説明

真空蒸着装置、真空蒸着方法、および、有機EL表示装置の製造方法

【課題】大型基板上に膜厚が均一で不純物の少ない薄膜を高速に成膜させ、長時間連続運転可能な真空蒸着装置及び成膜装置を提供する。
【解決手段】蒸発源は蒸着材料17を収容し、蒸気16を外部に放出するノズル16を有する坩堝14と、坩堝14を加熱するヒーター13で構成されている。蒸気15が放出されるノズル14の先端に金属で形成されたリング状の信号検出センサー11を配置する。蒸着材料17が過熱されて分解されたときに発生する荷電粒子が信号検出センサー11に衝突すると微弱電流が流れる。この微弱電流を蒸着室の外部に設置された第1の制御装置18によって検出し、第1の制御装置18からの信号を用いる第2の制御装置12によって蒸発源のヒーター13に加える電力を制御することによって蒸着膜厚を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着膜を形成する方法及びその装置に係り、特に大型の基板上に有機EL表示装置を形成するために有効な真空蒸着方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置や照明装置に用いられる有機EL素子は、有機材料からなる有機層を上下から陽極と陰極の一対の電極で挟み込んだ構造で、電極に電圧を印加することにより陽極側から正孔が陰極側から電子がそれぞれ有機層に注入され、それらが再結合することにより発光する仕組みになっている。
【0003】
この有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を含む多層膜が積層された構造になっている。この有機層を形成する材料として高分子材料と低分子材料を用いたものがある。このうち低分子材料を用いる場合には、真空蒸着装置を用いて有機薄膜を形成する。
【0004】
有機ELデバイスの特性は有機層の膜厚や膜質の影響を大きく受ける。一方、有機薄膜を形成する基板は年々大形化してきている。したがって、真空蒸着装置を用いる場合、大型の基板上に形成される有機薄膜の膜厚や膜質を高精度に制御する必要がある。
【0005】
真空蒸着で大型の基板に薄膜を形成する構成として、「特許文献1」には反射率を測定して膜厚を推定するという光学的な手法について開示されている。「特許文献2」には熱電対によりノズル開口部の温度を測定し、坩堝との温度差から蒸発量を推定して、蒸発材料の放出濃度が高い蒸発材料の放出口付近であっても蒸発材料の放出量を長期間測定することができる蒸着装置が開示されている。また、「特許文献3」には、有機膜にドープされたドーピング材料の濃度を光学センサーでモニターして薄膜を形成する真空蒸着装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−164020号公報
【特許文献2】特開2006−111926号公報
【特許文献3】特開2006−16660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には有機EL素子の素子基板に有機材料からなる蒸着材料を蒸着させるとともに、素子基板に蒸着される蒸着材料の膜厚を監視する膜厚監視部を備え、膜厚監視部において測定用板に付着した蒸着膜厚の反射率を測定して膜厚を推定するという光学的な手法については開示されている。
【0008】
しかし、測定用板に付着する膜厚を反射率の光学的測定でモニターするため、蒸着材料により反射率が異なり、また、測定用板に付着する蒸着材料接着性も考慮しなくてはならない。したがって、校正作業が必要となり、膜厚の絶対値測定には不向きである。また、膜質の制御に関してはなんら考慮されていない。
【0009】
特許文献2には熱電対からノズル開口部の温度を測定し、るつぼとの温度差から蒸発量を推定している。しかし、蒸発量とノズルとるつぼの温度差は蒸着材料で異なり、蒸着材料ごとに温度差と蒸発量の関係を計測する必要があり、膜質制御については開示されていない。
【0010】
特許文献3には有機膜にドープされたドーピング材料の濃度を光学センサーでモニターできることが記載されている。しかし、膜質制御に関してはドーピングの量の制御についてのみしか開示されていない。
【0011】
