説明

真空蒸着装置および真空蒸着方法

【課題】
光吸収のないフッ化物からなる蒸着材料をプラスチックフィルム上に電子ビーム加熱蒸着法により安定的に高速で形成する光学薄膜の成膜方法および成膜装置を提供する。
【解決手段】
フッ化物からなる蒸着材料をターゲットとした電子ビーム加熱蒸着法によりプラスチックフィルム基板上に無加熱で光学薄膜を形成する際、蒸着材料として焼結体を用いることで成膜安定性を保つ。さらにランプ5によりターゲット材料6を照射して加熱をアシストする。このとき蒸着材料6の温度を赤外放射温度計7により測定し、蒸着材料6の温度を制御回路装置を介して電子ビーム投入電力、またはランプ強度にフィードバックして蒸着材料6の温度を所定の範囲に保ち、成膜速度を一定にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ加熱蒸着法により、MgF等のフッ化物からなる光学薄膜を蒸着する真空蒸着装置および真空蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRT、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の光学表示装置においては、外光の表示画面上への写り込みによって画像を認識しづらくなるという問題がある。光学表示装置は、最近では屋内だけでなく屋外にも持ち出される機会が増加し、表示画面上への外光の写り込みは一層深刻な問題になっている。
【0003】
外光の写り込みを低減するために、可視光領域の波長の広い範囲にわたって反射率の低い反射防止積層体を光学表示装置の前面に設けることが行われている。従来、このような反射防止膜やハーフミラー、エッジフィルターなどの光学薄膜を形成する場合、手法の容易さや成膜速度の速さなどの点から、真空蒸着法が多く用いられている。しかし、通常の真空蒸着法で光学薄膜として代表的な低屈折率物であるMgF等のフッ化物薄膜を成膜する場合、基板を加熱しないと十分な膜強度や密着性が得られず、プラスチックフィルム基材等の耐熱性の低い基材には成膜が難しいという欠点があった。さらに、MgF等のフッ化物をスパッタリング法で成膜するとMgとFとに解離してしまい、膜中ではFが不足するため可視光の吸収が生じてしまうという欠点がある。
【0004】
基材を無加熱でMgF等のフッ化物薄膜を成膜する方法としては、スパッタリング法を適用した特許文献1がある。ここでは、MgFをスパッタリングすると可視光の吸収が生じてしまうこと、MgFにSiを添加したものをターゲットとしてスパッタリングをすることにより光吸収のほとんど無い低屈折率膜を形成すること等が開示されている。
【0005】
しかし、上記従来例では、蒸着法における経時での成膜速度に安定性が得られず膜厚計で堆積した薄膜の膜厚をモニタリングしながら成膜せねばならず、巻取り成膜装置等のフィルムに連続的に成膜する装置には不向きであった。さらに通常のスパッタリング法では高速で成膜ができず、1層堆積で反射防止膜を形成するのに必要な膜厚(80〜100nm)を得るには生産性が低く、工業的に普及は難しい。
【0006】
【特許文献1】特開平4−223401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、可視光の光学吸収が少なく密着性の良好なMgF等のフッ化物薄膜をプラスチック基材上に真空蒸着法により高速で、且つ安定した成膜速度で形成する真空蒸着方法および該方法を実現できる真空蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、真空槽と、該真空槽の内部に配置されプラスチックフィルムを連続的に繰り出す巻出し部と、該巻出し部から繰り出された該プラスチックフィルムを巻き取る巻取り部と、該巻出し部と該巻取り部との間に配置されたメインロールと、該メインロールに対向配置されたフッ化物からなる蒸着材料と、電子銃およびレーザーランプを備え、該蒸着材料に該電子銃および該レーザーランプより電子ビームおよびランプ光を照射することで、該プラスチックフィルムに該蒸着材料を成膜する真空蒸着装置であって、
該蒸着材料がフッ化物の焼結体からなり、かつ、該蒸着材料を連続的に供給する手段を備えることを特徴とする真空蒸着装置である。
【0009】
