説明

研磨パッド

【課題】 生産性を向上させるとともに良好な研磨面を得ることのできる研磨パッドを提供することである。
【解決手段】 被加工物を研磨する研磨パッドであって、ポリウレタンと該ポリウレタン中に混入された砥粒とを少なくとも含み、70℃における損失弾性率(E´´)/貯蔵弾性率(E´)で表される値(tanδ)が0.1〜0.3の範囲内であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウエーハ等の被加工物を研磨する研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイスや光デバイスの製造プロセスにおいて、優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として、化学的機械的研磨法、所謂CMP(Chemical Mechanical Polishing)が広く採用されている。
【0003】
溶けた多結晶シリコンから引き上げ法(CZ法)や浮遊帯法によって形成された単結晶シリコンインゴットや、リボン結晶育成法(EFG法)や熱交換法(HEM法)などの結晶育成方法で形成された単結晶サファイアインゴット等は、不要部分が除去された後、面方位を指定するオリエンテーションフラットやノッチと呼ばれるマークが形成される。
【0004】
その後、スラリーと呼ばれるオイル又は水にSiC等の砥粒が混合された切削液を供給しながら、ワイヤソーで単結晶シリコンインゴット又は単結晶サファイアインゴットは所定の厚みへとスライスされる。スライスされたウエーハはCMP法などを用いて研磨されて平坦化される。
【0005】
特に近年ではLSIの高集積化を可能にするため、ウエーハ上に半導体回路を立体的に形成する多層配線化が進んでいる。このような多配線化を可能にするため、浅い焦点深度でも十分に露光が行えるようにするべく、ウエーハの表面を非常に高精度に平坦化することが要求されている。
【0006】
一方、半導体デバイスや光デバイスは小型化、薄型化の傾向にあり、シリコンやGaAs等の化合物半導体からなる半導体ウエーハ及びサファイアやSiC等からなる光デバイスウエーハの薄型化が要求されている。
【0007】
このため、ウエーハの裏面を砥石などで機械的に研削加工した後、この研削により生じた研削歪の除去や抗折強度の向上を目的として、研削後のウエーハの裏面をCMPによって研磨加工している。
【0008】
CMPは研磨パッドと被研磨物との間に研磨液(スラリー)を供給しつつ、研磨パッドと被研磨物とをそれぞれ回転させながら相対的に摺動することで遂行される(例えば、特開平3−248532号公報参照)。
【0009】
研磨パッドとしては一般的に不織布が使用され、例えばシリカなどの浮遊砥粒を含んだ研磨液(スラリー)を供給しながら研磨パッドで被研磨物の表面を研磨する。しかし、遊離砥粒を含んだ研磨液を使用したCMPでは、大部分の浮遊砥粒が寄与することなく廃液中に残存してしまうので、廃液処理が困難であるという問題がある。
【0010】
また、研磨時の砥粒の消費量は、通常砥粒全体の3〜4%程度であることから、大部分の砥粒が研磨に寄与することなく無駄に消費されてしまうという問題もある。そこで、例えば特開2005−129644号公報には、遊離砥粒を含有しない研磨液とともに使用する固定砥粒型研磨パッドが開示されている。特開2005−129644号公報で開示されている固定砥粒型研磨パッドは、少なくともポリウレタンとポリウレタンに結合された砥粒とから構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−248532号公報
【特許文献2】特開2005−129644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、このような固定砥粒型研磨パッドにおいて、ポリウレタンの硬度が低いと、ウエーハ研磨時の押圧によって砥粒がポリウレタンに沈み込むため、研磨レートが低いという問題がある。
【0013】
またポリウレタンの硬度が高すぎると、砥粒がポリウレタンに沈み込むのが抑制されウエーハに当接する砥粒数が減り、一砥粒当たりの圧力が高くなる。従って、研磨加工後のウエーハの表面粗さが悪くなる上、スクラッチ等の傷が発生し易くなる。
【0014】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、生産性を向上させるとともに良好な研磨面を得ることのできる研磨パッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によると、被加工物を研磨する研磨パッドであって、ポリウレタンと該ポリウレタン中に混入された砥粒とを少なくとも含み、70℃における損失弾性率(E´´)/貯蔵弾性率(E´)で表される値(tanδ)が0.1〜0.3の範囲内であることを特徴とする研磨パッドが提供される。
【0016】
好ましくは、研磨パッドのガラス転移温度は85℃〜100℃である
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、生産性を向上させるとともに良好な研磨面を得ることができる研磨パッドが提供される。本発明の研磨パッドで被研磨物を研磨することで、スクラッチの発生を抑えることができるとともに高研磨レートを達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の製造方法で研磨パッドを作成し、パッド物性及び研磨特性について比較した。ポリオールA、ポリオールB、イソシアネート、シリカからなる砥粒を所定割合(質量部)で配合して、液状樹脂混合物を調整した。
【0019】
実験で使用したポリオールAは、水酸基価370mgのポリオキシアルキレンポリオールであり、ポリオールBは水酸基価172mgのポリオキシアルキレンポリオールであり、イソシアネートは4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)であった。
【0020】
しかし、本発明の研磨パッドの製造には、ポリオールとしてポリオキシアルキレンポリオールに限定されるものではなく、ビニル重合体含有ポリオキシアルキレンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリオキシアルキレンポリエステルブロック共重合体ポリオール等も使用可能である。
【0021】
また、イソシアネートも4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)に限定されるものではなく、他の芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等も使用可能である。
【0022】
ポリオールAを50.0質量部〜81.3質量部まで変化させ、ポリオールBを50.0質量部〜18.8質量部まで変化させ、ポリオールAとポリオールBの合計が100質量部となるように調整した。
【0023】
ポリオール100質量部に対して、イソシアネートを73質量部〜89質量部まで変化させ、砥粒を143質量部〜189質量部まで変化させて配合し、表1のA〜Hまでの配合比からなる液状樹脂混合物を調整した。
【0024】
液状樹脂混合物を調整後、この液状樹脂混合物を金型に注入して、20〜30℃の室温で24時間放置し、発泡硬化させて発泡ポリウレタン研磨パッドを作成した。その後、発泡ポリウレタン研磨パッドを研磨機の定盤に粘着テープで貼り付け、ダイアモンドを電着した修正リングで、発泡ポリウレタン研磨パッドの表面を修正し、発泡構造が表面に露出した厚み3mmの発泡ポリウレタン研磨パッドを得た。
【0025】
発泡ポリウレタン研磨パッドにシリコンウエーハを押圧し、発泡ポリウレタン研磨パッドとシリコンウエーハとの間にアルカリ溶液からなる研磨液を供給しながら、発泡ポリウレタン研磨パッドとウエーハとの相対運動によってウエーハを研磨加工し、パッド物性及び研磨特性を比較した。
【0026】
この時の研磨条件は以下の通りであった。
【0027】
研磨圧力 :300g/cm
研磨液流量 :200ml/min
定盤回転数 :90rpm
発泡ポリウレタン研磨パッド径:φ600mm
シリコンウエーハ:φ8インチ
【0028】
パッド特性については、パッドタイプA〜Iを比重(g/cm)、ガラス転移温度(℃)及び75℃における損失弾性率(E´´)/貯蔵弾性率(E´)で表される値、即ちtanδ@75℃について測定した。
【0029】
また、研磨特性については、研磨レート(μm/min)、研削後のウエーハの表面粗さRa(Å)及び研磨後のウエーハのスクラッチについて測定した。
【0030】
表面粗さの測定は、研磨後のウエーハの表面をChapman MP3300を用いて実施し、スクラッチの測定は、ウエーハ研磨後集光灯にてウエーハの表面を観察し、スクラッチがあるものを×、スクラッチがないものを○として表1に示した。また総合判定は、研磨レート及びスクラッチ状態ともに良好なものを◎、どちらか一方が良好でないものを×とした。
【0031】
【表1】

