説明

硬化性樹脂組成物、その硬化物並びに光学材料

【課題】光学特性、耐熱性、透明性、低吸水性、成形時の離型性に優れ、金型からのバリが少ない硬化性樹脂組成物、その硬化物、光学物品を提供する。
【解決手段】(A)成分:脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)、水酸基を含有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(b)、2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)とチオール化合物(e)を含む成分を共重合して得られる共重合体であって、側鎖に(c)由来の反応性の(メタ)アクリレート基を有し、末端に(d)及び(e)由来の構造単位を有する共重合体であり、Mwが2000〜60000であり、有機溶媒に可溶である可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(B)成分:5官能以上の多官能(メタ)アクリレ−ト及び(C)成分:開始剤を含有する硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低色分散、高光線透過率といった優れた光学特性、耐熱性、及び加工性を有し、加えて高度の硬度を達成するために、極性の高い多官能アクリレート類との相溶性が改善された可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでなる硬化性樹脂組成物、その硬化物並びに光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
反応活性のある不飽和結合を有する単量体の多くは、不飽和結合が開裂して、連鎖反応を起こす触媒と適切な反応条件を選択することにより多量体を生成することができる。一般に不飽和結合を有する単量体の種類は極めて多岐にわたることから、得られる樹脂の種類の豊富さも著しい。しかし、一般に高分子化合物と称する分子量10,000以上の高分子量体を得ることができる単量体の種類は比較的少ない。例えば、エチレン、置換エチレン、プロピレン、置換プロピレン、スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、ノルボルネン、各種アクリルエステル、ブタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、イソプレン、マレイン酸無水物、マレイミド、フマル酸エステル、アリル化合物等を代表的な単量体として挙げることができる。これらの単量体を単独で又はこれらを共重合させることにより多種多様な樹脂が合成されている。
【0003】
これらの樹脂の用途は主に、比較的安価な民生機器の分野に限られており、光・電子材料分野に於いて高度の耐熱性、寸法安定性や微細加工性が要求される先端技術分野への適用は殆どない。その理由としては、通常上記のモノマーから合成されるポリマーは熱可塑性であり、また、力学的特性を満足させるためにかなりの高分子量体とする必要があるため、耐熱性や微細加工性といった先端技術分野で要求される特性が犠牲となっているということが挙げられる。
【0004】
この様なビニル系の熱可塑性ポリマーの欠点を解決する方法として、特許文献1〜3には、(メタ)アクリロイル基またはビニルエーテル基をペンダントに持つ重合体が開示されている。例えば、特許文献1には、アクリル酸2−ビニロキシエチル(VEA)などの異種重合性単量体をカチオン重合させて得られた(メタ)アクリロイル基ペンダント型重合体および光重合開始剤からなる感光性組成物が開示されている。また、特許文献2には、(メタ)アクリロイル基ペンダント型重合体と、光反応性の不飽和カルボキシル基を有する化合物と、光重合開始剤とからなる感光性組成物が開示されている。さらに、特許文献3には、アクリル酸2−ビニロキシエチル(VEA)などの異種重合性単量体を、それ自体カチオン重合に不活性な光反応性の不飽和基を有するカルボン酸エステル溶媒化合物中で、カチオン重合触媒を使用して、単独重合または共重合させることにより、重合体溶液を得る製造法が開示されている。
【0005】
しかし、これらの特許文献で開示されている異種重合性単量体を使用した技術に従って製造される反応性の重合体を使用した場合、先進の光学レンズ・プリズム用途分野で求められる耐熱性、高度の光学特性、成形性といった特性バランスを兼ね備え、加えて高度の硬度を達成し、かつ、同時に、無機材料との密着性、金型形状の精密な転写性が改善された硬化性樹脂組成物は得られていなかった。
【0006】
一方、特許文献4にはモノビニル芳香族化合物及び2官能(メタ)アクリル酸エステルを共重合して得られ、側鎖に2官能(メタ)アクリル酸エステル由来の反応性の(メタ)アクリレート基を含有する構造単位を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が開示されている。しかし、ここに開示されている技術によって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は高温での熱履歴に対しても優れた耐熱分解性を有し、側鎖に反応性の(メタ)アクリレート基を持ち、加工性に優れ、溶剤可溶性を兼ね備えているものの、低色分散用途の光学レンズには使用することはできないという実使用上の制約のある上に、高度の硬度を達成できず、かつ、無機材料との密着性が改善されていない材料であった。
【0007】
さらに、特許文献5にはメタクリル酸メチル(MMA)系シロップにおいて、構成成分として炭素数4〜8の直鎖状脂肪族2価アルコールのジ(メタ)アクリレートを1〜25重量%含有することを特徴とする組成物が開示されている。そして、ここに開示されているMMA系シロップ組成物の製造は、MMA、或いはMMA及びそれと共重合し得るビニル共重合体、連鎖移動剤を重合開始剤の存在下で、不活性ガス(例えばN2ガス)雰囲気中、常温または加熱重合して行うことが開示されている。また、連鎖移動剤として具体的に例示されているのは、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸オクチルエステル、チオクレゾール、チオナフトール、ベンジルメルカプタン等のイオウ化合物のみであり、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)については、具体的には開示されていなかった。ましてや、チオール化合物由来の末端基、並びに、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン由来の末端基と同時に存在し、脂環式構造を有する単官能及び/又は2官能の(メタ)アクリル酸エステル(a)由来の構造単位とが共存することによって、相乗的に、光学特性と金型形状の精密な転写性を制御し得ることは示唆すらされていなかった。しかも、ここに開示されている技術によって得られる組成物は、湿熱条件のような厳しい実使用条件下での、無機材料との密着性が改善されたものではなかった。
