説明

皮革素材およびその製造方法

【課題】
天然皮革様の触感や風合い、凹凸模様を有し、細やかなシワ表現が可能で、凹凸模様の消失や型流れがなく、しかも耐摩耗性および耐熱性に優れた皮革素材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
厚さ200〜1000μmの銀面層を有する天然皮革の表面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、凹凸模様を有する厚さ50〜300μmの発泡層が積層され、さらにその表面に厚さ10〜100μmの保護層が、発泡層が有する凹凸模様を消失させること無く積層されていることを特徴とする皮革素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触感や風合い、シワ表現、凹凸模様の耐久性、耐摩耗性、耐熱性などの諸特性に優れ、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両用内装材などの部材として好適に用いられる皮革素材、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然皮革は、高級感のある素材として、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両用内装材など様々な分野で用いられている。天然皮革は触感がしなやかで、風合いが柔らかである反面、耐摩耗性が悪いという問題があり、これを改善するため、皮革表面を保護層で被覆することが通常行われている。具体的には例えば、天然皮革の銀面層表面にバフ加工を施した後、ポリウレタン樹脂やアクリル樹脂(通常は水系)を塗布して保護層を形成する。これにより天然皮革の表面に本来存在しているシボが消失するため、保護層の形成に引き続き、シボ風の凹凸模様が彫刻されたロールによりエンボス加工を施して、皮革表面に凹凸模様を付与する。
【0003】
しかしながら、上記方法により得られた皮革素材は、樹脂が銀面層に浸透して天然皮革の触感や風合いが粗硬になるという問題があった。また、エンボス加工は、加熱された型を天然皮革に押し当て、部分的に天然皮革を圧縮することによって凹凸模様を付与するものであるため、保護層を形成する樹脂に軟化温度の高い樹脂を選択すると、加熱押圧時の温度条件を高くする必要があり、熱によって天然皮革の触感や風合いがさらに粗硬になるという問題があり、一方、軟化温度の低い樹脂を選択すると、耐熱性が得られないという問題があった。このように、触感や風合いと耐熱性を両立させることは困難であった。さらに、エンボス加工によって付与された凹凸模様は、天然皮革本来の厚みに戻ろうとする復元力により、凹部は徐々にその形状を保つことができなくなり、経時により凹凸模様が消失するという問題や、皮革素材に張力が加わった場合に凹凸模様が消失するという型流れの問題があった。
【0004】
一方、耐摩耗性の高い皮革素材の一つとして、天然皮革をスライスして銀面層を有する皮革部分を分離した残りの部分である床革の表面に、表皮層を形成してなる、所謂スプリットレザーが知られている(例えば、特許文献1)。具体的には例えば、凹凸模様を有する離型紙にポリウレタン系樹脂液(通常は溶剤系一液型)を塗布し、乾燥して得られる表皮層を、ポリウレタン系樹脂接着剤(通常は溶剤系。一液型、二液型のいずれでもよい)を介して、バフ加工を施した床革の表面に貼り合わせることにより製造される。このようなスプリットレザーは、表皮層を形成する樹脂に耐摩耗性や耐熱性の高い樹脂を選択することにより、これらの物性を満足することが可能である。しかしながら、床革の触感や風合いは、銀面層を有する天然皮革のそれと比較して劣る上、床革表面の凹凸による悪影響を排除するため表皮層の厚さをある程度大きくする必要があり、さらには接着剤が床革に浸透して、触感や風合いがさらに粗硬になるという問題があった。また、銀面層を欠くため、天然皮革特有の細やかなシワが入り難く、シワ表現に乏しいものであった。このため、スプリットレザーは、天然皮革の一部を基材としながらも、高級感に乏しく、商品価値の低いものであった。
【0005】
このように、触感や風合い、シワ表現、凹凸模様の耐久性、耐摩耗性、耐熱性の全てに優れた皮革素材は得られていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開平7−150479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、天然皮革様の触感や風合い、凹凸模様を有し、細やかなシワ表現が可能で、凹凸模様の消失や型流れがなく、しかも耐摩耗性および耐熱性に優れた皮革素材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は第1に、厚さ200〜1000μmの銀面層を有する天然皮革の表面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、凹凸模様を有する厚さ50〜350μmの発泡層が積層され、さらにその表面に厚さ10〜100μmの保護層が、発泡層が有する凹凸模様を消失させること無く積層されていることを特徴とする皮革素材である。
ポリウレタン樹脂の軟化温度は130〜240℃であることが好ましい。
天然皮革のマルテンス硬さは0.7〜2.0N/mmであることが好ましく、発泡層のマルテンス硬さは0.5〜2.5N/mmであることが好ましく、さらに、発泡層のマルテンス硬さと天然皮革のマルテンス硬さとの差は−0.5〜0.5N/mmであることが好ましい。
