説明

磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜、磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材および磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜の製造方法

【課題】 飽和磁束密度と透磁率を高いレベルで両立可能なアモルファス構造を有する磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜を提供する。
【解決手段】 Co−Fe系合金でなる磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜であって、該軟磁性裏打ち層膜における原子%で表されたCoとFeの組成の比率が88:12〜92:8の範囲内にあり、添加元素として3.0原子%以上のZrと、2.0原子%以上B、Y、Nb、Hf、Taの群から選ばれる1種または2種以上の元素と、をいずれも含有し、かつ、前記添加元素の含有量の合計が5.0〜9.0原子%の範囲内にある磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜である。また、上記と同組成の磁気記録媒体の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材およびそのスパッタリングターゲット材を用いてスパッタリング法により形成される磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に用いられるCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜、軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材および軟磁性裏打ち層膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会により磁気記録の高密度化が強く望まれている。この高密度化を実現する技術として、従来の面内磁気記録方式に代わり垂直磁気記録方式が実用化されている。
【0003】
垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜を媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、記録密度を上げて行ってもビット内の反磁界が小さく、記録再生特性の低下が少ない高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録層膜と軟磁性裏打ち層膜とを有する記録媒体が開発されている。
【0004】
このような磁気記録媒体の軟磁性裏打ち層膜としては、記録磁界を効率良く引き込むため高い飽和磁束密度を有すること、また、磁気記録媒体への書き込み性を向上させるため高い透磁率を有することが求められている(例えば、特許文献1および2参照)。また、軟磁性裏打ち層膜としては、表面粗さが大きくなるのを防ぎ、ヘッドの浮上量を低減するためアモルファス構造であることが求められている(例えば、特許文献3参照)。
また、これまでの軟磁性裏打ち層膜としては、高い飽和磁束密度と高い耐腐食性を有するCo−Fe−Al合金(例えば、特許文献4参照)やCo−Fe−Ni合金(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−190486号公報
【特許文献2】特許第4409085号公報
【特許文献3】特開2008−276859号公報
【特許文献4】特許第4101836号公報
【特許文献5】国際公開第2010/007980号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1および2に開示される軟磁性裏打ち層膜の合金組成は、Co−Ta−Zr合金、Co−Nb−Zr合金等のCo合金やFe合金であり、透磁率は高いが飽和磁束密度が低い合金であるか、飽和磁束密度は高いが透磁率が低い合金である。
また、特許文献4に具体的に開示される軟磁性裏打ち層膜は、原子%でCo:Fe=44:56〜78:22で高い飽和磁束密度が得られるが透磁率が低いものである。
また、特許文献5に具体的に開示される軟磁性裏打ち層合金は、Fe含有量が多いか、Ni含有量が多いCo−Fe−Ni系合金であり、飽和磁束密度は高いが透磁率が低い合金であるか、透磁率は高いが飽和磁束密度が低い合金である。
本発明の目的は、これまで検討されてこなかった飽和磁束密度と透磁率を高いレベルで両立可能なアモルファス構造を有する磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、磁気記録媒体に用いられるCo−Fe系合金軟磁性裏打ち層膜について、CoとFeとの組成比とCo−Fe合金への添加元素および、その添加範囲について種々の検討を行った結果、高い飽和磁束密度と高い透磁率を両立するアモルファス構造の軟磁性裏打ち層膜に好適な組成範囲を見出し本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、Co−Fe系合金でなる磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜であって、該軟磁性裏打ち層膜における原子%で表されたCoとFeの組成の比率が88:12〜92:8の範囲内にあり、添加元素として3.0原子%以上のZrと、2.0原子%以上のB、Y、Nb、Hf、Taの群から選ばれる1種または2種以上の元素と、をいずれも含有し、かつ、前記添加元素の含有量の合計が5.0〜9.0原子%の範囲内にある磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜である。
また、前記Co−Fe系合金が、原子%でNi/(Co+Ni)≦0.1を満たすように、Coの一部をNiで置換する磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜である。
また、本発明は、Co−Fe系合金でなる磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材であって、該軟磁性裏打ち層膜における原子%で表されたCoとFeの組成の比率が88:12〜92:8の範囲内にあり、添加元素として3.0原子%以上のZrと、2.0原子%以上のB、Y、Nb、Hf、Taの群から選ばれる1種または2種以上の元素と、をいずれも含有し、かつ、前記添加元素の含有量の合計が5.0〜9.0原子%の範囲内にある磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用ターゲット材であり、また、前記Co−Fe系合金が、原子%でNi/(Co+Ni)≦0.1を満たすように、Coの一部をNiで置換する磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材である。
