説明

真空搬送装置の製造方法及び真空搬送装置

【課題】アームの軽量化を図りつつ、製造工程を簡略化することができる真空搬送装置の製造方法及び真空搬送装置を提供する。
【解決手段】搬送ロボットの製造方法において、アーム本体20を構成する上側板25、下側板26及び環状部材27と、関節軸を支持する各ブシュ21〜23とから中空構造のアーム5を組み立て、上側板25、下側板26及び環状部材27を互いに接合する接合部と、それらの部材と各ブシュ21〜23の接合部とにロウ材を付着させる工程と、組み立てられたアーム5を真空加熱して、ロウ付けする工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空搬送装置の製造方法及び真空搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置等を製造する製造装置には、真空中で所定の処理を施す各処理室等の間で基板等の搬送をおこなう搬送ロボットが備えられている。この搬送ロボットは、基板等を支持する支持部や、この支持部に連結され、モータを駆動源として基板等の搬入・搬出を行うアーム等を備えている。
【0003】
従来より、この搬送ロボットのアームとして、鋳造によりその形状が形成されたアームや、金属ブロック材を切削加工することにより製造されたアームが多く採用されていた。このアームは、加工精度が高いといった利点を有するものの、アーム自体の高重量化が避けられず、駆動時の負荷が過大となる等の問題があった。このため、アルミニウム材等の軽量材を用いることにより、アームの軽量化を図っていた。
【0004】
しかし、材質を変更することによりアームの軽量化を図る場合には、アームの材質が大きな制約を受ける。例えば、アームが高温となるような過酷環境下で搬送ロボットを使用する場合、熱によるアームの伸縮を抑制するために線膨張係数が小さい材質を選択する必要があるが、アルミニウム材は膨張率が高く、軽量且つ低膨張率といった条件を好適に満たす材質を選択することは困難であった。また、軽量化のためにアームの薄肉化を試みても、切削工程では限界があった。
【0005】
一方、中空のパイプ部材を用いることにより軽量化を図るアームも提案されている(例えば、特許文献1参照)。このアームは、パイプ部材とその他の部品をアーク溶接等することにより形成されている。このようなアームは、アルミニウム材等を切削加工したアームに比べ、著しく軽量化を図ることができるといった利点を有する。また、軽量化における材料の制約を受けないため、材料の自由度が向上する。
【特許文献1】特開平11−254374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、アームを構成する上記各部品を溶接にて接合する際、母材自体を高温で融解させるため、接合部の局所的な昇温に起因するアームの歪みが問題となる。アームの歪みが大きいと、関節軸の軸間距離、アーム長等の精度が低下し、搬送ロボットの動作に悪影響を及ぼすことがある。このため、溶接により発生する歪みを考慮して、各部品に切削代(しろ)を予め確保し、溶接後に各部品の位置調整を行う加工を行うことで精度の維持を図っているが、切削代を数ミリ単位で確保しなければならない他、上記加工での切削量が多くなり、手間が掛かる問題があった。また、溶接後の切削量が多い場合、加工面付近の熱膨張を抑制する切削液を使用する必要があるが、切削液を用いると、部品に付着した切削液を除去するための洗浄工程等を行わなければならず、工程数が増加する問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アームの軽量化を図りつつ、製造工程を簡略化することができる真空搬送装置の製造方法及び真空搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、アームを備えた真空搬送装置の製造方法において、複数の構成部材の接合部にロウ材を付着させて中空構造の前記アームを組み立てる工程と、組み立てられた前記アームを真空加熱して、ロウ付けする工程とを有することを要旨とする。
【0009】
