説明

直動案内軸受装置

【課題】スライダの転動体戻し通路内や転動体方向転換路内で転動体のスキューが発生することを抑制することのできる直動案内軸受装置を提供する。
【解決手段】転動体9の端面部と対向する溝部13をスライダ内の転動体戻し通路11に有し、溝部13を含む転動体戻し通路11の断面形状が凸形状をなす直動案内軸受装置において、転動体9の直径をD、転動体9の軸方向長さをL、転動体戻し通路11の幅をa、溝部13の幅をbとしたとき、D>b≧0.5Dの場合は転動体戻し通路11の幅aをL≦a<(L+4bD+4b)とし、0.5D≧b≧0の場合は転動体戻し通路11の幅aをL≦a<(L+D0.5とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や搬送装置などで使用される直動案内軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械や搬送装置などで使用される直動案内軸受装置のうち転動体がローラ形状をなす直動案内軸受装置では、保持ピースと称される間隔体を隣り合う二つの転動体の間に介在させている場合が多い。このような直動案内軸受装置はスライダの転動体戻し通路や転動体方向転換路内で転動体同士が衝突することによって振動や騒音が発生することを保持ピースによって抑制できるが、組立時に保持ピースの倒れが生じると、倒れが生じた保持ピースをスライダ内の転動体戻し通路から取り出し、スライダ内の転動体戻し通路に保持ピースを再挿入しなければならないため、組立に多くの時間と手間がかかるという難点がある。そこで、保持ピースの前後方向に延出する腕部を保持ピースの左右側面部に設け、これらの腕部によって保持ピースの倒れを防止するようにした直動案内軸受装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−180656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、保持ピースを用いない場合で転動体同士の間隔が大きい場合だけでなく、保持ピースを用いる場合であっても一部の保持ピースに破損や欠品が生じた場合には、転動体同士の間隔が大きくなり、転動体戻し通路や転動体方向転換路内で転動体のスキューが大きくなり、最悪の場合、循環路内で転動体の向きが90度近く傾き、直動案内装置の破損を招くという問題がある。
【0004】
また、スライダの転動体戻し通路や転動体方向転換路に転動体の回転中心を通る溝部を設けた場合は、転動体戻し通路や転動体方向転換路内で転動体が傾く角度が大きくなり、転動体のスキューが発生して動摩擦力が大きくなるという問題がある。また、保持ピースの形状が非対称な場合、保持ピースの挿入方向を間違える可能性もあった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、保持ピースを用いる場合も用いない場合もスライダの転動体戻し通路内や転動体方向転換路内で転動体のスキューが発生することを抑制することのできる直動案内軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係る直動案内軸受装置は、案内レールの転動体軌道面とスライダの転動体軌道面との間を転動する複数の転動体がローラ形状をなし、かつ転動体の端面部と対向する溝部をスライダ内の転動体戻し通路と転動体方向転換路に有し、前記溝部を含む転動体戻し通路と転動体方向転換路の断面形状が凸形状をなす直動案内軸受装置において、 前記転動体の直径をD、前記転動体の軸方向長さをL、前記転動体戻し通路及び前記転動体方向転換路の幅をa、前記溝部の幅をbとしたとき、前記溝部の幅bがD>b≧0.5Dの場合は前記転動体戻し通路及び前記転動体方向転換路の幅aをL≦a<(L+4bD+4b)とし、前記溝部の幅bが0.5D≧b≧0の場合は前記転動体戻し通路及び前記転動体方向転換路の幅aをL≦a<(L+D0.5としたことを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明に係る直動案内軸受装置は、請求項1記載の直動案内軸受装置において、転動体同士の間隔を転動体が干渉し合わない間隔に保つ複数の保持ピースを有し、該保持ピースが前記溝部に嵌合する左右一対の腕部を有することを特徴とする。
