1−C4−アルキルであり、かつ他方のラジカルは長鎖脂肪酸、特に各々が10乃至24の炭素原子を有するアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルケニルオキシ又はアシルオキシであり、或いは、ラジカルR1及びR2がいずれも長鎖脂肪酸、特に各々が10乃至24の炭素原子を有するアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルケニルオキシ又はアシルオキシであり、R3は水素又はC1−C4−アルキルであり、かつR4は水素であるか、選択的に置換されたC1−C7−アルキル又は5乃至12の炭素原子を有するカルボハイドレートラジカルであるか、或いはラジカルR1及びR2がいずれも水素又はヒドロキシであるならばR4がステロイドラジカルであるか、又はその塩である。ラジカルR1、R2、R3及びR4は典型的には、実際の利用中に脂質二重層膜が流体ラメラ層(fluid lamellar phase)中にあり、かつ選択された薬物との良好な適合性を有することを確実にするように選択される。
【0037】
式1のリン脂質は、C1−C4アルキルである場合のR1、R2又はR3は好ましくはメチルであるが、またエチル、n−プロピル又はn−ブチルも可能である。
アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルケニルオキシ、又はアシルオキシなる用語はそれらの通常の意味を有し、同時に平行する特許出願に詳細に記載されている。リン脂質に結合される長鎖脂肪酸は任意の有用な方法にて置換され得る。
【0038】
ステロイドラジカルR4は、例えばステロイド骨格の3位にある水酸基を介してフォスファチジル基によりエステル化されたステロールラジカルである。仮にR4がステロイドラジカルである場合、R1及びR2は好ましくは水酸基であり、かつR3は水素である。
【0039】
式1のリン脂質は、遊離酸の形又は塩の形であり得る。塩は、式IIの遊離酸と、塩基、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、水酸化マグネシウム又は水酸化カルシウムのような水酸化アルカリ金属塩の希釈した水溶液、希釈したアンモニア水溶液、或いは、例えばエチル−、ジエチル−またはトリエチル−アミンのようなモノ−、ジ−又はトリ−低級アルキルアミン、例えばコリンのような2−ヒドロキシエチル−トリ−C1−C4−アルキル−アミン、及び例えばリジン又はアルギニンのような塩基性アミノ酸、との反応により形成され得る。
【0040】
式Iのリン脂質は、例えば、アルカノイルオキシ又はアルケノイルオキシ、例えばラウロイルオキシ、ミリストイルオキシ、パルミトイルオキシ、ステアロイルオキシ、アラキノイルオキシ、オレオイルオキシ、リノイルオキシ又はリノレオイルオキシのような二つのアシルオキシラジカルR1及びR2を特に有し、かつ例えば、卵レシチン若しくは卵ケファリン又は大豆由来レシチン若しくは大豆由来ケファリンのような異なるアシルオキシラジカルR1及びR2を有する天然のレシチン(R3=水素、R4=2−トリメチルアンモニウムエチル)若しくは天然のケファリン(R3=水素、R4=2−エチルアンモニウム)、例えば、1−パルミトイル−2−オレオイルレシチン若しくはケファリン又はジパルミトイル、ジステアロイル、ジアラキノイル、ジオレオイル、ジリノイル又はジリノレオイルレシチン若しくはケファリン等の異なる又は同一のアシルオキシラジカルR1及びR2を有する合成レシチン若しくはケファリン、例えばウシの脳に由来するフォスファチジルセリン等の異なるアシルオキシラジカルR1及びR2を有する天然のフォスファチジルセリン(R3=水素、R4=2−アミノ−2−カルボキシエチル)、例えばジオレオイル−、ジミリストイル−、又はジパルミトイル−フォスファチジルセリン等の異なる又は同一のアシルオキシラジカルR1及びR2を有する合成フォスファチジルセリン、或いは異なるアシルオキシラジカルR1及びR2を有する天然のフォスファチジル酸(R3及びR4=水素)を有する。
【0041】
式Iのリン脂質はまた、R1及びR2が二つの同一のアルコキシラジカル、例えば、n−テトラデシルオキシ又はn−ヘキサデシルオキシ(合成のジテトラデシル又はジヘキサデシルレシチン若しくはケファリン)を表すリン脂質であり、R1はアルケニルであり、かつR2は例えばミリストイルオキシ又はパルミトイルオキシ(プラズマロゲン、R3=水素、R4=トリメチルアンモニウムエチル)であるアシルオキシであり、R1がアシルオキシであり、かつR2はヒドロキシ(例えば1−ミリストイル−または1−パルミトイル−リゾレシチン若しくはケファリンのような天然又は合成のリゾレシチン若しくはリゾケファリン、例えばウシの脳由来のリゾフォスファチジルセリン又は1−ミリストイル−若しくは1−パルミトイル−リゾフォスファチジルセリンのような天然の又は合成のリゾフォスファチジルセリン(R3=水素、R4=2−アミノ−2−カルボキシエチル)、合成のリゾフォスファチジルグリセリン(R3=水素、R4=CHOH−CHOH−CH−)、例えば、卵リゾフォスファチジル酸又は1−ラウロイル−、1−ミリストイル−若しくは1−パルミトイル−リゾフォアスファチジル酸等の天然の又は合成のリゾフォスファチジル酸(R3=水素、R4=水素))である。
【0042】
バリアと関連して使用される「半透過性(semipermeable)」なる用語は、懸濁物がトランスバリア(transbarrier)開口を横切る一方、同開口の直径より150乃至200%大きい適合性を備えていない凝集体の懸濁物は通過しないことを意味する。ゲルラメラ相中の任意の共通したリン脂質から、又は任意の生物学的なフォスファチジルコリン/コレステロールの1/1モル/モル混合物から、又はかなり大きな油脂液滴から形成される従来の脂質ベシクル(リポソーム)は、全ての特異的な相対径を有するものであるが、そのような適合性を備えていない凝集体の3つの例である。
【0043】
