説明

磁気記録媒体

【課題】 記録再生特性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基板1上に、軟磁性下地膜2と、配向制御膜3と、垂直磁性膜4と、保護膜5とが設けられ、軟磁性下地膜2が、以下の組成で表される材料を含む。
aFe−bCo−cM−eX2−fN(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上、X2=P、C、B、Oのうち1種または2種以上。ただし、a、b、c、e、fは百分率で表された原子比であり、60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦e≦10、3≦f≦30である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性膜内の磁化容易軸が主に基板に対し水平に配向した面内磁気記録媒体が広く用いられている。面内磁気記録媒体では、高記録密度化するとビット体積が小さくなりすぎ、熱揺らぎ効果により記録再生特性が悪化する可能性がある。また、高記録密度化した際に、記録ビット境界での反磁界の影響により媒体ノイズが増加する。これに対し、磁性膜内の磁化容易軸が主に垂直に配向した垂直磁気記録媒体は、高記録密度化した際にも、ビット境界での反磁界の影響が小さく、境界が鮮明な記録磁区が形成されるため低ノイズ化が可能であり、しかも比較的ビット体積が大きくても高記録密度化が可能であることから熱揺らぎ効果にも強く、近年大きな注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−203654号公報
【特許文献2】特開2000−215432号公報
【特許文献3】特開昭57−208631号公報
【特許文献4】特開平02−152209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、磁気記録媒体の更なる高記録密度化が要望されている。このため、垂直磁性膜に対する書き込み能力に優れる単磁極ヘッドを用いるために、記録層である垂直磁性膜と基板との間に、裏打ち層と称される軟磁性材料からなる膜を設けた磁気記録媒体が提案されている。この磁気記録媒体では、単磁極ヘッドと、磁気記録媒体の間の磁束の出入りの効率を向上させることができる。しかしながら、上記軟磁性膜(裏打ち層)を設けた磁気記録媒体を用いた場合でも、記録再生特性は満足できるものではなく、この特性に優れる磁気記録媒体が要望されていた。特開平2−152208号公報には、Co(50〜75at%)−M'(M'=Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W)(4〜25at%)−N(1〜35at%)からなる軟磁性膜(裏打ち層)を用いることが提案されている。一般にCo合金からなる軟磁性膜は、Coの含有率が85at%未満であると飽和磁化が低下するため、この軟磁性膜を厚くする必要が生じ、その結果、表面粗さが粗くなる。このため、上記磁気記録媒体では、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを十分に低くすることができなくなり、高記録密度化が困難になる問題があった。また厚い軟磁性膜を形成するために、生産性が低下する問題があった。また特開平11−149628号公報には、FeAlSi、FeTaN合金からなる軟磁性下地膜を設けることによって、突発性のスパイクノイズの発生を抑制し、エンベロープ特性を改善することが提案されている。しかしながら、上記磁気記録媒体では、エンベロープ特性は改善されるが、軟磁性下地膜に起因する媒体ノイズが大きくなるため好ましくない。これは、軟磁性下地膜の結晶粒を微細化しても、結晶粒どうしの磁気的な結合が大きくなることから、磁気クラスターサイズ(磁気的結合粒子径)が大きくなるためである。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、軟磁性下地膜から発生する媒体ノイズを低減することにより、記録再生特性を向上させ高密度の記録再生が可能となる磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板上に、少なくとも軟磁性材料からなる軟磁性下地膜と、直上の膜の配向性を制御する配向制御膜と、磁化容易軸が基板に対し主に垂直に配向した垂直磁性膜と、保護膜とが設けられ、前記軟磁性下地膜が、以下の組成で表される材料を含むことを特徴とする。
aFe−bCo−cM−eX2−fN
(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上、X2=P、C、B、Oのうち1種または2種以上。ただし、a、b、c、e、fは百分率で表された原子比であり、60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦e≦10、3≦f≦30である。)
上記a〜fは、次の範囲にあることが好ましい。
60≦a+b≦80、30≦a≦80、5≦c≦20、0.1≦d≦3、0.1≦e≦5、8≦f≦25。
軟磁性下地膜は、Feを主成分する平均粒径13nm以下の微細結晶と、該微細結晶よりもMとN(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上)を多く含有する非晶質相とからなる構成とするのが好ましい。
微細結晶は、bcc構造をとることが好ましい。
軟磁性下地膜の飽和磁束密度Bsが1T以上とするのが好ましく、1.4T以上とするのがさらに好ましい。
軟磁性下地膜は、飽和磁束密度Bsと該軟磁性下地膜の膜厚tの積Bs・tを50T・nm以上とするのが好ましく、100T・nm以上とするのがさらに好ましい。
配向制御膜は、Ti、Zn、Y、Zr、Ru、Re、Gd、Tb、Hfのうち1種または2種以上を50%at以上含有するhcp構造材料からなる構成とすることができる。
配向制御膜は、Ni、Cu、Pd、Ag、Pt、Ir、Au、Alのうち1種または2種以上を50%at以上含有するfcc構造材料からなる構成とすることができる。
軟磁性下地膜は、垂直磁性膜側の表面の一部または全面が酸化されている構成とするのが好ましい。
垂直磁性膜の逆磁区核形成磁界(−Hn)は、0(Oe)以上とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明の磁気記録媒体にあっては、軟磁性下地膜の材料として、以下に示す組成で表されるものを用いるので、記録再生特性を向上させることができる。
aFe−bCo−cM−eX2−fN ・・・(2)
(60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦e≦10、3≦f≦30)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の磁気記録媒体の第1の実施形態を示す一部断面図である。
【図2】図1に示す磁気記録媒体の軟磁性下地膜を示す構造図である。
【図3】履歴曲線の一例を示すグラフである。
【図4】履歴曲線の他の例を示すグラフである。
【図5】本発明の磁気記録媒体の第2の実施形態を示す一部断面図である。
【図6】本発明の磁気記録媒体の第3の実施形態を示す一部断面図である。
【図7】本発明の磁気記録媒体の第4の実施形態を示す一部断面図である。
【図8】本発明の磁気記録媒体の第5の実施形態を示す一部断面図である。
【図9】本発明の磁気記録再生装置の一例を示す概略構成図である。