【0008】
また、特許文献6にはビニル系単量体とジ(メタ)アクリレート化合物からなる重合性組成物が開示されており、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)の使用も開示されてはいるが、その使用量は通常の連鎖移動剤としてコンマ数%程度の使用であり、生成物も架橋ゲル化したもので溶剤可溶性を示さないものであった。
【0009】
さらに、特許文献7には、1)エポキシ基含有(メタ)アクリレート、2)水酸基含有(メタ)アクリレート、3)(メタ)アクリル酸、4)芳香族基含有(メタ)アクリレートからなる構成単位を含む自己硬化性共重合体と有機溶媒とを含むことを特徴とするカラーフィルター用熱硬化性樹脂組成物が開示されている。そして、これには重合段階において、望ましい分子量の範囲を達成するために、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸エステル、チオグリコール、チオグリセリン、ドデシルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマーなどの公知の分子量調節剤を使用することができることが開示されている。しかしながら、ここに開示された技術では、重合時にビニル基を複数有する2官能以上のビニル化合物が添加されていないために、ポリマー鎖に1個以下の分子量調節剤由来の末端基しか導入することができず、末端基由来の機能付与が十分に出来ないという欠点があった。さらに、得られる自己硬化性共重合体はエポキシ樹脂との樹脂組成物において、熱硬化性樹脂組成物を形成するものの、アクリレート樹脂との間には、硬化反応が起きないために、配合した樹脂組成物の強度、耐熱性の低下を引き起こすという欠点もあった。
【0010】
従って、低色分散、高光線透過率といった優れた光学特性を有し、低吸水性、成形性、耐熱性といった特性バランスを備え、加えて湿熱条件のような厳しい実使用条件下での光学特性と無機材料との密着性、並びに、金型形状の精密な転写性が改善された可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及び、当該共重合体を使用した硬化性樹脂組成物はこれまでに存在しなかった。
また、先進の光学レンズ・プリズム用途分野で求められる耐熱性、高度の光学特性、成形性といった特性バランスを兼ね備え、加えて高度の硬度を達成し、かつ、同時に、無機材料との密着性、金型形状の精密な転写性が改善された可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及び、当該共重合体を使用した硬化性樹脂組成物もこれまでに存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭49−13212号公報
【特許文献2】特公昭51−34433号公報
【特許文献3】特公昭54−27394号公報
【特許文献4】特開2008−247978号公報
【特許文献5】特開昭57−167340号公報
【特許文献6】特開2002−121228号公報
【特許文献7】特開2009−1770公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、低色分散、高光線透過率といった光学レンズ・プリズム材料に求められる種々の特性バランスに優れ、加えて、高度の硬度を達成することが可能な極性の高い多官能アクリレート類との相溶性が改善された可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでなる硬化性樹脂組成物、硬化物並びに光学物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、(A)成分:脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)、水酸基を含有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(b)、2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)とチオール化合物(e)を含む成分を共重合して得られる共重合体であって、側鎖に2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)由来の反応性の(メタ)アクリル基を有し、末端に2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)由来の構造単位を有する共重合体であり、重量平均分子量が2000〜60000であり、更にトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶である可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体、
(B)成分:5官能以上の多官能(メタ)アクリレ−ト、及び
(C)成分:開始剤
を含有する組成物であり、(B)成分の配合量が(A)成分100重量部に対し、5〜250重量部、及び(C)成分の配合量が(B)成分と(A)成分の合計100重量部に対し、0.1〜10重量部であることを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
【0014】
前記脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)としては、イソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレ−ト、ジシクロペンタニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト、及びジシクロペンタニルメタクリレートからなる群から選ばれる一種以上の単官能(メタ)アクリル酸エステルがある。また、前記2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)が、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート及びジメチロールトリシクロデカンジメタクリレートからなる群から選ばれる一種以上の2官能(メタ)アクリル酸エステルがある。
【0015】
また、本発明は、上記の硬化性樹脂組成物を硬化して得られたことを特徴とする樹脂硬化物、及びこの樹脂硬化物から形成されてなることを特徴とする光学材料である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、低色分散、高光線透過率といった光学レンズ・プリズム材料に求められる種々の特性バランスに優れ、加えて、高度の硬度を達成することが可能な極性の高い多官能アクリレート類との相溶性が改善された可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含んでなる硬化性樹脂組成物、硬化物並びに光学物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の硬化性樹脂組成物及びこれに配合される各成分について詳しく説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記(A)〜(C)成分を必須成分として含む。