なお、有機材料の蒸着膜の膜厚の検出は、従来は通常水晶モニターが用いられてきた。水晶モニターは水晶振動子に蒸着物が付着して重量変化を振動数で検知するが、定期的に振動子を交換する必要がある。また、水晶振動子は熱の影響を受けるため、蒸発源より距離をとって、蒸着される基板が影響をうけない位置に設置する必要があり装置上の制約がある。
【0012】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決して、一般的な膜厚計測に用いられている水晶振動子式のように蒸発材料が堆積する膜厚計を蒸発材料の放出濃度が非常に高い場所に設置して放出量を検出する場合とは異なり、蒸発材料が堆積する問題がなく、膜質に関しても蒸着中にリアルタイムにモニターして制御可能で、連続成膜することが可能な真空蒸着方法及びその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明における代表的な手段は次の通りである。すなわち、基板の蒸着面に対向して蒸発源を配置した蒸着室を有する真空蒸着装置であって、前記蒸発源はヒーターと、内部に蒸着材料を収容し、前記蒸着材料の蒸気を外部に放出するノズルを有する坩堝を有し、前記ノズルの出口に電流を検出する信号検出センサーを配置したことを特徴とする真空蒸着装置である。
【0014】
また、本発明における他の代表的な手段は次の通りである。すなわち、基板の蒸着面に対向して蒸発源を配置した蒸着室を有する真空蒸着装置であって、前記基板の前記蒸着面に対向して表面準位測定器を配置し、前記蒸着室の外部に配置され、前記表面準位測定器の信号をモニターする表面準位計測機構と、前記表面準位計測機構からの信号を受けて前記蒸発源のヒーターに加える電力を制御するヒーター加熱制御装置を有することを特徴とする真空蒸着装置である。
【0015】
また、本発明における蒸着装置は、蒸発源によって基板をスキャンすることによって基板上に蒸着膜を形成するが、信号検出センサー等の信号に基づき、蒸発源のスキャンスピードまたは、スキャン回数を変化させることによって蒸着膜厚を制御する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の手段によれば、有機材料の熱分解時に発生する微弱信号(電流や電荷)を検知して、単位時間あたりの蒸発量を計測する方法であるので、蒸着膜厚の制御のみでなく、有機材料の熱分解量も同時にモニターできる。したがって、その情報量をフィードバックすることにより有機材料の熱分解量を制御して良質な有機薄膜を製造できる。
【0017】
また、本発明の他の手段によれば、有機薄膜の表面電位を蒸着中にリアルタイムにモニターし、不純物よる準位や蒸発源の加熱温度等を計測し、蒸発源の加熱制御機構にフィードバックすることにより、デバイス特性の優れた有機薄膜を成膜することが可能となる。
【0018】
したがって、本発明によれば、蒸着膜の膜厚を制御出来るのみでなく、有機薄膜の材料分解を抑制するように制御することによりデバイスを長寿命化させることが出来る。さらに、リアルタイムに純度を制御することにより製品バラツキを減少させ、長時間における膜質安定性を確保でき、メンテナンス回数を減少させ、低コスト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】蒸着室と膜厚モニター、蒸発源、基板の構成の模式図と動作を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施例における蒸発源と蒸発量の信号検出センサーの構成の模式図と動作を説明する断面模式図である。
【図3】本発明の第2の実施例におけるリニアソースタイプの蒸発源と信号検出センサーの構成の模式図と動作を説明する斜視図である。
【図4】本発明の第3の実施例における蒸着室と表面準位測定機構、蒸発源、基板の構成の模式図と動作を説明する断面模式図である。
【図5】本発明の第4の実施例における蒸着室と表面準位測定器、蒸発源、基板の構成の模式図と動作を説明する構成図である。
【図6】本発明の第5の実施例における有機ELディスプレイ生産工程の一例を示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明にかかる真空蒸着装置の一例として、有機ELデバイスの製造に適用した例を説明する。有機ELデバイスの製造装置は、陽極の上に正孔注入層や正孔輸送層、発光層(有機膜層)、陰極の下に電子注入層や電子輸送層をなど様々な材料の薄膜層を真空蒸着により多層積層して形成する装置である。
