説明

磁気センサ制御回路、及び磁界測定装置

【課題】磁界測定装置において、高分解能・高精度での測定とダイナミックレンジの拡大との両立を図る。
【解決手段】磁気センサ8の入出力特性の線形領域に設定される磁界計測範囲では、ΔΣ変調器22及びデジタルフィルタ24からなるADCが磁気センサ8の出力を高分解能の磁界計測データDに変換する。磁気センサ8には、コイル10によりバイアス磁界を及ぼし、磁界計測範囲をシフトさせることができる。コイル10への駆動電流は、電流DAC28により離散的に変化させる。バイアス磁界の変化による磁界計測範囲の移動ステップは、ADCによる磁界強度の分解能より大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを含む磁気センサユニットを制御する磁気センサ制御回路、及び当該磁気センサ制御回路を用いた磁界測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子的に方位測定を行う場合には、地磁気などの外部磁界を検出する磁気センサを用いて行う。磁気センサを用いて方位を求める場合に、磁気センサに対して交流磁界を印加し、交流磁界を印加したときに磁気センサから出力される電圧を用いる技術が知られている。
【0003】
この技術においては、外部磁界に応じて内部抵抗が変化する磁気抵抗素子を含む磁気センサが用いられる。磁気センサは磁気抵抗素子を含むブリッジ回路で構成され、ブリッジ回路に印加する電圧の極性に応じて、当該ブリッジ回路の出力信号の極性が切り替わる。
【0004】
このような磁気センサは例えば、電子方位計として携帯電話などに搭載される。ここで、携帯電話に搭載される電子部品、例えばスピーカなどから発生する地磁気以外の磁界は地磁気に対するオフセット磁界となり地磁気の検出を妨げる。このようなオフセット磁界の影響を除去するために、磁気センサユニットには磁気センサにバイアス磁界を印加するコイルが設けられ、当該コイルに流す電流を調整してオフセット磁界をキャンセルする。
【特許文献1】特開2007−271599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
検出対象の磁界は地磁気などの微弱な磁界であり得るのに対し、オフセット磁界は比較的大きな強度を有し得る。磁気センサの出力電圧は、印加磁界が比較的小さい範囲では線形な特性を示すが、印加磁界が大きくなると線形性が低下する。そのため、オフセット磁界が大きい場合、磁界測定値の線形性が低下するという問題がある。この問題は、上述のようにバイアス磁界によりオフセット磁界を好適にキャンセルできれば解決し得る。
【0006】
ここで、バイアス磁界を発生するコイルに流す電流を調整し、また調整された電流を維持する上で、DA変換器(DAC:Digital to Analog Converter)を用いて当該電流を生成する回路が用いられる。しかし、回路規模の抑制やコスト低減の要請から、DACのビット数は比較的小さな値に制限される。そのため、オフセット磁界を精度良くキャンセルしようとするとDACはその入力データの1ステップ当たりの出力電流の変化量を小さくする必要があり、その結果、調整可能範囲が小さくなり、大きなオフセット磁界に対応できないという問題がある。
【0007】
また、DACを用いて生成した電流は、DACを構成するMOSFETなどのトランジスタに起因するフリッカノイズ(1/fノイズ)を含んでいる。さらに、磁気センサや信号処理回路にて、磁気センサからの出力信号にオフセットノイズが生じ得る。これらのノイズが分解能の低下をもたらすという問題があった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、高分解能とダイナミックレンジの拡大を可能とすると共に、オフセット磁界だけでなく、フリッカノイズ等に起因するオフセットノイズの影響をも除去して高精度の磁界測定を可能とする磁気センサ制御回路、及び磁界測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁気センサ制御回路は、入出力特性において外部磁界の強度に応じ線形に変化する磁界計測信号を発生する線形領域を有すると共に、印加電圧の極性に応じて前記磁界計測信号の極性が切り替わる磁気センサと、前記磁気センサの計測位置に駆動信号に応じた強度のバイアス磁界を発生し、前記外部