この方法によれば、アームを構成する複数のアーム部材が、ロウ付けによって接合される。従って、中空構造にすることによりアームを軽量化しつつ、各構成部材を接合する工程によって、大きな歪みが発生するのを抑制することができる。従って、部材位置の調整等を目的とした、接合後の加工における負荷や工程数を低減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の真空搬送装置の製造方法において、前記構成部材は、アーム本体を構成する複数のアーム部材と、関節軸を支持する関節部材であって、前記アーム部材と前記関節部材とを、同種の材質から形成することを要旨とする。
【0011】
この方法によれば、上記アーム部材と関節部材とが同種の材質から形成される。従って、ロウ付けの際に、アーム全体を加熱しても、各部材で生じる温度差を抑制できるため、局所的な熱膨張を抑制し、歪みの発生を抑制することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の真空搬送装置の製造方法において、ニッケル鍍金が施された金属材からなる前記構成部材の前記接合部を、ニッケルを主成分とするロウ材により接合することを要旨とする。
【0013】
この方法によれば、構成部材は、ニッケル鍍金が施された金属材からなる構成部材の接合部が、ニッケルを主成分とするロウ材により接合される。即ち、当該構成部材に対する濡れ性が高いロウ材を用いることで、接合部にロウ材を広く流動させ、接合部を強固に固定することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の真空搬送装置の製造方法において、ステンレス材からなる前記構成部材の前記接合部を、ニッケルを主成分とするロウ材により接合することを要旨とする。
【0015】
この方法によれば、本体構成部材は、ステンレス材からなり、ニッケルを主成分とするロウ材により接合部が接合される。即ち、当該構成部材に対する濡れ性が高いロウ材を用いることで、接合部にロウ材を広く流動させ、接合部を強固に固定することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、複数のアーム部材から構成されるアーム本体と、関節軸を支持する関節部材とを有する中空構造のアームを備え、前記各アーム部材を互いに接合する接合部と、前記アーム部材と前記関節部材の接合部とがロウ材によって接合されていることを要旨とする。
【0017】
この構成によれば、真空搬送装置は、複数のアーム部材から構成されるアーム本体と、関節軸を支持する関節部材とを有する中空構造のアームを備える。また、それらの各部材の接合部は、ロウ材によって接合されている。従って、中空構造にすることによりアームを軽量化しつつ、溶接による接合のように部材を局所的に加熱しないので、アームの軸間距離等の精度を向上することができる。従って、ロウ付け後の加工における負荷や工程数を低減しながら、精度の高いアームを製造することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の真空搬送装置において、前記アームを構成する第1壁部と、該第1壁部に対して接合される第2壁部との接合部には、前記第1壁部と及び前記第2壁部との間をロウ材によって補強するための段差が形成されていることを
要旨とする。
【0019】
この構成によれば、アームの第1壁部と第2壁部との接合部には、第1壁部及び第2壁部との間をロウ材によって補強するための段差が設けられている。従って、この段差が設けられることにより、ロウ材によって接合部を補強できるため、各壁部を強固に固定することができる。
【発明の効果】
【0020】
上記したように、本発明によれば、中空構造のアームの精度を向上することができる真空搬送装置の製造方法及び真空搬送装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4に従って説明する。図1は、本発明の真空搬送装置を具体化した搬送ロボット1の一例を示す。搬送ロボット1は、基板を真空下で処理する各処理室等の間で、処理前・処理後の基板を所定位置へ搬送する。この搬送ロボット1は、円筒状に形成されたマウントフランジ2を備えており、これが真空搬送室に固定されている。マウントフランジ2の上面2Aには、2つの第1アーム5が旋回ブロック3を介して連結されている。各第1アーム5のうち、第1関節軸6が設けられた一端と、この一端に対して反対側に位置する他端との間には、板状の各リンク部材7がそれぞれ固定されている。各リンク部材7は、一端が各第1アーム5に関節軸としてのピン7Aによってそれぞれ連結され、その他端が、第1アーム5に隣接する各第2アーム8にピン7Aによってそれぞれ連結されている。