説明

真空蒸着装置

【課題】蒸着レートを正確に計測し、より高精度の膜厚制御を行うことを可能にする真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバー50と、基板保持機構と、蒸着源30と、モニタ用膜厚センサー20と、校正用膜厚センサー10と、制御系60と、を有し、蒸着源30の開口部32の中心から校正用膜厚センサー10までの距離L1と、蒸着源30の開口部32の中心からモニタ用膜厚センサー20までの距離L2との間にL1≦L2の関係が成り立ち、かつ、蒸着源30の開口部32の中心から基板40の成膜面に下ろした垂線と、蒸着源30の開口部32の中心と校正用膜厚センサー10とを結ぶ直線とでなす角度θ1と、蒸着源30の開口部32の中心から基板40の成膜面に下ろした垂線と、蒸着源30の開口部32の中心とモニタ用膜厚センサー20とを結ぶ直線とでなす角度θ2との間にθ1≦θ2の関係が成り立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置、特に、有機EL素子を作製するための真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、一般的に、透明導電膜(例えば、インジウム錫酸化物)からなる電極と金属(例えば、Al)からなる電極との間に、正孔輸送層、発光層、電子輸送層等からなる有機薄膜層が設けられてなる電子素子である。陽極側から注入された正孔と、陰極側から注入された電子が、それぞれ正孔輸送層、電子輸送層を介して発光層で再結合することで生じる励起子が基底状態に戻るときに、有機発光素子は発光する。
【0003】
ところで有機EL素子の製造方法の一つとして真空蒸着法が知られている。例えば、有機EL素子の構成材料(蒸着材料)をルツボに入れ、真空装置内で蒸着材料の気化温度以上に加熱することで、蒸着材料の蒸気を発生させ、有機EL素子の基体となる基板に蒸着材料を堆積して有機薄膜層を形成する。
【0004】
真空蒸着法を利用した有機EL素子の製造工程では、水晶振動子を用いた膜厚センサーにより蒸着レートをモニタし、蒸着材料の蒸発量(蒸気の発生量)を制御する方法が知られている。蒸着レートをモニタしなければ、成膜中の基板への付着量(基板上に形成される薄膜の膜厚)が不明となり、基板上での膜厚を目標とする値に合わせることが困難となるからである。
【0005】
しかし、水晶振動子への蒸着材料の付着量が多くなるに従い、膜厚センサーが示す蒸着レート指示値と、基板上での付着量に差異が生じてくる。これは、水晶振動子に付着する蒸着材料の増加に伴い、水晶振動子の周波数が変化することに起因する。この現象は、基板に形成される薄膜の膜厚の目標値との誤差の許容範囲が狭い場合に特に問題となる。通常、有機EL素子の一層当たりの膜厚は、数十nm〜100nm程度であることから、膜厚の目標値との誤差の許容範囲が数ナノメートルの単位となる。そうすると、蒸着レート指示値と基板上での付着量(基板上に形成される薄膜の膜厚)の差は製造歩留り低下の要因になり得る。
【0006】
上記の問題を解決する手段として、特許文献1にて開示される、膜厚制御用の膜厚センサーと膜厚校正用の膜厚センサーとを備えた真空蒸着装置がある。特許文献1の真空蒸着装置では、蒸着レートを一定に保つ為に、膜厚制御用の膜厚センサーの測定誤差を、膜厚校正用の膜厚センサーにて校正する。こうすることで基板への蒸着材料の付着量を安定的に目標値に収めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−122200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1においては、蒸着源と各々のセンサーとの距離は、等距離であると示されている。しかし、一般的には蒸着源の開口部から蒸発する蒸着材料の分布が楕円球体になる(COS(コサイン)則に従う。)。これを考慮すると、特許文献1の真空蒸着装置のセンサーの配置は、間欠的に利用する膜厚校正用の膜厚センサーに入射する蒸着材料の付着量が少なくなる可能性があり、校正精度を高めるには不十分な構成であった。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、蒸着レートを正確に計測し、より高精度の膜厚制御を行うことを可能にする真空蒸着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の真空蒸着装置は、真空チャンバーと、
