説明

相互誘導回路

【課題】専有面積の小さいトランス素子を提供すること。
【解決手段】トランス素子1は、半導体基板上において上下方向に平行な第1及び第2の配線層を使って形成され、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3を備える。第1及び第2のインダクタンス2及び3は、鉛直上方向及び鉛直下方向の一方から第1の配線層及び第2の配線層の一方に投影した時に、投影された外形線が予め定められた基準面を基準として対称な形状を有し、かつ投影された外形線が第1の配線層及び第2の配線層の一方上で交差し合う部分については、第1の配線層及び第2の配線層を使って交差しないよう構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互誘導回路に関し、より特定的には、上下方向に平行な第1及び第2の配線層を使って形成され、入力差動信号に基づいて動作する相互誘導回路に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体通信端末装置の普及に伴い、近年、多くの無線回路が集積回路に集積されるようになってきた。このような流れの中で、無線回路に多用される相互誘導回路の一例としてのトランス素子もまた集積回路に集積されるようになってきた。以下、従来のトランス素子として、下記の3公報に開示されたものについて説明する。
【0003】
図32Aは、特開平6−120048号公報に開示されているトランス素子(以下、「従来の技術」欄において第1の相互誘導回路100と称する。)の構造を模式的に示す上面図である。また、図32Bは、図32Aに示す線V−Vに沿う第1の相互誘導回路100の断面を矢印Wの方向から見たときの模式図である。図32A及び図32Bにおいて、第1の相互誘導回路100は、1次コイル101及び2次コイル102を備える。両コイル101及び102は絶縁層103の内部に形成され、1次コイル101は2次コイル102の直下に形成される。また、1次コイル101は大略的には、渦巻き形状を有しており、その一方端及び他方端に第1及び第2の入力端子A1及びA2を有する。より具体的には、1次コイル101は、渦の略中心に配置される第1の入力端子A1の周りに、大きくなる一続きの円を同一平面上に描くような形状を有する。第2の入力端子A2は、このような渦巻き形状を有する1次コイル101の外周側の端に配置される。
【0004】
2次コイル102は、1次コイル101と実質的に同じ形状を有し、1次コイル101を鉛直方向に所定量だけ平行移動させた位置に形成される。また、2次コイル102において、渦の中心側の端には第1の出力端子A3が、外周側の端には第2の出力端子A4が設けられる。
【0005】
以上の第1の相互誘導回路100では、第1の入力端子A1及び第2の入力端子A2に電気信号を与えると、第1の出力端子A3及び第2の出力端子A4から、1次コイル101及び2次コイル102の巻き数比に応じた電気信号が得られる。
【0006】
図33は、特開平11−176639号公報に開示されているトランス素子(以下、「従来の技術」欄において第2の相互誘導回路200と称する。)の構造を模式的に示す縦断面図である。図33において、第2の相互誘導回路200は、下部チップ201及び上部チップ202を備えている。下部チップ201は、半導体基板203上に積層された絶縁膜204上に形成されるコイル205を備えている。上部チップ202もまた、半導体基板206に積層された絶縁膜207上に形成されるコイル208を備える。以上の下部チップ201及び上部チップ202は、ポリイミド膜209を介して接着される。このとき、1次コイル208及び2次コイル205は、ポリイミド膜209内に仮想的に形成される基準平面RPを基準として対称に配置される。
【0007】
以上の第2の相互誘導回路200では、コイル205及び208の一方に電気信号を与えると、コイル205及び208の他方から、それらの巻き数比に応じた電気信号が得られる。
【0008】
図34Aは、特開平11−307723号公報に開示されているトランス素子(以下、「従来の技術」欄において第3の相互誘導回路300と称する。)の構造を模式的に示す上面図である。また、図34Bは、図34Aに示す線P−Pに沿う第3の相互誘導回路300の断面を矢印Qの方向から見たときの断面図である。図34A及び図34Bにおいて、第3の相互誘導回路300は、半導体基板301上に形成され、第1の平面渦状コイル302と、第2の平面渦状コイル303と、第3の平面渦状コイル304とを備えている。第2の平面渦状コイル303は、第1の絶縁膜305を介して、第1の平面渦状コイル302上に形成される。言い換えれば、第2の平面渦状コイル303は、第1の平面渦状コイル302上に形成される第1の絶縁膜305上に配置される。また、第3の平面渦状コイル304は、第2の絶縁膜306を介して、第2の平面渦状コイル303上に形成される。また、第1の平面渦状コイル302が有する渦中心側の端と、第2の平面渦状コイル303が有する渦中心側の端とが電気的に接続される。また、第2の平面渦状コイル303が有する渦外周側の端と、第3の平面渦状コイル304が有する渦外周側の端近傍とが電気的に接続される。
【0009】
また、第1の平面渦状コイル302及び第2の平面渦状コイル303の接続部分からは、第1の入力端子307を構成するために、信号線が引き出される。さらに、第3の平面渦状コイル304における渦中心側の端からは、第2の入力端子308を構成するために、信号線が引き出される。また、第1の平面渦状コイル302における渦外周側の端は、第1の出力端子309を構成し、第3の平面渦状コイル304における渦外周側の端は、第2の出力端子309aを構成する。
【0010】
以上の第3の相互誘導回路300では、第1の入力端子307を接地した状態で、第2の入力端子308に電気信号を与えると、第1の出力端子309及び第2の出力端子309aの間に、変圧された電気信号が現れる。
【0011】
また、相互誘導回路の他の例としての差動インダクタ素子も、トランス素子と同様に、集積回路に集積されるようになってきた。以下、従来の差動インダクタ素子として、下記の2公報に開示されたものについて説明する。
【0012】
図35は、特開2002−164704号公報に開示されている差動スイッチ回路を示す回路図である。また、図36は、特許第3188276号公報に開示されている差動分布型増幅回路の回路図である。図35に示す差動スイッチ回路、及び図36に示す差動分布型増幅回路のような差動回路に関しては、単相回路の場合と単純に比較して倍の数の素子が必要となる。特に、インダクタ素子は他の素子と比較して大きな面積を占有する。それ故、上記のような差動回路を集積化する場合、インダクタ素子は各種コストを増大させる要因となっていた。以上の問題点に対処するため、特開2002−164704号公報には、以下のような差動インダクタ素子が開示されている。
【0013】
図37A及び図37Bは、特開2002−164704号公報に開示されている差動インダクタ素子の構造を示す斜視図である。図37Aにおいて、差動インダクタ素子は、上下方向に配置される2個のスパイラルインダクタ素子からなる。各スパイラルインダクタには、互いに等振幅であるが互いに逆位相のバランス信号が入力され、各スパイラルインダクタからは、互いに等振幅であるが互いに逆位相のバランス信号が出力される。
【0014】
より具体的には、第1のスパイラルインダクタは、入力配線604aと、スパイラル形状に巻かれたスパイラル配線601aと、信号を出力する出力配線605aとを含む。第2のスパイラルインダクタも、入力配線604bと、スパイラル配線601bと、出力配線605bとを含む。以上のような第1及び第2のスパイラルインダクタにおいて、スパイラル配線601a及び601bは互いに逆方向に巻かれている。また、スパイラル配線601a及び601bは、絶縁層を介して上下層に重なり合うように形成される。
また、入力配線604a及び604bは、引き出し配線602a及び602bを介してスパイラル配線601a及び601bに接続される。引き出し配線602a及び602bのためには、スパイラル配線601a及び601bが形成される配線層よりも下側に位置する配線層が用いられる。互いに異なる配線層間の配線は、層間コンタクト603a−603dによって接続される。
【0015】
また、図37Bの差動インダクタ素子において、スパイラル配線601a及び601bは、互いに逆方向に巻かれており、交差配線部分606a−606cを除いて、同一の配線層に交互に平行するように形成されている。
以上のような図37A及び図37Bに示す差動インダクタ素子により、ほぼ1個分のインダクタ素子が占有する面積で、差動インダクタ素子が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平6−120048号公報
【特許文献2】特開平11−176639号公報
【特許文献3】特開平11−307723号公報
【特許文献4】特開2002−164704号公報
【特許文献5】特許第3188276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
半導体に集積される無線回路に代表されるような高周波回路は、コモンモードノイズを低減するために差動回路で実現される場合がある。しかしながら、従来の各トランス素子では、信号入力側から見たとき、各コイルは対称な形状になっていない。そのため、差動信号を構成する同相信号が一方の入力端子に与えられ、かつ逆相信号が他方の入力端子に与えられたとしても、2個の出力端子からは、位相が互いに反転した2信号が得られないという問題がある。
【0018】
なお、従来の各トランス素子を偶数個使えば(図32A及び図32Bを参照)、上述のような対称性を実現可能であるが、その結果、トランス素子が半導体集積回路において大きな面積を占有してしまうという別の問題が生じてしまう。
【0019】
また、一般的に、トランス素子は、半導体基板の抵抗成分による損失を低減するため、できるだけ半導体基板から離れた配線層に形成される必要がある。しかしながら、従来のトランス素子は3層以上の配線層を必要とする。例えば、第1の相互誘導回路100では、1次コイル101及び2次コイル102を形成するために1層ずつ必要になり、さらに、1次コイル101及び2次コイル102の一方の端子が渦の中心側にあるので、入力信号を与えるため、又は出力信号を取り出すための信号線用に配線層がさらに1層必要となる。また、第2の相互誘導回路200も、上述の1次コイル101及び2次コイル102と同様の形状を有するコイル208及びコイル205を備えているため、配線層が3層必要となる。さらに、トランス素子300に関しては、3個の平面渦状コイル302−304を形成するためだけに、配線層が3層必要となる。
【0020】
以上から明らかな様に、従来のトランス素子を形成するのに多くの配線層が必要となり、さらには半導体プロセスの配線層の数には限界があることから、従来のトランス素子を半導体基板から離して形成すること、及び、半導体基板の抵抗成分による損失を低減することが難しいという問題点がある。
【0021】
また、従来の差動インダクタ素子においても、2個のインダクタが対称な形状になっていない。そのため、差動信号を構成する同相信号が一方の入力端子に与えられ、かつ逆相信号が他方の入力端子に与えられたとしても、2個の出力端子からは、位相が互いに反転した2信号が得られないという問題がある。なお、従来の差動インダクタ素子も偶数個使えば、上述のような対称性を実現可能であるが、その結果、差動インダクタ素子が半導体集積回路において大きな面積を占有してしまうという別の問題が生じてしまう。
【0022】
それ故に、本発明の第1の目的は、専有面積の小さい相互誘導回路を提供することを目的とする。また、本発明の第2の目的は、少ない配線層数で構成でき、かつ低損失な相互誘導回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記問題点を解決するために、本発明の一局面は、上下方向に平行な第1及び第2の配線層を使って形成される相互誘導回路であって、第1のインダクタンスと、第1のインダクタンスで発生した磁束が鎖交する位置に形成される第2のインダクタンスとを備え、第1及び第2のインダクタンスは、鉛直上方向及び鉛直下方向の一方から第1の配線層及び第2の配線層の一方に投影した時に、投影された外形線が予め定められた第1の基準面を基準として対称な形状を有し、かつ投影された外形線が第1の配線層及び第2の配線層の一方上で交差し合う部分については、第1の配線層及び第2の配線層を使って交差しないように構成される。
【0024】
相互誘導回路は例示的にはトランス素子であって、第1のインダクタンスは、差動信号を構成する同相信号及び逆相信号が入力される第1及び第2の入力端子を含み、第1及び第2の入力端子に入力された同相信号及び逆相信号により磁束を発生する。また、第2のインダクタンスは、第1のインダクタンスとの相互誘導作用により、変圧された同相信号及び逆相信号を出力する第1及び第2の出力端子を含む。
【0025】
第1のインダクタンス及び第2のインダクタンスのいずれか一方は好ましくは、第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、かつ外周側から内周側に向かって、第1の配線層及び第2の配線層のいずれか一方に形成される、複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、第1の部分環状線路の内、外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されるものとを、第1及び第2の配線層の間に形成される2個のコンタクトを介して接続し、かつ、第1の配線層及び第2の配線層のいずれか他方に形成される少なくとも1つの接続線路とを備える。
【0026】
第1のインダクタンスは好ましくは、第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、外周側から内周側に向かって、第1の配線層に形成される、複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、第1の部分環状線路の内、基準面を基準として一方側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として逆側にあるものとを2個のコンタクトを介して接続し、かつ第2の配線層に形成される第1の接続線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として逆側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として一方側にあるものとを接続し、かつ、第1の配線層に形成される第2の接続線路とを備える。また、第2のインダクタンスは好ましくは、第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、外周側から内周側に向かって、第2の配線層に形成される、複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として一方側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として逆側にあるものとを2個のコンタクトを介して接続し、かつ第1の配線層に形成される第1の接続線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として逆側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として一方側にあるものとを接続し、かつ、第2の配線層に形成される第2の接続線路とを備える。
【0027】
第2のインダクタンスが備える第1及び第2の部分環状線路は好ましくは、第1のインダクタンスが備える第1及び第2の部分環状線路の鉛直方向真下又は真上に形成されない。
第1のインダクタンスの仮想中点と、第2の仮想中点とを電気的に接続するコンタクトをさらに備える。
【0028】
第1のインダクタンスは好ましくは、第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、外周側から内周側に向かって、第1の配線層に形成される、複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として一方側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として逆側にあるものとを2個のコンタクトを介して接続し、かつ第2の配線層に形成される第1の接続線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として逆側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として一方側にあるものとを接続し、かつ、第1の配線層に形成される第2の接続線路とを備える。また、第2のインダクタンスは好ましくは、第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、外周側から内周側に向かって、第1の配線層において、第1のインダクタンスの第1及び第2の部分環状線路の隣に形成される複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として一方側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として逆側にあるものとを2個のコンタクトを介して接続し、かつ第1の配線層に形成される第1の接続線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として逆側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として一方側にあるものとを接続し、かつ、第2の配線層に形成される第2の接続線路とを備える。
【0029】
第1及び第2のインダクタンスは例示的には、第1の基準面と垂直な第2の基準面に対して、互いに対称な形状を有する。
【0030】
第1のインダクタンスは好ましくは、第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、外周側から内周側に向かって、第1の配線層に形成される、複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として一方側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として逆側にあるものとを2個のコンタクトを介して接続し、かつ第2の配線層に形成される第1の接続線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として逆側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として一方側にあるものとを接続し、かつ、第1の配線層に形成される第2の接続線路とを備える。また、第2のインダクタンスは好ましくは、第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、外周側から内周側に向かって、第1の配線層に複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として一方側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として逆側にあるものとを2個のコンタクトを介して接続し、かつ第1の配線層に形成される第1の接続線路と、第1の部分環状線路の内、第1の基準面を基準として逆側であってかつ外周側に形成されるものと、第2の部分環状線路において、第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ第1の部分環状線路と第1の基準面を基準として一方側にあるものとを接続し、かつ、第2の配線層に形成される第2の接続線路とを備える。第2のインダクタンスにおいて、複数の第1の部分環状線路は、第1の配線層において互いに隣り合い、複数の第2の部分環状線路は、第1の配線層において互いに隣り合う。