第2アーム8は、第1アーム5と同様に中空構造をなし、第1アーム5と同一形状に形成されている。また第2アーム8は、その一端が、マウントフランジ2上に旋回ブロック3を介して回転可能に支持された関節軸としての各第2関節軸9に軸支され、第1アーム5の回動動作に従動して、第1アーム5と平行に回動する。また、図中左側の一方の第1アーム5の高さ位置は、図中右側の他方の第1アーム5の高さ位置に対して上方に位置しており、図中左側の第2アーム8は、相対的に高い位置に軸支された第1アーム5と連結されており、図中右側の第2アーム8の高さ位置よりも上方の位置に配置されている。
【0022】
マウントフランジ2の内部には、複数の同心軸が設けられており、これらの同心軸は、前記マウントフランジ2に回転方向に拘束されるマウントフランジ2内のモータを駆動源としており、各々が所定方向に回動可能となっている。そして、前記複数の同心軸のうちの1つによって、第1関節軸6を保持する旋回ブロック3が旋回駆動される。また、前記複数の同心軸のうちの2つが、それぞれ前記図中左側の第1アーム5の第1関節軸6と前記図中右側の第1アーム5の第1関節軸6とに接続され、前記図中左側の第1アーム5の第1関節軸6に接続された同心軸によって、前記図中左側の第1アーム5の第1関節軸6が駆動される。また前記図中右側の第1アーム5の第1関節軸6に接続された同心軸によって、前記図中右側の第1アーム5の第1関節軸6が駆動される。つまり、前記図中左側の第1アーム5の第1関節軸6と前記図中右側の第1アーム5の第1関節軸6とは、各々独立して駆動することが可能である。尚、各第2アーム8の第2関節軸9も各第1関節軸6と同様に独立して駆動することが可能である。
【0023】
また、各第1アーム5のうち、第1関節軸6が設けられた一端に対して反対側に位置する他端には、それぞれ第3アーム13の長手方向の途中と連結される基軸13bが軸支されている。各第3アーム13の長手方向の一端には、その下方に延びるガイド軸10が、載置板11に固定された各支持部12の案内溝12Aに沿ってそれぞれ擦動可能に支持されている。これら第3アーム13は、中空構造をなし、第1アーム5とほぼ同様な形状に形成されている。そして各第3アーム13は、その長手方向の一端がガイド軸10を介して案内溝12Aに案内されるかたちで、対応する第1アーム5の回動動作に従って動作す
る。
【0024】
また、各第2アーム8のうち、第2関節軸9が設けられた一端に対して反対側に位置する他端には、それぞれ第4アーム16の長手方向の途中と連結される基軸16bが軸支されている。各第4アーム16の長手方向の一端には、その下方に延びるガイド軸15が、載置板11に固定された各支持部14の案内溝14Aに沿ってそれぞれ擦動可能に支持されている。これら第4アーム16は、中空構造をなし、第3アーム13と同一形状に形成されている。そして各第4アーム16は、その長手方向の一端がガイド軸15を介して案内溝14Aに案内されるかたちで、対応する第2アーム8の回動動作に従って動作する。
【0025】
これらの第3アーム13及び第4アーム16の先端には、略T字状の各リンク部材18がピン17によってそれぞれ支持されている。これにより、第4アーム16は、第3アーム13の回動動作に従動し、第3アーム13と平行に回動する。
【0026】
また、各リンク部材18の側端には、1対の連結アーム19Aがそれぞれ固定されている。連結アーム19Aは、搬送対象の基板を載置する。
また、図中左側の第3アーム13及び第4アーム16の高さ位置は、それらのアーム13,16に連結された各アーム5,8の高さ位置のため、図中右側の第3アーム13及び第4アーム16の高さ位置よりも、上方の位置となっている。従って、図中左側の各アーム13,16に連結された連結アーム19Aは、右側の各アーム13,16に連結された連結アーム19Aに対して高さ方向において上方の位置にある。このため、例えば、2枚の基板を搬送する場合にも、各連結アーム19に支持された基板の高さ位置が異なるので、各アームが伸縮又は回動しても基板を衝突させることなく搬送できる。また、これらの各アーム5,8,13,16が伸縮・回動等といった所定の動作を円滑に行うためには、アーム長、各回転軸の軸間距離等の精度が確保されていることが前提となる。
【0027】