本発明は第2に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の混合物を、凹凸を有する離型性基材に塗布した後、前記混合物が粘稠性を有する状態のうちに、バフ加工を施した天然皮革の銀面層表面に貼り合わせ、エージング処理して発泡層を形成した後、離型性基材を剥離し、発泡層の表面に樹脂を塗布し、熱処理して保護層を形成することを特徴とする、皮革素材の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、天然皮革様の触感や風合い、凹凸模様を有し、細やかなシワ表現が可能で、凹凸模様の消失や型流れがなく、しかも耐摩耗性および耐熱性に優れた皮革素材、およびその製造方法を提供することができる。本発明の皮革素材は、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両用内装材などの部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の皮革素材は、厚さ200〜1000μmの銀面層を有する天然皮革の表面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、凹凸模様を有する厚さ50〜350μmの発泡層が積層され、さらにその表面に厚さ10〜100μmの保護層が、発泡層が有する凹凸模様を消失させること無く積層されていることを特徴とするものである。銀面層を有する天然皮革を基材とすることで、触感や風合い、シワ表現など天然皮革特有の持ち味を生かすとともに、その表面に、耐摩耗性および耐熱性に優れた樹脂層を積層することで、天然皮革の弱点である物性を補い、しかも樹脂層を発泡させることで、天然皮革特有の持ち味を高度に再現して、基材である天然皮革との調和を図っている。そして、予め凹凸模様が形成された発泡層を積層することで凹凸模様の耐久性を得、最外層に保護層を設けることで耐摩耗性をさらに高めている。
【0011】
本発明に用いられる天然皮革としては、牛、馬、豚、山羊、羊、鹿、カンガルーなどの哺乳類革、ダチョウなどの鳥類革、ウミガメ、オオトカゲ、ニシキヘビ、ワニなどの爬虫類革など従来公知の天然皮革を挙げることができる。なかでも、汎用性が高く面積が大きい牛革が好ましい。
【0012】
上記天然皮革の原皮は、通常、鞣、再鞣、中和、染色、加脂、乾燥の各工程を経ることにより、クラストと称される半製品状態の皮革となる。次いで、得られた半製品状態の皮革の銀面層表面にバフ加工を施す。バフ加工は、銀面層の表層を削り取ることで皮革表面を滑らかにし、個体差や部位差、虫食い、引っかき傷など、外観品位に影響を及ぼす要素を取り除き、均一化するために行われる。また、バフ加工により銀面層表面の繊維が毛羽立つため、この上に積層される発泡層に対してアンカー効果が働き、耐摩耗性を向上させる効果もある。
【0013】
バフ加工においては、サンドペーパーのペーパーメッシュや、サンドペーパーと天然皮革との接触回数などの諸条件を選択することにより、銀面層の状態を適宜設定することが可能である。バフ加工の度合いは、皮革表面の傷などの状態によって異なるが、銀面層の表層を10〜100μm削り取る程度に施すことが好ましい。削り取られる銀面層の厚さが10μm未満であると、皮革表面の傷などが外観品位に影響を及ぼす虞がある。この厚さが100μmを超えると、銀面層が大きく破壊され、触感や風合い、シワ表現など天然皮革特有の持ち味が損なわれる虞がある。より好ましくは、銀面層の表層を50〜100μm削り取るようにバフ加工を施す。
【0014】
バフ加工後の銀面層の厚さは用いる天然皮革の種類によって異なるが、200〜1000μmとすることが肝要である。厚さが200μm未満であると、銀面層が大きく破壊され、触感や風合い、シワ表現など天然皮革特有の持ち味が損なわれる虞がある。厚さが1000μmを超えると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。好ましい厚さの範囲は200〜400μmである。
【0015】
銀面層の厚さが200〜1000μmである限り、天然皮革全体の厚さは特に限定されない。採用する天然皮革の種類により天然皮革全体の厚さは異なるが、例えば成牛皮の場合、通常、1000〜1600μmの範囲である。
【0016】
また、天然皮革のマルテンス硬さは0.7〜2.0N/mmであることが好ましく、より好ましくは0.9〜1.3N/mmである。ここでマルテンス硬さとは、圧子を、荷重をかけながら被測定物に押し込むことにより求められる、ISO14577に規定される物性値で、非常に柔軟な膜や、厚みが薄い膜などに対し精度の高い測定値が得られることから、近年、注目を集めているものである。後述するように、本発明においては、発泡層(厚さ50〜350μm)のマルテンス硬さとの差が特定範囲にあることが好ましく、このような皮膜の硬度測定に威力を発揮する。マルテンス硬さの測定は、例えば、超微小硬度計、フィッシャースコープPICODENTOR HM500(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)など、市販の装置を用いて行うことができる。
【0017】
具体的には、圧子を、試験荷重F[N]をかけながら被測定物表面に押し込み、その押し込み量h[mm]と圧子形状から、圧子が進入した表面積As(h)[mm]を求め、以下の式1によりマルテンス硬さHM[N/mm]を求める。
〔式1〕
HM=F/As(h)
【0018】
本発明におけるマルテンス硬さの測定では、上記PICODENTOR HM500を使用し、10秒かけて最大荷重1.000mNとなるようにビッカース圧子を被測定物表面に押し込み、そのまま試験荷重を5秒間保持し、その後同様に荷重を減少させる条件を採用した。ビッカース圧子を用いた場合の表面積の算出式は式2の通りである。
〔式2〕
As(h)=k×h
=26.43×h
k:圧子固有の係数
h:圧子の押し込み量
また、被測定物としては、所望の厚さの天然皮革を用いた。
【0019】
マルテンス硬さが0.7N/mm未満であると、耐摩耗性が悪くなる虞がある。マルテンス硬さが1.5N/mmを超えると、触感や風合いが粗硬になり、シワ表現に乏しくなる虞がある。
【0020】
本発明の皮革素材は、上記天然皮革の銀面層表面に、第1の樹脂層として、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、凹凸模様を有する厚さ50〜350μmの発泡層が積層されたものである。耐摩耗性および耐熱性に優れたポリウレタン樹脂を選択することにより、皮革素材に耐摩耗性および耐熱性を付与することができる。また、樹脂層の厚さを特定の範囲とすることにより、天然皮革基材が有する触感や風合い、シワ表現など特有の持ち味を損なうことがない。さらに、樹脂層を発泡層とすることにより、樹脂特有のゴム弾性が緩和されてゴムのような触感がなくなるとともに、天然皮革の銀面層に近い密度勾配となるため、それ自身が天然皮革様の触感や風合い、シワ表現を具備することができる。このように、本発明の皮革素材が有する天然皮革様の触感や風合い、シワ表現は、天然皮革素材と発泡層の双方の要素が調和して達成されるものである。
【0021】