【0018】
(A)成分は、可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。以下、この可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体を、共重合体と略称することがある。
【0019】
(A)成分は、脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)、水酸基を含有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(b)及び2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)を含む単量体と、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)を存在させ、共重合して得られる共重合体であって、側鎖に2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)由来の反応性の(メタ)アクリル基を有し、更に、末端に2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)由来の構造単位を有する可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。ここで、可溶性とはトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶であることを意味する。好ましくは、これらの溶媒の全部に可溶性である。可溶性の試験は実施例に示す条件でなされる。
【0020】
共重合体の連鎖構造は、主に単官能(メタ)アクリル酸エステル及び2官能(メタ)アクリル酸エステルを共重合して得られるものであるので、分岐構造又は架橋構造を有するが、かかる構造の存在量は可溶性を示す程度に制限される。したがって、2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)由来の未反応の(メタ)アクリル基を含有する構造単位(c1)を側鎖に有する共重合体となっている。この未反応の(メタ)アクリル基はペンダント(メタ)アクリル基ともいい、これは重合性を示すため、更なる重合処理により重合又は(B)成分と共重合し、溶剤不溶の樹脂硬化物を与えることができる。
【0021】
また、共重合体は、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)に由来する構造単位を末端に有する。共重合体の末端に、この構造単位を導入することによって、離型性などの成形加工性が向上し、無機材との密着性に有利な線膨張率が低く、更に耐熱変色や重量減少といった耐熱性に優れた硬化物が得られるようになる。
【0022】
共重合体は、脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)に由来する構造単位、水酸基を含有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(b)に由来する構造単位、2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)に由来する構造単位、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)に由来する構造単位を有する。ここで、2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)に由来する構造単位には、2つの(メタ)アクリル基に含まれる重合性二重結合(ビニル基という)の両方が、重合に関与して分岐構造又は架橋構造を形成する構造単位(c2)と、1つのビニル基だけが重合に関与し、他のビニル基は反応せずに残る未反応の(メタ)アクリル基を含有する構造単位(c1)がある。2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)は、連鎖移動剤として作用して分子量の増大を防止し、共重合体の末端に存在する。
【0023】
共重合体への2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)の導入量としては、下記式(1)で表わされるモル分率Mdeとして、0.02〜0.35、好ましくは0.03〜0.30、特に好ましくは0.10〜0.28である。
de=[(d)+(e)]/[(a)+(b)+(c)+(d)+(e)] (1)
ここで、(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)は、脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)由来する構造単位、水酸基を含有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(b)、2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)に由来する構造単位、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)に由来する構造単位のモル数を示す。共重合体の末端に2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)由来の構造単位を上記範囲に導入することによって、耐熱性、離型性及び低吸水性等を向上させることができる。
【0024】
また、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)とチオール化合物(e)の比率は2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)が5〜50%とすることが好ましく、特に10〜30%が好ましい。ここで、上記比率は次式で計算される。
(d)/[(d)+(e)]
【0025】
2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)は、共重合体を分岐又は架橋させると共に、ペンダントビニル基を生じさせ、この共重合体に硬化性を与え、硬化時に耐熱性を発現させるための架橋成分として重要な役割を果たす。
【0026】
2官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等の2官能(メタ)アクリル酸エステルを用いることができるが、これらに制限されるものではない。
【0027】