【0031】
相互誘導回路は好ましくは、第1のインダクタンスの仮想中点と、第2のインダクタンスの仮想中点とを接続するための線路をさらに備える。
相互誘導回路において、好ましくは、第1の配線層は第2の配線層よりも厚い。
【0032】
また、好ましくは、第1及び第2の入力端子、並びに第1及び第2の出力端子は、第1のインダクタンスにおいて最外周を構成する線路の一方端及び他方端にある。
【0033】
相互誘導回路は好ましくは、第1のインダクタンスに入力された差動信号を構成する同相信号及び逆相信号が入力される第1及び第2の入力端子を有しており、入力同相信号及び入力逆相信号により磁束を発生する第3のインダクタンスと、第1及び第3のインダクタンスで発生した磁束が鎖交する位置に形成され、第1のインダクタンスとの相互誘導作用により、変圧された同相信号及び逆相信号を第1及び第2の出力端子から出力する第4のインダクタンスとを備える。また、第3及び第4のインダクタンスは、第1及び第2のインダクタンスを、鉛直上方向から第2の配線層の一方に投影したものと実質的に同じ形状を有しており、第2の配線層に形成される。第1及び第3のインダクタンスは、複数のコンタクトを介して電気的に接続され、第2及び第4のインダクタンスは、複数のコンタクトを介して電気的に接続される。
【0034】
相互誘導回路は好ましくは、第1のインダクタンスの仮想中点と、第2のインダクタンスの仮想中点とを接続するための線路と、第3のインダクタンスの仮想中点と、第2のインダクタンスの仮想中点とを接続するための線路とをさらに備える。
【0035】
相互誘導回路において、好ましくは、第1及び第2の配線層は半導体基板上に形成される。また、相互誘導回路は、第1及び第2の配線層よりも半導体基板寄りの第3の配線層に形成されるシールドをさらに備え、シールドには、放射状のパターン又は放射状に配列された孔が形成される。
【0036】
相互誘導回路において、好ましくは、第1及び第2の配線層は半導体基板上に形成される。また、相互誘導回路は、第1及び第2の配線層よりも半導体基板側に、放射状に配列されるトレンチをさらに備える。
相互誘導回路において、好ましくは、第1及び第2の配線層は誘電体積層基板上に形成される。
相互誘導回路において、第1及び第2の配線層は誘電体単層両面基板上に形成される。
【0037】
相互誘導回路は例示的にはバランであって、第1及び第2の入力端子の一方、又は第1及び第2の出力端子の一方が接地される。
【0038】
また、第1のインダクタンスは例示的には、差動信号を構成する同相信号の入力及び出力に用いられる第1の入力端子及び第1の出力端子とを含み、第1の入力端子に入力された同相信号により磁束を発生する。第2のインダクタンスは、差動信号を構成する逆相信号の入力及び出力に用いられる第2の入力端子及び第2の出力端子とを含み、第2の入力端子に入力された逆相信号により磁束を発生する。
【0039】
また、本発明の第2の局面は、発振回路であって、予め定められた周波数を有する差動信号を生成する発振段と、発振段で生成された差動信号を変圧する相互誘導回路と、相互誘導回路で変圧された差動信号を増幅する増幅段とを備える。ここで、相互誘導回路は、トランス素子であって、半導体基板上において上下方向に平行な第1及び第2の配線層を使って形成され、発振段で生成された差動信号を構成する同相信号及び逆相信号が入力される第1及び第2の入力端子を有しており、入力同相信号及び入力逆相信号により磁束を発生する第1のインダクタンスと、第1のインダクタンスで発生した磁束が鎖交する位置に形成され、第1のインダクタンスとの相互誘導作用により、変圧された同相信号及び逆相信号を第1及び第2の出力端子から出力する第2のインダクタンスと、第1のインダクタンスの仮想中点と、第2の仮想中点とを電気的に接続するコンタクトとを含む。また、第1及び第2のインダクタンスは、鉛直上方向及び鉛直下方向の一方から第1の配線層及び第2の配線層の一方に投影した時に、投影された外形線が予め定められた基準面を基準として対称な形状を有し、かつ投影された外形線が第1の配線層及び第2の配線層の一方上で交差し合う部分については、第1の配線層及び第2の配線層を使って交差しないよう構成される。
また、好ましくは、発振回路は無線通信機器に組み込まれる。
【0040】
また、本発明の第3の局面は、増幅回路であって、互いに直列に接続され、差動信号が入力される複数の第1の相互誘導回路と、複数の第1の相互誘導回路のうち、最後のものに接続され、少なくとも差動終端抵抗を含む第1の終端回路と、複数の第1の相互誘導回路のうち最後のもの以外から出力される差動信号を増幅する複数の増幅段と、少なくとも差動終端抵抗を含んでおり、各増幅段から出力された差動信号を終端する第2の終端回路と、互いに直列に接続される複数の第2の相互誘導回路とを備える。ここで、複数の第2の相互誘導回路のうち、いずれか1個は、第2の終端回路と接続され、残りのものは、複数の増幅段のいずれかと接続され、各第1及び各第2の相互誘導回路は、上下方向に平行な第1及び第2の配線層を使って形成されており、第1のインダクタンスと、第1のインダクタンスで発生した磁束が鎖交する位置に形成される第2のインダクタンスとを備える。第1及び第2のインダクタンスは、鉛直上方向及び鉛直下方向の一方から第1の配線層及び第2の配線層の一方に投影した時に、投影された外形線が予め定められた第1の基準面を基準として対称な形状を有し、かつ投影された外形線が第1の配線層及び第2の配線層の一方上で交差し合う部分については、第1の配線層及び第2の配線層を使って交差しないように構成される。
【発明の効果】
【0041】
以上のように、本発明の第1〜第3の局面において、相互誘導回路は、それぞれが実質的に面対称に構成され、第1及び第2の配線層のみを使って形成される2個のインダクタンスを備える。その結果、1次側及び2次側のそれぞれに複数個のインダクタンスを備える必要がなくなる。これによって、専有面積の小さな相互誘導回路を実現することが可能となる。これによって、相互誘導回路を構成するための配線層数を少なくすることが可能となる。それに伴い、半導体基板から離して形成し、さらに、半導体基板の抵抗成分による損失を低減することが可能な相互誘導回路を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る相互誘導回路1の構造を示す斜視図
【図2】ZX平面に平行な面C(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図
【図3】XY平面に平行な面A(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図であって、図1に示す第1のインダクタンス2の構成要素を示す模式図
【図4】図1に示す面A(図1参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させかつ下層に含まれる面B(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図であって、図1に示す第1のインダクタンス2の構成要素を示す模式図
【図5】XY平面に平行な面B(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図であって、図1に示す第2のインダクタンス3の構成要素を示す模式図
【図6】面A(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図であって、図1に示す第2のインダクタンス3の構成要素を示す模式図
【図7A】図1の相互誘導回路1に好ましい構成としてトランス素子1に備わるパターンシールド7の斜視図
【図7B】図1の相互誘導回路1に好ましい構成として相互誘導回路1に備わるパターンシールド7の上面図
【図8A】図1に示す相互誘導回路1に付随的な半導体基板4の好ましい構成例を示す上面図
【図8B】図8Aに示す面Dで同図に示す半導体基板4を切断した時の断面図
【図9】図1に示す第2のインダクタンス3の変型例に係る第2のインダクタンス3aの構造を示す模式図
【図10】図1に示す半導体基板4の代替例である誘電体多層基板9を示す模式図
【図11】図1に示す半導体基板4の代替例である両面基板11を示す模式図
【図12】本発明の第2の実施形態に係る相互誘導回路41の構造を示す斜視図
【図13】XY平面に平行な面A(図12参照)で、図12に示す相互誘導回路41を切断した時の断面図
【図14】面A(図12参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させかつ下層に含まれる面B(図12参照)で、相互誘導回路41を切断した時の断面図
【図15】図12に示す相互誘導回路41の変型例に係る相互誘導回路41aの構造を示す斜視図
【図16】XY平面に平行な面A(図15参照)で、図15に示す相互誘導回路41aを切断した時の断面図
【図17】面A(図15参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させた面B(図15参照)で、図15に示す相互誘導回路41aを切断した時の断面図
【図18】本発明の第2の実施形態に係る相互誘導回路51の構造を示す斜視図
【図19】図18に示す相互誘導回路51をXY平面に平行な面A(図18参照)で切断した時の断面図
【図20】面A(図18参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させた、下層における面B(図18参照)で、相互誘導回路51を切断した時の断面図
【図21】本発明の第4の実施形態に係る無線通信機器61の全体構成を示すブロック図
【図22】図21に示す発振回路66の詳細な構成を示すブロック図
【図23】本発明の第5の実施形態に係る相互誘導回路71の構造を示す斜視図
【図24】図23に示す相互誘導回路71をXY平面に平行な面A(図23参照)で切断した時の断面図
【図25】面A(図23参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させた、下層における面B(図23参照)で、相互誘導回路71を切断した時の断面図
【図26】本発明の第6の実施形態に係る増幅回路83aの全体構成を示すブロック図
【図27】図26に示すバラン85の構成例を示す斜視図
【図28】本発明の第7の実施形態に係る相互誘導回路81の構造を示す斜視図
【図29】図28に示す相互誘導回路81をXY平面に平行な面A(図28参照)で切断した時の断面図
【図30】面A(図28参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させた、下層における面B(図28参照)で、相互誘導回路71を切断した時の断面図
【図31】本発明の第8の実施形態に係る増幅回路91の全体構成を示す回路図
【図32A】特開平6−120048号公報に開示されているトランス素子の構造を模式的に示す上面図
【図32B】特開平6−120048号公報に開示されているトランス素子の構造を模式的に示す断面図
【図33】特開平11−176639号公報に開示されているトランス素子の構造を模式的に示す縦断面図
【図34A】特開平11−307723号公報に開示されているトランス素子の構造を模式的に示す上面図
【図34B】特開平11−307723号公報に開示されているトランス素子の構造を模式的に示す縦断面図
【図35】特開2002−164704号公報に開示されている差動スイッチ回路を示す模式図
【図36】特許第3188276号公報に開示されている差動分布型増幅回路を示す模式図
【図37A】図36に示す差動インダクタ素子の構造の一例を示す斜視図
【図37B】図36に示す差動インダクタ素子の構造の他の例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0043】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る相互誘導回路1の一例としてのトランス素子の構造を示す斜視図である。なお、図1には説明の便宜のために、X軸、Y軸及びZ軸からなる3次元座標系が示される。図2は、ZX平面に平行な面C(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図である。
【0044】
図1及び図2に示すように、相互誘導回路1は、半導体基板4上の層間絶縁膜5内であってかつZ軸の方向(上下方向)に配列された2つの配線層に形成される。ここで、以下の説明では、上側の配線層を上層と、下側の配線層を下層と、さらに両層の間を層間と称する。具体的には、相互誘導回路1は、導電性材料からなり、第1のインダクタンス2と、第2のインダクタンス3とを、本質的に備える。
【0045】
図3は、上層においてXY平面に平行な面A(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図であって、図1に示す第1のインダクタンス2の構成要素を示す模式図である。図4は、面A(図1参照)をZ軸の負方向に距離D1(図1参照)だけ平行移動させかつ下層に含まれる面B(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図であって、第1のインダクタンス2の構成要素を示す模式図である。なお、図3及び図4では、第1のインダクタンス2において、面A及び面Bに無い構成については全て点線で示されている。
【0046】
第1のインダクタンス2は、導電性材料からなり、図1〜図4に示すように、大部分の構成を面A上に有するが、残りの構成を面B上又は層間に有する。具体的には、第1のインダクタンス2は、第1及び第2の端子21及び22と、典型的にはマイクロストリップ線路からなる第1〜7の線路23〜29とを面A上に備えている。
【0047】
第1の端子21及び第2の端子22は、ZX平面を基準として互いに対称な位置に形成される。なお、本実施形態では例示的に、第1の端子21及び第2の端子22は、第1の線路23の一端及び第2の線路24の一端である。
【0048】
第1の線路23は、第1のインダクタンス2における最外周の一部を構成する部分環状線路であり、第1の端子21と、後述する第1のコンタクト210とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、下記の10点P1〜P10(図3参照)で規定される領域内に、第1の線路23は形成される。点P1は、X座標値及びY座標値として、(X1,−Y1)を有する。ここで、X1及びY1は、相互誘導回路1の仕様に応じて定められる正の値である。点P2は、第1の線路23の幅をW1とすると、Y軸の負方向にW1の距離だけ点P1を平行移動させた点である。点P3は、W1よりも大きい距離、点P1をX軸の正方向に平行移動させた点である。点P4は、X軸の負方向及びY軸の負方向の双方にW1の距離だけ点P3を平行移動させた点である。点P5及びP6は、Y軸の負方向にW1以上の距離、点P3及びP4を平行移動させた点である。点P7は、X軸の正方向に距離D2だけ点P5を平行移動させた点である。D2は、相互誘導回路1の仕様に従って定められる正の値である。点P8は、X軸の正方向及びY軸の負方向の双方に、W1の距離だけ、点P7を平行移動させた点である。点P9は、点P7を、Y軸の正方向に距離D3だけ平行移動させた点である。D3は、相互誘導回路1の仕様に従って定められるが、少なくとも点P7のY座標値よりも小さい正の値である。点P10は、距離W1だけX軸の正方向に点P9を平行移動させた点である。
【0049】
第2の線路24は、第1のインダクタンス2における最外周の一部を構成する部分環状線路であり、第2の端子22と、後述する第3の線路25とを電気的に接続し、ZX面を基準にして第1の線路23と対称な位置に形成される。
【0050】
第3の線路25は、第2の線路24と、後述する第4の線路26とを電気的に接続し、本実施形態では例示的に、以下の4点P11〜P14(図3参照)を頂点とする平行四辺形内に形成される。点P11及びP12は、ZX平面を基準として、上述の点P9及びP10と対称な点である。点P13は、距離W1+W2より大きい距離、X軸の負方向に点P9を平行移動させた点である。ここで、W2は、後述する第5の線路37の幅である。点P14は、W1の距離だけ点P13をX軸の正方向に平行移動させた点である。
【0051】
第4の線路26は、第3の線路25と、後述する第3のコンタクト213とを電気的に接続し、第1のインダクタンス2において、最外周よりも1つ内側の周の一部を構成する部分環状線路である。本実施形態では例示的に、第4の線路26は、以下の8点P13〜P20(図3参照)で規定される領域に形成される。なお、第4の線路26の幅は、第1の線路23と同様、W1とする。点P13及びP14については上述した通りである。点P15は、Y軸の負方向に、点P13を距離D4だけ平行移動させた点である。D4は、相互誘導回路1の仕様に従って定められ、D3−W1よりも小さい正の値である。点P16は、X軸の正方向及びY軸の負方向の双方に、距離W1だけ、点P15を平行移動させた点である。点P17は、X軸の負方向に距離D5だけ、点P15を平行移動させた点である。D5は、相互誘導回路1の仕様に従って定められ、D2−(2×W1+2×W2)よりも小さい正の値である。点P18は、X軸及びY軸のそれぞれの負方向に、距離W1だけ、点P17を平行移動させた点である。点P19は、Y軸の正方向に、点P17を、距離D4だけ平行移動させた点である。点P20は、X軸の負方向に距離W1だけ点P19を平行移動させた点である。
【0052】
第5の線路27は、最外周よりも1つ内側の周の一部を構成する部分環状線路であって、それぞれが後述される第2のコンタクト212及び第6の線路28とを電気的に接続し、ZX面を基準にして第4の線路26と対称な位置に形成される。
【0053】
第6の線路28は、第5の線路27と、後述する第7の線路29とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第6の線路28は、以下の4点P21〜P24(図3参照)を頂点とする平行四辺形で囲まれる領域内に形成される。点P21及びP22は、ZX平面を基準として、上述の点P19及びP20と対称な点である。点P23は、X軸の正方向に、W1+W2よりも若干大きな距離だけ、点P19を平行移動させた点である。点P24は、X軸の負方向に、距離W1だけ、点P23を平行移動させた点である。
