説明

磁気記録媒体、その製造方法、及び磁気記録再生装置

【課題】 良好な信号対ノイズ比(SNR)特性と良好な熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体を用いて、高密度記録を行う。
【解決手段】 基板と、軟磁性層と、軟磁性層上に形成された多層下地層と、多層下地層上に形成された連続膜型磁気記録層とを含む磁気記録媒体。多層下地層は、銅からなり、(100)面配向した面心立方格子構造をもつ結晶粒子を含有する第1の下地層、第1の下地層上に形成された銅及び窒素からなる第2の下地層、及び第2の下地層上に島状に形成された第3の下地層を含む。連続膜型磁気記録層は、Fe及びCoのうち少なくとも一種の元素、及びPt及びPdのうち少なくとも一種の元素を含有し、L1構造を持ち、主として(001)配向した磁性結晶粒子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気記録技術を用いたハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体、その製造方法、及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータを中心に利用されている情報記録、再生を行う磁気記憶装置(HDD)は、その大容量、安価性、データアクセスの速さ、データ保持の信頼性などの理由により、家庭用ビデオデッキ、オーディオ機器、車載ナビゲーションシステムなど様々な分野で利用されている。HDDの利用の幅が広がるにつれ、その記憶容量の高密度化の要求も増し、近年、HDDの高密度化開発はますます激しさを増している。
【0003】
現在市販されているHDDの磁気記録方式として、いわゆる垂直磁気記録方式が近年主流となっている。垂直磁気記録方式は、情報を記録する磁気記録層を構成する磁性結晶粒子が、基板に対して垂直方向にその磁化容易軸を持つ。ここで、磁化容易軸とは、磁化の方向が向きやすい軸のことであり、磁気記録層材料として現在広く用いられているCo系合金の場合、Coのhcp構造の(0001)面の法線に平行な軸(c軸)であり、FePt等のL10構造を有する規則合金の場合、(001)面の法線に平行な軸(c軸)である。現行の垂直磁気記録媒体の記録層は、磁性結晶粒子が非磁性物質からなる粒界領域に取り囲まれた、いわゆるグラニュラ構造を有するグラニュラ膜型記録層が広く用いられている。グラニュラ膜型記録層は、磁性結晶粒子同士が非磁性粒界領域によって二次元的に、物理的に孤立化された構造となっているため、磁性粒子間に働く磁気的な交換相互作用が低減される。このような記録層においては、記録ビットサイズの下限値はグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒径に強く依存しているため、高記録密度化には、磁性結晶粒径の微細化を行う必要がある。しかしながら、磁性結晶粒間の交換相互作用がごく小さい場合、磁性結晶粒径の微細化は記録磁化の熱安定性の劣化に繋がってしまう。他方、磁性結晶粒子の粒径を微細化しつつ記録磁化の熱安定性を維持するためには、磁性結晶粒子の磁気異方性エネルギー(Ku)を上げる方法があるが、Kuの増加は磁気異方性磁界(Hk)の増加に繋がる。グラニュラ膜型記録層においては、Hkの増加は、保磁力(Hc)の増加に繋がるため、磁化反転に必要な磁界の増加を招いてしまう。すなわち、現行の垂直磁気記録媒体の記録密度の高密度化にあたって、記録ビットサイズの低減、記録磁化の熱安定性の維持、記録磁界の維持(低減)の3つの問題が同時に解決できない、いわゆる”Trilemma”の状態に陥ってしまう。
【0004】
この”Trilemma”を解決する手段として近年、パーコレーテッド媒体(percolated media)と呼ばれる新規磁気記録媒体が提案されている。パーコレーテッド媒体の記録層は、グラニュラ膜型記録層と異なり、磁性結晶粒子が非磁性粒界領域に囲まれておらず連続膜的な粒構造を有しており、磁性結晶粒子間には強い交換相互作用が働いている。パーコレーテッド媒体の記録層には、磁壁をピン止めするピニングサイトが何らかの方法で導入されており、その結果磁壁の広がりが抑制されるため、ピニングサイトの密度に応じた微細な磁区構造をとる。このピニングサイトを、現行のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒よりも高密度に形成することにより、記録ビットサイズが低減される。このような記録層では、記録ビットサイズが磁性結晶粒径に依存しないため、グラニュラ膜型記録層のように磁性結晶粒径を微細化する必要が無く、熱安定性と、記録ビットサイズの低減を両立できる。また、磁化反転機構が、グラニュラ膜型記録層と異なるため、磁性結晶粒のKuを上げても、記録磁界の増加に繋がりにくい。このように、パーコレーテッド媒体はHDD媒体の記録密度向上における”Trilemma”を打破できる画期的な磁気記録媒体である。
【0005】
しかしながら、現状では磁性連続膜に微細でかつ高密度にピニングサイトを形成する具体的手段がまだ開発されておらず、パーコレーテッド媒体は未だ実用化に至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態によれば、良好な信号対ノイズ比(SNR)特性と良好な熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体を用いて、高密度記録を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、基板と、
該基板上に形成された軟磁性層と、
該軟磁性層上に形成され、銅からなり、(100)面配向した面心立方格子構造をもつ結晶粒子を含有する第1の下地層、
該第1の下地層上に形成された銅及び窒素からなる第2の下地層、及び
該第2の下地層上に島状に形成された第3の下地層を含む多層下地層と、
該多層下地層上に形成され、Fe及びCoのうち少なくとも一種の元素、及びPt及びPdのうち少なくとも一種の元素を含有し、L10構造を持ち、主として(001)配向した磁性結晶粒子を含む連続膜型磁気記録層とを具備することを特徴とする磁気記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る磁気記録媒体の一例を表す断面図である。
【図2】使用される磁気記録層のL10構造を説明するための図
【図3】実施形態に係る磁気記録媒体の他の一例を表す断面図である。
【図4】実施形態に係る磁気記録媒体の他の一例を表す断面図である。
【図5】実施形態に係る磁気記録媒体の他の一例を表す断面図である。
【図6】実施形態に係る磁気記録媒体の他の一例を表す断面図である。
【図7】磁気記録再生装置の一例を一部分解した斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る磁気記録媒体は、
基板と、
基板上に形成された軟磁性層と、
多層下地層と、
多層下地層上に形成され、Fe及びCoのうち少なくとも一種の元素、及びPt及びPdのうち少なくとも一種の元素を含有し、L10構造を持ち、主として(001)配向した磁性結晶粒子を含む連続膜型磁気記録層と、
磁気記録層上に形成された保護層とを具備する。
【0010】
多層下地層は、軟磁性層上に形成され、銅からなり、(100)面配向した面心立方格子構造をもつ結晶粒子を含有する第1の非磁性下地層、
第1の下地層上に形成された銅及び窒素からなる第2の下地層、及び
第2の下地層上に島状に形成された第3の下地層を含む。
【0011】
実施形態にかかる磁気記録媒体の製造方法は、
基板を用意し、基板上に軟磁性層を形成し、軟磁性層上に多層下地層を形成し、
多層下地層上に、連続膜型磁気記録層を形成することを含む。
【0012】
多層下地層は、第1ないし第3の下地層を含む。
【0013】
まず、軟磁性層上に、銅からなり、(100)面配向した面心立方格子構造をもつ結晶粒子を含有する第1の下地層を形成する。次に、及び該第1の下地層表面を窒素を含むイオンまたはプラズマに曝露することによって、該第1の下地層上に銅及び窒素からなる第2の下地層を形成する。続いて、第2の下地層上に島状に第3の下地層を形成することにより、第1の下地層、該第2の下地層、及び該第3の下地層を含む多層下地層を形成する。
【0014】
連続膜型磁気記録層は、Fe及びCoのうち少なくとも一種の元素、及びPt及びPdのうち少なくとも一種の元素を含有し、L10構造を持ち、主として(001)配向した磁性結晶粒子を含む。
【0015】
実施形態にかかる磁気記録再生装置は、上述の磁気記録媒体と記録再生ヘッドとを有する。
【0016】
実施形態によれば、島状の第3の下地層を設けることにより、連続膜型磁気記録層に、微細かつ高密度にピニングサイトを形成することができる。また、これにより、良好な信号対ノイズ比(SNR)特性と良好な熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体が得られる。さらに、磁気記録を行う際の書込み磁界の低減が可能となり、高密度記録が可能となる。
【0017】
