説明

硫化物膜の真空堆積中における酸素及び水の除去(ゲッタリング)方法

本発明は、多重元素の薄膜発光体組成物の堆積中に蒸発する大気から望ましくない原子種をゲッタリングするための方法である。前記方法は、堆積チャンバ内の発光体膜組成物の堆積直前及び/又は堆積中に、1又は2以上のゲッター種を蒸発することを含む。前記方法は、高誘電率定数を持つ厚膜誘電体層を用いるフルカラー交流エレクトロルミネセントディスプレイに使用される発光体材料の輝度及び放出スペクトルを向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素、水、及び、他の望ましくない原子種の濃度が最小化される、多数エレメントの薄膜組成物堆積のための方法に関する。より具体的には、本発明は、多数エレメントの発光体膜組成物の堆積中に、蒸発(気化)雰囲気から、酸素、水、及び/又は、他の望ましくない原子種を除去する方法である。前記方法は、高誘電定数を有する厚膜誘電体層を用いたフルカラー交流エレクトロルミネセントディスプレイの堆積に対して特に有用である。
【背景技術】
【0002】
厚膜の誘電体構造は、セラミック基板上に典型的に作製され、ガラス基板上に作製された薄膜エレクトロルミネセント(TFEL)ディスプレイに比して作動電圧を抑制するだけでなく、絶縁破壊に対する優れた耐性を提供する。セラミック基板上に堆積されるとき、厚膜誘電体構造は、ガラス基板上のTFEL装置よりも高い処理温度に耐えられる。この増大した高温耐性によって、光度を向上させるためにより高い温度での発光体膜のアニーリングが容易になる。しかしながら、この得られる光度が増大した場合でさえも、全体的なエネルギー効率の向上及び消費電力の減少を可能とするために、装置の輝度効率をさらに増大することが望まれる。
【0003】
本出願人は、例えば米国特許第5,432,015号明細書(その開示内容が全体的に参照として本明細書に組み込まれる)に例として記載されているような、厚膜の誘電体エレクトロルミネセント装置において使用される発光体を堆積するための様々な方法を開発している。例えば、国際特許出願PCT CA01/01823号パンフレット(その開示内容が全体的に参照として本明細書に組み込まれる)は、三元、四元、又は同様の発光体組成物の堆積に対する電子ビーム蒸着の方法であり、その組成物の成分は、異なる供給源上に位置する。特に、組成物は、群IIA及び群IIBの元素のチオアルミネート、チオガレート、又はチオニデートであり、このような組成物を形成する硫化物は異なる供給源上に位置するものである。出願人の国際特許出願PCT CA01/01234号パンフレット(その開示内容が全体的に参照として本明細書に組み込まれる)は、デュアルソース電子ビーム堆積を用いたデュアルソース発光体堆積方法を開示している。この第1及び第2の供給源の様々な化合物は、発光体に必要な組成物を提供するために必要な比率で存在する。この堆積した発光体は、好ましくは、青色放射ユーロピウム活性バリウムチオアルミネート(BaAl:Eu)である。出願人の国際特許出願PCT CA02/00688号パンフレット(その開示内容が全体的に参照として本明細書に組み込まれる)は、制御された組成物の多数エレメントの発光体膜を堆積するための単一の供給源スパッタリング方法を開示している。前記方法は、発光体における所望の膜組成物とは異なる組成物を有する単一の密集したターゲット形状の供給源材料を用いる。堆積された膜中の前記処理におけるターゲット組成物のより重い化学元素に比した光化学元素の濃度は、所望のものより高い。
【0004】
発光体組成物の堆積において、堆積される発光体膜中に望ましくない化学種が組み込まれる虞を最小化するために、堆積雰囲気から望ましくない化学種を除去することが望ましい。ゲッターには、米国特許第4,062,319号明細書、米国特許第4,118,542号明細書、米国特許第5,508,586号明細書、米国特許第6,514,430号明細書、及び、米国特許第6,586,878号明細書において例として記載されたような、様々な応用において反応性ガスを除去する材料が知られている。
【0005】
米国特許第5,976,900号明細書には、可動イオンへのゲッター(除去材)として作用する処理チャンバの内部表面上に提供されるプレコート層が記載されている。前記プレコート層は、任意のウエハ処理に先立って処理チャンバの表面に適用される。
【0006】
米国特許第6,299,746号明細書には、処理チャンバ内のガス状雰囲気を純化するためのゲッターシステムが記載されている。このゲッターシステムは、処理チャンバ内に配置される平面的のゲッター装置を備えている。
【0007】