基板を保持する基板保持機構と、
前記基板に成膜するための蒸着材料の蒸気を発生させる蒸着源と、
前記基板に前記蒸着材料を成膜する際に、センサー部に付着する前記蒸着材料の付着量を計測するためのモニタ用膜厚センサーと、
前記モニタ用膜厚センサーによって計測される付着量を校正するための校正用膜厚センサーと、
前記モニタ用膜厚センサーによって計測される前記蒸着材料の付着量に基づいて前記蒸着材料の蒸着レートを算出し、算出された前記蒸着レートに基づいて前記蒸着源の温度制御を行う制御系と、を有し、
前記蒸着源の開口部の中心から前記校正用膜厚センサーまでの距離L1と、前記蒸着源の開口部の中心から前記モニタ用膜厚センサーまでの距離L2との間にL1≦L2の関係が成り立ち、かつ、
前記蒸着源の開口部の中心から前記基板の成膜面に下ろした垂線と、前記蒸着源の開口部の中心と前記校正用膜厚センサーとを結ぶ直線とでなす角度θ1と、前記蒸着源の開口部の中心から前記基板の成膜面におろした垂線と、前記蒸着源の開口部の中心と前記モニタ用膜厚センサーとを結ぶ直線とでなす角度θ2との間にθ1≦θ2の関係が成り立つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蒸着レートを正確に計測し、より高精度の膜厚制御を行うことを可能にする真空蒸着装置を提供することができる。
【0012】
具体的には、本発明の真空蒸着装置は、校正精度の高い位置に校正用膜厚センサーを配置して、間欠的に校正されるモニタ用膜厚センサーの計測データにより蒸着源を制御している。この構成にすることで、基板に成膜される蒸着材料の蒸着レートを高精度で管理し、有機EL素子の製造歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の真空蒸着装置における第一の実施形態を示す模式図であり、(a)は、真空蒸着装置の全体を示す模式図であり、(b)は、(a)の真空蒸着装置を構成する制御系の概要を示す回路ブロック図である。
【図2】校正工程の例を示すフロー図である。
【図3】本発明の真空蒸着装置における第二の実施形態を示す模式図である。
【図4】本発明の真空蒸着装置における第三の実施形態を示す模式図である。
【図5】本発明の真空蒸着装置における第四の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の真空蒸着装置は、真空チャンバーと、基板保持機構と、蒸着源と、モニタ用膜厚センサーと、校正用膜厚センサーと、制御系と、を有している。
【0015】
ここで基板保持機構は、基板を保持するための部材である。蒸着源は、基板に成膜するための蒸着材料の蒸気を発生させるための部材である。モニタ用膜厚センサーは、基板に蒸着材料を成膜する際に、センサー部に付着する前記蒸着材料の付着量を計測するための部材である。校正用膜厚センサーは、上記モニタ用膜厚センサーによって計測される付着量を校正するための部材である。制御系は、モニタ用膜厚センサーによる計測データに基づいて蒸着源の温度制御を行うための部材である。
【0016】
本発明の真空蒸着装置において、蒸着源の開口部の中心から校正用膜厚センサーまでの距離L1は、蒸着源の開口部の中心からモニタ用膜厚センサーまでの距離L2との間にはL1≦L2の関係が成り立っている。ここで距離とは、2つの部材間の直線距離をいうものである。具体的には、蒸着源(の開口部中心)とセンサー(モニタ用膜厚センサー・校正用膜厚センサー)とが特定の空間座標(xyz空間座標)内に、それぞれ(x1,y1,z1)と(x2,y2,z2)とに配置される場合に下記式(i)内のdで表される。
