説明

磁界検出方法

【課題】簡単な構成の磁気センサを用いて、磁界の大きさ及び符号を測定する。
【解決手段】コイルを用いて所定の大きさ及び方向のバイアス磁界を印加したときの磁気インピーダンス素子の出力を第1の出力Zとして得る工程と、同じコイルを用いて、前記所定の大きさと同じ大きさで方向が反対のバイアス磁界を印加したときの磁気インピーダンス素子の出力を第2の出力Zとして得る工程と、第1の出力Zと第2の出力Zとの差分を求め、該差分に基づいて磁気インピーダンス素子の感磁方向に沿う磁界の大きさ及び符号を検出する工程とを行う。これにより、温度や経年変化で磁気インピーダンス素子の出力特性がドリフトしても、外部磁界に対する出力の差分には変化がないため、測定値の精度を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを用いた磁界の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気インピーダンス素子は、磁性体に高周波電流などの時間的に変化する電流を通電した際、外部磁界の変化に対応してそのインピーダンス値が大きく変化する現象(磁気インピーダンス効果)を利用したものであり、高感度な磁気センサとして使用されている。磁気インピーダンス素子の印加磁界と出力値との関係は、図1に示すように、外部磁界の正負に対する出力特性が概ね対称であり、かつ磁場0付近でインピーダンスZが極小値を持つ。磁場に対する感度を高めるため、また、磁場の方向を検知するため、同図に示すように、バイアス磁界をかけて使うことが多い。このバイアス磁界の印加には、磁石やソレノイドコイル等が用いられている(例えば特許文献1〜4、非特許文献1参照)。
なお、非特許文献1には、PROTREK(登録商標)の商標で知られる個人向け時計において、磁気インピーダンス素子(MI素子)を採用することにより、従来の磁気抵抗素子(MR素子)に比べて、1桁高い磁界検出感度を実現しながら、平均消費電力を70%も削減し、ソーラー駆動が可能になったこと、方位センサーにおいては直角に交差する二組のコイルが必要とされているところ、新しい方位センサーにおいては磁界発生用コイルを2つから1つに簡略化することで、センサーサイズを60%にまで小型化し、より自由な設計とデザインを可能にしたことが記載されている。
【特許文献1】特開2001−027664号公報
【特許文献2】特開2003−329745号公報
【特許文献3】特開平11−174137号公報
【特許文献4】特開2002−286822号公報
【非特許文献1】著者名、“センサー技術”、[online]、カシオ計算機株式会社、[平成18年12月29日検索]、インターネット<URL: http://casio.jp/wat/PROTREK/sensor/index.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このとき、以下の問題が生じる。
(1)磁界の正負に対して出力が対称となり、磁界の大きさの絶対値の測定になるため、例えば地磁気センサとして使用する際、一素子のみでは、磁界の大きさが0のときの出力(インピーダンス)の値を記憶しなければ、その正負が判定できない。
(2)磁界の大きさが0のときの値を記録しても、その値が温度や経年変化でドリフトした場合、正しい磁界の大きさを測定することができない。例えば図1(b)に示すように、磁界の大きさが0のときZの値がΔだけドリフトした場合、外部磁界Hextに対する出力がΔだけ変化してしまう。ドリフトがないものとして出力を外部磁界の大きさに換算すると、測定値が不正確となる。
(3)例えばブリッジ回路等で複数の素子を用いる際、素子間の個々の特性を補償する必要がある。例えば特許文献1では、2個の磁気センサ素子に対し、1つのスパイラルコイルでバイアス磁界を印加しているが、2素子間に特性のばらつきが合った場合には、センサの特性が劣化する。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成の磁気センサを用いて、磁界の大きさ及び符号を測定することが可能な磁界検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、磁気インピーダンス素子と該磁気インピーダンス素子にバイアス磁界を印加する一つのコイルとを備える磁気センサを用いた磁界検出方法であって、時間的に変化する電流を通電した磁気インピーダンス素子に対し、前記コイルを用いて所定の大きさ及び方向のバイアス磁界を印加したときの磁気インピーダンス素子の出力を第1の出力として得る工程と、時間的に変化する電流を通電した磁気インピーダンス素子に対し、前記コイルを用いて前記所定の大きさと同じ大きさで方向が反対のバイアス磁界を印加したときの磁気インピーダンス素子の出力を第2の出力として得る工程と、前記第1の出力と第2の出力との差分を求め、該差分に基づいて磁気インピーダンス素子の感磁方向に沿う磁界の大きさ及び符号を検出する工程とを有することを特徴とする磁界検出方法を提供する。
