説明

相変化メモリの形成装置、及び相変化メモリの形成方法

【課題】金属カルコゲナイド膜の積層体を有する相変化メモリにおいて、読み書き動作の速度を高めることのできる相変化メモリの形成装置、及び相変化メモリの形成方法を提供する。
【解決手段】スパッタ装置10は、互いに異なる組成を有したGeTeターゲット22a及びSbTeターゲット22bを有する。また、スパッタ装置10は、基板Sを加熱する加熱面を有して、基板Sを該加熱面に吸着しながら加熱する基板ステージ13と、基板ステージ13を基板Sの周方向に回転させる回転部18とを備えている。こうしたスパッタ装置10は、基板ステージ13が基板Sを吸着且つ加熱した状態で、回転部18が基板ステージ13を回転させつつ、GeTeターゲット22a及びSbTeターゲット22bの各々を互いに異なるタイミングでスパッタすることにより、互いに異なる組成を有した二つの金属カルコゲナイド膜を基板S上に積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属元素とカルコゲン元素とを含む互いに異なる組成の複数の金属カルコゲナイド膜が積層された積層体を有する相変化メモリを形成する相変化メモリの形成装置、及び相変化メモリの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に記載のように、金属元素とカルコゲン元素とを含む金属カルコゲナイド膜を用いた記憶素子である相変化メモリが広く知られている。金属カルコゲナイド膜は、それに与えられる熱エネルギーの違いによって、結晶相とアモルファス相との間で可逆的に相変化し、且つ常温においては、いずれの相も安定して保持されるという特性を有している。しかも、結晶相の金属カルコゲナイド膜とアモルファス相の金属カルコゲナイド膜とは、互いに異なる抵抗値を示す。そのため、こうした抵抗値の違いから、金属カルコゲナイド膜は、互いに異なる二値を記憶することのできる素子として用いられている。このように、上記記憶素子は、互いに異なる二つの相の抵抗値の違いによって情報を記憶するものであることから、記憶の維持に電力の供給を必要としない新たな不揮発性メモリとして注目を集めている。
【0003】
こうした相変化メモリの一部断面構造を図6に示す。相変化メモリ50の層間絶縁膜51に形成されたホールには、断熱層52に覆われた下部電極53が埋め込まれている。層間絶縁膜51上には、例えばGeSbTeからなる単層の金属カルコゲナイド膜54と上部電極55との積層体が、下部電極53の表面を覆う位置に形成されている。金属カルコゲナイド膜54は、これを挟む下部電極53と上部電極55との間を流れる電流によって加熱されること、及び該電流供給の停止に伴って冷却されること、これらの度合いによって、結晶相とアモルファス相との間で相変化する。
【0004】
こうした単層型の相変化によれば、上述のような抵抗値のスイッチング、つまりは情報の読み書きが確かに可能ではある。しかしながら、上記相変化には、金属カルコゲナイド膜54を構成する各原子の物理的な移動が金属カルコゲナイド膜54の厚さ方向で必要とされる。それゆえに、容量素子における電子の移動で情報を記憶するDRAM等の他の記憶素子と比較して、読み書き速度が低い。そこで、例えば非特許文献1に記載のように、上述のような単一の金属カルコゲナイド膜に代えて、互いに異なる組成の金属カルコゲナイド膜の積層体を用いる相変化メモリが提案されている。
【0005】
積層型の相変化メモリは、例えば交互に積層されたGeTe層とSbTe層とを複数有している。そして、非特許文献1における数値計算結果によれば、結晶相とアモルファス層との間での相変化が、互いに隣接するGeTe層とSbTe層との界面でのGe原子の移動のみによって生じる。そのため、上述した相変化メモリでは、こうした積層構造が、書き込み速度を高めることができる方策の一つとして期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2008/090963号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics 48 (2009) 03A053, J. Tominaga, et al
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1では、上述のような原理で相変化が生じるという積層体の特性と、該特性による相変化メモリの性能に対する寄与とが提唱されているとはいえ、こうした特性とは、数値計算によって見出されたものでしかない。
【0009】
そのため、例えばスパッタ法によって上述のような特性を有する積層体を成膜するに当たっての条件の検討は、未だ十分になされておらず、それゆえに、こうした成膜条件の開発が切望されている。
【0010】
なお、こうした問題は、相変化メモリが、GeTe層とSbTe層とからなる金属カルコゲナイド膜の積層体を有するものに限らず、他の金属カルコゲナイド膜からなる積層体を有するものであっても、概ね共通するものである。
【0011】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属カルコゲナイド膜の積層体を有する相変化メモリにおいて、読み書き動作の速度を高めることのできる相変化メモリの形成装置、及び相変化メモリの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
【0013】
請求項1に記載の発明は、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を基板上にて積層することによって相変化メモリを形成する相変化メモリの形成装置であって、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイドターゲットの各々を希ガスでスパッタするスパッタ源と、前記基板を加熱する加熱面を有して前記基板を該加熱面に吸着しながら加熱する基板ステージと、前記基板ステージを前記基板の周方向に回転させる回転部とを備え、前記基板ステージが前記基板を吸着且つ加熱した状態で、前記回転部が前記基板ステージを回転させつつ、前記スパッタ源が前記二つ以上の金属カルコゲナイドターゲットの各々を互いに異なるタイミングでスパッタすることにより、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を前記基板上にて積層することを要旨とする。
【0014】
