説明

硬化性シリコーン樹脂組成物

【課題】
光学デバイス・光学部品用材料、電子デバイス・電子部品用絶縁材料、コーティング材料等に有用な硬化性シリコーン樹脂組成物であって、耐熱性、耐光性および耐クラック性に優れた硬化物を与える組成物を提供する。
【解決手段】
(A)(a)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有するシロキサン系化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、かつケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するシロキサン−多環式炭化水素系化合物、
(B)1分子中にアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を合計2個以上有する有機化合物、
(C)ヒドロシリル化反応触媒、ならびに
(D)ヒンダードアミン化合物、
を含有する硬化性シリコーン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイス・光学部品用材料、電子デバイス・電子部品用絶縁材料、コーティング材料等に有用な硬化性シリコーン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学デバイスや光学部品用材料、特に発光ダイオード(LED)素子の封止材料として、エポキシ樹脂が一般的に用いられている。しかし、近年、白色LEDが注目される中で、これまで問題とされなかった熱や紫外線によるエポキシ樹脂系封止材の黄変やクラックが問題となっており、対応が急務となっている。
【0003】
これらの問題への対応策としては、耐熱性と耐光性に優れたシリコーンレジン硬化物を用いることが検討されている。例えば、シリコーン樹脂を、LED素子のモールド部材等に用いること(特許文献1、2)、カラーフィルター材料に用いること(特許文献3)等が提案されているが、これらの一般のシリコーン樹脂を用いた場合には、熱衝撃等でクラックが発生する等の問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−228249号公報
【特許文献2】特開平10−242513号公報
【特許文献3】特開2000−123981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題点に鑑み、本発明は、光学デバイス・光学部品用材料、電子デバイス・電子部品用絶縁材料、コーティング材料等に有用な硬化性シリコーン樹脂組成物であって、耐熱性、耐光性および耐クラック性に優れた硬化物を与える組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、
(A)(a)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有するシロキサン系化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、かつケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するシロキサン−多環式炭化水素系化合物、
(B)1分子中にアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を合計2個以上有する有機化合物、
(C)ヒドロシリル化反応触媒、ならびに
(D)ヒンダードアミン化合物、
を含有する硬化性シリコーン樹脂組成物、
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の硬化性シリコーン樹脂組成物は、外観、硬度、光透過率等の初期特性を保持しながら、耐熱性、耐光性および耐クラック性にも優れた硬化物を与えることができるものである。したがって、発光ダイオード素子の保護、封止、接着、波長の変更または調整、レンズ等の用途に有用である。さらに、前記組成物は、レンズ材料、光学デバイス・光学部品用材料、ディスプレイ材料等の各種の光学用材料、電子デバイス・電子部品用絶縁材料、コーティング材料等の用途にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の組成物は、下記の(A)〜(D)成分を含有し、必要に応じてその他の任意成分をさらに含有してなるものである。なお、本明細書中において、「室温」とは25℃を意味する。
【0009】
[(A)シロキサン−多環式炭化水素系化合物]
(A)成分のシロキサン−多環式炭化水素系化合物は、ケイ素原子に結合した水素原子(以下、「ケイ素原子結合水素原子」ともいう)を1分子中に2個以上有するものであって、シロキサン構造および多環式構造を有する炭化水素系化合物である。このシロキサン−多環式炭化水素系化合物は、(a)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有するシロキサン系化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との、付加反応生成物である。
【0010】
本成分のシロキサン−多環式炭化水素系化合物は、ケイ素原子結合水素原子を1分子中に2〜100個有することが好ましく、2〜50個有することがより好ましい。また、(a)シロキサン系化合物は、ケイ素原子結合水素原子を1分子中に3〜10個有することが好ましく、3〜5個有することがより好ましい。
【0011】
<(a)成分>
(A)成分の反応原料である、(a)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有するシロキサン系化合物としては、例えば、一般式(1)で表される環状シロキサン系化合物または下記一般式(2)で表される線状シロキサン系化合物が好ましい。
【0012】
【化1】