本発明においては、前記時間的に変化する電流がパルス電流であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、大きさが同じで方向が反対のバイアス磁界を印加して得られる2つの出力を利用することにより、磁界の大きさを測定すると同時に、磁界の符号(向きの正負)を判別することが可能となる。
また、温度や経年変化で磁気インピーダンス素子の出力特性がドリフトしても、外部磁界に対する出力の差分には変化がないため、測定値の精度を確保することができる。
さらに、大きさが同じで方向が反対のバイアス磁界を印加するとき、1つの同じコイルを用いるため、正方向のバイアス磁界を印加するときと、負方向のバイアス磁界を印加するときとで、ばらつきがなく、センサの精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
本発明では、磁気インピーダンス素子と該磁気インピーダンス素子にバイアス磁界を印加する一つのコイルとを備える磁気センサを用いる。本発明において、磁界の大きさ及び符号は、以下のようにして測定することができる。
【0008】
(a)第1工程
磁気インピーダンス素子に時間的に変化する電流を通電し、この磁気インピーダンス素子に対して、コイルを用いて所定の大きさ及び方向のバイアス磁界を印加する。このときの磁気インピーダンス素子の出力を第1の出力として得る。図2では、第1の出力Z1をインピーダンスとして表示したが、本発明で素子の出力はインピーダンスに限定されるものではなく、例えば電圧値を出力としても良い。バイアス磁界は、磁気インピーダンス素子に沿う成分が有効であるため、バイアス磁界は磁気インピーダンス素子に沿う方向にを印加することが好ましい。
【0009】
(b)第2工程
時間的に変化する電流を通電した磁気インピーダンス素子に対し、同じコイルを用いて前記所定の大きさと同じ大きさで方向が反対のバイアス磁界を印加したときの磁気インピーダンス素子の出力を第2の出力Zとして得る。図2では、第2の出力Zをインピーダンスとして表示したが、本発明で素子の出力はインピーダンスに限定されるものではなく、例えば電圧値を出力としても良い。後述する第3工程(c)で差分をとる処理を容易に行うことができ、また、換算に伴う誤差を避けるため、第1の出力と第2の出力は、同種の物理量とすることが望ましい。
【0010】
第2工程(b)において、第1工程(a)で印加したバイアス磁界と大きさと同じで方向が反対のバイアス磁界を得るためには、コイルに対して同じ大きさで向きが反対の電流を通電すれば良い。本発明の場合、(a)と(b)とで同じコイルを用いるので、コイルに対する磁気インピーダンス素子の相対的位置が変わらず、これにより、方向のみ反対の磁界を容易に得ることができ、(a)と(b)で印加するバイアス磁界の大きさにばらつきが生じることを抑制できる。
【0011】
(c)第3工程
第1の出力Z1と第2の出力Zとの差分を求め、この差分を磁気センサの出力とする。そして、この差分に基づいて磁気インピーダンス素子の感磁方向に沿う磁界の大きさ及び符号を検出する。
【0012】
ここで差分としては、第1の出力Z1から第2の出力Zを減じた差Z1−Zとしても良く、また、第2の出力Zから第1の出力Zを減じた差Z−Z1としても良いが、磁界の符号を求めるためには、いずれかに決定しておく必要がある。そして、出力の差分の大きさから外部磁界Hextの大きさを求めるには、あらかじめ出力と磁界の大きさの対応関係について表や近似曲線等を作成しておき、これら表などを使用して、出力の差分を外部磁界Hextの大きさに換算すれば良い。
【0013】
本発明によれば、図2(b)に示すように、磁界の大きさが0のとき出力がΔだけドリフトした場合でも、外部磁界Hextに対する出力の差分が変化することがない。このため、温度や経年変化で磁気インピーダンス素子の出力特性がドリフトしても、測定値の精度を確保することができる。
【0014】
磁気インピーダンス素子に通電される、時間的に変化する電流としては、高周波電流、パルス電流等が挙げられる。なかでも、立ち上がり時間が短くセンサの特性を向上できることから、パルス電流(高周波パルス電流でもよい。)が好ましい。なかでも、矩形状または台形状のパルス波形が好ましい。
【0015】
