説明

皮革用材の製造方法及び皮革用材

【課題】環境負荷やVOCの問題を考慮した水系ポリウレタン樹脂を用いた皮革用材の製造方法であるにも拘らず、十分にマイグレーションを防止することを可能とし、また、工程上発生するガスによる臭気及び装置の腐食がなく、風合いが柔軟でかつ耐磨耗性や摩擦堅牢度等の物性にも優れた皮革用材を効率よくかつ確実に得ることを可能とする皮革用材の製造方法、並びに、その製造方法により得られる皮革用材を提供すること。
【解決手段】(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、繊維基材に含浸させた後に乾燥して皮革用材を得ることを特徴とする皮革用材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革用材の製造方法及び皮革用材に関し、更に詳しくは、本発明は、水性ポリウレタン樹脂を用いて製造し、人工皮革又は合成皮革として好適に用いることのできる皮革用材の製造方法及び皮革用材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然皮革の代替品として、ポリウレタン樹脂と不織布からなる繊維基材で構成されている人工皮革及びポリウレタン樹脂と織物又は編物からなる繊維基材で構成されている合成皮革が多種類製造されてきている。このような人工皮革、合成皮革は、例えば、天然皮革に類似させるためにポリウレタン樹脂の有機溶媒溶液を繊維基材に含浸又は塗布させたものを、ポリウレタン樹脂に対し貧溶媒で、且つ当該有機溶媒と相溶性のある凝固液(通常は水)中に通して凝固させ、次いで水洗、乾燥させる湿式凝固法と呼ばれる方法で製造されていた。
【0003】
しかしながら、このような湿式凝固法において多く使用されているジメチルホルムアミド等の有機溶剤は、引火性が強く、更には毒性も高いものが多いことから、火災の危険性がある他、作業環境の悪化や大気、水質等の環境汚染の問題も懸念されていた。そして、このような問題点を解消するために発生する有機溶剤を回収する工程を組み入れた製造方法も行われているが、多額の廃棄コストや、労力がかかるといった問題点が残っていた。また、ポリウレタン樹脂の有機溶媒溶液を用いて得られた人工皮革、合成皮革には、皮革内部に有機溶剤が残留するため、皮膚障害等の人体への影響も問題にされていた。そのため、繊維基材に固着するポリウレタン樹脂を有機溶剤タイプから水性ポリウレタン樹脂に移行すべく検討がなされてきた。
【0004】
このような水性ポリウレタン樹脂を用いた人工皮革等の製造方法は、有機溶剤を使用しないため、回収に要するコストを削除することができる点及び作業環境の改善、大気汚染、水質汚濁等の環境改善の点では優れているが、ポリウレタン樹脂の有機溶媒溶液を用いて得られる人工皮革、合成皮革と比較した場合、満足する風合いと物性を有した人工皮革、合成皮革が得られていなかった。このような問題の大きな原因としては、水性ポリウレタン樹脂を繊維基材内部に含浸させた後に熱風で乾熱乾燥した場合に、繊維基材表面より蒸発する水の移動に引き連れられて水性ポリウレタン樹脂が繊維基材表面に移行してしまう、いわゆるマイグレーションが挙げられる。つまり、このようなマイグレーションが生じることによって、水性ポリウレタン樹脂を用いた人工皮革等の製造方法においては、水性ポリウレタン樹脂が繊維基材の表面に移行して繊維基材内部には殆どポリウレタン樹脂が固着していない状態となり、風合いが硬く、立毛感に乏しい人工皮革、合成皮革となっていた。そのため、水性ポリウレタン樹脂を用いた人工皮革等の製造方法においては、マイグレーションの問題を解決するために種々の検討がなされてきている。
【0005】
例えば、特公昭55−51076号公報(特許文献1)においては、感熱ゲル化剤を添加し感熱凝固性を付与した合成樹脂エマルジョンを繊維基布に含浸させ、熱水中で該合成樹脂エマルジョンを凝固する皮革様物の製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、このような方法では、マイグレーション防止性は向上するものの、含浸液の一部が浴中に流出して凝固し、その凝固したゲル物が加工物の表面に再付着して、得られる皮革用材の風合いが悪くなってしまうという問題があった。また、このような方法においては、ポリウレタン樹脂濃度が低下するにつれて感熱凝固性が低下し、含浸液の一部が熱水中へ流出し易くなってしまい、得られる皮革用材の風合いがさらに悪くなってしまうという問題もあった。
【0007】
また、特開平6−316877号公報(特許文献2)においては、強制乳化された非イオン性のエマルジョンに無機塩類を溶解した水系樹脂組成物を、不織シート状物に付与し加熱乾燥する人工皮革の製造方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、このような方法では、マイグレーション防止性は向上するものの、配合する無機塩の濃度により処理浴の安定性が悪くなるという加工上の問題が生じていた。また、繊維基材中に非イオン界面活性剤及び無機塩が残留してしまうため、得られる皮革用材は、風合いが粗硬で、耐摩耗性が低く、摩擦堅牢度も十分なものではなかった。
【0009】
さらに、特開2000−290879号公報(特許文献3)においては、感熱凝固温度が40〜90℃である水系ウレタン樹脂と会合型増粘剤からなる水系樹脂組成物を、繊維材料基体に含浸または塗布し、該水系樹脂組成物をスチームで感熱凝固させる繊維シート状複合物の製造方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、このような方法においては、マイグレーション防止性は向上するものの、繊維材料基体中に非イオン界面活性剤、会合型増粘剤が残留するために、得られる皮革用材は、やはり風合いが粗硬で、耐磨耗性が低く、摩擦堅牢度も十分なものではなかった。
【0011】
また、特開2003−138131号公報(特許文献4)においては、HLB10〜18のノニオン界面活性剤と無機塩とを含むカルボン酸塩型ポリウレタン樹脂を繊維材料基体に付与し感熱凝固させてなる皮革用シート材料の製造方法が開示されている。
【0012】
しかしながら、このような方法においても、前記特許文献2や3に記載の方法と同様に界面活性剤や無機塩による問題が生じ、得られる皮革用材は、やはり風合いが粗硬で、摩擦堅牢度も十分なものではなかった。
【0013】
なお、前記特許文献2〜4に記載の方法において、非イオン界面活性剤、会合型増粘剤といった残留物は、水洗又は湯洗といった工程を繰り返し行うことによりある程度は除去することが可能であるが、完全に除去することが難しいことから前記の問題は避けられない。また、水洗又は湯洗といった工程を繰り返し行うことは加工工程数の増加となり経済的な問題へと繋がる。したがって、水洗又は湯洗する工程をできる限り少なく、且つ残留物を容易に除去することができ、十分な風合いや物性を有する皮革用材を得られる製造方法が要求されている。
【0014】
また、特開2006−36960号公報(特許文献5)においては、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、カルボン酸のアンモニウム塩及び水を含む混合液を、繊維基材に含浸させた後に乾燥する皮革用材の製造方法が開示されている。
【0015】
しかしながら、このような方法においては、マイグレーションの問題を解決することができるものの、乾燥時に発生するアンモニアガスによる臭気という新たな問題が生じてきた。また、カルボン酸アンモニウム塩として、蟻酸アンモニウムや酢酸アンモニウムといった炭素数の小さいカルボン酸のアンモニウム塩を使用した場合には、加熱乾燥により揮発するカルボン酸によって装置が腐食するという問題が生じ、製造工程の改善が必要となる。一方、炭素数の大きいカルボン酸のアンモニウム塩を使用した場合には、加熱乾燥時にカルボン酸が揮発することは少ないが、目的とするマイグレーション防止性を得ようとすると大量に使用する必要があった。また、樹脂の耐熱性等の耐久性の向上のためにポリカルボジイミド化合物を併用すると、これがカルボン酸アンモニウム塩と反応してしまうことから、カルボン酸アンモニウム塩を大量に使用しても十分なマイグレーション防止性を得ることが困難となる。
【0016】
このように、水性ポリウレタン樹脂を用いた人工皮革等の製造方法においては、十分にマイグレーションを防止して繊維基材に均一にポリウレタン樹脂を固着させつつ、工程上発生するガスによる臭気及び装置の腐食がなく、十分な風合いや品質を有する皮革用材を製造する方法が得られておらず、工程上発生するVOC対策が必要であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特公昭55−51076号公報
【特許文献2】特開平6−316877号公報
【特許文献3】特開2000−290879号公報
【特許文献4】特開2003−138131号公報
【特許文献5】特開2006−36960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、環境負荷やVOCの問題を考慮した水系ポリウレタン樹脂を用いた皮革用材の製造方法であるにも拘らず、十分にマイグレーションを防止することを可能とし、また、工程上発生するガスによる臭気及び装置の腐食がなく、風合いが柔軟でかつ耐磨耗性や摩擦堅牢度等の物性にも優れた皮革用材を効率よくかつ確実に得ることを可能とする皮革用材の製造方法、並びに、その製造方法により得られる皮革用材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の水性ポリウレタン
樹脂、無機酸塩及び水を含む混合液を、繊維基材に含浸させた後に乾燥することにより、乾燥中に水性ポリウレタン樹脂がマイグレーションして偏在することなく、繊維基材の内部まで均一にポリウレタン樹脂が固着して柔軟な風合いと十分な物性を備える皮革用材が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の皮革用材の製造方法は、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、繊維基材に含浸させた後に乾燥して皮革用材を得ることを特徴とするものである。