次に、第1アーム5の構成及びその製造方法について詳述する。尚、第2アーム8は第1アーム5と同じ構成であって、第3アーム13及び第4アーム16は、その基端の位置以外は第1アーム5と同じ構成であるとともに、各アーム8,13,16は、第1アーム5と同じ方法で製造されるため、それらの構成及び製造方法の説明を省略する。
【0028】
図2に示すように、第1アーム5は、楕円形状のアーム本体20と、関節部材としての各ブシュ21〜23とを備えている。第1ブシュ21は、上記第1関節軸6を軸支し、第2ブシュ22は、リンク部材7のピン7Aを貫挿する。また、第3ブシュ23は、上記ガイド軸10を軸支する。
【0029】
図3に示すように、アーム本体20は、アーム部材及び第2壁部としての上側板25と、下側板26と、上側板25及び下側板26の間に固定された環状部材27とを備えている。上側板25は、厚さが数ミリ(例えば1〜5ミリ)の板金から形成されている。上側板25は、楕円形状をなし、その一端に、第1ブシュ21を貫挿するための貫通孔28が貫通形成されている。また、その貫通孔28が形成された一端と、反対側に位置する他端には、第3ブシュ23を貫挿するための貫通孔30が貫通形成されている。さらに、各貫通孔28.30の間であって、貫通孔30側に偏った位置には、ピン7Aを貫挿するための貫通孔29が貫通形成されている。
【0030】
また、下側板26は、上側板25と同一形状及び同一な大きさに形成され、上側板25と同じ位置に、各貫通孔31〜33がそれぞれ貫通形成されている。
環状部材27は、高さHが一定の帯状に形成された各板状部材27E〜27Hの側端を仮留めすることによって環状に形成されている。本実施形態では、各板状部材27E〜27Hは、厚さが数ミリ(例えば1〜5ミリ)の板金から形成され、平板状の2つの板状部
材27E,27Fと、湾曲形成された2つの板状部材27G,27Hとを溶接接合することにより長尺状の楕円形状を形成している。
【0031】
また、この環状部材27の周壁部27Cがなす楕円形状は、上側板25及び下側板26の外形である楕円形状よりも若干小さくなるように形成されている。このため、環状部材27の周壁部27C(第1壁部)が、上側板25及び下側板26(第2壁部)に対して垂直に接合された際に、上側板25及び下側板26の外周面(厚み方向の面)と環状部材27の外側面とが面一にならず、接合部の全周に亘って段差が設けられるようになっている。また、上記板状部材27G,27Hには、アーム内部のガスや不純物等を排出するための脱気孔37,38が貫通形成されている。
【0032】
また、上記した第1ブシュ21は、内側に第1関節軸6を支持するためのすべり面からなる貫挿孔21Cを有し、その上端及び下端にフランジ21A,21Bをそれぞれ有している。このフランジ21Aにおけるその中心軸方向の端部には、同中心軸方向に延びる段差部21Asが貫挿孔21Cの全周にわたり設けられている。第2ブシュ22は、上記したピン7Aを貫挿する貫挿孔22Cを有し、その上端及び下端にフランジ22A,22Bを有している。このフランジ22A、22Bにおけるその中心軸方向の端部には、それぞれの中心軸方向に延びる段差部22Asと段差部22Bsが貫挿孔22Cの全周にわたり設けられている。さらに、第3ブシュ23は、内側にガイド軸10を支持するためのすべり面からなる貫挿孔23Cを有し、その上端及び下端にフランジ23A,23Bをそれぞれ有している。このフランジ23A、23Bにおけるその中心軸方向の端部には、それぞれ段差部23Asと段差部23Bsが貫挿孔23Cの全周にわたり設けられている。
【0033】
これらの上側板25、下側板26及び環状部材27、及び各ブシュ21〜23は、互いを接合する接合部に微小な隙間を有し、それらの隙間にロウ材を流し込むロウ付け(ロウ接)によって接合される。ロウ付けでは、それらの接合部に、母材よりも融点の低いロウ材を付着させ、第1アーム5の形状に組み立てた状態で、ロウ材が溶融する温度まで第1アーム全体を加熱する。そして、各部材の隙間に溶融状態のロウ材を流動させた後、放熱してロウ材を凝固させる。
【0034】
