説明

研磨装置および方法

【課題】半導体ウエハ等の基板を研磨面に押圧するためのメンブレンの特性を装置に入力することにより、メンブレンの特性に合わせた最適な研磨条件で基板を研磨することができる研磨装置および方法を提供する。
【解決手段】研磨面を有した研磨テーブル101と、圧力流体が供給される圧力室5,6,7を形成する弾性膜であるメンブレン4と、メンブレン4を保持するトップリング本体2とを有し、圧力室5,6,7に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリング1と、装置内の各機器を制御する制御部とを備え、制御部は、予め測定したメンブレン4の特性を入力することによりメンブレン4の特性に合わせて研磨条件を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨装置および方法に係り、特に半導体ウエハなどの研磨対象物(基板)を研磨して平坦化する研磨装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴い、回路の配線がますます微細化し、多層配線の層数も増加している。回路の微細化を図りながら多層配線を実現しようとすると、下側の層の表面凹凸を踏襲しながら段差がより大きくなるので、配線層数が増加するに従って、薄膜形成における段差形状に対する膜被覆性(ステップカバレッジ)が悪くなる。したがって、多層配線するためには、このステップカバレッジを改善し、然るべき過程で平坦化処理しなければならない。また光リソグラフィの微細化とともに焦点深度が浅くなるため、半導体デバイスの表面の凹凸段差が焦点深度以下に収まるように半導体デバイス表面を平坦化処理する必要がある。
【0003】
従って、半導体デバイスの製造工程においては、半導体デバイス表面の平坦化技術がますます重要になっている。この平坦化技術のうち、最も重要な技術は、化学的機械研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))である。この化学的機械的研磨は、研磨装置を用いて、シリカ(SiO)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッド等の研磨面上に供給しつつ半導体ウエハなどの基板を研磨面に摺接させて研磨を行うものである。
【0004】
この種の研磨装置は、研磨パッドからなる研磨面を有する研磨テーブルと、半導体ウエハを保持するためのトップリング又は研磨ヘッド等と称される基板保持装置とを備えている。このような研磨装置を用いて半導体ウエハの研磨を行う場合には、基板保持装置により半導体ウエハを保持しつつ、この半導体ウエハを研磨面に対して所定の圧力で押圧する。このとき、研磨テーブルと基板保持装置とを相対運動させることにより半導体ウエハが研磨面に摺接し、半導体ウエハの表面が平坦かつ鏡面に研磨される。
【0005】
このような研磨装置において、研磨中の半導体ウエハと研磨パッドの研磨面との間の相対的な押圧力が半導体ウエハの全面に亘って均一でない場合には、半導体ウエハの各部分に与えられる押圧力に応じて研磨不足や過研磨が生じてしまう。半導体ウエハに対する押圧力を均一化するために、基板保持装置(トップリング)の下部に弾性膜(メンブレン)から形成される圧力室を設け、この圧力室に圧縮空気などの圧力流体を供給することで弾性膜を介して流体圧により半導体ウエハを研磨パッドの研磨面に押圧するタイプの研磨装置も用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−324458号公報
【特許文献2】特開2006−128582号公報
【特許文献3】特開2004−349340号公報
【特許文献4】特開2007−196603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、研磨装置においては、半導体ウエハ等の基板を研磨パッドに押圧することで研磨が行われる。基板の研磨は高い制御性と安定性が基板全域にわたって求められる。メンブレンを用いた研磨装置には、メンブレンに径方向に区分けされた複数の圧力室を設け、各圧力室に供給される圧力流体の圧力をそれぞれ制御することにより、基板の径方向に沿った各領域毎(エリア毎)に異なった圧力で半導体ウエハを押圧することが可能なタイプの研磨装置がある。このタイプの研磨装置では、それぞれの圧力室の圧力差から研磨レートの分布を形成する。
【0008】
メンブレン(弾性膜)を用いた研磨装置においては、基板全域の研磨レートが最適になるように、メンブレンへの圧力条件を変えることでチューニング(生産を完全に停止して実施する研磨条件の調整)を行い、研磨条件を決定する。しかしながら、基板を加圧するメンブレンを交換すると再現性の乏しい研磨レートが得られることがあり、チューニングを再度行ったり、メンブレンを交換したりすることがあった。
【0009】
そのため、本発明者らは、メンブレンを交換した場合に再現性の乏しい研磨レートが得られる原因を解明するために、メンブレン自体の特性について測定して測定結果の解析を行うとともに、メンブレンを交換してウエハの研磨を行う実験を繰り返し行った。その結果、以下の知見を得たものである。
【0010】
ゴム製品であるメンブレンは金型で成型するものの、寸法、硬度、弾性係数などの個体差によって伸び易さの差が存在する。メンブレンが伸びることで基板を押圧する研磨方法では、この伸びにくさは圧力損失となるから、圧力等の研磨条件はその損失を見込んで決定する必要がある。
メンブレン自体に伸び易さの個体差が存在すると、消耗品であるメンブレンを交換した際に研磨特性が変わってしまい、研磨性能の安定性を損なう要因となる。この不安定性は基板の外周部で顕著に見られ、予め不安定性を見込んだ研磨圧力の設定を行うか、部品の選別を行うことで対処する必要があるが、前者は不安定性を根本的に解決できるわけではなく、後者は消耗品のコストが高くなるという問題が生ずる。また、メンブレンの伸び易さに応じて研磨レシピを再度チューニングする方法も考えられるが、その方法では生産性が著しく低下してしまうことになる。
【0011】
メンブレンの伸び易さが特に影響を与えるのが、基板外周縁部の研磨レートである。
本発明で用いるメンブレンではメンブレン最外周の側壁には縦方向の伸びやすさに配慮した折り返しが設けられるが、それでもこの縦方向の伸び易さには個体差があり、1個の個体の中でも周方向にばらつきが存在する。この側壁は大気圧と研磨圧力の境界であることから横方向力を受けなければならず、縦方向の伸び易さのみを優先することができなくなる。これは横方向へ伸びてしまうと縦方向への伸び易さが阻害されるからである。
同じ壁でも加圧エリアを分割している隔壁の場合、その両側に圧力室があり、この二つの圧力室の力で隔壁を伸ばすことになるので、相対的に伸び易さの影響を受けにくい。