2官能(メタ)アクリル酸エステルの好適な具体例としては、コスト、重合制御の容易さ及び得られたポリマーの耐熱性の点で脂環構造を有する2官能(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、例えばシクロヘキサンジメタノールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート及びジメチロールトリシクロデカンジメタクリレートが好ましく用いられる。
【0028】
共重合体は、側鎖に2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)由来の反応性の(メタ)アクリル基を含有する構造単位(c1)を有するが、式(2)で計算される構造単位(c1)のモル分率Mc1が、0.05以上であることがよく、好ましくは0.1〜0.7、更に好ましくは0.3〜0.5である。なお、(メタ)アクリル基は、(メタ)アクリロイル基ともいい、(メタ)アクリレート中の(メタ)アクリル酸成分中に存在するので、(メタ)アクリレート基ともいう。
c1=(c1)/[(a)+(b)+(c)] (2)
ここで、式中の(a)、(b)及び(c)は、上記と同意である。このモル分率を満足することによって、光や熱での硬化性に富み、硬化後の耐熱性及び機械的特性に優れた成形品を得ることができる。
【0029】
脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)は、共重合体の溶剤可溶性、低吸水性、耐熱性、光学特性及び加工性を改善するために重要である。このような脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、イソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレ−ト、ジシクロペンタニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト、及びジシクロペンタニルメタクリレートからなる群から選ばれる一種以上の脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。これら成分から誘導される構造単位が共重合体中に導入されることによって、重合体のゲル化を防ぎ、溶媒への溶解性を高めることができるばかりではなく、共重合体の低色分散性などの光学特性、低吸水性、耐熱性を改善することができる。
【0030】
好適な具体例としては、コスト、ゲル化防止及び得られたポリマーの成形加工性の点でイソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレ−ト、ジシクロペンタニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト及びジシクロペンタニルメタクリレートからなる群から選ばれる一種以上の脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。
【0031】
水酸基を含有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(b)としては、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、1,4−ブタンジオールモノアクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノアクリレート、1,9−ノナンジオールモノアクリレート、1,4−ブタンジオールモノメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノメタクリレート及び1,9−ノナンジオールモノメタクリレート等を挙げることができる。それらの内で、5官能以上の多官能(メタ)アクリレ−トとの相溶性という観点から、好適なものとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートを挙げることができる。
【0032】
2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)は、連鎖移動剤として機能し、共重合体の分子量を制御する。本発明の共重合体の分子量は重量平均分子量Mwとして、2000〜60000の範囲であり、好ましくは3000〜50000の範囲である。比較的低分子量の共重合体を使用することにより樹脂硬化物の成形性及び離型性を高める。
【0033】
チオール化合物(d)としては、連鎖移動剤として作用することが知られているチオール化合物であればよいが、好ましくはt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、トリメチロールプロパン トリス−3−メルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサ−3−メルカプトプロピオネート及び(トリス−[(3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]−イソシアヌレート)等である。これらの内、重合制御の容易さ、生成した共重合体の靱性の観点から、特に好適に使用されるのは、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどの炭素数5〜30のモノアルキルメルカプタンである。
【0034】
さらに、共重合体の溶剤可溶性及び加工性を改善する目的で(f)成分として、脂環式構造を持たない単官能の(メタ)アクリル酸エステルを添加することが可能である。このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−メチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート等が挙げられるが、好ましくは、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレートである。これら(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよいが、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレートからなる群から選ばれる一種以上の(メタ)アクリル酸エステルであることが最も好ましい。
【0035】
また、これらのその他の単量体成分(f)に由来する構造単位は、単量体成分(a)由来の構造単位及び単量体成分(b)由来の構造単位の総量に対して30モル%未満の範囲内とすることがよい。
【0036】
また、単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)に由来する構造単位、水酸基を含有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(b)及び2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)に由来する構造単位のモル比は、次の範囲であることがよい。
(a)/[(a)+(b)+(c)]=0.02〜0.55、好ましくは0.04〜0.5
