説明

研磨パッド及び研磨パッドの製造方法

【課題】研磨の質の低下を抑制しつつ研磨効率を向上させ得る研磨パッドと、このような研磨パッドを簡便に作製しうる研磨パッドの作製方法とを提供することを課題としている。
【解決手段】少なくとも被研磨物の研磨に用いられる表面がポリマー組成物を発泡させた発泡シートによって構成されており、該発泡シートがその気泡を前記表面において開口させている研磨パッドであって、前記発泡シートの気泡は、シート厚み方向に長く伸びる縦長形状を有していることを特徴とする研磨パッドなどを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも被研磨物の研磨に用いられる表面がポリマー組成物を発泡させた発泡シートによって構成されており、該発泡シートがその気泡を前記表面において開口させている研磨パッド、及び、このような研磨パッドを作製すべく、発泡剤を含んだ液状の硬化性ポリマー組成物を作製し、該硬化性ポリマー組成物を成形型内において発泡、硬化させて前記発泡シートに用いる発泡体を作製する研磨パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハーなど高度に平坦化された表面を有することが求められる被研磨物に対する化学的機械的研磨(以下「CMP」ともいう)や液晶表示装置用ガラスの表面研磨のような精密な表面研磨が実施されている。
このような精密な研磨においては、被研磨物と研磨パッドとの間に砥粒を含むスラリーを介在させて前記被研磨物と前記研磨パッドとを摺接させることが行われており、該研磨パッドとしては、その最表面側の研磨層が発泡シートによって構成されたものが知られている。
【0003】
前記発泡シートは、ポリマー組成物によって発泡状態に形成されており、通常、研磨層に利用される場合には、少なくとも研磨層の表面(以下「研磨面」ともいう)において気泡を開口させる処理が施された状態で用いられている。
このような研磨パッドは、この開口している気泡中に砥粒を担持させたり、研磨によって発生する研磨カスを取り込ませたりすることができ、例えば、下記特許文献1にも示されているように、この気泡の開口度合いによって研磨性能を調整しうることが知られている。
すなわち、多くの気泡を開口させて砥粒の担持量や研磨カスの取り込み量を増大させることによって、単位時間あたりの研磨量を増大させ得る上に研磨カスによる目詰まりを防止でき研磨性能の低下を抑制させることができる。
そして、この開口された気泡内にスラリーが保持されるため、研磨パッド表面に開口している気泡の容積が小さい場合にはスラリーの保持量が小さくなり、優れた研磨性能を発揮させることが難しくなる。
また、そのために研磨に要するスラリー量が多くなるという問題を発生させるおそれも有する。
【0004】
ところで、このような研磨パッドは、前記発泡シートの硬さも研磨性能に影響を与えることが知られている。
例えば、発泡シートが過度に柔軟である場合には、研磨面のドレス時において変形が生じ、ドレッサーによる十分なドレス効果が与えられなくなるおそれを有する。
また、発泡シートが過度に柔軟である場合には、被研磨物の表面から除去すべき凹凸に前記研磨面が追従してしまって、当該被研磨物に対して高度に平坦化された表面を付与することが困難になったり、被研磨物の端部に縁ダレを発生させたりするおそれも有する。
すなわち、前記のように研磨パッドとしての研磨性能の点からは、一定以上の気泡を研磨面に開口させて、砥粒の担持量や、研磨カスの取り込み量を一定以上に確保させることが有利になる一方で、気泡数を増大すべく、例えば、発泡シートの発泡度を増大させると発泡シートの硬度が低下してしまい研磨の質を低下させるおそれを有する。
【0005】
したがって、従来の研磨パッドにおいては、硬度の低下を抑制しつつ砥粒の担持量や、研磨カスの取り込み量を増大させることが困難であり、研磨の質の低下を抑制しつつ研磨効率を向上させることが難しい状況となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−188586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、研磨の質の低下を抑制しつつ研磨効率を向上させ得る研磨パッドと、このような研磨パッドを簡便に作製しうる研磨パッドの作製方法とを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための研磨パッドに係る本発明は、少なくとも被研磨物の研磨に用いられる表面がポリマー組成物を発泡させた発泡シートによって構成されており、該発泡シートがその気泡を前記表面において開口させている研磨パッドであって、前記発泡シートの気泡は、シート厚み方向に長く伸びる縦長形状を有していることを特徴としている。