「安定した」及び「十分に安定した」なる用語は、試験凝集体が、自発的又は相応の機械的圧力下(例えば、半透膜バリアの通過時)に、実用的(最も多くの場合は薬剤学的に)に許容できない程度までにその直径が変化しないことを意味する。20乃至40%の変化は許容可能なものであると考えられ;凝集体の直径の半分又は100%の直径の増大は許容されるものではない。
【0044】
「ステロールラジカル」なる用語は、例えば、ラノステロール、シトステロール、コプロスタノール、コレスタノール、グリココリン酸、エルゴステロール又はスティグマステロールラジカルが、好ましくはコレステロールラジカルであることを意味するが、当業者に周知のその他の任意のステロールラジカルも可能である。
【0045】
「界面活性剤」なる用語は通常の意味を有する。適切な界面活性剤の長いリスト及び界面活性剤に関連する定義は、特許文献1及び米国特許第6165500号明細書に記載されており、両者は本明細書において参照により包含されており、同様に適切な界面活性剤又は製薬ハンドブック(例えばHandbook of Industrial Surfactants又は米国薬局方、欧州薬局方(Pharm.Eu.)等)中に記載されている。界面活性剤は、流体鎖状態、又は少なくともキャリア凝集体における流体鎖状態の維持に適合するように典型的には選択される。
【0046】
「リン脂質のような界面活性剤」なる用語は、可溶性を備えたリン脂質及び本願の特に請求項10及び11に記載されている対応する界面活性剤に類似するその他の適切な特性を備えたリン脂質を意味する。従って、リン脂質のような非イオン系界面活性剤は水溶性であるべきであり、理想的には、適切な非イオン系界面活性剤のそれと類似する、水分散性/交換速度を有する。
【0047】
この詳細な説明の状況において、本発明は皮膚無痛化及び炎症の状況において、皮膚の色素沈着の状況において、かつ痒みの治療について例示されるであろう。しかしながら、本発明はそのような治療に制限されるものではなく、皮膚、特にヒトの皮膚の予防的及び治療的な処置の全てにまで実際には拡大されるものであり、対応する使用可能な製薬的な活性物質を含むものと理解されるべきである。
【0048】
好ましい実施形態において、NSAIDsの使用が例示されている。NSAIDsは本発明を実施するための薬物の好ましい種類である。しかしながら、その他の種類の薬物も同様に、病的な皮膚の症状の同様の治療において使用可能であることは理解されるべきである。本発明はまた無痛化の用途に制限されるものではなく、哺乳動物の皮膚の全ての種類の病的な症状の治療に拡大されるものである。
【0049】
NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)は、その多くが広く知られている構成要素からなる薬物の種類である。定義は以下の「定義」の項に記載されている。
任意の皮膚の病的症状の治療において米国にて現在市販されている唯一のNSAID製剤(Solaraze(登録商標))は、光線性角化症に使用されるジクロフェナク製剤である。この製剤は、処置を施した患者の60%までに皮膚の刺激を引き起こすものであることが報告されており、炎症を起こした皮膚状態において使用するのには許容できないものであると思われる。
【0050】
日焼けは皮膚炎症のモデルであり、ヒトが経験する皮膚の痛みの主要な原因である。
それは、過剰の紫外線、特にB領域紫外線(UVB)の照射の後の急性の太陽光による皮膚の損傷に対する臨床上の反応であり、緩やかな痛みを伴わない皮膚の紅斑から、浮腫及び水脹れを伴う痛みのある紅斑の皮膚の範囲に及ぶ。日焼けに対する標準的な治療法は存在しない。非薬理学的な処置手段及び薬理学的は処置手段の組み合わせが現在のところ日焼けの治療に使用されており、それはヒドロコルチゾンの局部への適用を含むが、これら現在の治療法のいずれも十分に効果のあるものとは考えられていない。
【0051】
日焼け及びその他の種類の皮膚炎のような痛みと炎症を伴う皮膚の症状は、インドメタシンのようなNSAIDsを使用して対処することが基本的には知られている(キッドベイ(Khidbey)及びカーバン(Kurban)、Journal of Investigative Dermatology、66、153−156(1976);ファー(Farr)及びディフェイ(Diffey)、British Journal of Dermatology(1986)、115、453−456;ジュリン(Juhlin)及びシュルート(Shroot)、Acta derm.Venereol.(Stockh1992)、72、222−223)。この中では、インドメタシンはゲル基材又はアルコール溶液中にて使用されており、紅斑の出現を幾らか阻害することが見出されている。
【0052】
しかしながら、現在のところ、痛みと炎症を伴う皮膚の症状の治療をする上で承認されているNSAID製剤はない。実際に、NSAID製剤は、刺激を受けている皮膚及び既に損傷を受けている皮膚における使用に対しては禁忌である。インドメタシンのようなNSAIDsは(限定的には)効果を奏するが、対応する製剤が刺激を与える可能性があるので、刺激を受けている皮膚及び既に損傷を受けている皮膚における使用が回避されている。
【0053】
日焼け以外にも、抗炎症剤及び無痛化剤による治療が有効である複数の比較可能な痛み及び多くの場合には炎症も伴う皮膚の症状が存在する。その他の皮膚炎以外にも、これらは、レーザ治療のような処置に起因する痒み、皮膚の損傷及び皮膚の刺激性を含む。
【0054】
しかしながら(それらの刺激特性の上に)、周知の局所用製剤は十分な効果を奏するものではない。アルコールのような浸透促進剤を含んでいない場合、いかなる活性物質も角質層を通過することは殆ど難しく、よって必要とされる薬剤学的な効果を阻止している。特にアルコールのような浸透促進剤の使用は、刺激を受けた皮膚の部分、或いは損傷を受けている部分に使用することがそれ自体有害なことである。なぜならば、浸透促進剤の使用により、多くの場合、ヒリヒリとした刺激を更にひどくするからである。たとえ浸透促進剤が存在していたとしても、活性物質は、必要とされる薬剤学的な効果を提供するのに十分な濃度にて角質層を浸透しない。