(式中、R1、R2およびR3は、独立に、水素原子または非置換もしくは置換の炭素原子数1〜12、好ましくは1〜6の一価炭化水素基であり、nは3〜10、好ましくは3〜8、mは0〜7、好ましくは0〜2、の整数であり、かつn+mの和は3〜10、好ましくは3〜6の整数である。)
【0013】
13SiO-(HR1SiO)q(R23SiO)p-SiR13 (2)
(式中、R1、R2およびR3は、上記一般式(1)において定義のとおりであり、qは3〜50、好ましくは3〜30、pは0〜47、好ましくは0〜20の整数であり、かつq+pの和は3〜50、好ましくは3〜30の整数である。)
上記R1、R2およびR3が一価炭化水素基である場合としては、例えば、メチル基、エチル、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、sec-ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o-,m-,p-トリル等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基等のアルケニル基;p−ビニル−フェニル基等のアルケニルアリール基;およびこれらの基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、シアノ基、エポキシ基含有基等で置換された、例えば、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基、2-シアノエチル基、3-グリシドキシプロピル基等が挙げられる。これらの中でも、アルケニル基およびアルケニルアリール基以外のものであるものが好ましく、特に、その全てがメチル基であるものが好ましい。
【0014】
上記(a)成分の好適な具体例を、以下に示すが、これに限定されるものではない。
(HMeSiO)3
(HMeSiO)4
(HMeSiO)3(Me2SiO)
(HMeSiO)4(Me2SiO)
Me3SiO-(HMeSiO)5(Me2SiO)5-SiMe3
Me3SiO-(HMeSiO)20(Me2SiO)20-SiMe3
(a)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0015】
<(b)成分>
また、(A)成分の他方の反応原料である、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素において、「付加反応性」とは、ケイ素原子に結合した水素原子の付加(ヒドロシリル化反応として周知)を受け得る性質を意味する。
該(b)成分の多環式炭化水素としては、例えば、(i)多環式炭化水素の多環骨格を形成している炭素原子のうち、隣接する2つの炭素原子間に付加反応性炭素−炭素二重結合が形成されているもの、(ii)多環式炭化水素の多環骨格を形成している炭素原子に結合した水素原子が、付加反応性炭素−炭素二重結合含有基によって置換されているもの、(iii)多環式炭化水素の多環骨格を形成している炭素原子のうち、隣接する2つの炭素原子間に付加反応性炭素−炭素二重結合が形成されており、かつ多環式炭化水素の多環骨格を形成している炭素原子に結合した水素原子が付加反応性炭素−炭素二重結合含有基によって置換されているもの等が挙げられる。
【0016】
本成分のシロキサン−多環式炭化水素系化合物は、上記要件を満たすものであれば特に限定されないが、下記一般式(3):
H−X−(Y−X)−Y' (3)
(式中、Xは前記(a)シロキサン系化合物の二価の残基であり、Yは前記(b)多環式炭化水素の二価の残基であり、Y'は前記(b)多環式炭化水素の一価の残基であり、Hは水素原子であり、pは0〜1000、好ましくは0〜100の整数である。)、
下記一般式(4):
H−X−(Y−X)−H (4)
(式中、X、YおよびHは前記と同じであり、nは1〜1000、好ましくは1〜100の整数である。)、
または下記一般式(5):
Y'−X−(Y−X)−Y' (5)
(式中、X、YおよびY'は前記と同じであり、qは1〜1000、好ましくは1〜100の整数である。)
で表される化合物が好ましい。
【0017】
上記式(3)〜(5)中、X(即ち、前記(a)シロキサン系化合物の二価の残基)としては、例えば、下記一般式:
【0018】
【化2】


(上記式中、Rは、独立に、炭素原子数1〜12、好ましくは1〜6の一価炭化水素基またはアルコキシ基であり、mは1以上、好ましくは2以上の整数であり、より好ましくは2である。)
で表される環状または鎖状の二価の基が挙げられる。
【0019】
前記Rで表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基等が挙げられる。また、Rで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。
【0020】
前記Xとしては、例えば、下記式:
【0021】
【化3】


