説明

磁気データ処理装置、磁気データ処理方法および磁気データ処理プログラム

【課題】信頼性が保証された磁気データの利用を可能にする。
【解決手段】3次元磁気センサから出力される磁気データを順次入力する磁気データ入力手段と、複数の前記磁気データを母集団データ群として蓄積する蓄積手段と、3次元加速度センサから出力される加速度データを入力する加速度データ入力手段と、前記母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と前記加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出する信頼性判定手段と、を備える磁気データ処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気データ処理装置、磁気データ処理方法および磁気データ処理プログラムに関し、特に磁気データの信頼性を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、方位などを計測するために磁気センサが用いられている。磁気センサによって磁気を計測すると、磁気センサの出力には地磁気などの計測対象の成分以外にもノイズ成分やオフセット成分が混入している。例えば、車両などの輸送機械に取り付けられたPND(Personal Navigation Device)において磁気センサによって地磁気を計測する場合、オフセット成分は、PND自体や輸送機械の着磁によるものであったり、磁気センサの温度特性によるものである。オフセット成分は温度や車両の着磁状態といった動作環境の変化に応じて変化する。このため、磁気センサの出力に基づいて導出されるオフセット成分を磁気センサの出力から差し引くことによって磁気センサの出力が補正される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−240270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、輸送機械に設置されたPNDにおいて磁気センサによって地磁気を計測する場合のノイズ成分は、PND自体や輸送機械に搭載されている電子回路が発生源となる磁気によるものや、輸送機械が踏切などの強い磁気発生源の近くを通過するときに受ける磁気によるものである。したがってノイズ成分を打ち消す補正は困難である。このため磁気センサを用いたシステムにおいて磁気センサの出力から導出されるデータには誤差が含まれている。しかし、磁気センサの出力の誤差が大きい場合や、ある磁気データの誤差が別の磁気データの誤差を増幅するような場合にはシステムの信頼性が大きく損なわれるため、磁気センサの出力である磁気データの信頼性を判定することは重要である。
【0005】
本発明は、信頼性が保証された磁気データの利用を可能にすることを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するための磁気データ処理装置は、3次元磁気センサから出力される磁気データを順次入力する磁気データ入力手段と、複数の磁気データを母集団データ群として蓄積する蓄積手段と、3次元加速度センサから出力される加速度データを入力する加速度データ入力手段と、母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出する信頼性判定手段と、を備える。
【0007】
3次元磁気センサが陸上輸送機械や海上輸送機械などほぼ水平面上を移動する移動体に取り付けられている場合、移動体の回転はほぼ鉛直軸を中心として起こるため、その間、地磁気を検出している3次元磁気センサの出力は3次元の座標系において平面的な範囲に分布する。したがって3次元磁気センサから出力される複数の磁気データからなる母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向は鉛直軸とほぼ平行になる。一方、静止または等速直線運動をしている移動体に取り付けられている加速度センサから出力される加速度データは重力加速度を示す。したがって遠心力に相当する加速度成分が重力加速度に対して十分小さい範囲で水平面上を移動体が回転する場合、3次元磁気センサから出力される複数の磁気データからなる母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向は加速度データが示す加速度の方向とほぼ平行になる。そして磁気データの誤差が大きい場合には、3次元磁気センサから出力される複数の磁気データからなる母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と重力加速度の方向との角度差が大きくなる。すなわち、3次元磁気センサから出力される複数の磁気データからなる母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と重力加速度の方向との角度差は、地磁気を示すデータとしての磁気データの信頼性を表す。そこで本発明では、母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を磁気データの信頼性を示す指数として導出する。したがって本発明によると、地磁気を示すデータとしての磁気データの信頼性を判定することが出来る。