【0055】
経皮的な効果を高めるために提供される機械的及び電気的方法(イオン導入法、エレクトロポレーション等)は、皮膚が既に刺激を受けている及び/又は損傷を受けている箇所における刺激及び痛みを更に増強させるので、通常は不適切である。
【0056】
従って、皮膚の刺激、皮膚の炎症及び/又は皮膚の損傷を含む哺乳動物の皮膚の病的な症状を治療するための製剤であって、適切な薬剤学的に活性な物質を、その活性を必要とする部位に送達可能であり、かつ公知の製剤に見られるような刺激性の副作用を伴わずに、角質層を介して同活性物質を効果的に送達することが可能である薬剤の必要性が存在する。
【0057】
従って、本発明の一つの目的は、より高い効率にて角質層を介する活性物質の通過を提供し得る薬剤であって、炎症症状のみならず、皮膚炎、皮膚の刺激、疼痛、高色素沈着及び色素細胞の増殖並びに痒みを含む哺乳動物の皮膚の病的な症状を治療するための薬剤を提供することにある。
【0058】
本発明の別の主要な目的は、刺激を受けた及び/又は損傷を受けた皮膚に使用するのに安全な薬剤を提供することにある。
本発明の更に別の目的は、角質層を介して真皮まで十分な薬物装填量を保持する薬剤を提供することにある。
【0059】
別の態様において、本発明の目的は、上記したような皮膚の望ましくない症状に対して、新たな又は改善された治療法を提供することを含む。
本発明の一つの主要な態様において、これらの目的は、拡張表面を有する凝集体(ESAs)を使用することにより達成され、同凝集体は、脂質成分を形成する膜である少なくとも一つの第一の両親媒性成分と、膜不安定化成分である少なくとも一つの第二の両親媒性成分とからなり、それにより、皮膚刺激、皮膚炎症及び/又は皮膚損傷を含む哺乳動物の皮膚の病的な状態の治療のための薬剤の製造において、ESAsは孔を備えた半透過性バリアを貫通することが可能であり、同孔の最大径は貫通前ではESAsの平均径よりも少なくとも50%小さく、かつESAの平均径は25%以上変化することはない。
【0060】
本発明の好ましい実施形態において、ESAsは膜不安定化成分でもある少なくとも一つの第三の両親媒性成分を含む。
本発明の最も好ましい実施形態において、拡張表面凝集体の一つの膜不安定化成分はそれ自身が活性物質であり、特に非ステロイド抗炎症薬(NSAID)である。
【0061】
ESAsの貫通可能性は、典型的には周知の十分に均一な孔径を備えた合成膜により形成されている孔を備えた半透過性バリアを用いて評価される。
バリアモデルとしてそのような半透過性の合成膜を使用することは、例えば、セビックらによる上記非特許文献1のような従来技術の文献に記載されている。そのような膜は、好ましくは約20nmの孔径を有しており、この値は、親水性の皮膚の孔が本発明の拡張表面凝集体(ESAs)、特にトランスファーソームの浸透により拡張された場合に哺乳動物の皮膚の孔サイズに対応する。
【0062】
概して、本発明を実施するのに適したESAsは、別の用途において当業者には周知である。より詳細に述べると、そのようなESAsは上記したように、特許文献2に記載されており、従って、その内容全体が本明細書において参照により援用される。特許文献2の開示の一部を以下に記載する。
【0063】
上記文献と本発明の主たる差異は、上記参考文献においては、哺乳動物の皮膚の病的な症状を治療するためのESAsの特殊な使用法が開示されていない点、及び本発明の使用を最も効果的にする好ましいパラメータに関しても特に開示されていない点にある。同パラメータとしては特に、筋肉のようなより深い組織中に経皮を介して適用する際に必要とするような面積用量とは異なる本発明の皮膚に適用する上における好ましい面積用量を含む。本発明を実施するのに適したこの面積投与量は、使用される活性物質に依存して変更され得る。
【0064】
本発明を実施するのにかなり好ましい活性物質のひとつはケトプロフェンである。ケトプロフェンは、Cox1及びCox2阻害剤であり、かつリポキシゲナーゼ活性を阻害し、それにより、プロスタグランジン及びロイコトリエン介在性の炎症反応を低減することから特に好ましい。
【0065】
ヒトの皮膚におけるケトプロフェンの典型的な面積投与量は、皮膚面積cm当たり0.005mg以上であり、より好ましくは0.01mg以上であり、更により好ましくは、皮膚面積cm当たり0.02mg又はそれ以上である。
【0066】
典型的には、面積投与量は、cm当たり1mgを超えてはおらず、より好ましくはcm当たり0.5mgを、さらに好ましくはcm当たり0.25mgを超えてはいない。
【0067】
現在好ましい実施形態において、面積投与量は、ヒトの皮膚のcm当たり0.01乃至0.07mg、さらに好ましくは0.02乃至0.06mgのケトプロフェンである。0.06mg/cmは、かなり好ましい面積投与量である。
【0068】
ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ピロキシカム及びメロキシカム、テノキシカム等のその他のオキシカム活性物質並びにケトプロフェンに比類する効果を備えたその他の活性物質に対しても同様の面積投与量が使用され得る。
【0069】
インドメタシン、ケトロラク、イブプロフェン及びナプロキセンを含むその他のNSAIDsに対する面積投与量はそれよりも高く、好ましくは、ケトプロフェンに対して与えられた上記値の10倍まで及び10倍高い値を含む。サリチル酸塩、ピラゾロン誘導体(フェニルブタゾン等)又はトルメチンのようなその他の活性物質に対しては、面積投与量は更に高く、ケトプロフェンに対して与えられた上記値の100倍まで及び100倍高い値を含む。
【0070】
使用される製剤は、一般的には皮膚の刺激ができるだけ小さいものであろう。本発明に従って使用されるESAsは本質的に、皮膚の孔を広げ、それにより表皮に対して幾らかの作用を及ぼすことを含む経皮活性を提供する。それらは一般的には、実施に当たって更なる浸透促進剤を必要としない。従って、これらの系の成分としての化学的な皮膚刺激剤の使用及びその際の濃度をできる限り低く留めることが可能であり、また望ましい。従って、例えばほんの僅かのアルコール(特にエタノール)のみを使用する、又は同アルコールを全く使用しない製剤が有用であろう。
