説明

磁気記録媒体用シリコン基板の製造方法および磁気記録媒体

【課題】充分な耐衝撃性を有し、加工プロセスや磁気記録層の成膜プロセスを複雑なものとすることがなく、表面平坦性に優れ、しかもコストダウンを可能とする磁気記録媒体用Si基板を提供すること。
【解決手段】本発明では、多結晶Siウェハの平坦化の工程でのエッチングは行なわれず、機械研削のみで平坦化がなされる(S104、S106)。これは、エッチング速度に結晶面依存性があるため、多結晶Siウェハをエッチングすると、ウェハ表面に露出している各結晶粒の結晶方位面の違いによって段差が生じることが避けられず、精密な表面平坦化の障害となるためである。そして、最終研磨段階に先立って予めSiウェハ表面を酸化膜で被覆して酸化膜付きSiウェハとし(S107)、この酸化膜表面を平坦化することで表面に段差のない平坦な基板(酸化膜付きSi基板)を得ている(S108)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体製造用のシリコン基板の製造方法および当該製造方法で得られたシリコン基板上に磁気記録層を備えている磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報記録の技術分野において、文字や画像あるいは楽曲といった情報を磁気的に読み込み・書き出しする手段であるハードディスク装置は、パーソナルコンピュータをはじめとする電子機器の一次外部記録装置や内蔵型記録手段として必須のものとなっている。このようなハードディスク装置には磁気記録媒体としてハードディスクが内蔵されているが、従来のハードディスクでは、ディスク表面に磁気情報を水平に書き込むいわゆる「面内磁気記録方式(水平磁気記録方式)」が採用されていた。
【0003】
図1(A)は、水平磁気記録方式のハードディスクの一般的な積層構造を説明するための断面概略図で、非磁性基板1上に、スパッタリング法で成膜されたCr系下地層2、磁気記録層3および保護膜としてのカーボン層4が順次積層され、このカーボン層4の表面に液体潤滑剤を塗布して形成された液体潤滑層5が形成されている(例えば、特許文献1参照)。そして、磁気記録層3は、CoCr,CoCrTa,CoCrPt等の一軸結晶磁気異方性のCo合金であり、このCo合金の結晶粒がディスク面と水平に磁化されて情報が記録されることとなる。なお、磁気記録層3中の矢印は磁化方向を示している。
【0004】
しかしながら、このような水平磁気記録方式では、記録密度を高めるために個々の記録ビットのサイズを小さくすると、隣接した記録ビットのN極同士およびS極同士が反発し合って境界領域が磁気的に不鮮明になるので、高記録密度化のためには磁気記録層の厚みを薄くして結晶粒のサイズを小さくする必要がある。しかし、結晶粒の微細化(小体積化)と記録ビットの微小化が進むと熱エネルギによって結晶粒の磁化方向が乱されてデータが消失するという「熱揺らぎ」の現象が生じることが指摘され、高記録密度化には限界があるとされるようになった。つまり、KuV/kT比が小さいと熱揺らぎの影響が深刻になるのである。なお、Kuは磁気記録層の結晶磁気異方性エネルギ、Vは記録ビットの体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度(K)である。
【0005】
このような問題に鑑みて検討されるようになったのが「垂直磁気記録方式」である。この記録方式では、磁気記録層はディスク表面と垂直に磁化されるため、N極とS極が交互に束ねられてビット配置され、磁区のN極とS極は隣接しあって相互に磁化を強めることとなる結果、磁化状態(磁気記録)の安定性が高くなる。つまり、垂直に磁化方向が記録される場合には、記録ビットの反磁界が低減されるので、水平磁気記録方式と比較すると、記録層の厚みをそれほど小さくする必要はない。このため、記録層厚を厚くして垂直方向を大きくとれば、全体としてKuV/kT比が大きくなって「熱揺らぎ」の影響を小さくすることが可能である。
【0006】
上述のように、垂直磁気記録方式は、反磁場の軽減とKV値を確保できるため、「熱揺らぎ」による磁化不安定性が低減され、記録密度の限界を大幅に拡大することが可能となる磁気記録方式であることから、超高密度記録を実現する方式として期待されている。
【0007】
