説明

眼科手術用顕微鏡

【課題】撮影フレームにおける患者眼の描画位置によらずに乱視軸角度を高確度で測定することが可能な眼科手術用顕微鏡を提供する。
【解決手段】眼科手術用顕微鏡1の記憶部70には、少なくとも撮影光学系のパワー分布に起因する乱視パラメーターの分布を表す乱視分布情報71が記憶されている。乱視情報算出部92は、LED群131−iからの光が投影された状態の患者眼Eを撮像素子56aにより撮影して得られた画像に基づいて乱視情報を算出する。乱視情報補正部93は、この乱視情報を乱視分布情報71に基づいて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は眼科手術用顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
患者眼の乱視軸角度を測定し、その測定結果を患者眼に投影することが可能な眼科手術用顕微鏡が知られている(たとえば特許文献1を参照。特許文献1の記載内容はこの明細書に援用される。)。この眼科手術用顕微鏡は、円形状に配列された複数の輝点を患者眼に投影し、これら投影像の配置状態に基づいて乱視軸角度を算出するものであり、乱視矯正用のトーリックIOL(Intraocular Lens)の移植手術などに用いられる。
【0003】
効果的に乱視を矯正するには、乱視度数だけでなく乱視軸角度も重要である。したがって、トーリックIOLを移植する際には、レンズの配置方向を高確度で調整する必要がある。特許文献1の眼科手術用顕微鏡は、このようなニーズを充足するものである。また、乱視軸角度を患者眼に直接マーキングする従来の方法を採らなくてよいという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−110172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、眼科手術において術者は、患者眼に対する顕微鏡の位置合わせを適宜手動で行う。これは、自動でアライメントを行う眼科装置(オートレフラクトメータ等)と異なる点である。このような事情により、眼科手術用顕微鏡においては、撮影フレームの中心から外れた位置に患者眼が描画され、画像に歪曲収差が発生することがある。そうすると、乱視軸角度の測定結果に誤差が介在してしまう。
【0006】
また、特許文献1において上記投影像を形成する器具は、顕微鏡本体に着脱可能とされており、様々な顕微鏡とともに使用される。よって、この器具を用いた乱視軸測定は、顕微鏡光学系やカメラの条件に影響を受ける。たとえば顕微鏡光学系は固有の収差を有しており、またカメラによる映像をキャプチャする際のアスペクト比もそれぞれである。このような条件の違いは乱視軸角度の測定結果に影響を与える。特に、撮影フレームにおける患者眼の描画位置に応じて測定結果への影響も異なってくる。
【0007】
この発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、撮影フレームにおける患者眼の描画位置によらずに乱視軸角度を高確度で測定することが可能な眼科手術用顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡は、患者眼を照明する照明光学系と、照明された前記患者眼を撮影する撮像素子を含む撮影光学系とを有する光学系と、前記光学系の少なくとも一部が格納された本体部と、前記本体部に装着され、リング状に配列された複数の輝点を有する装着部と、前記複数の輝点が投影された状態の前記患者眼を前記撮像素子により撮影して得られた画像に基づいて乱視情報を算出する算出部と、少なくとも前記撮影光学系のパワー分布に起因する乱視パラメーターの分布を表す乱視分布情報があらかじめ記憶された記憶部と、前記算出部により算出された乱視情報を前記乱視分布情報に基づいて補正する補正部と、を備える眼科手術用顕微鏡である。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記算出部により算出される前記乱視情報は乱視軸角度を含み、前記補正された乱視軸角度に対応する位置の輝点を前記複数の輝点のうちから特定し、前記特定された輝点の態様と他の輝点の態様とを相違させる制御部を更に備える、ことを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記乱視分布情報には、前記撮像素子による撮影画像のフレーム中の各位置における前記乱視パラメーターが記録されていることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記乱視分布情報には、前記撮像素子による撮影画像のフレーム中の複数の位置における前記乱視パラメーターの測定結果に最小二乗法を適用して得られた情報が記録されていることを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記撮像素子による撮影画像に基づいて、当該フレーム中の複数の位置のそれぞれにおける前記乱視パラメーターを求め、求められた複数の乱視パラメーターに最小二乗法を適用して前記乱視分布情報を生成する生成部を更に備えることを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記生成部は、前記複数の輝点が投影された状態の無乱視模型眼の像が前記複数の位置にそれぞれ描画された複数の前記撮影画像に基づいて、前記複数の乱視パラメーターとしての複数の乱視度数及び乱視軸角度の組を求めることを特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記生成部は、前記複数の乱視度数及び乱視軸角度の組のそれぞれについて、当該乱視度数Cを動径とし、かつ当該乱視軸角度θの2倍の値2θを偏角とする極座標(C、θ)に対応する2次元直交座標(X、Y)を求め、求められた複数の2次元直交座標(X、Y)における複数の座標Xに最小二乗法を適用して前記フレームの一部又は全部にわたる第1のn次近似曲面を算出し、前記複数の2次元直交座標(X、Y)における複数の座標Yに最小二乗法を適用して前記フレームの一部又は全部にわたる第2のn次近似曲面を算出し、算出された前記第1のn次近似曲面及び前記第2のn次近似曲面を前記乱視分布情報とする、ことを特徴とする。