(式中、「Me」はメチル基を表す。以下、同様である。)
で表される環状シロキサン残基、下記式:
【0022】
【化4】


で表される鎖状シロキサン残基等が挙げられる。
【0023】
前記Y(即ち、上記(b)の多環式炭化水素の二価の残基)としては、例えば、下記構造式:
【0024】
【化5】


で表される2価の残基等が挙げられる。
【0025】
上記式(3)〜(5)中、Y'(即ち、前記(b)多環式炭化水素の一価の残基)としては、例えば、下記構造式:
【0026】
【化6】

【0027】
【化7】


で表される2価の残基等が挙げられる。
【0028】
本成分のシロキサン−多環式炭化水素系化合物の好ましい具体例としては、下記構造式:
【0029】
【化8】


(式中、nは前記一般式(4)において定義のとおりである。)
で表されるもの等が挙げられる。この好ましいシロキサン−多環式炭化水素系化合物は、具体的には下記工程により合成することができる。
【0030】
即ち、前記(a)成分として、環状の1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンと、前記(b)成分として、下記構造式(x):
【0031】
【化9】

(x)
で表される5-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、および下記構造式(y):
【0032】
【化10】

(y)
で表される6-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンの少なくとも一方(以下、これらを区別せずに「ビニルノルボルネン」という)とを、後述の(c)成分であるヒドロシリル化反応触媒(例えば、白金等)の存在下で付加反応させることによって合成することができる。前記ビニルノルボルネンのビニル基の置換位置は、エンド形であっても、エキソ形であってもよく、また前記両配置の異性体の組み合わせであってもよい。
【0033】
前記付加反応に際して、(a)成分および(b)成分の使用量は、(b)成分1モルに対して、(a)成分が、通常、0.5〜2モルであり、好ましくは1〜1.5モル、より好ましくは1.1〜1.3モルとなる量である。
【0034】
(A)成分のシロキサン−多環式炭化水素系化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
[(B)(メタ)アクリロイル基含有有機化合物]
(B)成分である1分子中にアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を合計2個以上有する有機化合物は、(A)成分とヒドロシリル化反応により付加して硬化物を与える機能を有するものである。前記アクリロイル基および/またはメタクリロイル基は、1分子中に合計2〜6個有することが好ましく、2〜4個有することがより好ましい。
【0036】
本成分は、上記要件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(6):
【0037】
【化11】

(6)
(式中、Aは、下記式(a1):


(a1)
で表される基、または下記式(a2):

(a2)
で表される基であり、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
で表される有機化合物等が挙げられる。
【0038】
本成分の有機化合物としては、例えば、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
【化12】


トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
(新中村化学製、商品名:NKエステルA−DCP)
【0040】
【化13】


トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート
(新中村化学製、商品名:NKエステルDCP)
【0041】
【化14】