【0021】
本発明にかかる有機ELデバイス製造装置は、真空蒸着部に線状に配置した複数のノズルを介して材料を蒸発させる蒸発源、もしくは、ひとつのノズルを有する蒸発源を複数個並べた構成の蒸発システムと、有機材料を気化させた蒸発量をモニターする信号検出器や蒸着した薄膜の膜質特性を検出する機構を備えたことを特徴とする。以下に、実施例および図を用いて本発明の内容を詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、現時点における代表的な蒸着装置での蒸着室5内における膜厚モニター7、蒸発源3、基板1の構成の模式図と動作を説明する図である。蒸発源3は、図1の白矢印で示すように、基板1をスキャンすることによって、基板1に均一な厚さの蒸着膜2を形成することが出来る。図1において、蒸着室外6には、膜厚制御計8と、蒸発源電源9と、制御用パソコン10が配置されている。
【0023】
従来例では、蒸着した膜厚の検出は、膜厚モニター7、つまり、水晶モニターを使用している。水晶モニターは水晶振動子に蒸着物が付着して重量変化を振動数で検知するが、定期的な振動子の交換の必要がある。また、水晶振動子は熱の影響を受けるため、蒸発源より距離をとって、蒸着される基板が影響を受けない位置に設置する必要があり装置上の制約がある。
【0024】
本実施例では、図1の蒸発源3、膜厚モニター7において、水晶振動子を用いない方法で膜厚を検出する方法を用いている。図2は蒸発源部分と膜厚検出部のみ抽出した断面構成図である。本実施例は、有機材料の熱分解時に発生する微弱信号(電流や電荷)を信号検出センサー11を用いて検知して、単位時間あたりの蒸発量を膜厚膜質制御装置18にて計測する方法である。
【0025】
図2において、ヒーター13によって坩堝14が熱せられ、有機材料17が熱せられると、有機蒸気15が発生する。有機蒸気15は、ノズル16から外部に放出され、基板に蒸着される。
【0026】
ノズルの出口の内側には信号検出センサー11が配置されている。信号検出センサー11は例えば、Ti、SUS、Au、Pt等で形成される金属のリングである。信号検出センサー11の内径はノズル16の内径と同じである。信号検出センサー11は、導線によって蒸着室の外に配置された膜厚膜質制御装置18と導通している。
【0027】
図2において、有機材料が加熱されて分解されると、材料によっては、荷電粒子を発生させたり、電子を発生させたり、分子自体が帯電したりする。そうすると、荷電粒子等は、他の蒸着材料の蒸気とともにノズル16を通過して坩堝の外側に放出される。この時、荷電粒子が信号検出センサー11にトラップされると、信号検出センサー11に電流が流れ、膜厚膜質制御装置18によって検出される。膜厚膜質制御装置18で検知した電流値に基づく信号を同じく蒸着室外に配置された加熱制御機構12に転送する。加熱制御機構12はこの信号に基づき、坩堝14を加熱するヒーター13に入力する電力を制御する。
【0028】
すなわち、坩堝14の温度が高ければ、有機材料が分解する量も多くなり、荷電粒子の量も多くなるので、信号検出センサー11で検出される電流も大きくなる。したがって、信号検出センサー11を流れる電流によって蒸発源3の温度を感知することが出来、ひいては蒸着スピードを感知することが出来る。ちなみに、信号検出センサー11によって検出される電流量はpAのオーダーであり、微弱である。なお、図2では、信号検出センサー11の材料を金属であるとして説明したが、半導体を用いることも出来る。また、信号検出センサー11はリング状であるとして説明したが、リングのように連続して形成されている必要は無く、電流を検出可能であれば、ノズル16の一部のみに形成されていてもよい。
【0029】
一方、有機材料は熱分解すると特性が劣化するため、微弱電流の時間変化を信号検出センサー11を用いて検出することにより熱分解量をモニターし、その情報量を膜厚膜質制御装置18を介して、加熱制御機構12へフィードバックすることにより有機材料17の蒸発量を制御し、熱分解量を制御した良質な有機薄膜を製造できる。
【0030】