【0032】
表1を観察すると明らかなように、パッド特性の一種であるtanδ@75℃が0.1〜0.3の範囲内で研磨レート及びスクラッチとも良好であり、相互判定として◎であった。即ち、tanδ@75℃が0.1〜0.3の範囲内であるパッドタイプC,D,G,Hが良好な研磨パッドであると判明した。
【0033】
この時のガラス転移温度は、85℃〜100℃の範囲内であった。ポリオールの水酸基価を高くするか、或いはイソシアネートの配合量を増やすことでガラス転移温度を上げることが可能である。ガラス転移温度が高いとパッドはより硬質に、ガラス転移温度が低いとパッドはより軟質となる。
【0034】
貯蔵弾性率(E´)及び損失弾性率(E´´)の測定は、セイコーインスツルメンツ社製弾性測定装置EXSTER6100DMSに圧縮試験治具を用いて、長さ2mm、直径8mmの円柱体サンプル片を、温度範囲室温〜150℃、昇温速度2℃/min、周波数2Hzで実施した。また、ガラス転移温度の測定は、上記条件にてtanδから算出した。
【0035】
以上の結果から、tanδ=損失弾性率/貯蔵弾性率を指標として研磨パッドを制作することにより、良好な研磨結果が得られる研磨パッドを制作できることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を研磨する研磨パッドであって、
ポリウレタンと該ポリウレタン中に混入された砥粒とを少なくとも含み、
70℃における損失弾性率(E´´)/貯蔵弾性率(E´)で表される値(tanδ)が0.1〜0.3の範囲内であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
ガラス転移温度が85℃〜100℃である請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
被加工物はシリコンウエーハから構成される請求項1又は2記載の研磨パッド。

【公開番号】特開2011−142249(P2011−142249A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2752(P2010−2752)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】