【0021】
上記本発明にかかる混合液としては、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と(B)無機酸のアンモニウム塩との配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.1〜100:50であるものが好ましい。また、前記混合液としては、pHが5.0〜7.0であるものが好ましく、また、感熱凝固温度が30〜80℃であるものが好ましい。
【0022】
上記本発明にかかる(B)無機酸のアンモニウム塩における無機酸としては、硫酸及び/又はリン酸が好ましい。
【0023】
上記本発明にかかる(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂としては、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーを中和して水に自己乳化によって乳化分散せしめた後、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させて得られたカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂が好ましい。また、前記(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂としては、カルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計が0.5〜4.0質量%であるものが好ましい。
【0024】
さらに、本発明の皮革用材は、前記本発明の製造方法により得られることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、環境負荷やVOCの問題を考慮した水系ポリウレタン樹脂を用いた皮革用材の製造方法であるにも拘らず、十分にマイグレーションを防止することを可能とし、また、工程上発生するガスによる臭気および装置の腐食がなく、風合いが柔軟でかつ耐磨耗性や摩擦堅牢度等の物性にも優れた皮革用材を効率よくかつ確実に得ることを可能とする皮革用材の製造方法、並びに、その製造方法により得られる皮革用材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0027】
本発明の皮革用材の製造方法は、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、繊維基材に含浸させた後に乾燥して皮革用材を得ることを特徴とするものである。
【0028】
このような本発明にかかる(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂は、ウレタン樹脂骨格中に親水成分としてカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂である。このような(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂としては、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーを中和して水に自己乳化によって乳化分散せしめた後、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させて得られたカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂を好適に用いることができる。
【0029】
このような(a)有機ジイソシアネートとしては、特に制限はなく、2個のイソシアネート基を有する脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネートを使用することができる。このような(a)有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネート化合物、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物等を挙げることができる。これらのジイソシアネート化合物は1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。このような(a)有機ジイソシアネートの中でも、脂肪族ジイソシアネート化合物及び脂環式ジイソシアネート化合物は、無黄変性を皮革用材に与えるので好適に用いることができ、特にヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及び1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを好適に用いることができる。
【0030】
また、(b)ポリオールとしては、2個以上のヒドロキシル基を有するものであれば特に制限はなく、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール等の他、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルエステルポリオールも使用することができる。
【0031】
このようなポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)アジペート、1,6−ヘキサンジオールとダイマー酸の重縮合物、1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物、ノナンジオールとダイマー酸の重縮合物、エチレングリコールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物等を挙げることができる。
【0032】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。
【0033】
さらに、前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの単独重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体等を挙げることができる。
【0034】
また、このような(b)ポリオールは、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。更に、このような(b)ポリオールの平均分子量としては、500〜5000であることが好ましく、1000〜3000であることがより好ましい。また、得られるカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂によって皮革用材に十分な耐久性を付与できるという観点から、前述の(b)ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール又はポリエーテルポリオールを使用することが好ましい。
【0035】
また、(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸等を挙げることができる。更に、この様なカルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物として、カルボキシル基を有するジオールと、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等とを反応させて得られるペンダント型カルボキシル基を有するポリエステルポリオールを用いることもできる。なお、前記カルボキシル基を有するジオールに代えて、ジオール成分としてカルボキシル基を有さないジオールを混合して反応させても良い。また、このようなカルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0036】
また、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させてカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーを製造する際には、必要に応じて2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤を使用することができる。
【0037】
このような2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤としては、分子量が400以下のものが好ましく、特に300以下のものが好ましい。また、このような低分子量鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコール;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の低分子量ポリアミン等を挙げることができる。さらに、このような2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明において、カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーを製造する具体的な方法としては特に制限はなく、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法等により製造することができる。この時の反応温度は、40〜150℃であることが好ましい。また、このような反応の際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキサノエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の反応触媒を添加することができる。また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加することができる。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等を使用することができる。
【0039】