(日本化薬製、商品名:KAYARAD R-604)
【0042】
(B)成分の配合量は、次のように設定されることが好ましい。後述するように、本発明の組成物は、(A)成分以外のケイ素原子に結合した水素原子を有する成分、および/または(B)成分以外のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合を有する成分を含有することができる。そこで、本組成物中のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合1モルに対して本組成物中のケイ素原子に結合した水素原子の量は、通常0.3〜3.0モル、好ましくは0.8〜2.0モルである。そして、本組成物中のケイ素原子に結合した水素原子に占める前記(A)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の割合は、通常、20〜100モル%、好ましくは40〜100モル%である。また、本組成物中のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合に占める前記(B)成分中のアクリロイル基およびメタクリロイル基が有するアルケニル基の割合は、通常、20〜100モル%、好ましくは40〜100モル%である。(B)成分の配合量がこのような条件を満たすようになされると、コーティング材料等の用途に適用する場合に十分な硬度を有する硬化物を得ることができる。
【0043】
(B)成分の有機化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
[(C)ヒドロシリル化反応触媒]
(C)成分であるヒドロシリル化反応触媒としては、従来公知のものを全て使用することができる。その具体例としては、白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられる。
【0045】
(C)成分の配合量は、触媒としての有効量であればよく、特に制限されないが、(A)成分と(B)成分との合計質量に対して、白金族金属原子として、通常、1〜500ppm、特に2〜100ppmであることが好ましい。この配合量が1〜500ppmであると、硬化反応に要する時間が適度なものとなり、硬化物が着色する等の問題を生じることがない。
【0046】
(C)成分のヒドロシリル化反応触媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0047】
[(D)ヒンダードアミン化合物]
本発明の組成物から得られる硬化物中には、前記(C)成分中の白金族金属が含まれる。前記硬化物が長時間に亘って光に曝されたり、高温状態に置かれたりすると、白金族金属、特に白金の存在に起因して、炭素−炭素二重結合と相互作用を起こすことから、着色や白濁を生じたり、酸化劣化により強度および硬度が低下するという問題が生じる。(D)成分であるヒンダードアミン化合物は、この着色等の発生を防止する機能を有するものである。
【0048】
本成分のヒンダードアミン化合物としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(商品名:アデカスタブLA77Y、旭電化社製)、ビス(1-オクチロキシ-2,2,6,6テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(商品名:TINUVIN123、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、4-ベンゾイル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、コハク酸ジメチル/1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(商品名:TINUVIN622LD、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}](商品名:CHIMASSORB 944 LD,CHIMASSORB 944 FD、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0049】
(D)成分の配合量は、有効量であればよく、特に制限されないが、(A)成分と(B)成分との合計に対して質量基準で、通常、10〜20,000ppm、特に100〜1,000ppmであることが好ましい。この配合量が10〜20,000ppmの範囲であると、得られる硬化物が耐光安定性および耐熱安定性に優れたものとなり、着色、白濁、酸化劣化等の発生がない光学的特性に優れた硬化物を得ることができる。
【0050】
(D)成分のヒンダードアミン化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0051】
[その他の任意成分]
本発明の組成物には、上記(A)〜(D)成分に加えて、必要に応じて、その他の任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、酸化防止剤、接着性向上剤、付加反応制御剤、無機質充填剤、染料、顔料、難燃剤、(A)成分以外のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、(B)成分以外のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合を有するオルガノポリシロキサン、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0052】