d={(x2−x12+(y2−y12+(z2−z121/2 (i)
【0017】
尚、センサー側の座標である(x2,y2,z2)は、具体的には、センサーの成膜面の中心点の座標をいうものである。
【0018】
ここで蒸着源の開口部の中心から基板の成膜面に下ろした垂線と、蒸着源の開口部の中心と校正用膜厚センサーとを結ぶ直線とでなす角度をθ1とする。一方、蒸着源の開口部の中心から基板の成膜面に下ろした垂線と、蒸着源の開口部の中心とモニタ用膜厚センサーとを結ぶ直線とでなす角度をθ2とする。本発明の真空蒸着装置において、角度θ1と角度θ2との間にはθ2≧θ1の関係が成り立っている。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の真空蒸着装置における第一の実施形態を示す模式図である。ここで(a)は、真空蒸着装置の全体を示す模式図であり、(b)は、(a)の真空蒸着装置を構成する制御系の概要を示す回路ブロック図である。図1(a)の真空蒸着装置1は、真空チャンバー50内に、校正用膜厚センサー10と、モニタ用膜厚センサー20と、蒸着源30と、基板保持機構(不図示)とが所定の位置に設けられている。尚、蒸着源30に対する校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20の相対的位置については後述する。
【0020】
図1の真空蒸着装置1において、基板保持機構は、基板40を保持するために設けられる部材であって、マスク41に載置された基板40をマスク41にて支持して保持する。制御系60は、真空チャンバー50の外側に設けられ、膜厚制御器61と温度制御器62とを有している。図1(a)及び(b)に示されように、真空チャンバー50内に設けられる2種類のセンサー(校正用膜厚センサー10、モニタ用膜厚センサー20)は、膜厚制御器61に電気接続されている。また図1(a)及び(b)に示されように、真空チャンバー50内に設けられる蒸着源30は、温度制御器62に電気接続されている。
【0021】
蒸着源30は、蒸着材料31を収容するルツボと、ルツボを加熱するためのヒーターと、蓋と、蓋に備えられた開口部32と、リフレクターと、を備えている。蒸着材料31は、ルツボ内で加熱され、蓋に設けられた開口部32から蒸気が放出される。蒸着源30から発生する蒸着材料の蒸気は、マスク41を介して成膜用の基板40の成膜面上に付着する。これにより基板40の所定の領域に薄膜が形成される。
【0022】
蒸着源30から発生する蒸着材料の蒸気が基板40に堆積する速度(蒸着レート)は、水晶振動子を備えたモニタ用膜厚センサー20のセンサー部(不図示)に付着する蒸着材料の付着量から算出される。モニタ用膜厚センサー20は、センサー部に付着した蒸着材料の付着量、即ち、計測データを、膜厚制御器61に出力する。膜厚制御器61は、出力されたモニタ用膜厚センサー20の計測データを基にして蒸着レートを算出し、温度制御器62を用いて蒸着源30のヒーターパワーを制御する。一方、モニタ用膜厚センサー20の計測データを校正する校正値を出力するために、水晶振動子を備えた校正用膜厚センサー10が設けられている。ここで2つのセンサー(校正用膜厚センサー10、モニタ用膜厚センサー20)は、蒸着源30から発生し基板40に向かう蒸着材料の蒸気を遮ることのない位置に配置されている。
【0023】
ここで、開口部32の中心点から、校正用膜厚センサー10の成膜面の中心点までの距離をL1とする。一方、開口部32の中心点から、モニタ用膜厚センサー20の成膜面の中心点までの距離をL2とする。図1の真空蒸着装置1においては、L2の方がL1よりも長い関係(L1<L2)になっており、L1≦L2の関係を満たしている。
【0024】