【0009】
また、課題を解決するための研磨パッドの製造方法に係る本発明は、少なくとも被研磨物の研磨に用いられる表面がポリマー組成物を発泡させた発泡シートによって構成されており、該発泡シートがその気泡を前記表面において開口させている研磨パッドを作製すべく、発泡剤を含んだ液状の硬化性ポリマー組成物を作製し、該硬化性ポリマー組成物を成形型内において発泡、硬化させて前記発泡シートに用いる発泡体を作製する研磨パッドの製造方法であって、シート厚み方向に長く伸びる縦長形状の気泡を有している前記発泡シートを作製すべく、成形型内において前記硬化性ポリマー組成物が硬化するまでの時間を調整することにより、前記硬化性ポリマー組成物が発泡によってその見かけ上の体積を増大させる方向に沿って長く伸びる縦長形状の気泡を前記発泡体中に形成させることを特徴としている。
【0010】
なお、従来の研磨パッドにおいても、僅かには縦長の気泡も含まれており、厚み方向に観察される気泡径(長さ:L)に対する平面方向に観察される気泡径(直径:D)の比(D/L)が1.0となるような全くの球状の気泡ばかりで形成されているものではない。
しかし、従来の研磨パッドにおいては、厚み方向の長さに対する平面方向の直径の比(D/L)が、0.8を超える、実質的に球状と呼べるような気泡が、通常、半数以上を占めている。
本明細書における“気泡が縦長形状を有している”との表現は、当然ながら上記のような従来の研磨パッドを包含させることは意図しておらず、先の比(D/L)が、0.8以下の値を有する気泡が主体となっていることを意味するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の研磨パッドは、発泡シートの気泡が当該発泡シートの厚み方向に長く伸びる縦長形状に形成されている。
すなわち、発泡シートに、従来の略球状の気泡が形成されている場合と、研磨面における開口が同じ大きさとなるように気泡を形成させる場合であっても、当該開口からの奥行きが深い気泡を形成させることとなる。
したがって、研磨面において開口している気泡の面積の割合を増大させることなく砥粒や研磨カスの収容量を増大させうる。
また、スラリーの保持量が増大されて研磨性能が向上されうることから研磨に要するスラリー量の低減を図り得る。
すなわち、本発明によれば、研磨の質の低下を抑制しつつ研磨効率を向上させ得る研磨パッドが提供されうる。
【0012】
さらに、本発明の研磨パッドの製造方法においては、発泡剤を含んだ液状の硬化性ポリマー組成物を用い、しかも、該硬化性ポリマー組成物が硬化するまでの時間を調整することで前記のような研磨パッドを作製することとなる。
すなわち、硬化性ポリマー組成物が硬化するまでの時間の調整という簡便なる手法によって前記のような研磨パッドが作製されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の研磨パッドの使用例を示す正面図、及び、研磨パッド(研磨層)の断面構造を示す部分断面図。
【図2】研磨パッドの作製に用いられる装置を示す概略図。
【図3】実施例1の研磨パッド断面を示すSEM写真。
【図4】比較例1の研磨パッド断面を示すSEM写真。
【図5】比較例2の研磨パッド断面を示すSEM写真。
【図6】ガラス研磨試験結果を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について、図を参照しつつ説明する。
本実施形態に係る、研磨パッドは、直径数cmから数十cmの円板状に形成されており、図1左は、本実施形態に係る研磨パッドの使用形態を模擬的に示した正面図であり、右図は、左図の破線Xで示される部分の研磨パッドの断面構造を示す部分断面図である。
この図1に示すように、本実施形態に係る研磨パッド1は、ポリマー組成物を発泡させてなる発泡シートによって研磨層10が形成されており、該研磨層10のみによって形成されている。
すなわち、前記研磨層10は、研磨パッド1全体を構成するものであり、その裏面を定盤に面接させるとともに表面を被研磨物に摺接させて用いられるものである。
この図1においては、その上側が、被研磨物の研磨に用いられる研磨パッド1の表面1s(研磨面1s)であり、下側が裏面1bである。
該研磨パッド1は、その断面図にも示されているように、厚み方向に長く伸びる縦長の気泡を有しており、該気泡の一部は研磨パッド1の内部において独立気泡fとなって存在し、一部は研磨面1sにおいて開口して孔hを形成させている。
【0015】
この孔hは縦長の気泡を開口させて形成されているために、裏面1bに向けた深さが、球形の気泡を形成させている従来の研磨パッドに比べて深く形成されている。
この研磨パッド1の厚み方向に被研磨物やドレッサーなどが当接された際には、主として、この孔hの周囲の気泡膜w(研磨パッド1の厚み方向に立設された状態となっている気泡膜w)によって反発力が発揮されることとなる。