【0071】
同様の記載が、対応するその他の候補となる皮膚刺激剤についても当てはまる。
本発明の比較的小さな面積投与量が薬剤に起因する皮膚刺激を回避することを助ける。噴霧製剤のような低用量の製剤の好ましい使用は刺激を回避することに貢献する。
【0072】
本発明の組み合わせの調製における非常に詳細な提案は特許文献1及び米国特許第6165500号明細書に記載されており、それらは参照により本明細書に援用されるものであるが、ろ過を目的に対して使用する際に、最終的なベシクル懸濁物を均一化するために、0.01μm乃至0.1μmの孔径、より好ましくは0.02μm乃至0.3μmの孔径を備えた材料のろ過を使用し、更により好ましくは、0.05μm乃至0.15μmの孔径を備えたフィルタが望ましい。機械的な均一化又は当業者に周知の脂質ベシクル調製に対するその他の方法も同様に有用である。
【0073】
既に、又は以下に記載されているキラルな炭素原子を有する脂質及び特定の界面活性剤は、本発明に従って調製及び使用される製薬組成物中においては、ラセミ体の形態及び光学的に純粋な光学異性体の形態の両方にて存在し得る。
【0074】
薬剤を製造するために、温度、pH、イオン強度及び個々の成分(例えば、膜不安定化剤、製剤の安定化剤又は殺菌剤)又は全脂質濃度或いは工程時の懸濁物の粘度を変更した、複数の工程にて製品を調製することが望ましい、又は必要であろう。
【0075】
適切かつ実際に有用である増粘剤のリストは、例えば、国際特許出願第PCT/EP98/08421に記載されており、同文献は種々の興味ある殺菌剤及び抗酸化剤を提案しており、従って同文献の対応する部分は参照により本明細書に援用される。亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素塩及びメタ亜硫酸塩のような亜硫酸塩、及び可能性としては硫黄若しくはリン原子を含むその他の水溶性の抗酸化剤(例えば、ピロ硫酸塩、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、エリソルビン酸塩、酒石酸塩、グルタミン酸塩等、又はL−トリプロファン、理想的には亜硫酸塩に類似する活性スペクトルを有するもの)が同製剤の抗酸化保護を提供することが実際の試験により確認されたが、最終的な選択は規定面の規制に委ねられる。しかしながら、任意の親水性抗酸化剤は常にBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)又はBHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)のような親油性の抗酸化剤と組み合わせられ得る。
【0076】
本発明は、以下の実施例に基づいて、より詳細に例示され得る。
【実施例1】
【0077】
第一の実施形態の実施例において、疼痛を伴う皮膚症状の局所的な治療のための、本発明に従うケトプロフェン製剤は、表1のように構成されている。
【0078】
【表1】

【実施例2】
【0079】
実施例1の組成は、皮膚を刺激する可能性のある低級脂肪族アルコール(エタノール)を適切な量にて含んでいる。エタノールを含んでいない現在最も好ましい実施形態が表2に示されている。
【0080】
【表2】

【実施例3】
【0081】
わずかなエタノール含量を含む別の好ましい実施形態は以下の組成を有する。
【0082】
【表3】

全脂質濃度は2重量%である。活性成分の含量(ケトプロフェン)は0.476重量%である。最終製品は7.9のpHを有する。
【実施例4】
【0083】
疼痛及び炎症を含む病的な皮膚の状態に関して本発明の治療の効果を調べるために臨床試験を実施した。
使用された製剤は上記実施例1に記載されたものである。
【0084】
試験は、無作為に選ばれた二重盲検式のプラセボ及び活性物質制御フォーマットで実施した。主たる目的は、本発明に従う薬剤の効果を、UVBによる皮膚炎症に対して、プラセボと比較することであった。試験は25人の志願者により実施した。
【0085】
試験は、18乃至45歳の、フィッツパトリック(Fitzpatrick)に従うタイプIIの皮膚である健常な志願者を含んでいた。全ての被検者は非喫煙者又は喫煙を滅多にしない人(1日に5本未満)であり、処置が開始される少なくとも一時間前から喫煙をしなくてもよい人であった。臨床試験除外基準は、試験前の4週間の日焼け、妊娠若しくは授乳、皮膚疾患及び全身疾患、精神障害、異形成母斑及び前癌病変(praecancerosis)を含む治療を必要とするその他任意の慢性又は急性疾患から構成されていた。除外基準は更に、試験の2週間前から免疫抑制剤(例えば、コルチコステロイド)を使用した被検者、NSAIDsに対する既知の感受性、既知の光アレルギー/光皮膚炎を有する被験者、及び作用物質の乱用者を含んでいた。試験の判断基準は、特定のUVB照射の後に熱誘導型の局所的な疼痛及び紅斑に対する閾値の効果である。
【0086】
更なる目的は、ヒドロコルチゾン−21−アセテート(HC)を含む等量の市販製品との比較、並びに、本発明の製剤のより低用量での試験、及びUVB照射直後の治療か、或いは時期を遅らせての治療かの、異なる適用形態における評価を含んでいた。
【0087】
比較は、全く治療及び照射を受けていない皮膚領域(対照)と、上記実施例1に記載の製剤を20μl受けた領域、20μlのプラセボを受けた領域、及びヒドロコルチゾン−21−アセテートの0.25重量%溶液を20μl受けた領域の間にて実施した。
【0088】
幾らかの皮膚領域はUVB照射直後に治療を受けた一方、別の群はUVB照射の6時間後に治療を受けた。
用量決定試験においては、上記実施例1に従う製剤の量を、20μl、10μl及び5μlの間で変更した。
【0089】
痛覚閾値は摂氏度にて評価し、紅斑及び浮腫は、0乃至4の主観的な分類スケールにて評価した。
試験の第一の目的を評価するために、上記実施例1に従う製剤の20μlの効果を、UVB−誘導型日焼け及び対応する熱に対して誘導された痛覚過敏を伴う被験者について、プラセボと比較した。
