説明

研磨ガラス基板の製造方法

【課題】小型の装置を用い、簡単な操作で、ガラス基板の破損を防止して、多数のガラス基板を同時に表面研磨し、安全、高生産性かつ高歩留まりで平滑なガラス表面を有する研磨ガラス基板を提供する。
【解決手段】ガラス基板1の外周部の表裏両面ならびに端部を、液非透過性および強度付与性のマスキング材2でマスキングし、マスキングしたガラス基板1をマスキング部2aで支持するように上下方向に配置し、面間隔を保つように並べてキャリア3にセットし、キャリア3にセットされたガラス基板1を研磨液5に浸漬してガラス基板1の両面を研磨し、研磨したガラス基板1の片面を、マスキング部2aの内側に位置する追加ステージ10上に支持し、カッタ11を用いて分断することにより研磨ガラス基板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨液によりガラス基板を表面研磨する工程を含む研磨ガラス基板の製造方法に関し、特に液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造に適した研磨ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイその他のディスプレイ製品用ガラス基板(以下単に「ガラス基板」という)は、ディスプレイ製品のエネルギ−消費量を低減する目的から、ガラス基板の厚さをできるだけ薄くすることが望まれている。そのため従来から、フッ酸を含有する化学研磨液により、ガラス基板の片面もしくは両面を化学研磨して、ガラス厚さを薄型化する研磨ガラス基板の製造方法が行われている。このようなガラス基板の研磨では、生産性を高くするために多数の基板を並べたカセットを研磨液に浸漬し、同時に化学研磨を行うようにされているが、薄型化により基板の破損が生じ、歩留まりが低くなるので、これを防止することが要望されている。
【0003】
特許文献1(特開2000−147474号)には、液晶ディスプレイパネルの製造過程において、TFT−LCDガラス板をカセットに収納し、このカセットを容器に満たした研磨液にTFT−LCDガラス板が垂直になるような状態で浸漬し、気泡により攪拌しながら、ガラス基板の表面を一定量除去して研磨を行う方法が提案されている。しかしこのような研磨方法では、外部接触しているガラス板端部に自重が集中することになって、研磨中や搬送中にガラス板端部が破損しやすくなり、このような破損は、研磨の進行に伴いガラス板が薄くなるにつれて一層生じやすくなる。
【0004】
このような問題点を解決するための手段として、例えば特許文献2(特開2007−1789号)には、研磨液をガラス板表面に接触させるガラス表面の研磨方法において、水平な載置板面上にガラス板を接置した後に前記ガラス板の端面を被覆する端面被覆工程と、前記ガラス板の上面に研磨液を接触させる研磨工程と、前記ガラス板の上面を洗浄する洗浄工程と、前記ガラス板の端面を露出させる端面露出工程とを順次行なうガラス表面の研磨方法が示されている。しかしこの方法によれば、載置板面上にガラス板を接置した後に前記ガラス板の端面を被覆するので、片面しか研磨できず、多数のガラス板を研磨するためには広大な面積の装置を要す。また両面を研磨するためには反転する必要があり、手間がかかるとともに、研磨された面が下になると上部の研磨液を支持できず、割れ易いなどの問題点がある。
【特許文献1】特開2000−147474号
【特許文献2】特開2007−1789号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、このような従来技術の問題点を解消し、小型の装置を用い、簡単な操作で、ガラス基板の破損を防止して、多数のガラス基板を同時に表面研磨し、安全、高生産性かつ高歩留まりで平滑なガラス表面を有する研磨ガラス基板を得ることができる研磨ガラス基板の製造方法、ならびにこれにより製造された研磨ガラス基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は次の研磨ガラス基板の製造方法、ならびに研磨ガラス基板である。
(1) ガラス基板の外周部の表裏両面ならびに端部を、液非透過性および強度付与性のマスキング材でマスキングし、
マスキングしたガラス基板をマスキング部で支持するように上下方向に配置し、面間隔を保つように並べてキャリアにセットし、
キャリアにセットされたガラス基板を研磨液に浸漬してガラス基板の両面を研磨することを特徴とする研磨ガラス基板の製造方法。
