説明

短いパルス/ステップ周波数のレーダシステム

短いパルス、ステップ周波数、センターライン処理を組合わせた特有のハードウェアアーキテクチャである。本発明のアーキテクチャは短いパルスを送信する送信機と、そのパルスを受信してそれに応答して出力信号を提供する受信機とを有するレーダシステムを構成しており、各パルスは周波数がステップされている。例示的な実施形態では、送信機は周波数ソースと、そのソースに結合されたRFスイッチと、RFスイッチを制御する制御装置とを含んでいる。受信機はセンターラインラフィングフィルタで構成されている信号プロセッサを含んでいる。その信号プロセッサはそれぞれ距離ゲートとデジタルフィルタを有する多数のチャンネルを有している。デジタルフィルタは距離ドップラマトリックスを出力するように構成された高速フーリエ変換を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気及び電子回路とシステムに関し、特に本発明はレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
スルーウォール観察または感知(STTW)センサ及び技術が、運動または静止している人または物体を壁を通して検出し、位置を決定し、識別し、分類する能力を強化するためおよび軍用、警察用、セキュリティおよび/または商用応用に関連した都市設備を整えるという現在および将来の動作要求を満たすために必要とされている。STTWセンサは兵士またはロボット設備(空中及び地上)によって使用され、占有しているかまたは占有していない環境における詳細な情報を提供するために使用されることができる。
【0003】
従来の方法はインパルスレーダおよび掃引周波数レーダ(CHIRP)を含んでいる。インパルスレーダは非常に短いパルスを送信し、コヒーレントではない処理(検出器)またはコヒーレントな処理によって処理されることができる。インパルスレーダの欠点は低い平均パワーと、限定されたダイナミック範囲である。さらにコヒーレント処理は莫大な処理負担を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
掃引周波数レーダは距離を周波数に変換するための混合技術を使用する。これは極めて高い帯域幅(微細な距離分解能)を保持する。アナログデジタル帯域幅は、距離のカバー範囲になり、距離分解能はチャープ周波数送信帯域幅である。残念ながら、高帯域幅は長い周波数掃引を必要とする。これは最小のスタンドオフ距離を生成する。この問題を解決するために、線形周波数の掃引が、ステップ周波数レーダを発生するために変化された。ステップ周波数波形または任意のコード化された波形の1つの欠点は、距離サイドローブである。残念ながら、大きい目標物体に対して近い小さいレーダ断面を識別するには、大きいダイナミックレンジと低い距離サイドローブが必要である。
【0005】
したがって、連続波レーダシステムはSTTW応用で有効であることは証明されていない。したがって、シースルーウォール応用において、改良されたレーダのための技術の必要性が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、短いパルスと、ステップされた周波数と、センターライン処理とを組合わせた特有のハードウェアアーキテクチャによって“壁を通しての映像形成”の問題を解決する。本発明のアーキテクチャは短いパルスを送信する送信機と、そのパルスを受信してそれに応答して出力信号を提供する受信機とを有するレーダシステムを構成し、各パルスは周波数においてステップされている。
【0007】
例示的な実施形態では、送信機は1ナノ秒以下の上昇または下降時間のパルスを出力し、周波数ソースと、そのソースに結合されているRFスイッチと、そのRFスイッチを制御する制御装置とを含んでいる。例示的な実施形態では、制御装置をスイッチに3乃至20ナノ秒の範囲で切換えさせる。
【0008】
受信機はセンターラインラフィングフィルタで構成されている信号プロセッサを含んでいる。この信号プロセッサはそれぞれ距離ゲートとアナログラフィングフィルタを有する多数のチャンネルを有している。各チャンネルのアナログ出力は、デジタルフィルタが後続する単一のアナログデジタル変換器に多重化される。デジタルフィルタは距離ドップラマトリックスを出力するように構成された高速フーリエ変換を含んでいる。
【0009】
この発明の方法は、STTW要求に対するクラッタ環境において、ターゲットに十分なエネルギを供給し、距離サイドローブを最小にし、高いダイナミックレンジを維持し、処理データ率を減少させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の有効な教示を説明するために、例示的な実施形態および応用を、添付図面を参照にして説明する。