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記算出部は、前記乱視情報として乱視度数と乱視軸角度とを算出し、前記補正部は、前記算出部により算出された乱視度数Cを動径とし、かつ当該乱視軸角度θの2倍の値2θを偏角とする極座標(C、θ)に対応する2次元直交座標(X、Y)を求め、前記撮像素子により得られた前記患者眼の画像に描画された前記複数の輝点の像の楕円配列の中心位置における前記第1のn次近似曲面の座標X及び前記第2のn次近似曲面の座標Yを、それぞれ前記座標X及び前記座標Yから減算し、この減算によって得られた座標X−X及び座標Y−Yを極座標に変換して乱視度数及び乱視軸角度を求める、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る眼科手術用顕微鏡によれば、少なくとも撮影光学系のパワー分布に起因する乱視パラメーターの分布を表す乱視分布情報を用いて、患者眼の乱視情報の測定値を補正することができる。したがって、撮影フレームにおける患者眼の描画位置によらずに乱視軸角度を高確度で測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の眼科手術用顕微鏡の外観構成の一例を表す概略図である。
【図2】実施形態の眼科手術用顕微鏡における投影像形成部の構成の一例を表す概略図である。
【図3】実施形態の眼科手術用顕微鏡における投影像形成部の構成の一例を表す概略図である。
【図4】実施形態の眼科手術用顕微鏡における光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図5】実施形態の眼科手術用顕微鏡における光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図6】実施形態の眼科手術用顕微鏡における制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図7】実施形態の眼科手術用顕微鏡における表示画面の一例を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明に係る眼科手術用顕微鏡の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
[構成]
〔外観構成〕
この実施形態に係る眼科手術用顕微鏡1の外観構成について図1を参照しつつ説明する。眼科手術用顕微鏡1は、支柱2、第1アーム3、第2アーム4、駆動装置5、顕微鏡6及びフットスイッチ8を含んで構成される。
【0013】
駆動装置5は、モータ等のアクチュエータを含んで構成される。駆動装置5は、フットスイッチ8の操作レバー8aを用いた操作に応じて顕微鏡6を上下方向や水平方向に移動させる。それにより顕微鏡6は3次元的に移動可能とされる。
【0014】
顕微鏡6の鏡筒部10には、各種光学系や駆動系などが収納されている。鏡筒部10の上部にはインバータ部12が設けられている。インバータ部12は、患者眼Eの観察像が倒像として得られる場合に、この観察像を正立像に変換する。インバータ部12の上部には、左右一対の接眼部11L、11Rが設けられている。観察者(術者等)は、左右の接眼部11L、11Rを覗き込むことで患者眼Eを双眼視できる。顕微鏡6は「本体部」の一例である。
【0015】
眼科手術用顕微鏡1は投影像形成部13を有する。投影像形成部13は、顕微鏡6に対して着脱可能とされており、患者眼Eに光束を投射して所定の投影像を患者眼E上に形成する。投影像形成部13は「装着部」の一例である。
【0016】
投影像形成部13の構成例を図2及び図3に示す。図2中の符合14は撮影部を表している。撮影部14には後述のTVカメラ56等が格納されている。また、図3は、投影像形成部13のヘッド部131を下方(つまり、患者眼Eの側、換言すると鏡筒部10の反対側)から見たときの構成を表している。
【0017】
図2及び図3に示すように、ヘッド部131は板状の部材である。図3に示すように、ヘッド部131には、円環状の外周部131aと、外周部131aの直径方向に橋設された固視光源保持部131bが設けられている。
【0018】
外周部131aの下面には複数のLED131−i(i=1〜N)が設けられている。LED群131−iはリング状に配列されている。この実施形態では、36個のLED131−iが等間隔に設けられている(N=36)。すなわち、LED群131−iの中心位置に対して、LED群131−iは10度間隔の角度で配置されている。換言すると、各LED131−iと当該中心位置とを結ぶ線分を考慮すると、隣接する2個のLED131−i、131−(i+1)に関する線分は当該中心位置において角度10度を成して交わる。
【0019】
各LED131−iは可視光を発する。LED群131−iは全て同じ色の光を発するように構成されていてもよいし、異なる色の光を発するように構成されていてもよい。後者としては、LED群131−iのうち、水平方向と垂直方向に相当するものが、他の方向に相当するものと異なる色を出力するように構成できる。つまり、乱視軸角度(乱視軸角度)が0度、90度、180度、270度に相当する位置のLED(それぞれLED131−1、131−10、131−19、131−28)が、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)と異なる色の光束を出力するように構成することが可能である。たとえば、LED131−1、131−10、131−19、131−28として赤色LEDを用いるとともに、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)として緑色LEDを用いることができる。それにより、乱視軸の水平方向と垂直方向とを容易に認識することが可能となる。