(2) 研磨したガラス基板のマスキング部の内側で分断して研磨ガラス基板を得る上記(1)記載の方法。
(3) 研磨したガラス基板の片面を、マスキング部の内側に位置するステージ上に支持した状態で分断する上記(1)または(2)記載の方法。
(4) ガラス基板がガラス単板、貼り合わせガラス、または中間層を有する貼り合わせガラスである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) マスキング材が粘着テープまたはコーティング材である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 研磨液がフッ酸を含有する研磨液である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(7) ガラス基板が液晶ディスプレイ用ガラス基板である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の方法により製造された研磨ガラス基板。
【0007】
本発明で製造する研磨ガラス基板としては、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマパネルディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用のガラス基板があげられるが、特に液晶ディスプレイ用のガラス基板が適している。ガラス基板の材質としてはアルミノホウケイ酸ガラス基板など、上記のガラス基板に一般に用いられているものがすべて研磨の対象となる。研磨の対象となるガラス基板としては、ガラス単板でも貼り合わせガラスでもよく、特に液晶、電極、回路等の中間層を有する貼り合わせガラスの場合でも、研磨液の浸入を防止して研磨を行うことができるので、研磨対象とすることができる。これらのガラス基板の中でも、表裏両面を研磨するガラス基板が対象として適しており、ガラス単板の場合はその両面、貼り合わせガラスの場合は貼り合わせた状態における表裏両面を研磨するものが対象として適している。
【0008】
研磨の対象となるガラス基板の寸法としては制限はなく、研磨ガラス基板の用途に対応して任意の寸法のものを研磨対象とすることができる。例えば第4世代と呼ばれるサイズは730mm×920mmであるが、これより大きいサイズあるいは小さいサイズも研磨対象となる。本発明は厚さが薄いガラス基板の研磨に適しており、研磨対象として好ましいガラス基板の厚さとしては、一般的には研磨前の厚さが1〜1.5mm、研磨後の厚さが1.2mm以下であり、破損の防止効果が高く見込まれるのは0.5mm以下のものがあげられる。
【0009】
本発明の研磨ガラス基板の製造方法では、ガラス基板の外周部の表裏両面ならびに端部を、液非透過性および強度付与性のマスキング材でマスキングし、マスキングしたガラス基板をマスキング部で支持するように上下方向に配置し、面間隔を保つように並べてキャリアにセットし、キャリアにセットされたガラス基板を研磨液に浸漬してガラス基板の両面を研磨し、研磨したガラス基板の両面を水洗することにより研磨ガラス基板を製造する。本発明では、研磨したガラス基板を、マスキング部の内側で分断して研磨ガラス基板を得るのが好ましく、この場合、研磨したガラス基板の片面を、マスキング部の内側に位置するステージ上に支持した状態で分断するのが好ましい。
【0010】
ガラス基板をマスキングするマスキング材は、液非透過性で強度付与性を有し、ガラス基板の外周部の表裏両面ならびに端部をマスキングしたとき、研磨液がマスキング部を透過してガラス基板の外周部の表裏両面ならびに端部を研磨するのを防止するとともに、ガラス基板の外周部の表裏両面ならびに端部に強度を付与して補強する材料であり、粘着テープまたはコーティング材などが使用できる。粘着テープとしては、プラスチック等の液非透過性の基材の片面に粘着材層が形成されたテープがあげられる。コーティング材としては、ホットメルト樹脂、塗料等が上げられる。マスキング材の寸法としては、研磨するガラス基板の寸法、ガラス基板をセットするキャリアの寸法等により変わり、マスキングしたガラス基板の強度、操作性等から任意に決定することができる。マスキング材の厚さ(ガラス基板の片面に形成する厚さ)としては、特に限定されないが、一般的には、0.01〜0.1mm、好ましくは0.03〜0.08mmのものを用いることができる。マスキング部を形成する外周部の幅としては、一般的には1〜10mmであるが、幅が広い程、破損の防止効果が高まる。そのため、可能な範囲内(研磨不要部分,分断ステージへの影響が無い等)で広くすることが望ましい。