また、開口部32の中心点から基板40の成膜面に下ろした垂線と、開口部32の中心点と校正用膜厚センサー10の成膜面の中心点とを結ぶ直線とでなす角度をθ1とする。一方、開口部32の中心点からから基板40の成膜面に下ろした垂線と、開口部32の中心点とモニタ用膜厚センサー20の成膜面の中心点とを結ぶ直線とでなす角度をθ2とする。図1の真空蒸着装置1においては、θ1よりもθ2が大きい関係(θ1<θ2)となっており、θ1≦θ2の関係を満たしている。尚、センサーの感度をよりよくするために、各膜厚センサーを設ける際には、各膜厚センサーの成膜面が当該成膜面の中心点と開口部32の中心点とを結ぶ直線と垂直になるように、設置位置を調整するのが好ましい。
【0025】
図1の真空蒸着装置1において、校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20の少なくともどちらか一方が、蒸着材料31の蒸気を遮断するためのセンサーシャッター(不図示)を備えていてもよい。またセンサーシャッターの代わりに、蒸着材料31の蒸気を間欠的に遮断するための蒸着量制限機構(不図示)を備えていてもよい。
【0026】
図1の真空蒸着装置1において、真空チャンバー50にアライメント機構(不図示)を設けておいて、高精細マスクと精密アライメント蒸着とを併用した微細パターン形成を行ってもよい。
【0027】
真空チャンバー50内にある空気を排気するための真空排気系(不図示)は、迅速に高真空領域まで排気できる能力を持った真空ポンプを用いた真空排気系とすることが望ましい。ここで図1の真空蒸着装置1を有機EL素子の製造に用いる場合は、ゲートバルブ(不図示)を介して他の真空装置と接続した上で、有機EL素子を作製するための様々な工程を行えばよい。ここで有機EL素子の製造装置は、様々な工程を行う真空チャンバーが複数備えてあることが望ましい。このため図1の真空蒸着装置1を構成する真空チャンバー50は、有機EL素子の製造装置の一部材であることが望ましい。
【0028】
蒸着源30の蓋に設けられた開口部32の開口面積、開口形状、材質等は個別に異なっていてもよく、開口形状は、円形、矩形、楕円形等、どのような形状でもよい。開口面積及び開口形状がそれぞれ異なることにより、基板40上での膜厚制御性がより向上する場合がある。また同じ理由で、蒸着源30のルツボの形状、材質等は個別に異なっていてもよい。
【0029】
図1の真空蒸着装置1を用いて、有機発光装置に設けられる有機EL素子の有機EL層を作製する例について以下に説明する。有機EL素子は、第1電極と、第2電極と、これらの電極に挟まれた有機EL層と、を備えている。
【0030】
まず蒸着源30のルツボに、蒸着材料31として有機EL材料であるトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(以下、Alq3とする)を10.0g充填した。蒸着源30のルツボに充填されたAlq3は、蒸着源30に設けられた少なくとも一つの開口部32を介して蒸着源30から蒸散する。ここで蒸着源30は、基板40の成膜面に対向して配置されており、基板40はマスク41に接触して設置されている。また蒸着源30の開口部32の中心点から、基板40の成膜面までの距離を300mmに設定した。
【0031】
校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20は、基板40に向かう蒸着源30から発生した蒸気を遮ることのない位置に配置した。具体的には、校正用膜厚センサー10については、L1を200mm、θ1を30°と設定した。一方、モニタ用膜厚センサー20については、L2を300mm、θ2を45°と設定した。L1、L2、θ1、θ2は、蒸着条件によって蒸着材料の分布が異なるため、蒸着条件に応じて適宜決める必要がある。尚、校正用膜厚センサー10の近傍にはセンサーシャッター(不図示)を設けて蒸着材料の蒸気を適宜遮断できるようにした。
【0032】