酸化防止剤としては、従来公知の酸化防止剤を全て使用することができる。その具体例としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,5-ジ-t-アミルヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0053】
酸化防止剤を使用する場合には、その配合量は、酸化防止剤としての有効量であればよく、特に制限されないが、(A)成分と(B)成分との合計質量に対して、通常、10〜10,000ppm、特に100〜1,000ppmであることが好ましい。この配合量が10〜10,000ppmであると、酸化防止能力が十分発揮され、着色、白濁、酸化劣化等の発生がなく光学的特性に優れた硬化物が得られる。
【0054】
(A)成分以外のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、(B)成分以外のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合を有するオルガノポリシロキサンは、組成物の粘度、硬化物の硬度の調整、クラック防止等をするために配合してもよい成分であって、ケイ素原子結合アルケニル基またはケイ素原子結合水素原子を有する、直鎖状ジオルガノポリシロキサンまたは網状オルガノポリシロキサン、非反応性の直鎖状または環状ジオルガノポリシロキサン、シルフェニレン系化合物等である。
【0055】
接着性向上剤としては、例えば、アルコキシシリル基を有する種々のシランカップリング剤、1-(2-トリメトキシシリルエチル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1-(2-トリメトキシシリルエチル)-3-(3-グリシドキシプロピル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0056】
付加反応制御剤は、得られる組成物のポットライフを確保するために配合してもよい成分であって、例えば、1-エチニルシクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等が挙げられる。
【0057】
無機質充填剤は、得られる硬化物の強度を向上させるための成分であって、例えば、ヒュームドシリカ等が挙げられる。
【0058】
その他の任意成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0059】
[組成物・硬化物の調製方法]
本発明の組成物は、上記(A)〜(D)成分、および場合によりその他の任意成分を均一に攪拌することにより調製することができる。これらの成分を混合する順番は特に限定されないが、例えば、(A)成分及び(A)成分以外のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、及び(D)成分を均一に撹拌、混合して第一液とし、次に(B)成分及び(B)成分以外のケイ素原子に結合した付加反応性炭素―炭素二重結合を有するオルガノポリシロキサン及び(C)成分を均一に撹拌、混合して第二液とし、最後に第一液と第二液を均一に撹拌、混合することにより調製することができる
また、前記組成物を加熱し硬化させることにより硬化物とすることができる。その硬化条件は、該組成物の量により異なるものであって、特に限定されないが、通常、60〜180℃の温度で、5〜180分加熱することが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら制限されるものではない。
【0061】
<合成例>((A)成分の調製)
攪拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた 500mLの4つ口フラスコに、トルエン80gおよび1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン115.2g(0.48モル)を加え、オイルバスを用いて117℃に加熱した。これに、5質量%の白金金属を担持したカーボン粉末0.05g添加し、攪拌しながらビニルノルボルネン(商品名:V0062、東京化成社製;5-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンと6-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンとのほぼ等モル量の異性体混合物)48g(0.4モル)を16分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに125℃で加熱しながら攪拌を16時間行った後、室温まで冷却した。その後、白金金属担持カーボンをろ過して除去し、トルエンを減圧留去して、無色透明なオイル状の反応生成物(25℃における粘度:2,500mPa・s)150gを得た。
【0062】
反応生成物を、FT−IR、NMR、GPC等により分析した結果、該反応性生物は、
(1)テトラメチルシクロテトラシロキサン環を1個有する化合物:約6モル%
(下記に代表的な構造式の一例を示す)、
【0063】
【化15】