従来の蒸着装置では、材料を加熱する際に電子ビームや抵抗加熱を使用して材料を蒸発温度に高めているが、フッ化マグネシウム(MgF)からなる材料の場合粒子径が1〜3mm程度の顆粒等が用いられ、材料の密度が比較的粗く飛びやすい反面、溶解した材料が均一には広がらず、材料内で温度差が生じたり、顆粒等の材料が部分的に溶解して崩れ落ちるときにスプラッシュが発生し成膜速度が安定しにくく、巻取り成膜を用いたフィルムへの連続安定成膜が行いづらいという欠点を有する。また、スパッタリング装置ではイオンがターゲットに衝突した際、ターゲット内の原子間結合を切ってターゲットから原子を飛び出させるために、フッ化マグネシウム(MgF)を含む材料では、材料分子結合の解離によりフッ素が欠損しやすく光学吸収のある膜になりやすい。
【0010】
そこで、蒸着材料に焼結体を用いると、電子ビームならびにランプにより溶解した材料が不規則に流れ落ちることがなく、均一な表面温度を保つことで安定した成膜が可能である。また、焼結体からなる蒸着材料を電子ビームならびにランプの照射部に対して連続的に供給することにより、長時間に渡り安定した成膜が可能となる。
【0011】
請求項2の発明は、前記蒸着材料の温度を測定する温度測定手段を有し、
該温度測定手段の出力に基づいて、該電子ビームの出力および該ランプ光の強度を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置である。
【0012】
成膜速度はターゲット表面温度と相関性があるため、その表面温度をモニタリングしながらコントロールすることで安定した成膜速度で光学薄膜を形成することが可能となる。
通常のスパッタリング装置では原子間結合が切れてターゲットからMgやFといった原子が跳び出すために光学吸収を持った膜になりやすい。一方、焼結体からなる蒸着材料の温度を電子ビームならびにランプで上昇させておくと熱振動により結合力の強い箇所と弱い箇所ができ、跳び出す粒子の形態がMgF分子となる場合が生じる。この場合には、可視域で光吸収がないMgF膜を形成することができる。
【0013】
請求項3の発明は、真空雰囲気内でプラスチックフィルムを連続的に送り出し、該プラスチックフィルムをメインロールに密着させながら、フッ化物からなる蒸着材料に電子ビームおよびランプ光を照射することで、該プラスチックフィルムに該蒸着材料を蒸着させる真空蒸着方法であって、
該蒸着材料がフッ化物の焼結体からなり、かつ、該蒸着材料を連続的に供給することを特徴とする真空蒸着方法である。
【0014】
焼結体を含む蒸着材料に電子ビームならびにランプを当てると、電子ビームならびにランプ照射部が加熱され、表層から溶解して蒸発蒸気が発生する。長時間安定して蒸着を行うためには、蒸着材料の溶解表面温度、面積が時間経過に対して安定していることが重要である。そのためには電子ビームならびにランプを同一箇所ではなく連続的に供給される蒸着材料に照射することで長時間安定状態を保つことが可能となり、連続成膜ができる。
【0015】
請求項4の発明は、前記蒸着材料の温度を測定する温度計を有し、
該蒸着材料が所定の温度になるように、該電子ビームの出力および該ランプ光の強度を制御することを特徴とする請求項3に記載の真空蒸着方法である。
【0016】
ここではターゲットの温度が非常に重要なパラメータとなる。従来の蒸着法では、電子ビームや抵抗加熱で成膜する際に経時で蒸着材料表面の溶解状態が変化し、表面温度も変化していくために成膜速度が不安定になりやすかった。そこで、表面温度をモニタリングすることで、蒸着材料の表面状態を一定に保つよう制御をかけると、長時間安定性のある成膜が可能となる。すなわち、ターゲットの温度により成膜速度や光吸収量が変化するので、蒸着材料の表面温度をある一定の範囲に保ちながら成膜を行う必要がある。焼結体からなる蒸着材料は電子ビームとランプによる加熱で昇華温度になり、その温度は材料の熱伝導度、電子ビーム出力などの条件によって変わる。焼結体からなる蒸着材料の温度を成膜時に制御するという観点では、応答速度・制御性・効果等からこれらのパラメータのランプ強度、または電子ビーム投入電力を制御することが最も望ましい。可能であればその両方を制御することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真空蒸着装置および真空蒸着方法を用いれば、光吸収が少ないフッ化物の膜をプラスチックフィルム上に高速で、かつ極めて成膜安定性を高く成膜することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態を図1に基づいて説明する。