基板の研磨レートを制御する上で、もっとも難しい領域が基板の外周縁部である。いわゆるエッジエリアと呼ばれるこの領域では、メンブレン側壁の伸び量のばらつきがそのまま研磨レートのばらつきとして反映されてしまうことになる。エッジエリアの研磨レート制御が難しい理由には、リテーナリングによるパッドのリバウンド量制御が難しい、研磨部と非研磨部との境界面であることによる温度やスラリー(研磨剤)の分布の変化が大きい、ということもある。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、半導体ウエハ等の基板を研磨面に押圧するためのメンブレンの特性を装置に入力することにより、メンブレンの特性に合わせた最適な研磨条件で基板を研磨することができる研磨装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の研磨装置の第一の態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜であるメンブレンと、該メンブレンを保持するトップリング本体とを有し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリングと、装置内の各機器を制御する制御部とを備え、前記制御部は、予め測定したメンブレンの特性を入力することによりメンブレンの特性に合わせて研磨条件を変更することを特徴とする。
本発明によれば、予め測定されたメンブレンの特性を制御部に入力すると、制御部はメンブレンの特性に合わせて研磨条件を変更する。そのため、メンブレンの特性に合わせた最適な研磨条件で基板を研磨することができるので、メンブレンを交換した場合に、メンブレンの個体差があってもその個体差を補正することができ、再現性に優れた研磨レートを得ることができる。
【0014】
本発明の好ましい態様は、前記メンブレンの特性が、ゴム硬度であることを特徴とする。
本発明によれば、メンブレンのゴム硬度を予め求めておくことにより、メンブレンの伸びやすさを把握することができる。したがって、メンブレンのゴム硬度に応じて、メンブレンに加える研磨圧力等の研磨条件を最適なものにすることができる。ゴム硬度は、例えば、デュロメータで測定した硬度である。
【0015】
本発明の好ましい態様は、前記メンブレンの特性が、ゴムの伸びやすさであることを特徴とする。
本発明によれば、メンブレンの伸びやすさに応じてメンブレンに加える研磨圧力を最適な値にすることができる。例えば、伸びやすいメンブレンの場合には、圧力室に供給する流体の圧力を下げるように補正し、伸びにくいメンブレンの場合には圧力室に供給する流体の圧力を上げるように補正することにより、メンブレンを交換した場合でも基板に加える研磨圧力を常に最適な値にすることができる。
【0016】
本発明の好ましい態様は、前記メンブレンの特性が、メンブレンの内側をある一定の圧力で加圧した際の伸び量であることを特徴とする。
本発明によれば、メンブレンの内側をある一定の圧力で加圧した際の伸び量を測定することにより、メンブレンの伸びやすさを把握することができる。そして、メンブレンの伸びやすさに応じてメンブレンに加える流体の圧力を最適な値にすることができる。
【0017】
本発明の好ましい態様は、前記伸び量が、メンブレン表面の伸び量を範囲ごとに重み付けした結果から導き出されることを特徴とする。
本発明によれば、メンブレンの特定範囲(エリア)における伸びが他の範囲より研磨レートに与える影響が大きいという場合には、この特定範囲の伸び量に重み付けをして、メンブレンの伸び量を求める。
【0018】
本発明の好ましい態様は、前記伸び量が、メンブレン表面の最外周近傍の伸び量を測定した結果から導き出されることを特徴とする。
本発明によれば、研磨レートのばらつきが基板の最外周近傍に発生することが多いので、メンブレンの伸び量をメンブレンの最外周近傍を集中的に測定した結果から求める。
【0019】
本発明の研磨装置の第二の態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜であるメンブレンと、該メンブレンを保持するトップリング本体とを有し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリングと、前記メンブレンの伸び量を測定する測定器と、装置内の各機器を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記測定器により測定されたメンブレンの伸び量に合わせて研磨条件を変更することを特徴とする。
本発明によれば、測定器により測定されたメンブレンの伸び量を制御部に入力すると、制御部はメンブレンの伸び量に合わせて研磨条件を変更する。メンブレンは長時間使用していると経時的に伸び量が変化していくが、伸び量を都度もしくは定期的に測定することで、測定された伸び量に合わせて研磨条件を補正することができる。したがって、メンブレンの伸び量に合わせた最適な研磨条件で基板を常に研磨することができる。
【0020】
本発明の研磨装置の第三の態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜であるメンブレンと、該メンブレンを保持するトップリング本体とを有し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリングとを備え、メンブレンの内側をある一定の圧力で加圧した際の伸び量を周方向の位相と共に測定し、その測定結果から伸び量の少ない範囲が研磨面に対して近くなるようにメンブレンを傾けてトップリングに取り付けることを特徴とする。
本発明によれば、メンブレンの円周方向に伸び量のばらつきがあっても、メンブレンをトップリングに取り付ける際に伸び量の少ない範囲が研磨面に対して近づくように傾けて取り付けることにより、基板に加わる研磨圧力が円周方向で均一になり、円周方向で均一な研磨プロファイルを確保することが可能である。
【0021】
本発明の研磨装置の第四の態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜であるメンブレンと、該メンブレンを保持するトップリング本体と、基板の外周縁を保持するとともに円周方向に沿って異なる圧力で研磨面を押圧できるリテーナリングとを有し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリングとを備え、メンブレンの内側をある一定の圧力で加圧した際の伸び量を周方向の位相と共に測定し、その測定結果から伸び量の少ない範囲のリテーナリング面圧が高く、もしくは低くなるように制御することを特徴とする。
本発明によれば、メンブレンの円周方向に伸び量のばらつきがあっても、リテーナリング面圧を発生させるリテーナリング圧力室を円周方向で複数に分割し、分割された各圧力室を独立して圧力制御することでリテーナリングの面圧分布を変化させることにより、基板に加わる研磨圧力が円周方向で均一になり、円周方向で均一な研磨プロファイルを確保することが可能である。
【0022】
本発明の研磨方法は、弾性膜であるメンブレンにより形成された圧力室を備えたトップリングにより基板を保持し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧して研磨する研磨方法であって、メンブレンを交換する際に、予め測定したメンブレンの特性を装置に入力し、研磨条件を変更することを特徴とする。
本発明によれば、予め測定されたメンブレンの特性に合わせて研磨条件を変更することができる。そのため、メンブレンの特性に合わせた最適な研磨条件で基板を研磨することができるので、メンブレンを交換した場合に、メンブレンの個体差があってもその個体差を補正することができ、再現性に優れた研磨レートを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、以下に列挙する効果を奏する。