請求項3記載の発明に係る直動案内軸受装置は、請求項2記載の直動案内軸受装置において、前記保持ピースの前後に位置する二つの転動体の中心を結んだ直線の上側または下側に前記腕部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び請求項2記載の発明に係る直動案内軸受装置によれば、溝部の幅bがD>b≧0.5Dの場合は転動体戻し通路及び転動体方向転換路の幅aをL≦a<(L+4bD+4b)とし、溝部の幅bが0.5D≧b≧0の場合は転動体戻し通路及び転動体方向転換路の幅aをL≦a<(L+D0.5としたことで、転動体が転動体戻し通路内でスキューし、大きく向きを変えることがなくなるので、転動体戻し通路内や転動体方向転換路内で転動体のスキューが発生することを抑制することができる。
【0008】
請求項3記載の発明に係る直動案内軸受装置によれば、転動体戻し通路や転動体方向転換路に挿入される保持ピースの挿入方向が腕部によって一方向に規制されるため、保持ピースの挿入間違いを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1〜図6を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係る直動案内軸受装置の一部断面正面図、図2は図1に示す直動案内軸受装置の平面図、図3は図1に示す直動案内軸受装置のエンドキャップの背面図、図4は図3のA部を示す図、図5は図1のB部を示す図、図6は図5のC−C断面を示す図であり、図1及び図2に示されるように、第1の実施形態に係る直動案内軸受装置は案内レール1及びスライダ2を備えている。
【0010】
案内レール1は直線状に形成されており、この案内レール1の長手方向に移動可能に設けられたスライダ2はスライダ本体3と、スライダ本体3の前端面と後端面に装着された一対のエンドキャップ4,4と、エンドキャップ4に組み込まれた複数のリターンガイド5(図3参照)と、案内レール1とエンドキャップ4との間の隙間をシールする一対のサイドシール6,6とを有している。
【0011】
スライダ本体3は、案内レール1の左右両側に袖部31を有している。これらの袖部31は案内レール1の左右側面部に二条ずつ形成された転動体軌道面7と各々対向する二つの転動体軌道面8を有しており、転動体軌道面7と転動体軌道面8との間に、転動体9が複数設けられている。
転動体9はローラ形状をなしており、これらの転動体9はスライダ2が案内レール1の長手方向に相対移動することによって転動体軌道面7,8を転動するようになっている。そして、転動体軌道面7,8を転動した転動体9はエンドキャップ4とリターンガイド5との間に形成された転動体方向転換路10に導入され、この転動体方向転換路10で方向転換した後、スライダ本体3の袖部31内に形成された転動体戻し通路11に導入されるようになっている。なお、転動体戻し通路11はスライダ本体3の前後方向に貫通する貫通孔をスライダ本体3の袖部31に孔明け加工した後、この貫通孔に樹脂製スリーブ12を挿入して形成されている。
【0012】
転動体方向転換路10及び転動体戻し通路11は、互いに平行な転動体転走面10a,10b,11a,11b(図4及び図5参照)を有している。また、転動体方向転換路10及び転動体戻し通路11は転動体転走面10a,10b,11a,11bに対して直角な転動体案内面10c,10d,11c,11dを有しており、これらの転動体案内面10c,10d,11c,11dには、潤滑剤の油路として使用したり、含油樹脂等の潤滑剤供給部材を設けたりする目的で、溝部13が転動体転走面10a,11aに隣接して形成されている。なお、図中3aはスライダ3に固定される転動体保持器である。
【0013】
転動体方向転換路10及び転動体戻し通路11は溝部13を含む断面形状が凸形状となっており、転動体9の直径をD、転動体9の軸方向長さをL、溝部13の幅をbとすると、転動体方向転換路10及び転動体戻し通路11の幅aは、溝部13の幅bがD>b≧0.5Dの場合(図6に示すような場合)にはL≦a<(L+4bD+4b)に設定され、0.5D≧b≧0の場合(図1、図3、図4、図5に示すような場合)にはL≦a<(L+D0.5に設定されている。転動体保持器3aの転動体案内面の幅も転動体方向転換路10や転動体戻し通路11の幅aと等しい幅となっている。
【0014】
なお、図6において、xは転動体9の端面部と対向する溝部13の長さを示し(x=2(0.5D−(b−0.5D)0.5)、xに対応する転動体の対角線長さ(幅x、長さLの長方形の対角線の長さ)は(L+4bD−4b0.5で表される。