このようにロウ付けにより、上側板25、下側板26及び環状部材27、及び各ブシュ21〜23を接合すると、それらの材質の融点よりも低い温度で接合することができるため、アーク溶接等により母材自体を溶融して接合するよりも、各部材の熱膨張を抑制することができる。特に、本実施形態のように、アームの軽量化を図るために、薄い板金を用いて上側板25、下側板26及び環状部材27からアーム5を形成する場合、溶接により接合すると歪みが大きくなりやすいため、母材を溶融せずロウ材により接合することによって母材の歪みを抑制することができる。また、上側板25及び下側板26の間に環状部材27を固定した殻状の構造とすることで、搬送動作の際に加わるねじれ等に対する強度を向上したモノコック構造とすることができる。
【0035】
上側板25、下側板26及び環状部材27は、同種の材質から形成されている。この材質としては、高温(500℃程度)の基板を支持しても、第1アーム5が熱膨張による悪影響を受けないような、比較的小さい線膨張係数を有する材質が選択されている。このような材質として、例えば、パーマロイ鋼、インバー鋼等を好適に用いることができる。これらの材質は、線膨張係数が比較的小さく、搬送ロボット1のアームに要求される剛性を有しているとともに、後述するロウ材との濡れ性を向上するためのニッケル鍍金が可能である。また、ステンレス材、一般鋼材も好適に用いることができる。これらの材質は、線膨張係数が比較的小さく、剛性に優れるとともに、ロウ材との濡れ性も優れている。
【0036】
ロウ付けに用いられるロウ材は、主成分をニッケルとするロウ材を好適に用いることが
できる。ニッケル系のロウ材は、比較的低い融点を有するため、ロウ付けの際の加熱温度を比較的低く設定することが可能となり、上側板25、下側板26及び環状部材27、及び各ブシュ21〜23の熱膨張を抑制することができる。また、耐熱性及び耐食性が高く、錆びにくい利点を有し、第1アーム5に用いられる材質との濡れ性も優れている。
【0037】
また、各ブシュ21〜23は、上側板25、下側板26及び環状部材27の材質と、同種の材質から形成されている。即ち、各ブシュ21〜23の材質の組成が、上側板25、下側板26及び環状部材27の材質の組成とほぼ同じであればよい。例えば上側板25等がステンレス材からなる場合には、各ブシュ21〜23をステンレス材から形成することが好ましく、上側板25等がパーマロイ鋼又はインバー鋼からなる場合には、各ブシュ21〜23をパーマロイ鋼又はインバー鋼からそれぞれ形成することが好ましい。
【0038】
ロウ付けによって接合された第1アーム5の横断面を図4に示す。ロウ付けされた第1アーム5は、内側に空隙40を備えた中空状に形成され、アーム重量の軽量化が図られている。尚、図3及び図4では便宜上、上側板25、下側板26及び環状部材27の厚さを変更して図示しているが、実際には、より薄い金属板からなる。
【0039】
また、上側板25の下面25Bと環状部材27の上端27Aとの間の隙間、下側板26の上面26A及び環状部材27の下端27Bとの間の隙間にはロウ材が介在し、それらの部材を接合している。さらに、上側板25及び下側板26と、各ブシュ21〜23のフランジ21A〜23A,21B〜23Bとの間の隙間にも、ロウ材が介在している。
【0040】
また、上記したように、環状部材27の上端27A及び下端27Bがなす楕円形状は、上側板25及び下側板26の外形よりも小さいため、図中左側の拡大図に示すように、上側板25と環状部材27との接合部には段差35が形成される。この接合部における段差35は、環状部材27の上端を取り囲むように設けられている。
【0041】
この段差35は、上側板25と環状部材27との間からはみ出したロウ材32によって、上側板25の下面25Bと環状部材27の外側面27Dとを補強する、いわゆるフィレット33を容易に形成するために設けられている。フィレット33は、ロウ材32の表面張力により形成された曲面(メニスカス)を有し、段差35を埋めるように形成される。このフィレット33が、接合部全域に亘って形成されることにより、上側板25の下面と環状部材27の上端27Aとからなる接合面をロウ材32で接合するだけでなく、その接合面の外側からも補強することができるため、上側板25及び環状部材27を強固に固定することができる。
【0042】
また、下側板26の上面26Aと環状部材27の下端27Bにも段差36が形成されている。この段差36には、下側板26と環状部材27とを接合するロウ材によりフィレットが形成されている。
【0043】