本発明の真空蒸着装置は、真空槽1内に巻出し部2および巻取り部3、プラスチックフィルム4を連続的に供給可能なメインロール5、メインロール5に対向配置されている焼結体からなる蒸着材料6、蒸着材料6に向かって電子銃7ならびにレーザーランプ8が設置されている。
【0019】
真空槽1は、図示していない配管接続部を介して真空ポンプ等の真空排気系に接続され、その内部が所定の真空度に減圧排気されている。真空槽1の内部空間は、仕切板により、巻出し部2および巻取り部3等が配置される室と、蒸着材料6が配置される室とに仕切られている。
【0020】
本発明におけるプラスチックフィルム4は、所定幅に裁断された長尺のフィルムであり、その種類を具体的に挙げれば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン6等のポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂フィルム、ポリウレタン(PUR)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)等のビニル化合物、ポリアクリル酸(PMMA)、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン等のビニリデン化合物、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体等のビニル化合物またはフッ素系化合物の共重合体、ポリエチレンオキシド等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール等があるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
プラスチックフィルム4は、巻出し部2から繰り出され、複数のガイドローラ、メインロール5、複数のガイドローラを介して巻取り部3に巻き取られるようになっており、これらには、それぞれ回転駆動部が設けられている。
【0022】
メインロール5は筒状でステンレス等の金属製であり、内部には温冷媒循環系等の温度調整機構が備えられている。メインロール5の周面には所定の抱き角でプラスチックフィルム4が巻回される。メインロール5に巻き付けられたプラスチックフィルム4は、その外面側の成膜面が蒸発材料で成膜されると同時に、メインロール5によって冷却あるいは加熱されるようになっている。
【0023】
本発明における蒸着材料6はメインロール5の下方に配置され、対向するメインロール5に密着したプラスチックフィルム4上に蒸着材料を放出して光学薄膜を形成する。
蒸着材料であるフッ化物としては、MgF、AlF、LiF、NaF、CaF、SrF、BaF、CeF、NdF、LaF、SmF、NaAlF、NaAl14の内、一種又は二種以上を選択して用いることができるが、これらに限定されるものではない。さらに、温湿度の変化に対する耐久性の高い膜を得ることができることから、MgFを主成分としたターゲットを用いることが好ましい。
【0024】
本発明における焼結材料とは、上記フッ化物からなる蒸着材料を粉砕したものを、特定の型にはめ込み、加熱、圧縮等を行って凝固させた固体材料のことを示す。フッ化物からなる焼結体からなる蒸着材料は、結晶材料に近い密度を有し、十分な硬度を持つ。
【0025】
本発明における蒸着材料の加熱方法としては、電子銃加熱、YAGレーザーランプ加熱などの手法が挙げられる。
【0026】
材料温度をより積極的に制御するために、ランプのほかにターゲットを加熱するヒータ9を別途設けることもできる。電子ビームとは別に制御性の良い加熱手段を設けることで容易にかつ精度良く材料温度を一定の温度に保つことができる。ここで言う加熱ヒータとは、例えば、抵抗加熱ヒータや赤外線ヒータ等、特に限定するものではない。また、ヒータによる温度制御と、投入電力、ランプ強度へのフィードバック制御とを組み合わせて用いても良い。
【0027】