図2では、微弱信号検出する信号検出センサー11はノズル内部に埋め込む形状になっているが、ノズル外部に設置しても構わない。また、蒸発源の構造は本提案では横型で示したが、縦型でも他の構造でも構わない。また、少なくとも信号検出センサの周辺は電気的に絶縁性の高い部材を配置することが好ましい。信号検出センサー11を有機材料の蒸発出口付近に設置していることが特徴である。本実施例の構成を用いて、材料分解の抑制によりデバイスの長寿命化を実現し、リアルタイム蒸発量制御により膜厚均一性向上を実施できる。さらに、長時間にわたって蒸着レート安定性を確保でき、メンテナンス回数を減少させることができ、全体でみると低コスト化を実現できる。
【実施例2】
【0031】
実施例1においては、有機材料の熱分解時に発生する微弱信号(電流や電荷)を一つの信号検出センサー11を用いて検知して、単位時間あたりの蒸発量を膜厚膜質制御装置18にて計測する一例を説明した。本実施例では、図3に示す、リニアソースタイプの蒸発源と信号検出センサーの構成の模式図と動作を説明する斜視図を用いて、ノズル16を複数個設置した場合について説明する。
【0032】
各信号検出センサー11を各ノズルに設置することにより、大型の蒸発源の場合も蒸発量を制御できる。その場合、ヒーター13は分割して個別に制御すると、さらに膜厚、膜質の均一化を実現できる。ただし、ヒーター13は分割しなくても、各信号検出センサー11の信号を平均化して用いることによっても実現可能である。共蒸着の場合は複数個の蒸発源に信号検出器を設置して混合比を調整可能である。
【0033】
本実施例では、信号検出センサー11をノズル付近に取り付けたが、ヒーター13へ有機材料が回り込んで不純物が発生するケースがあるので、ルツボ14とヒーター13の隙間にも信号検出センサー11を設置し、制御することにより、蒸着された有機薄膜2の不純物濃度を下げて、よりよい膜質のデバイスを製造できる。
【0034】
また、膜厚膜質制御装置18の劣化情報を基板単位で品質をトレースするためのデータベースに記録し、デバイスの寿命試験の結果と対応付けできるようにして工程管理をすることも可能である。膜厚膜質制御装置18の劣化情報が設定された劣化限界を超えたときに、アラームを出して停止させる機構を備え、劣化の度合いに応じてプロセス温度またはヒーターへの供給電力を変化させ、その時の蒸発レートに応じてスキャンスピードまたはスキャン回数を自動的に変更する機構を備えることも出来る。
【0035】
つまり、膜厚制御装置18の情報に基づいて、ヒーターの加熱制御機構12によって、ヒーターの温度を制御してもよいし、蒸着源3の基板1に対するスキャンスピードまたはスキャン回数を変えることによって蒸着膜厚を制御してもよい。膜厚制御装置18の情報によって、スキャンスピードあるいはスキャン回数を変化させて膜厚を制御する機構については、他の実施例についても同様に適用することが出来る。
【実施例3】
【0036】
図4は、本発明に伴う、表面準位測定器とヒーター加熱機構、蒸発源、基板の構成の模式図と動作を説明する断面模式図である。本実施例は、図1の実施例1で説明した構成に、表面準位測定器19と表面準位計測機構20とヒーター加熱機構と連動して総合的に制御する装置21を配置したことを特徴とする。
【0037】
本実施例では、表面準位測定器19と蒸着室外に設置された表面準位計測機構20を用いて、有機薄膜の表面電位を蒸着中にリアルタイムにモニターし、不純物よる準位を計測し、蒸発源の加熱温度等にヒーター加熱機構制御装置21を介してフィードバックし、デバイス特性の優れた有機薄膜を成膜する装置である。
【0038】
つまり、蒸着膜の表面準位すなわち仕事関数は表面に形成された蒸着膜の材料のみでなく、膜厚によって変化する。したがって、表面準位を計測することによって、蒸着膜の膜厚を管理することが出来る。表面準位計測方法としては、ケルビンプローブ等の静電容量変化測定方法、光の吸収励起現象を利用した測定方法を用いることが出来る。
【0039】
表面準位測定器は有機薄膜を成膜されるガラス基板のゾーンごとに、例えば、中央と端部などに、分けて設置し、その信号をゾーンごとに分けたヒーター加熱機構および制御装置にフィードバックをかけることにより、ガラス基板の面内方向の不純物分布を制御して最適化することが可能である。
【実施例4】
【0040】