また、本発明は、前記スパッタリングターゲット材を用いて、スパッタリング法により形成される磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高い飽和磁束密度と高い透磁率を両立したアモルファス構造の磁気記録媒体に用いられるCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜を提供でき、垂直磁気記録媒体を製造する上で極めて有効な技術となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の最も重要な特徴は、軟磁性裏打ち層膜として、高い飽和磁束密度と高い透磁率を両立したアモルファス構造の膜を実現するための最適な組成範囲を見出した点にある。
【0011】
まず、本発明のベースとなるCo−Fe合金に関して説明する。
本発明の合金のベースとなるCo−Fe合金は、原子%で表されたCoとFeの組成の比率が88:12〜92:8の範囲内にある組成である。Co、Feを含有する合金組成において、Coに対するFeの含有量を8〜12原子%としたのは、この組成範囲にすることで、Co−Fe合金膜の飽和磁束密度を高く維持した上で、磁歪の低減が可能となり、透磁率を高くできるためである。なお、Feの含有量が8原子%に満たない場合には、飽和磁束密度の低下が大きくなり、含有量が12原子%を超えると磁歪が大きくなり透磁率が低下するため、8〜12原子%の範囲に制御することが重要である。
【0012】
本発明の軟磁性裏打ち層膜のCo−Fe系合金は、上述のCo−Fe合金に、添加元素として3.0原子%以上のZrと、2.0原子%以上のB、Y、Nb、Hf、Taの群から選ばれる1種または2種以上の元素とをいずれも含有し、その添加元素の含有量の合計が5.0〜9.0原子%の範囲内にあるものである。3.0原子%以上のZrの添加を必須としているのは、ZrはCo−Fe合金に対するアモルファス形成能が特に高く、少量の添加でアモルファス化を促進させることができるためである。なお、Zrを単独で含有させてもアモルファス化の促進には十分ではないため、さらに、2.0原子%以上のB、Y、Nb、Hf、Taの群から選ばれる1種または2種以上の元素を複合的に含有させることとする。B、Y、Nb、Hf、TaはZrとともに含有させることで、Co−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜のアモルファス化の促進を顕著にすることが可能となる。なお、Zrと、B、Y、Nb、Hf、Taの群から選択される元素との添加量の合計が5.0原子%に満たない場合にはCo−Fe合金の軟磁性裏打ち層膜のアモルファス化が困難となり、添加量の合計が9.0原子%を超えると飽和磁束密度の低下が大きくなるため、5.0〜9.0原子%の範囲に制御をすることが重要である。なお、Zrの添加量は軟磁性裏打ち層膜のアモルファス化の促進のため4.0原子%以上であることが望ましい。
【0013】
また、本発明の軟磁性裏打ち層膜のCo―Fe合金においては、原子%でNi/(Co+Ni)≦0.1を満たすように、Coの一部をNiで置換することが望ましい。この範囲でCoの一部をNiに置換することで、高い飽和磁束密度と高い透磁率を維持したまま軟磁性裏打ち層膜の耐食性を向上させることが可能となるためである。なお、Niは、上記の範囲を超えて含有させると、Co−Fe合金の飽和磁束密度が顕著に低下するため、Niを添加する際にはその含有量をこの範囲に制御することが望ましい。
【0014】
また、本発明の軟磁性裏打ち層膜のCo−Fe系合金においては、膜としての耐食性を向上させるため、Ti、V、Mo、Wの群から選ばれる1種または2種以上の元素を添加することも可能である。但し、Ti、V、Mo、Wは、多量に添加すると飽和磁束密度の低下が大きくなるため、添加量は5.0原子%以下とすることが望ましい。
【0015】
なお、本発明の軟磁性裏打ち層膜としては、記録磁界を効率良く引き込むため、1.4T以上の高い飽和磁束密度と、磁気記録媒体への書き込み性を向上させるため、5000以上の高い最大比透磁率とを有することが望ましい。
【0016】
上述したCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法および化学気相成長法を用いることができる。中でも高速に安定した膜が形成できるため、Co−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜と同一組成のターゲット材をスパッタリングして薄膜を形成するスパッタリング法が好ましい。
【0017】
上述したCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜を形成するために用いられるスパッタリングターゲット材の製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法が適用可能である。溶解鋳造法では、鋳造インゴット、もしくは、鋳造インゴットに塑性加工や加圧加工を加えたバルク体とすることで製造可能となる。また、粉末焼結法では、ガスアトマイズ法でCo−Fe系合金の最終組成の合金粉末を製造し原料粉末とすることや、複数の合金粉末や純金属粉末をCo−Fe系合金の最終組成となるように混合した混合粉末を原料粉末とすることが可能である。原料粉末の焼結方法としては、熱間静水圧プレス、ホットプレス、放電プラズマ焼結、押し出しプレス焼結等の加圧焼結を用いることが可能である。
【実施例】
【0018】
以下の実施例で本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
純度99.9%のCo、Co90−Zr10(原子%)、Co90−Nb20(原子%)、Fe90−Zr10(原子%)合金組成となる各ガスアトマイズ粉末を準備し、(Co90−Fe1092−Nb−Zr(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ5mmのCo−Fe系合金スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製したターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空到達度2×10−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚200nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚300nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件はArガス圧0.6Pa、投入電力500Wで行った。
【0019】
(比較例1)
純度99.9%の(Co70−Fe3090−Ta−Zr−Al(原子%)合金組成となるガスアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ5mmのCo−Fe系合金スパッタリングターゲット材を作製した。そして、作製したターゲット材を使用して、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚200nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚300nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件は実施例1と同一で行った。
