説明

直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造

【課題】 直交軸タイプの減速機付電動機のトルクアームを介した据付手法において、トルクアームにより制約しようとする回転方向に固定し、固定方向以外の動きは、許容する固定構造を提供する。
【解決手段】 電動機の出力軸と減速機の出力軸が直交しており前記電動機と前記減速機を一体化した減速機付電動機1を、トルクアーム2を用いて取付場所32に据え付けて減速機付電動機1本体の回転を防止するに当たり、トルクアーム2の一端が減速機付電動機1本体に固定され、トルクアーム2の他端の端部21近傍に減速機付電動機本体を回転させる円の径方向に長い取付長穴22を設け、取付長穴22と取付場所32を固定する減速機付電動機の固定構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より使い勝手の良い直交軸タイプの減速機付電動機用トルクアームによる固定構造を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の回転軸と減速機の出力軸が直交する直交軸タイプの減速機付電動機を、トルクアームを用いて据え付け、出力軸回りの回転を防止することは、既に提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、ギアドモータ(直交軸タイプの減速機付電動機)のケーシングおよび外部部材にトルクアームを連結してギアドモータの出力軸周りの回転を防止するギアドモータの固定構造において、トルクアームは出力軸の方向のボルトでケーシングに連結されるとともに、出力軸の回転方向に沿う方向のボルトで外部部材に連結されるように、ギアドモータ側取付面と外部部材側取付面とが垂直に形成され、かつ、ギアドモータ側取付面に垂直にギアドモータ側ボルト貫通孔が形成されるとともに、外部部材取付面に垂直に外部部材側ボルト貫通孔が形成され、さらに、ギアドモータのケーシングの4箇所に、トルクアームを固定するための出力軸の方向のボルト貫通孔が、矩形の4頂点の位置関係となるように形成され、少なくともボルト貫通孔の2箇所においてトルクアームをボルトで固定することが示されている。
【0004】
直交軸タイプの減速機付電動機を、トルクアームを用いて据付ける場合、据付けの精度や据付け方を誤ると、直交軸タイプの減速機付電動機本体へ無理な荷重がかかり、最悪の場合、直交軸タイプの減速機付電動機本体や据付け箇所、もしくはトルクアーム本体の破損に至るおそれがある。これらの問題を回避するために、より容易に据付けられるような形状のトルクアームが望まれる。
【0005】
直交軸タイプの減速機付電動機(以下、減速機付電動機という)は、その特徴を活かし、特に出力軸が中空軸タイプの場合は、相手機械の入力軸に直接減速機付電動機の出力軸を嵌め合わせる形で取り付けて相手機械の入力軸により支持し、トルクアームを減速機付電動機本体の回転止として使用するケースが多い。
【0006】
トルクアームと減速機付電動機本体を固定する部分と反対の部分、すなわち回転止めをするために相手機械のベース部分等に固定する部分(以下、固定端という)については、上記のように回転止めという役割からすれば、減速機付電動機本体の回転を抑制すれば良いわけで、その他の動作については特に制約する必要は無い。
【0007】
しかし、実際の取付けにおいては、トルクアームの固定端と固定される場所(以下、固定場所という)との位置関係に必要十分な精度を有さない場合も多く、結果、減速機付電動機と据付ける相手機械との間の据付け精度を狂わせる場合もあり、減速機付電動機を使用する上で不具合を起こすケースもある。
【0008】
ここで、減速機付電動機を据付ける際の精度に着目すると、固定端と固定場所の位置関係、相手機械の入力軸と減速機付電動機本体との直角度等が上げられる。この内、相手機械の入力軸と減速機付電動機本体との直角度に影響を与えるものとして、減速機付電動機本体とトルクアームの平行度、トルクアームの固定端と固定場所との平行度等が上げられるが、一般的には上記平行度等の誤差を吸収するために、例えばボルト等で固定する際でも、固定端を固定場所に対して全く自由度を無くすような固定方法ではなく、適度なガタツキを持たせて固定させる。そのため、特殊ボルトやブッシュなどを用いて固定することを推奨される場合も多い。
【0009】
一方、トルクアームの固定端における固定用のボルト等を通す穴は、丸穴が一般的である。丸穴の場合、上記のような据付け精度に影響を及ぼす誤差を吸収することを考慮すると、前述の丸穴はその直径を大きくした方が融通が利くものとなる。しかし一方では、トルクアームの役割である“回転止め”という機能を考えると、その直径をできる限り小さくして回転方向のガタツキを抑えた方が良いということとなり、両者に矛盾が発生する。
【特許文献1】特開2003−299295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の相反する要望をトルクアームによって解消することを課題としたものである。すなわち、本発明は、減速機付電動機のトルクアームを介した固定構造において、トルクアームにより制約しようとする回転方向についてはできる限り固定し、上記固定方向以外の動きについては、できる限り許容する固定構造を提供することを目的とする。
【0011】
なお、本明細書では、“減速機付電動機”と記しているが、この“減速機”はギヤボックス等の総称として用いたものであり、増速を含む変速機構、および等速による動力伝達等も含んだ意味で用いている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、減速機付電動機のトルクアームを介した固定構造において、トルクアームの固定端と固定場所を固定する際に自由度を持たせ、且つその自由度に方向性を持たせた。