【0064】
(2)テトラメチルシクロテトラシロキサン環を2個有する化合物:約25モル%
(下記に代表的な構造式の一例を示す)、
【0065】
【化16】

【0066】
(3)テトラメチルシクロテトラシロキサン環を3個有する化合物:約16モル%
(下記に代表的な構造式の一例を示す)
【0067】
【化17】

【0068】
(4)テトラメチルシクロテトラシロキサン環を4個有する:約11モル%
(下記に代表的な構造式の一例を示す)、
【0069】
【化18】

【0070】
および、(5)シクロテトラシロキサン環を5〜12個有する化合物:残余
(下記に代表的な構造式の一例を示す)
【0071】
【化19】


(式中、nは4〜20の整数である。)
の混合物であることが判明した。また、これらの反応生成物が有するケイ素原子結合水素原子の量は、平均して6.25mmol/gであった。
【0072】
<実施例1>
以下の実施例において、本発明の組成物の任意成分を(他1)、(他2)のごとく示す。
(A)合成例で得られた反応生成物:50質量部、
(B)トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
(新中村化学製、商品名:NKエステル A−DCP):38質量部、
(他1)ViMe2SiO(Me2SiO)8SiMe2Vi(Viはビニル基を表す):2質量部
([(A)成分中のケイ素原子結合水素原子]/[(B)成分中のビニル基+(他1)成分中のビニル基](モル比)=1.5)
(C)白金−ビニルシロキサン錯体:白金金属原子として、(A)成分と(B)成分との合計量に対して質量基準で20ppm、
(D)ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート
(旭電化社製、商品名:カスタブLA77Y):(A)成分と(B)成分との合計に対して質量基準で500ppm、
(他2)1-(2-トリメトキシシリルエチル)-3-(3-グリシドキシプロピル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン:10質量部、および
(他3)1-エチニルシクロヘキサノール:0.03質量部
を均一に混合して組成物を得た。この組成物をガラス板で組んだ型の中に2mm厚になるように流し込み、150℃で2時間加熱して硬化物を得た。
【0073】
<実施例2>
実施例1において、(B)成分のトリシクロデカンジメタノールジアクリレートの代わりに、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学製、商品名:NKエステル DCP)38質量部を用いた([(A)成分中のケイ素原子結合水素原子]/[(B)成分中のイソプロペニル基+(他1)成分中のビニル基](モル比)=1.6)以外は、実施例1と同じにして、組成物および硬化物を得た。
【0074】
<実施例3>
実施例1において、(B)成分のトリシクロデカンジメタノールジアクリレートの代わりに、ジアクリレート化合物(日本化薬製、商品名:KAYARAD R-604)38質量部を用いた([(A)成分中のケイ素原子結合水素原子]/[(B)成分中のビニル基+(他1)成分中のビニル基](モル比)=1.5)以外は、実施例1と同じにして、組成物および硬化物を得た。
【0075】
<比較例1>
組成物として、フェニルシリコーンレジン系硬化性組成物(商品名:X-34-1195、信越化学工業社製、フェニル基含有量:約50モル%)を用い、該組成物をガラス板で組んだ型の中に2mm厚になるように流し込み、150℃で8時間加熱して硬化物を得た。
【0076】
<評価方法>
前記実施例および比較例で調製した組成物および硬化物について、下記方法に従って、初期性能および耐久性を評価した。得られた結果を表1に示す。
1.初期性能
−(1)外観−
各硬化物の外観を目視により観察した。該硬化物が無色透明である場合を「良」と評価してAと示し、黄変が認められる場合を「不良」と評価してBと示す。
−(2)硬度−
ASTM D2240に準じて、各硬化物の硬度(Shore D)を測定した。
−(3)光透過率−
分光光度計を用いて、各硬化物の波長400nmの光透過率(%)を測定した。
【0077】
2.耐久性
−(4)耐光性試験−
アイスーパーUVテスターW151型(商品名、岩崎電気社製、メタルハライドランプ式)を用いて、各硬化物に紫外線照射(照射量:140MJ/m2)を行い、波長400nmの光透過率(%)を測定した。
−(5)耐熱性試験−
各硬化物を150℃の環境下で500時間保存したときの、波長400nmの光透過率(%)を測定した。
−(6)耐クラック試験−
電極を有する3mmφのポリフタルアミド製LED用カップに、0.2mm角の光半導体を収め、金線でワイヤーボンディングしたものに、各組成物を封入した後、硬化させた。得られたLED素子に対して、-40℃と100℃のヒートサイクルを50回行った際のクラックの有無および接着性を観察した。クラックの発生が認められず、かつ剥離も認められない場合を「良」と評価してAと示し、クラックの発生が認められた場合または剥離が認められた場合を「不良」と評価してBと示す。
【0078】
【表1】

【0079】
<評価>
実施例1〜3で調製した硬化物は、いずれも耐光性、耐熱性および耐クラック性に優れるものであった。一方、本発明の要件を満たさない比較例1で調製した硬化物(従来の樹脂組成物を硬化してなる硬化物)は、前記実施例1〜3の硬化物と比較して、耐光性、耐熱性および耐クラック性が著しく劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有するシロキサン系化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、かつケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するシロキサン−多環式炭化水素系化合物、
(B)1分子中にアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を合計2個以上有する有機化合物、
(C)ヒドロシリル化反応触媒、ならびに
(D)ヒンダードアミン化合物、
を含有する硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
本組成物中のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合1モルに対して本組成物中のケイ素原子に結合した水素原子の量が0.3〜3.0モルであり、本組成物中のケイ素原子に結合した水素原子に占める前記(A)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の割合が20〜100モル%であり、本組成物中のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合に占める前記(B)成分中のアクリロイル基およびメタクリロイル基が有するアルケニル基の割合が20〜100モル%である請求項1に係る組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、(a)1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンと、(b)5-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンおよび6-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンの少なくとも一方との付加反応生成物である請求項1または2に係る組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が、下記式:
【化1】

(式中、Aは、下記式(a1):
【化2】

(a1)
で表される基、または下記式(a2):
【化3】

(a2)
で表される基であり、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
で表される有機化合物である請求項1〜3のいずれか1項に係る組成物。

【公開番号】特開2006−63234(P2006−63234A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249263(P2004−249263)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】