【0020】
(比較例2)
純度99.9%の原料を用い(Co80−Fe10−Ni1092−Nb−Zr(原子%)組成の合金溶湯を真空溶解し、Cu製定盤上に外径280mm、内径200mm、高さ25mmの鋳鉄製リングを設置した鋳型に鋳造し、インゴットを作製した。そして、機械加工を施し直径190mm×厚さ5mmのCo−Fe系合金ターゲット材を得た。そして、作製したターゲット材を使用して、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚200nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚300nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件は実施例1と同一で行った。
【0021】
上記でガラス基板(寸法75×25mm)上に形成した実施例1、比較例1、比較例2の軟磁性裏打ち層膜の試料について(株)リガク製X線回折装置RINT2500Vを使用し、線源にCoを用いてX線回折測定を行った。その結果、全ての試料において得られたX線回折パターンはブロードなピークであり、軟磁性裏打ち層膜がアモルファス構造であることを確認した。
【0022】
次に、上記でガラス基板(φ10mm)上に形成した実施例1、比較例1、比較例2の軟磁性裏打ち層膜の試料について、東英工業(株)製振動試料型磁力計VSM−5−15型を使用し、面内方向のB−Hカーブを測定した。得られた最大印加磁場8000A/mのB−Hカーブから飽和磁束密度を求め、最大印加磁場800A/mのB−Hカーブから最大比透磁率を求めた。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から、本発明の実施例1のCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜は、1.60Tと高い飽和磁束密度を有し、最大比透磁率も18000と高い値を有していることが分かり、アモルファス構造を有した上で高飽和磁束密度と高透磁率を実現できている。一方、比較例1のCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜は、Fe:Co=30:70とFeの含有量が多いため最大比透磁率が低い、また、比較例2のCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜は、Niの含有により最大比透磁率は高いが、Coとの対比でNi含有量が多いため飽和磁束密度が低いことがわかる。
【0025】
(実施例2)
純度99.9%のCo、Co90−Ta10−Zr(原子%)、Co90−Zr10(原子%)、Fe90−Zr10(原子%)合金組成となる各ガスアトマイズ粉末を準備し、(Co92−Fe92−Ta−Zr(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ4mmのCo−Fe系合金スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製したターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空到達度2×10−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件はArガス圧0.6Pa、投入電力1000Wで行った。
【0026】
(実施例3)
純度99.9%のCo、Co90−Zr10(原子%)、Co88−B12(原子%)、Fe90−Zr10(原子%)合金組成となる各ガスアトマイズ粉末と純度99.9%のNi粉末を準備し、(Co85−Fe12−Ni92−Zr−B(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ4mmのCo−Fe系合金スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製したターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空到達度2×10−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件は実施例2と同一で行った。
【0027】
(実施例4)
純度99.9%のCo、Co90−Zr10(原子%)、Co80−Nb20(原子%)、Fe90−Zr10(原子%)合金組成となる各ガスアトマイズ粉末と純度99.9%のNi粉末を準備し、(Co85−Fe10−Ni92−Nb−Zr(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ4mmのCo−Fe系合金スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製したターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空到達度2×10−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件は実施例2と同一で行った。
【0028】
(実施例5)
純度99.9%のCo、Co90−Ta10−Zr(原子%)、Co90−Zr10(原子%)、Fe90−Zr10(原子%)合金組成となる各ガスアトマイズ粉末を準備し、(Co90−Fe1092−Ta−Zr(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ4mmのCo−Fe系合金スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製したターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空到達度2×10−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。
なお、スパッタリング条件は実施例2と同一で行った。
【0029】
(実施例6)
純度99.9%の原料を用い(Co90−Fe1092−Zr−B(原子%)組成の合金溶湯を真空溶解し、Cu製定盤上に外径280mm、内径200mm、高さ25mmの鋳鉄製リングを設置した鋳型に鋳造し、インゴットを作製した。そして、機械加工を施し直径190mm×厚さ4mmのCo−Fe系合金ターゲット材を得た。そして、作製したターゲット材を使用して、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件は実施例2と同一で行った。
【0030】
(実施例7)