【0011】
本発明をここで、特定の応用に対する例示的な実施形態を参照にして説明するが、本発明はそれに限定されないことを理解すべきである。当業者は付加的な変形、応用、実施形態を、本発明の技術的範囲内および本発明が非常に有用である付加的な分野において認識するであろう。
【0012】
図1のaは、本発明によるレーダ送信機の例示的な構造の簡単化されたブロック図である。送信機10は本発明によりある範囲の周波数を発生するように設計された周波数ソース発生器12を含んでいる。このソース発生器12は、例えば位相ロックループおよびデバイダ回路により、本発明にしたがって構成されることができる。発生器12により出力された信号はパワースプリッタへ供給され、パワースプリッタはそれを、第1及び第2のフィルタ16、18へ供給する。第1のフィルタの出力は第1の増幅器20を介してRFスイッチ22へ供給される。このスイッチは所定の応用の要求のために十分に短い(例えば1ナノ秒以下の上昇及び下降時間)のパルスを発生するために十分高速度で切換えられなければならない。スイッチ22は制御装置24からのパルスにより制御されるスイッチ駆動装置26により提供される。例示的な実施形態では、制御装置24はスイッチを3乃至20ナノ秒のRFパルスで切換えさせる。スイッチ22の出力は第2の増幅器28による増幅された後、アンテナ30に与えられる。
【0013】
第2のフィルタ18の出力は第3の増幅器32を介してミキサ34に与えられ、それによってこれはソース36により与えられるオフセット周波数と混合され、第4の増幅器38を介して局部発振器信号として受信機回路(図示せず)へ与えられる。
【0014】
本発明は、短いパルス、ステップされた周波数、およびセンターライン処理を組合わせた特有のハードウェアアーキテクチャによって“壁を通しての結像”問題を解決する。この優れた方法は、現在の要求および近い将来のSTTW要求を満たすために、クラッタ環境において、ターゲットに十分なエネルギを与え、距離サイドローブを最小にし、高いダイナミックレンジを維持し、処理データ率を減少させる。
【0015】
したがって、本発明によれば、送信機10は複数のバーストを出力し、各バーストは複数のパルスの列を有し、各パルス列は先行するパルス列に対して周波数においてステップされ、複数のパルスを有している。これは以下の図1のbと図1のdに示されている。
【0016】
図1のbは、図1のaの送信機の出力を示している。図1のbに示されているように、送信機10はバーストの列1…Nを送出し、各バーストはパルスの列φ−φを有している。
【0017】
図1のcは、図1のbで示されたバースト列中の単一のバーストの拡大図である。図1のcに示されているように、各バーストはパルスの列φ−φからなり、各パルスは特有の周波数である。さらに、図1のcに示されているように、各パルスは先行するパルスに関して周波数においてステップされている。これは図1のdに示されている。
【0018】
図1のdは、図1のaの送信機によって出力される例示的なステップされた周波数の送信波形を示す図である。前述したように、ステップされた周波数波形または任意のコード化された波形の欠点は、距離のサイドローブである。論理的に低いサイドロードコードでさえも、典型的に、ダイナミックおよび静的誤差を受け、理想的ではないサイドローブを生む。何か大きいものに近接している小さいレーダの断面を弁別する能力は、大きいダイナミックレンジと低い距離サイドローブを必要とする。ステップされた周波数波形は超広帯域(高い距離分解能)の出力信号を発生する。最小のスタンドオフ距離と、低い距離サイドローブを減少させるために、周波数ステップを非常に短くしなければならない。短いパルスは、フィルタをパルスに整合するために広い瞬間的帯域幅を必要とする。A/Dサンプルレートは広い帯域幅をデジタル化するために高くなる。高いサンプルレートはA/Dダイナミック範囲を減少し、データ速度を増加し、データ量を増加し、したがってダイナミックにレーダシステムの信号処理要求を増加する。この問題に対する解決策はセンターライン処理である。
【0019】
図2は、本発明による受信機の例示的な構造を示す簡単化されたブロック図である。受信機40を以下、センターライン処理受信機(CPRX)と呼ぶ。図2に示されているように、CPRX受信機40は低雑音増幅器(LNA)44を介して、受信アンテナ42から信号を受信するように構成されている。LNAの出力は、受信機40の中間周波数(IF)受信アセンブリ46のミキサ48によって、増幅器38(図1)を介して送信機10から送信された局部発振器信号と混合される。下方変換されたIF信号は複数の信号処理チャンネル50へ送信され、それらのチャンネルのうちの1つのチャンネルが図3で示されている。