米国特許第6,299,689号明細書には、リフローされる材料層にゲッタリング材料が到達することを防ぐシールドを含むリフローチャンバ内のゲッタリング材料の用法が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許には、ゲッター材料の用法が開示されているが、発光体組成物における輝度及び発光効率をさらに向上する目的で、厚膜誘電体エレクトロルミネセントディスプレイにおいて使用するために、発光体組成物の堆積中に望ましくない原子種をゲッタリングするための改良した方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、発光体組成物が基板上に堆積される堆積チャンバ内の蒸発雰囲気から酸素、水、及び/又は、他の望ましくない原子種を最小化及び除去するための方法である。このようなものとして、前記方法は、発光体組成物上及び/又は内に堆積されるものから、酸素、水、及び/又は、他の望ましくない原子種を最小化及び除去するのに有用である。
【0010】
前記方法は、基板上の発光体膜組成物の堆積中に蒸発する虞のある望ましくない原子種を除去するための堆積チャンバの内部壁上にゲッタリング膜を形成するために蒸発又はスパッタリング技術を用いて蒸発可能又は気化可能なゲッター種を提供することを含む。前記ゲッター種は、発光体膜組成物の堆積の直前又は同時に蒸発する。本発明の方法において、望ましくない原子種は、共に揮発しないかあるいは最小限にとどまり、それ故、堆積する発光体組成物において組み込まれないかあるいは最小限にとどまる。
【0011】
本発明の態様によれば、発光体膜組成物の堆積が基板上にもたらされる堆積チャンバ内における望ましくない原子種の生成を最小化するための方法である。前記方法は、以下の処理を含む。
1又は2以上のゲッター種を前記堆積チャンバ内における発光体膜組成物の堆積中の直前に及び/又は同時に蒸発することであり、前記蒸発は、前記発光体膜組成物の堆積中に前記チャンバ内で望ましくない原子種を除去するゲッター種を連続的に提供する。
【0012】
本発明の態様によれば、発光体膜組成物の堆積が基板上にもたらされる堆積チャンバ内における水、酸素、及び/又は、望ましくない原子種の生成及び堆積を最小化するための方法である。前記方法は、以下の処理を含む。
1又は2以上のゲッター種を前記堆積チャンバ内における発光体膜組成物の堆積中の直前に及び/又は同時に蒸発することであり、前記蒸発は、前記チャンバ内で、前記水、酸素、及び/又は望ましくない原子種を連続的に除去する。
【0013】
本発明のさらに他の態様によれば、発光体膜組成物堆積に対する真空堆積チャンバ内における高表面領域ゲッター膜をインサイチュで供給する方法である。前記ゲッター膜を作製するゲッター種は、吸収される望ましくない種の生成に比例した率で提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、堆積チャンバ内における基板上に厚膜の所定の発光体組成物を堆積するための蒸着方法が提供される。前記組成物は、周期表の群IIA及び群IIBから少なくとも1つの元素のチオアルミネート、チオガレート、及びチオニデートからなる群から選択される三元、四元、又はより高次の硫化化合物を含む。前記方法は、以下の処理を含む。
前記所定の組成物を形成する硫化物を含む少なくとも1つの供給源付近の1又は2以上のゲッター種を蒸発することであり、前記ゲッター種は、前記堆積チャンバの内部表面上に連続的に堆積される。
【0015】
本発明のさらに他の態様によれば、蒸着チャンバ内の基板上にユーロピウム活性バリウムチオアルミネート又はユーロピウム活性カルシウムチオアルミネート発光体組成物を堆積するための蒸着方法が提供される。前記方法は、
(a)発光体組成物を集合的に含む1又は2以上の供給源を蒸発すること、
(b)(a)の直前又は同時に、堆積チャンバから望ましくない蒸気種を除去及び最小化して前記発光体組成物中への組込を最小化するために、堆積チャンバにおける内部表面領域の実質的な部位内において高表面領域ゲッター膜を提供するようなゲッター種における緻密な低表面領域供給源を蒸発すること、
を含む。
【0016】
本発明における他の特色及び利点は、後述の詳細な記載から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明及び特定の例は、本発明の実施形態を示しているが、単に例示のために付与されていることを理解されるべきである。何故なら、本発明の趣旨及び範囲内において多様な変形及び修正が、前記詳細な説明から当業者に対して明らかになるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、本明細書で付与された説明から、及び添付の図面から、より十分に理解されるであろう。これらは例示のためのみ付与され、本発明の範囲を限定する意図ではない。