このように、転動体戻し通路11や転動体方向転換路10に設けられた溝部13の幅bが0.5D≧b≧0の場合には、a<(L+D0.5と設定することにより、転動体戻し通路11や転動体方向転換路10および転動体保持器3aの転動体案内部の幅が転動体9の対角線長さより大きくなることがないので、転動体戻し通路11内で転動体9のスキューが大きくなり、最悪の場合、転動体の向きが90度近く変わるという事態を防止することができる。
【0015】
また、D>b≧0.5の場合には、L≦a<(L+4bD+4b)と設定することにより、転動体戻し通路11や転動体方向転換路10および転動体保持器3aの転動体案内部の幅が幅xに対応する転動体の対角線長さ(幅x、長さLの長方形の対角線の長さ)より大きくなることがないので、転動体戻し通路11内で転動体9のスキューが大きくなり、転動体の向きが最悪90度近くの向きに変わるという事態を防止することができる。
【0016】
次に、図7〜図12を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。図7は本発明の第2の実施形態に係る直動案内軸受装置の一部断面正面図、図8は図7に示す直動案内軸受装置の平面図、図9は図7に示す直動案内軸受装置のエンドキャップの背面図、図10は第2の実施形態に係る直動案内軸受装置の保持ピースを示す図、図11は図9のD部を示す図、図12は図7のE部を示す図であり、図7及び図8に示されるように、第2の実施形態に係る直動案内軸受装置は案内レール1及びスライダ2を備えている。
【0017】
案内レール1は直線状に形成されており、この案内レール1の長手方向に移動可能に設けられたスライダ2はスライダ本体3と、スライダ本体3の前端面と後端面に装着された一対のエンドキャップ4,4と、エンドキャップ4に組み込まれた複数のリターンガイド5(図9参照)と、案内レール1とエンドキャップ4との間の隙間をシールする一対のサイドシール6,6とを有している。
【0018】
スライダ本体3は、案内レール1の左右両側に袖部31を有している。これらの袖部31は案内レール1の左右側面部に二条ずつ形成された転動体軌道面7と各々対向する二つの転動体軌道面8を有しており、転動体軌道面7と転動体軌道面8との間に、転動体9が複数設けられている。
転動体9はスライダ2が案内レール1の長手方向に相対移動すると、これに伴って転動体軌道面7,8を転動するようになっている。そして、転動体軌道面7,8を転動した転動体9はエンドキャップ4とリターンガイド5との間に形成された転動体方向転換路10に導入され、この転動体方向転換路10で方向転換した後、スライダ本体3の袖部31内に形成された転動体戻し通路11に導入されるようになっている。また、転動体9はローラ形状をなしており、これら転動体9の間には、転動体同士の間隔を転動体9が干渉し合わない間隔に保つ保持ピース14が設けられている。なお、転動体戻し通路11はスライダ本体3の前後方向に貫通する貫通孔をスライダ本体3の袖部31に孔明け加工した後、この貫通孔に樹脂製スリーブ12を挿入して形成されている。
【0019】
保持ピース14は合成樹脂材を射出成形して形成されており、この保持ピース14には、転動体9の周面部と接触する矩形状の転動体接触面14a,14bが転動体9の直径とほぼ同じ曲率半径で形成されている。また、保持ピース14は保持ピース14の倒れを防止する一対の腕部14c,14cを有しており、これらの腕部14cは、図10(b)に示すように、腕部14cの中心線L1が保持ピース14の前後に位置する二つの転動体9の中心O1,02を通る直線L2より保持ピース14の上側または下側に位置するように、保持ピース14の左右側面部14d,14eに設けられている。
【0020】
転動体方向転換路10及び転動体戻し通路11は転動体9の端面部と対向する転動体案内面10c,10d,11c,11d(図11及び図12参照)を有しており、これらの転動体案内面10c,10d,11c,11dには、保持ピース14の腕部14cと嵌合する保持ピース案内用の溝部15が形成されている。また、転動体方向転換路10及び転動体戻し通路11は溝部15を含む断面形状が凸形状となっており、転動体9の直径をD、転動体9の軸方向長さをL、溝部15の幅をbとすると、転動体方向転換路10及び転動体戻し通路11の幅aは、溝部15の幅bがD>b≧0.5Dの場合(図示省略)にはL≦a<(L+4bD+4b)に設定され、0.5D≧b≧0の場合(図7、図9、図11、図12に示すような場合)にはL≦a<(L+D0.5に設定されている。また、図中3aは転動体保持器であり、その転動体案内部の断面形状における転動体戻し通路11等の幅a、幅bに対応する寸法はこれらと同様に設定されている。