したがって、本実施形態の研磨パッドは、球形の気泡を形成させているものに比べて砥粒の担持や研磨カスの取り込みに有用となる孔hの容積が大きくなるように形成させ得る一方で、被研磨物やドレッサーが当接される表面における前記孔hの開口面積が増大することを抑制させ得ることから前記反発力の発揮に有用な気泡膜を多く存在させ得る。
したがって、厚み方向への弾性変形が抑制され、見掛け上の硬度が高く形成され得る。
【0016】
前記研磨層10は、その厚みが限定されるものではないが、シリコンウエハーなどの精密な仕上げが要求されるようなCMPに用いられる場合においては、通常、0.5mm以上10mm以下の範囲の内のいずれかの厚みとされる。
また、そのような場合においては、表面1sの硬度が、ショアA硬度で、60〜98度とされることがドレッサーによる研磨面のリフレッシュ効果や“縁ダレ”抑制効果などの観点から好適である。
このような観点からは、表面1sの硬度が、85度を超える硬度とされることがより好ましい。
【0017】
なお、この縦長の気泡は、研磨パッド1の用途や、研磨層10(発泡シート)を構成するポリマー組成物の種類などにもよるが、通常、研磨パッド1の平面方向に向けての大きさ(直径:D)が2μm〜4mmとなり、厚み方向における長さ(L)が3μm〜4mmとなるように形成されうる。
一般的なシリコンウエハーの研磨に用いられるような用途においては、前記直径:Dが、5μm〜4mmとなっていることが好ましく、前記長さ:Lが3μm〜4mmとなっていることが好ましい。
そして、この長さに対する直径の比(D/L)が、0.8以下となるような気泡が個数で全体の半分以上となるように形成されることが好ましく、数で80%以上が0.8以下となるように形成されていることが好ましい。
さらには、長さに対する直径の比(D/L)が、0.6以下となるような気泡が個数で全体の40%以上を占めていることが好ましく、45%以上を占めていることがより好ましい。
【0018】
なお、気泡が上記のような比(D/L)を有しているかどうかを確認するには、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)などで発泡シートの断面を撮像し、得られた拡大画像において観察される気泡を無作為に数十個程度選択して個々の気泡に対して長さ(L)と直径(D)との比(D/L)を求めて、得られた全ての値を算術平均したものが上記範囲内であるかどうかを判定すればよい。
また、長さ(L)と直径(D)との比(D/L)については、選択した気泡に対して発泡シートの厚み方向と平面方向とに平行な直線をそれぞれ描き、しかも、気泡の外側のラインとの交点間の距離が最も大きくなるように直線を描いて、厚み方向の交点間距離を平面方向の交点間距離で除して求めることができる。
【0019】
研磨層10の硬度は、この研磨層10を構成させる発泡シートの材料選択と、その発泡状態の制御とによって調整が可能である。
なお、発泡シートの形成に用いるポリマー組成物としては、求められる特性を容易に調整し得る点においてポリウレタン組成物を採用することが好ましい。
すなわち、ポリウレタン組成物は、ポリオール化合物などの活性水素含有有機化合物とイソシアネート基含有化合物とのそれぞれの選択によって硬度や引張強さといった機械的性質を調整することができる点において前記研磨層10の形成材料として好適である。
【0020】
前記研磨層10の形成に用いる発泡シートをポリウレタン組成物で形成させる場合には、例えば、イソシアネート基含有化合物と、活性水素含有有機化合物と、発泡剤とを含み、必要に応じて、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、可塑剤、着色剤、防かび剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤等を含んだポリウレタン組成物を用いることができる。
より具体的には、上記のような成分を含んだ液状の未硬化組成物を作製し、該未硬化組成物を発泡硬化させて発泡シートを形成させることができる。
【0021】
前記イソシアネート基含有化合物は、分子中にイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されるものではなく、該イソシアネート基含有化合物としては、通常、分子中に複数のイソシアネート基を有する化合物が用いられる。
【0022】
前記イソシアネート基含有化合物としては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等を用いることができる。
なお、これらのイソシアネート基含有化合物としては、単独物を、又は複数を組み合わせたものを用いることができる。