本願発明者らは、組成の相異なる二つの金属カルコゲナイド膜が積層された積層構造を鋭意研究する中で、上記積層構造を構成する各金属カルコゲナイド膜の面方位が、成膜時に基板の面内で均一でないと、各金属カルコゲナイド膜の境界における相変化もまた成膜後に基板の面内で均一に生じにくいことを見出した。そして、金属カルコゲナイドに与えられる熱エネルギーの推移によって、該金属カルコゲナイドの相構造が容易に変わるという特性が、膜形成の途中にある金属カルコゲナイドでも同じであることを見出した。
【0015】
この点、請求項1に記載の発明では、相変化メモリの形成装置が、二つ以上の金属カルコゲナイドターゲットの各々を希ガスでスパッタするスパッタ源と、基板の吸着及び加熱を行う基板ステージと、基板ステージを回転させる回転部とを備えるようにしている。そして、相変化メモリの形成装置は、基板ステージによって基板を吸着且つ加熱した状態で、回転部によって基板ステージを回転させながら、上記金属カルコゲナイドターゲットのスパッタによって相異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を積層するようにしている。
【0016】
そのため、基板の位置が固定される構成と比較して、基板表面に到達するスパッタ粒子の数量が基板の面内で均一になる。加えて、基板ステージが基板を吸着していない構成と比較して、基板表面の温度が基板の面内で均一になる。それゆえに、基板表面から与えられるスパッタ粒子あたりの熱が基板の面内で均一となる。このような構成であれば、相構造が熱によって大きく変わる金属カルコゲナイドであっても、基板上に形成された金属カルコゲナイド膜の面方位が、成膜時に基板の面内で均一に保たれやすくなる。したがって、こうした金属カルコゲナイド膜の積層体を有する相変化メモリでは、各金属カルコゲナイド膜の境界における相変化が生じやすくなり、ひいては、相変化メモリにおける読み書き動作の速度を高めることができるようになる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の相変化メモリの形成装置において、前記基板ステージは、前記加熱面における静電気力によって前記基板を吸着することを要旨とする。
【0018】
基板ステージの加熱面に基板を吸引する吸引孔が設けられる構成であれば、該吸引孔の吸引力により基板を加熱面に吸着することが可能である。ただし、このような構成では、吸引孔と向かい合う部位で基板が加熱され難くなるため、基板の面内にて温度のばらつきを抑えることには限りがある。この点、請求項2に記載の発明では、基板ステージの加熱面に基板が静電吸着されるため、加熱面に吸引孔が形成される構成と比較して、加熱面に接触する基板の領域を大きくすることが可能である。それゆえに、基板の面内における温度のばらつきを抑えることが可能であるから、金属カルコゲン膜の積層構造を備える相変化メモリの読み書き速度がより確実に高められるようになる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の相変化メモリの形成装置において、前記二つ以上のカルコゲナイドターゲットは、GeTeからなる第一のターゲットとSbTeからなる第二のターゲットから構成され、前記スパッタ源は、スパッタ対象を前記第一のターゲットと前記第二のターゲットとに交互に切り替えるとともに、スパッタ対象を切り替える際には、切り替え期間を置き、前記切り替え期間にて、スパッタ対象になるターゲットを露出させ、且つ該ターゲット以外のターゲットを覆うシャッタをさらに備え、前記基板ステージは、前記スパッタ源がターゲットをスパッタする期間での前記加熱面の温度と、前記切り替え期間での前記加熱面の温度とが等しくなるように、前記加熱面を温調することを要旨とする。
【0020】
第一のターゲットがスパッタされた後に第二のターゲットをスパッタする際に、一方のスパッタ終了時と他方のスパッタ開始時との間隔が短くなると、このような間隔では、互いに異なるターゲットからスパッタされた粒子が、基板上で混ざりやすくなる。積層構造を備える相変化メモリでは、互いに隣接する金属カルコゲナイド膜の界面での原子の移動によりメモリ機能が発現するため、こうした界面における結晶の面方位が、特にメモリ機能の良否を大きく左右する。
【0021】
請求項3に記載の発明では、金属カルコゲナイドターゲットが、GeTeからなる第一のターゲットとSbTeからなる第二のターゲットとから構成される。そのため、GeTeターゲットのスパッタにより形成された膜と、SbTeターゲットのスパッタにより形成された膜との境界では、GeとSbTeとの比を「Ge:Sb:Te=2:2:5」とすることができる。これにより、膜の境界において安定な組成のGeSbTe構造を形成することができることから、該GeSbTe構造における熱による相変化も安定に行うことができる。
【0022】
そして、互いに異なるターゲットからスパッタされた粒子が混在することを抑えるべく、スパッタ対象が切り替わる切り替え期間において、スパッタ対象以外のターゲットがシャッタによって覆われる。そのうえ、スパッタ源がターゲットをスパッタする期間での加熱面の温度と、こうした切り替え期間での加熱面の温度とが等しくなるように、加熱面が温調される。それゆえに、互いに異なるターゲットからスパッタされた粒子が基板上で混ざることが、切り替え期間の確保によって抑えられ、且つ切り替え期間における基板温度の変化が、切り替え期間の基板温度とスパッタ期間の基板温度とを等しくすることで抑えられる。その結果、互いに異なるターゲットからスパッタされた粒子が隣接するカルコゲナイド膜の界面にて混ざることを抑えることが可能となる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の相変化メモリの形成装置において、前記基板の直径は、150mm以上300mm以下であり、前記基板の面内における温度のばらつきは、−10℃以上+10℃以下であり、前記基板ステージの回転速度は、毎分60回以上毎分250回以下であることを要旨とする。
【0024】
本願発明者らは、基板の直径が200mm以上300mm以下である場合、基板の面内における温度ばらつきが−10℃以上+10℃以下であって、基板ステージの回転速度が毎分60回以上250回以下であるときに、金属カルコゲナイド膜の略全体が、均一な面方位の結晶から構成される膜として形成されることを見出した。そこで、請求項4に記載の発明では、基板ステージが、基板の面内における温度のばらつきを−10℃以上+10℃以下とする。また、回転部は、こうした基板ステージを毎分60回以上且つ250回以下の速度で回転させる。これにより、金属カルコゲン膜を形成する結晶の面方位の均一性が、より確実に高められるようになる。ひいては、該金属カルコゲン膜の積層構造を備える相変化メモリの読み書き速度がより確実に高められるようになる。