図1(B)は、軟磁性裏打ち層の上に垂直磁気記録のための記録層を設けた「垂直二層式磁気記録媒体」としてのハードディスクの基本的な層構造を説明するための断面概略図で、非磁性基板11上に、軟磁性裏打ち層12、磁気記録層13、保護層14、潤滑層15が順次積層されている。ここで、軟磁性裏打ち層12には、パーマロイやCoZrTaアモルファスなどが典型的に用いられる。また、磁気記録層13としては、CoCrPt系合金、CoPt系合金、PtCo層とPdとCoの超薄膜を交互に数層積層させた多層膜などが用いられる。なお、磁気記録層13中の矢印は磁化方向を示している。
【0008】
図1(B)に示したように、垂直磁気記録方式のハードディスクでは、磁気記録層13の下地として軟磁性裏打ち層12が設けられるが、その磁気的性質は「軟磁性」であり、層厚みは概ね100nm〜200nm程度とされる。この軟磁性裏打ち層12は、書き込み磁場の増大効果と磁気記録膜の反磁場低減を図るためのもので、磁気記録層13からの磁束の通り道であるとともに、記録ヘッドからの書き込み用磁束の通り道として機能する。つまり、軟磁性裏打ち層12は、永久磁石磁気回路における鉄ヨークと同様の役割を果たす。このため、書き込み時における磁気的飽和の回避を目的として、磁気記録層13の層厚に比較して厚く層厚設定される必要がある。
【0009】
磁気記録媒体は熱揺らぎ等による記録限界から、100G〜150Gbit/平方インチの記録密度を境として、図1(A)に示したような水平磁気記録方式から、図1(B)に示したような垂直磁気記録方式に順次切り替わりつつある。垂直磁気記録方式での記録限界がどの程度であるかは現時点では定かではないが、500Gbit/平方インチ以上であることは確実視されており、一説では、1000Gbit/平方インチ程度の高記録密度が達成可能であるとされている。このような高記録密度が達成できると、2.5インチHDDプラッタ当り600〜700Gバイトの記録容量が得られることになる。
【0010】
ところで、HDD用の磁気記録媒体用基板には、一般に、3.5インチ径の基板としてAl合金基板が、2.5インチ径の基板としてガラス基板が使用されている。特に、ノートブックパソコンのようなモバイル用途では、HDDが外部からの衝撃を頻繁に受けるため、これらに搭載される2.5インチHDDでは、磁気ヘッドの「面打ち」により記録メディアや基板が傷ついたり、データが破壊される可能性が高いことから、磁気記録媒体用基板として硬度の高いガラス基板が使用されるようになった。
【0011】
モバイル機器が小型化されると、それに内蔵される磁気記録媒体用基板にはより高い耐衝撃性が求められることとなる。2インチ径以下の小口径基板用途の殆どはモバイル用途であるため、2.5インチ径の基板以上に、高い耐衝撃性が求められる。また、モバイル機器の小型化は必然的に、搭載部品の小型化と薄型化を要求するところとなり、2.5インチ径基板の標準厚が0.635mmであるのに対し、例えば1インチ径基板の標準厚みは0.382mmとされている。このような事情を背景として、ヤング率が高く薄板でも十分な強度が得られ、しかも磁気記録媒体の製造プロセスと相性のよい基板が求められている。
【0012】
ガラス基板は主にアモルファス強化ガラスで0.382mm厚の1インチ径基板が実用化されているものの、これ以上の薄板化は容易ではない。また、ガラス基板は絶縁体であるため、磁性膜をスパッタ成膜する工程において基板がチャージアップを生じやすいという問題がある。実用上はスパッタ工程で基板の掴み換えを行うことで量産化を可能としているが、ガラス基板の使用を難しいものにしている要因の1つである。
【0013】
また、次世代記録膜として高結晶磁気異方性を有するFePtなどが検討されているが、高保磁力化するためには600℃前後の高温熱処理が必要とされる。そこで、熱処理温度の低減が検討されてはいるが、それでも400℃以上の熱処理が必要であり、この温度は、現在使用されているガラス基板の使用に耐え得る温度を超えており、Al基板もこのような高温での処理に耐え得ない。
【0014】
更に、磁気記録媒体を微細加工することにより記録密度の向上を目指すディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)も検討されている。このような微細加工には半導体技術分野でのエッチング加工技術などが用いられているが、現行のガラス基板やAl基板の表面を直接加工するのは難しいのが実情である。