【0090】
図1はUVB照射直後に治療した場合の結果を示す(3MED)。12−36時間のリードアウト(read−out)において、本発明の治療は、対照及びプラセボと比較して統計学的に有意な効果を示す。
【0091】
図2は、20μlの実施例1の製剤でUVB照射直後に治療した場合の、UVB(日焼け)による痛覚過敏に対する効果を、12−36時間のリードアウトにて、この場合は20μlのヒドロコルチゾン−21−アセテート溶液の効果と比較して示す。ヒドロコルチゾンと比較した場合、本発明により得られた効果は、統計学的に有意に優れていた。
【0092】
図3、4及び5は用量設定試験の結果を示しており、再び実施例1の製剤に対して、照射直後の治療(3MED)及び12−36時間のリードアウトに対して示す。
図5は、一方ではプラセボに対する、そして他方では20μlの0.25重量%のヒドロコルチゾン溶液に対する、本発明の製剤の5μl、10μl及び20μlの投与量を比較する。
【0093】
図3は痛覚閾値に対する影響を示す。試験された3つの用量の全ては、プラセボ及びヒドロコルチゾンより有意に優れており、試験された範囲内においては用量の変更に関連する影響は認められなかった。これは、天井効果によるものであろう。
【0094】
図4は同様の比較を示すが、この場合は、紅斑の発生が完全に又は少なくとも実質的には抑制された患者の数に関して示されている。また、本発明のヒドロコルチゾン及びプラセボに対する優越性は、統計学的に有意なものである。
【0095】
図5は、紅斑スコアの平均ランク及び紅斑の発生した患者に関して、本発明をヒドロコルチゾン及びプラセボと比較している。本発明のみが適切な改善が認められたことがわかる。ここでも、使用された用量に有意な関連性はなかった。
【0096】
この試験で評価された次の面は、照射を受けた後に時期を遅らせて治療した場合の、種々の比較した投薬の効果であった。全ての治療は、UVB照射の6時間後に実施した。図6及び7は結果を示す(12−36時間のリードアウト)。
【0097】
具体的に述べると、図6は、実施例1の製剤20μlを、時期を遅らせて適用した場合、プラセボ及びヒドロコルチゾンと比較して、痛覚過敏に対する統計学的に有意な陽性の治療効果が患者(UVB:3MED)において認められる一方、ヒドロコルチゾンは、プラセボ及び対照と有意な差がなかった。
【0098】
図7において、同様の治療を紅斑スコアの平均ランクに関して比較した。ここでも、任意の統計学的に有意な効果は本発明によりのみ提供され、ヒドロコルチゾンでは、6時間遅らせて治療した場合には効果が認められない。
【0099】
最後に、図8は浮腫の発生に関する本発明の効果を示す。UVB照射(3MED)後において浮腫又は紅斑の観察された数が、12−36時間のリードアウトに対して与えられる。本発明の製剤で治療した場合、全ての被験者は浮腫が発生しなかったか、或いは小さな浮腫が発生したが、大部分の被験者は全く浮腫が発生していない。
【0100】
試験結果が示すように、本発明は、薬剤をUVB照射直後に投与した場合、熱誘導型痛覚閾値の増大において公知のヒドロコルチゾン治療に匹敵するものである。これは、未治療であるが照射された対照と比較して、明確に示された。
【0101】
投薬が遅延して行われた(「UVB照射の6時間後の治療」の試験に示されるもの)臨床的に更に関連した状況において、本発明のみが痛覚閾値を増大したが、ヒドロコルチゾンは効果がなかった。
【0102】
本発明は、紅斑の発生を非常に効果的に阻止する。それは、UVB照射直後に使用した場合も照射後6時間経過して使用した場合のいずれにおいても認められた。いずれの場合においてもヒドロコルチゾンは効果がなかった。
【0103】
本発明は浮腫の形成を効果的に阻止する。
皮膚過敏症又はその他の有害な影響の事実は認められなかった。
【実施例5】
【0104】
再び、上記実施例1の製剤を基本的には使用するが、ケトプロフェンを二つの異なる濃度にて使用し、ブタの接触皮膚炎に対する本発明の治療効果の試験を実施した。
アレルギー性接触皮膚炎は、ブタの皮膚にジニトロフルオロベンゼンを塗布することにより誘導した。得られた接触湿疹を表3の基準を使用して評価した。
【0105】
【表4】

治療後24時間にて観察された結果は図9から明らかである。
【0106】
120μg/cm及び480μg/cmの両方の面積投与量において、有意な効果が観察され、用量が多い方が用量の少ない方よりも幾らか効果的であった。
【実施例6】
【0107】
別の研究において、ケトプロフェン皮膚濃度(ng/mg)の経時的な変化を、再び上記実施例1に示される製剤で二つの異なるケトプロフェン面積投与量にて試験した。
ブタの皮膚に0.24mg/cmの面積投与量のケトプロフェンを適用した場合、皮膚濃度は最初はかなり高かったが、適用してから8時間後には、0.06mg/cmの面積投与量として提供されたものと基本的には同じ皮膚濃度に低下した。比較を図10に示す。
【0108】
経口にて投与したケトプロフェンとの比較を表4に示す。これは、面積投与量、総投与量、及び投与後の種々の身体組織から検出されたケトプロフェンの量を列挙している。組織における量は、投与してから最初の24時間におけるAUC(濃度曲線下面積)に関して与えられている。
【0109】
表4のデータは、皮下脂肪又は浅筋及び深筋のようなさらに深い場所にある身体組織における濃度と比較して、活性物質の皮膚での濃度がかなり高いことを示している。予想されたように、データは経口ケトプロフェンが皮膚において局所的な効果を与えないことを示している。
【0110】
【表5】

【実施例7】
【0111】
本発明の製剤の安全性を、Counsil Directive92/69/EEC,Annex,ラビットにおけるB.4法に従って皮膚刺激性/腐食に関して試験し、それは臨床試験製剤を使用して実施した。面積用量が0.23mgKT/cmのものを、1日2回10時間の間隔にて42日間連続してウサギの上背に局所投与した。臨床試験のウサギに使用したもとの同じ面積用量を、試験物質適用前に一日に2回、紅斑及び浮腫に対してドレーズ法により記録し(0乃至4のスコアにて)、また半値の読み取りを可能にした。