また、イソシアネート基含有化合物は、市販されているものを用いることができる。
前記未硬化組成物における前記イソシアネート基含有化合物の割合は、30〜70質量%であることが好ましい。
【0023】
前記芳香族ジイソシアネートとしては、アニリンとホルムアルデヒドを縮合して得られるアミン混合物を不活性溶媒中でホスゲンと反応させることなどにより得られる粗ジフェニルメタンジイソシアネート(粗MDI)、該粗MDIを精製して得られるジフェニルメタンジイソシアネート(ピュアMDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、及びこれらの変性物などを用いることができ、また、トリレンジイソシアネート(TDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート等を用いることができる。
なお、これらの芳香族ジイソシアネートは、単独物で、又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0024】
ジフェニルメタンジイソシアネートの変性物としては、例えば、カルボジイミド変性物、ウレタン変性物、アロファネート変性物、ウレア変性物、ビューレット変性物、イソシアヌレート変性物、オキサゾリドン変性物等が挙げられる。斯かる変性物としては、具体的には、例えば、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート(カルボジイミド変性MDI)が挙げられる。
【0025】
前記脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどが用いられる。
【0026】
前記脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが用いられる。
【0027】
前記イソシアネート基含有化合物としては、常温で液状であり取り扱いやすいという点、前記TDIに比べて蒸気圧が低く、特定化学物質に指定されていないことから作業環境への配慮を軽減できる点において、前記粗MDI、前記ピュアMDI、前記ポリメリックMDI、又はこれらの変性物が好ましい。
また、室温で液状であり、取り扱いが容易であるという点においては、カルボジイミド変性MDI、ポリメリックMDI、又はこれらとMDIとの混合物が好ましい。
【0028】
前記活性水素含有液は、活性水素含有有機化合物を含むものであり、必要に応じてさらに前記触媒、前記整泡剤等を含み得るものである。
【0029】
前記活性水素含有有機化合物は、イソシアネート基と反応し得る活性水素基を分子内に有する有機化合物で、該活性水素基としては、具体的には、ヒドロキシ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、チオール基などの官能基が挙げられる。
なお、前記活性水素含有有機化合物は、分子中に前記官能基を1種のみ有していてもよく、分子中に該官能基を複数種有していてもよい。
【0030】
前記活性水素含有有機化合物としては、例えば、分子中に複数のヒドロキシ基を有するポリオール化合物、分子内に複数の第1級アミノ基又は第2級アミノ基を有するポリアミン化合物などを用いることができる。
【0031】
前記ポリオール化合物としては、分子量が400以下の多価アルコール、分子量が400を超えるポリオールなどが挙げられる。
【0032】
分子量が400以下の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等の直鎖脂肪族グリコールが挙げられ、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の分岐脂肪族グリコールが挙げられ、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等の脂環族ジオールが挙げられ、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリブチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多官能ポリオールなどが挙げられる。
【0033】
この多価アルコールとしては、強度の高い硬化物を形成させやすく、研磨パッド1に適度な剛性を容易に付与させうる点、ならびに、比較的安価であるという点で、エチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。
【0034】
分子量が400を超えるポリオールプレポリマーとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオールおよびポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。なお、ポリオールプレポリマーとしては、ヒドロキシ基を分子中に3以上有する多官能ポリオールプレポリマーも挙げられる。