【0008】
(2)加速度の方向は加速度データから導かれるものであればよく、例えば複数の加速度データを用いて指標ベクトルを導出し、その指標ベクトルの方向を加速度の方向として母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出してもよい。一般に車両などの移動体は様々な方向に加速しながら運動しているため、ある瞬間の加速度と重力加速度の差が大きくなる場合がある。複数の加速度データを用いると、平均や平滑化により移動体の重力加速度成分を除いた加速度のばらつきを相殺し、重力加速度に近い指標ベクトルを導出することが出来る。このような指標ベクトルを用いて信頼指数を導出することにより、磁気データの信頼性の判定精度が向上する。
【0009】
(3)信頼指数は母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数であればよく、例えば、母集団データ群の分散共分散行列の最小の固有値に対応する固有ベクトルと指標ベクトルとの内積の関数を信頼指数として導出することができる。
【0010】
(4)本発明において導出される信頼指数の利用方法は種々のものが考えられ、例えば母集団データ群に含まれる1つの磁気データを物体の方向を示すデータとして利用する際に信頼指数を利用してもよいが、信頼指数によって信頼性が保証されている母集団データ群に基づいて磁気データのオフセットを導出することは非常に効果的である。前述したとおり磁気データのオフセットは温度や車両の着磁状態といった動作環境の変化に応じて変化するものであり、このようなオフセット要因から生ずるオフセット成分を磁気データから取り除くオフセット補正に用いられる。このようなオフセット自体に大きな誤差が含まれている場合には、オフセット補正される磁気データ全てに大きな誤差が含まれることになる。したがって信頼性について合格と判定された母集団データ群に基づいて磁気データのオフセットを導出することは非常に効果的である。そこで母集団データ群を信頼指数に応じて用いて磁気データのオフセットを導出するオフセット導出手段をさらに備えることが好ましい。
【0011】
(5)本発明の磁気データ処理装置は、3次元磁気センサと3次元加速度センサとは別の装置として構成しても良いし、3次元磁気センサと3次元加速度センサとを備えた装置として構成しても良い。
【0012】
(6)本発明は、磁気データ処理装置と、オフセットに基づいて磁気データを補正する補正手段と、補正された磁気データに基づいて方位を報知する方位報知手段と、を備えるナビゲーション装置としても成立する。
【0013】
(7)また本発明は、3次元磁気センサから出力される磁気データを順次入力し、複数の磁気データを母集団データ群として蓄積し、3次元加速度センサから出力される加速度データを入力し、母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出する、ことを含む磁気データ処理方法としても成立する。
【0014】
(8)また本発明は、3次元磁気センサから出力される磁気データを順次入力する磁気データ入力手段と、複数の磁気データを母集団データ群として蓄積する蓄積手段と、3次元加速度センサから出力される加速度データを入力する加速度データ入力手段と、母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出する信頼性判定手段と、としてコンピュータを機能させる磁気データ処理プログラムとしても成立する。
【0015】
尚、請求項に記載された動作の順序は、技術的な阻害要因がない限りにおいて記載順に限定されず、同時に実行されても良いし、記載順の逆順に実行されても良いし、連続した順序で実行されなくても良い。また請求項に記載された各手段の機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、又はそれらの組み合わせにより実現される。また、これら各手段の機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。さらに、本発明は磁気データ処理プログラムの記録媒体としても成立する。むろん、そのコンピュータプログラムの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。
*************
1.磁気データから鉛直軸の方向を導出する原理
2.ハードウェア構成
3.ソフトウェア構成
4.磁気データ処理の流れ
5.他の実施形態
*************
【0017】
1.磁気データから鉛直軸の方向を導出する原理
自動車などの地上輸送機械や海上輸送機械の運動はほぼ水平面上で行われる。自動車が旋回するとき、自動車に取り付けられている3次元磁気センサは自動車とともにほぼ鉛直軸を中心に回転運動する。自動車が斜面を走行する場合には3次元磁気センサの回転軸が鉛直軸とずれることになるが、この場合であっても、本実施形態においてそのずれによって生ずる信頼指数の誤差は無視できる程度である。
【0018】