実施例3で説明した表面準位測定器による膜厚測定を、例えば、ケルビンプローブを用いて行う場合、ケルビンプローブの表面に蒸着膜が付着すると誤差の原因になる。本実施例はこのような蒸着膜の付着による誤差を抑える蒸着方法を開示するものである。
【0041】
図5は、本実施例における表面準位測定器19、蒸発源3、基板1の構成の模式図と動作を説明する構成図である。ノズルが第1の方向、すなわち、水平方向にリニアに配置された蒸発源を図5の矢印によって示すように、基板1の表面に沿って第1の方向と直角の方向、すなわち垂直方向にスキャンして基板に有機膜を成膜する。
【0042】
測定器19を基板1側に用意する場合、成膜中は表面準位測定器19が邪魔になるので、表面準位測定器19を成膜中は、有機材料の蒸気15が付着しない位置に退避させる機能を持たせる。スキャンを終えて、すなわち、基板1に対して蒸着を終わった後、膜厚モニタ−19を所定の位置に復帰させて表面準位測定器19によって膜厚を検出する。これによって、表面準位測定器19による蒸着膜のモニターを長期間にわたって行うことが出来る。
【0043】
なお、蒸発源3がスキャンを終えて基板1の外側に配置されている場合も蒸発物質は蒸発源から放出されているが、表面準位測定の時間はわずかなので、表面準位測定器19に蒸気15が堆積する量はわずかである。一方、図2には図示していないが、蒸発源ユニットがノズルを開閉するための蒸着シャッターを具備していれば、表面準位測定器19によって蒸着膜の表面をモニターしている間は蒸着シャッターによってノズルを閉じておくことにより、表面準位測定器19への蒸着材料の付着は防止することが出来る。
【0044】
有機EL膜は5層程度の多層膜を蒸着する。この実施例では、各層の蒸着膜の測定が終わった時点において、各膜厚を測定することが出来るので、蒸着に不具合が生じて不良品となった基板に対して後工程のプロセスを加えるというような無駄な作業を省略することが出来る。
【0045】
以上の蒸着方法は、図5におけるリニア蒸着源が基板1に対して往復することによって蒸着膜を形成する場合である。一方、図5において、リニア蒸発源を上側から下側にスキャンするだけで蒸着膜を形成できる場合は、表面準位測定器を別な場所に退避させず、蒸発源によって蒸着された膜の状態を蒸着後ただちにモニターすることができる。そして、表面準位の設定された標準値を超えたときに、アラームを出して装置全体を停止させる機構も備えさせることが出来る。したがって、蒸着プロセスの条件をより迅速にフィードバックすることが出来る。
【実施例5】
【0046】
図6は、有機ELディスプレイ生産工程の一例を示した工程図である。実施例1〜4では、この生産工程の有機蒸着の工程のみを説明した。図6において、有機層と有機層に流れる電流を制御する薄膜トランジスタ(TFT)が形成されたTFT基板と、有機層を外部の湿気から保護する封止基板は別々に形成され、封止工程において組み合わされる。
【0047】
図6のTFT基板の製造工程において、ウェット洗浄された基板に対してドライ洗浄を行う。ドライ洗浄は紫外線照射による洗浄を含む場合もある。ドライ洗浄されたTFT基板に先ず、TFTが形成される。TFTの上にパッシベーション膜および平坦化膜が形成され、その上に有機EL層の下部電極が形成される。下部電極はTFTのドレイン電極と接続している。下部電極をアノードとする場合は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)膜が使用される。
【0048】
下部電極の上に有機EL層が形成される。有機EL層は複数の層から構成される。下部電極がアノードの場合は、下から、例えば、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層である。このような有機EL層は蒸着によって形成され、実施例1〜実施例4で述べたような蒸着装置あるいは蒸着方法によって形成する。
【0049】
有機EL層の上には、各画素共通に、表示領域全体にわたってで上部電極が形成される。有機EL表示装置がトップエミッション構造の素子の場合は、上部電極にはMg−Ag共蒸着膜や、IZO等の透明電極が使用され、有機EL表示装置がボトムエミッションの場合は、Al等の金属膜が使用される。
【0050】