【0035】
詳しくは、前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリテトラメチレングリコ−ル(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレンオキサイド付加ポリプロピレンポリオールなどが挙げられる。
【0036】
前記ポリエステルポリオールとしては、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペートおよびポリカプロラクトンポリオールなどが挙げられる。
【0037】
前記ポリエステルポリカーボネートポリオ−ルとしては、ポリカプロラクトンポリオールなどのポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応生成物、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させて得られた反応混合物をさらに有機ジカルボン酸と反応させた反応生成物などが挙げられる。
【0038】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールなどのジオールと、ホスゲン、ジアリルカーボネート(例えばジフェニルカーボネート)又は環式カーボネート(例えばプロピレンカーボネート)との反応生成物などが挙げられる。
【0039】
このポリオールプレポリマーとしては、弾性に富んだ硬化物が得られやすいという点で、数平均分子量が800〜8000であるものが好ましく、具体的には、ポリテトラメチレングリコ−ル(PTMG)、エチレンオキサイド付加ポリプロピレンポリオールが好ましい。
【0040】
これらのポリオール化合物は、単独で、又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。
なお、前記未硬化組成物における前記ポリオール化合物の割合は、10〜50質量%であることが好ましい。
【0041】
前記ポリアミン化合物としては、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタンおよび4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタンなどが挙げられる。
【0042】
これらの活性水素含有有機化合物としては、イシシアネート基との反応速度を適度に小さくできるという点で、前記ポリオール化合物が好ましい。
【0043】
前記発泡剤としては、例えば、加熱により分解してガスを発生させる有機化学発泡剤、沸点が−5〜70℃の低沸点炭化水素、ハロゲン化炭化水素、水、液化炭酸ガスなどを単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0044】
前記有機化学発泡剤としては、例えば、アゾ系化合物(アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾアミノベンゼン、アゾジカルボン酸バリウム等)、ニトロソ化合物(N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジニトロソ−N,N’−ジメチルテレフタルアミド等)、スルホニルヒドラジド化合物〔p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、p−トルエンスルホニルヒドラジド等〕等が挙げられる。
前記低沸点炭化水素としては、例えば、ブタン、ペンタン、シクロペンタン、及びこれらの混合物などが挙げられる。
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩化メチレン、HFC(ハイドロフルオロカーボン類)等が挙げられる。
【0045】
なお、上記発泡剤としては、より微細な気泡を硬化物に形成させ得るという点において、水が好ましい。
前記発泡剤としての水は、前記未硬化組成物中に0.01〜0.5質量%配合されていることが好ましい。
【0046】
前記触媒としては、例えば、有機酸とSn、Zn、Co、Ni、Fe、Pb等からなる金属触媒、又はアミン触媒が挙げられる。
前記未硬化組成物における触媒は、前記未硬化組成物中に0.0001〜0.5質量%配合されていることが好ましい。
【0047】
前記金属触媒としては、オクタン酸スズ、ナフテン酸スズ、ジブチルスズジラウレート、オクタン酸亜鉛などが挙げられる。
【0048】