ポリウレタン樹脂は、周知の通り、ウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称であり、一般にポリオールとポリイソシアネートを反応(架橋・硬化反応)させることによって製造される。ポリオールとポリイソシアネートの反応をほぼ完結させ、ポリマー化した状態で(すなわち、ポリウレタン樹脂として)提供される一液型に対し、二液硬化型は、使用時にポリオールとポリイソシアネートを反応させるもので、通常、ポリオールとポリイソシアネートの反応を適当なところで止めたウレタンプレポリマー(主剤)と、ウレタン硬化剤の二液からなる。発泡層を構成するポリウレタン樹脂は、この二液硬化型ポリウレタン樹脂に分類される。また、ウレタンプレポリマーが有するホットメルト性は、分子構造に起因する性質で、常温では固体ないしは基材に塗布困難な程度に粘稠な状態であるが、熱を加えると溶融して液状になり、冷却により再度凝集力が発現する性質をいう。
【0022】
発泡層の形成に用いられるホットメルトウレタンプレポリマーは、ホットメルト性であるが故に、銀面層への滲み込みが少なく、天然皮革の触感や風合いが粗硬になることがない。また、ウレタン硬化剤と反応してポリウレタン樹脂を形成する二液硬化型であるが故に、一液型と比較して低い温度で加工に適した粘性が得られるため、熱によって天然皮革の触感や風合いが粗硬になることもない。それでいて硬化後の軟化温度は高く、耐熱性に優れている。
【0023】
本発明において、発泡層は、ホットメルト性を有するウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤を適宜混合したもの(以下、「プレポリマー/硬化剤混合物」と表記する場合がある)を、凹凸模様を有する離型性基材に塗布した後、天然皮革の銀面層表面に貼り合わせ、エージング処理することにより形成される。
【0024】
ホットメルトウレタンプレポリマーは、上記の通り、ポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られ、製造時のポリオールとポリイソシアネートの比率によって、分子末端に水酸基を有するホットメルトウレタンポリオールプレポリマーと、分子末端にイソシアネート基を有するホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーの2つがある。各々に対応するウレタン硬化剤は、ポリイソシアネートとポリオールである。
【0025】
ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の硬化反応を以下の式(I)に示す。結局のところ、この反応はポリオールの水酸基とポリイソシアネートのイソシアネート基の反応として示される。また、イソシアネート基は水酸基との反応以外に、大気中の水分と反応し、アミン化合物と炭酸ガスを生成(以下の式(II))、さらに、反応生成物と連鎖的に反応していく(以下の式(III)および(IV))。
式(II)で発生する炭酸ガスにより、樹脂層には多数の孔が形成され、発泡層が形成される。
【0026】
【化1】

【0027】
ホットメルトウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なポリオールは特に限定されるものでなく、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油ポリオール、シリコーン変性ポリオールなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールまたはポリカーボネートポリオールが好ましい。また、耐光性および耐熱性の点からはポリカーボネートポリオールがより好ましく、触感や風合いの点からはポリエーテルポリオールがより好ましい。
【0028】
一方、ホットメルトウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なポリイソシアネートも特に限定されるものでなく、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートあるいは脂環族ジイソシアネート、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の2量体および3量体を含むポリメリックMDIなどを挙げることができる。なかでも、硬化反応のコントロールが容易であるという点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0029】
本発明に用いられるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーは、上記ポリオールとポリイソシアネートとを、ポリオールが有する水酸基が、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基に対して過剰となる条件で反応させることにより得ることができる。この際、水酸基/イソシアネート基の当量比は1.1〜2.5であることが好ましく、より好ましくは1.2〜2.0である。当量比が1.1未満であると、プレポリマーの両末端を水酸基とすることが難しく、プレポリマーに残存するイソシアネート基が周囲の湿気と反応することにより分子量が増加し、粘度が増加する結果、作業性が悪くなる虞がある。当量比が2.5を超えると、プレポリマーとウレタン硬化剤を反応させる際、未反応の水酸基が残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性が不良となる虞がある。
【0030】
一方、本発明に用いられるホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーは、上記ポリオールとポリイソシアネートとを、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基が、ポリオールが有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させることにより得ることができる。この際、イソシアネート基/水酸基の当量比は1.1〜5.0であることが好ましく、より好ましくは1.5〜3.0である。当量比が1.1未満であると、プレポリマーに水酸基が残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂において加水分解が起こり易く、物性が不良となる虞がある。当量比が5.0を超えると、安定性が悪く、硬化反応のコントロールが不可能となる虞がある。
