説明

真空処理装置

【課題】 基板への膜の形成直後に即座に検査することにより、膜の不良を早期に検出できるとともに、長期間、安定して正確な検出精度を得ることが可能な真空処理装置を提供する。
【解決手段】 受渡ホルダ60によって、基板2が成膜処理室側に受け渡され、スパッタリングによる成膜処理が施された後、再びロードロック室30側に戻される。支持部材51を上昇させることにより、受渡ホルダ60上の基板2を、支持部材51と搬送ホルダ42との間に挟持し、機械的チャック42aによって基板2の中心孔を係止する。光学式透過率センサの発光部71から出射したレーザ光を、窓部42b,51a,1bを介して受光部72が受光することによって、基板2上の膜の透過率が検出され、その結果に応じて、不良品として廃棄されるか、その後のディスク製造工程に進むかが判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、真空中で、スパッタリングにより基板表面に成膜処理を施すための真空処理装置に係り、特に、成膜の検査手法に改良を施した真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、記録媒体の大容量化の要請が高い。例えば、光ディスクにおいては、記録用のピットを小さくすることによって、記録密度を向上させることができる。さらに、最近では、デジタルバーサタイルディスク(以下、DVDと称する)の一種であるDVD−9やDVD−18のように、記録面を多層に形成することによって大容量化を図った光ディスクが開発されている。ここで、DVD−9は、記録面を2層として片面からのみ情報の読み出しが可能なディスクであり、DVD−18は、両面に2層ずつ合計4層の記録面を有し、両面からの情報の読み出しが可能なディスクである。
【0003】
このような光ディスクの情報記録面には、金属膜が形成されており、その情報の読み取りは、半導体レーザからのレーザビームを、対物レンズによって絞って記録層に照射し、その反射光を検出器で受光することによって行なわれる。そして、多層のディスクにおいては、レーザビームの反射率の異なる反射膜と半透明膜を組み合わせることによって記録層を構成し、焦点の異なるレーザビームを使い分けて読み取りを行なっている。例えば、DVD−9を生産する場合には、一方の記録層としては、Au,Si,Agなどによって半透明膜を形成し、他方の記録層としては、Al,Agなどによって反射膜を形成している。
【0004】
このような記録層の成膜を行なう装置の一つとして、スパッタリング装置があり、その代表例としてはプレーナ型マグネトロンスパッタリング装置が挙げられる。プレーナ型マグネトロンスパッタリング装置においては、高周波電力の供給によって、真空状態下の放電で発生したイオン(例えばアルゴンイオン)を、陰極であるターゲットに衝突させ、ターゲットを構成する粒子をスパッタリングによって放出させる。基板は、ターゲットに離間対向して配置されるとともに、陽極を構成しており、ターゲットから放出された粒子が基板の表面に堆積することにより、成膜処理が施される。
【0005】
かかるスパッタリング装置を備えた真空処理装置の一例を、図6を参照して具体的に説明する(例えば、特許文献1参照)。すなわち、装置本体1は、真空処理室としてのスパッタ室3と、このスパッタ室3へ基板2の出し入れを行なうロードロック室4とを有している。スパッタ室3は、支持部材6、外周マスク7、上蓋8、内周マスク9及びターゲット10等を備えている。
【0006】
ロードロック室4は、大気側に配置された搬送装置20,21から搬送された基板2を受け取り、リフト12により上下動する支持部材13と、支持部材13が受け取った基板2が載置され、これを支持部材6に渡す環状のホルダ14a,14b等により構成されている。なお、図5において、15はロードロック室4を閉じる上蓋、16は基板2を保持する機械的チャックである。
【0007】
以上のような真空処理装置においては、ロードロック室4から、ホルダ14bを介してスパッタ室3に搬送された基板2が、支持部材6上に載置されて押し上げられ、室内が所定の真空度に達したら、装置を作動して、図示しない高周波電源からの電力供給によって、上述のようにターゲット10から微粒子を放出させ、基板2の表面に被膜を形成する。その後、ホルダ14aにおける基板2についても同様の処理が行なわれるとともに、成膜後の基板2は、ホルダ14aを介してロードロック室4に戻され、搬送装置20によって搬出される。
【0008】
【特許文献1】特開平11−50253号公報
【特許文献2】特開平5−33132号公報
【特許文献3】特開平5−315266号公報
【特許文献4】特開平6−2147号公報
【特許文献5】特開平7−34247号公報