ところで、蒸着源30から発生する蒸着材料31の蒸気量は、開口部32の中心から基板40の成膜面に下ろした垂線との距離が近いほど多く、さらに開口部32の中心点に近いほど多くなる。ここで上記条件に従い校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20を配置することで、モニタ用膜厚センサー20よりも校正用膜厚センサー10への蒸着材料31の入射量が増す。このように校正用膜厚センサー10への蒸着材料31の入射量が増加することにより、基板上に成膜される薄膜膜厚との差異が小さくなり、校正用膜厚センサー10の校正精度を向上させることができる。また、モニタ用膜厚センサー20への蒸着材料31の入射量が比較的少ないため、水晶振動子の周波数の変化率を小さくして長期間使用することが可能となる。
【0033】
基板40として、有機発光装置を駆動するための回路と第1電極が設けられた、100mm×100mm×厚さ0.7mmのガラス基板を基板ストック装置(不図示)に複数枚セットした。
【0034】
次に、基板ストック装置内を真空排気系(不図示)により1.0×10-4Pa以下に排気した。真空チャンバー50内も、真空排気系(不図示)により1.0×10-4Pa以下まで排気し、排気した後に蒸着源30に備えられたヒーターで蒸着材料31を200℃まで加熱した。ヒーターパワーは蒸着源30に備えられた熱電対(不図示)の温度に基づいて、温度制御器62により制御した。
【0035】
モニタ用膜厚センサー及び校正用膜厚センサーを実際の成膜に使用する前に、各膜厚モニタによって算出される膜厚値と基板に成膜される膜厚の実測値との差異を補正するための校正係数をあらかじめ求めておく必要がある。そこで、モニタ用膜厚センサー20において、蒸着レートが膜厚制御器61での指示値で1.0nm/secとなる温度まで蒸着材料31を加熱した。蒸着レートは、モニタ用膜厚センサー20からの信号を膜厚制御器61が受け取って蒸着レート値に換算し、膜厚制御器61の表示部に出力する。さらに、膜厚制御器61は、目標とする蒸着レートと実際にモニタ用膜厚センサーに付着した蒸着材料の量から換算した蒸着レートとの差を算出する。そして、この差を低減するための信号を、温度制御器62へ送り、蒸着源30へのヒーターパワーを制御する。
【0036】
モニタ用膜厚センサー20において、蒸着レートが1.0nm/secとなったところで、基板ストック装置(不図示)から基板搬送機構(不図示)を用いて、ゲートバルブ(不図示)を介して真空チャンバー50へ基板40を1枚搬入し、成膜を行った。モニタ用膜厚センサー20上に堆積される薄膜の膜厚が100nmとなるまで成膜を行い、成膜を終えた基板40を直ちに真空チャンバー50から搬出した。成膜された基板40の膜厚を、エリプソメーターで測定し、モニタ用膜厚センサー20上に堆積した薄膜の膜厚値と比較し、新しいモニタ用膜厚センサー20の校正係数b2を下記に示す数式(1)で算出した。
2=b1×(t1/t2) (1)
【0037】
式(1)において、t1は、基板40上の薄膜の膜厚を表し、t2は、目標膜厚(ここでは100nm)を表す。また式(1)において、b1は、あらかじめ装置に設定されていた成膜時のモニタ用膜厚センサー20の校正係数を表し、b2は、モニタ用膜厚センサー20の新しい校正係数を表す。
【0038】
式(1)で示される蒸気数式を利用することで、基板40上の薄膜の膜厚とモニタ用膜厚センサー20上の膜厚を合わせることができる。
【0039】
基板40上の膜厚と校正用膜厚センサー10についても、モニタ用膜厚センサー20と同様の方法で校正係数を求めることができる。具体的には、基板40への成膜工程時に校正用膜厚センサー10のセンサーシャッター(不図示)を開き、モニタ用膜厚センサー20と同様に上記の算出式(式(1))で膜厚を合わせる。ここで校正用膜厚センサー10の場合では、b1をb1’(あらかじめ装置に設定されていた校正用膜厚センサー10の校正係数)、b2をb2’(校正用膜厚センサー10の新しい校正係数)に置き換える。尚、成膜が完了した後は、開いているセンサーシャッター(不図示)を閉じておく。