【図10】図9に示す磁気記録再生装置に使用される磁気ヘッドの一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の磁気記録媒体の第1の実施形態を示すもので、ここに示す磁気記録媒体は、非磁性基板1上に、軟磁性下地膜2と、配向制御膜3と、垂直磁性膜4と、保護膜5と、潤滑膜6とが順次形成されて構成されている。非磁性基板1としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料からなる金属基板を用いてもよいし、ガラス、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどな非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。ガラス基板としては、アルモファスガラス、結晶化ガラスがあり、アルモファスガラスとしては汎用のソーダライムガラス、アルミノケートガラス、アルミノシリケートガラスを使用できる。また、結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスを用いることができる。セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが使用可能である。非磁性基板1としては、上記金属基板、非金属基板の表面にメッキ法やスパッタ法によりNiP膜が形成されたものを用いることもできる。非磁性基板1の表面形状は、媒体表面の形状に影響を与えるため、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを低くするには、非磁性基板1の表面平均粗さRaを2nm以下とするのが好ましい。この表面平均粗さRaを2nm以下とすることによって、磁気記録媒体の表面凹凸を小さくし、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを十分に低くし、記録密度を高めることができる。
【0010】
軟磁性下地膜2は、ヘッドからの磁束の垂直方向成分を大きくし、かつ垂直磁性膜4の磁化を基板1に対し垂直な方向に固定するために設けられているものである。本実施形態の磁気記録媒体では、軟磁性下地膜2が、以下の組成で表される材料を含む構成を採用できる。
aFe−bCo−cM−dX1−fN ・・・(1)
(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上、X1=Cr、Ga、Al、Si、Niのうち1種または2種以上。ただし、a、b、c、d、fは百分率で表された原子比(at%)であり、60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦d≦7、3≦f≦30である。)
a〜fは、60≦a+b≦80、30≦a≦80、5≦c≦20、0.1≦d≦3、8≦f≦25とするのがより好ましい。軟磁性下地膜2は、式(1)で示される材料を主成分とするものであることが好ましい。なお主成分とは当該成分を50at%を越えて含むことを意味する。式(1)に示す材料の具体例としては、FeHfCrN、FeHfAlN、FeHfSiN、FeHfGaN、FeHfCrAlN、FeZrCrN、FeTaCrN、FeNbCrN、FeTiCrN、FeCoHfCrNを挙げることができる。
【0011】
また、軟磁性下地膜2は、以下の組成で表される材料を含むものであってもよい。
aFe−bCo−cM−eX2−fN ・・・(2)
(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上、X2=P、C、B、Oのうち1種または2種以上。ただし、a、b、c、e、fは百分率で表された原子比であり、60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦e≦10、3≦f≦30である。)
a〜fは、60≦a+b≦80、30≦a≦80、5≦c≦20、0.1≦e≦5、8≦f≦25とするのがより好ましい。軟磁性下地膜2は、式(2)で示される材料を主成分とするものであることが好ましい。式(2)に示す材料の具体例としては、FeHfBN、FeHfCN、FeHfPN、FeHfON、FeHfBCN、FeZrBN、FeTaBN、FeNbBN、FeTiBN、FeHfAlCONを挙げることができる。
【0012】
また、軟磁性下地膜2には、以下の組成で表される材料を含むものを用いることもできる。
aFe−bCo−cM−dX1−eX2−fN ・・・(3)
(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上、
X1=Cr、Ga、Al、Si、Niのうち1種または2種以上、
X2=P、C、B、Oのうち1種または2種以上。
ただし、a、b、c、d、e、fは百分率で表された原子比であり、60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦d≦7、0.1≦e≦7、3≦f≦30である。)
a〜fは、60≦a+b≦80、30≦a≦80、5≦c≦20、0.1≦d≦3、0.1≦e≦5、8≦f≦25とするのがより好ましい。軟磁性下地膜2は、式(3)で示される材料を主成分とするものであることが好ましい。式(3)に示す材料の具体例としては、FeHfCrBN、FeHfAlBN、FeHfAlPN、FeHfCrAlBN、FeHfCrBPNを挙げることができる。
【0013】
FeとCoの含有率の合計(a+b)が上記範囲未満であると、飽和磁束密度が小さくなり軟磁性下地膜2を厚くする必要が生じるため、表面平均粗さRaが大きくなる。その結果、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを十分に低くすることができなくなり、高記録密度化が難しくなる。またFeとCoの合計含有率が上記範囲を越えると、十分な低ノイズ化が難しくなるため好ましくない。Feの含有率(a)が上記範囲未満であると、飽和磁束密度が小さくなり軟磁性下地膜2を厚くする必要が生じるため、表面平均粗さRa大きくなる。その結果、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを十分に低くすることができなくなり、高記録密度化が難しくなる。またFeの含有率が上記範囲を越えると、十分な低ノイズ化が難しくなるため好ましくない。Mの含有率(c)が上記範囲未満であると、軟磁性下地膜2によるノイズ低減効果が低くなるため好ましくない。またMの含有率が上記範囲を越えると、軟磁性下地膜2全体が非晶質になり、ノイズ特性が劣化するおそれがあるため好ましくない。Nの含有率(f)が上記範囲未満であると、軟磁性下地膜2の結晶粒径が大きくなりやすくなる。またNの含有率が上記範囲を越えると、軟磁性下地膜2の飽和磁束密度が低くなるため好ましくない。
【0014】
X1の含有率(d)が上記範囲未満であると、結晶粒を微細化する効果が低下し、結晶粒径が大きくなりノイズが増加する。またX1の含有率が上記範囲を越えると、軟磁性下地膜2の磁化が不十分となりやすくなる。また軟磁性下地膜2から発生する媒体ノイズが増加するため好ましくない。X2の含有率(e)が上記範囲未満であると、結晶粒が大きくなり媒体ノイズが増加する。X2の含有率が上記範囲を越えると、軟磁性下地膜2の磁化が不十分となりやすくなる。また軟磁性下地膜2から発生する媒体ノイズが増加するため好ましくない。
【0015】
軟磁性下地膜2は、Feを主成分する微細結晶と、該微細結晶よりもMとN(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上)を多く含有する非晶質相とからなるものとするのが好ましい。図2は、微細結晶と非晶質相とを有する軟磁性下地膜2の一例を示すもので、ここに示す例では、軟磁性下地膜2が、多数の微細結晶2aと、これら微細結晶2aを隔てる非晶質相2bとを有する構造となっている。この微細結晶2aの平均粒径は、13nm以下となっている。この平均粒径は、10nm以下とするのが好ましい。この結晶粒径をこの範囲とすることによって、軟磁性下地膜2および垂直磁性膜4内の磁気クライスターサイズを小さくし、媒体ノイズを低減することができ、記録再生特性を向上させることができる。
【0016】