図6の封止基板工程において、ウェット洗浄およびドライ洗浄を行った封止基板に対してデシカント(乾燥剤)が配置される。有機EL層は水分があると劣化をするので、内部の水分を除去するためにデシカントを配置してもよい。デシカントには種々な材料を用いることが出来るが、有機EL表示装置がトップエミッションかボトムエミッションかによってデシカントの配置方法が異なる。また、デシカントを設けずに、透湿性のきわめて低いSiNやSiOなどのバリア膜を素子上にCVDやスパッタリングにより形成して、有機EL膜の劣化を防止してもよい。
【0051】
このように、別々に製造されたTFT基板と封止基板は封止工程において、組み合わされる。TFT基板と封止基板を封止するためのシール材は、封止基板に形成される。封止基板とTFT基板を組み合わせた後、シール部に紫外線を照射して、シール部を硬化させ、封止を完了させる。
【0052】
このようにして形成された有機EL表示装置に対して点灯検査を行う。点灯検査において、黒点、白点等の欠陥が生じている場合でも欠陥修正可能なものは修正を行い、有機EL表示装置が完成する。
【0053】
本発明によれば、各有機EL層毎に正確に膜厚および膜質をモニターすることが出来るので、蒸着源に対して細かいフィードバックを行うことが出来、有機EL膜形成の歩留りを向上させることが出来る。また、各層の蒸着膜の不具合を早く発見できるので、無駄な後工程を行うことを防止することが出来、有機EL表示装置の製造コストを低減することが出来る。
【0054】
また、本発明を用いた製造プロセスにより、複数の層によって形成される有機EL層は不純物が少なく、かつ、正確な膜厚で形成することが出来るので、有機EL表示装置の品質を長期間にわたって維持することが出来る。
【符号の説明】
【0055】
1・・・基板、 2・・・有機薄膜、 3・・・蒸発源、 4・・・メタルマスク、 5・・・蒸着室、 6・・・蒸着室外、 7・・・膜厚モニター、8・・・膜厚制御計、 9・・・蒸発源電源、 10・・・制御用パソコン、 11・・・信号検出センサー、 12・・・加熱制御機構、 13・・・ヒーター、14・・・ルツボ、 15・・・有機蒸気、 16・・・ノズル、17・・・有機材料、 18・・・膜厚膜質制御装置、19・・・表面準位測定器、20・・・表面準位計測機構、21・・・ヒーター加熱機構制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の蒸着面に対向して蒸発源を配置した蒸着室を有する真空蒸着装置であって、
前記蒸発源はヒーターと、内部に蒸着材料を収容する坩堝と、前記蒸着材料の蒸気を外部に放出するノズルを有し、
前記ノズルの出口に電流を検出する信号検出センサーを配置したことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記真空蒸着装置は、前記蒸着室の外部に前記電流を計測する第1の制御装置と、前記第1の制御装置からの信号を受けて、前記蒸発源のヒーターに加える電力を制御する第2の制御装置を有することを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸発源は前記基板と相対的に移動することによって前記基板に蒸着膜を形成し、
前記第1の制御装置からの信号を受けて、前記蒸発源の相対的移動スピードまたは移動回数を制御することを特徴とする請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
基板の表面に蒸着膜を形成する真空蒸着方法であって、
蒸発源はヒーターと、内部に蒸着材料を収容する坩堝と、前記蒸着材料の蒸気を外部に放出するノズルを有し、
前記ノズルの出口に電流を検出する信号検出センサーを配置し、
前記信号検出センサーで検出した電流を第1の制御装置によってモニターし、前記第1の制御装置からの信号を受ける第2の制御装置によって前記蒸発源のヒーターに加える電力を制御することによって蒸着膜厚を制御することを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項5】
前記蒸発源は前記基板と相対的に移動することによって前記基板に蒸着膜を形成し、
前記第1の制御装置からの信号を受ける第2の制御装置によって前記蒸発源の相対的移動スピードまたは移動回数を制御することによって蒸着膜厚を制御することを特徴とする請求項4に記載の真空蒸着方法。
【請求項6】