次に、本発明で用いられる磁気センサの構成について、より詳しく説明する。
【0016】
本発明で用いる磁気インピーダンス素子としては、図3(a)に示すように非磁性基板2上に形成した軟磁性体膜1が好ましい。非磁性基板2は、非磁性体からなる基板であれば特に限定されない。例としては、シリコン(Si)等の半導体基板や、ガラス等の基板が挙げられる。
【0017】
軟磁性体膜1は、軟磁性体からなる薄膜に、一軸異方性を付与したものである。軟磁性体膜1の平面形状は、長手方向を有する形状であり、具体的には例えば短冊状(長辺が短辺に比べて一定以上長い長方形状)である。軟磁性体膜1としては、例えばCoNbZr(コバルト―ニオブ―ジルコニウム)、CoTaZr(コバルト―タンタル―ジルコニウム)等、Co基の軟磁性体から構成することができる。例えばCo85Nb12Zrが挙げられる。軟磁性体膜1を形成する方法としては、基板上に軟磁性体をスパッタリングで成膜した後、ドライエッチング、リフトオフ、ウエットエッチング等により所定の短冊形状にパターニングする方法が挙げられる。
【0018】
図3(a)に示す磁気インピーダンス素子の場合、略長方形の平面形状を有する軟磁性体膜が複数、長手方向を互いに平行にして配置され、隣接する軟磁性体膜をその端部同士でつづら折り状(ミアンダ状)になるように形成したものである。このような構成によれば、複数の磁気インピーダンス素子を直列接続することによって、センサの磁界に対する感度を向上することができる。軟磁性体膜の端部同士の接続は、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の良導体で導通させるのが望ましい。
磁気インピーダンス素子1の両端には、電源装置20を用いて高周波電流やパルス電流を磁気インピーダンス素子1に導通させるための一対の電極3,4が設けられる。
【0019】
バイアス磁界を印加するコイルとしては、例えばソレノイドコイルが挙げられる。図3(b)に示すように、磁気インピーダンス素子1をソレノイドコイル10内に設置することで、充分に一様なバイアス磁界を磁気インピーダンス素子1に印加することができる。ソレノイドコイル10の軸方向は、磁気インピーダンス素子1の方向となるべく一致させることが望ましく、これにより、ソレノイドコイル10で発生したバイアス磁界を磁気インピーダンス素子1に対して有効に印加することができる。
【0020】
ソレノイドコイル10の両端には、ソレノイドコイル10を通電するための一対の端子11,12が設けられている。これらの端子11,12を通じて、不図示の電源装置からソレノイドコイル10を通電することにより、磁界を発生させることができる。また、電流の向きを反対にすることにより、バイアス磁界の向きを反対にすることができる。
【0021】
磁気インピーダンス素子1は、検出しようとする磁界の方向に向けられる。これにより、磁気インピーダンス素子1の感磁方向に沿う磁界の大きさ及び符号(一次元における正負の向き)を検出することができる。
【0022】
本発明によって二次元平面上における磁界の方向を測定するには、互いに交差する(望ましくは直交する)2方向に磁気インピーダンス素子を配置し、それぞれの磁気インピーダンス素子を用いて、上述の手法により、各磁気インピーダンス素子の感磁方向に沿う磁界の大きさ及び符号を検出する。そして二成分の測定結果を合成することにより、二次元平面上における磁界の方向を測定することができる。
【0023】
同様に、本発明によって三次元空間内における磁界の方向を測定するには、互いに交差する(望ましくは直交する)3方向に磁気インピーダンス素子を配置し、それぞれの磁気インピーダンス素子を用いて、上述の手法により、各磁気インピーダンス素子の感磁方向に沿う磁界の大きさ及び符号を検出する。そして三成分の測定結果を合成することにより、三次元空間内における磁界の方向を測定することができる。
【0024】
本形態例の磁界検出方法によれば、大きさが同じで方向が反対のバイアス磁界を印加して得られる2つの出力を利用することにより、磁界の大きさを測定すると同時に、磁界の符号(向きの正負)を判別することが可能となる。
また、温度や経年変化で磁気インピーダンス素子の出力特性がドリフトしても、外部磁界に対する出力の差分には変化がないため、測定値の精度を確保することができる。
さらに、大きさが同じで方向が反対のバイアス磁界を印加するとき、1つの同じコイルを用いるため、正方向のバイアス磁界を印加するときと、負方向のバイアス磁界を印加するときとで、ばらつきがなく、センサの精度を向上することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0026】