微細結晶2aの平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察像より求めることができる。すなわちTEMにより観察された微細結晶2aの画像を、コンピューター上で処理することにより、この微細結晶2aと同じ面積の円に変換し、この円の直径を、その微細結晶2aの粒径とする。同様の手順で複数の微細結晶2aについて粒径を求め、これら複数の微細結晶2aの粒径の平均値を平均粒径とする。粒径測定の対象となる微細結晶2aの数は、100以上(好ましくは500以上)とするのが好適である。
【0017】
微細結晶2aはbcc構造をとることが好ましい。微細結晶2aがbcc構造をとると、効果的に飽和磁束密度を高めることができるためである。また、微細結晶2aでは(110)面が優先配向していることが好ましい。結晶構造および配向面はX線回折法(XRD)にて判別することができる。
【0018】
軟磁性下地膜2の飽和磁束密度Bsは、1T以上(好ましくは1.4T以上、さらに好ましくは1.6T以上)であることが好ましい。飽和磁束密度Bsが上記範囲未満であると、軟磁性下地膜2の膜厚を厚くする必要が生じ、表面平均粗さRaが大きくなったり、生産性が悪化するため好ましくない。
【0019】
軟磁性下地膜2の飽和磁束密度Bsと軟磁性下地膜2の膜厚tとの積Bs・tは、50T・nm以上(好ましくは100T・nm以上)であることが好ましい。このBs・tが50T・nm未満であると、再生波形がいわゆる矩形波でなく歪みをもつものとなり、記録再生特性が悪化するため好ましくない。
【0020】
軟磁性下地膜2は、表面(垂直磁性膜4側の面)の一部または全面が酸化されている構成とすることができる。この酸化部分(酸化層)の厚さは3nm以下(好ましくは2.5nm以下、より好ましくは2nm以下)であることが好ましい。この酸化部分の厚さが3nmを越えると、この上に設けられる配向制御膜3の配向を乱し、記録再生特性の劣化を招くため好ましくない。またこの厚さが3nmを越えると、軟磁性下地膜2の表面酸化が過剰になり、表面平均粗さRaが大きくなる(例えば2nmを越える値となる)。その結果、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを十分に低くすることができなくなり、高記録密度化が難しくなる。軟磁性下地膜2が酸化された状態はオージェ電子分光法、SIMS法などにより確認することができる。また軟磁性下地膜2表面の酸化部分(酸化層)の厚さは、例えば媒体断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真により求めることができる。
【0021】
軟磁性下地膜2の保磁力Hcは100(Oe)以下(好ましくは30(Oe)以下、さらに好ましくは10(Oe)以下)とするのが好ましい。この保磁力Hcが上記範囲を越えると、軟磁性特性が不十分となり、再生波形がいわゆる矩形波でなく歪みをもつものとなるため好ましくない。また、軟磁性下地膜2の最大透磁率は、1000〜1000000(好ましくは100000〜500000)とするのが好ましい。最大透磁率が上記範囲未満であると、記録時に磁気記録媒体への書き込みが不十分となり、十分な記録再生特性を得られないおそれがある。なお、透磁率はCGS単位系で表した値である。
【0022】
軟磁性下地膜2の表面形状は、磁気記録媒体表面の形状に影響を与えるため、その表面平均粗さRaを2nm以下とするのが好ましい。表面平均粗さRaをこの範囲とすることによって、磁気記録媒体の表面凹凸を小さくし、記録再生時における磁気ヘッド浮上高さを十分に低くし、記録密度を高めることができる。
【0023】
配向制御膜3は、垂直磁性膜4の配向性や結晶粒径を制御するためのものである。配向制御膜3は、少なくとも表面側(垂直磁性膜4側)が、hcp構造またはfcc構造をとるものであることが好ましい。配向制御膜3に用いられるhcp構造材料としては、Ti、Zn、Y、Zr、Ru、Re、Gd、Tb、Hfのうち1種または2種以上を50at以上含有するものを挙げることができる。なかでも、HfとRuのうちいずれかを50at%以上含有する合金を用いると、垂直磁性膜4から発生する媒体ノイズを低減することができ、高記録密度化が可能になるため好ましい。特に、Ruを用いると、垂直磁性膜4の垂直配向性を高めることができるため好ましい。hcp構造材料としては、垂直磁性膜4に対する格子の整合性を考慮して、上記材料(Ti、Zn、Y、Zr、Ru、Re、Gd、Tb、Hfのうち1種または2種以上)に、Co、Cr、Fe、Ni等を添加した合金を用いることができる。また結晶粒を微細化するため、上記材料(Ti、Zn、Y、Zr、Ru、Re、Gd、Tb、Hfのうち1種または2種以上)にC、O、N、Si、B、Pを添加した合金を用いることもできる。配向制御膜3に好適に用いられるhcp構造材料の具体例としては、Ru、RuCr、Hf、HfB、Reを挙げることができる。
【0024】
配向制御膜3に用いられるfcc構造材料としては、Ni、Cu、Pd、Ag、Pt、Ir、Au、Alのうち1種または2種以上を50at以上含有するものを用いることが好ましい。なかでも特に、Niを用いると、垂直磁性膜4の垂直配向性を高めることができるため好ましい。またfcc構造材料としては、垂直磁性膜4に対する格子の整合性を考慮して、上記材料(Ni、Cu、Pd、Ag、Pt、Ir、Au、Alのうち1種または2種以上)に、Co、Cr、Fe、Ni等を添加した合金を用いることができる。また結晶粒を微細化するため、上記材料(Ni、Cu、Pd、Ag、Pt、Ir、Au、Alのうち1種または2種以上)に、C、O、N、Si、B、Pを添加した合金を用いることもできる。配向制御膜3に好適に用いられるfcc構造材料の具体例としては、Ni、NiCrN、Cu、PdBを挙げることができる。
【0025】
配向制御膜3の厚さは、1〜50nm(好ましくは2〜30nm、さらに好ましくは2〜20nm)とするのが好ましい。この厚さが上記範囲未満であると、垂直磁性膜4における垂直配向性が低下し、記録再生特性および熱揺らぎ耐性が劣化する。またこの厚さが上記範囲を越えると、垂直磁性膜4において結晶粒子が粗大化し記録再生特性が悪化する。また記録再生特性時における磁気ヘッドと軟磁性下地膜2との距離が大きくなるため、再生信号の分解能が低下する。
【0026】
垂直磁性膜4は、その磁化容易軸が基板に対して主に垂直に配向した磁性材料からなるものであり、その材料としては、CoCrX3系、CoCrPt系、CoCrTa系、CoCrPtX3系、CoPtX3系(X3:Ta、Zr、Nb、Cu、Re、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、およびBのうち1種または2種以上)の合金を用いるのが好ましい。特に、垂直磁性膜4の垂直磁気異方性を高めるために、CoCrPtX3系、CoPtX3系の合金で、Pt含有率が8〜24at%であるものを用いることが好ましい。またPt含有率を14〜22at%とすると、逆磁区核形成磁界(−Hn)を確実に0以上とすることができ、優れた熱揺らぎ特性を得ることができるため好ましい。また、垂直磁性膜4には、遷移金属材料(Co、Co合金、Fe、Fe合金など)と貴金属材料(Pd、Pd合金、Pt、Pt合金)とを多数回にわたって積層した構造を採用できる。例えば、Co、CoX4、Fe、FeX4のいずれかからなる層と、Pd、PdX4、Pt、PtX4(X4:Cr、Pt、Ta、B、O、Ru、Siのうち1種または2種以上)のいずれかからなる層を多数回にわたって積層した構造を採用することができる。上記CoCr系、CoCrPt系、CoCrTa系、CoCrPtX3系、CoPtX3系の合金、積層構造膜材料はいずれも多結晶構造をとるが、本発明の磁気記録媒体では、非晶質構造の垂直磁性膜を適用することもできる。非晶質構造をとる材料としては、希土類元素を含む合金(TbFeCo系合金など)を用いることができる。
【0027】