前記アミン触媒としては、トリエチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ビス〔(2−ジメチルアミノ)エチル〕エーテル、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、ジエチルベンジルアミン等の第三級アミン化合物が挙げられる。
【0049】
前記整泡剤としては、ポリエーテル変性シリコーンなどの従来公知の整泡剤を用いることができる。前記整泡剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記整泡剤は、前記未硬化組成物中に5.0質量%以下配合されていることが好ましい。
【0050】
また、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、可塑剤、着色剤、防かび剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤等の添加剤については、研磨パッドを構成するためのポリウレタン組成物に一般的に使用されているものを挙げることができ、これら添加剤は、通常、その合計が20.0質量%以下となる割合で前記未硬化組成物中に配合される。
【0051】
なお、研磨層10の形成に用いる上記ポリウレタン組成物以外のポリマー組成物としては、発泡性のエポキシ樹脂組成物、発泡性の不飽和ポリエステル樹脂組成物、発泡性のシリコーン樹脂組成物などが挙げられる。
【0052】
次いで、このようなポリウレタン組成物によって研磨パッドを作製する方法について図2を参照しつつ説明する。
図2は、発泡シートの前段階となる円柱状の発泡体を作製する装置を表す概略図である。
【0053】
この図2にも示されているように、この発泡体FBを作製する装置には、発泡剤を含んだ液状の硬化性ポリウレタン組成物を調整するための調整槽20と該調整槽20で作製されたポリウレタン組成物を収容して前記発泡体FBを形成させるための円筒状の成形型30(以下、「型枠30」ともいう)とを有している。
前記調整槽20には、イソシアネート基含有化合物と活性水素含有有機化合物と発泡剤とを導入した後に、これらが均一混合された状態となるように攪拌手段21が備えられている。
【0054】
そして、このような装置によって研磨パッドを作製するには、例えば、前記調整槽20にイソシアネート基含有化合物と、活性水素含有有機化合物と、発泡剤とを導入させ、必要に応じて、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、可塑剤、着色剤、防かび剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤等を導入させて前記攪拌手段21によってポリウレタン組成物の均質化を実施した後、前記調整槽20を傾斜させ、その上部開口から前記型枠30に対してポリウレタン組成物を注入させる方法が挙げられる。
【0055】
なお、一旦形成された気泡に対しては、その周囲から新たにガスが流入されることから、液状のポリウレタン組成物を調整槽20において調整した後、型枠30の中で硬化が完了するまでの間、通常、気泡もその大きさを増大させることとなる。
したがって、見かけ上の体積もその間において増大させることとなる。
この気泡の成長スピードに併せてポリウレタン組成物の硬化に要する時間をコントロールすることで、この体積の増大方向(図2正面視上下方向)に長く伸びる縦長の気泡を有する発泡体FBを作製することができる。
【0056】
より詳しくは、例えば、ポリウレタン組成物が調整された後、硬化にいたるまでの時間(以下、この時間を「ポットライフ」などともいう)を従来に比べて長期化させることで気泡の伸長を図ることができる。
例えば、ポットライフが3分以上となるようにポリウレタン組成物の配合を調整することで発泡体FBに図2における正面視上下方向に長く伸びる気泡を形成させることができる。
なお、より確実に縦長の気泡を形成させるためには、このポットライフを4分以上とすることが好ましい。
ただし、過度にポットライフを長くすると発泡剤によって発生されたガスが発泡体を形成させる前にポリウレタン組成物液から抜け出してしまい十分な発泡度が得られなくなるおそれを有する。
このようなことから、7分以下であることが好ましく、6分以下であることがより好ましい。
【0057】
なお、ポットライフは、ポリウレタン組成物の配合のみならず、ポリウレタン組成物や型枠30などの温度設定によっても調整可能である。
このようにポットライフの調整は、種々の条件によって調整可能であり、しかも、そのことによって縦長の気泡を容易に作製できるという点において本実施形態の研磨パッドを簡便に作製する上で重要な要件である。
【0058】
また、ポリウレタン組成物の粘度も縦長気泡の形成に重要なファクターとなる。