【0015】
ガラス基板やAl基板以外にも、サファイアガラス基板、SiC基板、エンジニアリングプラスティック基板、カーボン基板などの代替基板が提案されたが、強度、加工性、コスト、表面平滑性、成膜親和性、微細加工性、耐熱性などの観点からは、次世代記録基板の代替基板としては何れも不十分であるというのが実情である。
【0016】
このような事情を背景として、本発明者らは、シリコン(Si)の単結晶基板をHDD記録膜基板として使用することを既に提唱している(例えば、特許文献2参照)。
【0017】
Si単結晶基板は広くLSI製造用基板として用いられ、表面平滑性、環境安定性、信頼性等に優れているのはもちろんのこと、剛性もガラス基板と比較して高いため、HDD基板に適している。加えて、絶縁性のガラス基板とは異なり半導体性であり、通常はp型もしくはn型のドーパントが含まれていることが多いために、ある程度の導電性をもつ。したがって、スパッタ成膜時におけるチャージアップもある程度は軽減され、金属膜の直接スパッタ成膜やバイアススパッタも可能である。さらに、熱伝導性も良好で高温耐熱性もあるため、400℃以上の基板加熱も容易で、FePtなど高温加熱を要するスパッタ成膜工程との相性は極めて良好である。
【0018】
しかも、Si基板の結晶純度は非常に高く、加工後の基板表面は安定で経時変化も無視できるという利点がある。また、半導体プロセスと相性の良いシリコン基板は、次世代記録メディアにも適用できる。
【特許文献1】特開平5−143972号公報
【特許文献2】特開2005−108407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、LSI等の素子製造用の「半導体グレード」のSi単結晶は一般に高価である。更に、近年の太陽電池の普及による需要の増加に伴い、「ソーラーグレード」のシリコン単結晶やシリコン多結晶でも価格が高騰している。従って、単結晶Si基板を磁気記録媒体用基板として用いることを考えた場合には、ガラス基板やAl基板に比較して原料コスト面で大幅に劣るという深刻な問題がある。
【0020】
また、単結晶Si基板は、特定の結晶方位(110)に僻開するという性質があるため、モバイル機器等に搭載して外部衝撃を受けた場合に、僻開してしまうというおそれもある。この点につき端面の研磨加工の改善で実用上問題ないことを本発明者らは確認しているが、確率的には破損の可能性は残る。
【0021】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、充分な耐衝撃性や耐熱性を有し、加工プロセスや磁気記録層の成膜プロセスを複雑なものとすることがなく、表面平坦性に優れ、しかもコストダウンを可能とする磁気記録媒体用Si基板とその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述の課題を解決するために、磁気記録媒体用多結晶シリコン基板の製造方法は、多結晶シリコンのインゴットからコア抜きされた多結晶シリコンウェハの表面を機械研削する研削工程と、前記機械研削後の多結晶シリコンウェハの表面に酸化膜を形成する酸化工程と、前記酸化膜を研磨して該酸化膜の表面を平坦・平滑化する研磨工程とを備えている。
【0023】
好ましくは、前記研磨工程で得られる酸化膜の厚みは1000nm以下10nm以上である。
【0024】
また、好ましくは、前記研削工程の機械研削は、加工劣化層の厚みが1000nm以下となるように実行される。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、多結晶Siウェハの平坦化の工程で加工劣化層を除去するエッチングは行なわないこととしている。これは、エッチング速度に結晶面依存性があるため、多結晶Siウェハをエッチングすると、ウェハ表面に露出している各結晶粒の結晶方位面の違いによって段差が生じることが避けられず、精密な表面平坦化の障害となるためである。そして、最終研磨段階に先立って予めSiウェハ表面を酸化膜で被覆して酸化膜付きSiウェハとし、酸化膜表面を平坦化することで表面に段差のない平坦な基板(酸化膜付きSi基板)を得ている。
【0026】