【0018】
本発明は、発光体組成物の堆積中に発光体組成物中に組み込むことを最小化するために、蒸着雰囲気中の酸素、水、及び/又は、他の望ましくない原子種の量を制御及び最小化するための方法である。このようなものとして、前記方法は、発光体組成物上及び/又は内に堆積されるものから、酸素、水、及び/又は、他の望ましくない原子種を最小化及び除去するのに有用である。本発明の方法は、発光体組成物の堆積前及び/又は堆積中に堆積チャンバの内部壁上のゲッター膜を提供するために蒸発される1又は2以上のゲッター種を組み込む。前記ゲッター膜は、発光体組成物の堆積直前に提供されてもよく、及び/又は、発光体組成物が基板上に堆積されるための期間中に、連続的に提供される。ゲッター膜の連続的な供給は、徐々に、継続的に、意図的に、実質的な中断なく、供給することと同義であることが、当業者によって理解される。
【0019】
インサイチュな方法は、吸収される望ましくない蒸気種の生成に比例した率で発光体膜組成物堆積に対する真空堆積チャンバ内における高表面領域ゲッター膜を供給する。本発明は、望ましくない蒸気種を吸収するために、そして、堆積処理の進行するような減少率で蒸気種を吸収するために、固定された容量のゲッターにおける能力の制限を克服している。本発明は、真空堆積チャンバが開口しているときのゲッター非活性化の問題をも克服しており、これにより、ゲッターを飽和させるための酸素及び水蒸気の周囲環境からの進入を可能としている。本発明は、覆われて固定されたゲッター材料の問題及びこれによる発光体が堆積されるときの発光体組成物の種による非活性化の問題をさらに克服している。
【0020】
本発明における蒸気堆積方法は、制御された硫黄分を含む周期表の群IIA及び群IIBの少なくとも1つの元素のチオアルミネート、チオガレート、又はチオニデートの群から発光体組成物が選択される、基板上への発光体組成物の堆積に対して特に有用である。所望の発光体組成物を堆積する供給源材料は、金属、合金、金属間化合物、硫化物、堆積される発光体膜化合物を含む元素を密に含有する、硫黄含有蒸気から選択されるものを含む。本発明の実施の形態において、堆積された厚膜化合物は、ユーロピウム活性バリウムチオアルミネート発光体組成物、又は、ユーロピウム活性カルシウムチオアルミネート発光体組成物を含む。本発明の方法を用いて、高輝度及び有用な放射カラーの発光体が得られる。
【0021】
前記方法において、堆積された発光体の組成物を形成する1又は2以上の供給源材料は、例えば、電子ビーム蒸着、熱蒸着、又は、スパッタリングといった、低圧の物理的気相成長法を用いて好適な基板上に堆積される。これらの物理的気相成長法は、当業者にとって公知である。供給源材料の相対蒸発率は、堆積基板上で金属種の所望の比率を得るように、制御される。堆積された発光体組成物を形成するように使用される単数又は複数の供給源から基板上への成分の堆積の経時的な変化は、出願人の国際特許出願PCT CA01/01823号パンフレット(その開示内容が全体的に参照として本明細書に組み込まれる)において教示されているように、単数又は複数の供給源から瞬間的な蒸気堆積をもたらすように、監視され制御され得る。ゲッター種又は材料は、任意の過剰な硫黄種、酸素、水、又は、他の望ましくない原子種が蒸発されて堆積基板上に堆積されることで発光体組成物中に入り込むことを除外、防止、又は最小化するために、(単数又は複数の)供給源付近に提供される。ゲッター種は、(単数又は複数の)供給源の実質的に直近で蒸発(気化して)、堆積チャンバ中に導入される望ましくない原子種を直線で示す堆積チャンバの内部表面における実質的部位上の高表面領域ゲッター膜の形成部上方に堆積(凝縮)される。従って、望ましくない原子種分子がチャンバ表面に接触する場合には、高確率で捕捉されて(すなわち、除去されて)固定化される。望ましくない蒸気原子種には、酸素、水、過剰な硫黄、二酸化炭素、一酸化炭素、一酸化硫黄、二酸化硫黄、窒素分子、及び他の水素含有分子が含まれるが、これらに限定されないことが理解される。本発明の方法は、当業者によって理解されるように、任意の標準的な種類の蒸気堆積チャンバの使用に好適である。
【0022】
本発明の方法において堆積チャンバ内に1又は2以上のゲッター種が提供され得ることが、当業者によって理解される。堆積された発光体組成物の組成物を作製する1又は2以上の供給源に実質的に直近の1又は2以上のゲッター種を提供することが望ましい。本発明において使用するための好適なゲッター種は、バリウム金属、バリウムアルミニウム合金、薄膜酸化物で保護したバリウム金属、硫酸塩、又は硫化物表面層、チタニウム金属、チタニウムスポンジ、チタニウム含有金属、ゲッタリング技術で一般的に知られているような他のゲッター種、及び、これらの組合せを含むがこれに限定されない。ゲッター種は、蒸気堆積チャンバ内で蒸発可能又はスパッタリング可能なペレット又はターゲットとして提供される。ペレットとして提供されるゲッター種は、そこから蒸発するためのゲッター種の「無規律な塊」としても提供されうることが、理解される。従って、本発明は、蒸発/気化するためのゲッター種のペレット、塊、ターゲットの方法を含む。