【特許文献6】特開平7−86258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のように、多層構造の光ディスクにおける半透明膜は、レーザビームの一部を透過し、残りを反射する必要がある。しかし、この半透明膜の膜厚にばらつきがあっては、所定の特性が得られなくなってしまう。これに対処するため、ディスク完成後に、膜厚を検査することが考えられるが、かかる時点で膜厚の不良が検出された場合には、既に完成されたディスクを廃棄することになり、材料コストや製造効率において無駄が多い。
【0010】
これに対処するため、成膜処理室に観測用の窓を設け、この窓を通して、成膜対象を監視する技術が、特許文献2〜6に開示されている。しかしながら、成膜処理室内は、上記のように真空放電、ターゲット粒子の放出等が発生する空間であるため、かかる空間において、例えば、光源からの光の反射により膜圧を正確に検出することは困難である。また、成膜処理室は、成膜のための構造を有しているため、それぞれの部材の理想的な配置を阻害しないように、窓やセンサ等の膜圧を検出する部材を配設することは容易ではない。特に、基板へ照射した光の所定の角度での反射光を受光することにより、膜圧を検出しようとする場合には、正確な位置に発光部及び受光部を設置することが難しい。さらに、ターゲット材料等の堆積により、窓の透過状態が劣化するため、長期間、安定して正確な検出状態を維持することはより一層困難となる。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、基板への膜の形成直後に即座に検査することにより、膜の不良を早期に検出できるとともに、長期間、安定して正確な検出精度を得ることができる真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような目的を達成するため、請求項1の発明は、真空とすることが可能な真空室に、基板への成膜を行なう成膜処理室と、前記成膜処理室への基板の出し入れを行なうロードロック室とが設けられ、前記ロードロック室内に、成膜後の基板を保持する保持手段が配設され、前記ロードロック室外に、前記保持手段に保持された基板の膜に対して、その光の透過率を検出する光学式透過率センサが配設され、前記ロードロック室には、前記光学式透過率センサからの光を透過する部材から成る窓部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
以上のような請求項1の発明では、成膜後の基板の膜を、真空のロードロック室中にある状態で、検出手段によって即座に検査するので、膜の不良を早期に検出することができ、完成後のディスクを廃棄する場合に比べて、コスト節約や製造効率の向上につながる。そして、大気中のゴミ等の付着による影響もない。また、真空放電、ターゲット粒子の放出等が発生する成膜処理室ではなく、ロードロック室において膜を検出するので、正確な検出が可能となる。また、検査のための構成が、成膜処理のための構成を妨げることがないため、センサ配置等の自由度が高い。特に、光学式透過率センサがロードロック室外に設けられているので、ロードロック室の容積を極力小さくすることができる。このため、成膜処理室への基板の出し入れ時に、ロードロック室の真空状態を短時間で切り替えることができ、製造効率を高めることができる。さらに、ロードロック室では成膜処理は行われないので、窓部の透過状態が劣化することはなく、長期間、安定して正確な検出状態を維持できる。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の真空処理装置において、前記窓部は、前記保持手段に保持された基板を挟んで対向する位置に設けられ、前記光学式透過率センサは、前記窓部近傍であって、前記ロードロック室を挟んで対向する位置にそれぞれ配設された発光部と受光部とを有していることを特徴とする。

以上のような請求項2の発明では、基板を間にして、発光部と受光部を対向する位置に設ければよいので、高い配置精度を必要としなくとも、正確な検出が可能となる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の真空処理装置において、前記検出手段からの検出値に基づいて、成膜条件を制御する制御装置を備えたことを特徴とする。
以上のような請求項3の発明では、基板に対する成膜結果に応じて、成膜条件を変更し最適化することにより、不良品の発生率を低減できる。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように、本発明によれば、基板への膜の形成直後に即座に検査することにより、膜の不良を早期に検出できるとともに、長期間、安定して正確な検出精度を得ることが可能な真空処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態(以下、実施形態と呼ぶ)について、図面を参照して具体的に説明する。
〔実施形態の構成〕