さらに、第1ブシュ21の各フランジ21A,21B、第2ブシュ22のフランジ22A,22B及び第3ブシュ23のフランジ23A,23Bと、アーム本体20との間には、段差が設けられている。図中右側の拡大図に示すように、例えば第2ブシュ22のフランジ22Aと上側板25との隙間に流し込まれたロウ材32は、その段差34にフィレット33を形成する。これにより、上記各部材を強固に固定することができる。
【0044】
次に、第1アーム5の製造方法について説明する。まず、上記した材質の板金を切断して、上側板25及び下側板26と、環状部材27を構成する板状部材27E〜27Hを形成する(材料取り)。また、各ブシュ21〜23には、必要に応じて1/100ミリ単位〜1/10ミリ単位のロウ付け後の切削代(しろ)を確保する。なおこのような切削代は
、ロウ付けが施された後の各ブシュ21〜23の位置精度が設計要件を満たさない場合(2次加工が必要となる場合)にのみ必要とされる。通常、各ブシュ21〜23とこれらに対応する貫通孔との間の嵌合隙間は1/100ミリ単位で保証されている。そのため上述した各ブシュ21〜23の位置精度は主にこれらの組み付け精度に左右されるものであるから、こうした組み付け精度さえ組み付け治具等により確保されていれば、当然ながら上述した切削代が不要となる。
【0045】
次に、所定の形状に形成された板金に対し、貫通孔を形成する等の加工を行って、上側板25、下側板26、環状部材27を形成する(1次加工)。このとき、上側板25及び下側板26に対し、各貫通孔28〜33をそれぞれ形成し、板状部材27G,27Hに対し、脱気孔37,38を形成する。また、板状部材27G,27Hを湾曲状に形成し、環状部材27を構成する各板状部材27E〜27Hの接合部を溶接する。尚、パーマロイ鋼、インバー鋼等を用いる場合には、溶接した後に鍍金を施してもよい。
【0046】
さらに、上側板25、下側板26、環状部材27及び各ブシュ21〜23を、第1アーム5の形状に組み立てる(組立工程)。この場合、ブシュ23のフランジ23Aに設けられた段差部23Asが上側板25の貫通孔30に対して環状部材27の内側から挿通されてその一部がアームの外側へ露出するかたちとなる。そして段差部23Asよりも径方向の外側に突出したフランジ23Aの端部が上側板25と接触するかたちでアームの内側に配置されることとなる。これと同じく、フランジ23Bに設けられた段差部23Bsが下側板の貫通孔33hに対して環状部材27の内側から挿通されてその一部がアームの外側へ露出するかたちとなる。そして段差部23Bsよりも径方向の外側に突出したフランジ23Bの端部が下側板26と接触するかたちでアームの内側に配置されることとなる。こうした方法により、上側板25と下側板26とブシュ23との組み立てを行う。尚、ブシュ22の組立て工程も同様の方法で同時に行われる。
【0047】
一方で、ブシュ21については、まず下側板26の貫通孔31の下側からブシュ21を挿入する。これによりブシュ21の下側のフランジ21Bと下側板26の底面とが接触する。次にブシュ21のフランジ21Aに設けられた段差部21Asが上側板25の貫通孔28に対して環状部材27の内側から挿通されてその一部がアームの外側へ露出するかたちとなる。そして段差部21Asよりも径方向の外側に突出したフランジ21Aの端部が上側板25と接触するかたちでアームの内側に配置されることとなる。こうした方法により、ブシュ21の組み立てが上記ブシュ22及びブシュ23の組立て工程と同時に行われる。
【0048】
このとき、各部材の隙間に、ペースト状のロウ材を塗布する。ロウ材は、組立後に塗布してもよいし、組立と並行しながら塗布してもよい。また、組立の際、上側板25、下側板26、環状部材27及び各ブシュ21〜23の間を点状に溶接することにより仮留めすると、各部材の位置精度が向上するため、後述する2次工程自体を省略することも可能である。
【0049】
第1アーム5を組み立て、接合部にロウ材を付着させると、真空加熱炉で加熱することによりロウ付けする(ロウ付け工程)。このとき、ニッケル系のロウ材の溶融温度(約1000度)を目標温度とし、肉厚部分と肉薄部分等の温度差が過大とならないような昇温速度を維持しながら、徐々に加熱する(例えば100℃/時間)。溶接の場合、接合部を一気に高温に加熱するが、ロウ付けではアーム全体を徐々に加熱することが可能であるため、急激な温度差による歪みの発生を抑制することができる。また、目標温度まで加熱してロウ材を溶融すると、各部材の温度差が過大とならないような降温速度で徐々に放熱させ、ロウ材を凝固させる。
【0050】