また、本発明において、カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和は、カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの調製前又は調製後に適宜公知の方法を用いて行うことができる。このようなカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和に用いる化合物には特に制限はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチル−ジエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミン、N,N−ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等を挙げることができる。このような前記化合物の中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類が特に好ましい。
【0040】
また、本発明において、カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させる際に用いる乳化機器に特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を挙げることができる。また、カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させる際には、カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、特に乳化剤を用いずに室温〜40℃の温度範囲で水に乳化分散させて、イソシアネート基と水との反応を極力抑えることが好ましい。更に、このように乳化分散させる際には、必要に応じて、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加することができる。
【0041】
さらに、本発明において、カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させた後、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させることで目的とする(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の乳化分散液を得ることができる。
【0042】
このような(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、ヒドラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、琥珀酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’−エチレンヒドラジン、1,1’−トリメチレンヒドラジン、1,1’−(1,4−ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体を挙げることができる。これらのアミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
また、本発明において、カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長反応は、前記カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の乳化分散物に、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を添加して行うことができる。また、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物に、前記カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物の乳化分散物を添加して行うこともできる。鎖伸長反応は、反応温度20〜40℃で行うことが好ましく、通常は30〜120分間で完結する。カルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーを製造する際に有機溶剤を使用した場合には、例えば、鎖伸長反応を終えた後、減圧蒸留等により有機溶剤を除去することが好ましい。
【0044】
本発明において、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の100%モジュラスの値としては、0.5〜20MPaであることが好ましく、2〜6MPaであることがより好ましい。100%モジュラスの値が前記下限未満の場合には、柔軟な風合いの皮革用材を得ることができるが、耐摩耗性が弱くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる皮革用材の風合いが硬く、繊維との密着性が低下する傾向にある。ここで、100%モジュラスの値は、JIS K 6251(2004)に準じてダンベル状3号形の試験片を用いて測定し、標線間距離が100%伸びたとき(2倍に伸びたとき)における所定伸び引張応力(MPa)の値である。
【0045】
また、本発明において、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計としては、0.5〜4.0質量%であることが好ましく、1.0〜2.0質量%であることがより好ましい。カルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計が前記下限未満の場合には、得られる(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の貯蔵安定性が悪くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、(B)無機酸のアンモニウム塩と混合した際に生じる感熱凝固温度が高くなり、皮革用材の製造の際にマイグレーション防止の効果が弱くなる傾向にある。
【0046】
本発明にかかる(B)無機酸のアンモニウム塩における無機酸としては、過塩素酸、炭酸、硫酸、過硫酸、亜硫酸、リン酸、硝酸等が挙げられる。このような無機酸の中でも、マイグレーション防止効果に優れることから硫酸及び/又はリン酸が好ましい。具体的な(B)無機酸のアンモニウム塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、過硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどが挙げられる。このような(B)無機酸のアンモニウム塩の中でも、取り扱いの安全性、乾燥中の揮発の問題、及び乾燥後の水洗によって容易に取り除くことができ皮革用材に残留することが少ないという観点から、硫酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム及びリン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を好適に用いることができる。また、リン酸水素ニアンモニウムは単独で使用することができるが、リン酸二水素アンモニウムはリン酸水素ニアンモニウムと併用して用いることが好ましい。
【0047】
本発明の皮革用材の製造方法において、(B)無機酸のアンモニウム塩を(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の乳化分散液に混合する際には、(B)無機酸のアンモニウム塩を固体(粉体)の状態で(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の乳化分散液に混合することも可能であるが、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の乳化分散液の安定性を保持するという観点から、(B)無機酸のアンモニウム塩を水溶液の状態で混合することが好ましい。
【0048】
このような(B)無機酸のアンモニウム塩の水溶液において、無機酸のアンモニウム塩の濃度は1〜50質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。前記水溶液における(B)無機酸のアンモニウム塩の濃度が前記下限未満の水溶液の場合、乾燥時のマイグレーション防止性を発揮させるためには、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の乳化分散液に混合する際に多量の前記水溶液を添加することが必要となり、それに伴って混合液中の(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂濃度が下がることになる。そのため、必要量のカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂を繊維基材に固着させるためには多量の混合液を繊維基材に含浸させることが必要となり、乾燥中に揮発させる水分量が多くなるため乾燥時間が長くなって経済性が悪くなってしまう傾向にある。一方、前記水溶液における(B)無機酸のアンモニウム塩の濃度が前記上限を超えると、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の乳化分散液との混合時に析出物が発生する等、乳化分散液の安定性を損なう傾向にある。
【0049】
また、本発明にかかる(C)水は、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂及び(B)無機酸のアンモニウム塩を混合する際に、溶媒としての役割を有するものであり、イオン交換水又は蒸留水を好適に用いることができる。
【0050】
本発明において、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を調製する方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を用いることができる。
【0051】