【0020】
また、LED131−1、131−10、131−19、131−28のうちの幾つかのみを他のLEDと異なる色の光束を出力するようにしてもよい。たとえば、角度0度に相当するLED131iのみを他のLED(i≠1)と異なる色を出力するように構成することが可能である。
【0021】
また、LED131−1、131−10、131−19、131−28の全てが同じ色(上記例では赤色)の光束を出力するように構成する必要はない。たとえば、各LED131−1、131−19として赤色LEDを用い、各LED131−10、131−28として白色LEDを用いるとともに、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)として緑色LEDを用いることが可能である。それにより、水平方向と垂直方向とを容易に識別することが可能となる。
【0022】
なお、上記のように光源の出力色によって水平方向と垂直方向を認識可能にする代わりに、他の構成によって同様の効果を奏することも可能である。たとえば、出力光の明るさを違えることによって方向を識別可能にすることができる。
【0023】
固視光源保持部131bの下面には、患者眼Eを固視させるための固視用LED131cが設けられている。固視用LED131cは可視光を発する。固視用LED131cは、たとえば、リング状に配列されたLED群131−iの上記中心位置に配置されている。
【0024】
固視用LED131cの個数は1つに限定されるものではなく、任意個数だけ設けることが可能である。また、固視用LED131cを移動可能に構成することも可能である。
【0025】
なお、ヘッド部に用いられる光源はLEDである必要はなく、光を出力可能な任意のデバイスであってよい。また、リング状に配列される複数の光源は、等間隔に配置されていなくてもよい。なお、図3は下面図であるので、一般的な乱視軸の設定方向とは逆向き(逆回り)にLED群131−iの配置順が設定されている。それにより、LED群131−iから出力された光束の角膜反射光(プルキンエ像)は一般的な乱視軸の設定方向として観察又は撮影される。
【0026】
また、この実施形態では36個の光源がリング状に配置されているが、その個数も任意である。ただし、LED群131−iから出力される光束のプルキンエ像に基づいて患者眼Eの乱視軸角度を測定する場合には、その測定の精度や確度を担保できるだけの個数の光源が設けられていることが望ましい。乱視軸角度の測定を行わない構成を採用する場合には、光源の個数に関する当該制限はない。
【0027】
また、乱視軸角度やトーリックIOLの主経線の配置方向を術者が視認する際に要求される精度に応じて、光源の個数を適宜に設定することが可能である。たとえば、この実施形態では10度間隔で光源を配置しているので、乱視軸角度を少なくとも10度単位で提示することが可能である。より高い精度で乱視軸角度等を提示するためには、その精度に応じた個数(たとえば5度単位であれば72個)の光源を設けるようにする。より低い精度の場合も同様である。
【0028】
また、この実施形態では各々個別に構成された複数の光源(LED群131−i)を設けているが、これに限定されるものではない。たとえば、ヘッド部131の下面に表示デバイス(たとえばLCD(液晶ディスプレイ))を設け、この表示デバイスによって複数の輝点を表示させることによって同様の機能を得ることが可能である。この場合、各輝点が「光源」に相当することになる。
【0029】
鏡筒部10の下端には対物レンズ部16が設けられている。対物レンズ部16には、口述の対物レンズ15が格納されている。対物レンズ部16の近傍には支持部材17が設けられている。支持部材17は対物レンズ部16から側方に向けて形成されている。
【0030】
支持部材17の先端部17aには、上下方向に延びる貫通孔が形成されている。この貫通孔にはアーム133が挿入されている。アーム133はこの貫通孔内を摺動可能とされている。それにより、先端部17aに対し、アーム133を上下方向(図2中の両側矢印Aが示す方向)に移動させることができる。ここで、顕微鏡6側を上方向とし、患者眼E側を下方向としている。
【0031】
アーム133の上端には落下防止部134が設けられている。落下防止部134は、上記貫通孔の口径よりも大きな径を有する板状部材である。それにより、落下防止部134は、アーム133が先端部17aから外れて落下することを防止している。
【0032】
アーム133の下端にはヘッド接続部132が設けられている。ヘッド接続部132は、LED131−iが設けられている面が下方を向くように、ヘッド部131をアーム133に接続している。
【0033】
このような構成により、ヘッド部131、ヘッド接続部132、アーム133及び落下防止部134(つまり投影像形成部13)は、先端部17aに対して上下方向に移動自在とされている。投影像形成部13の移動は、たとえば、ユーザがアーム133等を把持して行う。また、モータ等の駆動手段を用いることにより、投影像形成部13を電動で移動させるように構成することも可能である。
【0034】
支持部材17の下面には連結フック18が設けられている。連結フック18は、投影像形成部13の係合部(図示せず)と係合可能に構成されている。この係合部は、たとえばヘッド接続部132に設けられる。投影像形成部13を上方に移動させると、係合部と連結フック18とが係合して投影像形成部13の上下移動を禁止する。この係合関係は所定の操作(たとえば所定のボタンの押下)によって解除できるようになっている。連結フック18及び係合部の構成は任意である。