【0025】
請求項5に記載の発明は、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を基板上にて積層することによって相変化メモリを形成する相変化メモリの形成方法であって、前記基板を基板ステージの加熱面に吸着しながら該加熱面で加熱し、且つ前記基板ステージを回転させつつ、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイドターゲットの各々を互いに異なるタイミングで希ガスによりスパッタして、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を前記基板上にて積層することを要旨とする。
【0026】
請求項5に記載の発明では、基板ステージによって基板を吸着且つ加熱した状態で、基板ステージを回転させながら、二つ以上の金属カルコゲナイドターゲットのスパッタによって相異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を積層するようにしている。
【0027】
そのため、基板の位置が固定される構成と比較して、基板表面に到達するスパッタ粒子の数量が基板の面内で均一になる。加えて、基板ステージが基板を吸着していない構成と比較して、基板表面の温度が基板の面内で均一になる。それゆえに、基板表面から与えられるスパッタ粒子あたりの熱が基板の面内で均一となる。このような構成であれば、相構造が熱によって大きく変わる金属カルコゲナイドであっても、基板上に形成された金属カルコゲナイド膜の面方位が、成膜時に基板の面内で均一に保たれやすくなる。したがって、こうした金属カルコゲナイド膜の積層体を有する相変化メモリでは、各金属カルコゲナイド膜の境界における相変化が生じやすくなり、ひいては、相変化メモリにおける読み書き動作の速度を高めることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の相変化メモリの形成装置における一実施形態としてのスパッタ装置の全体構成を示す図。
【図2】(a)同スパッタ装置によって形成される金属カルコゲナイド積層体の断面構造を示す断面図(b)(c)積層体における相変化の様子を模式的に示す図。
【図3】基板中心からの距離とX線回折(XRD)ピーク強度との関係を基板面内における温度ばらつき別に示したグラフ。
【図4】基板中心からの距離とXRDピーク強度との関係を基板の回転速度別に示したグラフ。
【図5】本実施形態の相変化メモリの形成装置によって形成された積層体1、他の相変化メモリの形成装置によって形成された積層体2、及び、従来の相変化メモリの備える金属カルコゲナイド膜のXRDピーク強度を示すグラフ。
【図6】従来の相変化メモリの断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の相変化メモリの形成装置、及び相変化メモリの形成方法における一実施形態について図1〜図5を参照して説明する。まず、相変化メモリの形成装置における一実施形態としてのスパッタ装置について図1を参照して説明する。
【0030】
(装置構成)
スパッタ装置10の備える円筒状の真空槽11には、その上面を封止する上蓋12が固着されている。真空槽11内には、処理対象である円板状の基板Sを保持する基板ステージ13が設置されている。基板ステージ13には、基板Sを該基板ステージ13の載置面13aに静電的に吸着するためのチャック電極14が内蔵されている。チャック電極14には、該チャック電極14に対して直流電圧を供給するチャック電源15が接続されている。基板ステージ13の載置面13aには基板Sが静電吸着されるため、載置面13aに例えば真空吸着用の吸引孔が形成される構成や、メカニカルチャック等によって機械的に基板Sを保持する構成と比較して、載置面13aに接触する基板Sの領域を大きくすることが可能である。これにより、基板Sの面内における温度のばらつきを抑えることができる。
【0031】
また、基板ステージ13には、加熱面となる上記載置面13aに載置された基板Sを加熱するヒータ16が内蔵されている。ヒータ16は、例えば、直流電圧の印加によって熱を放射する抵抗加熱ヒータであって、例えば基板Sを250℃に加熱する。ヒータ16には、該ヒータ16に対して直流電圧を供給するヒータ電源17が接続されている。また、基板ステージ13には、該基板ステージ13を基板Sの周方向に回転させる回転部18が接続されている。回転部18は、モータ、該モータの回転を基板ステージ13に伝達する回転軸等から構成されている。
【0032】
基板ステージ13は、載置面13aに載置された基板Sを静電気力によって吸着しながら加熱することによって、基板Sの面内における温度のばらつきを−10℃以上+10℃以下とする。また、基板ステージ13は、回転部18によって基板Sの周方向に回転されることで、基板Sを毎分60回転以上毎分250回転以下の速度で回転させる。なお、基板Sの回転速度が毎分250回転を超えると、回転部18を構成するモータの回転が不安定になることから、基板Sの回転速度のばらつきが大きくなる。
【0033】
真空槽11を封止する上蓋12には、金属製の第1バッキングプレート21aと第2バッキングプレート21bとが、絶縁材12aを介して嵌め込まれている。第1バッキングプレート21aの真空槽11側には、第一のターゲットとしてのGeTeターゲット22aが、上記基板ステージ13の載置面13aと略平行をなすように接着されている。他方、第1バッキングプレート21aにおけるGeTeターゲット22aの反対側には、第1磁石ユニット23aが配設されている。第1磁石ユニット23aは、GeTeターゲット22aの真空槽11側の面に磁場を形成する永久磁石を備えている。
【0034】
上記第2バッキングプレート21bの真空槽11側には、第二のターゲットとしてのSbTeターゲット22bが、上記基板ステージ13の載置面13aと略平行をなすように接着されている。他方、第2バッキングプレート21bにおけるSbTeターゲット22bの反対側には、第2磁石ユニット23bが配設されている。第2磁石ユニット23bは、SbTeターゲット22bの真空槽11側の面に磁場を形成する永久磁石を備えている。
【0035】
第1バッキングプレート21aには、第1スイッチSWaを介して、他方、第2バッキングプレート21bには、第2スイッチSWbを介して、並列に接続された高周波電源24と直流電源25とが接続されている。高周波電源24と直流電源25との各々は、電圧の印加を開始あるいは停止するためのスイッチを有している。高周波電源24から供給される高周波電力の周波数は、例えば13.56MHzである。