これにより、充分な耐衝撃性を有し、加工プロセスや磁気記録層の成膜プロセスを複雑なものとすることがなく、表面平坦性に優れ、しかもコストダウンを可能とする磁気記録媒体用Si基板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0028】
図2は、本発明の磁気記録媒体用Si基板の製造プロセスの一例を説明するためのフローチャートである。既に述べたが、本発明では、多結晶Siウェハの平坦化の工程で所謂「エッチング」は行なわないこととし、機械的な研削のみで表面平坦化している。これは、エッチング速度に結晶面依存性があるため、多結晶Siウェハをエッチングすると、ウェハ表面に露出している各結晶粒の結晶方位面の違いによって段差が生じることが避けられず、精密な表面平坦化の障害となるためである。
【0029】
なお、最終的な研磨段階では通常、コロイダルシリカスラリを用いたCMP研磨が採用され、そのCMP研磨のエッチング効果によってSiウェハ面に段差が生じ得る。この問題を回避するため、本発明では、最終研磨段階に先立って予めSiウェハ表面を酸化膜で被覆して酸化膜付きSiウェハとし、酸化膜表面を平坦化することで表面に段差のない平坦な基板(酸化膜付きSi基板)を得ている。この酸化工程は、前段の機械研削による薄い加工劣化層をアニールして緩和すると同時に、酸化によりアモルファス酸化シリコン層とすることにより、薄い劣化層を完全に消滅させることも兼ねている。
【0030】
以下に、平坦表面をもつ酸化膜付きSi基板を得るための手順を、図2のフローに沿って説明する。
【0031】
先ず、Si基板をコア抜きして取得するための多結晶Siウェハを準備する(S101)。この多結晶Siウェハは、いわゆる「半導体グレード」(一般には、その純度は「11ナイン」(99.999999999%)以上である)のものである必要はなく、概ね「太陽電池グレード」乃至はそれ以下の純度のものでよい。太陽電池グレードの多結晶Siウェハの純度は、一般的には「6ナイン」(99.9999%)以上であるが、本発明では、「4ナイン」(99.99%)までは許容できる。なお、磁気記録媒体用の基板は基本的には構造材料として使用されるため、太陽電池用途と異なりボロン(B)や燐(P)などのドーパント量の制御をする必要はない。
【0032】
多結晶Siウェハの純度の下限を「4ナイン」(99.99%)と設定するのは、これよりも低純度であると、粒界もしくは粒内に結晶中の不純物が析出して基板強度を低下させたり、表面平滑性を低下させるおそれがあるためである。なお、基板強度や基板平滑性等の観点からは多結晶Siウェハの純度は高いほど好ましいが、高純度とするにつれて原料コストは増大する。したがって、精々、「8ナイン」(99.999999%)〜「9ナイン」(99.9999999%)程度でよい。
【0033】
多結晶Siウェハの形状は矩形でも円板状でもよい。なお、多結晶Siウェハ自体の強度や耐衝撃性を向上させる観点からは、多結晶粒の平均グレインサイズを50μm以上(好ましくは1mm以上)であって15mm以下とすることが望ましい。
【0034】
この多結晶Siウェハから、レーザ加工による「コア抜き」により、多結晶Si基板を取得する(S102)。本発明では、主として、モバイル機器用途の磁気記録媒体用Si基板を想定しているので、コア抜きするSi基板の直径は概ね65mm以下であり、直径の下限は一般に21mmとなる。
【0035】
コア抜き加工には、ダイヤモンド砥石によるカップ切断、超音波切断、ブラスト加工、ウォータージェット処理など種々の方法があるが、加工速度の確保、切り代量の削減、口径の切り替え容易性、治具製作や後加工の容易性などから、固体レーザによるレーザコア抜きが望ましい。固体レーザはパワー密度が高くビームを絞れるため、溶断残渣(ドロス)の発生が少なく加工面が相対的にきれいなためである。この場合のレーザ光源としては、Nd−YAGレーザやYb−YAGレーザなどを挙げることができる。
【0036】
コア抜きして得られたSi基板に芯取を施し(S103)、さらに、調厚研削(S104)、端面研磨(S105)、精密研削(S106)を行なう。なお、図2に示した例では、ウェハの端面研磨(S105)を調厚研削(S104)の後に行うこととされているが、この順序を入れ替えてもよい。
【0037】