(1)予め測定されたメンブレンの特性に合わせて研磨条件を変更する構成であるため、メンブレンの特性に合わせた最適な研磨条件で基板を研磨することができる。したがって、メンブレンを交換した場合に、メンブレンの個体差があってもその個体差を補正することができ、再現性に優れた研磨レートを得ることができる。
(2)測定器により測定されたメンブレンの伸び量に合わせて研磨条件を変更する構成であるため、メンブレンの長時間使用により経時的に伸び量が変化しても、伸び量を都度もしくは定期的に測定し、測定された伸び量に合わせた最適な研磨条件で基板を研磨することができる。
(3)メンブレンの円周方向に伸び量のばらつきがあっても、メンブレンをトップリングに取り付ける際に伸び量の少ない範囲が研磨面に対して近づくように傾けて取り付けることにより、基板に加わる研磨圧力が円周方向で均一になり、円周方向で均一な研磨プロファイルを確保することが可能である。
(4)メンブレンの円周方向に伸び量のばらつきがあっても、リテーナリングの面圧分布を円周方向で変化させることにより、基板に加わる研磨圧力が円周方向で均一になり、円周方向で均一な研磨プロファイルを確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る研磨装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図2は、研磨対象物である半導体ウエハを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する基板保持装置を構成するトップリングの模式的な断面図である。
【図3】図3(a)は、第1圧力室と第2圧力室に圧力流体を供給したときのメンブレンの隔壁の挙動を示す模式図であり、図3(b)は、第3圧力室に圧力流体を供給したときのメンブレンの側壁の挙動を示す模式図である。
【図4】図4(a),(b),(c)は、圧力室に圧力流体を供給する前後におけるメンブレンの状態を示す模式的な断面図である。
【図5】図5は、メンブレンの伸び量を測定する一例を示す模式図である。
【図6】図6は、メンブレンの伸び量を測定する他の例を示す模式図である。
【図7】図7(a)〜(c)は、メンブレンの伸び測定結果と研磨レートとの関係を示すグラフ、研磨圧力と研磨レートとの関係を示すグラフ、およびメンブレンの伸び測定結果と補正後の研磨圧力の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、メンブレンの伸び易さの補正なしの場合と補正有りの場合におけるトップリングの圧力コントロールの相違について説明する模式図である。
【図9】図9は、メンブレンの伸び易さの補正なしの場合と補正有りの場合における装置の操作手順の相違について説明する模式図である。
【図10】図10は、研磨装置上でメンブレンの伸び量を測定する方法を示す模式的側面図である。
【図11】図11(a),(b)は、研磨装置上でメンブレンの伸び量を測定する方法を示す模式的平面図である。
【図12】図12(a),(b)は、トップリングを傾ける方法を示す模式的断面図である。
【図13】図13(a),(b),(c)は、リテーナリング圧力室を3分割または6分割した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る研磨装置の実施形態について図1乃至図13を参照して詳細に説明する。なお、図1から図13において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0026】
図1は、本発明に係る研磨装置の全体構成を示す概略図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨テーブル100と、研磨対象物である半導体ウエハ等の基板を保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧するトップリング1とを備えている。
研磨テーブル100は、その下方に配置されるテーブル回転モータ103に連結されており、その軸心の周りに回転可能になっている。研磨テーブル100の上面には研磨パッド101が貼付されており、研磨パッド101の表面101aが半導体ウエハWを研磨する研磨面を構成している。研磨テーブル100の上方には研磨液供給ノズル(図示せず)が設置されており、この研磨液供給ノズルによって研磨テーブル100上の研磨パッド101上に研磨液(スラリー)が供給されるようになっている。
【0027】
なお、市場で入手できる研磨パッドとしては種々のものがあり、例えば、ロデール社製のSUBA800、IC−1000、IC−1000/SUBA400(二層クロス)、フジミインコーポレイテッド社製のSurfin xxx−5、Surfin 000等がある。SUBA800、Surfin xxx−5、Surfin 000は繊維をウレタン樹脂で固めた不織布であり、IC−1000は硬質の発泡ポリウレタン(単層)である。発泡ポリウレタンは、ポーラス(多孔質状)になっており、その表面に多数の微細なへこみまたは孔を有している。
【0028】
トップリング1は、半導体ウエハWを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体2と、半導体ウエハWの外周縁を保持して半導体ウエハWがトップリングから飛び出さないようにするリテーナリング3とから基本的に構成されている。
【0029】
トップリング1は、トップリングシャフト111に接続されており、このトップリングシャフト111は、上下動機構124により揺動アーム110に対して上下動するようになっている。このトップリングシャフト111の上下動により、揺動アーム110に対してトップリング1の全体を昇降させ位置決めするようになっている。トップリングシャフト111の上端にはロータリージョイント125が取り付けられている。
トップリングシャフト111およびトップリング1を上下動させる上下動機構124は、軸受126を介してトップリングシャフト111を回転可能に支持するブリッジ128と、ブリッジ128に取り付けられたボールねじ132と、支柱130により支持された支持台129と、支持台129上に設けられたトップリング昇降モータ138とを備えている。トップリング昇降モータ138は、ACサーボモータから構成されている。トップリング昇降モータ138を支持する支持台129は、支柱130を介して揺動アーム110に固定されている。
【0030】
ボールねじ132は、トップリング昇降モータ138に連結されたねじ軸132aと、このねじ軸132aが螺合するナット132bとを備えている。トップリングシャフト111は、ブリッジ128と一体となって上下動するようになっている。したがって、トップリング昇降モータ138を駆動すると、ボールねじ132を介してブリッジ128が上下動し、これによりトップリングシャフト111およびトップリング1が上下動する。
【0031】