【0036】
真空槽11内の上蓋12側には、GeTeターゲット22a及びSbTeターゲット22bを覆うとともに、いずれかのターゲットの表面を選択的に露出させることのできるシャッタ26が配設されている。シャッタ26は、一方のターゲットがスパッタされているときに、他方のターゲットを覆うことによって、単一の膜に二つのターゲット22a,22bからスパッタされた粒子が混在したり、一方のターゲットからスパッタされた粒子が、他方のターゲットに付着したりすることを抑える。
【0037】
真空槽11の下面に貫通形成された排気口11aには、排気部31が接続されている。排気部31は、真空槽11内の圧力を調整するバルブと、各種真空ポンプとを備えている。真空槽11の側面に貫通形成されたガス供給口11bには、上記ターゲット22a,22bをスパッタするアルゴン(Ar)ガスを供給する希ガス供給部32が接続されている。希ガス供給部32は、アルゴンガスを貯蔵するボンベに接続されるマスフローコントローラであって、真空槽11に供給するアルゴンガスの流量を例えば5sccm以上100sccm以下に調節する。また、同ガス供給口11bには、アルゴンガスに添加される添加ガス、例えば窒素(N)ガスや酸素(O)ガスを供給する添加ガス供給部33が接続されている。添加ガス供給部33は、窒素ガスあるいは酸素ガスを貯蔵するボンベに接続されるマスフローコントローラであって、真空槽11に供給する添加ガスの流量を例えば0.1sccm以上10sccm以下に調節する。
【0038】
上記ターゲット22a,22bがスパッタされるときには、希ガス供給部32から供給されるアルゴンガスの流量、添加ガスの流量、及び排気部31による排気流量によって、真空槽11内の圧力が所定の圧力に維持される。
【0039】
なお、本実施形態では、上記高周波電源24及び希ガス供給部32によってスパッタ源が構成されている。
【0040】
(作用)
上記スパッタ装置10の作用のうち、相変化メモリを構成する金属カルコゲナイド膜の積層体を該スパッタ装置10が形成する際に行う動作について図2(a)を参照して説明する。
【0041】
上記積層体を形成するときには、まず、排気部31によって減圧された真空槽11内に、図示しない搬出入口から搬入された基板Sが、ヒータ16によって加熱された基板ステージ13の載置面13aに載置される。基板Sは、図2(a)に示されるように、例えば直径150mm以上300mm以下のシリコン基板等上に形成された層間絶縁膜41と、層間絶縁膜41に形成されたホールの側面を覆う断熱層42と、断熱層42に覆われるようにホールに埋め込まれた下部電極43とを有している。
【0042】
基板Sが載置面13a上に載置されると、希ガス供給部32から真空槽11内にアルゴンガスが供給された後、チャック電源15からチャック電極14に直流電圧が印加されることで、基板Sが載置面13aに静電吸着される。次いで、回転部18が基板ステージ13を回転させることで、基板Sがその周方向に回転される。
【0043】
そして、シャッタ26がGeTeターゲット22aの表面のみを真空槽11内に露出させた状態で、高周波電源24からの高周波電圧が、第1スイッチSWaを介して第1バッキングプレート21a及びGeTeターゲット22aに印加される。これにより、GeTeターゲット22aの周辺に生成されたプラズマ中の正イオンによって、GeTeターゲット22aがスパッタされる。GeTeターゲット22aがスパッタされると、層間絶縁膜41の表面全体に金属カルコゲナイド膜としてのGeTe膜44aが形成される。
【0044】
GeTe膜44aが形成されると、スパッタの対象がGeTeターゲット22aからSbTeターゲット22bに切り替えられる。このターゲット22a,22b間の切り替え期間では、まず、第1スイッチSWa及び第2スイッチSWbの両方が切られた後、シャッタ26がGeTeターゲット22aを覆い、且つSbTeターゲット22bの表面を真空槽11内に露出させる。なお、上記ヒータ16は、切り替え期間中とGeTeターゲットのスパッタ中とで上記載置面13aの温度が同一となるように基板ステージ13を温調し続ける。そのため、基板Sの温度は、切り替え期間中とGeTeターゲットのスパッタ中とで同一の温度に維持される。
【0045】
上記ターゲット22a,22b間の切り替えが終了すると、上記第2スイッチSWbを介して高周波電源24から第2バッキングプレート21b及びSbTeターゲット22bに高周波電圧が印加される。これにより、SbTeターゲット22bの周辺に生成されたプラズマ中の正イオンによって、SbTeターゲット22bがスパッタされる。SbTeターゲット22bがスパッタされると、層間絶縁膜41上に形成されたGeTe膜44aの表面全体に金属カルコゲナイド膜としてのSbTe膜44bが形成される。
【0046】
SbTe膜44bが形成されると、スパッタの対象がSbTeターゲット22bからGeTeターゲット22aに切り替えられる。このターゲット22a,22b間の切り替え期間では、上記GeTeターゲット22aからSbTeターゲット22bへの切り替え期間と同様に、第1スイッチSWa及び第2スイッチSWbの両方が切られた後、シャッタ26がSbTeターゲット22bを覆い、且つGeTeターゲット22aの表面を真空槽11内に露出させる。なお、上記ヒータ16も同様に、切り替え期間中とSbTeターゲット22bのスパッタ中とで上記載置面13aの温度が同一となるように基板ステージ13を温調し続ける。そのため、基板Sの温度は、切り替え期間中とSbTeターゲット22bのスパッタ中とで同一の温度に維持される。
【0047】
上記ターゲット22a,22b間の切り替えが終了すると、上記第1スイッチSWaを介して高周波電源24から第1バッキングプレート及びGeTeターゲット22aに高周波電源が印加される。これにより、GeTeターゲット22aが再びスパッタされることで、上記SbTe膜44bの表面全体にGeTe膜44aが形成される。
【0048】
このように、GeTeターゲット22aとSbTeターゲット22bとが互いに異なるタイミングでスパッタされるとともに、GeTeターゲット22aとSbTeターゲット22bとを交互に所定回数、例えば10回ずつスパッタすることによって、20層の金属カルコゲナイド膜からなる積層体44が形成される。
【0049】