磁界の強度軸上での前記線形領域の位置をシフトさせるバイアス磁界発生手段とを含む磁気センサユニットに用いられる回路であって、前記バイアス磁界発生手段に供給する前記駆動信号を生成する回路であり、当該駆動信号の強度を離散的に設定することにより、前記外部磁界の強度軸上にて所定の設定ステップずつずれた複数の設定位置のいずれかを選択して、当該選択した設定位置に前記線形領域に包含される磁界計測範囲を配置する計測範囲設定回路と、前記磁界計測範囲にて得られる前記磁界計測信号をデジタルデータに変換し、前記磁界計測範囲における磁界強度を前記設定ステップより高い分解能で表現する磁界計測データを生成するAD変換器(ADC:Analog to Digital Converter)と、前記印加電圧の極性を切り換える制御部と、前記印加電圧を第1極性に設定して得られる第1の前記磁界計測データと、前記印加電圧を第2極性に設定して得られる第2の前記磁界計測データとを減算して前記外部磁界の測定値を求めるデータ合成手段と、を有するものである。
【0010】
また、本発明に係る磁界測定装置は、上記磁気センサ制御回路と、前記磁気センサユニットとを有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、計測範囲設定回路は例えばDACを用いて構成され、当該計測範囲設定回路がバイアス磁界発生手段への駆動信号を離散的な強度で生成する。これにより、バイアス磁界も離散的な強度を有する。そのバイアス磁界の強度の設定ステップは磁界計測の所要分解能に比べて大きく設定される。これにより、磁気センサの線形領域を比較的少ない設定ステップ数で大きく移動させ、比較的広い磁界強度範囲に配置することができ、ダイナミックレンジの拡大が可能となる。
【0012】
一方、磁界計測信号をデジタルデータに変換するADCは、線形領域が設定され得る磁界強度範囲の全体について量子化できる必要はなく、計測範囲設定回路により設定された或る位置における線形領域内の磁界計測範囲を量子化できればよい。すなわち、ADCは、比較的少ないビット数でも、バイアス磁界の設定ステップより微細なステップでの量子化を磁界強度に施すことができ、高分解能の磁界計測データを得ることができる。
【0013】
さらに、磁気センサの印加電圧を反転させて得られる第1の磁界計測データと第2の磁界計測データとを減算することで、磁気センサやDAC等の回路に起因するオフセットノイズの影響が除去されるので、高精度の磁界測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、実施形態に係る磁気計測装置2の概略の回路構成図である。磁気計測装置2は、磁気センサユニット4と磁気センサ制御回路6とからなる。
【0016】
磁気センサユニット4は、直交座標系(XYZ座標系)の3軸に対応して、3つの磁気センサ8(磁気センサ8x,8y,8z)を有する。磁気センサ8x,8y,8zはそれぞれ、外部磁界のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の成分を検出する。
【0017】
各磁気センサ8は、抵抗素子Ra,Rb,Rc,Rdからなるブリッジ回路である。抵抗Ra,Rdは端子VIN1,VIN2の間に直列接続され、また、抵抗Rb,Rcも端子VIN1,VIN2の間に直列接続される。そして、抵抗Ra,Rdの接続点が出力端子VOUT1であり、抵抗Rb,Rcの接続点が出力端子VOUT2である。抵抗素子Ra,Rb,Rc,Rdのうち、磁気抵抗変化を示す素子はRa,Rcである。一方、Rb,Rdは固定抵抗である。このブリッジ回路の一対の入力端子VIN1,VIN2に電圧を印加すると、抵抗Ra,Rdで分圧された電圧が出力端子VOUT1に得られ、抵抗Rb,Rcで分圧された電圧が出力端子VOUT2に得られる。抵抗Ra,Rcは外部磁界により抵抗が変化するので、外部磁界に応じた電圧信号が、出力端子VOUT1,VOUT2から差動形式で出力される。また、Rb,Rdを磁気抵抗素子、Ra,Rcを固定抵抗素子としても、ブリッジ回路の差動出力であるため同様に動作する。
【0018】
磁気抵抗素子としては、磁界に対して対称性のある変化を示すものを用いる。このような磁気抵抗素子としては、MR(Magneto Resistance)素子、GIG(Granular In Gap)素子などが知られている。磁気計測装置2では例えば、MR素子の一種であるGMR(Giant Magneto Resistance)素子を抵抗Ra,Rcに用いる。