図1は、本発明に係る磁気記録媒体の第1の例を表す断面図を示す。
【0018】
図示するように、この磁気記録媒体10は、基板11上に、軟磁性層12と、第1の下地層13−1、第2の下地層13−2、及び第3の下地層13−3からなる多層下地層13と、磁気記録層14と、保護層15が順に積層された構造を有する。
【0019】
実施形態にかかる磁気記録媒体の非磁性基板として、ガラス基板、Al系の合金基板あるいは表面が酸化したSi単結晶基板,セラミックス,及びプラスチック等を使用することができる。さらに,それら非磁性基板表面にNiP合金などのメッキが施されている場合でも同様の効果が期待される。
【0020】
実施形態に係る磁気記録媒体では、基板上に高透磁率な軟磁性層を設けている。軟磁性層は、垂直磁気記録層を磁化するための磁気ヘッド例えば単磁極ヘッドからの記録磁界を、水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、磁界の記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる役目を果たし得る。
【0021】
このような軟磁性層として、例えばCoZrNb,CoB,CoTaZr,FeSiAl,FeTaC,CoTaC,NiFe,Fe,FeCoB,FeCoN,FeTaN等が挙げられる。
【0022】
軟磁性層は、二層以上の多層膜であり得る。その場合、それぞれの層の材料、組成、膜厚が異なっていても良い。また、軟磁性層は、軟磁性層二層を薄いRu層を挟んで積層させた三層構造とすることができる。
【0023】
基板と軟磁性層との機械的な密着性を向上する目的で、基板と軟磁性層との間に、非磁性密着層を設けても良い。非磁性密着層としては、例えばCr、Ti、及びその合金等を用いることができる。
【0024】
実施形態にかかる下地層は、例えば磁気記録層に微細で高密度なピニングサイトを形成する目的で設けられる。そのほか、磁気記録層の結晶配向性の向上や、磁気記録層の規則化を促進する機能、磁気記録層の結晶粒径を制御する機能も有する。
【0025】
下地層は、少なくとも三層からなる多層構造を有する。
【0026】
第1の下地層として、(100)面配向させたCuからなる非磁性材料を用いる。面心立方構造の結晶構造を有するCuを(100)面配向させた下地層を用いることにより、後述する記録層材料の結晶粒の磁化容易軸であるC軸を、基板面に対して垂直方向に配向させることができる。
【0027】
第1の下地層は、3ないし20nmの厚さを有することが好ましい。3nm未満であると、磁気記録層中の磁性結晶粒子の(001)面配向性が低下する傾向があり、20nmを超えると、磁気記録媒体表面から軟磁性層までの距離が増大するため、記録再生特性におけるSNRが低下する傾向がある。
【0028】
また、第1の下地層に含まれるCu金属粒子は、15nm以上の平均結晶粒径をもつことが好ましい。Cu下地層の平均結晶粒径が15nm以上であれば、磁気記録層の平均結晶粒を大きくすることが可能となり、後述するように、均一な磁区構造をとることができる。50nm以上であればより好ましい。さらに好ましくは結晶粒界が存在しない単結晶膜である。
第1の下地層成膜前及び/または成膜後に、基板加熱を行うと、Cu結晶粒子の(100)面配向性が向上することが可能となる。
【0029】
各層の結晶粒子の配向面は、例えば一般的なX線回折装置(XRD)を用いて、いわゆるθ―2θ法によって評価することが出来る。また、その配向分散はロッキングカーブの半値幅Δθ50によって評価することが出来る。
【0030】
各層の平均結晶粒径は、例えば、TEMを用いて各層平面を観察することで評価することが出来る。ここでは、平面TEM像から、結晶粒子200個について各結晶粒子の面積を評価し、それと同じ面積の円の半径をその結晶粒子の半径と近似し、その平均を平均結晶粒径とする。
【0031】
第2の下地層はCu及び窒素からなる材料を用い、第1の下地層上に接して形成される。Cu及び窒素からなる第2の下地層をCuからなる第1の下地層上に形成する方法としては、Cuからなる第1の下地層を成膜後、第1の下地層表面を窒素プラズマや窒素ラジカル中に曝露することにより、第1の下地層の表面領域に、Cu及び窒素を導入した改質層を形成する方法が挙げられる。同様に、Cu層表面を窒素雰囲気中で軽くスパッタリングいわゆる逆スパッタリングする方法も用いることができる。この他、第1の下地層上に、窒素ガスを用いた反応性スパッタ法にてCuを成膜することにより形成する方法も用いることができる。このほか、Cu層表面にイオンガンを用いてNイオンを照射する方法も用いることが出来る。
【0032】
このような第2の下地層を形成することにより、Cu層表面の表面エネルギーを変化する。その結果、後述する第3の下地層材料が、第2の下地層表面で連続膜的に成長せず、島状に間欠的に成長する。また、第2の下地層膜厚が適度に薄いと、第1の下地層のCu(100)面結晶構造をその上の層に反映させることができるので、前述の記録層のC軸配向性を維持することが可能となる。
【0033】
第1の下地層上にCuと窒素を導入した第2の層が存在しているかどうかは、例えばTEMを用いた媒体断面観察とEDXを併用することによって確認できる。このほか、二次電子質量分析(SIMS)、ラザフォード後方散乱(RBS)、X線光電子分光(XPS)、及びオージェ電子分光(AES)や3次元アトムプローブ法などの分析手段でも確認することが出来る。
【0034】
第2の下地層の厚さは、例えばTEMを用いて媒体断面を観察することによって確認できる。Cu下地層の表面領域に窒素を導入した改質層が形成されると、例えば第1の下地層としてのCu下地層の部分と、第2の下地層としての改質層の部分とで、組成及び結晶性が異なることから、断面TEM像において両層間にコントラスト差が生じるため、改質層の部分の厚さを評価することが出来る。
【0035】
第2の下地層は、0.1ないし3nmの厚さをもつことが好ましい。3nmより厚いと、垂直磁気記録層中の磁性結晶粒子の(001)面配向性が劣化する傾向があり、0.1nmより薄いと、第3の下地層が島状成長にせず連続膜的に成長する傾向がある。第2の下地層膜厚が1nmないし2nmの範囲であると更に好ましいことが実験で明らかとなった。
【0036】
第3の下地層は、例えばAg,Au,Ir,Co,及びFeから選択することができる。第3の下地層は第2の下地層上で島状に孤立して形成される。これらの材料は、一般的にCu等の金属表面では島状に成長せず、連続膜的に成長する傾向がある。しかしながら、発明者らが鋭意検討した結果、Cuと窒素からなる第2の下地層表面においては、これらの材料は連続膜的に成長せず、島状に孤立した構造を形成することが明らかとなった。ここでいう島状構造とは、粒径数nm程度の個々の結晶粒が、互いに凝集せずに空隙を保って孤立して成長した構造をさす。したがって、第3の下地層形成直後の膜表面には、第3の下地層結晶粒と第2の下地層表面からなる、凹凸構造が形成される。これに対してグラニュラ構造は、島状構造とは異なり、個々の結晶粒間は析出物からなる粒界領域で埋められている。したがって、一般にグラニュラ膜表面には上述のような凹凸構造が形成されない。
【0037】
第3の下地層が島状に孤立した構造を形成しているかどうかは、例えばTEMを用いて媒体断面を観察することにより確認できる。
【0038】
このように第3の下地層は、第2の下地層上に粒径数nmの結晶粒が島状に孤立して間欠的に形成されているため、第2の下地層表面に数nmの高さの凹凸構造が形成されたことになる。このような表面凹凸構造を持つ下地層上にさらに別の層、例えば磁気記録層を積層すると、磁気記録層は上述の表面凹凸構造に沿って成長するため、磁気記録層表面にも、第3の下地層の島状構造を反映した凹凸構造が形成される。すなわち、第3の下地層による凹凸構造が磁気記録層に伝達され、磁気記録層内に微細な凹凸構造が高密度で形成されることになり、この微細な凹凸構造がピニングサイトとして機能する。なお、磁性層の下に形成された凹凸構造が、磁性層のピニングサイトとして機能することが報告されているが、その凹凸構造は、周期が数十nm以上と非常に大きいため、大きな磁区が形成されてしまう。これに対し、本発明の下地層によって形成された凹凸構造は、数nm周期と非常に微細かつ高密度であるため、磁気記録層に非常に微細な磁区構造を形成することが可能となる。
【0039】
第3の下地層の平均粒径は、磁気記録層の平均粒径よりも小さいことが好ましい。磁気記録層の平均粒径よりも大きいと、ピニングサイトとしての機能が低下する傾向にある。具体的には、1nmないし5nmであることが好ましく、3nmないし4nmであるとさらに好ましい。1nm未満であると、島状構造による凹凸が小さくなるためピニングサイトとしての機能が低下する傾向があり、5nmを超えると、結晶粒同士が凝集して連続膜構造になり、島状構造による凹凸が小さくなるためピニングサイトとしての機能が低下する傾向がある。
【0040】
また、第3の下地層の結晶粒間の空隙が十分広い場合は、磁気記録層は第3の下地層と第2の下地層の両方に接することがある。
【0041】
第3の下地層成膜成膜前and/or成膜後に基板加熱を行うと、島状成長が促進され好ましい場合がある。