(b)/[(a)+(b)+(c)]=0.03〜0.4、好ましくは0.09〜0.3、さらに好ましくは0.13〜0.18
(c)/[(a)+(b)+(c)]=0.05〜0.95、好ましくは0.2〜0.87
【0037】
さらに、2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)に由来する構造には脂環式構造を導入することが好ましく、脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)と合わせた脂環式構造を有する構造単位のモル比は、[(a)+(b)+(c)]の全体に対して0.35〜0.95、好ましくは0.6〜0.9の範囲が良い。
【0038】
上記共重合体の製造方法としては特に限定されないが、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)、チオール化合物(e)、単官能アクリル酸エステル芳香族化合物(a)、(b)及び2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)を所望の含有量となるように調整し、必要に応じてラジカル重合開始剤及び溶剤を使用し20〜200℃の温度で重合させることで製造され、例えば、スチームストリッピング法、貧溶媒での析出などの通常用いられる方法で回収される。
【0039】
次に、(B)成分について説明する。
(B)成分として、5官能以上の多官能(メタ)アクリレ−トが使用される。多官能(メタ)アクリレ−トは、1種又は2種以上が使用される。これらの(B)成分として用いられる5官能以上の多官能アクリレートは(A)成分と併用することによって高度の架橋を形成し特に硬度を向上させる他、相乗的に、耐熱性、低色分散、高光線透過率といった光学特性が同時に向上する。なお、(A)成分に該当する多官能アクリレートは、(B)成分としては計算しない。
【0040】
上記5官能以上の多官能(メタ)アクリレ−トとしては、(A)成分と共重合可能なものがよく、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等のモノマー類を挙げることができる。特に好ましくは、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0041】
また、本発明では、その他の共重合成分(D)として、分子中に1個〜4個の(メタ)アクリロイル基を有する1種以上の(メタ)アクリレ−トを使用することもできる。これらの(メタ)アクリレートは(A)成分と併用することによって相乗的に、低色分散、高光線透過率といった光学特性が同時に向上すると共に、流動性を高めることによって、成形性を向上させることができる。使用量としては(A)成分100重量部に対し、0〜40重量部、好ましくは0〜20重量部である。使用量が多いと流動性が高くなりすぎ、バリ、モレ等の成形不良が発生しやすくなるために好ましくない。
【0042】
上記共重合成分(D)として用いることのできる(メタ)アクリレ−トとしては、(A)成分と共重合可能なものがよく、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリエトキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリプロポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリス(2ーヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペングリコールのε−カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート(例えば、日本化薬(株)製、KAYARAD HX−220、HX−620等)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、更には(A)成分である共重合体を製造するために使用される脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)やアクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフロフリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニルポリエトキシ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、o−フェニルフェノールモノエトキシ(メタ)アクリレート、o−フェニルフェノールポリエトキシ(メタ)アクリレート、p−クミルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等のモノマー類を挙げることができる。特に好ましくは、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)を挙げることができる。
【0043】
次に、(C)成分について説明する。
(C)成分の開始剤としては、光重合開始剤が好ましく、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフエノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、4,4'−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド類等が挙げられる。
【0044】
これらは、単独又は2種以上の混合物として使用でき、更にはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル等の安息香酸誘導体等の促進剤などと組み合わせて使用することができる。
【0045】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含むが、その含有割合は、次のとおりである。(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対し、5〜250重量部、好ましくは20〜100重量部である。(C)成分の配合量は、(B)成分と(A)成分の配合量の合計100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは1.0〜5重量部である。
【0046】
別の観点からは、硬化性樹脂組成物中に、それぞれ(A)成分:30〜89wt%、(B)成分:10〜69wt%、及び(A)成分、(B)成分の合計に対して(C)成分:0.1〜10wt%を含有することがよい。より好ましくは、(A)成分:35〜80wt%、(B)成分:10〜40wt%である。(A)成分、(B)成分と(C)成分の配合比率が上記の範囲内にあることによって、透明性に優れかつ、硬度の高い硬化物が得られるとともに、相乗的に離型性や硬化性に見られる成形性と、耐熱性及び光学特性との特性バランスが改善される。また、(C)成分が少な過ぎると硬化不足を生じやすく、耐熱性や耐光性が低下し、多すぎると機械的強度が低下したり、耐熱性が低下したりする。なお、硬化性樹脂組成物中に有機溶剤及びフィラーを含む場合は、上記含有量は、これらを除外して計算される。