本実施例で用いた磁気センサは、図3に示すように、磁気インピーダンス素子1と、コイル10を備えるものであり、磁気インピーダンス素子1は、チップサイズが約2.5mm×1.2mm×(厚さt)625μmのシリコン基板上に、つづら折れ状に形成されたCoZrNbからなる厚さ約1μmのMI素子である。このMI素子のバイアス磁界は、約8(Oe)である。なお、Oeは単位エルステッドを表す。
【0027】
磁気インピーダンス素子1にパルス電流を通電するため、電極3,4に電源装置20を接続した。また、MI素子1の出力を測定するため、端子21,22にオシロスコープ(Tektronix社のTDS3052B)23を接続した。
【0028】
このMI素子1を北方向に向け、パルス電流(電圧3V、パルス幅30ns)を通電するとともに、ソレノイドコイル10から8(Oe)のバイアス磁界を印加し、出力波形をオシロスコープ23により測定したところ、MI素子1からの出力(第1の出力)として図4に「正」で示す波形を得た。なお、地磁気の大きさは約0.3(Oe)程度であるので、実際は磁界8.3(Oe)の出力を測定していることとなる。
【0029】
次に、バイアス磁界を−8(Oe)に設定し、出力波形をオシロスコープ23により測定したところ、MI素子1からの出力(第2の出力)として図4に「負」で示す波形を得た。地磁気の大きさは約0.3(Oe)程度であるので、実際は磁界−7.7(Oe)の出力を測定していることとなる。
【0030】
第1の出力から第2の出力を減ずる演算を行うことにより、出力の差分として、図5に示す波形を得た。この波形のピーク値が磁界の大きさに対応することを確認した。
【0031】
また、MI素子1を南方向に向けて同様の測定を行い、第1の出力から第2の出力を減ずる演算を行ったところ、出力の差分として得られた波形は、図5に示す波形に対して絶対値は等しく、波形の符号が反転したものであることを確認した。これらの結果から、外部磁界の大きさのみならず、符号(MI素子に対する正負の向き)をも判別できたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、地磁気等の微弱磁界を検出し、これら微弱磁界の強さや向きを測定するための磁気センサ、方位センサなどに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来技術を説明する図面であり、(a)はドリフトが無い状態、(b)はドリフトした状態を表す。
【図2】本発明を説明する図面であり、(a)はドリフトが無い状態、(b)はドリフトした状態を表す。
【図3】実施例で用いた磁気センサを説明する概略図であり、(a)は磁気インピーダンス素子の概略構成図、(b)は磁気センサの全体を表す概略構成図である。
【図4】実施例によって得られた第1の出力(正)および第2の出力(負)の波形の一例を示すグラフである。
【図5】実施例によって得られた出力の差分の波形の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
…第1の出力、Z…第2の出力、1…磁気インピーダンス素子、10…コイル(ソレノイドコイル)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気インピーダンス素子と該磁気インピーダンス素子にバイアス磁界を印加する一つのコイルとを備える磁気センサを用いた磁界検出方法であって、
時間的に変化する電流を通電した磁気インピーダンス素子に対し、前記コイルを用いて所定の大きさ及び方向のバイアス磁界を印加したときの磁気インピーダンス素子の出力を第1の出力として得る工程と、
時間的に変化する電流を通電した磁気インピーダンス素子に対し、前記コイルを用いて前記所定の大きさと同じ大きさで方向が反対のバイアス磁界を印加したときの磁気インピーダンス素子の出力を第2の出力として得る工程と、
前記第1の出力と第2の出力との差分を求め、該差分に基づいて磁気インピーダンス素子の感磁方向に沿う磁界の大きさ及び符号を検出する工程と
を有することを特徴とする磁界検出方法。
【請求項2】
前記時間的に変化する電流がパルス電流であることを特徴とする請求項1に記載の磁界検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−190953(P2008−190953A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24513(P2007−24513)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】