【0042】
実施形態にかかる磁気記録媒体の磁気記録層として、L10構造を持ち主として(001)配向した磁性結晶粒子からなり、かつ磁性金属元素及び貴金属元素を主成分とするものが用いられる。磁性金属は、Fe,Coから選択される少なくとも1種であり、貴金属元素は、Pt,Pdからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0043】
図2に、実施形態にかかる磁気記録層のL10構造を説明するための図を示す。
【0044】
図示するように、L10構造とは、面心正方格子の格子点に異種原子例えばFe22,Pt21が、ある結晶軸例えばこの場合C軸に対して垂直な面に、交互に規則的に配置された結晶構造である。これに対して、規則構造をとらない不規則相では、結晶構造は面心立方格子をとり、各原子は格子点を無秩序に占める。
【0045】
磁気記録層を構成する結晶粒子がL10構造をもっているかどうかは、一般的なX線回折装置で確認することができる。(001)、(003)といった、不規則面心立方格子(FCC)では観測されない面を表わすピーク(規則格子反射)がそれぞれの面間隔に一致する回折角度で観察できればL10構造が存在しているといえる。
【0046】
この磁気記録媒体は、下地層表面に形成した微細な凹凸構造によって磁気記録層に高密度のピニングサイトを形成し、磁区構造を微細化するものであるが、磁気記録層の磁壁幅がピニングサイト径と同程度に狭くないと、磁壁をピン止めすることが困難となる。磁壁幅を十分狭くするためには、磁気記録層のKuを上げる必要がある。上に述べた合金は、7x10erg/ccという大きなKuを発現しうることが知られているため、微細な凹凸構造をピニングサイトとして機能させることが可能となり、磁区構造を微細化できるため好ましい。
【0047】
磁気記録層中の、上記磁性金属元素と貴金属元素の好ましい組成比は、Fe−Pt二元合金の場合はPt組成が35ないし65at%の範囲、Fe−Pd二元合金の場合はPd組成が40ないし63at%の範囲、Co−Pt二元合金の場合はPt組成が40ないし70%の範囲である。各合金の組成比がこの範囲にあれば、L10構造が形成され、大きなKuを発現できるため好ましい。
【0048】
実施形態にかかる連続膜型磁気記録層では、従来のグラニュラ型磁気記録層とは異なり、磁化反転単位は個々の磁性結晶粒ではなく、上述のピニングサイトで囲まれた領域で規定している。このため、ピニングサイトで囲まれた領域内では、磁気特性が均一であることが望ましい。すなわち、ピニングサイトで囲まれた領域内には可能な限り粒界を含まないことが望ましい。従って、磁気記録層の粒構造は、従来の磁気記録媒体のように個々の磁性結晶粒間を磁気的に孤立させたグラニュラ構造は好ましくなく、磁性結晶粒同士に強い交換相互作用が働く連続膜構造をとることが好ましい。ここでいう連続膜構造とは、グラニュラ構造のような明確な粒界領域がなく、ほとんどの結晶粒が隣接の粒と直接接していて、幅が極薄い粒界のみが存在する構造をいう。すなわち、磁気記録層の膜面内における磁性結晶粒の占める面積比が大きい構造が好ましい。
【0049】
具体的には、磁気記録層膜面内における粒充填率が95%以上であることが好ましい。
【0050】
ここで、粒充填率とは、膜面内における結晶粒の面積の和と(結晶粒の面積の和)+(結晶粒界の面積の和)との比と定義する。
【0051】
同様の理由で、磁気記録層の平均結晶粒は大きい方が好ましい。
【0052】
具体的には、磁気記録層の磁性結晶粒は、15nm以上の平均粒径をもつことが好ましい。磁気記録層の平均結晶粒径が15nm以上であれば、磁気的交換相互作用が低下する粒界上に形成され、磁壁のピン止め効果が低下するピニングサイト数を相対的に減らすことが可能となり、より均一な磁区構造をとり得るため好ましく、50nm以上であればより好ましい。さらに好ましくは結晶粒界が存在しない単結晶膜である。
【0053】
このように、実施形態にかかる磁気記録媒体の磁気記録層に求められる粒構造は、従来の磁気記録媒体の磁気記録層では、磁性結晶粒径の微細化および結晶粒間の磁気的孤立化が求められていたのに対し、明らかに異なっている。
【0054】
磁気記録層の厚さは磁気記録再生システムの要求値によって決定されるが、1ないし20nmであることが好ましい。より好ましくは、3ないし10nmである。1nmより薄いと連続膜になりにくい傾向があり、20nmより厚いと、磁気記録媒体表面から軟磁性層までの距離が増大するため、記録再生特性におけるSNRが低下する傾向がある。
【0055】
図3に、本発明に係る磁気記録媒体の別の例を表す断面図を示す。
【0056】
図示するように、この磁気記録媒体30は、基板31上に、軟磁性層32と、第1の下地層33−1、第2の下地層33−2、第3の下地層33−3、第4の下地層33−4からなる多層下地層33と、磁気記録層34と、保護層35が順に積層された構造を有する。
【0057】
多層下地層33と磁気記録層34との間に、第4の非磁性下地層33−4をさらに挿入することにより、磁気記録層34の結晶粒の規則度を向上させることが出来る。ここでいう規則度とは、図2に示したような理想的な規則的原子配置に対して、実際の結晶粒の原子配置がどれだけ近いかを示す指標であり、1に近づくほど理想的原子配置に近く、0に近づくほど完全な不規則配置に近い。L10構造の規則合金のKuは、規則度と正の相関があるため、実施形態にかかる磁気記録媒体34においては規則度が高い方が好ましい。規則度は、一般的なX線回折法によって評価することができる。
【0058】
第4の下地層材料としてPtまたはPdを用いると、規則度を向上させ好ましいことが、発明者らの検討によって明らかとなった。
【0059】
第4の下地層の膜厚は、1nmないし15nmであると好ましい。1nm未満では、規則度向上効果が顕著に現れず、15nmを超えると、第3の下地層の凹凸を磁気記録層に伝達することが困難となる。3nmないし10nmの範囲にあると更に好ましいことが、実験によって明らかとなった。
【0060】
あるいは、第4の下地層材料として(100)面配向したMgO、NiOまたはTiNを等の非磁性材料を用いると、第一の下地層材料であるCuの、加熱による磁気記録層への拡散を防止することができ、磁気記録層のKuを向上させる傾向があることが、発明者らの検討によって明らかとなった。
【0061】
第4の下地層材料としてMgO,NiO,TiNを用いる場合、これらの下地層の膜厚は、例えば1nmないし10nmにすることができる。1nm未満では、Kuの向上効果が顕著に現れず、10nmを超えると、磁気記録層のc軸配向分散が劣化する傾向がある。さらには、2nmないし5nmの範囲にあると好ましいことが、実験によって明らかとなった。
【0062】
図4に、実施形態に係る磁気記録媒体の別の例を表す断面図を示す。
【0063】
図示するように、この磁気記録媒体40は、基板41上に、軟磁性層42と、非磁性配向制御層43と、第1の下地層44−1、第2の下地層44−2、第3の下地層44−3、第4の下地層44−4からなる多層下地層44と、磁気記録層45と、保護層46が順に積層された構造を有する。
【0064】
図示するように、第1の下地層44−1であるCuの(100)配向性を向上させる目的で、軟磁性層42と第1の下地層44−1との間に、非磁性の配向制御層43を設けることができる。
【0065】
具体的には、NiAl合金、MgO、Crが挙げられる。
【0066】
これらの材料は、(100)面に優先配向させることが比較的容易なため、第1の下地層44−1の下層に設けることによってCuの(100)配向性を向上させることができる。
【0067】
非磁性配向制御層43の膜厚は、1nmないし50nmにすることができる。1nm未満では、第1の下地層44−1の(100)面配向性向上効果が顕著に現れない傾向があり、50nmを超えると、磁気記録媒体45表面から軟磁性層42までの距離が増大するため、記録再生特性におけるSNRが低下する傾向がある。
【0068】
図5に、実施形態に係る磁気記録媒体の別の例を表す断面図を示す。
【0069】
図示するように、この磁気記録媒体50は、基板51上に、軟磁性層52と、非晶質シード層53と、非磁性配向制御層54と、第1の下地層55−1、第2の下地層55−2、第3の下地層55−3、第4の下地層55−4からなる多層下地層55と、磁気記録層56と、保護層57が順に積層された構造を有する。
【0070】
図示するように、非磁性配向制御層54であるCrの(100)配向性を向上させる目的で、軟磁性層52と非磁性配向制御層54の間に、Niを含有する非晶質合金からなる非磁性シード層53をさらに設けることができる。
【0071】
Niを含有する非晶質合金としては、例えばNi−Nb、Ni−Ta、Ni−Zr、Ni−Mo及びNi−V合金等の合金系が好ましく用いられる。
【0072】
これらの合金中のNi含有量は、20ないし70at%であることが好ましい。20at%未満、あるいは70at%を超えると非晶質になり難い傾向がある。より好ましくは30ないし50at%であり、この範囲であると、規則合金結晶粒子のC軸配向性がさらに向上する傾向がある。