【0019】
磁気センサ8には、コイル10が併設される。コイル10は、バイアス磁界発生手段であり、供給される電流に応じた強度のバイアス磁界を抵抗Ra,Rcに及ぼし、それらの抵抗を変化させることができる。
【0020】
スイッチSWX1,SWY1,SWZ1は、3つの磁気センサ8のいずれか1つの端子VIN1,VIN2に電圧印加を行うために設けられている。
【0021】
磁気センサ8の端子VIN1,VIN2の一方には正電圧VCCが印加され、他方には接地電位GNDが印加される。この印加電圧の極性は、極性反転部12のスイッチSWS1〜SWS4により切り換えることができる。
【0022】
また、磁気センサ8xの出力端子VOUT1,VOUT2から磁気センサ制御回路6への信号線にはスイッチSWX2,SWX3が設けられ、同様に、磁気センサ8yの出力端子VOUT1,VOUT2にはスイッチSWY2,SWY3が設けられ、磁気センサ8zにはスイッチSWZ2,SWZ3が設けられる。これら出力端子に設けられたスイッチを切り換えて、3つの磁気センサ8のいずれか1つの出力信号を磁気センサ制御回路6へ入力させることができる。
【0023】
さらに、各磁気センサ8に併設されるコイル10への電流供給を選択的に行うために、スイッチSWX4,SWY4,SWZ4が設けられている。
【0024】
磁気センサ制御回路6は、差動プリアンプ20、ΔΣ変調器22、デジタルフィルタ24、出力インターフェース26、電流DAC28及び制御部30を有する。
【0025】
差動プリアンプ20は、磁気センサ8の出力端子VOUT1,VOUT2から出力される差動形式の磁界計測信号Sを増幅する。
【0026】
ΔΣ変調器22とデジタルフィルタ24とはΔΣ型ADCを構成し、アナログ信号である磁界計測信号Sをデジタルデータに変換し磁界計測データDを生成する。差動プリアンプ20にて増幅された磁界計測信号SはΔΣ変調器22に入力される。ΔΣ変調器22は、1ビットのAD変換機能を有し、磁界計測信号Sを磁界計測データDのサンプルレート(サンプリング周波数)よりも高速にサンプリングする。このように、少ないビットで粗く量子化された出力には量子化ノイズが多く含まれる。この量子化ノイズは、ΔΣ変調器22内部のノイズシェーピング回路で、高周波領域にシフトされる。
【0027】
ΔΣ変調器22の出力は、デジタルフィルタ24に入力される。デジタルフィルタ24はローパスフィルタ(Low-Pass Filter:LPF)であり、ノイズシェーピング回路にて高周波領域に移された量子化ノイズを減衰させる一方、磁界計測データを表す信号成分が存在する低周波領域を通過させる。デジタルフィルタ24は、ΔΣ変調器22からの高速の1ビットデータにフィルタリングとダウンサンプリングを施し、相対的に低速で多ビットのデータとする。これが、磁界計測データDとして出力される。
【0028】
デジタルフィルタ24にて生成された磁界計測データDは、半導体集積回路等で構成された磁気センサ制御回路6からバス等を介してマイコン等へ伝送される。出力インターフェース26は、X,Y,Z各軸方向の磁界計測データDをこのデータ伝送に適した形式に変換し、バス等へ送出する。
【0029】
電流DAC28は、バイアス磁界発生手段であるコイル10に供給する駆動電流Iを生成する。電流DAC28は、制御部30から目的バイアス磁界データDを入力され、当該データを、アナログの駆動信号である駆動電流Iに変換する。
【0030】
制御部30は、スイッチSWX1〜SWX3,SWY1〜SWY3,SWZ1〜SWZ3を切り換えて、磁気センサ8x,8y,8zのうち、電圧を印加し、その出力を差動プリアンプ20へ取り出すものを順番に選択し、また、選択した磁気センサ8に対応して、スイッチSWX4,SWY4,SWZ4を切り換えて、当該磁気センサ8に併設されたコイル10へ電流DAC28から選択的に駆動電流Iを供給させる。さらに、制御部30は、選択した磁気センサ8での1回の磁界計測において、極性反転部12を制御して印加電圧の極性を反転させる動作を行う。また、制御部30は、磁気センサ8の切り換えや印加電圧の極性の切り換えに連動してデジタルフィルタ24の動作を制御する。さらに、制御部30は、磁気センサ8の切り換えなどに対応して出力インターフェース26の動作を制御する。
【0031】