【0031】
本発明に用いられるホットメルトウレタンプレポリマーを製造するには、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、ポリイソシアネートに水分を除去したポリオールを滴下、または水分を除去したポリオールにポリイソシアネートを混合後、加熱してバッチ方式で反応させる方法、あるいは水分を除去したポリオールとポリイソシアネートをそれぞれ加熱して、所定の比率で押出機に投入して連続押出反応方式で反応させる方法などを採用することができる。
【0032】
かくして得られるホットメルトウレタンプレポリマーの軟化温度は、20〜100℃であることが好ましく、より好ましくは40〜70℃である。軟化温度が20℃未満であると、硬化して得られるポリウレタン樹脂の軟化温度が低く、十分な耐熱性が得られなかったり、強度が不十分となったりする虞がある。軟化温度が100℃を超えると、加工に適した粘性を得るのに高温を要し、作業性が悪くなるとともに、天然皮革の触感や風合いが硬化する虞がある。なお、本明細書において、軟化温度は、DSC熱分析機を用いて示差走査熱分析法により測定した。
【0033】
次に、本発明に用いられるウレタン硬化剤について説明する。
ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを用いる場合には、ウレタン硬化剤としてポリイソシアネートを用い、ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いる場合には、ウレタン硬化剤としてポリオールを用いる。
【0034】
ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーに対して使用可能なウレタン硬化剤、すなわちポリイソシアネートは特に限定されるものではなく、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート、カルボジイミド基を含むポリイソシアネート、アルファネート基を含むポリイソシアネート、イソシアヌレート基を含むポリイソシアネートなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも硬化反応のコントロールが容易であるという点では4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましく、硬化して得られるポリウレタン樹脂の黄変が少ないという点では脂肪族系のポリイソシアネートが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートがより好ましい。
【0035】
さらに、ウレタン硬化剤として、上述のポリイソシアネート以外に、ポリオールとポリイソシアネートを、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基が、ポリオールが有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させることにより得られる化合物を用いることができる。この化合物は、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーとしてポリウレタン樹脂を形成する際の主剤ともなり得るもので、ホットメルト性を有するものは、本発明におけるホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーとしても使用可能である。かかるウレタンポリイソシアネートプレポリマーをウレタン硬化剤として用いることにより、ウレタン硬化剤としての働きに加えて、鎖伸長剤としての効果が得られるため、硬化して得られるポリウレタン樹脂の柔軟性を向上させることができる。
【0036】
一方、ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーに対して使用可能なウレタン硬化剤、すなわちポリオールも特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油ポリオール、シリコーン変性ポリオールなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールまたはポリカーボネートポリオールが好ましい。また、耐光性および耐熱性の点からはポリカーボネートポリオールがより好ましく、触感や風合いの点からはポリエーテルポリオールがより好ましい。
【0037】
さらに、ウレタン硬化剤として、上述のポリオール以外に、ポリオールとポリイソシアネートを、ポリオールが有する水酸基が、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基に対して過剰となる条件で反応させることにより得られる化合物を用いることができる。この化合物は、ウレタンポリオールプレポリマーとしてポリウレタン樹脂を形成する際の主剤ともなり得るもので、ホットメルト性を有するものは、本発明におけるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとしても使用可能である。かかるウレタンポリオールプレポリマーをウレタン硬化剤として用いることにより、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーに対するウレタン硬化剤としてウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いる場合と同様の効果を得ることができる。
【0038】
次に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤を反応させる際の当量比について説明する。
ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを用い、ウレタン硬化剤としてポリイソシアネートを用いる場合のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.95〜2.0であることが好ましく、より好ましくは1.1〜1.3である。当量比が0.95未満であると、未反応のプレポリマーが残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性が不良となる虞がある。当量比が2.0を超えると、硬化反応が進みすぎて触感や風合いが粗硬になる虞がある。このとき、プレポリマー100重量部に対するウレタン硬化剤の使用量は、プレポリマーやウレタン硬化剤の分子量にもよるが、通常3〜50重量部、好ましくは5〜40重量部である。