【0073】
また、非晶質合金を含む非磁性シード層53表面を酸素に曝露させることにより、非磁性シード層53表面に酸素を導入することができる。これにより、非磁性配向制御層54であるCrの(100)配向性がさらに向上するため、好ましい。
【0074】
非晶質合金を含む非磁性シード層53表面を酸素に曝露させる方法としては、この非磁性シード層53を成膜後、成膜室に微量の酸素ガスを導入し、得られた非磁性シード層53表面を酸素雰囲気に短時間曝露する方法を用いることができる。この他、オゾン雰囲気に曝露する方法や、酸素ラジカルや酸素イオンを下地層表面に照射する方法等を用いることができる。
【0075】
非晶質シード層の膜厚は、1nmないし10nmが好ましい。1nm未満では、非磁性配向制御層の(100)面配向性向上効果が顕著に現れない傾向があり、10nmを超えると、磁気記録媒体56表面から軟磁性層52までの距離が増大するため、記録再生特性におけるSNRが低下する傾向がある。
【0076】
図6に、本発明に係る磁気記録媒体の別の例を表す断面図を示す。
【0077】
図示するように、この磁気記録媒体60は、基板61上に、軟磁性層62と、非晶質シード層63と、非磁性配向制御層64と、第1の下地層65−1、第2の下地層65−2、第3の下地層65−3、第5の下地層65−5、第4の下地層65−4からなる多層下地層65と、磁気記録層66と、保護層67が順に積層された構造を有する。
【0078】
前記第3の下地層65−3と第4の下地層65−4との間に、第5の非磁性下地層65−5をさらに挿入することにより、磁気記録層結晶粒のC軸配向性をさらに向上させることが出来る。
【0079】
第5の下地層65−5の材料としてPtまたはPdのうち1種と、Cr,Cu,Agのうち1種との合金材料を用いると、好ましいことが、発明者らの検討によって明らかとなった。
【0080】
上記合金中のPtまたはPd組成が、30ないし60原子パーセントの範囲であれば、磁気記録記録層結晶粒のc軸配向性が顕著に向上して好ましいことが、実験により明らかとなった。
【0081】
磁気記録層66上には、保護層67を設けることができる。
【0082】
保護層67としては、例えばC,ダイアモンドライクカーボン(DLC),SiNx,SiOx,及びCNx等があげられる。
【0083】
実施形態において、各層の形成方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長法、及びレーザーアブレーション法を用いることができる。スパッタリング法として、コンポジットターゲットを用いた単元のスパッタリング法及び各元素のターゲットを複数用いた、多元同時スパッタリング法等を好適に用いることができる。シード層、下地層、磁気記録層の成膜前、及び成膜中に、基板温度を200〜500℃に加熱することにより、磁気記録層の規則化が進行しやすくなる場合がある。
【0084】
図7に、実施形態にかかる磁気記録再生装置の一例を一部分解した斜視図を示す。
【0085】
本発明に係る情報を記録するための剛構成の磁気ディスク72はスピンドル73に装着されており、図示しないスピンドルモータによって一定回転数で回転駆動される。磁気ディスク72にアクセスして情報の記録を行う記録ヘッド及び情報の再生を行うためのMRヘッドを搭載したスライダー74は、薄板状の板ばねからなるサスペンションの先端に取付けられている。サスペンションは図示しない駆動コイルを保持するボビン部等を有するアーム75の一端側に接続されている。
【0086】
アーム75の他端側には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ77が設けられている。ボイスコイルモータ77は、アーム75のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、それを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークにより構成される磁気回路とから構成されている。
【0087】
アーム75は、固定軸76の上下2カ所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ77によって回転揺動駆動される。すなわち、磁気ディスク72上におけるスライダー74の位置は、ボイスコイルモータ77によって制御される。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を示し、実施形態をより具体的に説明する。
【0089】
実施例1
2.5インチハードディスク形状の非磁性ガラス基板(オハラ社製TS−10SX)を用意した。
【0090】
ANELVA社製c−3010型スパッタリング装置の真空チャンバー内に導入した。
【0091】
スパッタリング装置の真空チャンバー内を1×10−5Pa以下に排気した後、軟磁性層として、Co−5原子%Zr−5原子%Nb合金を50nm成膜し、さらに非晶質シード層としてNi−40原子%Ta合金を5nm成膜した。
【0092】
次に、赤外線ランプヒーターを用いて基板表面を300℃に加熱した後、真空チャンバー内に、チャンバー内圧力が5×10−2Pa となるようにAr−原子1%Oガスを導入し、このAr/O雰囲気中にNi−40原子%Taシード層表面を5秒間曝露した。その後、非磁性配向制御層としてCrを5nm、第1の非磁性下地層としてCuを10nm順次成膜した。
【0093】
Cu層成膜後、Cu表面への逆スパッタを行い、Cu層の表面領域に窒素を導入し、第2の下地層を形成した。Cu表面への逆スパッタは、3Paの窒素雰囲気中で70WのRF電力を5秒間、Cu表面に印加して行った。
【0094】
第2の下地層形成後、第3の下地層としてAgを成膜した。Agは、連続膜に換算して0.05nm/sの成膜速度で、10秒間の成膜を行った。
【0095】
その後、磁気記録層としてFe−50原子%Pt合金を5nm、保護層としてCを5nm、順次成膜した。
【0096】
成膜後、保護層表面にディップ法によりパーフルオロポリエーテル(PFPE)潤滑剤を13Åの厚さに塗布して潤滑層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0097】
なお、Co−5原子%Zr−5原子%Nb,Ni−40原子%Ta、Cr、Cu,Ag, Fe−50原子%Pt,Cの成膜時のAr圧力は、全て0.7Paで、ターゲットとしてそれぞれCo−5原子%Zr−5原子%Nb,Ni−40原子%Ta、Cr、Cu,Ag, Fe−50原子%Pt,Cターゲットを用い、DCスパッタリング法で成膜した。各ターゲットへの投入電力は、Ag以外は全て1000Wで行った。
【0098】
比較例1
比較例として、第2の下地層及び第3の下地層を設けない磁気記録媒体を以下のように作製した。
【0099】
第1の下地層成膜後の逆スパッタ及び第3の下地層成膜を行わないこと以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0100】
比較例2
比較例として、第3の下地層を設けない磁気記録媒体を以下のように作製した。
【0101】
第2の下地層成膜後の第3の下地層成膜を行わないこと以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0102】
比較例3
比較例として、第2の下地層を設けない磁気記録媒体を以下のように作製した。
【0103】
第1の下地層成膜後の逆スパッタを行わないこと以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0104】
得られた磁気記録媒体の微細構造,及び各層の平均結晶粒子径は、加速電圧400kVで透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、平面及び断面について観察、測定した。磁気記録媒体の磁気特性は、Kerr効果評価装置にて、波長300 nmのレーザ光源を用い、最大印加磁界20kOe、磁界掃引速度133 Oe/sの条件にて評価した。
【0105】
各磁気記録媒体のCu及び窒素原子の深さ方向の分布は、Cs+イオンを用いた二次イオン質量分析計(SIMS)にて測定した。
【0106】
各層の結晶配向面の同定と磁気記録層の規則度、及び磁気記録層の結晶粒子の配向分散Δθ50は、Philips社製 X線回折装置 X‘pert−MRDを用い、それぞれθ―2θ法及びロッキングカーブ測定にて測定した。
【0107】
磁気記録媒体について、スピンスタンドを用いてR/W特性を調べた。磁気ヘッドとして、記録トラック幅0.3μmの単磁極ヘッドと、再生トラック幅0.2μmのMRヘッドを組み合わせたものを用いた。
【0108】
測定条件は、半径位置20mmと一定の位置で、ディスクを4200rpmで回転させて行った。
【0109】
媒体SNRとして、微分回路を通した後の微分波形の信号対ノイズ比(SNRm)(但し、Sは線記録密度119kfciの出力、Nmは716kfciでのrms(root mean square)値)の値を測定した。
【0110】
媒体OW特性は、119kfci信号を記録した後、250kfci信号を上書きした前後の、119kfci信号の再生出力比(減衰率)で評価した。