図2は、磁気センサ8及びその出力信号の処理に関するタイミング図である。センサセレクトとして示す波形は、X,Y,Z軸方向のいずれについて磁界計測が行われるかを示している。例えば、X軸の磁気センサ8xは、X軸のセンサセレクトがH(High)レベルの期間40xに選択的に、電圧及びバイアス磁界を印加され、磁界計測信号Sが差動プリアンプ20に入力される。Y軸、Z軸のセンサセレクトも同様のことを示している。X軸、Y軸、Z軸のセンサセレクトは基本的に同じ長さずつ順番に設定される。
【0032】
センサ極性は、極性反転部12の状態を示しており、例えば、L(Low)レベルの期間42が、磁気センサ8への印加電圧が正極性であり、一方、Hレベルの期間44が、印加電圧が正極性とは反転した負極性であるとする。各磁気センサ8の1回の磁界計測期間にて正極性の期間42と負極性の期間44とが少なくとも1回ずつ、基本的に同じ長さずつ設定される。図2に示す動作では、各軸のセンサセレクトの期間40x,40y,40zがそれぞれ2等分され、前半が正極性、後半が負極性に設定される。
【0033】
ΔΣ変調器22は、選択された磁気センサ8から出力される磁界計測信号Sをサンプリングしてパルス密度変調(Pulse Density Modulation:PDM)されたパルス列を生成する。デジタルフィルタ24は、ΔΣ変調器22から出力されるパルス列を例えば、移動平均処理することにより、ΔΣ変調器22の出力スペクトルの高周波領域に対する帯域制限を行う。移動平均処理では、デジタルフィルタ24に入力されるパルスの数が加算器を用いて所定の時間幅に亘り累積される。このように、デジタルフィルタ24は加算器を有し、デジタルフィルタ24はその加算器を用いて、印加電圧を正極性に設定して得られる第1の磁界計測データと、負極性に設定して得られる第2の磁界計測データとを減算して磁界計測データDを求めるデータ合成処理を行う。
【0034】
制御部30は正極性の期間42及び負極性の期間44それぞれの期間内に、デジタルフィルタ24を動作させる期間46,48を設定する。期間46と期間48とは同じ長さに設定される。また制御部30は、正極性の期間42ではデジタルフィルタ24での入力データに対する加算器の動作を加算動作とし、負極性の期間44では加算器の動作を減算動作とする。すなわち、加算器は期間46では、入力データを現在値に順次、加算し、一方、期間48では、入力データを現在値から順次、減算する。なお、期間46,48でそれぞれ別個に加算動作を行い、期間48の終了後に期間46での加算結果から期間48での加算結果を減算してもよい。このデータ合成を行うことで、後述するように、電流DAC28の出力電流に含まれるフリッカノイズなどに起因して生じる磁界計測信号Sのオフセットノイズを低減し、磁界計測データの高精度化を図ることができる。
【0035】
期間48が終了すると、デジタルフィルタ24ではデータ合成処理が完了して1つの磁界計測データDが得られる。制御部30は、得られた磁界計測データDを、次の磁界計測を開始する前の期間50に、加算結果を保持するカウンタから読み出し、出力インターフェース26によるデータ転送動作を行う。また、磁界計測データDのデータ転送動作を行うと、続く期間52にて制御部30はカウンタをリセットし、次の磁界計測の開始に備える。
【0036】
図3は、磁気センサ8及びその出力信号の処理に関する別の例を示すタイミング図である。図3に示す動作が図2と異なる点は、各磁気センサ8の1回の磁界計測期間(センサセレクトの期間40x,40y,40z)でのセンサ極性の反転回数及びそれに対応したデジタルフィルタ24の切り換え回数にある。すなわち、図2に示す動作では、1つのセンサセレクト期間40にて、正極性の期間42と負極性の期間44とが1回ずつ設定され、それに連動して、デジタルフィルタ24の動作が2つの期間46,48に分けられ、デジタルフィルタ24での加算と減算とが1回ずつ行われる。これに対して、図3に示す動作では、1つのセンサセレクト期間40にて、正極性の期間42と負極性の期間44とが2回ずつ設定され、それに連動して、デジタルフィルタ24の動作が4つの期間に分けられ、デジタルフィルタ24での加算と減算とが2回ずつ行われる。このように、1つのセンサセレクトの期間40での切り換え回数を増やすことで、デジタルフィルタ24の特性を変えることができ、例えば、より低い周波数のノイズが低減され得る。
【0037】
