説明

真空吸着装置及びその製造方法

【課題】高平坦なウエハの研削を実現できる真空吸着装置を提供する。
【解決手段】被吸着体を吸着保持するためのセラミックス多孔質体からなる載置部2と、前記載置部の気孔に連通する吸気孔4および/または吸気溝5を有する緻密質セラミックスからなる支持部3とを備える真空吸着装置であって、前記載置部の厚みtが2mm以上、6mm以下である。また、前記吸気孔4の孔径および吸気溝5の溝幅は、載置部厚みtよりも小さく、被吸着体Wを吸着保持した際の載置部の沈み量が3μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハや液晶用ガラス基板の研削加工を行う際に、半導体ウエハ等を吸着保持するための真空吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハを搬送、加工、検査する場合に、真空圧を利用した真空吸着装置が用いられており、均一な吸着を行うために、多孔質体により半導体ウエハの全面を吸着保持する真空吸着装置が検討されている。例えば、多孔質体からなる載置部を緻密質体からなる支持部に樹脂またはガラスなどの接着剤により接合してなり、下方の吸気孔より真空吸引することにより、上記載置部の吸着面に半導体ウエハを固定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭53−090871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス等の接着剤による接合では、接合面を完全に密着させることができず、不可避的に隙間を有していたため、ウエハ等の被吸着体を加工する場合に、多孔質体からなる載置部が隙間部分で撓み変形を起こし、ウエハ等の加工精度の低下を招来していた。このような撓み変形は、多孔質体の厚みが薄くなると顕著になることから、載置部の厚みは、必然的に厚いものが用いられてきた。
【0005】
しかしながら、載置部の多孔質体の厚みが大きいと、たとえ支持部と載置部との接合状態が良好であっても、ウエハ等の被吸着体の真空吸着時に載置面にかかる大気圧や、被吸着体の研削時の砥石押圧により、圧縮変形を起こすため、研削加工精度を高めることができなかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために見出されたものであり、載置部の変形を低減し、ウエハ等の被吸着体を高精度に研削加工できる真空吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明の真空吸着装置は、被吸着体を吸着保持するためのセラミックス多孔質体からなる載置部と、前記載置部の気孔に連通する吸気孔および/または吸気溝を有する緻密質セラミックスからなる支持部とを備える真空吸着装置であって、前記載置部の厚みが2mm以上、6mm以下であることを特徴とする。
【0008】
これにより、真空吸着時の大気圧や、研削砥石の押圧による圧縮変形が低減でき、ウエハ等の被吸着体の研削精度を飛躍的に高めることができる。載置部の厚みを2mm以上としたのは、2mmより小さいと吸気孔や溝部において局部的な撓みが生じてしまうためである。また載置部の厚みを6mm以下としたのは、6mmよりも大きいと上述のように圧縮変形が大きくなるためである。
【0009】
また、本発明は、前記支持部に連通する吸気孔の孔径および吸気溝の溝幅は、載置部厚みよりも小さいことを特徴とする。
【0010】
本発明の真空吸着装置における載置部は、その厚みが小さいため、支持部の吸気孔および吸気溝に連通する部分では局部的に撓み変形を起こし易くなるが、吸気孔の孔径および吸気溝の溝幅を載置部厚みよりも小さくすることで、撓み変形を僅かなものに抑えることができる。したがって、所望の真空吸着力が得られる範囲で、吸気孔の孔径や吸気溝の幅を小さくすることが望ましいが、支持部に対する加工の容易性や強度を考慮すると、吸気孔径および吸気溝幅は0.3mm以上が好ましい。0.3mmより小さくする加工は難しく、支持部に亀裂が生じるおそれもあるからである。なお、吸気孔は真空吸着するために必須であるが、吸気溝は必要に応じて無くすことも可能である。すなわち、十分かつ均一な真空吸着力が得られるのであれば、吸気孔のみでも良い。吸気孔の配置は十分かつ均一な真空吸着力が得られるものであれば良く、特に限定しない。吸気溝形状についても同様であり、同心円を所定間隔で配置したもの、格子状に配置したもの、円と十字を組み合わせたもの等、種々の形状を採用できる。
【0011】
また、本発明の真空吸着装置は、被吸着体を吸着保持した際の載置部の沈み量が3μm以下であることを特徴とする。
【0012】
載置部の厚みを小さくし、かつ、吸気孔および吸気溝による撓み変形の影響を抑えることで、載置部の沈み量を小さくすることができる。本発明の載置部の沈み量は3μm以下とすることが可能であり、その結果ウエハ等の加工精度を高めることができる。
【0013】
また、本発明に係る真空吸着装置は、セラミックス粉末およびガラス粉末に、水またはアルコールを加えて混合してスラリーを調整するスラリー調整工程と、前記スラリーを載置部が形成される凹部を設けた支持部の該凹部に充填するスラリー充填工程と、該凹部にスラリーが充填された支持部をガラスの軟化点以上の温度で焼成する焼成工程と、を含むことを特徴とする製造方法により得られる。
【0014】
