説明

直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法、その成膜方法によって形成される純イットリア耐食膜、及び耐食性石英構成体

【課題】純イットリア耐食膜を基材上に速い成膜速度で形成できる量産性に優れた直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法を提供する。
【解決手段】真空チャンバ1内のターゲット配置領域2内に一対のイットリウム金属からなるターゲット5,5を互いに対向させて配置し、成膜領域3内には基材7を配置する。そのターゲット5,5に直流電圧を印加してターゲット5,5間に発生させたプラズマPを磁界によってターゲット5,5間に拘束すると共に、その磁場空間にアルゴンガス等の不活性ガスを供給する。一方、基材7に向けて酸素ガス等の反応性ガスを供給しつつ、真空チャンバ1内の不活性ガスの圧力を0.01〜1.0Paに設定し、プラズマP中に反応性ガスを実質的に侵入させることなく基材7の表面でイットリウム金属原子と反応性ガスを結合させて純イットリア耐食膜を基材7上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体処理装置及び電子部品製造装置内の構成部品等の表面に純イットリア耐食膜を形成するための直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法、その成膜方法によって形成される純イットリア耐食膜、及び耐食性石英構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体プロセスでは、成膜用またはエッチング用のガスを真空チャンバ内に供給し、高周波でガスをプラズマ化して活性化し、基材に対してエッチングや化学気相成長法(CVD)による薄膜の形成等が行われる。このようなプロセス中に存在する誘導結合プラズマ反応器や電子サイクロトロン共鳴反応器及びそれらの構成部品等は、フッ素系のプラズマチャンバガスに晒されるため、優れた耐食性が要求される。また、パーティクルや重金属汚染による半導体製品の品質低下を防止しなければならない。従って、その構成部品等の表面は、緻密で均質な耐食性に優れた被膜で覆われていることが重要な要件となる。また、シリコンウェハ等の半導体プロセス及びフラットパネルディスプレイ関連のプロセスでは、パーティクル等の異物をより一層厳しく除去した高純度の環境が求められるため、さらに高度な耐食特性を備えた構成部品が求められている。
【0003】
例えば、DCマグネトロンスパッタリング法により非晶性イットリアを含む薄膜を、基材上に形成するための導電性スパッタリングターゲット及びその製造法が提案されている(例えば特許文献1参照)。その導電性スパッタリングターゲットは、非晶性炭素及びターゲットの総体積基準で少なくとも35体積%のイットリアを含むとされている。このようなターゲットにより形成される薄膜は、良好な電気及び光学特性を備え、保護コーティング、耐薬品コーティングとして使用できるとされている。
【0004】
また、窒化ホウ素又はイットリア複合材料を含む被膜を、表面に形成した半導体処理装置の構成部品及びその製造方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。その被膜は、熱的な溶射、プラズマ溶射、化学気相成長法(CVD)、昇華、レーザ蒸着、スパッタリング(以下、省略)等々の任意の周知の被覆技術によって成膜されるとされている。
【0005】
あるいは、装置内のプラズマに晒される構成部材に、イットリア(Y3)をコーティングするようにしたプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法も提案されている(例えば特許文献3参照)。このようなイットリアのコーティングをプラズマ処理装置内の構成部材に施すことにより、それらの部材が直接スパッタされてプラズマ処理装置で成膜される被膜にコンタミネーションが発生するのを防止できるとされている。そのコーティングは、プラズマ溶射、CVD、スパッタリング、イオングレーティング方法等で形成されるのが好ましいとされている。
【0006】
【特許文献1】特開平7-180045号公報
【特許文献2】特表2004-523649号公報
【特許文献3】特開2005-268763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、複数の文献に、イットリア被膜やイットリア含有被膜を形成する点についての記載はあるが、半導体プロセス等においてフッ素系のプラズマチャンバガスに晒されるような厳しい環境下での長期にわたる使用期間中に良好な耐食性を維持できるような使用目的に適うイットリア成膜部材は、未だに実用化されていない。