【0039】
一方、ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用い、ウレタン硬化剤としてポリオールを用いる場合のイソシアネート基/水酸基の当量比は、1.1〜10であることが好ましく、より好ましくは1.2〜3.0である。当量比が1.1未満であると、未反応のウレタン硬化剤が残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性が不良となる虞がある。当量比が10を超えると、硬化反応が進みすぎて触感や風合いが粗硬になる虞がある。このとき、プレポリマー100重量部に対するウレタン硬化剤の使用量は、プレポリマーやウレタン硬化剤の分子量にもよるが、通常3〜50重量部、好ましくは10〜30重量部である。
【0040】
プレポリマー/硬化剤混合物には、必要に応じて、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、ウレタン化触媒、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、工程負荷の軽減や皮革素材の物性向上のために、ウレタン化触媒を用いることが好ましい。
【0041】
ホットメルトウレタンプレポリマーの加熱溶融温度は、軟化温度よりも好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜60℃高い温度に設定される。加熱溶融温度がプレポリマーの軟化温度より10℃未満で高い温度であると、プレポリマーの粘度が高く、塗布時の作業性が悪くなる虞がある。加熱溶融温度がプレポリマーの軟化温度よりも80℃を超えて高い温度であると、硬化反応のコントロールが不可能となる虞がある。加熱溶融温度は通常、30〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲で設定される。なお、プレポリマーの加熱溶融は、温度制御可能な原料タンクにて行われる。
【0042】
加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の混合には、加熱保温できる構造のミキシングヘッドが用いられ、両者を所定の比率で混合、撹拌した後、塗布装置に供給される。
【0043】
プレポリマー/硬化剤混合物を離型性基材に塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、ロールコーター、スプレーコーター、T−ダイコーター、ナイフコーターまたはコンマコーターなどを用いて離型性基材に塗布する。なかでも均一な薄膜層の形成が可能という点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。
【0044】
プレポリマー/硬化剤混合物の塗布厚は25〜300μmであることが好ましく、より好ましくは50〜200μmである。塗布厚をこの範囲に設定することにより、塗布厚の1.1〜2倍、好ましくは1.2〜1.5倍の厚さを有する発泡層を得ることができ、50〜350μm、好ましくは100〜200μmの厚さ(後述する)を有する発泡層となる。
【0045】
本発明に用いられる離型性基材は特に限定されるものでなく、凹凸模様を有し、かつ、ポリウレタン樹脂に対して離型性を有する基材、あるいは離型処理を施した基材であればよく、例えば、離型紙、離型処理布、撥水処理布、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂などからなるオレフィンシートまたはフィルム、フッ素樹脂シートまたはフィルム、離型紙付きプラスチックフィルムなどを挙げることができる。
【0046】
凹凸模様として、典型的にはシボ模様を挙げることができるが、これに限定されるものでなく、例えば、織物調、デニム調などの布帛模様や、ランダムな点、線、丸形、三角形、四角形、点線などを単独または組み合わせた幾何学模様のような模様であることができ、このような凹凸模様を有する離型性基材を用いることにより、皮革素材の表面に意匠性を付与することができる。
【0047】
プレポリマー/硬化剤混合物を離型性基材に塗布した後、好ましくは熱処理を行う。ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の硬化反応は常温で進行するため、熱処理は必ずしも要さないが、熱処理により硬化反応が促進されるため、生産効率の点では熱処理を行うことが好ましい。特に、ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを用いる場合には、硬化反応が促進されることにより加工安定性が向上するため、熱処理を行うことが好ましい。
【0048】
このときの熱処理温度としては、選択するプレポリマーやウレタン硬化剤、任意で用いられる添加剤、塗布厚などによって適宜選択可能であるが、90〜150℃であることが好ましく、より好ましくは100〜130℃である。熱処理温度が90℃未満であると、熱処理を行うことによる反応促進効果が十分に得られない虞がある。熱処理温度が150℃を超えると、硬化反応のコントロールができず加工安定性に欠ける虞がある。
また、熱処理時間は30秒間〜5分間であることが好ましく、より好ましくは1〜3分間である。熱処理時間が30秒間未満であると、熱処理を行うことによる反応促進効果が十分に得られない虞がある。熱処理時間が5分間を超えると、硬化反応が進みすぎて天然皮革との接着性が悪くなる虞がある。
【0049】
本発明における凹凸模様は、エンボス加工による凹凸模様と異なり、天然皮革本来の形状を変化させることなく凹凸模様が形成されているので、経時による凹凸模様の消失や、張設時の型流れといった問題が生じる虞がない。また、発泡層の形成と同時に凹凸模様を形成するため、工程が簡便で生産性が向上する。さらに、凹凸模様を形成するに際し天然皮革を加熱押圧する必要がないため、硬化後の軟化温度が高く、耐熱性に優れたホットメルトウレタンプレポリマーを選択することができる。
【0050】