【0011】
マスキングの方法は、マスキングするマスキング材の材質、特性等に応じて、それぞれのマスキング材に適した方法を選択することができる。例えば粘着テープの場合、ガラス基板の外周部の表または裏面に粘着テープのほぼ半分の領域を貼り付け、ガラス基板の端部を覆うように折り返して、反対側の面を覆うように貼り付けることができる。またコーティング材の場合、浸漬、はけ塗り、印刷等によりマスキングする部分にコーティング材層を形成し、冷却、乾燥、硬化等により固体状のマスキング層を形成することができる。マスキング部はガラス基板の外周部の表裏両面ならびに端部のみに形成することもできるが、さらにガラス基板を複数の領域に分割するように、外周部のマスキング部を表裏両面で連絡するマスキング部をさらに形成してもよく、これにより破損の危険性を少なくして、複数の研磨ガラス基板を1枚のガラス基板に形成することができる。
【0012】
マスキングしたガラス基板をセットするキャリアは、上下方向に配置したガラス基板を、面間隔を保つように横方向に並べた状態で、それぞれのマスキング部を支持する基板支持部を有し、研磨液槽へ移送できるように可搬式に形成されたものが好ましい。ガラス基板が配置される方向は上下方向であり、鉛直方向が好ましいが、液の流通が阻害されない範囲で若干傾斜していてもよい。キャリアの基板支持部は、ガラス基板の下辺のマスキング部を支持するものであればよいが、上下の二辺のマスキング部を支持するように構成するのが好ましく、上下および左右の四辺のマスキング部を支持するように構成するのがさらに好ましい。上下方向に配置し、かつ面間隔を保つように並べて配置されたガラス基板の間隙を通して研磨液が循環するように、キャリアには液流通部が設けられる。
【0013】
研磨液槽は、内部に研磨液を滞留させ、ガラス基板をセットしたキャリアを搬送して研磨液に浸漬し、ガラス基板の両面を研磨液と接触させて研磨を行うように構成される。このとき上下方向に配置し、かつ面間隔を保つように並べて配置されたガラス基板の間隙を通して研磨液が流れるように、キャリアはポンプ、攪拌器、バブリング等により液を循環するように構成し、必要によりキャリア内部も含め、研磨液全体が常に攪拌されるように構成するのが好ましい。研磨液槽は回分式に構成することもできるが、連続的にキャリアの搬入と搬出を行うように連続式に構成し、研磨液槽から搬出するキャリアを次の水洗槽に搬入して水洗するように隣接して構成するのが好ましい。
【0014】
研磨液としては、従来よりガラス基板の研磨に用いられている公知の研磨液が用いられるが、フッ酸を含有する研磨液が好ましく、フッ酸以外に硫酸、リン酸等の鉱酸を含有する研磨液が好ましい。例えば、2〜10重量%の硫酸またはリン酸、および2〜30重量%のフッ酸を含有する表面研磨液があげられる。表面研磨液の残部は主として水であるが、他の溶媒、界面活性剤、安定剤等の添加剤を含有していてもよい。研磨液の温度は特に限定されず、常温でよいが、30〜50℃に加温して研磨を行うこともできる。ガラス基板の研磨は1種の研磨液で1回だけ行ってもよく、1種または数種の研磨液を用いて数回行ってもよく、数回行う場合、中間に水洗を行っても、行わなくてもよい。
【0015】
上記のようにしてキャリアにセットされたガラス基板を研磨液に浸漬して研磨を行うと、ガラス基板の両面に接触する研磨液により、マスキング部を除くガラス基板の両面が研磨され、ガラス基板の表面が一定量除去されるとともに、基板に付着した異物も除去される。研磨によりガラス基板のマスキング部を除く部分の厚みが薄くなるが、外周部はマスキング部により補強された状態を維持するため、マスキング部で支持する状態で研磨を継続してもガラス基板の割れ等の破損は生じない。またガラス基板は上下方向に配置し、面間隔を保つように並べることにより、マスキング部で支持して液の流通、循環が行われるので、ガラス基板が片側から加圧されて破損することもなく、多数のガラス基板の研磨が同時に効率よく行われる。ガラス基板が薄いと、外周部からひびが入って割れる場合が多いが、外周部をマスキング部で補強することにより、外周部からひびが入って割れるのを防止することができる。マスキング部は液非透過性であるため、ガラス基板の外周部は研磨されず強度付与性は維持され、貼り合わせガラス基板の場合でも、中間層が研磨液で侵食されることはない。
【0016】