従来の支持部と載置部とをガラス等の接着剤により接合する製法では、不可避的に隙間ができ、載置部の撓み変形が生じていた。また、その撓み変形を抑えるために載置部の厚みを大きくせざるを得なかった。しかし本発明では、原料スラリーを支持部の載置部が形成される凹部に直接充填して作製するため、支持部と載置部との接合界面に隙間が生じることはない。そのため載置部の厚みを小さくでき、ウエハ等の研削精度を飛躍的に高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、ウエハ等の被吸着体を真空吸着したときの大気圧や、被吸着体の研削加工時の砥石の押圧による載置部の変形を低減できるため、ウエハ等の研削加工精度を飛躍的に高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る真空吸着装置1の概略構成を示す断面図である。真空吸着装置1は、多孔質体からなる載置部2と、該載置部を支持する緻密質体からなる支持部3と、該支持部に形成された吸気孔4とを具備し、載置部表面全体で吸引するために吸気溝5が設けられており、載置面2a上に、被吸着体Wとして例えば半導体ウエハを載置する。載置部2と支持部3との接合界面には載置部の気孔径を超えるような隙間はなく、多孔質構造が支持部との境界面まで連続した構造を有している。
【0017】
次に、載置面2aは、載置部2と載置部周囲の支持部表面の3aとともに研削加工により形成される。吸気孔4は、載置部の裏面側に支持部3を貫通するように設けられており、吸気孔4を介して図示しない真空ポンプにより吸引することにより、載置面2aに載置された被吸着体である半導体ウエハ等が真空吸着される。
【0018】
緻密質支持部に用いられるセラミックスとしては、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア等が挙げられる。また、載置部はセラミックス粉末とガラス粉末との複合材からなりセラミックス粉末は、熱膨張の観点から緻密質支持部に用いられたセラミックスと同一のものを用いるのが好ましいが、多孔質体全体としての熱膨張が支持部と同等であれば良いので、これに限定されるものではない。
【0019】
ここで、多孔質体からなる載置部の気孔は連通しており、真空吸着力および載置面の面精度の観点から平均気孔径が10〜150μm、開気孔率が20〜50%とすることが好ましく、このような気孔径および開気孔率を得るためには、前記載置部の構成原料であるセラミックス粉末の平均粒径が30μm〜150μmのものを使用することが好ましい。
【0020】
次に、前記載置部の構成成分であるガラスの熱膨張係数が前記支持部および前記載置部のもう一方の構成成分であるセラミックスの熱膨張係数より小さいものを使用することが好ましい。その理由は、低熱膨張のガラスを使用することにより、焼結後の多孔質体と支持部材との界面の隙間をなくすことができ、また、多孔質体において結合材としての役割を有するガラスに圧縮応力が加わった状態が望ましいからである。
【0021】
また、本発明では、前記載置部の構成原料となるガラス粉末の平均粒子径が前記載置部のもう一方の構成原料であるセラミックス粉末の平均粒子径より小さい方が好ましい。その理由は、ガラス粉末の平均粒径がセラミックス粉末よりも大きいと、セラミックス粉末の充填を阻害するため、ガラス軟化点以上で焼結する際に焼成収縮を起こすからである。ガラスの平均粒径は、好ましくは、セラミックス粉末の平均粒径の1/3以下、さらに好ましくは1/5以下が望ましい。
【0022】
添加するガラス粉末の量は、特に限定しないが、ガラス粉末の粒径が大きい場合と同様に大量に添加するとセラミックス粉末の充填を阻害し、焼成収縮を起こすため、少量が望ましい。ただし、少なすぎるとセラミックス粉末の結合強度が低下し、脱粒や欠けの問題が生じるため、結合強度を発揮するような量が必要である。具体的には、目標とする開気孔率、セラミックス粉末の粒度、焼成温度およびガラス粘性等を考慮して調整されるが、概ねセラミックス粉末に対して5%〜30質量%程度添加混合することが望ましい。
【0023】
次に、本発明の真空吸着装置1の製造方法について説明する。はじめに載置部2を形成する多孔質体の原料粉末であるセラミックス粉末およびガラス粉末に、水またはアルコールを加えて混合してスラリーを調整する。原料の混合は、ボールミル、ミキサー等、公知の方法が適用できる。ここで、水またはアルコール量は特に限定しない。セラミックス粉末の粒度、ガラス粉末の添加量を考慮し所望の流動性が得られるよう水またはアルコールの添加量を調整する。
【0024】
次に、CIP成形や鋳込み成形等の公知の成形方法、電気炉焼成やホットプレス等の公知の焼成方法、およびダイヤモンド砥石等による公知の研削加工方法により作製した緻密質セラミックスの支持部3の載置部が形成される凹部(図示せず)に前記スラリーを充填する。この際、必要に応じて、残留気泡を除去するための真空脱泡や、充填を高めるための振動を加えると良い。また、吸気孔4および吸気溝5は、載置部となる混合物を注ぐ前に、ろう、樹脂等の焼失部材により閉塞しておく。
【0025】
次に、凹部にスラリーを充填した支持部を十分に乾燥させた後、ガラスの軟化点以上の温度で焼成する。この際、焼成温度がガラスの軟化点より低いと十分に一体化できないが、反対に焼成温度が高すぎると変形や収縮を起こすため、できるだけ低温で焼成することが望ましい。
【0026】
載置部の焼成後、載置面2aと支持部表面3aとが略同一平面になるように研削加工を行う。このとき載置部の厚みtが2mm以上、6mm以下となるよう調整する。載置面2aおよび支持部表面3aの研削加工はダイヤモンド砥石等の通常用いる研削方法により行うことができる。