また、前記混合液において、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と(B)無機酸のアンモニウム塩との配合比としては、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.1〜100:50であることが好ましく、100:1〜100:40であることがより好ましい。前記配合比が、100:0.1を超えた場合、すなわち無機酸のアンモニウム塩の配合比が0.1より少ない場合には、乾燥工程においてマイグレーション防止効果が弱くなる傾向にあり、配合比が100:50未満の場合、すなわち無機酸のアンモニウム塩の配合比が50より多い場合には、夏場の気温雰囲気下において、混合液がゲル化してしまう傾向にある。なお、本発明における固形分とは、試料を温度105℃の条件下で3時間加熱した後の残分をいう。
【0052】
さらに、前記混合液の感熱凝固温度は30〜80℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましい。ここで感熱凝固温度とは、前記混合液50gを100mLのガラス製ビーカーに取り、内容物を撹拌しつつ、そのビーカーを95℃の熱水浴中で徐々に加熱し、内容物が流動性を失い凝固する時の温度である。感熱凝固温度が前記下限未満の場合には、夏場の気温雰囲気下において、混合液がゲル化してしまう傾向にあり、前記上限を超える場合には、感熱凝固がシャープに発現しないために、乾燥工程においてマイグレーション防止性が弱くなる傾向にある。
【0053】
また、前記混合液中の(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量としては、固形分の質量換算で5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量が前記下限未満であると、必要量のポリウレタン樹脂を固着させるためには繊維基材に対して多量の前記混合液を含浸させることになるため、乾燥で揮発させる水分量が多くなって乾燥時間が長くなり、経済性が悪くなる傾向にある。一方、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量が前記上限を超えると、前記混合液の安定性が悪くなる傾向にある。
【0054】
従来のカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂を含む混合液が酸性になると乳化安定性が低下するため、皮革用材の製造に使用することは困難であったが、本発明にかかる混合液は、pH値が酸性側(好ましくは5.0〜7.0、より好ましくは5.5〜6.8、特に好ましくは6.0〜6.5)にあってもカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の乳化が安定しており、皮革用材の製造に使用することが可能である。
【0055】
さらに、本発明にかかる繊維基材としては、特に限定されるものではなく、織物、編物又は不織布等を好適に用いることができる。このような繊維基材の素材としては、天然の皮革に近い風合い及び品位が得られるため、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維を使用したものが好適に用いられる。
【0056】
また、前記繊維基材として使用される前記不織布において、不織布の糸の太さは、得られる皮革用材の風合いが向上するという観点から、2.0dtex以下であることが好ましい。不織布の糸の太さが2.0dtexを超えると、皮革用材の風合いが粗硬となり品位が損なわれる傾向にある。
【0057】
また、このような不織布の密度としては、0.2〜0.7g/cmであることが好ましく、0.30〜0.55g/cmであることがより好ましい。不織布の密度が前記下限未満となると、得られる皮革用材の耐摩耗性が悪くなる傾向にあり、また、それを補うために多量のポリウレタン樹脂を固着させると、得られる皮革用材の風合いが粗硬となり品位が損なわれてしまう傾向にある。一方、不織布の密度が前記上限を超えると、得られる皮革用材の風合いが粗硬となり品位が損なわれる傾向にある。
【0058】
本発明の皮革用材の製造方法において、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液中には、本発明の目的を損なわない範囲で加工適性を付与するために各種の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、低級アルコール、グリコール系溶剤、アルコール系の非イオン界面活性剤、アセチレングリコール系の特殊界面活性剤、シリコーン系の界面活性剤、フッ素系の界面活性剤等の各種浸透剤;酸化防止剤、耐光安定化剤、紫外線防止剤等の各種安定化剤;鉱物油系、シリコーン系等の各種消泡剤;ウレタン化触媒、可塑剤、顔料等の着色剤、可使時間延長剤等が挙げられる。このような添加剤は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0059】
また、このような添加剤の中でも、特に浸透剤を添加することが好ましい。浸透剤を用いることで、前記繊維基材に前記混合液を速やかに含浸させることが可能となると共に、前記繊維基材にポリウレタン樹脂を均一に固着させる効果が得られるためである。このような浸透剤としては、一般に用いられているものであればよく特に制限されないが、低級アルコール、グリコール系溶剤、アルコール系の非イオン界面活性剤等を用いることが特に好ましい。
【0060】
また、本発明の皮革用材の製造方法においては、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液中に、本発明の目的を損なわない範囲で加工適性を付与するためにカルボキシル基と反応する架橋剤を添加することができる。このような架橋剤としては、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、水分散イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0061】
本発明の皮革用材の製造方法においては、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、織物、編物、不織布等の繊維基材に含浸させた後に乾燥する。
【0062】
前記繊維基材に前記混合液を含浸させる方法としては、特に制限はなく、例えば、dip−nip方式からなる含浸加工、噴霧処理等の従来より公知の方法が好ましく採用でき、前記混合液の濃度及び処理条件等も適宜選択することができる。なお、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、織物、編物、不織布等の繊維基材に含浸する前に、繊維基材に前処理を行うことができる。このような前処理工程においては、繊維基材とポリウレタン樹脂成分の接着力を調整するために、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等からなる高分子水溶液、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤等を用いて繊維基材を処理することが好ましい。
【0063】
また、本発明の皮革用材の製造方法において、前記混合液を繊維基材内部に含浸させた後に乾燥する方法としては、特に制限は無く、例えば、熱風を利用した乾式乾燥;ハイテンパルチャースチーマー(H.T.S.)、ハイプレッシャースチーマー(H.P.S.)を用いた湿式乾燥;マイクロ波照射式乾燥等を用いることができ、連続加工性の点で熱風を利用した乾式乾燥を好適に用いることができる。これらの乾燥方法は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、前記熱風を用いた乾式乾燥を用いる場合においては、その処理温度を60〜190℃とし、処理時間を1〜20分とすることが好ましく、特に、処理温度100〜170℃とし、処理時間を2〜5分とすることが好ましい。このような乾燥をすることにより、繊維基材内部にポリウレタン樹脂を固着させることができる。
【0064】
このようにして(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、繊維基材に含浸させた後に乾燥して、本発明の皮革用材を得ることができる。
【0065】
このような本発明の皮革用材において、皮革用材におけるポリウレタン樹脂等の固着固形分の量としては、特に制限されないが、皮革用材中に(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂に由来する成分が10〜90質量%、(B)無機酸のアンモニウム塩に由来する成分が0.5〜7.0質量%程度であることが好ましい。
【0066】
また、本発明の皮革用材は、染色することが可能である。このような染色方法には特に制限はなく、繊維基材にポリウレタン樹脂を固着させた後に染色を行う先含浸後染色方法、及び、繊維基材を染色した後にポリウレタン樹脂を固着させる後含浸先染色法の何れも行うことができる。
【0067】
さらに、本発明の皮革用材は、表皮層を形成させ、銀面付き皮革用材とすることもできる。このような表皮層を形成させる方法としては、従来公知のいずれの方法でもよく、特に制限されないが、例えば、離型紙に表皮層用材料を塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま本発明の皮革用材と貼り合わせて水分を蒸発、あるいは、水分の蒸発後に貼り合わせる離型紙転写法;離型紙に表皮層用材料を塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、熱により表皮層を本発明の皮革用材と貼り合わせる熱転写法;本発明の皮革用材上に直接表皮層用材料をスプレーするスプレー法;グラビアコーター、ナイフコーター、コンマコーター、エアナイフコーター等にて本発明の皮革用材上に表皮層用材料を塗布するダイレクトコート法等が挙げられる。このような表皮層を形成させる方法の中でも、得られる表皮層の物性面がより向上するという観点から、離型紙転写法が最も好ましい。このような離型紙転写法において使用される表皮層用材料と接着剤は、本発明の皮革用材と貼り合わせできるものであればいずれでも良いが、風合い面及び物性面からはポリウレタン樹脂が好ましく、また、VOCフリー及び環境負荷の面からは水性又は無溶剤系のものが望ましい。