また、トップリングシャフト111はキー(図示せず)を介して回転筒112に連結されている。この回転筒112はその外周部にタイミングプーリ113を備えている。揺動アーム110の上面にはトップリング回転モータ114が固定されており、上記タイミングプーリ113は、タイミングベルト115を介してトップリング回転モータ114に設けられたタイミングプーリ116に接続されている。したがって、トップリング回転モータ114を回転駆動することによってタイミングプーリ116、タイミングベルト115、およびタイミングプーリ113を介して回転筒112およびトップリングシャフト111が一体に回転し、トップリング1が回転する。なお、揺動アーム110は、フレーム(図示せず)に回転可能に支持されたトップリング揺動シャフト117によって支持されている。トップリング揺動シャフト117にはトップリング揺動モータ118が連結されている。研磨装置は、テーブル回転モータ103、トップリング回転モータ114、トップリング揺動モータ118、トップリング昇降モータ138をはじめとする装置内の各機器を制御する制御部50を備えている。
【0032】
図1に示すように構成された研磨装置において、トップリング1は、その下面に半導体ウエハWなどの基板を保持できるようになっている。揺動アーム110はトップリングシャフト117を中心として揺動可能に構成されており、下面に半導体ウエハWを保持したトップリング1は、揺動アーム110の揺動により半導体ウエハWの受取位置から研磨テーブル100の上方に移動される。そして、トップリング1を下降させて半導体ウエハWを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに押圧する。このとき、トップリング1および研磨テーブル100をそれぞれ回転させ、研磨テーブル100の上方に設けられた研磨液供給ノズルから研磨パッド101上に研磨液を供給する。このように、半導体ウエハWを研磨パッド101の研磨面101aに摺接させて半導体ウエハWの表面を研磨する。
【0033】
次に、本発明の研磨装置におけるトップリング(研磨ヘッド)について説明する。図2は、研磨対象物である半導体ウエハを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する基板保持装置を構成するトップリング1の模式的な断面図である。図2においては、トップリング1を構成する主要構成要素だけを図示している。
図2に示すように、トップリング1は、半導体ウエハWを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体2と、研磨面101aを直接押圧するリテーナリング3とから基本的に構成されている。トップリング本体2は、上部にあるトップリングフランジ21と、中間部にあるトップリングスペーサ22と、下部にあるキャリア23とからなっている。トップリング本体2は、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂やステンレス材などにより形成されている。トップリング本体2の下面には、半導体ウエハの裏面に当接する弾性膜(メンブレン)4が取り付けられている。弾性膜(メンブレン)4は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0034】
リテーナリング3はトップリング本体2の外周部に取り付けられている。リテーナリング3は、トップリング本体2のキャリア23に固定されたリング状のリテーナリングガイド25により、その上下動が案内されるようになっている。
【0035】
前記弾性膜(メンブレン)4は、最外周にある側壁4sと、側壁4sの内側にある同心状の複数の隔壁4kとを有し、これら側壁4sおよび隔壁4kによって、メンブレン4の上面とトップリング本体2の下面との間に円形状の第1圧力室5、環状の第2圧力室6、環状の第3圧力室7が形成されている。すなわち、トップリング本体2の中心部に第1圧力室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、第2圧力室6、第3圧力室7が形成されている。トップリング本体2内には、第1圧力室5に連通する流路11、第2圧力室6に連通する流路12、第3圧力室7に連通する流路13がそれぞれ形成されている。そして、第1圧力室5に連通する流路11、第2圧力室6に連通する流路12、第3圧力室7に連通する流路13は、ロータリージョイント125(図1参照)を介して圧力室加圧ライン(図示せず)にそれぞれ接続されている。各圧力室加圧ラインは、圧力コントローラ(図示せず)を介して圧力流体源(図示せず)に接続されている。この例では圧力室が3つだが、圧力室の数は研磨対象の膜種などで増減する。
【0036】
また、リテーナリング3の直上にも弾性膜(メンブレン)8によってリテーナリング圧力室9が形成されている。弾性膜(メンブレン)8は、トップリングフランジ21に固定されたシリンダ24内に収容されている。リテーナリング圧力室9は、トップリング本体2内に形成された流路15およびロータリージョイント125(図1参照)を介して圧力室加圧ライン(図示せず)に接続されている。そして、この圧力室加圧ラインは、圧力コントローラ(図示せず)を介して圧力流体源(図示せず)に接続されている。なお、リテーナリングガイド25とリテーナリング3間、リテーナリング3と弾性膜(メンブレン)4間、およびシリンダ24とリテーナリングガイド25間には、それぞれシール部材が設けられており、スラリー等の入り込みを防止するようにしている。
【0037】
図2に示すように構成されたトップリング1においては、上述したように、トップリング本体2の中心部に第1圧力室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、第2圧力室6、第3圧力室7が形成され、これら第1圧力室5、第2圧力室6、第3圧力室7およびリテーナリング圧力室9に供給する流体の圧力を各圧力室加圧ラインに設けられた圧力コントローラによってそれぞれ独立に調整することができる。各圧力コントローラは、制御部50(図1参照)に接続されていて、それらの作動が制御されるようになっている。第1圧力室5の領域のメンブレン4は半導体ウエハWの中央部を研磨パッド101に押圧し、第2圧力室6の領域のメンブレン4は半導体ウエハWの中間部を研磨パッド101に押圧し、第3圧力室7の領域のメンブレン4は半導体ウエハWの外周部を研磨パッド101に押圧するようになっている。このような構造により、半導体ウエハWを研磨パッド101に押圧する押圧力を半導体ウエハの領域毎に調整でき、かつリテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を調整できる。
【0038】
次に、図1および図2に示すように構成された研磨装置による一連の研磨処理工程について説明する。