次に、データ合成処理によるオフセットノイズの低減について説明する。図4は、外部磁界Bに対する磁界計測信号Sの特性を示す模式的なグラフである。図4において、横軸が外部磁界B、縦軸が磁界計測信号Sを表す。磁気センサ8の磁界計測信号Sのうちオフセットノイズの大きさsで表す。また、磁気センサ8特性曲線60は印加電圧が正極性の場合のものであり、特性曲線62は印加電圧が負極性の場合のものである。外部磁界Bが0であれば、印加電圧の正負にかかわらず本来、S=0となるはずであり、特性曲線60及び特性曲線62はB−S座標の原点、すなわち(B,S)=(0,0)を通り、特性曲線60と特性曲線62とはS=0を中心として互いに上下対称となるはずである。そして、特性曲線60と特性曲線62とは(0,0)で交差し、各特性曲線60,62はそれぞれそれらの交点Pを中心として対称となるはずである。しかし、オフセットノイズsが0でない場合、交点Pは図4に示すように(0,s)にシフトする。
【0038】
或る外部磁界強度Bでの正極性電圧印加時の磁界計測信号Sの値をs、負極性電圧印加時の磁界計測信号Sの値をsとする。sのうち外部磁界の強度に対応する成分をsとすると、オフセットノイズsが0でない状態でのsは次式で表される。
=s+s ………(1)
【0039】
一方、同じ外部磁界強度Bにてsは次式で表される。
=−s+s ………(2)
【0040】
は、正極性の動作期間46でのΔΣ変調器22の出力の加算結果に相当し、一方、sは、負極性の動作期間48での加算結果に相当する。(1)式から(2)式を減じると、次式に示されるように、オフセットノイズsが相殺され、外部磁界強度sを求めることができる。
−s=2s ………(3)
【0041】
デジタルフィルタ24の加算器を期間46では加算動作とし、期間48では減算動作とする上述のデータ合成処理は、(1),(2)式から(3)式を得る演算に対応しており、この原理により、デジタルフィルタ24にてオフセットノイズが低減される。
【0042】
なお、デジタルフィルタ24として、例えば、FIR(Finite Impulse Response)フィルタを用いることができる。
【0043】
磁気センサ8の入出力特性は、図4の特性曲線60,62に示すように、それらの交点Pを中心として外部磁界の強度Bの変化に応じて磁界計測信号Sが直線的、すなわち線形に変化する線形領域64を有する。一方、交点Pから大きく離れると磁界計測信号Sは飽和し線形性がなくなる。本磁気計測装置2は、磁気センサ8の入出力特性のうち、磁界計測データDに対応する外部磁界強度Bを求めることが容易な線形領域を利用する。
【0044】
磁気計測装置2は、磁気センサ8の入出力特性の線形領域を利用すると共に、コイル10が生成するバイアス磁界を調整することにより、計測可能な外部磁界の強度範囲を拡大する。図5は、磁気計測装置2の入出力特性を示す模式図であり、横軸が外部磁界強度B、縦軸が磁界計測データDを表す。なお、外部磁界強度Bにはバイアス磁界による成分は含まれないものとする。ここでは、説明の便宜上、電流DAC28は2ビットの分解能を有し、駆動電流Iを4段階に変化させることができる例を示している。4段階の駆動電流Iに対応して、図5には4本の特性曲線70-1〜70-4を示している。各特性曲線70が示す変化はそれぞれ特性曲線60と相似である。ちなみに、I=0でありバイアス磁界の強度が0の状態では、磁気計測装置2の入出力特性は、B−D座標の原点を通る特性曲線70-3に従う。
【0045】
各特性曲線70の線形領域内に磁界計測範囲72が設定され、ΔΣ変調器22及びデジタルフィルタ24からなるADCのダイナミックレンジは、この磁界計測範囲72に対応させて設定される。例えば、ADCは各磁界計測範囲72を12ビットや14ビットといった高分解能に量子化する。
【0046】
上述のように、電流DAC28のフリッカノイズ等に起因するオフセットノイズが除去されるので、各特性曲線70において、図4にて交点Pで示した特性曲線60の中心に対応する点は、D=0に位置する。すなわち特性曲線70-1〜70-4とB軸との交点PB1〜PB4が各特性曲線70の中心である。
【0047】
ここで、差動プリアンプ20やADCのゲインを小さくすれば、例えば、特性曲線70の線形領域での傾斜が小さくなり、磁界計測範囲72を大きくすることができるので、駆動電流Iを一定値に固定したままでも大きな強度範囲の磁界計測が可能となる。しかし、そうすると、Dの1ステップに対応する外部磁界強度Bのステップが大きくなり、外部磁界の測定分解能が低下する。