【0047】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、必要により重合禁止剤、酸化防止剤、離型剤、光増感剤、有機溶剤、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、更には紫外線吸収剤、光安定剤、無機、有機各種フィラー、防かび剤、抗菌剤などを本発明の硬化性樹脂組成物に添加し、それぞれ目的とする機能性を付与することも可能である。
【0048】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分、並びに、必要によりその他の成分を任意の順序で混合することにより得ることができる。本発明の硬化性樹脂組成物は経時的に安定である。
【0049】
本発明の硬化性樹脂組成物は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより硬化物を得ることができる。ここで、活性エネルギー線を照射して硬化する場合に用いられる光源の具体例としては、例えば、キセノンランプ、カーボンアーク、殺菌灯、紫外線用蛍光灯、複写用高圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、あるいは走査型、カーテン型電子線加速路による電子線等を挙げることができる。また、本発明の硬化性樹脂組成物を紫外線照射により硬化する場合、硬化に必要な紫外線照射量は300〜20000mJ/cm2程度でよい。なお、樹脂組成物を十分に硬化するために、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で紫外線等の活性エネルギー線を照射することが望ましい。
【0050】
本発明の硬化性樹脂組成物は、プラスチックレンズ等のような注型物に使用することができる。本発明の樹脂組成物を用いたプラスチックレンズの作製法としては、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体等からなるガスケットと所望の形状の2枚のガラス鋳型によって造られた型を作り、これに本発明の樹脂組成物を注入した後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化し、硬化物を型より剥離する方法等がある。
【0051】
また本発明の硬化性樹脂組成物をプリズムレンズシート用樹脂組成物としてフィルム状基材に塗布する方法としては、業界公知の種々の方法を用いることができる。具体的な方法としては、例えば、樹脂組成物を表面にプリズムレンズの形状を有する金型上に塗布し、樹脂組成物の層を設け、その樹脂組成物層の上に無色透明なフィルム状基材(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート等)を気泡が入らないように圧着し、次いでその状態でフィルム状基材側から高圧水銀灯を用いて紫外線を照射して樹脂組成物の層を硬化した後、プリズムレンズ状の樹脂層を形成したフィルム状基材を金型より剥離する方法を挙げることができる。
【0052】
紫外線等の活性エネルギー線を照射して得られる本発明の樹脂硬化物の屈折率は、25℃で1.50以上であることが好ましく、より好ましくは25℃で1.52以上である。特に本発明の樹脂組成物でプリズムレンズシートを作製する場合、硬化物の屈折率が25℃で1.50未満であると充分な正面輝度を確保できないという問題が生じることがある。また、硬化物のアッベ数(光の波長によってその屈折率を変える性質を規定する物質固有の数値)は40.0以上であることが好ましく、より好ましくは50.0以上である。硬化物のアッベ数が40.0未満であると色収差が大きく色のにじみが生じるため好ましくない。
【0053】
本発明の硬化性樹脂組成物を成形、硬化して得られる樹脂硬化物は、光学材料として優れる。とりわけプリズムレンズシート、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、眼鏡レンズ、非球面レンズ等の光学プラスチックレンズ用材料として有用である。そして、このようなレンズは、撮像装置に有利に使用される。また、硬化性樹脂組成物又は樹脂硬化物はその他にも、光ディスク、光ファイバー、光導波路等のオプトエレクトロニクス向け用途、印刷インキ、塗料、クリアーコート剤、ツヤニス等にも使用できる。
【実施例】
【0054】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。なお、各例中の部は特に断らない限りいずれも重量部である。また、実施例中の軟化温度等の測定は以下に示す方法により試料調製及び測定を行った。
【0055】
(共重合体及びその硬化物の物性測定)
1)ポリマーの分子量及び分子量分布
可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体の分子量及び分子量分布測定はGPC(東ソー製、HLC−8120GPC)を使用し、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、流量:1.0ml/min、カラム温度:40℃で行った。共重合体の分子量は単分散ポリスチレンによる検量線を用い、ポリスチレン換算分子量として測定を行った。
【0056】
2)ポリマーの構造
日本電子製JNM−LA600型核磁気共鳴分光装置を用い、13C−NMR及び1H−NMR分析により決定した。溶媒としてクロロホルム−d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
【0057】
3)ガラス転移温度(Tg)及び軟化温度測定の試料調製及び測定
可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体溶液をガラス基板に乾燥後の厚さが、20μmになるように均一に塗布した後、ホットプレートを用いて、90℃で30分間加熱し、乾燥させた。得られたガラス基板上の樹脂膜はガラス基板と共に、TMA(熱機械分析装置)測定装置にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で220℃まで昇温し、更に、220℃で20分間加熱処理することにより樹脂を硬化した(硬化物をサンプルという)。ガラス基板を室温まで放冷した後、TMA測定装置中のサンプルに分析用プローブを接触させ、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から360℃までスキャンさせることにより測定を行い、接線法により軟化温度を求めた。サンプルの耐熱性により、プローブが樹脂膜を貫通せず、膜厚よりも小さなプローブ侵入量を示さない場合には、軟化温度の他に、プローブが侵入した温度と膜厚に対する侵入量を百分率で表示した。
【0058】
4)溶剤溶解性