【0068】
また、本発明の皮革用材はその用途として、車輌、家具、衣料、靴、鞄、袋物、サンダル、雑貨、研磨等の分野に使用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
なお、各実施例及び各比較例により得られた皮革用材は、下記の方法により評価した。
【0071】
(1)マイグレーション防止性
各実施例及び各比較例により得られた皮革用材について、走査型電子顕微鏡[Scanning
Electron Microscope S-2400(HITACHI)]を用いて皮革用材の断面を60倍の倍率で観察し、不織布の中央部に存在するポリウレタン樹脂の固着状態と不織布の表面部に存在するポリウレタン樹脂の固着状態とを比較して次の基準にしたがって評価した。
5級:皮革用材断面において、中央部と表面部とで、樹脂固着量に全く差異は認められず、マイグレーションが生じていない。
4級:皮革用材断面において、中央部と表面部とで、樹脂固着量に殆ど差異は認められず、マイグレーションが生じていない。
3級:皮革用材断面において、中央部と表面部とで、樹脂固着量にわずかに差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の10%部分には樹脂固着が認められない。
2級:皮革用材断面において、中央部と表面部とで、樹脂固着量にかなり差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の30%部分には樹脂固着が認められない。
1級:皮革用材断面において、中央部と表面部とで、樹脂固着量に著しく差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の50%部分には樹脂固着が認められない。
【0072】
(2)摩耗試験
各実施例及び各比較例により得られた皮革用材について、JIS L 1096(1999)のテーバー形法に準じ、テーバー摩耗試験機[安田精機製作所製]により、軟質輪CS−10を用い、荷重500gをかけ、1000回及び3000回摩耗させた後の、皮革用材の重量の減少量を摩耗量として示した。なお、摩耗量が少ないほど、皮革用材の耐摩耗性が優れていることとなる。
【0073】
(3)摩擦堅牢度
各実施例及び各比較例により得られた皮革用材について、JIS L 0849(2004)に準じて、学振型摩擦試験機[大栄化学精機製作所製]により、荷重200gをかけ、100回摩擦して、湿式摩擦堅牢度を測定した。前記摩擦堅牢度の測定は、綿金巾の汚染度を汚染用グレースケールを用いて比較して、次の基準にしたがって評価した。
5級:汚染が認められない。
4級:汚染がわずかに認められる。
3級:汚染が明瞭に認められる。
2級:汚染がやや著しく認められる。
1級:汚染が著しく認められる。
【0074】
(4)残留物の有無
各実施例及び各比較例により得られた皮革用材について、皮革用材中の不織布及びポリウレタン樹脂以外の成分(界面活性剤等の残留物)の含有量について、メタノールを抽出溶媒としたソックスレー抽出器にて、70℃で3時間抽出したときの抽出量を測定し、抽出量が1.0質量%以上のものを残留物有りとし、1.0質量%未満のものを残留物無しとして評価した。
【0075】
(5)風合い
触感により、次の基準にしたがって各実施例及び各比較例により得られた皮革用材の風合いを5級(柔軟)から1級(粗硬)の5段階で評価した。
5級:柔軟かつ反発弾性に極めて富んだ風合い。
4級:柔軟かつ反発弾性に富んだ風合い。
3級:柔軟ながらもやや反発弾性に欠ける風合い。
2級:やや粗硬かつペーパーライクな(紙のような)風合い。
1級:粗硬かつペーパーライクな(紙のような)風合い。
【0076】
(6)乾燥時の臭気
各実施例及び比較例において、熱風乾燥機にて乾燥を行った際のアンモニア及び酸の臭気を官能にて評価した。
A:臭気無し。
B:やや臭気有り。
C:鼻を突くような激しい臭気。
【0077】
[合成例及び比較合成例]
以下に、本発明に用いるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の合成例、及び比較例に用いる水性ポリウレタン樹脂の比較合成例を示す。
【0078】
(合成例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量2000)157.0g、ネオペンチルグリコール7.5g、トリメチロールプロパン1.3g、2,2−ジメチロールプロピオン酸9.5g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、イソホロンジイソシアネート69.7gを加え、80℃で300分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.9質量%のカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0079】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン6.8gを加え、40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水421.9gを徐々に加えてカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、60質量%の水加ヒドラジン5.2gとジエチレントリアミン1.1gとを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、35℃で60分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度120mPa・s(BM粘度計、2号ローター、60rpm)、pH値7.8、平均粒子径90nmの安定なカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0080】
このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計は1.3質量%であり、100%モジュラスの値は2MPaであった。また、このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性がないものであった。
【0081】
(合成例2)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量2000)178.0g、トリメチロールプロパン0.9g、2,2−ジメチロールプロピオン酸9.3g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート56.9gを加え、80℃にて420分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.2質量%のカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0082】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン6.7gを加え、40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水424.4gを徐々に加えてカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、60質量%の水加ヒドラジン3.3gとジエチレントリアミン0.7gとを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、35℃で60分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度70mPa・s(BM粘度計、1号ローター、60rpm)、pH値7.6、平均粒子径120nmの安定なカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0083】
このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計は1.3質量%であり、100%モジュラスは5MPaであった。また、このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性がないものであった。
【0084】
(合成例3)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、ポリテトラメチレングリコール(平均分子量2000)141.9g、2,2−ジメチロールプロピオン酸30.8g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、ヘキサメチレンジイソシアネート72.3gを加え、80℃で180分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が3.1質量%のカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0085】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン22.1gを加え、40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水402.6gを徐々に加えてカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、60質量%の水加ヒドラジン8.6gとジエチレントリアミン1.8gとを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、35℃で60分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度50mPa・s(BM粘度計、1号ローター、60rpm)、pH値7.9、平均粒子径150nmの安定なカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0086】
このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計は4.2質量%であり、100%モジュラスは8MPaであった。また、このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性がないものであった。
【0087】
(合成例4)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量2000)157.0g、ネオペンチルグリコール7.5g、トリメチロールプロパン1.3g、2,2−ジメチロールプロピオン酸9.5g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、イソホロンジイソシアネート69.7gを加え、80℃で300分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.9質量%のカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0088】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン8.6gを加え、40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水420.1gを徐々に加えてカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、60質量%の水加ヒドラジン5.2gとジエチレントリアミン1.1gとを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、35℃で60分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度180mPa・s(BM粘度計、2号ローター、60rpm)、pH値9.5、平均粒子径70nmの安定なカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0089】
このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計は1.3質量%であり、100%モジュラスは2MPaであった。また、このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性がないものであった。
【0090】
(合成例5)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量2000)146.1g、1,4−ブタンジオール2.9g、トリメチロールプロパン1.7g、2,2−ジメチロールプロピオン酸11.1g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート83.2gを加え、80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が3.8質量%のカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0091】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン7.9gを加え、40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水403.3gを徐々に加えてカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、60質量%の水加ヒドラジン7.7gとジエチレントリアミン1.3gとを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、35℃で60分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度40mPa・s(BM粘度計、1号ローター、60rpm)、pH値8.0、平均粒子径40nmの安定なカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0092】
このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計は1.5質量%であり、100%モジュラスは18MPaであった。また、このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性がないものであった。
【0093】
(合成例6)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量2000)134.3g、1,4−ブタンジオール3.5g、トリメチロールプロパン3.8g、2,2−ジメチロールプロピオン酸10.9g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート92.6gを加え、80℃で210分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が4.2質量%のカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0094】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン7.8gを加え、40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水405.0gを徐々に加えてカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、60質量%の水加ヒドラジン6.9gとジエチレントリアミン2.0gとを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、35℃で60分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度230mPa・s(BM粘度計、2号ローター、60rpm)、pH値8.7、平均粒子径90nmの安定なカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0095】
このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計は1.5質量%であり、100%モジュラスは23MPaであった。また、このカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性がないものであった。
【0096】
(比較合成例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、ポリテトラメチレングリコール(平均分子量1000)76.1g、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコールランダム共重合物グリコール(平均分子量1000、オキシエチレン基含有量70質量%)16.9g、1,4−ブタンジオール1.5g、トリメチロールプロパン1.9g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン60gを仕込み、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート40.4gを加え、80℃で300分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が2.1質量%のイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0097】
前記溶液を30℃以下に冷却した後、デシル燐酸エステル0.1g及びポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル(HLB=15)6.0gを添加し、均一に混合した後、ディスパー羽根を用いて水254.0gを徐々に加えて転相乳化、分散を行い分散液を得た。そして、ピペラジン6水和物2.0gとジエチレントリアミン0.8gとを水11.3gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、35℃で90分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度50mPa・s(BM粘度計、1号ローター、60rpm)、pH値8.0、平均粒子径550nmの安定な水性ポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0098】
この水性ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計は0.0質量%であり、100%モジュラスは2MPaであった。また、この水性ポリウレタン樹脂の水分散物は、45℃にてゲル化が生じ、感熱凝固性を有するものであった。
【0099】
以下、表1に合成例1〜6、比較合成例1の性状をまとめて示す。
【0100】
【表1】

【0101】
[実施例1〜10及び比較例1〜6]
(実施例1)
合成例1で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの20質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:10であり、pH値は6.2、感熱凝固温度は57℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0102】
この混合液を、ポリエステル繊維からなる不織布(0.5dtex、密度0.3g/cm)に、スリットマングルを用いて、ピックアップ250質量%となるように含浸させた後、熱風乾燥機[TABAI SAFETYOVEN SPH-200]にて、100℃で3分間、次いで150℃で3分間乾燥を行い、人工皮革を得た。更に、得られた人工皮革(皮革用材)を、下記条件下で染色し、RCソーピングを行い、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0103】
<染色条件>
染色機:ミニカラー染色機[(株)テキサム技研]
染料:Kayalon Microester Blue DX-LS conc[日本化薬(株)] 0.10%o.w.f.