【0021】
このように、転動体戻し通路11や転動体方向転換路10および転動体保持器3aに設けられた溝部15の幅bが0.5D≧b≧0の場合には、a<(L+D0.5に設定することにより、転動体戻し通路11や転動体方向転換路10および転動体保持器3aの幅が転動体9の対角線長さより大きくなることがないので、保持ピース14の破損や欠品等が生じた場合でも転動体戻し通路11内で転動体9のスキューが大きくなり、転動体の向きが最悪90度近くの向きに変わるという事態を防止することができる。
【0022】
また、D>b≧0.5の場合には、L≦a<(L+4bD+4b)と設定することにより、転動体戻し通路11や転動体方向転換路10および転動体保持器3aの転動体案内部の幅が転動体9の端面部と対向する溝部15の長さXに対応する転動体の対角線長さ(幅x、長さLの長方形の対角線の長さ)より大きくなることがないので、保持ピース14の破損や欠品が生じた場合でも転動体戻し通路11内等で転動体9のスキューが大きくなり、転動体の向きが最悪90度近くの向きに変わるという事態を防止することができる。
【0023】
また、腕部14cを保持ピース14の前後に位置する二つの転動体9の中心O1,02を通る直線L2の上側または下側に設けたことで、転動体戻し通路11や転動体方向転換路10に挿入される保持ピース14の挿入方向が腕部14cによって一方向に規制されるため、保持ピース14の挿入間違いを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る直動案内軸受装置の一部断面正面図である。
【図2】図1に示す直動案内軸受装置の平面図である。
【図3】図1に示す直動案内軸受装置のエンドキャップの背面図である。
【図4】図3のA部を示す図である。
【図5】図1のB部を示す図である。
【図6】図5のC−C断面を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る直動案内軸受装置の一部断面正面図である。
【図8】図7に示す直動案内軸受装置の平面図である。
【図9】図7に示す直動案内軸受装置のエンドキャップの背面図である。
【図10】第2の実施形態に係る直動案内軸受装置の保持ピースを示す図である。
【図11】図9のD部を示す図である。
【図12】図7のE部を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 案内レール
2 スライダ
3 スライダ本体
4 エンドキャップ
5 リターンガイド
6 サイドシール
7,8 転動体軌道面
9 転動体
10 転動体方向転換路
11 転動体戻し通路
12 樹脂製スリーブ
13 溝部
14 保持ピース
14c 腕部
15 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールの転動体軌道面とスライダの転動体軌道面との間を転動する複数の転動体がローラ形状をなし、かつ転動体の端面部と対向する溝部をスライダ内の転動体戻し通路と転動体方向転換路に有し、前記溝部を含む転動体戻し通路と転動体方向転換路の断面形状が凸形状をなす直動案内軸受装置において、
前記転動体の直径をD、前記転動体の軸方向長さをL、前記転動体戻し通路及び前記転動体方向転換路の幅をa、前記溝部の幅をbとしたとき、前記溝部の幅bがD>b≧0.5Dの場合は前記転動体戻し通路及び前記転動体方向転換路の幅aをL≦a<(L+4bD+4b)とし、前記溝部の幅bが0.5D≧b≧0の場合は前記転動体戻し通路及び前記転動体方向転換路の幅aをL≦a<(L+D0.5としたことを特徴とする直動案内軸受装置。
【請求項2】
請求項1記載の直動案内軸受装置において、転動体同士の間隔を転動体が干渉し合わない間隔に保つ複数の保持ピースを有し、該保持ピースが前記溝部に嵌合する左右一対の腕部を有することを特徴とする直動案内軸受装置。
【請求項3】
請求項2記載の直動案内軸受装置において、前記保持ピースの前後に位置する二つの転動体の中心を結んだ直線の上側または下側に前記腕部が設けられていることを特徴とする直動案内軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−298200(P2008−298200A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145562(P2007−145562)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】