垂直磁性膜4の逆磁区核形成磁界(−Hn)は、0(Oe)以上(好ましくは1000(Oe)以上)とするのが好適である。この逆磁区核形成磁界(−Hn)が、この範囲未満であると熱揺らぎ耐性が低下する。図3に示すように、逆磁区核形成磁界(−Hn)とは、履歴曲線(MH曲線)において、磁化が飽和した状態から外部磁場を減少させる過程で、外部磁場が0となる点aから磁化反転を起こす点bまでの距離(Oe)で表すことができる。なお、逆磁区核形成磁界(−Hn)は、磁化反転を起こす点bが、外部磁場が負となる領域にある場合に正の値をとり(図3を参照)、逆に、点bが、外部磁場が正となる領域にある場合に負の値をとる(図4を参照)。逆磁区核形成磁界(−Hn)の測定には、軟磁性下地膜2の影響を除くため、基板1、配向制御膜3、垂直磁性膜4、保護膜5のみからなるディスクを用い、このディスクについて、振動式磁気特性測定装置またはカー効果測定装置を用いて測定を行うのが好適である。また磁気記録媒体をそのまま用いて、振動式磁気特性測定装置またはカー効果測定装置により逆磁区核形成磁界(−Hn)を測定することもできる。
【0028】
垂直磁性膜4は、成分組成や結晶構造が異なる2以上の層からなる多層構造とすることもできる。例えば、複数の磁性層と各磁性層間に形成された中間層からなり、この中間層がhcp構造またはfcc構造をとる構成とすることができる。これら複数の磁性層は、成分組成や結晶構造の点で互いに同じものであってもよいし、互いに異なっていてもよい。中間層の材料としては、磁性層に対する格子の整合性を考慮すると、Ru(またはRe)に、Co、Cr、Fe、Ni、C、O、N、Si、B等を添加した合金;Niに、Co、Cr、Fe、C、O、N、Si、B等を添加した合金;Coに、Cr、Fe、Ni、C、O、N、Si、B等を添加した合金;CoCrに、Fe、Ni、C、O、N、Si、B等を添加した合金;Niを用いることができる。
【0029】
垂直磁性膜4の保磁力Hcは、3000(Oe)以上とするのが好ましい。保磁力Hcがこの範囲未満であると、記録特性、熱揺らぎ特性が劣化するため好ましくない。
【0030】
垂直磁性膜4においては、結晶粒の平均粒径が4〜15nmであることが好ましい。この平均粒径がこの範囲未満であると、保磁力低下、熱揺らぎ特性劣化が起こりやすくなる。平均粒径が上記範囲を越えると、媒体ノイズが増加する。結晶粒の平均粒径は、上述の軟磁性下地膜2における微細結晶2aの平均粒径と同様にして求めることができる。
【0031】
垂直磁性膜4の厚さは、5〜50nm(特に7〜30nm)とするのが好ましい。この厚さが上記範囲未満である場合には、垂直磁性膜4の結晶配向が不十分となりやすくなり、記録再生特性が劣化する。また厚さが上記範囲を越えると、結晶粒の粗大化が起こりやすくなりノイズが増加し記録再生特性が劣化する。
【0032】
保護膜5は、垂直磁性膜4の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぎ、かつ磁気ヘッドと媒体の間の潤滑特性を確保するためのものである。保護膜5には、従来公知の材料を使用することが可能であり、例えばC、SiO、ZrOの単一組成、またはこれらを主成分とし他元素を含むものが使用可能である。保護膜5の厚さは、1〜10nmとするのが好ましい。
【0033】
潤滑膜6には、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸など公知の潤滑剤を使用することができる。その種類および膜厚は、使用される保護膜や潤滑剤の特性に応じて適宜設定することができる。
【0034】
上記構成の磁気記録媒体を製造するには、図1に示す基板1上に、スパッタ法などにより軟磁性下地膜2を形成し、次いで、必要に応じてこの軟磁性下地膜2の表面に酸化処理を施し、次いで配向制御膜3、垂直磁性膜4を順次スパッタ法などにより形成する。次いで、スパッタ法や、CVD法、イオンビーム法等によって保護膜5を形成した後、ディップコーティング法、スピンコート法などにより潤滑膜6を形成する。
【0035】
軟磁性下地膜2を形成する際には、上記式(1)〜(3)に示す材料からNを除いた材料からなるターゲットを用いたスパッタ法を採用し、成膜時に用いる成膜ガスに窒素を含有させる方法をとることができる。この成膜ガスの窒素含有率は0.1〜50vol%とするのが好ましい。この窒素含有成膜ガスとしては、窒素とアルゴンからなる混合ガスを用いることができる。窒素を含有する成膜ガスを用いることによって、軟磁性下地膜2を均一に形成することができるようになる。
【0036】
軟磁性下地膜2の表面に酸化処理を施す場合には、軟磁性下地膜2を形成した後、軟磁性下地膜2を酸素含有ガスに曝す方法や、軟磁性下地膜2を形成する際の成膜用ガス中に酸素を導入する方法をとることができる。軟磁性下地膜2の表面を酸素含有ガスに曝す場合には、軟磁性下地膜2を、酸素をアルゴンや窒素で希釈した希釈ガスや純酸素に0.3〜20秒程度接触させる方法をとることができる。また軟磁性下地膜2を大気に曝す方法をとることもできる。特に、酸素をアルゴンや窒素などのガスで希釈した希釈ガスを用いる場合には、酸素の希釈率を選択することによって、軟磁性下地膜2表面の酸化の度合いの調節が容易になるため、所望の酸化状態を得ることができる。また軟磁性下地膜2の成膜用ガスに酸素を導入する場合には、例えば成膜法としてスパッタ法を用いるならば、成膜過程の一部のみ(または全過程)に、酸素を含有するプロセスガスを用いてスパッタを行えばよい。このプロセスガスとしては、例えばアルゴンに酸素を体積率で0.05%〜50%(好ましくは0.1〜20%)程度混合したガスが好適に用いられる。この軟磁性下地膜2の表面酸化によって、軟磁性下地膜2の表面の磁気的な揺らぎを抑え、この揺らぎに起因するノイズ発生を防ぐとともに、軟磁性下地膜2上に形成される配向制御膜3の結晶粒を微細化してノイズ特性、記録再生特性の改善効果を得ることができる。また軟磁性下地膜2表面の酸化部分(酸化層)によって、非磁性基板1や軟磁性下地膜2の材料がイオン化して媒体表面に移動するのを阻止し、媒体表面の腐食を防ぐことができる。
【0037】
軟磁性下地膜2を、微細結晶2aと非晶質相2bとを有するものとする場合には、軟磁性下地膜2を形成した後、熱処理(アニール処理)を施すことによって、境界が鮮明な微細結晶2aおよび非晶質相2bを形成し、ノイズを低減し、記録再生特性をさらに向上させることができる。アニール処理の温度条件は、250℃〜450℃とする。このアニール処理温度が250℃未満であると、媒体ノイズ低減効果が低くなる。またアニール処理温度が450℃を越えると、微細結晶2aの結晶が粗大化し、ノイズ低減効果が低くなるため好ましくない。アニール処理の時間は特に制限されないが、2〜50秒(さらに好ましくは2〜20秒)とするのが望ましい。アニール処理後の冷却時間は特に制限されないが、生産性を考えると、50秒以下(好ましくは20秒以下)とすることが望ましい。
【0038】
配向制御膜3を形成する際には、成膜ガスに酸素や窒素を導入することによって、配向制御膜3の表面に酸化膜または窒化膜を形成してもよい。例えば、成膜法としてスパッタ法を用いるならば、配向制御膜3の表面付近を形成する際に、プロセスガスとして、アルゴンに酸素を体積率で0.05〜50%(好ましくは0.1〜20%)程度混合したガス、アルゴンに窒素を体積率で0.01〜20%(好ましくは0.02〜10%)程度混合したガスを用いることによって、上記酸化膜または窒化膜を形成することができる。
【0039】
垂直磁性膜4を単層構造とする場合には、この垂直磁性膜4を構成する材料からなるターゲットを用いて垂直磁性膜4を形成することができる。垂直磁性膜4を、遷移金属層と貴金属層からなる多層構造とする場合には、遷移金属(Co、Co合金)からなる第1のターゲットと、貴金属(Pt、Pd等)からなる第2のターゲットを交互に用いて、それぞれのターゲットの材料を交互にスパッタすることにより垂直磁性膜4を構成する。
【0040】