【0111】
媒体熱揺らぎ耐性は、温度70℃の環境下における、100kfci信号を一度記録した直後の100kfci信号の再生出力と、1000秒放置後の再生出力との比V1000/V0で評価した。
【0112】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0113】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0114】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0115】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0116】
SIMSの結果
実施例1と比較例2の磁気記録媒体では、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。これに対し、比較例1ないし3では、そのような層は確認できなかった。
【0117】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0118】
断面TEM観察の結果、
実施例1と比較例2の媒体のCu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。これに対し、比較例1ないし3では、そのような層の形成は見られなかった。
【0119】
また、実施例1の磁気記録媒体では、上記コントラストの異なる層と磁気記録層の間に、平均粒径4nmのAgが、平均ピッチ5nm程度で島状に間欠的に形成されていることが分かった。一方、比較例3の磁気記録媒体では、AgがCu下地層上に、厚さ0.5nmで連続膜的に形成されていることが分かった。
【0120】
また、実施例1の磁気記録媒体では、磁気記録層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0121】
表1に、各磁気記録媒体の磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表1】

【0122】
実施例1の磁気記録媒体は、比較例1ないし3のいずれの媒体と比較しても、SNRが顕著に優れていることが分かった。
【0123】
また、実施例1の磁気記録媒体の保磁力が、他の媒体の保磁力に比べて著しく高いことが分かった。これは、島状に形成された第3の下地層によって、磁気記録層にピニングサイトが形成されているためであると考えられる。これに対して、比較例1ないし3の磁気記録媒体はいずれも保磁力が小さく、磁壁のピニングがほとんど起こらない磁壁移動型の磁化反転機構であることが分かった。
【0124】
以上の結果から、連島状成長させた下地層を用いることによって続膜構造の磁気記録層内にピニングサイトが形成された結果、良好なSNR、OW特性及び熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体を得られることが分かった。
【0125】
実施例2
記録層結晶粒の粒充填率を変化させた磁気記録媒体を以下のように作製した。
【0126】
磁気記録層の組成を、(Fe−45原子%Pt)−x体積%SiOに変えた以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0127】
磁気記録層の成膜は、(Fe−45原子%Pt)−x体積% SiOの、SiO組成を変化させたターゲットを種々作製し、(Fe−45原子%Pt)−x体積% SiOターゲットを用いてDCスパッタ法にて成膜した。
【0128】
SiO添加量x(体積%)は、1ないし30体積%の範囲で変化させた。なお、x=0体積%は実施例1と同条件である。
【0129】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0130】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0131】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0132】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0133】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0134】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。また、いずれの磁気記録媒体でも、上記コントラストの異なる層と磁気記録層の間に、平均粒径4nmのAgが、平均ピッチ5nm程度で島状に間欠的に形成されていることが分かった。
【0135】
いずれの磁気記録媒体でも、磁気記録層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0136】
平面TEM観察の結果、粒充填率が70以上ないし90%未満では、磁気記録層は、結晶粒が粒界領域に囲まれた、グラニュラ構造をとっていることが分かった。一方、粒充填率90%以上では、磁気記録層は明確なグラニュラ構造をとっておらず、95体積%以上では連続膜構造をとっていることが分かった。
【0137】
表2に、平面TEM観察より得られた磁気記録層中の粒充填率と、SiO組成x、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表2】

【0138】
表2から、磁気記録層の粒充填率が95%以上であればSNR、OW、熱揺らぎ耐性がいずれも顕著に良好であることが分かった。また、磁気記録層がグラニュラ構造をとると、SNR及び熱揺らぎが劣化するのに対し、磁気記録層が連続膜構造をとるとこれらが顕著に向上することが分かった。
【0139】
実施例3
基板加熱温度を変化させた磁気記録媒体を、以下のように作製した。
【0140】
非晶質シード層成膜後の基板加熱温度を、230ないし450℃の範囲で変化させた以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0141】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0142】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0143】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0144】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0145】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0146】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0147】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体もCu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。
【0148】
また、いずれの磁気記録媒体でも、上記コントラストの異なる層と磁気記録層との間に、平均粒径4nm程度のAgが、平均ピッチ5nm程度で島状に間欠的に形成されていることが分かった。
【0149】
いずれの磁気記録媒体も磁気記録層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0150】
表3に、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、第1の下地層の平均粒径dCu、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表3】

【0151】
表3から、磁気記録層の磁性結晶粒の平均粒径が、15nm以上であれば良好なSNR、OW特性及び熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体を得られることが分かった。また、平均粒径が50nm以上であればSNRがさらに向上して好ましいことが分かった。
【0152】
また、第1の下地層の平均粒径が、15nm以上であれば良好なSNR、OW特性及び熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体を得られることが分かった。また、平均粒径が50nm以上であればSNRがさらに向上して好ましいことが分かった。
【0153】
実施例4
第1の下地層表面への逆スパッタ時間を変化させた磁気記録媒体を、以下のように作製した。
【0154】
第1の下地層表面への逆スパッタ実施時間を、0秒から60秒の範囲で変化させた以外は、実施例1の磁気記録媒体と同様の要領で作製した。なお、逆スパッタ時間0秒の磁気記録媒体は、比較例3と同一条件である。