基板の蒸着面に対向して蒸発源を配置した蒸着室を有する真空蒸着装置であって、
前記蒸発源はヒーターと、内部に蒸着材料を収容する坩堝と、前記蒸着材料の蒸気を外部に放出するノズルを有し、
前記基板の前記蒸着面に対向して表面準位測定器を配置し、
前記蒸着室の外部に配置され、前記表面準位測定器の信号をモニターする表面準位計測機構と、前記表面準位計測機構からの信号を受けて前記蒸発源のヒーターに加える電力を制御するヒーター加熱制御装置を有することを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項7】
前記蒸発源は前記基板と相対的に移動することによって前記基板に蒸着膜を形成し、
前記表面準位計測機構からの信号を受けて前記蒸発源の相対的移動スピードまたは移動回数を制御する機構を有することを特長とする請求項6に記載の真空蒸着装置。
【請求項8】
基板の表面に蒸着膜を形成する真空蒸着方法であって、
蒸発源はヒーターと、内部に蒸着材料を収容する坩堝と、前記蒸着材料の蒸気を外部に放出するノズルを有し、
前記基板の前記蒸着面に対向して表面準位測定器を配置し、
前記表面準位測定器で検出した信号を第1の制御装置によってモニターし、前記第1の制御装置からの信号を受ける第2の制御装置によって前記蒸発源のヒーターに加える電力を制御することによって蒸着膜厚を制御することを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項9】
前記蒸発源は前記基板と相対的に移動することによって前記基板に蒸着膜を形成し、
前記第1の制御装置からの信号を受ける第2の制御装置によって前記蒸発源の相対的移動スピードまたは移動回数を制御することによって蒸着膜厚を制御することを特徴とする請求項8に記載の真空蒸着方法。
【請求項10】
基板の表面に多層の蒸着膜を形成する真空蒸着方法であって、
蒸発源はヒーターと、内部に蒸着材料を収容した坩堝と、前記蒸着材料の蒸気を外部に放出する複数のノズルを有し、前記複数のノズルは第1の方向に配列しており、
前記蒸発源を前記基板の表面に沿って、前記第1の方向と直角方向に相対的に移動することによって蒸着膜を形成し、
前記蒸発源を前記基板に対して相対的に移動している間は、膜厚検出器を前記基板から退避させ、前記蒸発源を相対的に移動し終わった後に、膜厚検出器を前記基板の前記表面に対向して配置して膜厚を測定し、
前記多層の蒸着膜は真空を破らずに形成し、前記多層の蒸着膜の前記膜厚の測定は、前記多層の蒸着膜の各層の蒸着毎に行うことを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項11】
多層の有機蒸着膜を有する有機EL表示装置の製造方法であって、
蒸発源はヒーターと、内部に蒸着材料を収容する坩堝と、前記蒸着材料の蒸気を外部に放出するノズルを有し、
前記ノズルの出口に電流を検出する信号検出センサーを配置し、
前記多層の有機蒸着膜の各層の蒸着において、前記信号検出センサーで検出した電流を第1の制御装置によってモニターし、前記第1の制御装置からの信号を受ける第2の制御装置によって前記蒸発源のヒーターに加える電力を制御することによって蒸着膜厚を制御することを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項12】
多層の有機蒸着膜を有する有機EL表示装置の製造方法であって、
蒸発源はヒーターと、内部に蒸着材料を収容する坩堝と、前記蒸着材料の蒸気を外部に放出するノズルを有し、
前記基板の前記蒸着面に対向して表面準位測定器を配置し、
前記多層の有機蒸着膜の各層の蒸着において、前記表面準位測定器で検出した信号を第1の制御装置によってモニターし、前記第1の制御装置からの信号を受ける第2の制御装置によって前記蒸発源のヒーターに加える電力を制御することによって蒸着膜厚を制御することを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−216374(P2012−216374A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80018(P2011−80018)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】