次いで、プレポリマー/硬化剤混合物(その一部は硬化反応が進み、ポリウレタン樹脂となっている)が粘稠性を有する状態のうちに、天然皮革の銀面層表面に貼り合わせ、室温まで冷却し、エージング処理することにより、天然皮革の銀面層表面に発泡層が形成される。
【0051】
ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応速度は、選択するプレポリマーやウレタン硬化剤、任意で用いられる添加剤(特にウレタン化触媒)の種類や量によって大きく変動するため、選択する条件によってエージング処理条件を適宜設定する必要があるが、通常、室温で1日〜1週間程度行われる。この過程で、プレポリマーとウレタン硬化剤の硬化反応が完結する。硬化反応が未完結であると、離型性基材を剥離する際に型流れが生じたり、耐摩耗性などの物性が悪くなったりする虞がある。
【0052】
硬化して得られるポリウレタン樹脂の軟化温度は130〜240℃であることが好ましく、より好ましくは140〜200℃である。軟化温度が130℃未満であると、十分な耐熱性が得られない虞がある。軟化温度が240℃を超えると、天然皮革様の触感や風合いが得られない虞がある。
【0053】
発泡層の厚さは50〜350μmであることが求められる。厚さが50μm未満であると、十分な耐摩耗性が得られない虞がある。厚さが350μmを超えると、天然皮革基材によって醸し出される触感や風合い、シワ表現など、天然皮革特有の持ち味が、皮革素材の表面にまで伝わらない虞がある。好ましい厚さの範囲は100〜200μmである。
【0054】
また、発泡層のマルテンス硬さは、0.5〜2.5N/mmであることが好ましく、より好ましくは0.7〜1.5N/mmである。マルテンス硬さが0.5N/mm未満であると、耐摩耗性が悪くなる虞がある。マルテンス硬さが2.5N/mmを超えると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。なお、発泡層のマルテンス硬さは、天然皮革のマルテンス硬さと同様の方法にて測定した。また、被測定物としては、別途作成した、発泡層と同一組成の硬化被膜を用いた。具体的には、ダイヤルゲージ法による厚さが100μmで、表面処理加工が施されていない平滑なポリエステルフィルム上に、バーコーターを用いて、プレポリマー/硬化剤混合物を所望の厚さで塗布し、硬化させたものを用いた。
【0055】
さらに、以下の式3により求められる発泡層のマルテンス硬さと天然皮革のマルテンス硬さとの差は、−0.5〜0.5N/mmであることが好ましく、より好ましくは−0.2〜0.2N/mmである。この差が−0.5N/mm未満であると、得られた皮革素材の耐摩耗性が悪くなる虞がある。この差が0.5N/mmを超えると、発泡層と天然皮革の一体感に欠け、皮革素材全体の触感や風合いが粗硬になり、天然皮革特有の持ち味が損なわれる虞がある。
〔式3〕
マルテンス硬さの差=発泡層のマルテンス硬さ−天然皮革のマルテンス硬さ
【0056】
エージング処理後、離型性基材を剥離することにより、天然皮革と発泡層の積層体が得られる。本発明の皮革素材は、この積層体の発泡層表面にさらに、第2の樹脂層として、厚さ10〜100μmの保護層が、発泡層が有する凹凸模様を消失させること無く積層されたものである。これにより、耐摩耗性がさらに向上する。なお、本発明において保護層は、発泡層の表面に形成されて当該発泡層を保護する樹脂層の総称をいい、少なくとも1層の樹脂層からなるが、同一または異なる組成の2層以上の樹脂層からなることができる。
【0057】
保護層の形成に用いられる樹脂は特に限定されるものでなく、皮革用として一般に用いられているものから適宜選択すればよい。例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、皮膜強度に優れるという点で、ポリウレタン樹脂またはアクリル樹脂が好ましい。また上記樹脂の形態は、溶剤系、無溶剤系のいずれであっても構わないが、環境負荷が少ない点から無溶剤系、特には水系エマルジョンが好ましい。
【0058】
樹脂には、必要に応じて、樹脂の物性を損なわない範囲内で、着色剤、艶消し剤、平滑剤、架橋剤、消泡剤、整泡剤、分散剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも耐摩耗性の観点から、最外層となる樹脂層には、添加剤として平滑剤や架橋剤を用いることが好ましい。
【0059】
保護層は、発泡層表面に樹脂液を塗布した後、熱処理することにより形成される。塗布方法は従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどを用いた方法を挙げることができる。なかでも、均一な薄膜層の形成が可能で、発泡層が有する凹凸模様の消失がないという点で、スプレーコーターによる塗布が好ましい。
【0060】
熱処理は、樹脂液中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるとともに、熱処理によって架橋反応を起こす架橋剤を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。天然皮革の過剰な水分蒸発を防ぐため、熱処理は、天然皮革自体が80℃以上の温度にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は50〜120℃であることが好ましく、より好ましくは60〜100℃である。熱処理温度が50℃未満であると、樹脂液が凹凸模様の凹部に流れ込んで凹凸模様が消失したり、樹脂の架橋が不十分となって耐摩耗性が得られなかったりする虞がある。熱処理温度が120℃を超えると、天然皮革の触感や風合いが硬化する虞がある。
また、熱処理時間は2〜20分間であることが好ましく、より好ましくは2〜10分間である。熱処理時間が2分間未満であると、樹脂の架橋が不十分となって耐摩耗性が得られない虞がある。熱処理時間が20分間を超えると、天然皮革から水分が過剰に失われることにより、天然皮革が収縮して好ましくないシワが発生したり、触感や風合いが硬化したりする虞がある。
【0061】
保護層の厚さは10〜100μmであることが求められる。厚さが10μm未満であると、均一に表皮層を形成することが困難で、部分的に保護層が欠如する虞がある。厚さが100μmを超えると、天然皮革様の触感や風合い、シワ表現が得られない虞がある。好ましい厚さの範囲は20〜50μmである。
【0062】
かくして、本発明の皮革素材を得ることができる。