上記切り替え期間における基板ステージ13の載置面13aの温度は、その前後のスパッタ期間であるGeTeターゲット22aのスパッタ期間とSbTeターゲット22bのスパッタ期間における載置面13aの温度と同一となるように調節される。そのため、GeTe膜44aとSbTe膜44bとの境界面のように、熱エネルギーによって相変化を生じる組成であっても、該熱エネルギーによる相変化が生じることを抑えることができる。
【0050】
また、上述のように、スパッタの対象をGeTeターゲット22aとSbTeターゲット22bとの間で切り替えるときには、GeTeターゲット22aとSbTeターゲット22bとのいずれにも電圧が印加されていない状態とする。そして、スパッタの対象となるターゲットをシャッタ26の開口から露出させる一方、スパッタの対象でないターゲットをシャッタ26によって覆うようにした後に、スパッタ対象のターゲットに対して電圧を印加するようにしている。そのため、組成の相異なる金属カルコゲン膜であるGeTe膜44aとSbTe膜44bとの境界では、各膜を形成するためのスパッタ粒子の混合が抑えられるようになる。加えて、一方のターゲットからスパッタされた粒子が、他方のターゲットの表面に付着することも抑えられるようになるため、各ターゲット22a,22bのスパッタを開始した直後に形成された膜において、二つのターゲット22a,22bからスパッタされる粒子が混在することを抑えることができる。
【0051】
基板S上に積層体44が形成されると、回転部18による基板ステージ13の回転が停止された後、チャック電源15からチャック電極14への直流電圧の印加が停止される。そして、基板Sは、真空槽11の搬出入口から真空槽11外に搬出される。
【0052】
なお、上記スパッタ装置10による積層体44の形成が終了すると、スパッタ装置等の公知の成膜装置によって積層体44上に上部電極が形成された後、ドライエッチング装置等によって積層体44及び上部電極の一部が選択的に除去される。これにより、上部電極と下部電極43とに挟まれた金属カルコゲナイド膜の積層体を有した相変化メモリが形成される。
【0053】
上記積層体44において生じる相変化を図2(b)及び図(c)を参照して説明する。上述のように、積層体44は、GeTe膜44aとSbTe膜44bとを交互に積層した構成であることから、GeTe膜44aとSbTe膜44bとの境界では、Ge原子、Sb原子、及びTe原子が存在することになる。こうした境界では、GeTe膜44aを構成するTe原子44TとGe原子44Gとのうち、Ge原子44Gのみが上記下部電極43と上部電極との間に印加される電圧に基づく熱エネルギーによって移動することによって、Ge原子、Sb原子、及びTe原子によって形成される化合物の相が可逆的に変化する。より詳細には、Ge原子、Sb原子、及びTe原子によって形成されるGeSbTe化合物は、比較的高温で短時間加熱された後に急冷されることによって、図2(b)に示されるアモルファス相となる一方、比較的低温で長期間加熱された後に穏やかに冷却されることによって、図2(c)に示される結晶相となる。このような熱処理によってアモルファス相あるいは結晶相となったGeSbTe化合物は、例えば20℃から25℃程度の室温においては、アモルファス相及び結晶相のいずれの状態であっても該状態に維持される。
【0054】
しかしながら、上述のようなGeTe膜44aとSbTe膜44bとの境界におけるGeSbTe化合物の相変化は、単にGeTe膜44aとSbTe膜44bとを交互に積層するのみでは、積層体44、言い換えれば基板Sの面内において均一に生じにくいことを本願発明者らは見出した。つまり、本願発明者らは、積層体44を構成するGeTe膜44aとSbTe膜44bとの全てが、成膜時に基板Sの面内において均一な面方位、特に[111]配向の結晶から形成されていないと、該積層体44における相変化も成膜後に基板の面内において均一に生じにくいことを見出した。加えて、本願発明者らは、GeTe膜44aとSbTe膜44bとの境界におけるGeSbTe化合物の相変化は、上記スパッタ装置10を用いてGeTe膜44a及びSbTe膜44bを形成している途中にあっても発現されることも見出した。
【0055】
この点、本実施形態では、スパッタ装置10において積層体44を形成するときに、基板ステージ13によって基板Sを吸着且つ加熱した状態で、回転部18によって基板ステージ13を回転させながら、上記ターゲット22a,22bをスパッタすることによってGeTe膜44a及びSbTe膜44bの各々を形成するようにしている。
【0056】
そのため、基板Sの位置が固定されている構成と比較して、基板表面に到達するスパッタ粒子の数量が基板の面内で均一になる。加えて、基板ステージ13が基板Sを吸着していない構成と比較して、基板表面の温度が基板Sの面内で均一になる。それゆえに、基板表面から与えられるスパッタ粒子あたりの熱が基板Sの面内で均一となる。つまり、GeTe膜44a及びSbTe膜44bの組成や相構造が均一に保たれやすくなる。その結果、GeTe膜44a及びSbTe膜44bは、均一な面方位に成長しやすくなる。これにより、各膜を構成する結晶の配向が[111]配向にそろった結晶相として上記積層体44を形成することができる。
【0057】
次に、基板Sの面内における温度ばらつきと、積層体44を構成する結晶の面方位との関係について図3を参照して説明する。なお、本実施形態では、積層体44を構成する結晶の面方位をX線回折(XRD)にて解析している。また、XRDにおけるピークの強度は、回折角に該当する面方位に配向性を有する結晶粒の体積に比例する。そこで、本実施形態では、[111]配向を主相とし、他を異相とするとともに、主相に配向した結晶が積層体44を構成する結晶の95%を超える場合、つまり主相に該当するピークの強度が、異相に該当するピークの強度の20倍以上である場合に、積層体44、つまりは積層体44を構成する各膜の面方位が略均一であるものと見なす。
【0058】
図3に実線で示されるように、基板Sの面内における温度のばらつきが−10℃以上且つ+10℃以下であるとき、つまり、基板ステージ13の載置面13aに対して基板Sを静電吸着するときには、基板Sの全体において、主相のピーク強度が異相のピーク強度の20倍よりも大きいことが認められた。これに対し、図3に破線で示されるように、基板Sの面内における温度のばらつきが−20℃以上且つ+20℃以下であるとき、つまり、基板ステージ13の載置面13aに対して公知のメカニカルチャックを用いて機械的に保持するときには、基板Sの中心からの距離が50mmを超えない範囲でのみ、主相のピーク強度が異相のピーク強度の20倍以上であることが認められた。なお、図3に示されるXRDによる解析がなされた積層体44は、直径300mmの基板Sを基板ステージ13における設定温度を250℃とした上で、基板Sをその周方向に毎分100回の速度で回転させつつ形成したものである。