Kayalon Maicroester Yellow DX-LS[日本化薬(株)] 2.00%o.w.f.
Kayalon Maicroester Red DX-LS [日本化薬(株)] 0.80%o.w.f.
染色助剤:ニッカサンソルトRM−340[日華化学(株)] 0.5g/L
pH調整剤:90%質量酢酸 0.3cc/L
浴比:(1:20)
染色条件:130℃×60分間(昇温速度2℃/分)。
【0104】
<RC条件>
RC浴:水酸化ナトリウム 2g/L
ハイドロサルファイト 2g/L
浴比:(1:20)
RC条件:80℃×20分間(昇温速度2℃/分)。
【0105】
(実施例2)
合成例1で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの30質量%水溶液23.3g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水10.7gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:20であり、pH値は6.0、感熱凝固温度は45℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0106】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0107】
(実施例3)
合成例1で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの40質量%水溶液30.6g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水31.4gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:35であり、pH値は5.8、感熱凝固温度は59℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は21質量%であった。
【0108】
このような混合液をピックアップ300質量%となるように含浸させたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0109】
(実施例4)
合成例1で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの40質量%水溶液1.8g、水1.8gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:2であり、pH値は6.8、感熱凝固温度は70℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は34質量%であった。
【0110】
このような混合液をピックアップ185質量%となるように含浸させたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0111】
(実施例5)
合成例2で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの20質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:10であり、pH値は6.3、感熱凝固温度は55℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0112】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0113】
(実施例6)
合成例3で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの20質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:10であり、pH値は6.2、感熱凝固温度は52℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0114】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0115】
(実施例7)
合成例4で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの20質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:10であり、pH値は6.2、感熱凝固温度は66℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0116】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0117】
(実施例8)
合成例1で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、リン酸水素二アンモニウム/リン酸二水素アンモニウム(質量比50/50)の20質量%水溶液17.5g、カルボジライトE−02[カルボジイミド系架橋剤、商品名、日清紡(株)製]1.0g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水15.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と無機酸アンモニウム塩の配合比は100:10であり、pH値は6.3、感熱凝固温度は45℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0118】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0119】
(実施例9)
合成例5で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの20質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:10であり、pH値は6.3、感熱凝固温度は55℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0120】
このような混合液をピックアップ125質量%となるように含浸させたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0121】
(実施例10)
合成例6で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの20質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸アンモニウムの配合比は100:10であり、pH値は6.2、感熱凝固温度は50℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0122】
このような混合液をピックアップ125質量%となるように含浸させたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0123】
(比較例1)
合成例1で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水34.0gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と無機酸のアンモニウム塩の配合比は100:0であり、pH値は7.5、感熱凝固温度は90℃以上、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0124】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0125】
(比較例2)
合成例1で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸の10質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と硫酸の配合比は100:5であり、感熱凝固温度は10℃以下、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0126】
なお、前記混合液は、硫酸の10質量%水溶液を添加した際に、瞬時に混合液から析出物が見られたため、人工皮革染色加工布の製造は断念した。また、pHの測定の困難であった。
【0127】
(比較例3)
比較合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散物100g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水34.0gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液における水性ポリウレタン樹脂と無機酸のアンモニウム塩の配合比は100:0であり、pH値は8.0、感熱凝固温度は45℃、水性ポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0128】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0129】
(比較例4)
比較合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散物100g、硫酸アンモニウムの20質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液における水性ポリウレタン樹脂と無機酸のアンモニウム塩の配合比は100:10であり、pH値は6.5、感熱凝固温度は45℃、水性ポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0130】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0131】
(比較例5)