【0013】
例えば、ボルトによってトルクアームの固定端を固定場所に固定しようとした場合、相手機械の入力軸および減速機付電動機の出力軸と平行の向きにボルトを配し、固定端をボルトと固定場所に挟み込むような形で固定するのではなく、制約しようとする回転方向に対し、前記回転によって描かれる円の接線方向にボルトを通すことで、トルクアームが回転を制約しようとする方向は動きが制限されるが、減速機付電動機本体とトルクアームの平行度、或いはトルクアームの固定端と固定場所との平行度に誤差があっても、吸収するための方向には自由度が生まれ、上記平行度の誤差は吸収可能となる。
【0014】
また、上記固定方法を採用せずに、相手機械の入力軸および減速機付電動機の出力軸と平行の向きにボルトを配し、固定端をボルトと固定場所に挟み込むような形で固定する場合は、前述したトルクアームの固定端にあけられる穴の形状で対応が可能である。その方法として、固定端にあける穴を丸穴とせずに、トルクアームにより制約しようとする回転方向については、できる限り細く、また、制約する必要の無い方向に付いては、前記据付けに関する誤差を吸収できるように広く、すなわち長穴や長方形のような形状の穴を固定端にあけることでも対応が可能となる。
【0015】
すなわち、本発明は、電動機の出力軸と減速機(ギヤボックス)の出力軸が直交しており前記電動機と前記減速機を一体化した減速機付電動機を、トルクアームを用いて取付場所に据え付けて減速機付電動機本体の回転を防止する直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造において、前記トルクアームの一端が減速機付電動機本体に固定され、前記トルクアームの減速機付電動機本体に固定された一端と異なる他端の端部近傍に減速機付電動機本体を回転させる円の径方向に長い取付長穴を設け、該取付長穴と相手機械などに設けた取付場所を固定する。
【0016】
本発明は、上記直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造において、前記トルクアームの取付長穴は前記取付場所が大きな遊びがなく挿入される短径を有し、前記トルクアームの取付長穴に直交して設けたボルト貫通孔を有し、ボルト貫通孔は、直交軸タイプの減速機付電動機本体の回転によって描かれる円の接線方向に設けられ、前記トルクアームのボルト貫通孔と、取付場所が延びる方向に直交して設けたボルト貫通孔にボルトを挿通することによって、トルクアームと取付場所とを固定する。
【0017】
本発明は、上記直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造において、前記トルクアームの取付長穴はボルトが大きな遊びがなく挿入される短径を有し、前記取付長穴に相通されたボルトを前記取付場所の固定面に設けたボルト固定穴に固定することによって固定される。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、直交軸タイプの減速機付電動機を、固定場所にトルクアームを用いて据付ける場合、据付けの精度や据付け方を、よりゆるい公差で設定できることとなり、据付け工数の低減、および据付け不良の低減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の最良の形態は、直交軸タイプの減速機付電動機を据え付けるに当たって、減速機付電動機本体の回転を阻止するトルクアームの一端を減速機付電動機本体に固定し、トルクアームの他端近傍に減速機付電動機を回転させようとする円の径方向に長径を有する取付長穴を設けた。すなわち、トルクアームの役割である“減速機付電動機の回転止め”を果たすために、回転を制約しようとする方向の動きを制限し、同時に、減速機付電動機本体とトルクアームの平行度、あるいはトルクアームの固定端と固定場所との平行度、さらにトルクアーム自体の精度等、各種誤差を吸収しうるような形状をトルクアームの固定端に用いることで、より使い勝手の良いトルクアームを供えた直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造を提供する。
【実施例1】
【0020】
図1〜図3を用いて、本発明の第1の実施例を説明する。図1は、直交軸タイプの減速機付電動機を、トルクアームを用いて固定場所に固定した例を示したものである(但し、据付ける相手機械については省略してある)。また、図2は、図1に示した内、トルクアームと固定端を固定した部位を拡大して示す図である。図3は、同部位の部品展開図である。
【0021】
本発明の固定構造が適用される減速機付電動機1は、相手機械の入力軸31に出力軸11が支持され、減速機付電動機1本体にトルクアーム2を取付け、トルクアーム2の固定端21を固定場所33に対して固定することによって、回転が防止される。トルクアーム2の固定端21には、トルクアーム2の長手方向、すなわち、減速機付電動機本体を回転させる円の径方向に遊びを有する取付長穴22が設けられ、この取付長穴22に固定場所33を貫通させ、トルクアーム2の取付長穴22に設けたボルト貫通孔221と固定場所32に設けたボルト貫通孔321を出力軸11の回転方向の接線方向に配置したボルト4で固定した。この時、トルクアーム2の取付長穴22と固定場所33の嵌め合い部に若干の隙間を設けて取付けると共に、ボルト4の取付向きを、制約しようとする回転によって描かれる円の接線方向に取付けることで、図1に示したように、減速機付電動機1にトルクアーム2を取付ける際に生じる取付け誤差、およびトルクアーム2の精度、さらにはトルクアーム2と固定場所33との位置関係に関する誤差等を吸収できるので、据付けのための自由度を確保することができる。同時に、トルクアーム2が担う“減速機付電動機1の回転止め”という役割を果たすため、上記回転方向の自由度は制約される。
【0022】