トップリング1は基板受渡し装置から半導体ウエハWを受け取り真空吸着により保持する。弾性膜(メンブレン)4には半導体ウエハWを真空吸着するための複数の孔(図示せず)が設けられており、これらの孔は真空源(図示せず)に連通されている。半導体ウエハWを真空吸着により保持したトップリング1は、予め設定したトップリングの研磨時設定位置まで下降する。この研磨時設定位置では、リテーナリング3は研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地しているが、研磨前は、トップリング1で半導体ウエハWを吸着保持しているので、半導体ウエハWの下面(被研磨面)と研磨パッド101の表面(研磨面)101aとの間には、わずかな間隙(例えば、約1mm)がある。このとき、研磨テーブル100およびトップリング1は、ともに回転駆動されている。この状態で、圧力室に圧力流体を供給して半導体ウエハの裏面側にある弾性膜(メンブレン)4を膨らませ、半導体ウエハの下面(被研磨面)を研磨パッド101の表面(研磨面)に当接させ、研磨テーブル100とトップリング1とを相対運動させることにより、半導体ウエハの研磨を開始する。そして、各圧力室5,6,7,9に供給する流体の圧力を調整することにより、半導体ウエハWを研磨パッド101に押圧する押圧力を半導体ウエハの領域毎に調整し、かつリテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を調整し、半導体ウエハの表面が所定の状態(例えば、所定の膜厚)になるまで研磨する。
【0039】
次に、メンブレン4により形成された各圧力室5,6,7に圧力流体を供給したときのメンブレン4の側壁4sおよび隔壁4kの挙動について説明する。隔壁4kおよび側壁4sには、縦方向の伸びやすさに配慮した「く」の字状の折り返しが設けられている。
図3(a)は、第1圧力室5と第2圧力室6に圧力流体を供給したときのメンブレン4の隔壁4kの挙動を示す模式図である。図3(a)の上の図に示すように、第1圧力室5と第2圧力室6に圧力流体を供給すると、メンブレン4に下方への圧力がかかり、図3(a)の下の図に示すように、隔壁4kの折り返しが上下に伸びてメンブレン4の下面が下方に膨らむ。このとき、隔壁4kの両側面に第1圧力室5と第2圧力室6の圧力が作用するのでバランスがとれ、隔壁4kの「く」の字状の折り返しの形がくずれることなく折り返しの挟角が開くことにより隔壁4kが伸びる。図3(a)においては、第1圧力室5と第2圧力室6の間の隔壁4kの挙動を示したが、第2圧力室6と第3圧力室7の間の隔壁4kの場合も同様である。
【0040】
図3(b)は、第3圧力室7に圧力流体を供給したときのメンブレン4の側壁4sの挙動を示す模式図である。図3(b)の上の図に示すように、第3圧力室7に圧力流体を供給すると、メンブレン4に下方への圧力がかかり、図3(b)の下の図に示すように、メンブレン4の下面が下方に膨らむ。側壁4sは大気圧と研磨圧力(第3圧力室7の圧力)の境界であることから、側壁4sの内外では大きな圧力差があるため、図3(b)の上下の図に示すように、側壁4sには、横方向の圧力がかかり、側壁4sは半径方向外側(横方向)に膨らむ。このように、側壁4sが横方向に伸びてしまうと「く」の字状の折り返しの形もくずれてしまい、縦方向への伸び易さが阻害されることになる。なお、側壁4sの横方向への膨らみを防ぐためには、側壁4sの剛性(肉厚)を上げればよいが、そうすると側壁4sの縦方向への伸び易さも阻害されることになる。
【0041】
図4(a),(b),(c)は、圧力室に圧力流体を供給する前後におけるメンブレン4の状態を示す模式的な断面図である。なお、図4(a)、(b)および(c)においては、トップリング1の半分を図示しており、メンブレン4の外周側にあるリテーナリング3の図示を省略している。
図4(a)は、いずれの圧力室にも圧力流体を供給していないときのメンブレン4の状態を示す図である。図4(a)に示すように、圧力室に圧力流体が供給されていない場合には、メンブレン4の下面はキャリア23に近接した状態にある。
図4(b)は、第3圧力室7に圧力流体を供給したときのメンブレン4の状態を示す図である。図4(b)に示すように、メンブレン4の下面をフリーの状態にして第3圧力室7に圧力流体を供給してメンブレン4の最外周のエリアを加圧すると、メンブレン4の最外周のエリアAeは均一には伸びていないことが分かる。
図4(c)は、第1圧力室5、第2圧力室6および第3圧力室7に圧力流体を供給したときのメンブレン4の状態を示す図である。図4(c)に示すように、メンブレン4の下面に半導体ウエハWを保持し、第1圧力室5、第2圧力室6および第3圧力室7に圧力流体を供給すると、メンブレン4は膨らみ、半導体ウエハWの下面を研磨パッド101に押圧する。この場合、メンブレン4の最外周のエリアAeの伸びは、他のエリアの伸びに比べてわずかに小さい。メンブレン4の最外周のエリアAeの伸び具合は、ウエハの加圧分布に影響を与える。図4(c)においては、メンブレン4の最外周のエリアAeとウエハとの間に隙間が生じているように図示されているが、実際には隙間が生じなくても、加圧力の損失は生じる。
【0042】
メンブレンの伸び易さは、ある一定の圧力をメンブレンの内側に加えた際の膨らみ量によって把握することができる。他にも硬度や肉厚、各部の寸法からも伸び易さを把握することができるので、それら個別の測定から伸び易さとして指数化してもよい。例えばゴム硬度の場合は材料ロットでその傾向が決まるので、ロットで管理することも可能である。
以下に、メンブレンの膨らみを直接測定する方法について説明するが、伸び易さに関係する要素であれば、それを下記方法に置き換えることができる。
メンブレンの伸び易さには個体差がある。そこで、製造されたメンブレンを出荷する前、もしくはユーザーが装置に取り付ける前などに、ある一定の加圧条件下における膨らみを測定する。この時、メンブレンの表面には何の障害物も無い状態で加圧するのがよく、圧力を加える為にメンブレンをセットする治具、常に等しい圧力を加える為の制御機器、正確に測定するためのセンサ類(接触式または非接触式)、等配で測定する為の回転治具、などの各種機器類を用意する。
【0043】
図5は、メンブレンの伸び量を測定する一例を示す模式図である。図5に示す例においては、メンブレンの伸び量を測定する手段として、接触式測距離センサ52を用いている。
膨らんでいない状態、もしくは取付治具の位置を原点として、メンブレン内部に圧力を加えて膨らませた時の変化量を測定する。図5では、トップリングと同様の構造を有する取付治具51にメンブレン4を取り付け、最外周の圧力室7に圧力流体を供給することによりメンブレン4を膨らませ、原点からのメンブレンの伸び量(ΔL)を接触式測距離センサ52で測定する。測定箇所は一箇所でも良いが、測定のばらつきや特異点の影響を排除するために、等配で複数、もしくは全周をスキャンする形で平均値を出しても良い。研磨レートのばらつきは基板の外周縁部に発生することが多いので、伸びの測定もメンブレン外周縁部を集中的に測定するのが良いが、それは管理したいばらつきがどこに存在するのかで決めることになる。但し、メンブレンの構造によっては、ばらつきの発生する部分以外を測定した方が伸び易さの傾向をより確実に把握できる場合も考えられる。
【0044】
ここでは、メンブレンの内側をある一定圧力で加圧したときメンブレンの伸び易さにばらつきが生じることを考慮して、メンブレンの半径方向に所定範囲ごとにメンブレンの伸び量を測定する。メンブレンの特定の範囲(エリア)における伸びが他の範囲より研磨レートに与える影響が大きいという場合には、メンブレンの伸び量の測定結果に応じて所定の重み付けを行う。
例えば、メンブレンの最外周の範囲(エリア)で測定したメンブレンの伸び量をX、半径方向やや内方の範囲(エリア)で測定したメンブレンの伸び量をX、より内方の範囲(エリア)で測定したメンブレンの伸び量をXとする。それぞれの測定結果X、X、Xに対する重み付け係数をa、b、cとする。ここでは、最外周部の測定結果に対する重み付け係数aが最も大きな数値に設定されている。重み付けした結果のメンブレンの平均伸び量は、(aX+bX+cX)/(a+b+c)で求められる。