比較合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散物100g、塩化カルシウムの10質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液における水性ポリウレタン樹脂と塩化カルシウムの配合比は100:5であり、pH値は8.1、感熱凝固温度は35℃、水性ポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0132】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0133】
(比較例6)
合成例1で得られたカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の水分散物100g、蟻酸アンモニウムの10質量%水溶液17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調製した。前記混合液におけるカルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と蟻酸アンモニウムの配合比は100:5であり、pH値は7.9、感熱凝固温度は45℃、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の含有量は25質量%であった。
【0134】
このような混合液を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)を得た。
【0135】
実施例1〜10で得られた人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)の評価結果を表2に、比較例1、3〜6で得られた人工皮革染色加工布(染色加工した皮革用材)の評価結果を表3に示す。
【0136】
【表2】

【0137】
【表3】

【0138】
実施例1〜9で得られた皮革用材においては、マイグレーションは認められず、不織布内部まで樹脂が均一に固着していた。このようにマイグレーションを防止することで、風合いが非常に柔軟であり、耐摩耗試験における1000回、3000回での摩耗量がほとんど変わらない優れた耐摩耗性を示す皮革用材が得られることが確認された。カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂の100%モジュラスが大きい場合(実施例10)には、風合いが粗硬いものであり、3000回の耐摩耗試験においてはやや劣るが、マイグレーション防止性に優れており、風合いが重視されないような場合には十分に使用に足るものである。また、実施例1〜10で得られた皮革用材においては、皮革用材内に残る残留物が極めて少ないことが確認され、残留物による摩擦堅牢度への影響も少ないことが分かった。
【0139】
一方、無機酸のアンモニウム塩を含まず、カルボキシル基及びカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂のみを用いた比較例1で得られた皮革用材においては、乾燥時に著しいマイグレーションが認められ、風合いが粗硬であった。更に、比較例1で得られた皮革用材の耐摩耗性試験において、1000回摩耗させた場合には耐摩耗性が良好なものの、3000回摩耗させた場合には著しい摩耗量が見られ、耐摩耗性が不十分であることが確認された。
【0140】
また、比較例2においては、無機酸のアンモニウム塩の代わりに、硫酸水溶液を用いたが、混合液がゲル化してしまったため皮革用材の製造ができず、加工適性が不十分であることが確認された。
【0141】
また、無機酸のアンモニウム塩を用いずに、界面活性剤にて乳化し得られた感熱凝固性を有する水性ポリウレタン樹脂のみを用いた比較例3で得られた皮革用材においては、感熱凝固性を有しながらも、乾燥時に著しくマイグレーションが認められた。また、比較例3で得られた皮革用材は、風合いが粗硬であり、耐摩耗性試験において、1000回摩耗させた場合には耐摩耗性が良好なものの、3000回摩耗させた場合には著しい摩耗量が見られ、耐摩耗性が不十分であることが確認された。
【0142】
さらに、界面活性剤にて乳化し得られた感熱凝固性を有する水性ポリウレタン樹脂と無機酸のアンモニウム塩とを用いた比較例4で得られた皮革用材においては、比較例3で得られた皮革用材と同様な結果が認められ、界面活性剤にて乳化し得られた感熱凝固性を有する水性ポリウレタン樹脂に対しては、無機酸のアンモニウム塩によるマイグレーション防止等の効果が得られないことが確認された。
【0143】
また、無機酸のアンモニウム塩の代わりに、塩化カルシウム水溶液を用い、界面活性剤にて乳化し得られた水性ポリウレタン樹脂と混合した混合液を用いた比較例5で得られた皮革用材においては、塩化カルシウム水溶液により感熱凝固温度が下がり、ややマイグレーション防止性は向上していたが、実施例1〜10で得られた皮革用材と比較した場合、マイグレーション防止性は不十分であった。また、比較例5で得られた皮革用材は、風合いが粗硬であり、更に、耐摩耗性試験において、1000回摩耗させた場合には耐摩耗性が良好なものの、3000回摩耗させた場合には著しい摩耗量が見られ、耐摩耗性が不十分であることが確認された。また、皮革用材内に界面活性剤が残留していることが確認され、残留物による摩擦堅牢度への影響が大きいことが確認された。
【0144】
さらに、無機酸のアンモニウム塩の代わりに、蟻酸アンモニウム塩からなる水溶液を用いた比較例6で得られた皮革用材においては、マイグレーション防止性、耐摩耗性、摩擦堅牢度、残留物、風合いの面では優れるものの、乾燥時に蟻酸アンモニウムの分解・揮発による激しい臭気が確認された。また、このとき発生した蟻酸は装置の腐食の原因であり、さらに、蟻酸及びアンモニアガスが大気中へ放出されれば、環境問題となりうる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上説明したように、本発明によれば、環境負荷やVOCの問題を考慮した水系ポリウレタン樹脂を用いた皮革用材の製造方法であるにも拘らず、十分にマイグレーションを防止することを可能とし、また、工程上発生するガスによる臭気および装置の腐食がなく、風合いが柔軟でかつ耐磨耗性や摩擦堅牢度等の物性にも優れた皮革用材を効率よくかつ確実に得ることを可能とする皮革用材の製造方法、並びに、その製造方法により得られる皮革用材を提供することが可能となる。
【0146】
したがって、本発明の製造方法は、特に皮革用材の工業的な製造方法として有用であり、また、本発明の製造方法により得られた皮革用材は、皮革用材中に有機溶剤が残留することもなく、皮膚障害等の人体への悪影響も解消されているため、車輌、家具、衣料、鞄、靴、袋物、雑貨、研磨等の産業分野においてそのまま利用することができ、更には、表皮層を設けて安定かつ品位に優れた皮革用材としても利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、繊維基材に含浸させた後に乾燥して皮革用材を得ることを特徴とする皮革用材の製造方法。
【請求項2】
前記混合液において、(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂と(B)無機酸のアンモニウム塩との配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.1〜100:50であることを特徴とする請求項1に記載の皮革用材の製造方法。
【請求項3】
(B)無機酸のアンモニウム塩における無機酸が、硫酸及び/又はリン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の皮革用材の製造方法。
【請求項4】
(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液のpHが5.0〜7.0であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の皮革用材の製造方法。
【請求項5】
(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂、(B)無機酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液の感熱凝固温度が30〜80℃であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の皮革用材の製造方法。
【請求項6】
(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂が、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーを中和して水に自己乳化によって乳化分散せしめた後、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させて得られたカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の皮革用材の製造方法。
【請求項7】
(A)カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有するポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量とカルボキシレート基含有量の合計が、0.5〜4.0質量%であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の皮革用材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の製造方法により得られることを特徴とする皮革用材。

【公開番号】特開2011−42896(P2011−42896A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191114(P2009−191114)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】