調厚研削(S104)と精密研削(S106)は、一般的なSi基板製造プロセスで採用されているラップ加工、エッチング、および1段研磨の代わりに行なわれるもので、エッチングに起因するSiウェハ表面での段差発生を回避するためのもので、これらの機械研削はSi結晶の延性加工の領域で実施され、加工劣化層の厚みが概ね1000nm以下(好ましくは10nm以上)となるようにするものである。
【0038】
調厚研削(S104)は、Siウェハの厚みの面内ばらつきや切断時の表面荒れを一定の範囲に抑えるために行なわれ、一般的なラップ加工の代わりとなる。また、精密研削(S106)では、調厚研削(S104)よりも更に高番手の研削砥石(例えば、4000番以上のダイヤモンド砥石)が用いられ、ウェハ表面の加工劣化層を取り除き、ウェハの厚み調節や面うねりの低減が図られる。調厚研削(S104)や精密研削(S106)で微粒ダイヤモンド砥石を用いることとすると、研削痕も100nm以下とすることができる。
【0039】
上述したように、一般的なラップ加工、エッチング、および1段研磨の工程に代えて、調厚研削(S104)と精密研削(S106)を採用する主な理由は、多結晶Siウェハ表面の結晶粒間段差を生じさせないことにある。一般に、多結晶Siウェハをラップ加工した後に歪み取りのためのエッチングを行うと、結晶粒毎に結晶面方位が異なるため、エッチング速度に差が生じる結果、結晶粒間の段差は数μm以上にもなる。そして、このような段差を研磨によって取り除くためには長時間の処理が必要となるが、本発明においてはそのような長時間の処理そのものが不要となる。
【0040】
また、調厚研削(S104)と精密研削(S106)の組み合わせは、研削によってウェハ表面領域に導入される結晶変質(劣化層)の程度が低く抑えられる(概ね1000nm若しくはそれ以下)ため、加工劣化層を敢えて取り除かなくとも、酸化膜形成(S107)が可能であるという利点もある。
【0041】
このような機械研削の加工において、研削砥石と研削機の選定は重要である。調厚研削(S104)で用いる砥石(調厚砥石)はダイヤモンド微粉の固定砥石で、粒度は300番以上のものを用いることが望ましい。それ以下では、研削速度は高いが加工劣化層が厚くなり且つ研削痕が深くなるため好ましくない。また、精密研削(S106)では、更に高番手のダイヤモンド砥粒(例えば4000番以上)を用いることは好ましい。ダイヤモンド微粉の固定には種々の方法があるが、例えば、切れ味の持続と剛性を兼ねているビトリファイドボンドを例示することができる。また、レジンボンド、メタルボンド、電着砥石なども使用可能である。
【0042】
研削機の高剛性は、ウェハの厚みばらつきやうねり(ウェビネス)を低減する上で必要である。研削機には、平面研削機やロータリー研削機などがあるが、厚みばらつきやうねりの低減には、ロータリー研削機が望ましい。
【0043】
このような機械研削の後に、多結晶Siウェハの表面を酸化して酸化膜を形成する(S107)。酸化膜形成方法には種々あるが、効率性と信頼性の観点から、熱酸化法が好ましい。例えば、1000℃以上(好ましくは1000〜1300℃)の高温で水蒸気導入(水バブリング、(H+O)ガスによるパイロ酸化など)して酸化するのが効率的である。もちろん、大気中熱酸化(1000〜1300℃)や高圧酸化も可能である。
【0044】
その他の方法として、オルガノシリカ(有機シリカ)やシリコーン系材料を表面塗布し、熱処理してSiO膜を得ることも可能である。オルガノシリカやシリコーン系材料を用いる場合には、シリコーン系材料やオルガノシリカを含有する液剤をSiウェハ表面に塗布して平滑な薄膜とした後、この薄膜を適度な温度で熱処理して有機成分を気散させることでSiO膜を得る。
【0045】
このような酸化膜形成用のシリコン源としては、シラン化合物(特にアルコキシシラン)を加水分解・縮合した加水分解縮合物等(例えば、Honeywell製アキュフローT−27やアライドシグナル製のアキュグラスP−5Sなど)が例示される。
【0046】
多結晶Siウェハの表面に酸化膜を設けることの利点は、当該酸化膜の存在によりウェハの強度が増すこと、酸化膜(SiO膜)はアモルファスであるために特定方向への僻開性がなくなること、および、後の研磨工程においてもウェハ面内での研磨速度が均一であって平坦性と平滑性を確保することが容易となる点などを挙げることができる。さらに、熱酸化処理やオルガノシリカ熱処理により、精密研削によって生じる薄い加工劣化層が熱酸化膜に転換されてダメージが回復されるという利点もある。
【0047】