【0054】
第7の線路29は、第6の線路28と第4のコンタクト215とを電気的に接続し、第1のインダクタンス2の最内周を構成する部分環状線路である。なお、第7の線路29の幅はW1とする。さらに、本実施形態では例示的に、第7の線路29は、以下の12点P23〜P34(図3参照)で規定される領域内に形成される。点P23及びP24については上述した通りである。点P25は、Y軸の負方向に距離D6だけ、点P23を平行移動させた点である。D6は、相互誘導回路1の仕様に従って定められ、より具体的には、D4−W1よりも小さい正の値である。点P26は、X軸及びY軸のそれぞれの負方向に距離W1だけ、点P25を平行移動させた点である。点P27は、X軸の正方向に、点P25を距離D7だけ平行移動させた点である。D7は、D5−(2×W1+W2)よりも小さい正の値である。また、点P28は、X軸の正方向及びY軸の負方向の双方に、距離W1だけ、点P27を平行移動させた点である。なお、点P29〜P34は、ZX平面を基準にして、点P23〜P28と対称であるため、それらの詳細な説明を省略する。
【0055】
さらに、第1のインダクタンス2は、第1のコンタクト210と、第8の線路211と、第2及び第3のコンタクト212及び213と、第9の線路214と、第4のコンタクト215とを、下層側の面B上、又は層間に備えている。
【0056】
各コンタクト210、212、213及び215は層間に配される点で同じである。また、本実施形態では、便宜上、各コンタクト210、212、213及び215は、底面の各辺がW1で、高さがD1より若干小さい値を有する直方体であると仮定する。
【0057】
第1のコンタクト210は、少なくとも、第1の線路23の点P9及びP10の近傍と、後述する第8の線路211における点P35〜P38(図4参照)で囲まれる領域とを電気的に接続する。
【0058】
第8の線路211は、典型的にはマイクロストリップ線路であり、第1のコンタクト210と、後述する第2のコンタクト213とを電気的に接続するための線路である。本実施形態では例示的に、面B上における8点P35〜P42(図4参照)で規定される領域内に第8の線路211は形成される。4点P37〜P40は実質的に、ZX平面を基準として前述の点P11〜P14に対称な各点を、鉛直上方向から面Bに投影したものである。次に、点P35及びP36は、Y軸の負方向に距離W1だけ、点P37及びP38を平行移動させた点である。また、点P41及びP42は、Y軸の正方向に距離W1だけ、点P39及びP40を平行移動させた点である。
【0059】
第2のコンタクト212は、点P39〜点P42で囲まれる領域と、前述した第5の線路27の点P29及びP30近傍とを電気的に接続する。
【0060】
第3のコンタクト213は、前述した第4の線路26の点P19及びP20近傍と、後述する第9の線路214の外形を規定する点P43〜P46とを電気的に接続する。
【0061】
第9の線路214は、典型的にはマイクロストリップ線路であり、第3のコンタクト213と、後述する第4のコンタクト215とを電気的に接続するための線路である。また、第9の線路214の外形は、面B上における4点P43〜P50で規定される。まず、点P45〜P48は、ZX平面を基準として前述の点P21〜P24に対称な各点を、鉛直上方向から面Bに投影したものである。次に、点P43及びP44は、点P45及びP46を、Y軸の負方向に距離W1だけ平行移動させた点である。また、点P49及びP50は、点P47及びP48を、Y軸の正方向に距離W1だけ平行移動させた点である。
【0062】
第4のコンタクト215は、少なくとも第9の線路214における点P47〜P50で囲まれる領域と、前述した第7の線路29の点P29及びP30の近傍とを電気的に接続する。
【0063】
次に、第2のインダクタンス3について説明する。図5は、XY平面に平行な面B(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図であって、図1に示す第2のインダクタンス3の構成要素を示す模式図である。図6は、面A(図1参照)で、図1の相互誘導回路1を切断した時の断面図であって、第2のインダクタンス3の構成要素を示す模式図である。なお、図5及び図6では、第2のインダクタンス3において、面B及び面Aに無い構成については全て点線で示されている。また、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3の配置関係を明確にするために、図5では、第1のインダクタンス2の外形線を、鉛直上方向から面Bに投影した線が一点鎖線で示され、図6では、第1のインダクタンス2の外形線を、鉛直下方向から面Aに投影した線が一点鎖線で示される。
【0064】
第2のインダクタンス3は、導電性材料からなり、図1、図5及び図6に示すように、大部分の構成を下層側の面B上に有するが、残りの構成を、上層側の面A上に、又は層間に有する。具体的には、第2のインダクタンス3は、第1及び第2の端子31及び32と、典型的にはマイクロストリップ線路からなる第1〜第7の線路33〜39とを面B上に備えている。
【0065】
第1の端子31及び第2の端子32は、ZX平面を基準として互いに対称な位置に形成される。なお、本実施形態では例示的に、第1の端子31及び第2の端子32は、第1の線路33の一端及び第2の線路34の一端である。
【0066】
第1の線路33は、第1の端子31と後述する第3の線路35とを電気的に接続し、例示的に、下記の6点Q1〜Q6(図5参照)で規定される領域内に形成される。点Q1は、X座標値及びY座標値として、(X2,−Y2)を有する。ここで、X2及びY2は、相互誘導回路1の仕様に応じて定められる正の値であるが、本実施形態では、Y2は前述のY1に等しいとする。点Q2は、第1の線路33の幅をW2とすると、Y軸の負方向に距離W2だけ点Q1を平行移動させた点である。W2は典型的には、前述のW1と同じ値であるが、異なる値であっても構わない。点Q3は、相互誘導回路1の仕様に応じて定められる任意の距離だけ、X軸の負方向に点Q1を平行移動させた点である。点Q4は、X軸及びY軸のそれぞれの負方向に距離W2だけ点Q3を平行移動させた点である。点Q5は、Y軸の正方向に距離E1だけ点Q3を平行移動させた点である。E1は、相互誘導回路1の仕様に従って定められるが、少なくとも点Q3のY座標値よりも小さい正の値である。点Q6は、X軸の負方向に点Q5を距離W2だけ平行移動させた点である。
【0067】
第2の線路34は、第2の端子32及び後述する第1のコンタクト310を電気的に接続し、ZX面を基準にして、第1の線路33と対称な位置に形成される。
【0068】
第3の線路35は、第1の線路33と、後述する第4の線路36とを電気的に接続するために、面B上に形成される。本実施形態では例示的に、第3の線路35は、以下の4点Q5〜Q8(図5参照)を頂点とする平行四辺形で囲まれる領域内に形成される。点Q5及びQ6については上述した通りである。点Q7及びQ8は、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3が不要な箇所で接触しないように、ZX平面を基準として、点Q5及びQ6に対称な第1及び第2の点を、W1+W2よりも若干大きな距離だけX軸の負方向に平行移動させた点である。
【0069】
第4の線路36は、第2のインダクタンス3における最外周の一部を構成する部分環状線路であり、第3の線路35と第3のコンタクト313とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、面B上における8点Q7〜Q14(図5参照)で規定される領域内に、第4の線路36は形成される。なお、第4の線路36の幅はW2とする。Q7及びQ8はそれぞれについては上述した通りである。点Q9は、Y軸の正方向に、E2+W2の距離だけ点Q7を平行移動させた点である。E2は、好ましくはD3に等しい。点Q10は、X軸及びY軸のそれぞれの負方向に、距離W2だけ、点Q9を平行移動させた点である。点Q11は、E3+2×W2の距離だけ、X軸の負方向に、点Q9を平行移動させた点である。E3は、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3が不要な箇所で接触しないように、D2−2×W2よりも小さく、かつD5+2×W1よりも大きい値に選ばれる。点Q12は、X軸の負方向に点Q10を距離E3だけ平行移動させた点である。点Q13は、E2+W2の距離だけ、点Q11をY軸の負方向に平行移動させた点である。点Q14は、Y軸の負方向に点Q12をE2の距離だけ平行移動させた点である。
【0070】
第5の線路37は、第2のインダクタンス3における最外周の一部を構成する部分環状線路であり、それぞれが後述される第2のコンタクト312及び第6の線路38とを電気的に接続し、ZX平面を基準として第4の線路36と対称な位置に形成される。
【0071】
第6の線路38は、上述の第5の線路37と、後述する第7の線路39とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第6の線路38は、以下の4点Q15〜Q18(図5参照)を頂点とする平行四辺形の領域内に形成される。点Q15及び点Q16は、ZX平面を基準として、上述の点Q13及びQ14と対称な点である。点Q17及びQ18は、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3が不要な箇所で接触しないように、点Q13及びQ14を、W1+W2より若干大きい距離だけ、X軸の正方向に平行移動させた点である。
【0072】
第7の線路39は、第6の線路38と後述する第4のコンタクト315とを電気的に接続し、第2のインダクタンス3の最外周よりも1つ内側の周(本実施形態では、最内周)を構成する部分環状線路である。本実施形態では例示的に、12点Q17〜Q28(図5参照)で規定される領域内に、第7の線路39は形成される。なお、第7の線路39の幅はW2とする。点Q17及びQ18については上述した通りである。点Q19は、E1+W2の距離だけ、Y軸の正方向に点Q17を平行移動させた点である。また、点Q20は、E1の距離だけ、Y軸の正方向に点Q18を平行移動させた点である。点Q21は、E4+2×W2の距離だけ、X軸の正方向に点Q19を平行移動させた点である。E4は、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3が不要な箇所で接触しないように、D7+W1より大きく、かつD5−W2よりも小さい値に選ばれる。点Q22は、E4の距離だけ、X軸の正方向に点Q20を平行移動させた点である。点Q23〜Q28は、ZX平面を基準として、上述の点Q17〜Q22と対称な点である。
【0073】
さらに、第2のインダクタンス3は、第1のコンタクト310と、第8の線路311と、第2及び第3のコンタクト312及び313と、第9の線路314と、第4のコンタクト315とを、上層側の面A上、又は層間に備えている。
【0074】
まず、各コンタクト310、312、313及び315は、層間に配される点で同じである。また、本実施形態では、便宜上、各コンタクト310、312、313及び315は、底面の各辺がW2で、高さがD1より若干小さい値を有する直方体であると仮定する。
【0075】
第1のコンタクト310は、少なくとも、点Q5及びQ6とZX平面を基準に対称で第2の線路34に含まれる2点近傍と、後述する第8の線路311における点Q29〜Q32(図6参照)で囲まれる領域とを電気的に接続する。
【0076】
第8の線路311は、典型的にはマイクロストリップ線路であって、第1のコンタクト310と、後述する第2のコンタクト312とを電気的に接続する線路である。本実施形態では例示的に、面A上における8点Q29〜Q36(図6参照)で規定される領域内に、第8の線路311は形成される。まず、点Q31及びQ32は、ZX平面を基準として点Q5及びQ6(図5参照)に対称な第1及び第2の点を、鉛直下方向から面Aに投影した位置にある。また、点Q29及びQ30は、上述の点Q31及びQ32を、Y軸の正方向にW2だけ平行移動させた位置にある。点Q33及びQ34は、ZX平面を基準として点Q7及び点Q8(図5参照)に対称な第1及び第2の点を、鉛直下方向から面Aに投影した位置にある。点Q35及びQ36は、上述の点Q33及びQ34を、Y軸の負方向にW2だけ平行移動させた位置にある。
【0077】
第2のコンタクト312は、上述の点Q33〜Q36で囲まれる領域と、ZX平面を基準として点Q7及び点Q8に対称で第5の線路37が有する第1及び第2の点の近傍とを電気的に接続する。
【0078】
第3のコンタクト313は、前述の点Q13及びQ14の近傍と、後述する第9の線路314が有する点Q37〜Q40とを電気的に接続する。
【0079】
第9の線路314は、第3のコンタクト313及び後述する第4のコンタクト315の上面同士を電気的に接続する線路である。また、第9の線路314の外形は、面B上における8点Q37〜Q44で規定される。まず、点Q39及びQ40は、前述した点Q13及びQ14を、鉛直下方向から面Aに投影した位置にある。次に、点Q37及びQ38は、上述の点Q39及びQ40を、W2だけY軸の正方向に平行移動させた位置にある。また、点Q41及びQ42は、上述の点Q23及びQ24を、鉛直下方向から面Aに投影した位置にある。さらに、点Q43及びQ44は、点Q41及びQ42を、W2だけY軸の負方向の平行移動させた位置にある。
【0080】
第4のコンタクト315は、少なくとも第9の線路314における点Q41〜Q44で囲まれる領域と、前述した第7の線路39の点Q23及びQ24の近傍とを電気的に接続する。
【0081】
以上のように、第2のインダクタンス3は、第1のインダクタンス2の鉛直下方向に配置されるので、第1の端子21及び第2の端子22の間に電圧を加えると、第1のインダクタンス2には磁束が鎖交する。発生した磁束はさらに、下層側の第2のインダクタンス3にも鎖交するので、相互誘導により、第2のインダクタンス3における両端子31及び32の間には、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3の巻き数に応じた誘起起電力が発生する。以上の原理により、相互誘導回路1は、印加電圧を変圧する。
【0082】
また、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3はそれぞれ、ZX平面を境にしてほぼ対称な形状となる。それ故、第1の端子21及び第2の端子22の各入力インピーダンスは互いに同じとなり、さらに、第1の端子31及び第2の端子32の各入力インピーダンスも互いに同じとなる。その結果、両端子21及び22のいずれか一方に、差動信号を構成する同相信号を与え、いずれか他方に、同相信号と同振幅で逆位相の逆相信号を与えると、前述の相互誘導により、第2のインダクタンス3の両端子31及び32のいずれか一方に、変圧された同相信号が現れ、いずれか他方には、変圧された逆相信号が現れる。
【0083】
以上のように、相互誘導回路1は、それぞれが実質的に面対称に構成される上層側のインダクタンス2及び下層側のインダクタンス3を備えることにより、入力差動信号から、変圧された差動信号を得ることが可能となる。つまり、相互誘導回路1は、1次側及び2次側のそれぞれに複数個のインダクタンスを備える必要がない。これによって、専有面積の小さな相互誘導回路1を実現することが可能となる。
【0084】
また、相互誘導回路1によれば、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3は、2つの配線層だけを占有し、さらに、第1の端子21及び第2の端子22はそれぞれ、第1のインダクタンス2の最外周側よりも外側に配置可能であり、第1の端子31及び第2の端子32はそれぞれ、第2のインダクタンス3の最外周よりも外側に配置可能である。その結果、従来のように入力信号を与えるための、又は出力信号を取り出すための信号線用に配線層を形成する必要がなくなる。これによって、相互誘導回路1を構成するための配線層数を少なくすることが可能となる。それに伴い、半導体基板から離して形成し、さらに、半導体基板の抵抗成分による損失を低減することが可能な相互誘導回路1を実現することが可能となる。
【0085】
なお、相互誘導回路1は、上述の本質的な構成以外にも、好ましい構成としてコンタクト6を備えている。コンタクト6は、導電性材料からなり、少なくとも、第1のインダクタンス2の仮想中点NP1(図3参照)及びその周辺と、第2のインダクタンス3の仮想中点NP2(図5参照)及びその周辺とを接続する。ここで、仮想中点NP1とは、前述の点P28及びP34を結ぶ線をW1/2だけX軸の負方向に平行移動させた線と、ZX平面との交点である。また、仮想中点NP2とは、点Q21及びQ27を結ぶ線をW2/2だけX軸の負方向に平行移動させた線と、ZX平面との交点である。
【0086】
以上のような仮想中点NP1及びNP2については、下記の理由で電気的に接続されても構わない。上述から明らかなように、第1のインダクタンス2はZX平面を境にしてほぼ対称である。このような対称性と、コンタクト210、212、213及び215と、線路211及び214とにより、第1の端子21及び第2の端子22に同相信号及び逆相信号が入力された場合、入力同相信号及び入力逆相信号は、第1のインダクタンス2を構成する線路及びコンタクトを伝搬して、仮想中点NP1で合波される。しかしながら、第1の端子21から仮想中点NP1への経路長と、第2の端子22から仮想中点NP1への経路長は実質的に同じであるため、同相信号及び逆相信号が仮想中点NP1で合波されたとしても、合成信号の振幅値は実質的に0である。それゆえ、第1のインダクタンス2に差動信号が与えられる場合には、仮想中点NP1を交流に対する仮想的なグランドとみなすことが可能となる。このような仮想的なグランドの考え方は、第2のインダクタンス3についても同様である。そのため、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3の相互誘導のみにより生じた同相信号及び逆相信号が第1の端子31及び第2の端子32から出力される。以上のコンタクト6によって、相互誘導回路1を伝搬する各高周波信号の劣化を低減することができる。さらに、第1のインダクタンス2を流れる電流を第2のインダクタンス3側に与えることが可能となる。
【0087】
なお、第1のインダクタンス2は、上記の形状に限られず、下記の2条件を満たす形状であれば、どのような形状のインダクタンスであっても良い。第1の条件は、第1のインダクタンス2の構成を鉛直下方向から面Aに投影した時に、投影された外形線がZX平面を基準として対称な形状を有することである。第2の条件は、上述の投影された外形線が交差し合う部分については、第1のインダクタンス2において重なり合わないように、コンタクト及び線路を使って面B側に迂回させることである。また、付随的な条件として、第3の条件は、第1の端子21及び第2の端子22を、第1のインダクタンス2の最外周より外側に配置することである。
【0088】