また、このロウ付け工程においては、アーム全体を加熱処理することが可能であるため、各部材に付着した不純物を除去する工程を兼ねることができる。このため、他の製造工程において必要な洗浄工程、表面処理等を省略することができるといった効果を得ることができる。
【0051】
続いて、各ブシュ21〜23の軸間距離等の精度を確保するために、切削加工等の機械加工を施す(2次加工)。なお上記したように、各ブシュ21〜23の位置精度が設計精度を満たす場合等、この2次加工が不要な場合にはこの工程を省略することも可能である。ちなみにこの2次加工では、予め確保した切削代分を切削し、1/100ミリ単位〜1/10ミリ単位の加工を行うため、加工における各部材の熱膨張が殆ど無く、加工面を冷却するための洗浄液を用いる必要がない。従って、洗浄液を除去するための工程も省略できる。
【0052】
これに対し、溶接により接合する場合には、接合部が局所的に加熱されるため(ステンレス材の場合には、約1400℃)、軸間距離等のずれがミリ単位で生じる。このため、2次加工に手間が掛かり、2次加工自体を省略することは不可能である。また溶接後の切削量が多くなるため、2次加工での部材の熱膨張を抑制するために、上記した洗浄液を用いる必要がある。洗浄液を用いると、その洗浄液を除去するための洗浄工程、表面処理等が必要となり、工程数が増加してしまう。ロウ付けを用いた製造工程では、上記したように、これらの工程を省略することができるため、溶接を用いた製造工程に比べ、工程数を少なくすることができる。また、溶接によって各部材を接合する場合、高温加熱された部分のみが溶接され、接合部に隙間が残りやすく、ビード(溶接痕)が残るといった欠点を有するが、ロウ付けでは、隙間にロウ材を行き渡せて強度を向上することができ、ビードを形成しないといった利点を有する。
【0053】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、搬送ロボット1の各アーム5,8,13,16を製造する際に、アーム本体20を構成する複数の上側板25、下側板26及び環状部材27と、各ブシュ21〜23とから中空構造のアーム5,8,13,16を組み立て、それら部材を互いに接合する接合部にロウ材を付着させた。また、組み立てられたアームを真空加熱して、ロウ付けすることによって接合した。従って、各アーム5,8,13,16を中空構造にすることにより軽量化しつつ、溶接による接合のように部材を局所的に加熱しないので、アーム5,8,13,16の軸間距離等の精度を向上することができる。従って、軸間距離の調整等を目的とした、接合後の2次加工の負荷や工程数を軽減することができる。また、接合後の軸間距離等の変動が少ないので、各アーム5,8,13,16の精度を向上することができる。
【0054】
(2)上記実施形態では、上側板25、下側板26及び環状部材27と、各ブシュ21〜23を、同種の材質から形成した。従って、ロウ付けの際に、ブシュ21〜23を組み込んだアーム全体を加熱しても、アーム本体20と各ブシュ21〜23との温度差が過大とならないため、局所的な熱膨張を抑制し、歪みの発生を防ぐことができる。
【0055】
(3)上記実施形態では、アーム本体20を構成する各部材を、ニッケル鍍金が施された一般鋼材、パーマロイ鋼、又はインバー鋼、又はステンレス材、ニッケル系のロウ材との濡れ性が高い材料から形成した。このため、接合部を隙間無く、強固に固定することができる。
【0056】
(4)上記実施形態では、上側板25及び下側板26に対して接合される環状部材27の接合部、下側板26及び下側板26に対して接合される環状部材27との接合部には、それらの部材をはみ出したロウ材によってそれらの部材の接続を補強するための段差が形
成されている。また、各ブシュ21〜23と上側板25及び下側板26とには段差が設けられている。このため、これらの段差が設けられることにより、ロウ材による補強を容易に行うことができる。従って、ロウ材は、各部材の接合面を接合するだけでなく、その外側も接合するため、上側板25及び下側板26の下面及び上面と、環状部材27の外側面27Dとが面一になるように接合するよりも、各部材を強固に固定することができる。また、各ブシュ21〜23と、上側板25及び下側板26とを強固に固定することができ、軸間距離の精度等を向上することができる。