【0059】
積層体44の形成時における基板Sの回転速度と、積層体44を構成する結晶の面方位との関係について図4を参照して説明する。図4に示されるように、基板Sの回転速度が毎分60回転以上であるときには、基板Sの全体において、主相のピーク強度が異相のピーク強度の20倍よりも大きいことに加え、基板Sの回転速度が高い程、ピーク強度比の平均値が大きいことが認められた。これに対し、基板Sの回転速度が毎分60回転よりも低いときには、基板Sの中心側においてのみ主相のピーク強度が異相のピーク強度の20倍以上であることが認められた。より詳細には、基板Sの回転速度が毎分40回転であるときには、基板Sの中心からの距離が60mm以内であるときに、他方、基板Sの回転速度が毎分20回転であるときには、基板Sの中心からの距離が40mm以内であるときに、主相のピーク強度が異相のピーク強度の20倍以上であることが認められた。なお、図4に示されるXRDによる解析がなされた積層体44は、直径300mmの基板Sを基板ステージ13によって吸着し、且つ設定温度を250℃とした上で形成したものである。
【0060】
このように、上記積層体44の形成時には、基板ステージ13によって基板Sを静電吸着しつつ加熱することによって、基板Sの面内における温度のばらつきを−10℃以上+10℃以下とするとともに、回転部18による基板Sの回転数を毎分60回転以上毎分250回転以下とすることが好ましい。これにより、積層体44を構成するGeTe膜44a及びSbTe膜44bの各々を形成する結晶の面方位を[111]配向にそろえることが、基板Sの全体において可能となる。
[実施例]
[実施例1]
直径300mmのシリコン基板上に、以下の条件にてGeTe膜とSbTe膜とを交互に10層ずつ形成した。
○GeTe膜
・ターゲット GeTeターゲット(直径125mm)
・供給電力 500W
・アルゴンガス流量 50sccm
・真空槽内圧力 0.5Pa
・基板設定(載置面)温度 250℃
・基板温度ばらつき ±10℃(静電吸着)
・基板回転数 毎分100回転
・膜厚 10nm
○SbTe
・ターゲット SbTeターゲット(直径125mm)
・供給電力 500W
・アルゴンガス流量 50sccm
・真空槽内圧力 0.5Pa
・基板設定(載置面)温度 250℃
・基板温度ばらつき ±10℃
・基板回転数 毎分100回転
・膜厚 10nm
【0061】
[比較例1]
直径300mmのシリコン基板上に、GeTe膜とSbTe膜とを交互に10層ずつ形成した。なお、成膜条件としては、基板温度のばらつきが±20℃である点と、基板回転数が毎分20回転である点を除き、上記実施例1と同一の条件とした。また、基板は、公知のメカニカルチャックによって基板ステージの載置面に保持した。
[比較例2]
直径300mmのシリコン基板上に、以下の条件にて単一のGeSbTe膜を形成した。
・ターゲット GeSbTeターゲット(直径125mm)
・供給電力 500W
・アルゴンガス流量 50sccm
・真空槽内圧力 0.5Pa
・基板設定(載置面)温度 250℃
・基板温度ばらつき ±10℃(静電吸着)
・基板回転数 毎分0回転
・膜厚 200nm
図5には、上記実施例1、比較例1、及び比較例2の条件で形成された金属カルコゲン膜をXRDによって解析した結果が示されている。なお、図5におけるピークAは、[111]配向を示すピーク、ピークBは[200]配向を示すピーク、ピークCは[220]配向を示すピーク、ピークDは[222]配向を示すピークである。
【0062】
図5に示されるように、実施例1の条件で形成された積層体1を形成する結晶のほとんどが[111]配向であり、その他の配向性を有した結晶はほとんど形成されていないことが認められた。これに対し、比較例1の条件で形成された積層体2には、[111]配向の結晶が含まれるものの、[200]配向の結晶も同程度含まれているとともに、[220]配向及び[222]配向の結晶が含まれていることも認められた。また、比較例2の条件で形成された従来の金属カルコゲナイド膜には、[111]配向の結晶がほとんど含まれず、[200]配向の結晶及び[220]配向の結晶が大部分を占めていることが認められた。加えて、従来の金属カルコゲナイド膜には、[222]配向の結晶も含まれていることが認められた。
【0063】
上記実施例1、及び比較例1、及び比較例2と同様の条件にて形成した金属カルコゲナイド膜を用いた相変化メモリを作成し、各々におけるアモルファスの状態から結晶の状態に相変化するまでの時間であるセット時間と、結晶の状態からアモルファスの状態に相変化するまでの時間であるリセット時間とを測定した。この測定結果を以下の表1に示す。
【0064】
【表1】

表1に示されるように、実施例1の条件で形成された積層体1を用いた相変化メモリによれば、比較例1及び比較例2の条件で形成された積層体2あるいは従来の金属カルコゲナイド膜を用いた相変化メモリと比較して、セット時間、及びリセット時間のいずれもが短縮された。
【0065】
以上説明したように、本実施形態の相変化メモリの形成装置、及び相変化メモリの形成方法によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
【0066】
(1)スパッタ装置10が、基板Sの吸着及び加熱を行う基板ステージ13と、基板ステージ13を回転させる回転部18とを備えている。そして、スパッタ装置10は、基板ステージ13によって基板Sを吸着且つ加熱した状態で、回転部18によって基板ステージ13を回転させながら、GeTe膜44aとSbTe膜とを交互に積層するようにしている。そのため、GeTeターゲット22a及びSbTeターゲット22bから放出されたスパッタ粒子の数量の分布は、これらターゲット22a,22bと基板Sとの相対的な位置が基板Sの面内で固定されている場合と比較して、基板Sの面内において均一になる。加えて、基板Sにおける温度の均一性は、基板ステージ13が基板Sを吸着していない構成と比較して、基板Sの面内において高められる。それゆえに、基板Sの表面に到達するスパッタ粒子の単位面積あたりの数量の均一性は、基板Sの面内で高くなる。つまり、GeTe膜44a及びSbTe膜44bの組成が面内で均一となる。また、基板Sの表面からスパッタ粒子に与えられる熱エネルギーの単位面積あたりの大きさも、基板Sの面内で高くなる。このような構成であれば、温度の変動によって結晶構造の大きな変化を伴うGeTe膜44a及びSbTe膜44bであっても、基板S上に形成されたGeTe膜44a及びSbTe膜44bの結晶構造が、均一に保たれやすくなる。その結果、GeTe膜44a及びSbTe膜44bは、均一な面方位に成長しやすくなる。したがって、GeTe膜44a及びSbTe膜44bの積層体44を有する相変化メモリでは、GeTe膜44aとSbTe膜44bとの境界における相変化が生じやすくなり、ひいては、相変化メモリにおける読み書き動作の速度を高めることができるようになる。