このようなポットライフを有するポリウレタン組成物における好ましい粘度としては、例えば、調整槽20において調整された直後のポリウレタン組成物の粘度においては、3000mPa・s以下であり、型枠30に注入させた直後のポリウレタン組成物の粘度においては、1500mPa・s以下である。
なお、この粘度とはJIS K7301によって測定される値を意図している。
【0059】
前記のようにして縦長の気泡を形成させた発泡体FBは、求める厚みにスライス加工した後、打ち抜き加工をするなどして所定の外形となるように加工を施して研磨層10の形成に用いる発泡シートとすることができる。
前記発泡体FBに形成された縦長の気泡は、このスライス加工によって発泡シートの表面(研磨面)において開口することとなる。
そして、本実施形態においては、研磨パッドが研磨層のみの単層構造であることから、外形加工が施された後の発泡シートをそのまま研磨パッドとして利用することができる。
【0060】
なお、本実施形態においては、発泡剤を含んだ液状のポリウレタン組成物を作製し、該ポリウレタン組成物を成形型内において発泡、硬化させる工程を実施して一旦発泡体を作製した後、該発泡体をスライスして発泡シートを作製する方法を例示しているが、例えば、形成させる発泡シートと略同厚みのシート状の発泡体を成形型を用いて作製した後に、得られたシート状発泡体の表面の気泡膜を除去して気泡の開口された発泡シートを作製するような場合も本発明の意図する範囲である。
【0061】
また、本実施形態においては、硬化性ポリマー組成物としてポリウレタン組成物を主として例示しているが、上記研磨パッドの製造方法において用いる発泡シート形成用材料をポリウレタン組成物に限定するものではない。
【0062】
さらに、本実施形態においては、研磨層のみの単層構造の研磨パッドを例示しているが研磨層の背面側にクッション層や支持体層などの他の層を設ける場合も本発明の意図する範囲であり、このような積層構造を有する研磨パッドを作製するには、従来用いられている方法によって上記発泡シートをクッション層や支持体層などの形成部材と接着一体化させればよい。
また、上記以外についても、研磨パッドや研磨パッドの製造方法において、従来公知の技術事項を本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて本発明に採用することが可能である。
【実施例】
【0063】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
イソシアネート基含有化合物として、イソシアネート基を両末端に有するウレタンプレポリマーを用い、活性水素含有有機化合物としてMOCA(4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン))を用い、発泡剤として水を用いた液状のポリウレタン組成物を調整した。
このポリウレタン組成物のポットライフをJIS K7301に従って、混合後、粘度が80℃で50000mPa・sに到達するまでの時間を測定した。
結果、ポットライフは、約5分であった。
このポリウレタン組成物を型枠内で発泡・硬化させ、得られた発泡体をスライスして研磨パッド(発泡シート)を作製した。
なお、この実施例1の研磨パッド(発泡シート)の密度、硬度(ショアA)、ならびにドレス性の指標は表1に示す通りである。
また、図3にこの実施例1の研磨パッドの断面写真を示す。
この図3からも、縦長の気泡が形成されていることがわかる。
【0065】
(比較例1、2)
ポットライフが約2分となるようにポリウレタン組成物の配合を調整したこと以外は、実施例1と同様に研磨パッドを作製した(比較例1)。
また、この比較例1と同様にして、この比較例1の研磨パッドよりも低密度な研磨パッドを作製した(比較例2)。
この比較例1、2の研磨パッド(発泡シート)の密度、硬度(ショアA)、ならびにドレス性の指標は表1に示す通りである。
また、図4、図5にこの比較例1、2の研磨パッドの断面写真を示す。
これらの図からも、この比較例1、2の研磨パッドにおいては、球形状の気泡が形成されていることがわかる。
【0066】
【表1】

【0067】
なお、密度の測定は、一定面積にサンプルをカットし、そのサンプルの体積と重さより計算した。
また、硬度はJIS K6253に基づいて実施した。
また、表1におけるドレス性とは、ダイヤモンドドレッサーを用い、4分間ドレス(100g/cm2、100rpm)後、パッドプロファイラーでパッドプロファイルの測定を行い、削れ量を測定して得られた値である。
【0068】
(気泡形状の観察)
実施例1の研磨パッドと、比較例1の研磨パッドとの気泡の平面方向の直径(D)と厚み方向の長さ(L)とをそれぞれ測定し、伸長度合いを表す比の値〔(D/L)×100(%)〕を求めた。