また、蒸着材料の表面温度を測定するために温度計10が設置されており、温度データを真空槽1外に設置されたデータ処理装置に取り込むことにより、焼結体を含む蒸着材料6の温度を測定可能となっている。さらに、焼結体からなる蒸着材料6は連続的に供給されるようになっている。温度計10の出力は制御回路装置の入力となり、制御回路装置の出力に接続されている電子ビーム出力及びレーザーランプ出力にフィードバックされるようになっている。したがって、蒸着材料6の温度が所定の値となるように、制御回路装置により電子ビーム出力及びランプ出力を制御することができる。
【0028】
本発明における温度計としては、赤外放射温度計、赤外カメラ、熱伝対などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明における焼結体を含む蒸着材料を連続的に供給する方法としては、直線状やリング状で、Cu、Mo、BN、Wなどからなるハースライナーが挙げられる。図7のようにリング状のハースを用いる場合、電子銃7から照射される電子ビームは、ハース13の特定箇所に当たり、ハース13内の蒸着材料を加熱、蒸発させる。このハース13の中心を軸に一定速度で回転することにより、電子ビーム照射部にフレッシュな蒸着材料を送り込むことができる。蒸着材料の供給スピードは遅すぎると溶解状態が変化しやすく、早すぎると材料が十分に温まらず、スプラッシュや膜欠陥の原因となるため、材料の溶解状態に合わせて適したスピードが要求される。例えばMgFでは、およそ20mmφの照射面積で5kV、30mAの電子ビーム印加に対し、0.3〜1.0cm/minの材料供給速度が好ましい。
【0030】
本発明におけるフィルム搬送工程において、可視光透過率および反射率を監視できるように分光感度センサー11を設置してもよい。このセンサーの透過率および反射率データより、フィルム上の薄膜の厚さを計測し、成膜速度の安定性を確認・および電子ビーム出力及びYAGレーザーランプ出力にフィードバックされるようになっている。さらに、メインドラム5と蒸着材料6の間に開閉が自在であるシャッター12を設けてもよい。シャッター12は、蒸着材料6が成膜初期に十分温度上昇していないときに、付着エネルギーが小さく低密度になりやすい蒸着成分がメインドラム5上のフィルムに付着するのを防ぎ、蒸着材料6が十分に加熱された後に余分なフィルムを使用しないで安定したレートで成膜を行うのに有用である。
【実施例】
【0031】
<実施例1>
図2に示す装置において、100μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを真空槽1内に設置した後、図示していない真空ポンプにより真空槽1内を5×10−4Paまで排気した。このときPETフィルムはメインロール内の冷却水により10℃に冷却されている。
蒸着材料6としてMgFを用い、電子銃7により電子ビームを照射し、さらにYAGレーザーランプ8によりターゲット表面の加熱をアシストする。この電子ビームにより、焼結体を含む蒸着材料6は加熱され、同時にYAGレーザーランプ8のアシストにより材料表面の結合が軟化した部分がアタックされる。赤外放射温度計10で計測された蒸着材料6の温度が1050℃に保たれるように電子ビーム7の投入電力を制御した。このとき投入電力は5kVの加速電圧で20〜30mA程度となった。ここで、メインロール5を回転させてPETフィルムを連続的に流し、シャッター12を開けると、PETフィルム上にMgF膜が成膜される。分光感度センサー11により膜厚及び成膜速度を監視し、PETフィルム基板上に形成されるMgF膜の膜厚が物理的膜厚にして100nmとなるようメインロール5の回転速度を決定した。このときのドラム搬送速度は10.5m/minであった。また、MgF焼結体材料の入ったリングハース13は、0.6cm/minの速度で回転しながら連続的に供給した。その後、膜厚を分光感度センサー11で監視しながらYAGレーザーランプ8の投入電力を微調整して、安定した成膜速度を継続させた。
【0032】
このときの蒸着材料温度、電子ビーム投入電力、成膜速度の変化を図3に示す(成膜速度はシャッター12を開状態にした以降のみ)。図3に示すように、材料表面温度はほぼ一定に保たれ、成膜速度もほぼ一定であり、その成膜速度(ダイナミックデポジションレート)は約1000nm・m/minと通常の抵抗加熱蒸着法以上に速かった。
【0033】