【0067】
(2)基板ステージ13の載置面13aに基板Sを静電吸着するようにしている。そのため、載置面13aに接触する基板Sの領域を大きくすることができる。それゆえに、基板Sの面内における温度のばらつきを抑えることができることから、積層体44を有する相変化メモリの読み書き速度がより確実に高められるようになる。
【0068】
(3)スパッタ装置10は、GeTeターゲット22aとSbTeターゲット22bとの間でスパッタ対象を切り替える際には、切り替え期間を置くとともに、該切り替え期間にて、スパッタ対象になるターゲットを露出させ、且つそれ以外のターゲットを覆うシャッタを備えている。そのため、GeTeターゲット22aとSbTeターゲット22bとからスパッタされた粒子が、切り替え期間とその次の切り替え期間とに挟まれたスパッタ期間によって形成される単一の膜内にて混在することを抑えることができる。それゆえに、GeTeターゲット22aのスパッタにより形成された膜と、SbTeターゲット22bのスパッタにより形成された膜との境界では、GeとSbTeとの比を「Ge:Sb:Te=2:2:5」とすることができる。その結果、膜の境界において安定な組成のGeSbTe構造を形成することができることから、該GeSbTe構造における熱による相変化も安定に行うことができる。
【0069】
(4)基板ステージ13は、GeTeターゲット22aあるいはSbTeターゲット22bをスパッタする期間での載置面13aの温度と、切り替え期間での載置面13aの温度とが等しくなるように、載置面13aを温調する。そのため、切り替え期間における基板温度の変化が抑えられる。それゆえに、温度変化に基づいてGeTe膜44aとSbTe膜44bとの境界において結晶構造が変化することを抑えられ、ひいては、GeTeターゲット22aからスパッタされた粒子とSbTeターゲット22bからスパッタされた粒子とが、GeTe膜44aとSbTe膜44bとの界面にて混ざることを抑えることが可能である。
【0070】
(5)基板ステージ13は、基板Sの面内における温度のばらつきを−10℃以上+10℃以下とする。また、回転部18は、こうした基板ステージ13を毎分60回以上250回以下の速度で回転させる。そのため、金属カルコゲン膜であるGeTe膜44aとSbTe膜44bとを形成する結晶の面方位の均一性が、より確実に高められるようになる。ひいては、該金属カルコゲン膜の積層構造を備える相変化メモリの読み書き速度がより確実に高められるようになる。
【0071】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
【0072】
・交互に10層ずつ積層されたGeTe膜44aとSbTe膜44bとによって積層体44を構成するようにした。これに限らず、GeTe膜44a及びSbTe膜の積層数は任意に変更可能である。
【0073】
・GeTeターゲット22a及びSbTeターゲット22bは、基板ステージ13の載置面13aと略平行をなすように配置したが、載置面13aの法線方向に対して所定の角度を有するように配置してもよい。
【0074】
・希ガス供給部32は、スパッタガスとしてアルゴンガスを供給するようにしたが、アルゴン以外の希ガス、例えばヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、クリプトン(Kr)ガス、及びキセノン(Xe)ガスを供給するようにしてもよい。
【0075】
・GeTeターゲット22a及びSbTeターゲット22bのスパッタ時に、添加ガス供給部33から添加ガスである窒素ガスや酸素ガスを供給するようにしてよい。
【0076】
・スパッタ装置10は、添加ガス供給部33を有していない構成であってもよい。
【0077】
・GeTeターゲット22a及びSbTeターゲット22bのスパッタ時には、直流電源25から各ターゲット22a,22bに直流電圧を印加するようにしてもよい。あるいは、高周波電源24からの高周波電圧と、直流電源25からの直流電圧との両方から同時に電圧を印加するようにしてもよい。
【0078】
・第1スイッチSWa及び第2スイッチSWbのいずれもが高周波電源24と接続されていない状態で、シャッタ26の開口から露出するターゲットの切り替えを行うようにした、これに限らず、高周波電源24との接続を一方のスイッチから他方のスイッチへ切り替えた後に、シャッタ26の開口から露出するターゲットを切り替えるようにしてもよい。要は、GeTeターゲット22aの表面と、SbTeターゲット22bの表面とが同時にスパッタされないように、スイッチSWa,SWbの切り替えとシャッタ26の切り替えとを行うようにすればよい。
【0079】
・上記ターゲット22a,22bには、炭素(C)、ケイ素(Si)アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、リン(P)、ヒ素(As)、銀(Ag)、インジウム(In)等の元素が添加されていてもよい。
【0080】
・基板Sの直径は300mmに限らず、他の大きさの基板を用いるようにしてもよい。どのような大きさの基板Sを用いるようにしても、基板Sを吸着且つ加熱しつつ、該基板Sをその周方向に回転させる以上、基板S上に形成されるGeTe膜44a及びSbTe膜44bを形成する結晶の面方位をそろえやすくすることができる。
【0081】
・温度ばらつきが−10℃以上+10℃以下の範囲に含まれず、且つ、基板Sの回転速度が毎分60回転以上250回転以下の範囲に含まれなくとも、基板Sの吸着、加熱、及び回転をGeTe膜44a及びSbTe膜44bの形成時に行うようにすれば、これら膜44a,44bを形成する結晶における面方位の均一化は少なからず図られる。つまり、温度ばらつきの範囲及び回転速度の範囲が上述の好ましい範囲に含まれなくとも、基板を回転させ、吸着させ、加熱する以上、これらのいずれかが欠けた構成と比較して、上記膜44a,44bを形成する結晶における面方位の均一化を図ることが可能である。
【0082】