【0112】
全ての動物は、皮膚刺激性に対してほんの僅かの一時的な兆候を示したのみである。試験の最終日(42日目)には、皮膚刺激性の兆候を示したウサギはなかった。
実施例2に示される製剤では薬物濃度及び全体の賦形剤濃度がより低いので、皮膚への耐性に関しては実施例1のものと比較して更に改善されることが期待できる。
【実施例8】
【0113】
本発明の技術により介在される比較的高濃度の薬物は、公知のプロスタグランジン介在性の薬効とは無関係に治療効果を誘導することができるであろう。これらの効果は、侵害受容器に対する直接の効果と関連付けられるであろう。
【0114】
ヒスタミンは、神経性の発赤反応を誘導するものとして当業者においては多くの場合に使用されている。痒みに特異的な神経性経路が存在していることを最近の証明が示唆している。ヒトのヒスタミン感受性C繊維(小さな無髄一次求心性繊維)が、機械的無感覚、遅い伝導速度及び巨大な受容野により特徴付けられている(シュメルツ(Schmelz)他、1997年)。
【0115】
実施例1の組成物は、ヒスタミン誘導型の痒みの低減における本発明の製剤の効果を試験するために使用した。この試験は、実施例4に記載された試験の一部であった。
試験は38人の健常な志願者によるものであり、痒みを誘導する用量のヒスタミン、又はプラセボのいずれかを摂取した。実施例1の製剤での治療は、プラセボに対する最小二乗平均47.83(95%信頼限界:45.15−50.52)と比較された実施例1の最小二乗平均45.15(95%信頼限界:42.46−47.83)に対するAUCにより示されるように、ヒスタミンに起因する痒みを低減する傾向を示した。
【実施例9】
【0116】
本発明の脱色効果は臨床試験の状況において見られた。生まれつき色素沈着した褐色の皮膚を有する47歳の女性が、米国特許出願第10/357617号に記載されているように、トランスファーソーム(登録商標)に基づく2.29%のケトプロフェンゲルを使用した。より詳細には、同製剤は同米国特許出願の実施例32に非常に関連したものであり、以下の構成を備えている。
【0117】
【表6】

試験を行った人は、右手の上顆炎を患っており、ゲルでの治療時に変更することのできない対応する薬剤を同時に摂取していた。ケトプロフェントランスファーソーム(登録商標)ゲルは、9日間にわたり繰り返し使用された。
【0118】
この期間にわたり、ケトプロフェンゲルで局所的に治療された皮膚の完全な脱色が視認された。ゲルが塗布された皮膚領域において、色素沈着がかなり破壊され、皮膚は、白い又は「脱色された」外観を呈した。
【0119】
9日後、トランスファーソームゲルの使用を中止した。脱色効果はその後2ヶ月以上にわたって持続した。
本発明の有用性はケトプロフェンのみに制限されるものではなく少なくともNSAIDsの薬剤学的な活性物質のクラスにまで及ぶものであると推定される。ケトプロフェン以外に、これらのNSAIDsは本発明の状況において有用であり、損傷を受けた皮膚に対して類似の脱色効果を示すことが期待される。
【0120】
更に、NSAIDsのみならず、本発明は、損傷を受けた皮膚に対する脱色素又は色素沈着減少を引き起こすことが知られているその他の薬剤においても使用できることが期待される。本発明は、脱色素、特にメラニン細胞の壊死を引き起こすことによる脱色素を誘引する適切な濃度の任意のタイプの活性物質とともに実施され得ることが一般的に推測される。
【0121】
本発明はまた、所望である部位の色素沈着を刺激するために使用され得ることが期待される。これは、メラミン細胞による色素産生を刺激することが知られている対応する活性物質の適切な用量(低用量)の適用を必要とするであろう。
【0122】
従って、本発明は美容並びに皮膚癌の治療を含む医療用途にて非常に重要な有用性を備えている。
意図された治療の臨床上の詳細な説明は、所望とされる効果に応じて変更されるものであり、更に研究の必要性がある。現在のところ、利用可能な事実は、以下に記載されるように症例報告である。しかしながら、一般的な経験及び技術に基づいて、現在のところ利用可能な観察結果はその他の患者にまで拡張することが可能であり、任意の特定の患者群に制限されるものではないことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】UVB照射直後の治療に対する結果を示すグラフである。
【図2】実施例1の製剤でUVB照射直後に治療した場合のUVBによる痛覚過敏に対する効果をヒドロコルチゾン−21−アセテート溶液と比較して示したグラフである。
【図3】用量設定試験の結果を示しており、照射直後の治療の痛覚閾値に対する影響を示すグラフである。
【図4】用量設定試験の結果を示しており、照射直後の治療の後に紅斑が全く認められなかったか、又はほんの僅かのみ認められた被験者の割合を示すグラフである。
【図5】用量設定試験の結果を示しており、照射直後の治療の後の紅斑スコアの平均ランクを示すグラフである。
【図6】UVB照射の6時間後に治療を行った場合の痛覚閾値に対する影響を示すグラフである。
【図7】UVB照射の6時間後に治療を行った場合の紅斑スコアの平均ランクを示すグラフである。
【図8】浮腫の発生に関する本発明の効果を示すグラフである。
【図9】実施例1の製剤を2つの異なる濃度のケトプロフェンにて適用した場合のブタの接触皮膚炎に対する本発明の治療効果を示すグラフである。
【図10】実施例1の製剤を2つの異なるケトプロフェン面積投与量にて適用した場合の、ケトプロフェン皮膚濃度(ng/mg)の経時的な変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張表面凝集体(ESAs)を、皮膚の刺激、皮膚の炎症及び皮膚の損傷のうちの少なくとも一つを含む哺乳動物の病的な皮膚の状態を治療するのに耐え得る薬剤であって、その局所的な投与後に皮膚の色素沈着の改質及び皮膚のかゆみの治療のうちの少なくとも一方を実施するための薬剤、の製造において使用する方法であって、