まず、実施形態の構成を説明する。本実施形態は、基本的には、上述の従来技術で示した真空処理装置と同様の構成を有している。但し、図1〜4に示すように、ロードロック室30を構成する部材が、従来技術と異なる特徴を有している。すなわち、基板2を搬送するための搬送装置40には、駆動装置41によって昇降可能な搬送ホルダ42が設けられている。搬送ホルダ42は、その中心に、基板2の中心孔に係脱する機械的チャック42aが設けられている。この機械的チャック42aは、弾性部材によって、基板2の中心孔を係止する方向に付勢されている。
【0018】
この搬送ホルダ42の下方には、図示しないリフトにより昇降する支持部材51と、基板2を成膜処理室に受け渡す受渡ホルダ60が設けられている。これらの支持部材51、搬送ホルダ42、受渡ホルダ60と、装置本体1の一部との間によって、ロードロック室30が構成されている。そして、装置本体1には、図示しない真空源に接続された排気口1aが形成されている。また、これらの部材間には、ロードロック室30を密閉するために、Oリング50が配設されている。
【0019】
さらに、装置本体1におけるロードロック室30の外部には、光学式透過率センサ70が固定されている。この光学式透過率センサ70は、レーザ光の発光部71と受光部72とが、ロードロック室30を挟んで上下に配設されたものであり、発光部71からのレーザ光の透過率を受光部72で検出することによって、図示しない測定装置において成膜不良か否かを判定するものである。このように、レーザ光による検出が可能となるように、搬送ホルダ42、支持部材51及び装置本体1の一部には、それぞれ密閉を保ちつつレーザ光を透過する透明な材料によって、窓部42b,51a,1bが設けられている。
【0020】
〔実施形態の作用〕
以上のような本実施形態の作用は、以下の通りである。まず、図1に示すように、真空処理装置内への基板2の導入時には、支持部材51が受渡ホルダ60に接する位置まで上昇しており、Oリング50によって密閉されているので、真空である成膜処理室への空気の侵入が防止されている。成膜対象となる基板2は、真空処理装置の外部において、搬送ホルダ42の機械的チャック42aによって係止され、支持部材51の上部に搬送される。そして、図2に示すように、駆動装置41によって搬送ホルダ42を下降させると、装置本体1との間がOリング50によって密閉される。この時、機械的チャック42aは、支持部材51によって、弾性部材の付勢力に抗する方向に相対的に付勢され、基板2の中心孔を解放する。
【0021】
ここで、真空源を作動させて排気口1aから排気することによって、ロードロック室30内を真空とする。そして、図3に示すように、リフトにより支持部材51を下降させると、受渡ホルダ60上に、基板2が載置される。この受渡ホルダ60が回動することによって、基板2が成膜処理室側に受け渡され、スパッタリングによる成膜処理が施された後、再びロードロック室30側に戻される。なお、搬送ホルダ42と装置本体1との間はOリング50によって密閉されているので、内部の真空状態は維持されている。
【0022】
そして、図4に示すように、支持部材51を上昇させると、受渡ホルダ60上の基板2は、支持部材51と搬送ホルダ42との間に挟持され、機械的チャック42aによって基板2の中心孔が係止される。この状態で、光学式透過率センサの発光部71から出射したレーザ光を、窓部42b,51a,1bを介して受光部72が受光することによって、基板2上の膜の透過率が検出され、その結果に応じて、不良品として廃棄されるか、その後のディスク製造工程に進むかが判定される。
【0023】
さらに、図1に示すように、排気口1aから大気導入の後、駆動装置41によって搬送ホルダ42を上昇させると、装置本体1との間が開放される。そして、機械的チャック42aに係止された基板2は、搬送ホルダ42の移動とともに外部へ搬送される。この時、支持部材51は受渡ホルダ60まで上昇しており、Oリング50によって密閉されているので、真空の成膜処理室への空気の侵入が防止される。
【0024】
〔実施形態の効果〕
以上のような本実施形態によれば、成膜後の基板2の膜を、真空のロードロック室30中にある状態で、光学式透過率センサ70によって即座に検査するので、成膜不良を早期に検出することができ、完成後のディスクを廃棄する場合に比べて、コスト節約や製造効率の向上につながる。そして、大気中のゴミ等の付着による影響もない。
【0025】
また、真空放電、ターゲット粒子の放出等が発生する成膜処理室ではなく、ロードロック室30において膜を検出するので、正確な検出が可能となる。そして、検査のための構成が、成膜処理のための構造を妨げることがないため、部材配置等の自由度が高い。特に、光学式透過率センサ70が、ロードロック室30外に設けられているので、ロードロック室30の容積を極力小さくすることができる。このため、成膜処理室への基板の出し入れ時に、ロードロック室30の真空状態を短時間で切り替えることができ、製造効率を高めることができる。
【0026】