このようにして得られた多結晶Siウェハに、研磨(S108)を施す。この研磨(S108)は、概ね、表面平坦化の段階(粗研磨)と表面平滑化の段階(精密研磨)の2段階で行なわれる。ここでの研磨は酸化膜の面に対して行われるため、粗研磨スラリーには、例えば、セリアやコロイダルシリカが用いられる。また、表面平滑性を確保するための研磨である精密研磨は、例えば、コロイダルシリカ(平均粒径が20乃至80nm)スラリーを用いた5分〜1時間程度のCMP研磨により実行される。
【0048】
なお、粗研磨は5〜50kg/cmの研磨圧で、精密研磨は1〜30kg/cmの研磨圧で行うことが好ましい。
【0049】
上述のように、多結晶Siウェハの表面にはアモルファスの酸化膜が存在しているため、結晶粒毎の研磨速度の違いに起因する段差の問題はなくなる。このため、研磨スラリーのpH値は、良好な研磨面が得られるものであれば、酸性でもアルカリ性でも構わないが、中性近傍からアルカリ性領域のもの(pH7〜10)であることが好ましい。
【0050】
この研磨(S108)により、適当な厚みの酸化膜部分が取り除かれ、一般には概ね10〜1000nm(例えば10〜700nm)程度の酸化膜厚となる。なお、10nm以下の酸化膜では膜厚分布を均一にするのが難しくなり、1000nm以上では研磨前の酸化膜厚を厚くしなければならないためコスト面で不利となる。
【0051】
このように、本発明では、多結晶Siウェハの加工プロセスに精密研削加工を取り入れてエッチング工程をなくし、適切な段階でウェハ表面に酸化膜を形成するため、多結晶粒の結晶面方位の違いや結晶粒界の存在には影響を受けずにCMP研磨によって平坦・平滑な表面を得ることができる。また、ラップ加工やエッチング工程を省略できるので、ウェハ面上の段差解消や平滑化が容易となる。
【0052】
このような研磨工程(S108)に続き、スクラブ超音波洗浄(S109)とRCA洗浄(S110)などによりウェハ表面を清浄化する。なお、適切な洗浄処理を行えば、スクラブ超音波洗浄(S109)だけでもよい。その後、当該基板表面を光学検査(S111)して、梱包・出荷される(S112)。
【0053】
このようにして得られた多結晶Si基板(ウェハ)上にFePtなどの磁性膜を設けることにより、図1(B)に図示したような垂直磁気記録媒体や熱アシスト磁気記録媒体或いはビットパターンド媒体などが作製される。
【0054】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
純度が「4ナイン」の多結晶Siウェハ(156mm角、厚み0.6mm)を準備し(S101)、この多結晶Siウェハから、レーザ加工機(YAGレーザ、波長1064nm)により、外径65mm、内径20mmのSi基板をコア抜きしてウェハ当たり4枚の基板を得た(S102)。これらの基板に、芯取(S103)、調厚研削(S104)、端面研磨(S105)、精密研削(S106)を施した。なお、調厚研削(S104)ではレジンボンドダイアモンド砥石の1000番を用い、精密研削(S106)では8000番のビトリファイドダイアモンド砥石を用いた。
【0056】
さらに、多結晶Siウェハをスクラブ洗浄機にて粗洗浄を行い、付着ゴミや粒子を除去した後、1050℃にて水蒸気をバブリング供給した環境で10時間保持して概ね1500nmの酸化膜を成膜した(S107)。なお、酸化膜厚は光学的な干渉測定装置で、直径Φ65mm基板の半径32mmの周上4点を測定し平均化した。
【0057】
次いで、多結晶Siウェハの主面に研磨(S108)を施した。先ず、粗研磨段階では両面研磨機を用い、pH9の平均セリア(粒径30nm)のスラリーで、研磨圧20kg/cmで5分間から10分間研磨し、概ね300〜1000nmの酸化膜を表面から除去した。この粗研磨後の多結晶Siウェハ主面の粒間段差を光学検査機(Zygo社New View 6100)で調べたところ、酸化膜を500nm以上研磨した試料では、明瞭な段差は認められなかった(表1参照)。
【0058】
続いて、精密研磨段階として、粒の細かいコロイダルシリカ(pH値10、粒径40nm)を用いて研磨圧8kg/cmのCMP研磨を行い、酸化膜の表面から100〜400nmの酸化膜を研磨で除去して平滑面を得た。
【0059】