【0035】
以上の構成により、LED群131−iは、対物レンズ15の光軸方向に沿って移動できるように保持される。また、固視用LED132aは、対物レンズ15の光軸上に配置される。
【0036】
〔光学系の構成〕
続いて、図4及び図5を参照しつつ、眼科手術用顕微鏡1の光学系について説明する。ここで、図4は、術者から見て左側から光学系を見た図である。また、図5は、術者側から光学系を見た図である。なお、図4及び図5に示す構成に加え、術者の助手が患者眼Eを観察するための光学系(助手用顕微鏡)を設けることもできる。
【0037】
この実施形態において、上下、左右、前後等の方向は、特に言及しない限り術者側から見た方向とする。なお、上下方向については、対物レンズ15から観察対象(患者眼E)に向かう方向を下方とし、これの反対方向を上方とする。一般に患者は仰向け状態で手術を受けるので、上下方向と垂直方向とは同じになる。
【0038】
対物レンズ15の下方位置(対物レンズ15と患者眼Eとの間の位置)には、前述のLED群131−iが設けられている。図4及び図5には、その視点方向から見て両端に位置するLED131−i、131−j(i、j=1〜N、i≠j)のみ記載してある。
【0039】
なお、対物レンズ15と患者眼Eとの間とは、上下方向における対物レンズの位置(高さ位置)と患者眼Eの位置(高さ位置)との間という意味である(つまり左右方向や前後方向における位置は考慮しない)。LED群131−iはリング状に配列されているが、全てのLED群131−iからの光の像(輝点像)を患者眼Eの角膜に投影可能なサイズであれば、このリングの径は任意に設定できる。
【0040】
観察光学系30について説明する。観察光学系30は、図5に示すように左右一対設けられている。左側の観察光学系30Lを左観察光学系と呼び、右側の観察光学系30Rを右観察光学系と呼ぶ。符号OLは左観察光学系30Lの光軸(観察光軸)を示し、符号ORは右観察光学系30Rの光軸(観察光軸)を示す。左右の観察光学系30L、30Rは、対物レンズ15の光軸Oを挟むように配設されている。
【0041】
従来と同様に、左右の観察光学系30L、30Rは、それぞれ、ズームレンズ系31、ビームスプリッタ32(右観察光学系30Rのみ)、結像レンズ33、像正立プリズム34、眼幅調整プリズム35、視野絞り36及び接眼レンズ37を有する。
【0042】
ズームレンズ系31は複数のズームレンズ31a、31b、31cを含んでいる。各ズームレンズ31a〜31cは、後述の変倍機構81(図6を参照)によって観察光軸OL(又は観察光軸OR)に沿う方向に移動可能とされる。それにより患者眼Eを観察又は撮影する際の拡大倍率が変更される。
【0043】
右観察光学系30Rのビームスプリッタ32は、患者眼Eから観察光軸ORに沿って導光された観察光の一部を分離してTVカメラ撮像系に導く。TVカメラ撮像系は、結像レンズ54、反射ミラー55及びTVカメラ56を含んで構成される。テレビカメラ撮像系は撮影部14に格納されている。対物レンズ15からTVカメラ56(撮像素子56a)までの光路に配置された光学素子は「撮影光学系」の一例を構成する。
【0044】
TVカメラ56は撮像素子56aを備えている。撮像素子56aは、たとえば、CCD(Charge Coupled Devices)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等によって構成される。撮像素子56aとしては2次元の受光面を有するもの(エリアセンサ)が用いられる。
【0045】
眼科手術用顕微鏡1の使用時には、撮像素子56aの受光面は、たとえば、患者眼Eの角膜の表面と光学的に共役な位置、又は、その角膜曲率半径の1/2だけ角膜頂点から深さ方向に離れた位置と光学的に共役な位置に配置される。
【0046】
像正立プリズム34は倒像を正立像に変換する。眼幅調整プリズム35は、術者の眼幅(左眼と右眼との間の距離)に応じて左右の観察光の間の距離を調整するための光学素子である。視野絞り36は、観察光の断面における周辺領域を遮蔽して術者の視野を制限する。
【0047】
続いて、照明光学系20について説明する。照明光学系20は、図4に示すように、照明光源21、光ファイバ21a、出射口絞り26、コンデンサレンズ22、照明野絞り23、スリット板24、コリメータレンズ27及び照明プリズム25を含んで構成される。
【0048】
照明野絞り23は、対物レンズ15の前側焦点位置と光学的に共役な位置に設けられている。また、スリット板24のスリット穴24aは、この前側焦点位置に対して光学的に共役な位置に形成されている。
【0049】
照明光源21は、顕微鏡6の鏡筒部10の外部に設けられている。照明光源21には光ファイバ21aの一端が接続されている。光ファイバ21aの他端は、鏡筒部10内のコンデンサレンズ22に臨む位置に配置されている。照明光源21から出力された照明光は、光ファイバ21aにより導光されてコンデンサレンズ22に入射する。
【0050】
光ファイバ21aの出射口(コンデンサレンズ22側のファイバ端)に臨む位置には、出射口絞り26が設けられている。出射口絞り26は、光ファイバ21aの出射口の一部領域を遮蔽するように作用する。出射口絞り26による遮蔽領域が変更されると、照明光の出射領域が変更される。それにより、照明光による照射角度、つまり患者眼Eに対する照明光の入射方向と対物レンズ15の光軸Oとが成す角度などを変更することができる。
【0051】
スリット板24は、遮光性を有する円盤状の部材により形成されている。スリット板24には、照明プリズム25の反射面25aの形状に応じた形状を有する複数のスリット穴24aからなる透光部が設けられている。スリット板24は、図示しない駆動機構により、照明光軸O′に直交する方向(図4に示す両側矢印Bの方向)に移動される。それによりスリット板24は照明光軸O′に対して挿脱される。