【0040】
上記方法にて得られたモニタ用膜厚センサー20の新しい校正係数を、膜厚制御器61を介して成膜時のモニタ用膜厚センサー20の校正係数と置き換え、引き続き、蒸着レートが再び1.0nm/secとなる温度まで蒸着材料31を加熱した。そして、校正用膜厚センサー10の新しい校正係数も、膜厚制御器61を介して成膜時の校正用膜厚センサー10の校正係数と置き換える。
【0041】
以上に示す校正係数を算出する工程を、同じ成膜条件下で基板40上に成膜される薄膜の膜厚と、校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20に付着する膜厚との差が±2.0%以内となるまで繰り返し行った。
【0042】
次に、モニタ用膜厚センサー20を用いて蒸着レートを1.0nm/secに保ち、基板ストック装置から1枚ずつ基板40を連続的に搬入して基板40に成膜を行った。その間、モニタ用膜厚センサー20の水晶振動子の周波数が0.015MHz低下する毎に搬入された基板40は膜厚モニタ用として成膜を行った。膜厚モニタ用の基板40への成膜を行う前に、校正用膜厚センサー10の近傍に設けられたセンサーシャッター(不図示)を開き、校正用膜厚センサー10によって計測された蒸着レートに基づく校正値を求めた。この校正値により、モニタ用膜厚センサー20の蒸着レートを校正した。
【0043】
以下、図面を参照しながら、モニタ用膜厚センサー20の蒸着レートの校正を行う工程(校正工程)の具体例について説明する。図2は、校正工程の例を示すフロー図である。本実施例では、図2のフロー図に従って校正工程を行った。
【0044】
まず、モニタ用膜厚センサー20及び校正用膜厚センサー10に、それぞれAlq3の薄膜(蒸着膜)を堆積させた。このとき膜厚制御器61を用いて各センサーに付着した薄膜の膜厚を換算した。次に、モニタ用膜厚センサー20に付着する薄膜の膜厚と、校正用膜厚センサー10に付着する薄膜の膜厚とを比較し、新しいモニタ用膜厚センサー20の校正係数a2を下記に示す数式(2)で算出した。
2=a1×(T1/T2) (2)
【0045】
式(2)において、a1は、成膜時のモニタ用膜厚センサー20の校正係数を表し、a2は、モニタ用膜厚センサー20の新しい校正係数を表す。T1は、校正用膜厚センサー10上の薄膜の膜厚を表し、T2は、モニタ用膜厚センサー20上の薄膜の膜厚を表す。
【0046】
ここで、T1及びT2が同じ時間で付着した膜厚とすると、上記式(2)に基づいて、モニタ用膜厚センサー20上の薄膜の膜厚と、校正用膜厚センサー10上の薄膜の膜厚を合わせることができる。以上に説明した校正工程を実施することで、モニタ用膜厚センサー20の周波数減衰に伴う蒸着レートの誤差を校正することができる。
【0047】
尚、校正用膜厚センサー10の近傍に設けられるセンサーシャッター(不図示)は、校正用膜厚センサー10上の薄膜の膜厚(T1)を換算した後に閉じられる。そしてモニタ用膜厚センサー20の新しい校正係数a2を、膜厚制御器60の成膜時のモニタ用膜厚センサー20の校正係数a1と置き換えて、この校正係数(a2)を、モニタ用膜厚センサー20の新しい校正係数a1とする。
【0048】
次に、新たなモニタ用膜厚センサー20の校正係数を膜厚制御器60に入力した後、蒸着レートが目標レートの1.0nm/secになるよう、蒸着源30を温度制御器61で制御した。そしてモニタ用膜厚センサー20にて、目標レートが1.0nm/secになった後、基板40への成膜を実施した。上記の成膜をモニタ用の基板40が10枚になるまで繰り返し行った。
【0049】