【0023】
本発明の実施の形態において、ゲッター種は、バリウム又はバリウムアルミニウム合金ペレットからのバリウム金属又はバリウムアルミニウム合金を熱蒸着することによって供給される。ハンドリングを簡易にするため、バリウムアルミニウムペレットは、酸素無しで容易に取扱える空気中で十分に不活性となるように、バリウムが化合物の結晶構造内に隔離される金属中化合物BaAlを含む。ペレットが加熱されたときに、バリウム蒸気が放出されて堆積チャンバの壁上に凝縮し、堆積チャンバから望ましくない蒸気種を除去する際にゲッターの効率を最大化するために高表面領域ゲッター膜を形成する。バリウムは、酸素、水蒸気、又は、他の望ましくない原子種の生成に見合う率で蒸発され、このような望ましくない原子種をゲッター種に吸収して反応させる。所望の硫化物発光体膜を形成する目的で適正な硫黄圧力を維持するために硫化水素が堆積チャンバに注入されたときに、酸素及び/又は水蒸気が、発光体膜堆積に対して使用される供給源から汚染物質として生成され得る。
【0024】
本発明の方法は、酸素、水、及び/又は、周辺雰囲気中に含まれうる他の蒸気種との反応によって化学分解することなく堆積チャンバ中に用意され配置される周辺雰囲気中で容易に操作し得るゲッター材料の低表面領域供給源から堆積チャンバ中に高表面領域ゲッターを生成する。堆積の前にチャンバが一旦排気されると、低表面領域ゲッター種は、物理的気相成長法を用いた堆積チャンバ表面上での気化/蒸発及び再凝縮処理によって、高表面領域ゲッター膜中に変形し得る。これは、発光体膜組成物の堆積前及び/又は堆積中になされ得る。
【0025】
ゲッター膜は、堆積チャンバから望ましくない蒸気種を掃気する際に、堆積チャンバの内部表面における実質的な部位を覆う。必要性を定量化するために、周囲温度で又はこれより上の堆積チャンバの温度で、蒸気分子の平均熱速度vは、公式v=(3kT/M)1/2で付与されることが留意される。ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、Mは蒸気分子の質量である。通常の周囲の温度での蒸気分子に対して、この速度は、重分子に対する約100メートル/秒から、水素分子に対する約2000メートル/秒の間に落ち着く。蒸気堆積処理において典型的に使用される低真空圧に対して、典型的な蒸気分子の平均自由行程は、1メートルより大きいため、蒸気分子を含む衝突は、典型的なチャンバ寸法が約1メートルであるチャンバ表面で主として生じる。相応して、単一の蒸気分子及びチャンバ表面との間における衝突の振動数は、100Hzから1000Hzの範囲にある。それ故、本発明の方法によって除去されない場合には、典型的な10分間の堆積に対して、熱運動化された蒸気分子とチャンバ表面との間に60,000から600,000の衝突が堆積中に生じうる。表面で除去される蒸気分子の確率は、単一の衝突中にゲッターで捕捉される確率である有効なゲッター時間で覆われる表面の部位に比例する。単一の衝突中にゲッターで捕捉される確率が100%であると仮定して、ゲッターで覆われるチャンバ表面の部位は、堆積時間に相当する時間において大部分の蒸気種を除去するために、少なくとも1/60,000又は約2×10―5ステラジアンを必要とする。これは、半径1メートルの略球面チャンバにおいて必要とされる少なくとも約2cmのゲッター領域に変わる。一回の衝突で除去される蒸気分子の確率は50%であり、堆積時間に相当する時間中に1000分の1に蒸気の濃度を抑制することが望ましく、それ故、単位分子当たり少なくとも10の衝突が必要とされ、要求されるゲッター領域は、少なくとも20cmである。同様に、1回の衝突で除去される蒸気分子の確率は30%であり、1000分の1に蒸気の濃度を抑制することが望ましく、要求されるゲッター領域は、約150cmである。当業者は、必要及び希望に応じてさらに計算を拡張することができる。
【0026】