可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体5gを、100mlの溶媒に加え、25℃で10分間攪拌後の溶解状況を観察した。均一に溶解し、未溶解物及びゲルの存在が認められない場合を、可溶性と判定した。
【0059】
(組成物及びその硬化物の物性測定)
(1)屈折率の測定
樹脂組成物の各種物性測定のため、幅60mm、長さ60mm、厚み1.0mmの2枚のガラス板の間に厚さ1.0mm、幅10mmのシリコンテープを用いて、幅50mm、長さ50mmの空隙を形成し、外周をポリイミドテープで巻き固定したガラス型に、組成物を注入し、1)このガラス型の片面から前述の高圧水銀ランプにより、数秒問紫外線を照射する、或いは、2)このガラス型の変わりにSUS製の金属板を用いて同様の試験片作成用型を作成し、窒素ガス気流下のイナートガスオーブンに入れ、180℃で1時間加熱することによって硬化させた。ガラス型または金型から硬化した樹脂板を脱型して、サンプルとした。アッベ屈折率計(アタゴ(株)製)でサンプルの屈折率及びアッベ数を測定した。
(2)色相
厚さ1.0mmの平板を色彩色差計(商品名「MODEL TC-8600」、東京電色(株)製)で測定し、そのYI値を示した。
(3)Haze(濁り度)及び全光線透過率
0.2mm厚のテストピースを作製し、これのHaze(濁り度)と全光線透過率を、積分球式光線透過率測定装置(日本電色社製、SZ−Σ90)を用い測定した。
【0060】
(4)離型性:熱硬化した樹脂を金型より離型させた時の難易度により評価した。
○:金型からの離型性が良好。△:離型がやや困難、×・・・・離型が困難或は型のこりがある
(5)型再現性:硬化した樹脂層の表面形状と金型の表面形状を観察した。
◎:再現性が非常に良好、○:再現性が良好、△:再現性が比較的良好、×:再現性が不良
(6)バリ、モレ
硬化した樹脂を金型より離型させた時に、成形品の製品部分以外に生じたバリの大きさ及び金型のクリアランスへの樹脂の洩れこみの度合により評価した。
○:バリの生成量が0.05mm未満、金型クリアランスへの樹脂の洩れこみが1.0mm未満。△:バリの生成量が0.05mm以上、0.2mm未満。金型クリアランスへの樹脂の洩れこみが1.0mm以上、3.0mm未満。×:バリの生成量が0.2mm以上、金型クリアランスへの樹脂の洩れこみが3.0mm以上。
【0061】
(7)気泡
硬化した樹脂を金型より離型させた時に、成形品の製品部分に生じた気泡の有無及び大きさの度合により評価した。
○:気泡の生成が観察されない。△:気泡の生成が観察され、気泡の大きさが成形品の体積に対し、2%未満。×:気泡の生成が観察され、気泡の大きさが成形品の体積に対し、2%以上。
(8)ワレ
硬化した樹脂を金型より離型させた時に、成形品の製品部分に生じたワレの有無及び大きさの度合により評価した。
○:ワレの生成が観察されない。△:ワレの生成が観察されるものの、ワレの発生箇所が成形品の外周部のコーナー部分にのみ観察される。×:ワレの生成が観察されるものの、ワレの発生箇所が成形品の外周部のコーナー部分以外にも観察される。
【0062】
(7)リフロー耐熱性
屈折率の測定で作成したサンプルを用いて、分光測色計CM-3700d(コニカミノルタ社製)にて波長:400nmの分光透過率を測定した。測定タイミングは、190℃60分でのポストキュアを行った耐熱試験前と、エアーオーブン中、260℃、8分間の耐熱試験後とした。
(8)吸水率
屈折率の測定で作成したサンプルを用いて、60℃で24時間真空乾燥したテストサンプルの重さをWoとし、それを±0.1mgまで測定可能な秤で秤量し、温度:85℃、相対湿度:85%の恒温恒湿槽内で1週間、加湿を行った。加湿後、テストサンプルについた水気をふき取り、サンプルを±0.1mgまで測定可能な秤で秤量し、Wとした。Wo/W×100を吸水率とした。同じテストサンプルを3つ準備し、同様に試験を行った。
【0063】
合成例1
ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(DMTCD)1.6モル(463.2ml)、ジシクロペンタニルメタクリレート1.2モル(254.2ml)、1,4−ブタンジオールジアクリレート(BDDA)1.2モル(226.3ml)、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(αMSD)0.4モル(95.5ml)、t−ドデシルメルカプタン(TDM)2.4モル(564.8ml)、トルエン600mlを3.0Lの反応器内に投入し、90℃で40mmol(11.5g)のt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを添加し、2時間45分反応させた。重合反応を冷却により停止させた後、室温で反応混合液を大量のヘキサンに投入し、共重合体を析出させた。得られた共重合体をヘキサンで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体A536.4g(収率:73.2wt%)を得た。
【0064】
得られた共重合体AのMwは34200、Mnは5620、Mw/Mnは6.1であった。13C−NMR、1H−NMR分析及び元素分析を行うことにより、共重合体Aは、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート由来の構造単位(1)を合計39.6モル%、ジシクロペンタニルメタクリレート由来の構造単位(2)を合計31.1モル%、1,4−ブタンジオールジアクリレート由来の構造単位(3)を29.3モル%含有していた。また、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン由来の構造の末端基(4)は、構造単位(1)、(2)及び(3)と、末端基(4)及びt−ドデシルメルカプタン由来の構造の末端基(5)の総計(以下、全構成単位の総量という)に対し、3.2モル%存在していた。
一方、末端基(5)は、全構成単位の総量に対し、15.5モル%存在していた。
【0065】
共重合体Aはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。また、共重合体Aのキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
【0066】
合成例2
ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート2.64モル(764.3ml)、ジシクロペンタニルアクリレート(DCPA)0.24モル(47.2ml)、1,4−ブタンジールジアクリレート0.96モル(181.0ml)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HOP-A)0.96モル(118.5ml)、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.48モル(114.6ml)、t−ドデシルメルカプタン3.12モル(734.3ml)、トルエン720mlを3.0Lの反応器内に投入し、90℃で62mmol(13.9g)のt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを添加し、2時間30分反応させた。重合反応を冷却により停止させた後、室温で反応混合液を大量のヘキサンに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をヘキサンで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体B517.2g(収率:71.5wt%)を得た。