【0027】
このような製造方法によれば、載置部と支持部が十分に密着しているため、載置部の多孔質体が薄くても、隙間を原因として多孔質体が撓み変形することはない。さらには、載置部と支持部との接合面を合わせるための加工が不要であるため、支持部となる緻密質焼結体を加工することなくそのまま使用できる。したがって、ウエハの加工精度が向上するだけでなく、真空吸着装置の製造コストを大幅に削減できるという効果がある。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例と比較例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1〜3)アルミナ粉末(平均粒径125μm)、ガラス粉末(ほう珪酸ガラス、平均粒径:20μm、熱膨張係数40×10−7/℃、軟化点800℃)および蒸留水を100:20:20の質量比で混合し、ミキサーを用いて混錬した後、スラリーを外径350mm、高さ20.5mm(凹部内径298mm、深さ2.5、4.5、6.5mm、吸気孔径および吸気溝幅1.5mm)の緻密質アルミナ支持部(熱膨張係数8.0×10−6/℃)に注型し、真空脱泡を行った後、振動を加えて沈降充填させた。100℃で乾燥させた後、1000℃にて焼成した。次に表面をダイヤモンド砥石で研削することにより真空吸着装置の載置面を得た。研削量は、載置部の厚みtが2、4、6mmになるようにそれぞれ調整した。得られた真空吸着装置を使用して、半導体ウエハ(直径300mm、厚さ800μm)を−5kPaの負圧(ゲージ圧)をかけて載置面に密着させた場合と、−50kPa(ゲージ圧)で真空吸着させた場合の載置部厚み方向の変位量(沈み量)を電気マイクロメータにより半導体ウエハ上の任意の73点について測定し、最大値を求めた。実施例1、2及び3(それぞれの載置部厚み2、4及び6mm)のいずれも、上記沈み量の最大値は3μm以下であった。
【0029】
(比較例1)実施例と同等のアルミナ多孔質体を所定形状に加工して載置部(直径298mm)とした後、載置部をアルミナ支持部(外径350mm、高さ20.5mm、凹部内径298mm、深さ4.5mm、吸気孔径および吸気溝幅1.5mm)に挿入し、支持部と載置部とを多孔質体のガラス粉末よりも低軟化点のガラス粉末(ほう珪酸ガラス、平均粒径:20μm、熱膨張係数50×10−7/℃、軟化点650℃)を用いて、800℃でガラス接合した後、実施例と同様に表面研磨により載置面を得た。研削量は、載置部の厚みが4mmになるように調整した。上記実施例と同様に半導体ウエハを真空吸着し、変位量を調べたところ、3μmよりも大きな沈み箇所が見られた。沈み量の多い部分の支持部と載置部の接合部を切断して観察したところ、隙間が見られた。
【0030】
(比較例2〜4)実施例と同様の方法により、載置部の厚み1mmおよび7mmの真空吸着装置(それぞれ比較例2および3;その他の形状は実施例1〜3に同じ)、並びに載置部の厚み4mm、吸気孔および吸気溝幅5mmの真空吸着装置(比較例4;その他の形状は実施例1〜3に同じ)を作製し、同様の評価を行った。載置部厚みよりも吸気孔および吸気溝幅が大きい比較例2および比較例4では、吸気溝のある部分で3μmよりも大きな沈みが見られた。載置部厚み7mmの比較例3では、載置面の大部分で3μmよりも大きい沈み量となった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の真空吸着装置の概略構成を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1;真空吸着装置
2;載置部
2a;載置面
3;支持部
3a;支持部表面
4;吸気孔
5;吸気溝
W:被吸着体
t;載置部厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を吸着保持するためのセラミックス多孔質体からなる載置部と、前記載置部の気孔に連通する吸気孔および/または吸気溝を有する緻密質セラミックスからなる支持部とを備える真空吸着装置であって、前記載置部の厚みが2mm以上、6mm以下であることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項2】
前記吸気孔の孔径および吸気溝の溝幅は、載置部厚みよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の真空吸着装置。
【請求項3】
被吸着体を吸着保持した際の載置部の沈み量が3μm以下であることを特徴とする請求項1、2記載の真空吸着装置。
【請求項4】
セラミックス粉末およびガラス粉末に、水またはアルコールを加えて混合してスラリーを調整するスラリー調整工程と、前記スラリーを載置部が形成される凹部を設けた支持部の該凹部に充填するスラリー充填工程と、該凹部にスラリーが充填された支持部をガラスの軟化点以上の温度で焼成する焼成工程と、を含むことを特徴とする請求項1〜3記載の真空吸着装置の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−28170(P2008−28170A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199433(P2006−199433)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】