典型的に、堆積チャンバは、チャンバのクリーニングを簡易にするための除去可能な遮蔽板と、チャンバ温度分布を制御又は(単数又は複数の)堆積供給源から放出される蒸気の方向を制御するための他の除去可能な遮蔽板をも有しうる内部表面を有している。本発明の方法によって提供されるようなこれらの表面を覆うゲッター膜は、望ましくない蒸気原子種をゲッタリングする点において最も有効である。何故なら、これらは、蒸気分子に対して最も高い衝突確率を示すからである。それ故、これらの表面にゲッター膜として堆積するゲッター材料の比率を最大化するように、ゲッター堆積処理を制御することが望ましい。全般的に、これらの内部表面は、外部チャンバ壁よりも高い温度である。典型的に、ゲッター種は、蒸発したゲッターの実際の蒸気圧を飽和蒸気圧が超える温度では表面上に凝集しない。それ故、ゲッター凝集が要求される表面温度は、低いことが好ましい。表面の温度がチャンバの外部壁よりも下である場合、そして、表面と蒸発したゲッター膜とが直線(垂直)位置となる場合、ゲッターの大部分がそこに凝集するであろう。
【0027】
本発明の実施の形態において、熱的なバリウム含有ゲッター材料は、堆積基板上にバリウムが実質的に堆積しないように、直線位置で前記材料から薄膜堆積基板が遮蔽されるように配置される。しかしながら、本発明の態様において、ゲッターとしての機能を有する堆積チャンバの壁と、堆積膜の化学組成にバリウムを寄与するために堆積基板とのいずれにも熱的なゲッター材料からのバリウムを有することも、バリウム含有膜の堆積において望ましい。
【0028】
本発明のさらなる実施の形態において、バリウム含有ゲッター種は、堆積チャンバ中へのペレットの積載を可能とする目的で大気中でのゲッターペレットの取扱いを容易にするために、薄膜酸化物、硫酸塩、又は硫化物の層で保護されたバリウム金属であってもよい。
【0029】
本発明のさらに他の実施の形態において、ゲッター種は、チタニウム又はチタニウム含有合金を含むターゲットからスパッタリングされたチタニウム金属であってもよい。堆積膜中においてチタニウムが所望されない場合には、チタニウム供給源は、前記供給源と堆積基板とを非直線状の位置となるように配置すべきである。
【0030】
蒸着又はスパッタリングに対するゲッター種は、発光体堆積中にゲッターが堆積されるように、蒸着又はスパッタリングされるゲッター種と表面とが直線位置となるように、配置すべきである。さらに、堆積する発光体組成物の一部としてゲッター種が所望されていない場合、蒸着又はスパッタリング用のゲッター種は、ゲッター種及び堆積基板との間で非直線状の位置となるように位置すべきである。また、前記基板は、堆積基板上でのゲッター種の凝集を最小化するために、ゲッター種が堆積される表面より高温で保持され得る。
【0031】
バリウム含有ゲッター材料を用いる実施の形態に対して、バリウムは、堆積されるバリウム含有膜の温度に基づいて、ゲッター酸素及び/又は水及び水素をゲッターし得る。図2は、酸素及び水蒸気の分圧及び温度の機能として、バリウム、酸素、及び水素からの化学平衡を形成する主要な化合物を示す。水の分圧pHOは、摂氏度における単位大気圧及び温度においてlog10(pHO)で付与される。図から理解されるように、水酸化バリウム及び水酸化バリウム水和物は、典型的な真空堆積雰囲気の水蒸気分圧で、及び、通常の周辺温度付近の温度で、主要な化合物である。この様々な状態に亘って、水及び酸素は、これらの化合物を形成するためにバリウム金属によって、有効に除去されるべきである。より低い水の分圧及び同一の温度範囲において、主要な化合物はBaOであり、酸素は有効に除去され得るが、水が除去された場合、水はバリウムと反応してBaOを形成することで水素を放出することが示される。同様に、より高温では、バリウムと水とが反応して水素を放出して、BaOが形成され得る。
【0032】
チタニウムゲッター種を用いる本発明の実施の形態に対して、酸素が酸化チタニウムを形成するために除去され得るが、酸素及び水素又は水の同時ゲッタリングを容易にするために形成される水酸化物は何ら記録されていない。これは、図3において示された主要な図表に示されている。
【0033】
本発明は、高エネルギー効率及び高輝度を達成する希土類活性チオアルミネートを含む薄膜発光体の堆積を提供する。この方法は、最適な発光体性能を得るように、そして、発光体材料が2以上の結晶相中に形成される見込みを低減するように、制御された3又は4、又は5以上の構成要素の比率を保つ、三元又は四元化合物の形態の発光体を堆積するために使用され得る。さらに、この方法は、酸素といった不純物の濃度を最小限に保つことを確実にするようなものである。
【0034】
本発明の方法は、出願人の米国特許第5,432,015号明細書(その開示内容が全体的に参照として本明細書に組み込まれる)に例として教示されているような、厚膜誘電体エレクトロルミネセントディスプレイに組み込まれる上述した発光体組成物の範囲を有する薄膜発光体に適用可能である。発光体組成物は、例えばユーロピウム及びセリウムといった様々なドーパントで活性化しうる。
【0035】