保護膜5の形成方法としては、カーボンターゲットを用いたスパッタ法や、CVD法、イオンビーム法を用いることができる。また、SiOやZrOのターゲットを用いたRFスパッタ、あるいはSiやZrのターゲットを用い、プロセスガスとして酸素を含むガスを用いる反応性スパッタによって、SiOやZrOからなる保護膜5を形成する方法などを適用することができる。CVD法、イオンビーム法を用いる場合には、極めて硬度の高い保護膜5を形成することができ、スパッタ法よりも保護膜5を大幅に薄くすることが可能となるため、記録再生時のスペーシングロスを小さくし、高密度の記録再生を行うことができる。
【0041】
本実施形態の磁気記録媒体では、軟磁性下地膜2の材料として、以下に示す組成で表されるもののうちいずれかを用いるので、記録再生特性を向上させることができる。
aFe−bCo−cM−dX1−fN ・・・(1)
(60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦d≦7、3≦f≦30)
aFe−bCo−cM−eX2−fN ・・・(2)
(60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦e≦10、3≦f≦30)
aFe−bCo−cM−dX1−eX2−fN ・・・(3)
(60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦d≦7、0.1≦e≦7、3≦f≦30)
【0042】
上記材料を用いることによって、記録再生特性を向上させることができる理由を以下に示す。窒素には、Fe合金膜において結晶粒を微細化する効果があるため、窒素の添加によってノイズ低減を図ることができる。さらに、FeN合金に、M(Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上)を添加することによって、MとNが結合した化合物を生成させることができる。このMとNを含む化合物は、粒界に偏析しやすいため、Mの添加によって、粒界の形成を促進し、結晶粒を孤立化させ、さらにノイズを低く抑えることができる。またX1(Cr、Ga、Al、Si、Niのうち1種または2種以上)は、Feに固溶し、Fe合金結晶の成長を抑える性質がある。このため、X1の添加によって、軟磁性下地膜2において過剰な結晶成長を阻止することができる。従って、結晶粒の粗大化を防ぎ、ノイズ低減を図ることができる。またX2(P、C、B、O)は、粒界領域に偏析しやすく、粒界においてFeやMと共有結合する性質があるため、X2の添加によって、上記共有結合性化合物を含む粒界を形成させることができる。このため、幅が広く、かつ安定な粒界を形成するとともに、過剰な結晶成長を抑制することができる。従って、結晶粒を微細化、孤立化させ、さらなるノイズ抑制が可能となる。X1とX2のいずれか1つでも媒体ノイズ低減効果があるが、これら双方を添加することによって、いっそう優れた媒体ノイズ低減効果を得ることができる。以上の理由により、上記材料を用いることによって、軟磁性下地膜2内の結晶粒径を小さくするとともに、結晶粒を孤立化させ、軟磁性下地膜2に起因するノイズを低減することができる。また結晶粒を孤立化させることができるため、これら結晶粒間の磁気的相互作用を抑制することができる。このため、軟磁性下地膜2中の磁気クラスターサイズを小さくし、この磁気クラスターに基づくノイズを抑えることができる。
【0043】
また、軟磁性下地膜2において結晶粒を微細化、孤立化できることから、軟磁性下地膜2の影響下で成長する配向制御膜3、垂直磁性膜4においても結晶粒の微細化、孤立化を図ることができる。このため、さらなる媒体ノイズ低減を図ることができる。また上記磁気記録媒体では、記録再生時において、磁気ヘッドからの磁束が垂直磁性膜4、軟磁性下地膜2を通って再び磁気ヘッドに至る閉磁路が形成される。このように、軟磁性下地膜2と垂直磁性膜4は共通の磁束により磁化されるため、垂直磁性膜4の磁気クラスターサイズは、軟磁性下地膜2の磁気クラスターサイズに影響されるようになる。このため、垂直磁性膜4の磁気クラスターサイズは、軟磁性下地膜2の磁気クラスターサイズと同様、小さくなる。
【0044】
以上より、本実施形態の磁気記録媒体では、軟磁性下地膜2および垂直磁性膜4において、結晶粒径および磁気クラスターサイズを小さくし、記録再生特性を向上させ、高密度の情報の記録再生が可能となる。なお、磁気クラスターサイズは、磁気間力顕微鏡(MFM)により求めることができる。すなわち軟磁性下地膜2を形成した段階の媒体を交流消磁した後、MFMで磁化状態を測定して、互いにほぼ同じ方向に向いている磁化の集団の直径を磁気クライスターサイズとすることができる。
【0045】
また本実施形態の磁気記録媒体では、軟磁性下地膜2に、上記式(1)〜(3)に示す材料を用いるので、軟磁性下地膜2において十分な磁化を得ることができる。このため、軟磁性下地膜2を過大な厚さに形成する必要がなく、生産性の低下を防ぐことができる。また軟磁性下地膜2の表面粗さを小さくし、グライドハイト特性の劣化を防ぐことができる。
【0046】
また、軟磁性下地膜2を、微細結晶2aと、微細結晶2aよりもMとN(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上)を多く含有する非晶質相2bとからなるものとすることによって、幅が広く、かつ安定な非晶質相2bを形成し、微細結晶2a間の磁気的相互作用を抑え、磁気クライスターサイズを小さくでき、媒体ノイズを小さくすることができる。非晶質相2bが幅広で安定なものとなるのは、MとNが結合した化合物が形成され、この化合物が非晶質相2bに偏析するためであると考えられる。
【0047】
本実施形態の磁気記録媒体の製造方法では、軟磁性下地膜2に、上記式(1)〜(3)に示す材料を用いるので、軟磁性下地膜2、垂直磁性膜4内の結晶粒径を小さくし、軟磁性下地膜2、垂直磁性膜4に起因するノイズを低減することができる。また軟磁性下地膜2および垂直磁性膜4の磁気クラスターサイズを小さくし、この磁気クラスターに基づくノイズを抑えることができる。従って、記録再生特性を向上させ高密度の情報の記録再生が可能となる。
【0048】
図5は、本発明の磁気記録媒体の第2の実施形態を示すものである。この磁気記録媒体では、軟磁性下地膜2と配向制御膜3との間に、配向制御下地膜7が設けられている点で、上記第1の実施形態の磁気記録媒体と異なる。配向制御下地膜7には、Ti、Zn、Y、Zr、Ru、Re、Gd、Tb、Hfのうち1種または2種以上を主成分とする材料を用いることができる。また、配向制御下地膜7の材料としては、B2構造をなす材料を用いることもできる。B2構造をなす材料としては、NiAl、FeAl、CoFe、CoZr、NiTi、AlCo、AlRu、CoTiのうち1種または2種以上の合金を主成分とするものが使用できる。また、これらの合金にCr、Mo、Si、Mn、W、Nb、Ti、Zr、B、O、N等の元素を添加した材料を用いることもできる。配向制御下地膜7の厚さは、30nm以下とするのが好ましい。この厚さが上記範囲を越えると、垂直磁性膜4と軟磁性下地膜2との距離が大きくなるため分解能およびノイズ特性が劣化する。配向制御下地膜7の厚さは、0.1nm以上とするのが好ましい。
【0049】
図6は、本発明の磁気記録媒体の第3の実施形態を示すものである。この磁気記録媒体では、配向制御膜3と垂直磁性膜4との間に、非磁性材料からなる非磁性中間膜8が設けられている点で、図1に示す第1の実施形態の磁気記録媒体と異なる。非磁性中間膜8には、hcp構造をとる非磁性材料を用いるのが好ましい。この材料としては、CoCr合金、CoCrX5合金、CoX5合金(X5は、Pt、Ta、Zr、Ru、Nb、Cu、Re、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、Bのうち1種または2種以上)を用いるのが好適である。非磁性中間膜8の厚さは、垂直磁性膜4における磁性粒の粗大化による記録再生特性の悪化や、磁気ヘッドと軟磁性下地膜2の距離が大きくなることによる記録分解能の低下を防ぐため、20nm以下(好ましくは10nm以下)とするのが好適である。本実施形態では、非磁性中間膜8を設けることによって、垂直磁性膜4の配向性を向上させ、保磁力Hcを高め、記録再生特性および熱揺らぎ特性をさらに向上させることができる。