また、成膜による窓部42b,51a,1bの劣化がないため、長期間、安定した正確な検出状態を維持できる。さらに、発光部71と受光部72を、ロードロック室30を挟んで対向する位置に設けるだけでよいため、高い配置精度を必要としなくとも、簡易な構造によって、正確な検出が可能となる。
【0027】
〔他の実施形態〕
本発明は上記のような実施形態に限定されるものではない。すなわち、検出手段の種類、配置位置、数等は、上記の実施形態には限定されない。例えば、窓部の一方に配設した反射型の光学式センサによって、透過率を検出してもよい。また、小型のセンサをロードロック室内若しくは成膜処理室とロードロック室との間に配設してもよい。さらに、本発明の対象となる基板及びこれによって製造されるディスクは、その大きさ、形状、材質、記録層の数等は自由であり、検査対象となる膜は、反射膜であっても、半透明膜であってもよい。
【0028】
また、検出手段による検出結果に応じて、スパッタリング条件を制御する構成とすることも可能である。例えば、図5に示すように、上記の実施形態において、光学式透過率センサ70からの出力に応じて高周波電源による供給電力をフィードバック制御する制御装置80を設ける。かかる制御装置80においては、光学式透過率センサ70からの出力に応じて測定装置90から出力されるパラメータが、検出パラメータ入力部81に入力され、条件設定部82に設定された目標値と入力パラメータに基づいて、条件判定部83が適切な制御パラメータを判定し、制御パラメータ出力部84から高周波電源若しくはその制御装置に出力される。
【0029】
これにより、成膜結果に応じて、高周波電源からの供給電力を昇降させて、スパッタリング条件を最適化することができ、不良品の発生率を低減できる。なお、制御対象となるスパッタリング条件としては、基板位置、基板温度、ガス成分比率、ガス圧力等、種々のものが考えられ、これに応じて種々のアクチュエータ等が調整されるものとする。また、制御装置80は、上記の各部の機能を有する専用の回路によっても、上記の各部の機能を実現するプログラムやデータを含むソフトウェアによって動作するコンピュータによっても構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の真空処理装置の基板搬送時を示す縦断面図である。
【図2】図1の真空処理装置のロードロック室封鎖時を示す縦断面図である。
【図3】図1の真空処理装置の基板解放時を示す縦断面図である。
【図4】図1の真空処理装置の膜検査時を示す縦断面図である。
【図5】本発明の真空処理装置の他の実施形態を示す機能ブロック図である。
【図6】従来の真空処理装置の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1…装置本体
1a…排気口
2…基板
3…スパッタ室
4,30…ロードロック室
6,51…支持部材
7…外周マスク
8…上蓋
9…内周マスク
10…ターゲット
12…リフト
13…支持部材
14a,14b…ホルダ
20,21,40…搬送装置
41…駆動装置
42…搬送ホルダ
42a…機械的チャック
42b,51a,1b…窓部
50…Oリング
60…受渡ホルダ
70…光学式透過率センサ
71…発光部
72…受光部
80…制御装置
81…検出パラメータ入力部
82…条件設定部
83…条件判定部
84…制御パラメータ出力部
90…測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空とすることが可能な真空室に、基板への成膜を行なう成膜処理室と、前記成膜処理室への基板の出し入れを行なうロードロック室とが設けられ、
前記ロードロック室内に、成膜後の基板を保持する保持手段が配設され、
前記ロードロック室外に、前記保持手段に保持された基板の膜に対して、その光の透過率を検出する光学式透過率センサが配設され、
前記ロードロック室には、前記光学式透過率センサからの光を透過する部材から成る窓部が設けられていることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記窓部は、前記保持手段に保持された基板を挟んで対向する位置に設けられ、
前記光学式透過率センサは、前記窓部近傍であって、前記ロードロック室を挟んで対向する位置にそれぞれ配設された発光部と受光部とを有していることを特徴とする請求項1記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記検出手段からの検出値に基づいて、成膜条件を制御する制御装置を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−16666(P2006−16666A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195823(P2004−195823)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】