堆積された発光体組成物における化学量論は、出願人の国際特許出願PCT CA01/01823号パンフレット(その開示内容が全体的に参照として本明細書に組み込まれる)に開示されているように、制御され得る。堆積中における化学量論の制御は、残存する供給源材料の堆積率とは別に堆積率を測定する少なくとも2つの供給源に対する堆積率測定システムと、測定された比率に見合う相対堆積率を制御する、フィードバックシステムとを組み合わせた、異なる化学組成物を有する2又は3以上の堆積供給源を用いてもたらされる。
【0036】
上述の開示は、全体的に本発明を記述している。より完全な理解は、下記の特定の実施例を参照することで得られ得る。これらの実施例は、単に例示の目的で記述され、本発明の範囲を限定する意図ではない。状況が示唆する又は得策となるときに、形態の変更及び均等物の置換は、企図される。本明細書では特定の用語を用いているが、このような用語は説明的な意味であることを意図したものであり、限定を目的としたものではない。
【0037】
[実施例1]
図1の概略断面線図を参照すると、変性されたDavis and Wilder 10SC-2836真空堆積システムを、原子バリウム濃度(1)に関して測定した6原子パーセントのユーロピウムでドープされた硫化バリウムに対する電子ビーム供給源と、硫化アルミニウム(2)に対する電子ビーム供給源に装着した。バリウムアルミニウム(BaAl)(3)の蒸発のために、熱供給源を供給した。加熱された堆積基板(4)を、これらの供給源の上方に設けた。熱供給源と堆積基板とが直線状位置となることを防止するが、堆積基板上に薄膜発光体を形成する目的で、電子ビーム供給源からの材料の蒸発中にゲッター膜として作用するためのチャンバ壁の部位におけるバリウム金属の堆積を依然として可能とするように、ルーバーシールド(5)を設けた。残留ガス分析器(6)を真空チャンバに連結して、チャンバ内の蒸気種を監視した。拡散ポンプを用いてチャンバを排気するためにポンピングポート(7)を設け、薄膜の堆積中に所望の作動圧力に見合う制御率で、ドープされた硫化バリウム供給源材料(1)表面と硫化アルミニウム供給源材料(2)表面の両方でチャンバ中に硫化水素を注入するために、制御弁(9)を備えた注入ライン(8)を設けた。前記薄膜の堆積は、出願人の米国仮特許出願番号第60/484,290号(その開示内容が全体的に参照として本明細書に組み込まれる)に記載された方法によって行った。
【0038】
チャンバ中の圧力を測定するためにイオンゲージ(10)を設けた。ユーロピウムをドープした硫化バリウムの電子ビーム供給源(1)正面にシャッター(11)を配置して、加熱時に前記ドープされた硫化バリウムの堆積基板上への堆積を防止した。そして、硫化アルミニウム電子ビーム供給源(2)正面に第2のシャッター(12)を配置して、加熱時に前記硫化アルミニウムの堆積基板上への堆積を防止した。ドープされた硫化バリウムの堆積率を監視するために水晶振動子モニタ(13)を設け、硫化アルミニウムの堆積率を監視するために第2の水晶振動子モニタ(14)を設け、発光体膜の堆積に先立ってゲッター材料の堆積率を監視するために第3の水晶振動子モニタ(15)を設けた。
【0039】
前記チャンバは、ドープされた硫化バリウム及び硫化アルミニウム供給源材料を搭載した。前記チャンバに0.1mPaのベース圧力で圧送され、堆積基板を325℃に加熱した。複数のシャッター(7)を近接位置に配置した。Al供給源上で最大電流160mA(電圧4.7kV)に、ユーロピウムをドープした硫化バリウム供給源上で最大電流85mA(電圧6.0kV)に、約25分間に亘って緩やかに増大する放出電流の2つの電子ビーム供給源(2)、(3)に出力を印加した。これにより、供給源材料の温度は、一様に増大した。フル出力に達すると、シャッターを開口して、加熱された基板上への発光体材料の堆積を開始した。この堆積に対して、熱供給源(3)を使用せず、また加熱しなかった。
【0040】
図4は、供給源材料が加熱されて発光体の堆積中に測定された、蒸気種の相対濃度を示す。データから理解されるように、供給源材料が加熱されるにつれて、窒素、水、及び水素の濃度は増大した。供給源材料の加熱前における水蒸気の分圧は、残留ガス分析器で測定されたように、約5×10−4Paであった。供給源材料の加熱完了後直ちに約8×10−4Paに上昇し、そして、5×10−4Paに下降した。この加熱中の圧力上昇は、供給源材料の溶融時におけるガス放出によるものである。堆積を開始すると、水蒸気圧力は1.2×10−3Paに上昇し、堆積が進行するにつれて、9×10−4Paに下降した。シャッターが後続の堆積で閉じられたとき、水蒸気圧力は約9×10−4Paに下降した。供給源への出力を停止して供給源が冷却されるにつれて、圧力はさらに下降した。
【0041】
[実施例2]