第2のインダクタンス3も、下記の3条件を満たすのであれば、どのような形状を有していても良い。第1の条件は、第1のインダクタンス2で発生した磁束が鎖交することである。第2の条件は、第2のインダクタンス3の構成を鉛直上方向から面Bに投影した時に、投影された外形線がZX平面を基準として対称な形状を有することである。第3の条件は、上述の投影された外形線が交差し合う部分については、第2のインダクタンス3において重なり合わないように、コンタクト及び線路を使って面A側に迂回させることである。また、付随的な条件として、第4の条件は、第1の端子31及び第2の端子32を、第2のインダクタンス3の最外周より外側に配置することである。
【0089】
また、以上の実施形態では、第1のインダクタンス2に差動信号を与え、変圧された差動信号を第2のインダクタンス3から得るとして説明した。しかし、これに限らず、第2のインダクタンス3に差動信号を与え、変圧された差動信号を第1のインダクタンス2から得るようにしても構わない。
【0090】
また、以上の実施形態では、第1のインダクタンス2の巻き数は3で、第2のインダクタンス3の巻き数は2であったが、両者の巻き数は、どのような数でも構わない。
【0091】
また、相互誘導回路1は、上述の本質的な構成以外にも、より好ましい構成として、図7A及びBに示すようなパターンシールド7を備えている。図7A及びBは、パターンシールド7の斜視図及び上面図である。なお、図7Aには、相互誘導回路1との配置関係を明らかにするために、相互誘導回路1の外形線が二点鎖線で示されている。図7A及び図7Bにおいて、パターンシールド7は、導電性材料で構成され、図1の半導体基板4と、下層側の配線層(面B)との間に形成される。図1に示すような相互誘導回路1の場合、パターンシールド7は好ましくは長方形形状を有する。より具体的には、パターンシールド7の一方の辺は、(点Q1のX座標値)−(点P1のX座標値)の値以上の長さを有し、他方の辺は、(点Q9のY座標値)−(点P8のY座標値)の値以上の長さを有する。このようなパターンシールド7には仮想的な中点NP3ができ、仮想中点NP3は交流信号に対するグランド電位となるため、相互誘導回路1と、半導体基板4とを電磁気的に分離することが可能になり、これによって、相互誘導回路1を伝搬する各高周波信号の劣化をさらに低減することができる。
【0092】
また、パターンシールド7には、仮想中点NP3から略放射状で、かつ第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3を流れる電流に対して垂直な複数のスリットが形成される。これによって、相互誘導回路1で発生する磁界に起因して、パターンシールド7上に渦電流が発生することを抑えることができる。これによって、相互誘導回路1を伝搬する各高周波信号の劣化をさらに低減することができる。
【0093】
なお、パターンシールド7は、半導体基板4上に形成される場合がある高不純物濃度のポリシリコン層に形成されても良い。さらに、パターンシールド7は、スリットの代わりに、仮想中点NP3から放射状に配列される複数のスルーホールが形成されても良い。
【0094】
また、相互誘導回路1は、上述の本質的な構成以外にも、より好ましい構成として、図8A及び図8Bに示すような複数のトレンチ8(各格子状の部分を参照)による分離構造を備えている。ここで、図8Aは、図1に示す半導体基板4の一例としてのシリコン基板を鉛直真上方向から見たときの上面図である。なお、図8Aには、都合上、相互誘導回路1を図示していない。なお、図8Aでは、便宜上、1個のトレンチにのみ参照符号としての「8」を付けている。また、図8Bは、図8Aに示すシリコン基板を、ZX平面に平行な面Dで、相互誘導回路1を切断した時の断面図である。
【0095】
図8A及び図8Bにおいて、トレンチ8とは、半導体基板4の一例としてのシリコン基板上に形成された溝を、酸化膜及びポリシリコンで埋めたものである。このようなトレンチ8は、複数の素子の横方向の分離に用いられる。図8では、シリコン基板で発生する渦電流に対して垂直に複数のトレンチ4が形成される。それ故、相互誘導回路1で発生する磁界に起因して、シリコン基板上に渦電流が発生することを抑えることができる。これによって、相互誘導回路1を伝搬する各高周波信号の劣化をさらに低減することができる。
【0096】
また、図1、図5及び図6から明らかなように、第2のインダクタンス3において、第4の線路36、第5の線路37並びに第7の線路39は部分的に、第1のインダクタンス2を構成する第2の線路24、第1の線路23、並びに第4の線路26及び第5の線路27の組み合わせの鉛直直下に位置する。その結果、第2の線路24及び第4の線路36の間、第1の線路23及び第5の線路37の間、並びに、第4の線路26及び第5の線路27と第7の線路39との間には寄生容量が生じる場合がある。このような寄生容量は、第1のインダクタンス2及び第2のインダクタンス3の間の相互インダクタンスをうち消し、両インダクタンス2及び3の電磁的な結合を弱めてしまう。
【0097】
以上の寄生容量を小さくするため、相互誘導回路1は、第2のインダクタンス3の代わりに、図9に示すような形状を有する第2のインダクタンス3aを備えていても良い。図9において、第2のインダクタンス3aは、図5及び図6のものと比較すると、第4の線路36、第5の線路37及び第7の線路39の代わりに、第4の線路36a、第5の線路37a及び第7の線路39aを下層側に有する。それ以外に、第2のインダクタンス3a及び3の間には相違点は無い。それゆえ、図9において、図5及び図6に示す構成に相当するものには同一の参照符号と付け、それぞれの詳説を省略する。
【0098】
第4の線路36aは、第3の線路35と第3のコンタクト313とを電気的に接続し、第2のインダクタンス3aにおける最外周の一部を構成する部分環状線路である。本実施形態では例示的に、面B上における8点R1〜R8(図9参照)で規定される領域内に、第4の線路36aは形成される。なお、第4の線路36aの幅は、第1の線路31のそれと実質的に同じとする。点R1及びR2は、点Q7及びQ8と同じ位置を有する。点R3は、Y軸の正方向に、F1の距離だけ点R1を平行移動させた点である。F1は、相互誘導回路1の仕様に応じて決められるが、好ましくはD3に実質的に等しい。点R4は、X軸及びY軸のそれぞれの負方向に、距離W2だけ、点R3を平行移動させた点である。点R5は、E3+2×W2の距離だけ、X軸の負方向に、点R3を平行移動させた点である。E3は前述した通りの値を有する。点R6は、X軸の負方向に点R4を距離E3だけ平行移動させた点である。点R7は、F1の距離だけ、点R5をY軸の負方向に平行移動させた点である。点R8は、Y軸の負方向に点R6をF1−W2の距離だけ平行移動させた点である。以上から明らかなように、点R3〜R6は、点Q9〜Q12と比較して、Y軸の負方向にずらされる。これによって、第4の線路36aは、第1のインダクタンス2を構成する第2の線路24の鉛直方向真下から外れ、さらには、第2の線路24よりも内周に位置する第5の線路27の鉛直方向真下からも外れる。
【0099】
また、第5の線路37aは、第2のインダクタンス3aにおける最外周の一部を構成する部分環状線路であって、第2のコンタクト312と第6の線路38とを電気的に接続し、ZX平面を基準として、第4の線路36aと対称な位置に形成される。
【0100】
第7の線路39aは、第6の線路38と第4のコンタクト315とを電気的に接続し、第2のインダクタンス3の最外周よりも1つ内側の周(本実施形態では例示的に、最内周)を構成する部分環状線路である。本実施形態では例示的に、面B上における12点R9〜Q20(図9を参照)で規定される領域内に形成される。なお、第7の線路39aの幅は、第1の線路31と実質的に同じW2とする。点R9及びR10は、点Q17及びQ18と実質的に同じ位置を有する。点R11は、F2の距離だけ、Y軸の正方向に点R9を平行移動させた点である。F2は、相互誘導回路1の仕様に応じて決められるが、好ましくはD4に実質的に等しい。また、点R12は、F2−W2の距離だけ、Y軸の正方向に点R10を平行移動させた点である。点R13は、E4+2×W2の距離だけ、X軸の正方向に点R11を平行移動させた点である。E4は、前述した通りである。点R14は、E4の距離だけ、X軸の正方向に点R12を平行移動させた点である。点R15〜R20は、ZX平面を基準として、上述の点R9〜R12と対称な点である。以上から明らかなように、点R11〜R16は、点Q19〜Q26と比較して、X軸に近づく方向にずらされる。これによって、第7の線路39aの多くの部分が、第1のインダクタンス2の鉛直直下から外れる。
【0101】
以上のような第2のインダクタンス3aによれば、第4の線路36a、第5の線路37a並びに第7の線路39aの多くの部分が、第2の線路24、第1の線路23、並びに第4の線路26及び第5の線路27の組み合わせの鉛直直下に位置しない。その結果、第1のインダクタンス2と第2のインダクタンス3aの間に発生しうる寄生容量を低減することが可能となる。
【0102】
また、以上の相互誘導回路1としてのトランス素子は、半導体基板4以外にも、図10に示すような誘電体多層基板9に形成されても構わない。このように多層基板9の場合、トランス素子1の下に基板を介してグランド10を設けることができる。つまり、誘電体多層基板9において、相互誘導回路1及びグランドの専有面積を小さくすることができる。
【0103】
また、本相互誘導回路1としてのトランス素子は、2つの配線層しか用いない。従って、図11に示すような単層の両面基板11の各面に、トランス素子の各インダクタンスを配置することができる。また、この場合、例えば両面基板11の底面において、相互誘導回路1から離れた位置に、いくつかのグランド12が形成される。これによって、相互誘導回路1及びグランドの高さを抑えることが可能となる。
【0104】
また、図4から明らかなように、第1のインダクタンス2を面Bに投影した場合、例えば、第3の線路25及び第8の線路211のように、いくつかの線路は他の線路と交差する。以下、図4を参照して、第8の線路211とY軸との交差角度θについて好ましい値について検討する。図4において、一点鎖線の四角内に記載したように、Wは線路の幅であり、Sは、互いに隣接する線路間の間隔であり、第3の線路25及び第8の線路211は、縦の辺の長さが(2×W+S)で、横の辺の長さがdの長方形内で互いに交差すると仮定する。
このような交差部分を設計する上で、第1及び第2のインダクタンス2及び3の
共振の鋭さ(Q値)が、対象となる周波数帯域で良好な値になるように、Wは選ばれる。また、Sはデザインルールにおける最小値に選ばれる。
【0105】
それに対して、dの値は、寄生容量を最小化するため、以下の2つの観点から選ばれる。第1の観点は、交差する2線路の重なりを最小とすることである。第2の観点は、交差する2線路の幅及び長さを最適化することである。
【0106】
まず、第1の観点から、θの値を求める。まず、2線路が重なる面積SAは、次式(1)で与えられる。
SA=(2・W+S−d・tanθ)・(d−S/tanθ)…(1)
ここで、tanθは、(W+S)/dであるから、上式(1)は次式(2)で示すように変形される。
SA=W2・d/(W+S)…(2)
上式(2)から面積SAは、dが小さいほど狭くなることが分かる。一般的に、dの最小値は、Sと同じ値である。この場合、角度θは、次式(3)で表される。
【0107】
θ=tan-1((W+S)/S)…(3)
次に、第2の観点から、θの値を求める。まず、互いに交差する部分における2線路の幅W’は、次式(4)で表される。
W’=W・cosθ=(W・d)/√((W+S)2+d2)…(4)
交差する部分における2線路それぞれの長さL’は一意に導出することはできないが、近似的に、次式(5)で表される。
L’≒√((W+S)2+d2)…(5)
【0108】
ここで、線路のシート抵抗値(Ω/□)をρと仮定すると、交差部分における線路の抵抗値Rは、次式(6)で表される。
R=ρ・L’/W’
=ρ[{(W+S)2/(d・W)}+(d/W)]…(6)
ここで、Rが最小になるのは上式(6)において、右辺の第1項及び第2項が等しくなるときであるから、次式(7)が成立する。
(W+S)2/(d・W)=(d/W)…(7)
上式(7)をdについて解くと、d=W+Sとなる。このとき、寄生抵抗Rは2ρ(W+S)/Wで最小となる。また、tanθ=1となることから、θは45度であることか好ましいことが分かる。
【0109】
(第2の実施形態)
図12は、本発明の第2の実施形態に係る相互誘導回路41の一例としてのトランス素子の構造を示す斜視図である。なお、図12には説明の便宜のために、X軸、Y軸及びZ軸からなる3次元座標系が示される。図12において、相互誘導回路41は、相互誘導回路1と同様に、半導体基板4上の層間絶縁膜5内であってかつ上下2つの配線層に形成される。ここで、以下の説明では、上側の配線層を上層と、下側の配線層を下層と、さらに両層の間を層間と称する。具体的には、相互誘導回路41は、導電性材料からなり、第1のインダクタンス42と、第2のインダクタンス43とを、本質的に備える。
【0110】
図13は、上層においてXY平面に平行な面A(図12参照)で、相互誘導回路41を切断した時の断面図である。また、図14は、面A(図12参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させかつ下層に含まれる面B(図12参照)で、相互誘導回路41を切断した時の断面図である。図12及び図13では、面A及び面Bに無い構成については全て点線で示されている。
【0111】
第1のインダクタンス42は、図12〜図14に示すように、大部分の構成を面A上に有するが、残りの構成を面B上に又は層間に有する。具体的には、第1のインダクタンス42は、第1及び第2の端子421及び422と、典型的にはマイクロストリップ線路からなる第1〜4の線路423〜426とを面A上に備えている。
【0112】
第1の端子421及び第2の端子422は、ZX平面を基準として互いに対称な位置に形成される。なお、本実施形態では例示的に、第1の端子421及び第2の端子422は、第1の線路423及び第2の線路424の一端である。
【0113】
第1の線路423は、第1の端子421と後述する第3の線路425とを電気的に接続し、本実施形態では例示的に、以下の6点S1〜S6(図13参照)で規定される領域内に形成される。点S1は、X座標値及びY座標値として、(X3,−Y3)を有する。ここで、X3及びY3は、相互誘導回路41の仕様に応じて定められる正の値である。点S2は、第1の線路423の幅をW3とすると、Y軸の負方向にW3の距離だけ点S1を平行移動させた点である。点S3は、相互誘導回路41の仕様に応じて定められる任意の距離だけ、点S1をX軸の正方向に平行移動させた点である。点S4は、Y軸の負方向及びX軸の正方向の双方にW3の距離だけ、点S3を平行移動させた点である。点S5は、Y軸の正方向に距離G1だけ、点S3を平行移動させた点である。ここで、G1は、相互誘導回路41の仕様に応じて定められるが、ZX平面から点S3までの距離よりも小さい。点S6は、X軸の正方向に、距離W3だけ、点S5を平行移動させた点である。
第2の線路424は、第2の端子422と後述する第5の線路428とを接続する線路であって、ZX面を基準にして、第1の線路423と対称な位置に形成される。
【0114】
第3の線路425は、第1の線路423と、後述する第4の線路426とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第3の線路425は、以下の4点S5〜S8(図13参照)で囲まれる平行四辺形の領域内に形成される。点S5及びS6については上述した通りである。点S7及びS8は、ZX平面を基準として、上述の点S5及びS6と対称な第1及び第2の点を、X軸の正方向に、G2の距離だけ平行移動した点である。ここで、G2は、第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43の線路幅をW3と仮定し、さらに、第1のインダクタンス42が有する線路と、第2のインダクタンス43において隣接する線路の間の間隔をH1と仮定した場合、2×(W3+H1)である。
【0115】
第4の線路426は、第1のインダクタンス42において、磁束が鎖交する部分環状線路であって、本実施形態では例示的に、以下の12点S7〜S18(図13参照)で規定される領域に形成される。なお、本実施形態では、第4の線路426の幅は、第1の線路423と同様、W3とする。点S7及びS8については上述した通りである。点S9は、Y軸の正方向に、点S7を距離G3+W3だけ平行移動させた点である。G3は、相互誘導回路1の仕様に従って定められ、G7+W3よりも大きく、G5−W3よりも小さい正の値である。なお、G5及びG7については後述する。点S10は、Y軸の正方向に距離G3だけ点S8を平行移動させた点である。点S11は、X軸の正方向に距離G4+2×W3だけ、点S9を平行移動させた点である。G4は、相互誘導回路41の仕様に従って定められ、G8+2×W3よりも大きく、G6−2×W3よりも大きい正の値である。なお、G6及びG8については後述する。点S12は、X軸の正方向に距離G4だけ点S10を平行移動させた点である。また、点S13〜S18は、ZX平面を基準として、点S7〜S12に対称な点である。
【0116】
さらに、第1のインダクタンス42は、第1のコンタクト427と、第5の線路428と、第2のコンタクト429とを、面B上又は層間に備えている。各コンタクト427及び429は層間に配される点で同じである。また、本実施形態では、便宜上、各コンタクト427及び429は、底面の各辺がW3で、高さがD1より若干小さい値を有する直方体であると仮定する。
第1のコンタクト427は、第4の線路426の点S13及びS14の近傍と、後述する第5の線路428における点S19〜S22(図14参照)で囲まれる領域とを電気的に接続する。
【0117】
第5の線路428は、典型的にはマイクロストリップ線路で構成され、第1のコンタクト427と、後述する第2のコンタクト429とを電気的に接続する線路である。本実施形態では例示的に、面B上における8点S19〜S26(図14参照)で規定される領域内に、第5の線路428は形成される。4点S21〜S24は、ZX平面を基準として前述の点S5〜S8に対称な各点を、鉛直上方向から面Bに投影したものである。次に、点S19及びS20は、Y軸の負方向に距離W3だけ、点S21及びS22を平行移動させた点である。また、点S25及びS26は、Y軸の正方向に距離W3だけ、点S23及びS24を平行移動させた点である。
第2のコンタクト429は、点S23〜S26で囲まれる領域と、ZX平面を基準として上述の点S5及びS6の対称で第2の線路424に含まれる2点近傍とを電気的に接続する。
【0118】
第2のインダクタンス43もまた、第1のインダクタンス42と同様、図12〜図14に示すように、大部分の構成を面A上に有するが、残りの構成を面B上又は層間に有する。具体的には、第2のインダクタンス43は、第1及び第2の端子431及び432と、典型的にはマイクロストリップ線路からなる第1〜7の線路433〜439とを面A上に備えている。
第1の端子431及び第2の端子432は、ZX平面を基準として互いに対称な位置に形成され、本実施形態では例示的に、第1の端子431及び第2の端子432は、第1の線路433の一端及び第2の線路434の一端である。