【0020】
図3は、図2の信号処理回路の単一のチャンネルの例示的な実施形態の簡単化されたブロック図である。図3に示されているように、各チャンネルは距離ゲート52を含んでいる。最良のモードでは、各距離ゲートは、指令された時間間隔で、および送信パルスに関して指令された遅延で開かれるようにプログラムされている。例示的な実施形態では、このゲートは7.4ナノ秒(n秒)の期間中、開くように指令され、1n秒以下の上昇時間を有する。ゲートされた信号はセンターラインラフィングフィルタ54により濾波される。このフィルタ54は表面音響波(SAW)フィルタであってもよい。好ましくはフィルタは送信機10のパルス反復周波数(PRF)に関して狭い帯域幅を有し、IF周波数を中心としている。フィルタ54は低いA/Dサンプリングレートを可能にするために連続波出力を有していなければならない。
【0021】
図2に戻ると、例示的な実施形態では、各信号処理チャンネル(そのうちの8個が例として与えられている)はマルチプレクサ56により1つのラインに多重化される。マルチプレクサ56の出力は(周波数ソース59により与えられる信号によって)第2のミキサ57によりベースバンドに下方変換され、アナログデジタル変換器58によりデジタル化される。A/D58のデジタル出力は、そのデータレートを減少させるためにデジタルフィルタ60により濾波され、デシメートされる。デジタルフィルタは図4に示されている。
【0022】
図4は、デジタルフィルタの例示的な構造の簡単化されたブロック図である。このデジタルフィルタ60は受信信号流を複数の(例示的な実施形態では8個の)チャンネルに分割するデマルチプレクサ62を含んでいる。各チャンネルは関連するデシメーションフィルタ64に与えられ、そのうちの1つだけが図4に示されている。各デシメーションフィルタは単極双投スイッチとして機能し、IおよびQ信号を提供するように機能する第1のスイッチ66を含んでいる。I信号は第1のミキサ68に与えられ、Q信号は第2のミキサ70に与えられる。各ミキサはデジタル下方変換のためのアルゴリズムを実行するタイミング論理装置により供給される。ミキサ68、70の出力はローパスフィルタ76および80によりそれぞれ濾波される。これらのフィルタにはレジスタ80から係数が与えられる。フィルタ76および80の出力はタイミング論理装置86の制御下のスイッチ82および84により選択的に切換えられる。スイッチ82および84はデータをデシメートするように機能する。デジタルフィルタは複数(例えば8192)の同位相(I)及び直角位相(Q)データサンプルを出力する。チャンネルの同位相出力は第2のマルチプレクサ87により1つのチャンネルに多重化され、チャンネルの直角位相出力は第3のマルチプレクサ88により1つのチャンネルに多重化される。IおよびQ信号はFFT(高速フーリエ変換)90により処理され、FFT90は各走査に対して、距離ドップラマトリックス(RDM)92へ出力する。距離ドップラマトリックス92の出力はレーダデータプロセッサへ供給され、このレーダデータプロセッサは各走査のRDMを通常の方法で映像へ組合わせる。画素サイズはスタンドオフ距離とアンテナビーム幅に依存している。
【0023】
図5のaは、本発明によるセンターライン処理に使用される通過帯域を示すグラフである。通過帯域はfを中心とし、f±Tまで延在し、ここでTはパルス幅である。センターライン処理の利点として、1)A/D変換器のデータレートを著しく低下させ、したがって必要なデータ処理パワーを減少させ、2)さらに低い受信された帯域幅が相互干渉及びジャミングに対して感度が少なく、3)さらに低い受信された帯域幅はより広いダイナミックレンジを与え、4)高い距離分解能がアナログ距離ゲート及びステップ周波数と共に維持されることである。
【0024】
図5のbは、本発明によるFFT処理を示す図である。“M”ポイントのFFTは、周波数ステップに対するパルスの各バーストでFFTを行うことを表している。“N”ポイントのFFTは、本発明によって、ステップ周波数処理を行うために、“M”ポイントのFFTのビン“0”を横切ってFFTを行うことを表している。
【0025】