研磨液槽で研磨を行った後、研磨液槽からキャリアを搬出して次の水洗槽に搬入し、ガラス基板の水洗を行うことができる。水洗はキャリアごと洗浄水層に浸漬し、洗浄水を循環する方法、また水洗槽に搬入しキャリアに洗浄水をシャワーする方法など、公知の方法で行うことができる。水洗後ガラス基板を乾燥させ、キャリアから個々のガラス基板を取り外す。こうして得られるガラス基板は、目的とするディスプレイに合わせて分断し、研磨ガラス基板を得る。この場合、マスキング部の内側で分断して研磨ガラス基板を得るのが好ましく、研磨したガラス基板の片面を、マスキング部の内側に位置するステージ上に支持した状態で分断することにより、ガラス基板の破損を防止して、分断を行うことができるので好ましい。マスキング部の内側に位置するステージは追加のステージとして、従来用いられていたガラス基板の外形より大きいステージの上にセットして分断を行うことができ、従来の分断装置を大きく変更しないで処理を行うことができる。
【0017】
こうして得られる研磨ガラス基板は、表裏両面が研磨され、均一で薄いものが得られるが、薄い状態で加工を行っても破損は少なく、複数のガラス基板を同時に研磨できるため生産効率がよく、また歩留まりも高い。得られる研磨ガラス基板は、同条件で処理するため、均一な表裏面と厚さを有し、均一で優れた特性を有するものが得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上の通り本発明によれば、ガラス基板の外周部の表裏両面ならびに端部を、液非透過性および強度付与性のマスキング材でマスキングし、マスキングしたガラス基板をマスキング部で支持するように上下方向に配置し、面間隔を保つように並べてキャリアにセットし、キャリアにセットされたガラス基板を研磨液に浸漬してガラス基板の両面を研磨し、研磨したガラス基板の両面を水洗するようにしたので、小型の装置を用い、簡単な操作で、ガラス基板の破損を防止して、多数のガラス基板を同時に表面研磨し、安全、高生産性かつ高歩留まりで平滑なガラス表面を有する研磨ガラス基板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明における実施形態として、液晶ディスプレイ用の中間層を有する貼り合わせガラス基板の製造方法の一例を図面により説明するが、実施形態に用いるガラス基板の種類、研磨液槽の形態、ガラス基板のキャリア等の各種器具、装置類の操作方法などは本発明を限定するものではない。
【0020】
図1は実施形態のガラス基板を示し、(a)〜(c)は異なる工程におけるガラス基板を示す(d)のA−A断面図、(d)はガラス基板の正面図、(e)は他のガラス基板の正面図である。図2(a)は研磨工程を示す垂直断面図、(b)は分断工程を示す垂直断面図である。
【0021】
図1および2において、1はガラス基板、2はマスキング材である。図1(a)はマスキング前のガラス基板を示しており、ガラス基板1は表面および裏面側に配置されるガラス板1a、1bを、液晶、電極、回路等の中間層1cを挟んで貼り合わせた構造の貼り合わせガラスからなる。本発明の研磨ガラス基板の製造方法では、上記のガラス基板1の外周部の表裏両面ならびに端部を、粘着テープまたはコーティング材などの液非透過性および強度付与性のマスキング材2でマスキングし、図1(b)、(d)に示すように、マスキング部2aを形成する。図1(a)〜(d)に示すガラス基板1のマスキング部2aはガラス基板1の外周部の表裏両面ならびに端部のみに形成したものであるが、図1(e)に示すように、ガラス基板1を複数の領域に分割するように、外周部のマスキング部2aを表裏両面で連絡するマスキング部2b、2cをさらに形成してもよい。
【0022】
マスキングしたガラス基板1は図2(a)に示すように、キャリア3にセットして研磨を行う。図2(a)は研磨工程の状態を示しており、マスキングしたガラス基板1をマスキング部2aで支持するように上下方向に配置し、面間隔を保つように並べてキャリア3にセットし、キャリア3にセットされたガラス基板1を、研磨液槽4内の研磨液5に浸漬してガラス基板1の両面を研磨する状態を示している。
【0023】