【0119】
第1の線路433は、第1の端子431と後述する第3の線路435とを電気的に接続する線路であって、例示的に、以下の6点T1〜T6(図13参照)で囲まれる領域内に形成される。点T1は、X座標値及びY座標値として、(X4,−Y4)を有する。ここで、X4及びY4は、相互誘導回路41の仕様に応じて定められる正の値であるが、本実施形態では、Y4は前述のY3に等しいとする。点T2は、第1の線路433の幅をW3とすると、Y軸の負方向に距離W3だけ点T1を平行移動させた点である。点T3は、相互誘導回路41の仕様に応じて定められる任意の距離だけ、X軸の負方向に点T1を平行移動させた点である。点T4は、X軸及びY軸のそれぞれの負方向に距離W3だけ点T3を平行移動させた点である。点T5は、Y軸の正方向に距離G1だけ点T3を平行移動させた点である。点T6は、X軸の負方向に点T5を距離W3だけ平行移動させた点である。
【0120】
第2の線路434は、第2の端子432と後述する第1のコンタクト4310とを電気的に接続し、ZX面を基準にして第1の線路433と対称な位置に形成される。
第3の線路435は、第1の線路433と、後述する第4の線路436とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第3の線路435は、以下の4点T5〜T8(図13参照)で囲まれる平行四辺形の領域内に形成される。点T5及びT6については上述した通りである。点T7及びT8は、ZX平面を基準に、点T5及びT6に面対称な第1及び第2の点を、W3+H1の距離だけX軸の負方向に平行移動させた点である。
【0121】
第4の線路436は、第2のインダクタンス43における最外周の一部を構成する部分環状線路であり、本実施形態では例示的に、以下の8点T7〜T14(図13参照)で規定される領域内に形成される。なお、第4の線路436の幅もまたW3とする。点T7及びT8については上述した通りである。点T9は、Y軸の正方向に、G5+W3の距離だけ点T7を平行移動させた点である。G5は、G3+W3よりも大きい。点T10は、X軸及びY軸のそれぞれの負方向に距離W3だけ点T9を平行移動させた点である。点T11は、G6+2×W3の距離だけX軸の負方向に点T9を平行移動させた点である。G6は、G4+2×W3よりも大きく、(点S4及び点T4の距離)−2×W3よりも小さい。点T12は、X軸の負方向に点T10を距離G6だけ平行移動させた点である。点T13は、G5+W3の距離だけ、点T11をY軸の負方向に平行移動させた点である。点T14は、Y軸の負方向に点T12をG5の距離だけ平行移動させた点である。
【0122】
第5の線路437は、第2のインダクタンス43における最外周の一部を構成する部分環状線路であり、ZX平面を基準として、第4の線路436と対称な位置に形成される。
第6の線路438は、上述の第5の線路437と、後述する第7の線路439とを電気的に接続し、本実施形態では例示的に、以下の4点T15〜T18(図13参照)を頂点とする平行四辺形の領域内に形成される。点T15〜T18は、上述のS5〜S8を、X軸の正方向に、距離(W3+H1)だけ平行移動させた点である。
【0123】
第7の線路439は、第2のインダクタンス43の最外周よりも1つ内側の周(本実施形態では例示的に、最内周)を構成する部分環状線路であり、本実施形態では例示的に、以下の12点T17〜T28(図10参照)で規定される領域内に形成される。なお、第7の線路439の幅もまたW3とする。点T17及びT18については上述した通りである。点T19は、G7+W3の距離だけ、Y軸の正方向に点T17を平行移動させた点である。また、点T20は、G7の距離だけ、Y軸の正方向に点T18を平行移動させた点である。G7は、G3−W3よりも小さい正の値である。点T21は、G8+2×W3の距離だけ、X軸の正方向に点T19を平行移動させた点である。G8は、G4−2×W3よりも小さい正の値である。点T22は、G8の距離だけ、X軸の正方向に点T20を平行移動させた点である。点T23〜T28は、ZX平面を基準として上述の点T17〜T22と対称な点である。
【0124】
さらに、第2のインダクタンス43は、第1のコンタクト4310と、第8の線路4311と、第2及び第3のコンタクト4312及び4313と、第9の線路4314と、第4のコンタクト4315とを、面B上又は層間に備えている。各コンタクト4310、4312、4313及び4315は、層間に配される点で同じである。また、本実施形態では、便宜上、各コンタクト4310、4312、4313及び4315は、底面の各辺がW3で、高さがD1より若干小さい値を有する直方体であると仮定する。
【0125】
第1のコンタクト4310は、少なくとも、点T5及びT6とZX平面を基準に対称で第2の線路434に含まれる2点近傍と、後述する第8の線路4311における点T29〜T32(図14参照)で囲まれる領域とを電気的に接続する。
【0126】
第8の線路4311は、典型的にはマイクロストリップ線路であって、第1のコンタクト4310と、後述する第2のコンタクト4312とを電気的に接続する線路である。本実施形態では例示的に、面B上における8点T29〜T36(図14参照)で規定される領域内に第8の線路4311は形成される。まず、点T31〜T34は、ZX平面を基準として前述の点T5〜T8に対称な4点を、鉛直上方向から面Bに投影した位置にある。また、点T29及びT30は、上述の点T31及びT32を、Y軸の正方向にW3だけ平行移動させた位置にある。点T35及びT36は、上述の点T33及びT36を、Y軸の負方向にW3だけ平行移動させた位置にある。
【0127】
第2のコンタクト4312は、上述の第8の線路4311における点T33〜T36(図14参照)で囲まれる領域と、点T7及びT8とZX平面を基準に対称で第5の線路437に含まれる2点近傍とを電気的に接続する。
第3のコンタクト4313は、少なくとも、第4の線路436の点T13及びT14の近傍と、後述する第9の線路4314における点T41〜T44(図14参照)で囲まれる領域とを電気的に接続する。
【0128】
第9の線路4314は、典型的にはマイクロストリップ線路であって、第3のコンタクト4313と、後述する第4のコンタクト4315とを電気的に接続する線路である。本実施形態では例示的に、面B上における8点T37〜T44(図14参照)で規定される領域内に、第9の線路4314は形成される。点T37〜T44は、前述の点S19〜S26を、W3+H1の距離だけ、X軸の正方向に平行移動した位置にある。
【0129】
第4のコンタクト4315は、上述の第9の線路4314における点T37〜T40(図14参照)で囲まれる領域と、第6の線路439の点T23及びT24の近傍とを電気的に接続する。
【0130】
以上のように、第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43は、上層及び下層の双方を使って形成される。さらに、第1のインダクタンス42において環状形状を有する第4の線路426は、第2のインダクタンス43の最外周及び最内周の間に配置される。以上の配置により、第1の端子421及び第2の端子422の間に電圧を加えると、第4の線路426には磁束が鎖交する。発生した磁束はさらに、第2のインダクタンス43の最外周及び最内周にも鎖交するので、第1の実施形態で説明した原理により、相互誘導回路41は、印加電圧を変圧することができる。
【0131】
また、第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43はそれぞれ、ZX平面を境にしてほぼ対称な形状となる。そのため、第1の実施形態に係る相互誘導回路1と同様に、両端子421及び422に差動信号を与えると、第2のインダクタンス43の両端子431及び432からは、変圧された差動信号が現れる。以上のことから、相互誘導回路41は、1次側及び2次側のそれぞれに複数個のインダクタンスを備える必要がない。これによって、専有面積の小さな相互誘導回路41を実現することが可能となる。
【0132】
また、相互誘導回路41によれば、第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43は、2つの配線層だけを占有し、さらに、第1の端子421及び第2の端子422はそれぞれ、第1のインダクタンス42の最外周側よりも外側に配置可能であり、第1の端子431及び第2の端子432はそれぞれ、第2のインダクタンス43の最外周よりも外側に配置可能である。以上のことから、相互誘導回路41を構成するための配線層数を少なくすることが可能となる。それに伴い、半導体基板から離して形成し、さらに、半導体基板の抵抗成分による損失を低減することが可能な相互誘導回路41を実現することが可能となる。
【0133】
また、一般的に、膜厚の薄い配線層に形成されたトランス素子については損失が大きくなる。しかしながら、相互誘導回路41の殆どの構成は上層に形成されるので、相互誘導回路41は、低損失化の観点から、最も上の配線層が最も厚く、それより下の配線層が薄い半導体プロセスに特に好適である。
【0134】
なお、相互誘導回路41は、上述の本質的な構成以外にも、好ましい構成として接続線路44を備えている。接続線路44は典型的にはマイクロストリップ線路からなり、少なくとも、第1のインダクタンス42の仮想中点NP4及びその周辺と、第2のインダクタンス43の仮想中点NP5及びその周辺とを接続する(図13参照)。ここで、仮想中点NP4とは、第4の経路426における点S12及びS18の中点である。また、仮想中点NP5とは、点T21及びT27の中点である。以上のような仮想中点NP4及びNP5については、第1の実施形態における仮想中点NP1及びNP2の場合と同様の理由から接続されても構わない。
【0135】
なお、第1のインダクタンス42は、上記の形状に限られず、第1のインダクタンス42を構成するための3条件(第1の実施形態参照)を満たす形状であれば、どのような形状のインダクタンスであっても良い。また、第2のインダクタンス43も、第2のインダクタンス43を構成するための4条件(第1の実施形態参照)を満たすのであれば、どのような形状を有していても良い。
また、第2のインダクタンス43に差動信号を与え、変圧された差動信号を第1のインダクタンス42から得るようにしても構わない。
また、第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43それぞれの巻き数はどのような数でも構わない。
【0136】
また、相互誘導回路41は、より好ましい構成として、図7A及びBを参照して説明したパターンシールド7を備えていても構わない。他にも、相互誘導回路41は、図8A及び図8Bを参照して説明したトレンチ8が形成されたシリコン基板上に形成されても構わない。
また、以上の相互誘導回路41としてのトランス素子は、半導体基板4以外にも、図10に示すような誘電体多層基板9に形成されても構わないし、図11に示すような単層の両面基板11に形成されても構わない。
【0137】
ここで、図15は、相互誘導回路41の変型例に係る相互誘導回路41aの構造を示す斜視図である。なお、図15には説明の便宜のために、X軸、Y軸及びZ軸からなる3次元座標系が示される。また、図16は、XY平面に平行な面A(図15参照)で、相互誘導回路41aを切断した時の断面図である。また、図17は、面A(図15参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させた面B(図15参照)で、相互誘導回路41aを切断した時の断面図である。なお、図16及び図17では、面A及び面Bに無い構成については全て点線で示されている。
【0138】
図15〜図17において、相互誘導回路41aは、相互誘導回路41と比較すると、第3のインダクタンス42aと第4のインダクタンス43aとをさらに備える点で相違する。それ以外に両相互誘導回路41及び41aの間に相違点は無いので、図15において、図12に示すものに相当する構成には同一の参照符号を付け、それぞれの説明を省略する。
第3のインダクタンス42aは、図15〜図17に示すように、第1及び第2の端子421a及び422aと、典型的にはマイクロストリップ線路からなる第1、第2及び第3の線路423a、424a及び426aと、第1及び第2のコンタクト427a及び429aとを備えている。
【0139】
第1の端子421a及び第2の端子422aは、前述の第1の端子421及び第2の端子422を鉛直上方向から面Bに投影した位置に形成される。
また、第1の線路423a及び第2の線路424aは、前述の第1の線路423及び第2の線路424を鉛直上方向から面Bに投影した位置に形成される。また、第1の線路423aは、第1の端子421aと、後述する第2のコンタクト429aとを電気的に接続する。また、第2の線路424aは、第2の端子422aと、第2のコンタクト429とを電気的に接続する。
【0140】
第3の線路426aは、前述の第4の線路426を、鉛直上方向から面Bに投影した位置に形成され、第3のインダクタンス42aの最外周を構成する部分環状線路である。
第1のコンタクト427aは、ZX平面を基準として、前述の第1のコンタクト427と対称な位置に形成され、前述の第4の線路426と、上述の第3の線路426aとを電気的に接続する。
また、第2のコンタクト429aは、ZX平面を基準として前述の第2のコンタクト429と対称な位置に形成され、前述の第1の線路423と、上述の第1の線路423aとを電気的に接続する。
【0141】
また、第4のインダクタンス43aは、図15〜図17に示すように、第1及び第2の端子431a及び432aと、典型的にはマイクロストリップ線路からなる第1、第2、第3、第4及び第5の線路433a、434a、436a、437a及び439aと、第1、第2、第3及び第4のコンタクト4310a、4312a、4313a及び4315aとを備えている。
第1の端子431a及び第2の端子432aは、前述の第1の端子431及び第2の端子432を鉛直上方向から面Bに投影した位置に形成される。
【0142】
また、第1の線路433a及び第2の線路434aは、前述の第1の線路433及び第2の線路434を鉛直上方向から面Bに投影した位置に形成される。また、第1の線路433aは、第1の端子431aと、後述する第1のコンタクト4310aとを電気的に接続する。また、第2の線路434aは、第2の端子432aと、第1のコンタクト4310と電気的に接続する。
【0143】
第3の線路436aは、前述の第4の線路436を、鉛直上方向から面Bに投影した位置に形成される。また、第3の線路436aは、第4のインダクタンス43aにおける最外周の一部を構成する部分環状線路であって、前述の第3のコンタクト4313と、後述する第2のコンタクト4312aとを電気的に接続する。
第4の線路437aは、ZX平面を基準として、第3の線路436aに対称な位置に形成される。また、第4の線路437aは、第4のインダクタンス43aにおける最外周の一部を構成する部分環状線路であって、前述の第2のコンタクト4312と、後述する第3のコンタクト4313aとを電気的に接続する。
【0144】
第5の線路439aは、前述の第7の線路439を、鉛直上方向から面Bに投影した位置に形成される。また、第5の線路439aは、第4のインダクタンス43aの最内周を構成する部分環状線路であって、前述の第4のコンタクト4315と、後述の第4のコンタクト4315aとを電気的に接続する。
第1のコンタクト4310aは、ZX平面を基準として、前述の第1のコンタクト4310と対称な位置に形成され、第1の線路433aと、前述の第1の線路433とを電気的に接続する。
【0145】
第2のコンタクト4312aは、ZX平面を基準として、前述の第2のコンタクト4312と対称な位置に形成され、前述の第4の線路436と、上述の第3の線路436aとを電気的に接続する。
第3のコンタクト4313aは、ZX平面を基準として、前述の第3のコンタクト4313と対称な位置に形成され、前述の第5の線路437と、上述の第4の線路437aとを電気的に接続する。
【0146】
第4のコンタクト4315aは、ZX平面を基準として、前述の第4のコンタクト4315と対称な位置に形成され、前述の第7の線路439と、上述の第4の線路439aとを電気的に接続する。
また、相互誘導回路41aは、上層側に接続線路44が形成される場合には、接続線路44を鉛直上方向から面Bに投影した領域に接続線路44aをさらに備える。
【0147】
以上のように、相互誘導回路41aは、第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43の主たる構成要素を鉛直上方向から面Bに投影した形状を有する第3のインダクタンス42a及び第4のインダクタンス43aを備えており、これら第3のインダクタンス42a及び第4のインダクタンス43aは、いくつかのコンタクトを使って、第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43と電気的に接続される。ここで、第1のインダクタンス42及び第3のインダクタンス42aは、ZX平面を基準にして互いに対称な位置で接続される。以上の構成により、端子421及び421aの対、及び端子422及び422aの対のいずれか一方に、差動信号を構成する同相信号を与え、いずれか他方に、同相信号と同振幅で逆位相の逆相信号を与えると、前述の相互誘導により、端子431及び431aの対、及び端子432及び432aの対のいずれか一方に、変圧された同相信号が現れ、いずれか他方には、変圧された逆相信号が現れる。ここで、以上の形状を有する相互誘導回路41aは、等価的に見ると、2個の抵抗を並列に接続したような回路になる。そのため、相互誘導回路41aの損失は、並列接続された2抵抗の合成抵抗とみなせる。以上のことから、上層側の配線層の膜厚が薄くなったとしても、低損失な相互誘導回路41aを実現することが可能となる。
【0148】
(第3の実施形態)
図18は、本発明の第3の実施形態に係る相互誘導回路51の一例としてのトランス素子の構造を示す斜視図である。なお、図18には説明の便宜のために、X軸、Y軸及びZ軸からなる3次元座標系が示される。
【0149】
図18に示すように、相互誘導回路51は、相互誘導回路1と同様に、半導体基板4上の層間絶縁膜5内であってかつZ軸の方向(上下方向)に配列された2つの配線層に形成される。ここで、以下の説明では、上側の配線層を上層と、下側の配線層を下層と、さらに両層の間を層間と称する。具体的には、相互誘導回路51は導電性材料からなり、本質的には、第1のインダクタンス52と、第2のインダクタンス53とを備える。
【0150】
図19は、上層においてXY平面に平行な面A(図18参照)で、相互誘導回路51を切断した時の断面図である。また、図20は、面A(図18参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させた、下層における面B(図18参照)で、相互誘導回路51を切断した時の断面図である。図19及び図20では、面A及び面Bに無い構成については全て点線で示されている。
【0151】
第1のインダクタンス52は、導電性材料からなり、図18〜図20に示すように、大部分の構成を面A上に有するが、残りの構成を面B上又は層間に有する。具体的には、第1のインダクタンス52は、第1及び第2の端子521及び522と、典型的にはマイクロストリップ線路からなる第1〜4の線路523〜526とを面A上に備えている。