なお、保護層の形成にあたっては、発泡層を離型性基材上に形成するに先立ち、離型性基材に樹脂を塗布、熱処理して、保護層を形成しておいてもよい。このときの塗布方法は特に限定されるものではないが、均一な薄膜層の形成が可能であるという点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。また、熱処理条件としては、50〜150℃、2〜20分間が採用される。これは、天然皮革の過剰な水分蒸発を防ぐという制約がないからである。しかる後に、プレポリマー/硬化剤混合物を塗布し、好ましくは熱処理した後、天然皮革の銀面層表面に貼り合わせ、エージング処理して発泡層を形成した後、離型性基材を剥離して、本発明の皮革素材を得る。
【0063】
本発明の皮革素材は、触感や風合い、シワ表現、凹凸模様の耐久性、耐摩耗性、耐熱性などの諸特性に優れるため、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両用内装材などの部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」は重量基準であるものとする。また、得られた皮革素材の評価は以下の方法に従った。
【0065】
[触感・風合い]
官能評価を行い、下記の基準に従って判定した。
○:柔軟で、天然皮革様の触感を有する
△:やや柔軟性にかける
×:硬い、又は柔軟であるがゴムライクな触感であり、天然皮革様の触感を有していない
【0066】
[折れシワ]
官能評価を行い、下記の基準に従って判定した。
○:天然皮革様の細やかな折れシワが見られる
△:やや粗い折れシワが見られる
×:ペーパーライクな粗い折れシワが見られる
【0067】
[耐摩耗性]
幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片を、タテ(頭から尻方向)、ヨコ(背から腹方向)各方向からそれぞれ1枚採取し、裏面に幅70mm、長さ300mm、厚さ10mmの大きさのウレタンフォームを添えて、平面摩耗試験機T−TYPE(株式会社大栄科学精器製作所製)に固定する。綿布をかぶせた摩擦子に荷重9.8Nを掛けて試験片を摩耗する。摩擦子は試験片の表面上140mmの間を60往復/分の速さで10000回往復摩耗する。摩耗後の試験片を目視にて観察し、下記の基準に従って判定した。
○:保護層に亀裂、破れが無い
△:保護層に亀裂が発生した
×:保護層に破れが発生した
【0068】
また、凹凸模様に着目し、その消失度合いを下記の基準に従って判定した。
○:凹凸模様の消失がほとんどない
△:凹凸模様がやや消失している
×:凹凸模様がほとんど消失している
【0069】
[耐熱性]
10cm四方の大きさの試験片を2枚採取し、採取した試験片の1枚を110℃に調節された乾燥機の中へ他物と触れないようにつるし、200時間加熱処理する。処理後、試験片を取り出して、室温まで冷却する。初期(加熱していない方の試験片)および処理後の試験片について、D65光源照射時の色彩値を分光光度計Color i5(GretagMacbeth LLC製)を用いて測定し、以下の式4により△b値を算出する。△b値が小さいほど、耐熱性が良好であることを意味する。
〔式4〕
△b = b値(加熱処理後) − b値(初期)
【0070】
また、凹凸模様に着目し、その消失度合いを下記の基準に従って判定した。
○:凹凸模様の消失がほとんどない
△:凹凸模様がやや消失している
×:凹凸模様がほとんど消失している
【0071】
[凹凸模様の型流れ]
幅100mm、長さ200mmの大きさの試験片を、タテ(頭から尻方向)、ヨコ(背から腹方向)各方向からそれぞれ1枚採取し、図1に示すように試験片の長さ方向中央が、三角形の頂点部分に来るように試験器具に設置し、試験片の両端に5Kgの錘をクリップで固定する。この状態で試験片の頂点部分での凹凸模様の状態を目視にて観察し、下記の基準に従って判定した。
○:凹凸模様の消失がほとんどない
△:凹凸模様がやや消失している
×:凹凸模様がほとんど消失している
【0072】
また、ホットメルトウレタンプレポリマーは以下のように製造した。
[製造例1]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリエステルポリオールを80部、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオールを50部、数平均分子量が1000のポリエーテルポリオールを10部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を15部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマー(軟化温度:40℃)を得た。
【0073】
[製造例2]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が1000のポリエステルポリオールを80部、数平均分子量が1000のポリカーボネートポリオールを50部、数平均分子量が1000のポリエーテルポリオールを10部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を30部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマー(軟化温度:40℃)を得た。
【0074】
[製造例3]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が1000のポリエステルポリオールを10部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を6部入れてポリオール基が無くなるまで80℃にて攪拌し、ホットメルトウレタンイソシアネートプレポリマー(軟化温度:30℃)を得た。
【0075】
また、保護層の形成には、市販の皮革用樹脂(いずれも大日本インキ化学工業株式会社製)を用いた。処方は以下の通りである。
[ベースコート用樹脂]
LCC FF カラー 100
LCC Filler MK−45 100
LCC Binder S−640K 250
LCC Binder SX−909 100
LCC Binder UB−1450 100
LCC Binder UB−1770 100
LCC Assister RL 30
LCC Fixer UX−10 35
LCC Thickner NA−3 適量
水 235