【0008】
特許文献1に記載のスパッタリングターゲットは、導電性を付与するためにイットリアに非晶性炭素を含ませているため、このようなターゲットによって形成される薄膜は、純イットリアではなく、炭素化合物等の不純物が混在したものになる。このような薄膜を、例えばプラズマに晒される半導体処理装置や電子部品製造装置内の構成部品等の表面被覆に適用した場合、その不純物の存在によって、その部分から腐食が進行することが懸念される。
【0009】
また、特許文献2,3に記載のように、プラズマ溶射によってイットリア複合材料を含む被膜やイットリア被膜を形成する場合、その被膜は、基材に対する密着力が弱く剥がれ易い上に、ピンホールが多いものとなる。それらのピンホールには、プラズマチャンバガスが侵入して腐食が進行しやすくなる。従って、プラズマチャンバガスに対する耐食性に優れているというイットリア本来の特性を引き出すことができない。また、その膜厚が比較的に厚くなり、例えば1μm以下の膜厚に形成することができないという難点もある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、半導体処理装置及びその構成部品等の耐食性を向上させるために、各種基材上に緻密で均質な純イットリア耐食膜を形成できる直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法、その成膜方法によって形成される純イットリア耐食膜、及び耐食性石英構成体を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、各種基材上に純イットリア耐食膜を速い成膜速度で形成できる直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法、その成膜方法によって形成される純イットリア耐食膜、及び耐食性石英構成体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、イットリアの成膜方法を種々検討した結果、金属イットリウムをターゲットとした直流反応性ミラートロン方式のスパッタリング成膜方法によれば、実用的なイットリアの成膜が可能であるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法は、基材上に純イットリア耐食膜を形成するための直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法に関する。この直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法は、真空チャンバ内に、相互に区画されるターゲット配置領域と成膜領域を設けている。そのターゲット配置領域内には、一対のイットリウム金属からなるターゲットを互いに対向させて配置し、前記成膜領域内には前記基材を配置する。そして、前記ターゲットに直流電圧を印加して、前記ターゲット間にプラズマを発生させ、該ターゲット間に磁界によってプラズマを拘束し、その磁場空間にアルゴンガス等の不活性ガスを供給する。その一方、前記基材に向けて酸素ガス等の反応性ガスを供給しつつ、前記真空チャンバ内の不活性ガスの圧力を0.01〜1.0Paに設定し、該プラズマ中に実質的に反応性ガスを侵入させることなく、前記基材表面でイットリウム金属原子と反応性ガスを結合させて純イットリア耐食膜を前記基材上に形成する。
【0014】
このような方法では、互いに対向させて配置した一対のターゲット間にプラズマを発生させるため、プラズマ周辺磁場が強く、プラズマ境界付近の密度が高くなっている。従って、プラズマ中に、酸素ガス等の反応性ガスが侵入し難い状態が形成されており、かつ、成膜領域が、ターゲット配置領域と区画されているため、直接プラズマの影響を受けることなく、基材表面で実質的にイットリウム金属原子と反応性ガスのみを結合させて純度の高い純イットリア耐食膜を、速い成膜速度で形成することができる。その成膜速度(成膜レート)については、後述する実施例から明らかなように、例えば20nm〜200nm/min(投入電力Pw=1kW〜5kW)の設定が可能であり、Pw=2kWでは120nm/minを確保できる。これに対して、RF二極反応性スパッタ法では8nm/min、DCマグネトロン反応性スパッタ法では12nm/minを確保できるに過ぎない。
【0015】