【0048】
そこで、本磁気計測装置2では、図5に示すように、高分解能で外部磁界を測定できるように各特性曲線70は磁界計測範囲72にて大きな傾斜を有するものに設定する一方で、電流DAC28により駆動電流Iを変えてバイアス磁界の強度を離散的に変化させ、互いにB軸方向に位置がずれた複数の特性曲線70が得られるようにし、それらの磁界計測範囲72での磁界計測を可能としてダイナミックレンジを拡大している。ちなみに、このダイナミックレンジの拡大という目的から、駆動電流Iの変化ステップは、バイアス磁界の強度の設定ステップが、磁界計測の所要分解能ε、すなわちADCにより生成される磁界計測データDの1ステップに対応する外部磁界強度Bのステップに比べて大きくなるように設定される。
【0049】
駆動電流Iに応じた磁界計測範囲72の移動ステップは、必ずしもB軸上に磁界計測範囲72を連続して配置するものでなくてもよいが、一般的には連続した範囲で磁界計測ができることが望まれると考えられる。その場合には、例えば、図5に示すように、隣接する特性曲線70の磁界計測範囲72が互いにオーバーラップ領域を有するように、電流DAC28のゲインを調節して1ステップ当たりのIの変化量を設定することができる。
【0050】
例えば、制御部30は、ADCが生成する磁界計測データDが磁界計測範囲の上限又は下限に対応する値となった場合には、電流DAC28に入力する目的バイアス磁界データDを変更し、隣接する磁界計測範囲72に切り換える。この場合、例えば、磁界計測データDと、磁界計測範囲72の設定位置を示す情報、例えば目的バイアス磁界データとを出力インターフェース26から出力する。
【0051】
本発明によれば、磁気計測装置2は上述のように大きなダイナミックレンジを得ることができるが、これは、計測対象磁界のダイナミックレンジが大きいことを要求するものではない。本発明の磁気計測装置2は、計測対象磁界のダイナミックレンジが小さい場合にも好適である。
【0052】
例えば、地磁気等の微弱な磁界の計測を目的とする場合、外部磁界には計測目的成分だけでなく、オフセット磁界が重畳している場合がある。オフセット磁界が大きいと、外部磁界強度Bが磁界計測範囲72を超え、計測目的成分の変動を計測できなくなる。このような場合には、磁気計測装置2を搭載装置に組み込んだ状態等にて、オフセット磁界を予め計測し、当該オフセット磁界に基づいて定められた目的バイアス磁界データDを、例えば、制御部30内のレジスタ32等のデータ保持手段に格納する。
【0053】
電流DAC28は、目的バイアス磁界データDに基づいて駆動電流Iを生成する。目的バイアス磁界データDは、磁界計測範囲72を複数の設定位置のうち、計測目的成分の変動範囲を包含するものに対応した値が選択される。例えば、オフセット磁界の強度をbOFF、これに重畳する計測目的成分の変動幅をΔbとすると、特性曲線70とB軸との交点のうち最もオフセット磁界強度bOFFに近いB座標を有するものに対応する特性曲線70を選択すれば、その磁界計測範囲72に変動幅Δbが包含される。図5に示す例では、bOFFは交点PB4に最も近く、目的バイアス磁界データDとして、特性曲線70-4に対応する値が制御部30のレジスタ32に設定される。
【0054】
なお、図5に示す例では電流DAC28は2ビットとしたが、本発明において当該ビット数は任意に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気計測装置の概略の回路構成図である。
【図2】磁気センサ及びその出力信号の処理に関するタイミング図である。
【図3】磁気センサ及びその出力信号の処理に関する別の例を示すタイミング図である。
【図4】外部磁界に対する磁界計測信号の特性を示す模式的なグラフである。
【図5】磁気計測装置の入出力特性を示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