純度99.9%の原料を用い(Co90−Fe1093−Zr−B(原子%)組成の合金溶湯を真空溶解し、Cu製定盤上に外径280mm、内径200mm、高さ25mmの鋳鉄製リングを設置した鋳型に鋳造し、インゴットを作製した。そして、機械加工を施し直径190mm×厚さ4mmのCo−Fe系合金ターゲット材を得た。そして、作製したターゲット材を使用して、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件は実施例2と同一で行った。
【0031】
(実施例8)
純度99.9%の原料を用い(Co90−Fe1094−Zr−B(原子%)組成の合金溶湯を真空溶解し、Cu製定盤上に外径280mm、内径200mm、高さ25mmの鋳鉄製リングを設置した鋳型に鋳造し、インゴットを作製した。そして、機械加工を施し直径190mm×厚さ4mmのCo−Fe系合金ターゲット材を得た。そして、作製したターゲット材を使用して、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。なお、スパッタリング条件は実施例2と同一で行った。
【0032】
(比較例3)
純度99.9%のCo、Co90−Zr10(原子%)、Co88−B12(原子%)、Fe90−Zr10(原子%)合金組成となる各ガスアトマイズ粉末を準備し、(Co50−Fe5089−Zr−B(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ4mmのCo−Fe系合金スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製したターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空到達度2×10−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法75×25mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。また、寸法φ10mmのガラス基板上に膜厚40nmの軟磁性裏打ち層膜を形成した。
なお、スパッタリング条件は実施例2と同一で行った。
【0033】
上記でガラス基板(寸法75×25mm)上に形成した実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8、比較例3の軟磁性裏打ち層膜の試料について(株)リガク製X線回折装置RINT2500Vを使用し、線源にCoを用いてX線回折測定を行った。その結果、全ての試料において得られたX線回折パターンはブロードなピークであり、軟磁性裏打ち層膜がアモルファス構造であることを確認した。
【0034】
次に、上記でガラス基板(φ10mm)上に形成した実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8、比較例3の軟磁性裏打ち層膜の試料について、東英工業(株)製振動試料型磁力計VSM−5−15型を使用し、面内方向のB−Hカーブを測定した。得られた最大印加磁場8000A/mのB−Hカーブから飽和磁束密度を求め、最大印加磁場800A/mのB−Hカーブから最大比透磁率を求めた。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から、本発明の実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8のCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜は、1.40T以上の高い飽和磁束密度を有し、最大比透磁率も5000以上と高い値を有していることが分かり、アモルファス構造を有した上で高飽和磁束密度と高透磁率を実現できている。一方、比較例3のCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜は、Fe:Co=50:50とFeの含有量が多いため飽和磁束密度は高いが最大比透磁率が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のCo−Fe系合金の軟磁性裏打ち層膜は、高い飽和磁束密度と高い透磁率を有しているため、磁記録媒体の軟磁性裏打ち層膜として有用であり、適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co−Fe系合金でなる磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜であって、
該軟磁性裏打ち層膜における原子%で表されたCoとFeの組成の比率が88:12〜92:8の範囲内にあり、
添加元素として、3.0原子%以上のZrと、2.0原子%以上のB、Y、Nb、Hf、Taの群から選ばれる1種または2種以上の元素と、をいずれも含有し、
かつ、前記添加元素の含有量の合計が5.0〜9.0原子%の範囲内にある
ことを特徴とする磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜。
【請求項2】
原子%でNi/(Co+Ni)≦0.1を満たすように、Coの一部をNiで置換することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜。
【請求項3】
1.4T以上の飽和磁束密度、および5000以上の最大比透磁率を有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜。
【請求項4】
Co−Fe系合金でなる磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材であって、
該スパッタリングターゲット材における原子%で表れたCoとFeの組成の比率が88:12〜92:8の範囲内にあり、
添加元素として、3.0原子%以上のZrと、2.0原子%以上のB、Y、Nb、Hf、Taの群から選ばれる1種または2種以上の元素と、をいずれも含有し、
かつ、前記添加元素の含有量の合計が5.0〜9.0原子%の範囲にある
ことを特徴とする磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材。
【請求項5】
原子%でNi/(Co+Ni)≦0.1を満たすように、Coの一部をNiで置換することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材。
【請求項6】
請求項4に記載の磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材を用いて、スパッタリング法により形成されることを特徴とする磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜形成用スパッタリングターゲット材を用いて、スパッタリング法により形成されることを特徴とする磁気記録媒体用の軟磁性裏打ち層膜の製造方法。

【公開番号】特開2012−22765(P2012−22765A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134831(P2011−134831)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】