そして、真空チャンバ内の不活性ガスの圧力を0.01〜1.0Paの低ガス圧に設定していることによって、基材表面でイットリウム金属原子の自由な移動が許容されるため、基材温度を低温に維持したままで、微細なグレーンサイズの緻密(dense-packed)で均質な鏡面状の被膜を形成することができる。尚、真空チャンバ内の不活性ガスの圧力が0.01Paより低くなると、放電電圧が高くなり過ぎる。また、不活性ガスの圧力が1.0Paより高くなると、スパッタリングされた粒子(イットリウム金属原子)がクラスター状(粉体状)になるため、膜の緻密性が低下し耐食性も低下する。さらに、ターゲット配置領域と成膜領域が区画されているため、ターゲット配置領域と成膜領域とを各独立に成膜条件(ターゲット配置領域では、直流印加電圧及び不活性ガスの流量、成膜領域では反応性ガスの流量等)を制御することができるので、成膜プロセスの簡素化と単純化が可能となり、かつ、膜組成の制御も容易となり、所望の膜特性を付与することが容易となる。その他、本直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法によれば、膜厚の薄い被膜を形成することもできる。特に、膜厚が1μm以下の薄膜も表面を荒らすことなく形成できる。これは、スパッタ圧力を低く設定できるからであると考えられる。
【0016】
このような直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法にあっては、ターゲットの周囲を、プラズマの熱で溶融しない導電性材料で形成された開口部を有するシールドカバーで覆い、その開口部からターゲットをプラズマの拘束領域に臨ませ、かつ、そのシールドカバーをアース電位に接続するのが好ましい。このようなシールドカバーを設けることによって、ターゲット以外の部材をスパッタさせることなく、そのシールドカバーを介して、直流電源回路を閉じた状態に保持することができるため、容器内の放電電圧を上昇させることなく、異常放電(アーク)の発生を効果的に防ぐことができる。従って、成膜作業を長時間にわたり継続することができる。
【0017】
本直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法では、前記基材が石英、金属又はセラミックスの何れかであり、前記基材の温度を600℃以下、特に400〜600℃に保持して、純イットリア耐食膜を形成することもできる。石英の耐熱温度は1,000℃以上であり、金属やセラミックスも耐熱温度が高い。従って、これらを基材とする場合、基材温度を400〜600℃に保持して、能率よく純イットリア耐食膜を成膜することができる。
【0018】
例えば、半導体プロセスで使用される各種石英パーツの表面に純イットリア耐食膜を形成する場合、投入電力2.0〜5.0kW、電流5〜10A、スパッタ圧力0.05〜0.1Pa、Ar流量30〜80sccm、02流量15〜50sccmで、基材表面の温度を、400〜600℃程度に保持して、均質な純イットリア耐食膜を形成することができる。
【0019】
本直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法では、前記基材がプラスチック等の樹脂材であり、前記基材の温度を室温〜150℃に保持して、純イットリア耐食膜を形成することもできる。例えば、アクリルまたはポリエチレンテレフタレートを基材とした場合、投入電力2kW、スパッタ圧力0.05Pa、Ar流量50sccm、02流量50sccmで1時間成膜しても、基材表面の温度は100℃以下とすることができる。従って、耐熱温度が低い樹脂材にも均質な純イットリア耐食膜を形成することができる。例えば、軟化点が150℃程度以下のプラスチックを基材に利用できると考えられる。
【0020】
本発明の純イットリア耐食膜は、前記何れかに記載の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法によって形成される純イットリア耐食膜であって、膜厚が1μm以下であることを特徴とする。本直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法では、前述したように、膜厚の制御が容易であり、1μm以下の均質な純イットリア耐食膜を形成することができる。このような純イットリア耐食膜は、プラズマに晒される半導体処理装や電子部品製造装置内の構成部品等の表面の被覆だけでなく、例えば、薄い被覆が望まれる半導体微細加工プロセス分野における各種部品、製品等の被覆に適用すれば、耐久性の顕著な向上と共に、コンパクト化やコストの低減化も可能となり、ひいては省資源化に寄与することもできる。
【0021】