自動車が360度旋回する期間中に、3次元磁気センサから離散時間に順次出力される磁気データを磁気センサに固定されている座標系にプロットすると、図1においてハッチングで示すドーナツ状の領域に分布する。前述したとおり、自動車はほぼ水平面上を運動しているため回転軸のぶれは小さい。したがって、3次元磁気データの分布は偏平になり平面に近似することができる。3次元磁気センサに固定された座標系における鉛直軸はその近似平面の垂線にほぼ一致する。したがって、自動車が回転運動をしているときには、磁気データに基づいて磁気センサに固定された座標系において鉛直軸の方向を導出することができる。本実施形態では、磁気データの分布の固有値を利用して分布の近似平面の垂線方向を導出する。
【0019】
2.ハードウェア構成
図2は本発明のナビゲーション装置の一実施形態を示すブロック図である。ナビゲーション装置1は互いに直交するx、y、zの3方向について磁界の強さを検出することによって地磁気の方向を検出し、ユーザに方位を報知する。ナビゲーション装置1は自動車などの任意の車両に取り付けられるPNDである。
【0020】
磁気データ処理装置10は、磁気センサ2と加速度センサ6と制御部4とで構成されている。制御部4は磁気センサ2から磁気データを入力し、オフセット補正された磁気データに基づいて進行方位や走行予定経路を画像情報や音声情報として運転者に報知する。制御部4によって制御されるディスプレイ7には進行方位や走行予定経路を示す画像が表示される。制御部4によって制御されるスピーカ8からは進行方位や走行予定経路を示す音声が出力される。
【0021】
磁気センサ2は、磁気ベクトルのx方向成分、y方向成分、z方向成分をそれぞれ検出するx軸センサ21とy軸センサ22とz軸センサ23とを備えている3次元磁気センサである。x軸センサ21、y軸センサ22、z軸センサ23は、いずれも磁気抵抗素子、ホール素子等で構成され、指向性のある1次元磁気センサであればどのようなものであってもよい。x軸センサ21、y軸センサ22およびz軸センサ23は、それぞれの感度方向が互いに直交するように固定されている。x軸センサ21、y軸センサ22、z軸センサ23の出力は時分割して磁気センサI/F(Inter face)20に入力される。磁気センサI/F20では、x軸センサ21、y軸センサ22およびz軸センサ23からの入力が増幅された後にAD変換される。磁気センサI/F20から出力されるディジタルの磁気データはバス5を介して制御部4に入力される。
【0022】
加速度センサ6は、重力の反対向きの加速度と加速度センサの運動に固有の加速度が合成された加速度を表す加速度データgi=(gix,giy,giz):(i=1,2・・・)を出力する3次元加速度センサである。加速度センサ6の座標軸と磁気センサ2の座標軸とは一致している。加速度センサ6は、静電容量方式、圧電方式、歪みゲージ方式、熱検知方式など、どのような方式で構成されていても良い。加速度センサ6から出力されるディジタルの加速度データはバス5を介して制御部4に入力される。静止した状態において加速度センサ6から出力される加速度データの方向は鉛直軸の方向を示しているため、加速度センサ6の出力は鉛直軸の方向を示すデータとして利用することが出来る。
【0023】
制御部4は、CPU42とROM43とRAM41と制御I/F40とを備えているコンピュータである。CPU42はナビゲーション装置1の全体制御を司るプロセッサである。制御部4と磁気センサ2、加速度センサ6などの周辺装置とは制御I/F40を介してデータを送受する。ROM43は、CPU42によって実行される磁気データ処理プログラムや、ナビゲーション装置の機能を実現するための種々のプログラムが格納されている、不揮発性の記憶媒体である。RAM41はCPU42の処理対象となるデータを一時的に保持する揮発性の記憶媒体である。尚、制御部4と磁気センサ2とを1チップの磁気データ処理装置として構成することもできるし、制御部4と磁気センサ2と加速度センサ6とを1チップの磁気データ処理装置として構成することもできる。
【0024】
3.ソフトウェア構成
図3は、磁気データ処理プログラム90の構成を示すブロック図である。磁気データ処理プログラム90は、ナビゲーションプログラム98に方位データを出力するためのプログラムであって、ROM43に格納されている。方位データは地磁気の方向を示すベクトルデータである。磁気データ処理プログラム90は、バッファ管理モジュール91、信頼性判定モジュール92、加速度入力モジュール93、オフセット導出モジュール94、方位導出モジュール96等のモジュール群で構成されている。
【0025】
バッファ管理モジュール91は、磁気センサ2から順次出力される磁気データを一定時間間隔で順次入力し、入力した磁気データをオフセット更新に用いるためにバッファに蓄積するプログラム部品であって、制御部4を磁気データ入力手段及び蓄積手段として機能させる。バッファとしてのRAM41に蓄積される磁気データ群が母集団データ群である。
【0026】
加速度入力モジュール93は、加速度センサ6から順次出力される加速度データを一定時間間隔で順次入力するプログラム部品であって、制御部4を加速度データ入力手段として機能させる。
【0027】