【0052】
コリメータレンズ27は、スリット穴24aを通過した照明光を平行光束にする。平行光束になった照明光は、照明プリズム25の反射面25aにて反射され、対物レンズ15を経由して患者眼Eに投射される。患者眼Eに投射された照明光(の一部)は角膜にて反射される。患者眼Eによる照明光の反射光(観察光と呼ぶことにがある)は、対物レンズ15を経由して観察光学系30に入射する。このような構成により、患者眼Eの拡大像の観察が可能になる。
【0053】
〔制御系の構成〕
図6を参照しつつ眼科手術用顕微鏡1の制御系について説明する。なお、図6には制御系の一部のみ記載されている。省略されている部分としては、スリット板24の駆動機構などがある。
【0054】
(制御部)
眼科手術用顕微鏡1の制御系は制御部60を中心に構成される。制御部60は、眼科手術用顕微鏡1の任意の部位に設けられる。また、図1に示した構成とは別にコンピュータや回路基板を設け、これを制御部60として用いるようにしてもよい。制御部60は、通常のコンピュータと同様にマイクロプロセッサや記憶装置を含んで構成される。
【0055】
制御部60は眼科手術用顕微鏡1の各部を制御する。特に、制御部60は、駆動装置5、照明光源21、変倍機構81、LED群131−i、固視用LED131cなどを制御する。駆動装置5は、制御部60の制御を受けて顕微鏡6を3次元的に移動させる。変倍機構81は、制御部60の制御を受けて、ズームレンズ系31の各ズームレンズ31a、31b、31cを移動させる。駆動装置5及び変倍機構81には、たとえばパルスモータが設けられている。制御部60は、各パルスモータにパルス信号を送信してその動作を制御する。
【0056】
(記憶部)
記憶部70には各種の情報が記憶される。特に、記憶部70には乱視分布情報71が記憶される。乱視分布情報71は、少なくとも撮影光学系のパワー分布に起因する乱視パラメーターの分布を表す。撮影光学系のパワー分布とは、患者眼Eの乱視情報の算出に影響を及ぼす撮影画像の歪み(歪曲収差等)の元となる、撮影光学系を構成する光学素子のパワーを示す。乱視パラメーターの分布は、患者眼Eの乱視情報の算出処理に供される画像のフレームにおける分布である。また、乱視パラメーターは、たとえば乱視度数と乱視軸角度とを含む。
【0057】
この実施形態では、複数の輝点が投影された状態の患者眼Eの映像を取得し、この映像のキャプチャ画像を乱視情報の算出処理に用いる。よって、撮影光学系のパワー分布だけでなく、撮像素子56aによる撮影画像のフレームとキャプチャ画像のフレームとのサイズの違いも、画像の歪みの原因となる。このフレームサイズの違いの例として、撮像素子56aのアスペクト比がある。たとえばアスペクト比4:3の撮影画像から、アスペクト比16:9のキャプチャ画像を得る場合、画像は横方向に引き延ばされてしまう。
【0058】
乱視分布情報71は、実際の測定(予備測定と呼ぶことがある)により生成することもできるし、撮影光学系の構成やアスペクト比などの必要なファクターに基づいて理論的に又はシミュレーションにより生成することもできる。この実施形態では、予備測定により乱視分布情報71を生成する場合を説明する(後述)。なお、予備測定により乱視分布情報71を生成する場合には実際の撮影画像を解析するので、撮影光学系のパワーやアスペクト比がどれだけ、どのように影響して撮影画像にそのような歪みが生じたか特定することは困難である。しかしながら、患者眼Eの観察や乱視情報の測定を予備測定と同じ撮影光学系や撮像素子56aで行うことにより、予備測定での撮影画像と同様の歪みが本測定でも介在すると仮定することは自然である。
【0059】
(操作部)
操作部82は、眼科手術用顕微鏡1を操作するために術者等により使用される。操作部82には、顕微鏡6の筺体などに設けられた各種のハードウェアキー(ボタン、スイッチ等)や、フットスイッチ8が含まれる。また、タッチパネルディスプレイやGUIが設けられている場合、これに表示される各種のソフトウェアキーも操作部82に含まれる。
【0060】
(データ処理部)
データ処理部90は各種のデータ処理を実行する。たとえば、データ処理部90は、LED群131−iからの光束が角膜に投影された状態の患者眼Eの撮影画像に基づいて、患者眼Eの乱視軸角度を算出する。この処理は従来のケラトメータ等と同様の演算処理を含む。また、データ処理部4は乱視分布情報71を生成する。
【0061】
このような処理を実行するために、データ処理部90は、乱視分布情報生成部91と、乱視情報算出部92と、乱視情報補正部93とを有する。乱視分布情報生成部91は「生成部」の一例であり、乱視情報算出部92は「算出部」の一例であり、乱視情報補正部93は「補正部」の一例である。
【0062】
(乱視分布情報生成部)
乱視分布情報生成部91は、撮像素子56aによる撮影画像に基づいて、この撮影画像フレーム中の複数の位置のそれぞれにおける乱視パラメーターを求め、求められた複数の乱視パラメーターに最小二乗法を適用して乱視分布情報71を生成する。
【0063】
この実施形態では、乱視分布情報生成部91は、複数の輝点が投影された状態の無乱視模型眼の像が複数の位置にそれぞれ描画された複数の撮影画像に基づいて、複数の乱視パラメーターとしての複数の乱視度数及び乱視軸角度の組を求める。この処理の具体例を以下に説明する。
【0064】
まず、前述の予備測定を行う。予備測定では無乱視模型眼が用いられる。乱視分布情報を生成するための動作モード(キャリブレーションモード)の実行が指示されると、制御部60は、照明光源21及びLED群131−iを点灯させるとともに、図示しない表示デバイスに所定の画面を表示させる。なお、表示デバイスは、眼科手術用顕微鏡1自体に設けられていてもよいし、眼科手術用顕微鏡1に直接的に又は間接的に接続されたものであってもよい。