Total 約1050部
【0076】
[トップコート用樹脂]
LCC WL Mat UM−2509 550
LCC WL Clear UX−2009 150
LCC WL Conditioner SL−5 60
LCC WL Conditioner SL−6 20
LCC WL Fixer UX−10 225
LCC Thickner NA−2 適量
水 約110
Total 約1115部
【0077】
[実施例1]
原皮として成牛皮を用い、通常の工程を経ることによりクラストを得た。この皮革の銀面層側を、180メッシュのサンドペーパーを装着したバフ機にて2回処理することにより、銀面層の表層を50μm削り取った。このとき、サンドペーパーの回転数は1000rpm、速度は5m/分、クリアランスは天然皮革の全厚−4mmの条件に設定して、バフ加工を行った。得られた天然皮革全体の厚さは1000μm、銀面層の厚さは250μm、マルテンス硬さは0.9N/mmであった。
【0078】
ホットメルトウレタンプレポリマーとして100℃に加熱溶融した製造例1のホットメルトウレタンポリオールプレポリマー100部に、ウレタン硬化剤として40℃に加熱溶融した製造例3のホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを20部、着色剤としてカーボンブラック顔料ポリトンブラック(大日本インキ化学工業株式会社製)を2部、ウレタン化触媒としてアミン系触媒TOYOCAT−DT(TOSOH株式会社製)を1部添加し、撹拌機にて撹拌した後、コンマコーターにてシボ調の凹凸模様を有する離型紙R−51(リンテック株式会社製)に厚さが150μmとなるようにシート状に塗布し、乾燥機にて130℃で1分間熱処理して発泡層を形成した。
【0079】
次いで、発泡層が粘稠性を有する状態のうちに天然皮革の銀面層表面と貼り合わせて、マングルにて5kg/mの荷重で圧締し、室温にて1日間エージング処理した後、離型紙を剥離した。
【0080】
さらに、発泡層の表面に、トップコート用樹脂を熱処理後の厚さが20μmとなるようにスプレーコーターにて塗布し、乾燥機にて100℃で2分間熱処理して保護層を形成した。
【0081】
得られた皮革素材の発泡層の厚さは180μm、ポリウレタン樹脂の軟化温度は200℃、マルテンス硬さは1.1N/mmであった。この結果、発泡層のマルテンス硬さと天然皮革のマルテンス硬さとの差は0.2N/mmであった。
【0082】
[比較例1]
実施例1と同様に処理した天然皮革の銀面層表面に、ロールコーターにてベースコート用樹脂をウェット重量で120g/mとなるように塗布し、乾燥機にて80℃で10分間熱処理して厚さ40μmのベースコート層を形成した。次いで、エンボス機にて80℃、60kg/m、5m/秒の条件でシボ調の凹凸模様を付与した後、ミリング機にて20℃、20%RHの条件で30分間揉みこんだ。さらに、ベースコート層の表面に、スプレーコーターにてトップコート用樹脂をウェット重量で40g/mとなるように塗布し、乾燥機にて100℃で2分間熱処理して厚さ10μmのトップコート層を形成した。
【0083】
[実施例2〜6および比較例2〜4]
皮革素材を製造するに際し、各種条件を表1に記載の条件とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜6および比較例2〜4の皮革素材を得た。
【0084】
上記実施例および比較例の皮革素材について、性能を評価した結果を表2に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
表2から明らかなように、実施例1〜6の皮革素材は、各評価項目において良好な結果を示した。とくに、発泡層のマルテンス硬さと天然皮革のマルテンス硬さの差が−0.2〜0.5N/mmの範囲にある実施例1〜5の皮革素材は、天然皮革特有の持ち味が高度に再現されていた。これに対し、従来の手法で保護層を形成した比較例1では、凹凸模様の型流れが生じた。発泡層の厚さが大きな比較例2では触感や風合いが悪く、発泡層の厚さが小さな比較例3では細やかなシワ表現や耐摩耗性が悪かった。天然皮革として銀面層を有さない床革を用いた比較例4では、触感や風合い、細やかなシワ表現、耐摩耗性が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】凹凸模様の型流れの評価方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0089】
A 試験片
B 錘
C クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ200〜1000μmの銀面層を有する天然皮革の表面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、凹凸模様を有する厚さ50〜350μmの発泡層が積層され、さらにその表面に厚さ10〜100μmの保護層が、発泡層が有する凹凸模様を消失させること無く積層されていることを特徴とする皮革素材。
【請求項2】
ポリウレタン樹脂の軟化温度が130〜240℃であることを特徴とする請求項1に記載の皮革素材。
【請求項3】
天然皮革のマルテンス硬さが0.7〜2.0N/mmであり、発泡層のマルテンス硬さが0.5〜2.5N/mmであり、かつ、発泡層のマルテンス硬さと天然皮革のマルテンス硬さとの差が−0.5〜0.5N/mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の皮革素材。
【請求項4】
ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤の混合物を、凹凸を有する離型性基材に塗布した後、前記混合物が粘稠性を有する状態のうちに、バフ加工を施した天然皮革の銀面層表面に貼り合わせ、エージング処理して発泡層を形成した後、離型性基材を剥離し、発泡層の表面に樹脂を塗布し、熱処理して保護層を形成することを特徴とする、皮革素材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−265300(P2008−265300A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56532(P2008−56532)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】