実施例1と同様の真空堆積を、金属間化合物BaAlを含む熱供給源(3)を用いて実行した。アルミナ供給源るつぼ中に配置されたBaAlは、略2から3ミリメートルサイズの小さい塊形状であった。熱供給源(3)の加熱は、真空チャンバの初期ポンプダウン開始から約10から15分で開始した。BaAlの蒸発率を、水晶振動子モニタ(15)を用いて測定した。堆積率が毎秒1から3オングストロームの範囲になるまで、熱供給源への出力を増大した。そして、電子ビーム供給源(2)、(3)への出力を印加して増大したとき、残留ガス分析器で測定された水蒸気圧は、3×10−4Paまでしか上昇せず、後続のシャッターの開口で堆積を開始したとき、水蒸気圧は、3×10−4Paから4×10−4Paの範囲の値までしか上昇しなかった。これは、実施例1の約3分の1未満である。このことは、水蒸気圧を抑制するゲッターの効果を示している。
【0042】
本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明してきたが、本発明の趣旨又は添付の請求項の範囲から離れることなく様々な変形がなされうるということが当業者によって理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1A】図1Aは、本発明による発光体堆積チャンバにおける上面(平面)図を示す概略線図である。
【図1B】図1Bは、本発明による発光体堆積チャンバにおける側面図を示す概略線図である。
【図2】図2は、酸素及び水蒸気の特定の分圧及び温度での、バリウム、酸素、及び、水素から形成される、所定の化学化合物を示す線図である。
【図3】図3は、酸素及び水蒸気の特定の分圧及び温度での、チタニウム、酸素、及び、水素から形成される、所定の化学化合物を示す線図である。
【図4】図4は、本発明におけるゲッター材料を用いずに発光体堆積前及び堆積中に蒸気種の濃度を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明におけるゲッター材料及び方法を用いて発光体堆積前及び堆積中に蒸気種の濃度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 硫化バリウム供給源材料
2 硫化アルミニウム供給源材料
3 バリウムアルミニウム
4 堆積基板
5 ルーバーシールド
6 残留ガス分析器
7 ポンピングポート
8 注入ライン
9 制御弁
10 イオンゲージ
11 シャッター
12 第2のシャッター
13 水晶振動子モニタ
14 第2の水晶振動子モニタ
15 第3の水晶振動子モニタ
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光体膜組成物の堆積が基板上になされる堆積チャンバ内における望ましくない原子種の生成を最小化するための方法であって、
前記発光体膜組成物の堆積直前及び/又は堆積中に、前記堆積チャンバ内に1又は2以上のゲッター種を蒸発すること、を含み、
前記蒸発は、前記発光体膜組成物の堆積中に前記チャンバ内の望ましくない原子種を除去するゲッター種を連続的に供給する、方法。
【請求項2】
前記ゲッター種は、蒸発されて、前記堆積チャンバの内部表面上に凝集される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲッター種は、蒸発されて、前記望ましくない原子種への直線位置にある前記堆積チャンバの前記内部表面上に凝集される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゲッター種は、蒸発されて、前記堆積チャンバ内に除去可能に設けられたシールド上に凝集される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲッター種は、ペレット、ターゲット、又は、塊で、供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲッター種は、ペレットである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ゲッター種は、前記堆積チャンバ内にスパッタされるターゲットである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記ゲッター種は、バリウム金属、バリウムアルミニウム合金、薄膜酸化物、硫酸塩、又は硫化物表面層で保護されたバリウム金属、チタニウム金属、チタニウムスポンジ、チタニウム含有合金、及び、これらの組合せからなる群から選択される、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記望ましくない原子種は、酸素、水、過剰な硫黄、二酸化炭素、一酸化炭素、