被測定部はメンブレン表面がもっとも研磨レートとの相関を取りやすいが、側壁自体の伸び、もしくは側壁の横方向伸びを測ってもよい。
【0045】
図6は、メンブレンの伸び量を測定する他の例を示す模式図である。図6に示す例においては、メンブレンの伸び量を測定する手段として、非接触式測距離センサ53を用いている。非接触式測距離センサ53には、例えばレーザ式測距離センサがあり、非接触でメンブレンの伸び量(ΔL)を測定することができる。メンブレン4にレーザが透過しない、もしくは透過しないような工夫を施して光学的に膨らみを捉えてもよい。この場合、スポット測定ではなく、ある幅を持ってその膨らみのカーブを測定する方法もあり、この方法を用いれば、より精密に膨らみ易さを測定・管理することができる。接触式測距離センサでも同様のことが可能であるが、測定子の自動送り制御などの測定時間を短縮する方法が望まれる。非接触式測距離センサには、レーザ式測距離センサの他に超音波センサも使用可能である。
【0046】
図5および図6に示すように測定した伸び易さは、単位がmmである。この情報を研磨レートの補正に使うには、換算式が必要となる。
図7(a)〜(c)は、メンブレンの伸び測定結果と研磨レートとの関係を示すグラフ、研磨圧力と研磨レートとの関係を示すグラフ、およびメンブレンの伸び測定結果と補正後の研磨圧力の関係を示すグラフである。
ここでは、簡略化して説明するが、例えば100hPaの圧力で加圧した際のメンブレンの膨らみを測定したら、伸びが4.5mm、5.5mm、5.0mmという測定結果が出たとする。この伸びが最小の個体である4.5mm品、中間の5mm品、最大の5.5mm品、さらにその間を埋める個体について、それぞれ面圧200hPaで研磨テストを実施して、研磨レートを測定する。図7(a)に示すように、4.5mm品のエッジエリア(例えば最外周2〜3mm)の研磨レートの平均が450nm/min、5mm品が500nm/min、5.5mm品が550nm/minという結果が出て、その間にも比例関係が成り立っているとする。更に、このエッジエリアの研磨レートを±50nm/minさせるのに必要な圧力変化が200±20hPaだったとする。この場合、基本的に圧力が高い方が研磨レートは大きい。すなわち、図7(b)に示すように、圧力が180hPaのとき、研磨レートは450nm/min、200hPaのとき500nm/min、220hPaのとき550nm/minということができる。
【0047】
これらの結果に比例の関係があるのであれば、面圧200hPaの時で伸び量の差±0.5mmは、圧力に換算すると±20hPaという関係が成り立つ。このような条件下で、伸び測定結果が5mmのメンブレン(5mm品)を用いて加圧圧力が200hPaという研磨条件を採用した場合、図7(c)に示すように、伸び測定結果が4.5mmのメンブレン(4.5mm品)を取り付けたのならエッジ部の圧力を220hPaに補正し、5.5mmのメンブレン(5.5mm品)を取り付けたのならエッジ部の圧力を180hPaに補正することで、伸び測定結果が5mmのメンブレン(5mm品)を用いて加圧圧力が200hPaの時と等しい研磨結果を得ることができる。つまり、この場合の伸びに対応する補正後の研磨圧力(研磨量を一定に保つ為)の関係式は、
(1)補正後の研磨圧力(hPa)=−40(hPa/mm)×伸び測定結果値(mm)+400(hPa)
となる(図7(c)参照)。
また、上記研磨テストの結果を図7(a)に示すように、研磨圧力200hPa時の伸びと研磨レートの関係式は、
(2)研磨レート(nm/min)=100(nm/(min×mm))×伸び測定結果値(mm)
さらに、図7(b)に示すように、伸び測定結果5mmのメンブレンを使用した際の研磨圧力と研磨レートの関係式は、
(3)研磨レート(nm/min)=2.5(nm/(min×hPa))×(研磨圧力(hPa)
となり、(1)の式は(2)と(3)の関係から導かれるものである。
尚、これらの式が適用できるのは上記式で近似される範囲のみとなる。
【0048】
装置に伸びが測定されたメンブレンを取り付けた際、上記式で求めた研磨圧力を研磨レシピに反映することになる。研磨レシピには、研磨時間、基板の研磨圧力、リテーナリングの圧力、研磨テーブルとトップリングの回転数、スラリーの流量、ドレッシング圧力、ドレッシングの回転数等が含まれ、伸び測定結果を考慮してこれらの値が決められる。しかしながら、レシピが多数存在し、基板一枚の研磨で複数の研磨条件(研磨ステップ)をもつ場合、その入力工数は非常に多く、その作業費(人件費)や装置のダウンタイムを増やす結果となる。
そこで、装置には伸び易さの測定結果をmm単位、もしくは数値化された値(伸び易さを表すパラメータで、硬度(度数)と伸び量(mm)などから導かれる)を入力することによって、装置が研磨レシピを自動的に補正するようなソフトを導入する。この場合、上記式は中心圧力が200hPaの場合であるが、伸び易さの影響度合いは研磨圧力が低い程高く、研磨圧力が高くなればその影響は相対的に低くなる。
【0049】
例えば、上記特定の研磨条件下におけるメンブレンの伸び易さの影響度合いが、面圧200hPa時を1として、面圧300hPaで0.7、面圧100hPaでは1.3であるとする。この影響度合いに比例の関係があるとすると、これらの関係式は以下のようになり、
研磨圧力=レシピ設定圧+
(レシピ設定圧/5)(1.6−レシピ設定圧×0.003)(5−伸び測定結果値)
で表現される。
すなわち、上記の例では補正要素として、メンブレンの伸び5mmを基準とした場合の伸び1mm当たりのレシピ設定圧の値(レシピ設定圧/5)、影響度合い(1.6−レシピ設定圧×0.003)および測定したメンブレンの伸びが基準の5mmよりどれだけ伸びているか短いか(5−伸び測定結果値)を加味している。ここで、影響度合いは、面圧100hPaから300hPaの間の影響度合いからレシピ設定圧に相当する影響度合い(レシピ設定圧×0.003)を引いている。
この例ではメンブレンに合わせた研磨圧力を求めることを前提としたが、他の伸び易さを補えるような要素、例えばメンブレンの位置(トップリングの高さ)を上げ下げすれば、より直接的に補正が可能となる。もちろん単純に考えれば伸びない量をそのまま補えば良い場合もあると考えられるが、研磨対象物の有無(膨らみの自由度)もあるので、やはり何らかの換算式が必要になる。
【0050】
メンブレンの伸び易さを補正する手段として上記の他には、研磨時のエアバック圧力(圧力室の圧力)の変更、リテーナリングの面圧変更などで基板に作用する研磨圧力を補正する手段、スラリーの流量、研磨テーブルの温度、研磨テーブルやトップリングの回転数など、研磨作用の変更で補正する手段もあり、当然これらを組み合わせてもよい。
更にメンブレンの個体差も長期使用によって変化していくので、処理枚数や総研磨時間に合わせて上記影響度合いを変化させていくなどとしてもよい。
【0051】
次に、メンブレンの伸び易さの補正なしの場合と補正有りの場合におけるトップリングの圧力コントロールの相違および装置の操作手順の相違について図8および図9を参照して説明する。