【0050】
図7は、本発明の磁気記録媒体の第4の実施形態を示すものである。この磁気記録媒体では、非磁性基板1と軟磁性下地膜2との間に、磁化容易軸が面内方向に向いた硬磁性膜9と面内下地膜10が設けられている点で、図1に示す第1の実施形態の磁気記録媒体と異なる。硬磁性膜9に用いられる材料としては、CoCr合金、特にCoCrX6(X6は、Pt、Ta、Zr、Nb、Cu、Re、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、Bのうちから選ばれる1種または2種以上)を用いるのが好適である。またCoSm合金を用いてもよい。硬磁性膜9は、保磁力Hcが1000(Oe)以上(好ましくは2000(Oe)以上)であることが好ましい。硬磁性膜9の厚さは、10〜150nm(好ましくは40〜80nm)とするの好ましい。硬磁性膜9は、軟磁性下地膜2が基板半径方向の磁壁を形成しないようにするため、基板中心から放射状の方向に磁化され、硬磁性膜9と軟磁性下地膜2が交換結合していることが好ましい。面内下地膜10は、硬磁性膜9の直下に設けられ、その材料としては、CrまたはCr合金を挙げることができる。面内下地膜10に用いられるCr合金の例としては、CrMo系、CrTi系、CrW系、CrMo系、CrV系、CrSi系、CrNb系の合金を挙げることができる。
【0051】
硬磁性膜9を設けることによって、軟磁性下地膜2での巨大磁区の形成を抑えることができる。このため、外乱磁場が大きい環境下においてもスパイクノイズの発生を防ぐことができ、エラーレート特性に優れ、高密度記録が可能な磁気記録媒体を得ることができる。
【0052】
図8は、本発明の磁気記録媒体の第5の実施形態を示すものである。ここに示す磁気記録媒体では、垂直磁性膜4と保護膜5との間に、磁化安定膜11が設けられている点で図1に示す第1の実施形態の磁気記録媒体と異なる。磁化安定膜11の材料としては、Feを60at%以上含有するFe合金を用いることができる。この材料としては、FeCo系合金(FeCo、FeCoVなど)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRuなど)、FeCr系合金(FeCr、FeCrTi、FeCrCuなど)、FeTa系合金(FeTa、FaTaCなど)、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金を挙げることができる。磁化安定膜11は、FeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微細結晶を有する構成とすることができる。また微細結晶がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造とすることもできる。磁化安定膜11には、Coを80at%以上含有し、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo等のうち少なくとも1種以上を含有するCo合金を用いることもできる。例えば、CoZr、CoZrNb、CoZrTa、CoZrCr、CoZrMoなどを好適なものとして挙げることができる。磁化安定膜11の保磁力Hcは100(Oe)以下(好ましくは50(Oe)以下)とするのが好ましい。磁化安定膜11の飽和磁束密度Bsは、0.4T以上(好ましくは1T以上)とするのが好ましい。また、磁化安定膜11の飽和磁束密度膜厚積Bs・tは7.2T・nm以下であること好ましい。このBs・tが上記範囲を越えると再生出力が低下するため好ましくない。また磁化安定膜11の最大透磁率は、1000〜1000000(好ましくは10000〜500000)とするのが好ましい。磁化安定膜11は、構成材料が部分的または完全に酸化された構成とすることができる。すなわち磁化安定膜11の表面(保護膜5側または垂直磁性膜4側の面)およびその近傍において、構成材料が部分的または全体的に酸化された構成とすることができる。
【0053】
本実施形態では、磁化安定膜11を設けることによって、熱揺らぎ特性の向上、再生出力の増大を図ることができる。再生出力が増大するのは、磁化安定膜11によって、垂直磁性膜4の表面における磁化の揺らぎが抑えられることから、漏れ磁束が揺らぎの影響を受けなくなるためであると考えられる。熱揺らぎ特性が向上するのは、磁化安定膜11によって、垂直磁性膜4の垂直方向の磁化と、軟磁性下地膜2および磁化安定膜11の面内方向の磁化が、閉磁路を形成するようになり、垂直磁性膜4の磁化がより強固に垂直方向に固定されるためであると考えられる。また磁化安定膜11の表面が酸化された構成とする場合には、磁化安定膜11の表面の磁気的な揺らぎを抑えることができるため、この磁気的な揺らぎに起因するノイズを低減し、磁気記録媒体の記録再生特性を改善することができる。
【0054】
図9は、本発明に係る磁気記録再生装置の一例を示す構成図である。この図に示す磁気記録再生装置は、上記構成の磁気記録媒体20と、この磁気記録媒体20を回転駆動させる媒体駆動部21と、磁気記録媒体20に対して情報の記録再生を行う磁気ヘッド22と、磁気ヘッド22を駆動させるヘッド駆動部23と、記録再生信号処理系24とを備えている。記録再生信号系24は、入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド22に送ったり、磁気ヘッド22からの再生信号を処理してデータを出力することができるようになっている。
【0055】
磁気ヘッド22としては、単磁極ヘッドを用いることができる。図10は、単磁極ヘッドの一例を示すもので、単磁極ヘッド22は、磁極25と、コイル26とから概略構成されている。磁極25は、幅の狭い主磁極27と幅広の補助磁極28とを有する側面視略コ字状に形成され、主磁極27は、記録時に垂直磁性膜4に印加される磁界を発生し、再生時に垂直磁性膜4からの磁束を検出することができるようになっている。
【0056】
単磁極ヘッド22を用いて、磁気記録媒体20への記録を行う際には、主磁極27の先端から発せられた磁束が、垂直磁性膜4を、基板1に対しほぼ垂直な方向に磁化させる。この際、磁気記録媒体20には軟磁性下地膜2が設けられているため、単磁極ヘッド22の主磁極27からの磁束は、垂直磁性膜4、軟磁性下地膜2を通って補助磁極28に至る閉磁路を形成する。この閉磁路が単磁極ヘッド22と磁気記録媒体20との間に形成されることにより、磁束の出入りの効率が増し、高密度の記録再生が可能になる。なお、軟磁性下地膜2と補助磁極28との間の磁束は、主磁極27と軟磁性下地膜2との間の磁束とは逆向きになるが、補助磁極28の面積は主磁極27に比べて十分に広いので、補助磁極28からの磁束密度は十分に小さくなり、この補助磁極28からの磁束により垂直磁性膜4の磁化が影響を受けることはない。また本発明では、磁気ヘッドとして、単磁極ヘッド以外のもの、例えば再生部に巨大磁気抵抗(GMR)素子を備えた複合型薄膜磁気記録ヘッドを用いることもできる。
【0057】
本実施形態の磁気記録再生装置は、磁気記録媒体20の軟磁性下地膜2に、上記式(1)〜(3)に示す材料を用いるので、軟磁性下地膜2内の結晶粒を微細化、孤立化し、軟磁性下地膜2に起因するノイズを低減することができる。また軟磁性下地膜2中の磁気クラスターサイズを小さくし、これによって垂直磁性膜4内の磁気クラスターサイズを小さくすることができる。このため、この磁気クラスターに基づくノイズを抑えることができる。従って、記録再生特性を向上させ高密度の情報の記録再生が可能となる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を示して本発明の作用効果を明確にする。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(参考例1)