【0155】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0156】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0157】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0158】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0159】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0160】
SIMSの結果
逆スパッタ時間が1秒以上の磁気記録媒体では、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。これに対し、逆スパッタ時間が0秒の磁気記録媒体では、そのような層は確認できなかった。
【0161】
断面TEM観察の結果、
逆スパッタ時間が1秒以上の磁気記録媒体のCu下地層上にコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。これに対し、逆スパッタ時間が0秒の磁気記録媒体では、そのような層の形成は見られなかった。
【0162】
また、逆スパッタ時間が1秒以上の磁気記録媒体では、上記コントラストの異なる層と磁気記録層の間に、Agが島状に間欠的に形成されていることが分かった。一方、逆スパッタ時間が0秒の磁気記録媒体では、AgがCu下地層上に、厚さ0.5nmで連続膜的に形成されていることが分かった。また、逆スパッタ時間が1秒以上の磁気記録媒体では、磁気記録層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0163】
表4に、平面TEM観察より得られた第2の下地層膜厚と、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表4】

【0164】
表4から、第2の下地層膜厚が0.1ないし3nmの範囲でSNR及び熱揺らぎ耐性がいずれも顕著に良好であり、1ないし2nmの範囲であるとさらに良好であることが分かった。また、第2の下地層が存在すると、第3の下地層が島状に間欠的に形成されるのに対し、第2の下地層が存在しないと、第3の下地層は連続膜的に形成されることが分かった。
【0165】
実施例5
第3の下地層の堆積量を変化させた磁気記録媒体を、以下のように作製した。
【0166】
第3の下地層の成膜時間を、1秒ないし25秒の範囲で変化させた以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0167】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0168】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0169】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0170】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0171】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0172】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0173】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。また、第3の下地層の成膜時間が1ないし6nmの磁気記録媒体では、上記コントラストの異なる層と磁気記録層の間に、Agが島状に間欠的に形成されていることが分かった。一方、成膜時間が30秒の磁気記録媒体では、一部のAg結晶粒同士が凝縮し、島状構造が崩れかけ、連続膜構造に近づいていることが分かった。
【0174】
また、第3の下地層の成膜時間が1ないし6nmの磁気記録媒体では、磁気記録層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0175】
表5に、平面TEM観察より得られた第3の下地層粒径と、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表5】

【0176】
表5から、第3の下地層粒径が1ないし5nmの範囲でSNR及び熱揺らぎ耐性がいずれも顕著に良好であり、3ないし4nmの範囲であるとさらに良好であることが分かった。また、
第3の下地層の島状構造が崩れて連続膜構造に近づくと、Hc及びSNRが劣化することが分かった。これは、第3の下地層の島状構造による磁壁ピン止め効果が低下したためであると考えられる。
【0177】
実施例6
第3の下地層の材料を変化させた磁気記録媒体を以下のように作製した。
【0178】
第3の下地層材料を、Au, Ir, Fe, Coのいずれかに変更したこと以外は、実施例1と同様の要領で磁気記録媒体を作製した。
【0179】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0180】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0181】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0182】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0183】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0184】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0185】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体もCu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。また、いずれの磁気記録媒体でも、上記コントラストの異なる層と磁気記録層の間に、第3の下地層が島状に間欠的に形成されていることが分かった。
【0186】
いずれの磁気記録媒体も磁気記録層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0187】
表6に、平面TEM観察より得られた第3の下地層粒径と、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表6】

【0188】
表6から、第3の下地層材料としてAg, Au, Ir, Fe, Coを用いると、いずれも第2の下地層上で島状に間欠的に成長し、良好なSNR、OW特性及び熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体を得られることが分かった。
【0189】
実施例7
第3の下地層と磁気記録層の間に、第4の下地層を設けた磁気記録媒体を、以下のように作製した。
【0190】
第3の下地層成膜後、PtまたはPdを、膜厚1nmないし20nmの範囲で成膜したこと以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0191】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0192】
また、いずれの磁気記録媒体の、第4の下地層が(100)面配向していることが分かった。
【0193】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0194】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0195】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0196】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0197】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0198】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体もCu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。
【0199】
また、いずれの磁気記録媒体でも、上記コントラストの異なる層と第4の下地層との間に、平均粒径4nm程度のAgが、平均ピッチ5nm程度で島状に間欠的に形成されていることが分かった。
【0200】
いずれの磁気記録媒体も第4の下地層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0201】
表7に、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表7】

【0202】
表7から、PtやPdといった材料を第4の下地層として用いると、磁気記録層結晶粒の規則度が向上し、SNR、熱揺らぎ耐性ともに向上することが分かった。また、第4の下地層膜厚が1ないし15nmの範囲であればSNRの向上が著しく好ましいことが分かった。さらに、3ないし10nmの範囲であれば、より好ましいことが分かった。