こうして得られたMgF膜の屈折率は1.38と抵抗加熱蒸着法で得たものと同等に低かった。そして、図4に示すように、MgF膜の分光反射率は波長450〜650nmの範囲で2%以下であり反射防止膜として有効であった。また、可視域での膜の光吸収も0.5%以下と抵抗加熱蒸着法で得たものと同等に少なく、光学的に何ら問題はなかった。同じ条件で100m成膜したが、5m置きに測定したフィルムの光学性能や耐久性に全く差はなく、十分に再現性があることが確認できた。
【0034】
<比較例1>
実施例1と同様の真空蒸着装置、材料を用いて光学薄膜をPETフィルム上に成膜した。本比較例では、蒸着材料表面温度をフィードバックせず、電子ビーム投入電力を5.0kV加速で30mA一定とした。このときの材料表面温度、投入電力、成膜速度の変化を図5に示す。材料表面温度は経時的に不安定であり、また成膜速度が安定していない。また、同じ条件で100m成膜して、5m置きに測定したフィルムの特性は、膜の光吸収が増えたり、膜の機械的強度が劣化したりするものがあり、再現性に乏しかった。
【0035】
<比較例2>
実施例1と同様の真空蒸着装置を用いて、蒸着材料に焼結体を含まない粒径1〜2mmのMgF顆粒を用いて電子ビームを印加し、リングハースを回転して材料を供給しながらPETフィルム上に成膜したところ、顆粒材料の溶解部が均一にならず、レートが経時的に不安定になり、さらにスプラッシュも発生して欠陥の多い膜となってしまった。
【0036】
<実施例2>
本発明の実施例1と同じ真空蒸着装置を用いた。蒸着材料6には、MgFとAlFを重量比で2:1に混合し、焼結した材料を用いた。電子銃用には5.0kVの加速電圧で30〜35mAの電力を投入した。
【0037】
この場合も実施例1と同様にターゲット材料6の温度が1050℃に保たれるようにYAGレーザーランプ8の照射強度を制御した。この状態で実施例1と同様にして物理的膜厚にして150nmの反射防止膜を形成した。
【0038】
こうして得られた膜は、実施例1と同様に屈折率が低く、可視域での光吸収も少なく、可視域の反射防止膜として極めて有効であった。また、長時間安定性も非常に良く、成膜開始直後から成膜終了までおよそ15分に渡り、膜厚、屈折率、可視域透過率および密着強度がほぼ一定の反射防止膜が形成された。
【0039】
<実施例3>
本発明の実施例3を図1に基づいて説明する。図1は本実施例で用いる真空蒸着装置を示す概略構成図である。本実施例の成膜装置には、蒸着材料6に向かって、電子銃7、YAGレーザーランプ8が設置されている。さらに、ターゲット加熱をアシストするためにリングハース下部にシーズヒーター9を設置した。そして、赤外放射温度計10により測定した蒸着材料6の温度が所定の値となるように、制御回路装置により電子銃7の出力、YAGレーザーランプ8の出力ならびにシーズヒーター9の出力を制御することができるように構成されている。
その他の構成は、実施例1の真空蒸着装置と同様である。
【0040】
PETフィルム基板を真空槽1に設置した後、不図示の真空ポンプにより真空槽1内を3×10−4Paまで排気する。電子銃7へ5.0kVの加速電圧で30mAの電力を印加した。この電子ビームにより、MgFの蒸着材料6は加熱され、昇華温度まで達するとMgF分子が気相中へ飛び出す。
【0041】
このまま電子ビーム蒸着を行うと蒸着材料6の温度は経時的に変化し安定しないが、本実施例では蒸着材料6の温度が1050℃に保たれるようにYAGレーザーランプ8の出力とリングハース下部に設置したシーズヒーター9の出力を制御した。ここで、メインロール5を回転させてPETフィルムを連続的に流し、シャッター12を開けると、PETフィルム上にMgF膜が成膜される。分光感度センサー11により膜厚及び成膜速度を監視し、PETフィルム基板上に形成されるMgF膜の膜厚が物理的膜厚にして100nmとなるようメインロール5の回転速度を決定した。このときのドラム搬送速度は10.1m/minであった。その後、膜厚を分光感度センサー11で監視しながらYAGレーザーランプ8の投入電力を微調整して、安定した成膜速度を継続させた。このようにすることで、実施例1と同様に光吸収が少ないMgF膜を良好な成膜安定性で得ることができる。
【0042】
本発明の実施例3では、シーズヒーター9をリングハース下部に設置したが、これは他の箇所、例えば蒸着材料6の周囲等に設けても良いのはもちろんである。また、赤外線ヒータ等他の種類のヒータでも良い。
【0043】
<実施例4>