上記の方法で成膜によって得られた10枚の膜厚モニタ用の基板40の中央部付近の膜厚をエリプソメーターにより測定した。その結果、目標膜厚100nmに対して、測定膜厚は100nm±2.0%以内の範囲にあった。これは、モニタ用膜厚センサー20への蒸着材料31の付着に伴い、水晶振動子の周波数が減衰し、目標膜厚から外れていく現象を、校正精度の高い位置に配置された校正用膜厚センサー10によって改善できたことを示している。このことから、長期間にわたってAlq3膜を目標膜厚に対して精度良く成膜できていたことが判った。膜厚モニタ用の基板以外の基板は、第2電極を形成した後、有機EL素子をガラスからなる封止部材で覆い、有機発光装置とした。得られた複数の有機発光装置の間で輝度ずれや色ずれは観察されなかった。
【0050】
以上より、有機EL素子を製造するにあたって、本実施例における真空蒸着装置を使用して有機EL素子を構成する薄膜を形成することにより、長期にわたって各層の膜厚が制御された有機EL素子を製造することができる。その結果、収率良く有機発光装置を製造することができる。
【0051】
本実施例においては、蒸着源30として図1に示す構成を用いたが、これに限定されるものではない。またマスク41に高精細マスクを用いる場合は、アライメントステージを併用して高精細マスク蒸着を行ってもよいし、精密アライメント蒸着による微細パターン形成を行ってもよい。
【0052】
[比較例1]
実施例1の効果を検証するために、特許文献1に示される従来の真空蒸着装置で成膜した場合の比較実験を行った。本比較例では、特許文献1の図を考慮して、L1=L2かつθ1>θ2となるように校正用膜厚センサー及びモニタ用膜厚センサーをそれぞれ配置した。この構成で、真空チャンバー内の被成膜物に向けて、蒸着源からAlq3の蒸気を発生させ、モニタ用膜厚センサーにおいて蒸着レートが1.0nm/secとなる温度まで蒸着源を加熱した。基板への成膜方法は、本発明と同じ方法で行い、10枚の膜厚モニタ用の基板の中央部付近の膜厚をエリプソメーターにより測定したところ、目標膜厚100nmに対して、測定膜厚が±2.0%の範囲に入らない場合があった。これは校正用膜厚センサーに入射する蒸着材料の量が少ないため、モニタ用膜厚センサーを精度良く校正できない場合があったためと考えられる。これらの結果より、基板上に一定の膜厚で蒸着材料を成膜するに当って、従来の真空蒸着装置よりも、本発明の真空蒸着装置が優れていることがわかった。
【0053】
[実施例2]
ところで実施例1においては、モニタ用膜厚センサー20の水晶振動子の周波数が0.015MHz低下する毎に成膜前の校正工程及びモニタ用の基板への成膜を実施したが、これに限定されるものではない。また、各膜厚センサーの配置は、L1≦L2かつθ1≦θ2の関係を満たしていればよく、図1の真空蒸着装置1のように、L1<L2かつθ1<θ2の関係を満たすような形態に限定されるものではない。
【0054】
図3は、本発明の真空蒸着装置における第二の実施形態を示す模式図である。図3の真空蒸着装置2は、実施例1と同様の蒸着条件で成膜する場合において、2種類のセンサー(校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20)が、L1=L2(=200mm)かつθ1=θ2(=30°)の関係を満たしている形態である。尚、図3の真空蒸着装置2において、2種類のセンサー(校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20)は、開口部32の中心から基板40の成膜面に下ろした垂線をはさんで対向するように配置されている。ただし本発明において2種類のセンサーの配置位置はこれに限定されるものではない。
【0055】
[実施例3]
図4は、本発明の真空蒸着装置における第三の実施形態を示す模式図である。図4の真空蒸着装置3は、実施例1と同様の蒸着条件で成膜する場合において、2種類のセンサー(校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20)が、L1(=200mm)<L2(=300mm)かつθ1=θ2(=30°)の関係を満たしている形態である。
【0056】
[実施例4]