【0152】
第1の端子521及び第2の端子522は、ZX平面を基準として互いに対称な位置に形成される。本実施形態では例示的に、第1の端子521及び第2の端子522は、第1の線路523の一端及び第2の線路524の一端である。
第1の線路523は、第1の端子521と後述する第3の線路525とを接続するための線路であって、本実施形態では例示的に、以下の6点U1〜U6(図19参照)で規定される領域内に形成される。
【0153】
点U1は、X座標値及びY座標値として、(X5,−Y5)を有する。ここで、X5及びY5は、相互誘導回路51の仕様に応じて定められる正の値である。点U2は、第1の線路523の幅をW4とすると、Y軸の負方向にW4の距離だけ点U1を平行移動させた点である。点U3は、相互誘導回路51の仕様に応じて定められる任意の距離だけ、点U1をX軸の正方向に平行移動させた点である。点U4は、Y軸の負方向及びX軸の正方向の双方にW4の距離だけ、点U3を平行移動させた点である。点U5は、Y軸の正方向に距離J1だけ、点U3を平行移動させた点である。J1は、ZX平面から点U3までの距離よりも小さい。点U6は、X軸の正方向に距離W4だけ点U5を平行移動させた点である。
第2の線路524は、第2の端子522と後述する第5の線路528とを接続する線路であって、ZX面を基準にして、第1の線路523と対称な形状を有する。
【0154】
第3の線路525は、第1の線路523と、後述する第4の線路526とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第3の線路525は、以下の4点U5〜U8(図19参照)を頂点とする平行四辺形で囲まれる領域内に形成される。点U5及びU6については上述した通りである。点U7及びU8は、ZX平面を基準として、上述の点U5及びU6と面対称な第1及び第2の点を、X軸の正方向に、J2の距離だけ平行移動した点である。ここで、第1のインダクタンス52及び第2のインダクタンス53の線路幅をW4と仮定し、さらに、第1のインダクタンス52が有する線路と、第2のインダクタンス53において隣接する線路の間の間隔をH2と仮定した場合、J2はW4+H2である。
【0155】
第4の線路526は、第1のインダクタンス52の一周を構成する部分環状線路であって、本実施形態では例示的に、以下の12点U7〜U18(図19参照)で規定される領域に形成される。なお、本実施形態では、第4の線路526の幅は、第1の線路523と同様、W4とする。点U7及びU8については上述した通りである。点U9は、Y軸の正方向に、点U7を距離J3+W4だけ平行移動させた点である。J3は、J5+W4よりも大きい正の値である。なお、J5については後述する。点U10は、Y軸の正方向に、距離J3だけ、点U8を平行移動させた点である。点U11は、X軸の正方向に距離(J4+2×W4)だけ、点U9を平行移動させた点である。J4は、J6+2×W4よりも大きく、かつ(点U4及び点V4間の距離)−2×W4よりも小さい正の値である。なお、J6については後述する。点U12は、X軸の正方向に、距離J4だけ、点U10を平行移動させた点である。また、点U13〜U18は、ZX平面を基準として、点U7〜U12に対称な点である。
さらに、第1のインダクタンス52は、第1のコンタクト527と、第5の線路528と、第2のコンタクト529とを、面B上又は層間に備えている。
【0156】
各コンタクト527及び529は層間に配される点で同じである。また、本実施形態では、便宜上、各コンタクト527及び529は、底面の各辺がW4で、高さがD1より若干小さい値を有する直方体であると仮定する。
第1のコンタクト527は、少なくとも、第4の線路526の点U13及びU14の近傍と、後述する第5の線路528における点U19〜U22(図20参照)で囲まれる領域とを電気的に接続する。
【0157】
第5の線路528は、典型的にはマイクロストリップ線路で構成され、第1のコンタクト527と、後述する第2のコンタクト529とを電気的に接続する線路である。本実施形態では例示的に、面B上における8点U19〜U26(図20参照)で規定される領域内に、第5の線路528は形成される。4点U21〜U24は実質的に、ZX平面を基準として前述の点U5〜U8に対称な各点を、相互誘導回路51の真上、つまり鉛直上方向から面Bに投影したものである。次に、点U19及びU20は、Y軸の負方向に距離W4だけ、点U21及びU22を平行移動させた点である。また、点U25及びU26は、Y軸の正方向に距離W4だけ、点U23及びU24を平行移動させた点である。
【0158】
第2のコンタクト529は、点U23〜U26で囲まれる領域と、ZX平面を基準として上述の点U5及びU6の対称で第2の線路524に含まれる2点近傍とを電気的に接続する。
第2のインダクタンス53もまた、第1のインダクタンス52と同様、大部分の構成を面A上に有するが、残りの構成を面B上又は層間に有する。具体的には、第2のインダクタンス53は、第1及び第2の端子531及び532と、典型的にはマイクロストリップ線路からなる第1〜6の線路533〜538とを面A上に備えている。
【0159】
第1の端子531及び第2の端子532は、ZX平面を基準として互いに対称な位置に形成される。本実施形態では例示的に、第1の端子531及び第2の端子532は、第1の線路533の一端及び第2の線路534の一端である。
【0160】
第1の線路533は、第1の端子531と後述する第1のコンタクト539とを電気的に接続し、本実施形態では例示的に、面A上における6点V1〜V6(図19参照)で囲まれる領域内に形成される。点V1は、X座標値及びY座標値として、(X6,−Y6)を有する。ここで、X6及びY6は、相互誘導回路51の仕様に応じて定められる正の値であるが、本実施形態では、Y6は前述のY5に等しいとする。点V2は、第1の線路533の幅をW4とすると、Y軸の負方向に距離W4だけ点V1を平行移動させた点である。点V3は、相互誘導回路51の仕様に応じて定められる任意の距離だけ、X軸の負方向に点V1を平行移動させた点である。点V4は、X軸及びY軸のそれぞれの負方向に距離W4だけ点V3を平行移動させた点である。点V5は、Y軸の正方向に距離J1だけ点V3を平行移動させた点である。点V6は、X軸の負方向に点V5を距離W4だけ平行移動させた点である。
第2の線路534は、第2の端子532と後述する第2のコンタクト5310とを電気的に接続し、ZX面を基準にして第1の線路533と対称な位置に形成される。
【0161】
第3の線路535は、後述する第3のコンタクト5313と、後述する第5の線路537とを電気的に接続し、第2のインダクタンス53の最外周の一部を構成する部分環状線路である。本実施形態では例示的に、第3の線路535は、面A上における8点V7〜V14(図19参照)で規定される領域内に、第3の線路535は形成される。点V7及びV8は、前述のV5及びV6を、X軸の負方向に、2×(W4+H2)よりも若干大きい距離だけ平行移動した点である。また、点V9は、Y軸の負方向に距離J5+W4だけ、点V7を平行移動させた点である。J5は、J3−W4よりも小さく、J7+W4よりも大きい正の値である。なお、J7については後述する。点V10は、Y軸の負方向に距離J5だけ点V8を平行移動した点である。点V11は、X軸の負方向に距離J6+2×W4だけ、点V9を平行移動した点である。J6は、前述のJ4−2×W4より小さく、J8+2×W4よりも大きい正の値である。なお、J8については後述する。点V12は、X軸の負方向に距離J6だけ、点V10を平行移動した点である。点V13は、Y軸の正方向に距離J5+W4だけ、点V11を平行移動した点である。点V14は、Y軸の正方向に距離J5だけ、点V12を平行移動した点である。
【0162】
第4の線路536は、後述する第4のコンタクト5314と、後述する第6のコンタクト5317とを電気的に接続し、第2のインダクタンス53の最外周の一部を構成する部分環状線路である。以上の第4の線路536は、ZX平面を基準として、第3の線路535と対称な位置に形成される。
【0163】
第5の線路537は、上述の第3の線路535と、後述する第6の線路538とを接続し、本実施形態では例示的に、4点V13〜V16(図19参照)を頂点とする平行四辺形で囲まれる領域内に形成される。点V13及びV14については上述した通りである。また、点V15及びV16は、ZX平面を基準として点V13及びV14に対称な第1及び第2の点を、X軸の正方向に距離W4+H2だけ平行移動した点である。
【0164】
第6の線路538は、第2のインダクタンス53の最外周よりも1つ内側の周(本実施形態では、最内周)を構成する部分環状線路であって、本実施形態では例示的に、12点V15〜V26(図19参照)で規定される領域内に形成される。なお、本実施形態では、第6の線路538の幅もまたW4とする。点V15及びV16については上述した通りである。点V17は、J7+W4の距離だけ、Y軸の正方向に点V15を平行移動させた点である。また、点V18は、J7の距離だけ、Y軸の正方向に点V16を平行移動させた点である。ここで、J7は、J5−W4よりも小さい正の値である。点V19は、J8+2×W4の距離だけ、X軸の正方向に点V17を平行移動させた点である。J8は、J6−2×W4よりも小さい正の値である。点V20は、J8の距離だけ、X軸の正方向に点V18を平行移動させた点である。点V21〜V26は、ZX平面を基準として、上述の点V15〜V20と対称な点である。
【0165】
さらに、第2のインダクタンス53は、第1及び第2のコンタクト539及び5310と、第7及び第8の線路5311及び5312と、第3〜第5のコンタクト5313〜5315と、第9の線路5316と、第6のコンタクト5317とを、面B上又は層間に備えている。
【0166】
まず、各コンタクト539、5310、5313〜5315及び5317は、層間に配される点で同じである。また、本実施形態では、便宜上、これらコンタクトは、底面の各辺がW4で、高さがD1より若干小さい値を有する直方体であると仮定する。
【0167】
第1のコンタクト539は、少なくとも、第1の線路533における点V5及びV6の近傍と、後述する第7の線路5311における点V27及びV29(図20参照)の近傍とを電気的に接続する。
第2のコンタクト5310は、ZX平面を基準にして第1のコンタクト539と対称な位置に形成され、第2の線路534において上述の点V5及びV6に対称な2点の近傍と、後述する第8の線路5312において点V27及びV29に対称な2点の近傍とを電気的に接続する。
【0168】
第7の線路5311は、上述の第1のコンタクト539と、後述する第3のコンタクト5313とを電気的に接続する線路であって、本実施形態は例示的に、面B上における4点V27〜V30(図20参照)で囲まれる領域内に形成される。点V27は、上述の点V5を鉛直上方向から面Bに投影した点である。また、点V28は、X軸の負方向に距離3×W4+2×H2だけ、点V27を平行移動した点である。点V29及びV30は、点V27及びV28を、Y軸の負方向に距離W4だけ平行移動した点である。
【0169】
第8の線路5312は、上述の第2のコンタクト5310と、後述する第4のコンタクト5314とを電気的に接続し、ZX平面を基準にして第7の線路5311に対称な位置に形成される。
第3のコンタクト5313は、少なくとも、第7の線路5311における点V28及びV30の近傍と、前述した第3の線路535における点V7及びV8(図19参照)の近傍とを電気的に接続する。
【0170】
第4のコンタクト5314は、ZX平面を基準にして第3のコンタクト5313に対称な位置に形成され、第8の線路5312において上述の点V28及びV30に対称な2点の近傍と、前述した第4の線路5314において点V7及びV8に対称な2点の近傍とを電気的に接続する。
第5のコンタクト5315は、少なくとも、前述した第6の線路538における点V21及びV22の近傍と、後述する第9の線路5316において点V21及びV22を面Bに投影した2点の近傍とを電気的に接続する。
【0171】
第9の線路5316は、第5のコンタクト5315と、後述する第6のコンタクト5317とを電気的に接続する線路であって、本実施形態では例示的に、面B上における8点V31〜V38(図20参照)で規定される領域内に形成される。まず、点V33〜V36は、ZX平面を基準として前述の点V13〜V16に対称な4点を、鉛直上方向から面Bに投影した点である。次に、点V31及びV32は、Y軸の正方向に点V33及びV34を距離W4だけ平行移動した点である。また、点V37及びV38は、Y軸の負方向に点V35及びV36を距離W4だけ平行移動した点である。
【0172】
第6のコンタクト5317は、少なくとも、前述した第9の線路5316における点V33及びV34の近傍と、前述した第4の線路536において点V13及びV14に対称な2点の近傍とを電気的に接続する。
【0173】
以上のように、相互誘導回路51は、細かな形状は相違するが、第2の実施形態で説明した第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43を構成する必須条件を満たす形状を有する第1のインダクタンス52及び第2のインダクタンス53を備えている。これによって、相互誘導回路41と同様の技術的効果、つまり、相互誘導回路51の専有面積を小さくでき、さらに、半導体基板の抵抗成分による損失を低減することができる。また、相互誘導回路41の場合と同様に、相互誘導回路51は、最も上の配線層が最も厚く、それより下の配線層が薄い半導体プロセスに特に好適である。
【0174】
なお、相互誘導回路51は、上述の本質的な構成以外にも、好ましい構成として接続線路54を備えている。接続線路54は典型的にはマイクロストリップ線路からなり、少なくとも、第1のインダクタンス52の仮想中点NP6及びその周辺と、第2のインダクタンス53の仮想中点NP7及びその周辺とを接続する。仮想中点NP6は点U12及びU18の中点であり、仮想中点NP7は点V19及びV25の中点である。以上のような仮想中点NP6及びNP7については、第1の実施形態における仮想中点NP1及びNP2の場合と同様の理由から接続されても構わない。
また、第2のインダクタンス53に差動信号を与え、変圧された差動信号を第1のインダクタンス52から得るようにしても構わない。
また、第1のインダクタンス52及び第2のインダクタンス53それぞれの巻き数はどのような数でも構わない。
【0175】
また、相互誘導回路51は、より好ましい構成として、図7A及びBを参照して説明したパターンシールド7を備えていても構わない。他にも、相互誘導回路51は、図8A及び図8Bを参照して説明したトレンチ8が形成されたシリコン基板上に形成されても構わない。
【0176】
また、以上の相互誘導回路51としてのトランス素子は、半導体基板4以外にも、図10に示すような誘電体多層基板9に形成されても構わないし、図11に示すような単層の両面基板11に形成されても構わない。
【0177】
(第4の実施形態)
図21は、本発明の第4の実施形態に係る無線通信機器61の全体構成を示すブロック図である。図21において、無線通信機器61は、受信信号のダウンコンバート用の構成として、典型的には、アンテナ62と、デュプレクサ63と、ローノイズアンプ(以下、LNA(Low Noise Amplifier)と称す)64と、フィルタ65と、発振回路66と、ローカルアンプ67と、ミキサ68とを備えている。
【0178】
アンテナ62は、外部から送られてくる信号を受信する。アンテナ62の受信信号はデュプレクサ63に送られる。デュプレクサ63は、アンテナ62から入力された信号をLNA64に出力する。LNA64は、デュプレクサ63から入力された信号を増幅して、フィルタ65に出力する。フィルタ65は、LNA64から入力された信号から、必要な周波数帯域に含まれる信号成分のみを通過させる。
【0179】
発振回路66は、フィルタ65の出力信号をダウンコンバートするのに必要で、予め定められた周波数を有する局部発振出力を生成し出力する。ここで、図22は、発振回路66の詳細な構成を示すブロック図である。図22において、発振回路66は大略的に、差動発振段69と、相互誘導回路1、41、41a及び51の内のいずれかと、差動増幅段610とを備えている。これら、差動発振段69、相互誘導回路1、41、41a及び51の内のいずれか、及び差動増幅段610の順番で、これらは電気的に接続される。
【0180】
差動発振段69は、発振用の第1及び第2のFET(Field Effect Transistor)611及び612と、定電流源613と、好ましくはそれぞれの容量が可変である共振用の第1及び第2のキャパシタンス614及び615とを含んでいる。
【0181】
差動増幅段610は、バッファアンプ用の第3及び第4のトランジスタ616及び617と、第1及び第2のチョークインダクタンス618及び619と、直流成分カット用の第1及び第2のキャパシタンス620及び621と、第1及び第2の出力端子622及び623とを備えている。
【0182】
発振回路66には、Vcc端子を介して、差動増幅段610の第1及び第2のチョークインダクタンス618及び619に直流電流が与えられる。与えられた直流電流は、第3及び第4のトランジスタ616及び617を通じて、相互誘導回路1、41、41a並びに51のいずれかの出力側の端子に与えられる。ここで、前述したように、相互誘導回路1、41、41a並びに51はいずれも、コンタクト6、接続線路44、接続線路44及び44a、並びに接続線路54により、2個のインダクタンスの内、一方から他方へと直流電流を与えることが可能な構成となっている。そのため、相互誘導回路1、41、41a及び51のいずれかの入力側の2端子から、差動発振段69に直流電流を与えることが可能である。以上の入力電流は、第1及び第2のFET611及び612に与えられた後、定電流源613を通じてグランドに流れる。これによって、第1及び第2のFET611及び612は動作する。
【0183】
第1及び第2のFET611及び612は、正帰還がかかるよう接続されており、第1及び第2のキャパシタンス614及び615と、相互誘導回路1、41、41a並びに51はいずれかとの共振周波数に依存する発振周波数を有する差動信号を生成し、同相信号及び逆相信号を、相互誘導回路1、41、41a及び51のいずれかに与える。
【0184】
相互誘導回路1、41、41a及び51のいずれかは、前述したように、入力差動信号を変圧して、差動増幅段610に与える。
【0185】
差動増幅段610において、第3及び第4のトランジスタ616及び617はそれぞれ、ベース接地の増幅器として動作し、入力差動信号を構成する同相信号及び逆相信号を増幅する。増幅された差動信号は、第1及び第2のキャパシタンス620及び621により、直流成分が除去された後に、第1及び第2の出力端子622及び623から出力される。
【0186】
以上の第1及び第2の出力端子622及び623の一方から出力された同相信号又は逆相信号が局部発振信号としてローカルアンプ67で増幅された後に、ミキサ68に与えられる。ミキサ68は、フィルタ65の出力信号を、ローカルアンプ67からの出力局部発振信号とを周波数混合して出力する。