洗浄済みのガラス基板1(オハラ社製、外径2.5インチ)をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3010)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10-5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板上に、84Fe−13Hf−3Crからなるターゲットを用い、アルゴン・窒素混合ガス(窒素含有率5vol%)中で、軟磁性下地膜2(厚さ100nm)を形成した。次いで、軟磁性下地膜2に350℃の条件で10秒間の熱処理(アニール処理)を施した。軟磁性下地膜2の組成をオージェ電子分光法(AES)を用いて測定したところ、75Fe−11.6Hf−2.4Cr−11Nであることが確認された。また透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてこの軟磁性下地膜2を観察したところ、この軟磁性下地膜2は、多数の微細結晶2aが非晶質相2bによって隔てられた構造となっており、この微細結晶2aの平均粒径が10nmであることが確認された。また振動式磁気特性測定装置(VSM)による測定の結果、軟磁性下地膜2の飽和磁束密度Bsは1.5Tであり、Bs・tが150T・nmであることがわかった。次いで、200℃の条件で、軟磁性下地膜2上に、50Ni−50Alからなる配向制御下地膜7(厚さ8nm)と、Ruからなる配向制御膜3(厚さ10nm)とからなる配向制御膜3を順次形成した。次いで、65Co−17Cr−16Pt−2Bからなる垂直磁性膜4(厚さ25nm)を形成した。垂直磁性膜4をTEMを用いて観察した結果、平均結晶粒径が9nmであることが明らかになった。またKerr効果測定装置を用いて垂直磁性膜4の静磁気特性を調べたところ、保磁力は4570(Oe)、逆磁区核形成磁界(−Hn)は750(Oe)であった。また軟磁性下地膜2、配向制御膜3、垂直磁性膜4を形成する際には、成膜用のプロセスガスとしてアルゴンを用い、その圧力を0.5Paに設定した。次いで、CVD法により保護膜5(厚さ5nm)を形成した。次いで、ディップコーティング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑膜6を形成し、磁気記録媒体を得た。なお上記合金材料の記載において、aA−bBは、a(at%)A−b(at%)Bを示す。例えば65Co−17Cr−16Pt−2Bは、65at%Co−17at%Cr−16at%Pt−2at%B(Co含有率65at%、Cr含有率17at%、Pt含有率16at%、B含有率2at%)を意味する。
【0059】
(参考例2〜15)
軟磁性下地膜2の組成を表1に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表1を参照)。
【0060】
(比較例1〜6)
軟磁性下地膜2の組成を表1に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表1を参照)。
【0061】
これら参考例および比較例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した。記録再生特性の評価は、GUZIK社製リードライトアナライザRWA1632、およびスピンスタンドS1701MPを用いて測定した。記録再生特性の評価には、磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用い、線記録密度600kFCIにて測定を行った。試験結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、上記式(1)に示す材料を軟磁性下地膜2に用いた参考例では、比較例に比べ、優れた記録再生特性を示したことがわかる。
【0064】
(実施例16〜26)
軟磁性下地膜2の組成を表2に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表2を参照)。
【0065】
(比較例7、8)
軟磁性下地膜2の組成を表2に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表2を参照)。
【0066】
これら参考例および比較例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した。試験結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2より、上記式(2)に示す材料を軟磁性下地膜2に用いた実施例では、比較例に比べ、優れた記録再生特性を示したことがわかる。
【0069】
(参考例27〜35)
軟磁性下地膜2の組成を表3に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表3を参照)。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表3より、上記式(3)に示す材料を軟磁性下地膜2に用いた参考例では、優れた記録再生特性を示したことがわかる。また式(1)、(2)に示す材料を用いた参考例及び実施例(表1、表2)に比べて、より優れた記録再生特性が得られたことがわかる。
【0072】
(参考例36〜39)
軟磁性下地膜2の飽和磁束密度Bsおよび厚さtを表4に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表4を参照)。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
表4より、飽和磁束密度Bsを1T以上(特に1.4T以上)とすることによって、優れた記録再生特性を得ることができたことがわかる。
【0075】
(参考例40〜42)
軟磁性下地膜2の飽和磁束密度Bsおよび膜厚tを表5に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表5を参照)。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を表5に示す。
【0076】
【表5】

【0077】
表5より、飽和磁束密度Bsと膜厚tの積Bs・tを50T・nm以上(特に100T・nm以上)とすることによって、優れた記録再生特性を得ることができたことがわかる。
【0078】
(参考例43〜54)
配向制御下地膜7および配向制御膜3の材料およびその厚さを表6に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表6を参照)。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を表6に示す。
【0079】
【表6】

【0080】
表6より、配向制御膜3に、hcp構造またはfcc構造材料(特にRu、Hf、Ru合金、Hf合金、Ni、Ni合金)を用いた構成によって、記録再生特性に優れた磁気記録媒体を得ることができたことがわかる。
【0081】
(参考例55〜63)
垂直磁性膜4の材料およびその厚さを表7に示すとおりとすること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表7を参照)。これら磁気記録媒体の熱揺らぎ耐性を評価した結果を表7に示す。熱揺らぎ耐性の評価は、70℃の条件下で線記録密度50kFCIにて書き込みをおこなった後、書き込み後1秒後の再生出力に対する出力の低下率(%/decade)を、(So−S)×100/(So×3)に基づいて算出した。この式において、Soは磁気記録媒体に信号記録後1秒経過時の再生出力を示し、Sは1000秒後の再生出力を示す。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を併せて表7に示す。