図8において左側の図は、メンブレンの伸び易さの補正なしの場合の圧力コントローラの制御方法を示す図である。同図に示すように、研磨レシピを入力すると、装置コントローラ(制御部)は、レシピ通りに指令値を算出し、算出された指令値をDAコンバータに出力して圧力コントローラを制御し、トップリング1の各圧力室の圧力を制御する。
図8において右側の図は、メンブレンの伸び易さの補正有りの場合の圧力コントローラの制御方法を示す図である。同図に示すように、研磨レシピを入力すると、装置コントローラ(制御部)は、入力されたメンブレンの伸び易さを考慮した指令値を算出し、算出された指令値をDAコンバータに出力して圧力コントローラを制御し、トップリング1の各圧力室の圧力を制御する。したがって、メンブレンの伸び易さを考慮して最適な研磨圧力で研磨することができる。
【0052】
図9において左側の図は、メンブレンの伸び易さの補正なしの場合に起こりうる操作手順を示す図である。同図に示すように、使用していたメンブレンが消耗したら新たなメンブレンに交換する。すると、研磨プロファイルが変化して、ウエハ表面の膜厚の平坦度などを検査する工程で不良品が出てしまい、生産を一時停止することになる。そのため、研磨プロファイルを確認し、補正量をチューニングする。そして、レシピを変更し、生産を再スタートする。
図9において右側の図は、メンブレンの伸び易さの補正有りの場合の操作手順を示す図である。同図に示すように、メンブレン製造時に伸び量、材料特性を測定する。そして、測定結果から伸び易さを指数化する。装置にメンブレンを装着する際に、メンブレン固有の伸び易さの指数を装置に入力する。装置はその数値に基づいて、レシピを補正して研磨する。したがって、メンブレンを替えても、研磨プロファイルは変化しない。
【0053】
上記実施形態はメンブレンの伸び易さを装置搭載前に測定するものであるが、装置に取り付けた状態で測定する方法もある。この場合、測定機器・測定箇所は前出と同様であるが、注意しなければならないのはメンブレン表面が水やスラリーで濡れている為、特に非接触式の測定器の場合はこの水を除去しなければならない。そこで、メンブレン表面を圧縮空気などで吹くことで、水分を除去するなどしてもよい。測定センサは基板受渡し装置(プッシャ)もしくは研磨テーブル脇など、トップリングが揺動する範囲に設置する。
【0054】
図10は、研磨装置上でメンブレンの伸び量を測定する方法を示す模式的側面図である。
図10に示すように、メンブレンの伸び量を測定する測距離センサ55は、研磨テーブル100に隣接して研磨テーブル100の側方に設置されている。測距離センサ55は接触式又は非接触式センサからなっている。また、トップリング1が揺動する範囲であってトップリング1の下方には、洗浄ノズル56が設置されている。洗浄ノズル56は、純水、圧縮空気、Nを噴射することができるようになっている。洗浄ノズル56から噴射される純水、圧縮空気、Nは、必要に応じて使い分けることができるようになっている。例えば、研磨後にメンブレン4の伸び量を測定したい場合には、洗浄ノズル56から純水を噴射してメンブレン4を洗浄してメンブレン4からスラリーを除去し、洗浄後に圧縮空気又はNをメンブレン4に吹きつけてメンブレン4から水分を除去し、その後、測距離センサ55によりメンブレン4の伸び量を測定する。なお、図10には、研磨液(スラリー)を研磨パッド101上に供給する研磨液供給ノズル102が図示されている。
【0055】
図11(a),(b)は、研磨装置上でメンブレンの伸び量を測定する方法を示す模式的平面図である。トップリング1は揺動アーム110によって研磨位置(図11(a)に示す)と測定位置(図11(b)に示す)との間を揺動可能になっている。そして、トップリング1が測定位置に揺動したときに、図10に示すように、測距離センサ55によってメンブレンの伸び量が測定されるようになっている。なお、測定前に洗浄ノズル56によってメンブレンを洗浄することは、前述したとおりである。
【0056】
図10および図11に示す方法によってメンブレンの伸び量を測定するタイミングは、メンブレンを取り付けた直後と、その後ある周期をもって定期的に測定し、測定後はその結果から補正をしていく。
メンブレンの個体差は長期使用によって変化していくので、同様に処理枚数や総研磨時間に合わせて上記影響度合いを変化させていくなどとしてもよいが、都度もしくは周期的に測定をすることで確実に補正をすることも可能である。
また、メンブレンと基板との距離を一定に保つことが研磨の安定性確保には望ましい。これはリテーナリングがトップリング本体から上下に独立して動作できる機構とトップリング本体が研磨面に対して距離を一定にできる機構が備わっていれば可能である。よって、望ましい形態としては、この様な構成でメンブレンの必要な伸び量と伸び易さを一定にするか、本発明のように把握された伸び易さからレシピを補正する。
【0057】
更に、メンブレンの伸び易さを個体差だけでなく、1個の個体の中での傾向を把握することで、研磨プロファイルに現れる円周方向の研磨ばらつきも補正することができる。メンブレンの製造過程で生じる膨らみのばらつきは、円周方向で極大値と極小値が180度の位相を持つことが多い。これは、金型を組み合わせた際の遊びがある一方に寄ってしまうため、肉厚部と肉薄部が生じる為である。つまり、肉厚部は伸びにくく、肉薄部は伸び易い。この様な場合、トップリングをその伸びの差分だけ傾けることで、円周方向で均一な研磨プロファイルを確保することが可能である。
【0058】
図12(a),(b)は、トップリングを傾ける方法を示す模式的断面図である。図12(a)に示すように、トップリング1のトップリングスペーサ22とキャリア23にスペーサ溝22g,23gを設け、メンブレン4をトップリング1に取り付ける際にどこが伸びにくい場所かを把握し、メンブレンの伸び難さ極大値のある場所(位相)に対応した位置にスペーサ60を装着する。このようにスペーサ60をメンブレンの伸び難さ極大値のある場所(位相)に配置することにより、図12(b)に示すように、トップリングスペーサ22とキャリア23間に隙間を生じさせることができ、メンブレンを装置に取り付けた際にそこが研磨テーブルに対して近づく様に傾けて取り付けることができる。傾ける他の具体的な手段としては、トップリングシャフト111とトップリング1の間に傾斜のついたスペーサを入れる、トップリングシャフト111のボールスプラインナット部の取り付け部を傾ける、などがある。傾ける量は基本的にわずかであるので、例えば、キャリア23とトップリングスペーサ22の間にシムを入れるなどしてもよい。予め傾けることを前提として設計すれば、シムが安定して嵌まる様にザグリを用意しておいても良い。尚、この程度の隙間であればトップリングスペーサ22とキャリア23間にある配管の接続部のOリング類も機能を失うことはない。
【0059】
また、ばらつきを補正する方法として上記メンブレンを傾けるのではなく、リテーナリングの面圧分布を変える方法もある。これは、例えばリテーナリング面圧を発生させるリテーナリング圧力室を円周方向で3分割し、分割された各圧力室を独立して圧力制御することでリテーナリングの面圧分布を変化させることが出来る。
図13(a),(b),(c)は、リテーナリング圧力室を3分割または6分割した例を示す図である。図13(a)は、3個のリテーナリングエアバックを設けることにより3個のリテーナリング圧力室9a,9b,9cを形成している。図13(b)は、6個のリテーナリングエアバックを設けることにより6個のリテーナリング圧力室9a,9b,9c,9d,9e,9fを形成している。なお、リテーナリング3も圧力室に対応して3分割又は6分割されていることは勿論である。