測定した、気泡全体を100とした場合に、先の比が「20以下」、「20を超え40以下」、「40を超え60以下」、「60を超え80以下」、「80を超え100以下」の気泡の出現割合を求めた結果を、下記の表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
この表2からも、実施例1の研磨パッドは、縦長の気泡が主体となっていることがわかる。
【0071】
(吸水試験)
実施例1、比較例1、2の研磨パッドから、厚み0.8mmで、大きさが25mm×180mmの短冊状試験片を切り出し、それぞれの重量を測定した後、40℃の温水に24時間浸漬し、遠心分離機にて余分に付着している水分を除去した後に再び重量を測定し、初期重量との差を求めた。
結果、実施例1の試験片では、0.51gの重量増加が見られたのに対して、比較例1、2の試験片では、それぞれ0.25g、0.30gの重量増加しか見られなかった。
このことからも、実施例1の研磨パッドは、表面に開口している気泡によって多くの水が収容可能となっていることがわかる。
すなわち、砥粒や研磨カスの収容に有利な状態となっていることがわかる。
しかも、先の表1にも示されているように、高い硬度を維持しつつ砥粒や研磨カスを収容しやすい研磨面が形成されており、本発明によれば、縁ダレなどが発生して研磨の質が低下してしまうことを抑制しつつ研磨効率を向上させ得ることがわかる。
【0072】
(ガラス研磨試験)
実施例1、比較例1の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でガラス板(厚み0.7mm、大きさ、400mm×300mm)を研磨し、研磨後の削れ量(ガラス板の厚みの減少量)を測定した。なお、試験は続けて3回実施した。
結果をグラフ化して図6に示す。
【0073】
<研磨条件>
研磨機:Speedfam社製、型名「SP−800」
定盤回転数:60rpm
揺動回数:7回/分
研磨圧力:150gf/cm2
研磨時間:10分
試験温度:室温
使用スラリー:CeO2微粒子を6質量%含有する水分散液
スラリー流量:6リットル/分
【0074】
この図6にも示されているように、比較例1の研磨パッドは、実施例1の研磨パッドに比べて“削れ量”が小さく、しかも、この“削れ量”が回数を重ねるごとに小さくなっているのがわかる。
一方で、実施例1の研磨パッドは、3回の測定の間、高い“削れ量”を維持し続けていることがわかる。
これは、本発明の研磨パッドは、砥粒等の担持性に優れ、しかも、研磨カスなどによる目詰まりが防止されるなどして良好なる研削性が維持されているためであると認められる。
すなわち、本発明によれば、研磨の質の低下を抑制しつつ研磨効率を向上させ得る研磨パッドが提供されうることがこれらのことからもわかる。
【符号の説明】
【0075】
1:研磨パッド、1s:表面、1b:裏面、10:研磨層、30:成形型(型枠)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被研磨物の研磨に用いられる表面がポリマー組成物を発泡させた発泡シートによって構成されており、該発泡シートがその気泡を前記表面において開口させている研磨パッドであって、
前記発泡シートの気泡は、シート厚み方向に長く伸びる縦長形状を有していることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記ポリマー組成物が、ポリウレタン組成物である請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
少なくとも被研磨物の研磨に用いられる表面がポリマー組成物を発泡させた発泡シートによって構成されており、該発泡シートがその気泡を前記表面において開口させている研磨パッドを作製すべく、発泡剤を含んだ液状の硬化性ポリマー組成物を作製し、該硬化性ポリマー組成物を成形型内において発泡、硬化させて前記発泡シートに用いる発泡体を作製する研磨パッドの製造方法であって、
シート厚み方向に長く伸びる縦長形状の気泡を有している前記発泡シートを作製すべく、成形型内において前記硬化性ポリマー組成物が硬化するまでの時間を調整することにより、前記硬化性ポリマー組成物が発泡によってその見かけ上の体積を増大させる方向に沿って長く伸びる縦長形状の気泡を前記発泡体中に形成させることを特徴とする研磨パッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98426(P2011−98426A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256015(P2009−256015)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000116127)ニッタ・ハース株式会社 (150)
【Fターム(参考)】