信頼性判定モジュール92は、バッファ管理モジュール91によって保持されている母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度入力モジュール93によって加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出し、信頼指数と閾値とを比較することによって母集団データ群の信頼性について合否を判定するプログラム部品であって、制御部4を信頼性判定手段として機能させる。
【0028】
オフセット導出モジュール94は、信頼性判定モジュール92によって信頼性が合格と判定された母集団データ群に基づいて新オフセットを導出し、旧オフセットを新オフセットに更新するプログラム部品であって、制御部4をオフセット導出手段として機能させる。尚、旧オフセットが新オフセットに更新された時点でその新オフセットは旧オフセットになるため、誤解のない文脈では旧オフセットのことを単にオフセットというものとする。実際には、方位データの補正に用いられるオフセットは1つの変数に設定され、新オフセットはその変数とは別の変数として導出され、導出された時点で方位データの補正に用いられる変数に設定される。
【0029】
方位導出モジュール96は、バッファ管理モジュール91によって順次入力される磁気データをオフセット導出モジュール94が保持しているオフセットによって補正して方位データを生成するプログラム部品であって、制御部4を補正手段として機能させる。具体的には、方位導出モジュール96は、ベクトルデータである磁気データの各成分からオフセットの各成分を引き算して得られるベクトルデータを方位データとして出力する。
【0030】
ナビゲーションプログラム98は方位データが示す現在進行方位と地図情報と現在地点情報とに基づいて右左折予定交差点で右左折方向を運転者に報知する周知のプログラムであって制御部4を方位報知手段として機能させる。尚、方位データは、単に東西南北を文字や矢印や音声で報知するためにのみ用いられてもよいし、ディスプレイ7に表示される地図のヘディングアップ処理に用いられてもよい。
【0031】
4.磁気データ処理の流れ
図4はオフセットを導出する処理の流れを示すフローチャートである。図4に示す処理はオフセットの更新要求が発生したときにCPU42が磁気データ処理プログラム90を実行することによって進行する。オフセットの更新要求は、一定の時間間隔で発生してもよいし、ドライバーの明示的な指示により発生してもよい。
【0032】
まずステップS100においてバッファ管理モジュール91は磁気データを入力しバッファに格納する。自動車の進行方位がほとんど変化していない状況において、短い時間間隔で順次磁気センサ2から磁気データを入力すると、連続入力される2つの磁気データ間の距離が近くなる。距離が互いに近い複数の磁気データが限られた容量のバッファに格納されることは、メモリ資源の浪費であるし、無駄なバッファの更新処理を発生させる。また、互いの距離が近い磁気データ群に基づいて新オフセットを導出すると、偏った分布を持つ母集団データ群に基づいて精度の低い新オフセットが導出される可能性がある。そこで、バッファの更新必要性が次のように判定されてもよい。例えば、直前にバッファに格納された磁気データと最後に入力された磁気データとの距離がある閾値より小さければ、バッファの更新必要性がないと判定され、最後に入力された磁気データはバッファに格納されることなく破棄される。
【0033】
次にステップS110においてバッファ管理モジュール91は新オフセットを導出するために必要な規定個数の磁気データがバッファに蓄積されたかを判定する。すなわち、母集団データ群の要素数は予め決められている。所定個数の磁気データがバッファに蓄積されるまで、ステップS100とステップS110の処理が繰り返される。
【0034】
所定個数の磁気データがバッファに蓄積されると信頼性判定モジュール92は母集団データ群の信頼性の合否を判定する(ステップS120)。すなわち信頼性判定モジュール92は母集団データ群と加速度データとに基づいて信頼指数を導出し、信頼指数と予め決められた閾値pとに基づいて母集団データ群の信頼性の合否を判定する。
【0035】
ステップS120では、はじめに次式(1)で表す母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線に平行なベクトルを導出する。
qi=(qix,qiy,qiz) (i=1,2・・・)・・・(1)
【0036】
式(1)で表される母集団データ群の分布は母集団データ群の重心を始点とし各磁気データを終点とするベクトルの和を用いて式(2)、(3)、(4)で定義される対象行列Aの固有値を指標として表すことが出来る。
【数1】

【0037】
行列Aは、式(5)とも書けるため、分散共分散行列のN倍に相当する。
【数2】

【0038】
行列Aの固有値を大きい順にλ1、λ2、λとする。またλ1、λ2、λに対応し、大きさ1で正規化され互いに直交する固有ベクトルをl1、l2、lとする。すると最小の固有値λに対応する固有ベクトルlの向きは、図1に示す母集団データ群のドーナツ状の分布をほぼ含む平面、すなわち母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線と平行になる。したがってステップS120では固有ベクトルlが導出される。
【0039】