【0082】
【表7】

【0083】
表7より、垂直磁性膜4の厚さを5〜50nm(特に7〜30nm)とすることによって、優れた記録再生特性が得られたことがわかる。また垂直磁性膜4にCoCrPt合金を用いた場合には、Pt含有率を8〜24at%とすることによって、優れた熱揺らぎ耐性が得られることがわかる。
【0084】
(参考例64〜67)
軟磁性下地膜2の表面を酸素含有ガス(曝露ガス)に曝すことによって、軟磁性下地膜2に酸化処理を施すこと以外は参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した。曝露ガスとしては、純酸素(100%O2)、または酸素アルゴン混合ガス(50vol%O2−50vol%Ar)を用いた。上記曝露によって軟磁性下地膜2の表面に形成された酸化層の厚さを表8に示す。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を表8に示す。
【0085】
(参考例68)
軟磁性下地膜2を形成する際に、プロセスガス(成膜ガス)として、Ar(100%)を用い、次いで酸素アルゴン混合ガス(混合比:10vol%O2−90vol%Ar)を用いること以外は参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表8を参照)。酸素アルゴン混合ガスの使用によって、軟磁性下地膜2の表面付近に酸化層が形成された。この酸化層の厚さを表8に併せて示す。この磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を表8に示す。
【0086】
【表8】

【0087】
表8より、軟磁性下地膜2の酸化によって、優れた記録再生特性が得られたことがわかる。
【0088】
(参考例69〜76)
配向制御膜3と垂直磁性膜4との間に非磁性中間膜8を設けること以外は参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表9を参照)。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性および熱揺らぎ耐性を評価した結果を表9に示す。
【0089】
【表9】

【0090】
表9より、非磁性中間膜8を設けることによって、記録再生特性、熱揺らぎ耐性を向上させることができたことがわかる。特に、非磁性中間膜8の厚さを20nm以下(特に10nm以下)とすることによって、優れた記録再生特性が得られたことがわかる。
【0091】
(参考例77〜81)
非磁性基板1と軟磁性下地膜2との間に硬磁性膜9、面内下地膜10を設けること以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表10を参照)。面内下地膜10には、94Cr6Moを用い、厚さは15nmとした。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を表10に示す。表10には、スパイクノイズの有無も併せて示す。
【0092】
【表10】

【0093】
表10より、硬磁性膜9、面内下地膜10を設けることによって、スパイクノイズを抑えることができたことがわかる。また十分な記録再生特性を得ることができたことがわかる。
【0094】
(参考例82〜86)
垂直磁性膜4と保護膜5との間に磁化安定膜11を設けたこと以外は、参考例1に準じて磁気記録媒体を作製した(表11を参照)。これら参考例の磁気記録媒体について、記録再生特性を評価した結果を表11に示す。
【0095】
【表11】

【0096】
表11より、磁化安定膜11を設けることによって、記録再生特性、再生出力、熱揺らぎ耐性を向上させることができたことがわかる。
【符号の説明】
【0097】
1…非磁性基板、2…軟磁性下地膜、2a…微細結晶、2b…非晶質相、3…配向制御膜、4…垂直磁性膜、5…保護膜、20…磁気記録媒体、22…磁気ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、少なくとも軟磁性材料からなる軟磁性下地膜と、直上の膜の配向性を制御する配向制御膜と、磁化容易軸が基板に対し主に垂直に配向した垂直磁性膜と、保護膜とが設けられ、前記軟磁性下地膜が、以下の組成で表される材料を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
aFe−bCo−cM−eX2−fN
(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上、X2=P、C、B、Oのうち1種または2種以上。ただし、a、b、c、e、fは百分率で表された原子比であり、60≦a+b≦90、30≦a≦90、5≦c≦20、0.1≦e≦10、3≦f≦30である。)
【請求項2】
軟磁性下地膜が、Feを主成分する平均粒径13nm以下の微細結晶と、該微細結晶よりもMとN(M=Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、V、Moのうち1種または2種以上)を多く含有する非晶質相とからなることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
微細結晶がbcc構造をとることを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
軟磁性下地膜の飽和磁束密度Bsが1T以上であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
軟磁性下地膜の飽和磁束密度Bsが1.4T以上であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
軟磁性下地膜の飽和磁束密度Bsと該軟磁性下地膜の膜厚tとの積Bs・tが50T・nm以上であることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
軟磁性下地膜の飽和磁束密度Bsと該軟磁性下膜の膜厚tとの積Bs・tが100T・nm以上であることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
配向制御膜が、Ti、Zn、Y、Zr、Ru、Re、Gd、Tb、Hfのうち1種または2種以上を50%at以上含有するhcp構造材料からなることを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
配向制御膜が、Ni、Cu、Pd、Ag、Pt、Ir、Au、Alのうち1種または2種以上を50%at以上含有するfcc構造材料からなることを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
軟磁性下地膜の垂直磁性膜側の表面の一部または全面が酸化されていることを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
垂直磁性膜の逆磁区核形成磁界(−Hn)が0(Oe)以上であることを特徴とする請求項1乃至10のうちいずれか1項に記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−282718(P2010−282718A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168141(P2010−168141)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【分割の表示】特願2001−154448(P2001−154448)の分割
【原出願日】平成13年5月23日(2001.5.23)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】