【0057】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、ニッケル系のロウ材を用いたが、銀を主成分とするロウ材等、その他のロウ材を用いてもよい。また、ニッケル系のロウ材よりも溶融温度(融点)の低い半田を用いてもよい。
【0058】
・上記実施形態では、棒状の各アーム5,8,13,16を構成する各部材をロウ付けによって製造したがアーム機構の他の部分を中空状に形成し、その部分を構成する構成部材をロウ付けによって接合してもよい。例えば、基板を支持する把持部(図示略)を中空状に形成し、把持部を構成する各部材をロウ付けによって形成してもよい。
【0059】
・上記実施形態では、アームを構成する各部品を金属材から形成したが、搬送ロボット1が適用される条件に応じて変更してもよい。例えば、比較的低温のプロセスで用いられる場合には、樹脂板から形成してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、本発明の搬送装置を、2組のアームをリンク部材で連結したリンク機構を有する搬送ロボット1に具体化したが、この構成に限られることなく、その他の構成の搬送ロボットに具体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態の搬送ロボットの斜視図。
【図2】アームの斜視図。
【図3】アームの分解斜視図。
【図4】アームの縦断面図。
【符号の説明】
【0062】
1…真空搬送装置としての搬送ロボット、5…第1アーム、6…関節軸としての第1関節軸、7A…関節軸としてのピン、8…第2アーム、9…関節軸としての第2関節軸、10…関節軸としてのガイド軸、13…第3アーム、15…関節軸としてのガイド軸、16…第4アーム、20…アーム本体、21〜23…関節部材としてのブシュ、25…アーム部材及び第2壁部としての上側板、26…アーム部材及び第2壁部としての下側板、27…アーム部材及び第1壁部としての環状部材、27E〜27H…アーム部材としての板状部材、32…ロウ材、33…接合部を構成するフィレット、34〜36…段差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームを備えた真空搬送装置の製造方法において、
複数の構成部材の接合部にロウ材を付着させて中空構造の前記アームを組み立てる工程と、
組み立てられた前記アームを真空加熱して、ロウ付けする工程とを有することを特徴とする真空搬送装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の真空搬送装置の製造方法において、
前記構成部材は、アーム本体を構成する複数のアーム部材と、関節軸を支持する関節部材であって、
前記アーム部材と前記関節部材とを、同種の材質から形成することを特徴とする真空搬送装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の真空搬送装置の製造方法において、
ニッケル鍍金が施された金属材からなる前記構成部材の前記接合部を、ニッケルを主成分とするロウ材により接合することを特徴とする真空搬送装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の真空搬送装置の製造方法において、
ステンレス材からなる前記構成部材の前記接合部を、ニッケルを主成分とするロウ材により接合することを特徴とする真空搬送装置の製造方法。
【請求項5】
複数のアーム部材から構成されるアーム本体と、関節軸を支持する関節部材とを有する中空構造のアームを備え、
前記各アーム部材を互いに接合する接合部と、前記アーム部材と前記関節部材の接合部とがロウ材によって接合されていることを特徴とする真空搬送装置。
【請求項6】
請求項5に記載の真空搬送装置において、
前記アームを構成する第1壁部と、該第1壁部に対して接合される第2壁部との接合部には、前記第1壁部と及び前記第2壁部との間をロウ材によって架橋するための段差が形成されていることを特徴とする真空搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−149166(P2010−149166A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332080(P2008−332080)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】