2 磁気計測装置、4 磁気センサユニット、6 磁気センサ制御回路、8 磁気センサ、10 コイル、12 極性反転部、20 差動プリアンプ、22 ΔΣ変調器、24 デジタルフィルタ、26 出力インターフェース、28 電流DAC、30 制御部、32 レジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入出力特性において外部磁界の強度に応じ線形に変化する磁界計測信号を発生する線形領域を有すると共に、印加電圧の極性に応じて前記磁界計測信号の極性が切り替わる磁気センサと、前記磁気センサの計測位置に駆動信号に応じた強度のバイアス磁界を発生し、前記外部磁界の強度軸上での前記線形領域の位置をシフトさせるバイアス磁界発生手段とを含む磁気センサユニットに用いられる磁気センサ制御回路であって、
前記バイアス磁界発生手段に供給する前記駆動信号を生成する回路であり、当該駆動信号の強度を離散的に設定することにより、前記外部磁界の強度軸上にて所定の設定ステップずつずれた複数の設定位置のいずれかを選択して、当該選択した設定位置に前記線形領域に包含される磁界計測範囲を配置する計測範囲設定回路と、
前記磁界計測範囲にて得られる前記磁界計測信号をデジタルデータに変換し、前記磁界計測範囲における磁界強度を前記設定ステップより高い分解能で表現する磁界計測データを生成するAD変換器と、
前記印加電圧の極性を切り換える制御部と、
前記印加電圧を第1極性に設定して得られる第1の前記磁界計測データと、前記印加電圧を第2極性に設定して得られる第2の前記磁界計測データとを減算して前記外部磁界の測定値を求めるデータ合成手段と、
を有することを特徴とする磁気センサ制御回路。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気センサ制御回路において、
前記AD変換器は、ΔΣ変調器と、当該ΔΣ変調器にて高周波領域にシフトされた量子化ノイズを除去する低域通過特性を有したデジタルフィルタと、を有し、
前記制御部は、1つの前記測定値を取得する測定期間内に、前記印加電圧を前記第1極性に設定する第1極性期間と、当該第1極性期間と同じ長さであって前記印加電圧を前記第2極性に設定する第2極性期間とを設け、
前記データ合成手段は、前記デジタルフィルタに設けられる加算器であり、前記第1極性期間及び前記第2極性期間の切り換えに同期して前記磁界計測データの加減算を切り換えること、
を特徴とする磁気センサ制御回路。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気センサ制御回路において、
前記制御部は、前記測定期間内に、前記第1極性期間と前記第2極性期間とを交互に複数回ずつ設定すること、
を特徴とする磁気センサ制御回路。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の磁気センサ制御回路において、
前記外部磁界に存在し計測目的成分に重畳するオフセット成分に基づいて定められた目的バイアス磁界データを保持するデータ保持手段を有し、
前記計測範囲設定回路は、
デジタルデータである前記目的バイアス磁界データをアナログ信号である前記駆動信号に変換するDA変換器を有し、
前記磁界計測範囲を、前記計測目的成分の変動範囲を包含する位置に配置すること、
を特徴とする磁気センサ制御回路。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の磁気センサ制御回路と、
前記磁気センサユニットと、
を有することを特徴とする磁界測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の磁界測定装置において、
前記磁気センサは、磁界に対して単調に変化する抵抗変化を示す磁気抵抗素子を含むこと、を特徴とする磁界測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の磁界測定装置において、
前記磁気抵抗素子は、GMR素子であること、を特徴とする磁界測定装置。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1つに記載の磁界測定装置において、
前記磁気センサは、ブリッジ回路で構成されていること、を特徴とする磁界測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−107460(P2010−107460A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281984(P2008−281984)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】