続いて、固有ベクトルlの方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数を信頼指数として導出する。ここでは3次元ベクトルデータである加速度データの方向をそのまま用いるのではなく、磁気データの信頼性の判定精度を向上させるために、複数の加速度データを用いて重力加速度に対応する指標ベクトルGを導出し、指標ベクトルGの方向と固有ベクトルlの方向との角度差の関数を信頼指数として導出する。指標ベクトルGは、加速度データgi=(gix,giy,giz):(i=1,2・・・)の各成分gix,giy,gizをIIR(Infinite Impulse Response)フィルタまたはFIR(Finite Impulse Response)フィルタを通過させることにより平滑化した値をx、y、z成分とするベクトルである。IIRフィルタでは、順次入力される複数の加速度データを重み付け加算し、重み付け加算した値をさらに複数重み付け加算してフィードバックする。FIRフィルタでは、順次入力される複数の加速度データを重み付け加算する。ナビゲーション装置1が取り付けられる移動体として自動車を想定する場合、IIRフィルタおよびFIRフィルタの遮断周波数は極めて小さくて良い。
【0040】
固有ベクトルlと指標ベクトルGとの内積は固有ベクトルlの方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である。そこで次式(6)で表す信頼指数Sを導出し、信頼指数Sと予め決められた閾値pとの大小を比較し、信頼指数Sが閾値p以上である場合には母集団データ群の信頼性を合格と判定する。
【数3】

【0041】
信頼性判定モジュール92によって母集団データ群の信頼性が合格と判定されると、オフセット導出モジュール94は母集団データ群に基づいて新オフセットを導出する(ステップS130)。
【0042】
磁気センサ2から順次入力される複数の磁気データからなる母集団データ群に基づいて磁気データのオフセットを導出する方法は、本件発明者によって複数提案されている(特開2007−240270号公報、特開2007−205944号公報、特開2007−139715号公報、特開2007−107921号公報)。信頼性について合格と判定された母集団データ群からオフセットを導出する方法は統計的な方法でも統計的でない方法でも良いが、以下に統計的な方法の一例を説明する。
【0043】
母集団データ群が同一直線上にない3つの磁気データで構成されている場合、母集団データ群が分布する球は統計的手法を用いることなく一意に特定される。この球の中心の位置ベクトルc=(cx、cy、c)は連立方程式(7)を解くことによって得られる。尚、3変数に対して等号制約が4つあるが、等号制約の1つは冗長になっているため方程式(7)は必ず解を持つ。
【数4】

【0044】
母集団データ群の要素数が4個以上あるときについて、jを次式(9)で定義する。
【数5】

【0045】
このとき、cについての連立一次方程式(10)が解を持てば、その解は、母集団データ群が分布する球の中心である。
Xc=j・・・(10)
【0046】
しかし、磁気センサ2自体の測定誤差を考慮すると、現実には、方程式(10)が解を持つことはあり得ない。そこで、統計的な手法により尤もらしい解を得るために、次式(11)で定義されるベクトルeを導入する。
e=Xc−j・・・(11)
【0047】
||e||22(すなわちeTe)を最小にするcが、母集団データ群が最も近くに分布する球の中心として尤もらしいといえる。||e||22を最小にするcを求める問題は、行列Aが正則のときには次式(12)の目的関数を最小にする最適化問題となる。
【数6】

【0048】
すなわち式(12)の目的関数f(c)を最小にするcを求めることにより、新オフセットとしてのcが導出される。目的関数f(c)を最小にするcは、本実施形態で想定している(XX)が正則のときは式(13)のように書くことができる。
【数7】

【0049】
ステップS130の処理が終了すると、ステップS100の処理に戻り、上述の処理が繰り返される。なお、母集団データ群の信頼性が不合格と判定されると、新オフセットは導出されず、母集団データ群は破棄される。方位導出モジュール96は、以上の処理によって随時導出される新オフセットで磁気データを補正することにより方位データを導出し、方位データをナビゲーションプログラム98に出力する。
【0050】
5.他の実施形態
上記実施形態では磁気データの信頼性が低い場合、すなわち信頼指数Sが小さい場合には、その磁気データをオフセットの導出に用いない例を示したが、磁気データの信頼性が低い場合にも磁気データをオフセットの導出に用いてもよい。例えば信頼指数Sの大きさに関わらず母集団データ群に基づいて導出される仮オフセットcを信頼指数Sに応じて重み付けし、仮オフセットcと旧オフセットcとの加重平均を新オフセットcとして導出しても良い。具体的には例えば次式(14)によって新オフセットcを導出する場合、新オフセットcは図5に示すように仮オフセットcと旧オフセットcとの内分点の位置ベクトルとなる。
c=Sc1+(1-S)c0・・・(14)
【0051】