【0065】
この画面の例を図7に示す。設定画面100が示す領域は、乱視測定のための解析処理に供される画像が描画されるフレームに相当する。設定画面100にはターゲット110がオーバーレイ表示される。ターゲット110は、矩形枠111と、この矩形枠111の中心113で交差する縦線112a及び横線112bとからなる。
【0066】
ユーザは、操作部82又は外部の操作デバイスを用いて、設定画面110中の所望の位置にターゲット100を表示させる。制御部60又は外部のマイクロプロセッサは、LED群131−iからの光が投影された状態の無乱視模型眼の映像を設定画面100に表示させる。
【0067】
ユーザは、無乱視模型眼と眼科手術用顕微鏡1の光学系との相対位置を調整し、LED群131−iによる輝点像をターゲット100内に表示させる。このとき、円形又は楕円形に配列された複数の輝点像120の中心を、矩形枠111の中心113に一致させるようにする。ユーザが操作部82を用いて撮影を指示すると、乱視分布情報生成部91は、無乱視模型眼の映像のキャプチャ画像を生成する。
【0068】
ユーザは、このような処理を設定画面100中の複数の位置で行う。設定画面100中の各位置は、たとえば矩形枠の中心113の位置によって特定される。なお、ターゲット100の複数の表示位置をあらかじめ決めておき、所定の契機に対応してこれら表示位置にターゲット100を順次に表示させるようにしてもよい。
【0069】
上記のような処理の実行回数は、後述の最小二乗近似の次数に応じて決定される。たとえば、2次近似を行う場合には9箇所以上、3次近似を行う場合には17箇所以上で、上記の処理が実行される。なお、図7には12箇所が記載されているが、これは単なる例示に過ぎず、これに限定されるものではない。
【0070】
以上の処理により、設定画面100中の複数の位置のそれぞれに輝点像120が描画された、複数のキャプチャ画像が得られる。乱視分布情報生成部91は、これらキャプチャ画像に基づいて次のような処理を実行することにより乱視分布情報71を生成する。なお、乱視分布情報91は、眼科手術用顕微鏡1の外部のコンピュータに設けられていてもよい。
【0071】
乱視分布情報生成部91は、まず、ケラトメータ等と同様の公知の演算処理を各キャプチャ画像に基づいて行うことにより乱視パラメーターを求める。この乱視パラメーターは、たとえば、撮影光学系のパワー分布とアスペクト比に起因する、当該キャプチャ画像中の輝点像の配列(一般に楕円配列)の中心位置における乱視度数及び乱視軸角度の組である。複数(N個)のキャプチャ画像のそれぞれに対応する乱視度数をC、乱視軸角度をθで表す(i=1〜N)。各キャプチャ画像に基づいて乱視パラメーターを算出する処理は、乱視情報算出部92が行ってもよい。なお、以下の例では2次近似の場合について説明するが、3次近似以上の場合についても同様である。
【0072】
乱視分布情報生成部91は、各キャプチャ画像に対応する乱視パラメーターについて、乱視度数Cを動径とし、かつ乱視軸角度θの2倍の値2θを偏角とする極座標(C、θ)に対応する2次元直交座標(X、Y)を求める。ここで、極座標(C、θ)は極座標系(C、θ)の座標であり、2次元直交座標(X、Y)は2次元直交座標系(X、Y)の座標である。それにより次式が得られる。
【0073】
【数1】

【0074】
それにより、各キャプチャ画像に対応するX成分とY成分が得られる。更に、乱視分布情報生成部91は、各キャプチャ画像中の輝点の楕円配列の中心の座標(x,y)を算出する。この中心の座標(x,y)は、たとえば、楕円の長径と短径の交差位置を算出することにより、或いは前述の矩形枠111の中心113の座標として得られる。
【0075】
続いて、乱視分布情報生成部91は、各キャプチャ画像に対応するX成分X及び中心の座標(x,y)に基づく次式における係数a、b、c、d、e、hを、最小二乗近似によって算出する。
【0076】
【数2】

【0077】
乱視分布情報生成部91は、Y成分Y及び中心の座標(x,y)についても同様に、次式における係数を最小二乗近似によって算出する。
【0078】
【数3】

【0079】
これら係数は以下の要領で算出される。一具体例として、乱視分布情報生成部91は、次の処理を実行することで乱視分布情報71を生成する:
(1)複数の乱視パラメーター(乱視度数及び乱視軸角度の組)のそれぞれについて、乱視度数Cを動径とし、かつ乱視軸角度θの2倍の値2θを偏角とする極座標(C、θ)に対応する2次元直交座標(X、Y)を求める;
(2)複数の2次元直交座標(X、Y)における複数の座標Xに最小二乗法を適用して、フレーム(設定画面100)の全体にわたる第1のn次近似曲面を算出する;
(3)複数の2次元直交座標(X、Y)における複数の座標Yに最小二乗法を適用して、フレーム(設定画面100)の全体にわたる第2のn次近似曲面を算出する;
(4)第1のn次近似曲面及び第2のn次近似曲面を乱視分布情報71とする。
【0080】
このようにして得られる乱視分布情報71は、制御部60により記憶部70に記憶される。この乱視分布情報71には、フレーム中の各位置における乱視パラメーターが記録されている。より詳しくは、この乱視分布情報71は、フレーム中の複数の位置(N個の位置)における乱視パラメーターの測定結果に最小二乗法を適用して得られた情報である。乱視パラメーターの測定結果は、各位置における乱視度数Cと乱視軸角度θとから式(1)により算出される座標X、Yである。乱視分布情報71は、これら座標X、Yに最小二乗法を適用して、その定義域を離散的なN個の点からフレーム全体に広げることにより得られる。つまり、乱視分布情報71は、フレーム全体を定義域としベクトルを(X、Y)とするベクトル場として把握できる。なお、乱視分布情報71はこれには限定されず、少なくとも撮影光学系のパワー分布に起因する乱視パラメーターの分布を表すものであればその形態は任意である。たとえば、上記の係数a〜hを乱視パラメーターとしてもよいし、N個の極座標(C、θ)又はN個の2次元直交座標(X、Y)を乱視パラメーターとしてもよい。これらの場合、後述の乱視情報補正部93は、上記の式を適宜に用いて、患者眼Eの乱視度数や乱視軸角度の実測値を補正する。