本発明の実施例1〜3ではMgFの単層反射防止膜を成膜する例を示してきたが、他の高屈折率層等と組み合わせて、多層の反射防止膜やハーフミラー、エッジフィルター等を形成することができる。ここでは1例として、表1に示す膜構成からなる4層の反射防止膜の例を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
本実施例では、PETフィルムに、TiO層とMgF層を交互に表1に示す膜厚で成膜した。ここで、MgF層は実施例3と同様の方法で形成し、高屈折率層であるTiO層はTiをターゲットとしAr及びOガスを導入しながら反応性パルスDCスパッタリング法により形成した。
【0046】
こうして得られた多層の反射防止膜の分光反射特性を図6に示す。本実施例の方法により成膜した反射防止膜は、波長450〜650nmで反射率が1%以下と極めて良好な特性が得られた。
【0047】
以上説明したように、本発明の請求項1〜4の光学薄膜の真空蒸着装置及び真空蒸着方法によれば、焼結体からなる蒸着材料温度を昇華温度に上昇させて安定化させて加熱装置の出力を制御しながら薄膜を形成するので、光吸収が少ないフッ化物の膜をプラスチックフィルム上に高速で、かつ極めて成膜安定性を高く成膜することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の真空蒸着装置を示す概略構成図
【図2】本発明の真空蒸着装置を示す概略構成図
【図3】実施例1の真空蒸着方法における材料表面温度、電子ビーム投入電力、成膜速度を示す図
【図4】実施例1で成膜した反射防止膜の分光反射率を示す図
【図5】比較例1における材料表面温度、投入電力、成膜速度を示す図
【図6】実施例4で成膜した反射防止膜の分光反射率を示す図
【図7】蒸着材料を連続供給するリングハースの概略図
【符号の説明】
【0049】
1 真空槽
2 巻出し部
3 巻取り部
4 プラスチックフィルム
5 メインロール
6 蒸着材料(焼結体)
7 電子銃
8 ランプ
9 加熱ヒータ
10 温度計
11 光学式分光感度センサー
12 シャッター
13 リングハース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、該真空槽の内部に配置されプラスチックフィルムを連続的に繰り出す巻出し部と、該巻出し部から繰り出された該プラスチックフィルムを巻き取る巻取り部と、該巻出し部と該巻取り部との間に配置されたメインロールと、該メインロールに対向配置されたフッ化物からなる蒸着材料と、電子銃およびレーザーランプを備え、該蒸着材料に該電子銃および該レーザーランプより電子ビームおよびランプ光を照射することで、該プラスチックフィルムに該蒸着材料を成膜する真空蒸着装置であって、
該蒸着材料がフッ化物の焼結体からなり、かつ、該蒸着材料を連続的に供給する手段を備えることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記蒸着材料の温度を測定する温度測定手段を有し、
該温度測定手段の出力に基づいて、該電子ビームの出力および該ランプ光の強度を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
真空雰囲気内でプラスチックフィルムを連続的に送り出し、該プラスチックフィルムをメインロールに密着させながら、フッ化物からなる蒸着材料に電子ビームおよびランプ光を照射することで、該プラスチックフィルムに該蒸着材料を蒸着させる真空蒸着方法であって、
該蒸着材料がフッ化物の焼結体からなり、かつ、該蒸着材料を連続的に供給することを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項4】
前記蒸着材料の温度を測定する温度計を有し、
該蒸着材料が所定の温度になるように、該電子ビームの出力および該ランプ光の強度を制御することを特徴とする請求項3に記載の真空蒸着方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−138250(P2008−138250A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325259(P2006−325259)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】