【0187】
以上のように、相互誘導回路1、41、41a及び51のいずれかを発振回路66に組み込むことにより、差動増幅段610に直流電流を与えるだけで、差動発振段69も動作する。つまり、差動増幅段610及び差動発振段69のそれぞれに直流電流を与える必要性が無くなるので、発振回路66及び無線通信機器61の消費電力を抑えることが可能となる。
【0188】
さらに、以上の構成により、第3及び第4のトランジスタ616及び617を、ミラー容量の小さいベース接地型の増幅器として使うことができるので、負荷変動に強い発振回路66を実現することが可能となる。
【0189】
(第5の実施形態)
第2の実施形態に係る相互誘導回路41では、図13から明らかなように、第1のインダクタンス42及び第2のインダクタンス43が、Y軸を基準として互いに非対称な形状を有するため、両者の巻き数比を1:1にすることができない。そこで、第5の実施形態では、巻き数比を1:1にすることが可能な相互誘導回路71について説明する。
【0190】
図23は、相互誘導回路71の一例としてのトランス素子の構造を示す斜視図である。なお、図23には説明の便宜のため、他の実施形態と同様の3次元座標系が示される。図23において、相互誘導回路71は、相互誘導回路1と同様に、半導体基板4上の層間絶縁膜5内であってかつ上下2つの配線層に形成される。ここで、以下の説明では、上側の配線層を上層と、下側の配線層を下層と、さらに両層の間を層間と称する。具体的には、相互誘導回路71は、導電性材料からなり、第1のインダクタンス72と、第2のインダクタンス73とを、本質的に備える。
【0191】
図24は、上層においてXY平面に平行な面A(図23参照)で、相互誘導回路71を切断した時の断面図である。また、図25は、面A(図23参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させかつ下層に含まれる面B(図23参照)で、相互誘導回路71を切断した時の断面図である。図24及び図25では、面A及び面Bに無い構成については全て点線で示されている。また、図23〜図25において、面Cは、ZX平面に平行であって、相互誘導回路71の中心を通る基準面であり、面Dは、YZ平面に平行であって相互誘導回路71の中心を通る基準面である。
【0192】
第1のインダクタンス72は、図23〜図25に示すように、大部分の構成を面A上に有するが、残りの構成を面B上に又は層間に有する。具体的には、第1のインダクタンス72は、第1の端子721と、第1の線路722と、第1の接続線路723と、第2の線路724と、第2の接続線路725と、第3の線路726と、第3の接続線路727と、第4の線路728と、第1のコンタクト729と、第4の接続線路730と、第2のコンタクト731と、第5の線路732と、第3のコンタクト733と、第5の接続線路734と、第4のコンタクト735と、第6の線路736と、第5のコンタクト737と、第6の接続線路738と、第6のコンタクト739と、第7の線路740と、第2の端子741とを含む。
【0193】
以上の構成のうち大部分は、上層つまり面Aに配置される。具体的には、図24に示すように、面Aに配置されるのは、第1の端子721と、第1の線路722と、第1の接続線路723と、第2の線路724と、第2の接続線路725と、第3の線路726と、第3の接続線路727,第4の線路728と、第5の線路732と、第6の線路736と、第7の線路740と、第2の端子741とである。
また、残りの構成のうち、第4の接続線路730と、第5の接続線路734と、第6の接続線路738とは、図25に示すように、下層つまり面Bに配置される。
また、図23に示すように、第1のコンタクト729と、第2のコンタクト731と、第3のコンタクト733と、第4のコンタクト735と、第5のコンタクト737と、第6のコンタクト739とは層間に形成される。
【0194】
第1の端子721は、本実施形態では例示的に、第1の線路722の一端である。
第1の線路722は、典型的にはマイクロストリップラインであり、第1の端子721と後述する第1の接続線路723とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、以下の4点M1〜M4(図24参照)で規定される領域内に、第1の線路722は形成される。点M1は、X座標値及びY座標値として、(X1,−Y1)を有する。ここで、X1及びY1は、相互誘導回路71の仕様に応じて定められる正の値である。点M2は、第1の線路722の幅をW3とすると、Y軸の正方向にW3の距離だけ点M1を平行移動させた点である。点M3は、相互誘導回路71の仕様に応じて定められる任意の距離L1だけ、点M1をX軸の正方向に平行移動させた点である。点M4は、Y軸の正方向にW3の距離だけ、点M3を平行移動させた点である。
【0195】
第1の接続線路723は、典型的にはマイクロストリップラインであり、上述の第1の線路722と後述の第2の線路724とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、点M3〜点M6(図24を参照)で規定される領域内に、第1の接続線路723は形成される。点M3及び点M4については前述の通りである。点M5は、X軸の正方向にL2だけ、さらにY軸の正方向にL3だけ、点M3を移動させた点である。点M6は、X軸の正方向にL2だけ、さらにY軸の正方向にL3だけ、点M4を移動させた点である。ここで、図24において、L2及びL3は、相互誘導回路71の仕様に応じて定められる任意の数であるが、L3は、W3よりも大きい値に選ばれる。
【0196】
第2の線路724は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第1の接続線路723と、後述する第2の接続線路725とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第2の線路724は、以下の6点M5〜M10(図24を参照)で囲まれる領域内に形成される。点M5及び点M6は上述の通りである。点M7は、X軸の正方向に点M5をL4の距離だけ平行移動させた点である。また、点M8は、X軸の正方向に点M6を(L4−W3)の距離だけ平行移動させた点である。ここで、L4は、本相互誘導回路71の仕様に応じて定められるが、L1よりも小さい値である。また、点M9は、Y軸の正方向に点M7をL5の距離だけ移動させた点であり、点M10は、Y軸の正方向に点M8を(L5−W3)の距離だけ平行移動させた点である。
【0197】
第2の接続線路725は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第2の線路724と後述の第3の線路726とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第2の接続線路725は、以下の4点M9〜M12(図24を参照)で囲まれる平行四辺形の領域内に形成される。点M9及びM10は上述した通りである。点M11及びM12は、Y軸の正方向にL2、X軸の負方向にL3だけ、点M9及びM10を平行移動させた点である。
【0198】
第3の線路726は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第2の接続線路725及び第3の接続線路727を電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第3の線路726は、以下の6点M11〜M16(図24を参照)で囲まれる領域内に形成される。点M11及び点M12は上述した通りである。点M13は、Y軸の正方向にL6の距離だけ点M11を平行移動させた点である。また、点M14は、Y軸の正方向に(L6−W3)だけ、点M12を平行移動させた点である。ここで、L6は、本相互誘導回路71の仕様に応じて定められる値であるが、(L5−W3)よりも小さい値である。また、点M15は、X軸の負方向にL7の距離だけ点M13を平行移動させた点であり、点M16は、X軸の負方向に(L7−W3)の距離だけ点M14を平行移動させた点である。
【0199】
第3の接続線路727は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第3の線路726と後述の第4の線路728とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第3の接続線路727は、以下の4点M15〜M18(図24を参照)で囲まれる平行四辺形の領域内に形成される。点M15及びM16は上述した通りである。点M17及びM18は、Y軸の負方向にL3、X軸の負方向にL2だけ、点M15及びM16を平行移動させた点である。
【0200】
第4の線路728は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第3の接続線路727及び第1のコンタクト729を電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第4の線路728は、以下の8点M17〜M24(図24を参照)で囲まれる領域内に形成される。点M17及び点M18は上述した通りである。点M19は、X軸の負方向にL8の距離だけ点M17を平行移動させた点である。また、点M20は、X軸の負方向に(L8−W3)だけ、点M18を平行移動させた点である。ここで、L8は、本相互誘導回路71の仕様に応じて定められる値であるが、(L7−W3)よりも小さい値である。また、点M21及び点M22は、面Cを基準として、点M19及び点M20と対称な位置にある。点M23及び点M24は、面Cを基準として、点M17及び点M18と対称な位置にある。
【0201】
第1のコンタクト729は、第4の線路728の点M23及びM24と、後述する第4の接続線路730における点M25及びM26とを電気的に接続する。
第4の接続線路730は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第1のコンタクト729と、後述する第2のコンタクト731とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第4の接続線路730は、以下の4点M25〜M28(図25を参照)で囲まれる平行四辺形の領域内に形成される。点M25及び点M26は、点M23及び点M24を、Z軸の負方向に距離D1(図23を参照)だけ平行移動させた点である。また、点M27及び点M28は、点M25及び点M26を、X軸の正方向にL2、さらにY軸の負方向にL3だけ平行移動させた点である。
【0202】
第2のコンタクト731は、第4の接続線路730の点M27及び点M28と、後述する第5の線路732とを電気的に接続する。
【0203】
第5の線路732は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第2のコンタクト731と第3のコンタクト733とを電気的に接続する。このような第5の線路732は、面Cを基準として、第3の線路726と対称な位置に形成される。
【0204】
第3のコンタクト733は、第5の線路732と後述の第5の接続線路734とを電気的に接続する。
【0205】
第5の接続線路734は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第3のコンタクト733と、後述する第4のコンタクト735とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第5の接続線路734は、面Cを基準として前述の第2の接続線路725と対称で、Z軸の負方向に距離D1だけ平行移動させた平行四辺形の領域内(つまり、点M29〜M32で囲まれる領域内)に形成される。
第4のコンタクト735は、第5の接続線路734と後述の第6の線路736とを電気的に接続する。
【0206】
第6の線路736は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第4のコンタクト735と後述の第5のコンタクト737とを電気的に接続する。また、第6の線路736は、面Cを基準として前述の第2の線路724と対称な位置に形成される。
第5のコンタクト737は、第6の線路736と後述の第6の接続線路738とを電気的に接続する。
【0207】
第6の接続線路738は、典型的にはマイクロストリップラインであって、本実施形態では、面Cを基準として前述の第1の接続線路723と対称で、Z軸の負方向に距離D1だけ平行移動させた平行四辺形の領域内に形成される。
【0208】
第6のコンタクト739は、第6の接続線路738と後述の第7の線路740とを電気的に接続する。
第7の線路740は、典型的にはマイクロストリップラインであって、本実施形態では、面Cを基準として前述の第1の線路722と対称な領域内に形成される。
第2の端子741は、面Cを基準として、前述の第1の端子721と対称な位置に形成される。
【0209】
また、第2のインダクタンス73は、典型的にはマイクロストリップラインとコンタクトから構成され、面C及び面Dの交線Eを中心として、第1のインダクタンス72を180度回転移動させた形状を有する。
【0210】
以上のように、第1のインダクタンス72及び第2のインダクタンス73は、上層及び下層の双方を使って形成される。また、第2のインダクタンス73は、面C及び面Dを基準にして、第1のインダクタンス72と実質的に対称な形状を有する。それ故、両者の巻き数比を1:1にすることができる。
【0211】
また、相互誘導回路71によれば、相互誘導回路1の特徴を全て備えているので、相互誘導回路1と同様の技術的効果を得ることができる。
【0212】
また、相互誘導回路71は、より好ましい構成として、図7A及びBを参照して説明したパターンシールド7を備えていても構わない。他にも、相互誘導回路71は、図8A及び図8Bを参照して説明したトレンチ8が形成されたシリコン基板上に形成されても構わない。相互誘導回路71は、半導体基板4以外にも、図10に示すような誘電体多層基板9に形成されても構わないし、図11に示すような単層の両面基板11に形成されても構わない。
【0213】
(第6の実施形態)
ところで、図21の無線通信機器61では、アンテナ62に単相信号が入力されるのに対し、ミキサ68は集積回路に集積されるため、差動回路がよく用いられる。そこで、第6の実施形態では、単相入力で差動出力の増幅回路83aについて説明する。
【0214】
図26は、増幅回路83aの全体構成を示すブロック図である。図26において、増幅回路83aは典型的には、ローノイズアンプ(例えば、図21に示すLNA64)として用いられ、前置アンプ84と、バラン85と、差動アンプ86とを備えている。
前置アンプ84は、例えばアンテナにより受信された単相信号を増幅する。
【0215】
バラン85は、Balance−Unbalanceの略で、単相/差動変換回路である。以上のバラン85は、前置アンプ84で増幅された単相信号を、差動信号に変換する。ここで、図27は、図26に示すバラン85の一構成例を示す斜視図である。図27において、バラン85は、図1の相互誘導回路1と比較すると、第2の端子22が接地されている点でのみ相違する。それ以外に両回路の間に相違点は無いので、図27において、図1の構成に相当するものには同一の参照符号を付け、それぞれの説明を省略する。
【0216】
以上のような構成により、バラン85において、前置アンプ84から出力された単相信号が第1の端子21入力されると、第2のインダクタンス3の第1の端子31及び第2の端子32からは、差動信号を構成する同相信号及び逆相信号が出力される。
差動アンプ86は、バラン85から出力された差動信号を増幅する。
以上のような構成の増幅回路83aは、上述のようなバラン85が組み込まれるので、単相信号から、同相信号及び逆相信号の位相差が極めて小さい差動信号を生成することができるバラン85を実現することが可能となる。
【0217】
なお、図27に示すバラン85では、相互誘導回路1が応用されたが、これに限らず、相互誘導回路41(図12を参照)、相互誘導回路51(図18を参照)及び相互誘導回路71(図23を参照)のいずれかが、バラン85に応用されても構わない。
【0218】
(第7の実施形態)
図28は、本発明の第7の実施形態に係る相互誘導回路81の一例としてのコモンモードチョークの構造を示す斜視図である。なお、図28には説明の便宜のため、他の実施形態と同様の3次元座標系が示される。図28において、相互誘導回路81は、相互誘導回路1と同様に、半導体基板4上の層間絶縁膜5内であってかつ上下2つの配線層に形成される。ここで、以下の説明では、上側の配線層を上層と、下側の配線層を下層と、さらに両層の間を層間と称する。具体的には、相互誘導回路81は、導電性材料からなり、第1のインダクタンス82と、第2のインダクタンス83とを、本質的に備える。
【0219】
図29は、上層においてXY平面に平行な面A(図28参照)で、相互誘導回路81を切断した時の断面図である。また、図30は、面A(図28参照)をZ軸の負方向に距離D1だけ平行移動させかつ下層に含まれる面B(図28参照)で、相互誘導回路81を切断した時の断面図である。図29及び図30では、面A及び面Bに無い構成については全て点線で示されている。また、図28〜図30において、面Cは、ZX平面に平行であって、相互誘導回路81の中心を通る基準面であり、面Dは、YZ平面に平行であって相互誘導回路81の中心を通る基準面である。
【0220】
第1のインダクタンス82は、図28〜図30に示すように、大部分の構成を面A上に有するが、残りの構成を面B上に又は層間に有する。具体的には、第1のインダクタンス82は、第1の入力端子821と、第1の線路822と、第1の接続線路823と、第2の線路824と、第2の接続線路825と、第3の線路826と、第1のコンタクト827と、第3の接続線路828と、第2のコンタクト829と、第4の線路830と、第3のコンタクト831と、第4の接続線路832と、第4のコンタクト833と、第5の線路834と、第1の出力端子835とを含む。
【0221】
以上の構成のうち大部分は、上層つまり面Aに配置される。具体的には、図29に示すように、面Aに配置されるのは、第1の入力端子821と、第1の線路822と、第1の接続線路823と、第2の線路824と、第2の接続線路825と、第3の線路826と、第4の線路830と、第5の線路834と、第1の出力端子835とである。
【0222】
また、残りの構成のうち、第3の接続線路828と、第4の接続線路832と、図30に示すように、下層つまり面Bに配置される。
また、図30に示すように、第1のコンタクト827と、第2のコンタクト829と、第3のコンタクト831と、第4のコンタクト833とは層間に形成される。
第1の入力端子821は、本実施形態では例示的に、第1の線路822の一端である。
【0223】