【0203】
実施例8
非磁性配向制御層を変化させた磁気記録媒体を、以下のように作製した。
【0204】
実施例1と同様の要領で軟磁性層を成膜後、赤外線ランプヒーターを用いて基板表面を300℃に加熱した。非磁性配向制御層として、Ni−50原子%AlまたはMgOを10nm成膜した。その後、実施例1と同様の要領で、第1の下地層、第2の下地層、第3の下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層を順次形成し、各々磁気記録媒体を得た。
【0205】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0206】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0207】
NiAlシード層は、CsCl型結晶構造を有しており、(100)配向していることが分かった。
【0208】
MgOシード層は、NaCl型結晶構造を有しており、(100)配向していることが分かった。
【0209】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0210】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0211】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体もCu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。
【0212】
また、いずれの磁気記録媒体でも、上記コントラストの異なる層と磁気記録層との間に、平均粒径4nm程度のAgが、平均ピッチ5nm程度で島状に間欠的に形成されていることが分かった。
【0213】
いずれの磁気記録媒体も磁気記録層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0214】
表8に、平面TEM観察より得られた第3の下地層粒径と、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表8】

【0215】
表8から、非磁性配向性制御層として、NiAlまたはMgOを用いた場合でも、良好なSNR、OW特性及び熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体を得られることが分かった。
【0216】
実施例9
非晶質シード層を変化させた磁気記録媒体を、以下のように作製した。
【0217】
非晶質シード層を、Ni−40原子%Nb, Ni−40原子%Zr, Ni−40原子%Mo, またはNi−40原子%Vに変えた以外は、実施例1と同様の要領で作製した。非晶質シード層の成膜には、各々の合金の組成を変えたターゲットを用意し、DCスパッタリング法にて、投入電力1000W、Ar圧力0.7Paの条件下で実施した。
【0218】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0219】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0220】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0221】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0222】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0223】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0224】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体もCu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。
【0225】
また、いずれの磁気記録媒体でも、上記コントラストの異なる層と磁気記録層との間に、平均粒径4nm程度のAgが、平均ピッチ5nm程度で島状に間欠的に形成されていることが分かった。
【0226】
いずれの磁気記録媒体も磁気記録層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0227】
表9に、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表9】

【0228】
表9から、非晶質シード層として、Ni−40原子%Nb, Ni−40原子%Zr, Ni−40原子%Mo, またはNi−40原子%Vを用いた場合でも、良好なSNR、OW特性及び熱揺らぎ耐性を有する磁気記録媒体を得られることが分かった。
【0229】
実施例10
第3の下地層と第4の下地層の間に、第5の下地層を設けた磁気記録媒体を以下のように作製した。
【0230】
実施例1と同様の要領で第3の下地層までを形成した後、第5の下地層として、Pt−Cu,Pt−Ag,Pt−Cr,Pd−Cu,Pd−Cr,Pd−Ag合金を5nm成膜した。その後、実施例7と同様の要領で、第4の下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層を順次形成し、各々磁気記録媒体を得た。第4の下地層は、Ptとし、膜厚は5nmとした。第5の下地層の成膜には、各々の合金の組成を変えたターゲットを用意し、DCスパッタリング法にて、投入電力1000W、Ar圧力0.7Paの条件下で実施した。
【0231】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0232】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0233】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性層は非晶質であることが分かった。
【0234】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0235】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0236】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0237】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体もCu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。
【0238】
また、いずれの磁気記録媒体でも、上記コントラストの異なる層と磁気記録層との間に、平均粒径4nm程度のAgが、平均ピッチ5nm程度で島状に間欠的に形成されていることが分かった。
【0239】
いずれの磁気記録媒体も第5の下地層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0240】
表10に、第5の下地層が、Pt−Cu合金である場合の磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。なお、第5の下地層材料がPtである媒体は、実施例7と同様の媒体である。
【表10】

【0241】
表10から、第3の下地層と第4の下地層の間に、第5の下地層として、Pt−Cu合金を用いると、c軸配向分散Δθ50値及びSNRが向上し、好ましいことが分かった。また、合金中のPtまたはPd組成が30ないし60原子パーセントの範囲でΔθ50値及びSNR向上効果が顕著であることが分かった。なお、Pt−Ag,Pt−Cr,Pd−Cu,Pd−Cr,Pd−Ag合金の場合も、同様の効果が見られた。
【0242】
実施例11
第3の下地層と磁気記録層の間に、第4の下地層を設けた磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0243】
第3の下地層成膜後、MgO、NiO、またはTiNを、膜厚1nm乃至15nmの範囲で成膜したこと以外は、実施例1と同様の要領で作製した。なお、MgO、NiO、またはTiNの成膜時のAr圧力は、全て2.0Paで、ターゲットとしてそれぞれMgO,NiO、TiNターゲットを用い、RFスパッタリング法で成膜した。各ターゲットへの投入電力は、全て800Wで行った。
【0244】
X線回折装置(XRD)による結果の評価
いずれの磁気記録媒体も、第1の下地層の結晶粒は(100)面配向していることが分かった。
【0245】
また、いずれの磁気記録媒体の、第4の下地層が(100)面配向していることが分かった。
【0246】
いずれの磁気記録媒体も、磁気記録層の結晶粒はL10構造を有しており、(001)配向していることが分かった。
【0247】
いずれの磁気記録媒体も、軟磁性下地層は非晶質であることが分かった。
【0248】