図5は、本発明の真空蒸着装置における第四の実施形態を示す模式図である。図5の真空蒸着装置4は、実施例1と同様の蒸着条件で成膜する場合において、2種類のセンサー(校正用膜厚センサー10及びモニタ用膜厚センサー20)が、L1=L2(=200mm)かつθ1(=30°)<θ2(=40°)の関係を満たしている形態である。
【0057】
図1及び図3乃至図5のいずれの真空蒸着装置においても、校正用膜厚センサー10への蒸着材料の入射量が増すので、校正精度を向上させることができる。また実施例1と同様に、実施例2乃至4の真空蒸着装置においても校正用膜厚センサー及びモニタ用膜厚センサーのいずれか一方が、蒸着材料の蒸気を遮断するためのセンサーシャッターを備えていてもよい。また、センサーシャッターの代わりに、蒸着材料の蒸気を間欠的に遮断するための蒸着量制限機構を備えていてもよい。また基板40、校正用膜厚センサー10、モニタ用膜厚センサー20の膜厚値を合わせるのに必要な校正係数を算出する工程は、実施例1の方法に限らず、各膜厚値が目標範囲内におさまればよい。例えば、予め基板40とモニタ用膜厚センサー20の膜厚値を合わせ、次にモニタ用膜厚センサー20と校正用膜厚センサー10の膜厚値を合わせる方法を採用してもよい。また、基板40を保持する基板保持機構(不図示)が、蒸着材料の蒸気を遮断するためのシャッターを備えていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1(2,3,4):真空蒸着装置、10:校正用膜厚センサー、20:モニタ用膜厚センサー、30:蒸着源、31:蒸着材料、32:(蒸着源の)開口部、40:基板、41:マスク、50:真空チャンバー、60:制御系、61:膜厚制御器、62:温度制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバーと、
基板を保持する基板保持機構と、
前記基板に成膜するための蒸着材料の蒸気を発生させる蒸着源と、
前記基板に前記蒸着材料を成膜する際に、センサー部に付着する前記蒸着材料の付着量を計測するためのモニタ用膜厚センサーと、
前記モニタ用膜厚センサーによって計測される付着量を校正するための校正用膜厚センサーと、
前記モニタ用膜厚センサーによって計測される前記蒸着材料の付着量に基づいて前記蒸着材料の蒸着レートを算出し、算出された前記蒸着レートに基づいて前記蒸着源の温度制御を行う制御系と、を有し、
前記蒸着源の開口部の中心から前記校正用膜厚センサーまでの距離L1と、前記蒸着源の開口部の中心から前記モニタ用膜厚センサーまでの距離L2との間にL1≦L2の関係が成り立ち、かつ、
前記蒸着源の開口部の中心から前記基板の成膜面に下ろした垂線と、前記蒸着源の開口部の中心と前記校正用膜厚センサーとを結ぶ直線とでなす角度θ1と、前記蒸着源の開口部の中心から前記基板の成膜面におろした垂線と、前記蒸着源の開口部の中心と前記モニタ用膜厚センサーとを結ぶ直線とでなす角度θ2との間にθ1≦θ2の関係が成り立つことを特徴とする、真空蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空蒸着装置を用いて有機EL材料からなる膜を基板、前記モニタ用膜厚センサー及び前記校正用膜厚センサーに堆積する工程と、
前記モニタ用膜厚センサーによって計測された付着量に基づいて算出された膜の膜厚と、前記校正用膜厚センサーによって計測された付着量に基づいて算出された膜の膜厚とを比較して、前記モニタ用膜厚センサーの校正係数を求める工程と、を有することを特徴とする、有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−112034(P2012−112034A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211797(P2011−211797)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】