これらの多結晶Siウェハを、スクラブ洗浄(S109)で残留コロイダルシリカを除去した後に、精密洗浄(RCA洗浄:S110)を行い、多結晶Siウェハの表面特性を光学検査(S111)により評価した。具体的には、研磨面のうねり(マイクロウェビネスをZygo社製の光学計測器で測定)、および、平滑性(ラフネス:Digital Instrument社製のAFM装置で測定)を評価した。
【0060】
表1は、このようにして得られた実施例1乃至7の試料の評価結果(Ra:ラフネス、Wa:ウェビネス、μ−Wa:マイクロウェビネス)を纏めたものである。なお、比較例として、酸化膜付け無し(ノンコート)の試料の評価結果を同時に示した。
【0061】
表1に示した結果のように、酸化膜に適当量の研磨加工を施すことにより酸化膜付き多結晶Siウェハの表面特性は良好なものとなり、磁気記録媒体用基板として好適な面状態のものが得られることがわかる。
【0062】
【表1】

【0063】
図3は、実施例7の試料の表面を評価した結果を説明するための図で、図3(A)は表面ラフネス、図3(B)はμ−ウェビネスの評価結果である。また、比較のために、比較例Bの試料のμ−ウェビネスの評価結果を図3(C)に示した。
【0064】
そして、実施例7のシリコン基板上に、厚み100nmのCoZrNb、厚み10nmのRu、および、厚み20nmのFePtを順次スパッタ法で成膜し、更に、CVD法により成膜した厚み4nmのダイアモンドライクカーボン(DLC)とスピンコート法で塗布した潤滑膜を設けて磁気記録媒体とした。この磁気記録媒体の磁気特性は、表面特性も良好でHc値が概ね10kOeであり、良好な角形性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、充分な耐衝撃性を有し、加工プロセスや磁気記録層の成膜プロセスを複雑なものとすることがなく、表面平坦性に優れ、しかもコストダウンを可能とする磁気記録媒体用多結晶Si基板と記録媒体を提供することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1(A)は水平磁気記録方式のハードディスクの一般的な積層構造を説明するための断面概略図、図1(B)は軟磁性裏打ち層の上に垂直磁気記録のための記録層を設けた「垂直二層式磁気記録媒体」としてのハードディスクの基本的な層構造を説明するための断面概略図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体用Si基板の製造プロセスの一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】図3(A)は実施例7の試料の表面ラフネス、図3(B)は同試料のμ−ウェビネスの評価結果、そして、図3(C)は比較例Bの試料のμ−ウェビネスの評価結果である。
【符号の説明】
【0067】
1、11 非磁性基板
2 Cr系下地層
3、13 磁気記録層
4、14 保護層
5、15 潤滑層
12 軟磁性裏打ち層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶シリコンのインゴットからコア抜きされた多結晶シリコンウェハの表面を機械研削する研削工程と、前記機械研削後の多結晶シリコンウェハの表面に酸化膜を形成する酸化工程と、前記酸化膜を研磨して該酸化膜の表面を平坦・平滑化する研磨工程とを備えていることを特徴とする磁気記録媒体用多結晶シリコン基板の製造方法。
【請求項2】
前記研磨工程で得られる酸化膜の厚みは1000nm以下10nm以上である請求項1に記載の磁気記録媒体用多結晶シリコン基板の製造方法。
【請求項3】
前記研削工程の機械研削を、加工劣化層の厚みが1000nm以下となるように実行する請求項1又は2に記載の磁気記録媒体用多結晶シリコン基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の製造方法で得られた多結晶シリコン基板上に磁気記録層を備えている磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−93758(P2009−93758A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264397(P2007−264397)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】