前記拡張表面凝集体は、基本的な凝集体系性成分である少なくとも一つの第一の両親媒性成分と、凝集体の物理的応力に対する感受性を低減する少なくとも一つの第二の両親媒性成分と、からなり、前記物理的応力は前記ESAsが孔を強制的に通過することにより形成される応力を含み、前記孔は、前記通過する前の同ESAsの平均径よりも少なくとも50%小さい平均孔径を備えており、
前記物理的応力により誘導されるESAの平均径の変化は、第一の凝集体成分のみ又は第二の凝集体成分のみからなる対照系において同応力により誘導される径の変化と比較して10%以上の低減である、方法。
【請求項2】
前記少なくとも一つの第二の両親媒性成分は、ケトプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシン、ナプロキセン又はピロキシカムを含むNSAIDである、請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
前記第一の両親媒性成分は、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルグルセロール、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジル酸、フォスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、スフィンゴリン脂質、グリコスフィンゴ脂質、セレブロシド、セラミドポリヘキソシド、スルファチド、スフィンゴプラスマローゲン又はガングリオシドのようなリン脂質から構成される群より選択される、請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項4】
前記少なくとも一つの第二の両親媒性成分は、非イオン性界面活性剤の群から選択され、好ましくは、ポリエチレングリコール−ソルビタン−長鎖エステル、ポリエチレングリコール−長鎖脂肪酸エステル若しくはエーテル、ポリヒドロキシエチレン−長鎖脂肪酸エステル若しくはエーテル又は界面活性剤様非イオン性リン脂質である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項5】
前記ESAは、凝集体形成成分である少なくとも一つの第一の両親媒性成分と、凝集体変形性増大成分である第二の両親媒性成分と、凝集体変形性成分であるとともに前記第二の成分とは化学的に異なる第三の両親媒性成分と、からなる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項6】
前記第一の両親媒性成分は、二重層膜を形成することが可能であり、前記第二及び第三の両親媒性成分は前記二重層膜に膜不安定化効果を与えるとともに前記膜が前記孔を通過する際に同膜の応力に対する感受性を低減させるように選択される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項7】
前記成分は、応力に対する前記膜の感受性を低減させる際に前記第二の成分と前記第三の成分との組み合わせが相乗効果を与えるように選択される、請求項6に記載の使用方法。
【請求項8】
前記第一の両親媒性成分はフォスファチジルコリンであり、かつ前記第二又は第三の両親媒性成分は、ケトプロフェン、ジクロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン又はピロキシカムのようなNSAIDである、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項9】
ESAsが前記孔を通過する前の同ESAの平均径は、同孔の平均径よりも少なくとも40%大きい、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項10】
前記物理的応力にESAがさらされた後の同ESAの平均径における変化は、前記ESA成分の一つ、二つ又はそれ以上を含んでいない対照系で測定した際の変化よりも少なくとも20%小さい、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項11】
前記第一の成分及び前記第二の成分は、液体媒体中での溶解度が平均にして少なくとも10倍異なる、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項12】
前記第二の成分及び前記第三の成分は、溶解度が平均にして少なくとも2倍異なる、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項13】
前記両親媒性成分の乾燥全質量は、0.01重量%乃至50重量%である、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項14】
前記両親媒性成分により形成される拡張面は15nm乃至5000nmの平均径に対応する平均曲率を有する、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項15】
前記ESAsは、好ましくはn−プロパノール、イソプロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール又はエタノールである低級脂肪族アルコールを更なる凝集体又は膜不安定化成分として含む、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項16】
前記成分はNSAIDを含み、前記製剤のバルクのpH値は、溶液中及び拡張面凝集体中におけるNSAID薬の見かけの解離定数(pKa)の対数より大きく、かつ後者のpKaは前者のpKaよりも高い、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項17】
前記バルクのpH値は6.4乃至8.3であり、より好ましくは6.7乃至8であり、かつ最も好ましくは7乃至7.7である、請求項16に記載の使用方法。
【請求項18】