本発明のさらに別の純イットリア耐食膜は、前記何れかに記載の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法によって形成される純イットリア耐食膜であって、可視光線に対する光透過率が90%以上であることを特徴とする。純イットリア耐食膜は、薄くても表面が均質で高い耐食特性を備えるため、半導体処理装置の石英で形成される覗き窓の被覆や、半導体プロセスで使用される各種石英パーツの被覆にも好適である。また、光学特性も良好であり、膜厚を薄く表面を鏡面状に形成できるため、光学部品の保護コーティング用としても好適に採用することができる。この光透過率は、特に95%以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の耐食性石英構成体は、前記何れかに記載の純イットリア耐食膜を、石英の表面に被覆してなることを特徴とする。半導体プロセスでは、様々な石英パーツ(容器、パイプ等)が工程別に使用されるが、従来、これらの部品は、プラズマガスに晒されて腐食・変形することが多く、変形したものには再生加工が施されて再使用に供されることが多かった。しかし、これらの石英パーツに純イットリア耐食膜を施すことによって、プラズマガスに対する耐久性を飛躍的に向上させることができるため、再生加工を施すことなく長期にわたり使用できるようになる。従って、半導体プロセスのランニングコストを大幅に低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法は、真空チャンバ内の不活性ガスの圧力を0.01〜1.0Paの低ガス圧に設定していることによって、基材表面におけるイットリウム金属原子の自由な移動を許容し、基材温度を低温に維持したままで、緻密で均質な被膜を形成することができる。
【0024】
本発明の純イットリア耐食膜は、プラズマに晒される半導体処理装置や電子部品製造装置内の構成部品等の表面に対する被覆だけでなく、例えば、薄い被覆が望まれる半導体微細加工プロセス分野における各種部品、製品等に用いれば、耐久性の顕著な向上と共に、コンパクト化やコストの低減化も可能となり、ひいては省資源化にも寄与することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の直流反応性対向ターゲット(ミラートロン)方式スパッタリング成膜方法の実施の形態について説明する。図1は、直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング装置(以下、スパッタリング装置という)の基本的な構成を示す説明図で、このスパッタリング装置は、真空チャンバ1内に、仕切り壁2によって、相互に区画されたターゲット配置領域3と成膜領域4を設け、ターゲット配置領域3内に一対のイットリウム金属からなるターゲット5,5を互いに対向させて配置し、該ターゲット5,5の裏面側にリング状の磁石6,6を配置している。一方、成膜領域4内には基材7を配置している。
【0026】
そして、ターゲット5,5に直流電圧を印加して、ターゲット5,5間にプラズマPを発生させ、該ターゲット5,5間に磁界によってプラズマPを拘束すると共に、その磁場空間にアルゴンガス等の不活性ガスを供給する一方、基材7に向けて酸素ガス等の反応性ガスを供給しつつ、真空チャンバ1内の不活性ガスの圧力を0.01〜1.0Paに設定し、プラズマP中に反応性ガスを実質的に侵入させることなく、基材7の表面でイットリウム金属原子と反応性ガス(O2)を結合させて純イットリア耐食膜を基材7上に形成する。尚、ターゲット5,5の周囲を、プラズマPの熱で溶融しない導電性材料で形成したシールドカバー10,10でそれぞれ覆い、その開口部11,11からターゲット5,5をプラズマPの拘束領域に臨ませ、かつ、そのシールドカバー10,10をアース電位に接続している。
【0027】
このように構成されるスパッタリング装置は、互いに対向させて配置した一対のターゲット5,5間に発生させるプラズマPをプラズマ周辺磁場が中央部よりも強い磁界によって拘束しているため、プラズマ境界付近の密度が高くなっている。従って、プラズマPの中に、酸素ガスが侵入し難い状態が形成されている。そして、成膜室4が、仕切り壁2によって、ターゲット室3と仕切られているため、直接プラズマPの影響を受けることなく、基材7の表面で実質的にイットリウム金属原子と反応性ガスのみを結合させて純度の高い純イットリア耐食膜を、速い成膜速度で形成することができる。また、ターゲット5,5が片減りすることなく満遍なく消費されるためターゲット利用効率が高い。
【0028】