【0081】
上記の処理(2)及び(3)において、フレーム(設定画面100)の全体にわたるn次近似曲面を求める代わりに、フレームの一部についてのみ定義されたn次近似曲面を求めるようにしてもよい。たとえば、フレームの端部近傍に患者眼Eの像(つまり輝点像)が表示されることはない(少なくとも希である)ため、フレームの端部近傍領域を除いた領域についてのみn次近似曲面を求めるようにしても不都合はない(少なくとも小さい)。この端部近傍領域は、あらかじめ決定されていてもよいし、観察倍率等のファクターに応じて決定するようにしてもよい。
【0082】
(乱視情報算出部)
乱視情報算出部92は、複数の輝点が投影された状態の患者眼Efを撮像素子56aにより撮影して得られた画像に基づいて乱視情報を算出する。より具体的には、乱視情報算出部92は、ケラトメータ等と同様の公知の演算処理により、患者眼Eの撮影画像(キャプチャ画像)に描画された複数の輝点像の配列に基づいて乱視度数と乱視軸角度とを求める。つまり、乱視情報算出部92は、楕円形状に配列された複数の輝点像の楕円率(短径と長径との比)から乱視度数を算出し、更に、その楕円主軸方向から乱視軸角度の情報を算出する。また、楕円の大きさから球面度数を求めることも可能である。
【0083】
(乱視情報補正部)
乱視情報補正部93は、乱視情報算出部92により算出された乱視情報を乱視分布情報71に基づいて補正する。この実施形態では以下の補正処理が実行される:
(1)乱視情報算出部92により算出された乱視度数Cを動径とし、かつ乱視軸角度θの2倍の値2θを偏角とする極座標(C、θ)に対応する2次元直交座標(X、Y)を求める(乱視分布情報生成部91と同様の処理である);
(2)撮像素子56aにより得られた患者眼Eの画像に描画された複数の輝点像の楕円配列の中心位置における第1のn次近似曲面の座標X及び第2のn次近似曲面の座標Yを特定し、特定された座標X及び座標Yをそれぞれ座標X及び座標Yから減算する;
(3)この減算処理によって得られた座標X−X及び座標Y−Yを極座標に変換する。
【0084】
この処理についてより具体的に説明する。患者眼Eの乱視測定が実施されると、乱視情報補正部93は、患者眼Eの画像に描画された複数の輝点像の楕円配列の中心位置(x,y)を求め、この中心位置(x,y)における乱視パラメーター(X、Y)を乱視分布情報71から取得する。更に、乱視情報補正部93は、式(数1)と同様にして、乱視情報算出部92により算出された乱視度数C及び乱視軸角度θ(極座標(C,θ))に対応する2次元直交座標(X、Y)を算出する。そして、次式により、患者眼Eの乱視度数と乱視軸角度を正規化する。
【0085】
【数4】

【0086】
乱視情報補正部93は、正規化されたX成分及びY成分を次式に代入することにより、患者眼Eの乱視情報の実測値(C,θ)の補正値(C′,θ′)を算出する。
【0087】
【数5】

【0088】
制御部60は、このようにして得られた補正値(C′,θ′)のうちの乱視軸角度θ′に対応する位置のLED131−iをLED群131−iのうちから特定する。更に、制御部60は、特定されたLED131−iを他のLED131−j(j≠i)と異なる態様で点灯させる。この処理の例は特許文献1に記載されている。
【0089】
[作用・効果]
以上のような眼科手術用顕微鏡1の作用及び効果を説明する。
【0090】
眼科手術用顕微鏡1の記憶部70には、少なくとも撮影光学系のパワー分布に起因する乱視パラメーターの分布を表す乱視分布情報71があらかじめ記憶されている。「あらかじめ」とは、患者眼Eの乱視測定の時点よりも前であることを意味する。患者眼Eの乱視測定が実施されると、乱視情報算出部92は、LED群131−iからの光が投影された状態の患者眼Eを撮像素子56aにより撮影して得られた画像に基づいて乱視情報を算出する。更に、乱視情報補正部93は、この乱視情報を乱視分布情報71に基づいて補正する。
【0091】
このような眼科手術用顕微鏡1によれば、撮影光学系のパワー分布等に起因する画像の歪みの影響を補正することができる。また、この実施形態では、撮影光学系のパワー分布だけでなく、アスペクト比による画像の歪みの影響も補正される。なお、撮影光学系のパワー分布やアスペクト比による画像の歪みの大きさは、フレーム中の位置によって変わる。したがって、この実施形態によれば、撮影フレームにおける患者眼Eの描画位置によらずに乱視軸角度を高確度で測定することが可能である。
【0092】
また、この実施形態によれば、乱視軸角度の補正値に対応する位置のLED131−iの態様と、他のLED131−jの態様とを相違させることができる。よって、術者は、患者眼Eの乱視軸角度(補正された高確度の値である)を、患者眼Eを観察しつつ視覚的かつ直感的に認識することができる。したがって、トーリックIOLの移植手術等の容易化を図ることが可能である。
【0093】
また、乱視分布情報71には、フレーム中の各位置における乱視パラメーターが記録されている。したがって、フレーム中の任意の位置に描画された複数の輝点像に基づいて、上記補正を行うことができる。
【0094】
また、乱視分布情報71には、フレーム中の複数の位置における乱視パラメーターの測定結果に最小二乗法を適用して得られた情報が記録されている。したがって、フレーム中の複数の位置における乱視パラメーターから、フレーム中の2次元領域についての乱視パラメーターを得ることができる。また、最小二乗法を用いているので、近似の誤差も小さい。なお、近似の誤差をより小さくするには、近似式の次数を高くすればよい。ただし、次数を高めると、予備測定での測定位置の数が増すとともに、処理に供されるデータ量や処理時間が増加する。よって、これら様々なファクターを勘案して次数を決定することが望ましい。