・GeTe膜44aとSbTe膜44bとを交互に積層することによって、これら膜の境界にGeSbTe化合物が形成されるようにした。これに限らず、互いに異なる組成を有した金属カルコゲナイド膜の境界に、AgInSbTe化合物が形成される、あるいはGeCuTe化合物が形成されるように、二つの金属カルコゲナイドターゲットを構成するようにしてもよい。この場合、金属カルコゲナイドターゲットの組み合わせとしては、例えばAgInTeターゲットとAgSbTe2ターゲットとの組み合わせ、あるいはGeTeターゲットとCuTeターゲットとの組み合わせを採用することができる。
【0083】
・上記切り替え期間を設けることなく、スパッタ対象のターゲットを変更する際に、GeTeターゲット22aの表面と、SbTeターゲット22bとの両方がスパッタされる期間が存在してもよい。こうした構成であっても、これらターゲット22a,22bをスパッタするときに、基板ステージ13によって基板Sを吸着且つ加熱しつつ、該基板Sをその周方向に回転させた状態でGeTe膜44aとSbTe膜44bとを形成する以上、上記(1)及び(2)に準ずる効果を得ることができる。
【0084】
・GeTeターゲット22a及びSbTeターゲット22bをスパッタするときと、スパッタ対象の切り替え期間とで、基板ステージ13の載置面13aの温度が等しくなるように該載置面13aの温度を調節するようにした。これに限らず、GeTe膜44aとSbTe膜44bとの境界に形成されるGeSbTe化合物において結晶相からアモルファス相への変化が起こらない範囲であれば、載置面13aの温度が変化してもよい。
【0085】
・スパッタ装置10が、シャッタ26を有していなくともよい。こうした構成であっても、上記ターゲット22a,22bをスパッタするときに、基板ステージ13によって基板Sを吸着且つ加熱しつつ、該基板Sをその周方向に回転させた状態でGeTe膜44aとSbTe膜44bとを形成する以上、上記(1)及び(2)に準ずる効果を得ることができる。
【0086】
・基板Sを基板ステージ13の載置面13aに静電気力によって吸着するようにしたが、例えば真空吸着等の他の吸着方法によって、基板Sの吸着を行うようにしてもよい。
【0087】
・スパッタ装置10は、GeTeターゲット22aとSbTeターゲット22bとの二つの金属カルコゲナイドターゲットを有するようにしたが、三以上の金属カルコゲナイドターゲット、例えばGeTeターゲット、SbTeターゲット、及びGeSbターゲットを有するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10…スパッタ装置、11…真空槽、11a…排気口、11b…ガス供給口、12…上蓋、12a…絶縁材、13…基板ステージ、13a…載置面(加熱面)、14…チャック電極、15…チャック電源、16…ヒータ、17…ヒータ電源、18…回転部、21a…第1バッキングプレート、21b…第2バッキングプレート、22a…GeTeターゲット(第一のターゲット)、22b…SbTeターゲット(第二のターゲット)、23a…第1磁石ユニット、23b…第2磁石ユニット、24…高周波電源、25…直流電源、26…シャッタ、31…排気部、32…希ガス供給部、33…添加ガス供給部、41,51…層間絶縁膜、42,52…断熱層、43,53…下部電極、44…金属カルコゲナイド積層体、44a…GeTe膜、44b…SbTe膜、44G…ゲルマニウム原子、44T…テルル原子、50…相変化メモリ、54…金属カルコゲナイド膜、55…上部電極、S…基板、SWa…第1スイッチ、SWb…第2スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を基板上にて積層することによって相変化メモリを形成する相変化メモリの形成装置であって、
互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイドターゲットの各々を希ガスでスパッタするスパッタ源と、
前記基板を加熱する加熱面を有して前記基板を該加熱面に吸着しながら加熱する基板ステージと、
前記基板ステージを前記基板の周方向に回転させる回転部とを備え、
前記基板ステージが前記基板を吸着且つ加熱した状態で、前記回転部が前記基板ステージを回転させつつ、前記スパッタ源が前記二つ以上の金属カルコゲナイドターゲットの各々を互いに異なるタイミングでスパッタすることにより、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を前記基板上にて積層する
ことを特徴とする相変化メモリの形成装置。
【請求項2】
前記基板ステージは、前記加熱面における静電気力によって前記基板を吸着する
請求項1に記載の相変化メモリの形成装置。
【請求項3】
前記二つ以上のカルコゲナイドターゲットは、GeTeからなる第一のターゲットとSbTeからなる第二のターゲットから構成され、
前記スパッタ源は、スパッタ対象を前記第一のターゲットと前記第二のターゲットとに交互に切り替えるとともに、スパッタ対象を切り替える際には、切り替え期間を置き、
前記切り替え期間にて、スパッタ対象になるターゲットを露出させ、且つ該ターゲット以外のターゲットを覆うシャッタをさらに備え、
前記基板ステージは、前記スパッタ源がターゲットをスパッタする期間での前記加熱面の温度と、前記切り替え期間での前記加熱面の温度とが等しくなるように、前記加熱面を温調する
請求項1又は2に記載の相変化メモリの形成装置。
【請求項4】
前記基板の直径は、150mm以上300mm以下であり、
前記基板の面内における温度のばらつきは、−10℃以上+10℃以下であり、
前記基板ステージの回転速度は、毎分60回以上毎分250回以下である
請求項3に記載の相変化メモリの形成装置。
【請求項5】
互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を基板上にて積層することによって相変化メモリを形成する相変化メモリの形成方法であって、
前記基板を基板ステージの加熱面に吸着しながら該加熱面で加熱し、且つ前記基板ステージを回転させつつ、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイドターゲットの各々を互いに異なるタイミングで希ガスによりスパッタして、互いに異なる組成を有した二つ以上の金属カルコゲナイド膜を前記基板上にて積層する
ことを特徴とする相変化メモリの形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−219330(P2012−219330A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86393(P2011−86393)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】