そして、真空チャンバ1内の不活性ガスの圧力を0.01〜1.0Pa程度の低ガス圧に設定していることによって、基材7の表面でイットリウム金属原子の自由な移動が許容されるため、基材温度を低温に維持したままで、微細なグレーンサイズの緻密(dense-packed)で均質な被膜を形成することができる。また、ターゲット室3と成膜室4が仕切られているため、ターゲット室3と成膜室4とを各独立に制御(ターゲット配置領域では、直流印加電圧、不活性ガスの流量、成膜領域では反応性ガスの流量等)することができるので、成膜プロセスの簡素化と単純化が可能となり、かつ、膜組成の制御も容易となり、所望の膜特性を付与することができる利点も大きい。
【0029】
さらに、ターゲット5,5の周囲を、プラズマPの熱で溶融しない例えばステンレス材等の導電性材料で形成されたシールドカバー10,10で覆い、その開口部11,11からターゲット5,5をプラズマPの拘束領域に臨ませ、かつ、そのシールドカバー10,10をアース電位に接続している。そのシールドカバー10,10には、プラズマPによって赤熱状態に加熱される薄肉部が形成されていることが望ましい。このようなシールドカバー10,10を設けることにより、その赤熱部分には、絶縁膜が形成されることがなく、また、ターゲット5,5以外の部材をスパッタさせることもなく、そのシールドカバー10,10を介して、直流電源回路を常に閉じた状態に保持することができる。従って、真空チャンバ1内の放電電圧を上昇させることなく、異常放電(アーク)の発生を効果的に防ぐことができる。これにより、スパッタリング作業(成膜作業)を長時間にわたり継続することができ、優れた量産性を確保することができる。
【実施例1】
【0030】
上記の装置を用いて、本発明の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法(反応性ミラートロンスパッタリング)により、表1に示す条件で石英の基材上に純イットリア膜を形成した。ここでは、真空チャンバ1内のスパッタ圧力を0.01〜1.0Paの範囲で変化させ、試料1〜試料5とした。
【0031】
また、試料6として、図2に示すようなDCマグネトロンスパッタリング装置で、石英の基材7上に純イットリア膜を形成した。このマグネトロンスパッタリング装置は、真空チャンバ1内に、イットリウム金属からなるターゲット5を配置し、ターゲット5に対向させて石英からなる基材7を配置し、ターゲット5の裏面側にプラズマPを拘束するための磁石6を配置している。この基材7は、シールドカバー10によって覆われ、その開口11からターゲット5をプラズマPの拘束領域に臨ませている。その真空チャンバ1は、真空ポンプ8によって真空引きされつつ、その磁場空間にアルゴンガス(Ar)と、酸素ガス(O2)が供給される。
【0032】
さらに、試料7として、RFスパッタリング装置(RF二極反応性スパッタ法による)で、石英の基材上に純イットリア膜を形成した。この装置は、ターゲットに印加する電源が高周波電源である点、及び磁石を用いていない点が図2の装置との主な相違点である。
【0033】
【表1】

【0034】
各試料を製作する成膜条件に関し、成膜速度および成膜継続性を評価し、各条件により得られたイットリア膜に関し、膜の耐食性、ドロップレットの多少および透過率の評価を行った。そして、一部の試料については、光学顕微鏡で試料断面を観察し、膜構造について考察した。膜の評価結果を表2に示す。
【0035】
成膜速度は、1分間当たりの成膜の厚みで評価した。成膜速度が10nm/min未満のものを×、10nm/min以上20nm/min未満のものを△、20nm/min以上40nm/min未満のものを○、40nm/min以上のものを◎とする。
【0036】
成膜継続性は、表1と同様の条件にて成膜を繰り返し、5日以上連続して成膜できる場合を◎、2日以上5日未満連続して成膜できる場合を○、2日未満の場合を×とした。
【0037】
耐食性は、得られた試料を半導体処理装置のチャンバ内に用いるフッ素のプラズマガス中に晒して耐食試験を行い、イットリア膜に剥離等が生じる時間を比較検討した。耐食試験を開始してから剥離までの時間が1日未満のものを×、1日以上6日未満のものを○、6日以上のものを◎とする。
【0038】
ドロップレットは、イットリア膜を光学顕微鏡で拡大して観察し、その所定面積当たりのドロップレットの個数を数えることで評価した。ここでは、直径4インチのイットリア膜のうち、中心部と外周部の2箇所について、1箇所当たり3mm角の観察領域内にドロップレットが認められるかどうかを調べる。そして、2箇所の観察領域におけるドロップレットの合計数を計測して評価する。ドロップレットの数が0個のものを◎、1個以上3個以下のものを○、4個以上のものを△とする。
【0039】
光透過率は、各試料の光透過率を市販の可視光線透過率測定器により測定した。測定に用いる可視光の波長は550nmである。光透過率が95%以上のものを◎で、90%以上のものを○とする。
【0040】