第1の線路822は、典型的にはマイクロストリップラインであり、第1の入力端子821と後述する第1の接続線路823とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、以下の8点N1〜N8(図29参照)で規定される領域内に、第1の線路822は形成される。点N1は、X座標値及びY座標値として、(X1,−Y1)を有する。ここで、X1及びY1は、相互誘導回路81の仕様に応じて定められる正の値である。点N2は、第1の線路822の幅をW3とすると、Y軸の正方向にW3の距離だけ点N1を平行移動させた点である。点N3は、距離L1だけ、点N1をX軸の正方向に平行移動させた点である。点N4は、X軸の正方向に(L1+W3)の距離だけ、点N2を平行移動させた点である。また、点N5及びN6は、Y軸の負方向に、L2の距離だけ、点N3及びN4を平行移動させた点である。点N7は、X軸の正方向にL3の距離だけ、点N5を平行移動させた点であり、点N8は、X軸の正方向に(L3−W3)の距離だけ、点N6を平行移動させた点である。ここで、L1〜L3は、相互誘導回路81の仕様に応じて定められる値であるが、L2及びL3は、第1のインダクタンス82の巻き数に関連して定められる。本実施形態では、巻き数は1と仮定され、さらに、相互誘導回路81の対称性を確保するために、L2及びL3は、(2×W3)及び(3×W3)よりも大きな値に選ばれる。
【0224】
第1の接続線路823は、典型的にはマイクロストリップラインであり、上述の第1の線路822と後述の第2の線路824とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、4点N7〜点N10(図29を参照)で規定される平行四辺形の領域内に、第1の接続線路823は形成される。点N7及びN8については前述の通りである。点N9及びN10は、X軸の正方向にL4だけ、さらにY軸の正方向にL5だけ、点N7及びN8を移動させた点である。ここで、図29において、L4及びL5は、相互誘導回路81の仕様に応じて定められる任意の数であるが、L5は、W3よりも大きい値に選ばれる。
【0225】
第2の線路824は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第1の接続線路823と、後述する第2の接続線路825とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第2の線路824は、以下の6点N9〜N14(図29を参照)で囲まれる領域内に形成される。点N9及び点N10は上述の通りである。点N11は、X軸の正方向に点N9をL6の距離だけ平行移動させた点である。また、点N12は、X軸の正方向に点N10を(L6−W3)の距離だけ平行移動させた点である。ここで、L6は、本相互誘導回路81の仕様に応じて定められるが、(2×W3)よりも大きな値に選ばれる。また、点N13は、Y軸の正方向に点N11をL7の距離だけ移動させた点であり、点N14は、Y軸の正方向に点N12を(L7−W3)の距離だけ平行移動させた点である。ここで、L7は、本相互誘導回路81の仕様に応じて定められるが、(2×W2)よりも大きな値に選ばれる。
【0226】
第2の接続線路825は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第2の線路824と後述の第3の線路826とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第2の接続線路825は、以下の4点N13〜N16(図29を参照)で囲まれる平行四辺形の領域内に形成される。点N13及びN14は上述した通りである。点N15及びN16は、Y軸の正方向にL5、X軸の負方向にL4だけ、点N13及びN14を平行移動させた点である。
【0227】
第3の線路826は、典型的にはマイクロストリップラインであって、第2の接続線路825及び後述する第1のコンタクト827とを電気的に接続する。本実施形態では例示的に、第3の線路826は、以下の8点N15〜N22(図29を参照)で囲まれる領域内に形成される。点N15及びN16は上述した通りである。点N17は、Y軸の正方向にL8の距離だけ点N15を平行移動させた点である。また、点N18は、Y軸の正方向に(L8−W3)だけ、点N16を平行移動させた点である。ここで、L8は、本相互誘導回路81の仕様に応じて定められる値であるが、W3よりも大きい値に選ばれる。また、点N19及び点N20は、面Dを基準として、点N17及びN18と対称な位置にあり、点N21及び点N22は、面Dを基準として、点N15及び点N16と対称な位置にある。
【0228】
第1のコンタクト827は、第3の線路826の点N21及びN22と、後述する第3の接続線路828の点N23及び点N24とを電気的に接続する。
第3の接続線路828は、典型的にはマイクロストリップラインであって、面Dを基準として前述の第2の接続線路825と対称であって、Z軸の負方向にD1の距離だけ平行移動させた平行四辺形(つまり、4点N23〜N26(図30を参照))で囲まれる領域に形成される。
【0229】
第2のコンタクト829は、前述の第1のコンタクト827を、Y軸の負方向にL5、X軸の負方向にL4だけ、平行移動させた位置に形成され、少なくとも、第3の接続線路828の点N25及び点N26と、第4の線路830(後述)の点N27及び点N28とを電気的に接続する。
【0230】
第4の線路830は、典型的にはマイクロストリップラインであって、面Dを基準として前述の第2の線路824と対称な領域(つまり、点N27〜N32で囲まれる領域)に形成される。
第3のコンタクト831は、第4の線路830の点N31及びN32と、後述する第4の接続線路832の点N33及び点N34とを電気的に接続する。
【0231】
第4の接続線路832は、典型的にはマイクロストリップラインであって、面Dを基準として前述の第1の接続線路823と対称であって、Z軸の負方向にD1の距離だけ平行移動させた平行四辺形(つまり、4点N33〜N36(図30を参照))で囲まれる領域に形成される。
第4のコンタクト833は、前述の第3のコンタクト831を、Y軸の負方向にL5、X軸の正方向にL4だけ、平行移動させた位置に形成され、少なくとも、第4の接続線路832の点N35及び点N36と、後述の第5の線路834の点N37及び点N38とを電気的に接続する。
【0232】
第5の線路834は、典型的にはマイクロストリップラインであって、面Dを基準として、前述の第1の線路822と対称な領域(つまり、点N37〜N44で囲まれる領域)に形成される。
第1の出力端子835は、面Dを基準として、前述の第1の入力端子821と対称な位置に形成される。
【0233】
次に、第2のインダクタンス83について説明する。第2のインダクタンス83は、面C及び面Dとの交線を中心として、上述の第1のインダクタンス82を180度回転させた形状を有する。これにより、第1のインダクタンス82及び第2のインダクタンス83は、面C又は面Dを基準として互いに略対称な形状を有することになる。
【0234】
以上のような第1のインダクタンス82が有する第1の入力端子821には、差動信号を構成する同相信号が入力される。その結果、第1のインダクタンス82には電流ループが形成されるので、磁束が発生する。その後、入力された同相信号は第1の出力端子835から出力される。また、第2のインダクタンス83において、上述の第1の入力端子821とY軸方向に沿って並ぶ第2の入力端子には、差動信号の構成する逆相信号が入力される。その結果、第2のインダクタンス83にも電流ループが形成されるので、磁束が発生する。ここで、第2のインダクタンス83は、第1のインダクタンス82で発生した磁束が鎖交する位置に形成されており、さらには、電流ループの向きが同方向になるため、相互誘導作用により、入力同相信号及び入力逆相信号は互いに強め合って出力される。
【0235】
以上のような相互誘導回路81は、相互誘導回路1の特徴を全て備えているので、相互誘導回路1と同様の技術的効果を得ることができる。また、第1のインダクタンス82及び第2のインダクタンス83の入出力端子は最外周に位置する。それ故、各インダクタンス82及び83から引き出し線を接続しやすくなり、さらには、各引き出し線は、各インダクタンス82及び83におけるループ部分から離しやすくなる。それによって、たとえ各引き出し線に電流が流れたとしても、それによって発生する電磁界は、ループ電流に悪影響を与えにくくなる。
【0236】
なお、本相互誘導回路81を、相互誘導回路51(図18を参照)と同様に、上層及び下層の2層で1つのインダクタンスを形成するようにしてもよい。
【0237】
(第8の実施形態)
図31は、本発明の第8の実施形態に係る増幅回路91の全体構成を示す回路図である。図31において、増幅回路91は、差動入力端子92と、複数の入力側相互誘導回路93(図示は3個)と、入力側差動終端回路94と、複数の増幅段95(図示は2個)と、複数の出力側相互誘導回路96(図示は3個)と、出力側差動終端回路97と、差動出力端子98とを備えている。
【0238】
差動入力端子92には、差動信号が入力される。
各相互誘導回路93は、前述の相互誘導回路81であって、それぞれは互いに直列に接続され、入力差動信号に重畳されうるコモンモードノイズを反射する。
入力側差動終端回路94は、差動終端抵抗を含んでおり、前段の相互誘導回路93から出力される差動信号を終端する。
【0239】
また、各増幅段95において、差動入力側は、いずれかの相互誘導回路93の出力側と接続されており、差動出力側は、いずれか1個の相互誘導回路96の入力側と接続される。このような各増幅段95は入力差動信号を増幅して出力する。
各相互誘導回路96は、前述の相互誘導回路81であって、出力側差動終端回路97及び差動出力端子98の間に直列に接続され、入力差動信号に重畳されうるコモンモードノイズを反射する。
出力側差動終端回路97は、差動終端抵抗を含んでおり、前段の相互誘導回路96から出力される差動信号を終端する。
また、差動出力端子98は、各増幅段95により増幅された差動信号を出力する。
【0240】
以上のように、本増幅回路91によれば、いくつかの相互誘導回路81が組み込まれるので、非常に広帯域に渡って利得を平坦にすることが可能となる。また、相互誘導回路81がコモンモードチョークとして組み込まれることにより、コモンモードノイズの影響の小さい増幅装置を実現できる。また、チップ占有面積の小さい増幅回路を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0241】
本発明に係る相互誘導回路は、コンパクトさと低損失とが要求される電子機器等に応用できる。
【符号の説明】
【0242】
1,41,41a,51,71,81 相互誘導回路
2,42,52,72,82 第1のインダクタンス
3,3a,43,53,73,83 第2のインダクタンス
42a 第3のインダクタンス
43a 第4のインダクタンス
61 無線通信機器
62 アンテナ
63 デュプレクサ
64 ローノイズアンプ
65 フィルタ
66 発振回路
69 発振段
610 増幅段
67 ローカルアンプ
68 ミキサ
83a 増幅回路
84 前置アンプ
85 バラン
86 差動アンプ
91 増幅回路
92 差動入力端子
93,96 相互誘導回路
94,97 終端回路
95 増幅段
98 差動出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に平行な第1及び第2の配線層を使って形成される相互誘導回路であって、
前記第1の配線層に形成された第1のインダクタンスと、
前記第1のインダクタンスで発生した磁束が鎖交する位置であって前記第1の配線層に形成される第2のインダクタンスと、
前記第1のインダクタンスを鉛直上方から前記第2の配線層に投影したものと実質的に同じ形状を有している、前記第2の配線層に形成される第3のインダクタンスと、
前記第2のインダクタンスを鉛直上方から前記第2の配線層に投影したものと実質的に同じ形状を有している、前記第2の配線層に形成される第4のインダクタンスとを備え、
前記第1及び前記第2及び前記第3及び前記第4のインダクタンスは、鉛直上方向及び鉛直下方向の一方から前記第1の配線層及び前記第2の配線層の一方に投影した時に、投影された外形線が予め定められた第1の基準面を基準として対称な形状を有し、かつ前記第1及び第2のインダクタンスとの間、または前記第3及び第4のインダクタンスとの間において、前記投影された外形線が前記第1の配線層及び前記第2の配線層の一方上で交差し合う部分については、前記第1の配線層及び前記第2の配線層を使って交差しないように構成される、相互誘導回路。
【請求項2】
前記第1及び第3のインダクタンスは、複数のコンタクトを介して電気的に接続され、
前記第2及び第4のインダクタンスは、複数のコンタクトを介して電気的に接続される、請求項1に記載の相互誘導回路。
【請求項3】
上下方向に平行な第1及び第2の配線層を使って形成される相互誘導回路であって、
第1のインダクタンスと、
前記第1のインダクタンスで発生した磁束が鎖交する位置に形成される第2のインダクタンスとを備え、
前記第1及び前記第2のインダクタンスは、鉛直上方向及び鉛直下方向の一方から前記第1の配線層及び前記第2の配線層の一方に投影した時に、投影された外形線が予め定められた第1の基準面を基準として対称な形状を有し、かつ前記投影された外形線が前記第1の配線層及び前記第2の配線層の一方上で交差し合う部分については、前記第1の配線層及び前記第2の配線層を使って交差しないように構成され、
前記相互誘導回路はトランス素子であって、
前記第1のインダクタンスは、差動信号を構成する同相信号及び逆相信号が入力される第1及び第2の入力端子を含み、前記第1及び第2の入力端子に入力された同相信号及び逆相信号により磁束を発生し、
前記第2のインダクタンスは、前記第1のインダクタンスとの相互誘導作用により、変圧された同相信号及び逆相信号を出力する第1及び第2の出力端子を含み、
前記第1のインダクタンスは、
前記第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、外周側から内周側に向かって、前記第1の配線層に形成される、複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、
前記第1の部分環状線路の内、前記第1の基準面を基準として一方側であってかつ外周側に形成されるものと、前記第2の部分環状線路において、前記第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ前記第1の部分環状線路と前記第1の基準面を基準として逆側にあるものとを2個のコンタクトを介して接続し、かつ前記第2の配線層に形成される第1の接続線路と、
前記第1の部分環状線路の内、前記第1の基準面を基準として逆側であってかつ外周側に形成されるものと、前記第2の部分環状線路において、前記第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ前記第1の部分環状線路と前記第1の基準面を基準として一方側にあるものとを接続し、かつ、前記第1の配線層に形成される第2の接続線路とを備え、
前記第2のインダクタンスは、
前記第1の基準面を基準にして互いに対称で互いに離れており、外周側から内周側に向かって、前記第1の配線層において、前記第1のインダクタンスの第1及び第2の部分環状線路の隣に形成される複数組みの第1及び第2の部分環状線路と、
前記第1の部分環状線路の内、前記第1の基準面を基準として一方側であってかつ外周側に形成されるものと、前記第2の部分環状線路において、前記第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ前記第1の部分環状線路と前記第1の基準面を基準として逆側にあるものとを2個のコンタクトを介して接続し、かつ前記第1の配線層に形成される第1の接続線路と、
前記第1の部分環状線路の内、前記第1の基準面を基準として逆側であってかつ外周側に形成されるものと、前記第2の部分環状線路において、前記第1の部分環状線路よりも一周内側に形成されておりかつ前記第1の部分環状線路と前記第1の基準面を基準として一方側にあるものとを接続し、かつ、前記第2の配線層に形成される第2の接続線路とを備え、
前記第1のインダクタンスに入力された差動信号を構成する同相信号及び逆相信号が入力される第1及び第2の入力端子を有しており、入力同相信号及び入力逆相信号により磁束を発生する第3のインダクタンスと、
前記第1及び第3のインダクタンスで発生した磁束が鎖交する位置に形成され、前記第1のインダクタンスとの相互誘導作用により、変圧された同相信号及び逆相信号を第1及び第2の出力端子から出力する第4のインダクタンスとを備え、
前記第3及び前記第4のインダクタンスは、前記第1及び前記第2のインダクタンスを、鉛直上方向から前記第2の配線層の一方に投影したものと実質的に同じ形状を有しており、前記第2の配線層に形成され、
前記第1及び第3のインダクタンスは、複数のコンタクトを介して電気的に接続され、前記第2及び前記第4のインダクタンスは、複数のコンタクトを介して電気的に接続される、相互誘導回路。
【請求項4】
前記第1のインダクタンスの仮想中点と、前記第2のインダクタンスの仮想中点とを接続するための線路と、
前記第3のインダクタンスの仮想中点と、前記第2のインダクタンスの仮想中点とを接続するための線路とをさらに備える、請求項1または3に記載の相互誘導回路。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の相互誘導回路を有する発振回路。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の相互誘導回路を有する増幅回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32A】
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【図32B】
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【図33】
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【図34A】
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【図34B】
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【図35】
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【図36】
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【図37A】
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【図37B】
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【公開番号】特開2011−35409(P2011−35409A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199705(P2010−199705)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【分割の表示】特願2004−139145(P2004−139145)の分割
【原出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】