一酸化硫黄、二酸化硫黄、窒素分子、及び、他の水素含有分子からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記堆積チャンバの前記内部表面は、前記堆積チャンバの外部壁よりも低い温度に保持される、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記ゲッター種は、前記基板上にさらに堆積される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記ゲッター種は、バリウム含有物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ゲッター種は、チタニウム金属である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記発光体膜組成物は、バリウムを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記基板は、前記堆積チャンバの内部表面よりも高い温度で設けられる、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記発光体膜組成物は、周期表の群IIA及び群IIBの少なくとも1つの元素のチオアルミネート、チオガレート、及びチオニデートからなる群から選択される、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記発光体膜組成物は、ユーロピウム活性バリウムチオアルミネートを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記発光体膜組成物は、ユーロピウム活性カルシウムチオアルミネート発光体組成物を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ゲッター種は、前記発光体膜の組成物を作る蒸発すべき供給源付近で実質的に蒸発される、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ゲッター種の前記蒸発は、吸収すべき望ましくない種の生成に見合う率で行われる、請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
発光体膜組成物の堆積が基板上になされる堆積チャンバ内における、水、酸素、及び/又は、望ましくない原子種の堆積及び生成を最小化するための方法であって、
前記発光体膜組成物の堆積直前及び/又は堆積中に、前記堆積チャンバ内に1又は2以上のゲッター種を蒸発すること、を含み、
前記蒸発は、前記発光体膜組成物の堆積中に前記チャンバ内の前記水、酸素、及び/又は、望ましくない原子種を連続的に除去する、方法。
【請求項22】
薄膜の所定の発光体組成物を堆積チャンバ内の基板上に堆積するための蒸着方法であって、前記組成物は、周期表の群IIA及び群IIBから少なくとも1つの元素のチオアルミネート、チオガレート、及びチオニデートからなる群から選択される三元、四元、又はより高次の硫化化合物を含み、
前記方法は、
前記所定の組成物を形成する硫化物を含む少なくとも1つの供給源付近の1又は2以上のゲッター種を蒸発することであり、前記ゲッター種は、前記堆積チャンバの内部表面上に連続的に堆積される、方法。
【請求項23】
蒸着チャンバ内の基板上にユーロピウム活性バリウムチオアルミネート又はユーロピウム活性カルシウムチオアルミネート発光体組成物を堆積するための蒸着方法であって、
(a)発光体組成物を集合的に含む1又は2以上の供給源を蒸発すること、
(b)(a)の直前又は同時に、堆積チャンバから望ましくない蒸気種を除去及び最小化して前記発光体組成物中への組込を最小化するために、堆積チャンバにおける内部表面領域の実質的な部位内において高表面領域ゲッター膜を提供するような1又は2以上の緻密な低表面領域供給源ゲッター種を蒸発すること、
を含む、方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−529623(P2007−529623A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−503159(P2007−503159)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【国際出願番号】PCT/CA2005/000386
【国際公開番号】WO2005/087971
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(505089913)アイファイアー・テクノロジー・コープ (18)
【Fターム(参考)】