図13(c)は、分割されたリテーナリング圧力室およびリテーナリングを備えたトップリング1を示す断面図の例である。図13(c)に示すように、各リテーナリング圧力室を構成するリテーナリングエアバックは、図2と同様に弾性膜(メンブレン)8によって形成されている。
また、各リテーナリング圧力室9a〜9c(図13(a)),9a〜9f(図13(b))は、個別の流路15a〜15c(図13(a)),15a〜15f(図13(b))を介して加圧ライン(図示せず)に接続されている。
【0060】
図13(a)〜(c)に示すように、リテーナリング圧力室を3分割又は6分割する場合も、上記シムで傾ける方法と同様に、メンブレンを取り付けた際にどの位相に膨らみやすさの極大値、もしくは極小値が存在するかを確認し、例えば膨らみが小さい、つまり研磨レートが小さくなってしまう範囲でリテーナリング面圧が小さくなるようにリテーナリング圧力室の圧力を制御し、逆に膨らみが大きい、つまり研磨レートが大きくなってしまう範囲でリテーナリング面圧が大きくなるようにリテーナリング圧力室の圧力を制御する。これは、リテーナリング面圧が小さいと基板のエッジ部研磨レートが上昇する場合であるが、研磨プロセスが異なれば逆の傾向もあるので、上記大小の関係はこの例ばかりではない。
【0061】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
1 トップリング
2 トップリング本体
3 リテーナリング
4 弾性膜(メンブレン)
4k 隔壁
4s 側壁
5 第1圧力室
6 第2圧力室
7 第3圧力室
8 弾性膜(メンブレン)
9 リテーナリング圧力室
11,12,13,1415 流路
21 トップリングフランジ
22 トップリングスペーサ
22g,23g スペーサ溝
23 キャリア
24 シリンダ
25 リテーナリングガイド
50 制御部
51 取付治具
52 接触式測距離センサ
53 非接触式測距離センサ
55 測距離センサ
56 洗浄ノズル
60 スペーサ
100 研磨テーブル
101 研磨パッド
101a 研磨面
102 研磨液供給ノズル
103 テーブル回転モータ
110 揺動アーム
111 トップリングシャフト
112 回転筒
113 タイミングプーリ
114 トップリング回転モータ
115 タイミングベルト
116 タイミングプーリ
117 トップリング揺動シャフト
118 トップリング揺動モータ
124 上下動機構
125 ロータリージョイント
126 軸受
128 ブリッジ
129 支持台
130 支柱
132 ボールねじ
132a ねじ軸
132b ナット
138 トップリング昇降モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨面を有した研磨テーブルと、
圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜であるメンブレンと、該メンブレンを保持するトップリング本体とを有し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリングと、
装置内の各機器を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、予め測定したメンブレンの特性を入力することによりメンブレンの特性に合わせて研磨条件を変更することを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記メンブレンの特性が、ゴム硬度であることを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記メンブレンの特性が、ゴムの伸びやすさであることを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記メンブレンの特性が、メンブレンの内側をある一定の圧力で加圧した際の伸び量であることを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項5】
前記伸び量が、メンブレン表面の伸び量を範囲ごとに重み付けした結果から導き出されることを特徴とする請求項4に記載の研磨装置。
【請求項6】
前記伸び量が、メンブレン表面の最外周近傍の伸び量を測定した結果から導き出されることを特徴とする請求項4に記載の研磨装置。
【請求項7】
研磨面を有した研磨テーブルと、
圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜であるメンブレンと、該メンブレンを保持するトップリング本体とを有し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリングと、
前記メンブレンの伸び量を測定する測定器と、
装置内の各機器を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記測定器により測定されたメンブレンの伸び量に合わせて研磨条件を変更することを特徴とする研磨装置。
【請求項8】
研磨面を有した研磨テーブルと、
圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜であるメンブレンと、該メンブレンを保持するトップリング本体とを有し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリングとを備え、
メンブレンの内側をある一定の圧力で加圧した際の伸び量を周方向の位相と共に測定し、その測定結果から伸び量の少ない範囲が研磨面に対して近くなるようにメンブレンを傾けてトップリングに取り付けることを特徴とする研磨装置。
【請求項9】
研磨面を有した研磨テーブルと、
圧力流体が供給される圧力室を形成する弾性膜であるメンブレンと、該メンブレンを保持するトップリング本体と、基板の外周縁を保持するとともに円周方向に沿って異なる圧力で研磨面を押圧できるリテーナリングとを有し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧するトップリングとを備え、
メンブレンの内側をある一定の圧力で加圧した際の伸び量を周方向の位相と共に測定し、その測定結果から伸び量の少ない範囲のリテーナリング面圧が高く、もしくは低くなるように制御することを特徴とする研磨装置。
【請求項10】
弾性膜であるメンブレンにより形成された圧力室を備えたトップリングにより基板を保持し、圧力室に圧力流体を供給することで流体圧により基板を研磨面に押圧して研磨する研磨方法であって、
メンブレンを交換する際に、予め測定したメンブレンの特性を装置に入力し、研磨条件を変更することを特徴とする研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−76157(P2012−76157A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221265(P2010−221265)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】