そして、成膜方法とイットリア膜の特性について総合的に実用性の評価を行った。この評価は4段階で行い、◎及び〇は実用に供し得るものを示し、△は実用に供し得ないものを示す。
【0041】
【表2】

【0042】
この表1から明らかなように、真空チャンバ1内のスパッタ圧力を0.01〜1.0Paの範囲内の比較的低い値に設定した試料1〜5では、成膜速度が速く、短い成膜時間で、実用に供し得る緻密で良質なイットリア被膜を石英基材上に形成することができた。この成膜速度を成膜レートに換算すると、40nm/min以上であった。また、試料1のイットリア膜の断面を高感度電子顕微鏡で観察した結果、多数の細い短繊維が膜の厚み方向に沿って配され、この多数の短繊維が膜の厚み方向と直交する方向に並列された緻密な膜構造が認められた。
【0043】
これに対し、スパッタ圧力が0.01Pa未満の場合、放電電圧が高くなり、緻密で良質なイットリア被膜を石英基板上に形成できないと考えられる。また、スパッタ圧力が1.0Pa超の場合、スパッタリングされた粒子(イットリウム金属原子)がクラスター状(粉体状)になり易く、膜の緻密性が低下し耐食性も低下すると考えられる。
【0044】
一方、DCマグネトロンスパッタリング法により成膜した試料6では、電子顕微鏡観察の結果、イットリア被膜が柱状の粗い膜構造となっていた。また、この試料6では、スパッタ圧力が高く、アークが発生し易くなり、試料1〜5に比べてドロップレットが多く見られた。このようなドロップレットの発生を少なくするためには、投入電力を、例えば100W程度に下げればよいが、このような対応をとれば、さらに成膜速度が遅くなるため、量産性を全く期待できなくなる。そして、耐食試験の結果でも、試料6は試料1〜5に比べて大きく劣る結果となっていた。
【0045】
これは、次のような理由によると考えられる。マグネトロンスパッタリング装置により純イットリア耐食膜を形成する場合、装置の構成上、プラズマP中に基材5が存在するため、基材5が高エネルギー粒子から衝撃を受ける。即ち、ターゲット印加電圧程度の運動エネルギーを持ち、磁力線に沿って衝突する二次電子のガンマ電子により基材5が強い衝撃を受けるため、その運動エネルギーが熱化して基材温度が200℃以上になる。また、ガンマ電子の衝撃により負の電荷がチャージアップするため基材5のセルフバイアスが負となり、今度は、正のアルゴンイオンが基材5に衝突してくる。そのアルゴンイオンの質量は膜原子と同等であるため、膜に欠損を生じさせたり、再スパッタリングにより格子欠陥が生じる。従って、膜表面が荒らされて、このような膜がフッ素プラズマガスに晒されると腐食が進行しやすくなる。また、反応性スパッタリングを適用する場合には、特に、酸素が負イオンになり易く、電子と同じように、基材5に衝突して大きな膜損傷を与えてしまう等々により、実用に供し得る純イットリア耐食膜を形成することができなかった。その膜構造は、柱状粒が林立した形態をなし、かつ表面は平滑でない。そのため、柱状粒間の隙間にプラズマガスが侵入しやすく、腐食され易いことが推定される。
【0046】
さらに、試料7は、成膜継続性、膜構造、ドロップレットの多少については試料1〜試料5と同等であったが、成膜速度が大幅に遅かった。この成膜速度を成膜レートに換算すると、10nm/min未満であった。従って、試料7の成膜方法は、到底実用的な成膜方法とはいい難い。
【実施例2】
【0047】
次いで、図1に示す装置を用い、本発明の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法により、ポリエチレンテレフタレート(PET)の表面に純イットリア耐食膜を形成した場合について説明する。表3に示すように、真空チャンバ1内のスパッタ圧力を0.01〜1.0Paの範囲で変化させ、試料11〜試料14とした。
【0048】
【表3】

【0049】
各試料の評価を、表4に示す。成膜速度、成膜継続性の評価基準は、上記実施例1と同様とした。また、実用性の総合評価も、実施例1の場合に準じて、4段階で行い、〇は実用に供し得るものを示し、◎は特に評価に優れるものを示す。
【0050】
【表4】

【0051】
尚、DCマグネトロンスパッタリング法及びRF二極スパッタリング法では、Ar:60sccm、O2:30sccm、ガス圧:1Pa、投入電力:2〜3kWの条件では、何れも基材温度が200℃以上になり、樹脂材を基材にする場合には適用できないことが判ったので成膜を行っていない。
【0052】