母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差が大きい場合、すなわち母集団データ群の信頼性が低い場合には、新オフセットは旧オフセットに近くなり、信頼性が低い母集団データ群に基づいてオフセットが大きく変化することが防止される。母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と加速度データが示す加速度の方向との角度差が小さい場合、すなわち母集団データ群の信頼性が高い場合には、新オフセットは仮オフセットに近くなり、信頼性が高い母集団データ群に基づいて精度良くオフセットが更新される。
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明が適用されるナビゲーション装置として携帯型のPNDを例示したが、据え置き型のナビゲーション装置や、歩行者向けのナビゲーション装置に本発明を適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態にかかるベクトル図。
【図2】本発明の実施形態にかかるブロック図。
【図3】本発明の実施形態にかかるブロック図。
【図4】本発明の実施形態にかかるフローチャート。
【図5】本発明の実施形態にかかるベクトル図。
【符号の説明】
【0053】
1:ナビゲーション装置、2:磁気センサ、4:制御部、5:バス、6:加速度センサ、7:ディスプレイ、8:スピーカ、10:磁気データ処理装置、20:磁気センサI/F、21:x軸センサ、22:y軸センサ、23:z軸センサ、40:制御I/F、41:RAM、42:CPU、43:ROM、90:磁気データ処理プログラム、91:バッファ管理モジュール、92:信頼性判定モジュール、93:加速度入力モジュール、94:オフセット導出モジュール、96:方位導出モジュール、98:ナビゲーションプログラム、c:新オフセット、c:旧オフセット、c:仮オフセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元磁気センサから出力される磁気データを順次入力する磁気データ入力手段と、
複数の前記磁気データを母集団データ群として蓄積する蓄積手段と、
3次元加速度センサから出力される加速度データを入力する加速度データ入力手段と、
前記母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と前記加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出する信頼性判定手段と、
を備える磁気データ処理装置。
【請求項2】
前記信頼性判定手段は、複数の前記加速度データを用いて指標ベクトルを導出し、前記母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と前記指標ベクトルの方向との角度差の関数である前記信頼指数を導出する、
請求項1に記載の磁気データ処理装置。
【請求項3】
前記信頼性判定手段は、前記母集団データ群の分散共分散行列の最小の固有値に対応する固有ベクトルと前記指標ベクトルとの内積の関数を前記信頼指数として導出する、
請求項1または2に記載の磁気データ処理装置。
【請求項4】
前記母集団データ群を前記信頼指数に応じて用いて前記磁気データのオフセットを導出するオフセット導出手段をさらに備える、
請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気データ処理装置。
【請求項5】
前記3次元磁気センサと、
前記3次元加速度センサと、
をさらに備える請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気データ処理装置。
【請求項6】
請求項4に記載の磁気データ処理装置と、
前記オフセットに基づいて前記磁気データを補正する補正手段と、
補正された前記磁気データに基づいて方位を報知する方位報知手段と、
を備えるナビゲーション装置。
【請求項7】
3次元磁気センサから出力される磁気データを順次入力し、
複数の前記磁気データを母集団データ群として蓄積し、
3次元加速度センサから出力される加速度データを入力し、
前記母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と前記加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出する、
ことを含む磁気データ処理方法。
【請求項8】
3次元磁気センサから出力される磁気データを順次入力する磁気データ入力手段と、
複数の前記磁気データを母集団データ群として蓄積する蓄積手段と、
3次元加速度センサから出力される加速度データを入力する加速度データ入力手段と、
前記母集団データ群の分布を示す近似平面の垂線の方向と前記加速度データが示す加速度の方向との角度差の関数である信頼指数を導出する信頼性判定手段と、
としてコンピュータを機能させる磁気データ処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−162510(P2009−162510A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339478(P2007−339478)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】