なお、ボルト4の固定に関し“回転によって描かれる円の接線方向”と記したが、ここでいう“接線方向”とは概念的に接線方向という意味であり、必ずしもその精度を問うものではない。さらに、トルクアーム2と固定場所32を固定するボルト4は、落としピンとして構成してもよく、場合によっては、ボルト4による固定を省略することができる。
【実施例2】
【0023】
図4〜図8を用いて、本発明の第2の実施例を説明する。図4は、直交軸タイプの減速機付電動機1を、トルクアーム2を用いて固定場所33に固定した例を示す図である(但し、据付ける相手機械については省略してある)。また、図5は、図4に示した内、トルクアーム2と固定場所32を固定した部位を拡大して説明する図である。また、図6は、同部位の部品の展開を示す図である。
【0024】
この実施例では、減速機付電動機1にトルクアーム2を取付け、トルクアーム2の固定端21を固定場所32に対してボルト4で固定したものである。この時、ボルト4の取り付け向きは、相手機械の入力軸31および減速機付電動機1の出力軸11と平行の向きとする。トルクアーム2の固定端21に減速機付電動機1への取付部方向に延びる取付長穴22を設け、取付長穴22を貫通するボルト4によって固定場所32の固定面33に設けたボルト固定穴331に固定する。
【0025】
この実施例の固定構造は、トルクアーム2製作の容易さから採用されるケースも多いが、課題として前述したように、固定端に加工された丸穴では、実施例1で確保したような自由度を得ることは難しい。そこで図5および図6にも示すように、トルクアーム2の固定端21に設ける取付長穴22は、制約しようとする回転方向に細く、制約しようとする回転の径方向には広くなるような長穴とする。この場合、トルクアーム2と固定場所33が傾いている場合でも、図7に示すようにトルクアーム2に無理な力がかからない状態で固定できるようになり、実施例1と同様の自由度を確保することができる。さらに図8に示すように、トルクアーム2の固定端21と固定場所33にズレがある場合も、その誤差を吸収することができる。
【0026】
なお、トルクアーム2の固定端21の取付長穴22を長穴と記したが、必ずしも長穴である必要は無く、長方形等、別の形状すなわち一方向の動きを規制し、他方向の動きを許容する形状でも同様の効果は得られる。
【0027】
なお、ボルト4の固定に関し“相手機械の入力軸31および減速機付電動機1の出力軸11と平行の向き”と記したが、ここでいう“平行”とは概念的に平行という意味であり、必ずしもその精度を問うものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1にかかる減速機付電動機の固定構造を説明する図。
【図2】実施例1の固定箇所の構造を拡大して説明する図。
【図3】実施例1の固定箇所の部品の展開図。
【図4】本発明の実施例2にかかる減速機付電動機の固定構造を説明する図。
【図5】実施例2の固定箇所の構造を拡大して説明する図。
【図6】実施例2の固定箇所の部品の展開図。
【図7】実施例2の働きを説明する図。
【図8】実施例2の働きを説明する図。
【符号の説明】
【0029】
1:直交軸タイプの減速機付電動機
2:トルクアーム
21:固定端
22:取付長穴
221:ボルト貫通孔
31:相手機械の入力軸
32:固定場所
321:ボルト貫通孔
33:固定面
331:ボルト固定穴
4:ボルト
5:相手機械の入力軸
6:出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の出力軸と減速機(ギヤボックス)の出力軸が直交しており前記電動機と前記減速機を一体化した減速機付電動機を、トルクアームを用いて取付場所に据え付けて減速機付電動機本体の回転を防止する直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造において、
前記トルクアームの一端が減速機付電動機本体に固定され、
前記トルクアームの減速機付電動機本体に固定された一端と異なる他端の端部近傍に減速機付電動機本体を回転させる円の径方向に長い取付長穴を設け、
該取付長穴と相手機械などに設けた取付場所を固定する
ことを特徴とする直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造。
【請求項2】
請求項1の直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造において、
前記トルクアームの取付長穴は前記取付場所が大きな遊びがなく挿入される短径を有し、
前記トルクアームの取付長穴に直交して設けたボルト貫通孔を有し、
ボルト貫通孔は、直交軸タイプの減速機付電動機本体の回転によって描かれる円の接線方向に設けられ、
前記トルクアームのボルト貫通孔と、取付場所が延びる方向に直交して設けたボルト貫通孔にボルトを挿通することによって、トルクアームと取付場所とを固定する
ことを特徴とする直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造。
【請求項3】
請求項1記載の直交軸タイプの減速機付電動機の固定構造において、
前記トルクアームの取付長穴はボルトが大きな遊びがなく挿入される短径を有し、
前記取付長穴に相通されたボルトを前記取付場所の固定面に設けたボルト固定穴に固定することによって固定される
ことを特徴とする直行軸タイプの減速機付電動機の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−37360(P2007−37360A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220576(P2005−220576)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】