マスキングしたガラス基板1をセットするキャリア3は、上下方向に配置したガラス基板1を、面間隔を保つように横方向に並べた状態で、それぞれのマスキング部2aを支持する基板支持部6a、6bを有し、研磨液槽4へ移送できるように吊り下げ部材7に吊り下げられて可搬式に形成されている。キャリア3の基板支持部6a、6bは、ガラス基板1の上下および左右の四辺のマスキング部2aを支持するように構成されているが、下辺のマスキング部2aのみ、または上下の二辺のマスキング部2aを支持するように構成してもよい。上下方向に配置し、かつ面間隔を保つように並べて配置されたガラス基板1の間隙を通して研磨液が循環するように、キャリア3の基板支持部6a、6bには液流通部が設けられているが、図示は省略されている。
【0024】
研磨液槽4は、内部に研磨液5を滞留させ、ガラス基板1をセットしたキャリア3を搬送して研磨液5に浸漬し、ガラス基板1の両面を研磨液5と接触させて研磨を行うように構成されている。このとき上下方向に配置し、かつ面間隔を保つように並べて配置されたガラス基板1の間隙を通して研磨液5が流れるように、キャリア3はポンプ、攪拌器、バブリング等により液を循環し、一部ずつ液の入れ替えを行い更新するように構成されている。研磨液槽4は連続的にキャリア3の搬入と搬出を行うように連続式に構成し、研磨液槽4から搬出するキャリア3を次の水洗槽(図示省略)に搬入して水洗するように隣接して配置し、コンベアに吊り下げ部材7を吊り下げ搬送するように構成されているが、詳細の図示は省略されている。
【0025】
研磨液5としては、従来よりガラス基板の研磨に用いられているフッ酸を含有する研磨液が用いられ、フッ酸以外に硫酸、リン酸等の鉱酸を含有する研磨液が好ましい。例えば2〜10重量%の硫酸またはリン酸、および2〜30重量%のフッ酸を含有する表面研磨液があげられる。表面研磨液の残部は主として水であるが、他の溶媒、界面活性剤、安定剤等の添加剤を含有していてもよい。研磨液の温度は特に限定されず、常温でよいが、30〜50℃に加温して研磨を行うこともできる。
【0026】
上記のようにしてキャリア3にセットされたガラス基板1を研磨液5に浸漬して研磨を行うと、ガラス基板1の両面に接触する研磨液5により、ガラス基板1の両面のマスキング部2aを除くガラス板1a、1bの面が研磨され、ガラス基板1の表面が一定量除去されるとともに、基板に付着した異物も除去され、図1(c)に示すように凹部1d、1eが形成される。これによりガラス基板1のガラス板1a、1bのマスキング部2aを除く部分の厚みが薄くなるが、外周部はマスキング部2aにより補強された状態を維持するため、マスキング部2aで支持する状態で研磨を継続してもガラス基板1の割れ等の破損は生じない。またガラス基板1は上下方向に配置し、面間隔を保つように並べることにより、マスキング部2aで支持して液の流通、循環が行われるので、ガラス基板1が片側から加圧されて破損することもなく、多数のガラス基板1の研磨が同時に効率よく行われる。ガラス基板1が薄いと、外周部からひびが入って割れる場合が多いが、外周部をマスキング部2aで補強することにより、外周部からひびが入って割れるのを防止することができる。マスキング部2aは液非透過性であるため、ガラス基板1の外周部は研磨されず強度付与性は維持され、貼り合わせガラス基板1の場合でも、中間層1cが研磨液で侵食されることはない。
【0027】
研磨液槽4で研磨を行った後、研磨液槽4からキャリア3を搬出して次の水洗槽(図示省略)に搬入し、ガラス基板1の水洗を行う。水洗はキャリア3ごと洗浄水層に浸漬し、洗浄水を循環する方法、また水洗槽に搬入しキャリアに洗浄水をシャワーする方法など、公知の方法で行うことができるが、図示は省略されている。水洗後ガラス基板1を乾燥させ、キャリア3から個々のガラス基板1を取り外す。こうして得られるガラス基板は、目的とするディスプレイに合わせて分断し、研磨ガラス基板を得る。
【0028】
図2(b)は分断工程を示しており、8は支持盤、9はステージ、10は追加ステージ、11はカッタである。ステージ9は支持盤8上に設けられた大型基板分断用の従来のステージであり、この上に追加ステージ10をセットして図1のガラス基板1の分断を行うように構成されている。ガラス基板1の分断は、マスキング部2aの内側でガラス基板1を分断して研磨ガラス基板を得るために、図2(b)に示すように、研磨したガラス基板1の片面を、マスキング部2aの内側に位置する追加ステージ10上に支持し、マスキング部2aが追加ステージ10からはみ出した状態で、カッタ11を用いて分断する。これによりガラス基板1の破損を防止して、分断を行うことができる。マスキング部2aの内側に位置する追加ステージ10は、従来用いられていたガラス基板1の外形より大きいステージ9の上にセットして分断を行うことにより、従来の分断装置を大きく変更しないで処理を行うことができる。図1(e)のガラス基板1の場合は、マスキング部2a、2b、2cで区画される領域を追加ステージ10上に支持して分断する。