いずれの磁気記録媒体も、非晶質シード層は非晶質であることが確認された。
【0249】
SIMSの結果
いずれの磁気記録媒体でも、Cu下地層とその上の層との間に、CuとNを主成分とする層が存在することが分かった。
【0250】
また、第4の下地層膜厚が1nm未満の媒体では、磁気記録層へのCuの拡散が認められた。一方、第4の下地層膜厚が1nm以上の媒体では、磁気記録層へのCuの拡散が認められなかった。
【0251】
平面TEM観察の結果
いずれの磁気記録媒体の磁気記録層も、グラニュラ構造をとっておらず、連続膜構造であることが分かった。
【0252】
断面TEM観察の結果、
いずれの磁気記録媒体もCu下地層上に厚さ1nmのコントラストの異なる層が形成されていることが分かった。
【0253】
また、いずれの磁気記録媒体でも、上記コントラストの異なる層と第4の下地層との間に、平均粒径4nm程度のAgが、平均ピッチ5nm程度で島状に間欠的に形成されていることが分かった。
【0254】
いずれの磁気記録媒体も第4の下地層は、第3の下地層と第2の下地層の両方に接していることが分かった。
【0255】
表11に、磁気記録層のc軸配向分散Δθ50値、規則度S、磁気記録層の平均粒径dMag、保磁力Hc、媒体SNR、媒体OW、媒体熱揺らぎ耐性V1000/V0の評価結果を示す。
【表11】

【0256】
表11から、MgO,NiO,TiNといった材料を第4の下地層として用いると、磁気記録層結晶粒のHcが向上することが分かった。これは、Cuの拡散を抑制した結果、磁気記録祖結晶粒のKuが向上したことためであると考えられる。また、SNR、熱揺らぎ耐性ともに向上することが分かった。また、第4の下地層膜厚が1ないし10nmの範囲であればSNRの向上が著しいことが分かった。さらに、2ないし5nmの範囲であれば、より良好であることが分かった。
【0257】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0258】
11,31,41,51,61…基板、12,32,42,52,62…軟磁性層、13−1,33−3,44−1,55−1,65−1…第1の下地層、13−2,33−3,44−2,55−2,65−2…第2の下地層、13−3,33−3,44−3,55−3,65−3…第3の下地層、13,33−3,44,55,65…多層下地層、14,34,45,56,66…連続膜型磁気記録層、15,35,46,57,67…保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に形成された軟磁性層と、
該軟磁性層上に形成され、銅からなり、(100)面配向した面心立方格子構造をもつ結晶粒子を含有する第1の下地層、
該第1の下地層上に形成された銅及び窒素からなる第2の下地層、及び
該第2の下地層上に島状に形成された第3の下地層を含む多層下地層と、
該多層下地層上に形成され、鉄及びコバルトのうち少なくとも一種の元素、及び白金及びパラジウムのうち少なくとも一種の元素を含有し、L10構造を持ち、主として(001)配向した磁性結晶粒子を含む連続膜型磁気記録層とを具備することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁気記録層の膜面における結晶粒充填率が95ないし100%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録層の結晶粒の平均結晶粒径が15nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第1の下地層の平均結晶粒径が15nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記第2の下地層は、前記第3の下地層と、第3の下地層上に接して形成された層の両方と接していることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記第2の下地層は、0.1ないし3nmの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記第3の下地層は1nmないし5nmの平均結晶粒径を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記第3の下地層は、銀,金,イリジウム,コバルト,及び鉄からなる群から選択される少なくとも1種の金属結晶粒からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記多層下地層と前記磁気記録層との間に第4の下地層をさらに含み、該第4の下地層は白金及びパラジウムのうち少なくとも1種からなり、実質的に(100)面配向した結晶粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記多層下地層と前記軟磁性層の間に、NiAl,MgO,及びクロムからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む非磁性配向制御層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記非磁性配向制御層と前記軟磁性層の間に、Ni−Nb合金、Ni−Ta合金、Ni−Zr合金、Ni−Mo合金、及びNi−V合金からなる群から選択される少なくとも1種の合金を含む非晶質シード層を設けたことを特徴とする請求項10に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項12】
前記第4の下地層と第3の下地層の間に、白金及びパラジウムのうち一方と、銅、クロム、及び銀から選択される少なくとも一種との合金からなる第5の下地層をさらに設けることを特徴とする請求項9に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
前記第5の下地層は、30ないし60原子パーセントの白金またはパラジウムを含有する合金からなることを特徴とする請求項12に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
前記多層下地層と前記磁気記録層との間に第4の下地層をさらに含み、前記第4の下地層は(100)面配向したMgO、NiO、及びTiNからなる群から選択される少なくとも1種の材料からなる結晶粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
前記第4の下地層は、2ないし5nmの範囲の膜厚を有することを特徴とする、請求項14に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
基板上に軟磁性層を形成し、
該軟磁性層上に銅からなり、(100)面配向した面心立方格子構造をもつ結晶粒子を含有する第1の下地層を形成し、
及び該第1の下地層表面を窒素を含むイオンまたはプラズマに曝露することによって、該第1の下地層上に銅及び窒素からなる第2の下地層を形成し、
該第2の下地層上に島状に第3の下地層を形成することにより、該第1の下地層、該第2の下地層、及び該第3の下地層を含む多層下地層を形成し、
該多層下地層上に、鉄及びコバルトのうち少なくとも一種の元素、及び白金及びパラジウムのうち少なくとも一種の元素を含有し、L10構造を持ち、主として(001)配向した磁性結晶粒子を含む連続膜型磁気記録層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項17】
前記第2の下地層上に、銀,金,イリジウム,コバルト,及び鉄からなる群から選択される少なくとも1種の金属を、連続膜換算で0.1ないし1nmの膜厚となるように成膜することを特徴とする請求項16に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項18】
前記多層下地層を形成する前に、前記軟磁性層上に、NiAl,MgO,及びクロムからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む非磁性配向制御層を形成し、
前記非磁性配向制御層を形成する前に、前記軟磁性層上に、Ni−Nb合金、Ni−Ta合金、Ni−Zr合金、Ni−Mo合金、及びNi−V合金からなる非晶質シード層を設け、
該非晶質シード層表面を酸素雰囲気中に曝露することを特徴とする請求項14に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項19】
請求項1ないし15のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、記録再生ヘッドとを具備することを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−128934(P2012−128934A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119190(P2011−119190)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】