【0095】
[変形例]
以上の実施形態は、この発明に係る眼科手術用顕微鏡の一例に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内における任意の変形を施すことが可能である。
【0096】
上記の実施形態の予備測定では、リング状に配列された複数の輝点が用いられているが、これには限定されない。たとえば、複数の縦線と複数の横線とが交差してなる格子状の輝線群を投影することで、フレーム中に発生する画像の歪みの分布(乱視パラメーターの分布)を求めることが可能である。一般に、乱視パラメーターの分布を求めることが可能であれば、どのような形態で予備測定を行うかは任意である。
【0097】
また、乱視分布情報71を生成する処理や、乱視情報を補正する処理は、上記のものに限定されるものではない。各々の目的が達成される限りにおいて、その具体的な処理内容は任意である。
【符号の説明】
【0098】
1 眼科手術用顕微鏡
5 駆動装置
13 投影像形成部
20 照明光学系
21 照明光源
30 観察光学系
56a 撮像素子
70 記憶部
71 乱視分布情報
81 変倍機構
82 操作部
90 データ処理部
131−i LED
131c 固視用LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者眼を照明する照明光学系と、照明された前記患者眼を撮影する撮像素子を含む撮影光学系とを有する光学系と、
前記光学系の少なくとも一部が格納された本体部と、
前記本体部に装着され、リング状に配列された複数の輝点を有する装着部と、
前記複数の輝点が投影された状態の前記患者眼を前記撮像素子により撮影して得られた画像に基づいて乱視情報を算出する算出部と、
少なくとも前記撮影光学系のパワー分布に起因する乱視パラメーターの分布を表す乱視分布情報があらかじめ記憶された記憶部と、
前記算出部により算出された乱視情報を前記乱視分布情報に基づいて補正する補正部と、
を備える眼科手術用顕微鏡。
【請求項2】
前記算出部により算出される前記乱視情報は乱視軸角度を含み、
前記補正された乱視軸角度に対応する位置の輝点を前記複数の輝点のうちから特定し、前記特定された輝点の態様と他の輝点の態様とを相違させる制御部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項3】
前記乱視分布情報には、前記撮像素子による撮影画像のフレーム中の各位置における前記乱視パラメーターが記録されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項4】
前記乱視分布情報には、前記撮像素子による撮影画像のフレーム中の複数の位置における前記乱視パラメーターの測定結果に最小二乗法を適用して得られた情報が記録されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項5】
前記撮像素子による撮影画像に基づいて、当該フレーム中の複数の位置のそれぞれにおける前記乱視パラメーターを求め、求められた複数の乱視パラメーターに最小二乗法を適用して前記乱視分布情報を生成する生成部を更に備えることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項6】
前記生成部は、前記複数の輝点が投影された状態の無乱視模型眼の像が前記複数の位置にそれぞれ描画された複数の前記撮影画像に基づいて、前記複数の乱視パラメーターとしての複数の乱視度数及び乱視軸角度の組を求めることを特徴とする請求項5に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項7】
前記生成部は、
前記複数の乱視度数及び乱視軸角度の組のそれぞれについて、当該乱視度数Cを動径とし、かつ当該乱視軸角度θの2倍の値2θを偏角とする極座標(C、θ)に対応する2次元直交座標(X、Y)を求め、
求められた複数の2次元直交座標(X、Y)における複数の座標Xに最小二乗法を適用して前記フレームの一部又は全部にわたる第1のn次近似曲面を算出し、
前記複数の2次元直交座標(X、Y)における複数の座標Yに最小二乗法を適用して前記フレームの一部又は全部にわたる第2のn次近似曲面を算出し、
算出された前記第1のn次近似曲面及び前記第2のn次近似曲面を前記乱視分布情報とする、
ことを特徴とする請求項6に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項8】
前記算出部は、前記乱視情報として乱視度数と乱視軸角度とを算出し、
前記補正部は、
前記算出部により算出された乱視度数Cを動径とし、かつ当該乱視軸角度θの2倍の値2θを偏角とする極座標(C、θ)に対応する2次元直交座標(X、Y)を求め、
前記撮像素子により得られた前記患者眼の画像に描画された前記複数の輝点の像の楕円配列の中心位置における前記第1のn次近似曲面の座標X及び前記第2のn次近似曲面の座標Yを、それぞれ前記座標X及び前記座標Yから減算し、
この減算によって得られた座標X−X及び座標Y−Yを極座標に変換して乱視度数及び乱視軸角度を求める、
ことを特徴とする請求項7に記載の眼科手術用顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−27536(P2013−27536A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165328(P2011−165328)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】