STTW応用におけるドップラシフトは低いので、本発明はSTTW応用にしたがうべきである。即ち、部屋中を移動している人々の速度は常に5mph(時間当り5マイル)よりも低い。この時間はさらに高い距離分解能を得るためにそれぞれ異なる周波数における多数のレーダの停留を可能にする。これには各停留の統一性が必要である。レーダシステムでは、長い時間期間にわたる統一性を維持することは問題である。この設計は、多数のレーダの停留と周波数ステップにわたって、送信されたパルスと、力の統一性をサンプルするために1つの距離ゲートを使用する。
【0026】
例示的な実施形態では、本発明は1Mhz PRFで1.1メートルのパルスと8メートルの距離カバー範囲を使用する。例示的な実施形態は毎秒12ビットの10メガサンプル(MSPS)のA/Dを使用し、IとQの8192個のサンプルを集める。通常の方法は2つの8ビット135MSPSのA/Dを使用し、IとQのデータの2百万個のサンプルを集める。
【0027】
以上、本発明は特定の応用に対する特別な実施形態を参照にして、ここで説明された。当業者はその技術的範囲内で付加的な変形、応用及び実施形態を認識するであろう。
【0028】
それ故、特許請求の範囲は、任意または全てのこのような応用、変形、実施形態が本発明の技術的範囲内に含まれることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の教示によるレーダ送信機の例示的な構成の簡単化されたブロック図と、その送信機の出力図と、その出力図に示されているバーストの列中の単一のバーストの拡大図と、送信機によって出力される例示的なステップされた周波数の送信波形図。
【図2】本発明による受信機の例示的な構成の簡単化されたブロック図。
【図3】図2の信号処理回路の単一のチャンネルの例示的な実施形態の簡単化されたブロック図。
【図4】デジタルフィルタの例示的な構成の簡単化されたブロック図。
【図5】本発明によるセンターライン処理に使用される通過帯域を示すグラフと、本発明によるFFT処理を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ周波数においてステップされている短いパルスを送信する送信機(10)と、
前記パルスを受信して、それに応答して出力信号を提供する受信機(40)とを具備しているレーダシステム。
【請求項2】
前記送信機(10)は1ナノ秒以下の上昇または下降時間のパルスを出力する請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記送信機(10)は周波数ソース(12)を含んでいる請求項1記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記送信機(10)は、さらに前記周波数ソース(12)に結合されているRFスイッチ(22)を備えている請求項3記載のレーダシステム。
【請求項5】
前記送信機(10)は、さらに前記RFスイッチ(22)を制御する制御装置(24)を備えている請求項4記載のレーダシステム。
【請求項6】
前記制御装置(24)は3乃至20ナノ秒の範囲のRFパルスで切換えるように前記スイッチを付勢する請求項5記載のレーダシステム。
【請求項7】
前記受信機(40)は信号プロセッサ(50)を含んでいる請求項1記載のレーダシステム。。
【請求項8】
前記信号プロセッサ(50)は、センターラインラフィングフィルタ(54)を含んでいる請求項7記載のレーダシステム。
【請求項9】
前記信号プロセッサ(50)はそれぞれ距離ゲート(52)を含んでいる請求項8記載のレーダシステム。
【請求項10】
前記受信機(40)はデジタルフィルタ(60)を含んでいる請求項7記載のレーダシステム。
【請求項11】
前記デジタルフィルタ(60)は高速フーリエ変換(90)を含んでいる請求項10記載のレーダシステム。
【請求項12】
前記高速フーリエ変換(90)は距離ドップラマトリックスを出力するように構成されている請求項11記載のレーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−501978(P2008−501978A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527621(P2007−527621)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/019802
【国際公開番号】WO2005/124390
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(390039147)レイセオン・カンパニー (149)
【氏名又は名称原語表記】Raytheon Company
【Fターム(参考)】