試料11〜14では、スパッタ圧力を0.01〜1.0Paの範囲内の低い値に設定したため、成膜速度が速く、短い成膜時間で、実用に供し得る緻密で良質なイットリア被膜を樹脂基材上に形成することができた。これに対して、スパッタ圧力が、上記の範囲より高い場合、スパッタリングされた粒子(イットリウム金属原子)がクラスター状(粉体状)になり、膜の緻密性が低下し耐食性も低下すると考えられる。この試料11〜14は、例えば光学薄膜等として使用することができる。また、基材には、アクリル、PET等を適用することもできる。また、その用途として、封止部材、フィルム等に用いることができる。このような純イットリア耐食膜を樹脂材の表面に形成した場合には、成膜時に膜欠陥の少ない高品位な膜を成膜でき、使用時には膜の剥離などの損傷が少なく、耐久性に優れた被覆部材とすることができる。
【0053】
尚、本発明は、実施の形態に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜、必要に応じて改良、変更等は自由である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法は、半導体処理装置及び電子部品製造装置内の構成部品等の表面成膜に好適に適用することができる。
【0055】
本発明の純イットリア耐食膜および耐食性石英構成体は、半導体微細加工プロセス分野における各種部品、製品等に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法を実施するためのスパッタリング装置の構成説明図である。
【図2】試料6に適用したマグネトロンスパッタリング装置の構成説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 真空チャンバ 2 仕切り壁 3 ターゲット室 4 成膜室
5 ターゲット 6 磁石 7 基材 8 真空ポンプ
9 純イットリア耐食膜 10 シールドカバー 11 開口部
P プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に純イットリア耐食膜を形成するための直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法であって、
真空チャンバ内に、相互に区画されるターゲット配置領域と成膜領域を設け、前記ターゲット配置領域内に一対のイットリウム金属からなるターゲットを互いに対向させて配置すると共に、前記成膜領域内に前記基材を配置し、前記ターゲットに直流電圧を印加して、前記ターゲット間にプラズマを発生させ、該ターゲット間に磁界によってプラズマを拘束すると共に、その磁場空間にアルゴンガス等の不活性ガスを供給する一方、前記基材に向けて酸素ガス等の反応性ガスを供給しつつ、前記真空チャンバ内の不活性ガスの圧力を0.01〜1.0Paに設定し、該プラズマ中に反応性ガスを実質的に侵入させることなく、前記基材表面でイットリウム金属原子と反応性ガスを結合させて純イットリア耐食膜を前記基材上に形成することを特徴とする直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法。
【請求項2】
前記基材が、石英、金属又はセラミックスの何れかであり、前記基材の温度を室温〜600℃に保持して、純イットリア耐食膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法。
【請求項3】
前記基材がプラスチック等の樹脂材であり、前記基材の温度を室温〜150℃に保持して、純イットリア耐食膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法によって形成される純イットリア耐食膜であって、膜厚が10μm以下であることを特徴とする純イットリア耐食膜。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の直流反応性対向ターゲット方式スパッタリング成膜方法によって形成される純イットリア耐食膜であって、可視光線に対する光透過率が90%以上であり、前記基材が、光透過性素材からなることを特徴とする純イットリア耐食膜。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の純イットリア耐食膜を、石英の表面に被覆してなることを特徴とする耐食性石英構成体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−287058(P2009−287058A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138794(P2008−138794)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(507286068)株式会社薄膜プロセス (1)
【Fターム(参考)】