【0067】
得られた共重合体BのMwは39500、Mnは7240、Mw/Mnは5.5であった。13C−NMR、1H−NMR分析及び元素分析を行うことにより、共重合体Bは、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート由来の構造単位(1)を合計56.3モル%、ジシクロペンタニルアクリレート由来の構造単位(2)を合計4.9モル%、1,4−ブタンジールジアクリレート由来の構造単位(3)を19.2モル%、2−ヒドロキシプロピルアクリレート由来の構造単位(6)を19.6モル%含有していた。また、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン由来の構造の末端基(4)は、全構成単位の総量に対し、3.7モル%存在していた。一方、末端基(5)は、全構成単位の総量に対し、18.6モル%存在していた。
共重合体Bはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。また、共重合体Bのキャストフィルムは曇りのない透明なフィルムであった。
【0068】
合成例3〜7
各種の単官能(メタ)アクリレート類、2官能アクリレート類を使用して表1に示す原料組成で合成例1と同様にして重合した。
反応に使用した原料の使用量を表1に、共重合体及びその硬化物の試験結果を表2に示す。特に断らない限り、その他の反応条件及び測定条件は実施例1と同じである。表1において、原料使用量はモル及び重量(g)で表すが、記載の形式はモル/gとした。
【0069】
実施例1〜9及び比較例1〜3
表3に示す割合で各成分を配合し(数字は重量部)、安定剤として株式会社アデカ製のアデカスタブAO−60 0.1重量部を加えて硬化性樹脂組成物を得た。次に、この硬化性樹脂組成物を、上記の各種試験方法により硬化し性能評価を行った。性能評価結果を表4に示す。
【0070】
表で使用した略号を以下に示す。
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート (6官能)
PETIA:ペンタエリスリトールトリアクリレート (3官能)
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート (3官能)
TMP:トリメチロールプロパントリメタクリレート (3官能)
DMTCD:ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート (2官能)
HOP−A:2−ヒドロキシプロピルアクリレート (水酸基含有アクリレート)
BDDA:1,4−ブタンジオールジアクリレート (2官能)
DCPM:ジシクロペンタニルメタクリレート (単官能)
DCPA:ジシクロペンタニルアクリレート (単官能)
αMSD:2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン (d)成分
TDM:t−ドデシルメルカプタン (e)成分
パーブチルO:t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(日本油脂株式会社製)
イルガキュア184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(BASF社製)
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)、水酸基を含有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(b)、2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)とチオール化合物(e)を含む成分を共重合して得られる共重合体であって、側鎖に2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)由来の反応性の(メタ)アクリル基を有し、末端に2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(d)及びチオール化合物(e)由来の構造単位を有する共重合体であり、重量平均分子量が2000〜60000であり、更にトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶である可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体、
(B)成分:5官能以上の多官能(メタ)アクリレ−ト、及び
(C)成分:開始剤
を含有する組成物であり、(B)成分の配合量が(A)成分100重量部に対し、5〜250重量部、及び(C)成分の配合量が(B)成分と(A)成分の合計100重量部に対し、0.1〜10重量部であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)が、イソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレ−ト、ジシクロペンタニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト、及びジシクロペンタニルメタクリレートからなる群から選ばれる一種以上の単官能(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記2官能(メタ)アクリル酸エステル(c)が、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート及びジメチロールトリシクロデカンジメタクリレートからなる群から選ばれる一種以上の2官能(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られたことを特徴とする樹脂硬化物。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂硬化物から形成されてなることを特徴とする光学材料。
【請求項6】
光学材料が光学プラスチックレンズである請求項5に記載の光学材料。

【公開番号】特開2012−197368(P2012−197368A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62643(P2011−62643)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】