【0029】
こうして分断して得られる研磨したガラス基板1は、表裏両面が研磨され、均一で薄いものが得られるが、薄い状態で加工を行っても破損は少なく、複数のガラス基板1を同時に研磨できるため生産効率がよく、また歩留まりも高い。得られる研磨ガラス基板は、同条件で処理するため、均一な表裏面と厚さを有し、均一で優れた特性を有するものが得られる。
【0030】
以上の通り、ガラス基板1の外周部の表裏両面ならびに端部を、液非透過性および強度付与性のマスキング材2でマスキングし、マスキングしたガラス基板1をマスキング部2aで支持するように上下方向に配置し、面間隔を保つように並べてキャリア3にセットし、キャリア3にセットされたガラス基板1を研磨液5に浸漬してガラス基板1の両面を研磨し、研磨したガラス基板1の両面を水洗することにより、小型の装置を用い、簡単な操作で、ガラス基板1の破損を防止して、多数のガラス基板1を同時に表面研磨し、安全、高生産性かつ高歩留まりで平滑なガラス表面を有する研磨ガラス基板を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
研磨液によりガラス基板を浸漬し、所定のガラス基板厚さまで表面研磨する研磨ガラス基板、特に液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態のガラス基板を示し、(a)〜(c)は異なる工程におけるガラス基板を示す(d)のA−A断面図、(d)はガラス基板の正面図、(e)は他のガラス基板の正面図である。
【図2】(a)は研磨工程を示す垂直断面図、(b)は分断工程を示す垂直断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ガラス基板
1a、1b ガラス板
2 マスキング材
2a、2b、2c マスキング部
3 キャリア
4 研磨液槽
5 研磨液
6a、6b 基板支持部
7 吊り下げ部材
8 支持盤
9 ステージ
10 追加ステージ
11 カッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の外周部の表裏両面ならびに端部を、液非透過性および強度付与性のマスキング材でマスキングし、
マスキングしたガラス基板をマスキング部で支持するように上下方向に配置し、面間隔を保つように並べてキャリアにセットし、
キャリアにセットされたガラス基板を研磨液に浸漬してガラス基板の両面を研磨することを特徴とする研磨ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
研磨したガラス基板のマスキング部の内側で分断して研磨ガラス基板を得る請求項1記載の方法。
【請求項3】
研磨したガラス基板の片面を、マスキング部の内側に位置するステージ上に支持した状態で分断する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ガラス基板がガラス単板、貼り合わせガラス、または中間層を有する貼り合わせガラスである請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
マスキング材が粘着テープまたはコーティング材である請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
研磨液がフッ酸を含有する研磨液である請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ガラス基板が液晶ディスプレイ用ガラス基板である請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法により製造された研磨ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−234870(P2009−234870A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84396(P2008−84396)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(506148165)クリテックサ−ビス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】