前記薬剤のバルクのイオン強度は、0.005乃至0.3であり、好ましくは0.01乃至0.2であり、最も好ましくは0.05乃至0.15である、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項19】
前記製剤の粘度は、50mPas乃至30000mPasであり、好ましくは100mPas乃至10000mPasであり、より好ましくは200mPsの間である、請求項1乃至18のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項20】
膜を形成するリン脂質の第一の成分と、膜を不安定にするNSAIDの第二の成分は、10/1乃至1/2の相対的なモル比にて懸濁物にて存在している、請求項1乃至19のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項21】
膜を形成するリン脂質の第一の成分と、膜の適合性を増大する界面活性剤の第二の成分は、40/1乃至1/4の相対的なモル比にて懸濁物にて存在している、請求項1乃至20のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項22】
前記薬剤は、ケトプロフェン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ピロキシカム及び同様の薬効を有するその他の活性物質から選択されるNSAID活性物質を含み、哺乳動物の皮膚の単位面積当たりの薬物投与量は、0.0001mgcm−2乃至1mgcm−2、好ましくは0.0005mgcm−2乃至0.5mgcm−2、より好ましくは0.001mgcm−2乃至0.3mgcm−2、最も好ましくは0.005mgcm−2乃至0.1mgcm−2である、請求項1乃至21のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項23】
薬物投与量(全量)は、1mg乃至100mg、好ましくは5mg乃至50mg、最も好ましくは5mg乃至30mgの薬物量である、請求項22に記載の使用方法。
【請求項24】
前記薬剤は、ジクロフェナク、ケトプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、イブプロフェン及び同様の薬効を有するその他の活性物質から選択されるNSAID活性物質を含み、哺乳動物の皮膚の単位面積当たりの薬物投与量は、0.05mg/cm乃至10mg/cm、好ましくは0.1mg/cm乃至5mg/cm、より好ましくは0.2mg/cm乃至3mg/cm、最も好ましくは0.2mg/cm乃至0.6mg/cmである、請求項1乃至23のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項25】
前記薬剤は、サリチル酸塩、フェニルブタゾンのようなピラゾロン誘導体、トルメチン及び同様の薬効を有するその他の活性物質から選択される活性物質を含み、哺乳動物の皮膚の単位面積当たりの薬物投与量は、0.5mg/cm乃至50mg/cm、好ましくは1mg/cm乃至30mg/cm、最も好ましくは2mg/cm乃至6mg/cmである、請求項1乃至23のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項26】
前記病的な皮膚の状態は、皮膚の刺激、疼痛、痒み、炎症及び皮膚の損傷のうちの少なくとも一つを含む、請求項1乃至25のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項27】
前記皮膚の色素沈着の改質は、美容的な皮膚の脱色、皮膚の過剰色素沈着の治療又は望ましくない色素細胞の増殖の治療を含む、請求項1乃至26のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項28】
前記薬剤は、例えば非密封性のパッチのような局所適用剤として製剤化される、請求項1乃至27のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項29】
温血哺乳動物の皮膚に請求項1乃至28のいずれか一項に記載の薬剤を適用することにより、末梢性疼痛及び炎症のうちの少なくとも一方を治療する方法。
【請求項30】
薬剤は非密封性のパッチにて適用される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1乃至28のいずれか一項に記載の薬剤の少なくとも一つの単位用量を、チューブ、噴霧缶、又はロール球を備えた容器中に、パッチ又はその他のパッケージ化された形態にて含む、キット。
【請求項32】
前記局所的に使用される薬剤中における前記第一、第二及び第三の成分の相対的な比率は、標的となる皮膚組織に活性成分が存在する持続時間及び皮膚治療の結果を制御するように選択される、請求項1乃至39のいずれか一項に記載の使用方法又は方法。
【請求項33】
薬物を含まないESAsの懸濁物は、投与日の前日の間、好ましくは同製剤を皮膚に投与する360分前、より好ましくは60分前、更に好ましくは30分前、最も好ましくは5分前にNSAIDが装填される、請求項1乃至32のいずれか一項に記載の使用方法、方法又は単位用量。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2008−519784(P2008−519784A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540566(P2007−540566)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011986
【国際公開番号】WO2006/050926
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(501084123)イデア アクチェンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】IDEA AG
【Fターム(参考)】